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1.疫学,亜型,経過・予後,病因・病態

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1.疫学,亜型,経過・予後,病因・病態
1.疫学,亜型,経過・予後,病因・病態
Clinical Question 1-1
1.疫学,亜型,経過・予後,病因・病態
発症率や有病率,家族性の割合はどのくらいか
回
答
日本における ALS の発症率は,1.1〜2.5 人/10 万人/年,有病率は 7〜11 人/
10 万人と推計される.
家族歴のある患者の割合は約 5%である.
■ 背景・目的
診療現場においてよく受ける質問のひとつであり,基礎情報として重要である.
■ 解説・エビデンス
2010 年度に ALS として特定疾患医療受給者証を交付された患者数は 8,406 人であり 1)(エビ
デンスレベル Ⅳb)
,国勢調査によるわが国の 2010 年人口 1 億 2805 万 6 千人から計算すると人
口 10 万人あたり 6.6 人となる.ただし,特定疾患医療受給者数はわが国の患者実数よりは少な
いと想定される.種々の原因による申請漏れ,通常は特定疾患申請を行わない生活保護受給者
の存在など,捕捉率が下がる要因があるからである.3 年ごとに厚生労働省により実施される患
者調査による 2008 年の ALS 受療率は 2.7 人/10 万人で,これをもとに推計された患者総数は
8,900〜10,900 人であり,人口 10 万人あたりの患者数は 7.0〜8.5 人となる 2)
(エビデンスレベル
Ⅳb)
.地域ベースの網羅的有病率,発症率調査である和歌山県での調査報告によると,2002 年
末における有病率は 11.3 人/10 万人である 3)
(エビデンスレベル Ⅳa)
.ただし,和歌山県内には
古座川地区に代表される ALS 多発地区が存在するため,日本全体ではこれよりも有病率が少な
い可能性がある.以上の点から日本における有病率は 7〜11 人/10 万人と見積もられる.
和歌山県の 1998〜2002 年の ALS 発症率(罹患率)は,2.5 人/10 万人/年であるが,上述の理
由により日本全体ではこれよりも発症率が少ない可能性がある.日本の死亡統計の解析では,
2004 年における ALS による死亡率は人口 10 万人あたり 1.07 人と報告されている 4)(エビデン
スレベル Ⅳa)
.これまでの死亡率調査報告のレビューでは,死亡診断書の病名欄から ALS が
漏れてしまう割合は 3.8〜50.8%であった 5)
(エビデンスレベル Ⅰ)
.真の ALS 発症率は調査に
よって把握された ALS による死亡率より大きいことを踏まえると,わが国の ALS 発症率は 1.1
人/10 万人/年より多いと想定される.以上の点から日本における発症率は 1.1〜2.5 人/10 万人/
年と見積もられる.
家族性 ALS の割合は,既報告をまとめたレビューによると 5.1%である 6)
(エビデンスレベル
Ⅰ)
.
2
1.疫学,亜型,経過・予後,病因・病態
■ 文献
1) 難病情報センターホームページ http://www.nanbyou.or.jp/(2013 年 8 月 16 日閲覧)
2) 横山徹爾,土井由利子.平成 20 年患者調査による難病の受療状況データブック.平成 22 年度厚生労働科
学研究費補助金難治性疾患克服研究事業特定疾患の疫学に関する研究班(研究代表者:永井正規)
,2011.
3) Kihira T, Yoshida S, Hironishi M, et al. Changes in the incidence of amyotrophic lateral sclerosis in
Wakayama, Japan. Amyotroph Lateral Scler Other Motor Neuron Disord. 2005; 6: 155–163.
4) Doi Y, Yokoyama T, Tango T, et al. Temporal trends and geographic clusters of mortality from amyotrophic lateral sclerosis in Japan, 1995-2004. J Neurol Sci. 2010; 298: 78–84.
5) Marin B, Couratier P, Preux PM, et al. Can mortality data be used to estimate amyotrophic lateral sclerosis
incidence? Neuroepidemiology. 2011; 36: 29–38.
6) Byrne S, Walsh C, Lynch C, et al. Rate of familial amyotrophic lateral sclerosis: a systematic review and
meta-analysis. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2011; 82: 623–627.
■ 検索式・参考にした二次資料
PubMed(検索 2011 年 11 月 26 日)
(("Amyotrophic Lateral Sclerosis/epidemiology"[Majr] OR "Amyotrophic Lateral Sclerosis/ethnology"[Majr]
OR "Amyotrophic Lateral Sclerosis/statistics and numerical data"[Majr]) OR (("Amyotrophic Lateral Sclerosis"[Majr] AND (geographic*[TIAB] OR cluster*[TIAB] OR "Cluster Analysis"[MH]))) AND ("epidemiologic
studies"[MH] OR "Meta-Analysis"[PT] OR "Review"[PT]) AND Humans[MH] AND (English[LA] OR Japanese[LA]) AND "2000"[DP]: "2011"[DP]
検索結果 192 件
ほかに医中誌,JMEDPlus でも検索を行った.
文献 1)
,2)はハンドサーチにより付け加えた.
3
1
疫
学
ほ
か
Clinical Question 1-2
1.疫学,亜型,経過・予後,病因・病態
孤発例の発症リスクにはどのようなものがあるか
最大のリスクは年齢であり,60 歳代から 70 歳代で最も発症率が高い.
回
答
性別もリスク因子であり,男性が女性に比して 1.3〜1.4 倍程度発症率が高い.
その他の発症リスクは報告により結果が分かれ,さらなる検証が必要である.
■ 背景・目的
診療現場においてよく受ける質問のひとつであり,基礎情報として重要である.
■ 解説・エビデンス
各年代別の ALS 発症率を調査した各国の疫学調査において結果は一定しており,50 歳未満で
の発症は少なく,50 歳代から発症率が上昇し始め,60 歳代から 70 歳代にかけて最大となり,
80 歳代では減少傾向となる.ピークとなる 60 歳代から 70 歳代の発症率は和歌山県の報告で,
男性が 7〜12 人/10 万人/年,女性が 4〜8 人/10 万人/年,男女合わせて約 8 人/10 万人/年で
ある 1)
(エビデンスレベル Ⅳa)
.
