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世界における MENA 諸国の経済・社会ランク

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世界における MENA 諸国の経済・社会ランク
世界における MENA 諸国の経済・社会ランク
中東問題専門家
前
田
高
行
はじめに
国際機関をはじめ民間調査機関あるいは民間 NGO 団体など各種団体により,世界各国
の経済及び社会のランク付けが行われている。調査の対象は各国のビジネス競争力,IT
ネットワークの整備度,人間開発の水準,平和の度合い,男女格差など多岐にわたってい
る。また調査手法も国際的な基準に則った統計資料を用いて比較評価するもの,あるいは
独自の調査員によって各国ごとに評価するものなどさまざまである。
本稿では経済部門及び社会部門の二部門に分け,それぞれ国際的に広く認知された5つ
のランク付け調査を取り上げ,MENA 各国が国際的にどのような評価を受けているかにつ
いて紹介する。
MENA とは中東・北アフリカ(Middle East & North Africa)を示す略称であ
り,国際社会で広く使われている。その定義は必ずしも明確ではないが,ここでは東はア
フガニスタンから西はアフリカのモーリタニアまでの2
2ヵ国(*)及びパレスチナ自治政府を
その対象としている。
(*)MENA22ヵ国(アルファベット順)
アフガニスタン,アルジェリア,バーレーン,エジプト,イラン,イラク,イスラエル,ヨルダン,
クウェート,レバノン,リビア,モーリタニア,モロッコ,オマーン,カタール,サウジアラビア,
スーダン,シリア,チュニジア,トルコ,UAE,イエメン
各ランク付けは調査サンプルの数がそれぞれ異なり,また MENA 諸国の中でも調査対象
となった国とそうでない国があることを考慮し,各項目の冒頭に!ランク調査機関の名称,
"全世界の調査対象国数,
#MENA の対象国数(「+1」は「パレスチナ自治政府」の意)
,
$MENA の世界平均順位,%世界トップの国名,&日本の順位を示した。
なお,本稿末尾に各調査のインターネット URL を付記した。
!.経済部門
1.世界競争力:!世界経済フォーラム(略称 WEF)
,"1
3
3ヵ国,#1
6ヵ国,$5
7位,
%スイス,&8位
「世界競争力レポート(Global Competitiveness Report)
」を発表している世界経済フォー
5
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中東協力センターニュース
2
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ラム(略称 WEF)は毎冬スイスで開催される「ダボス会議」の主催者として世界に名を知
られている。2
0
0
1年に始まった第1回レポートでは調査の対象は7
5ヵ国であったが,その
後年々増え今回は1
3
3ヵ国となっている。MENA はイラン,イラク,レバノン,スーダン,
イエメン,アフガニスタン及びパレスチナ自治政府を除く1
6ヵ国が評価対象となっている。
このランキングは一般に入手可能な公表データ及び WEF 独自の「エグゼクティブ意見
調査」をもとに,制度機構,インフラ,マクロ経済の安定性,労働市場の効率化,市場規
模,技術革新など合計1
2分野で構成される世界競争力指数(Global Competitiveness Index)
としてランク付けされる。
MENA のトップはカタールであり,同国は世界1
3
3ヵ国中2
2位と世界でも上位に評価さ
れている。カタールに次いで UAE(世界2
3位)
,イスラエル(同2
7位)
,サウジアラビア
(同2
8位)の3ヵ国が世界の2
0位台でひしめき合っている。このほか世界5
0位以内に入って
いるのはバーレーン(3
8位)
,クウェート(3
9位)
,チュニジア(4
0位)
,オマーン(4
1位)
及びヨルダン(5
