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軽水型原子力発電所の竜巻影響評価における 設計竜巻

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軽水型原子力発電所の竜巻影響評価における 設計竜巻
JSM-NRE-009
軽水型原子力発電所の竜巻影響評価における
設計竜巻風速および飛来物速度の設定に関するガイドライン
平成 27 年 1 月
日本保全学会
原子力規制関連事項検討会
Intentionally blank page
まえがき
福島原発事故後、わが国の原子力規制委員会は、福島原発事故の教訓を踏まえ、これまでの原
子力発電所の規制基準を見直し、新たな規制基準を制定した。この安全基準は、原子力発電所の
設計ベースの事故事象だけでなく、設計ベースを超える事故事象をも想定した要求事項を包含す
るものであり、今後の原子力発電所の安全性を確保するために必要な最重要の基盤を構成するも
のである。
原子力規制委員会はこれまで「公開」の名の下に審議を行ってきており、規制基準の策定の最
終段階では国民の意見を聞くべく、パブリックコメントを実施している。つまり、技術的見識を
持つ国民はその審議過程や検討内容、結論に対し、意見を述べることが望まれていると解釈でき
る。一方、あらゆる原子力関係者は審議内容の妥当性について意見を述べる権利があり、規制基
準を最善なものにするために貢献することが期待されているといえる。このような考え方に立ち、
日本保全学会は原子力規制委員会に積極的に意見を述べていくため、平成 25 年 1 月に「原子力規
制関連事項検討会(以下、NRE 検討会という。
)」を設置し、原子力技術の専門集団としての意見
を発信して行くこととした。
本ガイドラインは、以上のような経緯で発足した NRE 検討会でのこれまでの議論や検討成果
を踏まえてまとめられ、今般、発行されることとなった。
本ガイドラインの内容は、軽水型原子力発電所の設計に当たって考慮すべき各種自然現象のう
ち、竜巻に伴う風や飛来物等についてどのように考えればよいかを規定するものである。本ガイ
ドラインがわが国の産学官の原子力関係者はもとより、広く一般国民の参考となり、その結果と
してわが国における原子力発電所の安全性向上に寄与することができれば幸甚である。
なお、本ガイドラインは現時点における最新知見を踏まえて工学の様々な分野の専門家が議論
を重ねて策定されたものである。今後、新たな知見が得られた場合には本ガイドライの内容を見
直すことが必要である。
平成 27 年 1 月
原子力規制関連事項検討会委員長
i
免責事項
本ガイドラインは、日本保全学会 NRE 検討会が本ガイドラインに関する専門知識を持った参
加委員による審議を経て制定したものである。
本検討会は、本ガイドラインの内容について説明する責任を持つが、本ガイドラインを使用す
ることによって生じる問題などに対して一切責任を持たない。また、本ガイドラインに従って行
われた個々の活動(検討評価活動だけでなく、現場での作業や安全管理、放射線管理等を含む。)
を承認、保障するものではない。したがって、本ガイドラインの使用者は、本ガイドラインに関
連した活動によって発生するいかなる問題や第三者の知的財産権の侵害に対し、補償する責任が
使用者にあることを認識して、本ガイドラインを使用する責任を持つ。
なお、本ガイドラインは、わが国の規制当局によって承認されたものではない。
ii
日本保全学会 原子力規制関連事項検討会 委員名簿
(平成 27 年 1 月現在,順不同,敬称略)
委員長
奈良林 直
北海道大学
委員
杉山 憲一郎
北海道大学
委員
森下 和功
京都大学
委員
宮野 廣
法政大学
委員
青木 孝行
東北大学
委員
松井 一秋
エネルギー総合研究所
委員
山口 篤憲
日本保全学会
委員
杉本 聡一郎
電力中央研究所
委員
江口 譲
電力中央研究所
協力者
平口 博丸
日本保全学会会員
協力者
服部 康男
日本保全学会会員
協力者
野原 大輔
日本保全学会会員
協力者
佐藤 彰
日本保全学会会員
協力者
佐藤 大輔
日本保全学会会員
協力者
佐藤 信哉
日本保全学会会員
協力者
飯田 晋
日本保全学会会員
協力者
飯泉 智
日本保全学会会員
協力者
清浦 英明
日本保全学会会員
協力者
長澤 和幸
日本保全学会会員
協力者
石崎 芳行
日本保全学会会員
協力者
村井 荘太郎
日本保全学会会員
協力者
林
司
日本保全学会会員
協力者
松井 三生
日本保全学会会員
協力者
荒芝 智幸
日本保全学会会員
協力者
松本 和之
日本保全学会会員
協力者
水野 道太
日本保全学会会員
協力者
四十田 俊裕
日本保全学会会員
協力者
西井 淳一
日本保全学会会員
協力者
根岸 和生
日本保全学会会員
協力者
田中 俊彦
日本保全学会会員
協力者
松澤 寛
日本保全学会会員
協力者
古賀 薫
日本保全学会会員
iii
協力者
日下 純
日本保全学会会員
協力者
竹内 公人
日本保全学会会員
協力者
清水 昭比古
日本保全学会会員
協力者
増山
日本保全学会会員
協力者
今野 隆博
日本保全学会会員
協力者
桐山 和久
日本保全学会会員
協力者
伊藤 秀一
日本保全学会会員
協力者
多田 伸雄
日本保全学会会員
協力者
高瀬 健太郎
日本保全学会会員
協力者
児玉 典子
日本保全学会会員
亨
iv
目
次
1.
目的および適用 .................................................................. 1
1.1
目的 ........................................................................... 1
1.2
適用 ........................................................................... 1
2.
用語の定義 ...................................................................... 1
3.
設計の基本方針と影響評価の流れ .................................................. 2
4.
竜巻検討地域の設定 .............................................................. 3
5.
基準竜巻の設定 .................................................................. 3
6.
設計竜巻の設定 .................................................................. 4
7.
設計飛来物速度の設定 ............................................................ 4
8.
飛来物対策・対応例 .............................................................. 4
9.
解説 ............................................................................ 4
解説 4-1
気象条件の類似性を観点とした設定方法 ....................................... 4
解説 4-2
過去の発生実績等の考慮 ..................................................... 6
解説 5-1
過去に発生した最大規模の竜巻風速 ........................................... 7
解説 5-2
基準竜巻の最大風速のハザード評価方法 ....................................... 8
解説 5-3
設計対象施設の抽出 ......................................................... 9
解説 5-4
竜巻影響エリアの設定 ...................................................... 10
解説 6-1
地形影響の有無の考え方 .................................................... 12
解説 6-2
地形影響に関する知見および数値解析技術 .................................... 12
解説 6-3
設計竜巻の特性値の設定 .................................................... 13
解説 7-1
設計飛来物の選定フロー .................................................... 15
解説 7-2
飛来物挙動に関する数値計算手法 ............................................ 15
解説 8-1
竜巻に対するハード的な対策に関する考え方 .................................. 22
解説 8-2
飛来物影響を抑制するためのソフト的な対応 .................................. 22
参考文献 ........................................................................... 24
添付資料 1 竜巻発生を観点とした総観場の地域性に関する検討例 ........................ 27
v
添付資料 2 突風関連指数を用いたメソスケール気象場の地域性に関する検討例 ............ 29
添付資料 3 被害面積期待値の算出に用いる確率モデルの概念 ............................ 35
添付資料 4 ハザード評価におけるデータ分析および適用に関する留意点 .................. 38
添付資料 5 高台にある物体に対するモデル化 .......................................... 43
添付資料 6 フジタモデルモデルを用いた飛散挙動評価法の検証 .......................... 46
添付資料 7 ハード的な飛来物対策例 .................................................. 52
参考資料 1 2006 年に北海道網走支庁佐呂間町にて発生した竜巻について ................. 56
参考資料 2 飛来挙動解析結果にもとづく施設への影響評価の考え方 ...................... 60
vi
1. 目的および適用
1.1
目的
本ガイドラインは、突風・強風を引き起こす自然現象として極めて稀に発生する竜巻を対象に、
わが国の軽水型原子力発電所の考慮すべき設計荷重を設定する上で必要な設計竜巻および設計飛
来物速度の設定に活用することを主目的とする。また、竜巻に対するハード・ソフト両面の対策・
対応についても例示する。
1.2
適用
(1) 適用範囲
本ガイドラインは、わが国の軽水型原子力発電所(加圧水型原子炉、沸騰水型原子炉)に対す
る竜巻影響評価に適用する。
(2) 適用時期
本ガイドラインは、わが国の軽水型原子力発電所の供用期間中に適用される。
2. 用語の定義
安全機能
:その機能の喪失により、運転時の異常な過渡変化または設計基準事故が発生し、
これにより公衆または従事者に放射線障害を及ぼす恐れがある機能。運転時の
異常な過渡変化または設計基準事故の拡大を防止する機能、その事故を収束さ
せることにより公衆または従事者に及ぼす恐れのある放射線障害を防止する機
能、ならびに放射性物質が原子炉施設外に放出されることを抑制あるいは防止
する機能も含む。
基準竜巻
:竜巻検討地域において発生しうる竜巻のうち、設計対象施設の安全性を損なう
恐れがあるとみなす竜巻。観測記録やハザード評価等にもとづいて決められた
最大竜巻風速によって規定される。
設計対象施設
:竜巻防護施設のうち外殻となる施設による防護が期待できない施設、竜巻防護
施設の外殻となる施設、および竜巻防護施設に波及的影響を及ぼしうる施設を
指す。
設計竜巻
:設計竜巻荷重を評価するための風速および特性値によって規定される竜巻。風
速については、基準竜巻風速をもとに地形影響等による増幅影響を考慮して、
風速の割り増し等を行うことにより定める。
設計竜巻荷重
:設計竜巻により設計対象施設に作用する荷重。
設計飛来物
:設計竜巻により設計対象施設に衝突しうる飛来物のうち、設計で考慮すべき飛
来物。
竜巻影響エリア:竜巻風速のハザード評価の対象範囲。設計対象施設の設置状況から定める。
竜巻検討地域
:設計竜巻を設定する際に観測記録等を考慮する地域。原子力発電所が立地する
地域、および竜巻発生の観点から気象条件が類似する地域を指す。
竜巻防護施設
:原子炉施設の安全機能が想定される竜巻の影響により損なわれることのないよ
1
うに防護すべき設備(系統・機器)
、建屋、および構築物等を指す。
竜巻防護施設に波及的影響を及ぼしうる施設:破損等によって結果的に竜巻防護施設の安全機能
を喪失させる可能性が否定できない施設を指す。
地表面粗度
:地表面の細かな凸凹が与える摩擦抵抗が風速の高度分布に与える影響度を示す
指標を指し、粗度長をもって定義される。
突風関連指数
:竜巻等の突風が発生しやすい大気の状態を数値的な気象解析・予報結果を用い
て表した指数。
フジタスケール:竜巻等の突風により発生した被害状況から当時の風速を推定するために考案さ
れたスケール(Fujita-scale;通称 F スケールと呼ばれる。)
。1971 年にシカゴ大
学の藤田哲也博士が考案した。
ラージ・エディー・シミュレーション:小さなスケールの渦の運動(乱流)は、流れの境界条件
や流体領域の形状に依存しない普遍的な規則性がある。その影響をメッシュサ
イズよりも大きな渦運動の関数にて表現しうるという前提にもとづき、解像で
きない小さな渦をモデル化し、メッシュサイズよりも大きな渦のみを数値的に
解く方法。
3. 設計の基本方針と影響評価の流れ
設計対象施設の安全機能が維持される方針であることを確認するために行う構造健全性評価な
らびに各対策の成立性評価には、設計荷重が設定される必要がある(図 1)。ここで、設計荷重は、
1)設計対象施設に常時作用する荷重、2) 設計竜巻荷重、および 3) 積雪等の竜巻以外の自然現象
による荷重、等の組み合わせによって算定されるものとし、この内、設計竜巻荷重は、
「設計竜巻
竜巻検討地域の設定
竜巻検討地域または国内に
おいて発生した最大規模の
竜巻による風速
(4 節)
竜巻最大風速のハザード
評価による風速
設計対象施設の抽出
基準竜巻の最大風速
基準竜巻の設定 (5 節)
設計竜巻の設定
(6 節)
設計飛来物速度の設定
(7 節)
設計荷重の設定
設計飛来物の抽出
飛来物対策・対応
詳細設計
(8 節)
構造健全性・対策成立性の評価
図 1 竜巻影響評価のフロー(点線部は本ガイドラインの対象範囲を示す。)
2
風速による風荷重」、「設計竜巻による気圧低下に伴って生じる設計対象施設内外の気圧差による
圧力」、および「設計飛来物が設計対象施設に衝突する際の衝撃荷重」の組み合わせによって算定
されるものとする。本ガイドラインは設計竜巻荷重を評価するために必要な設計竜巻や設計飛来
物速度を設定するための基本的な考え方について主に示すものである。
4. 竜巻検討地域の設定
竜巻発生の観点において、評価対象の原子力発電所が立地する地域と気象条件が類似する地域
を設定する(解説 4-1、添付資料 1、添付資料 2)。特に地域を限定する場合、突風関連指数を用い
た手法(添付資料 2)等、竜巻発生を観点とした気象学的に根拠のある手法による解析結果をも
とに設定する。また、わが国における発生実績をもとに、発生箇所や年発生数、ならびに遭遇確
率に関する特徴について調査し、顕著な傾向が見られた場合には考慮する(解説 4-2)。
現在、原子力規制委員会の「原子力発電所の竜巻影響評価ガイド」
(以下、原子力規制委員会ガ
イドと呼ぶ。
)[1]では、地域区分あるいは竜巻風速に関するマップは示されていない。米国におい
ては、米国 NRC(U.S. Nuclear Regulatory Commission)のガイド[2]において、フジタスケール 2(F2)
