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2 - 経済産業省

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2 - 経済産業省
製造業のビジネスモデルの変化と
経営合理化に関する調査研究報告書
2016年3月
年 月
1
目次
はじめに
I.
調査の視点
II
II.
製品のライフサイクルの変化
26
III.
イノベーション創出に向けた経営革新
32
IV
IV.
新市場創出に向けた外部資源活用 連携等
新市場創出に向けた外部資源活用、連携等
40
V.
価値創出に向けて
50
8
2
3
はじめに
4
5
はじめに
 我が国製造業企業は、アベノミクス効果の浸透や円高修正の効果によって、収益の改善や株価の上昇、さらに
は賃金引上げの動きが広がるなど 「経済の好循環」に向けて前進を続けている
は賃金引上げの動きが広がるなど、「経済の好循環」に向けて前進を続けている。一方、センサー技術やコン
方 センサ 技術やコン
ピューティング能力の発達に伴い、ものづくりの世界でもIoT(モノのインターネット)やビッグデータ解析を通じた
大きな変革が起きつつある。
 そのような環境下において、モジュール化や消費者ニーズの多様化などにより、製品ライフサイクルの短期化
が今以上に進み、製造業は技術力の維持・強化に留まらず、マルチマテリアル化をはじめ、常識にとらわれな
いプロダクトイノベーションが求められている。
 また、製造業の提供する価値自体もハードウェアのみならず多様な領域へ拡大しており、サービス化などビジ
ネスモデル・モノの売り方が変化している。こうしたことに対応するには異業種との取組み、外部リソースの活用
などと同時に、経営の合理化・スピード化を積極的に行うことが必要となる。一方、日本は質の高いカスタマーと
これまでその高い製品ニーズにきめ細かく対応してきた技術、経験を有しており、こうした取り組みに際しては
国内に開発拠点を設ける優位性があるとも考えられる。
 本調査では、このような製造業が提供するプロダクトやサービス化などのビジネス変革、経営改革について、事
例研究などを通して分析・整理した上で、マーケット拡大、創出に向けて日本の強みを活用する方策ついて幅
広い観点から検討を行った。
6
7
Ⅰ 調査の視点
Ⅰ.調査の視点
8
9
1. 調査の背景と目的
1 1 消費者起点のものづくり ~いかなる価値を提供するか~
1.1
 「技術立国」と言われてきたように、我が国の製造業の
競争力は革新的な技術力 安定的な量産を可能とす
競争力は革新的な技術力、安定的な量産を可能とす
る品質管理能力、そして高い生産性や省エネを可能と
する生産技術力などによって支えられてきた。しかし、
近年、製造業をとりまく環境とビジネスモデルが大きく
変化しており、このビジネスモデルの変化に対応した
市場創造を可能とする経営力が求められるようになっ
ている。
 製造業をとりまく大きな環境変化の1つはIoT(モノのイ
ンターネット)やビッグデータ解析技術の進展といえる。
IoTの進展はものづくりの現場のみならず、モノとサー
ビスの融合を促し、マーケティングの方法も大きく変え
ている。工業化量産社会では、メーカーが良かれと開
発した商品を消費者が選ぶという構図であったが、今
や消費者が求めるモノを自ら情報発信し、クラウドファ
ンディングという手法で自らがメーカーにもなれる時代
ンディングという手法で自らがメ
カ にもなれる時代
である。マスで商品を売る時代は終わり、多様化する
消費者ニーズにいかに“価値(かつてのようにハードウ
エアに限らず、サービスなどのソフトウエアも含む価
値)”を提供するかが重要にな
値)
を提供するかが重要になっている。
ている
 ビッグデータの解析技術の進展も驚異的な変化をもたら
している センサー技術やコンピューティング能力の高
している。センサー技術やコンピューティング能力の高
まりにより、あらゆる場面でデータを収集することが可能
となっており、このビッグデータを活用することで新たな
消費行動の気づきや、新たな社会的課題へのヒントを
得ることができ、潜在的に必要とされていた新たなマー
ケットを生み出すことも可能となっている。
 このように、IoTやビッグデータがもたらすインパクトは、
製造業の技術革新以上に 製造業をとりまくビジネスモ
製造業の技術革新以上に、製造業をとりまくビジネスモ
デルの変化に顕著に表れるようになっており、それは近
未来的には「メーカー(つくる人)」という概念を覆すよう
な大きな動きとなることも十分予想される。「何をつくる
か」というより、消費者に「どんな価値(サービス)」を提
供するか」がより問われるようになっており、いわゆる
マーケティングの強化という概念を超えた「消費者起点
のものづくり」を真剣に考えるターニングポイントを迎え
のものづくり」を真剣に考えるタ
ングポイントを迎え
ている。
 技術力に加えて、消費者起点の時代のプロダクトイノ
ベーションや経営改革力が問われる時代となっている。
10
2. 調査の視点
2 1 製品のライフサイクルの変化と消費者ニ
2.1
製品のライフサイクルの変化と消費者ニーズの多様化への対応
ズの多様化への対応
 前述したような潮流により、製品のライフサイクルは今以上に短期化すると予想され、このようなライフサイクルの変化
や ますます多様化する消費者ニーズに応えられる経営が必要とされている
や、ますます多様化する消費者ニ
ズに応えられる経営が必要とされている。
 ところで、日本ほど商品アイテム数の豊富な国はないと言われる。特にBtoCの消費財はその傾向が顕著である。アパ
レル業界のみならず、生活者に身近な化粧品や食品などにおいても四季に合わせた春・夏・秋・冬製品を揃えており、
四季がない単調な気候の国からみると、そのきめ細かさは脅威に映る。季節性のない定番商品も、モデルチェンジを頻
繁に繰り返すことが多い。
 一方で、海外の消費財メーカーには定番商品が数多い。化粧品などもその代表例で、何十年と容器のパッケージから
成分までを変えずに、高付加価値ブランドとして定着している商品は少なくない。捉え方次第では、日本企業は自ら製
品のライフサイクルを短縮化させ、過剰なコスト体制に陥っていたり、ブランド構築に失敗している側面もあるのではな
イ
イク を短縮化さ
過剰な
体制 陥
たり ブ
ド構築 失敗
る側 もある
はな
いか。企業にとっては、モデルチェンジすることなく、定番商品で稼げるに越したことはないからである。
 世界には定番商品のロングライフ化に成功し、高い利益率をたたき出している企業も少なくない。
最低限のルールは
の形状
欧州の大手食品メーカー
自社ブランドを維持する最低限のルールを定め、
それ以外はローカル色を出すことができる。定番
ブランドの長寿命化と世界中の多様なマーケット
ニーズへの対応を両立させ、かつ、主力となる原
材料の 括調達で価格競争力をつけ 世界中の
材料の一括調達で価格競争力をつけ、世界中の
誰もが知るロングライフ商品を生み出している。
11
2. 調査の視点
2 1 製品のライフサイクルの変化と消費者ニ
2.1
製品のライフサイクルの変化と消費者ニーズの多様化への対応
ズの多様化への対応
 前述したような問題はBtoBのビジネスにもあてはまる。
 下図は
下図は、毎年経済産業省が実施している国際競争ポジショニング分析(バブルチャート図)である。欧米や中国・韓国の
毎年経済産業省が実施している国際競争ポジシ
ング分析(バブルチ
ト図)である 欧米や中国 韓国の
バブルチャート図と比べてよく指摘されることは、「日本の化学メーカーは汎用製品に弱いが、機能性製品などのニッチ
トップに強い」という点にある。
 化学工業は装置型産業で
化学工業は装置型産業で、M&
M&
Aを繰り返して巨大化した欧米の
化学メーカーにはスケールメリッ
トで及ばない。それ故に、欧米化
学メーカーとの差異化戦略をとっ
ているとも言われるが、これは日
本のメーカーがきめ細かい顧客
の要望に応える技術力や経営姿
勢を有しているからである。
日系企業の国際競争ポジショニング
 このように、日本企業は欧米企業
が手を出したがらない多様なニッ
チ領域を攻めることが得意である
が、カスタマイズする=稼げる経
営とは限らない。
出所:株式会社富士キメラ総研「我が国企業の国際競争ポジションの定量的調査」(平成26年3月)
12
2. 調査の視点
2 1 製品のライフサイクルの変化と消費者ニ
2.1
製品のライフサイクルの変化と消費者ニーズの多様化への対応
ズの多様化への対応
【検討したいポイント】
 製品のライ
製品のライフサイクルの変化や消費者ニーズへの対応力が、企業の競争力にかかわるであろうことは間違いないが、
サイクルの変化や消費者
ズ の対応力が 企業の競争力にかかわるであろう とは間違いないが
稼ぐ経営という観点からは、それを「コントロールする力」が求められるのではないか。
 そこで、本調査では製品のライフサイクルの短縮化ありきで考えるのではなく、「本当に製品のライフサイクルは短くなっ