性別の ALS 発症への影響について,人口ベースの既報告を網羅的にまとめたレビューによれ
ば,発症率,有病率は男性のほうが女性より高く,若年ではさらに男性の率が高くなる.発症
率の男女比はおおむね 1.3〜1.4:1 である 2)
(エビデンスレベル Ⅰ)
.
喫煙は,relative risk(RR)が 1.42 の ALS 発症リスク(5 編のコホート研究を統合した解析)3)
(エビデンスレベル Ⅰ)であること,ALS の確立したリスクである(2003〜2009 年の 7 編の報告
をまとめたレビュー)4)
(エビデンスレベル Ⅰ)が述べられている.一方,18 編の報告をもとに実
施されたメタアナリシスでは喫煙と ALS 発症との間に有意な関連は示されなかった 5)(エビデ
ンスレベル Ⅰ)
.1 回以上の頭部外傷歴はオッズ比(OR)3.1 の ALS 発症リスクであり,7 編の
報告を用いたメタアナリシスでも OR 1.7 で頭部外傷歴がリスクとなると報告されている 6)(エ
ビデンスレベル Ⅰ)
.一方,2002〜2007 年の 5 編の報告をもとにしたレビューでは外傷やスポー
ツと ALS 発症との関連は否定的であると結論している 7)
(エビデンスレベル Ⅰ)
.
■ 文献
1) Kihira T, Yoshida S, Hironishi M, et al. Changes in the incidence of amyotrophic lateral sclerosis in
Wakayama, Japan. Amyotroph Lateral Scler Other Motor Neuron Disord. 2005; 6: 155–163.
2) McCombe PA, Henderson RD. Effects of gender in amyotrophic lateral sclerosis. Gend Med. 2010; 7: 557–
570.
3) Wang H, O’Reilly EJ, Weisskopf MG, et al. Smoking and risk of amyotrophic lateral sclerosis: a pooled
4
1.疫学,亜型,経過・予後,病因・病態
analysis of 5 prospective cohorts. Arch Neurol. 2011; 68: 207–213.
4) Armon C. Smoking may be considered an established risk factor for sporadic ALS. Neurology. 2009; 73:
1693–1698.
5) Alonso A, Logroscino G, Hernan MA. Smoking and the risk of amyotrophic lateral sclerosis: a systematic
review and meta-analysis. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2010; 81: 1249–1252.
6) Chen H, Richard M, Sandler DP, et al. Head injury and amyotrophic lateral sclerosis. Am J Epidemiol.
2007; 166: 810–816.
7) Armon C. Sports and trauma in amyotrophic lateral sclerosis revisited. J Neurol Sci. 2007; 262: 45–53.
■ 検索式・参考にした二次資料
PubMed(検索 2011 年 11 月 28 日)
"Amyotrophic Lateral Sclerosis"[Majr] AND ("Risk"[MH] OR "Causality"[MH] OR etiology[TIAB] OR "etiology"
[SH]) AND (random*[TIAB] OR cohort*[TIAB] OR risk*[TIAB] OR causa*[TIAB] OR predispos*[TIAB] OR odds
ratio[MH] OR case control* OR odds ratio* OR controlled clinical trial [PT] OR randomized controlled trial [PT]
OR risk[MH] OR "practice guideline"[PT] OR "epidemiologic studies"[MH] OR "case control studies"[MH] OR
"cohort studies"[MH] OR "age factors"[MH] OR comorbidity[MH] OR "epidemiologic factors"[MH]) AND ("Systematic"[SB] OR "Amyotrophic Lateral Sclerosis/etiology"[Majr]) AND Humans[MH] AND (English[LA] OR
Japanese[LA]) AND "2000"[DP]: "2011"[DP]
検索結果 482 件
ほかに医中誌,JMEDPlus でも検索を行った.
文献 1)はハンドサーチにより付け加えた.
5
1
疫
学
ほ
か
Clinical Question 1-3
1.疫学,亜型,経過・予後,病因・病態
孤発例の生命予後(侵襲的換気[IV]導入まで)はどのよ
うであるか
発症から死亡もしくは侵襲的換気(invasive ventilation:IV)が必要となるまで
回
答
の期間の中央値は,20〜48 ヵ月であると報告されている.ただし,経過には相当
の個人差がある.
■ 背景・目的
標準的な生命予後は診療・介護・福祉において重要な基礎情報である.
■ 解説・エビデンス
厚生省研究班によって行われた 1985 年以降 10 年間の ALS 患者死亡例 698 例に対して行われ
た調査では,発症から死亡までの全経過は全体で平均 40.6 ± 33.1 ヵ月,中央値 31.0 ヵ月,気管
切開や人工呼吸器装着を行った群では平均 49.1 ± 37.2 ヵ月,行わなかった群では平均 35.8 ± 31.1 ヵ
月であった 1)
(エビデンスレベル Ⅳb)
.日本の単一施設における解析では,発症からの生存期間
(エビデンスレベル
中央値は男性 29.8 ヵ月,女性 31.4 ヵ月(男女での有意差なし)であった 2)
Ⅳa)
.
世界的には地域ベースあるいは大規模な単一施設コホートによる解析研究が数多くあり,そ
れらをまとめたレビューでは,発症からの生存期間の中央値は 20〜48 ヵ月である 3)
(エビデン
スレベル Ⅰ)
.ただし,生存期間は個々の患者間で相当な違いがあり,10%程度の患者が発症後
1 年以内に死亡する一方で,5〜10%の患者が発症 10 年後に生存していることが示されている.
1984〜1999 年に診断した患者と 1999〜2004 年に診断した患者を比較したところ生存期間中央
値が 3.22 年から 4.32 年に有意に延長したとする報告 4)
(エビデンスレベル Ⅳa)
,1990 年以降の
治験のプラセボ群を比較解析し,生存期間が延長傾向にあることを示した報告 5)
(エビデンスレ
ベル Ⅳa)がある.治療,ケアの進歩により,以前のコホート研究によるデータよりも現在は
生存期間が延長している可能性がある.
■ 文献
1) 桃井浩樹,進藤政臣,柳澤信夫,ほか.本邦における筋萎縮性側索硬化症の病勢経過—厚生省特定疾患神
経変性疾患調査研究班調査より—.神経研究の進歩. 2004; 48: 133–144.
