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第2章 ストック推計の考え方と具体的な推計手法(PDF:1458KB)

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第2章 ストック推計の考え方と具体的な推計手法(PDF:1458KB)
第2章
ストック推計の考え方と具体的な推計手法
内閣府『日本の社会資本』では、社会資本 20 分野に関して、粗ベースの社会資本ストックを継続的に
推計・公表し、2007 年度版においては、試算値ではあるが、はじめて純ベースの社会資本ストックの算定
を行っている。社会資本に関して、分野ごとに資本ストックを算定・公表している統計は、わが国において
はこれが唯一のものであり、国民経済計算における社会資本の固定資産額推計手法の発展においても
寄与してきた。
近年、資本ストック統計に関しては、世界的に推計手法の改良に関する検討が進められており、従来の
粗資本ストック、純資本ストックに加え、生産的資本ストックの概念が提唱され、その流れを踏まえた推計
方法の見直しが求められている5。また、『日本の社会資本』においては、耐用年数の設定方法や災害復
旧費の取り扱い等について、社会資本管理の実態にあわせた見直しの必要性も指摘されてきた。
そこで、本書では、資本ストックの概念を整理するとともに、その推計手法について、国際的な議論も踏
まえて見直しを行い、従来の手法に加え、新たな手法に基づき最新年次までの推計を行った。
第1節
ストックのもつ意味
本節では、粗、生産的、純資本ストックの概念の違いと、生産的資本ストック概念を導入した背
景について説明している。
1
ストックの種類
資本ストックは、理論的なフレームワークでは、粗資本ストック、生産的資本ストックそして
純資本ストックの3つに区分される6。
本推計では、OECD による定義7を参考に、各資本ストックを以下のように定義する。
5
6
7
『統計委員会基本計画部会第2ワーキンググループ報告書(H20 年 8 月)』P31 において、
「国際的には、資本の
能力と価値の概念的分離、両者の関係性描写など資本ストックに関する理論的整理が行われ、従来の粗概念は
その役割を見出しがたくなっている。こうしたことから、ストック推計のフレームワークの抜本的な再設計と
その構築が不可欠である。」との指摘があり、平成 21 年 3 月 13 日に閣議決定された「公的統計の整備に関する
基本的な計画」では、国民経済計算における生産的資本ストック・純資本ストックの算定のベースとなる民間
企業投資・除却調査の実施、及び、生産的資本ストックに基づく資本サービス投入量の推計の実施がうたわれ
ている。
野村(2004),『資本の測定』,慶応義塾大学出版会(株),pp.63-70
OECD は、国民経済計算体系(SNA)に整合する形で、資本のフロー及びストックの情報を統合された体系として
整理し、その具体的な測定方法を Measuring Capital と呼ばれるマニュアルとして発表している。
27
●粗資本ストック(Gross capital stock)
現存する固定資産について、評価時点で新品として調達する価格で評価した価値。
●純資本ストック(Net capital stock)
粗資本ストックから供用年数の経過(経齢)に応じた減価(物理的減耗、陳腐化等によ
る価値の減少
※1)を控除した残存価値。市場のある民間資本であれば、市場価値に相
当する。
●生産的資本ストック(Productive capital stock)
粗資本ストックから供用年数の経過(経齢)による効率性の低下(※2)を控除した資
産の残存能力量。ストックが提供するサービスを生み出す能力の量を表す。
※1
減価
本推計では、OECDマニュアル(2009)に基づき、経齢に伴う物理的減耗及び予期される
陳腐化による価格の低下、と定義する。予期せぬ陳腐化は含まない。
※2
効率性の低下
社会資本はその経齢に伴って、物理的な劣化その他の劣化が発生するものと考えられ、そ
うした劣化によって当該社会資本が提供しうるサービス・性能が低下することを、効率性の
低下と表現している。経齢に伴う効率性の低下については、現時点で確立された定義は存在
しない。定義および損失の適切な評価については今後の研究が待たれる。(詳細は後述)
図 2-1 資本ストックの関係性
粗資本ストック
• 現存するストックを新規に調達するとして再
評価した資産価値
(効率性の低下)
生産的資本ストック
• 供用年数の経過(経齢)に
よる効率性の低下を考慮
した資産の残存能力量
• ストックが提供するサービ
スを生み出す能力の量を
表す
28
(減価)
純資本ストック
• 粗資本ストックから供用
年数の経過(経齢)に応
じた減価(物理的減耗、
陳腐化等による価値の減
少)を控除した残存価値
• 市場のある民間資本であ
れば、市場価値に相当
従来、資本ストックは、
「粗資本ストック(gross capital stock)」と「純資本ストック(net capital
stock)」という2つの概念に基づいて定義されてきた。粗資本ストックとは、資本ストックを再
調達価額で評価したもので、純資本ストックとは時価で評価したもの、すなわち価値の低下を考
慮したものである。
わが国における社会資本ストックは、
『日本の社会資本』で粗資本ストックが、また、国民経済
計算で社会資本を含む一般政府の固定資産について純資本ストックが作成・公表されてきた。
しかし近年、資本ストックに関する効率性(提供しうるサービス量)の低下と価値の低下を区別し、効率
性の低下を考慮した「生産的資本ストック(productive capital stock)」と呼ばれる新たな概念が提示されて
いる(図 2-1)。生産的資本ストックから導出される資本サービス投入量は、将来的に国民経済計算に導入
されることが『公的統計の整備に関する基本的な計画』(平成 21 年 3 月閣議決定)に盛り込まれている。ま
た、社会資本ストックの生産性分析には生産的資本ストックを用いることが適切と考えられることから、今後、
生産的資本ストックの重要性は高まると考えられる。
そこで本推計では、ストック効果に視点を置いた公共投資の効果の検討や、今後大量に更新時
期を迎える社会資本ストックの更新需要の検討などの社会資本整備を巡る諸課題を検討する一助
とするため、活用シーンに応じた資本ストックが選択できるよう、粗・純・生産的という3つの
種類の資本ストックを推計対象とすることにした。
29
(参考) OECDマニュアル(2009)における資本ストックの定義・説明
粗資本ストック
 過去の投資から引き継がれ、基準期間の新規資本財の購入者価格で再評価
(Chapter 4)
された資産のストック
純資本ストックと生産的資本ストックを算出するための中間ステッ
プ。
純資本ストック
 過去の期間から残存し、償却を調整した資産のストック
特定の時点における資産の所有者の富を反映。
(Chapter 6)
生産的資本ストッ
 過去の期間から残存し、効率性の低下を調整した特定タイプのストック
ク
 資本サービスの計測への中間ステップ。資産が生み出す生産的サービスの
(Chapter 7)
フローは、生産的資本ストックに比例する。
(出所)『Measuring Capital OECD Manual second edition』(OECD,2009)
図 2-2 OECDマニュアル(2009)に示される資本ストックに関連する経済概念の整理
価格
プロファイル
純ストック
純付加価値
資本収益
固定資本減耗
粗ストック
投資
除却関数
生産的
ストック
ユーザーコスト
資本サービス
効率性
プロファイル
※価格プロファイル :経齡に伴う価格の低下パターン
※効率性プロファイル:経齡に伴う生産的効率性の低下パターン
(出所)『Measuring Capital OECD Manual second edition』(OECD,2009)を翻訳
30
(参考) 『公的統計の整備に関する基本的な計画(平成 21 年 3 月 13 日閣議決定)』(抄)
第2
2
公的統計の整備に関し総合的かつ計画的に講ずべき施策
統計相互の整合性及び国際比較可能性の確保・向上に関する事項
(6) ストック統計の整備
ア 現状・課題等
国民貸借対照表、民間企業資本ストック等のストック統計については、昭和 45 年を最後
に国富調査が実施していない中で、現行の推計方法の改善が指摘されてきた。そうした
中、近年、OECDは資本測定に関する標準的な手法を大幅に改定してきているが、我
が国ではその対応も不十分であることからストック統計の国際比較も困難との指摘もあ
る。このため、推計方法について抜本的な再構築を行うとともに、所要の基礎統計の整
備を行う必要がある。
イ 取組の方向性
資本ストックについては、恒久棚卸法を中心とする標準的な手法により、フロー(投資
額)と整合的な統計を体系的に整備し、資産別及び産業別の推計を実施する。また、設
備投資構造のより詳細な把握が可能となるよう既存の一次統計を見直すとともに、除
却・償却分布の資産別把握について行政記録情報等や民間データの活用を含め調査研究
を実施する。さらに、恒久棚卸法を補完する方法として、物的接近法などによる推計を
活用し、その精度を相互に比較する。
別表
今後5年間に講ずべき具体的施策
「第2
公的統計の整備に関し総合的かつ計画的に講ずべき施策」部分
項目
具体的な措置、方策等
(6) ス ト ッ
○93SNAの改定に対応した資本サービス投入
ク統計の整
担当府省
内閣府
量を開発し導入する。
実施時期
次々回基準改定
時に導入する。
備
○生産的資本ストック及び純資本ストックの測
内閣府
平成 17 年基準
定に不可欠な資産別経齢プロファイル(経齢
改定時に実施す
的な効率性及び価格変化の分布)を推計する
る。
ため、民間企業投資・除却調査(うち除却調
査)の調査結果の蓄積、行政記録情報等や民
間データなどの活用を含め調査研究を実施す
る。
31
2
「価値」と「能力」の区別
1で述べた通り、純資本ストックは「価値」であり、生産的資本ストックは「能力」を評価す
るものである。これまでわが国をはじめとする多くの国では、 除却
は
効率性の低下
と
価値の低下
と
効率性の低下 、また
を明示的に区別してこなかった8。伝統的に、能力的な資本
投入量が粗資本ストックであるという考え方のもと9、生産関数分析では粗資本ストックが用いら
れてきたが、これは適切な維持補修を実施することで物理的減耗を考慮する必要がない状態の下
で粗資本ストックと生産的資本ストックが一致するという仮定を用いているにすぎない。それら
の違いをそれほど意識してこなかったと言えよう。
しかし、資本ストックの「能力」と「価値」とは明確に区別することができる。能力は、その
期に提供するサービス量に着目する「フロー」的な考え方であり、現時点でどの程度能力を発揮
しうるか(サービスを提供しうるか)が問題であって、それが今後どの程度長持ちするかは問わ
れない。
一方、価値は、耐用年数期間内の価値の総和に着目する「ストック」的な考え方であり、現時
点を含め、将来にわたってどの程度能力を発揮しうるか(サービスを提供しうるか)が問題とな
る。自動車を例にとると、レンタカーを借りる際には「能力」に基づいてレンタル料金が決まる
が、中古自動車を購入する際には「価値」に基づいて価格が決まることになる。
例えば、耐用年数5年の電球を購入し、2年目まで購入時の明るさを保っていたとすると、新
品の電球と2年目の電球で能力は同等である10。しかし、2年目の電球はあと4年しか使えないが、
新品の電球はあと5年使えることから、価値は後者の方が高いといえる。つまり、この電球の場
合、時間の経過に対して能力は一定だが、価値は低減すると考えなければならない。
8
『日本の社会資本』では、粗資本ストックを求めるための除却関数としてサドンデス方式を用いているが、これ
を、耐用年数の分布及び能力量の分布を統合した関数(すべての資産の耐用年数が一定で、耐用年数期間中はサ
ービス提供能力が衰えず、また、技術革新による能力の相対的な低減もない)と解釈すれば、粗資本ストックが
能力の低減を表していると考えることもできる。しかし、野村は「粗資本ストックは能力量として極端な仮定で
ある」としている。(統計委員会 基本計画部会 第2ワーキンググループ(公的統計の体系的整備(経済統計
関係)) 第7回(2008 年 4 月 18 日開催)資料3 より)
9
『日本の社会資本』(内閣府政策統括官, 2002)においてもこのような考え方が採用されている。
10
その電球の明るさが変わらなくても、技術革新でさらに明るい電球が開発されれば、能力は相対的に低下する。
32
図 2-3 3種類のストック概念
経済統計としては、効率性の低下を考慮した資本ストックデータが整備されていることが望ま
しい。すなわち、生産性分析を行う場合、生産関数の投入要素(説明変数)として用いるべきは、
フローの概念であるサービス量である。労働力(L)であれば就業者数ではなく総労働時間を、資
本(K)であれば資本ストックではなく、そのストックが提供する資本サービス量を用いなければ
ならない。そして、資本サービス量は、生産的資本ストックから求めるべきものである11。
OECD が 2001 年に資本ストック計測のためのマニュアル『Measuring Capital』を発表し、生産
的資本ストックの概念と推計方法を提示したこともあり、諸外国では3種類の資本ストック概念
の違いを踏まえた上で、資本ストック推計の見直し・充実が図られてきている。
各国で採用している推計手法は異なるが、アメリカ労働統計局(BLS)、オーストラリア統計局
(ABS)、オランダ統計局(SN)は、生産的資本ストックと純資本ストックを区別して推計してい
11
一般に、生産的資本ストックと資本サービス(Capital Service)は比例関係にあると仮定される。資本サービ
スは、期中の生産活動に対するストックの寄与分を意味しており、ストックが同じ場合、耐用年数が短いほど、
資本サービスは大きくなる。例えば、ストックに対する資本サービス(1年あたり)の割合を、建物は 2%、コ
ンピュータは 20%と仮定すると、1億円の建物及びコンピュータから生み出される資本サービスはそれぞれ 200
万円、2,000 万円となる。ここで追加投資を行い、コンピュータが3億円分になったとすると、生み出される資
本サービスは 2,000 万円から 6,000 万円に増加する。建物とコンピュータを合計すると、ストックが2倍(2億
円→4億円)になったのに対し、資本サービスは 2.8 倍(2200 万円→6200 万円)になっており、両者の成長率
に違いが生じている。
33
る。BLS と ABS はOECDマニュアル(2001)が出される前から上記の考え方に基づいて推計を実施
しており、SN はOECDマニュアル(2009)に基づき推計方法を改めたとのことである1213。
3
伝統的なストック推計との違い
ストックの概念は、生産的資本ストックの概念が整理されたことにより、他のストックと併せ
て体系的に概念整理が行われ(図 2-2)、ストックの概念は伝統的な解釈からより明確化されてい
ると考えられる。特に、純資本ストックを算出する際に考慮する固定資本減耗については、スト
ックの経済的な価値の減少であると説明されてきたが、推計手法についての具体的な指針は無く、
実務的に会計的手法による減価償却が採用されてきた。93SNAでは計算方法は幾何級数的(定
率法)としながらも、固定資本減耗は会計的な減価償却とは異なるということが明記14されており、
伝統的な解釈で曖昧にされてきた部分が明確化されてきた。(関連は 7 節に記載。)
会計的な意味での固定資本減耗(減価償却)は、資産の利用期間における費用の均等配分の考
え方に基づいていた(backward-looking)。一方、93SNAやOECDマニュアル(2009)に見ら
れる概念整理の中では、将来提供しうるサービスの現在価値を考慮した資産価額から導き出され
るべきものであるとしている(forward-looking)。
このように、伝統的なストック推計方法と新しい手法とでは、後者がより固定資本減耗の扱い
を明確にしており、概念的には純資本ストックがストックの真の価値に近づいているといえよう。
4
本推計における扱い
以上のような世界的な流れを踏まえ、本推計においては、データの連続性の観点から『日本の
社会資本』で推計を行っていた粗資本ストック、従来の手法による純資本ストックの推計に加え、
効率性の低下を評価した生産的資本ストックと、価値の低下を評価した純資本ストックを区別し
て推計を行うこととした。ただし、生産的資本ストックについては効率性の低下に関する定義が
確立していないことから、参考数値として整理することとした。
12
アメリカは 1997 年に粗資本ストックの推計を中止し、純資本ストックのみ作成・公表している。関数に幾何分
布を用いることで、純資本ストックと生産的資本ストックを一致させている。
13
アメリカ、カナダ、オーストラリアは、生産的資本ストックから導出される「資本サービス」も公式統計とし
て公表している。
14
経済企画庁,国民経済計算の体系(1993 年改定)
(System of National Accounts 1993, UN et al の邦訳)
34
(参考)既存の推計
1
国富調査15
わが国における国富調査は、1905 年の日本銀行による最初の調査以来 1970 年の調査まで 12 回
行われている。その調査方法や内容は、それぞれの時代の経済理論や統計技術と密接な関係を持
っているため、一貫した考え方で調査されているわけではない。
最後の国富調査は、1970 年に経済企画庁によって全経済部門を対象として大規模に実施されて