以上の発生個数分布や確率論的ハザード評価結果をもとに米国本土を 3 つの地域に区分した竜巻
風速マップ[3]が採用されている。その他、シェルターをはじめとした Safety Room の設計用に設定
されたマップ[4]が見られる。国際原子力機関 IAEA(International Atomic Energy Agency)では、発
電所を中心とした 10 万 km2 の地域が目安に挙げられており[5]、竜巻の発生記録が少ない東北太平
洋側地域や下北半島等に立地した発電所を評価する際には参考となる。
5. 基準竜巻の設定
竜巻検討地域における発生実績や最大風速の年超過確率等を考慮して、基準竜巻の最大風速 VB
を設定する。ここでの最大風速は最大瞬間風速を指す。原子力規制委員会ガイドにならい、下記
に示す VB1 および VB2 のうち風速値が大きい方を VB として採用する。
・過去に発生した最大規模の竜巻による風速 VB1
設定した竜巻検討地域を対象に最大規模の竜巻による風速を調査し、VB1 として設定する。竜巻
発生を観点とした気象学的に根拠をもつ解析を行わないで竜巻検討地域を設定した場合、
「竜巻
検討地域」を「日本」に読み替えて、国内最大規模の竜巻の風速を採用することができる(解
説 5-1)。
・竜巻最大風速のハザード評価による風速 VB2
竜巻検討地域における過去の竜巻発生実績にもとづいて確率論的な分析を行い、作成した竜巻
最大風速のハザード曲線から適切な年超過確率を設定し、それに対応する風速を VB2 として設
定する(解説 5-2、添付資料 3、添付資料 4)。その際、設計対象施設の抽出結果(解説 5-3)に
もとづいて竜巻影響エリアを設定し、そのエリアの面積をハザード評価に用いる(解説 5-4)。
3
6. 設計竜巻の設定
原子力発電所の立地地点周辺に存在する局地的な尾根等による竜巻の増幅影響の有無について
検討し、影響があると認められる場合には、基準竜巻風速 VB に割り増し等を行うことにより設計
竜巻の最大風速 VD を設定する(解説 6-1)。保守性を保つため、地形による減衰効果は考慮しな
い。影響が無いと認められる場合は、基準竜巻風速を設計竜巻風速とする。ここでの最大風速は
最大瞬間風速を指す。地形影響のメカニズムは未解明な点が多いため、現行の知見・評価技術に
関して調査し、検討可能な方法により割り増しの有無を判断する(解説 6-2)。
また、設計竜巻風速の設定と同時に、設計荷重を構成する、風圧力による荷重、気圧差による
荷重、および設計飛来物による衝撃荷重を評価するために必要な特性値(移動速度等)も設定す
る(解説 6-3)。
7. 設計飛来物速度の設定
設計竜巻による飛来物が設計対象施設に衝突する際の衝撃荷重を評価するために、設計竜巻風
速 VD および各特性値を用いて設計飛来物の飛来速度を設定する。衝撃荷重の評価に用いる設計飛
来物は、飛来物が設計対象施設に到達して影響を及ぼすと想定される範囲を踏査して飛来物を抽
出し、運動エネルギー等の観点から選定する(解説 7-1)
。
飛来物速度の水平成分の計算にあたっては、各特性値を用いて設計竜巻の風速場を設定し、技
術的見地等からその妥当性を明示することが可能な数値計算手法等を用いる(解説 7-2、添付資料
5、添付資料 6)。計算結果をもとに、とりうる最大速度をもって設計飛来物の水平速度を設定す
る。また、鉛直最大速度については、数値計算手法等により水平速度と同様に設定するか、ある
いは米国 NRC ガイドと同様に最大水平速度の 2/3 とする。
8. 飛来物対策・対応例
設計対象施設に対する構造健全性を評価した結果、対策が必要と判断される場合は、ハード的
あるいはソフト的な対策を講ずる。飛来物を発生させないための固縛等による飛散防止対策や設
計飛来物に対する防護対策が有効である(解説 8-1)。一方、原子力発電所内では種々の改良・修
繕工事が行われており、これに伴う工事資機材や車両等は必ずしも十分な飛散防止対策が図られ
ているとは限らないことから、竜巻発生の可能性が高まった場合は事前に車両を設計対象施設か
ら十分に離れた箇所に移動させるといったソフト的な対応も考えられる。ソフト的な対応にあた
っては、実運用時において竜巻発生の監視・予測情報を参照・活用するのが効果的である(解説
8-2)。
9. 解説
解説 4-1
気象条件の類似性を観点とした設定方法
一般的に、竜巻を含むあらゆる気象現象は代表する時空間スケールをもって発生する。その際、
ある小さなスケールの現象は、より大きなスケールの現象に含包される、いわゆるスケール階層
構造を呈する。図 2 は、各事象の時間スケールおよび空間スケールの対応関係を示したものであ
4
る。竜巻については Orlanski の分類[6]ではミクロスケール1の空間代表性を有するが、スケール階
層構造の観点では、この現象はメソスケールで発生する積乱雲から構成されるセルあるいはスコ
ールライン等の降水システム内において発生し、メソ降水システムは、台風・前線・低気圧とい
った総観スケール2の気象場において発現する。そのため、竜巻の発生を観点とした気象条件の類
似性を考える際には、各空間スケールに対して地域性の有無について調査し、調査結果をもとに
総合的に判断して類似地域を設定する必要がある。
水平スケール
1ヶ月
1時間
1日
1分
1秒
マクロ αスケール
定常波 超長波 潮汐波
プラネタリー波 ブロッキング 赤道波
10000km
総観スケール
の気象場
長波 傾圧波
低気圧 高気圧
2000km
マクロ βスケール
メソ αスケール
前線
台風
熱帯低気圧
200km
メソ βスケール
スコールライン
内部波 集中豪雨/豪雪
山岳波 マルチセル
20km
(雷雨)セル 対流
内部重力波
晴天乱流
メソ γスケール
2km
ミクロ αスケール
竜巻
短い重力波
積乱雲
200m
ミクロ βスケール
つむじ風
サーマル
20m
プリューム
乱流 粗度
ミクロ γスケール
図 2 気象の時空間スケール
現象の空間スケールが大きい総観スケールの特徴を分析するには、過去に発生した各竜巻に対
して総観場の種別が記載されたデータベースが必要であるが、気象庁により公開されている「竜
巻等突風データベース」(http://www.data.jma.go.jp/obd/stats/data/bosai/tornado/index.html;以下、気
象庁竜巻データベースと呼ぶ。)が分析に適している。図 3 は、本データベースをもとに竜巻の発
生位置を季節別に示した例である。竜巻発生した際の各総観場種別の比率構成等を検討すること
により地域性の有無を検討できる(添付資料 1)。
一方、空間スケールの小さいメソスケールを対象に分析する場合、現象を解像できる高い時空
間解像度を有し、かつ長期間の気象解析データが必要となる。気象庁が中心となって作成した
JRA-55(1.25 度等緯度経度格子・55 年間)[7]や、電力中央研究所による CRIEPI-RCM-Era2(5 km
ランベルト格子・53 年間)[8]、等が代表的なデータセットとして挙げられる。竜巻にとってメソ
1
2
マイクロスケールという呼び方もある。
Orlanski (1975)の分類では、マクロスケールからメソスケールの現象を指す。
5
スケールの現象は親雲のスケールに対応し、親雲が発生しやすい気象場の地域性に着目した検討
は、竜巻検討地域の設定のための地域性の検討にとって有効であると考えられる。その一例とし
て、長期再解析データをもとに突風関連指数と呼ばれる指標を算出し、その特徴・地域性を解析
する検討[9,10]がなされている(添付資料 2)。
暖候期
図3
寒候期
1961 年から 2012 年 6 月までに発生した竜巻の発生位置(左:暖候期(5 月~10 月)、右:
寒候期(11 月~4 月)
;各カテゴリの詳細については添付資料 1 を参照すること。また、F1-F2
等、評定結果に幅がある場合、大きい方の階級とみなしている。)
解説 4-2
過去の発生実績等の考慮
竜巻の発生状況(図 3)より、
1) 台風起因の竜巻が日本海側で発生していない
2) 東北太平洋側では暖候期に竜巻が発生する傾向が見られる
等の傾向を確認することができる。こういった傾向は、総観場の傾向や、メソスケール気象場の
傾向と合わせて竜巻検討地域の設定において参考となる。
また、原子力発電所は海岸付近に立地しているため、海岸線付近の発生状況を踏まえる必要も
ある。図 4 は、気象庁竜巻データベースを用いて日本全域を対象に海岸線からの距離別の竜巻発
生確率(発生数を対象地域の面積で割った値)と竜巻遭遇確率(被害面積を対象地域の面積で割
った値)を各 F スケールに対して算出した結果を示したものである[11]。竜巻発生確率は、海岸線
から海側は 5 km 以内で、海岸線から陸側は 1 km 以内で高くなっている。また、竜巻遭遇確率は、
海岸線から陸側 5 km 以内で高くなっている。海側については、竜巻による被害が基本的に不明で
あるため確率が低くなっているが、海側 5 km 以内の竜巻発生確率が比較的高いため、遭遇確率も
高いものと推測できる。原子力規制委員会ガイドは海岸線から陸側・海側それぞれ 5 km 以内で竜
巻検討地域を設定する必要性について言及しているが、このような分析結果を踏まえれば妥当で
ある。
一方、竜巻最大風速の確率論的なハザード評価(解説 5-2、添付資料 3、添付資料 4)を行う観
6
点では、竜巻の平均発生数、竜巻風速、被害域長さ・幅等の確率分布が検討地域内で空間的に均
一であるという仮定の下でハザード評価を行うのが基本である。図 4 に示した検討結果から、海
岸線から陸側・海側それぞれ 5 km 以内の地域に対しては、そのような仮定をおおむね適用できる
ものと考えられる。このように、竜巻発生を観点とした気象学的根拠をもった地域性のみならず、
基準竜巻の設定時に行う確率論的ハザード評価に対する適用性も踏まえて、総合的に竜巻検討地
域を設定しなければならない。
竜巻遭遇確率
竜巻発生確率
図 4 海岸線からの距離別に算出した竜巻発生確率および竜巻遭遇確率[11]
解説 5-1
過去に発生した最大規模の竜巻風速
竜巻の漏斗雲内の風速を直接観測することは、図 2 に示すように竜巻の空間スケールが気象庁
等により展開される地上観測網の密度に比べて非常に小さいために難しい。そこで、被害状況か
ら風速を評定する方法としてフジタスケール(F スケール)[12]が米国において提案され、わが国
においても気象庁竜巻データベースにて記録されている。気象庁では、各スケールに対する被害
状況と風速幅を表 1 のように定めている。
F スケールは非常に有効な指標であるが、建築物の種類や強度の違いを考慮する必要性、考慮
されていない被害が発生した際の評定の困難さ、大きなスケールほど推定風速が実風速よりも大
きくなるという傾向、等が指摘され、米国では EF スケール(Enhanced Fujita Scale)として見直さ
れた[13]。わが国では F スケールが依然として使用されているが、被害規模と竜巻規模との間の関
係性をより正確に表すべく、気象庁によって「竜巻等突風の強さの評定に関する検討会」が設置
され、評定結果の見直しが議論されている。現状の気象庁竜巻データベースが F スケールを用い
ているため、見直し作業が進むまで当面は F スケールを基本とした評価を行うのが望ましい。こ
の場合、最大瞬間風速も各 F スケールに対する平均サンプリング時間での値として定義される。
気象庁竜巻データベースによれば、過去に発生した最大規模の竜巻は F3 規模であるとされて
いる(1990 年に千葉県茂原市で発生した竜巻、1999 年に愛知県豊橋市で発生した竜巻、2006 年
に北海道網走支庁佐呂間町で発生した竜巻、2012 年に茨城県常総市で発生した竜巻)。各 F スケ
ールに対する風速に幅があることから、該当する F スケールに対する風速の上限値とすると、国
内最大規模の竜巻風速は 92 m/s となる。
7
表 1 フジタスケールと対応する被害状況・風速範囲
(http://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/toppuu/tornado1-2.html)
Fスケール
風速幅
被害状況
F0
17~32 m/s
テレビのアンテナなどの弱い構造物が倒れる.小枝が折れ,根の浅い木が傾く
(約15秒間の平均) ことがある.非住家が壊れるかもしれない.
F1
屋根瓦が飛び,ガラス窓が割れる.ビニールハウスの被害甚大.根の弱い木は
33~49 m/s
倒れ,強い木は幹が折れたりする.走っている自動車が横風を受けると,道か
(約10秒間の平均)
ら吹き落とされる.
F2
50~69 m/s
住家の屋根がはぎとられ,弱い非住家は倒壊する.大木が倒れたり,ねじ切ら
(約7秒間の平均) れる.自動車が道から吹き飛ばされ,汽車が脱線することがある.
F3
壁が押し倒され住家が倒壊する.非住家はバラバラになって飛散し,鉄骨づくり
70~92 m/s
でもつぶれる.汽車は転覆し,自動車はもち上げられて飛ばされる.森林の大
(約5秒間の平均)
木でも,大半折れるか倒れるかし,引き抜かれることもある.
F4
住家がバラバラになって辺りに飛散し,弱い非住家は跡形なく吹き飛ばされてし
93~116 m/s
まう.鉄骨づくりでもペシャンコ.列車が吹き飛ばされ,自動車は何十メートルも
(約4秒間の平均)
空中飛行する.1トン以上ある物体が降ってきて,危険この上もない.
F5
住家は跡形もなく吹き飛ばされるし,立木の皮がはぎとられてしまったりする.
117~142 m/s
自動車,列車などがもち上げられて飛行し,とんでもないところまで飛ばされる.
(約3秒間の平均)
数トンもある物体がどこからともなく降ってくる.
解説 5-2
基準竜巻の最大風速のハザード評価方法
本ハザード評価では、
「いずれかの竜巻に被害を受けた際に竜巻風速が V0 を超える」ことを表
す年超過確率をもとに、年超過確率 10-5 に対応する風速を VB2 とする。年超過確率の値について、
原子力規制委員会ガイドでは 10-5 を暫定値として、それを上回らない値を設定するように規定さ
れているのに対し、米国 NRC ガイドでは 10-7 に対する風速が設計竜巻風速として用いられる。
被害域幅と被害域長さで規定される矩形領域において、報告された F スケールの被害は点在して
おり、被害強度は空間分布を有するが、わが国においては、竜巻移動方向(被害域長さ方向)の
分布に関する調査データ・分析結果が豊富ではないため、被害域幅方向の強度分布のみ考慮し、
被害域長さ方向の強度分布をも考慮した被害面積としての補正を行っていない(添付資料 3)。そ
のため、実際よりも保守的な最大風速の評価になっており、10-5 を年超過確率とした評価が米国
に比べて想定すべき竜巻規模を低く見積もっているとは一概にいえない。
年超過確率を求めるためには、
「1 つの竜巻により被害を受けた場合に竜巻風速が V0 を超える」
年被害確率と年発生数に関する確率分布を竜巻検討地域に対して評価する必要がある。年被害確
率は、確率モデルから評価された被害面積期待値を竜巻検討地域で割ることにより算出でき、そ
の確率モデルとして、米国において提案された手法[3,14]が参考となる。また、ポアソン過程にした
がった年発生数の確率分布を設定するのが妥当であると考えられており[15]、年発生数の平均値で
定められるポアソン分布、もしくは年発生数の分散をも考慮したポリヤ分布が具体的な確率分布
として挙げられる3。これらを踏まえた評価方法の全体フローを図 5 に示す。
3
一般的に、2つのパラメータを有するポリヤ分布の方が年発生数に対する適合度が高い。しかし、竜巻のように
1個の竜巻に対する被害確率が非常に小さな現象に対しては、年被害確率は竜巻発生数の平均値にのみ依存し、
ポアソン分布でもポリヤ分布でもほぼ同じハザード評価結果となる。これは、理論的にも証明できる。
8
被害面積期待値評価用の確率モデル(添付資料 3)に対し、竜巻検討地域における年発生数、
被害域長さ・幅、フジタスケールをもとにした竜巻風速、移動方向に関する統計量や確率分布を
過去の記録・観測データから算定する。わが国の場合、気象庁竜巻データベースが有用である(解
説 5-1)。確率分布については、対数正規分布を仮定して設定することが適切であるという分析結
果があり[16]、原子力規制委員会ガイドにおいても踏襲されている。確率モデルに関する詳細は添
付資料 3 にて説明し、データ分析や確率モデルの適用に関して留意すべき点として、以下に示す
項目を添付資料 4 に記載した。
・気象庁竜巻データベースの分析について
