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広島大学の研究(2.65MB) - Hiroshima University

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広島大学の研究(2.65MB) - Hiroshima University
広島大学の
研 究
Researches
006
研究者
×
研 究
×
学 生
ଈ 01
社会科教育とは何かを問い、
教育学部/大学院教育学研究科 科学文化教育学専攻 社会認識教育学講座
社会科教育の意義、
必要性の根源を追究する。
入学後、最初の授業で、
社会科教育の意義と
必要性を学生に問う
実験的な調査を行って、
教師の授業力について研究する
また、
教師の授業力の研究も私の領域です。
例え
ば、
同じ教科書を使って授業を行い、
教師によって
大
学1年次、私の最初の授業を受ける
どのような違いが出てくるのかの実験的調査を行っ
学生たちに、
まず問いかけることがあり
ています。
すると、
教師によって授業の進め方や内
ます。
それは、
「今、
あなたが子供たち
容に違いがあることがわかりました。
同じ教科書を
から
『なぜ、
聖徳太子のことを勉強しなくてはいけ
使っているのに、
なぜ、
明らかに教え方の優れた教
ないの、
どんな必要性があるの』
と聞かれたら、
ど
師とそうではない教師が現れるのか。
私は、
その理
う答えますか。
その疑問に対する答えを、
自分の
自らに社会科とは何だろう、
なぜ
由は、
教師自身が、
授業を通して伝えることができますか。」
というもの
必要なのかという問いかけをしているかどうかにある
です。
おそらく、
ほとんどの学生は、
答えることができ
と考えます。
事実、
そうしたことを常に考え、
問い続け
ないはずです。私は、
だからこそこれから学ぶ4年
る教師と、
そうでない教師の間には歴然とした差が
間でそのことを学んでいこう、
と学生たちに語りか
あることがわかってきています。
こうした教師の授業
けます。
これは、
すなわち、社会科とは何か、
なぜ
力の比較研究と、
授業力向上のための支援策づく
社会科が必要なのか、
社会科とはどんな人間を
りも、
私の重要な研究テーマになっているのです。
育成しようとする教科なのか、社会科教育の意
義を根源的に考えさせる問いかけです。私自身
は、社会科を学ぶ意味は、
自分の意志で投票
できる人間になること、
つまり、
良き主権者としての
素養を身につけるための教育が社会科教育だ
と考えています。
資料や専門家の意見を
比較研究し、社会科の根源を
探究する
自分の意志で選挙に参加する、
に投票・参加できる、
良き主権者を育てることが
教授
社会科教育の使命。
草原 和博
Kazuhiro Kusahara
PROFILE
実は、社会科という教科は、戦後、新しく生まれ
た教科。
すなわち、民主主義社会を実現できる
人材を育てることを目的にした教科なのです。私
が取り組んでいる教科教育学の研究テーマの1
どのよう
つは、
どのような教科書やカリキュラムで、
1
2
3
広島大学教育学部卒業、同大学院教育学研
究科修了。博士(教育学)。兵庫教育大学助
手、鳴門教育大学講師、助教授、准教授、本
学准教授を 経 て 、2014(平成26)年より現
職。専門 は 教科教育学・社会科教育学。中 で
も地理的領域を中心に、世界各国 のカリキュラ
ムなどを比較研究し、社会科地理のねらいや本
質を 考察。並行して 、地域学習 や 産業学習、
地誌の授業計画書・教材の開発にも取り組む。
に教えれば子どもたちが社会科の面白さや必要
性を感じられるか。
そして、教師がどのように教え
れば、子どもたちが社会科を学ぶ意味や価値を
見出せるかについての研究です。
そのために、
日
4
本、
アメリカ、
イギリスを中心に資料を収集。
さらに
5
1 地理カリキュラムの日米比較の成果を専門書として刊行した。
2 研究成果は検定教科書の執筆などにも生かされている。
3 世界の社会科授業を調査し、授業改善の方策を探っている。
4 世界の研究者と「社会科」の理論と実践をめぐって学術交流を図る。
5 「なぜ・なにを・どのように」教えるかを追究できる教師を育てる。
各 国の教 師や専 門 家からの聞き取りや、
カリ
キュラムの作り方などを調査し、
比較研究します。
その結果、
どんな違いがみられるかを考察、違い
MY RESEARCH
が生まれた理由を探究していきます。
こうした考
●自主的自立的な思想形成のための地理歴史教育
察・探究の結果は、
日本の社会科カリキュラムの
個 人 の 価 値 観 を 尊 重し 、それを 保 障 する 民 主 主 義 社 会 に
とって 、当 事 者 に 意 識 させない 思 想 統 制 ほど 恐 ろしいもの
はありません 。価値 の 多元性と思想 の自由を 社会発展 の 原
動力とする民主主義社会 において 、学校 は 、地域 や 家庭と
は 異 なる教育機能を 担っています 。それが 、子どもが 自らの
思想 や 判断基準を自主的自立的 に 形成 することをサポート
あり方や、
教科書の改善案などの提言につなげ
ていきます。
つまり、
社会科の根源をグローバルに
探究しつつ、
それを実現するシステムと教材を開
発していく研究だといえるでしょう。
007
私の研究テーマ
広島大学 の 研究
する学校教育 であり、社会科教育 です 。自分 なりの 社会 の
見方を構築 できる子どもを育成しようとすれば 、
「科学的知
性」と「批判的合理的精神」を 育成 するしかありません 。そ
ういう意味 での「地理 や 歴史を通して 社会 の 見方・考え方」
を 探 究 させる 方 法 論 が 求 められているのではないかと 考 え
て 、研究を進 めています 。
●草原研究室
ゼミ生 は 、
「社会を分 かる・教える」を共通 テーマに 卒論と修論に 取
考える。
り組 んでいます 。ゼミでは 、優 れた 論文を読みながら、研究 の 作法を
身につけることを優先。基本文献 の 読 み 込 みはもちろんのこと、学
校 の 公開授業 や 研修会 への 参加、国内外 のフィールド(教室)調査
の 企画 に 、学部生と大学院生 が 共同 で 取り組 んでいます 。研究室
は 、教育問題を語り合ったり、教育実習 について 相談したり、教員
採用試験や大学院入試の対策を練る場にもなっています。
社会科の面白さと必要性を教えるための
入門授業を開発したい。
生徒目線から教師目線へ、
自分の成長を感じる
教
師になりたいと思ったのは小学6年
生の頃。友人に勉強を教える機会
があり、教えることがとても楽しいと感
じたことがきっかけです。社会科が好きだったの
しながら、3年次後期の草原ゼミで教師を目指
す勉強に集中したいと考えています。
“中1ギャップ”と社会科を
結びつける導入単元を作りたい
最近、
小学校から中学校へ進学した生徒が、
学校
で、
そのまま社会科の教師を目指して教育学部
生活になじめずに不登校などになる
“中1ギャップ”
と
に入学しました。3年次の現在、草原先生のゼミ
いわれる現象が見られるようになっています。
グ
に所属しています。
草原ゼミを選んだきっかけは、
ループ授業や学外授業などに代表される、
自由
1・2年次の授業で、私たち学生にとても熱心に
な雰囲気の小学生時代とは違い、
科目ごとに先
接してくださる草原先生のお人柄に触れたこと
生が変わり、講義形式の授業が行われる学習
でした。
その頃の私は、単純に教師になりたいと
環境の変化に対応できないことが原因の1つだと
考えていただけで、
まだまだ高校生そのままの視
指摘されています。
実際、
中学生の不登校生徒
点で教師や社会科という教科を捉えていたと思
数は、小学6年生に比べて6倍近くになるという
います。
でも、草原先生の授業を通して、社会科
データもあるのです。
とは何か、社会科はなぜ必要なのかといった社
私は、
この
“中1ギャップ”
と専攻している社会科を
会科教育を幅広く追究する教師としての視野を
