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Twinkle:Tokyo Women`s Medical University
Title 7番染色体上に存在するcDNA(pLMM1)を用いた結節性 硬化症家系における分子遺伝学的検討 Author(s) 森田, 玲子; 斎藤, 加代子; 原, 美智子; 今野, 真紀; 大 澤, 真木子; 原田, 隆代; 三島, 眞弓; 鈴木, 陽子; 宍倉, 啓子; 平山, 義人; 福山, 幸夫 Journal URL 東京女子医科大学雑誌, 63(臨時増刊):E123-E129, 1993 http://hdl.handle.net/10470/8924 Twinkle:Tokyo Women's Medical University - Information & Knowledge Database. http://ir.twmu.ac.jp/dspace/ 123 嗜姫藤、銘63巻磯讐榊 ・原 著 7番染色体上に存在するcDNA(pLMM1)を用いた 結節性硬化症家系における分子遺伝学的検討 東京女子医科大学 小児科学(主任:福山幸夫教授) モリタ レイコ サイトウカ ヨ コ ハラ ミ チ コ イマノ マ キ 森田 玲子・斎藤加代子・原 美智子・今野 真紀 オオサワマ キ コ ハラダ タカヨ みしま まゆみ スズキ ハルコ 大澤真木子・原田 隆代・三島 眞弓・鈴木 陽子 シシクラ ケイコ ヒラヤマ ヨシト フクヤマ ユキオ 宍倉 啓子・平山 義人・福山 幸夫 (受付 平成5年6月23日) Molecu霊ar Genetic Study of Tllberous Sclerosis Using c・DNA pLMM1, Located on Chromosome 7 Reiko MORITA, Kayoko SAITO, Michiko HARA, Maki IMANO, Makiko OSAWA, Takayo HARADA, Mayumi MISHIMA, Hamko SUZUKI, Keiko SHISHIKURA, Yosllito HIRAYAMA and Yukio FUKUYAMA Department of Pediatrics(Director;Prof. Yukio FUKUYAMA) Tokyo Women’s Medical College Four patients with tuberous sclerosis(TSC)and their fam童lies were studied using pLMM1,which is located on chromosome 7, to obtain restriction fragment length polymorphisms(RFLPs)by Southern blotting and to detect the pLMMl mutation. In one of the families, the TSC patient had a younger brother with congenital myotonia of Becker type(CM・B). TSC has heterogeneity and its gene loci exist on chrgmosomes 9(TSC1),11(TSC2), and 12(TSC2), whereas the locus of CM−B is presumed to be on 7. There have begn no reports of families with both TSC and CM・B patients, to date. Our results suggest the possibility of a contiguous gene syndrome of TSC and CM−B in one of the 4 families studied. 緒 言 TSCの遺伝子座はABO血液型の遺伝子座の 結節性硬化症(TSC:tuberous sclerosis com. 存在する9番染色体長息(9q34)であるという報 plex)は,顔面の血管線維腫(従来,誤って皮脂 告3)4)の他に11q14−11q235),12q6),147)などの報告が 線腫といわれてきたD),網膜過誤腫,爪周囲線維 ある.