0位)である。これら9ヵ国には GCC(湾岸協力会議)6ヵ国がすべて入
っているが,これは石油・天然ガスの富により GCC が MENA 域内では突出した競争力を
持っていることを示している。これに対して競争力が低いとされた国はモーリタニア(世
界1
2
7位)
,シリア(9
4位)
,リビア(8
8位)などである。
分野別で見ると,MENA 総合トップのカタールは制度機構,保健・初等教育がそれぞれ
世界9位,8位と高く,マクロ経済の安定(世界1
3位)
,労働市場効率(同1
4位)も高い評
0位)
価を得ている。
また MENA2位の UAE はインフラ(世界6位)及び商品市場効率(同1
の二項目で世界のトップ・テンに入っている。イスラエルの場合は事業革新(世界9位)
,
金融市場の高度化(同1
5位)の評価が高いが,マクロ経済の安定性(同6
7位)は世界平均
を下回っている。
2.ビジネス環境:!世界銀行,"1
8
3ヵ国,#2
1ヵ国+1,$9
7位,%シンガポール,
&1
5位
ビジネス環境のランキング「Doing Business」は世界銀行(World Bank)が作成したもの
であり2
0
1
0年版では世界1
8
3ヵ国,MENA はリビアを除く2
1ヵ国及びパレスチナ自治政府
が取り上げられている。このランク付けは当該国でビジネス活動を行う場合の難易度を示
した指標であり,起業,許認可取得,雇用,投資家保護,徴税,事業終結など1
0項目の総
合評価により順位が決められる。
MENA でビジネス環境が最も良いと判定されたのはサウジアラビアで,同国の世界順位
は1
3位と日本(1
5位)より上位である。同国に続くのはバーレーン(世界2
0位)
,イスラエ
ル(同2
9位)
,UAE(同3
3位)
,カタール(同3
9位)
,クウェート(同6
1位)
,オマーン(同
6
5位)となっており,上位7ヵ国のうちイスラエルを除く6ヵ国は GCC 加盟国である。
一方順位が低い国は,パレスチナ自治政府(世界1
3
9位)
,シリア(同1
4
3位)
,イラク(同
,スーダン(同1
5
4位)
,アフガニスタン(同1
6
0位)
,モーリタニア(同1
6
6位)など
1
5
3位)
であり,国内の治安が不安定で行政機構が十分な機能を発揮していないことがビジネス環
境としての評価を低くしていると考えられる。
5
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各項目別のトップは'起業:サウジアラビア(世界順位1
3位)
,(許認可取得:バーレー
ン(同1
4位)
,)雇用:バーレーン(同1
3位)
,*登記:サウジアラビア(同1位)
,+信用
取得:イスラエル(同4位)
,,投資家保護:イスラエル(同5位)
,
-徴税:カタール(同
2位)
,.輸出:UAE(同5位)
,/契約強制力:トルコ(同2
7位)
,0事業終結:バーレー
ン(同2
6位)である。登記においてサウジアラビアが世界1位と認定されたほか信用取得,
投資家保護,徴税,輸出などの分野で MENA には世界トップレベルの国がある。
3.貿易円滑化指数:!WEF,"1
2
1ヵ国,#1
5ヵ国,$5
5位,%シンガポール,&2
3位
世界経済フォーラム(WEF,
上記1参照)の貿易円滑化指数(The Enabling Trade Index)
は'市場アクセス,(通関手続きの円滑度,)運輸・通信インフラ,*ビジネス環境の4
分野について国際統計をもとに評価したものである。世界1
2
1ヵ国を対象とし,そのうち
MENA はアフガニスタン,イラン,イラク,レバノン,リビア,スーダン,イエメン及び
パレスチナ自治政府を除く1
5ヵ国である。
8位であり日本(2
3位)よりも高い。これに
MENA トップは UAE で,同国の世界順位は1
続くのがバーレーン(世界2
4位)
,イスラエル(2
9位)
,オマーン(同3
4位)
,カタール(同
3
5位)とイスラエル以外では GCC 諸国が上位を占めている。
一方,調査対象国で貿易円滑化指数が低い国はモーリタニア(世界1
