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Active Leading of Other`s Behaviour
他者の行動の誘導 ~「騙し場面」を用いた検討~ Active Leading of Other’s Behaviour 石川 悟 Satoru Ishikawa 北星学園大学 Hokusei Gakuen University [email protected] Abstract の意図通りに「騙される側」の行動を操作できた In the social interaction, it is important to lead other’s behaviour and intention in accordance with own intention or goal. We experimentally investigated a process of leading other’s behavior in deceptive situation. In the experiment, subjects had to try to fake information in order to hide ones true intention of behaviour. 5 of 6 subjects attempted to deceive others, and one subject succeeded the deception. This result indicated that we would research a process of leading other’s behaviour through “deception” in the experimental situation prepared a goal, intention and behaviour adequately. Keywords ― Leading Interaction, Deception Other’s Behaviour, 時,「騙し」が成立したと考えられる. そこには, ・目的:行動や意図の達成を目指させる動機. 「騙 す側」と「騙される側」で同じ場合,あるいは 異なる場合もある. ・意図:行動の直接の原因.以下の2種類を区別 する. ・表の意図: 「騙す側」 「騙される側」双方に 共有される意図. ・裏の意図: 「騙す側」が持つ.裏の意図は一 般に「騙される側」には隠され,暴かれるこ 1. はじめに 共通の目的の下で他者と協調してやり取りする とによって「騙し」は不成立となる. ・行動:相手に対する働きかけ. 「表の意図」から には,他者の行動選択基準の取得,あるいは自身 生じる場合,および「表の意図」と「裏の意図」 の行動選択基準の転用により他者の意図を推定し, の双方から生じる場合(騙す側:隠蔽や偽造, 自己の行動を選択することが有効だった[1][2].し 騙される側:暴き行動)とがある. かし,他者とのやり取り場面には,自己と他者の 目的が競合する,あるいは異なる状況も含まれる. の各項が関与すると考えられる. 「騙し」の成立過程におけるこれらの各要素の この時,他者の目的や意図を推定し自己の(一部 機能を詳細に検討する必要があるが,全ての要素 の)目的の達成を目指し行動を選択するだけでな を一度に検討することはできない.本研究では, く,他者の意図や行動を自己の意図・目的に沿わ 「行動」,なかでも「隠蔽行動」に焦点を当て検討 せる(能動的な意図の誘導[3])ように行動を選択 を進めた. することも必要となろう.本研究では,この能動 的な他者の行動の誘導過程について,「騙し場面」 から理解することを試みた. 2. 騙し場面での検討 「騙す」という行為は社会的に許容されず,実 「騙し」は,相手に気付かれずに相手の意図を変 世界では実験場面の設定が困難なため,ストーリ える,あるいは相手が望んでいなかった行動をと ーブックで提示した仮想世界に「騙し場面」を設 らせる,という意味で,非明示的に能動的な誘導 けた.被験者は仮想世界で主人公として物語を読 をおこなう場面の一つと考えられる.「騙し場面」 み進め,実世界と同じように物語でのやりとり相 には, 「騙す側」と「騙される側」が存在し, 「騙 手に対し意図の推定と自身の行動の選択をおこな す側」が「騙される側」に気付かれずに「騙す側」 った.この時,相手に提供する情報を偽造するこ とによって自身の意図を隠蔽し,相手を「騙す」 用紙」を配布し,各被験者のペースでストーリー かどうか確かめた. ブックを読み進めさせ,回答させた.この際,被 被験者:大学生6名(男性3名,女性3名)が実験 験者には報酬は用意されなかったが, 『自分が「盗 に参加した. 賊」であること』を強く意識して回答するように ストーリーブック:物語において被験者は, 「騙す 教示した. 側」である「盗賊」となり, 「騙される側」である 「勇者」とともに「モンスター」を倒し賞金を稼 ぐ,という目的で行動するものとした.