これまでの研究でTSCは9q34を遺伝子座 腫,脳の結節および石灰化,その他,腎,心,肺 位とするTSC18),11q14−11q23を遺伝子座位とす の小結節などを特徴とする多発性全身性過誤腫症 るTSC28),12qを遺伝子座位とするTSC39)に分 で,神経皮膚症候群である.従来,てんかん,精 類されている.一方,TSC患者の顔面血管線維腫 神遅滞,顔面血管線維腫がTSCの3主徴と言わ れてきたが,実際には3主徴がそろうのはTSC 年),その対応する遺伝子は染色体7番上に位置す の29%にすぎず1),現在ではGometzの診断基準2) ることが判明している10)11). が一般的である. 今回,TSC4家系において, ABO血液型とTSC からpLMMIというcDNAが単離され(1990 一E123一 124 との関連,および,7番染色体上のpLMM1と XYであった..TSC患者の弟は15歳男子でCM−B TSCとの関連について検討したので報告する.4 型と診断された15>.6歳頃から徒競走のスタート 家系中1家系のTSC推定患者が染色体7番に連 鎖があるといわれる先天性筋強直症一Becker が遅れる,13歳頃からボールを蹴る力が弱いこと 型12)13)(以下CM−B型)にも罹患しており,本家 percussion myotoniaの存在,筋生検上, type II 系における隣接遺伝子症候群14)の可能性も含めて 線維の肥大および散在性小径線維の存在を認め に気付かれ,15歳時に当科受診し,grip myotonia, 考察した. た.体幹部に白斑を認め,一親等親族にTSCが存 対象および方法 在することからGometzの診断基準2)上, TSCと 1.対象 推定された. 対象はTSC4家系で,家族構i成員の臨床症状お 2)家系B よび所見の有無を,Gometzの診断基準項目別に 両親に血族結婚はなく,正常表現型であった. 表1に記した. TSC患者は7歳男子でTSCの3主微を認めた. 1)家系A 染色体は正常核型であった. 両親に血族結婚はなく,TSC患者の父,母,姉 3)家系C は正常表現型を呈していた.TSC患者は18歳男子 両親に血族結婚あり,父方祖父と母方曾祖母が で,TSCの3主徴を認めた.染色体は正常核型46 同胞で,かつ,父親の祖父母の一方と母方祖父の 表1 対象症例における症状・所見の有無 臨床症状および所見 (Gometzの診断基準項目) 1確定 II推定 家 系 A ND ND ND ND ND ND ND ND ND 1 皮質結節(CTまたはMR) 2 脳室上衣下結節 3 網膜過誤腫 4 顔面血管線維腫 } 一 一 5 爪線維腫』 一 一 } 6 前額/頭皮線維腫 一 } 一 7 多発性腎血管筋脂肪腫 1 点頭てんかん 一 一 一 一 一 } 十 十 2 @(CTまたはMR) ND ND ND ミオクロニー,強直, ネいし脱力発作 家 系 B 系 C 家 系 D 家 父親 母親 長女 長男 次男 父親 母親 長男 父親 母親 長男 次男 父親 母親 長男 次男 3 色素脱失斑 一 一 4 隆起革様皮 一 一 ND ND ND 十 十 一 一 ND ND ND ND ND ND 十 十 ND ND ND ND ND ND 十 十 一 一 十 一 一 一 一 一 一 皿 一 十 一 一 皿 一 一 } .ND ND 一 十 一 一 一 十 一 一 一 一 十 } 十 十 十 一 一 一 十 一 十 一 } 一 一 一 一 一 十 十 } 一 一 一 十 十 一 一 一 一 十 十 一 一 } 一 一 一 一 一 『 一 』 } 一 一 一 一 皿 十 十 一 } 一 十 一 十 一 一 十 } 一 一 一 一 十 ND ND ND 一 ND ND 乳頭周囲網膜過誤腫 一 一 一 6 歯肉線維腫 一 } 皿 一 一 一 一 一 } 一 一 』 一 7 歯エナメル陥凹 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 } 一 8 多発性腎腫瘍 一 一 9 腎嚢胞 10 心横紋筋腫 11 肺リンパ管筋腫症 12 X線上の蜂巣状肺 13 喫状皮質一皮質下石灰化 14 多発性皮質下髄鞘低形成 15 1親等の近親者に本症 TSC診断 bM−B型 ND ND ND ND ND ND ND ND ND ND ND ND ND ND ND ND ND ND ND ND ND 十 十 十 一 一 ND ND ND ND ND ND ND 一 十 十 一 一 一 一 一 一 一 十 一 確定 確定 ND ND ND ND ND ND ND 十 一 一 一 一 一 十 十 ㎜ 確定 ND ND ND ND ND ND ND ND ND ND ND ND ND ND ND ND ND ND ND ND ND ND ND 一 一 ND ND ND ND. ND ND ND ND 一 ND ND 一 ND ND ND ND ND 一 一 ND ND ND 十 十 十 5 一 十 一 ND ND ND ND ND ND ND 十 ND ND 十 十 一 十 確定 確定 十 十 十 一 一 一 一 一 一 一 一 一 確定 m定 *ND:not determined(未検査) 一E124一 125 祖父母の一方とが同胞であった.