2) 木村文治,篠田恵一,藤原真也,ほか.筋萎縮性側索硬化症 100 例の変遷.臨床神経学. 2003; 43: 385–391.
3) Chiò A, Logroscino G, Hardiman O, et al. Prognostic factors in ALS: a critical review. Amyotroph Lateral
Scler. 2009; 10: 310–323.
4) Czaplinski A, Yen AA, Simpson EP, et al. Slower disease progression and prolonged survival in contem-
6
1.疫学,亜型,経過・予後,病因・病態
porary patients with amyotrophic lateral sclerosis: is the natural history of amyotrophic lateral sclerosis
changing? Arch Neurol. 2006; 63: 1139–1143.
5) Qureshi M, Schoenfeld DA, Paliwal Y, et al. The natural history of ALS is changing: improved survival.
Amyotroph Lateral Scler. 2009; 10: 324–331.
■ 検索式・参考にした二次資料
PubMed(検索 2012 年 11 月 17 日)
((("Amyotrophic Lateral Sclerosis/diagnosis"[MAJR] OR "Amyotrophic Lateral Sclerosis/mortality"[MAJR])
AND ("Survival Rate"[MH] OR "Survival Analysis"[MH])) AND (Humans[MH] AND (eng[LA] OR jpn[LA])
AND 2000: 2012[DP]))
検索結果 107 件
医中誌(検索 2012 年 11 月 17 日)
(筋萎縮性側索硬化症/TH and (生存率/TH or 生存期間/TH or 予後/TH)) and (DT=2000: 2012 and PT=会議録除
く and CK=ヒト)
検索結果 49 件
ほかに JMEDPlus でも検索を行った.
7
1
疫
学
ほ
か
Clinical Question 1-4
1.疫学,亜型,経過・予後,病因・病態
孤発例の進行・予後を予測する因子は何か
予後不良につながる因子として,球麻痺発症,呼吸障害発症,高齢発症,栄養状態
回
答
不良,症状が身体の一領域から隣接する領域に速く進展することがあげられる.予
後予測には,これらの因子に加え,ALSFRS–R などの重症度スケールおよびその
低下率,努力性肺活量が有用である.
■ 背景・目的
診療・介護・福祉を進めるにあたり,進行・予後を予測することは重要である.
■ 解説・エビデンス
球麻痺発症例では,発症からの生存期間が短い傾向があり,独立した予後不良因子である 1, 2)
(エビデンスレベル Ⅳa)
.呼吸障害発症例はまれであるが,予後不良である 3)
(エビデンスレベ
ル Ⅳa)
.発症年齢は進行・予後を左右する因子であり,高齢になるほど発症からの生存期間が
(エビデンスレベル Ⅳa)
.診断時または経過中の栄養不良は独立した予後不良因子
短くなる 1, 4, 5)
である 6, 7)
(エビデンスレベル Ⅳb)
.
日本の施設における解析によれば,球筋,上肢筋,下肢筋の各領域について,発症早期に複
数領域に進展する例は予後不良である 8)
(エビデンスレベル Ⅳa)
.また,下肢発症例において,
発症後に症状が対側下肢もしくは同側上肢に進展するまでの期間が短いほど予後不良である 9)
(エビデンスレベル Ⅳa)
.改訂 El Escorial 診断基準で definite に該当することが予後不良に関連
すると示されており 1, 5, 10)
(エビデンスレベル Ⅳa)
,同様の意味を持つと考えられる.
治験などの際に国際的に最もよく用いられる ALS 重症度スケールに改訂 ALS Functional Rating Scale(ALSFRS–R)
(巻末資料 表 1 参照)がある.ALSFRS–R の低下率は強力な予後予測指標
であり 11)
(エビデンスレベル Ⅳa)
,ALSFRS–R の総点,100 日間観察した際の ALSFRS–R 低下
量も生存期間の予測に有用である 12)
(エビデンスレベル Ⅳa)
.また,努力性肺活量(%FVC)も
予後予測の有用な指標である 12〜14)
(エビデンスレベル Ⅳa)
.
■ 文献
1) Chiò A, Mora G, Leone M, et al. Early symptom progression rate is related to ALS outcome: a prospective
population-based study. Neurology. 2002; 59: 99–103.
2) Traynor BJ, Codd MB, Corr B, et al. Clinical features of amyotrophic lateral sclerosis according to the El
Escorial and Airlie House diagnostic criteria: a population-based study. Arch Neurol. 2000; 57: 1171–1176.
3) Chiò A, Calvo A, Moglia C, et al. Phenotypic heterogeneity of amyotrophic lateral sclerosis: a population
8
1.疫学,亜型,経過・予後,病因・病態
based study. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2011; 82: 740–746.
4) del Aguila MA, Longstreth WT Jr, McGuire V, et al. Prognosis in amyotrophic lateral sclerosis: a population-based study. Neurology. 2003; 60: 813–819.
5) Millul A, Beghi E, Logroscino G, et al. Survival of patients with amyotrophic lateral sclerosis in a population-based registry. Neuroepidemiology. 2005; 25: 114–119.
6) Marin B, Desport JC, Kajeu P, et al. Alteration of nutritional status at diagnosis is a prognostic factor for
survival of amyotrophic lateral sclerosis patients. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2011; 82: 628–634.
7) Jawaid A, Murthy SB, Wilson AM, et al. A decrease in body mass index is associated with faster progression of motor symptoms and shorter survival in ALS. Amyotroph Lateral Scler. 2010; 11: 542–548.
8) Fujimura-Kiyono C, Kimura F, Ishida S, et al. Onset and spreading patterns of lower motor neuron
involvements predict survival in sporadic amyotrophic lateral sclerosis. J Neurol Neurosurg Psychiatry.
2011; 82: 1244–1249.
9) Turner MR, Brockington A, Scaber J, et al. Pattern of spread and prognosis in lower limb-onset ALS. Amyotroph Lateral Scler. 2010; 11: 369–373.
10) Magnus T, Beck M, Giess R, et al. Disease progression in amyotrophic lateral sclerosis: predictors of survival. Muscle Nerve. 2002; 25: 709–714.
11) Kimura F, Fujimura C, Ishida S, et al. Progression rate of ALSFRS-R at time of diagnosis predicts survival
time in ALS. Neurology. 2006; 66: 265–267.