・竜巻風速の確率分布の同定について
・発生数の考え方について
・竜巻検討地域の細分化と分割領域に対する評価について
気象庁「竜巻等の突風データベース」
竜巻発生数・被害域幅・被害域長さの分析
(観測体制の変遷を考慮した擬似データ作成)
竜巻最大風速Vの確率密度分布
f(V)
被害域幅Wの確率密度分布
f(W)
被害域長さLの確率密度分布
f(L)
V、W、L 間の相関
被害面積期待値 E[DA(V0)]
1つの竜巻により被害を受けた場合に、竜巻風速がV0を超える確率
R(V0)=E[DA(V0)]/A0
竜巻影響エリアの面積 B
竜巻検討地域の面積 A0
竜巻の年発生数に関する確率分布
(ポリヤ分布等)
T年以内にいずれかの竜巻に遭遇し、竜巻風速がV0を超える確率 PV0,T
図 5 基準竜巻風速のハザード評価方法の流れ
解説 5-3
設計対象施設の抽出
原子力発電所内の設備および建屋・構造物等に対して、設計対象施設を抽出する考え方および
フローを以下に例示する。
設備等に要求される安全機能を維持するという観点で、
「発電用軽水型原子炉施設の安全機能の
重要度分類に関する審査指針」[17]、およびそれを踏まえた JEAG4612-2010[18]に規定されている重
要度分類に基づき、クラス 1 およびクラス 2 の設備を抽出する。また、津波対策用の防潮堤等、
竜巻とは関係のない外部事象に対する安全機能を求められる施設は設計対象から除外する。
なお、クラス 3 の設備は、建築基準法等に準拠した設計により、一般産業施設と同等以上の信
頼性を確保することが要求される設備であり、設計対象から除外する。また、竜巻の影響を受け
9
ない屋内設備で、外気とつながっていない施設でありかつ、外殻となる施設等(竜巻防護施設を
内包する建屋・構築物等)による防護機能が期待できる設備については、設計対象から除外でき
る。反対に、外殻となる施設による防護が期待できない竜巻防護施設は設計対象とする。また、
外殻として竜巻防護施設の防護を期待する施設についても設計対象施設とする。図 6 に抽出フロ
ーを例示する。
原子力発電所内の設備および建物・構築物
安全機能を有する構築物、設備(系統・機器)
(重要度分類クラス1、2)
竜巻襲来時に必要な機能を求められる
構築物・設備
【竜巻防護施設の
外殻となる施設】
【竜巻防護施設】
屋外設備
Yes
No
外気と繋がる
設備
No
Yes
No
外殻となる施設に
よる防護機能が No 【評価対象外】
期待できない設備
【竜巻防護施設に波及的
影響を及ぼし得る施設】
・機械的観点
・機能的観点
Yes
Yes
【設計対象施設】
図 6 設計対象施設の抽出に関する全体フロー例
一方、破損等により竜巻防護施設に波及的影響を及ぼして安全機能を喪失させる可能性を否定
できない施設を竜巻防護対象施設に波及的影響を及ぼしうる施設とし、以下に挙げる機械的影響
および機能的影響の側面から当該施設を抽出するものとする.
・発電所構内の設備や建屋・構築物のうち、竜巻防護施設または竜巻防護施設の外殻となる施設
に隣接する施設、あるいは倒壊により竜巻防護施設または竜巻防護施設の外殻となる施設に損
傷を及ぼす可能性がある施設を抽出する(機械的影響)。
・発電所構内の設備や建屋・構築物のうち、竜巻防護施設の付属設備のうち屋外にある設備、お
よび竜巻防護施設を内包する区画の換気空調設備のうち、外気と繋がるダクト・ファン、外気
との境界となるダンパ・バタフライ弁等を抽出する(機能的影響)。
図 7 に抽出フローを例示する。
解説 5-4
竜巻影響エリアの設定
確率モデルによる被害面積期待値の評価において、被害域幅および被害域長さ方向に対する評
価対象施設の投影長さが必要となる(添付資料 3)。原子力規制委員会ガイドは各対象施設の設置
面積の合計値に基づいて竜巻影響エリアを設定するとしているが、確率モデルの概念から考えれ
ば、それが妥当であるとはいえない。また、竜巻移動方向と竜巻風速・被害域幅・被害域長さと
の間の相関の低さ[16]を踏まえて各評価対象施設を含む円形で仮定すれば、竜巻の移動方向に関す
る特性に係らず、各投影長さは各評価対象施設の外径と等しくなり、評価が容易となる。
評価対象施設が原子力発電所内に1箇所にのみ存在する場合、竜巻影響エリアは円状評価対象
10
原子力発電所内の設備および建物・構築物
Yes
【竜巻防護施設】
竜巻防護施設およびその外殻となる施設に隣接
している建屋・構築物
Yes
No
倒壊により竜巻防護施設およびその外殻となる
施設に損傷を及ぼす可能性がある構築物
Yes
No
機能的影響
竜巻防護施設の付属施設のうち屋外にある設備
Yes
No
竜巻防護施設を内包する区画の換気空調設備
のうち、
・外気と繋がるダクト・ファン
・外気との境界となるダンパ・バタフライ弁
【
設計対象施設】
機械的影響
No
Yes
No
【評価対象外】
図 7 竜巻防護施設に波及的影響を及ぼしうる施設の抽出フロー例
施設と等価となる。設置対象施設が複数個所に分散している場合、複数の円状施設から1つの円
状影響エリアの外径を設定する方法は解析者に依存する。例えば、離れた2箇所に存在している
場合、各施設の外径を足し合わせた結果を円状竜巻影響エリアの外径とするのが最も保守的であ
る(図 8)。3箇所以上に存在している場合にも同様に考えられるが、各施設の外径を単純に足し
合わせると、竜巻影響エリアの外径が各施設の設置総面積に対して過度に保守的になることがあ
る。この場合、各設置対象施設の設置総面積に対して等価な円の外径を用いる等により設定した
竜巻影響エリアの外径が、設置対象施設の実際の配置状況に対するさまざまな方向に対する投影
長さと比較して十分に保守性を有することを確認することとなる。また、評価対象施設が原子力
発電所内の広範囲に分散設置されている場合、一つの竜巻によって各施設が同時に被災しうる可
能性も踏まえる必要がある。
評価対象円2
評価対象円1
円1
同時に被災しうる竜巻移動方向の例
円2
竜巻影響エリアの外径=
評価対象円1の外径+
評価対象円2の外径
図 8 離れた2箇所に分散する評価対象施設に対する竜巻影響エリアの考え方
11
解説 6-1
地形影響の有無の考え方
気象庁竜巻データベースにおいて記録された F スケールは、地形による影響も受けた結果とし
て受けた被害状況から評定されたものである。したがって、当データベースをもととした基準竜
巻の設定では、地形による竜巻の増幅・減衰の影響が多少なりとも考慮されており、米国 NRC ガ
イドにおいても基準竜巻風速が設計竜巻風速として用いられている。一方、竜巻現象の空間スケ
ール(図 2)の観点では、基準竜巻の設定はメソスケール(水平解像度 2~20km 程度)以上の空
間代表性を有する現象に着目した分析によるものであるため、竜巻検討地域における地域性はこ
の空間代表性に対応したものと考えられる。この考え方に立てば、基準竜巻がメソスケールから
マイクロスケールにわたる規模の山や丘により顕著に増幅することが科学的・技術的見地から評
価可能であれば、その風速の増幅率を基準竜巻風速にかけることにより設計竜巻風速を設定する
ことは保守的な評価結果を与える。こうした局所的な地形影響を検討するには、原子力発電所の
立地地点を中心とした数 km~10km 四方程度の範囲を対象にするのが妥当である。
また、国内における過去最大級の F3 竜巻のうち、2006 年に北海道網走支庁佐呂間町で発生し
た竜巻(以下、佐呂間竜巻と呼ぶ。
)に対しては、局所的な地形の影響が竜巻発生に関与した可能
性が指摘されている[19]。こうした地形影響を受けた過去最大級の竜巻の発生の有無については、
地形や気流場の合致あるいは類似性(参考資料 1)に着目した第二次的なスクリーニングを設計
竜巻の設定時に行うのが評価の全体フローや扱う空間スケールに整合する。
解説 6-2
地形影響に関する知見および数値解析技術
マイクロスケール規模の山や丘の形状が竜巻の旋回流に与える影響について、被害状況調査[20]、
風洞実験[21]、および数値解析[22]といった3つの異なるアプローチにより研究されている。いずれ
のアプローチにおいても、尾根状地形の風下側斜面(下り斜面)やその風下に位置する尾根の裾
野部分にかけて旋回流が強化されることが示唆されている。それと関連して、風洞実験や数値解
析による研究成果では、竜巻は蛇行しながら進む傾向にあることや、尾根状地形の風上側の裾野
から反対側の裾野まで尾根を上って下ると、増速・減速効果がキャンセルされ、結果的に地形影
響が顕著でなくなること等が指摘されている。過去の文献では、尾根高さ H に対して尾根を中
心とした±5H 程度の範囲が検討されており、地形影響が及ぶ範囲として参考となる。
数値解析では、非定常乱流場への適用性の高さから、ラージ・エディー・シミュレーション(Large
Eddy Simulation: LES)を用いた検討がなされている。また、土地利用形態に応じた地表面粗度に
よる影響が指摘されており、粗度長の短い海上から粗度長の長い陸地に竜巻が移動すると、一般
的には摩擦抵抗の影響を受けて竜巻は減衰する傾向にあると考えられている[23,24]。地表面粗度の
構成物が飛来物として漏斗雲内を運動することも竜巻の風速を大きく減少させる一因であること
が LES 解析により示唆されている[25]。
下り斜面において旋回流が増速することは、地表面粗度の影響を考慮しない条件において竜巻
のコア部分を一つの鉛直軸を有する剛体運動の気柱と仮定すると、渦の伸長・収縮に伴う角運動
量保存4の概念から理解することができる。つまり、竜巻が山や丘を下ると気柱が長く、渦の外径
4
回転する流れでは、「回転の中心からの距離」と「周方向の回転速度」の積が一定になるという性質。
12
が短くなるため、旋回流の速度は速くなる。LES による数値解析は、地表面粗度の影響も考慮し、
かつ力学的に根拠をもって計算する技術として期待されており、実スケールの地形を対象とした
LES 手法も米国のウェストバージニア大学等で検討されている。しかし、竜巻中の風速の時空間
変化を捉えた観測データが極めて少ないことなどから、定量的な評価が待たれるところであり、
成果を一般化する必要もある。また、様々な大気状態(計算の初期・境界条件)およびそれに応
じた様々な渦構造をもった竜巻に対する適用可能性についてはさらなる研究が必要とされている。
したがって、現時点において数値解析は地形に起因する渦の変化の定性的な議論には有効である
ものの、増幅率を定量的に評価するのは困難であると判断される。数値解析や他の手法により、
地形影響を無視できないと定性的に評価される場合には、工学的な判断等により設計竜巻風速を
設定せざるを得ないと考えられる。
解説 6-3
設計竜巻の特性値の設定
(1) 基本的な考え方
設計竜巻荷重の設定において、「設計対象施設内外の気圧差による圧力」、および「設計飛来物
が設計対象施設に衝突する際の衝撃荷重」を設定する必要がある。そこで、竜巻特性を的確に表
現する概念的な竜巻モデル、もしくは非定常乱流場の数値解析による手法により、竜巻が設計対
象施設を接近・通過する際の気圧分布および風速分布を設定する。原子力規制委員会ガイドでは
非定常乱流場の数値解析手法等にもとづいて設定することを基本とする旨解説されているが、
LES による解析は現時点では定量的かつ実務的な手法とはいえない(解説 6-2、解説 7-2)。米国
NRC ガイドでは、概念的竜巻モデルの一つであるランキン渦モデル(図 9)を採用し、必要な特
性値として、移動速度、最大接線風速、最大接線風速半径5、気圧低下量、および最大気圧低下率
を挙げている。より力学的に根拠のあるフジタ DBT-77 モデル[26](解説 7-2 を参照)においても、
これらの特性値をもって風速場を設定できる[27]。このような背景から、これら特性値の設定には、
気象庁竜巻データベース等の信頼性を有するデータ・知見をもとに設定することを基本としつつ、
それが難しい場合には米国 NRC ガイドにならい、ランキン渦モデルを仮定して設定することを推
奨する。
V
VT:竜巻の移動速度
r :竜巻中心からの半径
r
VT
V:接線風速
VRm R :最大接線風速半径
m
Rm
VRm:最大接線風速
VRm  (r / Rm ) (r  Rm )
V  
VRm  ( Rm / r ) (r  Rm )
図 9 ランキン渦モデルの模式図
5
最大接線風速が生じる位置を中心からの距離で表したもの。
13
(2) 特性値の設定
設計竜巻の移動速度 VT について、気象庁竜巻データベース(1961 年から 2009 年)から推定し
た移動速度の平均値-最大竜巻風速の関係[16]を米国における規格[28]・米国 NRC ガイドと比較し
たものを図 10 に示す。これによれば、文献[16]の分析結果では、米国と同様に移動速度は竜巻規
模が大きいほど大きい傾向が見られるが、米国で見られる傾向よりも移動速度が全体的に小さい。
この傾向をもとに原子力規制委員会ガイドは、設計竜巻風速の 15 %を設定すべき移動速度として
いる。しかし、分析に用いたデータ数が決して多くないことから、最新の気象庁竜巻データベー
スを用いた分析を行い、米国における傾向と比較し、気圧低下特性およびそれに伴う荷重も踏ま
えて移動速度を設定すべきである。
次に、最大接線風速は、米国 NRC ガイドと同様に、設計竜巻風速に移動速度を引いたものとす
る。最大接線風速半径については、図 11 のような関係が見られる。被害が発生し始める風速を適
切に決め、ランキン渦モデル等の風速モデルを仮定すれば、被害域幅と整合するような最大接線
風速半径を分析することができる。最新の気象庁竜巻データベースをもとに分析した結果を、米
国等諸外国における傾向と比較して設定するのが望ましい。
また、気圧低下特性(竜巻の外気圧から竜巻中心までの気圧低下量 Δp、および最大気圧低下率
(dp/dt)max)については観測データを取得するのが難しいため、米国 NRC ガイドや原子力学会の
規格と同様に、気圧傾度力と遠心力の釣り合いを考慮した旋衡風近似により以下のように求める
(式中の記号は図 9 を参照のこと)
。
2
p  VRm
ここで、は空気密度を指す。
(1)
(dp / dt ) max  (VT / Rm )p
(2)
ただし、フジタモデル等の複雑なモデルにより直接的に気圧分布を求めることができる場合は、
この限りではない。
40
米国原子力学会(ANSI/ANS‐2.3‐2011)
35
米国原子力規制委員会(Regulatory Guide 1.76)
移動速度 [m/s]
30
文献16
25
原子力規制委員会ガイド
20
15
(4)
10
(31)
(54)
5
(23)
0
30
50
70
90
110
130
150
最大竜巻風速 [m/s]
図 10 最大竜巻風速と移動速度との関係(括弧内の数字は用いたデータ数を表す)
14
最大接線風速半径 [m]
200
180
160
140
120
100
80
60
40
20
0
米国原子力学会(ANSI/ANS‐2.3‐2011)
米国原子力規制委員会(Regulatory Guide 1.76)
文献16
原子力規制委員会ガイド
30
50
70
90
110
130
150
最大竜巻風速 [m/s]
図 11 最大竜巻風速と最大接線風速半径との関係
解説 7-1
設計飛来物の選定フロー
基本的な考え方として、物体が浮上するか否かの判断を行い、浮上後に飛来物となりうる物体
のうち、運動エネルギー(衝撃荷重)または貫通力が鋼製材を上回る物体(コンテナ等)に対し
ては、固縛を行うこと等により飛散させないものとする(解説 8-1 参照)。また、飛来物の挙動を
解析した結果、竜巻防護施設から最大飛散距離の範囲外にあると判断できる物体については、設
計飛来物選定の対象から除外する(参考資料 2)。図 12 に選定フローを例示する。
解説 7-2
飛来物挙動に関する数値計算手法
設計竜巻に対する最大竜巻風速および特性値をもとに全体風速場を設定し、設計飛来物の挙動
を数値的に評価する。風速場を設定に際し、ランキン渦モデル、フジタモデル、および LES の中
から解析者の工学的判断にもとづいて風速場モデルを選定する。全体風速場における飛来物の水
平・鉛直速度、および軌跡の時間変化については、力学的に根拠を有する運動方程式を用いて計
算する。
(1) 基本的な考え方
設計飛来物を竜巻風速場中に投入し、飛来物速度の竜巻風速に対する相対速度の2乗に比例す
る平均流体抗力、および重力を飛来物へ作用する外力とみなす3自由度並進運動方程式[29,30]を用
いて評価する。以下に示す当運動方程式は、原子力規制委員会ガイドおよび米国 NRC ガイドの両
方で採用されている。
dVM 1 CD A
 