父と母は正常表 現型であった.TSC患者は13歳男子でTSCの3 サーマルサイクラーを用いて表2のように行っ た.白血球を調製して得たDNA2μ1に,表2のプ 主徴を認めた.TSC患者の弟は12歳男子で,てん ライマーを各1μ1,Taq polymerase 1μ1,10x かん,精神遅滞,白斑を認め,一親等親族にTSC ・ミッファー(100mM Tris−HC1, pH 8.3,500mM が存在することからGometzの診断基準2)上, KCI,15mM MgC12,0.01%(W/V)gelatin)10μ1 TSCと推定された. を加え,合計100μ1として,94℃ 5分,60℃ 1 4)家系D 分,72℃ 10分の反応により1本鎖DNAに変性 両親に血族結婚はなく,父,母,兄は正常表現 させた.次に94℃ 1分(変性反応),60℃ 1分 型を呈した.TSC患者は5歳男子で, TSCの3主 (アニーリング反応),72℃ 2分(伸長反応)の 徴を認めた.染色体は正常核型であった. 3ステップを29回繰り返し,最:終伸長反応を72℃, 2.方法 8分行った.PCR反応で得られたPCR産物10μ1 1)家系図およびABO血液型の確認 ABO血液型(表現型)を母子手帳または献血手 を1.2%アガロースゲルで電気泳動し,エチジウム 帳から確認した.家系図を作成し,ABO血液型 結 果 (遺伝子型)を類推した. 1.ABO血液型の確認 家系Aでは,TSC確定患者,父,母,姉の血液 型(表現型)はA型であり,弟のTSC推定患者の 2)末梢リンパ球DNA分析 末梢血を採取しヘパリンを加えて凝固を防止 し,成書の方法に従い高分子量DNAを調製し た16). ブロマイド染色を施行した. み0型であった.家系CではTSC患者と,弟の TSC推定患者はAO型,父親は00型であった が,母親の遺伝子型をAA, AOのいずれであるか (1)サザンプロット法 家系A,Bに行った.サンプルを制限酵素Msp を推定できなかった.家系B,Dの家族構成員は Iで処理し,0.7%アガロースゲルで泳動後,サザ 全員0型であった. ン・ハイブリダイゼーションを行った.pLMM1 を32Pでマルチプライム法でラベルし,プローブ 2.末梢リンパ球DNA分析 として用いた. よびPCR法の結果を図に示した. (2)PCR法 家系C,Dに行った. pLMM1の5’側と3’側で 合成された表2のプライマーを用いて,サンプル サザン法を行った家系AではIII−2のTSC患者 をPCRで増幅し,バンドの有無を調べた. 2)の3人はいずれも1kb,800bpの2本のバンド (ヘテロ)が検出された.家系BではTSC患者 PCR反応はPerkin Elmer Cetus社製のDNA 家系図,血液型,サザンプロット法の結果,お のみ800bpのバンド(ホモ)が検出されたが,患者 の弟(III・3)のCM−B患者,姉(III−1),母親(II− (III−1)とその両親(II−1, II・2)の3人はいずれも 表2 プライマーの塩基配列およびPCR反応 1kb,800bpの2本の・ミンド(ヘテロ)が検出され た. プライマー F:CAGCCTCCACATTCAGAGGCAT R:AGGAGAGCTCTATGCAGCGTGT PCR方法 反応系(100μ1) 10Xバッファー 10μ1 10X dNTP 2μl プライマーF プライマーR lμ1 滅菌精製水 DNA Taq polymerase 1μ1 83μ1 Di鱒1回 とその弟(V−2)のTSC推定患者およびその両親 (III−4, IV−4)の4人はいずれもPCR産物が正常の 530bpであった.家系Dも同様にTSC患者(III− 3),その兄(III−2)および両親(II−1, II−2)の4 のlil霧]胴 人はいずれもPCR産物が正常の530bpであった. 