0
7位)
,シリア(同
1
0
8位)
,アルジェリア(同1
1
2位)である。ちなみに MENA の平均順位は世界1
2
1ヵ国中の
5
5位であり,平均をやや上回る評価を与えられている。
分野別に見ると,市場アクセスはトルコが MENA トップで,同国の世界順位は1
4位であ
る。これに対し MENA 総合順位でトップの UAE はこの分野の世界順位が6
5位であり
MENA1
5ヵ国中の9位にとどまっている。
通関手続きの円滑度のトップは UAE(世界2
0位)であり,2位以下はイスラエル(同2
3
位)
,バーレーン(同2
5位)
,サウジアラビア(同3
2位)
,ヨルダン(同3
4位)と続いており,
総合順位とほぼ同じ傾向を示している。運輸・通信インフラ指標の MENA 上位3ヵ国は
UAE(世界2
4位)
,イスラエル(同3
2位)
,バーレーン(同4
1位)である。ビジネス環境指
標はカタールが MENA トップであり,世界でも1
2位のトップクラスにある。以下 UAE(世
界1
3位)
,オマーン(同1
9位)
,チュニジア(同2
1位)
,ヨルダン(同2
2位)などこの分野で
は国際的に遜色のないレベルである。しかしイスラエルのこの分野の順位は5
6位であり総
合ランクに比べるとかなり見劣りがする。
4.IT ネットワーク度:!WEF,"1
3
4ヵ国,#1
6ヵ国,$6
1位,%デンマーク,&1
7位
IT ネットワーク度(The Network Readiness Index)は,
各国の IT 整備状況を指数化してラ
ンク付けしたものであるが,指数は'ネットワーク環境の整備状況,(ネットワークへの
アクセスの利便性,及び)ネットワークの利用状況の3つのサブ分野について各国別の評
価を行っている。全世界で1
3
4ヵ国が取り上げられ,MENA についてはアフガニスタン,イ
ラン,イラク,レバノン,スーダン,イエメン及びパレスチナ自治政府を除く1
6ヵ国が調
査対象となっている。
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IT ネットワークが最も進んでいると評価されたのはイスラエルであり,同国の世界ラン
クは2
5位である。これに続くのが UAE(世界2
7位)
,カタール(同2
9位)の2ヵ国で,イス
ラエルときびすを接している。以下バーレーン(同3
7位)
,チュニジア(同3
8位)
,サウジ
アラビア(同4
0位)
,ヨルダン(同4
4位)となっている。
一方,
IT ネットワークが遅れているのは,
リビア(世界1
0
1位)
,
アルジェリア(同1
0
8位)
,
モーリタニア(同1
0
9位)などの諸国である。ちなみに MENA の平均順位は6
1位であり,世
界平均よりやや高い。これはアフガニスタン,イラン,イラクなどが調査対象外であるこ
とが要因の一つと考えられるが,イスラエル及び GCC 産油国などごく少数の国が MENA
全体のレベルを引き上げており,実際には調査1
6ヵ国の間のランク差は大きい。
5.旅行・観光産業競争力:!WEF,"1
3
3ヵ国,#1
6ヵ国,$7
0位,%スイス,&2
5位
旅行・観光産業競争力(Travel and Tourism Competitiveness Index)は,3つの分野,すな
わち'規制の枠組み,(ビジネス環境とインフラ整備度及び)人材・文化・自然等の観光
資源の充実度について,それぞれ5項目,合計1
5項目について各国ごとに点数をつけ,そ
の総合点で世界1
3
3ヵ国がランク付けされている。このうち MENA はアフガニスタン,イラ
ン,イラク,レバノン,スーダン,イエメン及びパレスチナ自治政府を除く1
6ヵ国の順位
が示されている。
MENA 諸国で順位が最も高いのは UAE であり,同国の世界順位は3
3位である。UAE
に続くのがイスラエル(世界3
6位)
,カタール(同3
7位)
,バーレーン(同4
1位)
,チュニジ
ア(同4
4位)
,ヨルダン(同5
4位)
,トルコ(同5
6位)