いる。この調査では国富の範囲を、
・ 再生産可能な有形固定資産(経済的意味における資産で、企業や家計等の各経済部門が生産や
生活等の経済活動を営んでいくための手段として所有している財貨で、再生産可能な有形固定
資産)
・ 棚卸資産(各経済部門が所有している製品、原材料、仕掛品、半製品及び貯蔵品等)
・ 対外純資産
としている。これらを粗・純資産別(取得原価法により、純資産の推計には定率法を用いている)、
経済部門別、取得年次別及び9地域ブロック別に推計している。また、社会資本については、調
査結果の資産額の中から、
・ 政府の一般資産
・ 公共資産(道路、港湾、治山・治水施設、農林漁業施設及び都市公園等)
・ 公益企業資産(運輸通信業及び電気・ガス・水道業の資産)
・ 社会サービス関連資産(教育・医療・社会保険等の資産)
を別途取り出して推計することにより、社会資本関係資産としている。このうち、2つ目の公共
資産については実査を行わず、経済企画庁総合計画局(1961)16及び経済審議会地域部会社会資本
分科会(1964)17に基づいている。なお、1970 年の国富調査以降、実査に基づく公式のストック
調査はなされていない。
2
(財)電力中央研究所の推計
(財)電力中央研究所社会経済研究所では、都道府県別構成項目別社会資本ストック及び投資
額を推計している。本推計は、
『昭和 45 年国富調査』
(経済企画庁,1975)の結果を基準とし、内
閣府が公表している県民経済計算年報国土交通省が公表している建設総合統計年度報等に基づい
て推計している18。
15
1970 年の国富調査による有形固定資産額等については、『日本の社会資本』(2002)を参照願いたい。
経済企画庁総合計画局(1961),『総合交通体系』
17
経済審議会地域部会社会資本分科会(1964)
,『政府固定資本形成および政府資本ストックの推計』
18
(財)電力中央研究所(2009)『電力中央研究所報告都道府県別社会資本ストック(1980-2004)の開発』
16
35
第2節
ストック推計の流れ
本節では、投資額データから、粗資本ストック・生産的資本ストック・純資本ストックを推計す
る流れを説明しつつ、以降の節がどこに該当するかを示している。
推計の流れは図表に示す通り。本節以降、第3節から第8節において図表で示すストック推計
の流れに沿って、推計手法について説明する。
図 2-4 推計の流れ
36
図 2-5 各プロファイルの関係性
第3節では、推計の前提について説明している。
 資産の測定基準は大別して4種類ある。今回の推計では社会資本全体を評価するために再
調達価額での評価額を採用した。
 推計の対象分野は、連続したデータの入手可能性などを考慮し、狭義の社会資本のうち1
7部門とした。
第4節では、推計手法の選択について説明している。
 資本ストックの推計手法には、投資額の積み上げに基づく手法(PI法・BY法)と物理
量に基づく手法(PS法)がある。前回の『日本の社会資本』では、公共賃貸住宅分野は
後者を採用し、その他分野は前者を採用していたが、今回は全分野で前者を採用すること
にした。
 十分に過去からのデータが存在する部門はPI法を採用し、基準年以前のデータが入手で
37
きない部門はBY法を採用している。BY法は、基準年のストックを設定し、それ以後の
再調達価額を積み上げて推計する手法であり、本節ではBY法を採用した部門の基準年に
おけるストック(ベンチマークストック)の設定についても説明している。
第5節では、名目投資額の実質化について説明している。
 実質化に用いるデフレーターの作成方法についてもあわせて説明している。
第6節では、粗資本ストックの推計方法について説明している。
 粗資本ストックは、実質投資額を耐用年数期間、積み上げることにより推計する。
 本節では、耐用年数の設定及び耐用年数の分布(除却分布)についてもあわせて説明して
いる。
第7節では、純資本ストックの推計方法について説明している。
 純資本ストックの推計は、従来の会計的手法による方法と、効率性・除却合成プロファイ
ル(第8節)に、Discounted Cash Flow 法を適用し価格・除却合成プロファイル(Age-Price
Profile;ストック年齢に応じた価値の低下を示す曲線)を導出する方法で行う。価格・
除却合成プロファイルによる方法では、実質投資額に当該プロファイルを適用した上で、
耐用年数期間積み上げることにより、純資本ストックを推計する。
 本節では、効率性プロファイルから価格プロファイルを導出する際に用いる割引率の設定
についてもあわせて説明している。
第8節では、生産的資本ストックの推計方法について説明している。
 生産的資本ストックを推計するためには、まず、個別資産の効率性プロファイル
(Age-Efficiency Profile;ストック年齢に応じた能力量の減耗を示す曲線)を設定する
必要がある。これと除却分布を合成して資産全体の効率性プロファイル(効率性・除却合
成プロファイル)を求め、実質投資額に当該プロファイルを適用した上で、耐用年数期間
積み上げることにより、生産的資本ストックを推計する。
 本節では、個別資産の効率性プロファイルの設定方法、当該プロファイルと除却分布の合
成方法についてもあわせて説明している。
38
第3節
推計の前提
本節では、ストック推計の前提となる、資産の測定基準と推計の対象分野を説明している。
1
資産の測定基準
資産の測定基準は大別して4種類あり19、その概要を以下に示している(表 2-1)。
①取得原価
過去の支出額である。原価性を重視しているので、恣意性が排除されデータの信頼性が高い。
②再調達価額
現時点で当該資産を取得するために支出しなければならない価額である。社会資本は市場にお
ける実勢価額を把握できないため、再調達価額を算出するための代替法として、デフレーターを
用い取得原価の貨幣価値を補正する方法(以下、デフレーター調整方式という)
、当該資産と同じ
構造物を現時点で建設するとした場合の価額、当該資産と同じ機能を持つ構造物を現時点で建設
するとした場合の価額がある。
③正味実現可能価額
当該資産の売価から販売費やその他の事後費用を取り除いた価額である。社会資本には一般的
に売価が存在しないことから、推計は困難である。
④将来のキャッシュ・インフロー(CIF;サービスから得られる価額)の現在価値額
資産が将来もたらすサービスから得られる収入の現在価値額である。民間会社及び一部の公的
機関が運営管理している社会資本については推計することが可能である。
表 2-1 資産の測定基準の考え方
過去の価額
現在の価額
将来の価額
支出額
取得原価
再調達価額
−
収入額
−
正味実現可能価額
CIF の現在価値額
(出所)(社)土木学会 編、『アセットマネジメント導入への挑戦』、技報堂出版
他より作成
さまざまな種類の施設・構造物を含む社会資本全体を評価する場合、③と④は推計が困難であ
る。時系列で比較可能とするため、
『日本の社会資本』では、再調達価額を評価してこれを粗資本
ストックとし、これを基準として、生産的資本ストック、純資本ストックの推計を行うこととし
19
『公会計原則(試案)』(日本公認会計士協会,2003)
他
39
た。
2
推計の対象分野
本推計では、社会資本ストックの推計対象の部門は、以下の条件を踏まえ、表 2-2 に示すとおり、狭義
の社会資本のうち、17 部門としている。
・これまでに引き続き、連続しているデータが入手可能であること。
・一定の信頼度を確保することが、一連の作業量の範囲で可能であること。
・政策判断に有益であること。
1987 年に民営化した旧国鉄、1985 年に民営化した旧電電公社分は、『日本の社会資本』(2002)では社
会資本として扱っていたが、本推計では、民間企業社会資本として扱うこととし、推計対象から除外した。
推計期間は、投資額データ及びデフレーター作成資料等の制約により 1953 年度から 2009 年度までと
している。
表 2-2 社会資本推計 17 部門
番 号
1
2
3
4-1
4-2
5
6
7
8
9
部
門
名
道路
港湾
航空
鉄道(鉄道建設・運輸施設整備支援機
構等)
鉄道(地下鉄等)
公共賃貸住宅
下水道
廃棄物処理
水道
都市公園
番 号
10-1
10-2
11
12
13
14-1
14-2
14-3
15
16
17
40
部
門
名
文教施設(学校施設・学術施設)
文教施設(社会教育施設・社会体育施設・文化施設)
治水
治山
海岸
農林漁業(農業)
農林漁業(林業)
農林漁業(漁業)
郵便
国有林
工業用水道
第4節
推計手法の選択
本節では、
 ストック推計手法(PI法/BY法とPS法)の違いを説明した上で、国際的にはPI法/BY
法が一般的であること、PI /BY法とPS法とで推計結果に乖離が生じ得ることから、今回は
全分野でPI法/BY法を適用する旨を説明している。
 さらに、BY法を用いる分野において、ベンチマークストックとして用いるデータの詳細を説
明している。
1
基本的な考え方
資本ストックの推計方法は、投資額の積み上げに基づく手法と、物理量に基づく手法の2つに大別され
る。
(1)投資額の積み上げに基づく手法
PI法(Perpetual Inventory Method、恒久棚卸法)
再調達価額を毎年度積み上げるとともに、耐用年数を経る等その機能を果たさなくなった資産
については除却・償却することにより、資本ストックを推計する方法である。本手法には以下の
3つの条件が満たされていることが必要である。
①一貫した過去の投資系列が、耐用年数以上間断なく得られること。
②現実の資産の耐用年数に近い値で、耐用年数が推定できること。
③名目投資額を実質化するための物価倍率が長期にわたり得られること。
ある一時点で固定資産量が調査されていない国のほとんどは、PI法により資本ストックを推
計している。PI法による資本ストック推計の一般式は以下のとおり表される。PI法による資
本ストックは投資額(I :新設改良費)の累積で計算することが出来、あるいは一期前の資本ス
トック(Kt-1)に当期の投資額(It)を加算し、除却額および減価額(Rt)を減算することで計算
出来る。
t
t
i 1
i 1
K t  K t 1  I t  Rt   I i   Ri
K
:資本ストック
I
:新設改良費
R
:除却額および減価額を包括した値
t
:当該年度
41
なお、除却額および減価額は以下の数式で算出される。
a
Rt  lim  I t  i   f (i  1)  f (i ) 
a 
i 1
K
:資本ストック
I
:新設改良費
R
:除却額および減価額を包括した値
t
:当該年度
a
f (a)
:供用年数
:プロファイル(粗であれば除却プロファイル、生産的であれば効率性・除却
合成プロファイル、純であれば価格・除却合成プロファイル)
※なお、本書では投資額が把握できる年数までを a の上限として計算を行っている。
BY法(Benchmark Year Method、基準年次法)
何らかの方法で基準年の資本ストックを確定し、それ以降の投資額と除却額および減価額を加
減していくことにより、資本ストックを推計する方法である。但し、基準年以前に整備された資
本の除却額および減価額に関する正確なデータを得ることが困難であるという短所を有する。
BY法による資本ストック推計の一般式は以下のとおり表される。なお、除却額および減価額
は上述と同様の式で算出される。
K t  K t 1  I t  Rt  K b 
t
 Ii 
i b 1
t
R
i b 1
K
:資本ストック
I
:新設改良費
R
:除却額および減価額を包括した値
t
:当該年度
b
:基準年度
i
(2)物理量に基づく手法
PS法(Physical Stock Value Method、物量的ストック法)
時系列的な物量データに平均単価を乗じることにより、資本ストックを推計する方法である。
資産の物量を金額表示に変換しているので、ストック推計額と資産のもたらす効用との関係が明
確であるという長所を有する。住宅等比較的物量ベースの統計資料が整っている資産については
有力な方法である。但し、種類別、構造別等資産を細分化した推計ができない場合、資産の質的
変化や性能変化を考慮できないという短所を有する。
42
K t   (Q jt  Pjt* )
j
2
Kt
: t 年度のストック
Q jt
: j 財の t 年度における物理的存在量
Pjt *
: j 財の t * 年度(基準価格年)における単価
t
:当該年度
j
:財の種類
今回用いる手法
(1)推計手法
PI法では粗資本ストック、純資本ストック、生産的資本ストックを統一した手法で推計する
ことが出来る。一方、国富調査で把握できるのはストックの取得時価格であり、これを再取得価
額に直すことで「粗資本ストック」は把握できるが、生産的資本ストック、純資本ストックを把
握することはできない。
また、PI法はSNAにおける資本ストック推計手法として位置付けられており、PI法を用
いることが望ましいと考えられる。
(参考)
93SNA におけるPI法に関する記述
過去における総固定資本形成のデータとその耐用年数を通じた固定資産の効率の低下率の推計
値とを組み合わせることによって作成することができる。・・・このような方法は恒久棚卸法す
なわち PIM として知られている。固定資本減耗の推計値は PIM の副産物として求められる。
(6.184)
従来の『日本の社会資本』では、統計で物理量及び単価が把握できる公共賃貸住宅分野はPS
法を採用し、そうしたデータが把握できないそれ以外の分野はPI法・BY法で推計を行ってき
た。
しかし、①OECDマニュアル(2009)をはじめとして世界的にはPI法が主流であること、②
PI法とPS法では推計結果に大きな乖離が生じる可能性があり、分野間比較を可能とするため
には分野間で推計手法の統一を図ることが望ましいことから、今回は公共賃貸住宅分野を含む全
分野でPI法・BY法を用いることとした20。
社会資本ストックの推計にあたって、長期にわたる名目投資額が収集可能な部門についてはP
20
ただし、『公的統計の整備に関する基本的な計画』(p.31)にあるように、PS法のような物的接近法はPI法
と補完的に捉えられるものであり、両推計値の比較から相互の精度向上へとつなげることも今後の課題である。
43
I法を適用し、収集が困難な部門についてはBY法を適用している。
表 2-3 各部門の推計手法
推
計 手 法
PI法
BY法
部
門
道路、港湾、鉄道建設・運輸施設整備支援機構等、地下鉄等、治水、治山、農
林漁業
航空、公共賃貸住宅、下水道、廃棄物処理、水道、都市公園、文教施設、海岸、
郵便、国有林、工業用水道
PI法を適用する場合には、投資額データ、デフレーター、耐用年数の設定が必要となる。今
回初めてPI法を適用する公共賃貸住宅分野では、それぞれ以下の通りとした。
 投資額データは、国民経済計算年報における公的住宅総固定資本形成を用いることとした。
これは、新設改良費及び災害復旧費を包括する値となっている。
 デフレーターも、上と同様、国民経済計算年報における公的住宅総固定資本形成のデフレー
ターを用いることとした。(他の分野と同様、2005 暦年基準に変換)
 耐用年数は、既存統計データに基づき、新たに設定した。
(2)基準(ベンチマーク)の設定
1)基準年の設定
推計手法としてBY法を選択した 11 部門については、基準年における粗資本ストック(以下、
基準ストックという)を求める必要がある。本推計では、経済企画庁総合計画局(1968)の値を
2005 暦年価格へ変換することにより基準ストックを求めている。部門毎の基準年は、表 2-4 のと
おりである。なお、下水道部門及び廃棄物処理部門については、経済企画庁総合計画局(1968)
の資料中の値からそれぞれ推計し、2005 暦年価格に変換している(表 2-5)。
2)基準年以前の投資額の算定
基準年以前の除却額を求める際には、基準年以前の投資額が必要となる。本推計では、部門毎
に以下のとおり推計している。
①基準年が 1953 年度の部門
1953 年度の粗資本ストックから 1953 年度の投資額を減じ、これを耐用年数より1年短い期
間に等価按分することにより、1952 年度以前の投資額を推計している。なお、1952 年度以前
の災害復旧費はゼロとしている。
44
②基準年が 1963 年度の部門
1953∼63 年度の粗資本ストックは、経済企画庁総合計画局(1968)の値を、2005 暦年価格
に変換している。1953 年度以前の投資額は、1953 年度の粗資本ストックを耐用年数期間に等
価按分することにより推計している。なお、1953 年度以前の災害復旧費はゼロとしている。
1954∼63 年度の投資額は、粗資本ストックから逆算して求めている。
表 2-4 部門毎の基準年
基 準 年
1953 年度
1963 年度
部
門
航空、公共賃貸住宅、水道、文教施設(学校等)、海岸、郵便、国有林
下水道、廃棄物処理、都市公園、文教施設(社会等)、工業用水道
表 2-5
1953∼63 年度のストック(1963 暦年価格)
(単位:百万円)
年度
1953
1954
1955
1956
1957
1958
1959
1960
1961
1962
1963
(昭和 28)
(昭和 29)
(昭和 30)
(昭和 31)
(昭和 32)
(昭和 33)
(昭和 34)
(昭和 35)
(昭和 36)
(昭和 37)
(昭和 38)
地域部会における下水道等
(下水道+廃棄物処理)
326,224
348,157
377,147
397,839
410,001
425,906
457,371
497,089
544,511
595,055
657,835
(出所)経済企画庁総合計画局(1968)より作成