ているのか(自ら短命化を招いていないか)」「製品のライフサイクルの短縮化への対応力のみならず ロングライフ製
ているのか(自ら短命化を招いていないか)」「製品のライフサイクルの短縮化への対応力のみならず、ロングライフ製
品を生み出すマネジメントも重要ではないか」という視点も重視した。
小型モーター専門メーカーとして知られるM社は、各種モーターで高い世界シェアを有している。
各
高
同社の経営の特徴は大きく2点ある。まず、「小型モーター」に事業のドメインを絞り込んでいること。モーターの用途分野は時
代にあわせて多様に変化してきているが、小型モーター専業というポジションから逸脱したことはない。ドメインを絞ることで、
経営資源を集中できる。
もう1点の特徴は経営理念に「コストリーダーシップ戦略」を掲げていること。それを実践するためにとった方法が「標準化」であ
る。同社は1970年代から製品の標準化に取り組んでおり、それに合わせて会社のオペレーションも作り込んでいる。
同社のカタログを見れば一目瞭然であるが、同社がつくっているモーターは100種類もない。標準化して製品ラインナップを抑
えることで お客様に安くモ タ を提供することが可能となっている 製品を標準化すれば 生産設備も工程管理も すべて
えることで、お客様に安くモーターを提供することが可能となっている。製品を標準化すれば、生産設備も工程管理も、すべて
標準を作り込んで対応すればよいので、トータルでのコストダウン効果は非常に大きい。
お客様ごとにカスタマイズしたモーターをつくるのではなく、同社の規格品を買ってもらい、同社のモーターに合わせて設計し
てもらうのだから、日本メーカーらしくなく、欧米メーカーのスタンスに近い。その代わり、同社のモーターは安いというコスト面
でのメリ ト(価値)を顧客に提供することでマ ケ トシ ア獲得に成功した 高い営業利益を誇 ていたのも そのビジネスモ
でのメリット(価値)を顧客に提供することでマーケットシェア獲得に成功した。高い営業利益を誇っていたのも、そのビジネスモ
デルが成功したからに他ならない。
13
2. 調査の視点
2 2 イノベ
2.2
イノベーション創出に向けた経営革新
ション創出に向けた経営革新
 製品ライフサイクルや多様化する消費者ニーズにどう対
処すべきかを プロダクトイノベーションおよびプロセス
処すべきかを、プロダクトイノベ
ションおよびプロセス
イノベーションの両面から検討した。
 ところで、第5期科学技術基本計画にも「イノベーション」
という表現が多用されているが、政策立案者からも、企
業人からも、「イノベーション」の捉え方は様々である。
 ハードウエアに立脚する技術力は日本のお家芸であり、
ハードウエアを決して否定はしないが
ハ
ドウエアを決して否定はしないが、技術以外のサ
技術以外のサー
ビスなどの要素にもっと目を向かせ、「イノベーション=
革新的技術」という固定概念を払拭することも必要であ
る。
 経済政策的には、イノベーションとは開発者(企業また
は大学など)に利益をもたらすものであり、なおかつ、経
済社会に 定のインパクトをもたらすものと単純化でき
済社会に一定のインパクトをもたらすものと単純化でき
る。世の中にとっていかに画期的な発明であっても、事
業化に至らず、収益も生まないものはイノベーションに
は当たらない。
 一方、たとえ改良型の技術であっても、従来にはない機
能を付加することで世の中を変えるような画期的な商品
が生まれ(社会的価値が不連続に相転移する)、開発
者にも経済的利益がもたらされていればイノベーション
者にも経済的利益がもたらされていればイノベ ション
に該当すると考えられる。さらに、従来の製品に新たな
サービス(ソフトウエア)を付加することで画期的な商品
が生まれる可能性もある。
企業にとって利益を生み、かつ世の中に
画期的なインパクトをもたらす!
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2. 調査の視点
2 2 イノベ
2.2
イノベーション創出に向けた経営革新
ション創出に向けた経営革新
 イノベーションは技術・ハードウエア偏重で捉えるべきではないという点に加えて、イノベーションを生み出す素地となっ
ているものは技術力以上に経営力ではないか という仮説を検証する
ているものは技術力以上に経営力ではないか、という仮説を検証する。
 「優れた技術を生み出しながらも、なぜ事業化で日本は負けるのか」という問題提起においても、事業化で負ける主たる
要因の1つが経営にある。「イノベーション経営」という言葉があるように、イノベーションを生み出す経営というものがど
ういうものかを深掘りすることも必要だ 特に 今はIoTの進展により 製造業やものづくりの概念も変わろうとしており
ういうものかを深掘りすることも必要だ。特に、今はIoTの進展により、製造業やものづくりの概念も変わろうとしており、
そのような時代の画期的なイノベーションとは、グレーゾーンの業界だったり、法制度や各種ルールが未整備の領域に
こそ起こる可能性が高く、ここがフロンティア領域となる。製造業という範疇から脱することなく、既存の規制やルールの
枠内にとどまっていては、画期的なイノベーションは期待できない。こうしたフロンティア領域に市場を開くのは、技術力
ではなく、経営力にかかってくる。つまり、IoTやビッグデータ解析力の高まりといった潮流変化において、経営力がイノ
ベーションを規定する大きな要因になってくると考えられる。
 日本の素材産業は競争力があるといわれるが、マルチマテリアルという世界の潮流において、米国などでは学会融合
が始まり、アカデミアが率先して素材の融合領域の研究に重点を置いているのに対し、日本のアカデミアや産業界は縦
割りの風潮が強く、これでは日本の素材力も盤石とはいえない。フロンティア領域へ挑戦する上での経営力は、個社の
問題にとどまらず、業界やアカデミアの問題でもある。
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2. 調査の視点
2 2 イノベ
2.2
イノベーション創出に向けた経営革新
ション創出に向けた経営革新
第5期科学技術基本計画より抜粋
第2章 未来の産業創造と社会変革に向けた新たな価値創出の取組
知識や価値の創出プロセスが大きく変貌し、経済や社会の在り方、産業構造が急速に変化する大変革時代が到来
している。このような時代においては、次々に生み出される新しい知識やアイデアが、組織や国の競争力を大きく
左右し いわゆるゲ ムチ ンジが頻繁に起こることが想定される また ICTの進化に伴うネ トワ ク化や
左右し、いわゆるゲームチェンジが頻繁に起こることが想定される。また、ICTの進化に伴うネットワーク化や
サイバー空間利用の飛躍的発展は、こうした潮流の牽引役を担っており、我が国、そして世界の経済・社会が向か
う大きな方向性を示している。インターネットを媒介して様々な情報が「もの」とつながるIoT、全てとつなが
るInternet of Everything(IoE)が飛躍的な広がりを見せる中、莫大なデータから新たな知識が創出され、ま
た 過去には全く想定されていなか た異なる事象の結び付きや融合から 消費者の
た、過去には全く想定されていなかった異なる事象の結び付きや融合から、消費者のニーズに合わせた新たな製品
ズに合わせた新たな製品
やサービスが生まれ、一気に市場が広がるなど、様々な形でイノベーションが生み出される状況を迎えている。
こうした中、過去の延長線上からは想定できないような価値やサービスを創出し、経済や社会に変革を起こして
いくためには、これまでの基本計画で進めてきた取組に加え、更なる挑戦を促すような新機軸のアプローチを打ち
出すことが必須となっている。
先行きの見通しを立てることが難しい大変革時代においては、ゲームチェンジにつながる新たな知識やアイデア
を生み出し、時代を先取りしていくことが不可欠である。このため、新しい試みに果敢に挑戦し、非連続なイノ
ベ ションを積極的に生み出す取組を強化する。
ベーションを積極的に生み出す取組を強化する
また、ネットワーク化やサイバー空間利用の飛躍的発展といった潮流を踏まえ、サイバー空間の積極的な利活用
を中心とした取組を通して、新しい価値やサービスが次々と創出され、社会の主体たる人々に豊かさをもたらす
「超スマート社会」を未来社会の姿として共有する。その上で、こうした社会を世界に先駆けて実現するための取
組を強化する
組を強化する。
16
2. 調査の視点
2 2 イノベーション創出に向けた経営革新
2.2
 以上のことから、本調査では以下の4つの視点(問題意識)も重視した。

イノベーションの定義を明確化し、サービス(ソフトウエア)
ベ
定義を 確化
ビ (
ウ
)
も活かした事例を取り込むことで、技術(ハードウエア)偏
重を払拭する

アップルやグーグルなどのビジネスモデルが脚光を浴び
る中、マルチマテリアル化など日本が強みとしている領域
でのプロダクトイノベーションに可能性を見出せないか
3M(スリーエム)はなぜ強いか?
