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計画・評価編B - 広島県国民健康保険団体連合会
保健事業等の費用対効果の 評価方法について 2015.12.1 国立保健医療科学院 福田 敬 [email protected] National Institute of Public Health, Japan 1 研修会の構成 • 計画・評価編A(2015年9月1日) – 講演「医療費等データに基づく特定健診・保健指導 事業の分析・評価について―基礎的事項―」 – 演習「特定健診・保健指導の医療費適正化効果に ついて ―ワーキンググループの検討をもとに―」 • 計画・評価編B(2015年12月1日) – 講演「保健事業等の費用対効果の評価方法につい て」 – 演習「特定健診・保健指導の費用対効果について」 National Institute of Public Health, Japan 2 保健医療の効率性評価が必要とされる背景 保健医療における市場の失敗 効率的な資源配分の方法の必要性 保健医療財源の逼迫 公的財源、保険者財源の有効利用 EBM(Evidence Based Medicine) clinical evidence→economic evidence National Institute of Public Health, Japan 3 効率を評価する A車とB車はどちらが効率的か? ガソリンを満タンにした場合 走行可能距離 タンク容量 A車 500km / 40リットル = 12.5km/リットル B車 600km / 50リットル = 12.0km/リットル National Institute of Public Health, Japan 燃費 4 効率性を評価するために重要な 2つの要素 ○投入(input)と産出(output)の両方を考慮していること 医療経済評価では 投入→費用(cost) 産出→結果(outcome) ○複数のプログラムの比較をしていること (コントロールがあること) National Institute of Public Health, Japan 5 経済評価の要素 医 療 技 術 の 経 済 的 評 価 費 用 ( 2 in p u t ) N O と 結 果 ( o u tp u t) YES の 両 方 を 検 討 し 結 果 の み 検費 討用 の み 検 討 つ 以 上 の N O PA R TI A L E V A L U A TI O N PA R TI A L E V A L U A TI O N プ ロ グ ラ ム を O u tc o m e C o st C o s t - o u t c o m e d e s c r ip t io n d e s c r ip t io n d e s c r ip t io n 比 較 し て い Yる E S かP A R T I A L E V A L U A T I O N F U L L E C O N O M I C E V A L U A E f f ic a c y o r C o s t - m in im iz a t io n a n a ly s is C o s tE f f e c t i v e n e sCs o s t a n a l y s i s C o s te v a lu a t io n C o s t(D rum National Institute of Public Health, Japan e f f e c t iv e n e s s a n a ly s u t ilit y a n a ly s is b e n e f it a n a ly s is m o n d e t a l. , 1 9 9 7 よ 6 効率性の判断 費用 dominated ・B ・B A ・B dominant(優位) O National Institute of Public Health, Japan 効果 7 医薬品の場合には 既存薬(A)と新薬(B)はどちらが効率的か? 条件:薬はどちらも1年間投与 年間費用は A薬:100万円/人 B薬:150万円/人 効果は5年後生存数 100人中 A薬:60人生存 B薬:80人生存 National Institute of Public Health, Japan 8 医薬品の場合には 既存薬(A)と新薬(B)はどちらが効率的か? A薬 B薬 費用 効果 1億円 / 60人 = 167万円/Life Saved 1.5億円 / 80人 = 188万円/Life Saved 費用効果比 ・B薬はA薬よりも効率が低いので従来通りA薬を使う? ・B薬の効果が95人(CE比=158万円/LS)だとしたらB薬を使 う? →医療としてはより効果の高い薬を求めるのは当然 重要なのは追加の5千万円を払う価値があるかどうか National Institute of Public Health, Japan 9 CERとICER A:対照薬、B:新薬 Cost Effectiveness Ratio (CER):費用効果比 費用(B) = 効果(B) Incremental Cost Effectiveness Ratio (ICER):増分費用効果比 費用(B)-費用(A) = 効果 (B)-効果(A) National Institute of Public Health, Japan 10 医薬品の場合には 既存薬(A)と新薬(B)はどちらが効率的か? 費用 A薬 B薬 効果 1億円 / 60人 1.5億円 / 80人 費用効果比 = 167万円/Life Saved = 188万円/Life Saved 1.5億円-1億円 増分費用効果比= = 250万円/Life Saved 80人-60人 National Institute of Public Health, Japan 11 効率性の判断 費用 dominated ・B ・B A ・B dominant(優位) O National Institute of Public Health, Japan 効果 12 医療経済評価の方法 ○費用最小化分析 Cost Minimization Analysis (CMA) ○費用効果分析 Cost Effectiveness Analysis (CEA) ○費用効用分析 Cost Utility Analysis (CUA) ○費用便益分析 Cost Benefit Analysis (CBA) National Institute of Public Health, Japan 13 費用の分類 ○直接費用(direct cost) 直接医療費(direct medical cost) 疾病の診断・治療のために医療機関でかかる費用 直接非医療費(direct non-medical cost) 疾病に関して本人や家族が支払う医療以外の費用 ○間接費用(indirect cost) 労働損失・・・機会費用(opportunity cost)として算出 National Institute of Public Health, Japan 14 誰にとっての費用か(分析の立場) 交通費 患者 自己負担 人件費 病院 材料費 経費 診療報酬 保険料 保険者 National Institute of Public Health, Japan 15 分析の立場と費用の範囲 公的 公的 その他の支 家族等による介 本人の 時間 医療費 介護費 出 (交通費 護やケアの費用 生産性 費用 など) 損失 公的医療費支払者の立場 公的医療介護費支払者の立場 生産性損失を考慮する立場 社会の立場 National Institute of Public Health, Japan 16 費用の割引(discount) 将来発生する費用を現在の価値に換算する 例) 費用 1年目 100万円 2年目 100万円 3年目 100万円 合計 300万円 National Institute of Public Health, Japan 割引率3%の場合 100万円 100 97.1 万円 1.03 100 94.3 万円 2 (1.03) 291.4 万円 17 費用最小化分析 (Cost Minimization Analysis: CMA) 比較する複数のプログラムの間で効果が同じ場合 ↓ 費用の少ない方が効率的 National Institute of Public Health, Japan 18 費用効果分析 (Cost Effectiveness Analysis: CEA) 効果として、生存年数の延長(Life Years Gained) や治癒患者数、検査値等の様々な尺度を用いる。 ↓ 最も一般的な方法であるが、効果の尺度を一つに 決める必要がある。 National Institute of Public Health, Japan 19 効果の指標 Life Saved(何人の命を救えたか) Life Year Gained(何年の余命の延長を得たか) 疾患ごとの指標 高血圧・・・血圧値 糖尿病・・・HbA1c リウマチ・・・ACR20 National Institute of Public Health, Japan 20 費用効用分析 (Cost Utility Analysis: CUA) 効果として、生存年数とQOL(Quality of Life)の両 方を考慮したQALY(Quality Adjusted Life Years: 質調整生存年)などの効用値を用いる。 ↓ 様々な薬や医療行為、予防活動などについて評 価結果を比較することが可能。QOL評価方法が 課題。 