45
下水道分
廃棄物処理分
321,695
343,658
372,504
392,750
403,514
415,998
441,034
475,500
515,233
556,512
603,425
4,529
4,499
5,089
6,487
9,908
16,337
21,589
29,278
35,543
38,543
54,410
第5節
名目投資額と実質投資額、デフレーター
本節では、投資額データの各費目の定義、実質化の手法、デフレーターの算定方法及び算定結果
について説明している。
1
名目投資額の定義
本推計では、国民経済計算における公的固定資本形成(Ig)に準じたデータを名目投資額と
している。公的に加え民間も含めた固定資本形成の特徴は、以下のとおりである。
・建築物、機械設備等の有形・無形資産の新規購入であること。
・土地購入に係わる費用を含まないこと。
・建物、道路、ダム、港湾等建設物の仕掛工事は建設発注者の固定資本形成に含むこと。
・固定資産の改造や、新しい機能の追加など、その耐用年数や生産性を大幅に増大させる支出
(資本的修理)を含み、単なる破損の修理や正常な稼働を保つための支出(経常的修理・維
持)は含まないこと。
社会資本ストックを推計するにあたっては、信頼度の高い純粋な名目投資額のデータが必要で
あり、本推計では、内閣府の調査に基づく決算額のデータを用いている。
決算額は建設業務統計年報等によると、①新設改良費、②維持補修費、③災害復旧費、④用地
費・補償費の4つの費目に分類される。本節では、この4費目について、公的固定資本形成(I
g)との関係を整理し、本推計のストック推計に用いる名目投資額の考え方を以下のとおりとし
た。
①新設改良費
新設改良費は、改築費、改良費及び更新費等を合わせた費用である。
この費用は、
「建築物、機械設備等の有形・無形資産の新規購入である」及び「耐用年数や生産
性を大幅に増大させるような支出(資本的修理)を含む」という公的固定資本形成(Ig)の考
え方に一致していることから、ストック推計の対象としている。
②維持補修費
維持補修費は、施設の設計時に期待された性能や機能を耐用年数の期間にわたって、維持する
ための費用である。
維持補修費には、機能を維持させるための日常的維持費と、補修による実質的改良更新費の2
つの要素が含まれているが、これらの分離は実務的に困難である。このため、本推計では、日常
的維持補修と実質的改良更新費は分離不可能であるものの、原則として、公的固定資本形成(I
g)の考え方に近づけるために、地方単独事業によるものは日常的維持費であるとして推計から
取り除き、それ以外のものについては実質的改良更新費であるとして含めることとしている。
46
③災害復旧費
災害復旧事業は、公共土木施設災害復旧事業費国庫負担法(昭和 26 年,法律第 97 号)による
と、
「災害に因つて必要を生じた事業で、災害にかかった施設を原形に復旧する(原形に復旧する
ことが不可能な場合において当該施設の従前の効用を復旧するための施設をすることを含む。
(略))ことを目的とする」(第2条第2項)事業とされている。同法第3条において、河川、海
岸、砂防設備、林地荒廃防止施設、地すべり防止施設、急傾斜地崩壊防止施設、道路、港湾、漁
港、下水道及び公園については、災害復旧の事業費の一部を国庫負担することができるとされて
いる。
本推計では、災害復旧費について須く被災した資産を原形に復旧するための費用とし、復旧工
事実施の直前の状態に比べて固定資産が増加することから、ストック推計の対象としている。
④用地費・補償費
用地費・補償費は、用地の取得の際に発生する費用である。土地購入に係わる費用を含まない
という公的固定資本形成(Ig)の考えに準じて、ストック推計の対象としていない。
2
実質化
本推計では、取得原価より価格変動の影響を取り除き特定の基準年で実質化するデフレーター
調整方式により、資本ストックを再調達価額で評価している。
デフレーターの算定は、ラスパイレス式、パーシェ式及びフィッシャー式などの利用が一般的
である。また、基準年のとり方により、固定基準年方式と連鎖方式21に分けることができる。
ラスパイレス式は、物価指数や生産指数等の多くの統計資料で用いられている算式であるが、
基準年の数量によるウェイトを用いるため、対象部門の構造的な変化が生じている場合には、そ
れを反映させることができない。
一方、パーシェ式はウェイトを算定の対象とする年次毎に変化させる方法であり、投入構造の
変化を反映させることができる。
pq
p q
t
ラスパイレス式の指数=
0
pq
p q
t
i
パーシェ式の指数=
0 0
t
i
0 t
i
i
p :価格
q :数量
21
国民経済計算によると、連鎖指数は、隣接する2時点間の比較に着目したものであり、毎期基準年を改訂して
いるのと同じになるため「指数バイアス」はほとんど生じない。
連鎖方式によるパーシェ型デフレーター:
Pctt  Pctt 1 
Pct t :t 年のパーシェ型連鎖デフレーター
47
C
t
 Ct  Dt 1 / Dt
C t :t 年次名目値
D t :t 年デフレーター
t :比較年
0 :基準年
i :対象分野
本推計においては社会資本の耐用年数が長期であることなどから、固定基準年方式のパーシェ
型を採用している。
(1)デフレーターの選択
本推計では、実質化の手法としてデフレーター調整方式を用いており、デフレーターとして内
閣府政策統括官(経済社会システム担当)が行ってきた一連の推計に用いているI−Oデフレー
ター22(2005 暦年基準)を用いている。
当該デフレーターを採用しているのは、総務省が5年毎に更新している産業連関表(以下、I
−O表という)を基礎資料としているため経年的に算定できないという短所はあるものの、以下
の点により最適であると判断しているためである。
 GDPデフレーター及びIgデフレーターは、毎年公表され、汎用性も高いが、個別部門
の特徴を捉えきれていない。
 国土交通省総合政策局情報政策課建設統計室が公表している建設工事費デフレーターは、
「公共事業全般」に加え、「治水」、「道路」、「港湾」及び「農林関係公共事業」等個別部
門のデフレーターが公表されており、各々の特徴を捉えているが、長期系列の推計が行わ
れていない部門がある。
22
総務省が公表している産業連関表や国土交通省が公表している建設部門分析用産業連関表を用いて 17 部門毎に
デフレーターを算定しているもの。
48
図 2-6 各デフレーターの推移(2005 暦年基準)
120
100
80
60
40
20
0
1965
1970
I-Oデフレータ
1975
1980
GDPデフレータ
1985
1990
Igデフレータ
1995
2000
2005
建設工事費デフレータ(土木総合)
(注)I−Oデフレーターは、17 部門別のデフレーターを各年の名目投資額で加重平均し作成している。
(2)デフレーターの算定方式
『日本の社会資本』では、まず、1次統計資料より得られたデータから、基本単位デフレーター(建設活
動用)及び基本単位デフレーター(資本財用)を算定している。
次に、基本単位デフレーター(建設活動用)を国土交通省が公表している建設部門分析用産業連関表
(以下、建設I−O表という)から得られた要素別(投入)ウェイトで加重平均することにより建設活動 61 要素
デフレーターを算定している。また、基本単位デフレーター(資本財用)をI−O表における固定資産マトリ
クスから得られた要素別(投入)ウェイトで加重平均することにより資本財 16 要素デフレーターを算定して
いる。
最後に、部門の特徴を踏まえ、建設活動 61 要素デフレーターと資本財 16 要素デフレーターを合成す
ることにより 17 部門デフレーターを算定している。
49
図 2-7 デフレーター算定の流れ
1次統計資料の収集
昭和55年I−O表
投入品目を準じる
基本単位デフレーターの算定
基本単位デフレーター(建設活動用)
基本単位デフレーター(資本財用)
PI型デフレーター
PI型デフレーター
UP型デフレーター
UP型デフレーター
IC型デフレーター
IC型デフレーター
SP型デフレーター
SP型デフレーター
建設I−O表
I−O表における
固定資本マトリックス
要素別(投入)ウェイトの算定
要素別(投入)ウェイトの算定
資本財16要素デフレーター
(E系列)
建設活動61要素デフレーター
(D系列)
17部門デフレーター
(3)基本単位デフレーターの算定
基本単位デフレーターは、建設活動用と資本財用に区別される。
前者は、社会資本整備のうち、鉄筋やセメント等の素材と労働力を投入して作り上げる建設活
動部分に係るものであり、後者は、工場生産された機械や設備を現場に搬入して設置する資本財
の投入部分に係るものである。
両者を区別する理由は、中間投入財及びサービス等のデフレーターの中には建設活動と資本財の
両方に投入されるものがあり、
(建設活動用と資本財用で)同一品目であっても値が異なるものを
使用する場合があるためである。
1)投入品目の調整
『日本の社会資本』では、内閣府政策統括官(経済社会システム担当)が行ってきた一連の推
計との連続性等を確保するため、一連の推計と同一の方法を用いて、『昭和 55 年産業連関表』(行
政管理庁,1984)の投入品目に準じて基本単位デフレーターを算定している。I−O表は5年毎に
更新され、そのたびに投入品目が変更されるが、本推計では、『昭和 55 年産業連関表』の品目構
成に合わせている。
2)1次統計資料の収集
1次統計資料として下表に示す統計資料を用いている。
50
表 2-6 1次統計資料の出所
出所
暦年
公表
農村物価統計
(API)
農林水産省
大臣官房統計部
◎
平成7年からは暦年。
当年の3/4と次年の1/4を合成して年度系列を
作成。
消費者物価指数
(CPI)
総務省統計局
◎
品目別指数は暦年ベースのみ。
当年の3/4と次年の1/4を合成して年度系列を
作成。
The NUCLEAR Review
米TRADE TECH
社
−
−
1994年までは「NUEXCO REVIEW」。
月次データのため、4月から翌年3月までの平
均を年度値とする。
企業物価指数
(CGPI)
日本銀行
調査統計局
○
◎
1995暦年基準までは「卸売物価指数」。
月次データのため、4月から翌年3月までの平
均を年度値とする。(税込値)
東京都区部
一般汚水使用料
東京都
下水道局広報係
−
−
実績ベース(月次)
100㎥/1ヶ月を年度値とする。
機械統計年報
経済産業省
経済産業政策局
◎
◎
時系列データは年度ベースのデータを適用。
平成17年基準変換のために、平成17暦年のデ
ータを適用。
◎
月次データのため、4月から翌年3月までの平
均を年度値とする。
◎
月次データのため、4月から翌年3月までの平
均を年度値とする。
1次統計
年度
公表
備考
預金・貸出関連統計
国内銀行貸付金利
日本銀行
調査統計部
1年物定期預金
東京証券取引所統計年報
東京証券取引所
◎
当年の3/4と次年の1/4を合成して年度系列を
作成。
決算統計年報
全国銀行協会
◎
当年の3/4と次年の1/4を合成して年度系列を
作成。
工業統計表
経済産業省
経済産業政策局
◎
当年の3/4と次年の1/4を合成して年度系列を
作成。
電通広告年鑑
(株)電通
◎
2010-2011年版が休刊のため、当該年はGDP
デフレーターで延長。
陸運統計要覧
国土交通省
総合政策局
◎
平成18年版をもって、『交通関連統計資料集』
に整理統廃合。
交通関連統計資料集
国土交通省
総合政策局
◎
毎月勤労統計調査
厚生労働省
統計情報部
◎
法人企業統計
財務総合政策研究所
調査統計部
◎
(注)○は、公表されている系列を示している。◎は、公表されており推計のために使用している系列を示してい
る。
3)基本単位デフレーターの算定
基本単位デフレーターの算定手法は、物価指数型(PI型)、単価指数型(UP型)、投入コス
ト型(IC型)及び特殊型(SP型)の4種類があり、投入品目の特徴に応じて、算定手法を使
い分けている。(基本単位デフレーター推計用データ一覧は巻末データ集)
「物価指数型(PI型)
」
基本単位となる各品目の物価指数をそのまま適用する方式である。ただし、以下の点に注
51
意する必要がある。
 推計期間中、同一基準年の一貫した系列が存在しないことから、基準年の異なる系列を
接続することで 2005 暦年基準の一貫した指数系列を作成している。
 経済構造や技術水準の変化等により、推計期間の途中の年次において品目の入れ替えが
あった場合には、異なる指数を接続して1つの系列としている。
 対応する物価指数が存在しない場合には、類似品目で代替している。
 パーシェ型を用いることから、I−O表が公表されている5年毎に投入ウェイトを変化
させ、中間年次のウェイトについては、直線補間により求めている。
「単価指数型(UP型)
」
物価指数は直接得られないが、単価または価格と数量等から単価指数を算定できる場合に
適用する方式である。例えば、ある年の当該製品の出荷量と出荷額の統計により、単位量あ
たりの価格を算定し、指数化し、単価指数を算定している。品質が均一な原材料等のデフレ
ーターの算定に適用している。
「投入コスト型(IC型)」
物価指数及び単価指数が得られない場合に適用する方式である。生産コストを積上げ、他
のPI型、UP型、IC型及びSP型により算定した基本単位デフレーターを用いることに
より、デフレーターを算定している。
具体的には、まず、I−O表において、算定対象のIC型基本単位デフレーターと対応し
た投入品目を構成する中間投入財及びサービス等のうち、投入額が上位 10 品目以内かつ全投
入額に占める割合が1%以上の品目を投入系列としている。そして、それらの投入額により、
対応する基本単位デフレーターを加重平均し合成することで、IC型基本単位デフレーター
を求めている。なお、他のIC型デフレーターが含まれている場合は、算定するIC型基本
単位デフレーターを未知数として連立方程式により算定している。また、付加価値系列の基
本単位デフレーターをIC型基本単位デフレーターの算定に用いる場合は、賃金・俸給のみ
を対象とする。
「特殊型(SP型)」
上記3つの算定方式を適用できない品目については、各品目の特徴に応じて個々にデフレ
ーターを算定している。特に下表の付加価値系列についてはSP型を用いている。なお、賃
金・俸給等で考慮すべきデフレーターへの生産性向上の影響については、データ制約上考慮
しない。
52
表 2-7 付加価値系列のSP型デフレーター
SP型基本単位デフレーター
算 定 手 法
9311-000
賃金・俸給
9312-000
社会保険料
9313-000
その他の給与及び手当
9412-000
営業余剰
企業物価指数
9420-000
資本減耗引当
木造住宅、非木造非住宅、鉱山・土木建設機械、運搬機
械、その他の自動車、その他の機械・同部品、理化学機器
デフレーターの合成
9430-000
間接税
9440-000
経常補助金
単位労働者の単位時間あたりの現金給与額
=現金給与総額指数/総実労働時間指数
企業物価指数
(4)建設活動 61 要素デフレーター及び資本財 16 要素デフレーターの算定
建設活動 61 要素デフレーターの算定及び資本財 16 要素デフレーター算定に必要な中間投入財
及びサービス等の投入額を示す資料として、国土交通省が公表している建設I−O表及び総務省
が公表しているI−O表がある。
建設活動 61 要素デフレーターの算定においては、道路、治水及び電力等の建設種別毎に1年間
の中間投入財の投入数量や労働力及び企業の利益等の付加価値にどの程度配分されたのかを示し
た建設I−O表を用いる。
一方、資本財 16 要素デフレーターの算定においては、固定資本の形成のための資材投入状況を
示した固定資本マトリクスが掲載されているI−O表を用いている。
1)建設I−O表の調整
5年毎に公表される建設I−O表の行項目を、
『昭和 55 年建設部門分析用産業連関表』
(建設省
計画局調査統計課,1984)の列項目(全 61 要素)と対応する行項目(中間財 152 系列及び付加価
値 10 系列の投入系列、巻末データ集)に合わせるために、建設I−O表の調整を行っている。
53
図 2-8 建設活動 61 要素
D1 建設
D2 建築
D3 住宅
D10 非住宅
D4 木造住宅
D5 非木造住宅
D11 木造非住宅
D14 非木造非住宅
D23 土木
D24 公共事業
(河川・道路)
D25 治水
D31 道路
D6 SRC住宅
D7 RC住宅
D8 S住宅
D9 CB住宅
D12 木造工場
D13 木造事務所
D15 SRC工場
D16 SRC事務所
D17 RC工場
D18 RC学校
D19 RC事務所
D20 S工場
D21 S事務所
D22 CB非住宅
D26 河川改修
D27 河川総合開発
D28 砂防
D29 海岸
D30 下水道
D32 一般道路
D40 高速道路
D50 公共事業
(農林関係)
D55 その他建設
D44
D45
D46
D47
D48
D49
D51
D52
D53
D54
D56
D57
D58
D59
D60
D61
D33
D34
D35
D36
D37
D38
D39
D41
D42
D43
道路改良
道路舗装
道路橋梁
道路補修
街路改良
街路舗装
街路橋梁
高速自動車国道
都市高速道路
一般有料道路
区画整理
港湾漁港
空港
環境衛生
公園
災害復旧・(河川・道路)
農林土木
林道
治山
災害復旧・(農林関係)
鉄道軌道
(注1)D に続く数字は、本推計で用いる建設活動 61 要素の
電力
電信電話
デフレーターの連番
上・工業用水
(注2)図表で上位項目は、下位項目の総和である
土地造成
その他土木
(注3)建築関係の略号は以下のとおり