,エジプト(同6
4位)
,オマーン(同6
8
位)
,サウジアラビア(同7
1位)の各国である。
イスラエルはエルサレムなどキリスト教の聖地があるため欧米諸国の旅行客が多数訪
れ,一方マッカ,マディナというイスラム教の二大聖地を有するサウジアラビアには世界
中から多数の巡礼者が訪れる。この両国は宗教がらみの旅行・観光産業が発達している。
競争力を分野別で見ると,規制の枠組み分野ではチュニジアが1位であり,これに続く
のがカタール,ヨルダンである。ビジネス環境とインフラ整備度の分野では1位 UAE,以
下バーレーン,カタール,イスラエルと総合順位の上位4ヵ国がそのまま上位を占めてい
る。サウジアラビア,クウェート及びオマーンも上位8ヵ国に入るなど,GCC6ヵ国は観
光産業の環境・インフラが整備されている。GCC 各国はいずれもサービス産業として観光
に力を注いでいるところである。人材・文化・自然等の観光資源の充実度の分野ではトル
コが1位である。
なお観光競争力に関する MENA の平均値は世界1
3
3ヵ国中7
0位であり地域全体としては
中の下という位置づけになる。MENA 地域にはトルコ,エジプト,シリアをはじめマグレ
ブ(モロッコ,リビアなど)など多くの歴史遺産を有する国があり,さらに評価が付けら
れていないイラン,イラク,レバノン,イエメンなどにも多くの世界遺産がある。その意
味で MENA 地域は観光産業のポテンシャルが高く今後の発展が期待される。
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!.社会部門
1.人間開発指数:!国連貿易開発会議(UNCTAD)
,"1
8
2ヵ国,#2
1ヵ国+1,$8
2位,
%ノルウェー,&1
0位
人間開発指数(Human Development Index)は世界各国の平均寿命,
教育及び GDP の3つ
の数値を指数化し,その合計値により順位付けしたものであり,国連開発計画(UNDP)が
毎年「人間開発レポート」として発表している。
最新の2
0
0
9年版は2
0
0
7年のデータをもとに
1
8
2の国あるいは機関を取り上げ,MENA 地域についてはイラクを除き,
2
1ヵ国及びパレス
チナ自治政府が対象となっている。
UNCTAD は調査対象国を「高々度人間開発(Very High Human Development,VHHD)
,
「高度人間開発(HHD)
」
「
,中位人間開発(MHD)
」及び「低度人間開発(LHD)
」の4つの
ランクに分類している。2
0
0
9年版の場合,世界1
8
2ヵ国のうち VHHD3
8ヵ国,HHD4
5ヵ国で
あり全体の約半数を占めている。
MENA 諸国の中で人間開発指数が最も高い国はイスラエルであり,同国の世界順位は2
7
,カタール(同3
3位)
,UAE(同
位である。次いで指数が高い国はクウェート(世界3
1位)
3
5位)であり,イスラエルを含むこれら4ヵ国が高々度人間開発国に分類されている。こ
れに次ぐ高度人間開発国に分類される国は,バーレーン(世界3
9位)
,リビア(同5
5位)
,
オマーン(同5
6位)
,サウジアラビア(同5
9位)
,
トルコ(同7
9位)及びレバノン(同8
3位)
の6ヵ国である。
これ以下の中位人間開発国(MHD)あるいは低位人間開発国(LHD)にランクづけされ
ているのはイラン(世界8
8位)
,ヨルダン(同9
6位)
,チュニジア(同9
8位)
,アルジェリア
(同1
0
4位)
,シリア(同1
0
7位)
,パレスチナ自治政府(同1
1
0位)
,エジプト(同1
2
3位)
,モ
ロッコ(同1
3
0位)
,イエメン(同1
4
0位)
,スーダン(同1
5
0位)
,モーリタニア(同1
5
4位)
及びアフガニスタン(同1
8
1位)であり,アフガニスタンはニジェールに次ぎ世界で2番目
に低いランクである。
指数を構成する平均寿命,教育及び GDP のそれぞれについて MENA 各国を見ると,まず
平均寿命指数が最も高い国はイスラエルであり,同国の平均寿命は8
0.
