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情報を発する責任、得る責任

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情報を発する責任、得る責任
最優秀賞(神奈川県知事賞)
情報を発する責任、得る責任
洗足学園中学校
「私はこの子を産んで良かったです。彼がい
るから、今の私達がいるんです。」
2年
矢嶋
花菜
だろうか?テレビで放送されたのは、ほんの一
面だけにすぎないと思う。
テレビの中でそう語る女性。傍らには、小学
数か月前、学校でNICUのドクターが講演
生位の女の子。腕の中には、3歳を過ぎても言
をしてくださった。NICUに来る様々な患者
葉を発しないという男の子。口の端からは唾液
さんの中で、彼はダウン症を例に挙げた。ダウ
が垂れ、2つの目は焦点が合わず、ぼんやりし
ン症の子は笑顔が可愛らしく、ピュアで勉強の
ている。それでも、その子を産んで良かったと
スピードは人と比べてゆっくりだが、養護学校
言える女性は強い人だと思った。しかし同時に、
で楽しく生活しているという説明だった。生ま
ハッピーエンドで締めくくった番組に、少し無
れてから3か月で亡くなった赤ちゃんの例も挙
責任さを感じた。
げ、
そのお母さんの横で弟を見ていた女の子が、
「生まれる前から、命がそう長くないと分か
自分と重なった。母親の言葉に深く頷いた彼女
っていたので、彼が生きた時間は短かったが、
はきっと、本当に弟の事が大好きなのだろう。
その分、両親と家族に愛され、かわいがられ、
これからの彼女の人生に“弟の障がい”が良く
とても幸せだっただろう。」
も悪くも色々な影響を及ぼすはずだ。
と、おっしゃった。友人は“まだ小さい命が、
時には、家族皆、弟にかかりきりで一人取り
あんなにも一生懸命に生きようとしているなん
残され、心細く、弟を恨めしく思う事もあるか
て、すごい”と話をしていたが、私は素直に感
もしれない。弟と同年代の子を見たり、友達が
動出来なかった。
兄弟とのエピソードを楽しそうに話しているの
テレビの番組も、ドクターの講演も、良い面
を聞くと、“もし、弟に障がいがなければ”と
しか言っていない。成長するにつれ伴うリスク
想像してしまい、悲しくなる事も、きっと、沢
や問題点、そして、当事者、家族の目線からだ
山ある。弟の成長を素直に喜べず、大好きな弟
けでなく、それを受け入れる社会の体制、特に
がいつも幸せであってほしいから、“いっそ、
テレビなどの報道機関は多様な面から、常に意
無邪気な子供のままでいて欲しい”と願う自分
見が偏らないよう、報じるべきだと思う。例え
に気づく事もあると思う。
ば弟は、小学1年生の夏休みに受け入れてくれ
私には2歳下の弟がいる。生まれつき知的な
る場所がなく、共働きの両親は、大変苦労して
遅れがあり、知っている言葉が少なく、助詞を
いた。また、水泳を習いたくても、こういう子
間違えるので、会話が難しい時もあるが、いつ
を許可してくれる所はなかなか無いのだ。
も笑顔で、皆に可愛がられる。怖い顔と、大き
今日、私達の周りは、様々な情報であふれて
な声が嫌いで、私が母にしかられると一番に泣
いる。情報を受け取る側も、色々な視点から情
き出すのは、必ず弟だ。
報収集するように気を付けたい。例え自分の反
おそらく彼は、自分が周りと違い、出来ない
対意見だとしても、きちんと情報を集め、そし
事があると分かっている。彼は、何か失敗する
て自分で再度考えてみる必要がある。インター
と、自分を責める。泣きながら、自分をたたい
ネットでは簡単に情報が集まるが、本当に自分
たりする。その時、彼は悔しいような、怒った
で見聞きしたものでない場合、その情報自体が
ような、とても悲しい顔になる。周りよりも遅
作られたり、操作されていないか、気をつけな
れをとっているという事実が、こんなにも彼を
くてはいけないのは、友達同士の噂話と同じだ
苦しめている。これでも、ハッピーエンドなん
と思う。
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