考 察 2μ1 1μ1 PCR法を行った家系CではTSC患者(V−1) 3)72℃ 8分 TSCはてんかん,精神遅滞,顔面血管線維腫を 一E125一 126 家系A 家系B 十 δ 1 2 董 H H AO 禿頭(÷) m 脳卒中 糖尿病 心 梗塞 n AO ○ 1 尿毒症 1 家系D ,士 530bp 1 l 1㎞。。。b台/Al亀。。。bp. 530bp 1 2 3 m m .・偏bp CM−B型 00 O.0 00 1kb1800bp 00 1kb/800bp 高血圧 1kb/800bp 00 00 530bp. 530bp 800bp/800bp 家系C 1 いず † 7 II AO 00 5 6 3† †2 † 1 かは00 † † 4 3 † † 2 † † † III †9 10 6 OAO 00 AO A 00 00. QO AO A AO OO AQ 00 び † † 1 □ 80代 4† AO OO † 11 12 A AO AO 40代 事故. 心臓病 13451617 W .† † † † † 幼時幼時幼時AO 5歳 0 80代 歳 (5る 1 ・・Q・・…A・・誰1萎・・ 00AOAOAO A A A V 00 AO B A AB A 530bp 530bp 凸 1 2 /贈 照 。。 BAAA 530bp 530bp 図 家系図,血液型,サザンプロット法およびPCR法の結果 □は男性,○は女性,■はTSC確定患者,屠1はTSC推定患者. AA, AOは血液型A型の遺伝子 型.BB, BOは血液型B型の遺伝子型.00は血液型0型の遺伝子型. A, Bは血液型の遺伝子型 の不明なもの. 家系A:III−2はTSC確i定患者, III・3はTSC推定患者であると同時にCM・B型(Becker型一先天性 筋強直症).血液型は,III・3のみ00型で, H 4,【1・2はAO型, IH・1, III−2はAO型かAA型か推定 できなかった.pLMM1をプローブとしたサザンプロット法の結果はIII−2のみ800bpのホモ, III−1, III−3, II−2の3人は1kb,800bpのヘテロ. 家系B:III・1はTSC確定患者.血液型は, II・1, II−2, IIL 1が00型. pLMM1をプローブとしたサ ザンプロット法の結果はII・1, II−2, III−1の3人が1kb, r 垂O0bpのべテロ.. 家系C:III・1はTSC確定四川でIII・2はTSC推定患者.血液型の遺伝子型は, V・1, V・2がAO型, III−4が00型, IV・4はAAかAOか推定できなかった. pLMM1の両端をプライマーとしたPCR反 応の結果,III・4, IV・4, V・1, V−2の4人において530bpの正常のPCR産物が得られた. 家系D:III・3はTSC確定患者.血液型は,』II−1, II・2, III−2, III−3が00型. pLMM1の両端をプラ イマーとしたPCR反応の結果, II・1, IL2, III−2, III−3の4人において530bpの正常のPCR産物が 得られた. 3大主徴とするが,その病理は組織の発育,分化 の障害による過誤腫様組織である.脳,網膜,肺, 心,腎などの多器官に発症し,同一組織内に1つ 以上の別組織あるいは判定困難な組織を生じ,多 一E126一 127 発性全身性過誤腫症に属する疾患である.遺伝形 1.血液型 式は常染色体性優性遺伝であるが,新たな突然変 家系AではTSC確定患者の血液型がA型で, TSC推定患者の血液型が0型であった. TSC推 定患者が真のTSCであるならぽ,本家系では血 液型とTSCとの連鎖はないと考えられ,また TSC推定患者がTSCでないならば,連鎖の可能 異によって発症した即発例が過半数を占める17), また3主徴のそろわない不全型が多く,原因遺伝 子の究明が難航していた.1987年,Freyerら(英 国)は26個の多型マーカーを用いてTSC家系で 連鎖解析を行い,ABO血液型遺伝子座に関して Lod scoreが最高値3.85とTSCに強い連鎖を有 性があった.家系Bでは家族構成員の血液型が全 son株)を用いてTSCの遺伝子は9q34にあると報 員0型であったので,TSCと血液型との連鎖を 論ずることができなかった.家系CではTSC確 定患者とTSC推定患者の血液型がAO型であっ たので,TSC推定患者をTSCと判断すると,本 家系におけるTSCと血液型との連鎖の可能性が 告した4).一方でTSCとABO型とは関連がない 考えられるが,TSCでないと判断すると,本家系 という報告もある18).1990年,Smithら(米国)は 15家系を対象として,34の多型マーカーを用いて におけるTSCと血液型との連鎖の可能性はない と考えられた.