7歳である。
クウェー
5歳以上であ
ト,UAE,バーレーン,カタールがこれに次ぎ,各国の平均寿命はいずれも7
る。一方平均寿命が短いのはアフガニスタン,モーリタニア,スーダンの4
3.
6歳,5
6.
9歳,
5
7.
9歳であり,イスラエルとアフガニスタンの平均寿命の差は3
7歳である。
次に教育面ではやはりイスラエルが MENA トップである。2位はリビアであり,以下
バーレーン,カタールに次いでパレスチナ自治政府が MENA で5番目に教育指数が高い。
一方,サウジアラビア,イラン,トルコなどの地域の大国は MENA1
0∼1
2位の中位国であ
り,エジプトは MENA1
7位にとどまっている。このことから教育指数が高い国は概して人
口の少ない国であり,人口の多い国は指数が低くなる傾向がうかがえる。
GDP 指数は各国の一人当たり GDP が主要な要素を占めているため,クウェート,カター
ル,UAE など人口の少ない湾岸産油国がトップを占めている。一方 GDP 指数が低い国はア
フガニスタン,モーリタニア,スーダン,エジプトなどである。上位と下位の一人当たり
GDP を比べると,カタールの7
4,
8
8
2ドルに対し,アフガニスタンは1,
0
5
4ドルに過ぎず,両
5
5
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国の格差は実に7
0倍に達する。MENA は域内の経済格差が極めて大きい地域であり,その
ことが人間開発指数の順位に影響していると言える。
2.平和指数:!Vision of Humanity(NGO)
,"1
4
4ヵ国,#2
2ヵ国,$7
6位,
%ニュージーランド,&7位
平和指数(Global Peace Index)は NGO 団体 Vision of Humanity が The Economist Intelligence Unit(EIU,英国の経済誌エコノミストの一部門)のデータをもとに各国の平和の程
度およびそれを維持するための機能を指数化しランク付けしたものである。指数は小型破
壊兵器(銃,小型爆発物など)の入手の容易さ,国防費,汚職,人権に対する尊重の度合
いなど2
4項目をベースに作成されている。最新の2
0
0
9年版では調査は世界1
4
4ヵ国に及び,
MENA についてはパレスチナ自治政府を除く2
2ヵ国の指数が示されている。
MENA2
2ヵ国で最も平和度が高いのはカタールであり,同国は世界1
4
4ヵ国の中でも1
6位
という高いランクにある。オマーンがこれに続く世界2
1位であり,両国は MENA の中でも
かなり平和度の高い国と評価されている。MENA の3位以下は UAE(世界4
0位)
,クウェー
ト(同4
2位)
,チュニジア(同4
4位)
,
リビア(同4
6位)が世界5
0位以内にランク付けされて
いる。
4
1位)
,ア
一方,平和度が低いと評価された国はスーダン(世界1
4
0位)
,イスラエル(同1
フガニスタン(同1
4
3位)
,イラク(同1
4
4位)であり,順位は世界最低レベルである。イス
ラエルは他のランク,特に経済部門では常に高く,社会部門でも人間開発指数(上述)及
び男女格差(後述)では MENA トップであるが,
本項目については MENA2
2ヵ国中の下か
ら3番目で極めて評価が悪い。
3.腐敗認識指数:!Transparency International(NPO)
,"1
8
0ヵ国,#2
2ヵ国,$9
8位,
%ニュージーランド,&1
7位
腐敗認識指数(Corruption Perception Index)は,
公務員と政治家がどの程度腐敗している
かの度合いを国際比較したものであり,査定を行った機関はベルリンに本部のある NPO
法人 Transparency
International である。1
9
9
5年に最初の指標を公表した時は対象国が4
1ヵ
国,調査項目は7種類と小規模であったため各国からは調査結果に対するクレームが噴出
した。しかし回を重ねるに従い内容の信頼性も高まり,
2
0
0
9年版では調査対象国は1
8
0ヵ国,
調査項目も1
