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言語障害児のための図形シンボルを用いた会話補助Web

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言語障害児のための図形シンボルを用いた会話補助Web
実践研究助成
特別支援学校
研究課題
言語障害児のための図形シンボルを用いた会話補助Web
アプリケーションの開発とコミュニケーション支援法の研究 その2
副題
ライブラリの拡張とコミュニケーションエイド機能の評価
学校名
長野県上田養護学校
所在地
〒386-0153
長野県上田市岩下462-1
学級数
25
児童・生徒数
213名
職員数/会員数
137名
学校長
春原
研究代表者
大久保
ホームページ
アドレス
http://www.ueda.ne.jp/~uedayogo/
超
哲綱也
1.はじめに
私たちは昨年度の助成研究において、コミュニケーション
充実が図れる新たな支援プログラムとして提案していく。
3.研究の方法
に障害をもつ児童生徒のための新たなソフトウェアと学習プ
ログラム開発を行い、一定の成果を挙げることができた。特
研究は「コミュニケーション支援システムの開発」と「コ
に新たに開発したWebアプリケーション「Clips」は、高い性
ミュニケーション支援のための授業プログラムの検証」とい
能を達成できたと自負している。
う二つのテーマを並行してすすめた。
対象生が習得したシンボル語彙は、コミュニケーション場
面で活かせる大切な学習成果である。それらの語彙を含んだ
(1) 実施期間
コミュニケーションエイドソフトウェアの開発は、机上の学
効であると考えられる。そこで「Clips」の語彙を充実させ、
ライブラリを作成することで日常生活に最低限必要な語彙を
保障すると同時に、習得した語彙からコミュニケーションエ
前期四月〜九月
習場面から、日常コミュニケーション場面への移行の為に有
イドソフトへと移行できる仕組みを考え、準備を開始した。
本研究は、前年度の「Clips」の開発成果を踏まえ、多様
な携帯情報端末に対応させつつ、ライブラリの拡張やコミュ
ニケーションエイド機能の改良などを加え、新たなWebアプ
リケーション「Droplet」システムを開発することを主な課
後期十月〜三月
2.研究の目的
コミュニケーション
支援システムの開発
・新たな機能の検討と仕様決
定
・ライブラリへの拡張シンボ
ルの追加(約 300 語へ拡
張)
・複数ユーザログインへの対
応のためのソフトウェアア
ップデートと動作チェック
・新たに対象を拡張した携帯
端末からの動作チェック
・個人データベースからエイ
ド画面を自動生成する機能
の作成と動作チェック
・複数ユーザログインと問題
生成のチェックと評価
・一般公開の準備と公開テス
ト
授業プログラムの検証
・拡張シンボルの選定とデザ
イン
・対象生の選定 予備評価と
個別プログラムの作成
・学習プログラムの開始(手
順は前年度研究に準ずる)
・学習プログラムの実行と評
価
・授業プログラムから見たソ
フトウェアの評価 とデー
タ分析
・まとめ
題とする。同時に、それを用いて行うコミュニケーション支
援授業のプログラムを改善していく。具体的には、生徒に専
用の情報携帯端末を用意し、ソフトウェアの新機能が個々の
(2) 対象生
① M生(高等部三学年)
障害特性や学習課題に対応でき、実際のコミュニケーション
知的障害。話し言葉無し。昨年度の研究でClipsおよび
場面で役立つものであるか評価を行う。それをもとに、障害
Dropシンボルを導入。学習効果が改善され、課題となっ
児の日常のコミュニケーションにおけるAAC手段の活用の
ていた動詞や助詞の理解と活用が進んだ。
第33回 実践研究助成───213
特別支援学校
期間
5.研究の経過
② K生(高等部三学年)
LD。場面かん黙。知的な遅れは少ない。筆談でコミュ
ニケーションをとることができる。昨年度「Clips」とシ
上述の通り、ソフトウェアは当初の予定よりも拡張され、