家系Dでは家族構成員の血液型が 連鎖分析を行いTSCは11q14−11q23に連鎖があ 全員0型であったので,TSCと血液型との連鎖 ると報告した5).また1991年,Fahsoldら(独)は を論ずることができなかった. 染色体異常t(3;12)(p26.3;q23.3)をもつ 2.DNA分析 TSC患老からヒントを得て12qに連鎖があるこ 1)サザンプロット法 とを報告した6).TSCにはgenetic heterogeneity 家系Aでは泳動・ミンドのパターンが患者(III− があり7)19),現在TSCの遺伝子座はTSC1(9q), 2)のみ1本(ホモ)で,姉(III−1),弟(III−3), TSC2(11q), TSC3(12q)の3つが考えられてい 母親(II−2)は2本(ヘテロ)であった. III−3はTSC る8)9).従って国により,あるいは家系により遺伝 推定患者であり,TSCである可能性とTSCでな し,TSCの遺伝子は9番染色体の長腕(9q34)上 にあると報告した3).またConnorら(英国)も同 年,‘オンコジンabl(ネズミ白血病ウイルスAbe1− 子座が異なる可能性もある.我が国では9番染色 い可能性があった.もしIII−3がTSCでないとすれ 体異常(Cバンド異常)をもつ新生児TSC例の報 告があり,その患者においては9番染色体と本症 ぽ,III−2のみ泳動パターンが異なるという事実か 遺伝子座との関連が推測されている20}. 可能性が考えられた.しかし,III−3がTSCである 一方,我が国ではTSC患者の顔面血管線維腫 とすれぽ,III−2と同じパターンをとるはずであり, からcDNAが単離された.このcDNAは全長704 bpであり, pLMM1と名付けられている.この pLMM1は染色体7番上に存在するinsulin・like 鎖は証明し難いと思われた.家系Bでは家族3人 growth factor binding protein 3(IGFBP−3)遺 伝子の3’非翻訳領域cDNAと同一であった10). ら,本家系におけるTSCとpLMM1との連鎖の この点から,家系AでのTSCとpLMM1との連 のパターンは同一であり,TSCとpLMM1との連 鎖を云々することはできなかった.TSCは症状が 多彩であるため,TSC推定患者をTSCと判断す IGFBP−3の遺伝子座は染色体7番上のinsulin− るか,TSCでないと判断するかによって結論が異 hke growth factor binding protein 1(IGFBP−1) なる危険性があると考えられた. の遺伝子座に隣接している21)22). 2)PCR法 家系Cの4入のPCR産物は正常の530bpであ 今回我々はこの7番染色二上の遺伝子cDNA であるpLMM1を用いてサザン法による多型の検 討およびPCR法による遺伝子異常の検討および 血液型の確認を行った. り,pLMM1の遺伝子に欠失はないと考えられた. 家系Dでも同様に家族構成員4人のPCR産物は 正常の530bpであり, pLMM1の遺伝子に欠失は ないと考えられた. 一E127一 128 3.隣接遺伝子の可能性 のは,その確率の低さからいって無理があると思 家系AのTSC確定患者の弟はTSC推定患者 われる.家系AにおけるTSCの遺伝子座が7番 で,しかもCM・B型患者であった.先天性筋強直 染色体面にあって,CM−B型の遺伝子座と隣接し 症(CM)は1876年にThomsenにより初めて報告 され,現在,先天性筋強直症(Thomsen型)(以 重な症例と思われた. 下CM−T型)と呼ばれている23). CM・T型は常染 結 論 色体優性遺伝形式をとりその遺伝子座は筋強直性 7番染色体上の遺伝子cDNAであるpLMM1 ジストロフィーの遺伝子座の存在する19番染色体 を用いて,TSC 4家系とpLMM1との関連を検討 ている隣接遺伝子症候群14)の可能性も考えられ貴 とは関連がないということが判明している24).こ した.TSCとpLMM1との関連はないと考えられ れに対し,後にBeckerによってまとめられた た. CM−B型はCM−T型より発症が遅く,症状も重い 家系AはTSCとCM−B型の兄弟発症例で ことが多く,常染色体劣性遺伝形式をとるが孤発 あった.従来,同一家系内にTSC確定患者と 例も多い25).CM・B型が塩素イオンチャンネルの CM・B型患者が兄弟発症したという報告はなく, 欠損によって生じるとすれぽCM−B型の遺伝子 座は7番染色体に位置する可能性があるといわれ 本家系におけるTSCの遺伝子座がCM−B型の遺 伝子座に隣接している可能性もあり興味深いと思 ている12)13).CM−B型の頻度は5万人に1人であ われた. る.