3M
次々と革新的な製品を生み出す3Mはイノベーションの申し子と言われており、イノ
ベーションを生み続ける企業文化は広く知られている。その1つが「15%カルチャー」
で、勤務時間の15%を自由に使ってよいというもの。15%の時間は担当プロジェクト
以外のことに投入するよう促している。もう1つは「新製品比率」で、発売から5年以内
の新製品が部門売上高に占める割合を25%以上に保つことが事業部門長の責務と
なっている(最近は35%に引き上げられたという)。
3Mの本拠地は米国のアーカンソーの田舎町にあり、決して、米国有名大学の卒業
生ばかりを集めているのではなく、むしろ地元大学比率が高いという。経営力がイノ
ベーションで世界ナンバーワン企業を生み出す好事例といえる。


常識にとらわれないイノベーションの形態の1つとして、
常識にとらわれな
イ ベ シ
形態
とし
サービスや異業種との連携も重要な要素になっている
(マーケット創出につながる視点)
日本企業は技術力でイノベーションを牽引してきたが、経営
力が規定する要素が高まっている
GEはなぜ強いか?
GE
産業競争力につながるイノベーションとは、すなわち「稼ぐ力」に
他ならないが、社会課題を解決することによって利益がついてく
るという経営方針と、まずは利益をしっかり出してこそ、社会課題
解決が結果的についてくるという経営方針は時代によって揺れ
があり、鶏と卵の関係にあるともいえる。
以前の日本企業は前者寄りであったが、厳しい時代を経て、まず
は利益を出すことを第一義的に考える企業も多い。その一方で、
は、社会課題 解決を起点
ジネ を展開する姿勢
く
GEは、社会課題の解決を起点にビジネスを展開する姿勢が全く
ぶれず、一貫していることが強みかもしれない。
17
2. 調査の視点
2 3 市場創出に向けたオ
2.3
市場創出に向けたオープンイノベーション
プンイノベ ション
 日本には、米国発祥のコンビニエンスストアを飛躍的に
発展させたセブンイレブン 商品の豊富さと割安感で
発展させたセブンイレブン、商品の豊富さと割安感で
100円ショップを発展させた大創産業、時間指定やクー
ル便など宅配ビジネスの付加価値を高めたヤマト運輸、
SPAという製販統合モデルを突き詰めたユニクロのよう
なイノベ タ が流通業やサ ビス業には少なくない
なイノベーターが流通業やサービス業には少なくない。
 革新的な日本の流通業やサービス業の多くは、すでに
グローバルに事業展開している。技術力のある日本の
ものづくり企業は こうした異業種をパートナーにするこ
ものづくり企業は、こうした異業種をパ
トナ にするこ
とで、他国が容易に参入できないビジネスモデルをグ
ローバルに構築しうる。その典型例は、東レがユニクロ
と組んで世界的な大ヒットを生んだヒートテックではなか
ろうか 東レは NTTとの異業種 ラボレ シ ンにより
ろうか。東レは。NTTとの異業種コラボレーションにより
生体情報を取得できる機能素材hitoeを開発・実用化も
している。
 ロボットベンチャーのZMPは、小松製作所、ソニー、
ディー・エヌ・エー、インテル、日本マイクロソフトなど、数
多くの著名な大手企業との共同事業を展開中である。
 大手企業とのコラボレーションは研究開発型ベンチャー
が主役となりがちであるが、岩手県の水沢鋳工所が象
印マホ ビンと開発した炊飯ジャ は10万円を超える
印マホービンと開発した炊飯ジャーは10万円を超える
高額商品にもかかわらずヒット商品となり、訪日外国人
も競って購入した。最古の地場産業ともいえる鋳物にお
いても、新市場を創出する可能性を秘めていることを立
証した。
 第5期科学技術基本計画ではオープンイノベーションの
重要性を改めて取り上げている。市場創出のための
オ プンイノベ ションという切り口で 異業種をはじめ
オープンイノベーションという切り口で、異業種をはじめ
とする外部リソースの活用の効果、そのための事業
ポートフォリオの大胆な改革などに着目する必要がある。
 大手企業とベンチャー・中小企業とのコラボレーションも
大手企業とベンチャ 中小企業とのコラボレ ションも
動きだしている。人工のクモ糸繊維を開発したスパイ
バーというベンチャー企業は、自動車部品大手の小島
プレス工業と共同出資会社「Xpiber(エクスパイバー)」
を立ち上げ 量産化に着手している
を立ち上げ、量産化に着手している。
18
2. 調査の視点
2 2 イノベ
2.2
イノベーション創出に向けた経営革新
ション創出に向けた経営革新
第5期科学技術基本計画より抜粋
第5章 イノベーション創出に向けた人材、知、資金の好循環システムの構築
グローバル競争の激化により、いかに迅速に科学技術の成果を社会に実装し収益を得るかが問われる時代となっ
ている。その際、組織の内外の知識や技術を総動員するオープンイノベーションの手法が優位性を持つ。
イノベーションを結実させるのは主として企業であるが、イノベーションに必要な新たな知識や価値は、今や、
世界中の大学、公的研究機関、企業、消費者などを発信源として生み出されている。他方、我が国の状況を見ると、
イノベーションに必要な人材、知識・技術、資金は、大企業、中小・ベンチャー企業、大学、公的研究機関に偏在
している。我が国の企業、起業家等がこうした国内外の知的資源を活用し、迅速な社会実装につなげる機会を拡大
するには、組織やセクター、さらには国境を越えて人材、知、資金が循環し、その各々の持つ力を十分に引き出す
ことのできる仕組みを社会全体として構築していくことが必要である。また、迅速な社会実装の実現により、我が
国の企業や起業家等が収益を確保し、再度その収益の一部が我が国の科学技術イノベーションの基盤的な力の強化
に再投資されることで、関係者にとって互恵的かつ自律的なイノベーションシステムが構築される。
このため、オープンイノベーションを本格的に推進するための仕組みを強化する。企業、大学、公的研究機関が、
それぞれの競争力を高めるとともに、人材や知の流動性を高め、適材適所に配置していくことを促す。これに伴っ
て産学官連携活動を本格化する。
また、スピード感を持ち、機動的又は試行的に社会実装に取り組むポテンシャルを有するベンチャー企業の創
また
スピ ド感を持ち 機動的又は試行的に社会実装に取り組むポテンシ ルを有するベンチ
企業の創
出・育成、知的財産の社会全体での有効活用、イノベーション創出に向けた制度の整備・見直しを図ることにより、
人材、知、資金の好循環を促し、迅速かつ柔軟な市場化を下支えする。さらに、イノベーションの源となる知識や
技術、ニーズやビジネスの機会が、国内の様々な地域、世界の様々な国・地域に存在していることを踏まえ、グ
ローバルな視点に立ってイノベーションの創出を促す。
バ な視点に立
イ
創出を促す
19
2. 調査の視点
2 3 市場創出に向けたオ
2.3
市場創出に向けたオープンイノベーション
プンイノベ ション
 ここで着目したい点は、市場創出につながるオープンイノベーションに至るまでの経営の意思決定プロセスにある。自
、
、
製
前主義からの脱却といっても、日本の大手企業は様々なリソースを抱え込んでおり、どうしても内製しがちである。足
りない経営資源を他者から調達することはあっても、自前でもできるかもしれない事業を市場投入のスピードを重視し
て他者と連携する事例はあまり多くないと思われる。
 一方で、リスクを伴う事業をむしろベンチャーと連携して行い、失敗しても本体への影響を最小限化することを目的と
するケースもあるだろう。どのような経営判断の下に市場創出のための異業種連携や他者資源の活用が図られてい
るかを分析することで、経営革新へのメッセージとすることも必要だ。
 なお、異業種連携で留意したいのは、大手製造企業が主導する形ではなく、異業種が開発型ベンチャー企業と組ん
で製造業に参入するといった、「外部連携による製造業への参入(新たな市場の創出)」が今後増えてくると考えられ
る点にある。
 「ロボットタクシー」を運営するロボットタクシー株式会社は、DeNAのインターネットサービスにおけるノウハウと、ベン
