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21委ー1
課題番号:21 委-1 研究課題名:統合失調症の診断、治療法の開発に関する研究 主任研究者:安西信雄 分担研究者:福田正人、荒木剛、松岡洋夫、石川正憲、中込和幸、平安良雄、塚田和美、有馬邦正 1.研究目的 (WCST 保続エラー、言語性 IQ 等)と転帰との間に有意 統合失調症の多くは青年期に発病し、罹患率は人口 な関連が認められた。また、精神症状,病識,認知機能 の約 1%で、多くは慢性または再発性に経過し、就労や は治療開始後,早期に改善し,その後は横ばいの傾向 生活の能力に及ぼす影響が大きく、国民への疾病負荷 が見いだされた。 が大きい疾患である。 【松岡分担研究班】②早期精神病(ARMS)38 例の検討 統合失調症の診断は、客観的な診断の手がかりが乏 の結果、抑うつ症状が 20 例(31%)に認められ、12 ヶ月 しため、症状と経過にもとづいて総合的に診断される。 までに 11 例(33%)に抗うつ薬が処方されていたことなど こうした中で日本で開発された光トポグラフィー検査 から ARMS 評価における抑うつの評価の重要性が示さ (NIRS)は統合失調症の科学的補助診断の先鞭となっ れた。経過中には、38 人中 5 人の対象者が精神病に移 ている。近年、統合失調症の脳機能や病態に関する研 行した。1 ヶ月時に抗精神病薬が処方されていた群から 究が進展しているので、これらの中から、診断と治療法 は 3 人が移行した。抗うつ薬が処方されていた群、およ の改善に役立てうるものを取り上げて検証し、日常診療 び非使用群からの移行は 1 人にとどまった。 で役立つ診断・治療法を開発して、それを広く普及させ 【石川分担研究班】③重症統合失調症の重症度を反映 ることが本研究の目的である。 する生物学的指標の検討を行うため、健常被験者、外 そのため、①病期・病態の特徴に応じた診断・治療方 来通院の統合失調症患者、急性期病棟に入院となった 法の検討として、非服薬・初回エピソード群の 5 年後追 重症統合失調症患者の 3 群について、統合失調症認 跡調査(JPSS2)、早期精神病(ARMS) 、重症統合失 知機能簡易評価尺度の日本語版(BACS-J)の評価の 調症、初老・高齢期の統合失調症について診断・評価 評価を実施した。その結果、統合失調症患者では健常 および各治療方法の効果を検討し、②臨床現場で実用 群と比較して BACS のほぼ全下位項目で低い得点を呈 可能な心理社会的治療の開発普及のために、心理社 した。急性期病棟に入院となった統合失調症患者では、 会的治療ツールキット、疾病管理とリカバリー(IMR)プ 外来で経過をおっている軽症統合失調症群と比較して ログラム、社会認知の評価・治療方法(SCIT)の開発お verbal memory、 symbol coding の項目で統計学的に よび認知矯正療法等の効果を検討し、③臨床現場で利 有意に低値であった。 用可能な診断と治療のためのバイオマーカーの検討の 【平安分担研究班-1】④高齢統合失調症患者群と健常 ため、MRI による脳形態学的検討の他、PPI、ERP、 者群、アルツハイマー群の MRI を用いた脳形態学的検 NIRS などの検査方法の検討を行う。 討を行ったところ、統合失調症群の加齢に伴う脳萎縮 のパターンはアルツハイマー型認知症と異なることが示 2 研究方法、結果・考察 された。 1) 病期・病態の特徴に応じた診断・治療方法の検討 【塚田分担研究班】①統合失調症の初回エピソード患 2) 臨床現場で実用可能な心理社会的治療の開発普 者の追跡を多施設で実施している JPSS2 の追跡調査で 及 登録後 1 年後の調査を完了した 49 人について、1 年後 【平安分担研究班-2】①家族心理教育普及のためのコ の転帰を「完全寛解」(14 人)と「それ以外」(36 人)に分 ンサルテーション方法を整理してマニュアルを開発した。 け、1 年後の転帰を予測する要因の検討を行った。その 米国で作成された「疾病管理とリカバリー(IMR)プログ 結果、発病後未治療期間(DUP)、病識、認知機能 ラム」を外来およびデイケア通所中の統合失調症患者 29 人に実施したところ、全般的機能(GAF)、精神症状 Schizophr Res. 2011 132(1):54-61. (BPRS)、精神面の健康管理に必要な知識・技術 2) Araki T, et al.: Phonological fluency is uniquely (PAM13-MH)、生活の質(生活満足度スケール)、日常 impaired in Japanese-speaking schizophrenia patients: 生活や対人関係に関する自己効力感などで有意な改 confirmation study. Psychiatry Clin Neurosci. 