我が国ではCM・B型の報告は少なく, CM−B 型とTSCが同一家系内に発症したという報告は ご指導いただいた東大農学部農芸化学科,生物化学 ない26). 教室の小野寺一清教授,高橋哲夫助手に深謝致しま 同一家系内に2つの稀な疾患が存在する例とし す.本稿を恩師福山幸失教授退職記念論文として捧げ 七telecanthus cleft lip/cleft palate, glandular ます, hypospadiasを特徴とするBBB症候群(遺伝子 本研究は,森田玲子が助成を受けた,平成3年度科 座はX染色体上)とtype l hereditary sensory 学研究費補助金(奨励研究A:課題番号03770604結節 motor neuropathy(HSMN, genetic heter− ogeneityが存在)の兄弟例があり,隣接遺伝子症 候群の可能性が示唆されている27).また,Duchen− ne型筋ジストロフィー(DMDと略)に慢性肉芽 腫症,McLeod red cell phenotype,網膜色素変 性硬化症の発症に関する遺伝子工学的基礎研究)に よって行われた. 本文の要旨は第38回日本人類遺伝学会(1993年10月 21日∼23日,東京)において発表した. 文 献 1)大澤真木子,金子信子:神経疾患.小児科臨床 性症を合併していた男子の報告も各疾患の責任遺 46:1841−1878, 1993 伝子が隣接することを示唆しており,この症例は 2)Gometz MR:Tuberous・sclerosis complex (TSC), diagnostic criteria,(abstracts)Tuberous DMDの責任遺伝子発見の一役を担った28). Sclerosis Association of Great Britain’s 5th TSCの頻度は出生1万当り0.46人(竹下ら, 1984)であり,TSCの突然変異は生殖細胞10万個 のうち2.5個に生じると言われている (McKusick,1992).家系Aにおいては, TSC推 International Medical Symposium:18−21,1991 3)Fryer AE, Chalmers A, Connor J皿et al: Evidence that the gene for tuberous sclerosis is on chromosome 9. Lancet 1:659−660,1987 4)CoRnor JM, Pirrit LA, Yates JRW et al: 定患者(III・3)をTSCと判断すれぽ, III−3はCM−B Linkage of the tuberous sclerosis locus to a 型のホモ劣性遺伝子とTSC遺伝子を有すること DNA polymorphism detected by v・ab1. J Medi− になる.また,TSC推定患者(III−3)をTSCでな いと判断すれぽ,同一家系内に,TSC患者とCM− B型患者が同胞発症したと考えられる.いずれに しても,このような状況が偶然に生じたと考える cal Genetics 24:544−546,1987 5)Smith M, Smalley S, Cantor R et al:Map・ ping of a gene dete㎜ining tuberous sclerosis to human chromosome llq14−11q23. Genomics 6:105−114, 1990 一E128一 129 6)Fahsold R, Rott HD, Lorenz P et a1:Evi− 107−117, 1980 dence for a tuberous sclerosis locus on chromo− 18)Kandt RS, Pericak・Vance MA, Hung WY et some 12.