結びつけて、
学習指導要領の目標を達成しなが
持てるようになったと思います。
この変化を大切に
ら、
社会科学習に興味を持たせる、
最初の段階
から生徒が夢中になれる授業を作れないだろう
社会科は暗記科目ではなく、
かと考え、
「中等教育社会科入門における導入
実社会への第一歩であることを
元とは、
中学1年生の最初に、
今後3年間で学ぶ
単元の開発」
というテーマを選びました。導入単
社会科の目的や意義を、分かりやすく教える授
業。生徒に「社会科ってこんなに面白いんだ」、
子供たちに伝えたい。
「だから社会科を勉強するのか」
と思わせるような
オリジナルな単元を開発したいと考えています。
人に伝わらなければ
研究として成り立たない
教育学部 第二類 社会系コース
4年次生(平成25年度)
中村 祥子
Shoko Nakamura
ゼミが始まって間もない現在は、社会科授業の
(本文中の学年表記は取材当時のものです。)
実践例収集と分析に取り組んでいます。図書館
PROFILE
の専門誌や論文、
インターネット情報を検索して
歴史好きの父親の影響で自然に社会科が好きになり、社会科の教師
を目指 す 。歴史 や 地理を通して 社会 のしくみを教えたいと考えて 、公
実践例を収集し、実践タイプ別、
目的別、実施
民・歴史・地理という3領域を教えられる中学校 の教師になることを目
内容別に分類、
さらにどのような効果が得られた
標にしている。3年次に中学校・高等学校 の 教育実習を終え、4年次
には小学校の教育実習にも取り組む予定。
現在 の 草原ゼミには、2人 の 大学院2年次生と4人 の 学部4
年次生のゼミ生が所属し、草原先生のご 指導のもと、日々の
研究に取り組んでいる。
かを調査して分析します。
それをレジュメにまとめ
てゼミで発表し、先生やゼミ仲間から講評しても
らうのです。初めての発表では、実践例を網羅
1
2
的に収集したことは評価してもらいましたが、
研究
1 研 究 の た め の 資 料 を
探したり、発 表 のため
の 資料を作成したりす
るためによく訪 ねる 教
育学部A棟図書室。
2 ゼミでの 発表 は 、毎回
レジュメを 作 成して い
る。ファイルに 綴じ 、自
分 の 研 究 成 果を大 事
にしていきたい 。
動機の分かりにくさや、分類の仕方の甘さ、数
字的なデータが不足しているなどの厳しい指摘
も受けました。
そこで感じたのは、
自分が分かって
いるだけでは研究とはいえず、
人にその内容が伝
わらなければ研究として成り立たないということで
した。
この思いを生かして、
さらに深く研究に取り
組んでいきたいと考えています。
Researches
008
研究者
×
研 究
×
学 生
ଈ 02
地球生命とその起源の謎を
生物生産学部/大学院生物圏科学研究科 環境循環系制御学専攻 環境評価論講座
深海・高山、
南・北極などの
地球の極限が研究の場。
生命の起源への興味から
深海生物の研究生活へ
命はどこから来るのか、
そんな疑問を
持っていたことから、地球に初めて生
命が誕生した環境に近いであろう、
極限に生きる生物の調査・研究に取り組んでいま
す。
この分野に進んだきっかけは、1977(昭和52)
年の深海生物・チューブワームの発見。
チューブ
ワームは、
海底火山のそばに生息し、
自らのチュー
ブ内にいる微生物と共生する生物。
チューブワー
ムが提供する火山性ガスと酸素から微生物がデ
ンプンを合成し、
それをチューブワームが食べる共
生関係を築いています。
しかも、
この微生物は
チューブワームの細胞内にまで入り込んでおり、
こ
のような洗練度の高い共生は、地球生命体史
上、過去2回しか起きていません。1回目はわれわ
れの祖先細胞にミトコンドリアが入り込んだこと、2
回目は葉緑体が植物の細胞内に侵入したこと。
動物のミ
トコンドリアは酸素呼吸を行い、
植物の葉
緑体は光合成でデンプンを作ります。動物なのに
微生物の化学合成によるデンプンで生きている
チューブワームは、動物でも植物でもない第3のカ
テゴリーの生物なのです。1979(昭和54)年には、
300度を超す熱水が噴出する海底でチューブ
ワームの大群生地が見つかりました。同時期に、
氷で覆われた木星の第2衛星で火山活動が発
見され、第2衛星には海があるはずと考えられたの
です。
この2つの発見に心を奪われた私は、以来、
34年間、
木星の衛星にはチューブワームがいるの
ではないかというテーマを追い求めているのです。
生
りが大事であることを、
常に言っています。
トラブルや
事故が起きることもある現場の行動を想定し、
あら
ゆることに対処できるように段取りをすること。
大学で
は知識や技術のスキルを教えることはできますが、
問題に向き合う力は自分で育てるしかないのです。
人間として成長するために
たくさん経験をしてほしい
大学での4年間は自分を成長させる時間。人間
の器や懐の深さは、経験値に依存する部分が大
きいので、学生たちにはたくさんの経験をしてほし
いと思います。今や、
日本でも惑星探査船の計画
が進もうとしている時代。
これから大学で学び社会
に出る学生たちは、生命の神秘や謎が解明され
る現場に立ち会えるかもしれないと考えると、彼らの
若さがとてもうらやましい。
もちろん、私もまだまだ自
分の研究を追い求めていくつもりです。
チャンスがあったら現場へ。
現場で失敗することで
問題に向き合う力が身につく。
准教授
長沼 毅
Takeshi Naganuma
PROFILE
研究は現場主義。
現地に行って分かることがある
私は、
とにかく現地に行くことが大切だと考えていま
す。現場に行ってみないと分からないことはたくさん
あります。例えば、砂漠は乾燥していて、暑いことは
誰でも知っているでしょう。
でも、
実際に現地で体感
したのは、強い風。
そこで、風に着目すると、海上で
は常に風が吹き、
南極・北極での活動における一
番の悩みは風であり、高山でも風の影響は小さく
ありません。
すると、生物の生態や系統、進化の研
究で、
これまではあまり風の影響を考慮されていな
かったことに気づき、
では、風と生物進化の関係を
考えてみよう、
といった新しいテーマが生まれることも
あるのです。
ですから、学生にもできるだけ現場に
行くことを勧めています。
ただ、
それには事前の段取
009
広島大学 の 研究
1
3
2
1 スペイン南極観測隊のキャンプ 。
ドー
ム 状 の 小屋 の 他 にテントを張って 寝
泊まりした。
2 南極リビングストン 島 の 特別保護区
( バイヤーズ 半島)にて。
3 北極スピッツベルゲン島でのサンプリン
グ。環境保護用の防護服を着ている。
筑波大学第二学群生物学卒業、同大学院生
物科学研究科博士課程修了。理学博士。海
洋科学技術センター(現 海洋研究開発機構)
深海研究部、カリフォルニア大学サンタバーバ
ラ校客員研究員、本学助教授を経て 、2002
(平成14)年より現職。専門は 極限環境 の 生
物学・生態学。潜水調査船「しんかい 」での 深
海探索、南極調査隊 や 北極海海嶺研究航海
への参加、宇宙飛行士採用試験 への応募(セ
ミファイナルまで 残る)など 、研究・調査 の 場は
地球上から宇宙までと幅広い。
私の研究テーマ
MY RESEARCH
●極 限環境の生物の調査を通して、生 命の起 源を探 究
現在 の 研究では、生命 の 起源は「地球起源説」、
「宇宙起源
説」の 2 つに大別されていて 、その 謎はまだ 解明されていませ
ん 。私自身は 宇宙 に 基 があり、それが 天体 に 散らばったと考
えた 方 が 、シンプルではないかと考 えています 。地球上 の 何
百 万 種 もの 生 物 の 系 統 を 遡 ると 、1 本 の 糸 にたどり着 きま
す 。これまで 極限環境 で 発見した 生物もDNA や 構成分子を
分析 するとすべて 1本 の 進化系統 に 乗ってしまうのです 。私
は 、1本 の 系統 ではない 可能性 に 期待していて 、そうではな
い 生物を 発見 できたらすばらしい 、発見したいと考 えていま
