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アトピー性皮膚炎患者における庖疹性湿疹発症時の角膜ヘルペス

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アトピー性皮膚炎患者における庖疹性湿疹発症時の角膜ヘルペス
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日皮会誌:101
(14), 1783一1788,
1991 (平3)
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保子 川島 真
檜垣 祐子
小川
肥田野 信
高村
悦子*
要 旨
回,1名(症例1)が4回入院したため,延べ37例を
アトピー性皮膚炎患者33名において,庖疹性湿疹発
対象とした.年齢は3ヵ月から33歳,平均15歳,性別
症時の角膜ヘルペス合併について検討した.細隙燈顕
は男21名,女12名であった.
微鏡検査の結果5名(15.2%)が樹枝状角膜炎を合併
庖疹性湿疹の診断は典型的皮膚症状に加え,血清ウ
し,うち2名は両眼性だった.角膜ヘルペス合併に関
イルス抗体価,ウイルス分離またはマイクロトラック
与する因子として,高熱,重症の眼瞼ヘルペス,庖疹
ヘルペス⑥による螢光抗体法を参考にした.眼瞼ヘル
性湿疹の頻回の再発が示唆された.皮疹の広範囲のも
ペスの重症度は,眼瞼に小水庖が数個散在するのみの
のに合併しやすい傾向はなかった.またアシクロビル
ものを軽症,小水庖が密集し眼瞼の紅斑,腫脹が著し
全身投与は角膜ヘルペス予防に役立つ可能性があると
いものを重症,両者の中間を中等症とした.37例中ウ
思われた.
イルス血清抗体価や年齢,既往歴を考慮し,ほぼ確実
に初感染と診断したのは5例,再帰感染または再感染
緒 言
と診断したのは20例,不明12例であった.またこのう
角膜ヘルペスは角膜感染症のうち失明原因となりう
ち庖疹性湿疹の再発を繰り返す患者が5名(9例)あっ
る疾患の1つである.角膜ヘルペスはウイルスそのも
た.
のによる角膜上皮の障害である上皮型ヘルペス(樹枝
対象患者につき眼科で細隙澄顕微鏡検査を行い角膜
状角膜炎,地図状角膜炎)と角膜実質を侵しウイルス
ヘルペスの有無につき検討した.角膜ヘルペスの確定
抗原に対する免疫反応の関与が示唆されている実質型
診断は螢光色素に染まる特有の樹枝状の角膜上皮びら
ヘルペスに大別される.上皮型角膜ヘルペスは再発を
んを認め,角膜病巣の擦過物からのウイルス分離また
くり返すうちに,実質型ヘルペスに至ると,癩痕を残
は螢光抗体法で陽性所見を得たものとした.庖疹性湿
し視力の低下を招く.
疹発症時のADの重症度は皮疹の範囲にもとづき略
従来アトピー性皮膚炎(AD)患者に合併した角膜ヘ
全身におよぶものを重症,顔面以外に頚部など1∼2
ルペスについては治癒過程での角膜の上皮化が遷延し
力所に限局するものを軽症,両者の中間を中等症とし
たり,実質に癩痕を残しやすいなど,予後の悪さが指
た.さらにADの重症度や庖疹性湿疹の臨床症状,治
摘されている1)2)が,AD患者が庖疹性湿疹を発症した
療等と角膜ヘルペス合併との関係を検討した.
際の角膜ヘルペスについては,合併例はなかったとの
結 果
報告3)や,合併しても抗ウイルス剤等の治療ですみや
1.眼科所見(表1)
かに軽快したという報告4)5)が最近相ついでいる.今回
角膜ヘルペスは33名(37例)中5名(6例),
著者らは,AD患者の庖疹性湿疹発症時の角膜ヘルペ
ス合併について検討したので報告する.
