Comments
Description
Transcript
PDF版318KB
3. スウェーデン (1) 消費者保護分野の歴史的背景 共同訴訟制度は(クラスアクションは除いて)は以前より存在していたが、提訴できる のは、労働裁判所(The labor Court)と市場裁判所(The Market Court)のみに限られ、グル ープの構成員個人に対する補償は認められていなかった。しかしながら、集団訴訟手続法 (The Group Proceeding Act 2002)の導入により、私的集団訴訟、団体訴訟、公的集団訴訟 (クラスアクション)が可能になった。86 スウェーデンの民事訴訟法はいくつかの段階に分かれて発展してきている。旧司法手続 (Old Code of Judicial Procedure from 1734)では、裁判において厳密な証拠の提出が 求められ、訴訟は時間がかかり暗礁に乗り上げることが多かった。1948 年には、まったく 正反対の新しい司法手続(New Code of Judicial Proceudure)が設定され、証拠の提出手続 は簡素化され、口頭での証言に重きがおかれるようになった。最初は、この新制度は好評 であったが、時間がたつにつれ、制度は硬直過ぎる、訴訟にコストがかかりすぎる、また、 裁判所は本来の機能を果たしていないなどの批判が起こってきた。事実、弊害として、市 民の中には無制限に自分の権利を主張したり、ある市民はまったく裁判所との関係を失う といったことが起こっていた。87 改革へのキーワードは“柔軟性と司法制度への容易なアクセス”であった。1980 年の終 わりころから、それらへの改革の重要な要素である“柔軟性”として、審理前の手続など が書面でも可能になったり、証言が電話でも可能になったりした。また、裁判官は適切な 期間内に確実にケースに対して適切な解決を与えることや監督することが求められた。さ らに、小規模のケースの場合、2 審、最終審でへの上訴権利は制限された。 次に裁判所への容易なアクセスを可能にするには、第一に訴訟への経済的な負担が軽減 されなければならない。北欧では、通常の訴訟の場合、English Rule が適用され。例外と して、小規模のケースは(最大評価で 2,000 ユーロ以下) 、訴訟の勝敗にかかわらず弁護士 費用を当事者が負担する American Rule88(以下、「American Rule と呼ぶ」)が適用される。 それらを軽減するためにも、富裕な人以外への公的補填制度が 1960、70 年代に設立された。 しかし、過去数年、スウェーデンにおける公的補填制度は大きく制限され、それに代わり 民間の訴訟保険(通常 10,000 ユーロを上限とした)に取って代わられている。これらの保 険は、敗訴側が 2,000 ユーロを超える費用を負担しなければいけないような場合に有効と なる。89 86 87 88 89 Group Litigation in Scandinavia (Per Henrik Lindblom, Jan. 2009) p1 Group Litigation in Scandinavia (Per Henrik Lindblom, Jan. 2009) p4-5 三木浩一、大村雅彦 「アメリカ民事訴訟法の理論(商事法務社)」 P257 Group Litigation in Scandinavia (Per Henrik Lindblom, Jan. 2009) p5 66 1974 年にオンブズマンがアメリカから帰国し、Uppsala 大学の Per-Hanrik Lindblom 教 授(以下、 「Lindblom 教授」と呼ぶ)などにスウェーデンでのクラスアクションの導入可能 性について問うたが、その時点では、誰もアメリカのクラスアクションについての知識が なかった(その後、Lindblom 教授は 1989 年にクラスアクションの本を出版) 。その後政府 は 1991 年に集団訴訟委員会(Swedish Commission on Group Action in 1991)を任命し、 1995 年に委員会は 1,400 ページに及ぶ報告書(提案書)を司法長官(Ministry of Justice) に提出した。その報告書の中で、集団訴訟の 3 つのケース;私的集団訴訟、団体訴訟、公 的集団訴訟が提案された。Lindblom 教授を含む有識者の中には、北欧諸国のクラスアクシ ョンは必ずしもアメリカ型(American Rule、成功報酬、極端な不法行為法など)を模範 にする必要はなく、それよりカナダの方式がより適しているという意見もあった。1995 年にクラスアクションを提案する報告書が公表されたとたんに反対勢力(企業側の弁護士、 一部の法律家や裁判官)による激しいロビーイング活動が起こった。その一方で、消費者 や消費者オンブズマン、環境保護団体、労働組合、その他消費者団体からは歓待された。 当時の司法長官はそれら反対意見がある中でも進展させたが、法案の成立までには 7 年の 歳月を要し、2002 年に集団訴訟手続法(The Group Proceeding Act 2002)として成立した。 90 (2) 集団訴訟制度の概要 ①導入の経緯 現代社会では多数の人々が他者に対して同じまたは同様の請求をする状況が起きう るが、そのような集団での請求は、特に被害額が少額の場合、裁判所やその他の方法 でも請求することが難しくなっていた。91 法による保護がないことは、個人の市民が権利を失うだけでなく、大規模にそのよ うな状況が野放しになっていれば、裁判所は裁判所の権限である行為指導機 能 (handlingsdirigerande)、先例形成機能(prejudikatskapande)、そして法欠缺補充機 能 (rättsutfyllande) を果たすことが出来ない。92 また、多くのそのような状況が批判されずに放置されていれば、競争を害し、環境 を促進させる投資を阻み、人々の法に対する考えに悪影響を与える。それに加え、不 真面目な商業方法を助長し、粗悪商品の製造発展につながりかねない。93 紛争解決の手立てとして、消費者苦情処理委員会も存在するが、この機関ではすべて の紛争を取り扱ってはいない。取り扱う紛争における請求額に限度を設けていること から、典型的な集団請求で問題になるような個々人の少額の請求に関しては取り扱わ 90 Group Litigation in Scandinavia (Per Henrik Lindblom, Jan. 2009) p6 集団訴訟手続法法律案(Prop. 2001/02:107 Lag om grupprattegang), p.1 http://www.riksdagen.se/webbnav/index.aspx?nid=37&dok_id=GP03107 92 集団訴訟手続法法律案(Prop. 2001/02:107 Lag om grupprattegang), p.1 93 集団訴訟手続法法律案(Prop. 2001/02:107 Lag om grupprattegang), p.22. 