ンボルを用いた支援を導入することで、コミュニケーショ
多機能になった。これは仕様を検討する経過で「個々のソフ
ン意欲の増大が見られた。
トウェアの為にシンボルを作成するのではなく、高品質なラ
③ Y生(高等部一学年)
イブラリをデータベースの中核にし、それを様々な支援用単
広汎性発達障害。知的な遅れあり。日課や手順に関する
機能ソフトウェアから呼び出して使う」という考え方に切り
こだわりが強く、安定した精神状態での学習が難しい。一
替えたためである。これによってDropシンボルに親しんだ
日の予定の確認や、生活を振り返る学習でシンボルによる
生徒に対して「同じデザインのシンボルを用いた◯◯という
支援が可能であると考え導入した。
機能のソフトウェアを適用したい」というニーズが浮かんだ
時に、それをすぐに実装するという対応ができるようになった。
4.研究の内容
具体的には、「Clips」で「動詞」や「語連鎖」を学習した
生徒が、習得した語彙を印刷したボードを持ち歩きたい、と
(1) コミュニケーション支援システムの開発
いうニーズが生まれた場合「プルダウンメニューから選択す
るだけで簡単にボードができる」ソフトウェア
① ハードウェア面での拡張
スマートフォンや携帯ゲーム機など、子供たちが持ちた
いと願い、経済的負担が少ない機器を新たに対象にした。
「DropBoard」を用いるという対応ができるようになった。
個々のWebアプリケーション機能と特徴は以下の通り。こ
それによって、将来的な導入負担が少なく誰でも使えるシ
れらの諸機能は、昨年度の「Clips」のアーキテクチャを基
ステムに近づいた。
本にWebアプリケーションとして開発しているため、特別な
また、サーヴァPCはこれまでよりセキュリティレベル
の高い環境を構築した。それによって一部の機能ではある
が、研究協力校以外へのソフトウェア公開が可能になった。
② ソフトウェアの開発
設定やインストールなしにすぐに使える様になっている。
(1) シンボルライブラリ「Drop」
高解像度印刷にも対応できる品質(A4サイズで印刷して
もジャギーがでず、逆に小さな情報端末で表示しても細部が
ソフトウェアの仕様は、最終的に当初の想定を大きく拡
張するものとなった。詳細は後述。
つぶれないようにデザインされている)。また、線画と色デ
ータを別々に管理しているため、ユーザのニーズによっては、
色や細部の大きさなどの変更が可能である。
ボード作成ソフト
「DropBoard」
中核となるシンボル
ライブラリ「Drops」
動詞・語連鎖学習
ソフト「Clips」
VOCA ソフト
「DropVox」
Droplet システム
図1
Dropletシステム概念図
(2) コミュニケーション支援のための授業プログラム
の検証
個別学習は、基本的に昨年度のものを基本に下表の様に改
良した。
図2
Dropシンボルの例
(2) VOCAソフトウェア「DropVox」
今回の主要な開発ソフトウェアであり、Dropシンボルと
音声を組み合わせて、簡単にVOCAソフトウェアとして使う
ことができる。あらかじめ画面に幾つのシンボルを表示する
か(1から9まで選択可能)を選び、それぞれにシンボルを
割り当てるだけでVOCA機能が起動する。
ステップ
1、Drop シンボルを
用いた単語の理
解度の確認
2、語連鎖と理解度
の確認
3、フリートーキン
グでの文章叙述
具体的な内容
・1セッション未習得単語5語、習得単語5語ずつで課題作
成。「スピーチ→絵カード」「絵カード→スピーチ」でのマッ
チング課題
Clips と DropBorad を用いて、基本的な語彙による二語文(三
語文)形成。
支援者と共に自由に会話を行う。支援者は出来る限り、単語
レベルではなく、二語文以上の文章を作ることをうながす。
各対象生への対応
M 生はトーキングエイドを併
用。
M 生はトーキングエイドを併
用。
トーキングエイド、筆談、絵
カード、など日常的 AAC 手
段を活用
1~3ステップを1セッション中で行い、繰り返す。4で抽出された語彙は、1~3の内容に組み込む。