す 。また 、生命 の 起源を考えることは 未来を考えることでもあ
ります 。地球 や 宇宙 の 歴史 の 中 から、私 たち自身が 現在 の 世
界を見直 す 、未来を考えることが大事 だと思っています 。
●長沼研究室
地球上 のあらゆる場所に存在 する微生物を対象に、その 生態
や 生理を研究しています 。特に、砂漠や南極、深海に代表され
追う。
る、ヒトや、一般的な動植物・微生物にとって極限環境とされる
場所で生育 する微生物にスポットを当てています。最終目標は
生命 の 起源を解明し、宇宙生物 の 存在を探 ることです 。不定
期で 開催される研究室の食事会では、お互 いの研究話に花が
咲き、メンバーの親睦がより一層深まります。
生命の謎を解く鍵「D-アミノ酸」
を
用いる微生物を探す。
学生実験の授業で
微生物の可能性に興味を抱く
高
酸があり、基本的な物理化学構造は同じです。
しかし、生体のタンパク質を構成するアミノ酸は、
ほとんどがL-アミノ酸であり、大多数の生物がD-
校時代は、漠然と生活に関わる勉
アミノ酸を利用していません。
なぜ、地球生命体
強がしたいと思っていて、生活なら食
はL-アミノ酸を基本構造に選択したのか、
その
品関係が近いと考えて生物生産学
部を選びました。2年次の長沼先生の授業で、
理由は現在も解明されていません。
ところが、微
生物の中には、D-アミノ酸を利用するものが存
微生物の実験をした時に、身の回りには実にい
在することがわかってきました。
そこで長沼先生か
ろいろな微生物がいることを知りました。例えば味
ら、D-アミノ酸を使う微生物を探してみてはどうか
噌や醤油、酒などにも関わっている、私たちの目
とサジェスチョンをいただきました。現在は、D-アミ
には見えない微生物の力や神秘性を感じまし
ノ酸を優位に用いる、
あるいはD-アミノ酸でのみ
た。
きっと微生物には無限の可能性があるので
生育する微生物を見つけ出すための培養実験
はないかと考え、
もっと深く学んでみたい、研究し
を行っています。大学内で水や草木・土などの
てみたいと思うようになったのです。
サンプルを採集し、液体物はD-アミノ酸固体培
地に、固形物はD-アミノ酸液体培地にまきます。
D-アミノ酸を使う
微生物を探す培養実験
こうして成長した微生物を、何回か植え継ぎし
て、D-アミノ酸を使って生きる微生物を探し出す
のです。今はやっと培養に成功した9つのサンプ
私の研究テーマは、
「 D-アミノ酸を使う微生物の
ルから読み取ったDNAの解析を専門機関に依
研究」
です。
アミノ酸は、細菌からヒトに至るまで、
頼し、結果を待っている段階です。解析結果が
あらゆる生体に欠かせないタンパク質を構成す
返ってきたら、
データベースで検索にかけて、す
る化合物です。
アミノ酸にはL-アミノ酸とD-アミノ
でに発見されている微生物のDNAと比較しま
す。
このような実験を通して、D-アミノ酸を用いる
微 生 物の生 理・生 態・構 造などを探りたいと
生物生産学部 生物生産学科
生物圏環境学コース
4年次生(平成25年度)
村瀬 良太
自分で学び、考え、発想する。
思っています。世界中を文字通り飛び回って調
実験を繰り返す研究成果を
そのスケールや厳しさには大きな違いがあると思
いつか社会で役立てたい。
査・研究をされている先生と、学生の私とでは、
いますが、
どんなものが見つかるかと期待し、何か
特異なものを見つけたいという思いはきっと同じ
ではないかと感じています。
Ryota Murase
作業の中で感じる楽しみや
喜びが次の発想につながる
(本文中の学年表記は取材当時のものです。)
PROFILE
2年次の春季休業を利用して、語学研修を目的に1カ
月、イギリス・ロンドンの 語学学校 で 学 ぶ 。3年次 の 夏
季休業中 の 海外実習 ではフィリピンの 漁村生活 や 国
現段階では、
いくつかのサンプルを育てただけで
際協力機構(JICA)の 仕事も見学。これらの 体験を
すが、培地作りの1週間、
その後の2∼3週間の
通して 、自分 が 今学 んでいる成果を日本 だけではな
植え継ぎ作業は、
まだ技量が不十分な私にとっ
く、発展途上国でも役立てたいと考えるようになった。
ては、
なかなか大変な時間でした。
もちろん、今回
の解析では何もヒットしないかもしれません。
そうな
ると、
サンプル採集から再スタートです。実験を開
始した時は、
そんなに簡単に微生物は見つから
ないだろうと思っていただけに、
シャーレの中で微
生物が育ち始めた時の喜びは得がたいものでし
た。一見、地味な作業にも発見や経験、
さらに楽
しみや喜びがあることがよくわかりました。
こうした楽
大学でのサンプル 採集の様子。
土から採取したサンプルから生育した 微生物を、画線法 で
D-アミノ酸固体培地に植え継ぎした様子。
しみや喜びをエネルギーにして、
自ら考え、発想す
ることが研究というものではないかと思っています。
Researches
010
研究者
×
研 究
×
学 生
ଈ 03
戦略的な免疫制御による治療
医学部/大学院医歯薬保健学研究科 応用生命科学部門 消化器・移植外科学
次世代の癌治療、制癌免疫療法の
疫療法の
確立を目指す。
拒絶反応も感染症も防ぐ
移植手術を目指して
肝臓癌を治す、新しい
免疫療法の確立は間近
たち消化器・移植外科学の移植外
科グループでは、肝臓・腎臓・すい臓
移植に取り組んでいます。移植手術
は、臓器不全に対する究極の治療と言われるもの
で、臓器を取り換える手術です。手術自体に高度
な技術が求められることはもちろんですが、何よりも
大変なことは、他者から提供された臓器を異物と
判断し、
攻撃・破壊しようとする免疫反応
(拒絶反
応)
の抑制です。
これには、移植を受ける患者さん
の免疫力を下げる免疫抑制療法で対処するので
すが、
免疫力の適切なコントロールが非常に難しい
という問題を抱えています。患者さんの状態を見な
がら、経験値に基づいて治療しているのが現状で
す。免疫系は病原体などから生体を保護する機
構です。従って、
免疫力を下げ過ぎると、
ウイルスや
細菌の侵入による感染症などが発生しやすくなっ
てしまいます。
そこで、
私たちは、
患者さんごとの免疫
力をモニターできる検査方法の研究に取り組みま
した。
その結果、免疫力を下げて拒絶反応を抑え
ながらも、病原体などが侵入しにくい状態に患者さ
んを誘導するシステムの開発に成功。
現在では、
移
植後の臓器の生着率が格段に上がっています。
次に、全身に存在しているNK細胞のうち、
なぜ肝
臓由来のものが高い抗癌機能を持つのかという疑
問が浮かびました。研究の結果、肝臓内のNK細
胞が非常に若い細胞であることがその答えだとわ
かってきました。
そこで、
骨髄で作られる幹細胞を取
り出してNK細胞に成長・増殖させ、
それを患者さ
んに投与すれば、
より治療の幅が広がるのではない
かという推論を立てて、
さらに研究を進めています。
すでにマウス実験で効果が確認できています。患
者さん自身の体内にもともと存在する免疫細胞だ
から副作用が起きない、
つまり、
患者さんに優しく癌
には効果のある、新しい治療法が確立する時は、
間近に迫っていると確信しています。
私
ナチュラルキラー細胞を
使って癌の再発を抑える
一方、
進行性の肝臓癌による臓器不全で移植手
術をした場合、
もう一つ難しい問題があります。
それ
は、肝臓移植後に、癌が再発する場合があること
です。
この問題を解決するために着目したのが、
癌
細胞などを攻撃する自然免疫細胞(ナチュラルキ
ラー細胞、以下NK細胞)
です。実は、癌細胞は、
毎日、
数千から数万という単位で人間の体内に発
生し、
それをNK細胞が退治しているのです。私た
ちの研究の結果、肝臓のNK細胞は数が多く、
し
かも抗癌機能が高いことがわかりました。化学的な
抗癌剤は癌細胞だけでなく健常な細胞にも影響
を及ぼすために副作用を伴いますが、NK細胞は
癌細胞を選択して攻撃するのです。
そこで、移植
手術の際に洗浄してしまう肝臓の血液中からNK
細胞を抽出し、培養・活性化させ、手術後の患