12) Kollewe K, Mauss U, Krampfl K, et al. ALSFRS-R score and its ratio: a useful predictor for ALS-progression. J Neurol Sci. 2008; 275: 69–73.
13) Czaplinski A, Yen AA, Appel SH. Forced vital capacity (FVC) as an indicator of survival and disease progression in an ALS clinic population. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2006; 77: 390–392.
14) Schmidt EP, Drachman DB, Wiener CM, et al. Pulmonary predictors of survival in amyotrophic lateral
sclerosis: use in clinical trial design. Muscle Nerve. 2006; 33: 127–132.
■ 検索式・参考にした二次資料
PubMed(検索 2012 年 1 月 11 日)
((("Prognosis"[MH] OR "Disease Progression"[MH]) AND ("Amyotrophic Lateral Sclerosis/mortality"[MAJR]
OR "Amyotrophic Lateral Sclerosis/physiopathology"[MAJR])) NOT comment[PT] AND (Humans[MH] AND
(eng[LA] OR jpn[LA]) AND 2000: 2012[DP]))
検索結果 189 件
ほかに医中誌,JMEDPlus でも検索を行った.
文献 2)
,13)はハンドサーチにより付け加えた.
9
1
疫
学
ほ
か
Clinical Question 1-5
1.疫学,亜型,経過・予後,病因・病態
家族性 ALS にはどのようなものがあるか
回
答
SOD1 遺伝子の異常が原因となるものが家族性 ALS 全体の約 2 割を占め,最も頻
度が高い.次いで頻度が高いのは FUS 遺伝子異常である.その他,近年様々な原因
遺伝子が同定されている.
■ 解説・エビデンス
ALS 全体のなかのおよそ 5〜10%は家族内で発症することがわかっており,家族性 ALS と呼
ばれている.表 1 に 2012 年 11 月の時点で判明している原因遺伝子を示す 1〜4)
(エビデンスレベ
ル Ⅳb)
.
表 1 家族性 ALS の病因遺伝子
遺伝子座
遺伝形式
コメント
ALS1
タイプ
遺伝子
21q22.1
AD
家族性 ALS 全体の約 20%
ALS2
2q33.2
AR
若年発症,緩徐進行,上位
運動ニューロン優位
ALS3
18q21
ALS4
9q34
AD
小脳失調,末梢神経障害
ALS5
15q21.1
AR
若年発症,緩徐進行
ALS6
16p11.2
AD
家 族 性 ALS の 5∼10 %,
まれに FTD の表現型
ALS7
20p13
AD
ALS8
20q13.3
AD
ALS9
14q11.2
AD
ALS10
1p36.2
AD
ALS11
6q21
AD
ALS12
10p13
AR
ALS13
12q24
AD
SCA2
ALS14
9p13
AD
IBMPFD
ALS15
Xp11
XR
ALS‒D を含む
ALS‒FTD2
9p21
AD
FTD
5q35
AD
ALS16
9p13
AR
ALS17
3p11.2
ALS18
17p13
*:わが国で報告のある遺伝子変異
10
AD
まれに FTD の表現型
若年発症
1.疫学,亜型,経過・予後,病因・病態
■ 文献
1) Andersen PM, Al-Chalabi A. Clinical genetics of amyotrophic lateral sclerosis: what do we really know?
Nat Rev Neurol. 2011; 7: 603–615.
2) Oda M, Izumi Y, Kaji R. Gene mutations in familial amyotrophic lateral sclerosis Brain Nerve. 2011; 63:
165–170.
3) Deng HX, Chen W, Hong ST, et al. Mutations in UBQLN2 cause dominant X-linked juvenile and adultonset ALS and ALS/dementia. Nature. 2011; 477: 211–215.
4) Fecto F, Yan J, Vemula SP, et al. SQSTM1 mutations in familial and sporadic amyotrophic lateral sclerosis.
Arch Neurol. 2011; 68: 1440–1446.
■ 検索式・参考にした二次資料
PubMed(検索 2012 年 10 月 4 日)
(("Amyotrophic Lateral Sclerosis/genetics"[MAJR] AND "Genetic Phenomena/genetics"[MAJR] AND "Proteins/genetics"[MAJR]) AND (Humans[MH] AND (eng[LA] OR jpn[LA]) AND 2000: 2012[DP])
検索結果 118 件
ほかに医中誌,JMEDPlus でも検索を行った.
文献 1)はハンドサーチにより付け加えた.
11
1
疫
学
ほ
か
Clinical Question 1-6
1.疫学,亜型,経過・予後,病因・病態
分類,亜型には何があるか
回
答
比較的急速に全身へ波及する古典型 ALS,進行性球麻痺の 2 型が中核だが,初発部
位にかなりの期間限局するものがあり,様々な病型をとる.病型により,予後が大
きく異なるものがあることが知られている.
■ 背景・目的
ALS には特異的なバイオマーカーがなく,臨床像からの診断が基本となるにもかかわらず,
病型は多彩で,また診断基準(CQ 2–2 参照)に合致しない症例もまれではないため,非典型例を
含め,症状の現れ方の理解を深め,診療に役立てることを目的とする.
■ 解説・エビデンス
ALS は進行性の上位および下位運動ニューロン障害を複数の身体部位で認めることが基本で
あり(CQ 2–1 参照)
,上位・下位運動ニューロン徴候が四肢・体幹・脳神経領域に進展していく
古典型と,病初期に脳神経領域に強く四肢にはあまり目立たない進行性球麻痺型を病型の中核
とする.古典型の典型例は一側上肢遠位の筋萎縮で気づかれ,筋力低下・筋萎縮が同側近位お
よび対側遠位へ進展すると同時に,下肢・頸部・下部脳神経領域へと波及する.線維束性収縮
と筋の有痛性攣縮もしばしば伴う.進行性球麻痺は球麻痺・偽性球麻痺による嚥下障害や構音
障害で始まり,頸筋・肩甲帯筋へと進展することが多いが上下肢の筋萎縮・筋力低下に波及す
るのは遅れるため,初期には運動能力は保たれるという点で,臨床像が古典型とは異なること
に特徴がある.