表1 細隙燈顕微鏡検査結果
対象および方法
眼科所見
1979年から1990年のn年間に顔面を含む庖疹性湿疹
のため当科に入院したAD33名でそのうち1名が2
樹枝状角膜炎
角膜
東京女子医科大学皮膚科学教室(主任 肥田野 信
教授)
*同 眼科学教室
平成3年5月28日受付,平成3年8月14日掲載決定
別刷請求先:(〒162)東京都新宿区河田町8−1 東
京女子医科大学皮膚科学教室 檜垣 祐子
びまん性表層角膜炎
人(例)
5(6)
片眠性 3(4)
[両眼性 2(2)
15.2(16.2)
11(12)
33.3(32.4)
9.0(8.1)
笥讐
小円形びらん
3(3)
結膜
濾胞性結膜炎
15(16)
計
%
33(37)
45.5(43、2)
100.0(100.0)
1784
檜垣 祐子ほか
表2 角膜ヘルペス合併例
眼瞼ヘルペス
No 年齢 性
管
1
初回
37.0
膜,頚
4回目
40.0
初回
初回
39.4
顔,頚
中等症 軽症
顔,頚,指 重症
軽症
初回
2回目
39.0
膜,頚
中等症 軽症
膜,頚,胸 中等症 軽症
膜,頚
軽症
重症
男
14
[
18
2
6
3
10
4
5
18
女
男
男
33
女
言
発熱
℃
38.5
37.7
R
軽症
眼科所見(病日)
抗ウイルス剤投与
L
結膜
RL
角膜
RL
全 身
中等症
//
D/(6)
F/
//
D/(4)
(−)
ACV
IDU
ACV
D/(6)
(−)
//
D/(10)
ACV
ト)
DD(7)
(づ
(づ
DD(4)
(づ
FF
FF
皮 膚
(づ
(−)
D:樹枝状角膜炎
IDU
: idoxuridine
F:濾胞性結膜炎
ACV
: acyclovir
15.2(16.2)%にみられ,いずれも樹枝状角膜炎で,実
2)癒疹性湿疹の重症度
質性角膜炎はなかった.このうち2名は両眼性だった.
全身症状:39.0℃以上の高熱を伴ったものが3例
この他,明らかに単純ヘルペスによるとはいえないも
あった.
ののびまん性表層角膜炎を11名(12例),
皮疹の範囲:症例4で胸部にも認めたほかはほぼ顔
33.3(32.4%),
角膜輪部から球結膜にかけてのフリクテン様小円形び
面から頚部に限局していた.
らんを3名(3例),9.0(8.1)%に認めた.結膜では
眼瞼ヘルペス:皮疹は症例1を除き,罹患角膜と同
濾庖性結膜炎を15名(16例),
側の額や眼囲より出現拡大し,中等度以上の眼瞼ヘル
45.5 (43.2)%にみた.
2.角膜ヘルペス合併例(表2)
ペスを伴っていたが,両眼性角膜ヘルペスの場合(症
1)感染様式
例4,
6例中確実に初感染と診断しえたものはなかった.
1では罹患角膜と同側の眼瞼ヘルペスはむしろ軽度の
症例1,5は庖疹性湿疹を繰り返す患者で,それ以外
こともあった(図lc).
は初感染,再帰感染等の別は不明だが,いずれも初回
3)角膜ヘルペスの特徴
の庖疹性湿疹だった.症例1は10歳時角膜ヘルペスに
紅斑または水庖の出現を庖疹性湿疹の第1病日とし
罹患以後角膜ヘルペスとしてはいずれも右眼に2回再
た場合,角膜ヘルペスの合併が判明したのは,4∼10
発(12,
病日,平均6.2病日であった.いずれも軽度の樹枝状角
15歳)している.
5),一側の眼瞼ヘルペスは軽度であった.症例
膜炎で,2例は両眼性だった(図1∼3).また濾胞性
結膜炎を伴うものもあったレいずれも抗ウイルス剤点
眼等で1週間以内に軽快した.
表3 庖疹性湿疹の重症度と角膜ヘルペスの合併
角膜ヘルペス
例(眼)
%
例(眼)
表4 抗ウイルス剤投与と角膜ヘルペスの合併
発熱(℃)
∼37.9
24
38.0∼38.9
39.0∼
6
7
3
12、5
1
2
16.7
中等症
(O)
(3)
(3)
重症
(5)
(2)
0.0
acyclovir
7.0
vidarabine
16.7
40.0
皮疹の範囲
顔∼頚
躯幹や上肢を含む
計
例
%
17
1
19
1
0
5.9
5
26.3
全身投与
(8)
(43)
(18)
軽症
例
28.6
眼瞼ヘルペス
なし
角膜ヘルペス
抗ウイルス剤
投与せず
外用
acyclovir
26
11
37(74)
5
1
6(8)
19.2
9.1
16.2(10.8)
0.0
idoxuridine
外用せず
計
15
2
13.3
4
17
1
3
33.3
37
6
16.2
16.7
庖疹性湿疹竹刀亀鯛へ二-・、ス
「
1
図1 禎で例1:18歳.男.15歳.右角膜ヘルペス再発時の眼瞼ヘルペス岫;と,右樹
枝社角膜炎 b:.14歳,初[可の庖疹性湿疹 c の際.右眼瞼炎ぱ軽度だが角膜ヘル
ヘスを計併.以後瘤疹性湿疹を練り返し4回に 18歳,右角膜ヘルペスを合併.