Vw  VM (Vw  VM )  g k
2
dt
m
(3)
VM:飛来物の速度ベクトル g :重力加速度
Vw:飛来物位置での風速ベクトル A :飛来物の代表見附面積
k:鉛直上向きの単位ベクトル m :飛来物の質量
 :空気密度 CD:飛来物の平均抗力係数
15
現地調査により飛来物となる可能性がある物体を選定(竜巻による二次飛来物となるものも含む)
浮上しない
影響しない
横滑りにより竜巻防護
浮上有無の判定
施設に影響しうるか?
最大飛散距離の範囲
外のもの
浮上する
到達しえない
竜巻防護施設に到達しうるか?
到達しうる
設計対象施設と隣接している物体
運動エネルギーが鋼製材よ
例:コンクリート板、仮設発電機等
評価対象外
最大飛散距離の範囲外のもの
影響しうる
固縛対策等により、飛来物としない。
大きい
りも大きい?
固縛対策等
例:コンテナ、車両、コンク
リート板、仮設発電機等
小さい
貫通力が鋼製材よりも大き
固縛対策等により、飛来物としない。
大きい
い?
固縛対策等
例:鋼製パイプ等
小さい
運動エネルギーまたは貫
通力が最大の物体を設計
飛来物として選定
設計飛来物:鋼製材
その他
運動エネルギーおよび貫通力が鋼製材よりも小
さいもののうち、竜巻防護ネットを通過するも
のとして、以下を抽出する。
鋼製材よりサイズが小さく、
竜巻防護ネットを通過する。
設計飛来物:砂利
図 12 設計飛来物の選定フロー例
所与の竜巻内外の風速場に対して、飛来物速度は飛行定数 CDA/m に応じて一義的に算定され
る。風速場を表現するモデルや、設計飛来物を投入する高度、数、竜巻に対する相対位置につい
ては、最終的に設定される飛来物速度のリスク確率の設定レベルに応じて、解析者による工学的
な判断により決定する。この工学的判断を行う際、モンテカルロ法や他の確率論的アプローチ[31]、
あるいは複数個の飛来物を異なる位置に同時投入する等の検討が参考になる。
例えば、米国 NRC ガイドでは、ランキン渦モデルを竜巻風速場として用いて、竜巻進行方向前
方 40 m 高さに飛来物を1個投入し、地上に落下するまでにとる最大の水平飛来速度を求めてい
る。進行方向右側に飛来物を投入すると遠心力による加速と移動速度が重畳するが、左側に投入
すると打ち消し合う。進行方向前方の1個投入する方法はそのどちらでもなく、平均的な速度を
評価することにあたる。物体がある設計水平速度で対象施設に衝突する確率は、竜巻の来襲確率
と多数の物体がこの設計水平速度となる確率の積となるが、超過確率として 10-7 の確率に対応す
る衝突確率を算出する際に、10-7 の超過確率に対応する竜巻風速を設定しているため、飛来物速
度の評価において保守性は考慮していないものと考えられる。このように、米国 NRC ガイドが採
用する投入方法は確率論的な観点に立ったものであると考えられる。
16
一方、鉛直速度については、米国 NRC ガイドの場合、最大水平速度の算定値の 2/3 としており、
原子力規制委員会ガイドにおいてもその旨例示されている。なお、計算可能であれば、計算結果
にもとづいて設定することができる。
上記 (3) 式に示した運動方程式による評価は、設計飛来物を上空の高い位置に投入した場合に
適用可能であり、その高度まで設計飛来物が到達することを暗に仮定している。地上に存在する
物体に対しては、地上からの浮上を踏まえて評価するのが妥当であるが、ランキン渦モデルの場
合、地上においても上昇流が存在する等の理由により適用できない。フジタ DBT-77 モデル(以
下、フジタモデルと呼ぶ。)の場合、気象力学的に根拠のある地表面付近の風速場を設定できるた
め、地面効果による揚力を考慮することによって地上に存在する設計飛来物の挙動を解析できる
[27]
(添付資料 5、添付資料 6)。この場合、L を揚力加速度として、以下の運動方程式を用いるこ
ととなる。
dVM 1 CD A
Vw  VM (Vw  VM )  (g  L)k
 