病理的に上位・下位運動ニューロン障害が確認された症例でも,病初期には,まれには末期
においても,上位・下位運動ニューロン徴候の一方を欠くもの,症状が一部の身体部位に長期
間限局しあたかも進行しないようにみえるもの,片麻痺や運動性ニューロパチーなどほかの疾
患に類似した臨床像を呈するもの,構音障害や呼吸筋麻痺など運動症状以外の症状を呈する例
など,非典型的な症状を呈するものも少なくない.このような臨床的亜型は,侵される運動
ニューロン経路と身体部位を基準として分類されるが,その基準に一定のものはなく,両者を
加味した亜型に分けられているのが現状である(表 1)
.
運動経路を基準にした場合,上位運動ニューロン徴候を欠くもの,下位運動ニューロン徴候を
欠くもの,に分けられ,前者は進行性筋萎縮症(progressive muscular atrophy:PMA,CQ 1–8
参照)
,後者は上位運動ニューロン型 注 1)
,と呼ばれ,さらに,症状が現れる身体部位により,亜
型として名前がつけられている.
PMA のなかで,両上肢に限局するものは flail arm 型 注 2)と呼ばれ,両下肢に限局するものは
12
1.疫学,亜型,経過・予後,病因・病態
表 1 上位・下位運動ニューロンの選択性による分類
1.上位・下位運動ニューロン徴候がともにみられ,診断基準を満たす ALS
(ア)古典型
(イ)進行性球麻痺型
2.上位運動ニューロン徴候を欠くもの
(ア)進行性筋萎縮症
(イ)flail arm 型
(ウ)flail leg 型
3.下位運動ニューロン徴候を欠くもの
(ア)上位運動ニューロン型
(イ)原発性側索硬化症
(ウ)Mills 亜型
4.その他
(ア)認知症を伴う ALS(ALS-D)
(イ)呼吸筋型
flail leg 型 注 3)と呼ばれる.また一肢に限局するもの(単肢型)もある.上位運動ニューロン型で
は,下肢の痙縮が強く痙性対麻痺の臨床像をとることが多い.経過が緩徐な場合には原発性側
索硬化症(primary lateral sclerosis:PLS,CQ 1–7 参照)とされる場合もある.一側上下肢を侵
し,痙性片麻痺を呈する亜型(Mills 亜型)もある.その他,著明な高次機能障害が先行する認知
症を伴う ALS(ALS–D,CQ 1–9 参照)
,呼吸筋麻痺から始まる亜型(呼吸筋型)がある.
いずれの亜型も,病期の進行により多くは上位・下位運動ニューロン徴候がみられるように
なり,probable 以上の診断基準を満たすようになる.なかには終末期まで診断基準を満たさな
い場合もあり,剖検で確定診断される症例もある.ただし,ALS 以外でも上記の亜型に類似し
た臨床像を取りうることは,鑑別において注意すべき点である.また,flail arm 型,PLS など極
めて緩徐な経過をとる頻度が高いもの,呼吸筋型のように予後不良のものがあり,予後を予測
する因子としての意味を持つ亜型もあることを考慮した分類が試みられている 1, 2)
(エビデンスレ
ベル Ⅳb)
.
■ 文献
1) Chiò A, Calvo A, Moglia C, et al. Phenotypic heterogeneity of amyotrophic lateral sclerosis: a population
based study. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2011; 82: 740–746.
2) Wijesekera LC, Mathers S, Talman P, et al. Natural history and clinical features of the flail arm and flail leg
ALS variants. Neurology. 2009; 72: 1087–1094.
■ 検索式・参考にした二次資料
PubMed(検索 2012 年 10 月 4 日)
(("Amyotrophic Lateral Sclerosis"[MAJR] AND (subtype*[TI] OR variant*[TI])) OR "Amyotrophic Lateral Sclerosis/classification"[MH]) AND (Humans[MH] AND (eng[LA] OR jpn[LA]) AND 2000: 2012[DP])
検索結果 109 件
ほかに医中誌,JMEDPlus でも検索を行った.
注 1)
:錐体路型(pyramidal type)ALS も同義である.
注 2)
:brachial amyotrophic diplegia,Man-in-the-barrel 型,Vulpian-Bernhardt 亜型なども同じ病型を意味する.
注 3)
:狭義の進行性筋萎縮症,偽神経炎型(pseudoneuritic form)と呼ばれることもある.
13
1
疫
学
ほ
か
Clinical Question 1-7
1.疫学,亜型,経過・予後,病因・病態
原発性側索硬化症は ALS からは独立した疾患か
回
答
独立した疾患としては確立されていない.臨床的には上位運動ニューロン障害優位
型 ALS の一亜型と捉え,慎重に経過を観察する.
■ 解説・エビデンス
原発性側索硬化症(primary lateral sclerosis:PLS)は孤発性,成人発症のまれな神経変性疾患
である.大脳皮質運動野の運動ニューロン(上位運動ニューロン)が選択的かつ系統的に障害さ
れる一方で,ALS と異なり脳幹・脊髄の運動ニューロン(下位運動ニューロン)は変性しないこ
とが特徴とされる 1)
(エビデンスレベル Ⅴ)
.このような特徴をもとに臨床診断基準が提案され
ている 2)
(エビデンスレベル Ⅴ)が,この有用性に関する十分なエビデンスはいまだない.その
背景には,PLS に特異的なバイオマーカーが存在しないうえに,確定診断が病理学的検索以外
に得られない事実がある.臨床的に PLS とされた剖検例の報告はあるが少数に限られ,下位運
動ニューロンにまったく病理学的異常のない例は極めてまれである 3)
(エビデンスレベル Ⅴ)
.
上述の診断基準 2)を満たした症例の特徴として,①ALS に比べ緩徐な進行,②ALS より軽度
(エビデンスレベル Ⅳb)
.しかし,
な運動機能障害,③ALS より高い生存率,があげられる 4, 5)
当初 PLS とされた症例の多くは,多かれ少なかれ神経学的・電気生理学的・生検筋病理学的に
下位運動ニューロン障害を示すようになり,最終的に ALS と診断されている 4, 5)
(エビデンスレ
ベル Ⅳb), 6)(エビデンスレベル Ⅳa)
.さらに,長期間にわたって上位運動ニューロン徴候の
みを示し PLS と診断された例であっても,病理学的には下位運動ニューロン変性を伴っている
報告が多い 3)
.