者さんに点滴で投与してみたのです。
これまでに30
人弱の患者さんにこの治療を行っていますが、癌
の再発率が15%下がり、生存率は倍以上に上が
るという確かな成果を上げています。
011
広島大学 の 研究
拒絶反応と感染症・癌再発の予防。
相対することを両立させる、
次世代型の臓器移植を実現したい。
ダメージを受けて
再生が期待できない
肝臓
体内に残っている
可能性がある
癌細胞
新しい肝臓に
住み着いた
癌細胞
教授
増殖した
癌細胞
Hideki Ohdan
PROFILE
肝臓癌
全摘出
提供された
肝臓
移植
大段 秀樹
免疫抑制剤の投与
肝臓 の 予備能(余力)が 低下した 場合 の 、肝臓癌 の 唯一 の 根治治療法 は 移植 だが 、
進行性の肝臓癌の場合では移植後に癌が再発 する可能性が懸念される。
私の研究テーマ
広島大学医学部卒業、同大学院医学系研究
科博士課程修了。博士(医学)。ハーバード大
学医学部 マサチューセッツ 総合病院リサーチ
フェロー 、広島大学病院臨床助教授、講師な
どを経て、2008(平成20)年より現職。専門
は 消化器外科、臓器移植、移植免疫。多くの
研究者 がテーマを共有 することで 、より早く、
より高度 な成果 が 得られるという考えのもと、
国内 はもとより、海外 の 大学との 共同研究体
制も構築。臨床医・研究者として 、癌治療・臓
器不全・再生医療の発展を目指している。
MY RESEARCH
●戦 略的免疫制御で、移植治療の完成形を目指す
臓 器 移 植 の 術 後 管 理に不 可 欠な免 疫 抑 制 剤 の 投 与 で す
が 、拒絶反応を抑制 すると同時 に 、病原体 への 防御力 も抑
えてしまい 、感染症 の 危険 が 伴 います 。そこで 、病原体 には
正常 な生体防御機能を維持しながら、拒絶反応を回避 でき
る免疫抑制法 の 開発 は 非常 に 重要 な課題 です 。現在 では 、
モニタリングシステムの 開発 により、術後 の 状態 に 応じた 免
疫コントロールが 可能となりました 。また 、進行性肝臓癌に 対
する移植治療 の 場合、移植後 の 癌再発 が 懸念されます 。再
発予防として 、移植される肝臓 から大量 の NK細胞を取り出
し、これを用 いた 制癌免疫療法を生み出しました 。拒絶反応・
感染症・癌再発 のすべてを防ぐ、安全 で 、予後 の 良好な移植
手術 の 確立を目指して 、日々 の 研究に取り組 んでいます 。
●大段研究室
私 たちの 講座 では 、上部消化管、下部消化管、肝胆膵、臓器移植
法を探る。
の4グループが診療、研究、教育を推進 するユニットとして 切磋琢磨
しています。病気・病態のメカニズムの解明や新規治療の開発には、
医師が、基礎的な観点から病気を克服 する気持ちを持って 行うこと
が 重要 です 。当講座 では 、このような発見 やアイデアを新しい 治療
の開発につなげるSurgeon scientist/Academic surgeon
の育成を目指しています。
免疫抑制剤のコントロールにつながる
リンパ球を研究。
病気のしくみについて
学びたいと考えて進学
ヘルパーT細胞の研究が
免疫抑制剤の研究につながる
校時代は生物が好きだったので、生
物分野で研究に携わりたいと思って、
理学部や農学部への進学を考えて
いました。
しかし、家族の病気をきっかけに医学部
への進学を考えるようになりました。医師として患
者さんの病気を治療するだけでなく、病気のしくみ
について学び、研究したいという思いが強くなった
のです。入学して、2年次が終わる頃、研究分野
について強い関心があることを指導教員の大段
先生に相談したところ、
「それなら、私の研究を手
伝ってみないか」
と誘っていただき、補助研究員と
して先生の研究をお手伝いさせてもらうようになり
ました。手伝いといっても、
まだまだ医学知識も経
験も少ない2年次生です。
まず、研究や実験を見
学することが補助研究員としての第一歩でした。
それから実験器具の洗浄などをしながら、
ピペット
などの器具の扱い方を教えていただき、徐々に本
格的な実験に携わるようになっていきました。
3年次に進み、大段先生から
「そろそろ自分で
テーマを持ってみないか」
と言われて取り組み始
めたのが、現在の研究テーマである
『免疫抑制
剤によるリンパ球の分化について』
です。血液中
のリンパ球内に存在し、免疫システムの一部を司
る
“ヘルパーT細胞”
を調べる研究です。ヘル
パーT細胞は、体内に侵入してきたウイルスやバ
クテリアなどの病原体の情報を、他の免疫細胞
に提供したり、
ナチュラルキラー細胞などの病原
体への攻撃力を調節したりする、
いわば免疫シス
テムの司令塔のような役割を担っています。
その
ヘルパーT細胞に、他の細胞や免疫抑制剤を
加えると、
さまざまな細胞に分化します。
その分化
の状態や変化の様子を実験で観察するのです。
臓器移植手術では、手術後に起きる拒絶反応
を抑えるために、患者さんに免疫抑制剤を投与し
ます。現在、投与量のコントロールは、患者さんの
状態を見ながら行うという経験値に基づく方法で
行われています。
この実験は、抑制剤を加えたヘ
ルパーT細胞がどのように分化するか、
また分化
する割合を調べることで、
どの抑制剤をどれだけ
使うのが効果的なのかといった、
より適切な抑制
剤の管理やコントロールにつながる研究の1つで
す。実験を行って、
その過程を実験ノートに書き
込み、計測データを集めていくという繰り返しの作
業が多いのですが、
こういう地道な作業もやって
みると面白いと思っています。
しかも、
このような日々
の実験や研究が、大段先生の研究へと集約さ
れ、治療法の確立につながると思うと、実験の重
要性を強く感じます。
高
研究室での
研究室での経験を生かして
臨床医として働きながら、
医学部医学科
6年次生(平成25年度)
免疫疾患の研究に取り組みたい。
荒木 慧
Kei Araki
(本文中の学年表記は取材当時のものです。)
PROFILE
家族 の 病気をきっかけに 、医学を学 びたいと考 えるようにな
臓器灌流(肝臓の血液を流し出 す)
レシピエント
(臓器を提供される人)
り、広島大学医学部 に 進学。医学部 には 、指導 や 研究 に 熱
心に取り組 んでいらっしゃる先生が多く、また 、大学病院を始
将来は、医師として臨床と
研究の両分野に取り組みたい
めとする施設 や 設備 も充実。臨床 の 勉強 も研究 も、思う存
分、取り組める環境が整っていることを実感している。医師国
家試験を控え、受験勉強にも余念のない毎日を送っている。
安全キャビネット
CO2インキュベータ
エアシャワー
OUT
OUT
流し台
遠心機
バスボックス
アイソレータ
オートクレープ
中央実験台
常駐スタッフ
灌流液を抽出
細胞療法室にて
リンパ球
(NK細胞)
に調整し培養
手術3日目
点滴で投与
超純水装置
IN
クリーンルーム
マルチガス
インキュベータ
提供された
肝臓
エアシャワー
IN
パスボックス
肝由来リンパ球
(NK細胞)
超低温フリーザ
バイオメディカル
フリーザ
薬用冷蔵
ショーケース
無菌操作でNK細胞を回収し、
培養 する細胞療法室の見取り図。
提供された 肝臓 の 血液を、移植前に臓器保存液 で 流し出 す(臓器灌流)
際に得られる灌流液から、無菌操作 で NK細胞を効率よく回収 する。取り
出したNK細胞を培養し、移植手術後にレシピエントに点滴で投与 する。
国家試験を受けて医師免許を取得した後は、2
年間の初期研修を経て、3年間の後期研修に
進みます。
このときに専門の診療科目を決めること
になります。現在は、
自己免疫疾患の1つで、臓
器に炎症が起こり、臓器の機能障害をもたらす
膠原病の研究に興味を持っているので、免疫に
関係する内科系の診療科目を考えています。
こう
した考えは、
やはり、大段先生の研究室で免疫
の研究に携わったことで生まれてきたものだと思い
ます。臨床医として患者さんと向き合いながら、研
究にも取り組んでいきたいと思っています。
Researches
012
