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【コラム】Web2.0と経験マーケティングの可能性

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【コラム】Web2.0と経験マーケティングの可能性
5-4 Web2.0とネット広告・マーケティング
Web2.0と経験マーケティングの可能性
第
5
部
ネ
ッ
ト
ビ
ジ
ネ
ス
事
業
者
動
向
324
++
山崎 秀夫●野村総合研究所 上席研究員
ルの変更が必要であったのだ。
21世紀初頭のドットコムバブルの崩
ブログ、自作音楽、コメントなどの投
壊から回復過程においてインターネッ
稿を認め、専門家との議論や参加者同
若者がBBCテレビ離れを始めている
ト上で始まったとされる第二の革命的
士の社交のためのコミュニティを立ち
現状を考えれば、たとえデジタル放送
な波の特徴を、技術論ではなく社会論
上げる。またBBCが提供する記事の写
時代になってオンデマンド型のサービス
的な見地から一言で述べれば、ネット
真などは、参加者がブログのために加
に移行しても、それだけで視聴率が本
上での「コモンズ」
(ネット上での中世
工するなどの自由使用が認められてい
格的に回復するとは考え難い。英国の
の入会地)の出現とその中での個人に
る。また、ネット専用のドラマや音楽
若者は携帯電話を含めたインターネッ
よる「エクスペリエンス」
(豊かな自己
番組の提供なども計画されており、こ
トに魅力を感じ始めている。インター
表現による思い出に残る経験)が可能
れまでのBBCの姿とはまったく異なっ
ネットの世界ではWeb2.0と呼ばれる革
となる時代が始まったと表現すること
たものとなっている。
命的な第二の波が始まっており、ブロ
ができる。それはマーケティングから見
その背景には、携帯電話やインター
グの投稿やネットによる音楽、動画ブ
れば、経験マーケティングを展開する
ネットのサービスに魅力を感じる英国
ログの投稿、参加者同士の穏やかな社
基盤がインターネット上に現れたこと
の若者がBBCテレビを見なくなったと
交や協働作業などが可能となっている。
を意味する。
いう事情がある。BBCの調査によれば、
そこで英国BBCは、米国における2
ここではまず、伝統ある英国BBCの
16歳から24歳までの若者の25%は1週
つのSNS、MySpaceとYouTubeを徹
テレビ放送のビジネスモデル変更を事
間にまったくBBCテレビを見ないとい
底的に調査したと言われている。そこ
例として取り上げることにより、イン
う結果が出ている。また60%の若者は
にはティーンエージャーをはじめとする
ターネット革命の第二の波の特徴であ
1週間に3時間しかBBCテレビを見な
米国の若者の新しいライフスタイルが
る「コモンズ」と「エクスペリエンス」
くなっている。BBC放送の特徴は、高
突如出現したからである。2006年5月
の出現の背景と内容について説明する。
いコストをかけてハイクオリティの番組
末現在で、MySpaceの参加者数は約
次に、経験マーケティングの視点から
を制作する点にある。しかしクオリテ
8,100万人であり、14歳から20歳台前
の可能性を述べよう。
ィが高くても、若者の目から見て面白
半の若者がまるまる一世代参加してい
いかどうかはまったく別問題である。
ると言われている。彼らの新しいライ
■マスを脱却する英国BBCの戦略
英国には地上波テレビ放送局は4つ
フスタイルとは何だろうか。彼らはま
2006年 4月 25日、英国の公共放送
ぐらいしかない。その中でBBCの視聴
ずインターネットのコミュニティや携帯
として有名なBBCは、「クリエイティ
者がこの状況では英国の若者のテレビ
電話で仲間たちと社交をする。そして
ブヒューチャー」と名付けられた新た
離れも相当深刻と言えるだろう。すで
「あのドラマが面白い」という話になっ
な戦略計画を打ち出した。2012年、
にマスコミ型のテレビ放送は若者に対
て初めてテレビを見る。これは知り合
英国では地上波のアナログ型テレビ放
する魅力を失っているのである。BBC
いの経験が口コミを通じてテレビとい
送が廃止され、完全にデジタル放送へ
放送において従来のマスマーケティン
うサービスへ向かう動機付けになって
と移行する。この計画は、そのための
グがもはや若者を魅了しなくなったと
いることを意味している。
技術環境変化に対応したビジネスモデ
いうことであろう。これは米国でも同
ルの変更として発表された。
じである。
また2005年春頃、草の根的な動画
ブログによるSNSを開始したYouTube
発表された内容によれば、BBCの国
地上波テレビのデジタル移行は世界
は、月間1,200万人のユニークビジター
内テレビ放送後1週間、英国内では番
的な流れである。英国は2012年、米
数を抱えている。2006年中にはこの数
組をオンデマンド型で視聴できる。ま
国は2009年、日本は2011年に地上波
字は、さらに伸びるだろう。
た番組を携帯電話からもオンデマンド
のアナログ放送が廃止され、完全にデ
視聴できるとされている。
ジタル放送に移行する計画である。判
受信料制度により支えられている。テ
さて、BBCは日本のNHKと同様、
これだけではすでに韓国で実現され
り易く言えば放送終了後、何時でも番
レビを見ない若者がこのまま大人にな
ているサービスとあまり変わり映えしな
組がインターネットからオンデマンドで
ると、次第に受信料制度に対する批判
い。しかし、すごいのは、ホームペー