以上のように現時点ではエビデンスが不十分なため,PLS が臨床病理学的に独立した一疾患
であるとはいえず,むしろ PLS は病因論的に不均一な症候群の可能性が高い.したがって,発
症初期に上位運動ニューロン徴候のみ示す例で他疾患が除外された場合には,上位運動ニュー
ロン優位型 ALS の一亜型と捉え,舌萎縮や四肢筋萎縮,線維束性収縮などの下位運動ニューロ
ン徴候の出現について,定期的な針筋電図・呼吸機能検査とともに慎重な経過観察が推奨され
る 4, 5, 7)
(エビデンスレベル Ⅳb)
(
.PLS の位置づけについては序章も参照)
(鑑別診断については
–
CQ 2 3 も参照)
■ 文献
1) Charcot JM, Joffroy A. Deux cas d’atrophie musculaire progressive avec lésions de la subsistance grise et
des faisceaux antéro-latéraux de la moelle épinière. Arch Physiol norm path. 1869; 2: 744–760.
2) Pringle CE, Hudson AJ, Munoz DG, et al. Primary lateral sclerosis. Clinical features, neuropathology and
diagnostic criteria. Brain. 1992; 115: 495–520.
14
1.疫学,亜型,経過・予後,病因・病態
3) Singer MA, Statland JM, Wolfe GI, et al. Primary lateral sclerosis. Muscle Nerve. 2007; 35: 291–302.
4) Gordon PH, Cheng B, Katz IB, et al. The natural history of primary lateral sclerosis. Neurology. 2006; 66:
647–653.
5) Tartaglia MC, Rowe A, Findlater K, et al. Differentiation between primary lateral sclerosis and amyotrophic lateral sclerosis: examination of symptoms and signs at disease onset and during follow-up. Arch Neurol. 2007; 64: 232–236.
6) Le Forestier N, Maisonobe T, Piquard A, et al. Does primary lateral sclerosis exist? a study of 20 patients
and a review of the literature. Brain. 2001; 124: 1989–1999.
7) Gordon PH, Cheng B, Katz IB, et al. Clinical features that distinguish PLS, upper motor neuron-dominant
ALS, and typical ALS. Neurology. 2009; 72: 1948–1952.
■ 検索式・参考にした二次資料
PubMed(検索 2012 年 1 月 11 日)
("Primary lateral sclerosis"[TIAB] OR (("Amyotrophic Lateral Sclerosis"[Mesh] OR "Amyotrophic Lateral Sclerosis"[TIAB]) AND PLS[TIAB])) AND (Humans[MH] AND (eng[LA] OR jpn[LA]) AND 2000: 2012[DP])
検索結果 115 件
Cochrane Library,医中誌,JDream でも検索を行った.
文献 1)
,2)はハンドサーチにより付け加えた.
15
1
疫
学
ほ
か
Clinical Question 1-8
1.疫学,亜型,経過・予後,病因・病態
脊髄性筋萎縮症(進行性筋萎縮症)は ALS からは独立し
た疾患か
回
答
本来の脊髄性筋萎縮症は SMN 遺伝子に変異を伴い,上位運動ニューロン症候は認
めず,ALS からは独立した疾患である.成人発症の脊髄性筋萎縮症はこの遺伝子変
異を伴わない例が多く,多巣性運動ニューロパチーなどの末梢神経障害や,緩徐進
行性の下位運動ニューロン症候が主体の ALS との鑑別を要する.
■ 背景・目的
従来,下位運動ニューロンの変性が主体の筋萎縮症は脊髄性筋萎縮症(spinal muscular atrophy:SMA)といわれてきた.特に成人発症のこのような症例が ALS の一型であるか否かにつ
いては臨床的に問題になることが多い.また,上位運動ニューロン症候を示さないまま呼吸筋
の麻痺や死に至る症例では,剖検時に ALS であることがはじめて確認されることもある.
■ 解説・エビデンス
SMA は主に小児の遺伝性疾患であり,次の 4 型に分類される 1〜3)
(エビデンスレベル Ⅰ)
.
Ⅰ型:重症型,急性乳児型,ウェルドニッヒ・ホフマン(Werdnig–Hoffmann)病
発症は出生直後から生後 6 ヵ月まで.フロッピーインファントの状態を呈する.支えなし
に座ることができず,哺乳困難,嚥下困難,誤嚥,呼吸不全を伴う.人工呼吸管理を行わな
い場合,死亡年齢は平均 6〜9 ヵ月である.
Ⅱ型:中間型,慢性乳児型,デュボヴィッツ(Dubowitz)病
発症は 1 歳 6 ヵ月まで.支えなしの起立,歩行ができず,坐位保持が可能である.
Ⅲ型:軽症型,慢性型,クーゲルベルク・ウェランダー(Kugelberg–Welander)病
発症は 1 歳 6 ヵ月以降.自立歩行を獲得するが,次第に転びやすい,歩けない,立てない
という症状が出てくる.のちに,上肢の挙上も困難になる.
Ⅳ型:成人期以降の発症の SMA
この型では SMN 遺伝子変異を示す割合は 1〜2 割にすぎない.これらの多くは,孤発性で
成人から老年にかけて発症し,緩徐進行性で,上肢遠位に始まる筋萎縮,筋力低下,線維束
性収縮,腱反射低下を示す場合もある.これらの症状は徐々に全身に拡がり,運動機能が低
下する.したがって,下位運動ニューロン障害が主体の ALS との鑑別が困難であることが多
く,また,球脊髄性筋萎縮症,封入体筋炎,軸索変性の強い多巣性運動ニューロパチー 4)
(エ
ビデンスレベル Ⅴ)や慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー(CIDP)
,ポリオ後症候群な
ども鑑別を要する.
16
1.疫学,亜型,経過・予後,病因・病態
■ 文献
1) Farrar MA, Vucic S, Johnston HM, et al. Pathophysiological insights derived by natural history and motor
function of spinal muscular atrophy. J Pediatr. 2013; 162: 155–159.
2) Mercuri E, Bertini E, Iannaccone ST. Childhood spinal muscular atrophy: controversies and challenges.
Lancet Neurol. 2012; 11: 443–452.