チャ 企業であるZMPの自動運転に関する技術を連携させることにより 自動運転技術を活用した旅客運送事業の
チャー企業であるZMPの自動運転に関する技術を連携させることにより、自動運転技術を活用した旅客運送事業の
実現を目指している。ロボットタクシーは「自動運転技術を活用した新しい交通サービス」を生み出すことであるが、
「自動運転」というカテゴリでは自動車メーカーと競争領域が重なってくる。
 「自動運転」をクルマの未来技術と考えるか
「自動運転」をクルマの未来技術と考えるか、新たな交通サ
新たな交通サービスを生み出す手段と捉えるかでは
ビスを生み出す手段と捉えるかでは、市場創出のアプ
市場創出のアプ
ローチ方法が全く異なる。市場創出のための他者連携の推進は、ものづくり企業にも経営スタンスの見直しを迫るも
のとなる可能性がある。
20
2. 調査の視点
2 3 市場創出に向けたオ
2.3
市場創出に向けたオープンイノベーション
プンイノベ ション
 大手製造企業が市場創出を目的に異業種やベンチャー企業とのオープンイノベーションに取り組むねらい
経営戦略上の狙い
 サービス化
異業種
市場創出に向けた
外部との連携
同業種
大手製造企業
ベンチャー企業
 消費者起点の商品開発 等
 開発の効率化
 標準化・共通化による市場シェ
ア確保、等
 新技術獲得
 市場投入のスピード化
 リスクヘッジ 等
 基盤的技術の活用
既存の中小企業
 小廻りのきく機動力、等
 コストダウン
その他外部リソース
 市場投入のスピード化
 選択と集中 等
21
2. 調査の視点
2 3 市場創出に向けたオ
2.3
市場創出に向けたオープンイノベーション
プンイノベ ション
 ベンチャー企業のZMPはコア技術「自動運転」をベースに多くの企業とパートナー関係を結び事業を展開している
テクノスデータサイエンス・マーケティング株式会社
テクノスデ
タサイ ンス マ ケティング株式会社
インテル株式会社
 自動運転技術への支援によるパートナーシップの強化
エヌビディア合同会社
 ZMPのセンサデータとTDSM のデータ解析技術によって、未来の社会基盤とな
る人工知能プラットフォームの提供に向け協業。ZMPから資本参加
Telemotive AG
 運転支援システム(ADAS)向け画像処理GPU技術の提供
 テレモーティブ社はLIN、CAN、FlexRay、MOST、 Ethernet and Bluetoothなど
の複雑な自動車ネットワークのスペシャリストで、各自動車メーカーの製品開発
における重要なパートナーとして知られている。
株式会社小松製作所
 建設・鉱山機械の無人化・自動運転化で協業
株式会社ディー・エヌ・エー
株式会社JVCケンウッド
 miuro音響設計パートナー。2013年(株)カートモを共同設立
 2015年5月ロボットタクシー株式会社を共同設立
日本ナショナルインスツルメンツ株式会社
ソニー株式会社
 NI LabVIEW のグラフィカルな開発環境にてRoboCar® 1/10を使用したカーロ
ボテ ク
ボティクスの開発が可能
開発が可能
 自動運転車両用センサー・カメラの協業
THK株式会社
日本マイクロソフト株式会社
 物流支援ロボットのマーケティング・販売を推進
THKインテックス 株式会社
 クラウド、SQL Azureを活用した車両のビッグデータ処理で協業
株式会社ハーツユナイテッドグループ
 物流支援ロボットの共同開発と生産支援
ベクター・ジャパン株式会社
 「自動車業界向けのデバッグ及びデータ収集等実験代行に関する事業」を行う
株式会社ZEGを設立
 RoboCar® 1/10、RoboCar MVと総合測定ツール「CANape」がXCPにより接
続
マミヤ・オーピー株式会社
マミヤ
オ ピ 株式会社
 ゴルフ場芝刈り機向け障害物検知機能を共同開発
出所:株式会社ZMPウェブサイトよりMURC作成
22
3. 調査の目的
3 1 産業競争力にむすびつく経営革新とは
3.1
 以上のような調査の視点を盛り込みながら、本調査では製造業が提供するプロダクトやサービスなどのビジネス変革、
経営改革について、その有効性について事例分析等を行い、マーケットの拡大・創出に向けて日本が持つ強みをいか
に活用すべきかに
に活用すべきかについて検討を行った。
検討を行 た
製品ライフサイクルや多様化する消
費者ニーズへの対応力が産業競争力
を規定しうるのか。
先進諸外国をはじめとする海外では
製品ライフサイクルをコントロールす
ることで収益を確保している部分もあ
るのでは。
一方で、本来日本企業は顧客へのき
め細かい対応を得意としてきている
め細かい対応を得意としてきている。
常識にとらわれないプロダクトイノベー
シ ン プ セスイノベ シ ンを可能とし
ション、プロセスイノベーションを可能とし
ている背景には何があるか。
海外の先進事例では経営がイノベーショ
ンを創発する要素が大きいのではない
か また 融合化も進展しているのでは
か。また、融合化も進展しているのでは
ないか。
一方で、日本が強いマテリアル等の分野
で常識にとらわれないプロダクトイノベー
ションを可能とする方法とは
ションを可能とする方法とは。
製造業企業における新たなマーケット創出
において、サービス化や異業種、大手と中
小やベンチャーとの連携、外部リソースの
活用等が有効ではないか。
海外では市場創出のためのオープンイノ
ベ ションは当たり前ではないか
ベーションは当たり前ではないか。
日本には革新的な小売流通業や技術力
のあるベンチャーが多数存在し、もっと他
者資本を活用することで新たな市場創出
が十分可能ではないか。
合理化、スピード化、事業ポートフォリオの見直しといった経営改革、経営戦略がどうかか
わっているか。
マーケットの拡大・創出に向け、日本の強みを活用する方策、そのた
めの経営革新への気づきを明らかにする。
23
3. 調査の目的
3 2 調査の進め方
3.2
Step1:仮説構築
Step2:製品のライフサイクルや多様化する消費者ニーズへの対応と、
先行研究、資料収集
産業競争力との関係にかかる調査・分析
Step3:イノベーション創出に向けた経営革新のあり方にかかる検討
学識者・有識者ヒアリング
企業ヒアリング
Step4:新市場創造に向けた外部資源活用、連携等にかかる検討
(ケーススタディ)
Step5: 検討結果のとりまとめ
製造業のビジネスモデルが変化している中、日本の強みを
活かしていかにマーケットの拡大・創出を図るか
24
25
Ⅱ 製品のライフサイクルの変化
Ⅱ.製品のライフサイクルの変化
26
27
1 製品のライフサイクルの変化について
1.製品のライフサイクルの変化について
 製品ライフサイクルの短縮化等と企業競争力の関係
製品の特徴と寿命(※)の変化の関係 事業タイプ型&業種別
 過去
過去、日本政策投資銀行や経済産業省の調査等
日本政策投資銀行や経済産業省の調査等
で、製品ライフサイクルの短縮化の傾向が分析され
てきた。例えば、2007年版ものづくり白書では業種
毎のライフサイクルの短縮率にふれ、電機等の業
種で短縮化傾向にあり、業種間の格差があること
が示された。
 また、2013年版ものづくり白書では商品のモデル
チェンジの短縮化傾向について分析され、製品の
デジタル化やモジュール化及び技術革新のスピー
ドが加速するにつれ、製品寿命が短期化する傾向
がある。特に 電機産業ではライフサイクルの短縮
がある。特に、電機産業ではライフサイクルの短縮
化が顕著で、収益力に大きな影響を与えていると
考えられる。
 一方で、直近の調査からは、自動車部品産業では
方で、直近の調査からは、自動車部品産業では
モデルチェンジの長期化、モデルチェンジにおける
設計の再利用(なるべく同じ部品を使う)、部品の共
通化などが進んだ影響で、製品のライフサイクルが
長期化する傾向が認められている このように 必
長期化する傾向が認められている。このように、必
ずしも一方向に向かっているとは言いがたい。
(※)次回モデルチェンジまでの平均年数
(出所)経済産業省「2013年版ものづくり白書」.