SRC:主要構造部が鉄骨鉄筋コンクリート
RC
:主要構造部が鉄筋コンクリート
S
:主要構造部が鉄骨またはその他の金属
CB :コンクリートブロック及び上記に該当しないも
の
2)I−O表における固定資本マトリクスの調整
資本財 16 要素デフレーターの算定に用いる固定資本マトリクスは、
『昭和 55 年産業連関表』
(行
政管理庁, 1984)の固定資本マトリクスのうち、列項目(16 要素)と対応する行項目(中間投入
財 68 系列)を適用している。なお、生産者価格で表示されている固定資本マトリクスを、I−O
表の取引基本表における列項目「国内総固定資本形成(政府)」及び「国内総固定資本形成(民間)」
の生産者価格と購入者価格の比率を用いて、購入者価格に変換している。
54
図 2-9 資本財 16 要素
民間
E1民間 電力
公的
E7公的 建設
E2民間 都市ガス
E8公的 電力
E3民間 水道
E9公的 都市ガス
E4民間 運輸
E10公的 水道
E5民間 通信
E11公的 不動産
E6民間 その他のサービス
E12公的 運輸
E13公的 通信
E14公務
E15公的 その他のサービス
E16公的部門計
(注)E に続く数字は、本推計で用いる資本財 16 要素デフレーターの連番
表 2-8 資本財 16 要素デフレーターの算定用の投入品目
0016-920
肉畜
3605-100
事務用機械
2390-300
製綿・じゅうたん
3606-100
ミシン・毛糸手編機械
2390-400-2
ロープ・漁網
3606-900
その他の機械・同部分品
2430-100
衣服
3701-100
発電機器
2520-020
木製品(除別掲)
3701-200
配送電機器
2600-110
木製家具・建具材
3701-300
電動機
2600-200
金属製家具
3701-400
その他の産業用重電機器
3429-200
核燃料
3702-210
電気音響機器
3501-190
その他の鉄構物
3702-220
ラジオ・テレビ受信機
3502-900-2
その他の金属製品
3702-230
民生用電気機器
3601-100-2
原動機・ボイラー
3703-000
電子計算機・同付属装置
3602-100
工作機械
3704-100-2
その他の軽電機器
3602-200
金属加工機械
3704-220
その他の電子応用装置
3603-100
農業機械
3704-300
電気通信機械及び関連機器
3603-200
鉱山・土木建設機械
3704-400
電気計測器
3603-300
化学機械
3704-500
電気照明器具
3603-400
繊維機械
3810-100
鋼船
3603-510
食料品加工機械
3810-200
その他船舶
3603-520
製材木工機械
3820-100
鉄道車両
3603-530
パルプ装置・製紙機械
3830-010
乗用車
3603-540
印刷・製本・紙加工機械
3830-090
その他の自動車
3603-571
鋳造装置
3850-200
自動二輪車
3603-572
プラスチック加工機械
3850-300
自転車・リヤカー
3603-579
その他の特殊産業機械
3860-100
航空機
その他の輸送機械
3604-110
ポンプ及び圧縮機
3890-100
3604-120
運搬機械
3910-100
理化学機器
3604-141
冷凍機・同装置
3910-200
度量衡器・計量器
3604-142-2
冷凍機応用製品
3910-300
医療機械
3604-151
サービス用機械
3920-100
カメラ
3604-152
自動販売機
3920-200
その他の光学機械
3604-153
娯楽用機器
3930-100
時計
3604-160
産業用運搬車両
3990-100
玩具・運動用品(ゴム製を除く)
3604-170
工業窯炉
3990-200
楽器
3604-190
その他の一般産業機械及び装置
3990-600
その他の製造品
55
3)建設活動 61 要素デフレーター及び資本財 16 要素デフレーターの算定
基本単位デフレーター(建設活動用)及び基本単位デフレーター(資本財用)を用いて、建設
活動 61 要素デフレーター及び資本財 16 要素デフレーターを以下の式により算定している。算定
された建設活動 61 要素デフレーター及び資本財 16 要素デフレーターは、巻末データ集に掲載し
ている。
dt  A t  Dt
d t : t 年の基本単位デフレーターベクトル(横ベクトル)
ベクトルの成分
d ti
: t 年における品目 i のデフレーター
( i = 1∼179、建設活動)
( i = 1∼68、資本財)
A t : t 年の投入係数行列
行列の成分
atij : t 年の建設活動 j に対する品目 i の投入係数
t 年の資本財 j に対する品目 i の投入係数
179
但し、  atij =1( j = 1∼61、建設活動)
i 1
68
 atij =1( j = 1∼16、資本財)
i 1
Dt :建設活動 61 要素デフレーターまたは資本財 16 要素デフレーターベクトル
ベクトルの成分
Dt j : t 年における建設活動 j のデフレーター
または t 年における資本財 j のデフレーター
(5)17 部門デフレーターの算定
17 部門デフレーターは、部門毎に建設活動 61 要素デフレーター及び資本財 16 要素デフレータ
ーを合成することで算定している。
56
第6節
粗資本ストックの推計
本節では、耐用年数の考え方と除却方式について、従来の手法とその課題、今回用いる手法につ
いて説明している。
(要点)
 粗資本ストックとは、耐用年数期間中は能力量・価値の低減を考慮せず、除却を考慮したスト
ックであり、算定にあたっては耐用年数と除却分布を設定した。
 施設・構造物の構成実態にあわせて耐用年数を見直した。
 除却方式としてサドンデスではなく釣鐘型関数を用いた。
 釣鐘型関数の関数形として、形状係数4のワイブル分布を用いた。
粗資本ストックは、実質投資額を耐用年数期間、積み上げることにより推計する。本節では、
粗資本ストックの推計に用いる耐用年数の設定及び耐用年数の分布(除却分布)について説明す
る。
1
耐用年数
(1)基本的な考え方
1)耐用年数とは
建設省大臣官房政策課政策分析調査室(1984)23によると、社会資本の耐用年数に影響を及ぼす
ものとして、物理性、機能性、経済性、社会性及び災害の5種類の概念が存在する。これらに対
応する耐用年数として、物理的耐用年数、機能的耐用年数、経済的耐用年数、社会的耐用年数及
び災害上の耐用年数が存在する。
物理的耐用年数は、施設が使用されることによって減耗し、通常の維持補修では使用不可能に
なるまでの年数である。
機能的耐用年数は、物理的耐用年数が経過する以前に、施設に対する需要量が当初予定された
限界を超える、あるいは需要の質的水準が施設の質的水準を超える等により機能不足を生じるた
めに更新せざるを得なくなるまでの年数である。
経済的耐用年数は、既存の施設の維持管理費が、施設を更新する費用及び更新後の新施設の維
持管理費を上回るため、更新する方が経済的になるまでの年数である。
社会的耐用年数は、他の公共施設の建設敷地となるため撤去を要する等の外的事情のために、
撤去または再建を要することになるまでの年数である。
災害上の耐用年数は、自然災害または社会的事故のため、施設が破壊・損害を受け更新せざる
を得なくなるまでの年数である。
図 2-10 には、参考として橋梁の架替理由を示している。そのほとんどが、機能上の問題や設計
23
建設省大臣官房政策課政策分析調査室(1984),『社会資本のメンテナンス問題』
57
加重不足等の機能的要因、及び改良工事等の社会的要因であることがわかる。
図 2-10 橋梁の架替理由
100%
90%
80%
70%
60%
50%
40%
30%
20%
10%
計
71
∼
66
∼
70
61
∼
65
56
∼
60
51
∼
55
46
∼
50
41
∼
45
36
∼
40
31
∼
35
26
∼
30
21
∼
25
16
∼
20
6∼
10
11
∼
15
∼
5
0%
(供用年数)
上部構造損傷
機能上の問題
下部構造損傷
改良工事
設計荷重不足
災害による架替(地震含む)
耐震対策
その他
(注)架替理由のうち「機能上の問題」は、
「幅員狭小」、
「交通混雑」、
「支間不足」及び「桁下空間不足」を
表す。
また、架替理由のうち「改良工事」は、「道路線形改良」、「河川改修」及び「都市計画」を表す。
(出所)建設省土木研究所構造橋梁部橋梁研究室(1997)『橋梁の架替に関する調査結果(Ⅲ)』及び国土技
術政策総合研究所(2008)、『橋梁の架替に関する調査結果(Ⅳ)』をあわせて作成
2)財務省令24による耐用年数
わが国で耐用年数を税法上の観点から規定したものに財務省令がある(表 2-9)。これは、企業
の課税基準の算定にあたり準拠すべきものとして定められたものであり、新井(1980)25によると、
「通常考えられる維持・補修を加えた結果予定される耐用年数で、わが国企業設備の一般的な陳
腐化を織り込んだものである」(p.136)とされている。技術革新等の新しい経済情勢に対応する
ため数次の改正を経て今日に至っており、わが国で用いうる資産の耐用年数として最も一般的か
つ権威のあるものといえる。
24
25
『減価償却資産の耐用年数等に関する省令(昭和 40 年 3 月 31 日大蔵省令第 15 号)』
新井(1980),『減価償却の理論』,同文舘
58
表 2-9 減価償却資産の耐用年数等に関する省令(一部抜粋)(1/2)
種類
建
物
建造又は用途
細目
鉄筋鉄骨コンクリート 事務所用又は美術館用のもの及び左記以外
造又は鉄筋コンクリー のもの
ト造
住宅用、寄宿舎用、宿泊所用、学校用又は
体育館用のもの
飲食店用、貸席用、劇場用、演奏場用、映
画館用又は舞踏場用のもの
●飲食店用又は貸席用のもので、延べ面積
のうちに占める木造内装部分の面積が三割
を超えるもの
●その地のもの
旅館用又はホテル用のもの
●延べ面積のうちに占める本造内装部分の
面積が3割を超えるもの
●その他のもの
店舗用のもの
病院用のもの
変電所用、発電所用、送受信所用、停車場
用、車庫用、格納庫用、荷扱所用、映画製
作ステージ用、屋内スケート場用、魚市場
用又はと畜場用のもの
公衆浴場用のもの
工場(作業場を含む。)用又は倉庫用のも
の
●塩素、塩酸、硫酸、硝酸その他の著しい
腐食性を有する液体又は気体の影響を直接
全面的に受けるもの、冷蔵倉庫用のもの
(倉庫事業の倉庫用のものを除く。)及び
放射性同位元素の放射線を直接受けるもの
●塩、チリ硝石その他の著しい潮解性を有
する固体を常時蔵置するためのもの及び著
しい蒸気の影響を直接全面的に受けるもの
●その他のもの
倉庫事業の倉庫用のもの
冷蔵倉庫用のもの
その他のもの
その他のもの
耐用年数
50
種類
建
物
建造又は用途
細目
木造モルタル造のもの 事務所用又は美術館用のもの及び左記以外
のもの
47
34
41
耐用年数
22
店舗用、住宅用、寄宿舎用、宿泊所用、学
校用又は体育館用のもの
20
飲食店用,貸席用,劇場用,演奏場用,映
画館用又は舞踏場用のもの
19
変電所用、発電所用、送受信所用、停車場
用、車庫用、格納庫用、荷扱所用、映画製
作ステージ用、屋内スケート場用、魚市場
用又はと畜場用のもの
15
旅館用、ホテル用又は病院用のもの
15
公衆浴場用のもの
工場(作業場を含む)用又は倉庫用のもの
●塩素,塩酸,硫酸,硝酸その他の著しい
腐食性を有する液体または気体の影響を直
接全面的に受けるもの及び冷蔵庫用のもの
●塩,チリ硝石その他著しい潮解性を有す
る固体を常時蔵置するためのものおよぴ著
しい蒸気の影響を直接全面的に受けるもの
11
31
39
39
39
38
7
10
●その他のもの
14
電気設備(照明設備を 蓄電池電源設備
含む)
6
31
建
物
付
属
設
備
24
31
給排水又は衛生設備
及びガス設備
21
31
38
その他のもの
15
給排水又は衛生設備及びガス設備
15
冷房,暖房,通風またはボイラー設備
●冷暖房設備(冷凍機の出力が22キロ
ワット以下のもの)
●その他のもの
昇降設備
エレベーター
エスカレーター
消火,排煙又は災書報知設備及び格納式避
難設備
エヤーカーテン又はドアー自動開閉設備
アーケード又は日よけ設備(主として金属
製品のもの)
アーケード又は日よけ設備(その他のも
の)
店用簡易装置
可勤間仕切り(簡易なもの)
可動間仕切り(その他のもの)
前掲のもの以外のもの 前掲以外のもの(主として金属製のもの)
及び前掲の区分によら
ないもの
前掲以外のもの(その他のもの)
59
13
15
17
15
8
12
15
8
3
3
15
18
10
表 2-9 減価償却資産の耐用年数等に関する省令(一部抜粋)(2/2)
種類
構
築
物
建造又は用途
細目
鉄道業用又は軌道業用 軌条及びその付属品
のもの
まくら木
●木製のもの
●コンクリート製のもの
●金属製のもの
分岐器
通信線,信号線及び電灯電力線
信号機
送電電線及びき電線
電車線及び第三軌条
帰線ポンド
電線支持物(電柱及び腕木を除く)
木柱及び塔(腕木を含む)
●架空素道用のもの
●その他のもの
前掲以外のもの
●線路設備
軌道設備
道床
その他のもの
土工設備
耐用年数
20
8
20
20
15
13
15
25
無軌条電車
8
30
30
40
20
5
30
60
16
57
50
鉄骨造のもの
40
その他のもの
トンネル
鉄筋コンクリート造のもの
れんが造のもの
15
その他のもの
30
その他のもの
●停車場設備
●電路設備
鉄柱,鉄塔,コンクリート柱及び
コンクリート塔
踏切保安設備又は自動列車停止
設備
その他のもの
21
32
60
35
45
12
40
80
75
60
50
45
サイロ
下水道,煙突及び焼却炉
高架道路,製塩用ちんでん池,飼育場
及びへい
爆発物用防壁及び防油堤
造船台
35
35
30
放射性同位元素の放射線を直接受けるもの
15
その他のもの
緑化施設及び庭園
工場緑化施設
その他の緑化施設及び庭園(工場緑
化施設に含まれているものを除く)
舗装道路及び舗装路面 コンクリート敷,ブロック敷,れんが敷又
は石敷のもの
アスファルト敷又は木れんが敷のもの
60
7
20
●小型車(しんかい車,及びし尿車にあっ
ては積載量が2トン以下,その他のものに
あっては総排気量が2リットル以下のもの
をいう)
●その他のもの
運送事業用、貸自動車 自動車(二輪又は三輪自動車を含み,乗合
業用又は自動車教習所 自動車を除く)
用の車輌及び運搬具
●小型車(総排気号が2リットル以下のも
(前掲のものを除く) のをいう)
●その他のもの
大型乗用車(総排気量が3リッ
トル以上のものをいう)
その他のもの
乗合自動車
自転車及びリアカー
被けん引車その他のもの
3
●その他のもの
15
10
3
60
5
20
5
鉱山用人車,炭車,鉱車及び台車
●金属製のもの
●その他のもの
フォークリフト
トロッコ
●金属製のもの
●その他のもの
その他のもの
●自走能力を有するもの
25
24
11
その他のもの
特殊自動車(この項に 消防車,救急車,レントゲン車,散水車,
は、別表第2条334号の 放送宣伝車,移動無線車及びチップ製造車
自走式作業用機械を含 モータースイーパー及び除雪車
まない)
タンク車,じんかい車,し尿車,寝台車,
霊きゅう車,トラックミキサー,レッカー
その他特殊車体を架装したもの
前掲のもの以外のもの 自動車(二輪又は三輪自動車を除く)
●小型車(総排気量が0.66リットル以
●その他のもの
貨物自勤車
ダンプ式のもの
その他のもの
報道通信用のもの
その他のもの
二輪又は三輪自動車
自転車
19
乾ドック
ビチューマアルス敷のもの
耐用年数
18
10
12
15
20
10
15
鉄筋コンクリート造のもの
●その他のもの
水道用ダム
トンネル
橋
岸壁,さん橋,防壁(爆発物用のものを除
く),堤防,防波堤,塔,やぐら,上水
道,水そう用及び用水用ダム
建造又は用途
細目
鉄道用又は軌道用車輌 電気又は蒸気機関車
(架空索道用機器を含
む)
電車
内燃動車(制御車及び附随車を含む)
貨車
●高庄ボンベ車及び高圧タンク車
●薬品タンク車及び冷凍車
●その他のタンク車及び特殊構造車
●その他のもの
線路建設保守用工作車
鋼索鉄道用車輌
架空索道用搬器
●その他のもの
橋りょう
鉄筋鉄骨コンクリート
造又は鉄筋コンクリー
ト造のもの(前掲のも
のを除く)
種類
車
輌
及
び
運
搬
具
4
4
3
5
4
5
2
4
4
4
5
5
6
3
2
7
4
4
5
3
7
4
3)本推計で用いた平均耐用年数の算定方式
『日本の社会資本』では従来、財務省令の耐用年数を基礎に部門別の平均耐用年数を算定して
きた。財務省令による耐用年数は、税法上の観点から規定されているものである。具体的には、
課税の公平化の観点から恣意性を排除するため個々の資産の置かれた特殊条件にかかわりなく構
造物毎に画一的に定められている26。
物理的耐用年数は一般的に物理的な老朽化によって決定されるが、設計や施工、維持管理、構
造物の置かれた環境、そして構造物に作用する荷重等に左右される。さらに現実には、社会的な
要請等により物理的な耐用年数より前に寿命を終える構造物も多い。よって、実際の耐用年数は、
対象となる構造物が社会的要請等にどの程度影響を受けるのかによって変わる。
『日本の社会資本』
の耐用年数が実態に合っていない可能性があったことから、
『日本の社会資本 2007』では、財務省
令に基づく耐用年数以外に、より現場感覚に近いと判断される耐用年数を用いたストックの試算
もあわせて行った。
本推計では以上の経緯も踏まえつつ、さらに、各部門における構成資産の状況及び耐用年数に