研究者
×
研 究
01
「科学者」の起源と
成り立ちを探る。
科学者という職業がいかにして生まれ、
社会的な位置を獲得していったのか。
科学の歴史を社会との関わりと共に解明する。
総合科学部
大学院総合科学研究科
准教授
隠岐 さや香
Sayaka Oki
PROFILE
東京大学教養学部卒業、フランス 社会科学高等研究
院D.E.A取得、東京大学大学院総合文化研究科博士
課程単位取得満期退学。博士(学術)。日本学術振興
会特別研究員、東京大学特任研究員などを経て 2010
(平成22)年より現職。専門 は 科学技術史。18世紀フ
ランスを舞台に「科学者」の歴史を探っている。
科学者の起こりを探る
18
世 紀 、当時の大 学は自然 科 学 研
究の場ではありませんでした。
という
のも、19世紀よりも前の大学は中世
の大学の構造を受け継いでおり、神学部・法
学部・医学部がその中心でした。
自然科学はそ
の枠組みの外で発達した学問であり、特にフラ
ンスの場合は、
アカデミーという別の組織の中
で盛んになっていきました。
このような歴史の中
で、科学者という集団がどのように出現してきた
のか、
そして科学と社会のあり方はどうであった
のか。18世紀の西洋、中でもフランスを中心に
その研究を行っています。
研究の発展
フランスでは、1780年代になって公共事業に学
者を招くことが活発になり、高度な数学が公共
事業の実際的なことに使えるという信念がはっ
きりしてきました。
これらの事実は、当時の思想
や哲学との関連や政治状況などをつなげて分
析することで得られました。
そして、
これらのさまざ
まな歴史的アプローチにより、今で言う科学者
う。今後は、パリの王立アカデミーからそれを取
に当たる人々は当時、純粋な知的好奇心から
り巻く地方のアカデミーへと視野を拡大し、
それ
科学史研究の魅力
学 問をする一 方で、科 学の「 有 用 性 」という
ぞれの議論のあり方に違いはあるかといったと
テーマについても熱心に議論していたことや、
そ
ころをさらに細かく見ていきたい。
また、
コンドルセ
過去にはそうではなかったといったことを発見す
の議論の中で科学の公共善への貢献、すな
が周りの学者たちと考えた、社会と人間に関わ
る喜びや、
なぜ私がここにいるのかという社会的
わち「 科 学は世の中のためにどう役に立てる
る学問についての全体的な研究にも挑みたい
な起源がちらりと見えてくる楽しさを感じることが
か」
という問題が深く考え抜かれていたこともわ
と考えています。
できるのです。
また、広島という土地は、
いわば日
このような研究から、
当たり前と思っていることが
かりました。
この分野横断的な時代の分析手
本が本 来 意 識すべきであった科 学の問 題を
法は、
日本やフランスで高く評価されています。
ずっと考えてきた場所であり、私自身の研究とも
真ん中の学問
した想いを教育の場でも伝えることで、学生たち
広い意味でつながっていると感じています。
こう
の思想を刺激していきたいと考えています。
私は理系に興味がありながら文系に進んだた
め、
そうした区分に疑問を抱いていました。
しか
し、大学3年の時に「科学史」という文系と理
系の真ん中に位置する学問があるということを
知り、
さらに、
パリ王立アカデミーの終身書記で
あり、晩年には数学を社会の現象にどう適用す
るかを研究したコンドルセのことを先生から教わ
りました。現在の研究は、
コンドルセからアカデ
ミーへと研究対象が広がったものと言えるでしょ
013
広島大学 の 研究
パリ王立科学 アカデミー
カデミ 創立記念メダル
ダ (17世紀)。
知恵を司る女神ミネルヴァが描かれている。
科学 アカデミー 最後 の日の 議事録(1794年)。フランス 革命 の 過
激化により廃止されてしまう。
研究者
×
研 究
02
人工制限酵素をデザインし、
ゲノムを自在に改変する。
理学部
大学院理学研究科
教授
人工の制限酵素(人工ヌクレアーゼ)を使って、
目的の遺伝子だけを自在に改変する
ゲノム編集技術を開発。
自然突然変異
次世代に引き継がれた場合、
自然突然変異と
山本 卓
Takashi Yamamoto
PROFILE
広島大学理学部卒業、同大学院理学研
究科修了。修士(理学)、博士(理学)。熊
本 大 学 助 手 、本 学 講 師 、助 教 授 を 経 て
2004(平成16)年より現職。専門 は 発
生生物学、ゲノム 生物学。
「 ゲノム 編集コ
ンソーシアム 」の 代表として 、国内 の 人工
ヌクレアーゼ 研究を推進している。
人工ヌクレアーゼ
なるのです。
自然突然変異は、DNAのさまざま
生
物のDNA(遺伝子)は、
さまざまな
な部位に起こる可能性があり、
生物の進化の原
近年、
目的とする遺伝子を狙って切断し、改変
刺激(紫外線や放射線)
によって切
動力となります。
自然突然変異は品種改良など
することが可能な人工的な制限酵素(以下、
断を受けますが、
そのほとんどは細胞
に利用されているものの、
ランダムに起こるために
人 工ヌクレアーゼ)が開 発され、基 礎 研 究の
の機能によって正確に修復されます。低い確率
有用品種を作出するのに多大な労力と長い時
分野だけでなく、応用分野での利用が期待さ
でDNAの修復のエラーが起こり、
そのエラーが
間が必要とされています。
れています。人工ヌクレアーゼは標的のみを切
断し、
その修復のエラーを誘導するため、外来
のD N Aを入れて改 変するこれまでの遺 伝 子
組 換えとは異なる技 術と考えられています。広
島大学理学部生物科学科の分子遺伝学研
究 室では、
この人 工ヌクレアーゼの設 計と作
製、
およびさまざまな生物での利用について研
究を行っています。
次世代の遺伝子改変技術
分子遺伝学研究室では、2種類の人工ヌクレ
アーゼ(ZFNとTALEN)
について独自に作製
することに成功し、培養細胞や動物での遺伝子
改変を全国の大学や研究機関の研究者と展
開しています。
これまでに、
コオロギ、
ウニ、
ホヤ、
メ
ダカ、
ゼブラフィッシュ、
ツメガエル、
ラットを使って、
目的の遺伝子の改変を報告してきました。例え
ば、
コオロギの表皮の黒化に関わる遺伝子を標
的とする人工制限酵素を導入し、標的遺伝子
が破壊された白色のコオロギを得ることに成功し
ています。人工ヌクレアーゼを使った遺伝子改
変技術は、細菌や植物を含むすべての生物に
利用可能であることから、
さまざまな生命現象の
機能解明に今後利用されると注目されています。
応用研究への期待
人工ヌクレアーゼを用いたテクノロジーは、
これま
での遺伝子組換え技術とは異なり、医薬学、生
物育種などの広範囲の応用研究に利用できる
ものと期待されています。現在、特に力を入れて
いるのは、人工ヌクレアーゼを用いたヒト万能細
胞(iPS細胞)
での遺伝子改変であり、京都大
学との共同研究によって、疾患遺伝子(病気に
関係する遺伝子)の改変技術の確立を目指し
ゲノム 編 集 に 利 用 され る2つ の 人 工 ヌクレア ー
ゼ 。上 がジンクフィンガーヌクレアーゼ( Z F N )で
下 が TALE ヌクレアーゼ(TALEN)。
色素合成に 関係 する遺伝子を人工 ヌクレアーゼで 破壊 すると、オタマジャクシ
で目や体全体の色素が合成できず白くなる(右)。
ています。
この技術が、
さまざまな病気の治療に
道を開くことを願っています。
Researches
014
研究者
×
研 究
03
言語研究を通して
未知の世界と出会う。
蘭学時代の外来語の研究を出発点に、
言語の目的や、言語の背景にあるそれぞれの歴史や文化を探究する。
文学部
大学院文学研究科
教授
ジャン=ガブリエル・サントニ
SANTONI, Jean-Gabriel
PROFILE
ニース 大学卒業、パリ第3大学修了。修士(日本語)。愛知
県立大学客員助教授、筑波大学・慶應義塾大学講師、本
学助教授を経 て 、2007(平成19)年より現職。日本語 に
おける外来語研究 や 、日本語とフランス 語 の 慣用表現 の 比
較研究などを行う。