28
2 製品のライフサイクルへの対応方向
2.製品のライフサイクルへの対応方向
 製品のライフサイクルの変化(短縮化)に対処する方法は、3つに大別できる。ライフサイクルの短縮化に対応できる体
制を構築することは重要であるが、同時に、有識者からは長寿製品をつくることの重要性が指摘された。
制を構築する
は重要 ある 、同時 、有識者 らは長寿製品を くる
重要性 指摘された。
経営改革
製品のライフサイクルの変化
(短縮化)
 今回の関心テーマであるが、意思決定のスピード化を図る等、製品のラ
今回の関心テ マであるが 意思決定のスピ ド化を図る等 製品のラ
イフサイクルの変化に合わせて、スピーディな経営体質へと変えていく。
製品のロングライフ化
 ロングライフ化とはコモディティ化を防ぎ、市場で収益を確保できる期間
有識者インタビューより
を長くすること。製品の差異化性を高めて長寿ブランド化することが望ま
 利益を生むものづくりに
利益を生むものづくりにこそ価値がある。もっと稼ぐことに
そ価値がある も と稼ぐ とに
注意を集中させるべき。
しい
しい。
 限られた経営資源を集中させて世に送り出す製品の数を
絞り込み、長く通用する製品に仕上げること。経営資源は
有限なので 何かをやるには 何かをやらないという判断
有限なので、何かをやるには、何かをやらないという判断
をしなければならない。
 「とりあえずの新製品開発」は即刻やめるべき。1つの製
品へもっと注力すべきである。年間60個もの製品を出す
製
ケースと、年間3個しか製品を出さないケースでは、1つの
製品への注力の度合いが全く異なる。
 他社の参入を防ぐために特許などの知財で防衛することも含まれる。
事業領域をシ ト
事業領域をシフト
 製品のライフサイクルの短縮化は主にBtoCの領域で顕著化しており、
BtoBの事業領域へシフトしたり、ライフサイクルの短縮化が避けられな
い領域から撤退する。
29
3 経営改革~事業環境変化と企業・産業競争力
3.経営改革~事業環境変化と企業
産業競争力
 日本能率協会の調査(注1)によると、企業が営業・マーケティング領域で特に重視している仕組みについてみると、
「お客様ニーズの先取り対応」、「高付加価値型製品・サービスの提供」、「顧客情報の蓄積と活用等の顧客ニーズ
お客様
先取り対応」、 高付加価値型製品 サ
提供」、 顧客情報 蓄積 活用等 顧客
の多様化への柔軟な対応」、「商品開発のスピードアップ等のスピード重視の取り組み」などが挙げられている。
 製品ライフサイクルの短縮化に対応するには、顧客ニーズを吸い上げ、それをいかにスピーディに商品化に結び
つけられるかがポイントになる。
(注1)日本能率協会(2013)「2011年度 第33回 当面する企業経営課題に関する調査」
企業インタビューより
 当社は新規プロジェクトの発案も、意思決定も、すべて企画・マーケティング部門に任せている。社長や経営幹部は、
それをバックアップするだけで、口を出さないことにしている。
 当社はBtoC商品をつくっており、お客さんに一番近いところにいる社員が主導権をとり、かつ、30~40歳代の社員
が活躍し、50歳を過ぎたら商品企画には口出ししないようにしている。若い社員の感性に任せている。
 今、売れ筋の商品がいつまでも売れるとは限らない。客筋が変われば、売れるモノも変わる。いくらよい製品をつくっ
が
が
ば
ても、お客にあったものをつくらなければ売れない。理想を追いかけてもダメで、いろいろな条件が揃わないと売れな
い。ならば経営幹部があれこれ口出しするのではなく、実際にモノを売っている人を中心に企画させた方がよい。思
い切り任せて、会社がリスクをとってやらせてみることが重要と考えている。
30
31
Ⅲ イノベーション創出に向けた経営革新
Ⅲ.イノベ
ション創出に向けた経営革新
32
33
1 研究開発プロジェクトにかかる意思決定のあり方
1.研究開発プロジェクトにかかる意思決定のあり方
 イノベーションの創出に向けた経営革新は、研究開発テーマ等の決裁も経営トップから権限移譲が進んでおり、迅速な
対応が可能と考えられる。
 経済産業省の調査によると、市場創出に向けた研究開発テーマの決裁(決裁権限の所在)についてみると、オープンイ
ノベーションの活発化を認識している企業ほど、取締役・CEOで決裁している比率が低く、部長・研究所長、CTOで決裁
する比率が高くなっている。
研究開発テ マの決裁(決裁権限の所在)
研究開発テーマの決裁(決裁権限の所在)
(出所)経済産業省「オープンイノベーションに係る 企業の意思決定プロセスと課題認識 について」、研究開発・イノベーション小委員会(第3回)、平成28年1月18日.
34
2 研究開発や事業化における意思決定のあり方
2.研究開発や事業化における意思決定のあり方
 「権限委譲」を進めることは、確かにイノベーションを活性化する手段として有効だ。しかし、今回の調査で実施した有識
者インタビューでは
者インタビュ
では、「権限委譲が問題ではない、管理職の意識改革が問題だ」との指摘もなされた。たとえ、CTOに権
「権限委譲が問題ではない 管理職の意識改革が問題だ」との指摘もなされた たとえ CTOに権
限を委譲しても、CTOがその権限を行使せず、経営会議にかけるようでは従来と何ら変わりないからである。
有識者インタビューより
 権限委譲されても、リスクを回避して、委譲された権限を行使しない管理職が多い。イノベーションを促すために決裁金
額を上げて、権限委譲をすべき、という議論は意味がない。たとえ1億円の決裁権限が与えられても、自分で決められず、
経営会議にかけているようでは、何の進歩もない。
 イノベーションで有名な3Mも、管理型の会社になりかかっていたところ、新たに経営トップに就いたウィリアム.L.マック
ナイトが、もっとアイデアを大切にしろ、ということで「汝部下のアイデアを潰すなかれ」とのおふれを出した。多くの場合は
管理職が部下のアイデアを潰している。そこで、3Mでは、部下のアイデアに対して上司は拒否権を持たないことにした。
 経営の変革には2つの軸がある
経営の変革には2つの軸がある。新しい探索の「exploration」と、さらに深化させるという意味での「exploitation」。日本
新しい探索の「exploration」と さらに深化させるという意味での「exploitation」 日本
はこれまで深掘り型でやってきた。世界中から面白い技術をピックアップして持ち帰り、深掘りして良いものにして世界中
にばらまく。技術が陳腐化して差異化要素にならない時代なのに、まだ社是が「技術の深掘り」となっている。もっと探索
に力をいれるべきであり、経営のマインドセットが必要だ。
 イノベーションの専門部隊(共創センター)は重要ではないか。経団連の21世紀プロジェクトでは、組織をつくっている企
業ほど成果が高い、経営の上層部がコミットしているほど成果が高い、という検証を行っている。そもそも担当役員がコ
ミットしないと新しい組織はつくれないので、組織と経営上層部のコミットとは表裏一体の関係にある。ただし、新しく組織
をつくっても、リスクの高いイノベーションをミッションとする組織と従来組織が同じような評価制度では上手くいかない。
新しいミッションに即した評価制度が必要ではないかと考えている。
35
2 研究開発や事業化における意思決定のあり方
2.研究開発や事業化における意思決定のあり方
 韓国の大手電機メーカーは「24時間以内に意思決定する」をモットーにスピード経営に邁進している。村田製作所は意