dt
m
2
(4)
なお、文献[27]では、揚力加速度の算定に揚力係数の代わりに抗力係数を用いた場合、保守的な(浮
上しやすい)評価となるとしている。この場合、Vw を飛来物中心高さにおける風速として、以下
に示す式にフジタモデルによる風速を代入することにより地上飛来物の浮上の有無を判定できる
[32]
。
1
Vw2 CD A  mg
2
(5)
また、動摩擦力をも考慮すれば、地上飛来物の横滑りを評価することも可能である[28]。
(2) 風速場モデルの比較
飛来物速度の評価に関するこれまでの適用例を鑑みると、代表的な風速場モデルとして、1) ラ
ンキン渦モデル、2) フジタモデル、ならびに 3) LES が挙げられる。ランキン渦モデルは、設計
竜巻の特性値を設定する際に用いるモデル(図 9)と基本的に同様であるが、飛来物速度の評価
にあたっては半径方向風速 Vr と上昇風速 Vz を付加し、鉛直方向に一様の風速場を仮定する[30]。定
式化および風速場の概況を図 13 に示す。
フジタモデルは、実際の竜巻観測記録をもとに開発されたものであり、その風速場は半径方向
に3つの領域(内部コア、外部コア、最外領域)で構成され、鉛直方向は流入層と非流入層とで
構成される。上昇流は外部コア内にのみ存在し、流入層では竜巻中心方向に向かう強い流れがあ
る。図 14 に定式化および風速場の概況を示す。フジタモデルはランキン渦モデルと異なり、接線
風速や鉛直風速に高度依存性がある。特に、地表面付近では鉛直風速がゼロであり、より力学的
に根拠のある風速場となっている。フジタモデルもランキン渦同様に代数式により表現でき、ラ
ンキン渦の設定に必要な設計竜巻の特性値をもって風速場を設定できる。
図 15 は両モデルの風速場構造を比較したものである。フジタモデルは、ランキン渦モデルに比
べて、竜巻内外の風速場をより実態に即した形で表現しているといえる。参考資料 2 に飛来物の
挙動を観点とした両モデルによる評価結果の違いについて例示した。また、原子力発電所内に高
低差のある高台が存在する場合においては、高台と敷地(施設)との間の高低差を考慮した飛散
17
距離および鉛直速度等を算出するため、モデル化を工夫する必要がある。添付資料 5 に高台にあ
る物体に対するモデル化の考え方についてまとめた。
竜巻中心軸
r=1
z
無次元座標
r  R / Rm
接線風速
V 
2Vm
Fr ( r )
5
 r ( r  1)
Fr ( r )  
1 / r ( r  1)
1
2
半径方向風速 Vr   V
2
Vz  V
3
上昇風速
最大接線風速半径Rm
水平方向風速 Vh  V  Vr  Vm Fr ( r )
2
2
上昇流
r
地 面
図 13 ランキン渦モデルの概要
無次元座標
r  R / Rm ,
接線風速
V  Fr ( r ) Fh ( z )Vm
竜巻中心軸
z
z  Z / Hi
r=
r=1

z k0
( z  1)
 r ( r  1)
Fr ( r )  
Fh ( z )  
r
r

1
/
(
1)
exp(
k
(
z
1))
(
z  1)




(r   )
0


V tan  0   2 
Vr   
1  2 
2
r 
 1  

V tan  0
半径方向風速
(  r  1)
内部コア
( r  1)

 A(1  z1.5 )
tan  0  
 B{1  exp(  k ( z  1))}
( z  1)
( z  1)
外部コア
コア半径Rm
上昇風速
7
8
流

3 Vm
6
3
A
(16
z
7
z
)
( z  1) 入


2
28 1  
Vz  
層

V
B
exp(
 k ( z  1))
m





{2
exp(
k
(
z
1))}
(
z
1)

k (1   2 )
Hi
k0, k, , , A, Bは定数
図 14 フジタモデルの概要
18
最
外
領
域
z=1
地 面
r
図 15 フジタモデル(左)とランキン渦モデル(右)の比較
LES については、実スケールでの計算技術に検討課題を残している(解説 6-2)。そのため、半
径 60 cm 程度の円筒容器を用いた実験により作成された強制対流場を LES により計算し、得られ
た計算結果にスケール係数を乗じて竜巻風速場を模擬して飛来物速度の評価に用いている[33]。風
速の時間的な変動(乱流)を考慮できるが、人為的な計算条件にもとづくため、実際の竜巻風速
場の再現性にはさらなる検討を要する。また、流れの境界条件や流体領域の形状に依存しない普
遍的な規則性を担保するためのメッシュ解像度の確保には、膨大な計算機資源が必要となり、実
務的な活用には不向きである。そのため、この種の非定常乱流場を用いる場合と比べて適切な、
あるいは保守的な評価が行える概念的な風速場モデル(ランキン渦モデル・フジタモデル)が有
力な評価ツールと考えられる。
使用性を観点とした各風速場モデルの特徴を表 2 に示す。解析者は、風速場モデルの特徴や設
計飛来物の設置状況等を踏まえて用いる風速場モデルを選択し、モデルによっては飛来物の投入
条件について適切な工学的判断を行い、飛来物速度の評価を行うことが求められる。
表 2 各風速場モデルの比較
風速場モデル
ランキン渦モデル
フジタモデル
特徴
問題点
・上昇流が全領域に存在するため、飛来物が落下
・簡易な式により風速場を表現できる。
し難い場合がある。
・米国NRCガイドで採用されており、高い利
・風速場に高度依存性がなく、特に地表面付近で
用実績を有する。
は非現実的な風速場となる。
・実観測にもとづいて考案されたモデルであ
り、実際に近い風速場構造を表現している。
・比較的簡易な代数式により風速場を表現
できる。
・地上に設置した状態から飛来物の挙動を
解析できる。
ラージ・エディー・シミュ ・風速の時間的な変動・乱れをある程度模
レーション(LES)
擬できる。
19
・ランキン渦モデルと比較して、解析プログラムが複
雑になる。(近年における計算機能力の向上、およ
び評価ツールの高度化により問題点は解決されて
いる。)
・流れの境界条件や流体領域の形状に依存しない
普遍的な規則性を担保するためのメッシュ解像度
の確保には、膨大な計算機資源が必要となり、実
務的な活用には不向きである。
(3) 計算フロー
飛来物の挙動を計算するために必要となる入力データ、全体の計算フロー、および計算結果の
出力データを図 16 に示す。竜巻に関する入力データとして、最大風速 VD(=VRm+VT)、移動速度
VT、静止した竜巻の最大水平風速 VRm が発生する竜巻半径 Rm の3種類のデータが必要となる。文
。この関係を採用する場合、VRm を
献[16]によると VD と VT には VT=0.15VD の関係がある(図 10)
0.85VD によって与えることとなる。また、Rm については、文献[16]によると 30 m が推奨されてい
る(図 11)。このように設定すれば、最大風速 VD に応じて他の入力条件も決まる。一例として、
表 3 に VD を 69 m/s、92 m/s、および 100 m/s とした場合の各入力条件を表 3 に示す。
飛来物データの条件設定
・飛行定数 CDA/m
・物体高さ d
・CD:抗力係数 ・m:質量
・A:代表見附面積
設計竜巻の条件設定
・最大接線風速 VRm
・最大接線風速半径 Rm
・移動速度 VT
計算ソフト
時系列
データ
出力等
各飛来物の
最大速度、飛散高さ、
飛散距離
等の出力
可視化用
データ出力
等
軌跡等のグラフ
表・グラフ
アニメーション
図 16 飛来物の挙動計算のフロー
表 3 計算に用いる入力条件の例
VD [m/s]
VRm [m/s]
VT [m/s]
69
59
10
92
79
13
100
85
15
Rm [m]
30
一方、飛来物に関する入力データとして、飛行定数 CDA/m が必要となる。ここで、m は飛来物
の質量を表し、CDA は文献[16]と同様に以下で定義される抗力係数と見附面積の積の平均値である。
CD A  0.33  CDx Ax  CDy Ay  CDz Az 
(6)
ここで、CDx は空中での x 軸方向流れに対する抗力係数、Ax は x 軸方向流れに対する見附面積であ
り(その他の方向も同様)、CDx の値は、文献[16]と同様に表 4 で定義されるものである。
20
表 4 飛来物の方向別抗力係数
物体形状
CDx
CDy
CDz
塊状物体
2.0
2.0
2.0
2.0
1.2
1.2
2.0
0.7
0.7
板状物体
棒状物体(矩形断面)
棒状物体(円形断面)
CDz
CDz
CDx
CDx
CDx
CDy
CDy
CDy
塊状物体
棒状物体(矩形断面)
CDz
板状物体
CDz
CDx
CDy
棒状物体(円柱断面)
例えば、表 5 に示すセダン型自動車は塊状物体と見なすことができるため、CDA は以下のよう
に計算される。
CDA=0.33×(2.0×4.36 (m)×1.695 (m)+2.0×1.695 (m)×1.46 (m)+2.0×1.46 (m)×4.36 (m))=10.71 (m2)
したがって、飛行定数 CDA/m は以下のように計算される。
CDA/m=10.71 (m2) / 1140 (kg) = 0.0094 (m2/ kg)
表 5 飛来物(自動車)の仕様例
項目
長さ
幅
高さ d
質量 m
仕様
4.36 m
1.695 m
1.46 m
1140 kg
フジタモデルを式(4)に適用して地面からの物体浮上を考慮した計算を実施する場合、地面付近
で物体が受ける風速が物体高さ d に依存するため、物体高さ d も入力データとして必要となる。
ただし、この値は飛行定数 CDA/m を計算する上で必要なデータであるので、収集すべきデータの
数・種類には影響がない。
以上の入力データと物体の初期位置・初期速度を与えると、時間進展型の式(3)または式(4)を数
値的に計算することにより、各時刻での飛来物速度と位置を求めることができる。なお、米国 NRC
ガイドで例示されている飛来物速度は、竜巻中心の初期位置を原点、物体の初期位置および速度
をそれぞれ、(Rm, 0 m, 40 m) およびゼロとし、この一つの物体が地面に落下するまでに達した最
21
大水平速度によって与えられている。一方、原子力規制委員会ガイドでは、多数の物体を高さ 40m
から初期速度ゼロで放出し、各物体が地面に落下するまでに達した最大水平速度の中の最大値が
設計水平速度として例示されている。
解説 8-1
竜巻に対するハード的な対策に関する考え方
設計飛来物として考慮しない資機材のうち運動エネルギーまたは貫通力が設計飛来物を上回る
ものに対しては、飛来物とならないように飛散防止対策を講じる必要がある(解説 7-1、図 12)。
また、設計対象施設は、設計竜巻の最大風速による風圧力による荷重、気圧差による荷重、およ
び設計飛来物の衝撃荷重を組み合わせた荷重に対して安全機能を損なわない設計とするため、安
全機能を損なうと評価された場合には、防護対策を実施しなければならない。ただし、飛来物衝
突により設備が一部損傷したとしても、直ちにプラントの安全機能を損なわないことを確認でき
る場合は、防護対策を実施しないことも許容されるものとする。
このように、ハード的な対策方法は、飛散防止対策と飛来物防護対策に大別される。主な飛散
防止対策としては、固縛処置あるいは地面への固定が挙げられる。また、緊急車両を固縛するこ
とによって迅速な対応が阻害される恐れがあることから、設計対象施設からの離隔距離を十分に
とった場所での保管や、竜巻注意情報等の情報を活用して設計対象施設周辺から退避する等の運
用による対応を行うことも有効である。
飛散防止対策を施せない設計飛来物が評価対象施設を損傷させる恐れのある場合、設備による
防護対策を実施する。ただし、保全活動の観点において、竜巻の脅威から物理的に防護すること
のみ考えた対策は、設備の運用・メンテナンス性を著しく欠くことになる可能性もあるため、日
常点検や定期点検が容易に行えることを考慮して対策を講ずることも重要な要素となる。また、
可能な場合は、運用による対策で補うこともできる。図 17 に防護対策の実施要否に関する判断フ
ローを例示する。また、添付資料 7 に具体的な対策例を例示した。
解説 8-2
飛来物影響を抑制するためのソフト的な対応
原子力発電所内では、種々の改良・修繕工事が行われており、これに伴う工事資機材や車両等
は必ずしも十分な飛散防止対策が図られているとは限らないことから、ソフト的な対応も講じる
必要がある。その際、気象庁による竜巻注意情報や竜巻発生確度ナウキャスト[34]、および雷ナウ
キャストの活用は効果的である。竜巻注意情報は、竜巻等の激しい突風の発生可能性が高くなっ
た時点で各地の気象台等が県等を対象に発表するものである。また、竜巻発生確度ナウキャスト
は、10 km 格子単位で 1 時間先まで予測を行うもので 10 分毎に更新されるものであり、その発生
確度に応じた特徴は以下の通りである。
・発生確度 1:竜巻等の激しい突風が発生する可能性がある。予測の的中率は 1~5 %であ
るが、捕捉率は 60~70 %で見逃しが少ない。
・発生確度 2:竜巻等の激しい突風が発生する可能性があり、注意が必要である。県等に
竜巻注意情報が発令される。予測の的中率は 5~10 %、捕捉率は 20~30 %である。
雷ナウキャストは、1km 格子単位で 1 時間先まで予測を行い、10 分毎に更新されるものであ
り、その活動度に応じた特徴は以下の通りである。
22
・活動度1:現在は雷が発生していないが、今後落雷の可能性がある。
・活動度2:雷光が見えたり雷鳴が聞こえる。落雷の可能性が高くなっている。
・活動度3:落雷がある。
・活動度4:落雷が多数発生している。
竜巻発生確度によるメソサイクロンの検出と雷活動度による積乱雲中の上昇気流場の検知を組み
合わせることにより、竜巻の襲来可能性を事前に推定することが期待される。
こうした情報は分布図形式で防災機関等に提供され、気象庁ホームページにおいても公開され
ている。また、最近では、民間の携帯コンテンツサービスも提供されている。そのため、過去の
竜巻事例に対する適用性を最新のデータをもって評価し、有効であることを確認した上で運用に
よる対応に積極的に取り込むことが推奨される。具体的な対応例を表 6 に示す。
評価対象施設
なし
設計飛来物の構造健全性評価において
設備が損傷する可能性がある。
防護対策不要
・使用済燃料ピット
・格納容器排気筒
・換気空調系
あり
防護対策を実施する。
YE
与えない
損傷により直ちにプラントの安全機能
を損なう。
【運用】による対策を実施
与える
【設備】を守るための防護対策を実施
防護対策実施例
設備
設備
【設備対応(ネット設置等)】
・海水ポンプ
・海水ストレーナ
・復水タンク(配管含む)
・燃料取替用水タンク(配管含む)
・ディーゼル発電機
・主蒸気配管他
:竜巻防護施設
【損傷時は補修等にて対応】
・消音器
・排気管,
・蒸気大気放出管
・ベント弁
【分散配置】
【分散配置】
・タンクローリ
・ジフクレーン
:竜巻防護施設に波及的影響を及ぼし得る施設
図 17 飛来物防護対策の実施要否の判断フロー例
23
表 6 ソフト的な対応例
対象
対応例