(abstracts)Tuberous Sclerosis Associ− a1:Absence of linkage of ABO blood group ation of Great Britain’s 5th Intemational Medi− locus to familia玉tuberous sclerosis. Exp Neurol cal Symposium:34,1991 104:223−220, 1989 7)Kandt RS, Pericak・Vance MA, Hung WY et 19)Sampson JR, Yates JRW, Pirrit LA et al al: Linkage studies in tuberous sclerosis chro− Evidence for genetic heterogeneity in tuberous mosome gPor maybe 14!Ann N Y Acad Sci sclerosis. J Med Gen 26:511−516,1989 20)清水勝則,杉江秀夫,佐藤博司ほか:広範.性脳実 615 :284−297, 1991 質病変を伴った新生児結節性硬化症の1例.脳と 8)Janssen LAJ, Sandkuyl LA, Merkens EC et 発達 24:575−580,1992 al: Genetic he亡erogeneity in tuberous sclero− 21)Cubbage MI」, Suwanichkul A, Powell DR: sis. Genomics 8:237−242,1990 Insulin−like growth factor binding protein・3. J 9)Fahsold R, Rott H・D, Lorenz P=Athird Biol Chem 265:12642−12649,1900 gene locus for tuberous sclerosis is closely lin一 』ked to the phenylalanine hydroxy玉ase gene 22)Ehrenborg E, Larsson C, Stern I et aL 王ocus. Hum Genet 88:85−90,1991 Contiguous localizat三〇n of the genes encoding 10)Takahashi T, Monica・Masuda L, Ito S et al: human insulin−1ike growth factor binding pro− Biochemical. study of cells cultured from a tein l(IGBP1)and 3(IGBP3)on chromosome 7. patient with tuberous sclerosis. J Dermatol Genomlcs 12:497−502,1992 19:909−913, 1992 23)Thomsen J:Tonische Kraempfe in eillkuer・ 11)小野寺一清,高橋哲夫,伊藤真一:結節性硬化症 lich beweglichen Muskeln in Folge von ererbter 患者由来の理化細胞に特異的に発現している cDNAの性質.厚生省特定疾患神経皮膚症候群調 psychischer Disposition:Ataxia muscularis P 査研究班平成元年度研究報告書:84−86,1990 12)Steinmeyer K, Ortlan〔l C, Jentsch TJ=Pri・ 24)Koch M, Harley H, Sarfarazi M et a1: Myotonia congenita(Thomsen’s disease)ex− mary structure and functional expression of a cluded from the region of the myotonic dystro− developmentally regulated skeleta玉musc}e phy locus on chromosome l9. Hum. Genet 82: chloride channe董. Nature 354:30}304,1991 163−166, 1989 13)Steinmeyer K, Klocke R, Ortland C: 25)Becker PE:Heterozygote manifestation in Inactivatlon of muscle chloride channel by recessive generalized myotonia. Hum Genet transposon lnsertion in myotonic mice. 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