1785
絵-∃ 辻で5べ
Eヨこ,しj
Ii86
15/・
`5S.
ざ● ,・
亀
ド気”−
、。。……`ミ斗
声゛鯖゛゛心砂`
、' \
'゛l啼'・
●●一
b 川口I’
図2 症例2:6歳、女巳右の著明な眼瞼ヘルペス
図3 症例4べ8歳、男.眼瞼ヘルペスと結膜充血
a と、拉樹枝皿角膜炎 矢印丿bプ.
aレ乍角膜中央の小型の樹枝状角膜炎.右角膜も同
様呵見を呈した.
表5 71rピー性皮胃炎の重症度と角膜ヘルペスの合卜
の合併が多くなる傾向かあった.また眼瞼ヘルペスは
37例、74眼のうち、軽症のものでこ7%に角膜ヘルペ
スを言併しだのに対し、中等症、重症万万合併率ほそ
れぞれ16.7、40.0%と高ト傾向があった.二衣に対し
支疹の広範囲のものに合併しやすい傾向;ま々かった.
3)抗ウイルス剤投与(表Lレ
庖疹性湿疹に対しアシクロビルの全身投与を行った
例で;i5.9%に角膜ヘルペスを合併しだのに対し、投与
3.角膜ヘルペス合併に関与する因子
し々かった例でぱ26.3%と角膜ヘルペスの合併頻度が
1)疼疹性湿疹の再発
高かった.抗ウイルス剤の皮宿への外用の有無による
33名中、庖悟性湿疹をくり返すのに5名 1∼8囲
角膜ヘルペス合併率の差に明らかでたかった.
て、七心うち2名 丿目列1、5.それぞれ2、4同再
4) ADの重症度ぐ表5.
見 に官丿膜ヘルペスを白併しだ.また、角膜ヘルペス
庖疹性湿疹発症時のADの垂症度でよ、軽竹あるい
を介叫しか5乙歯、2・剔び呼=し什湿疹・をくり返してト
に中等症のADで角膜ヘルペスの介研削があったが、
重応竃との間に一足の傾「句にtlなかっだ.
2)庖疹性湿疹の重症度 友3
考 按
よ身尚尚として、高熱丿十う豆f貼まど角膜ヘルペス
AD古昔が庖疹性湿疹を発症した場合、今回の検討
1787
庖疹性湿疹時の角膜ヘルペス
では15.2%に角膜ヘルペスを合併したが,これは
ルペスの合併が少なく,角膜ヘルペスの発症予防に役
Borkら‘)の報告した7.9%に比べ高率であった.これ
立つ可能性が示唆された.樹枝状角膜炎の治療にはア
らは全て上皮型ヘルペスである樹枝状角膜炎で,実質
シクロビルの点眼か有効であるが,一方で抗ウイルス
型ヘルペスは1例もなかった.また全例抗ウイルス剤
点眼剤の角膜上皮に対する障害性が指摘されてお
の点眼で,後遺症を残さずすみやかに軽快した点は最
り8),安易に予防的使用はすべきでないと思われる.そ
近の報告4)5)に一致する.また興味深いことに今回角膜
の点からも,適応のある症例では抗ウイルス剤の全身
ヘルペスを合併した5名中2名が両眼性だった.両眼
投与を行うのが望ましいと考えられる.
性角膜ヘルペスはまれであり,全角膜ヘルペスの3%
また角膜ヘルペス発症時に眼痛等を訴える症例も
程度とされる6).以前からADや庖疹性湿疹に合併し
あったが,角膜ヘルペスに罹患した場合,角膜の知覚
た角膜ヘルペスは両眼性が多いことが指摘されてい
はむしろ低下することが多いため,庖疹性湿疹発症の
る6)7)ことから,AD患者の庖疹性湿疹発症時の角膜ヘ
際には自覚症状の有無にかかわらず,積極的に眼科的
ルペスは高率に両眼性となりやすいと考えられる.