National Institute of Public Health, Japan 21 QALYの概念 National Institute of Public Health, Japan 22 QALYの測定モデル National Institute of Public Health, Japan 23 QALYの算出 QALYs QH LH H H :健康状態 QH:健康状態HでのQuality Weight(Full health=1, Dead=0) LH:健康状態Hでの生存年数 1QALY:完全な健康状態で生存する1年 National Institute of Public Health, Japan 24 QALY算出のためのQOL評価尺度 ○直接法 Rating Scale(Visual Analogue Scale), Time Trade Off, Standard Gamble など ○間接法 EuroQol-5Dimension、Health Utilities Index など これ以外に、疾病特異的なQOL評価尺度等からQALY算出の ためのQOL評価値を算出するmappingといった方法もある。 National Institute of Public Health, Japan 25 Time Trade Off Full health Health status A Death X Y Time Quality Weight = X / Y National Institute of Public Health, Japan 26 TTOの質問例 田村誠、野崎真美、福田敬、QALYsの効用値算出法に関する実証研究、医療経済研究、医療経済研究機構、1996 National Institute of Public Health, Japan 27 EuroQol日本語版 5次元、5段階によるQOL評価(EQ-5D-5L) 次元 レベル 移動の程度 1 問題がない 身の回りの管理 2 少し問題がある ふだんの生活 3 中程度の問題がある 痛み/不快感 4 かなり問題がある 不安/ふさぎ込み 5 できない/極度に問題がある National Institute of Public Health, Japan 28 EQ-5D5L National Institute of Public Health, Japan 29 QOL値への換算 各次元に2~5の回答がある場合には、1(完全な健 康)から表の値および定数項を引き算することにより QOL値へ換算できる。 定数項 0.060924 2 3 4 5 移動の程度 0.063865 0.112618 0.179043 0.242916 身の回りの管理 0.043632 0.076660 0.124265 0.159659 ふだんの生活 0.050407 0.091131 0.147929 0.174786 痛み/不快感 0.044545 0.068178 0.131436 0.191203 不安/ふさぎ込み 0.071779 0.110496 0.168171 0.195961 池田 他. 日本語版EQ-5D-5Lにおけるスコアリング法の開発. 保健医療科学 2015; 64(1): 47-55. National Institute of Public Health, Japan 30 QOL値への換算(例) 状態:22432 移動の程度:少し問題がある 身の回りの管理:少し問題がある 1.000 − 0.060924(定数) - 0.063865(2) - 0.043632(2) ふだんの生活:かなり問題がある - 0.147929(4) 痛み/不快感:中程度の問題がある - 0.068178(3) 不安/ふさぎ込み:少し問題がある - 0.071779(2) = 0.543693 この状態のQOL評価値は? 池田 他. 日本語版EQ-5D-5Lにおけるスコアリング法の開発. 保健医療科学 2015; 64(1): 47-55. National Institute of Public Health, Japan 31 費用便益分析 (Cost Benefit Analysis: CBA) 効果を全て金銭単位で表す。 ↓ 費用便益比の他、純便益(=便益ー費用)も算 出可能。 効果を金銭単位に換算する方法が課題。 National Institute of Public Health, Japan 32 トラスツズマブ(ハーセプチン®)の 費用効果分析 Shiroiwa T, Fukuda T, Shimozuma K, Ohashi Y, Tsutani K. The model-based cost-effectiveness analysis of 1-year adjuvant trastuzumab treatment: based on 2-year follow-up HERA trial data. Breast Cancer Research and Treatment 2008; 109: 559-566. National Institute of Public Health, Japan 33 背景 ・トラスツズマブは細 胞表面上に発現してい るHER2 proteinに特異 的に結合するモノク ローナル抗体。 ・細胞内へのシグナル 伝達を遮断することに より、細胞増殖を抑制 する。 ・日本では2001年に転 移性乳癌に対して承認。 ・HER2 proteinが過剰 発現している患者にの み適応がある。 National Institute of Public Health, Japan 34 乳がん術後補助療法としてのエビデンス • 2005年のASCO(アメリカ癌治療学会)でadjuvantでのトラスツズマブの有用 性を検証した3つのRCTの結果が発表された。 (1) HERA trial (2) B31/N9831 joint analysis • “not evolutionary but revolutionary” (NEJM 2005; 353: 1734-1736) National Institute of Public Health, Japan 35 薬剤費 投与量は初回8mg/kg、 2回目以降6mg/kg→3週ごとに1年 継続 投与体重を50-60kgと仮定すると・・・投与量は300mg~ 360mgだから、 1回投与あたり ¥ 178,220 1年間投与する と薬代は ¥3,251,683 National Institute of Public Health, Japan 36 問題は • 再発を半分にするrevolutionaryな治療法。 • けれども治療にかかる費用は安くはない。 • しかし、高くともその値段に見合う効果があればよい。 • また、adjuvantでの治療費用は初期投資のようなもの。 転移・再発を防ぐことによってその分の医療費が節減 できるとしたらその損得勘定は?? ↓ 高額な初期投資に見合う治療法なのか、転移・再発まで 含めて費用効果分析によって評価する。 National Institute of Public Health, Japan 37 目的 • HER2陽性の女性乳癌患者に対し、コントロール群を対照とし て、トラスツズマブ群の費用対効果比を算出することによって、 その経済性を評価する。 • (a) トラスツズマブ1年投与群 →標準的術後(術前)化学療法終了後,トラスツズマブを初 回8 mg/kg、2回目以降6 mg/kgで3週毎に1年間投与 • (b) 観察群 → 標準的術後(術前)化学療法のみ施行 National Institute of Public Health, Japan 38 研究の枠組み • 費用効果分析 (cost-effectiveness analysis, CEA) • 結果は増分費用効果比(incremental cost-effectiveness ratio, ICER)で表す。 Ct -Cc C(増分費用) ICER= E t -Ec E(増分効果) • ICERの単位は、 円/LYG (life-year gained) National Institute of Public Health, Japan 39 治療経過のモデル • 化学療法終了後の経過は、マルコフ (Markov) モデルを 作成して分析した。分析期間 (time horizon)は50 years, 600 cycles。 (1 cycle=1 month) National Institute of Public Health, Japan 40 データソース • 有効性については、HERA trial (the Herceptin adjuvant trial, 2007) を用いた(観察期間中央値2年)。再発のハザード比は 0.64 (95% C.I.: 0.54-0.76; p<0.0001) • コストについては、標準的な診療過程を作成し、2004年度の 診療報酬点数表と薬価基準を用いて出来高で計算した。直 接医療費のみを考慮し、間接費用 (労働損失など) は含めて いない。 National Institute of Public Health, Japan 41 主な仮定 • トラスツズマブの効果がいつまで継続するかは未決着である。 そこで効果が2年(conservative)、5年(base case)、10年 (optimistic)という3つのシナリオに基づきICERを計算した。 • 体重は日本人女性平均の50-60kgを標準としたが、50kg以下、 60-75kg の場合も計算した。 • 乳癌の長期予後に関して、EBCTCGメタアナリシス(2005)の結 果から、5年目以降の再発率は5年目までの0.5倍とした。 National Institute of Public Health, Japan 42 結果 観察群 トラスツズマブ群(conservative) トラスツズマブ群(standard) トラスツズマブ群(optimistic) 期待費用 期待生存年 ¥7,900,000 12.46 ¥11,500,000 13.06 ¥11,200,000 13.70 ¥10,900,000 14.10 増分費用効果比 観察群 トラスツズマブ群(conservative) トラスツズマブ群(standard) トラスツズマブ群(optimistic) National Institute of Public Health, Japan ¥6,000,000/1年生存延長 ¥2,600,000/1年生存延長 ¥1,800,000/1年生存延長 43 増分費用効果比の閾値 QALYをアウトカムに用いて増分費用効果比を算出した場合、 社会的にはいくらまで追加投資が許容されるのか? 