事業所への入構時に、気象庁の竜巻注意情
報等の発表時における対処方法について周
知する。
工事車両

竜巻注意情報の発表、あるいは竜巻発生確
度等の予測情報の配信時には、以下の対応
一時的に構内へ立ち入る車両
等が推奨される。
・安全上重要な施設からの離隔距離の確保
(例:敷地外への移動)
・車両の固定(ワイヤーロック)
工事用資機材/仮置き物品

固縛用資機材の仮置き場所への配備。

竜巻注意情報の発令を受け、固縛を行う。
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24
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26
添付資料 1 竜巻発生を観点とした総観場の地域性に関する検討例
気象庁竜巻データベースをもととした、総観スケールの気象場(総観場)の分析について例示
する。本資料では、主に発生要因としての総観場を観点として、太平洋側と日本海側との相違点
に着目した分析結果を示す。
(1) 総観場の分類
気象庁竜巻データベースでは、約 40 種類の総観場が使用されている。そこで、文献 1) を参考
に統合し、7 種類に再編する。その結果および各総観場の特徴を添付表 1-1 に整理した。
添付表 1-1 再編した総観場分類表
気象庁竜巻データベース
における分類
総観場
台風起因 台風
主な特徴
台風をとりまく雲が竜巻を発生させる.関東以
西の太平洋側で発生頻度が高い。
寒気と暖気が接することにより傾圧不安定が
生じるとともに、主に南からの下層暖湿流が
親雲の発達に寄与する。暖湿流が山岳等で
遮られない関東以西の太平洋側で発生頻度
が高い。日本海側での頻度は比較的低目で
ある。
暖湿流が主要因で親雲が形成される。関東
暖気の移流、熱帯低気圧、湿舌、太
以西の太平洋側や内陸部にて多く確認され
暖気の移流
平洋高気圧
ている。
南岸低気圧、日本海低気圧、二つ玉
低気圧、東シナ海低気圧、オホーツ
温帯低気圧
ク海低気圧、その他(低気圧)、寒冷
前線、温暖前線、閉塞前線
寒気の移流
寒気の移流、気圧の谷、大陸高気
圧、季節風
大気上層に寒気が流入して大気が不安定に
なり、竜巻の親雲が形成する。日本海側や関
東以北で比較的多い。
停滞前線
南よりの暖湿流により親雲が形成されやす
停滞前線、梅雨前線、前線帯、不安
い。関東以西の太平洋側や内陸部に比較的
定線、その他(前線)
多い。
局地性
局地性擾乱、雷雨(熱雷)、雷雨(熱 局地循環により親雲が形成される。比較的内
雷を除く)、地形効果、局地性降水 陸部に多い。
その他
移動性高気圧、中緯度高気圧、オ
ホーツク海高気圧、帯状高気圧、そ 上記に当てはまらないもの。数は少ない。
の他(高気圧)、大循環異常、その他
(2) 太平洋側と日本海側との相違点
太平洋側地域(茨城県以西の太平洋側(山口県の瀬戸内側を含む)および九州・沖縄の沿岸域
のうち、海岸線から 5 km 範囲の地域)、ならびに日本海側地域(北海道および本州の日本海側沿
岸域のうち、海岸線から 5 km 範囲の地域)に対して竜巻の発生要因としての総観場比率を分析
した結果を添付図 1-1 に示す。日本海側地域では、太平洋側地域にて発生している台風起因の竜
巻が発生しておらず、総観場の比率が太平洋側地域に比べて大きく異なっている。日本海側地域
27
では、寒気の移流や温帯低気圧に伴う竜巻が多いのに対し、太平洋側地域では比較的どの総観場
の下でも竜巻が発生している。
添付図 1-1 総観場比率(左:日本海側地域、右:太平洋側地域)
また、添付図 1-1 に見られる傾向の違いは、竜巻の主移動方向に関する傾向の違いに影響して
おり(添付図 1-2)、温帯低気圧や寒気の移流は、西から東、あるいは北から南に移動する傾向の
強い総観場であるため、日本海側地域にて発生した竜巻は、主に北東~南東の東よりの方向に移
動する傾向が見られる。一方、太平洋側地域では、台風や暖気の移流といった南から北に向かっ
て移動する総観場・流れ場に伴う竜巻の数が多いため、北よりに移動した竜巻が多い。
添付図 1-2 竜巻移動方向の比率(左:日本海側地域、右:太平洋側地域)
参考文献
1) 東京工芸大学, 2011: 竜巻による原子力施設への影響に関する調査研究. 平成 21-22 年度原子
力安全基盤調査研究(平成 22 年度), 独立行政法人原子力安全基盤機構委託研究, 424 pp.
28
添付資料 2 突風関連指数を用いたメソスケール気象場の地域性に関する検討例
原子力発電所を対象とした影響評価では、竜巻発生を観点とした分析の中でも、特に国内最大
級あるいはそれを上回る規模の竜巻の発生に着目した分析が重要である。竜巻の発生メカニズム
は、「局地的な前線」、および「スーパーセル(上昇・下降気流場の構造が特徴的な巨大積乱雲)」
の2つに大別されると考えられている 1)が、国内最大級 F3 規模を上回る竜巻はスーパーセルを伴
うと考えて問題ない。したがって、スーパーセルの形成に適した気象場(メソスケールの環境場)
の生起しやすさに着目して地域性を検討することが有効である 2),3),4)。
スーパーセルの発生には、大気下層の鉛直シア(異なる高度間での風向・風速差)5)と強い上昇
気流を引き起こすきっかけとしての不安定な大気場が必要である。突風関連指数は、気象庁にお
ける現業においても竜巻探知・予測に活用され
6)
、数多くの指数が提案されているが、鉛直シア
と大気不安定度の指標として、
「ストームの動きに相対的なヘリシティー」
(以下、SReH と呼ぶ。)
と「対流有効位置エネルギー」
(以下、CAPE と呼ぶ。)が挙げられる。両指数の概念を添付図 2-1
および添付図 2-2 に示した。
親雲内の渦(メソサイクロン)
の強化
水平軸周り
の渦
添付図 2-1 SReH の算出概念(左:水平渦度生成に関する模式図、右:水平渦度の親雲への輸送
に関する模式図)
浮力がゼロになる高度
EL
高 度
空気塊の気温が
周囲の気温より高く、
浮力を得る。
CAPE
周囲の大気の気温
LFC
自由対流高度
LCL
持ち上げ凝結高度
乾燥断熱
空気塊
気 温
添付図 2-2 CAPE の算出概念
29
添付図 2-1 に示すように、大気下層に鉛直シアが存在すると水平軸周りの渦が発生し、その渦
が上昇気流に沿って親雲に取り込まれる。これにより、親雲内の渦度が上昇し、メソサイクロン
と呼ばれる大きな鉛直軸周りの渦ができる。全容は解明されていないが、親雲の発達や、親雲-
地表面間の急激な気圧低下等のメカニズムにより竜巻漏斗雲が発生する。SReH は親雲への水平渦
度の取り込まれやすさを表しており、以下により算定される。
高度3 km
SReH 

(V  C) ・ω dz
(2-1)
地上
ここで、V は水平風速ベクトル、ω は鉛直シアに伴う水平渦度であり、C のストームの移動速度
である。また、dz は鉛直方向の層厚を表す。
一方、添付図 2-2 に示すように、空気塊が何らかの外力(太陽による地面の加熱、前線での風
の収束等)により上昇すると、最初は乾燥断熱線により気温が下降するが、持ち上げ凝結高度
(LCL)にまで達すると水蒸気が飽和して雲ができ、その凝結熱(潜熱)により乾燥時と比較し
て気温が下がりにくくなり、湿潤断熱線に沿って気温が低下する。積乱雲がたちあがり、周囲の
大気の気温よりも高くなると(LFC 高度以高)、空気塊は暖かいほど軽く上昇するため、外力なし
で上昇し、積乱雲が急激に発達する。積乱雲が高く発達し、周囲の大気の気温に等しくなる(EL
高度)と、雲の高度方向への成長は止まる。CAPE は湿潤断熱線と大気の気温プロファイルで囲
まれる部分の面積にあたり、CAPE が大きいほど大気が不安定で背の高い積乱雲に発達しうる。
実際に CAPE を算出する際には、以下の式を用いる。
EL
CAPE 

LFC
g
e' ( z )  e ( z )
dz
e ( z)
(2-2)
ここで、z は高度、g は重力加速度、eはストーム周囲の相当温位、e’は持ち上げ空気塊の相当
温位である。温位は、式 (2-3) に示すように気温 T と気圧 p に関する量であり、ある空気塊を断
熱的に基準圧力 1000 hPa に戻したときの絶対温度である。相当温位は潜熱の影響を考慮した温位
にあたる。
R
 1000  C p
 T
(R : 気体定数,C p:定圧比熱)

 p 
(2-3)
持ち上げる空気塊の性質に応じて CAPE 値は変わるが、ここでは、地表から 500 m 上空までで最
も不安定な空気塊を持ち上げることとし、その時の CAPE は MUCAPE(Most Unstable CAPE)と
呼ばれる。以下において特段断らない限り、CAPE は MUCAPE のことを指すものとする。また、
SReH と CAPE の複合的な突風関連指数として EHI と呼ばれる指数がある。
EHI 
SReH  CAPE
160000
(2-4)
これまでに発生した F3 竜巻、および日本海側で発生した F2 竜巻に対する突風関連指数の分析
結果を添付図 2-3 に示す。WRF モデル(Weather Research and Forecasting model)と呼ばれる数値
気象モデルを用いて当時の気象場を解析(再現)し、それをもとに突風関連指数を算出した。こ
れによれば、以下の傾向が見られる。
・ F3 竜巻事例では共通して、SReH と CAPE の両方が大きい。寒候期(11 月~4 月)に発生し
30
た事例では CAPE が暖候期(5 月~10 月)に比べて小さいが、SReH が非常に大きく、大気
不安定度の小ささを補っている。CAPE の気候値が季節間で大きく異なることから、SReH と
CAPE を用いた分析は季節別に行う必要がある。
・ 今回分析した F2-F3(F2 と F3 の間を指し、添付図 2-3 では F2.5 と記載している。
)竜巻時の
発生環境場は、CAPE が F3 竜巻発生時に比べてかなり低かった。F2 規模と F3 規模とで風速
レベルで違いが大きく、F2-F3 竜巻を F3 竜巻と混合して扱うべきではない。
・ 日本海側 F2 竜巻においても、SReH は F3 竜巻事例と同レベルの大きさになりうる。しかし、
その場合、CAPE は F3 竜巻発生時よりもかなり小さい。逆に大気不安定度が比較的大きい事
例では SReH が大きくない。つまり、両指数が共に大きくなる状況は日本海側 F2 竜巻におい
て見られなかった。
・ EHI に対しては、3.3 程度を超える場合に F3 竜巻が発生しており、通年単位で分析できる可能
性はある。
3000
CAPE (J/kg)
2500
F3(暖候期)
2000
F3(寒候期)
1500
F2.5(寒候期)
日本海F2(暖候期)
1000
日本海F2(寒候期)
500
日本海F1‐F2(寒候期)
0
0
200
400
600
800
1000
EHI3.3
SReH (m2/s2)
添付図 2-3 F3 竜巻、F2-F3 竜巻、および日本海側 F2 竜巻における SReH と CAPE の関係(文献
3)および文献 4)をもとに作成した。
)
このように、国内で(太平洋側で)発生した F3 竜巻では、SReH と CAPE の両方(あるいは EHI)
が大きな値をとる傾向が見られる。したがって、SReH と CAPE それぞれに(または EHI に)対
して閾値を設け、その閾値を同時に超える頻度(以下、同時超過頻度と呼ぶ。
)を分析することに
より、国内最大規模 F3 あるいはそれ以上の規模の竜巻発生を観点とした地域性を見出せる可能
性がある。
添付図 2-4 は、電力中央研究所が作成した長期・高解像度再解析データのうち、1961 年~2010
年までの 50 年間にわたって 1 時間毎に解析されたデータ 7)をもとに、同時超過頻度分布をマップ
化したものである。設定した閾値については、添付図 2-3 をもとに、SReH の閾値を 250 m2/s2(暖
候期・寒候期とも)、CAPE の閾値を 1600 J/kg(暖候期)、600 J/kg(寒候期)とした。また、気象
庁竜巻データベースで確認された F2-F3 竜巻および F3 竜巻の発生箇所を添付図 2-5 に示した。暖
候期においては、同時超過頻度 0.01 % 前後の地域が茨城県以西の太平洋側および九州の沿岸域
31
の平野部に広がっており、超過頻度の高い地域は F3 規模の竜巻の発生箇所を含包している。つま
り、超過頻度の高い地域で F3 規模以上の竜巻発生に適した環境場が整いやすいことが示唆されて
いる。それに対し、日本海側、東北太平洋側、および北海道・下北半島といった北日本での超過
頻度の値は、1~2 オーダ以上小さな値となっている。
一方、寒候期の超過頻度分布では、頻度が高い地域が南側にシフトしているが、実際の F3 竜巻
発生箇所がより沿岸に近い地点に限られていることと対応している。全体的に暖候期に見られる
傾向と同様であり、F3 規模竜巻の発生数に季節間の差が見られないことも反映されている。この
ように、過去の F3 竜巻発生時の環境場の解析結果を踏まえて設定した SReH と CAPE の閾値を両
方超過する頻度の分布は、実際の F3 竜巻の発生箇所の傾向と整合している。
同時超過頻度分布は、閾値を「超過する」という意味において、F3 規模あるいはそれ以上の規
模の竜巻が発生するのに適した環境場の生起しやすさを表現していると解釈できる。この分布は、
添付図 2-4 同時超過頻度分布(単位:%、F3 規模以上を対象;左:暖候期、右:寒候期)
(実績ベースの閾値(SReH:250 m2/s2、CAPE:1600 J/kg(暖)600 J/kg(寒)))3)
添付図 2-5 F3 竜巻(F2-F3 を含む)の発生箇所(赤:暖候期、青:寒候期)
32
高標高山岳(九州山地、四国山地、紀伊山地、中央アルプス等)の南北で頻度が大きく異なって
おり、これら山岳によって太平洋側からの暖気流が遮断される効果が大きな竜巻の発生に影響し
ていることも示唆している。ただし、サンプル数が 10-7 程度の確率を議論できるほど多くないた
め、同時超過頻度値は相対的な比較に活用できるものである。なお、添付図 2-6 は、EHI の閾値
を 3.3 にした際の超過頻度分布である。添付図 2-4 に見られる両季節の傾向に対して中間的な傾向
が見られる。通年単位で閾値を設定しているため、中間的な傾向を示すのは妥当である。
添付図 2-6 超過頻度分布(単位は %;通年;EHI の閾値:3.3)
添付図 2-7 は、ハザード評価と同様に海上 F 不明竜巻を按分して各 F スケール竜巻の 51.5 年間
(1961 年~2012 年 6 月)擬似発生数を分析し(添付資料 4)、F スケール毎に発生率(対象 F スケ
ールの発生数/擬似発生数)を地域別にプロットしたものである。太平洋側と北日本とでは竜巻の
全発生数に大差はないことから、この発生率で対象 F スケール竜巻の発生しやすさを概ね把握す
ることができる。欧米での解析結果 8)と同様、F スケールが大きくなるほど指数的に頻度が低減し
ている。F3 規模の発生率は、茨城県以西太平洋側・九州沿岸ではその他の地域に比べ 1 オーダ程
度発生率が高くなっており、突風関連指数の分析結果と整合していることがわかる。日本海側沿
F1
1.000
F0
F2
竜巻の発生率
0.100
F3
0.010
0.001
全国
太平洋
北日本
0.000
0
2000
4000
6000
風速の2乗 (m2/s2)
8000
添付図 2-7 各 F スケールの発生率(文献 4)をもとに作成した。)
33
岸や東北太平洋側・下北半島では、F3 竜巻が発生していないため、もっと頻度が小さくなること
が予想できる。
このように、本資料にて概説した突風関連指数を用いた気象解析にもとづく方法により、既往
最大規模である F3 竜巻およびそれを超える規模の竜巻の発生可能性について、その地域性を的確
に把握できるものと考えられる。
参考文献
1) 新野宏, 2007: 竜巻. 天気, 54, 933-936.
2) 杉本聡一郎, 野原大輔, 平口博丸, 2014: 突風関連指数を用いた大きな竜巻の発生環境場の地
域性に関する検討. 2014 年度日本気象学会春季大会講演予稿集, B464.
3) 杉本聡一郎, 野原大輔, 平口博丸, 2014: 国内既往最大規模の竜巻を対象とした発生頻度の地
域性について. 保全学会第 11 回学術講演会, 395-402.
4) Sugimoto, S., D. Nohara, and H. Hirakuchi, 2014: Regionalization of tornado intensities using tornado
parameters and a long-term high-resolution reanalysis data. 27th Conf. Severe Local Storms, Amer.
Meteor. Soc., 140, Madison, WI.
5) Klemp, J. B., and R. B. Wilhelmson, 1978: Simulations of right- and left-moving storms produced
through storm splitting. J. Atmos. Sci., 35, 1097-1110.
6) 瀧下洋一, 2011: 竜巻発生確度ナウキャスト・竜巻注意情報について-突風に関する防災気象
情報の改善-. 測候時報, 78, 57-93.
7) 橋本篤, 平口博丸, 田村英寿, 服部康男, 松梨史郎, 2013: 領域気候モデルを用いた過去 53 年
間の気象・気候再現. 電力中央研究所報告, N13004, 18 pp.
8) Dotzek, N., M. V. Kurgansky, J. Grieser, B. Feuerstein, and P. Nevir, 2005: Observational evidence for
exponential tornado intensity distributions over specific kinetic energy. Geophys. Res. Letters, 32,
L24813, doi:10.1029/2005GL024583.
34
添付資料 3 被害面積期待値の算出に用いる確率モデルの概念
V0 以上の風速を有する1個の竜巻が矩形構造物(横幅:A、縦幅:B)を通過する際、構造物
に被害をもたらしうる面積の期待値 E[DA(V0)] を算出する概念を添付図 3-1 に示す。ここで、L
は竜巻の被害域長さ、W は被害域幅、は移動方向とする。また、H と G はそれぞれ、竜巻の被
害域幅や被害域長さ方向への構造物の「投影長さ」である。
竜巻の最大風速を V とした時、E[DA(V0)]
は以下のように表される 1)。
DA(V0 )  WL  HL  WG  AB
(V  V0 )
DA(V0 )  0
(V  V0 )
(3-1)
例えば、添付図 3-1 中の T(面積 WL)や E(面積 WG)は、被害域幅の中心線は構造物をかすら
ないが、竜巻全体として見た場合に構造物の端部をかする場合を指すものと理解できる。
A
W
構造物
B
H