関する既往の調査結果を考慮して、耐用年数の見直しを行った。
理想的には、固定資産台帳を整備しながら、個別資産の建設及び廃止年次を把握し、それに基
づいて劣化曲線を推定し、平均耐用年数を算出することが望ましいが、ほとんどの部門において、
十分なデータが整備されていないのが現状である。したがって、本推計では現在入手しうるデー
タを用いて各部門の平均耐用年数を算出した。
推計を行う社会資本の各部門は、耐用年数が異なる多数の構成資産から成り立っている。各部
門の平均耐用年数を決定するためには、構成資産のうち代表的な資産の耐用年数を何らかのウェ
イトにより合成することが必要となる。各部門の構成資産のデータの入手可能性等を勘案しなが
らそれぞれの部門で以下の①∼④のいずれかの方式を用い、平均耐用年数を選出した。
①ストックによる方式
各部門を構成する代表的な資産の粗資産額により加重平均を行い合成するもの。
m
A
A
d
i
i
i
②減価償却による方式
各部門を構成する代表的な資産の償却資産額の合計及び減価償却費の合計から平均耐用年数
を求めるもの。
m
26
27
log 
B t 1
(定額法の場合) m 
(定率法の場合)27
log(1   )
Dt
詳細については、第2章第4節第2項を参照願いたい。
取得価額Aの資産について、減価償却率δで定率法により減価償却すると、耐用年数 m 年後の残存価額は
A  (1   ) m と表される。一方、減価償却による耐用年数経過後の残存率をαとすると、残存価額は A   で
表される。よって、 A  (1   ) m  A   が成立し、導出される。
61
③フローによる方式
個別資産に対する投資額により加重平均を行い合成するもの。
m
 I i  d i 
もしくは m   Ri  d i 
 Ii
④その他の方式
(凡例)
m
:平均耐用年数
Ii
:資産 i (または事業 i )に対する投資額
Ai
:資産 i の名目粗有形固定資産額
Ri
:資産 i に対する投資額の総投資額に占める
di
:資産 i の耐用年数
割合
B
:償却資産額(土地分を除く粗有形固定資

:残存率

:減価償却率(定率法)
t
:当該年度
産額)
D
:減価償却費
(参考)従来の『日本の社会資本』の耐用年数に対するインフラ管理者の認識
0%
[]内は、「日本の社会資本2007」における耐用年数
10%
20%
30%
40%
50%
60%
【道路】舗装[10年](N=990)
【道路】橋梁[48年](N=987)
【道路】その他[60年](N=870)
【港湾】岸壁[50年](N=134)
【港湾】建物[38年](N=115)
【港湾】機器[7∼17年](N=118)
【空港】建物[38年](N=23)
【空港】滑走路[15年](N=23)
【空港】機器[9年](N=25)
【鉄道・地下鉄】鉄道施設[26年](N=13)
【下水道】下水道[15年](N=853)
【廃棄物処理】廃棄物処理施設[15年](N=652)
【上水・工水】上水道[34年](N=794)
【上水・工水】工業用水道[37年](N=191)
【都市公園】都市公園[24年](N=815)
【文教施設】建物[41∼47年](N=1696)
【文教施設】建物附属設備等[15∼17年](N=1683)
【治水】堤防[40年](N=237)
【治水】ダム[80年](N=212)
【治水】砂防[47年](N=184)
【治水】治水機械[7年](N=209)
【治山】治山ダム[50年](N=209)
【海岸】堤防・防波堤[30年](N=189)
【農業】生産基盤施設[35年](N=637)
【農業】共同利用施設[21年](N=551)
【林業・国有林】林道[15年](N=626)
【林業・国有林】造林[45年](N=555)
【漁業】岸壁[50年](N=256)
【郵便】建物[38年](N=1)
【郵便】工作物[48年](N=1)
【郵便】機械器具[5年](N=1)
A:概ね感覚と合う
B:実態より長すぎる
(出所):内閣府資料
62
C:実態より短すぎる
70%
80%
90% 100%
(2)各分野の平均耐用年数の算定
今回設定した部門別の算定方式と耐用年数を以下に整理する。なお、個別部門の設定方法の詳
細は、第4章において部門別に記載しているのでそちらを参照されたい。
表 2-10 本推計で採用した部門別の算定方式
算
定
方
式
①ストックによる方式
②減価償却による方式
③フローによる方式
④その他の方式
4-1
15
4-2
6
8
17
1
2
3
7
10-1
11
12
14-1
14-2
16
5
9
10-2
13
14-3
部 門 名
鉄道建設・運輸施設整備支援機構等
郵便
地下鉄等
下水道
水道
工業用水道
道路
港湾
航空
廃棄物処理
文教施設(学校施設・学術施設)
治水
治山
農林漁業(農業)
農林漁業(林業)
国有林
公共賃貸住宅
都市公園
文教施設(社会教育施設・社会体育施設・文化施設)
海岸
農林漁業(漁業)
表 2-11 『日本の社会資本 2007』で用いた耐用年数と本推計で用いる平均耐用年数との比較表
部
1
2
3
4-1
4-2
5
6
7
8
9
10-1
10-2
11
12
13
14-1
14-2
14-3
15
16
17
門
道路
港湾
航空
鉄道建設・運輸施設整備 支
援機構等
地下鉄等
公共賃貸住宅
下水道
廃棄物処理
水道
都市公園
文教施設(学校施設・学術施
設)
文教施設(社会教育施設・社
会体育施設・文化施設)
治水
治山
海岸
農林漁業(農業)
農林漁業(林業)
農林漁業(漁業)
郵便
国有林
工業用水道
本推計
『日本の社会資本 2007 』
50 年
47 年
16 年
49 年
49 年
16 年
26 年
26 年
33 年
62 年
45 年
23 年
35 年
28 年
34 年
−
15 年
15 年
34 年
24 年
45 年
26 年
45 年
41 年
48 年
44 年
50 年
42 年
40 年
50 年
18 年
33 年
37 年
49 年
50 年
30 年
32 年
27 年
50 年
20 年
35 年
36 年
63
2
除却分布(耐用年数の分布)
(1)基本的な考え方
1)除却
除却(retirement/discard)とは、使用していた価値のある既存資産が、何らかの理由により
なくなることである。社会資本ストックの推計では、積み上げた投資額から、除却された既存資
産分を控除することが必要である。除却の原因には主に以下のようなものがある。
・経済活動において一定期間使用されることによる使用価値の滅失
・災害による滅失
・改良工事等による一部機能の置換
・各種事情による一部又は全部の売却、廃棄
2)除却関数
除却の結果は、資産の残存分布を示す残存関数と、資産が単位時間に除却される割合を示す除
却関数で表される。除却関数は、残存関数を微分することで得られる。
資産毎のデータ把握が困難なため、既往の研究や各国での実績等では、いくつかの特徴的な関
数に分類された除却方式を採用しストックを推計している。なお、それらの関数は異なるパラメ
ータを有し、耐用年数等により分布の形状が決定される。
OECDマニュアル(2001)は、残存関数として以下の4パターンを示している。
①一括除却(サドンデス除却)(Simultaneous exit)
全資産は、耐用年数の経過直後、一括して除却されるとする考え方。
① 一括除却
除却関数
残存関数
100%
L ‒ 平均耐用年数
L ‒ 平均耐用年数
(出所)OECD(2001),『Measuring Capital』
,p.53
より作成。以下同様。
②線形除却(定額除却)(Linear)
資産の使用開始直後から毎年同じ割合で除却され、耐用年数の2倍の期間の経過後に、全
て除却されるとする考え方。
64
② 線形除却
除却関数
残存関数
100%
L
L
③遅延線形除却(箱型除却)(Delayed linear)
一定期間経過後に除却が開始され、毎年同じ割合で一定期間除却された後、全ての資産が
除却されるとする考え方。資産の使用開始直後から除却が開始されるとする線形除却方式の
非現実的な仮定を改良している方式である。
③ 遅延線形除却
除却関数
残存関数
100%
L
L
④釣鐘型除却(Bell shaped)
資産の使用開始後徐々に除却が大きくなり、耐用年数付近でピークに達し、耐用年数経過
後は徐々に小さくなるとする考え方。
④ 釣鐘型除却
除却関数
残存関数
100%
L
L
65
OECD(2009)には、釣鐘型除却を表す具体的な関数として、以下の分布が示されている。
④−1
ワイブル分布
1951 年にスウェーデンの数学者 Walled Weibull によって考案された関数。Winfrey 曲線と
同様の形状を取ることもできる柔軟な関数で、個体群における死亡確率の研究で広く使用さ
れている。
ワイブル分布の関数形は次の式で記述される。
mT 
FT   
  
m 1
e
T 
 
 
m
FT:年齢Tにおける資産の除却確率、m:形状係数、η:尺度係数
形状係数 m は、資産の除却確率の変化の度合いを示す。0<m<1 の場合、除却確率は時間と共
に減少し、m= 1 の場合、除却確率は一定、m>1 の場合、除却確率は時間とともに増加する。
1<m<2 の場合、除却確率の増加速度は徐々に低下するが、m=2 の場合、除却確率は直線的に増
加し、m>2 の場合、除却確率の増加速度は徐々に上昇する。
ワイブル分布はオランダにおける資本ストックの推計に用いられている。
④−2
ウィンフレイ分布
1930 年代に Iowa Engineering Experimentation Station(アイオワ工学実験ステーション)
の研究技師 Robley Winfrey によって考案された関数。産業資産の設置・除却日時のデータに
基づき、資産の除却確率を示す曲線が算出されている。パラメータの組合せにより、18 のパ
ターンが提示されている。
対称ウィンフレイ分布の関数形は次の式で記述される。
 T2 
FT  F0 1  2 
 a 
m
FT:年齢Tにおける資産の除却確率、F0・a・m:パラメータ
FT は平均耐用年数において最大となる。一般に用いられているのは、S2(F0 = 11.911; a =
10; m = 3.70)、S3(F0= 15.610; a = 10; m = 6.902)の2パターンである。
ウィンフレイ分布はオーストラリアにおける資本ストックの推計に用いられている。
66
(出所)OECD(2009),『Measuring Capital Second Edition』
④−3
ガンマ分布
ガンマ分布は、自動車登録データを用いた実証研究で有効性が確認されているため、ドイ
ツ連邦統計局等、いくつかの国で採用されている。
ガンマ分布の関数形は次の式で記述される。
FT 
ap
T p 1e aT
  p
FT:年齢Tにおける資産の除却確率、a・p:パラメータ
パラメータ a と p は関数の形状を決定する。ドイツでは自動車に関する実証研究に基づき、
ほとんどの資産に関してパラメータ a と p は 9 に設定されている。
④−4
対数正規分布
対数正規分布に従う確率変数は、対数をとった場合、その分布が正規分布に従うという性
質をもつ。
対数正規分布の関数形は次の式で記述される。
FT 
1
2 T

e
 ln T   2
2 2
FT:年齢Tにおける資産の除却確率、σ:標準偏差、μ:平均
T= 0 における除却確率は 0 で、右にロングテールを持つ形状となる。ただし、経過年数が
長くなっても除却確率が 0 になることは無いため、任意で 0 に設定する必要がある。対数正
規分布は EU における資本ストックの推計に用いられている。
67
(2)今回用いる手法
従来、
『日本の社会資本』では、平均耐用年数で全資産を一括して除却する「一括除却(サドン
デス除却)」を採用してきた。
(『日本の社会資本 2007』では、試算として、釣鐘型分布のうちワイ
ブル分布を用いた推計も実施している。)
しかし現実には、必ずしも決まった年数が到来したら除却するわけではなく、耐用年数を迎え
る前にさまざまな要因(経年劣化、災害・事故による破損、機能の陳腐化等)で除却されたり、
逆に、耐用年数経過以降も継続して使用される場合も見られる。特に、大規模な構造物は予防保
全の考え方に基づきメンテナンスすることを前提に永久にもたせる(更新しない)場合もある。
以上を考えると、一括除却は実態を反映しているとは言いがたい。OECDマニュアル(2001)
は、一括除却と線形除却は非現実的であり、さらに、除却率が徐々に増加し徐々に減少する釣鐘
型除却が遅延線形除却よりも現実的であるとしている。諸外国においても、釣鐘型関数を採用し
ている国が多い。
そこで、本推計では、X 軸方向にロングテールを持ち Y=0 に漸近する釣鐘型分布として、すべて
の分野で「ワイブル分布」を採用することとした。
あまたある釣鐘型分布関数のうちワイブル分布を選択した理由は、もともと個体の生存確率を
説明するために開発された分布であり考え方がなじむこと、パラメータの設定によりさまざまな
形状をとりうること、海外での採用事例があることが挙げられる。
ワイブル分布は、パラメータ(係数)に応じて形状を柔軟に変えることができる。実態に合っ
た除却分布を得るためには、実際の除却データ(除却した構造物の供用年数)に基づいてパラメ
ータを推定することが望ましい。
今回、既往文献をレビューしたところ、橋梁及び廃棄物処理施設については、投資・除却デー
タを把握できたため、これに基づいてワイブル分布を近似させたところ、形状係数は4前後の値
となった。また、下水道の電気機械設備に関してワイブル分布を近似させた既往研究があり、そ
れによると形状係数はやはり4前後であった。
(次頁以降参照)
データ制約上、全ての分野で推定を行うことが出来ないこと、また、除却データしか無く、母集
団に偏りがあることから、推定結果をそのまま活用することは難しい。本推計では、推定結果を
参考に、すべての分野においてワイブル分布の形状係数を4と設定することとした28。(平均耐用
年数において累積除却率が 0.5 となるように設定することで、尺度係数は自動計算され、関数形
が特定される。)
28
オランダ統計局は、直接観察法によるデータに基づき、民間製造業を対象にワイブル分布の推定を実施。その
結果、形状係数は概ね1∼2と推定されている。
(Statistics Netherlands 『Service lives and discard patterns
of capital goods in the manufacturing industry, based on direct capital stock observations, the
Netherlands』(2008))
68
図 2-11 除却プロファイルの形状及び関数式
1
0.9
0.8
0.7
0.6
形状係数2
0.5
形状係数4
形状係数6
0.4
形状係数8
0.3
0.2
0.1
0
0
10
20
30
40
50
60
69
70
80
90
100
参考
実測データに基づくワイブル分布の推定
①橋梁
土木研究所『橋梁の架替に関する調査結果(Ⅲ)』(1997)及び国総研『同(Ⅳ)』(2008)にお
いて、国土交通省の各地方整備局、北海道開発局、沖縄総合事務局、各都道府県及び各政令指定
都市が管理する橋梁のうち、1986(昭和 61)年 7 月 1 日∼2006(平成 18)年 6 月 30 日の間に撤
去または架替が行われた 3,265 橋に関して、架設年代及び供用年数を把握することができる。
表 2-12 「橋梁の架替に関する調査」(Ⅲ)及び(Ⅳ)における架設年代及び供用年数別橋梁数
架設年代
19 00 1910 1920 193 0 1940 19 50 1960 1970 19 80 1990 2 000
︵
供
用
年
数
︶
5
年
刻
み
0∼4
5∼9
10∼14
15∼19
20∼24
25∼29
30∼34
35∼39
40∼44
45∼49
50∼54
55∼59
60∼64
65∼69
70∼74
75∼79
80∼84
85∼89
90∼94
95∼99
100∼104
0
3
3
2
3
3
0
20
57
50
17
13
5
0
15
130
181
154
77
21
0
3
12
27
25
13
6
1
32
210
261
192
117
24
3
12
125
283
324
244
91
8
0
1
1
0
0
0
総計
2
14 162 578
87 839 1087
※色付きは、サンプルが観察される可能性のある範囲。
注)架設年次が不明なもの等、一部サンプルを除いている。
70
3
20
57
99
134
59
2
374
0
9
11
17
9
2
2
2
1
0
0
0
48
5
0
総計
2
14
32
86
233
451
593
510
295
167
179
217
217
128
41
16
8
4
3
0
0
3196
当該データは、国・都道府県・政令市の橋梁を対象としたものであり、わが国におけるすべて
の橋梁を対象としているわけではないため、母集団補正が必要となる。本来、年代別の橋梁架設
数で補正を行うのが望ましいが、そうしたデータは入手できなかったため、
『道路統計年報』に基
づく各年代の橋梁投資額でサンプルの偏りを補正した上で、ワイブル分布の推定を行った。
推定の結果、平均耐用年数は 48 年、形状係数は 3.54、尺度係数は 53.4 と推定された。
図 2-12 ワイブル分布の推定結果
除却年数のシェア
0.03
近似
0.025
0.02
0.015
0.01
0.005
0
0
5
10 15 20 25 30 35 40 45 50 55 60 65 70 75 80 85 90
②廃棄物処理施設(ごみ焼却施設)