英国:£20,000~30,000/QALY 米国:$50,000~100,000/QALY 日本:500~600万円/QALY ? (大日ら(2004,2006), 白岩ら(2008)) National Institute of Public Health, Japan 44 HPVワクチンの経済評価 Konno R, Sasagawa T, Fukuda T, Van Kriekinge G, Demarteau N. Cost-effectiveness analysis of prophylactic cervical cancer vaccination in Japanese women. International Journal of Gynecological Cancer 2010; 20(3): 385392. 今野良, 笹川寿之, 福田敬, Van Kriekinge G, Demarteau N. 日本人女性における子宮頸癌予防ワクチンの費用効果分析 産婦人科治療 2008; 97(5): 530-542 National Institute of Public Health, Japan 45 経済評価分析の枠組み • 医療技術: HPVワクチン接種(12才女児)+検診 • 比較対照: 検診のみ • 経済評価の方法:費用効用分析 • 分析の視点: 保健医療費支払い者 • アウトカム指標: 質調整生存年(QALY) • 費用: ワクチン費用、疾病治療費 • モデル: マルコフモデルを用いた推計 • 推計期間: 95年 National Institute of Public Health, Japan 46 子宮頸がん予防ワクチンの費用対効果を評価するための マルコフモデル NoHPVonc Vaccine HPVonc CIN1onc det CIN23 det Persistent CIN23 det Cancer Cancer cured Death cancer Death det: subjects with disease detected through screening: same pathways but different “det”:検診によって「異形成」や「子宮頸がん」であると診断された状態 probabilities National Institute of Public Health, Japan 47 モデルにおける主な仮定 • ワクチンの効果 HPV-16/18タイプの有効率 ・・ 95% 非HPV-16/18タイプの有効率・・ 27% • ワクチン費用 ¥36,000と仮定 +感度分析 • 疾病治療費用 2006年度の診療報酬点数から算出 • 検診受診率 20~55才(2年おき)・・13.6% 30才、40才 ・・40.0% • 割引率 年3% +感度分析 National Institute of Public Health, Japan 48 モデルによる子宮頸がん罹患率の変化 unvaccinated 25 CC incidence per 100,000 women vaccinated 20 15 10 5 -7 9 75 -7 4 70 -6 9 65 -6 4 60 -5 9 55 -5 4 50 -4 9 45 -4 4 40 -3 9 35 -3 4 30 -2 9 25 -2 4 20 -1 9 15 12 0 Age class ※ 子宮頸がんの発生数を73%減少する National Institute of Public Health, Japan 49 モデルによる子宮頸がん死亡率の変化 unvaccinated CC mortality per 100,000 women 8 vaccinated 7 6 5 4 3 2 1 75 -7 9 70 -7 4 65 -6 9 60 -6 4 55 -5 9 50 -5 4 45 -4 9 40 -4 4 35 -3 9 30 -3 4 25 -2 9 20 -2 4 15 -1 9 12 0 Age class ※ 子宮頸がんによる死亡数を73%減少する National Institute of Public Health, Japan 50 12才女児にワクチン接種した場合の費用対効果 (n=589,000) 割引率 年3%の場合 Unvaccinated Vaccinated Difference 総費用 ¥ 15,773,181,319 ¥ 30,504,955,805 ¥ 14,731,774,486 ワクチン費用 ¥0 ¥ 21,204,000,000 ¥ 21,204,000,000 医療費 ¥ 15,773,181,319 ¥ 9,300,955,805 -¥ 6,472,225,514 QALYs 17,759,821 17,767,960 8,139 ICER (cost per QALY gained) ¥ 1,810,023 ※ ワクチン接種により、医療費が約64億円削減できる National Institute of Public Health, Japan 51 12才女児にワクチン接種した場合の費用対効果 (n=589,000) (参考:割引なしの場合) Unvaccinated Vaccinated Difference 総費用 ¥ 45,489,450,548 ¥ 43,482,759,982 -¥ 2,006,690,565 ワクチン費用 ¥0 ¥ 21,204,000,000 ¥ 21,204,000,000 医療費 ¥ 45,489,450,548 ¥ 22,278,759,982 -¥ 23,210,690,565 QALYs 43,678,894 43,718,395 39,502 ICER (cost per QALY gained) dominant dominant : 新技術の方が費用が低く、効果が高い ※ ワクチン接種費用よりも医療費削減幅の方が大きい。 National Institute of Public Health, Japan 52 子宮頸がん検診の経済性 Chuck(2010)では、カナダの設定において、子宮頸がん検診として、細 胞診(PAP)、液状処理細胞診(LBC)、HPV-DNA検査の組み合わせと、 検診開始対象年齢、および検査頻度(毎年、2年ごと、3年ごと)の組み 合わせによる21種類の検診スケジュールを仮定し、その費用対効果を モデルにより推計している。 その結果、現状の方式(18才以上に対してPAPを毎年実施)と比較して、 PAPとHPV-DNA検査の組み合わせを、30才以上に限定して3年おきに 実施することが最も効率的であるとしている(費用削減になりQALYが増 加する)。 Chuck. Cost-effectiveness of 21 alternatives cervical cancer screening strategies. Value in Health 2010; 13(2): 169-179. National Institute of Public Health, Japan 53 Chuck(2010) Cost-effectiveness of 21 alternatives cervical cancer screening strategies National Institute of Public Health, Japan 54 保険診療に関する利用 ×医療技術や医薬品の承認 ○保険収載 ○診療報酬・薬価の設定 National Institute of Public Health, Japan 55 イギリスの医療保障制度 NHS(National Health Service):国民保健サービス ○保健医療サービスの供給が国の責任で行われ、その費 用の大部分が国の一般財源(税金)により賄われる。 ○保健医療サービスは全国民に対して原則として無料で提 供される(歯科や薬局では定額の一部自己負担あり)。 ○予防やリハビリテーションサービスなどを含む包括的な 医療保障である。 ○保健医療サービスの供給は、予算の範囲内で計画的に 行われる。 National Institute of Public Health, Japan 56 NICE(英国立保健医療研究所) National Institute for Health and Care Excellence ○英国NHS(National Health Service)における臨床医療のレ ベル向上と資源の有効活用を促進するために1999年に Special Health Authorityとして設立された組織 ○医療技術評価(Technology appraisals) 医薬品、医療技術、手術法、ヘルスプロモーションの方 法などについて経済評価を行い、NHSに対して給付範囲 に加えるべきかどうかの勧告(recommendation)を行う。 2002年からは勧告に基づいて各health authorityが給付範 囲に加えることを義務づけ。 ○臨床ガイドライン(Clinical guidelines) いくつかの疾患や症状について適切と考えられる治療方 法を示す。 National Institute of Public Health, Japan 57 Technology Appraisal (TA) • NICEは保健大臣の審査によって決められた一部の医薬品 等について評価(TA)を行いガイダンスを出す。 • ガイダンスでは対象となった医薬品について (1)使用を推奨(recommendation)する (2)使用を推奨しない (3)一部の患者集団に限定して使用を推奨する という3パターンのいずれかが勧告される。 • これらの意志決定を行う上で臨床的有効性・安全性だけで なく経済性(費用対効果)が重視される。 • 様々な疾患領域や治療法の評価を比較するために、効 果指標を「質調整生存年(Quality Adjusted Life Year: QALY)」に統一する。 • 経済性に優れると判断する目安としては、£20,000~ 30,000/QALY以下としている。 • NICEでrecommendされたものは3ヶ月以内にガイドラインを 施行し、提供しなければならない(2002年1月から)。 • Negativeな結果が出た場合拘束力はないが、実際には厳し い予算制のため事実上使用することは困難である。 