識的に意思決定者を育成し 大胆な権限委譲を実施している こうした事例を参考に 権限委譲が形骸化に陥ることな
識的に意思決定者を育成し、大胆な権限委譲を実施している。こうした事例を参考に、権限委譲が形骸化に陥ることな
く、実際のアクションとしてスピーディな意思決定を可能とし、イノベーションを促す風土にもっていくことが必要だ。
村田製作所のケース
 高い技術力で定評のある村田製作所は大胆な権限委譲でも知られている。30歳代の係長クラスが、CEOのように世界
中の顧客と直接交渉し、即断即決で事業を進めていく。それを可能としている背景には、「経営陣から権限委譲を受け、
意思決定をする専門の人材」を育成し、各現場に配置しているからである。
 開発や製造現場での活躍ぶりや語学などのコミュニケーション能力を見極めながら候補者を選定し、候補となった技術
者には複数の現場を異動させて様々な体験をさせ、意思決定者になるための専門教育を施す。
 通信事業部だけで、若き意思決定者が100人以上活躍しており、現地法人のスタッフにも白羽の矢をたて、意思決定者
として育てている。
 現在の権限委譲システムの原型が形作られたのは90年代前半で、かなり前に遡る。ところが、スマホの登場で主要顧客
がアップルやサムスン電子といった迅速な意思決定をモットーとする企業に変わると
がアップルやサムスン電子といった迅速な意思決定をモット
とする企業に変わると、同社の迅速な意思決定の仕組み
同社の迅速な意思決定の仕組み
は競合他社に差を付ける格好の強みになっている。
(出所:日経ビジネス 2014年7月7日 No.1748)
36
3 イノベーション創出に向けた経営革新
3.イノベ
ション創出に向けた経営革新
 我が国においては、大手製造業のならず、中小製造業においてもイノベーションに向けた取組が進められている。
 大同生命保険株式会社の調査によると、中小企業が、過去1年間で行った主な取組が示されている。業種別にみると、
中小製造業においては、「生産効率の改善(26.5%)」「新製品・サービスの開発(28.6%)」「設備投資(27.7%)」等で、
全体の傾向よりも割合が高く、イノベーションの創出に向けた経営革新の取組を重視していると考えられる。
中小企業が過去1年間に行った取組み(主な業種別)
製造業
卸売業
小売業
391
134
195
25
113
66
55
74
79
142
89
51
42
6
6.8
5.7
7.6
8.2 19.5 19.2 15.9
6.1 14.7
9.2
5.3
4.3
0.6
21
14
21
16
11
10
20
13
12
1
5.1 16.9 10.3
6.7
6.2
0.5
9.7
0.0 20.5 17.9 14.4 10.8
7.2 10.8
8.2
5.6 12.3 19.5
26
16
68
100.0 41.6 10.9
128
60
27
100.0 46.9 21.1
93
44
20
100.0 47.3 21.5
69
20
不動産・物
品賃貸業 100.0 29.0
6
8.7
75
36
9
その他サー
ビス業
100.0 48.0 12.0
39
22
12
15
15
10
6.7 10.5 16.4
24
154
100.0 34.9
25
28
186
19
99
35
189
68
238
40
146
66
38
63
9.2
5.0
6.3
6.3
4.2 28.6 27.7 26.5
17
12
4
6
12
11
2.3 10.2 13.3
9.4
3.1
4.7
9.4
8.6 24.2 14.1 10.2
12
6
5
2
6.5 12.9
3
1
13
12
1.1 12.9
6
6.5
5.4
2.2
7
6
3
0
4
11
1.4 10.1
8.7
4.3
0.0
13
13
5
3
0.0 22.7 17.3 17.3
6.7
4.0
1
0
17
9
21
18
14
9.7 22.6 15.1
8
5.8 15.9 11.6
6
31
11
5
13
6
59
そ
の
他
2.6 15.1 15.1 11.7
0
146
て特
Ⅴその他
費仕 ロ キ 直借 いに
の入
し入 な取
見 ・ の
条 い組
み
直原 改 シ
件
は
し材 善
の
し
フ
料
見
ュ
建設業
968
100.0 40.4 13.8
ー
合計
海
外
進
出
Ⅱ人材確保・ 育成
Ⅲ事業承継Ⅳ新事業・ イノベーシ ョン
育従 採新 し 人 直福 後
事 進新 ビ新 設 善生 化 I
・ 業 用規
件 し利 継
業 出規 ス製 備
産
T
訓員
従
費
厚 者
承
事 の品 投
効
の
練の
業
の
生 の
継
業 開 ・ 資
率
活
教
員
見
の 育
へ 発サ
の
用
の
直
見 成
の
改
強
ャッ
ー
計
Ⅰ販路開拓
拓新 直販
規 し売
顧
価
客
格
の
の
開
見
(上段:社 下段:%)
(上段:社、下段:%)
9
32
18
11
5
0
3.8 13.4
7.6
4.6
2.1
0.0
13
7
6
0
7.0 17.2 10.2
5.5
4.7
0.0
9
11
22
19
4
5
3
0
6.5 11.8 20.4
4.3
5.4
3.2
0.0
8
6
4
3
7.2 11.6
8.7
5.8
4.3
20
1
5
7.2 29.0
1.4
7.2
19
11
1
11
33
8.0 14.7 25.3 14.7 14.7
5
12
6
3
3
1
1.3 16.0
8.0
4.0
4.0
1.3
(出所)大同生命保険株式会社 『中小企業調査 「大同生命サーベイ 」半期レポート』、平成27年11月.
37
4 悲連続なイノベーションを創出する経営革新のあり方
4.悲連続なイノベ
ションを創出する経営革新のあり方
 外資系コンサルティング会社によると、IoTやAIなどデジタル化が進展する中、我が国企業は、スピード経営へのモデル
転換に向け 組織内の情報流通の仕組みを「情報共有型組織」へ変革することを必要としている また 事業モデルと
転換に向け、組織内の情報流通の仕組みを「情報共有型組織」へ変革することを必要としている。また、事業モデルと
して、個別/部分最適中心から全体最適中心へ、業務精度・品質重視から変化対応スピード重視への抜本的な転換
が急務としている。
 また、日本能率協会の調査(注)によると、事業創造活動を推進するための組織の仕組みとしては、人を基軸とした組織
能力を高める仕組み、マーケティングとR&Dの連携を基軸とする事業化プロセスの仕組みを課題とする企業が多いこ
とが示されている。 (注)出所は日本能率協会(2015)「2014年度 第36回 当面する企業経営課題に関する調査」.
 近年
近年、常識にとらわれないプロダクトイノベ
常識にとらわれないプロダクトイノベーションが求められているように
ションが求められているように、非連続なイノベ
非連続なイノベーションを連鎖的に創出す
ションを連鎖的に創出す
る経営の合理化・スピード化等の経営革新が求められている。例えば、NECパーソナルコンピュータは、生産技術等の
開発に加え、IT等を駆使し、我が国のものづくりに変革をもたらすスピード経営を実現している。米沢生産方式を一言で
表現すると、「生産技術、IT、財務管理手法を駆使して、徹底的な効率化、スピード向上、品質向上を実現し、継続させ
ている、米沢事業場におけるものづくりの方式」となる
づ
(注)。
(注) 出所はNECパーソナルコンピュータ(2015)「スピード経営が日本のものづくりを変える NECパーソナルコン
ピュータの米沢生産方式と原価管理」 はじめに.