91 67 れない。94 ま た 、 訴 訟 に お け る 権 利 保 護 の た め の 機 能 と し て 、 賠 償 (reparation) 、 予 防 (prevention) そして法の形成 (rättsbildning) が挙げられるが、これらの機能におけ る欠陥を裁判所外での対応策で処置すべきかということについての疑問もあった。裁判 所外での機関での紛争解決方法は裁判所での審理を補完するに重要な方法ではあるが、 それを常時代用できるものではなく、裁判所が紛争解決の柱とならなくてはならないと いう考えがあった。95 訴訟法の規定は、お互いに力関係で同等の立場にいる者同士の紛争を想定しそれに基 づいている。訴訟制度の改正は、現代社会の変化に伴い、例えば消費者個人と業者との 関係におけるアンバランス(力の不均衡)を均等にすることを目的としている。96 既存の法制度で法的権利保護が十分になされなかった理由として以下の 3 要素が大きな 原因である。 ・ 請求額と法的処置をとった場合にかかりうる費用のリスクが不均衡であること。 ・ 請求者が心理的、社会的または非法的要因で、自身が被った被害に関する請求権につ いて無知であること、または自己の権利を主張するに当たっての勇気、力または意思 が欠乏していること。 ・ 自分自身以外の人の権利保護の為に訴訟を起こすことが、既存の法制度では例外的に しか認められていなかったということ。 これらの状況からふまえて、集団訴訟手続に関する法律を制定し、訴訟における団体の 権利保護を強める必要があった。97 集団訴訟制度は訴訟においての法保護の欠如(不足)を修正する目的で導入された。し たがって、最大の目的は既存の法規定を改定し、98 99 した訴訟の形を作ることであった。 94 95 96 97 98 99 集団訴訟手続法法律案(Prop. 集団訴訟手続法法律案(Prop. 集団訴訟手続法法律案(Prop. 集団訴訟手続法法律案(Prop. 集団訴訟手続法法律案(Prop. 集団訴訟手続法法律案(Prop. 2001/02:107 2001/02:107 2001/02:107 2001/02:107 2001/02:107 2001/02:107 Lag Lag Lag Lag Lag Lag om om om om om om grupprattegang), grupprattegang), grupprattegang), grupprattegang), grupprattegang), grupprattegang), 68 p.23. p.23. p.25. p.33. p.1. p.25. 現代社会で必要とされる条件に適応 (3) 集団訴訟手続法(The Group Proceeding Act 2002)の要点 ①特徴 集団訴訟手続法(以下、GPA2002 と呼ぶ)は通常の訴訟手続補則規定である。100 GPA2002 の特徴101として「複数性」 「実用性」さらに「手続性」の 3 つであるとい える。 「複数性」 GPA2002 は 3 つの点で複数性を有しているといえる。 ① 私的集団訴訟(クラスアクション) 、団体訴訟そして公的集団訴訟の訴訟 形態が可能であること。 ② 訴訟の請求は差止め及び金銭的原状回復の両方が可能であること。 ③ 同法は消費者法や環境法に限らず、通常一般の地方裁判所や環境裁判所 で取り扱われるすべてのケースに適用されること。 「実用主義」 同法は実用的で、扱いやすく、最も適した手続形態と判断された場合のみに使用 されること。 「手続性」 GPA2002 は手続に関する規定のみを定めており、他の実体的な法律の内容に何ら かの影響を与えない。したがって、因果関係、損害の算出・分配方法などに関す る新しいルールは含まれていないこと。 ②集団訴訟とは102 集団訴訟とは、複数の人を代表して原告が起こす訴訟のことであり、それらの 人は、法的に拘束されるが、原告の構成員である必要はない。 集団訴訟は、私的、団体、公的集団訴訟として提起することが可能である。 ③適用範囲103 GPA2002 による特段の定めのない限り、手続上の問題については一般の民事訴 訟手続のルールが適用される。 ④管轄権を有する裁判所104 集団訴訟手続は、政府により指定された地方裁判所に提起することができる。 100 101 102 103 104 集団訴訟手続法法律案(Prop. 2001/02:107 Lag om grupprattegang), p.1. Group Litigation in Scandinavia (Per Henrik Lindblom, Jan. 2009), p.7. Swedish Code of Statues Section 1 Swedish Code of Statues Section 2 Swedish Code of Statues Section 3 69 少なくとも各郡(County)にひとつの地方裁判所が指定されている必要がある。 ⑤対象者(当事者適格) 集団訴訟として以下の 3 つの形式が可能である。 *私的集団訴訟 (Private group action, クラスアクション) 105 集団訴訟の対象となる請求権を有する自然人または法人により 提起される(第 4 条) 。 私的集団訴訟のための前提条件として、その個人が集団に属する ことが必要とされる。 *団体訴訟 (Organization Action)106 当該事業者により提供された当該製品役務に関する事業者・消費 者間紛争に関して消費者団体及び事業者団体によりなされる (第 5 条) 。 組織の構成員の数および組織の存続している期間についての特 別用件は設定されていない。(事件毎に設立されるアドホックな 組織またはわずか数人の構成員により構成される組織であって も、組織による集団訴訟を提起する権限が認められている) 。 *公的集団訴訟 (Public Group Action) 公的機関により集団訴訟が提起される(第 4~6 条) 。消費者の損 害請求のための公的集団訴訟を提起する権限の認められた公的 機関は、消費者オンブズマン(Consumer Ombudsman)、環境保護局 (Environmental Protection Agency)などである。107 (団体訴訟や公的集団訴訟において原告は集団の構成員ではな い。もし組織団体や消費者オンブズマンなどの公的機関が自分た ち自身に関する事案がある場合には、それらの訴訟は組織訴訟や 公的集団訴訟としてではなく、私的集団訴訟として扱われる) 。108 ⑥申立に関する要件109 当該訴訟が、当該集団の構成員間で共通の、または同様の性質の状況に基づ くものであること(第 8 条 1) 。 