National Institute of Public Health, Japan 58 NICEにおけるTAの結果 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 Total 23 22 34 18 46 8 32 18 18 19 20 20 14 292 53.7% Optimised 0 7 5 10 3 7 10 5 16 2 17 5 0 87 16.0% Not Recommended 1 2 6 3 0 0 3 7 9 9 8 11 8 67 12.3% Only in Research 0 7 5 10 3 7 10 5 16 2 17 5 0 87 16.0% Terminated 0 0 0 0 0 0 0 0 4 1 3 3 0 11 Recommended 2000.3-2012.5 2.0% total 544 National Institute of Public Health, Japan 59 日本における医療経済評価の利用に関する流れ 1985年 厚生省保険局医療課長 「新医療技術の導入に、コストベネフィットとい う考え方もいれていくべき」 1992年 新薬の薬価交渉資料に経済的評価資料の添 付が認められることになった。 2000年 中医協薬価専門部会において、薬価算定にお ける費用対効果の反映方法の研究に着手する ことが提言された。 2001年 「薬価算定組織」が設置され、経済学専門家が 参加。 National Institute of Public Health, Japan 60 医療経済学的評価資料の提出率・提出品目数の推移 Sakamaki et al, 2001; Ikeda et al, 2004; Ikeda et at, 2008 National Institute of Public Health, Japan 61 外来での禁煙治療 2006年4月から外来における禁煙治療(ニコチン依存症管理 料)は保険収載された。 保険収載にあたって、中央社会保険医療協議会(中医協)に おいて興味深い議論がされている。 National Institute of Public Health, Japan 62 中医協での議論 2006年1月18日(基本問題小委員会) (資料) ニコチン依存症について、疾病であるとの位置付けが確立さ れたことを踏まえ、ニコチン依存症と診断された患者のうち禁 煙の希望がある者に対する一定期間の禁煙指導について、 診療報酬上の評価を新たに設ける方向で検討する。 National Institute of Public Health, Japan 63 中医協での議論(続き) 2006年1月18日(基本問題小委員会) 医療課長 もちろん、コストベネフィットの論文もたくさんございます。した がって、そこが論争になるということ自体をまず事務局は想定 していませんでしたので、それは申し訳ありませんでした。論 文は直ちに準備させていただきます。それから、コストベネ フィットで言いますれば、診療報酬点数を入れても数億円でご ざいますので、見返りは何千億円と来ますので、よろしくお願 いいたします。 National Institute of Public Health, Japan 64 中医協での議論(続き) 2006年1月18日(基本問題小委員会) 支払側委員 これは合意事項の骨子ですから、私どもとしては、「診療報 酬上の評価を新たに設ける方向で検討する。」ということに合 意しているわけではないですから。検討することは大いに結 構です。また一方では、パブコメを出している最中でもいいし、 また、今回の改定の中でいろいろなエビデンスを出していた だいて改定の議論をすることについては全くやぶさかではあ りません。その結果、つけるのであればつけるということでも 結構ですけれども、今この段階でもってデータがない中にお いて、「評価を新たに設ける方向で検討する。」というのは行 き過ぎだろうというふうに、今の段階ではそう思います。 National Institute of Public Health, Japan 65 中医協での議論(続き) 2006年1月18日(基本問題小委員会) 公益委員 先ほど来出ておりますように、たばこのコストベネフィットに ついては比較的多く検証されている領域だというふうに思い ますので、ここで一つこういうようなことを出すことによって、 決めることによって、この嫌煙というか、世の中全体の喫煙の 姿勢が変わってくるという、そういう大きな外部効果もあるとい うことで、私としては、大きな世の中の流れであるというふうに 判断しております。 以上です。 National Institute of Public Health, Japan 66 中医協での議論(続き) 2006年1月18日(総会) (資料) ニコチン依存症について、疾病であるとの位置付けが確立さ れたことを踏まえ、ニコチン依存症と診断された患者のうち禁 煙の希望がある者に対する一定期間の禁煙指導について、 費用対効果を検討の上、診療報酬上の評価を新たに設ける 方向で検討する。 医療企画調査室長 「ニコチン依存症について」で始まる文章でございますが、そ こについて、「診療報酬上の評価を新たに設ける」ということ であるなら、その際に、その費用対効果を検討すべきだという ことでございまして、「費用対効果を検討の上」という言葉を追 加させていただいてございます。 National Institute of Public Health, Japan 67 中医協での議論(続き) 2006年2月3日 <資料として海外文献を紹介> ・AHCPRガイドライン ・米国での研究事例 ・英国での研究事例 National Institute of Public Health, Japan 68 中医協での議論(続き) 2006年2月3日 中医協資料 米国での研究事例 National Institute of Public Health, Japan 69 中医協での議論(続き) 2006年2月3日 支払側委員 「『ニコチン依存症指導管理料』、これは前回の議論の中では、費用 対効果について検討の上ということで、今回資料が出されているわけ ですけれども、資料をざっと見たところですが、海外の文献を調査し たらこうでしたと、こういうことですので、海外の文献は我々は前回手 術件数のときに大分痛い目に遭っていますので、本当に海外の文献 だけでいいのかなというところもあって、国内でも随分いろいろな検討 もされていると思いますので、もっと具体的な費用対効果が分かるよ うな資料の提出をお願いしたい。」 <生活習慣病対策室長が国内研究を紹介> National Institute of Public Health, Japan 70 中医協での議論(続き) 中医協資料 National Institute of Public Health, Japan 71 禁煙治療の経済評価 平成17・18年度第3次対がん総合戦略研究事業 「効果的な禁煙支援法の開発と普及のための制度化に関 する研究」班 東京大学大学院薬学系研究科医薬政策学 福田敬、五十嵐中、津谷喜一郎 National Institute of Public Health, Japan 72 目的 禁煙支援プログラムとして外来受診による指導および ニコチン補助療法を取り上げ、各療法のための費用お よび関連疾病の発生に伴う費用を考慮し、生存年数の 延長をアウトカムとした費用効果分析を行う National Institute of Public Health, Japan 73 経済評価の方法 ○評価するプログラム 外来における禁煙プログラム 禁煙プログラムおよびニコチン製剤の併用 ○比較対照 無指導または簡易指導 ○経済評価のタイプ 生存年数の延長をアウトカムとする費用効果分析 ○分析の視点 医療費支払者 ○コスト項目 外来受診のための費用、検査費、薬剤費 喫煙関連疾病発生に伴う医療費 National Institute of Public Health, Japan 74 マルコフモデル(Markov model) National Institute of Public Health, Japan 75 禁煙治療の経済性 (医療費削減を考慮した場合・割引率3%) 禁煙指導のみ 禁煙指導+NRT 増分費用 (円) 増分生存年 (年) ICER (円/年) 増分費用 (円) 増分生存年 (年) ICER (円/年) 男性 -153,928 0.113 dominant -263,581 0.193 dominant 女性 -79,350 0.068 dominant -137,161 0.115 dominant ICER(Incremental Cost Effectiveness Ratio) : 増分費用効果比 dominant : 優位(無指導よりも効果が高く、費用が安い) National Institute of Public Health, Japan 76 禁煙治療の経済性 (医療費削減を考慮しない場合・割引率0%) 禁煙指導のみ 禁煙指導+NRT 増分費用 (円) 増分生存年 (年) ICER (円/年) 増分費用 (円) 増分生存年 (年) ICER (円/年) 男性 36,294 0.338 107,000 59,674 0.572 104,000 女性 36,294 0.209 173,000 59,674 0.355 168,000 ICER(Incremental Cost Effectiveness Ratio) : 増分費用効果比 National Institute of Public Health, Japan 77 中医協での議論(続き) 2006年2月3日 支払側委員 「その論文は、結果的には医療費削減につながると考え られるということで、それは推論ということで、必ずしも実 証的なエビデンスということではない。そういう意味では、 保険適用した場合の費用対効果についてのエビデンスは 今のところはないと思います。」 