4、次の学習で使用 個々に好きな話題を支援者とともに自由に話す中で、新たな M 生→好きな先生や場所
す る 為 の 単 語 を 単語の必要性やニーズを確認していく。他の教師の協力も得 K 生→ペットや就職先
Y 生→確認したい日課
て、授業での記録もつけ、それも参考にする。
抽出
214───第33回 実践研究助成
(3) 動詞学習、語連鎖学習ソフトウェア「Clips」
「Clips」はDropシンボルを利用して、動詞の理解や語連
鎖を学習する為のソフトウェアである。昨年度開発したシス
テムを改良し、機能が限定されている携帯機器のブラウザや、
古くて低スペックのコンピュータにも対応できるようになっ
た。殆どのコンピュータOS、PDA、スマートフォン、イン
ターネット接続機能のあるゲーム機で稼働に問題の無いこと
を確認した。
図4
DropBoardを用いて支援者と会話するM生
6.研究の成果と今後の課題
図3 様々な携帯機器での動作画面
(左:iPod touch、右:NINTENDO DS)
(4) ボード作成ソフトウェア「DropBoard」
学校はユーザである生徒だけでなく、それを支援する教員、
保護者もそれぞれに多様なニーズをもっている。「Droplet」
システムのサービスは、媒体を情報端末から印刷物までカバ
「DropBoard」は簡易VOCAソフトウェアで作成したシン
ーすることで、そういった多様なニーズに幅広く応えること
ボルの配置順をそのままボードとして印刷ができる。
ができるものになったと考えている。意外であったのは、
「Drop」は非常に高い解像度で作成されているため「パソ
Webアプリケーションの形で開発したのは「学校で学習した
コン上では綺麗だったのに、印刷するとジャギーがでる」と
ことを家庭や外出先での使用にスムーズにつなげたい」とい
いうことはない。また、ボードの背景も選択でき、ボードの
う願いからであったが、むしろそれによる「印刷物への転用
両面を活用する際に判別しやすいなどの効果をもたらすこと
の自由度の高さ」という副産物が好意的に受け入れられ、家
ができる。
庭での活用につながった、という点である。
今後はこのような支援者側のハイテクへの抵抗感、経験値
以上の様なシステムを用いて、個別学習や校外学習での活
用を繰り返した結果、対象生にとって「Droplet」システム
を考慮しながら、更に使いやすく便利な機能や活用方法を検
討していきたい。
はほぼ日常的なコミュニケーション用、語彙学習用ツールと
して定着した。単語レベルでの会話では、ほぼ間違いなく正
7.おわりに
しい単語選択で意思表出ができるようになった。特に昨年の
文でも主語と組み合わせて正しく使用できた。ボードに印刷
「Droplet」システムの一部の機能は既に以下のURLで実験
的に公開している。
したシンボルをポインティングする際にも、単語を組み合わ
http://droplet.ddo.jp/(要パスワード)
せて二語から三語文を作成できるようになった。また、学習
シンボルについては商用利用を除き無償で頒布し、他の非
場面での端末をこれまでのノート型コンピュータから、スマ
商用ソフトウェアへの転用や、教材への印刷などの二次利用
ートフォンに切り替えた場合にも、操作性の変化が少なかっ
についても自由とした。
たため、抵抗なく移行できた。
自宅に持ち帰っての使用にまでは至らなかったが、校外学
システム全体も、より機能を充実させた上で一般公開する
予定である。
習などでは、無線LAN環境のあるハンバーガーショップなど
に持ち出し、「DropVox」を立ち上げて支援者と会話するな
どの活用ができ、日常的な使用に広げることができた。
特に「DropBoard」は保護者にも好評で、学習が進んだ語
彙をボードに一覧にして印刷することで、家庭に持ち帰って
から話題にしたり、単語の復習に使ったり、という活用が広
げられた。
第33回 実践研究助成───215
特別支援学校
結果同様、二語文形成までで習得した語彙は、そのまま三語
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