G
L
竜巻の被害域長(L)・被害域幅(W)
および移動方向()
E
BA
T
P
T
E
BA
P:竜巻中心が構造物を直撃する竜巻の発生域面積(面積HL)
T:竜巻の中心は通らないが,竜巻の端部が構造物をかすめる場合の発生域面積(面積WL)
BA:構造物が有限な面積を持っているために考慮する項(面積AB)
E:Tと同様であるが、構造物が有限な面積を持っているために考慮する項(面積WG)
添付図 3-1 被害面積期待値の概念(文献 1)を参考に作成)
竜巻風速 V・被害域幅 w・被害域長さ l・竜巻移動方向の確率分布 f(確率密度関数)を用いて
35
上記の関係を表すと以下のようになる。
 
E  DA(V0 )      W (V0 ) l f (V , w, l ) dVdwdl 
0 0 V0
2  
   H ( ) l
f (V , l ,  ) dVdld 
0 0 V0
(3-2)
2  
   W (V )G( ) f (V , w, ) dVdwd 
0
0 0 V0

B  f (V )dV
V0
ここに、H()および G()はそれぞれ、竜巻の被害長および被害幅方向に沿った面にリスク対象構
造物を投影した時の長さである。また、確率密度分布 f は、原子力規制委員会ガイドでは対数正
規分布で表現するものとされており、
1
f ( x, y , z ) 
 2 
3/ 2

 x y  xy  x z  xz
 x y  xy
 y2
 y z  yz
 x z  xz  y z  yz
 z2
2
x

 1
 exp    ln( x)   x
 2

ln( y )   y
1/ 2

1
xyz
(3-3)
ln( z )   z 
  x2

  x y  xy
  x z  xz

 x y  xy  x z  xz 

 y2
 y z  yz 
 y z  yz
 z2 
1
 ln(x)- x  


 ln(y)- y  
 ln(z)-  
z 


という形となる。ここで、、、はそれぞれ、ln(x)、ln(y)、ln(z) の平均値、標準偏差および相
関係数であり、竜巻データベースの分析により求める。B は、影響エリアの面積を表す。
W(V0) は竜巻の被害域幅のうち風速が V0 を超える部分の幅であり、以下により表される。
1/1.6
V 
W (V0 )   min  w
(3-4)
 V0 
ここで、Vmin は Gale intensity と呼ばれ、被害が発生し始める風速にあたる。日本の気象庁が使
用している風力階級では、風力 9(大強風 strong gale:20.8~24.4 m/s)が該当する。式(3-4)により、
被害域幅内の風速分布に応じて被害様相に分布があることが考慮されている。本来、顕著な竜巻
による被害は、竜巻の通過域の中で点在しており、竜巻の移動方向にも同様の補正があってしか
るべきであり、米国での適用においては考慮されている
2)
。国内においても、過去の被害実績と
米国における扱いを比較する等により、竜巻移動方向の補正を適切に考慮すべきである。考慮し
ない場合は、面積期待値を過大に評価していることを認識して、基準竜巻風速の設定に用いなけ
ればならない。
なお、竜巻影響エリアを円状に設定した場合、H と G はともに影響エリアの外径 D0 で一定とな
る。このとき、2 変量の対数正規分布を
f ( x, y ) 
1
2 x y

 ln( x)   2
 ln( x)   x
1
1

x
exp  
  2 
2 
2 xy


x
2
1



  x 
1 


  ln( y )   y
 
y

  ln( y )   y
  
y
 



2




 
(3-5)
36
として、面積期待値は、以下のように簡単に表される。
 
E DA(V0 ) 
 W (V0 ) l
f (V , w, l ) dV dw dl
0 0 V0

 D0

  l f (V , l ) dVdl  D  W (V ) f (V , w) dVdw
0
0 V0
0
0 V0
(3-6)

2
 ( D0  / 4)
 f (V )dV
V0
参考文献
1) Garson, R. C., J. M. Catalán, C. A. Cornell, 1975: Tornado design winds based on risk. J.
Structural Div., Proc. Amer. Soc. Civil Eng., 101, 1883-1897.
2) Ramsdell, J. V. Jr., and J. P. Rishel, 2007: Tornado climatology of the contiguous United
States. NUREG/CR-4461, Revision 2.
37
添付資料 4 ハザード評価におけるデータ分析および適用に関する留意点
(1) 気象庁竜巻データベースの分析について
分析にあたっては、データ記録および被害調査の変化を考慮する必要がある。観測体制は近年
になるほど強化され、年代により観測結果の品質が違う。観測体制が強化された 2007 年以降で
は、発生数が急に多くなり、海上竜巻の増加が特に顕著である。ただし、これら海上竜巻の多く
は、その詳細が「不明」となっている。そこで、観測体制の変遷や観測された竜巻の特徴を考慮
して、以下のように擬似的なデータや統計量を F スケール毎に作成する。
①
被害が小さくて見過ごされやすい F0 および F 不明竜巻は、
「観測体制が強化された」 2007
年以降の年間発生数や標準偏差を採用する。
②
被害が比較的軽微な F1 竜巻については、「観測体制が整備された」1991 年以降の年間発生
数や標準偏差を採用する。
③
被害が比較的大きく見逃されることが少ない F2 および F3 竜巻については、
「観測データが
整備された」1961 年以降の全期間の年間発生数や標準偏差を採用する。
④
①~③の観測期間との比率から分析対象期間年間の発生数を F スケール毎に推計する。
ここで、F スケール不明と記録された竜巻に対する扱いは、解析者の考え方に委ねられる。例え
ば、竜巻の F スケールは被害があって初めて推定されるため、F スケール不明の竜巻のうち、陸
上発生の F スケール不明竜巻、および海上で発生してその後上陸した F スケール不明竜巻に対し
ては、被害が小さな F0 竜巻に分類するのが妥当である。一方、海上で発生し上陸しなかった竜
巻に対しては、その F スケールを推定することは困難であるが、竜巻発生特性が竜巻検討地域内
で一様であると仮定する確率モデルの概念と整合させるため、沿岸部近傍での竜巻の発生特性が
陸上と海上では類似していると考えることが可能である。つまり、
⑤
海上発生の F スケール不明竜巻の発生数を陸上竜巻の F スケール別発生比率で按分する。
このような考え方に沿った分析の流れを添付図 4-1 に示す。最終的に得られた年発生数の平均
値や標準偏差の値を用いてポアソン過程にしたがった確率分布を決めることとなる。
竜巻等の突風データベース
発生地点区別
陸上 ・水上(その後上陸)
水上(上陸せず)
Fスケールの年代別分析
F不明はF0とする
F不明
疑似データ作成
(陸上・上陸竜巻)
疑似データ作成
(海上竜巻)
疑似データ作成(全竜巻)
添付図 4-1 竜巻発生数の解析フロー例
38
一方、竜巻による被害域長さや被害域幅等に対しては、F スケールが小さな竜巻に対して不明
と判断されるケースが多く、分析に利用可能なデータ数が発生数に比べて極端に少ない。発生数
に対する扱いと整合させるために擬似発生数分のサンプリングデータを被害域長さや被害域幅等
に対しても作成する必要があるが、この方法についても解析者の判断に委ねられる。例えば、各
F スケールに対して、分析期間において既知な被害域長さ(被害域幅)を大きい順に並び替え、
発生数分析で得られた当該 F スケールの発生数分だけ繰り返しサンプリングを行うことにより、
分析期間における被害域長さ(被害域幅)の擬似データを作成し、その平均値や標準偏差を求め
る等の方法がある。繰り返しサンプリング法は、F スケール不明竜巻の被害域長さ・被害域幅に
対して、(全ての F スケールを含んだ全データの)平均値を見込んでいることにあたる。
なお、気象庁竜巻データベースにおいて、竜巻によっては被害域長さ・幅がある範囲で記録さ
れる場合がある。この場合には、最大値を用いるのが保守的である。原子力規制委員会ガイド(案)
の解説資料 1)では、被害域幅・長さが不明な場合は、フジタ・ピアソンスケール(FPP スケール;
・・・、F5)に応じた P スケール(P0、P1、
・・・、
添付表 4-1 参照)を参照し、F スケール(F0、F1、
P5)の各レンジの最大値を採用することを原則とする旨言及している。例えば、被害域長さにつ
いては P0 < 1.6 km、P1=1.6~5.0 km、P2=5.1~15 km 等となっている。しかし、これらのレンジ
の最大値を採用すると、実際に観測された最大値と同程度かそれ以上の被害域長さとなる場合が
あり、F スケール不明竜巻の扱いとしては非常に不合理なものとなりうる。そのため、FPP スケ
ールの使用にあたっては、実データとの対応性を十分に確認するべきであり、対応性が低い場合
には繰り返しサンプリング法等を用いるのが合理的である。
添付表 4-1 フジタ・ピアソンスケールの対応表
Fスケール
風速幅
Pスケール Pスケール(被害域長さ)
Pスケール(被害域幅)
F0
17~32 m/s
P0
<1.6 km
<16 m
F1
33~49 m/s
P1
1.6~5.0 km
16~50 m
F2
50~69 m/s
P2
5.1~15 km
51~160 m
F3
70~92 m/s
P3
16~49 km
161~499 m
F4
93~116 m/s
P4
50~160 km
500~1500 m
F5
117~142 m/s
P5
161~508 km
1600~4900 m
(2) 竜巻風速の確率分布の同定について
ハザード解析では特定の風速以上となる超過確率が重要であることから、疑似データの観測値
に対する(つまり、各フジタスケールの最小風速値以上となる)超過確率が適切に評価できる確
39
率分布を同定することが望ましい。そのため、竜巻風速が各 F スケールの上限風速値、下限風速
値、中央風速値に集中すると仮定した場合、および一様に分布すると仮定した場合等に対して、
竜巻風速の分布形(対数正規分布の2つのパラメータ)を求め、観測値との適合性が最も高い分
布形をハザード評価に用いる。
(3) 発生数の考え方について
米国において提案された発生数の確率モデル 2)、および被害面積期待値を算出するモデル 3)は、
竜巻検討地域における竜巻のあらゆる特性(発生数、竜巻風速分布、被害域長さ・幅、移動方向
等の確率分布特性)が検討地域を中心とした無限に広い領域において成立することを仮定してい
る。この仮定によって、確率モデルは F4 規模や F5 規模等の既往最大を超える竜巻、既往最大の
被害域長さ・幅を超える竜巻を含めて、様々な特性を有した竜巻が検討地域内外から竜巻影響エ
。
リアに襲来することを表現する(添付図 4-2)
原子力規制委員会ガイド(案)の解説資料における基本的な考え方として、データ数の確保の
観点から、評価対象域外から対象域内に進入する竜巻も分析に含め、それらの竜巻が検討地域内
で発生したとする旨、記載されている。しかし、確率モデルにおいて評価対象域外からの襲来が
考慮されている以上、対象地域内で発生したとする仮定は発生数を過大に見積もることになる。
そのため、評価対象地域(竜巻検討地域)内で記録された発生箇所数を文字通りに発生数とみな
すことが、確率モデルの前提条件と整合する。また、評価対象地域外から地域内に進入する竜巻
を特性把握のための分析に含めることについては、データ数確保の観点というよりはむしろ、そ
のような竜巻が確率モデル内で考慮されるという概念的な理由から、そうあるべきである。
添付図 4-2 竜巻影響エリアに対する竜巻襲来のイメージ図
(4) 竜巻検討地域の分割領域(短冊領域)に対するモデル適用の問題点
原子力規制委員会ガイド、ならびにガイド(案)の解説資料では、海岸線から海側・陸側それ
ぞれ 5 km の範囲を竜巻検討地域に設定した場合、少なくとも 1 km 毎に分割した範囲(以下、短
40
冊領域と呼ぶ。)それぞれに対して、年発生数や竜巻風速の確率分布を分析し、最も大きな風速が
設定されるように配慮をすることとされている。しかし、このような分析は、無限に広い領域で
竜巻の特性(確率密度分布)が均一であるとする確率モデルの仮定を逸脱するだけでなく、竜巻
発生・消滅位置の精度の観点においても、特に海側の短冊領域の分析には耐えられない。
添付図 4-3 は、被害面積期待値の算出概念を模式的に示したものである。中心に構造物があり、
被害域長さ L1 の竜巻が周囲から来襲する場合、竜巻 A が最も遠くに発生した竜巻を表す。竜巻 A’
は、竜巻 A と全く同じ特性(最大風速 V1、被害域幅 W1、被害域長さ L1、移動方向1)を持ち、
かつ竜巻 A の移動経路上のある地点で発生した竜巻を表し、構造物に同じ被害を与える。竜巻 A
の移動経路上で発生する(A と同じ特性を持つ)竜巻は全て構造物に同じ被害を与え、仮に竜巻
に幅がないとする(構造物をかすって通過しないと仮定する)と、その発生域の面積は、「(竜巻
被害域長さ L1)×(構造物幅 D0)」となる。一方、竜巻 B は、竜巻 A と同じ最大風速・被害域長
さ・移動方向を持つが、被害域幅が異なる竜巻を表す。竜巻 C は、F スケールは同じであるが、
移動方向および被害域長さが異なる竜巻を表す。このような竜巻においても、それらの発生域の
面積は「(竜巻被害域長さ)×(構造物幅 D0)」で評価できる。すなわち、被害面積を求める観点
において、少なくとも竜巻の長さを半径とする円内では竜巻の発生数や竜巻パラメータなどの特
性(確率密度分布)が一定でなくてはならないことがわかる。
竜巻A
竜巻B
L1
構造物
竜巻C
竜巻A’
L2
添付図 4-3 面積期待値の算出概念図
また、添付資料 3 における面積期待値の算定式において被害域長さ l に対して 0~∞ まで積分
していることは、面的に一様な竜巻パラメータ(同時確率密度分布)を持つ無限に広い領域を想
定している。しかし、無限に広い領域あるいは無限大の被害域長さの竜巻を考慮することは不可
能であり、その出現確率が非常に低ければ寄与率は無視できるため、そのような竜巻を考慮する
必要はないが、評価結果に影響を与える竜巻の長さの範囲内では場の均一性を確保する必要はあ
る。過去最長の被害域長さの範囲にするのが理想であるが、可能な限り狭い領域を検討地域とし
て設定することとトレードオフの関係にある。この観点において、竜巻検討地域を海岸線から 10
km 範囲幅に設定することは、工学的判断として概ね妥当であると考えられる。
一方、海上での竜巻の状況把握は特に難しく、海上竜巻(水上(その後上陸)を含む)は基本
的に位置的な特定ができない。そのため、海側 0 km-1 km より外側の海上短冊領域での分析は
41
不可能である。また、特に「水上発生(その後上陸)」竜巻におけるデータ品質は、その発生場所
の緯度・経度は陸上を指す場合が多く、上陸地点もしくは被害の発生地点(陸上)がデータベー
スに記されているものと考えられる。そのため、「水上(その後上陸)
」とされた竜巻の多くは、
本当の発生位置(海上)を特定することは難しく、目撃情報をもとにした発生・消滅位置の緯度
経度から求めた被害域長さと、陸上での実被害域から求めた被害域長さとは質的にも異なる。そ
のため、海岸線から海側 1 km の短冊領域を分析したとしても、その分析結果の不確実性は極め
て高い。この短冊領域では発生数が比較的多いが、その多い傾向を無限に広い領域でもそうであ
ると仮定することは発生数の過大評価にもつながる。
さらに、陸上竜巻の場合、その誤差は±1 秒と非常に小さいが、海上竜巻の場合には±10~±30
秒程度(約±250~750 m 程度)のものが多く、竜巻によっては±1 分というものもある。一般的に、
沖合になればなるほど誤差範囲は大きくなり、沖合 5 km では±2~3 分の誤差範囲と記されたデー
タも少なくない。このように、海上竜巻の緯度・経度情報については精度的な問題点もあり、海
側短冊領域の解析に耐えられない。
参考文献
1) 井上博登, 福西史郎, 鈴木哲夫, 2013: 原子力発電所の竜巻影響評価ガイド(案)及び解説. 独
立行政法人原子力安全基盤機構, JNES-RE-2013-9009, 76pp.
2) Wen, Y.-K., and S.-L. Chu, 1973: Tornado risks and design wind speed. J. Structural Div., Proc. Amer.
Soc. Civil Eng., 99, 2409-2412.
3) Garson, R. C., J. M. Catalán, C. A. Cornell, 1975: Tornado design winds based on risk. J. Structural
Div., Proc. Amer. Soc. Civil Eng., 101, 1883-1897.
42
添付資料 5 高台にある物体に対するモデル化
高台にある物体が竜巻により飛散することを想定し、設計対象施設の設置レベル(以下、
「敷地
レベル」という。)における飛来物の最大水平速度・鉛直速度、飛散距離、場合によっては設計対
象施設に衝突する際の地表面からの高さを評価するためのモデル化を以下に示す。なお、多くの
物体では、飛来物の最大水平速度は竜巻の最大風速が発生している箇所の近傍、すなわち高台よ
りも高い位置で生じるため、最大水平速度の評価においては高台の影響を考慮する必要はない6。
高台レベルには地面が存在するため、高台レベルより上空ではフジタモデル等の竜巻風速に移
動速度を加えた風速場を仮定することができる。一方、ランキン渦モデルでは地表面でも鉛直風
速が存在するため、高台レベルの鉛直風速は実態に整合しないが、風速場の高さ依存性がない形
で全体風速場を設定することはできる。いずれのモデルにおいても、竜巻の周りは平坦地形であ
ることを前提としている。つまり、崖の端から離れていることが前提条件となるため、竜巻によ
って浮上した飛来物は竜巻コア半径付近で加速された後、遠心力により竜巻中心から離れた外周
部(低風速域)に短時間で移動し、高台レベルまで落下した以降は竜巻の風速場の影響が小さく
なるものと考えられる。高台レベルより下では、竜巻を含む風速場全体の移流速度(つまり、移
動速度 VT)等の一様風の影響を受けるものと考えるのが適切である。
以上により、高台に存在する物体の浮上・飛散解析では、以下のモデル化(添付図 5-1 参照)
を基本とする。
① 高台レベルより上空では、全域でフジタモデル・ランキン渦モデル等による竜巻風速を
設定する。
② 高台レベルより下では、対象施設側に向かって一様の風速(移動速度 VT)を設定する。
③ 一旦浮上した物体は高台レベルの地面に衝突しないものとし、全て敷地レベルに向かっ
て落下するものと保守的に仮定する。
D:飛散距離 [m]、H:飛散高さ [m]
hm:敷地レベルからの高台高さ [m]、h0:敷地レベルからの物体初期高度 [m]
添付図 5-1 高台からの飛来物解析のイメージ(高台から施設に襲来する場合)
6
ただし、高台レベルよりも上空でとる水平速度が竜巻移動速度よりも小さくなるような一部の物体(車両等の
飛行定数の小さな重い物体)では、定量的には微々たる量であるが、高台レベルより下において若干加速される
ことはありうる。
43
一例として、高度 40 m の高台レベルの地面に置かれた多数のコンテナ(高さ 2.6 m、飛行定数
0.0105 m2/kg)に、最大風速 100 m/s の竜巻が来襲した場合を対象として、上記のモデル(ただし、
高台レベルより上空の風速場はフジタモデルにより設定する。
)を用いて解析した。得られた飛散
挙動を添付図 5-2 に示す。図中の赤色は初期高度より上空に舞い上がったコンテナ位置を示し、
竜巻進行方向
添付図 5-2 高台 40 m からのコンテナの飛散挙動(物体初期高度より上空は赤、下は青)
44
青色は初期高度より下に落下中のコンテナ位置を示している。この結果より、浮上した飛来物体
は約 4 秒でコア半径の外周部に移動することが分かる。
別の評価方法として以下の方法も考えられる。まず、高台レベルより上空での最大水平速度、
最大鉛直速度を平地条件で計算し、次にこの速度を高台レベルでの初期条件として、敷地レベル
までの放物運動を計算するものである。ただし、空気抵抗を無視するため、落下速度が高台高さ
の平方根にほぼ比例して増大し、過大な落下速度となる点に留意する必要がある。例えば、風速
場としてVw=(0, 0, V0) [m/s]の1次元吹上風を仮定し、物体を高所から初速ゼロで自由落下させる
場合を考えると、時刻tにおける物体速度WM(t)(上向きが正)に関する運動方程式は以下のよう
になる。
dWM 1 CD A
(V0  WM ) 2  g
 