National Institute of Public Health, Japan 78 中医協での議論(続き) 2006年2月3日 生活習慣病対策室長 「まず、論文の考え方ですが、費用効果の分析に関しま す論文の考え方、実証的にどうするかということなのです が、経済学的な観点でモデルを使ってやった考え方の論 文でありますので、こういうふうな費用対効果の経済学の 文献をどういうふうに評価をするかということの考え方だ と思いますので、先ほどの御指摘のやり方ですと、すべて エビデンスが経済的なものは難しくなるのではないだろう かというふうに考えていますので、そこは論文に対する評 価の仕方はまた別なものがあるのではないだろうかとい うふうにまず思っております。」 National Institute of Public Health, Japan 79 中医協での議論(続き) 2006年2月8日 会長 「エビデンスに基づいた議論というところが、前々回から問題になってお りますが、これは保険適用として行ったエビデンスはございませんので、 したがって、ここでいろいろ公益側で条件をつけたわけですが、そういう 条件でもって、なおかつ自分が禁煙したいという希望を表明した患者さ んに対してこういうことを行いたいと。その結果について、またさらに、先 ほど専門委員からありましたように、検証をして、次回の診療報酬改定 の際には、こういう結果であるからこれを継続するのかあるいは改める のかあるいは廃止するのかということをまた御審議いただくという条件で ございます。したがって、これですべて決まったというわけではございま せんで、初めての試みとして保険診療を行ってみたいということですので、 これについても非常に厳しい要件をつけておりますから、そこのところを 御考慮いただいて、お考えいただいて、ぜひとも同意していただきたいと いうふうに思います。」 National Institute of Public Health, Japan 80 中医協での議論のポイント (経済評価の活用の視点から) ○保険適用にあたって支払い側から費用対効果の検証が求め られたこと ○経済評価研究としては海外のものではなく国内のものが求め られたこと ○増分費用効果比がプラスになる(つまり必ずしも費用削減と はならない)結果が示された上で、保険収載が認められたこと ×ただし、モデルを用いた経済評価はエビデンスではないと判 断された 福田敬. 医療経済評価の政策利用について -禁煙治療の保険収載を例に-. Monthly IHEP 2007; 152: 39-43. National Institute of Public Health, Japan 81 中医協 平成24年度診療報酬改定に係る答申書附帯意見 2012.2.10 (医薬品、医療材料等の適正な評価) 1 5 長期収載品の薬価のあり方について検討を行い、後発医薬品のさ らなる普及に向けた措置を引き続き講じること。 1 6 手術や処置、内科的な診断や検査を含めた医療技術について、医 療上の有用性や効率性などを踏まえ患者に提供される医療の質の 観点から、物と技術の評価のあり方を含め、診療報酬上の相対的な 評価も可能となるような方策について検討を行うこと。 1 7 革新的な新規医療材料やその材料を用いる新規技術、革新的な医 薬品等の保険適用の評価に際し、算定ルールや審議のあり方も含 め、費用対効果の観点を可能な範囲で導入することについて検討を 行うこと。 National Institute of Public Health, Japan 82 中医協費用対効果評価専門部会 構成 1号(支払側)委員 2号(診療側)委員 公益委員 専門委員 参考人 6名 6名 4名 4名 3名 内容 費用対効果の評価対象、評価手法、評価結果の活用方法 等について議論する。 会合(2015年11月25日現在) 2012年5月23日(第1回)~2015年11月20日(第30回) National Institute of Public Health, Japan 83 中央社会保険医療協議会の関連組織 中央社会保険医療協議会 総会 報 告 小委員会 特定の事項についてあらかじめ 意見調整を行う 診療報酬基本問題 小委員会 所掌:基本的な問題に ついてあらかじめ意見 調整を行う。 委員:支払7, 診療7, 公 益6 開催:改定の議論に応 じて開催 調査実施小委員会 所掌:医療経済実態 調査についてあらかじ め意見調整を行う。 委員:支払5, 診療5, 公益4 開催:調査設計で開 催 報 告 診療報酬調査専門組織 所掌:診療報酬体系の見直しに係る技術的課題 の調査・検討 委員:保険医療専門審査委員 ・DPC評価分科会 ・医療技術評価分科会 ・医療機関のコスト調査分科会 ・医療機関等における消費税負担に関する分科会 ・入院医療等の調査・評価分科会 National Institute of Public Health, Japan 報 告 検証部会 診療報酬改定結果 検証部会 所掌:診療報酬が医療 現場等に与えた影響に ついて審議 委員: 公益のみ 開催:改定の議論に応 じて開催 費用対効果評価 専門部会 所掌:医療保険制度 における費用対効果 評価導入の在り方に ついて審議 委員:支払6, 診療6, 公益4, 専門委員4 開催:改定の議論に 応じて開催 報 告 専門部会 ルールの制定 報 告 専門組織 ルールに従っ た値段の決定 薬価専門部会 薬価算定組織 所掌:薬価の価格背 算定ルールを審議 委員:支払4, 診療4, 公益4 開催:改定の議論に 応じて開催 所掌:新薬の薬価算 定等についての調査 審議 委員:保険医療専門 審査員 時期:4半期に一度の 薬価収載、緊急収載 時に応じて、月1回程 度 保険医療材料専 門部会 所掌:保険医療材料 の価格背算定ルール を審議 委員:支払4, 診療4, 公益4 開催:改定の議論に 応じて開催 保険医療材料専 門組織 所掌:特定保険医療 材料の保険適用につ いての調査審議 委員:保険医療専門 審査員 時期:4半期に一度の 保険等に応じて、3月 に3回程度 84 制度の基本的な考え方 (1)対象技術について 対象技術については、下記の原則に基づくことが確認された。 ①希少な疾患を対象としていないこと。 ②対象となる疾病について代替性のある他の医療技術が存在すること。 ③代替する医療技術と比較して、有用性の観点から、財政影響が大きい可能性があること。 ④安全性・有効性等が一定程度確立していること。 ただし、上記以外のものについても、今後の検討により必要がある場合は、対象とすることもあ るのではないかという指摘もあった。 (2)結果活用について 結果活用については、下記の原則に基づくことが確認された。 ①医療技術の評価については、安全性・有効性の評価をはじめ、様々な観点からの評価を総 合的に勘案するという考え方を基本的に維持しつつ、費用対効果評価の結果を活用し、よ り妥当な医療技術の評価を目指すものとする。 ②費用対効果評価は医療技術の評価の一部分であり、費用対効果評価の結果のみをもって 保険収載の可否や償還価格を判定・評価するものではない。また、費用対効果評価の結果 の判定の目安等についても、一定の柔軟性を持ったものとし、硬直的な運用を避けるものと する。 ③費用及び効果の双方の観点からの評価を行うものであり、費用の観点のみの評価を行うも のではない。 National Institute of Public Health, Japan 85 医療技術評価のプロセス • 一般的な医療技術評価の意思決定のプロセス • 費用対効果を含めた様々な要素を考慮して評価を行う。 Assessment (分析) Appraisal (評価) ・ 有効性・安全性等の評価の ・ 分析結果の解釈 実行 ・ その他(臨床的、倫理的 ・費用対効果評価の実行 、社会的…)影響の考慮 National Institute of Public Health, Japan Decision (最終決定) ・ 最終的な意思決定 86 中医協 平成26年度診療報酬改定に係る答申書附帯意見 2014.2.5 12.後発医薬品の使用促進策、いわゆる門前薬局の評価の見直し、妥 結率が低い保険薬局等の適正化等の影響を調査・検証し、調剤報 酬等の在り方について引き続き検討すること。 13.残薬確認の徹底と外来医療の機能分化・連携の推進等のため、処 方医やかかりつけ医との連携を含めた分割調剤について引き続き 検討すること。 14.医薬品や医療機器等の保険適用の評価に際して費用対効果の観 点を導入することについて、イノベーションの評価との整合性も踏ま えつつ、データ・分析結果の収集、評価対象の範囲、評価の実施体 制等を含め、平成28 年度診療報酬改定における試行的導入も視野 に入れながら、引き続き検討すること。 15.ICTを活用した医療情報の共有の評価の在り方を検討すること。 National Institute of Public Health, Japan 87 経済財政運営と改革の基本方針 2015 2015.6.30 閣議決定 第 3 章 「 経 済 ・ 財 政 一 体 改 革」の取組-「経済・財政再生計画」 5. 主要分野ごとの改革の基本方針と重要課題 [1]社会保障 (負担能力に応じた公平な負担、給付の適正化) 公的保険給付の範囲や内容について検討した上で適正化し、保険料負 担の上昇等を抑 制する。このため、次期介護保険制度改革に向けて、高齢 者の有する能力に応じ自立した生活を目指すという制度の趣旨や制度改正 の施行状況を踏まえつつ、軽度者に対する 生活援助サービス・福祉用具貸 与等やその他の給付について、給付の見直しや地域支援 事業への移行を 含め検討を行う。加えて、医療の高度化への対応として、医薬品や医療 機 器等の保険適用に際して費用対効果を考慮することについて、平成28年度 診療報酬 改定において試行的に導入した上で、速やかに本格的な導入を することを目指すとともに、生活習慣病治療薬等について、費用面も含めた 処方の在り方等について検討する。 市販品類似薬に係る保険給付につい て、公的保険の役割、セルフメディケーション推進、 患者や医療現場への 影響等を考慮しつつ、見直しを検討する。不適切な給付の防止の在 り方に ついて検討を行う National Institute of Public Health, Japan 88 経済評価ガイドラインの必要性 • 医療経済評価の結果を医療資源の効率的な 配分に活用するためには、評価の方法をある 程度統一する必要がある。 • 諸外国においては経済評価ガイドラインが作 成されている。 – HTA機関が作成しているもの:例)NICE, PBAC – 研究者が提案しているもの:例)ワシントンパネル National Institute of Public Health, Japan 89 医療経済評価研究における分析手法に関するガイドライン 1. ガイドラインの目的 分析結果の信頼性と比較可能性の確保 2. 分析の立場 公的医療費支払者の立場を推奨。公的医療・介護費支払者の立場、限定された社会的立場を含めることも可 3. 比較対照技術 当該技術が導入されたときに、最も置き換わりうると想定されるもの 4. 分析手法 費用効果分析を用い、結果は増分費用効果比であらわす 5. 分析期間 十分長い分析期間を用いる 6. アウトカム指標の選択 QALYを含めることを推奨。生存年や他の指標による分析も可 7. 有効性・安全性等のデータソース エビデンスレベルが高く、かつ現実の臨床成績を反映しているものを優先的に使用 8. 費用の測定 単価は診療報酬点数、消費量は標準的な診療過程を反映したもの 9. 生産性損失の取り扱い 分析の立場により費用に含めることは可 10. 割引 費用・アウトカムとも年率2%で割り引く 11. モデル分析 モデル分析は可、妥当性の検証が必要 12. 不確実性の取り扱い 感度分析の実施 13. 公的医療支出への財政的影響 (http://hta.umin.jp/guideline_j.pdf) 期間を区切った公的医療費への影響を検討 National Institute of Public Health, Japan (保健医療科学 2013;.62(6): 625-640) 90 ワクチンの経済評価 • 日本においては明確には経済性の検討をせずに導入されている。 – 経済評価研究として公表されているものは経済性に優れるとい う結果が多い。 – ただし、方法の違い(特に費用の範囲や割引など)があり、比較 が困難である。 • 厚生科学審議会感染症分科会予防接種部会ワクチン評価に関す る小委員会において、分析方法の統一基準を作成。 • 予防接種法の対象になっていないワクチンについて、厚生労働科 学研究費補助金事業で経済評価を実施。 • 2011年3月11日 「ワクチン評価に関する小委員会」報告書 – 経済性を含む総合的な評価に基づいて結論。 National Institute of Public Health, Japan 91 予防接種部会ワクチン評価に関する小委員会 HPVワクチン作業チーム報告書から 13才女子にワクチンを接種した場合を接種しない場合を比較すると、 (割引率3%) 接種あり 接種なし 差 ワクチン接種費用 230.5億円 0円 +230.5億円 子宮頸がん関連医療費 80.6億円 138.0億円 -57.3億円 総費用 +173.1億円 効果(QALY) 16,896,400 16,887,800 8,600QALY 増分費用効果比=173.1億円/8,600QALY=201.1万円/QALY National Institute of Public Health, Japan 92 ワクチン評価に関する小委員会 報告書 結論 ○今回の最新のデータに基づいた各ワクチンの作業チームでの評価およ び本小委員会での医学的・科学的な検討では、ヘモフィルスインフルエン ザ菌b型(Hib)ワクチン、肺炎球菌コンジュゲートワクチン(小児用)、肺炎 球菌ポリサッカライドワクチン(成人用)、ヒトパピローマウイルス(HPV)ワ クチン、水痘ワクチン、おたふくかぜワクチン、B型肝炎ワクチンについて は、いずれも、医学的・科学的な観点から人々の健康を守るうえで広く接 種を促進していくことが望ましいワクチンであると考えられる。 ○ ただし、今後の検討にあたっては、こうした医学的・科学的な議論のほか に、必要な財源とそれをどのように国民全体で支えるかなどの課題や国 民のコンセンサスのほか、円滑な導入と安全かつ安定的な実施体制を確 保することが前提となるものであり、その点も含め、疾病予防の重要性を 鑑みた公衆衛生施策としての実施について、部会において引き続き検討 を行うことが求められる。 ○ また、医学的・科学的な検討を継続することは常に必要であり、重要で ある。この点は既に行われている定期接種対象ワクチンも同様である。 ○ 現在、予防接種法における定期接種の対象となっている百日せきワクチ ン、ポリオワクチンについても、それぞれの課題について検討を行った上 で、実施方法の見直しが求められる。 National Institute of Public Health, Japan 93 がん検診のあり方に関する検討会 (2012年5月から) ・以下のような検診項目について有効性・安全性の評 価を中心とし、経済性の評価も検討する。 ・検診項目について ・子宮頸がん(HPV検査) ・胃がん(ヘリコバクター抗体検査・ペプシノゲン検査 、内視鏡検査) ・肺がん(CT検査) ・大腸がん(内視鏡検査等) ・前立腺がん(PSA) ・乳がん(エコー、視触診、デジタルマンモグラフィ等) National Institute of Public Health, Japan 94 特定保健指導の経済評価 • 日本では2008年より特定健診・特定保健指導が実 施されている。 • 「保険者による健診・保健指導等に関する検討会」 の下に「特定健診・保健指導の医療費適正化効果 等の検証のためのワーキンググループ」が2012年 12月に設置され、保健指導による効果の検証が行 われている。 • 効果としては、保健指導の有無による検査値への 影響、レセプト分析による短期での医療費への影 響をナショナル・データベースを用いて分析してい る。 • これに加えて、モデルを用いた推計により循環器疾 患、糖尿病合併症の発症への影響を考慮した長期 的な経済評価を実施している。 National Institute of Public Health, Japan 95 まとめ 日本でも保健事業や保険診療等において効率的 な取り組みが必要であり、医療経済評価はその ツールとして普及すると考えられる。 利用できる場面としては、公的医療保険制度にお ける給付範囲や償還価格の設定だけでなく、自 治体や保険者等による予防や保健事業などでも 重要となる。 評価にあたっては、適切な手法を用いて取り組む ことが重要である。 National Institute of Public Health, Japan 96 参考図書 五十嵐中ら. 「薬剤経済」わかりません. 東京図書; 2014 坂巻弘之. やさしく学ぶ薬剤経済学. じほう; 2003. 白神誠. 使える薬剤経済学入門. エルゼビアジャパン; 2003. 池上直己, 西村周三(編). 講座医療経済・政策学第4巻 医療技術・医薬品. 勁草 書房; 2005. 鎌江伊三夫ら(監修). 医療技術の経済評価と公共政策. じほう;2013. Drummond MF, Sculpher MJ, Torrance GW, O’Brien B, Stoddart GL. Methods for the Economic Evaluation of Health Care Programmes. 3rd ed. Oxford University Press; 2005. (第2版の訳本:久繁哲徳, 岡敏弘 監訳. 保健医療の経済的評価. じほう; 2003.) Gold MR, Siegel JE, Russell LB, Winstein MC. Cost-effectiveness in Health and Medicine. Oxford University Press; 1996. (池上直己, 池田俊也, 土屋有紀 監訳. 医療の経済評価. 医学書院; 1999.) National Institute of Public Health, Japan 97 おわりに • 「保健医療科学」 – 特集:保健医療における費用対効果の評価方法と 活用 – 第62巻、第6号(2013.12) • 国立保健医療科学院 短期研修 – 「保健医療事業の経済的評価に関する研修」 – 2015年9月14日~16日実施 National Institute of Public Health, Japan 98 特定健診・保健指導の 費用対効果について 2015.12.1 国立保健医療科学院 福田 敬 [email protected] National Institute of Public Health, Japan 99 検討会 • 保険者による健診・保健指導の円滑な実施に 関する検討会 – 平成23年4月設置 – 各保険者団体から代表1名 • 特定健診・保健指導の医療費適正化効果等 の検証のためのワーキングループ – 研究者6名で構成 – 特定健診・保健指導による検査値の改善状況や 行動変容への影響、医療費適正化効果等の検証 National Institute of Public Health, Japan 100 特定健診・保健指導の医療費適正化効果 等の検証のためのワーキンググループ • 保健指導による評価指標等の推移 • 保健指導による保健指導レベルおよびメタボ リックシンドロームの改善状況 • 保健指導による1人あたり入院外保険診療 費への影響 • 保健指導による入院外保険診療費及び外来 受診率の経年分析 National Institute of Public Health, Japan 101 保健指導による長期的な影響の推計 • 保健指導により、高血圧、脂質異常症、糖尿 病といった疾患の発症抑制を図ることができ るが、これらの疾患による重篤な合併症(心 筋梗塞や脳卒中といった疾患や腎不全など) の発症抑制を図ることも重要である。 • レセプトデータを用いた分析では、現在のとこ ろ、短期間の効果しか分析できない。 • モデルを用いて長期的な影響を推計する。 