3種類に増えている。MENA の調査対象はパレスチナ自治政府を除く2
2ヵ国で
ある。
MENA 諸国で最も腐敗度が低いと評価されたのはカタールであり,世界順位も2
2位とか
なり高い。これに続くのが UAE(世界3
0位)
,イスラエル(同3
2位)
,オマーン(同3
9位)
,
バーレーン(同4
6位)であり,イスラエル以外はすべて GCC 諸国である。
これに対し腐敗度が高いと評価された国はイラン(世界1
6
8位)
,
イラク及びスーダン(と
もに世界1
7
6位)
,アフガニスタン(同1
7
9位)などである。
5
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4.報道の自由度:!国境なきレポーター(NGO)
,"1
7
5ヵ国,#2
2ヵ国+1,$1
2
8位,
%デンマーク,フィンランド等5ヵ国,&1
7位
報道の自由度(Press Freedom Index)はフランスのジャーナリストが中心となって運営し
ている NGO「国境なきレポーター(仏名 Reporters Sans Frontieres,
略称 RSF)
」が2
0
0
2年以
降毎年発表している指標である。RSF は世界各国で取材妨害を受け,時には生命の危険に
晒されているジャーナリストを保護し,その障害を取り除く活動を行っており,その一環
として世界各地の表現の自由のための擁護組織およびジャーナリストに対して行ったアン
ケート結果を集計したものである。
2
0
0
9年の調査は世界1
7
5ヵ国で行われ,そのうち MENA
はパレスチナ自治政府を含め域内の全てが評価の対象となっている。
MENA 各国で最も自由度が高いとされたのはクウェートである。ただし同国の世界順位
は1
7
5ヵ国中の6
0位であり,必ずしもランクが高いとは言えない。
世界ランク1
0
0位以内の国
はクウェートを含めレバノン(世界6
1位)
,UAE(同8
6位)
,イスラエル(同9
3位)及びカ
タール(同9
4位)の5ヵ国にとどまっており,その他の MENA 諸国(1
7ヵ国及びパレスチ
ナ自治政府)の世界順位はいずれも1
0
0位以下である。
3位)
,
シリア(同1
6
5位)
,
中でもパレスチナ自治政府(世界1
6
1位)
,
サウジアラビア(同16
イエメン(同1
6
7位)
,イラン(同1
7
2位)など最低ランクの国が多い。
平均順位も世界1
2
8位
であり,MENA 地域の報道の自由度はかなりレベルが低いと言える。
5.男女格差:!WEF,"1
3
4ヵ国,#1
7ヵ国,$1
1
6位,%アイスランド,&7
5位
「世界男女格差報告(The Global Gender Gap Report)
」は世界経済フォーラム(WEF)が
経済,教育,健康,政治の4つの分野について公的機関が公表する男女別のデータをもと
に男女間の格差を指数化し順位づけをおこなったものである。
それぞれの分野には2乃至5つの比較項目があり,たとえば経済分野では労働参加比率,
同一労働の賃金格差,幹部職比率などが比較対象となり,また政治分野では女性の議員・
閣僚比率及び過去5
0年間の女性元首の在任期間などがポイントとして計算される。
2
0
0
9年度の報告書では全世界で1
3
4ヵ国が取り上げられているが,そのうち MENA はア
フガニスタン,イラク,レバノン,リビア,スーダン及びパレスチナ自治政府を除く1
7ヵ
国が調査対象国となっている。
MENA 諸国のトップはイスラエルであり,同国の世界ランクは4
5位である。イスラエル
に続く MENA 第2位はクウェートである。しかし同国の世界ランクは1
0
5位でありイスラ
エルと大きく隔たっている。このように男女格差についてはイスラエル以外の MENA 諸国
はすべて世界ランクが1
0
0位以下である。最下位グループにはイラン(世界1
2
8位)
,トルコ
,サウジアラビア(同1
3
0位)などがありイエメンは世界1
3
4ヵ国中の最下位でも
(同1
2
9位)
ある。
MENA 地域は一般に政治分野の男女格差が大きく,世界1位のアイスランドの格差指数
が0.