2011 善が示された。 65(7):672-5. 【中込分担研究班】②米国で開発された社会認知の評 3) 価方法および認知矯正療法プログラム(SCIT)の日本 Comprehensive Assessment of At-Risk Mental States 語版を作成し妥当性の検討を準備中である。 (CAARMS) to the Japanese population: reliability and Matsuoka H, et al.: Application of the validity of the Japanese version of the CAARMS. 3) 臨床現場で利用可能な診断と治療のためのバイオ Early Interv Psychiatry. 2009 May;3(2):123-30. マーカーの検討 4) 松岡洋夫, 他:日本版 Brief Core Schema Scale を 【荒木分担研究班】①「こころのリスク外来」から得た脳 用いた自己,他者スキーマの検討―クラスターパタ 機能画像(ERP、NIRS、MRS)を中心に、健常群、統合 ーンの類型化および抑うつとの関連―. パーソナリ 失調症前駆期群(ARMS)、初発精神病群(FEP)、慢性 ティ研究. 2012 20(3) 統合失調症群(ChSZ)に分け、それぞれ特徴的な所見 5) 中込和幸, 他:「社会認知ならびに対人関係のト が得られるかを検討した。その結果、さらに症例数を増 レーニング(SCIT Social Cognition and Interaction やす必要があるが、現時点では ERP に関して ARMS Training)」治療マニュアル. 2011, 星和書店,東京 患者において duration MMN の有意な振幅減衰を認め 6) 平安良雄, 他:統合失調症診断の理解と進歩 統 ており、duration MMN が trait marker としての側面を持 合失調症治療の新たなストラテジー‐非定型抗精神 っており、バイオマーカーとして活用できる可能性が考 病薬によるアプローチ. 2011 Part2 74-81 えられた。 7) 塚田和美, 他:統合失調症における ECT 導入の条 【福田分担研究班】②統合失調症の補助診断方法の候 件・タイミング. 臨床精神薬理. 2012 15(2):197-204. 補と考えられる MRI、PPI、ERP、NIRS などの検査方法 8) Ishikawa M, Arima K, et al.: Association of を検討した。このうち、NIRS では言語流暢性課題が標 plasma IL-6 and soluble IL-6 receptor levels with the 準的なものとして臨床現場で用いられているが、次のス Asp358Ala polymorphism of the IL-6 receptor gene in テップとして、妄想や情動平板化・常同的思考、会話の schizophrenic 自発性などとの関連を検討し、さらに、より日常生活に 45(11)1439-44 patients. J Psychiatr 近い”Real-world neuroimaging”の課題方法の実用可 能性を検討した。その結果、統合失調症について、会 4.知的所有権の出願・取得状況 話中の前頭葉機能の賦活は、背外側前頭前野におい なし て減衰を示し、前頭葉内側面では減衰は目立たなかっ 5.自己評価 た。抗精神病薬の薬効評価に NIRS 検査が利用できる 可能性があり、とくに real-world neuroimaging としての特 徴を生かすことで、より生活障害と関連した薬効評価を 実現できる可能性があると考えられた。 3.論文発表 1) Fukuda M, Araki T, et al.: Different hemodynamic response patterns in the prefrontal cortical sub-regions according to the clinical stages of psychosis. Res. 2011