National Institute of Public Health, Japan 102 特定健診・保健指導の実施による将来的な健康状態および 医療費の予測 特定健診の実施 特定健診に基づく階層化と保 健指導の実施 特定保健指導の実施 特定保健指導による効果(行動 変容・検査指標) 行動変容・検査指標の改善 検査指標の改善による生活習慣 関連疾患発症の発症予測 生活習慣関連疾患の減少 生活習慣関連疾患による健康 状態や医療費への影響 生活習慣関連疾患の発症 に伴う健康状態の悪化の減 少および医療費の適正化 生活習慣関連疾患の減少によ る死亡の減少 生活習慣関連疾患による死 亡の減少 National Institute of Public Health, Japan 103 保健指導による長期的な影響を推計 するモデルの開発 • 心筋梗塞および脳卒中の発症予測モデル – CIRCS(Circulatory Risk in Communities Study)研究 に基づく発症予測モデルを用いて、20年間の心 筋梗塞、脳卒中(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血) の発症を推計 • 人工透析導入の予測モデル – UKPDS(United Kingdom Prospective Diabetes Study)研究に基づく予測モデルの開発とこれに基 づく推計 National Institute of Public Health, Japan 104 心筋梗塞及び脳卒中の発症予測モデル • ステージは、心筋梗塞及び脳卒中(脳梗塞、脳出血、 くも膜下出血) • 脳卒中の慢性期は、介護ステージへ移行 • 介護ステージは、modified Rankin scale(概括予後評 価尺度 , mRS)を用いて、mRS0(障害なし)、mRS1(軽 度障害)、mRS2-3(中度障害)、mRS4-5(重度障害)の4 つの状態を設定 • 疾患の再発も考慮(ただし、再発の病型は元の病型と 同じ) • 再発は1度のみ(再再発はなし) • 脳卒中再発後の介護重症度は、元の重症度と同じ又 は悪化 National Institute of Public Health, Japan 105 分析の概要(マルコフモデル) Post Myocardial infarction Myocardial infarction CVD death or Non-CVD death Metabolic syndrome CVD death or Non-CVD death Cerebral infarction Post Cerebral infarction (mRS0) Cerebral hemorrhage Post Cerebral hemorrhage (mRS0) Subarachnoid hemorrhage Post Subarachnoid hemorrhage (mRS0) mRS 1 mRS 2-3 CVD death or Non-CVD death National Institute of Public Health, Japan mRS 4-5 Metabolic syndrome:内臓脂肪型肥満状態 CVD:心血管疾患 Myocardial infarction:心筋梗塞 Cerebral infarction:脳梗塞 Cerebral hemorrhage:脳出血 Subarachnoid hemorrhage:くも膜下出血 Post:慢性期 mRS0:障害なし mRS1:軽度障害 mRS2-3:中等度障害 mRS4-5:重度障害 106 CIRCS研究に基づく循環器疾患 長期発症予測モデルの利用 • 利点 – 国内の複数地域の研究である。 – 対象者数が多い(1985~1994年 9480人)。 – 追跡期間が長い(中央値20.8年)ため、長期の推計 に適している。 – 予測モデルの開発ができる。 • 予測因子 – 性別、年齢、BMI、収縮期血圧、降圧薬服用の有無、 non HDL-C、HDL-C、TG、糖尿病、喫煙 National Institute of Public Health, Japan 107 対照群、介入群の検査値の調整 血圧 加重平均値 調整後の 各検査値 の差を基 に発症率 を推計 2008 2008 2008 National Institute of Public Health, Japan 2009 2009 2009 108 心筋梗塞の累積発症率の推計 男性、50-54才、積極的支援 2.0% 1.8% 1.6% 1.4% 1.2% 1.0% 0.8% 0.6% 0.4% 0.2% 0.0% 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 対照群 National Institute of Public Health, Japan 介入群 109 脳卒中の累積発症率の推計 男性、50-54才、積極的支援 4.5% 4.0% 3.5% 3.0% 2.5% 2.0% 1.5% 1.0% 0.5% 0.0% 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 対照群 National Institute of Public Health, Japan 介入群 110 人工透析導入の予測モデル UKPDSアウトカムズモデル UKPDSから得られた臨床データを基に開発された2型糖尿病の各合併症発現予測のための回帰式を 用いて、長期予後を推計できるようにしたモデル。各合併症における死亡以外の最悪なイベント(網膜症 なら失明、腎症なら腎不全、神経障害なら切断など)の発生の有無(初発のみ)を推計する。 National Institute of Public Health, Japan 111 UKPDSアウトカムズモデル Clarke et al. A model to estimate the lifetime health outcomes of patients with Type 2 diabetes: the United Kingdom Prospective Diabetes Study (UKPDS) Outcomes Model (UKPDS no. 68). Diabetologia 2004; 47: 1747-1759. National Institute of Public Health, Japan 112 人工透析導入の推計モデル 異常なし 死 亡 腎不全 人工透析 National Institute of Public Health, Japan 113 人工透析導入率の推計 男性、50-54才、積極的支援 0.40% 0.35% 0.30% 0.25% 0.20% 0.15% 0.10% 0.05% 0.00% 1 2 3 4 5 6 7 8 9 対照群 National Institute of Public Health, Japan 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 介入群 推計結果 保険診療費 積極的支援 男性 50-54才 保健指導費 (円) 対照群 介入群 25,000 保険診療費 (円) 323,107 304,144 保険診療費差 (円) 増分費用 (円) -18,962 6,038 保険診療費 (円) 410,959 375,049 保険診療費差 (円) 増分費用 (円) -35,909 -10,909 効果 (QALY) 14.7571 14.7672 増分効果 (QALY) 増分費用効果比 (円/QALY) 0.01006 600,172 効果 (QALY) 13.6454 13.6594 増分効果 (QALY) 増分費用効果比 (円/QALY) 0.01407 dominant 効果 (QALY) 14.7571 14.7672 増分効果 (QALY) 増分費用効果比 (円/QALY) 0.01006 304,461 効果 (QALY) 13.6454 13.6594 増分効果 (QALY) 増分費用効果比 (円/QALY) 0.01407 dominant 60-64才 保健指導費 (円) 対照群 介入群 25,000 保険診療費+介護費 積極的支援 男性 50-54才 対照群 介入群 保健指導費 保険診療費+ 保険診療費+介 (円) 介護費(円) 護費差(円) 411,463 25,000 389,526 -21,937 増分費用 (円) 保健指導費 保険診療費+ 保険診療費+介 (円) 介護費(円) 護費差(円) 570,274 25,000 528,920 -41,354 増分費用 (円) 3,063 60-64才 対照群 介入群 National Institute of Public Health, Japan -16,354 115 推計結果 保険診療費 動機づけ支援 男性 50-54才 保健指導費 (円) 対照群 介入群 8,000 保険診療費 (円) 282,516 268,324 保険診療費差 (円) 増分費用 (円) -14,192 -6,192 保険診療費 (円) 371,955 363,797 保険診療費差 (円) 増分費用 (円) -8,158 -158 効果 (QALY) 14.7551 14.7587 増分効果 (QALY) 増分費用効果比 (円/QALY) 0.0036 dominant 効果 (QALY) 13.6347 13.6401 増分効果 (QALY) 増分費用効果比 (円/QALY) 0.0055 dominant 効果 (QALY) 14.7551 14.7587 増分効果 (QALY) 増分費用効果比 (円/QALY) 0.0036 dominant 効果 (QALY) 13.6347 13.6401 増分効果 (QALY) 増分費用効果比 (円/QALY) 0.0055 dominant 60-64才 保健指導費 (円) 対照群 介入群 8,000 保険診療費+介護費 動機づけ支援 男性 50-54才 対照群 介入群 保健指導費 保険診療費+ 保険診療費+介 (円) 介護費(円) 護費差(円) 388,250 8,000 372,473 -15,777 増分費用 (円) 保健指導費 保険診療費+ 保険診療費+介 (円) 介護費(円) 護費差(円) 561,582 8,000 550,702 -10,880 増分費用 (円) -7,777 60-64才 対照群 介入群 National Institute of Public Health, Japan -2,880 116 保健事業等の費用対効果について 確認のための○×クイズの解答 2015.12.1 国立保健医療科学院 福田 敬 [email protected] National Institute of Public Health, Japan 117 Q1 効率的な保健医療とは、従来の方法より費用が 安くなる方法を指し、仮に効果が高くなっても費 用が増えるのであれば効率的とは言わない。 