105 106 107 108 109 Swedish Code of Statues Section Swedish Code of Statues Section Swedish Code of Statues Section Group Litigation in Scandinavia Swedish Code of Statues Section 4 5 6 (Per Henrik Lindblom, Jan. 2009) p8 8 70 訴訟申立が、当該集団の構成員による請求の根拠に関して、他の請求から相当 程度に一致しないという判断をされないこと (第 8 条 2)。 当該集団訴訟の申立の大部分が、当該集団の構成員による個人的な訴訟によ っては、同程度に十分には追求されえないものであること(第 8 条 3)。 当該集団が、その規模、範囲、その他の点を考慮して適切に特定できるもの であること(第 8 条 4) 。 集団代表の重要事項に関する利害、代表としての当該集団訴訟を提起するこ とについての資力および一般的な情況を考慮し、当該訴訟事件の集団の構成員 を適切に代表するものと判断できること(第 8 条 5) 。 ⑦構成員の立場および原告の交代110 集団の構成員は、除斥・忌避、係属中の訴訟手続、訴訟事件の併合、進行中の 手続の審理、および証拠に関するその他の事項に関しての訴訟手続法の規定の適 用に際しては、当事者と同視されるものとする (第 15 条) 。 集団の構成員は集団を代表し、判決に対して不服申立を行うことができ、第 39 条に基づく危険の合意の裁定に対してもまた不服申立を行うことができる。また、 集団の構成員はまた自身の権利に関する判決または裁定に対して、自らのために 。 不服申立を行う権能をも有する(第 47 条) 適切な手続を促進するために、裁判所は原告の他にもしくは原告に代えて、 集団の特定の構成員の権利にのみ適用される特定の事項または重要事項の一 部について訴訟を追行すべき者を指名することができる。指名は当該集団の構 成員または、それが可能でない場合はその他の者に対して行うことができる (第 20 条) 。 当該訴訟において原告が集団の構成員をもはや適切に代表するとは考えられな くなった場合には、裁判所は、第 4 条および第 6 条に基づいて訴訟を提起する権 限のある他の者を、集団訴訟の追行のために原告として任命するものとする(第 21 条) 。 110 Swedish Code of Statues Section 15, 20, 21, 45 71 ⑧集団の代表および訴訟代理人111 私的集団訴訟および団体訴訟は弁護士である訴訟代理人を通じて提起され るものとする。特別な理由がある場合は、裁判所は訴訟代理人を通ずることな く、または弁護士ではない訴訟代理人を通じての訴訟の提起を許可することが できる(第 11 条) 。 ※ 消費者が個人で提起している訴訟との調整 訴訟手続法第 13 章 6 条によると、同じ当事者間で既に裁判の対象とさ れている問題について、新たに提訴することは出来ない。この禁止措置の 目的は、一つの同じ法的状況 (関係) が二つの同時裁判の対象になるのを 防ぐものである。112 したがって、集団訴訟の構成員が当事者であると、 進行中の個人の訴訟がある場合は訴訟係属関係(litispendens)が裁判障 害となり、集団訴訟によって同じ内容の請求の裁判をすることが出来ない。 113 個人訴訟への転換:原告が集団訴訟を取り下げ、当該事案が終結した場 合(第 23 条に従って)、集団構成員の請求に関し個人の訴訟へと転換する ことができる。114 ※ 法律扶助など団体訴訟についての援助制度について 法律扶助は市民が訴訟をするのにかかる費用のリスクを軽減する働き をする。しかし近年において、スウェーデンでは制度が改正され法律扶助 を受けることが制限され、人々は訴訟費用に関し個人的に保険に入らなけ ればならない状況となった。115 さらに法律扶助は、少額の請求訴訟にお いては限られた扶助しか受けられず、扶助申請者は自分の収入に応じて自 己負担せねばならず、また訴訟相手の費用はカバーされないでいる。116 集団訴訟は多くの場合、法律相談や証拠の提供において相当な費用がかか る。したがって原告側にとって、費用のリスクがあまりに大きく訴訟を起 こすのには現実的ではないとの見方をしてしまいかねない。117 法定費用 保険は相手の費用もカバーされるため、この点においては法律扶助よりも 111 112 113 114 115 116 117 Swedish Code of Statues Section 11,12 集団訴訟手続法法律案(Prop. 2001/02:107 Lag om grupprattegang), p.60. 集団訴訟手続法法律案(Prop. 2001/02:107 Lag om grupprattegang), p.60. Swedish Code of Statues Section 23 Nord (2001), p.390-391. Nord (2001), p.391. Nord (2001), p.391. 72 よりよいものといえる。118 しかしながら、複雑な法的そして証拠の問題 に関する小さな請求の場合には、免責額(自己負担金)が多くの場合訴訟 手続を始めるのに大きな障害となっている。保険の保証も、通常ある額ま でと制限されており(10,000 ユーロが上限という場合が多い)、場合によ っては保険の価値を制限するものとなっている。119 さらに、スウェーデ ンの保険会社は、大手保険会社トゥリュッグ・ハンサ(Trygg-Hansa)が GPA2002 が施行されるやいなや、集団訴訟における原告(被告は OK)への 費用をカバーの対象から除外するなど、スウェーデンの保険会社は集団訴 訟の運用を阻んでいるといえるであろう。120 原則的な問題として、市民 の裁判へのアクセスが、法定費用保険に加入しているかどうか、また保険 に付けられた条件によって左右されるということは満足のいくものでは ないとの考えがある。121 スウェーデンで最近行われた法律扶助の制度改 正が大きな批判の対象となったのはこれらのためである。122 経済的に弱 い者が自分たちの権利を強化することができることを保証するのは公の 責任であるはずであり、私的に費用を調達することは、一般市民が請求を するために手助けになりうるが、これらは必須条件であるべきではない。 123 ⑨訴訟通知手続、告示方法 原告の団体訴訟手続開始の申立が却下されない場合は、当該集団の構成員はかか る手続について通知されるものとする。内容的には裁判所によって適切であると される範囲において、以下の事項について叙述されていなければならない(第 13 条)。 (ア)申立に関する簡潔な記載 (イ)以下に関する情報 a) 形態としての集団訴訟手続が採用されている旨の情報 b)構成員が当該訴訟手続に個人的に参加するための機会を付与す る旨の情報 c)判決の法的効力、および d)訴訟費用に関して適用されうる規則 (ウ)原告および訴訟代理人の氏名および住所 118 119 120 121 122 123 Nord (2001), p.391. Nord (2001), p.391. Group Litigation in Scandinavia (Per-Henrik Lindblom, Jan. 2009), p.13. Nord (2001), p.394 参照 Nord (2001), p.394. Nord (2001), p.394. 73 (エ)裁判所によって決定される、14 条に基づく通知に関しての日付の通知 (オ)当該集団の構成員の権利に関して重要な、その他の情況に関する情報 14 条では、Opt In 方式であることが以下のように規定されている。 裁判所の定める期間内に、集団訴訟に参加することを望む旨の通知を書面にて裁判所 に提出しない集団の構成員は、当該集団から脱退したものと看做す。 集団構成員への通知は、裁判所により適切であると考えられた方法に よって行われる(第 13 条、49 条、50 条) 。 告知や通知にかかる費用はすべて国庫から賄われる。124 一旦、Opt In を表明しても、Opt In の最終期限まではそれを撤回して 集団から離脱できるが、最終期限を過ぎるとそれはできなくなり、結果 に拘束される。理由としては、最終期限を過ぎても Opt Out できるとな ると被告企業にとってフェアではなくなるからである。期限は案件毎に 裁判所が決定するが、通常は 2~3 ヶ月である。125 具体的な例として、現時点までの唯一の公的集団訴訟である「オンブ ズマン対クラフトコミュホーン」のケースでは、約 8,000 人の対象者に 126 対して約 2,000 人が Opt In した。 約 8,000 人の対象者に対しての Opt In の意志を問う通知は裁判所が行った。方法としては、住所の分かって いた 3,000 人に対しては郵送、住所の分からない 5,000 人には新聞広告 を 3~4 回掲載し広く通知を行った。また、TV やラジオがこのケースを取 り上げ、編集記事としても流れたことも通知の一環を担うこととなった。 ⑩裁判の具体的進展手順(判断基準など) ※ 提訴 集団訴訟手続は、通常の訴訟手続に規定によって提訴される。特段の規定 のある場合(第 8、11 条)はそれに従う。127 ※ 判決 裁判所の判決はその裁定に従うべき集団の全ての構成員に関して法的強制力 124 125 126 127 Group Litigation in Scandinavia (Per-Henrik Lindblom, Jan. 2009), p.9. Per-Henri Lindoblom 教授へのヒアリングより(2009.3.2) スウェーデン消費者庁(Consumer Agency)へのヒアリングより(2009,3,3) Group Litigation in Scandinavia (Per-Henrik Lindblom, Jan. 2009), p.8. 74 を有する(29 条) 。 裁判所が裁判により確認する場合は、原告が集団を代表して締結する和解は 効力を有する。和解は、当事者からの要請により集団の特定の構成員に対して差 別的でないか、また他の意味で明らかに不公正ではないかを確認されるものとす る(第 26 条) 。 ※ 上訴 決定に対する上訴は一般の民事訴訟手続のルールによって従いなされう る。 ⑪裁判費用 スウェーデンでは、一般的に English Rule が適用され、集団訴訟においてもこ れが適用される。集団訴訟の原告は、自らの訴訟費用のみならず、敗訴の場合、 被告の訴訟費用も負担する128(しかし集団構成員は通常の場合は手続の当事者と はならないため、費用の責任負担はない。当事者として介入した場合にのみ費用 負担責任が生ずる) 。129 集団構成員は以下の二つの例外を除き、原則的に訴訟費用を負担しない(第 33 条) 。 被告が原告に対して訴訟費用の補償を行うこと、または 32 条で規定されるように かかる費用を国に支払うことを命ぜられた場合で被告が支払うことができない場合 は、裁判の効力を受ける集団の構成員はこれらの費用を負担する(第 34 条)。 訴訟手続法第 18 章 3 条第 1 パラグラフに関する措置により集団構成員が発生さ せた費用、 または同法第 18 条 6 における過失によって発生させた費用に関しては、 当事者でなくとも集団構成員が負担する(第 35 条) 。 私的集団訴訟を提起するには訴訟費用を負担できるだけの財務的な余裕がない と難しく、経済的に裕福な人もしくは、資金源を持っている人などが起こすケー スが多い。かりに原告が敗訴した場合には、被告の弁護士費用など含む訴訟費用 の全額を負担する必要があり、訴えを提起する際にそれらに耐えうる財務的な準 備があることを示す必要がある。裁判所ではそれらが十分かどうかの判断をする。 また、原告代表と原告弁護士の間で Risk Agreement を交わす必要があり(第 38 128 129 Group Litigation in Scandinavia (Per-Henrik Lindblom, Jan. 2009), p.10. Group Litigation in Scandinavia (Per-Henrik Lindblom, Jan. 2009), p.10. 75 ~41 条)、裁判所の認可が必要。弁護士費用は、勝訴の場合、通常の 2~3 倍の報 酬、敗訴の場合は無報酬である。130 ⑫被害賠償額の算出方法 集団構成員間での賠償金の分配についての特別な規定はない。 裁判所は、和解の成立までは関与するが、支払いの配当など具体的な手続は裁 判所は行わない。もし、被告企業が決められた賠償を原告に払わない場合、原告 ( 個 人な ど) は 、取 立て 管 轄官 庁に 申 立て なけ れ ばな らな い (管 轄官 庁: Kranofogden131)。理由としては、支払いや配布の具体的な方法を規定しているわ けではなく、通常の裁判の方法を適用しているからである。132 ⑬具体的な消費者権利の回復方法 GPA2002 では、民事法上の救済になんら限定を加えていない。ただ、まとめて 執行される点で通常の民事手続とは異なるだけである。集団訴訟手続に関係する 主な救済は、契約上のまたは契約外の責任に基づく原状回復である。ここでの原 状回復は、財産的損害のみならず、身体的損害も含むものである。集団訴訟によ って、多数の契約の履行・契約の終了・約款の変更といった一定の作業義務命令、 一定の法律関係の存否の確認といった確認裁判をも求めうる。 ・資産保全の方法 訴訟手続法第 15 章の保全処分についての規定が集団訴訟においても同様に適 用され、訴訟が開始される前に仮差押えやその他の保全処分を請求することが出 来る。133 オンブズマンによる訴訟の場合、差止請求や、差止請求に継続して従 わない場合には、制裁金を課すことができるが、不当利益の剥奪(Disgorgement) はできない。行政による強制的な調査権は、マーケティング法に基づく差止請求 などの場合はあるが、集団訴訟の場合はない。マーケティング法場合のそれらは、 42、43、44、45、46 条に規定されている。134 (4) Opt Out 方式の導入を断念した理由及び経緯 法案で提示された Opt Out 方式の賛否両論は大まかにまとめると以下のようになる。 130 131 132 133 134 Per-Henri Lindoblom 教授へのヒアリングより(2009.3.2) 英語名: Swedish Enforcement Authority http://www.kronofogden.se/4.7856a2b411550b99fb7800086822.html Per-Henri Lindoblom 教授へのヒアリングより(2009.3.2) 集団訴訟手続法法律案(Prop. 2001/02:107 Lag om grupprattegang), p.78. Per-Henri Lindoblom 教授へのヒアリングより(2009.3.2) 76 (Opt Out 方式賛成)135 ・ 自らグループから離脱する事を要求しない場合に自動的に構成員にされるという 方法の方が通常大きなグループにつながる。 ・ 大きなグループであると、その分個々の権利保護、そして裁判所ができるだけ大 幅で総括的な判決を下すための基盤を持てることにつながるため、この事は訴訟 が果たす機能である予防、そして法形成が強化される。 ・ 繰り返し訴訟が起こされるリスクが減り、そのため被告の安全も増える。 (Opt Out 方式反対)136 ・ 消極的で受身な人も構成員になるということは、集団訴訟の訴えの申立てが、自 分の事案を法的に審理されたいと望んでいない人たちの分までもを含んでしまう リスクがある。 ・ 構成員のうち何人かは被告に責任の遂行を求めないであろうことから、おそらく 実際に実現化されることがないであろう要求の訴訟に費用を費してしまうリスク がある。 ・ 集団訴訟は出来る限り既存の規定体制と訴訟における原則に合わせるべきである。 Uppsala 大学 Lindblom 教授へのヒアリングによると137、スウェーデンで Opt In 方 式が導入された経緯としては、主に政治的な理由による。1994 年に集団訴訟制度の提 案が社民党より提出されたとき、ビジネス界からはそれらへの強い抵抗があった。当 初法案は Opt Out 方式であったが、国会審議が始まる直前でそれらを支持していた司 法大臣が個人的理由で辞任してしまった。新しく就任した大臣は、Opt In 方式支持者 であったことや、とにかく制度を導入するのに Opt In 方式の方が法案を成立させやす いということもあり、政治的な理由でその制度が導入されることとなった、とのこと。 同教授の個人的な見解として、総論として Opt Out 方式が望ましいと考えているが、 金額が大きいケースでも Opt Out 方式でいいのか、また、Opt Out 方式では代表選び も Opt In 方式に比べて難しい面もあり、ノルウェーで実施されているような Opt Out、 Opt In 方式のコンビネーション型も現実的な選択肢のひとつと考えているように見受 けられた。138 さらに、同教授の意見として、オーストラリア、カナダ、アメリカの制度のように、 グループからの離脱を申請しない限りグループの構成員に含まれるという制度は広く 使われているが、このような諸外国での経験モデルがスウェーデンにおいて集団訴訟 135 集団訴訟手続法法律案(Prop. 2001/02:107 Lag om grupprattegang), p.64. http://www.riksdagen.se/webbnav/index.aspx?nid=37&dok_id=GP03107 136 集団訴訟手続法法律案(Prop. 2001/02:107 Lag om grupprattegang), p.64-65. 137 Per-Henri Lindoblom 教授へのヒアリングより(2009.3.2) 138 Per-Henri Lindoblom 教授へのヒアリングより(2009.3.2) 77 における権利保護を強化する為に最適であるとは限らず、同じ制度をそのままそっく りスウェーデンの状況にあてはめることは出来ない。139 諸外国の経験では、通常集団訴訟から離脱する者よりも集団訴訟に自ら参加せずに いる者の方が多いため、個々がグループからの離脱を申請しない限り自動的にグルー プの構成員とみなされる方式の方が、より大きなグループを構成する。140 しかし、 スウェーデン国内の経験では、1991 年から消費者オンブズマンが消費者苦情処理委員 会で集団の要求を提起できるが、消費者苦情処理委員会の経験としては、個々人は消 費者苦情委員会から推奨された賠償を受け取ることに積極的であり、個々の消費者が 費用リスクのない集団訴訟の構成員に加わるためにあまり積極的に行動することはし ないという懸念には根拠がないと考えられる。したがって、自動的にグループの構成 員が決定される方法と個々の申請によって構成員とされる方法では実際的にはさほど 差がないことを暗示している141 どの程度の人々が集団訴訟に参加したいと申請する かということに関しておそらく一番大きな意味を持つことは、どのような形でそして どのような方法で集団構成員が提起された集団訴訟に関しての通知を受けるのか、そ して申請方法の仕組みがどのようになっているかであろう。142 結果的には Opt In 方式が採択され、具体的な法手続としては、一定の定められた期 限内に申請を行わない者はグループから外れたとみなされる方法を導入した。143 すなわち、申請期限が切れるまでは、原告によるグループ構成に含まれる者はすべ てグループの構成員であるとみなされる。144 しかし申請意思表示をしない者にとって害はなく、申請期限が終了してからは別個 の個人の裁判を起こすことは妨げられない。145 当初の法案が Opt Out 方式であったことから明らかなように、スウェーデンでも Opt Out 方式が採られる可能性は十分にあった。その際、集団訴訟を望まない個人の 手続保障は、Opt Out の機会を保障するための通知と広告の手続により、理論的に克 服できると考えられていた。また、現在でも、集団訴訟研究の第一人者である Lindblom 教授や消費者オンブズマンなどは、将来の法改正によって Opt Out 方式を導入するこ 139 140 141 142 143 144 145 集団訴訟手続法法律案(Prop. 