5
9
0
5に対し,MENA トップのイスラエルですら0.
1
4
1
6にとどまり多くの国は0.
1以下
である。中にはサウジアラビアのように女性の政治分野への進出がまったく閉ざされてい
るとして指数が0.
0
0
0
0と評価されているケースもある(ちなみに日本の指標は0.
0
6
5
1)
。
5
7
中東協力センターニュース
2
0
0
9・1
2/2
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まとめ
表1は1
0件のランク付けについて MENA の平均順位を示したものである。
(表1)各ランク付けの MENA 平均順位
分野
経済部門
社会部門
全調査国数
MENAの平均
順位
世界競争力
1
3
3
5
7位
ビジネス環境
1
8
3
9
7位
貿易円滑化指数
1
2
1
5
5位
IT ネットワーク度
1
3
4
6
1位
旅行・観光産業競争力
1
3
3
7
0位
人間開発指数
1
8
2
8
2位
平和指数
1
4
4
7
6位
腐敗認識指数
1
8
0
9
8位
報道の自由度
1
7
5
1
2
8位
男女格差
1
3
4
1
1
6位
ランク名
表1からわかるとおり MENA 地域は経済部門のランクでは世界平均よりもやや上にあ
るが,社会部門のランクは人間開発指数を除き平均以下であり特に報道の自由度と男女格
差では世界平均を大きく下回っている。MENA には産油国(GCC 諸国及びリビア,アルジ
ェリア)がある半面,経済力の弱い発展途上国も多く,国による貧富の格差が激しい。経
済部門が世界平均をやや上回っているのは経済力のある産油国によって全体のレベルが底
上げされているためであると考えられる。
MENA 諸国にはサウジアラビアなど今も絶対君主制国家が少なくなく,また民主主義体
制をとっているとは言え,エジプト,シリアのように権威主義的な国家がある。このため
社会部門のランクの中で報道の自由,男女格差などが世界の平均を大きく下回っている。
MENA の国別に各ランク付けの上位3ヵ国及び下位3ヵ国を示したものが表2(末尾参
照)である。経済部門ではいずれのランク付けにもイスラエルが上位3位以内に入ってい
る。また GCC6ヵ国のいずれかがベスト3に入っており,経済についてはイスラエルと
GCC が MENA 地域の中心であることがわかる。なおアフガニスタン,イラン,イラク,パ
レスチナ自治政府などは多くのランク付けで調査対象外とされている。これらの国が国際
社会で普通の国として活躍するためにもランク付けの対象となることは一つの条件となろ
う。
このようなランク付けの目的は,政治・経済・社会がグローバル化する中で各国の為政
者に自国の相対的評価を理解せしめ,改善を促すことにある。世界に2
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0以上ある国家は,
その成立の歴史的文化的背景がそれぞれ異なり,一律の評価になじまない面がある。その
ためこのようなランク付けが発表されると一部の国から強い異論が出ることが少なくな
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い。特に調査機関の殆どが西欧にあり,また調査手法も西欧的価値観が色濃く反映してい
ると考えられるため,MENA 諸国の中核をなしているアラブあるいはイスラムの国家から
の批判が少なくない。しかし,世界の一体化は歴史の趨勢であり,各国が経済・社会に関
する共通の基準を念頭に置いて体制を作ることは大きな意味があろう。
(表2)MENA 諸国の経済・社会ランク
上位3ヵ国
下位3ヵ国
調査対象外の国
!.経済部門
1.世界競争力
# カタール
$ UAE
% イスラエル
) モーリタニア
( シリア
' リビア
アフガニスタン,イラン,イラク,
レバノン,スーダン,イエメン,
パレスチナ自治政府
2.ビジネス環境
リビア
# サウジアラビア - モーリタニア
$ バーレーン
, アフガニスタン
% イスラエル
+ スーダン
3.貿易円滑化指数
# UAE
$ バーレーン
% イスラエル
( アルジェリア
' シリア
& モーリタニア
アフガニスタン,イラン,イラク,
# イスラエル
$ UAE
% カタール
) モーリタニア
( アルジェリア
' リビア
アフガニスタン,イラン,イラク,
# UAE
$ イスラエル