検査を施行すべきと考えられる.また角膜ヘルペスは
角膜ヘルペス合併に関与する因子として,庖疹性湿
皮疹の軽快時になって発症することもあり,頻回に眼
疹発症時のADの重症度はあまり関係なく,庖疹性湿
科を受診する必要がある.今回の検討結果からは角膜
疹の再発をくり返す例では,角膜ヘルペスを合併しや
ヘルペスは発症してもその程度は軽いと考えられる
すい傾向があった.さらに庖疹性湿疹の重症度に関し
が,AD患者の角膜ヘルペスは頻回に再発をくり返し
ては皮疹の範囲よりも,高熱を有し,眼瞼ヘルペスの
やすくo,また角膜ヘルペスを含め再発性眼ヘルペス
著しいものに,角膜ヘルペスが合併しやすい傾向が
感染症は,眼瞼ヘルペスの重症だったもので再発率が
あった.今後さらに検討する必要があると思われるか,
高い9)ことから今回角膜ヘルペスを合併した患者はも
このような症例では角膜に到達するウイルスの量が多
ちろん,角膜ヘルペスに至らなかった患者においても
かったり,その機会が多いことか関係しているかもし
将来角膜ヘルペスとして再帰感染をおこす可能性を充
れない.
分考慮し注意深い経過観察を行っていく必要がある.
庖疹性湿疹に対する治療としての抗ウイルス剤外用
本論文の要旨は第672回研究東京地方会(1991年3月)で
の有無は角膜ヘルペス合併頻度にあまり関係がなかっ
発表した.症例1,5は林らが皮膚病診療9
たが,アシクi=・ビルの全身投与を行った例では角膜へ
報告した症例と同一である.
D, Entwistle
Herpes
the
simplex
atopic
C, Funk
keratitis
dermatitis
and
A, Witcher
J:
5) Margolis
keratoconus
in
disease
TP,
回叱110
: A clinical and im-
study,Trows Oththal SocUK,
6) Wilhelmus
95
1975.
eral
2) Garrity
tions
19
JA,
: 21-24,
3) Fivenson
involvement,
1037-1039,
cases,
1988.
/
complica-
DL,
Wander
AH:
eruption : Absence
of
y17・cみ£)er≫jαtol,1 26 :
1990.
K, Brauninger
eczema
: Ocular
herpeticum
Am
: 274-279,
KR,
herpetic
385-387,
of ocular
J OpMhal-
1990.
Falcon
MG,
keratitis, Br
Jones
J
BR
: Bilat-
Ophtha加叱65:
1981.
性角膜ヘルペスの臨床像,臨眼,43
Breneman
varicelliform
ocular
of
TL
herpeticum,Am
dermatitis,Can J Obhihalmol, 7)高村悦子,高野博子,中川ひとみ,内田幸男:両眼
1984.
DP,
Kaposi's
4) Bork
Liesegang
of atopic
Ostler HB: Treatment
in eczema
munological
: 267-276,
1987に
献
文
1) Easty
: 153,
Acad
8)高村悦子,鈴木真理,笠置裕子,中川 尚,内圧I幸
男:3%アシクロビル眼軟膏の副作用,あたらしい
眼科,3
W : Increasing
: Analysis
Dermatol,
incidence
of seventy毛ve
19 : 1024-1029,
: 200-201,
1989.
9) Wishart
Recurrent
tion
J
: 1631-1634,
MS,
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Dagrougar
herpes
: Epidemiological
Obhthalmol,71
S, Viswalingam
simplex
and
: 669-672,
virus
ocular
ND:
infec-
clinical features, Br
1987.
1788
檜垣 祐子ほか
Ocular Complications of Eczema
Yuko Higaki, Yasuko
Herpeticum
in Patients with Atopic Dermatitis
Ogawa, Makoto Kawashima,
Akira Hidano and Etsuko Takamura*
DepartmentofDermatology,Tokyo Women's Medical College
*Departinent
o fophthalmology, Tokyo Women's MedicalCollege
(Received
May 28,1991;acceptedforpublication
A ugust 14,1991)
Ocular
complications
dermatitis
were
keratitis seen
agents.
The
necessarily
effect to prevent
Qpn
Key
dendritic
of herpetic
episodes
higher
herpeticum
that involved
keratitis occurred
in this series were
incidence
blepharitis, or recurrent
not show
of eczema
studied. Herpetic
form
the face
in 5 (15.2%)
and
were
resolved
keratitis relatively increased
of eczema
incidence
herpeticum.
However,
of the association.
Systemic
J Dermatol
within
herpeticum,
2 0f them
several
patients with
with
atopic dermatitis
were
with
using
high
fever, severe
extensive
atopic
bilateral. Herpetic
days
acyclovir treatment
101: 1783∼1788,1991)
keratitis, eczema
eyelids in 33 patients
in patients
herpetic keratitis。
words: herpetic
and
patients, and
topical antiviral
herpetic
herpetic skin lesions did
seemed
to have
benefical
Fly UP