dt
2
m
(5-1)
WM (0)  0
この常微分方程式は解析的に解くことができ、以下の解が得られる。
WM (t )  V0 
g
k
 2b

 1
 at
e

b



Z M (t )  Z M (0)   V0 

(5-2)
g  1 e at (1  b)
 t  ln at
k k
e b
(5-3)
ただし、ZM(t)は時刻tにおける物体の位置(上向きが正)であり、k、a、およびbは以下で定義さ
れるものである。
k
 CD A
2m
a  4 gk
 g
  g

 V0  / 
 V0 
b  
 k
  k

(5-4)
空気抵抗が比較的小さな鋼製材(CDA/m=0.0065 [m2/kg])について、V0=0 [m/s]の条件で落下距離
(高さ)と落下速度の関係を式(5-2)と式(5-3)から計算すると、添付図 5-3 の結果が得られる。こ
の図から、空気抵抗が比較的小さな場合でも、空気抵抗によって落下速度が顕著に低減すること
が分かる。
添付図 5-3 落下速度に対する流体抗力の影響
45
添付資料 6 フジタモデルモデルを用いた飛散挙動評価法の検証
竜巻風速場の設定におけるフジタモデルの適用可能性については、電力中央研究所が開発した
評価コード TONBOS を用いて議論されている 1)。添付表 6-1 は、自動車に対する各 F スケール別
の水平風速・飛散距離・飛散高さの評価結果を示したものであるが、各 F スケール別の自動車の
被災状況 2)(添付表 6-2)と整合していることがわかる。なお、TONBOS に関しては、ランキン渦
モデルを風速場とした場合の飛来物速度の評価結果が米国 NRC ガイドに提示された評価結果と
整合していることが確認されており
1)
、自由度並進運動方程式を用いた速度評価を正確に行える
ツールとして活用されている。
添付表 6-1
フジタモデルを用いて風速場を設定した場合の自動車(飛行係数 CDA/m=0.0052
)
m2/kg)の飛散評価結果 1)(地上に 2601(51×51)台設置、横滑りを考慮。
計算結果
対応する
Fスケール
最大水平
風速
接線風速
F2(静止)
69 m/s
59 m/s
F2(走行)
89 m/s※
F3(静止)
F4(静止)
移動速度
最大水平速度
飛散距離
飛散高さ
10 m/s
1.0 m/s
1.4 m
0m
59 m/s
30 m/s※
23 m/s
25 m
0.9 m
92 m/s
79 m/s
13 m/s
23 m/s
34 m
1.1 m
116 m/s
99 m/s
17 m/s
42 m/s
59 m
3.1 m
※竜巻の移動速度 10 m/s に自動車の相対走行速度 20 m/s(72 km/h)を加えたもの。
添付表 6-2 F スケールによる自動車の被災分類
2)
Fスケール
風速 [m/s]
F2
50 - 69
cars blown off highway (自動車が道路からそれる。)
F3
70 - 92
cars lifted off the ground (自動車が地面から浮上する。)
F4
93-116
cars thrown some distances or rolled considerable distances
(自動車がある距離を飛ばされる、またはかなりの距離を転がる。)
自動車の被災状況
以下に、実現象(2事例)に適用した結果をさらなる検証例として示す。
(1) 米国ミシシッピー州 Grand Gulf 原子力発電所への来襲事例
1978 年 4 月 17 日に米国のミシシッピー州にて建設中の Grand Gulf 原子力発電所に F3 竜巻が来
襲した(添付図 6-1)3),4)。主な被害として、建設中の冷却塔内部に設置されていたコンクリート
流し込み用のクレーンが倒壊し、冷却塔の一部が破損した(添付図 6-2)ことが挙げられる。添付
図 6-3 は、資材置き場のパイプの飛散状況を示したものである。なお、通過時の竜巻規模は F2 で
46
あったと考えられている
3)
。パイプを収納した木箱(一部は二段重ね)は浮上しなかったが、転
倒し、パイプが散乱したものの 7 m~9 m の範囲内に留まったことが報告されている。パイプの
名称は、Transite パイプと呼ばれ、コンクリート・石綿でできている。長さは 8 フィート、直径(内
径)は 8 インチであった。
©American Meteorological Society. Used with permission.
添付図 6-1 Grand Gulf 原子力発電所の概観と竜巻の移動経路(文献 4)の掲載写真に文献 3)で示
された経路を加筆した。
)
"Courtesy of HathiTrust"
http://babel.hathitrust.org/cgi/pt?id=mdp.
39015037472209#view=1up;seq=19
"Courtesy of HathiTrust"
http://babel.hathitrust.org/cgi/pt?id=mdp.
39015037472209#view=1up;seq=52
添付図 6-2 主な被災状況(左:破損した冷却塔の上空からの航空写真、右:冷却塔に落下したク
))
レーンとコンクリート瓦礫(ともに、文献 3)の掲載写真に加筆した。
このパイプの飛散状況に対して、フジタモデルあるいはランキン渦モデルを風速場として用い
た解析を行った。その際の計算条件は以下の通りとした。
・ 竜巻条件:設計竜巻風速 67 m/s、最大接線風速 53.6 m/s、移動速度 13.4 m/s、コア半径
45.7 m
47
・ 飛来物条件:直径(外径)9 インチ、密度 1700 kg/m3、飛行定数 CDA/m=0.0080 m2/kg、
物体高さ 0.229 m、設置高さ 1 m(2 段重ねで配置されていた状況を想定)
"Courtesy of HathiTrust"
http://babel.hathitrust.org/cgi/pt?id=mdp.39015037472209#view=1up;seq=65
添付図 6-3 資材置き場におけるパイプの散乱状況
フジタモデル、およびランキン渦モデルを風速場とした場合の解析結果は以下のようになった。
・ フジタモデル(設置高さ 1 m):飛散距離 1.2 m、飛散高さ 計算開始時から浮上なし、
最大水平速度 4.9 m/s
・ ランキン渦モデル(設置高さ 1 m)
:飛散距離 42.6 m、飛散高さ 計算開始時から 0.34 m
浮上、最大水平速度 30.7 m/s
・ ランキン渦モデル(設置高さ 40 m)
:飛散距離 227 m、飛散高さ 計算開始時から 0.34 m
浮上、最大水平速度 40.9 m/s
フジタモデルを風速場とした場合、実際の報告状況と整合している。一方、ランキン渦モデルの
場合、特に飛散距離や最大水平速度に大きな違いがあり、過度に保守的になっている。40 m 上空
に投入した場合はこの状況はさらに顕著になる。
(2) 佐呂間竜巻によるトラックの飛散事例
2006 年 11 月 7 日に北海道網走支庁佐呂間町に発生した竜巻(以下、佐呂間竜巻と呼ぶ。
)によ
る被災状況を添付図 6-4 に示す 5),6)。さまざまな飛散物のうち、周囲の建物の影響が小さく、飛散
前後の位置が判明している 4 トントラックを対象に(添付図 6-5 中の②の車両)、フジタモデルを
風速場として用いた飛散解析を行った。その際、計算条件は以下のように設定した。
・ 竜巻条件:設計竜巻風速 92 m/s、移動速度 22 m/s(文献 5)による)、コア半径 20 m
・ 飛来物条件:8.1 m×2.24 m×高さ 2.5 m(車種不明のため、三菱ふそう PA-FK71D の仕様
を採用した。
)、飛行定数 CDA/m=0.0056 m2/kg、物体高さ 2.5 m
・ 車両と竜巻中心との距離:18 m、20 m、22 m(不明確だったため 3 ケースを実施)
文献 7) を参考として、「風速 60 m/s 以下では浮上・移動しない」ことを条件として付加した。
解析結果を添付図 6-6 に示す。車両の軌跡は、竜巻中心との相対位置関係にやや敏感であるが、
ケース 3 では飛散距離がほぼ正確に再現されている。車両の西側に建屋があることを踏まえれば、
48
添付図 6-4 佐呂間竜巻による被災状況(文献 5))の掲載写真に文献 6) に示された竜巻移動経路
を加筆した。
)
添付図 6-5 佐呂間竜巻による車両の移動状況(文献 5))の掲載写真(被災前の航空写真)に文
献 6) に示された竜巻移動経路等を加筆した。)
49
添付図 6-6 TONBOS による解析結果(文献 5)の掲載写真(被災前の航空写真)をもとに計算さ
れた軌跡を加筆した。)
十分に飛散状況が再現されたといえる。このように、フジタモデルを風速場とした飛散解析によ
り、飛来物が地上に設置された状況からの飛散挙動が高い確度で解析できる。
参考文献
1) 江口譲 , 杉本聡一郎 , 服部康男 , 平口博丸 , 2014: 竜巻による物体の浮上・飛来解析コード
TONBOS の開発. 電力中央研究所報告, N14002, 21 pp.
2) Fujita, T. T., 1971: Proposed characterization of tornadoes and hurricanes by area and intensity. SMRP
Research Paper 91, University of Chicago, Chicago, IL, 42 pp.
3) Fujita, T. T., and J. R. McDonald, 1978: Tornado damage at the Grand Gulf, Mississippi nuclear power
plant site: Aerial and ground surveys. NUREG/CR-0383, U.S. Nuclear Regulatory Commission, 61 pp
4) McDonald, J. R., 2001: T. Theorore Fujita: His contribution to tornado knowledge through damage
documentation and the Fujita scale. Bull. Amer. Meteor. Soc., 82, 63-72.
5) 札幌管区気象台, 2006: 平成 18 年 11 月 7 日から 9 日に北海道(佐呂間町他)で発生した竜巻
50
等 の 突 風 . 災 害 時 気 象 調 査 報 告 , 災 害 時 自 然 現 象 報 告 書 , 2006 年 第 1 号 , 56 pp.
(http://www.jma-net.go.jp/sapporo/tenki/yohou/saigai/saroma/saroma.html にて閲覧可能。)
6) 奥田泰雄, 喜々津仁密, 村上知徳, 2006: 2006 年佐呂間町竜巻被害調査報告. 建築研究所災害調
査 , 46, 15 pp. ( http://www.kenken.go.jp/japanese/contents/activities/other/other.html にて閲覧可
能。)
7) Schmidlin, T., B. Hammer, P. King, Y. Ono, L. S. Miller, and G. Thumann, 2002: Unsafe at any (wind)
speed? Testing the stability of motor vehicles in severe winds. Bull. Amer. Meteor. Soc., 83,
1821-1830.
51
添付資料 7 ハード的な飛来物対策例
(1) 飛散防止対策
竜巻に伴う飛来物への対策として、竜巻襲来時に資機材等が飛散しないように固縛等の適切な
飛散防止対策を講じることを基本とする。以下に対策例を挙げる。
(a) 鋼製材・鋼製パイプ
単独で置かず、複数本をネット等で束ねて固縛し、浮き上がらないようにする。
(b) コンテナ・収納箱等(添付表 7-1)
連結材および連結用治具を用いてウェイトと固縛する。また、複数個をネットにて覆い、四方
にウェイトを付加する。
添付表 7-1 コンテナ・収納箱等への対策例
・直接固縛
連結治具等
ワイヤーロープ
コンテナに連結治具等を直接取り付け、
ワイヤーロープおよび連結治具等により
ウェイトと固縛する。
ワイヤーロープおよび連結治具等の強
コンテナ
度については、ウェイトの荷重に耐えうる
ウェイト
強度を持つものを使用する。
(以下の固縛方法についても同様。
)
シャックル
・ベルトによる固縛
連結治具等
複数基のコンテナベルトを渡し、連結治
具等によりウェイトと固縛する。
コンテナ
ウェイト
・ネットによる固縛
ネット
複数の収納箱等をネットで囲い、冶具等
によりウェイトと固縛する。
ウェイト
ウェイト
ウェイト
収納箱
ウェイト
52
・敷鉄板等による固縛
連結材
収納箱等と敷鉄板を冶具等により固縛
する。
連結冶具
収納箱
敷鉄板
(c) グレーチング
複数枚をつなぎ合わせ、両端のグレーチングを基礎コンクリートに固定する。
(d) 車両
飛散距離を求め、対策が必要な車両については、添付図 7-1 に示すような処置を施す。コンク
リート基礎に対して固定材を用いて固縛する場合には、必要な強度を有した連結材・連結用治具
を使用する。
浮き上がる力
牽引用フック
ワイヤー類
浮き上がる力
大型機器
固縛対象車両
自重
自重
大型機器等により引っ張られる力
自重+大型機器により引っ張られる力
>
浮き上がる力
連結材(玉掛けワイヤーロープ等)
固定材
(鋼製治具・アンカー)
連結補助材(シャックル)
固縛対象車両
添付図 7-1 車両への対策例
53
係留元
(よう壁)
(e) マンホール蓋等
押さえ金物とアンカーにより基礎コンクリートに固定する(添付図 7-2)。
マンホール
押さえ金物
アンカー
添付図 7-2 マンホール蓋等への対策例
(2) 飛来物防護対策
全ての資機材等の飛散を完全に防止することは困難であるため、飛来物に対する防護対策も必
要に応じて実施する。以下に対策例を挙げる。なお、防護対策の実施にあたっては、設備のメン
テナンスについても配慮する。
(a) 海水ポンプ室エリア
海水ポンプ室エリアの開口部に鋼製枠を組み、防護ネットを設置する(添付図 7-3)。
防護ネット
鋼製枠
海水ポンプ
コンクリート構築物 (既設)
添付図 7-3 海水ポンプ室エリアへの対策例
(b) 屋外タンク
タンクエリアに防護ネット、あるいは防護板を設置する。
(c) 建屋開口部
開口部前面に鋼製枠を設け、鋼板もしくは防護ネットを設置して防護する。なお、設置にあた
っては、開口部からの搬出入にも配慮する必要がある。
(d) 屋外クレーン
支持脚への転倒防止装置等を設置する、あるいは設計対象施設に対して十分な離隔距離をとれ
54
るように、クレーンの走行レールを延長する。
上記の設備面での対策のほか、運用による対策も考慮できるものであり、損傷時の補修対応、
分散配置、および運転制限等が挙げられる。以下に、具体例を示す。
・ 竜巻の襲来後、排気管等の損傷を発見した場合、応急補修を行う手順等をあらかじめ整備
し、的確に実施する。また、応急補修が困難であると判断される場合には、プラントを停
止する手順等をあらかじめ整備し、的確に実施する。
・ 屋外に設置されている設備については、竜巻による同時被災を回避するため、分散的に配
置するとともに、配置要領等をあらかじめ整備し、的確に実施する。
・ 屋外に設置されている設備については、竜巻の襲来が予想される場合に運転を制限する手
順等をあらかじめ整備し、的確に実施する。
・ 竜巻に対して構造健全性を維持できない設備については、代替設備または予備品の確保に
ついて運用方法をあらかじめ整備し、的確に実施する。
・ 竜巻に対する運用管理を確実に実施するために必要な技術的能力を維持・向上させるべく、
教育および訓練を定期的に実施する。
55
参考資料 1 2006 年に北海道網走支庁佐呂間町にて発生した竜巻について
突風関連指数を用いたメソスケール気象場の解析結果(添付資料 2)では、F3 規模以上の竜巻
が発生しやすいとされる地域に北海道や北日本は含まれていないが、北海道網走支庁佐呂間町で
)。この竜巻は、これまで太
は 2006 年 11 月に F3 竜巻が発生している(以下、佐呂間竜巻と呼ぶ。
平洋側沿岸域で発生した竜巻と比較すると、
・国内で唯一内陸部(丘陵地の麓)において発生した竜巻である
・F3 竜巻としては継続時間(約 1 分)と移動距離(約 1.4 km)が非常に短かった
点において異なる。ここではこの竜巻に対する考察について、影響評価における取り扱いの方向
性とともに述べる。
参考図 1-1 は、WRF モデル(Weather Research and Forecasting model)により解析した、竜巻発
生時の海抜 500 m 高度における風向・風速および温位の水平分布を示したものである 1)。寒冷前
線(図中の青色と緑色の境界線が相当する)の東側では、太平洋側から温位の高い暖かい空気塊
が日高山脈の東側の道東・オホーツク地方に流入している。また、前線付近では寒冷前線西側の
冷気と東側の暖気がぶつかっており、上昇気流が生じやすい状況にあった。参考図 1-2 は、SReH
および MUCAPE の分布を示したものであるが、明らかに SReH の値が非常に高い。道東・オホー
ツク地方では、MUCAPE が他地域に比べて高く、太平洋側からの暖気流に伴っていることがわか
る。ただし、大気不安定度は道東の中でも南側で高くなっており、全域で高いわけではない。こ
れは、添付資料 2 の添付図 2-3 に見られるように、EHI 値では F3 規模に至るか至らないか微妙な
値となっていることと関係している。いずれにしても、日高山脈の東側では、積乱雲が発達しや
すい環境下にあり、実際、日高山脈の東側平野部にて発生した親雲は北よりに移動し(参考図 1-3
左図)、長い期間発達に適した環境場下にあったため、発達し続け、スーパーセル化した。
参考図 1-1 佐呂間竜巻発生時の風向・風速および温位の分布(海抜 500 m 高度)
56
参考図 1-2 佐呂間竜巻発生時の突風関連指数の分布図(左:SReH、右:MUCAPE)
親雲の発生位置(点線内)と移動方向
竜巻の発生位置(×)と影響が指摘
される山(点線部)
参考図 1-3 親雲の発生箇所と移動方向(左)および竜巻の発生箇所(右)
一方、周辺地形によるマイクロスケールの気象場の解析結果から、発生位置の南東側・風上側
に位置する尾根状地形による影響が竜巻発生に重要な役割を果たしたことが指摘されている
2)
。
このマイクロスケールの効果はメソスケールの環境場では考慮できない(解像できない)ため、
突風関連指数の値は、特に SReH において解析結果よりも高まっているものと考えられる。
F2 規模以上の竜巻を対象に、発生しやすい環境場の生起頻度について調べた例を参考図 1-4 に
示す 3)。この結果を添付資料 2 の添付図 2-4 の分布とあわせて考えれば、道東・オホーツク地域は、
F2 規模以上の竜巻であれば本州北日本と同等の頻度で環境場が形成されやすい地域であるが、F3
規模以上の竜巻に対しては環境場が形成されがたい、つまり F3 規模に到る程度に大気不安定な空
57
気塊の流入と高渦度を有した総観場の通過が同時に発生する頻度が極めて低いといえる。
参考図 1-4 同時超過頻度分布(左:暖候期;閾値 SReH:200 m2/s2、CAPE:650 J/kg、右:寒候
期;閾値 SReH:200 m2/s2、CAPE:350 J/kg)3)
以上を踏まえ、佐呂間竜巻の発生メカニズムを参考図 1-5 のように模式的に示した。この図を
もとに、佐呂間竜巻の発生について以下のように解釈できる。
竜巻発生を観点とした気候として、この地域で F3 規模の竜巻発生に適した環境場は極め
て生起しがたく、佐呂間竜巻発生時においても F3 規模竜巻の発生には(特に CAPE にお
いては)微妙な環境場であったが、近隣の周辺地形の影響を強く受けて F3 規模の竜巻発
生に到った。
マイクロスケール
佐呂間
冷気流
・太平洋側平野部では
見られないメカニズム
・(気象モデル内では勘案されていない)
局地スケールの地形による現象
・暖気流と寒気流がぶつか
り上昇・大気不安定
・前線面および風向・風速
差により渦発生・取り込み
平野部
上層・下層間の強い
風向差:SReHの増大
小高い山,丘
親雲移動
• 親雲が山脈沿いに北上
しながら,持続的に発達
親雲生成,
発達
親雲
メソスケール
前線断面
竜巻発生
太平洋側から
の暖湿流
・太平洋側平野部と同様の環境場
※日高山脈東側の太平洋側沿岸 形成パターン(高渦度形成・
では、竜巻が殆ど発生していない。 取り込み、高い大気不安定度)
山麓では小さな竜巻が数個発生。
冷気流
日高山脈
平野部
太平洋側から ただし,その頻度は非常に低い
の暖湿流
参考図 1-5 佐呂間竜巻の発生メカニズムに関する模式図
このように、佐呂間竜巻の発生メカニズムは、太平洋側沿岸域にて発生している F3 竜巻のメ
カニズムとは大きく異なっており、竜巻の持続時間・被害域長さも大きく異なっている。竜巻影
響評価における取り扱いとしては、基準竜巻設定で対象としている地域性・空間スケールよりも
局地的・小さな空間スケールを有する地形影響を受けており、そういった影響については、設計
竜巻 VD の設定時に考慮するのがガイドの趣旨に沿ったものとなる。佐呂間竜巻発生時に類似した
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現象の生起有無を判断するためには、当時の気象場(総観場(寒冷前線)
、気流場、大気不安定度)
と周辺地形の類似性を確認すればよい。確認のポイントは、以下の 2 点である。
・太平洋側からの暖湿流が高標高山岳等に遮断されずに直接流入しうる地域である。
・近隣地形(数キロ程度四方の範囲)において、
(太平洋側からの)暖気流の流入する風上
側に尾根状の丘・山が存在すること。
この条件を満たせば、寒冷前線通過時に、暖かい空気塊が尾根を乗り越えて寒冷前線起因の冷気
塊の上に流入できる。このような確認を行う必要があるのは、発電所が沿岸域に立地されている
ことを踏まえれば、東北地方、下北半島、および北海道地方のうち、太平洋に面した沿岸域に立
地した発電所である。基本的に海上から暖気流が流入すると考えられるため、地形影響を及ぼす
尾根形状の島が立地箇所の沖近くに存在しているかがポイントとなる。
参考文献
1) 杉本聡一郎, 野原大輔, 平口博丸, 2014: 国内既往最大規模の竜巻を対象とした発生頻度の地
域性について. 保全学会第 11 回学術講演会, 395-402.
2) 加藤輝之, 2008: 竜巻発生の環境場に関する研究(Ⅲ)-スーパーセルを伴う竜巻の発生機構
の研究-, 平成 19 年度科学技術振興調整費 重要政策課題への機動的対応の推進, 39-44.
3) Sugimoto, S., D. Nohara, and H. Hirakuchi, 2014: Regionalization of tornado intensities using tornado
parameters and a long-term high-resolution reanalysis data. 27th Conf. Severe Local Storms, Amer.
Meteor. Soc., 140, Madison, WI.
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参考資料 2 飛来挙動解析結果にもとづく施設への影響評価の考え方
コンテナ(2.4 m×6 m×2.6 m;2.3 トン)を対象飛来物として、フジタモデルおよびランキン渦
モデルを風速場とした場合の挙動を解析した。参考図 2-1 は飛来物の軌跡を飛来速度の水平成分
とともに示したものである。当解析においてコンテナを 2601 個(51 個×51 個)同時投入したが、
高台に存在するケースを想定し、フジタモデルを用いた解析では高さ 40 m の高台の地面にコンテ
ナが設置されたとみなした計算を行う一方、ランキン渦モデルを用いる場合においては、地面に
設置した状態から解析できないため、地上高 40 m の空中に浮いた状態から解析した。参考図 2-1
では投入したコンテナそれぞれに対する軌跡が示されている。
飛来物の水平速度については、両モデルともに竜巻の接線方向風速と移動速度が重畳する竜巻
移動方向右側にて最大値をとり、おおむね同等の値となることがわかる。
参考図 2-1 飛来物の軌跡と水平速度の変化(左:フジタモデル、右:ランキン渦モデル)
また、参考表 2-1 に飛散距離(飛来物が地上に達するまでの最大距離)および飛散高さ(放出位
置から上空に飛散する最大距離)の計算結果をまとめた。ランキン渦モデルでは比較的強い上昇
流が広域にわたって分布する(本文の解説 6-2 および図 13 を参照)ため、非現実的に高い高度ま
で持ち上げられ、遠くまで飛散する結果となる。
参考表 2-1 飛来挙動の解析結果(まとめ)
投入条件
(飛来物の初期位置)
40m高さの地面に
2601(51×51)個を配
フジタモデル文献1)
置
40m高さの空中に
ランキン渦モデル文献2) 2601(51×51)個を配
置
解析モデル
コンテナ緒元
計算結果
縦
横
高さ
重さ
2.4 m
6.0 m
2.6 m
2.3 t
最大水平速度
飛散距離
飛散高さ
55 m/s
259 m
17 m
55 m/s
347 m
55 m
ある飛来物に対する挙動解析結果が得られれば、設計対象施設と飛来物の設置箇所との間の離
隔距離が最大飛散距離以下である同様の飛来物に対して、施設への影響評価および必要な対策を
講じる。参考図 2-2 に例示した 40 m の高台に設置されているコンテナ A~G に対してフジタモデ
ルを風速場として挙動解析を実施して得られた結果(参考表 2-1)を適用した場合の考え方を例示
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する。
・設計対象施設から 259 m の範囲内に A~E のコンテナが存在することから、設計対象施設
に対する影響評価および必要な対策(A~E のコンテナは飛散防止対策、設計対象施設の防
護対策)を実施する。
・設計対象施設から 259 m の範囲外にある F と G のコンテナに対しては、設計対象施設との
離隔距離がコンテナの最大飛散距離を上回っていることから、影響評価および飛散防止対
策は不要である。
A
影響評価および
対策実施範囲
最大飛距離(水平)
259m
設計対象施設
B
C
E
D
G
F
コンテナ
参考図 2-2 挙動解析結果にもとづく施設影響評価・対策の必要性判断例(40 m 高台にコンテナ
が設置されている場合)
参考文献
1) 江口譲, 杉本聡一郎, 服部康男, 平口博丸, 2014: 竜巻飛来物速度評価法の課題とその解決策.
日本保全学会保全学会第 11 回学術講演会, 403-408.
2) 江口譲, 杉本聡一郎, 服部康男, 平口博丸, 2014: Fujita の竜巻風速場モデルを用いた物体浮
上・飛散特性の評価. 第 19 回動力・エネルギー技術シンポジウム, B215.
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(初版 平成 27 年 1 月 21 日制定)
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