廃棄物施設に関しては、環境省『一般廃棄物処理実態調査』で、当該年度に稼働している施設
の使用開始年度を把握することができるため、前年度調査結果と比較することにより、当該年度
に廃止された施設の供用年数を把握することができる。
上記調査(平成 11∼19 年度調査分)に基づく焼却施設の供用年数の分布は、以下のとおりで
ある。
図 2-13 供用年数の分布
60
最頻値:24年
50
40
施
設
数 30
20
10
0
10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41
廃止時の供用年数
71
(出所)環境省(平成22年3月),『廃棄物処理施設長寿命化計画作成の手引き(ごみ焼却施設編)』
(原出所)環境省『一般廃棄物処理実態調査』における平成 11∼19 年度実績。
これをもとに、ワイブル分布の推定を行った結果、平均供用年数は 22.4 年、形状係数は 3.86、
尺度係数は 24.8 と推定された。
図 2-14 ワイブル分布の推定結果
除却年数のシェア
近似
0.08
0.07
0.06
0.05
0.04
0.03
0.02
0.01
0
10
15
20
25
30
35
40
③廃棄物処理施設(し尿処理施設)
ごみ焼却施設と同様、環境省『一般廃棄物処理実態調査』で、当該年度に稼働している施設の
使用開始年度を把握することができるため、前年度調査結果と比較することにより、当該年度に
廃止された施設の供用年数を把握することができる。
上記調査(平成 10∼19 年度調査分)に基づくし尿処理施設の供用年数の分布は、以下のとお
りである。
72
図 2-15 供用年数の分布
し尿処理施設の廃止時の供用年数の分布
18
16
最頻値:28年
14
12
施
設 10
数
8
6
4
2
0
1011121314151617181920212223242526272829303132333435363738394041424344454647484950
廃止時の供用年数
(出所)環境省(平成22年3月),「廃棄物処理施設長寿命化計画作成の手引き(し尿処理施設編)」
(原出所)環境省『一般廃棄物処理実態調査』における平成 10∼19 年度実績。
これをもとに、ワイブル分布の推定を行った結果、平均供用年数は 29.6 年、形状係数は 4.43、
尺度係数は 32.4 と推定された。
図 2-16 ワイブル分布の推定結果
除却年数のシェア
近似
0.07
0.06
0.05
0.04
0.03
0.02
0.01
0
10
15
20
25
30
35
40
45
50
④下水道(電気・機械設備)
藤生・花木「下水道機電設備のマクロマネジメント手法」
(2008)では、下水道分野の電気・機
械設備について、経年の設置事業費データと、年齢層別改築件数に基づき、耐用年数確率分布の
推定を行っている。
関数形としてはワイブル分布を用いており、推定結果は、平均供用年数は 23.4∼26.6 年、形状
係数は 3.40∼4.84、尺度係数は 25.8∼29.2 と推定されている。
73
表 2-13 工種別・ケース別最良近似ワイブル分布
(出所)藤生和也・花木啓祐(2008),『下水道機電設備のマクロマネジメント手法』
(注1)
「機電」は、機械及び電気それぞれの件数シェア分布を、
「下水道統計要覧」に基づく工事費の比率 62.5:
37.5(1986∼99 年平均値)で加重平均したもの。
(注2)対象データは、中尾・黒田・大森「改築の実態・需要に関する調査」
(1993)に基づく。これは、1992 年
度末時点で供用開始5年以上経過した処理場を有する事業体にアンケート調査し、546 処理場の回答を得
て、改築件数を集計したものである。なお、中尾ほか(1993)では、調査基準年(1992 年度)から過去
何年度までさかのぼって調査対象としているかが不明なため、遡及年度数に応じてケースを設定している。
「ケース1」は遡及年度数を1年、「ケース2」は5年、「ケース3」は無制限としている。
74
第7節
純資本ストックの推計
本節では、純資本ストックの推計に必要な価格プロファイル(価値の低下曲線)の設定方法につ
いて説明している。
(要点)
 純資本ストックとは、年数の経過に伴う価値の低下を考慮したストックである。
 算定にあたっては、従来の定額法、定率法に加え、OECDマニュアル(2009)に準じた方法に
より価格プロファイルを設定した。
 OECDマニュアル(2009)に準じた具体的な推計手順としては、第8節で算定する、効率性・
除却合成プロファイルに割引現在価値化の手順(DCF 法)を適用して、価格・除却合成プロフ
ァイルを算定し、これを投資系列に適用することによって純資本ストックを算定する。
 現在価値化に用いる割引率としては、3%を用いる。
OECDマニュアル(2009)による方法で純資本ストックを推計するためには、効率性・除却合
成プロファイルに、Discounted Cash Flow 法を適用し、価格・除却合成プロファイル(Age-Price
Profile;ストック年齢に応じた価値の低下を示す曲線)を導出する必要がある。そして、実質投
資額に当該プロファイルを適用した上で、耐用年数期間積み上げることにより、純資本ストック
を推計する。
本節では、従来の定率法、定額法による価値の低下の仕方に加え、効率性プロファイルから価
格プロファイルを導出する方法とその際に用いる割引率の設定についても、あわせて説明する。
75
1
基本的な考え方
(1)SNAにおける価値の低下の考え方
1968 年の国連勧告では、道路やダムのような社会資本について、維持補修により当該資産が無
限の耐用年数を持つことが保証されるという仮定を置いていたために、固定資本減耗の計算が不
必要であるとしていた。
しかし、1993 年の国連勧告(93SNA)では、この種の資産の大部分について、耐用年数は
適切な維持補修により延びても有限であるという考えに変更され、社会資本に減価償却費と資本
偶発損からなる固定資本減耗を計上すべきことが勧告された。この93SNAは、純資本ストッ
クの推計を勧告するものであると言える。経済企画庁経済研究所(2000)29は、「概念上、社会資
本の固定資本減耗分については、社会資本の提供するサービスに対する対価と見なす」と説明し
ている。
(参考)SNA における固定資本減耗の考え方
 固定資本減耗とは、ある会計期間中に生産者が所有し、使用する固定資産ストックの現在価
値が、物理的減耗、通常の陳腐化または通常の事故による破損の結果、減少することである。
 戦争または、まれに発生する大きな自然災害に起因する損失は固定資本減耗の定義には含め
られない。
 固定資本減耗は、経済分析の目的のために理論的に適切であり関連性があるように意図され
た方法で、SNAで定義されている。
 商業会計で記録されている、または課税目的のために許可されている償却とは、特にインフ
レが存在する時は、その価値は大きく異なる場合がある。
(2)
会計における減価償却の考え方
会計において、減価償却とは、使用している資産の経済的価値が経年的に減少することを意味
する。
IAS1630における定義によれば、減価償却は当該資産の使用可能期間にわたる減価償却額の
規則的な配分であり、当該減価償却額は残存価額控除後の資産のコストであるか、または、財務
諸表におけるその他の代用費用である。
また、例えば加古(2006)31によると、資産の減価をもたらす要因には、予測可能減価原因と予
測不可能減価原因とがあり、予測可能減価原因として物理的減価(劣化や老朽化等)と機能的減
価(技術革新による当該資産の陳腐化等)、予測不能減価原因として急激な技術進歩による陳腐化
や災害による損失がある。そして、減価償却は予測可能減価要因によって生じる減価であるとさ
29
30
31
経済企画庁経済研究所(2000),『我が国の93SNAへの移行について(暫定版)』
IAS(International Accounting Standards):国際会計基準
加古(2006),『財務会計概論 第6版』,中央経済社(株),pp.61-67
76
れている。
経済的価値の減少を算定する具体的な方法として、会計の分野では、一定の期間に一定の規則
で資産価値を減少させる仕組みで表している。これは、資産の使用可能年数を表す耐用年数の期
間後に残存価額となるよう、資産の取得価格を一定の規則で定期的に減少させ、評価額を算定す
る手続きである。しかし、この方法は、使用期間における費用の適正配分を目的とした会計上の
ものであり、減価償却後の各期の評価額はその時点での資産の経済価値を必ずしも正しく表して
いるわけではない点に注意が必要である32。
表 2-14 法人税法施行令等に定められる減価償却方式の種類
定額法
固定資産の耐用年数期間中、毎期均等額の減価償却費を計上する方法。
定率法
固定資産の耐用年数期間中、毎期期首未償却残高に一定率を乗じた減価償却費
を計上する方法。
級数法
固定資産の耐用年数期間中、毎期一定の額を算術級数的に逓減した減価償却費
を計上する方法。
生産高比例法
固定資産の耐用年数期間中、毎期当該資産による生産又は用役の提供の度合に
比例した減価償却費を計上する方法。
(3)本推計における価値の低下の考え方
本推計では、純資本ストックを経齢による償却(depreciation)を考慮した資産の残存価値、
償却を、経齢に伴う物理的減耗及び予期される陳腐化による価格の変化と定義している。
上述の償却の定義から、価格プロファイルは、効率性の低下を考慮した資産価値の残存率の経
齢変化とも考えられる。
(参考)OECDマニュアル(2009)における価格プロファイルの定義
年齢を考慮した資産価格の指数。異なった年齢の同じ資産を同時点で比較したものである。
通常は、年齢を重ねることで価格プロファイルは低下する。
OECDマニュアル(2009)によると、資本ストックの価格の変化は、以下の2つの要素から構
成される33。
①物価変動による価格の変化(the price change that reflects the price movement)
②経齢による価格の変化(the price change that reflects the ageing of the asset)
32
日本公認会計士協会『公会計原則(試案)』(2003)では、「減価償却は、当該資産が使用されている全会計期間
にわたって資産のコストを配分する手続きである」とされ、減価償却の計上について「時価をベースにした当該資
産の再調達原価の期首と期末の増差額に基づいた取替更新費の見積額を計上する方法も認められる」としている。
33
OECDマニュアル(2009)Chapter 5 による。
77
償却とは、このうち②を指す概念である。①はデフレーターで考慮され34、②は価格プロファイ
ルで考慮される。デフレーターは新品の品質調整を、価格プロファイルは経齢変化の品質調整を
示すものであり、両者は明確に区別される。
さらに、OECDマニュアル(2009)によると、経齢による価格の変化は、物理的減耗(Physical
deterioration)及び 通常の 又は 予期される 陳腐化(Obsolescence)による価値の低下の
合計として定義される35。
陳腐化とは、
「経済の状況に対して技術的に適合しなくなった、もしくは技術的により優れた代
替物が利用可能になったことが起因した、既存資本の価値の損失」(Hulten and Wykoff,1981)を
指す。例えば、以下のような事象が想定される。
 他の資源に比べてエネルギーコストが上昇した場合、エネルギーを多く消費する機械は陳腐
化することがある。
 石炭の価格に競争力がなくなった場合、炭鉱は陳腐化することがある。
一方、 異常 または 予期せぬ 陳腐化(例えば、以下のような事象)は償却には含まれない。
 1960 年代における電子計算機の登場は、既存の計算機の価格を突然かつ急激に下落させた。
 1973 年のオイルショックは、石油を使用する資産から、より効率的な資産や別のエネルギ
ーを使用する資産へ劇的に移行させた。
2
今回用いる手法
『日本の社会資本 2007』では、粗資本ストックに対して会計上の減価償却手法を当てはめ、純
資本ストックの試算を行っていた。データの連続性の観点から、今回も定額法、定率法による償
却を行った場合の純資本ストックを推計している。
企業会計では、
「定額法」または「定率法」により減価償却を行うことが決められている。ただ、
これは会計作成者の恣意性が入らないように使用期間における費用の適正配分を行う主旨から採
用されているものである。定額法と定率法のどちらを用いるかは、各企業が経営上の動機によっ
て決めるものであり、評価結果は資産の経済価値を必ずしも正しく表しているわけではない。
このことから本推計では従来手法に加えて、経済学的な視点から、社会資本の価値(すなわち
純資本ストック)を、資本ストックが将来にわたって提供しうるサービスの対価の総和として定
義し、効率性プロファイルに基づくサービスフローを現在価値に換算することにより、価値のプ
ロファイル(価格プロファイル)を導出する。
34
35
国民経済計算調査会議 資本ストック検討委員会 第2回(2005 年 3 月 28 日開催)議事録による。
OECDマニュアル(2009)Chapter5.4 による。
78
OECDマニュアル(2009)では、価格プロファイルを導出する方法として、①取引データに基
づき、価格プロファイルを直接推定する、②効率性プロファイルから導出する、という2つのア
プローチを提示している。
中古市場が存在する資産であれば、中古品価格のデータに基づき、価格プロファイルを推定す
ることができる(中古品価格は、その時点の能力量に加え、そのストックがあと何年持つかも考
慮して決定される。ただし、社会資本の場合、取引市場が存在せず、市場価値を測定することは
難しいため、①を採用することはできない。
②は、ストックが将来にわたって提供する「サービス」が価値を生む、と考え、そのサービス
の割引現在価値を Discounted Cash Flow(DCF)法によって評価する、という方法である。これは、
資本ストックが、将来にわたって提供することが期待されるサービスの対価の総和を求めようと
いう考え方に基づいており、この方法によって導出された純資本ストックは、当該資本ストック
が今後発揮しうる価値(残存価値)を示すことになる。本推計では、こちらの方法を採用するこ
とにする。
なお、DCF 法を用いる場合、実質収益率(割引率)を設定する必要がある。割引率とは、資本が
生み出すサービスの期待収益率であり、将来期待される収益を現在価値に換算する際の割引計算に用
いるものである。
現時点における純資本ストックとしての資産価値を算出するため、今回推計の最終期である 2009 年度
時点での適切な割引率の設定を目指す。
割引率は、資本機会費用の考え方(別の投資機会に回したら獲得できたであろう、失われた可能性を
考慮すること)に基づき、投資利回り(または資金調達時の利子率)を用いる方法と、社会的時間選好の
考え方(一般に、将来に消費することよりも現在に消費することの方が好まれると考えること)に基づき、何
らかの方法で測定した時間選好率を用いる方法がある。
まず、前者に関して10年もの国債の利回りを見ると、直近の10年間で 1.4%、20年間では 2.5%程度であ
る。国債利回りは、当面の間は現状並みで推移することが見込まれるが、将来の利率上昇及びリスクプレ
ミアムを考慮すると、割引率は実績値を下回らない「2%ないし3%」と見込むのが適当であると考えられる。
36
(参考)
10年もの国債の応募者最終利回り(暦年)の平均値
応募者最終利回り
単純平均
加重平均
2000-2009(10 年間)
1.40
1.40
1990-2009(20 年間)
2.50
2.58
(注)加重平均は過去の新設改良費の年別実績に基づいて重み付けを実施。
(出所)総務省統計局監修
日本統計協会編集・発行(2006)、『日本長期統計総覧第3巻』
および財務省、『財政金融統計月報第695号』より作成
36
今回は長期統計が利用可能な名目値の国債の利回りを参考としたが、物価変動を踏まえて実質化すべきという
指摘やリスクプレミアムについても研究途上であるなどの課題がある。
79
1972
1973
1974
1975
1976
1977
1978
1979
1980
1981
1982
1983
1984
1985
1986
1987
1988
1989
1990
1991
1992
1993
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
(%)
参考図表
(出所)総務省統計局監修
10年もの国債応募者最終利回りの推移
9
8
7
6
5
4
3
2
1
0
日本統計協会編集・発行(2006)、
『日本長期統計総覧第3巻』および財務省、
『財政金融統計月報第695号』より作成
80
(参考)割引率に関する説明
■「Measuring Capital OECD Manual Second Edition」(OECD,2009)における収益率(割引率)の考
え方
 ここで利用している名目収益率は、資産が産出するであろうと資産保有者が期待する収益率のこ
とである。
 経済的合理性を考えると、これは資産に固定される資金の機会費用(Opportunity Cost)と捉え
ることができる。
(資金が他の用途に投資された場合、投資家はどの程度の(リスク調整済み)収
入を得ることができたか、ということである。
)
 名目収益率は、資産のための調達コストを反映する必要がある。これは、資産所有者が資産を購
入するために調達した借入金のために支払わなくてはならない利息等を指す。
次に、後者に関して、OECDマニュアル(2009)の 16 節において、政府の期待収益率としての社会的時