答え (×) 解説 費用が多くかかっても大きな効果が得られるの であれば効率的と判断できます。追加的な費用 と効果の関連を示す指標として増分費用効果比 (ICER)を用います。 National Institute of Public Health, Japan 118 Q2 医療経済評価においては、費用と結果の両方を 考慮することと複数の方法を比較することが重 要である。 答え (○) 解説 一般に、費用と結果の両方を考慮し、複数の方 法を比較しているものを「医療経済評価」といい ます。 National Institute of Public Health, Japan 119 Q3 新たな介入方法や対策が、従来のものよりも費 用が高く効果も高い場合に、その方法は dominant(優位)であるという。 答え (×) 解説 新たな介入方法や対策が、従来のものよりも費 用が安く効果が高い場合に、その方法は dominant(優位)であるといいいます。 National Institute of Public Health, Japan 120 Q4 費用効果分析(cost-effectiveness analysis)に おいては、費用と結果の両方を金銭単位で評価 することが一般的である。 答え (×) 解説 費用効果分析では、結果を生存の延長や治癒 患者数といった金銭以外の指標で表します。結 果を金銭単位で評価するものは費用便益分析 といいます。 National Institute of Public Health, Japan 121 Q5 費用効用分析(cost-utility analysis)においては 、保健医療の結果をQALY(Quality Adjusted Life Year:質調整生存年)といった指標で表す。 答え (○) 解説 費用効用分析では、結果を生存年数の延長と QOLの両方を考慮したQALYという指標で表しま す。 National Institute of Public Health, Japan 122 Q6 費用最小化分析(cost minimization analysis)は 、費用のみを比較する方法のため、比較対照と くらべて効果に差があっても構わない。 答え (×) 解説 費用最小化分析は複数のプログラムで効果が 同等である場合に用います。単に費用のみを比 較する方法は費用分析といい、効率性の評価 はできません。 National Institute of Public Health, Japan 123 Q7 医療経済評価において用いる増分費用効果比 とは、新規の技術や対策にかかる費用をその効 果で割った指標と、従来の技術や対策にかかる 費用をその効果で割った指標の差をとったもの である。 答え (×) 解説 増分費用効果比は以下の式で表せます。 費用(B)-費用(A) 増分費用効果比 = 効果 (B)-効果(A) 費用の差を効果の差で割った指標です。 National Institute of Public Health, Japan 124 Q8 経済評価における費用の算出では、一般に病 院の損益計算書から得られる機会費用( opportunity cost)を考慮することが必要である。 答え (×) 解説 医療経済評価においては、労働損失といった機 会費用を考慮する場合がありますが、資源の損 失を考慮する場合に用いるもので、病院会計上 は現れません。 National Institute of Public Health, Japan 125 Q9 医療経済評価では、例えば保険者や患者、病院といっ た分析の立場によって含めるべき費用が異なる。 答え (○) 解説 医療経済評価では、分析の立場によって含めるべき費 用が異なります。その立場から分析もあり得ますが、 立場を明確にする必要があります。医療経済評価では 、例えば保険者や患者、病院といった分析の立場によ って含めるべき費用が異なる。 National Institute of Public Health, Japan 126 Q10 保健医療の経済評価は必ず患者や住民の視点 から患者や住民が負担する費用を考慮するも のでなければならない。 答え (×) 解説 保健医療の経済評価では、患者や住民の視点 からの分析もありますが、自治体や保険者の立 場、医療機関の立場、社会の立場といった他の 立場からの分析もあります。目的に応じて分析 の立場を決めることが重要です。 National Institute of Public Health, Japan 127 Q11 経済評価における費用の割引(discount)とは、 医療機関が医薬品や医療材料等を診療報酬の 金額よりも安価で購入していることを反映するも のである。 答え (×) 解説 経済評価における費用の割引(discount)とは、 将来発生する費用を現在価値に換算する方法 です。 National Institute of Public Health, Japan 128 Q12 費用効用分析の利点として、アウトカムにQALY という指標を用いることにより、様々な医療・予 防プログラム等の比較を行うことが可能である 点が挙げられる。 答え (○) 解説 QALYを用いる特徴として、様々な医療・予防プ ログラム等の比較を行うことが可能である点が 挙げられます。 National Institute of Public Health, Japan 129 Q13 EQ-5D(EuroQol 5 dimension)はQALYを算出す るためのQOL評価尺度の一つで、様々な疾患 の評価に用いられている。 答え (○) 解説 EQ-5DはQALYを算出するためのQOL評価尺度 の一つで、広く用いられています。 National Institute of Public Health, Japan 130 Q14 保健医療の経済評価では費用効果比(Cost Effectiveness Ratio: CER)ではなく、追加的な投 資に見合うかを評価する増分費用効果比( Incremental Cost Effectiveness Ratio: ICER)を 検討することが重要である。 答え (○) 解説 保健医療の経済評価では増分費用効果比を算 出し、検討することが重要です。 National Institute of Public Health, Japan 131 Q15 保健指導やワクチン接種といった疾病の予防に 取り組む活動は必ず効率的であり、費用対効果 の観点からはどのような内容でも実施すべきで ある。 答え (×) 解説 予防的な活動が必ず効率的とは限りません。適 切な費用対効果の評価とこれを考慮した意思決 定が重要です。 National Institute of Public Health, Japan 132 広島県 特定健診・特定保健指導に関する人事育成研修会「保健事業等の費用対効果の評価」 確認のための○×クイズ 2015.12.1 【問題】以下の文の内容が正しければ○、誤っていれば×を括弧内に書いてください。 ( )1. 効率的な保健医療とは、従来の方法より費用が安くなる方法を指し、仮に効果が高くなって も費用が増えるのであれば効率的とは言わない。 ( ) 2.医療経済評価においては、費用と結果の両方を考慮することと複数の方法を比較することが 重要である。 ( ) 3. 新たな介入方法や対策が、従来のものよりも費用が高く効果も高い場合に、その方法は dominant(優位)であるという。 ( ) 4. 費用効果分析(cost-effectiveness analysis)においては、費用と結果の両方を金銭単位 で評価することが一般的である。 ( ) 5. 費用効用分析(cost-utility analysis)においては、保健医療の結果を QALY(Quality Adjusted Life Year:質調整生存年)といった指標で表す。 ( ) 6. 費用最小化分析(cost minimization analysis)は、費用のみを比較する方法のため、比 較対照とくらべて効果に差があっても構わない。 ( )7. 医療経済評価において用いる増分費用効果比とは、新規の技術や対策にかかる費用をその効 果で割った指標と、従来の技術や対策にかかる費用をその効果で割った指標の差をとったも のである。 ( ) 8. 経済評価における費用の算出では、一般に病院の損益計算書から得られる機会費用 (opportunity cost)を考慮することが必要である。 ( )9. 医療経済評価では、例えば保険者や患者、病院といった分析の立場によって含めるべき費用 が異なる。 ( ) 10. 保健医療の経済評価は必ず患者や住民の視点から患者や住民が負担する費用を考慮するも のでなければならない。 ( ) 11. 経済評価における費用の割引(discount)とは、医療機関が医薬品や医療材料等を診療報 酬の金額よりも安価で購入していることを反映するものである。 ( ) 12. 費用効用分析の利点として、アウトカムに QALY という指標を用いることにより、様々な 医療・予防プログラム等の比較を行うことが可能である点が挙げられる。 ( )13. EQ-5D(EuroQol 5 dimension)は QALY を算出するための QOL 評価尺度の一つで、様々な疾 患の評価に用いられている。 ( )14. 保健医療の経済評価では費用効果比(Cost Effectiveness Ratio: CER)ではなく、追加的 な投資に見合うかを評価する増分費用効果比(Incremental Cost Effectiveness Ratio: ICER) を検討することが重要である。 ( )15. 保健指導やワクチン接種といった疾病の予防に取り組む活動は必ず効率的であり、費用対 効果の観点からはどのような内容でも実施すべきである。