地の歴史や文化が大きく関係しています。人が両
パの言語、文化が取り入れられた
“蘭学時代”
の
親や生まれた環境から学んだ言語は、
その人の中
“外来語”
に興味を抱くようになりました。
外来語とは、
で母国語として育まれます。
この母国語は、
その土
異文化が言語の中に取り入れられて、
生まれたもの
地の人々が長年にわたって築き上げてきた歴史や
に他なりません。
その外来語が、
どのように日本で吸
文化と共に培われたものなのです。
また、機械では
収され、
使われるようになったか、
それを探る研究は、
伝えられない発話者の
“気持ち”
や
“人となり”
も、
そ
そのまま異文化の研究であり、
異文化を理解すること
の人が生まれ育った文化に由来するところが大きい
につながります。
現在、
私は、
それぞれの言語の各所
ものです。
さらに、
同じことを言うにも、
それぞれの言語
にその国の歴史や文化が見え隠れすることの面白さ
で表現は異なるもので、
これもそれぞれの歴史や文
に魅力を感じ、外来語の研究や、
日本語とフランス
化の違いに基づいて生まれたものです。
ですから、
語の慣用表現の比較研究などに取り組んでいます。
外国語を学ぶことは、
異文化に触れることであり、
未
そして、
フランス語を通して、
フランス、
ヨーロッパの歴
知の世界の発見でもあるのです。
史と文化を少しでも紹介できればと考えています。
私の母国語はフランス語ですが、
生まれたのはモロッ
そ
もそも言語とは何なのでしょうか。
その第
コです。
モロッコはフランス語やアラブ語など複数の
一の役割は、
自分の意志や気持ち、
必
言語が使われる地域であるため、
自然に多様な言
要なことを他者に伝える道具だということ
です。道具だとすれば、
「音声自動翻訳機」のよう
語と文化に触れて成長したと言えるでしょう。
その後、
大学で言語形態の全く異なる日本語を学び、
日本
な機械に代行させればよい、
苦労して母国語以外
語研究を通して新たな文化・歴史に出会いました。
の言語を学ぶ必要はない、
という意見もあるかもしれ
中でも、
島国の日本で、
鎖国時代にわずかに開かれ
ません。
しかし、
それぞれの言語の背景には、
その土
た長崎の出島という扉から、
オランダを始めヨーロッ
研究者
×
研 究
左から
『洋学史事典』、
『外来語研究』、
『JAPAN AND THE
DUTCH 1600-1853』
04
法学部
大学院社会科学研究科
課税の公平化・適正化を追究する。
Takahiro Tezuka
法解釈および法政策の両輪で、
現代国家を支える租税制度の構築を目指す。
慶應義塾大学総合政策学部卒業、同大学院法学研究科
修了。博士(法学)。本学助教授を経 て 、2014(平成26)
年より現職。専門は行政法、租税法、租税政策論。
教授
手塚 貴大
PROFILE
ビ
ジネスの世界では、
経済取引を通じて
は公平かつ適正にかけられる必要があるのです。
得られる成果(例えば、
所得)
には、
必
税金をかけることを課税といいますが、公平かつ
ずと言ってよいほど所得税、法人税、
適正な課税には国会が定める法律の根拠が必
消費税などの税金がかかります。税金は国家が
要です。
そのため、公平で適正な税負担を生み
私たちに対してさまざまな公共サービス
(身近なも
出すためには、法律の正しい解釈が必要ですし、
のとして、道路整備、公共施設の提供、学校の
法律自体を上手に作らなければなりません。
しか
設置、病院の運営など数えきれないものがありま
し、何が公平か、何が適正か、
は人々によって、
ま
す)
を提供するために使うので、現代国家におい
たは時代によって違いが生じるかもしれません。私
ては絶対的に必要なものです。
しかし、
同時に、
税
の専攻する租税法はそうした問題を考える学問
金がかかることは私たちの財産の一部を強制的
です。
そして、
きちんとした基準・ルールを作ってそ
に国家が取り上げることを意味しますので、税金
の枠内で解釈や立法を行わなければいけませ
ん。
そうしないと人々は自分だけが得をするように
物事を動かすようになり、経済取引の世界、
ひい
ては社会は安定して運営されません。
ですから、
法律学では資料読解がとても重要で、日々洋書と格闘です。
015
広島大学 の 研究
などの他の学問分野の知識も必要になります。
そ
私は課税の根拠となる法律をきちんと立法し、法
の他にも、今日では、経済取引が国際的に行わ
律に書いてある条文を正しく解釈するために必要
れることが多いので、課税問題は国際化の様相
なそうした基準・ルールについて研究をしていま
を呈しており、例えば、経済取引から生ずる所得
す。
このように租税法においては法解釈論および
についてどの国家が課税権を有するのか、
という
法政策論の両輪がとても重要です。
問題をはじめとして、国際課税問題は数多く生じ
さらに基準・ルールを考えるためには、憲法、行政
ています。私はこのように総合的、学際的、国際
法、
民法、
商法といった関連する他の法制度もふ
的な学問分野の租税法に魅力を感じ、
日々研究
まえる必要がありますし、
経済学、
財政学、
政治学
教育にあたっています。
研究者
×
研 究
05
経済学部
大学院社会科学研究科
データから経済構造を探る。
Kazuhiko Hayakawa
経済理論・データ・統計的手法・コンピュータを
駆使した経済分析を行う。
慶應義塾大学経済学部卒業、一橋大学大学院経済学研究科
修了。博士(経済学)。日本学術振興会特別研究員、本学講師
を経て、2010(平成22)年より現職。専門は計量経済学。
准教授
早川 和彦
PROFILE
一
口に経済学と言ってもその分析対象
方法の大枠は実はそれほど違いません。具体的
は多岐にわたります。例えば、国全体
には、経済分析は大きく理論的分析と実証的分
の経 済 状 況を分 析するマクロ経 済
析に分けることができると考えられます。理論的分
学、個々の企業や個人の行動を分析するミクロ
析では経済の動きや経済活動の本質的な部分
経済学、国家間の経済活動を分析する国際経
だけを抜き出し、
それを数学的に描写し、政策的
済学などがあります。
これら以外にも、公共経済
インプリケーションなどを導きます。
一方、
実証的分
学、
労働経済学、環境経済学、産業組織論、
金
析では統計手法を経済データに適用することで、
融論、
ファイナンスといったトピックが経済学にはあ
理論的分析から導かれた帰結が現実経済で妥
ります。最近では教育問題を経済学的に分析す
当であるかを判断したりします。私の専門分野で
る教育経済学と呼ばれる分野もあります。
さらには
ある計量経済学は、実証的分析を行う際に用い
経済の歴史を分析する経済史や過去の経済学
られます。簡単に言ってしまえば、計量経済学とは
者の思想を研究する経済学史と呼ばれる分野も
統計分析手法を経済データに適用して経済を
あり、
経済学の守備範囲は広範にわたります。
とこ
分析する、
ということです。計量経済学ではデータ
ろが、
どのトピックに焦点を当てるにせよ、
分析する
を扱いますので、
コンピュータの利用は不可欠で
男性賃金の分布
女性賃金の分布
男女の賃金分布を表 すヒストグラムとカーネル 密度
研究者
×
研 究
算結果を出してくれるため、初学者が計量経済
す。
また、
本格的な計量経
学を学ぶときのハードルが下がっています。一方
済分析を行おうとすると、
で、高度情報化時代の今日、
いろいろな場所で
専 用の分 析ソフトを使う
さまざまなデータが収集・蓄積されており、今後、
必要があります。
一昔前は
その膨大なデータを活用した分析や意思決定が
自分でプログラムを組む
多様な場面で行われると予想されます。
したがっ
必要がありましたが、最近
て、計量経済学の知識を含めた幅広い統計的
のソフトウエアは数回クリッ
スキルを持つことがますます重要になってくると考え
クするだけで、
さまざまな計
られます。
06
工学部
大学院工学研究科
微粒子テクノロジーが拓く、
人と地球にやさしい技術。
21世紀の花咲か爺さん、灰を機能性材料にリサイクル。
教授
福井 国博