% カタール
) モーリタニア
( アルジェリア
' リビア
アフガニスタン,イラン,イラク,
1.人間開発指数
# イスラエル
$ クウェート
% カタール
- アフガニスタン イラク
, モーリタニア
+ スーダン
2.平和指数
# カタール
$ オマーン
% UAE
パレスチナ自治政府
- イラク
, アフガニスタン
+ イスラエル
3.腐敗認識指数
# カタール
$ UAE
% イスラエル
- アフガニスタン パレスチナ自治政府
, イラク
+ スーダン
4.報道の自由度
# クウェート
$ レバノン
% UAE
. イラン
- イエメン
, シリア
5.男女格差
# イスラエル
$ クウェート
% チュニジア
アフガニスタン,イラク,レバノン,
* イエメン
) サウジアラビア リビア,スーダン,パレスチナ自治
政府
( トルコ
4.IT ネットワーク度
5.旅行・観光産業競争力
レ バ ノ ン,リ ビ ア,ス ー ダ ン,
イエメン,パレスチナ自治政府
レバノン,スーダン,イエメン,
パレスチナ自治政府
レバノン,スーダン,イエメン,
パレスチナ自治政府
".社会部門
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(付)各調査のインターネット URL
世界競争力:World Competitiveness Report 2
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9,The World Economic Forum(WEF)
0Competitiveness%2
0Report/index.
(http://www.weforum.org/en/initiatives/gcp/Global%2
htm)
doingbusiness.
org/)
ビジネス環境:Ease of Doing Business2
0
0
9,World Bank(http://www.
weforum.
org/en/
貿易円滑化指数:The Enabling Trade Index2
0
0
9,WEF(http://www.
initiatives/gcp/GlobalEnablingTradeReport/index.
htm)
weforum.
IT ネットワーク度:The Network Readiness Index 2
0
0
8
‐
0
9,WEF(http://www.
org/en/initiatives/gcp/Global%2
0Information%2
0Technology%2
0Report/index.
htm)
旅行・観光産業競争力:Travel and Tourism Competitiveness Index2
0
0
9,
WEF(http://www.
weforum.
org/en/initiatives/gcp/TravelandTourismReport/CompetitivenessIndex/index.
htm)
undp.
org/)
人間開発指数:Human Development Index,Unctad(国連開発会議)
(http://hdr.
平和指数:Global Peace Index,Vision of Humanity(NGO)
,Data by Economist Intelligence
visionofhumanity.
org/gpi/home.
php)
Unit(EIU)
(http://www.
腐敗認識指数:Corruption Perception Index,
Transparency International(NPO)
(http://www.
transparency.
org/)
rsf.
org/)
報道の自由度:Press Freedom Index,
Reports Without Borders(NGO)
(http://www.
weforum.
org/en/Communities/
男女格差:The Global Gender Gap Report,
WEF(http://www.
Women%2
0Leaders%2
0and%2
0Gender%2
0Parity/GenderGapNetwork/index.
htm)
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