集団訴訟手続法法律案(Prop. 集団訴訟手続法法律案(Prop. 集団訴訟手続法法律案(Prop. 集団訴訟手続法法律案(Prop. 集団訴訟手続法法律案(Prop. 集団訴訟手続法法律案(Prop. 2001/02:107 2001/02:107 2001/02:107 2001/02:107 2001/02:107 2001/02:107 2001/02:107 Lag Lag Lag Lag Lag Lag Lag om om om om om om om grupprattegang), grupprattegang), grupprattegang), grupprattegang), grupprattegang), grupprattegang), grupprattegang), 78 p.65. p.63-64. p.65-66. p.66. p.152. p.152-153. p.153. とが望ましく、理論的にも導入に問題はないとの立場である。 ①参考にした外国の制度 − カナダ(ケベック州、オンタリオ州、ブリティッシュコロンビア州)146 − オーストラリア − アメリカ − 調査したクラスアクションについての外国の制度すべてが自動的にグループに属す る方法をとっている。147 (5) 過去、現在の事例 敗訴時における訴訟費用負担のリスクから、草案段階では、私的集団訴訟は滅多に なく、集団訴訟のほとんどが団体訴訟や公的集団訴訟になるものと予想されていた。 (したがって、個人的損害の回復よりも、一般的に問題のある行為を改めさせること がメインの目的になるであろうと考えられていた)。148 しかし、予想とは逆に、実際 には公的集団訴訟は 1 件のみ、団体訴訟は 0 件、残りの 11 件はすべて私的集団訴訟で ある。149 集団訴訟法が施行されて以来 6 年間で 12 件が提起された(11 件:私的集団訴訟、1 件:消費者オンブズマンによる公的集団訴訟) 。150 (集団訴訟案件)151 ①消費者オンブズマン対クラフトコミッホーン (The Consumer Ombudsman v Kraftkommision i Sverige AB、現在名 Stävrullen Finans AB)152 − 消費者オンブズマンによって起こされた初めてで、現在まで唯一の公的集団訴訟案件。 − 契約期間中に電気を十分に供給出来なかった電気供給会社に対して、消費者苦情委員会 が被害を被った顧客への賠償金を支払うように勧告したが、被告は不服申立をし、申立 は却下された。 − その後消費者オンブズマンは会社を相手取り、公的集団訴訟を提起した。公的集団訴訟 になったのは、損害額が少額で対象者が多数であったから。対象者は、スウェーデン全 国に散らばっており、約 8,000 名であった。被告企業は、電気供給の契約があるにも関 146 Lindblom & Nordback (2003), p.192. 集団訴訟手続法法律案(Prop. 2001/02:107 Lag om grupprattegang), p.63. 148 Lindblom (2008), p.11. 149 Lindblom (2008), p.11-12. 150 Lindblom (2008), p.1. 151 以下12の案件の概要は、Group Litigation in Scandinavia (Per-Henrik Lindblom, Jan. 2009) の 13-17 ページ、そして Ds 2008:74 の 211-247 ページの内容を参照にまとめたものである。 152 ウメオー地方裁判所判決 T 5416, 2004. 147 79 わらず供給しなかったという行為を行っており、供給が停止した時点での契約者が対象 者。個々で契約内容が違うが(使用量に応じて支払う契約と一定額を支払う契約とあっ た) 、請求額は 500~1,000SEK/人(期間としては 1 ヶ月~1 年:契約によって違う) 。 − 8,000 人に対しての Opt In の意志を問う通知は、裁判所が行った。方法としては、住 所の分かっていた 3,000 人に対しては郵送、住所の分からない 5,000 人には新聞広告を 3~4 回掲載した。また、TV やラジオが取り上げ、編集記事としても流れた。その結果、 約 2,000 名が Opt In した。 − 2004 年に訴訟を提起し、集団訴訟として認められるかどうかの審議は最高裁判所まで いき、2007 年 9 月になって、最高裁がそれらを認めた。 − その決定以降、消費者オンブズマンは、現在、口頭弁論の準備を行っている。準備には 今年いっぱいかかる予定。現在のところ必要な証拠はすべて収集済みとのこと。153 ②デ・ギール対スウェーデン空輸庁 (Carl de Geer et al v The Swedish Airports and Air Navigation Service)154 − アーランダ空港では、2003 年に第 3 滑走路が完成し、4 月から離発着が始まったが、そ の航路上の地域住民が騒音被害に反対するクラスアクションを提起した。対象地域の住 民数は約 17,000 人で、クラスアクションとしては、2006 年 8 月に 5 人の代表者によっ て提起された(被告側弁護士事務所は Garde Wesslau 法律事務所:ストックホルムを含 む 5 都市に事務所を持つ中規模の弁護士事務所) 。 − もともと原告側は 6 名であったが、ひとりが空港関係者であったので、構成員内の話し 合いの結果適格ではないということで、自主的に代表からはずれ 5 名になった。原告側 5 名は、一般住民(弁護士などではない)であるが、訴訟コストを負担できるほどの裕 福な人たちである。 − クラスアクションが提起され、裁判所により約 17,000 人に郵送で Opt In するかどうか の通知がなされ、約 6,300 名が Opt In した。 − 被告は第 8 条の要項を満たしていないと主張 ¾ 地域内でも各家屋によって騒音レベルが違うので、ひとくくりにはできない。 ¾ その地域に住んでいる人もいれば、働きにきているだけの人もいるので、まとめる ことができない。 ¾ 一人一人の供給している金額が大きいので(要求額:一人 1,000SEK【約 14,000 円】 /月) 、個人訴訟として成り立つのではないか? − しかし、2009 年 1 月末に高等裁判所はそれらの主張を退け、クラスアクションとなり うる裁定をした。被告側は、上訴し、現時点では、最高裁判所がそれを受け付けるかど うか決定されていない。