3) 難病情報センター 脊髄性筋萎縮症 http://www.nanbyou.or.jp/entry/285
4) Kaji R, Kusunoki S, Mizutani K, et al. Chronic motor axonal neuropathy associated with antibodies monospecific for N-acetylgalactosaminyl GD1a. Muscle Nerve. 2000; 23: 702–706.
■ 検索式・参考にした二次資料
PubMed(検索 2012 年 11 月 17 日)
(("Muscular Atrophy, Spinal/etiology"[MAJR] OR "Spinal Muscular Atrophy"[TIAB] OR "Spinal Progressive
Muscular Atrophy"[TIAB]) AND ("Diagnostic Techniques, Neurological"[MH] OR "Nervous System Physiological Processes"[MH] OR "Natural History"[MH] OR "Natural History"[TIAB])) AND ((eng[LA] OR jpn[LA])
AND 2000: 2012[DP])
検索結果 92 件
Cochrane Library,医中誌,JDream でも検索を行った.
文献 3)
,4)はハンドサーチにより付け加えた.
17
1
疫
学
ほ
か
Clinical Question 1-9
1.疫学,亜型,経過・予後,病因・病態
孤発例の認知機能障害の頻度はどのくらいで,その特徴
は何か
回
答
約半数に何らかの認知機能障害が検出されるが,臨床的に明らかな認知症がみられ
る症例はおよそ 2 割程度であり,病期の進行とともに比率が増加する.前頭葉機能
の低下(行動異常や意欲の低下,言語機能の低下)が前景に立ち,重度の記憶障害や見
当識障害を呈する例はまれである.
■ 背景・目的
ALS には認知機能障害がまれではなく,前頭側頭葉症状を臨床的特徴とする.前頭側頭葉変
性症(FTLD)との病因的共通性に基づく症状であることを示唆する最近の考え方を示し,患者の
症状の理解を進め,診療に役立つ基礎情報を提供する.
■ 解説・エビデンス
従来 ALS には高次機能障害は伴わないとされ,認知機能障害(認知症,痴呆症状)は,Guam
のパーキンソン認知症複合の部分症状や,特殊型(ALS with dementia)に限られると考えられて
きた.近年,孤発性 ALS における認知症が欧米を中心に注目されるようになり,何らかの認知
機能障害がおよそ半数にみられ,臨床的に認知症を指摘できるものが 15〜20%程度みられるこ
と 1〜3)
(エビデンスレベル Ⅳb)
,病型の違いにかかわらず病期の進行とともに認知機能障害を呈
する割合が増加し重症化すること 3〜5)
(エビデンスレベル Ⅳb)
,が明らかになってきている.わ
が国における大規模な疫学的調査はないが,症例報告レベルで同様の認知症が指摘されている.
認知症の特徴は,行動異常,性格変化や意欲の低下,言語機能の低下として現れ,記憶,見
当識の障害は目立たない 1〜3)
.神経心理テストでも記憶や見当識障害の検出を目的とした長谷川
式認知症スケール(HDS–R)や mini mental state examination(MMSE)などの認知機能検査の成
績が保たれるのに対し,前頭葉機能検査(FAB)や Wisconsin card soring test(WCST)など前頭
葉機能を検出するテストの成績の低下が大きく,認知機能障害パターンはアルツハイマー病よ
り前頭側頭型認知症(FTD)に類似する 2, 3)
.
このような認知機能障害に対応する所見として,前頭側頭葉の脳血流低下や病理変化が見い
出されており,病理学的には FTLD と共通した皮質病変がみられる.逆に,FTLD で運動ニュー
ロン病変がみられることもまれではなく,特に,ALS の運動ニューロンに疾患特異的とされる
封入体と同じ構成蛋白を含む封入体が FTLD の皮質ニューロンにも見い出されている(FTLD–
TDP,FTLD–FUS)6)
(エビデンスレベル Ⅰ)
.遺伝学的にも,両疾患の特徴を兼ね備えた家族性
ALS–D にも責任遺伝子が同定されている(CQ 1–5 参照)
.このような臨床・病理・遺伝学的研究
の進展から,ALS と FTLD とは同じ病因で引き起こされうる疾患であると考えられるようになっ
18
1.疫学,亜型,経過・予後,病因・病態
てきている.1960〜1970 年代にわが国において痴呆を伴う特殊型の ALS として注目されてきた
ALS–D(湯浅・三山型)も FTLD–TDP として捉えられている.
1
■ 文献
1) Ringholz GM, Appel SH, Bradshaw M, et al. Prevalence and patterns of cognitive impairment in sporadic
ALS. Neurology. 2005; 65: 586–590.
2) Witgert M, Salamone AR, Strutt AM, et al. Frontal-lobe mediated behavioral dysfunction in amyotrophic
lateral sclerosis. Eur J Neurol. 2010; 17: 103–110.
3) Lomen-Hoerth C, Murphy J, Langmore S, et al. Are amyotrophic lateral sclerosis patients cognitively normal? Neurology. 2003; 60: 1094–1097.
4) Raaphorst J, de Visser M, van Tol MJ, et al. Cognitive dysfunction in lower motor neuron disease: executive and memory deficits in progressive muscular atrophy. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2011; 82: 170–
175.
5) Sterling LE, Jawaid A, Salamone AR, et al. Association between dysarthria and cognitive impairment in
ALS: a prospective study. Amyotroph Lateral Scler. 2010; 11: 46–51.
6) Mackenzie IR, Rademakers R, Neumann M. TDP-43 and FUS in amyotrophic lateral sclerosis and frontotemporal dementia. Lancet Neurol. 2010; 9: 995–1007.
■ 検索式・参考にした二次資料
PubMed(検索 2012 年 10 月 4 日)
((("Amyotrophic Lateral Sclerosis/complications"[MH] OR ("Amyotrophic Lateral Sclerosis"[MAJR] AND
"Comorbidity"[MH])) AND "Delirium, Dementia, Amnestic, Cognitive Disorders"[MAJR]) AND (Humans[MH]
AND (eng[LA] OR jpn[LA]) AND 2000: 2012[DP])
検索結果 140 件
ほかに医中誌,JMEDPlus でも検索を行った.
文献 3)
,6)はハンドサーチにより付け加えた.