Kunihiro Fukui
PROFILE
京都大学工学部卒業、同大学院工学研究科修了。博士
(工学)。本学助手、助教授を経 て 、2011(平成23)年よ
り現職。専門は化学工学、微粒子工学、エアロゾル 工学。
電子レンジでチン! 省エネ・短時間で行う微粒子材料合成。
み
なさんは、
微粒子と聞いて何を思い出
つの研究内容をご紹介しましょう。
しますか。小 麦 粉や米 粉といった食
総発電量に占める火力発電の割合が昨今増加
物、
コピー機のトナー、顆粒状の飲み
しているために、石炭火力発電所からの粒子状
薬、
ディーゼル車の煤塵、
機能性ナノ粒子…探し
廃棄物である石炭灰の排出量も増加していま
ていくときりがありません。意識することはないかもし
す。
また、再生可能エネルギーの1つとしてバイオ
れませんが、
身の回りにはたくさんの種類の微粒
マス発電が注目されており、
そこから排出される草
子があふれています。
このような微粒子を合成し
木灰も増加すると予想されています。私たちはこ
たり、効率的に捕集したり、精密に分離したりする
れらの灰を放射性物質の吸着剤や化学反応の
技術が微粒子テクノロジーです。
この微粒子テク
触媒として利用できる高性能な機能性材料に再
ノロジーを利用し、環境を改善する技術や人と地
資源化する技術の開発を行っています。
また、一
球にやさしい材料創製プロセスを開発することが
般廃棄物を焼却場で焼却した時に排出される
私たちの研究テーマです。
ここでは、
その中から2
ICP発光分析装置による組成分析
飛灰や家畜骨粉にはカルシウムやリンが多量に
選択的加熱、
局所加熱などさまざまな特徴があり
含まれています。
これらから燃料電池やキャパシ
ます。
このような特徴を効果的に化学反応や材料
ターに利用できる高プロトン電導性材料を創製
合成に使用すると、副生成物の生成を抑制した
することにも成功しており、
これを用いたデバイスを
り反応に必要な時間を著しく短縮できたりします。
作製し、
その性能評価も行っています。
私たちは、
このマイクロ波による加熱と流動層や粉
家庭にある電子レンジは便利な調理器具です。
砕といった微粒子ハンドリングプロセスを組み合わ
これはマグネトロンで発生された2.45GHzのマイク
せた新たな材料合成プロセスを提案し、
タッチパ
ロ波が物質を加熱できるという性質を利用してい
ネルなどに使用されるITOという物質の合成時間
るのです。
マイクロ波による加熱には、急速加熱、
を30分の1以下とすることに成功しています。
Researches
016
研究者
×
研 究
ଈ 07
再生医療実現化に必要な
幹細胞操作技術
次世代の医療として注目される再生医療。
その実現には、
まだ多くのバイオエンジニアリング技術が不可欠である。
再
生医療という言葉をよく耳にするようになり
技術的課題を解決する必要があるのでしょうか。
第
ました。
これは、
細胞やタンパク質、
人工
一に、
生体の組織を効果的に再生させるための治
材料をうまく使って、
病気やけがで損なわ
療技術をさらに発展させなければなりません。
これに
れた体の一部を元通りに復元するための新しい医療
は、
細胞生物学の知識だけではなく、
細胞の機能や
技術です。
再生医療技術の発展によって、
これまで
組織構築能を高度に制御するための操作技術が
簡単には治すことのできなかった病気やけがを治療
しかしそれだけではありません。
再生医
求められます。
できるようになると大いに期待されています。
とりわけ超
療を一般医療として普及させるには、
移植に適した
高齢社会の課題である健康寿命の延伸にとって、
細胞を大量に供給するシステムの構築や、
移植細胞
再生医療の果たす役割は計り知れません。
京都大
の品質検査法の標準化など、
多くの工学的課題を
学・山中伸弥教授が作成したiPS細胞に代表される
解決しなくてはなりません。
バイオエンジニアリングを専
歯学部
大学院医歯薬保健学研究科
教授
加藤 功一
Koichi Kato
PROFILE
京都大学農学部卒業、同大学院工学研究科修了。博士
(工学)。神戸大学工学部助手、フライブルグ 大学高分子
化学研究所博士研究員、京都大学再生医科学研究所准
教授を経て 、2011(平成23)年より現職。専門はバイオエ
ンジニアリング。
ように、
生体組織の再構築に有効な幹細胞に関する
門とする私たちの研究グループでは、
特に口腔にお
知識・技術が飛躍的に深化し、
その結果、
再生医療
ける再生医療に興味と使命感をもって、
再生医療実
の実現に対する期待がいっそう高まっています。
現化に必要な幹細胞操作技術に関する研究教育
では、
再生医療を実現させるために、
今後どのような
活動を行っています。
間的・空間的に制御するための高性能細胞キャリ
例えば、
高純度の移植細胞を大量に供給することを
アーの分子設計も進めています。
以上の研究開発に
抗体 アレイ(25㎜角)を 使 えば 、細胞 の 表面 マーカー 発現 パ
ターンを瞬時にチェックすることができます。
研究者
×
研 究
目的として、
幹細胞を選択的・迅速・安全に増殖させ
は、
生物学だけではなく、
マテリアルサイエンスやナノテ
ることのできる細胞培養システムの設計に取り組んで
クノロジーなど、
異なる学問分野の知識・技術の融合
います。
また、
そのようにして製造される細胞の品質管
が極めて重要です。
理を行うため、
簡便かつ再現性の高い細胞分析法
次世代医療の早期実現を目指して、
バイオエンジニア
の確立を急いでいます。
さらに、
組織再生過程を時
リングの立場から課題の解決に挑戦してみませんか。
ଈ 08
小分子が制御する生体機能を
解明する楽しさ
医薬品や環境化学物質など、
さまざまな物質を構成する小分子化合物。
その生体作用メカニズムを解明し、効果的な医薬品の創製を目指す。
また、
それらの小分子化合物が、
生体の中でどのよ
薬学部
大学院医歯薬保健学研究科
教授
太田 茂
Shigeru Ohta
PROFILE
東京大学薬学部卒業、同大学院薬学系研究科修了。薬学
博士。スイス 連邦工科大学博士研究員、東京大学助手、
助教授を経 て 、1997(平成9)年より現職。神経化学・代
謝化学・環境化学 などを「生体機能分子動態」という観点
から捉えようとしている。
未処理 の 細胞
化学物質を曝露した細胞
うに変化をしていくのかにも興味を持っています。
例えば、
環境化学物質の中には動物や人間に対
して毒性を持つものが存在しています。
この毒性は
神経系に対するものであったり、
生体のホルモンの
働きに悪影響を与えるものであったりしています。
自
分自身が影響を受けるものだけでなく、
自分の子
供たち
(次世代)
に対して影響を与える可能性も
存在しています。
これらの作用を実験で明らかに
これによってより良い医薬品を創製する際にも役立
し、
身の回りに存在する物質のうちでどのような物
つと考えています。
質が安全で、
どのような物質が危険なのかを明ら
私たちは神経難病であるパーキンソン病の原因
かにすることで私たちの暮らしに役立てようと考えて
解明を行っています。
脳内に存在する一連の小分
います。
医薬品は、
生体の中でいろいろな化合物
子化合物が発症原因に関わっているかもしれない
境化学物質や医薬品など、私たちの
に変化していきます。
私たちはその動きを捉え、
医薬
と考えています。
実験動物や細胞を使ってどのよう
身の回りには実にさまざまな物質が存
品が生体のどこでどのように働いているのかを把握
なメカニズムで発症するのかについて検討を行っ
在しています。
それらの中には生体内
しようとしています。
倫理的な観点から、
ヒトが使う医
ているところです。実験をしている最中に、発症原
でいろいろな良い働きをするものもありますが、
悪い
薬品についても実験は主に動物を用いて行わなく
因に関わっている化合物とそっくりの物質が、
実は
働きをするものもあります。私たちはそのような小分
ヒトの
てはいけません。
このギャップを埋めるために、
発症を防御する可能性がある事を突き止めまし