間選好(原題:Social rate of time preference as the government rate of return)として、妥当と思われるパラ
メータ設定による国際比較が紹介されている。これによると、わが国の社会的時間選好率は 1.6∼3.3%と
見込まれている。
81
(参考)
OECDマニュアル(2009)に示される社会的時間選好率
(出所)「Measuring Capital OECD Manual Second Edition」(OECD,2009)
以上、資本機会費用及び社会的時間選好の両面を考え合わせ、本推計における割引率は「3%」
と設定することとした。
82
図 2-17 効率性プロファイルから価格プロファイルを導出する方法
効率性プロファイルと価格プロファイルの関係 −割引率5%の場合−
各期首における割引レンタル料
(Value of discounted rentals at the beginning of year:)
サービス量
(Capital
service)
仮想
サービス価格
(Price)
仮想
レンタル料
(Rental)
1
5.0
2
10
9.5
2
4.5
2
9
8.2
8.6
3
4.0
2
8
6.9
7.3
7.6
4
3.5
2
7
5.8
6.0
6.3
6.7
5
3.0
2
6
4.7
4.9
5.2
5.4
5.7
6
2.5
2
5
3.7
3.9
4.1
4.3
4.5
4.8
7
2.0
2
4
2.8
3.0
3.1
3.3
3.5
3.6
3.8
8
1.5
2
3
2.0
2.1
2.2
2.4
2.5
2.6
2.7
2.9
43.7
35.8
28.6
22.1
16.2
11.0
6.5
2.9
年
1
資産価格(asset value)
これを基準化したものが
「効率性プロファイル」
2
サービスの
単価
(仮に設定)
3
4
5
6
1年目(期首)の資産価格 =
1年目以降、将来にわたり
提供することが期待される
サービスの対価の総和
出所:OECD Measuring Capital をもとに翻訳・加筆
10
1.05
8
9
1.05
(1.05)2
8
+
(1.05)3
+…+
8
(1.05)2
7
+
(1.05)3
+…+
3年目(期末)の
割引レンタル価格
図 2-18 割引率による価格プロファイルの違い
(割引率が高くなると、価値プロファイルは効率性プロファイルに接近する)
割引率による価格プロファイルの違い(耐用年数20年の場合)
1
0.9
0.8
0.7
0.6
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
効率性プロファイル(線形と仮定)
価格プロファイル(r=0%の場合)
価格プロファイル(r=5%の場合)
価格プロファイル(r=10%の場合)
83
3
(1.05)8
2年目(期末)の
割引レンタル価格
+
2年目(期末)の
割引レンタル価格
これを基準化したものが
「価格プロファイル」
9
+
1年目(期末)の
割引レンタル価格
2年目(期首)の資産価格 =
2年目以降、将来にわたり
提供することが期待される
サービスの対価の総和
7
17
18
19
20
3
(1.05)7
第8節
生産的資本ストックの推計
本節では、生産的資本ストックの推計に必要な効率性プロファイル(能力量の減耗曲線)の設定
方法について説明している。
(要点)
 生産的資本ストックとは、年数の経過に伴う能力量の低減を考慮したストックであり、算定に
あたっては(個別施設の)効率性プロファイルを設定した。
 具体的な推計手順としては、除却分布と効率性プロファイルとの合成関数(=施設全体の効率
性プロファイル)を求め、これを投資系列に適用することによって算定した。
 効率性プロファイルとしては、すべての分野で直線、双曲線を用いた。
 耐用年数経過時の残存能力量の設定については、社会資本の役割などを考慮し今回はゼロに設
定した。
 効率性プロファイルの設定方法については、効率性の低下についての実証的研究などによる改
善の余地がある。
従来の『日本の社会資本』では、生産的資本ストックの算定を行ってこなかった。
生産的資本ストックの推計に際しては、まず、個別資産の効率性プロファイル(Age-Efficiency Profile)
を設定した上で、これと除却分布を合成して効率性・除却合成プロファイルを算定する必要がある。そして、
実質投資額に当該プロファイルを適用し、これを耐用年数期間積み上げることにより、生産的資本ストック
を推計する37。
1
効率性プロファイルの定義
本推計では、生産的資本ストックを、経齢による効率性の低下(loss in productive efficiency)
を考慮した資産の残存能力量と定義している。これより、効率性プロファイルは、効率性の低下
を考慮した能力量(productive capacity)の残存率の経齢変化と定義できる。つまり、これは資
産の経齡による効率性の低下を捉えようとする定義であることから、能力量は稼動(サービスが
どれだけ提供されたか)ではなく、キャパシティ(サービスをどれだけ提供しうるか)で捉える
べきものである。
(参考)OECDマニュアル(2009)における効率性プロファイルの定義
供用期間を通じた資産の生産的能力(Productive Capacity)を表現するもの。資産の劣化
(Wear and Tear)の結果として生産的能力は低下する。新規取得時に1、供用期間の終了
時点で0になるように基準化される。
37
野村(2004)は、個別資産の効率性の低減を「劣化(decay)」、それと除却分布を合成したストック全体の効率
性の低減を「減耗(deterioration)」、さらにそれを市場価値に換算したものを「償却(depreciation)」と呼ん
で区別している。
84
ストックは、効率性の低下により、除却に至る。本推計では、ストックの主要な除却要因であ
る以下の3つを「効率性の低下」と捉えられるものと仮定する。
①物理的な劣化(老朽化・破損等により施設の品質や性能が下がること)
②経済的な劣化(新技術の導入や代替物の整備により施設の品質や性能が相対的に下がること)
③社会的な劣化(社会的な要請により施設の品質や性能が相対的に下がること)
なお、災害による除却は、資本ストック推計の中で別途考慮されるため、ここで言う「効率性
の低下」には含めないこととする。
上記劣化の分類に、橋梁の架替要因を当てはめてみると以下のようになる。物理的な劣化では
ない②や③も、架替(除却)の主要な要因になっていることが分かる。
①物理的な劣化
②経済的な劣化
③社会的な劣化
橋梁の架替要因
上部構造損傷
下部構造損傷
設計荷重不足
耐震対策
機能上の問題
改良工事
備考
 「機能上の問題」は、
「幅員狭小」、
「交通混雑」、
「支間不足」及び
「桁下空間不足」を表す
 「改良工事」は、「道路線形改良」、「河川改修」及び「都市計画」
を表す
※個々の架替要因が明確に分類できるかは議論の余地があるが、ここでは便宜的に近いと考えられるものに分類。
85
図 2-19 橋梁の架替要因
100%
90%
80%
70%
60%
50%
40%
30%
20%
10%
計
71
∼
66
∼
70
61
∼
65
56
∼
60
51
∼
55
46
∼
50
41
∼
45
36
∼
40
31
∼
35
26
∼
30
21
∼
25
16
∼
20
6∼
10
11
∼
15
∼
5
0%
(供用年数)
上部構造損傷
機能上の問題
下部構造損傷
改良工事
設計荷重不足
災害による架替(地震含む)
耐震対策
その他
(注)架替理由のうち「機能上の問題」は、
「幅員狭小」、
「交通混雑」、
「支間不足」及び「桁下空間不足」を表す。
また、架替理由のうち「改良工事」は、「道路線形改良」、「河川改修」及び「都市計画」を表す。
(出所)建設省土木研究所構造橋梁部橋梁研究室(1997),『橋梁の架替に関する調査結果(Ⅲ)』及び国土技術政
策総合研究所(2008),『橋梁の架替に関する調査結果(Ⅳ)』をあわせて作成
86
2
効率性プロファイルの設定
効率性プロファイルの設定に関する検討の方向性としては、以下の3通りが考えられる。
ⅰ.実測データに基づいて能力量の残存曲線を推計する
ⅱ.能力量の残存曲線を仮定し、何らかの関数を当てはめる
ⅲ.能力量は低減しないと考える(この場合、生産的資本ストックは粗資本ストックと一致
する)
このうち最も望ましいのはⅰであると考えられる。
資本ストックの能力量を示す変数としては、レンタル価格が挙げられる。レンタル価格は、販
売価格と異なり、その資産が将来どの程度長持ちするかは関係なく、その時点で発揮しうる能力
量に依存して決定されるものである38。しかし、社会資本にはレンタル市場が存在しないため、こ
の方法で推定を行うことができない。
また、社会資本の場合、点検による健全度の評価結果が、能力量を示していると考えられる。
土木分野では、点検結果に基づき、年数の経過に伴う劣化(健全度の低下)の傾向(期待劣化パ
ス)を予測した研究が存在する。しかし、健全度は通常、1,2,3…というような「順序尺度」であ
り、 1 から 2 、 2 から 3 が同じ能力量の低下を示しているとは限らないため、劣化曲線をその
まま効率性プロファイルと見なすことはできない。仮に、点検結果 2 を 1 に引き上げるために必
要な修繕費用、3 を 2 に引き上げるために必要な修繕費用が把握できれば、その費用を能力量の低
下を表す絶対値と見なし、効率性プロファイルを近似できる可能性がある。ただ、そのようなデ
ータは現時点では把握できないのが現状である。
以上のとおり、社会資本の場合、現時点でⅰを採用することは難しい。
(社会資本に限らず、民
間資本を含め、実測データを用いて効率性プロファイルを推計した研究はほとんど見られないの
が現状である39。)
このため、ⅱ及びⅲのいずれかを選択する必要がある。
社会資本の場合、経齢的に能力量(効率性)が低下するか否かについては、
「維持補修を行うこ
とにより能力量が維持され、除却時まで能力量は低減しない」とする見方と、「他の資産と同様、
能力量は経年的に逓減する」とする見方があり、議論が分かれるところである。
ただ、前者の考え方は、社会資本の物理的な能力量のみに着目したものであり、経済的・社会
的劣化による相対的な能力量の低下が考慮されていない。先述のとおり、社会資本でも、経済的
劣化・社会的劣化により除却されるケースは多い。例えば、バイパスが整備された場合、既存の
道路の能力量は、絶対的には低下していなくても、相対的には低下すると考えられる。こうした
状況を含めて考えれば、効率性プロファイルが低減すると考えるのは、広く理解が得られるとこ
ろであろう。
本推計の作成にあたり実施した有識者による検討会(平成 21 年度実施)及び有識者へのヒアリ
38
39
レンタル価格には、実際は人件費等の経費が含まれており、そうした費用は除外する必要がある。
国民経済計算調査会議 資本ストック検討委員会 第3回(2005 年 6 月 27 日開催)参考資料1「OECDマニ
ュアルのポイント」 による。
87
ングでは、
「物理的減耗以外の要因を含めて考えれば、すべての構造物の能力量は経年的に低下す
ると考えられる」との見解が大勢を占めたことから、本推計では、ⅱのアプローチを採用するこ
とにする。
ⅱのアプローチを採用する場合、関数形の設定が問題となる。
OECDマニュアル(2009)では、効率性プロファイルの関数形として、線形(linear)、幾何
分布(geometric)、双曲線関数(hyperbolic)の3種類が示されている。
諸外国の例を見ると、効率性プロファイルは、はじめは低減幅が小さく、徐々に大きくなると
いう
凸形
の双曲線関数(hyperbolic)を用いている国が多い。ただし、社会資本に関してこ
れを実証した研究は存在しないのが現状である40,41。
既往研究によると、劣化曲線の形状は施設・構造物によってばらつきが大きい。恣意性を排除
するため本推計では、すべての分野で能力量は「線形」または「双曲線形」に低減すると設定す
ることにした。
図 2-20 道路橋梁に関する期待劣化パス
経過年数(年)
0
10
20
30
40
50
1
2
健
全
度
3
4
5
6
7
BMケース
3倍
0.3倍
max
min
健全度7段階評価基準
健全度
物理的な意味
1
新設状態、劣化の兆候がほとんど見られない。
2
1と3の間
3
一部分で漏水が確認できる。(漏水を伴う一方向ひび割れ、
端部で斑点上の漏水)
3と5の中間
4
5
6
7
床版面積75%以上から漏水が確認できる。一部分で剥離や
剥落が確認できる。
桁上フランジに沿った遊離石灰が確認できる。
5と7の間
深刻な剥離や遊離石灰が確認できる。抜け落ちやその傾向
が確認できる。
(出所)津田尚胤、貝戸清之、青木一也、小林潔司(2005),『橋梁劣化予測のためのマルコフ推移確率の推定」
40
41
国民経済計算調査会議 資本ストック検討委員会 第2回(2005 年 3 月 28 日開催)議事録による。
効率性プロファイルに、パラメータによって形状をフレキシブルに変えることができる「双曲線関数」
(ハイパ
ーボリック)を用いている場合、ほとんどが 上に凸な曲線 を設定しているが、実測データに基づいて検証し
ているわけではない。
88
図 2-21 橋梁別の劣化曲線
(出所)小濱健吾、岡田貢一、貝戸清之、小林潔司(2008),『劣化ハザード率評価とベンチマーク』
(注)上記は、ニューヨーク市が管理する橋梁の目視検査データを用いた分析結果である。
個別資産の効率性プロファイル(線形、双曲線形)と、前節で設定した除却分布(ワイブル分
布)を合成することにより、効率性・除却合成プロファイルの算定を行うが、その際、耐用年数
経過時の残存能力量についての設定が必要となる。
企業会計では、償却(経済的償却)時に残存価値(固定資産の耐用年数到来時において予想さ
れる当該資産の売却価格又は利用価格42を設定する。しかし、本推計では、価値は資産が提供する
サービスに応じて決まると考えているため、価値ではなく能力量(=物理的償却)に関して、残
存率を設定する必要がある。
今回、効率性プロファイルを、物理的な劣化だけでなく、社会的・経済的な劣化を含めて定義
した。すなわち、物理的な機能は残っていたとしても、社会的な必要性が無くなったことにより
除却する場合を想定する、ということである。
社会資本は公共財産であることを考えると、能力量が相当程度残っているのに除却する、と考
えるのは現実的ではない。公共財産の性格を考えれば、能力量が十分に低下した場合に除却する、
と考えるのが自然といえる。そこで、本推計では、耐用年数経過時の残存能力量はゼロと設定す
ることとした。ただし、除却時に残存する能力量については今後の実証研究によって改善の余地
がある。
42
大蔵省企業会計審議会(1955),
『連続意見書第三 有形固定資産の減価償却について』,
『企業会計原則と関係諸
法令との調整に関する連続意見書』,第1−四−5
89
3
除却関数と効率性プロファイルの合成
個別資産の効率性プロファイル(線形、双曲線形)と、前節で設定した除却分布(ワイブル分
布)を合成することにより、効率性・除却合成プロファイルを計算する。
本推計で採用した、効率性・除却合成プロファイルを表す合成関数式は以下のようになる。
線形の場合
y
lim
→∞
1
双曲線の場合
1
1
⁄
y
lim
→∞
0
0
能力量の低減カーブ
除却関数(確率密度関数)
能力量の低減カーブ
除却関数(確率密度関数)
(直線)
(ワイブル分布)
(双曲線)
(ワイブル分布)
図 2-22 効率性・除却合成プロファイルの導出方法(直線の場合、イメージ)
1
0.9
0.8
0.7
0.6
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
0
0
10
20
30
40
50
60
70
80
90
100
能力量低減曲線(30年で除却する場合)
能力量低減曲線(50年で除却する場合)
能力量低減曲線(70年で除却する場合)
除却分布
110
上記関数の計算結果の例は以下のとおりである。
図 2-23 効率性・除却合成プロファイルの推計結果
(平均耐用年数 50 年の場合)
1
0.9
0.8
0.7
0.6
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
0
0
10
20
30
40
50
直線
90
60
双曲線
70
80
90
100
120
第9節
災害復旧費の取扱
本節では、ストック推計における災害復旧費の取扱に関して、災害により除却される資産の範囲
と、災害復旧時の機能アップの取扱の2点から手法を見直した旨、説明している。
1
基本的な考え方
わが国は、災害が非常に多い国であり、災害復旧費も多額であるため、推計における災害復旧
費の取り扱いには慎重を期す必要がある。
従来の『日本の社会資本』では、災害復旧費は須く被災した資産を原形に復旧するための費用
とし、復旧工事実施の直前の状態に比べて固定資産が増加することから、以下の仮定をおいて名
目投資額に計上し、ストック推計の対象としている。
 固定資産全体としてみると、新設後、耐用年数の半分が経過した時点で被災し、災害復
旧費と同額の資産が喪失する
 災害復旧費は、被災資産の再調達価額であると見なし、被災資産と同等の資産が形成さ
れる
 復旧後の固定資産の耐用年数は、その固定資産の耐用年数とする
図 2-24 従来の『日本の社会資本』における災害復旧費の考え方
m
粗資本ストック
災害発生前までの
粗資本ストック
災害
復旧費
災害復旧分の
粗資本ストック
新設
改良費
災害を免れた分の