19
疫
学
ほ
か
Clinical Question 1-10
1.疫学,亜型,経過・予後,病因・病態
気管切開による人工呼吸器装着長期生存例の経過はどの
ようであるか
TPPV 装着例の生存期間は非装着例に比して延長する.
回
答
コミュニケーション障害が様々な程度で生じ,完全閉じ込め状態に至る例もある.
経過中,呼吸器感染症,心疾患,胆石症/胆囊炎,深部静脈血栓症・肺塞栓症の合併
や自律神経障害からの突然死,気管カニューレの接触部位の潰瘍や肉芽形成・瘻孔
形成などのリスクがある.
■ 背景・目的
TPPV 後の長期生存例の経過についての情報を共有する.
■ 解説・エビデンス
1)生存
呼吸器装着後の生存についての国外からの報告は NPPV(non-invasive positive pressure ventilation)がほとんどであり,TPPV(tracheostomy positive pressure ventilation)のみのデータは
乏しい.わが国の全国調査では,TPPV 例の生存期間(平均 49.1 ヵ月)は TPPV 非施行群(平均
35.8 ヵ月)に比して有意に長かった 1)
(エビデンスレベル Ⅳb)
.
2)コミュニケーション
わが国の 1 施設からの 70 例の後方視的検討で,完全閉じ込め状態(totally locked-in state:
TLS)と最小コミュニケーション状態(minimal communication state:MCS)に分けて検討し,
TLS は全体の 11.4%,5 年以上 TPPV 継続の 18.2%,MCS は 33.3%であった 2)
(エビデンスレベ
ル Ⅳb)
.5 年超 TPPV でも 48.5%は著しいコミュニケーション障害はきたしていなかった 2)
.わ
が国の全国調査 TPPV 709 例の検討では,TLS は 13%であった.呼吸運動系麻痺から TLS まで
の期間は 5 年以内が 70%で,平均 2 年 9 ヵ月であった 3)
(エビデンスレベル Ⅳb)
.TLS に至る例
4)
は,発症から TPPV までの期間が短いとの報告がある (エビデンスレベル Ⅳb)
(CQ 9–2,9–
5 参照)
.
3)合併症
死因となる呼吸器感染症や心疾患の併発,自律神経障害からの突然死のほかに 2, 5)
(エビデン
スレベル Ⅳb)
,長期 TPPV 例では,中耳炎,胆石症/胆囊炎,深部静脈血栓症・肺塞栓症,気
管カニューレの接触部位の潰瘍や肉芽形成・瘻孔形成の合併の報告がある.胆石症/胆囊炎は非
常に高率で TPPV がリスクの可能性がある.10 例の TPPV 患者(9 例は ALS)で TPPV から平均
20
1.疫学,亜型,経過・予後,病因・病態
57.6 ± 15.1 ヵ月で胆石症/胆囊炎が生じていた 6)
(エビデンスレベル Ⅳb)
.
4)死因
呼吸器感染症が最も多い.わが国の 1 施設での調査では,死因として気管支肺炎が最頻 27/47
(57.4%)で,次いで心原性突然死が 9/47( 19.1%),心不全が 3/47( 6.4%),腎不全が 2/47
(4.3%)
,呼吸器事故が 2/47(4.3%)
,虚血性腸炎が 1/47(2.1%)
,原因不明 3/47(6.4%)であっ
た 2)
.自律神経障害は,呼吸機能障害と関連を認めず,血漿ノルエピネフリン値上昇や代償的脈拍
(エビデンスレベル Ⅳb)
(関連項目 CQ
変化を伴わない血圧変動などが臨床的な指標となる 5, 7)
7–7 参照)
.
■ 文献
1) 桃井浩樹,進藤政臣,柳澤信夫,ほか.本邦における筋萎縮性側索硬化症の病勢経過—厚生省特定疾患神
経変性疾患調査研究班調査より—.神経研究の進歩. 2004; 48: 133–144.
2) Hayashi H, Oppenheimer EA. ALS patients on TPPV: totally locked-in state, neurologic findings and ethical implications. Neurology. 2003; 61: 135–137.
3) 川田明広,溝口功一,林 秀明.TPPV を導入した ALS 患者の TLS の全国実態調査.臨床神経. 2008; 48:
476–480.
4) 林 健太郎,望月葉子,中山優季,ほか.侵襲的陽圧補助換気導入後の筋萎縮性側索硬化症における意思
伝達能力障害—stage 分類の提唱と予後予測因子の検討—.臨床神経. 2013; 53: 98–103.
5) Shimizu T, Hayashi H, Kato S, et al. Circulatory collapse and sudden death in respirator-dependent amyotrophic lateral sclerosis. J Neurol Sci. 1994; 124: 45–55.
6) Kitamura E, Ogino M. Occurrence of cholelithiasis and cholecystitis in amyotrophic lateral sclerosis
patients with long-term tracheostomy invasive ventilation. Intern Med. 2011; 50: 2291–2295.
7) Ohno T, Shimizu T, Kato S, Hayashi H, Hirai S. Effect of tamsulosin hydrochloride on sympathetic hyperactivity in amyotrophic lateral sclerosis. Auton Neurosci. 2001; 88: 94–98.
■ 検索式・参考にした二次資料
PubMed(検索 2012 年 10 月 4 日)
("Amyotrophic Lateral Sclerosis"[MAJR] AND ("Respiration, Artificial"[MH] OR ventilation[TIAB]) AND ("Epidemiologic Studies"[MH] OR "Time Factors"[MH] OR "Natural History"[MH] OR Prognosis[MH] OR "Survival
Rate"[MH] OR "Disease Progression"[MH])) AND (Humans[MH] AND (eng[LA] OR jpn[LA]) AND 2000:
2012[DP])
検索結果 114 件
医中誌(検索 2012 年 11 月 17 日)
(((筋萎縮性側索硬化症/TH and (疫学的方法/TH or 経過/AL)) or ((筋萎縮性側索硬化症/TH) and (SH=予後)))
and (呼吸管理/TH or 呼吸器装着/AL)) and (DT=2000: 2012 and PT=会議録除く and CK=ヒト)
検索結果 147 件
ほかに JMEDPlus も検索した.
文献 4)
,6)はハンドサーチにより付け加えた.
21
1
疫
学
ほ
か
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