また、受け付けられたとしても最高裁判所が最終的にいつクラ 153 154 スウェーデン消費者庁(Consumer Agency)へのヒアリングより(2009.3.3) Garde Wesslau 法律事務所へのヒアリングより(2009.3.3.2) 80 スアクションとして認めるかどうかの決定をするかは未定(ノイズレベルによってサブ グループに分かられる可能性もある) 。 ③オーベリィ対エレフテリオス・ケファラス (Bo Åberg v Elefterios Kefalas )155 − 航空会社の経営者による犯罪的行為により損害を受けた客であるオオーベリィ(Åberg) が自身と他約 700 名の乗客のための損害賠償を要求。約 500 名が Opt In した。 − 被告側は集団訴訟法の第 8 条の要件を満たさないとして訴えの却下を要求。→ 却下要 求は認められず。(被告は控訴したが、高等裁判所では地方裁判所の決定を支持) − 提起してから約 4 年半後、810,000 クローネ(以下、 「SEK」と呼ぶ) (約 162 万円)の 訴訟和解に至った。 ④ラーション他対ファルク・セキュリティー (Mattias Larsson et al. v Falck Security)156 − 警備会社の違法なデータベース(非正式に疑いをかけられている落書き行為者等を含 む)作成に対して提訴。 − 目的は集団訴訟に広げることであったが、規定が満たなく、民事一般訴訟手続による個 人訴訟になった。157 ⑤ファルク及びフロスト対 NCC (Guy Falk and Lisbeth Frost v NCC AB)158 − 小型ボート用の港建設に関する契約の義務に関する訴訟。53 名が Opt In した。159 − 被告側(スウェーデンの建設会社で最も大きい会社の一つ)は集団訴訟法の第 8 条の要 件を満たさない(構成員それぞれの状況に差がある等)として訴えの却下を要求。却下 要求は認められず。(被告は控訴したが、高等裁判所では地方裁判所の決定を支持。被 告はその後最高裁判所に審理許可を求めたが、審理許可は認められず。 ) − 案件はその後地方裁判所での取り扱い中に和解交渉へと持ち込まれた。 ⑥スカンディアに対する集団訴訟申立団体対スカンディア (Grupptalan mot Skandia v Försäkringsaktiebolaget Skandia)160 − 非営利団体「スカンディアに対する集団訴訟申立」(Grupptalan mot Skandia)が集団 訴訟のために結成され、私的集団訴訟として保険株式会社スカンディア 155 156 157 158 159 160 ストックホルム地方裁判所 判決 T 3515, 2003、後にこの案件はナッカ地方裁判所へ移された。判決 T 1281, 2004. ストックホルム地方裁判所 T6341, 2003. Group Litigation in Scandinavia (Per-Henrik Lindblom, Jan. 2009)、p.14. イェーテボリ地方裁判所判決 T 7211, 2003. Blomberg (2009), p.14. ストックホルム地方裁判所判決 T 97, 2004. 81 (Försäkringsaktiebolaget Skandia) の子会社であるスカンディア生命(Skandia Liv) に対して 120 万人の保険契約者に対する賠償額を要求した。 − 1 万 5 千人が Opt In し、各構成員は会費を支払い、組織訴訟を起こすのに十分な資本 金を調達することに成功した。 − しかし、親会社と子会社が仲裁手続において和解し、親会社から子会社へ補償金が支払 われることになり、それに伴って原告は訴訟を取り下げた。 ⑦ブローベリィ対アフトンブラーデット (Linus Broberg v Aftonbladet Nya Medier AB)161 − スウェーデンの大手新聞社により開設されたオンラインゲームの参加費等を含む賠償 金(技術的トラブルのため、ゲームをすることが出来なかった)を求め、ブローベリィ (Broberg)ともう1名は自分たちと他 6 名のために提訴した。 − 地方裁判所は申立を、訴訟手続法第 42 章 4 条により、申立の法的根拠が不明瞭で、そ の訴状では訴訟を提起できないとして却下した。 − 地方裁判所の却下決定は控訴され、高等裁判所は原告が後に提出した補足記述も含めれ ば、契約違反による賠償金請求であるとの理解が出来ることから、原告の訴えを認めた。 − 再び地方裁判所にて新たに案件が取り扱われたが、GPA20028 条の要項を満たしていな い(集団訴訟ではなく、それぞれが個別の訴訟をするべきとの判断、そしてグループの 資金問題)とし却下した。 ⑧エルネル対イェーテボリス・エーグナヘム (Lars Elner et al v Göteborgs Egnahem AB)162 − 購買したそれぞれの土地の地域暖房装置の所有権を主張し 2 名のグループ代表とその 他グループの構成員 30 名のために提訴。 − 提訴後数カ月のうちに被告が原告の要求に耳を傾け和解交渉がなされると、原告は集団 訴訟を取り下げた。 ⑨デヴィートル対テリア・ソネラ (Devitor v TeliaSonera AB)163 − 株式会社デヴィートル(Devitor)はスウェーデンの最大テレコムオペレーターであるテ リア・ソネラを相手取り、契約内容に反して請求された利用額の返還を求めた。 − 地裁は原告に状況の追加情報と集団構成員を断定するよう指示したが、定められた期間 内に補足情報は提出されなかった。 − 161 162 163 案件は第 8 条 4 号の要項を満たしておらず、また原告がどのグループが対象となるかを ストックホルム地方裁判所判決 T10992, 2004. イェーテボリ地方裁判所判決 T 7247, 2005. ストックホルム地方裁判所 T 5254, 2006. 82 明瞭に記述しなかったとして却下。高裁に控訴されたが、原告がこれを自ら取り下げた。 ⑩リンドベリィ対ボートシルカ市他 (Peter Lindberg v Municipality of Botkyrka et al)164 − 市営の児童養護施設で幼少時に粗末な扱いを受けたとし(不当差別の訴え)、リンドベ リィ(Lindberg)は自身と組合「盗まれた幼少時代」 (構成員 32 名)のために提訴。 − 本件は、12 件の中で始めて Trial までいくことになった。2008 年 10 月に提起され、2009 年 3 月中に裁定がでるというスピード審査となった。165 ⑪ヴィールボリ対スウェーデン国 ( 法 務 監 察 長 官 を 通 じ て )( Pär Wihlborg v The Swedish State through the Chancellor of Justice)166 − 他の EU 諸国より個人的にワインをはじめとするアルコール飲料を輸入したヴィールボ リ(Wihlborg)が、没収などに対する賠償を自身と非営利団体「EU 内の個人輸入に関 する集団訴訟組合」の構成員のために提訴。 − 案件は、EU 内におけるアルコール飲料の個人輸入の可否をめぐり、欧州裁判所からの 判断をまず仰ぎ、案件はそれまで保留とされた。 − 欧州裁判所からの判決は、そのような個人輸入を禁止する規制は EU の規定に反すると の判断を下した。 − 案件は地裁において、まだ再び取り上げられてはいない。 ⑫オスム対スウェーデン国 (Olivia Ozum v Sweden)167 − 比率の少ない男子学生を優先して入学させる方針の男子学生用の大学入学特別枠をめ ぐり、オスム(Ozum)は自身と 46 名の他の入学を認められなかった女子学生のために 460 万 SEK の賠償を求め農業大学を相手取り提訴。 − ウプサラ地裁は 2008 年 9 月に集団訴訟として扱うことを容認した。168 (6) 現状制度の課題及び今後の方針 ①Per-Hanrik Lindblom (Uppsala 大学教授)の意見 2009 年 3 月 2 日にスウェーデン・ストックホルムにおいて Per-Henlik Lindblom 教 授と面会し教授の現在の制度への評価や意見などを聴取した。同教授は個人的意見と しながら以下の点を指摘された。 164 165 166 167 168 ストックホルム地方裁判所判決 T 9893, 2006. Per-Henri Lindoblom 教授へのヒアリングより(2009.3.2) ナッカ地方裁判所判決 T 1286, 2007. ウプサラ地方裁判所判決 T 3897, 2008. Group Litigation in Scandinavia (Per-Henrik Lindblom, Jan. 2009), p.17. 83 少額のケースで Opt In 方式で行うと誰も集まらないという懸念もあり、全面的 Opt Out 方式であるほうがいいと当初より考えている。また Opt Out 方式は、政治的な理 由がなければ導入は可能であると思う。ただし、通知の問題などもあることから課題 があるのも事実である。Opt Out 方式にこだわり、政治的な理由により導入できない より Opt In 方式でも制度があったほうがいい。全面的 Opt Out 方式が無理でも、妥協 制度として、ノルウェーのように、少額に関しては Opt Out 方式、大きなケースは Opt In 方式というコンビネーション型でもいいと思う(法学者の間ではコンビネーション 型を推す人が多い) 。 基本的には、すべてが Opt Out 方式の方が今でもいいと思うが、その一方で、大き なケースになった際に、すべての人が本当に拘束されてもいいのかという疑問を持っ ていることも事実。また、Opt In 方式の場合、通知はそれほど大きな問題ではないが、 Opt Out 方式の場合、通知がすべての対象者にいきわたっているかどうかは手続上非 常に大きな問題。 さらに、Opt In 方式の場合、クラスには自主的に入ってきた人たちであり代表選び も含めそれほど難しくないが、Opt Out 方式の場合は、そういうわけにはいかない。 少額の場合は、Opt Out 方式の方がいいと思うが、金額的にどのくらい以下なら Opt Out 方式がいいかという額はよく分からない。公的集団訴訟の場合は信頼できるので、 すべて Opt Out 方式でもいいと思うが、私的集団訴訟の場合、100 ユーロ(約 1 万円) 以下くらいが妥当ではないかと思う。 スウェーデンでは通常、経費の支払いに関して English Rule であるが、原告が勝っ ても 2,000 ユーロ以下だと American rule となり、原告は被告からコスト回収ができ ないし(通常の訴訟のように) 、個人の保険もこういった訴訟へのコストは負担してく れないことから現実的には訴訟が起こせないような状況。だから少額は Opt Out 方式 が必要であると思う。 ブラジル、デンマーク、イタリアのように責任論まで Opt In 方式、Opt Out 方式で 行い、被害の回復は個別訴訟でという例もあるが、スウェーデンの場合、被害の回復 まで裁判所で決定しなければならないしくみとなっている。 2003 年制度が制定されて以来、訴訟は 12 件で件数としては少ないが、多数の消費 者が関わっているので、効果的であったと思っているし、何よりそういった訴訟が提 起できるようになったということで、企業に対して、抑止力的な意味合いがでてきた 84 ことが大きい。 事実、12 件のうち 1 件を除き、私的集団訴訟であるが、個人的なリスクを負ってま で訴訟を提起していることに正直驚いている。当初は、私的集団訴訟はほとんどなく、 団体と公的集団訴訟が半分半分くらいではないかと予測していたが、蓋を開けてみる と私的集団訴訟のみであった。団体訴訟がないのは、消費者団体の活動があまり活発 でないことや法廷での経験などがあまりないからではないかと思う。また、公的集団 訴訟がないのも、消費者庁には人的、財務的なリソースが乏しく、いったん訴訟を提 起すると他の事業が滞ってしまう可能性があることや、もともとストックホルムにあ ったのがカールスタッドに首都機能分散ということで移され、それらを嫌がりカール スタッドに行かなかった職員も多く、一から出直しみたくなってしまったこと、さら には、カールスタッドということで情報が集まりにくいということも理由だと思う。 現在のところ、団体、公的集団訴訟はうまく機能していないと思う。 ほとんどのケースが上位裁判所まで持ち込まれているので、クラスアクションとし て認可されるかどうか自体の判断に約 5~7 年はかかると思う。 2003 年に導入された制度の評価プロジェクトが行われ、関係者がヒアリングに呼ば れ、評価はすでに終了している。その評価は、一人の女性裁判官によって行われ、 (同 教授は)その評価結果に対して必ずしも納得しているわけではない。 制度が導入されて約 5 年経過したが、今だ、ビジネス界は集団訴訟自体に反対して いる。 スウェーデンでも日本のように消費者は被害に関して厳密な証拠を提出する必要が あるが、もっと簡素化する必要があると思っている。 ②評価レポート 2007~2008 年にかけて司法省は、GPA2002 施行後 5 年が経過したことから、同法の 評価プロジェクトを実施し、約 300 ページにわたる評価レポートを作成した。 この評価プロジェクトは、司法省によって行なわれ(一人の女性裁判官が担当) 、実際 に起こったケースを把握するために、クラスアクションを扱える全ての地方裁判所に アンケートが送られた(2007 年秋)。また、677 の会社法などを扱っている法律事務所 へ同法の運用実態、それらの影響などを把握するためのアンケートが実施され(2007 年秋)、さらに、2008 年には 4 回にわたって、関係者(法律事務所、原告代表など) へのヒアリングも行なわれた。 85