同時に, 3. 結果と考察 被験者が「盗賊」の意図を隠蔽するために情 「盗賊」が「勇者」を「騙す」目的が生じるよう 報を偽造し「勇者」を騙そうと試みたかどうか, に, 「盗賊」が賞金の独り占めすることが必要な状 以下の3点を基準に検討した.①「盗賊」が生 況を設けた. きて戦闘から離脱することを可能にする「ドラ ストーリーでは, 「盗賊」が事前に「モンスター」 ゴンのつばさ」が選択されていたか,②戦闘に に関する情報を入手し, 「勇者」はその情報から「モ おけるアイテムの使い方が「勇者」が先に倒れ ンスター」と戦闘するかどうか判断した.そのた るものになっていたか,③偽造された情報が戦 め, 「盗賊」は「勇者」に伝える情報を偽造する機 闘におけるアイテムの使い方と矛盾していない 会があり,偽造するか否か,あるいはどのように か,の3点から評価した.その結果,6名の被 偽造するか考えることができた.戦闘では, 「盗賊」 験者中5名が騙しを試み,1名が実際に騙しを と「勇者」は「こうげき」「まほう」「ドラゴンの 成功させた. つばさ」の3種類のアイテムを複数回使うことに 以上の結果から,自身の意図を隠蔽するよう より「モンスター」を倒すことができた.これら に情報を偽造し,相手を出し抜くように行動を のアイテムの使い方は物語を読み進め理解させた. 企図できることが示された.すなわち,目的, また,モンスターとの戦闘におけるアイテムの使 意図,行動が適切に設定された状況では,被験 い方および順番は,戦闘途中に意図が変わり行動 者は相手を「騙す」ように振る舞った.本研究 が変化するような複雑な事態を避けるため,戦闘 では目的,意図,行動ともに「騙し」がおこな 開始前に決めさせた. いやすいように設定したため,それぞれに設定 「騙し場面」は最後の「モンスター」との戦闘場 された状況がどの程度「騙し」の成立に関与し 面に用意した.最後の「モンスター」は実際には ていたのか明らかではないが,各要素が「騙し」 どのようにアイテムを使っても倒すことができな の成立に必要な要素であることが示唆された. いが, 「ドラゴンのつばさ」を用いると戦闘から離 今後は, 「隠蔽」によって「騙し」が成立する 脱することができた.したがって, 「盗賊」が戦闘 過程において,目的,意図,行動がどのように から離脱し賞金を独り占めするには, 「盗賊」はそ 関わっているか明らかにしていく.特に, 「隠蔽」 の意図を隠蔽しかつ戦闘に「勇者」を参加させな をおこなう状況をどのように作っていくのか, ければならなかった.被験者が,戦闘から離脱す という点に着目し, 「隠蔽」するものとされるも るアイテムである「ドラゴンのつばさ」の使用方 のを「騙す」者がどのように調整するか, 「騙す」 法を考えられるか,そして「モンスター」の実際 相手の意図,行動をどの程度考慮するか,そし の情報を偽造し「勇者」を戦闘に参加させること て自身がおこなう「行動」の信頼度をどのよう ができるか,について検討した. に高めるのか,といった点について検討したい. 手続き:被験者にストーリーブックと「モンスタ また, 「騙す」ことにより「騙す側」に利益が, ー」の情報を「勇者」に示す「手配書」 ,および戦 「騙される側」に不利益がもたらされる,とす 闘におけるアイテムの使い方を回答させる「回答 ると, 「騙し場面」はゲーム理論が扱ってきた状 況として考えることができる.その点で,どの ような利得構造により「騙す側」の意志決定が 変化するのか,従前の知見と併せた検討も必要 である.さらに, 「騙し場面」は「騙す側」が利 得表全体を把握している,あるいは複数(「騙さ れる側」にも明示された利得表と明示されてい ない利得表)の利得表が利用可能な状態である のに対し, 「騙される側」は利得表の一部しか把 握していない,あるいは単一の利得表しか利用 できない状況である,と考えられる.この点は ゲーム理論が扱った意志決定場面と異なってお り, 「利得表を利用するためのルール」が「騙し」 の成立に関与していると考えられる.この点か らのさらなる検討も今後進めたい. 参考文献 [1] Nagata, Y., Ishikawa, S., Omori, T. & Morikawa, K., (2007) "Computational Model of Cooperative Regulation of Behavior: Goals and Adaptive Behavior", Proceedings of the European Cognitive Science Conference 2007, pp. 202-207. [2] 長田悠吾・石川 悟・大森隆司,(2010) “意 図推定に基づく行動決定戦略の動的選択によ る協調行動の計算モデル化”,認知科学,Vol. 17, No. 2, pp. 270-286. [3] 横山絢美・岡田浩之・大森隆司・石川 悟, (2007) “人間の意図の能動的理解に基づく認 知的コミュニケーション” ,日本認知科学会第 24 回大会発表論文集,pp. 320-321.