 非連続なプロダクト及びプロセスイノベーションの創出に向けては、多種多様な取り組みの「仕組み化」が重要となり、
また取り組み同士の相性等もあり、最適化には工夫が必要となるのではないか。つまり、プロダクトイノベーションにつ
ながる経営の合理化・スピード化等は
ながる経営の合理化
スピ ド化等は、生産技術等に加え、IT活用、マネジメント手法等の取り組みの複合化によって
生産技術等に加え IT活用 マネジメント手法等の取り組みの複合化によって
実現され、個別の取り組みはシンプルでも、それらの「組合せの妙」が経営革新の核になると考えられる。
38
5 マテリアル系の強みを活かしたマテリアルイノベーションを支える経営革新
5.マテリアル系の強みを活かしたマテリアルイノベ
ションを支える経営革新
 我が国のマテリアル系の強みを活かしたマテリアルイノベーションを支える経営革新のあり方も重要だ。近年、データ
を活用した設計型物質・材料研究(マテリアルズ・インフォマティクス:MI)
を活用した設計型物質
材料研究(マテリアルズ インフォマティクス:MI) やマルチマテリアル化等のマテリアルイノ
ベーションが進展している。
 例えば、豊田中央研究所では、MIとして、ビッグデータや人工知能などを使った新しい材料設計手法を研究している。
幅広い分野の膨大なデータの検証が可能であり、計算結果だけで特許化が可能となるなど、新たな経営戦略としても
注目される また 大成プラス株式会社は 金属と樹脂の直接接合を可能とするナノモ ルデ ングテクノ ジ (N
注目される。また、大成プラス株式会社は、金属と樹脂の直接接合を可能とするナノモールディングテクノロジー
MT)等の研究開発を推進しており、「モノを作るのではなく、創り方を作る」を掲げ、マルチマテリアル化による幅広い
事業展開をしている。
 マテリアルズ・インフォマティクス、マルチマテリアルなど我が国の素材系の強みを活かしたマテリアルイノベーション
マテリアルズ インフォマティクス、マルチマテリアルなど我が国の素材系の強みを活かしたマテリアルイノ
ション
につながる日本らしい経営革新を模索していく必要がある。
有識者インタビューより
 材料の研究には長年の時間を費やし、また、研究段階ではアウトプットが見えていないことも多い。外で生まれた知識を
効率的に獲得してイノベーションをスピーディにやりましょう、という効率性追求型の「アウトサイドイン型」のオープンイノ
ベーションだけではなく、新しい価値を生み出すことに重点を置く「インサイドアウト型」 のイノベーションに日本はもっと
着目すべきだろう。
着目すべきだろう
 社内ではダメ技術が、外部に出すことによって新しい意味が付与され、価値が変わることもある。自分達は気がつかな
かっただけで、価値を生み出すことが可能となる。このインサイドアウトのイノベーションを活用することで方向転換するこ
とができる。TOTOの光触媒はその代表例で、開発した当時はTOTO社内で全く着目されなかったが、この光触媒を外
部化(インサウドアウト)することで、多様な技術展開の方向性を獲得することができた。
39
Ⅳ 新市場創造に向けた外部資源活用 連携等
Ⅳ.新市場創造に向けた外部資源活用、連携等
40
41
1 市場創出に向けたオープンイノベーション
1.市場創出に向けたオ
プンイノベ ション
 新たな市場創出に向けたオープンイノベーションについては、経営層からの権限委譲が成功の鍵を握ると考えられる。
経済産業省の調査によると、外部連携をするか否かの決定についてみると、オープンイノベーションの活発化を認識し
てみると、オ
ンイ
ションの活発化を認識し
 経済産業省の調査によると、外部連携をするか否かの決定に
ている企業ほど、「部長・研究所長」及び「各部門の最高責任者」へ権限委譲されていることがわかる。
外部連携をするか否かの決定(決定者)
(出所)経済産業省「オープンイノベーションに係る 企業の意思決定プロセスと課題認識 について」、研究開発・イノベーション小委員会(第3回)、平成28年1月18日.
42
1 市場創出に向けたオープンイノベーション
1.市場創出に向けたオ
プンイノベ ション
 オープンイノベーションというコンセプトは理解しやすく、専門組織や人員の配置等の体制整備もしやすいが、実効性が
高い仕組みにするための課題は多いと考えられる。
 経済産業省の調査によると、オープンイノベーションの推進に係る仕組みの整備について、活発化を認識している企業
では半数弱が設置している。しかし、仕組みを整備しているという企業でも、人員の不足や権限の制約等により、半数
弱はうまく機能しないとしている。
オープンイノベーションを推進する仕組みの整備状況と機能
(注) ここでの仕組みの整備とは、「専門組織の設置や人員の配置等」を指す。
(出所)経済産業省「オープンイノベーションに係る 企業の意思決定プロセスと課題認識 について」、研究開発・イノベーション小委員会(第3回)、平成28年1月18日.
43
1 市場創出に向けたオープンイノベーション
1.市場創出に向けたオ
プンイノベ ション
 オープンイノベーションに向けて、社外の外部連携パートナーが不可欠であり、多様かつ複合的なマッチングの場や
サービスの提供が始まっている。
 経済産業省の調査によると、外部連携先を探索するための取組として、展示会や論文・学会情報等、仲介事業者の活
用等を挙げる企業が多いことがわかる。仲介事業者の活用をはじめ、ニーズ発表会、ビジネスコンテスト、ハッカソン・
アイデアソンなどこれまでにない新たな取組のポテンシャルも高まる可能性が高い。
外部連携先を探索するための取組
(注) 上位3つまでの回答。
(出所)経済産業省「オープンイノベーションに係る 企業の意思決定プロセスと課題認識 について」、研究開発・イノベーション小委員会(第3回)、平成28年1月18日.
44
1 市場創出に向けたオープンイノベーション
1.市場創出に向けたオ
プンイノベ ション
 オープンイノベーションといっても、いくつかの段階や目的別に類型化をすることが出来る。例えば、オープンイノベー
ションは、①アイディア創出・事業構想面、②技術開発面、③社会実装・市場獲得面の3類型で整理することが可能で
あり、企業はそれらに応じた事業戦略が必要となる。特に、市場創出に向けたオープンイノベーションとしては、サービ
が
創
プ
ビ
ス・ソリューションの価値を最大化するために、多様なプレイヤーとの協調等による世界で稼げるビジネスモデルの構築
を目指すことが重要となる。
オ プンイノベ シ ンの3類型
オープンイノベーションの3類型
①アイディア創出・事業構想の面でのオープンイノベーション(目的探索型の外部連携)
例)アイデアソン ハッカソン等
例)アイデアソン、ハッカソン等
Goal:グローバルな規模で、現在未来の社会に求められている価値やアイディア、及びその実現手段の発見
②技術開発の面でのオープンイノベーション(手段探索型の外部連携)
例)産学連携や他社からのライセンスイン、ベンチャー企業のM&A 等
Goal:外部連携による研究開発期間の短縮
③社会実装・市場獲得の面でのオープンイノベーション(生み出される価値を最大化するための外部連携)
例)知財・標準等によるオープン・クローズ戦略等
Goal:サービス・ソリューションの価値を最大化するための、多様なプレイヤーとの協調等による世界で稼げるビジネスモデルの構築
(出所)経済産業省「イノベーションを推進するための取組について」、研究開発・イノベーション小委員会(第7回)、平成28年3月7日.
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1 市場創出に向けたオープンイノベーション
1.市場創出に向けたオ
プンイノベ ション
 参考事例:コニカミノルタ「共創の場」におけるイノベーション推進
 2014年7月
2014年7月、オ
オープンイノベーションを基軸とした価値創造・イノベーションを推進するため
プンイノベ ションを基軸とした価値創造 イノベ ションを推進するため、コニカミノルタ八王子
コニカミノルタ八王子
SKTの2階に「共創の場」を開設。
 「技術展示ゾーン」:コニカミノルタの技術を一同に集め、強みや可能性をお客様やパートナーに知っていただく
 「パートナー共創ゾーン」:パートナーをお迎えし共同開発や特別展示等により新たなビジネスチャンスを創出する
「パ トナ 共創ゾ ン パ トナ をお迎えし共同開発や特別展示等により新たなビジネスチ ンスを創出する
 「技術研鑽ゾーン」:共創ゾーンでの成果
やアイデアを具現化し、同時に技術・人財
の結集や開発力向上の支援
パートナー共創
ゾーン
技術研鑽
ゾーン
 これら3つの機能が、持続的な成長・
スパイラルアップしていくことを期待。
技術展示
ゾーン
図 3
3つのゾーンレイアウト
のゾ ンレイアウト
出所)KONICA MINOLTA TECHNOLOGY REPORT VOL.12(2015)よりMURC作成
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2 異業種とのコラボレ
2.