粗資本ストック
m
新設
災害発生
m/2
耐用年数経過
耐用年数
時間
m/2
しかし、災害が発生した際には、世の中に存在するすべてのストックが被害を受ける可能性が
あり、特定の年次に建設されたストックのみが被害を受ける、という仮定は現実的であるとは言
えない。
また、災害復旧時には、通常の建設投資と比べて、単価が割高になる可能性(※1)や原状復
旧以上の投資が行われる可能性(※2)があり、従来手法はストックを過大評価ないし過小評価
している可能性がある。
(※1)単価が割高になる理由の1つは、工事環境が劣悪な中で短期間に完成させなければ
91
ならない等特殊な環境下で施工が行われるからである。その結果、必要とされる物量に対し
て、平時に施工するよりも投資額が大きくなる可能性がある。この観点からすると、従来の
手法は、ストックを高めに推計している可能性がある。
(※2)原状復旧以上の投資が行われる理由の1つは、将来的な投資効果や効率性を考えて
そのような判断がなされる場合があるためである。この観点からすると、従来の手法は、ス
トックを低めに推計している可能性がある。
そこで、新設後、耐用年数の半分が経過した時点で被災するという「タイミング」の仮定、全
額原状復旧と見なすという「金額」の仮定に関して、今回、手法の見直しを行った。
なお、災害復旧費の取扱いの変更が推計結果に与える影響については、内閣府『平成 19 年度
社
会資本推計手法検討調査』において治水分野を対象に感度分析がなされている。下図の①が従来
の設定にもとづく推計結果、⑤がヴィンテージ(年齢別ストック)を考慮した推計結果であり、
これらを比較すると、ヴィンテージを考慮した方が、2003 年時点において約 6%粗資本ストックが
小さくなっている。治水分野は新設改良費に対する災害復旧費の割合が最も大きな分野であり、
他の分野では、設定方法の変更による影響はさらに小さいと予想される。
図 2-25 災害復旧費の取扱いの違いが推計結果に与える影響(以下の①と⑤を比較)
80
70
①一括除却 (粗ストック)
②釣鐘型除却 (粗ストック)
③一括除却・
災害復旧考慮 (粗ストック)
⑤一括除却・
ビンテージ (粗ストック)
④釣鐘型除却・
災害復旧考慮 (粗ストック)
ストック額(兆円・2000暦年基準)
60
①・②
⑤
50
③・④
40
30
20
10
0
1953
1958
1963
1968
1973
(出所):内閣府資料
92
1978
1983
1988
1993
1998
2003
2
今回用いる手法
①タイミング(時点)の仮定
タイミングの設定を改良する方向性としては、以下の3つが考えられる。ⅱ・ⅲは、ストック
のヴィンテージに応じて災害復旧費を配分する方法である。
ⅰ.災害による除却データに基づき、災害による除却曲線を推計する方法
ⅱ.災害によりすべての年代のストックが被災し、その際、古いストックほど被害を受けや
すい(=高い確率で除却される)と仮定する方法
ⅲ.災害によりすべての年代のストックが被災し、その際、どの年代のストックも同じ程度
被害を受ける(=同じ確率で除却される)と仮定する方法
災害による除却データを把握するのは困難なことから、ⅰの方法を採ることは難しい。また、
建設された年代による被害率の違いについても、参考となる情報が得られないことから、恣意性
を排除するため、ⅲの方法を採用することとした。
②金額の仮定
金額の設定を改良する方向性としては、以下の3つが考えられる。
ⅰ.実態にあわせて、原状回復分と性能アップ分を切り分ける
ⅱ.災害復旧費の半分のみ除却する
ⅲ.被災したストックを災害復旧費が超過した場合、超過分を機能アップ(新設)と見なす
災害復旧費の内訳を示す統計データが存在しないことから、ⅰの方法を採ることは難しい。ま
た、ⅱは、
「災害復旧費の半分」とする根拠が無く、恣意性が排除できない。そこで、本推計では、
機能アップ相当額について恣意的な仮定を排除できるⅲの手法を採用することにした。(ただし、
①で述べた通り、災害復旧費をストックのヴィンテージで配分することにしたため、災害復旧費
がストックを超過することはほとんど無いと考えられる。
)
93
第10節
推計手法の整理
本節では、『日本の社会資本 2007』の推計手法からの改良点について対比表形式で整理するとと
もに、今回用いる3つの関数(除却関数、施設全体の効率性プロファイル、施設全体の価格プロ
ファイル)の比較グラフを掲載している。
1
推計手法の改良点(新旧対比表)
従来の『日本の社会資本』における推計手法と、本推計で採用した推計手法を以下に整理する。
ストック
の種類
耐用
年数
年数
除却
分布
効率性
プロファイル
価格
プロファイル
災害
復旧費
時点
金額
従来の『日本の社会資本』における手法
本推計で採用した推計手法
粗、純の2種類のストックを推計。
(純資 国際的に「能力」と「価値」の減耗、す
本ストックは、
『日本の社会資本 2007』に なわち、生産的資本ストックと純資本ス
おいて試算値として発表しているのみ)
。 トックを区別する潮流にあることを考慮
し、粗、生産的、純の3種類の資本スト
ックを推計。
従来、財務省令に基づく耐用年数を用い 各部門における資産構成を確認するなど
てきたが、実態と乖離している可能性が して、全面的に精査・見直しを実施。
あったため、
『日本の社会資本 2007』では、
国土交通省の検討に基づく耐用年数に基
づくストックも試算値として公表。
従来、サドンデスの仮定(耐用年数は一 サドンデスの仮定をやめ、すべての分野
律に設定)を採用してきたが、実態と乖 で釣鐘型分布(ワイブル分布)を適用。
離している可能性があったため、
『日本の
社会資本 2007』では、釣鐘型分布に基づ
くストックも試算値として公表。
従来、生産的資本ストックを算定してこ 能力量は直線又は双曲線で低減すると想
なかったので、考慮していなかった。
定。
『日本の社会資本 2007』における純資本 『日本の社会資本 2007』で試算を行った
ストックの試算では、減価償却を用いた 会計的手法(定率法、定額法)による減
試算値を公表。
価償却に加え、効率性プロファイルをも
とに、Discounted Cash Flow 法により算
定。割引率は、国債利回りを参考に3%
と設定。
耐用年数の半分の時点で災害が発生する 災害復旧費を、ストックのヴィンテージ
と見なす、と仮定。
に応じて配分。どの年代のストックも同
じ確率で除却されると仮定し、均等に配
分。
災害復旧費は全額原状復旧と見なす、と 災害復旧費がストックを超過した場合
仮定。
は、超過分を機能アップ分と見なす。
94
2
今回用いるプロファイルの整理
本推計において、粗資本ストックの推計に用いる除却分布、生産的資本ストックの推計に用い
る純資本ストックの推計に用いる価格プロファイル(定額法(手法①)、定率法(手法②)、手法
③−1、手法③−2、すべて除却分布考慮済み)効率性プロファイル(線形(手法③−1)
、双曲
線形(手法③−2)、すべて除却分布考慮済み)は以下のとおりである。(同図では、平均耐用年
数を 50 年と仮定)
本推計では、当該プロファイルに基づいて、粗資本ストック、生産的資本ストック、純資本ス
トック及びそれぞれの減耗額を推計している。推計結果は、第3章に掲載している。
図 2-26 本推計で用いている除却プロファイル、価格・除却合成プロファイル
(平均耐用年数を 50 年と仮定した場合)
100%
90%
粗
80%
純(手法①)
70%
純(手法②)
価 60%
値
の 50%
残
存 40%
率
純(手法③−1)
純(手法③−2)
30%
20%
10%
0%
0
5 10 15 20 25 30 35 40 45 50 55 60 65 70 75 80 85 90 95 100
経齢(年)
図 2-27 本推計で用いている効率性・除却合成プロファイル
(平均耐用年数を 50 年と仮定した場合)
100%
直線(手法③−1)
90%
双曲線(手法③−2)
80%
70%
価値の残存率
60%
50%
40%
30%
20%
10%
0%
0
10
20
30
40
95
50
経齡(年)
60
70
80
90
100
第11節
都道府県別主要部門ストックの推計方法
本節では、従来の推計手法では都道府県別の投資動向の変化が織り込まれないことから、今回、
推計手法を改め、都道府県別にBY法を適用するようにした旨を説明している。
1
従来手法の課題
都道府県別の主要部門別社会資本ストックの推計を行うためには、毎年度における都道府県別
の部門別投資実績が必要である。しかし、部門別かつ都道府県別の投資実績を収集することは困
難であり、都道府県別に入手できるデータは、『経済審議会地域部会報告検討資料集』(経済企画
庁総合計画局,1968)による 1953∼63 年度のストック推計値、及び、行政投資実績による 1953
年度以降の毎年度の投資実績値のみである。このため、従来の推計手法ではBY法を用い、以下
の手順で、都道府県別粗資本ストックを推計している(参考図表)。
96
参考図表
使用
推計 データ
手順
都道府
県別データ
1960年度
(昭和35年度)
【基準年】
都道府県別主要部門別社会資本ストックの推計手順
①20部門別ストック
(全国ベース)
K
j
g 60
②地域部会報告
(都道府県別ストック
データ)
K gj 60
Sj
 K g 60  60
S 60
③行政投資実績
(毎年度の都道府県別
部門別投資実績データ)
:1960年度の j 県のストック
K g 60 :1960年度の全国のストック
地域部会報告における
:1960年度の j 県のストックの
対全国割合
S 60j
S 60
60
1955年度
(昭和30年度)
K
j
g 55
K
j
g 60
 ( K g 60  K g 55 ) 
I
t  56
60
j
t
I
t  56
K gj 55
t
:1955年度の j 県のストック
K g 60  K g 55:1955年度から1960年度までの
の全国のストックの増加分
60
 I tj
t  56
60
 It
:1956年度から1960年度までの j 県の
行政投資実績の累計の対全国割合
t  56
1961年度
(昭和36年度)
∼
2003年度
(平成15年度)
K gtj  K gtj 1  ( K gt  K gt 1 ) 
I tj
It
K gtj
K gtj 1
:t 年度の j 県のストック
:t−1年度の j 県のストック
K gt  K gt 1 :t 年度の全国のストックの増加分
I tj
It
参考図表
:t 年度の j 県の行政投資実績
の対全国割合
下水道粗資本ストック(2000 年度)の都道府県別構成比率
都道府県別推計結果比較(下水道)
18%
16%
全国に占める割合
14%
12%
10%
8%
6%
4%
2%
0%
北青岩宮秋山福茨栃群埼千東神新富石福山長岐静愛三滋京大兵奈和鳥島岡広山徳香愛高福佐長熊大宮鹿沖
海森手城田形島城木馬玉葉京奈潟山川井梨野阜岡知重賀都阪庫良歌取根山島口島川媛知岡賀崎本分崎児縄
道
川
山
島
日本の社会資本2007
(出所)内閣府資料
97
本推計
このように、従来の『日本の社会資本』では、全国におけるストックの変化分を『行政投資』(総務省)の分
野別投資額を用いて都道府県別に配分することで都道府県別ストックを求めるという方法を採ってきた。
当該手法を用いる場合、全国ストックが増加すれば全ての都道府県のストックが増加することになる。しか
し、実際には時代によって重点的に投資がなされた地域は異なり、必ずしも全国の傾向と各都道府県の
傾向が一致するわけではない。
2
今回用いる手法
そこで、本推計では、『日本の社会資本』の全国投資額(新設改良費・災害復旧費)を、『行政投資』を
用いて都道府県別に配分した上で、都道府県ごとにBY法を適用することにより、都道府県別ストックの推
計を行うこととした。都道府県ごとにBY法を適用することにより、従来手法で課題となっていた各都道府県
の投資の傾向を反映した推計が可能となる。
参考図表
本推計における都道府県別社会資本ストック推計手法
①内閣府全国投資額
(全国ベース)
1960年
(基準年)
K gj 60  K g 60 
Ingtj  Ggt 
Bg 60
I gtj
I gt
a
Rgtj  lim  Ingtj i   f (i  1)  f (i ) 
a 
i 1
③行政投資実績
(毎年度の
都道府県別部門別データ)
Bgj 60
K gtj  K gtj 1  Ingtj  Rgtj
19××年
以降
②経済審議会
地域部会報告(1964)
K gtj : j県のt 年度のストック額
Bgj 60 : j県の1960年度のストック額
K gt : t 年度の全国のストック額
Bg 60 :1960年度の全国のストック額
Ingtj : j県のt 年度の新設改良費
(経済審議会地域部会報告)
Rgtj : j県のt 年度の固定資本減耗
Ggt : t 年度の内閣府全国投資額
I gtj : j県のt 年度の行政投資実績
I gt : t 年度の全国の行政投資実績
a : 供用年数
f (a ) : 各種プロファイル
ただ、このようにして求めた都道府県別ストック(→Ⅰ)を全国にわたって合計しても、本推計で推計する
全国ストック(→Ⅱ)とは一致しない。そこで、Ⅰの合計値がⅡに一致するように、「Ⅰの合計値に対するⅡ
の割合(倍率)」をⅠに乗じてコントロールトータルの調整を行っている。(以下の数式に示すとおり、割合
は分野ごとに異なり、同一分野に関してはすべての都道府県で同じ割合を乗じている。)
98
s 'i , j  si , j *
Si
47
s
j 1
i, j
si , j : 都道府県別ストック額(調整前)
s 'i , j : 都道府県別ストック額(調整後)
Si : 全国ストック額(第1章で算定)
i : 分野
j : 都道府県
なお、全国投資額の配分に用いる都道府県別投資額が把握できる統計としては、『建設業務統計年報』
(国土交通省)、『建設工事受注動態統計(旧 公共工事着工統計)』(国土交通省)、『行政投資』(総務
省)があり、それぞれ以下に示すような特徴・問題点がある。(17部門を包括して、分野別×費目別×都
道府県別投資額を把握できる統計は存在しない。)
幅広い分野を包括できるのは『行政投資』と『建設工事受注動態統計』であり、後者は年度によって分
野が統合されており扱いづらいことから、本推計では、分野の区分が細かい『行政投資』を用いて配分す
ることとした。
参考図表
建設業務統計年報
部門
旧建設省所管部門のみ
費目
新設改良費/維持管理費/災
害復旧費
決算ベース
計上
時点
問題点
・ 分野別×費目別×都道府
県別で把握できる分野(道
路等)と、費目が統合されて
しまっている分野(都市公園
等)がある
部門別投資額が把握できる統計
建設工事受注動態統計
(旧 公共工事着工統計)
「日本の社会資本」の対象部門
をカバー可能
新設・増設・改良・解体・除却・
移転/維持・補修/災害復旧
着工時(受注時)に計上
・ 分野別×費目別×都道府
県別のマトリックスでは把握
できない
・ 過去に遡ると、分野が統合さ
れてしまい、17 部門より粗く
なる
99
行政投資
「日本の社会資本」の対象部門
をカバー可能
投資額のみ
決算ベース
・ 維持管理費、用地補償費が
含まれてしまっており区分で
きない
また、従来の『日本の社会資本』では、『行政投資』との分野間の整合を考慮し、都道府県別推計は下
表に示す 14 部門を対象としていた(表 2-15)。本推計では、これに林業・国有林を加えた 15 部門を対象
としている。
表 2-15 主要 17 部門と行政投資実績の部門との対応関係
(a)主要 17 部門
(b) 行 政 投 資 実 績
の部門
1
2
3
4-1
道路
港湾
航空
鉄道・運輸
機構等
道路+街路
港湾
空港
鉄道
(1975 年度以降)
4-2
5
地下鉄等
公共賃貸
住宅
地下鉄
住宅
6
7
8
9
下水道
廃棄物処理
水道
都市公園
公共下水道
環境衛生
水道
都市計画
10
11
12
13
14-1
文教
治水
治山
海岸
農業
14-2
林業
文教施設
河川+砂防
治山
海岸
農業基盤整備
事業
林道+造林
14-3
15
漁業
郵便
漁港
特掲なし
16
国有林
17
工業用水道
林道+造林
(1975 年度以降)
工業用水道
(a),(b)の範囲の違い
(a)≒(b)
(a)≒(b)
(a)≒(b)
(a)≒(b)
※ただし、以前の(b)は国鉄、日本鉄道建設公団、営団地
下鉄の合計となっていた。
(b)は東京地下鉄(旧営団地下鉄)を除く。
(b)は都市再生機構(旧住宅・都市整備公団)の事業なら
びに都道府県及び市町村の住宅建設事業からなり、分
譲住宅が含まれ、また、地方住宅供給公社による賃貸住
宅が含まれない。
(a)≒(b)
(a)≒(b)
(a)≒(b)
(b)は国営公園事業及び都市計画事業(公共下水道事業
を除く)からなり、都市公園以外の事業が含まれる。
(a)≒(b)
(a)≒(b)
(a)≒(b)
(a)≒(b)
(b)は旧農用地開発公団による農業基盤整備事業及び共
同利用施設を含まない。
(b)は共同利用施設を含まない。また、1975 年度以降は国
有林を含む。
(b)は漁場造成開発整備、共同利用施設等を含まない。
(b)では、以前は局舎の建設費は「官庁営繕」に含まれて
いたが、民営化後は対象に含まれていない。
1974 年度以前の(b)には特掲なし。(林道、造林には含ま
れていない。)
(a)≒(b)
(注)(a)は用地費、補償費、維持補修費を含まないが、(b)はこれらを含むなどの違いがある。
100
都道府県別
推計を行った
部門
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
Fly UP