視聴できるサービスが技術的に可能に
や廃止論が高まることが考えられる。
ジを参加型へ全面的に見直す点であ
なる。BBC放送は地上波の完全デジタ
こうしてBBCは受信料制度を維持し若
る。視聴者によるブログや写真、動画
ル移行に対処するため、ビジネスモデ
者を引き付けておくために、MySpace
インターネット白書 2006
++
Web2.0とネット広告・マーケティング
やYouTubeのようなネット環境を準備
すでにオープンソースソフトウェアの
い、コミュニティでの社交、インスタ
し、若者をはじめとする視聴者の自由
活用に関してはGPLと呼ばれるルール
ントメッセージングによる社交やコラボ
な自己表現を認め、数千万人が参加
ができあがっている。次はデータの番
レーション、MMORPGにおけるペル
する巨大な社交倶楽部を立ち上げる決
というわけである。ルールの上に立っ
ソナの活用などは、すべて参加者の自
意をした。
てお互いが思い思いの投稿やデータを
己表現であり「忘れられない体験」と
考えられる。
ここまで書き上げたとき、フジテレ
組み合わせて自己表現を行う環境が整
ビの動画SNS「WATCH ME!TV」
い始めている。その上で、SNSなどに
こうしてWeb 2.0により経験マーケ
のニュースが入ってきた。これはBBC
代表される対面イベントと組み合わせ
ティングの手法がインターネット上で
放送の構想とよく似ており、日本にお
た社交倶楽部が誕生し、会社や組織
花開く基礎ができた。これに口コミを
けWeb2.0時代の経験マーケティングの
を超えたクロスファンクショナルなチー
重ねれば、具体的なマーケティング手
第1号なのかと感激を新たにした。
ムによる協働作業(コラボレーション)
法ができあがる。ソーシャルブックマー
が可能となるというシナリオである。そ
クを活用したSNSなどのソーシャルコ
こでは参加者間で感情や感動の共有が
マースサイトがもうすぐ盛んになるであ
米国の経営雑誌ビジネスウイークな
可能になる。BBCの「クリエイティ
ろう。
どは、多くの人々が参加し、自己表現
ブ・ヒューチャー」計画にイメージア
や社交、協働作業を行う穏やかなイン
ップされているのは、正しく中世のコ
■コモンズは舞台装置
ターネット環境を「コモンズ」と呼び
モンズの姿である。「コモンズ」は、
始めている。
「コモンズ」は中世におい
Web2.0時代の経験マーケティングの舞
て存在した英国の村の共有地や入会地
台装置と言える。
のことである。そこでは村人たちの協
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■五感の働くネット体験
今後インターネット上で、穏やかな
「コモンズ」が広がるにつれて、ネット
上のマーケティングであるEコマースも
物理的な社会環境で注目されている経
働による放牧や果物の採集、フォーク
■コモンズで「忘れらない体験」を
験マーケティングの色彩を強めていく
ダンスのような祝祭が楽しく行われて
「エクスペリエンス」というのは参加
ことになる。経験マーケティングとい
いた。しかし産業革命により市場など
者の自己表現であり、社交や協働作業
うのは、五感による知覚体験を意味す
の競争環境が出現すると、
「コモンズ」 (コラボレーション)を通した「忘れら
る「フィール」、情緒的体験による
はあっという間に消え去ってしまった
れない体験」のことである。その最も
「センス」、考える経験を意味する「シ
(英国の哲学者ハーデイン著『共有地
高いレベルをピーク・エクスペリエンス
ンク」、行動経験の「アクト」、関係性
と呼ぶ。参加者一人一人が最も自分
重視の「リレート」から成り立ってい
る。 の悲劇』
)
。
さて、インターネット上では参加者
らしい自分として輝く瞬間である。わ
がお互いの投稿を共有するための著作
かりやすい例を挙げれば、2006年のト
たとえばブログやソーシャルネットワ
権のルールがローレンス・レッシグによ
リノオリンピックでフィギュアスケート
ーキングを活用した口コミマーケティ
り提案されている。たとえば写真やブ
の選手、荒川静香が得点にカウントさ
ングは関係性重視の「リレート」に分
ログなど個人の創造物の共有(借用や
れない演技とされたイナバウアーを演
類される。ネット上の映像や音楽など
引用など)である。そのためのルール
じることにあえてこだわった。その理由
の投稿からの口コミ誘発は「フィール」
は『クリエイティブコモンズ』と呼ば
はイナバウアーを演じている瞬間とは
や「センス」に分類される。物語風の
れている。これはまるで中世の入会地
「彼女が最も輝いている自分になれるピ
ブログは考える経験を意味する「シン
で育んだりんごを村人が共有する感覚
ーク・エクスペリエンス」の瞬間だか
で、個人の作成したブログや写真など
らである。
のネット上の創造物を取り扱うと言え
5-4
インターネット革命の第 2 の波は、
ば理解しやすいだろう。Aさんが投稿
ネットに出現したコモンズのなかで投
したハリケーン、カトリーナによる米国
稿を通じて歌ったり踊ったりする参加
南部の被害写真をBさんが自身のブロ
者の自己表現を「エクスペリエンス」
グ上で活用できるためのルールである。
の一種と考え始めている。ブログや写
ク」に対応する。
このように、ネット上で参加者は最
も自分らしい自分として輝くと共に、
仲間に同調効果を促し始めたのである。
真、動画の投稿、プロフィール上の装
++
インターネット白書 2006
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