異業種とのコラボレーション
ション
 新市場創造に向け、製造業のサービス化や異業種とのコラボレーションの重要性が増している。東レとユニクロのよう
な典型的な成功事例のみならず、IoT化の推進とともに、製造業とIT企業との ラボレ ションも増えている。
な典型的な成功事例のみならず、IoT化の推進とともに、製造業とIT企業とのコラボレーションも増えている。
 経済産業省が推進している「IoT推進ラボ」において、様々なプレーヤー同士でのマッチングを支援している。
(出所)経済産業省商務情報政策局「IoT推進ラボ(IoT推進ラボの活動実績と今後の活動方針)」2016年2月
(出所)IoT推進コンソーシアム ウェブサイト
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3 外部リソ
3.
外部リソースの活用
スの活用
 オープンイノベーションも既に10年以上前から提唱されてきた概念であるが、近年、国内外の有力企業が、正式に専門
組織や部隊を立ち上げ ンセプトベ スからいよいよ実践の場に取組みが浸透し
組織や部隊を立ち上げ、コンセプトベースからいよいよ実践の場に取組みが浸透しつつある。
ある
 富士ゼロックスは、日本の未来を創る原動力とも言える中堅・中小企業が持つ“技術”や“ノウハウ”を組み合わせた、
オープンイノベーションにより、画期的なプロダクトイノベーションにチャレンジする「四次元ポケットPROJECT」を展開し
ている 第三弾まで展開中で 第 弾の将棋盤の商品開発の参画企業は以下の通り 全国から 製造業から非製造
ている。第三弾まで展開中で、第一弾の将棋盤の商品開発の参画企業は以下の通り。全国から、製造業から非製造
業まで意欲のある企業が、クラウドを通じて、自らの得意分野の技術・ノウハウを持ち寄り、大企業と中堅・中小企業の
コラボレーションによって、新たな価値を生み出そうとしている。
 先行事例としてよく取りあげられる米国企業のGEは
先行事例としてよく取りあげられる米国企業のGEは、長年、オープンイノベーションに取り組んできたが、2013年に
長年 オープンイノベーションに取り組んできたが 2013年に
「オープンイノベーション・センター・オブ・エクセレンス」という専門組織を立ち上げて、全社的にオープンイノベーション
を推進している。我が国製造業企業も、事業環境の変化をふまえ、今後は事業ポートフォリオの大胆な経営改革に踏
み込み、その過程で外部リソースの活用をもっと積極的に考えていく可能性が高まっている。
48
49
Ⅴ 価値創出に向けて
Ⅴ.価値創出に向けて
50
51
価値創出に向けて
 今回、有識者ヒアリングで何度も繰り返し指摘されたことは、追求すべきは「価値の提供」「価値の創出」であり、“技術
をはじめとするものづくりは、そのツールに過ぎない”ということであった。価値創造が目的であるはずなのに、未だに
づ
ぎ
創 が
ず
「技術開発」や「ものづくり」そのものが目的となってしまい、価値が置き去りにされている、との指摘である。製品ライフ
サイクルにしても、価値を提供することができなくなるから製品価値が失われる、すなわち、価値を提供し続けることに
もっと貪欲になれば長寿ブランドも構築できるはず という指摘である
もっと貪欲になれば長寿ブランドも構築できるはず、という指摘である。
 イノベーションに向けた経営革新においても、価値創造を誘発するための仕組みはどうあるべきか、そのための意思決
定や組織改革はどうあるべきか、という点から切り込まなければ、表向きの「権限委譲」に終わってしまう。世界一イノ
ベ ションが活発な企業として知られる米国3Mも「15%ル ル」などがよく取りあげられるが その背景にはウィリアム
ベーションが活発な企業として知られる米国3Mも「15%ルール」などがよく取りあげられるが、その背景にはウィリアム.
L.マックナイトの「汝部下のアイデアを潰すなかれ」という理念がある。価値に結びつくアイデアを管理職が潰さないよう
にするにはどうすべきか、そこが同社の全てのマネジメントの起点になっている。
 本調査の冒頭で「消費者起点のものづくり ~いかなる価値を提供するか~」において、ハードウエア偏重に陥らず、ソ
いかなる価値を提供するか 」において ハ ドウエア偏重に陥らず ソ
フトウエアもサービスも含めて価値を生み出すことが重要になってきていることに言及している。「何をつくるか」より、
「どのような価値を提供するか」がものづくりの使命であり、異業種をはじめとする業種や業態の垣根を越えた連携が、
今後より重要になってくる。
 我が国のものづくりは優れた技術ストックをたくさん持ち合わせており、コツコツ粘り強い現場もある。経営のマインドを
変えていくことで、新たな市場を開くことが十分可能なのである。
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価値創出に向けて
有識者インタビュー
 つくるのは「価値」であり、ものづくりはそのツールに過ぎない。あくまでも目的は価値創造である。日本企業ができていな
いのは、この価値創造である。価値を変えるところにこそ、ものづくりの技術が必要であるが、日本企業はここがうまく
いっていない。
 日本はなぜ凝ったものづくりができないのか。価値へ転換する技術(これこそが、ものづくりそのものであり、ものづくりの
本質である)ができていない。「ものづくり」は、価値を生み出すための技術である、と主張してもらいたい。
 日本企業の価値作りの根本的な問題は、「価値づくりリーダーの欠如」「その必要性への認識不足」「管理型リーダーば
かり多すぎる」「名ばかり組織が多すぎる」という点。感動する価値には統合的な価値リーダーが必要である。
 同じ技術でも、どういう価値に結びつくかはケースバイケースで全然違う。消費財でも生産財でも、プロフェッショナルとは
価値づくりに長けているところだ 特に消費財では「価値」はマーケティングから見出せるものではないので
価値づくりに長けているところだ。特に消費財では「価値」はマ
ケティングから見出せるものではないので、難しい。
難しい
 潜在ニーズの獲得に成功している企業は、これまでの延長線上で対応するのではなく、顧客が要求してこないところから
潜在ニーズを組み上げる手腕に長けている。
 これからのビジネスモデルを考える時、サービス・ドミナント・ロジックで考えるべきである。顧客は「モノ」を買うのではなく、
これからのビジネスモデルを考える時、サ ビス ドミナント ロジックで考える きである。顧客は モノ」を買うのではなく、
それを使って実現する「価値(サービス)」を買う。IoTはその傾向を加速させるだろう。
 幸いにして、日本の現場力の強さ、ものづくりが強いという特徴は、以前よりも強い差異化要因になっている。ところが、
それを戦略として儲けるビジネスに仕立てていくという絵図が描けない。現場力を活かす経営がない点が問題である。
53
2 「世界の共通合意となった社会課題」を解決するために創出される新市場
2.
参考事例
 なお、価値創出に取り組む上で、世界共通価値にも
留意していく必要がある。その代表例は、2015年9月
に採択された「持続可能な開発目標(SDGs)」で、こ
れは17の目標と169のタ ゲットからなっている
れは17の目標と169のターゲットからなっている。
 17の目標は、貧困、飢餓、健康・福祉、教育、ジェン
ダー、水、エネルギー、気候変動、経済成長、格差、
持続可能な消費と生産、気候変動、海洋資源、平和・
正義などから構成される。日本も策定に向けた議論を
主導し、交渉にも積極的に関与している。SDGsに向
けた取り組みは、政府、企業、NGO・NPO等多様な主
体の関与が期待されている。
将来のビジネ
スチャンスの
明確化
共通フレーム
ワークの中で
の意志疎通と
共通目標の掲
示
地域社会と
マーケットの安
定化
コーポレイト・
サステナビリ
ティの価値向
上
ステークホル
ダーとの連携
強化と政策と
の親和性強化
参考)WBCSD「SDG Compass」、外務省国際協力局資料「国内推進体制の検討状況、HLPF等の今後の予定、指標の検討状況」
(2016.3.25 持続可能な開発目標「ステークホルダーミーティング」準備会合資料)
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(様式2)
二次利用未承諾リスト
報告書の題名 製造業のビジネスモデルの変化と経営
合理化に関する調査 調査報告書
委託事業名 平成27年度製造基盤技術実態等調査
(製造業のビジネスモデルの変化と経営合理化に関す
る調査)
受注事業者名 三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)
頁
図表番号
タイトル
12
日系企業の国際競争ポジショニング
37
中小企業が過去1年間に行った取組み(主な業種別)
47
IoT推進コンソーシアムの体制図
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