子化合物が生体に対してどのような機能を発揮し
肝臓を持っているマウスを使ってヒトにおける医薬
た。
この物質はパーキンソン病の治療薬になる可
ているかを調べ、
そのメカニズムを解明しています。
品の動きを予想する方法を確立しようとしています。
能性があるのではないかと期待しています。
環
017
化学物質を処理 することで細胞に空胞が増加 する。
広島大学 の 研究
国内有数の面積(880㎡)とクリーン度(クラス10、ケミカル汚染除去)を誇るスーパークリーンルーム
研究施設
×
研 究
ଈ 01 ナノオーダーの世界で最先端が交差する
微細な世界の大きな技術
ナノデバイス・バイオ融合科学研究所
半 導 体の開 発などで培われてきた微 細な技
KEYWORD
術、
いわゆるナノテクノロジーと生物学や医学は
全く異なる分野の研究と思われています。
しか
し、最先端テクノロジーの世界では両者はお互
いの垣根を越えてクロスオーバーし、生物や医
学の分野でもエレクトロニクスが応用されていま
す。
当研究所ではナノテクノロジーだけでなく、
家
庭で使える携帯型がん診断システム、
がんマー
カーを感知する半導体センサー、
食品や環境に
存 在する微 生 物や細 菌などを感 知するセン
電子線描画装置
サー、
画像診断用システムアーキテクチャ等のメ
コンピュータを用いた設計
ディカルエレクトロニクスの研究も行っています。
こ
ナノデバイス
メディカルエレクトロニクス
こでは他大学や企業からの共同研究、受託研
1㎜ の 100万分 の 1 の 単位 で 表 す 大きさのデバイスであり、ナノ
テクノロジーを使えば 100 ナノメートルのインフルエンザウイルス
より小さい 、数10 ナノメートルの 大きさのトランジスタを作 ること
ができます 。
電子工学 の 知識を医学 の 分野に 応用 する学問 で 、生体 の 情報
機構 の 解明 から医療電子機器による病気診断に 至 る課題を解
決します 。
研究所紹介
1986(昭和61)年 に 文部省令施設として 設置された「集
積化システム 研究 センター 」を前身とし、2008(平成20)
年に「ナノデバイス・バイオ融合科学研究所」として 改組され
ました 。ナノ集積科学、集積システム科学、分子生命情報科
学、集積医科学 の 4 つの 研究部門 では 半導体 テクノロジー・
回路システムとバイオテクノロジー・メディカルサイエンスをさ
らに 発展、融合させ 、高度医療保障社会 に 向 けた 新しい 技
術の創生と人材育成の拠点を目指しています。
究も多く行われ、
テクノロジーがどこに向かってい
るか、
イノベーションの現場がいかなるものかを肌
で感じることができます。研究所にはオランダ、
バ
ングラデシュ、
中国、
スリランカ、
ドイツといった国の
大学関係者、研究者、留学生をはじめ、産業
界からは情報通信、医療、
エネルギーなど、多
彩な分野の人が研究しています。研究所は先
端技術だけでなく、
ネットワークも交差する刺激
的なスポットとなっています。
ナノデバイス・
バイオ融合科学
研究所
Researches
018
研究施設 ×
研究施設 ×
研 究
研 究
アフリカ・アジアの
良質な基礎教育発展を目指して
宇宙における高エネルギー活動
現象の多角的観測研究を推進
教育開発国際協力研究センター
宇宙科学センター
写真は、
ケニア都市部の小学校8年生の様子です。
68人の児童が電気の
国内最大級の天体望遠鏡「かなた」を備え、NASAが打ち上げたガ
つかない教室で勉強しています。
当センターは、
国際教育協力フロンティアの
ンマ線衛星「フェルミ」や、宇宙航空研究開発機構(JAXA)
が打ち
開拓および知的リーダーシップの発揮をモットーに、発展途上国の教育研
上げたX線衛星「すざく」
との連携観測を主とする最先端の高エネル
究を行っています。
いまだ最貧国が多いサハラ以南のアフリカ諸国や南アジ
ギー天文学研究を推進しています。宇宙最大の爆発現象であるガン
ア諸国においても、
近年基礎教育の量的拡大は進みました。
しかし、
写真の
マ線バースト、恒星の死に伴う超新星爆発、銀河中心の巨大ブラック
ように今まで以上の数の児童・生徒が教室に詰め込まれていたり、
教員養成
ホールから放出される超高速ジェットなど、
さまざまな宇宙高エネルギー
が追いつかず教員不足になったりと、
教育の質に大きな問題が残りました。
当
活動現象を観測し、
その謎に迫る研究を展開しています。特に「フェル
センターは、
こうした課題群に対し研究を進め、国際社会に貢献すべく、国
ミ」ガンマ線衛星とは、衛星の共同運用を含む密接な国際共同研究
内外の大学はもちろんユネスコ・国連大学などの実践的な諸機関とも連携
を進めています。
「かなた」
「すざく」
「フェルミ」のいずれにも、
センターと
し、
「アフリカ・アジア大学間対話プロジェクト」を推進しています。
また、
研究の
本学理学研究科が協力して開発した観測装置が搭載されており、
宇
他にも、
途上国の教育行政官を対象にしたJ
ICA研修なども常に行い、
教育
宙観測のための機器開発(ものづくり)
も本センターの重要な活動と
分野の国際協力に貢献している世界でもユニークな教育センターです。
なっています。
PICK UP TOPICS
PICK UP TOPICS
ケニヤッタ大学・マレーシア科学大学との学生フォーラム
東広島天文台1.5m光学
赤外線望遠鏡「かなた」
当 センターは 上記対話プロジェクト参
加大学と学生交流 フォーラムを 開催
しています 。2013年5月には 本学 か
ら15名、ケニヤッタ大学 から12名 の
学生 が 、12月には 本学 から12名、マ
レーシア科学大学から16名 の 学生が
参加し 、持続可能 な 社会開発 につい
て 議論を 行 いました 。本学学生代表
は「司法制度」
「幸 せに 働 ける社会」
「平和教育」などを取り上げ 、英語による議論を行 いました 。フィールドワークでは、検察庁、平和
記念資料館、広大病院を訪れ 、より現状を体感し、理解を深めることができました。
宇宙科学 センター 附属東広島天文台 の 基盤
をなす 光 学 赤 外 線 望 遠 鏡「 かなた 」は 、主 鏡
の 有効径 が 1.5m で 、その 集光力 は 肉眼 の 約
6万倍 に 相当し 、大学 が 国内 に 所有 する望遠
「 フェルミ」ガンマ 線衛星
鏡 では 最大級 です 。
や「 すざく」X線衛星と連携し 、インターネット
を 介した 機 動 的 な 観 測 を 行 って います 。また
観 望 会 や 見 学 会 などを 開 催し 、一 般 の 方 々
が 宇 宙 科 学 を 身近 に 体 験 できる 機 会 も 設 け
ています 。
この他にも広島大学では多数の学内共同教育研究施設等が高度な研究活動を展開しています
●高等教育研究開発センター
大学内外の研究者の協力を得て、大学・高等教育に関 する
研究調査を行う国内初の専門機関
●情報メディア教育研究センター
キャンパスネットワーク、電子メール 、教育用端末などの 整
備、情報セキュリティ、情報教育・利活用の支援
●自然科学研究支援開発センター
生命科学、健康科学、物質科学、環境科学などの 学際的
発展を可能とする教育研究支援体制を構築
019
広島大学 の 研究
●国際センター
外国人留学生に対 する日本語教育を始 めとする国際化 の
推進・実施支援および国際交流活動の推進
●産学・地域連携センター
産学官連携に基づく共同研究の推進、知的財産の産業界へ
の展開、人材育成と新産業創出、地域の連携推進
●保健管理センター
学生および教職員の身体的・精神的健康管理に関した専門
的業務の実施
●平和科学研究センター
平和科学に関 する研究・調査と資料の収集を行う国内初の
平和学の学術的研究機関
●環境安全センター
環境教育および 環境科学・環境工学に関する研究および 学
内の実験廃液の回収・分析・処理等の廃液管理
●総合博物館
本学が所蔵 する学術標本資料 の 調査・収集、保存・管理 お
よびそれらの研究と展示、情報発信
研究施設 ×
研究施設 ×
研 究
研 究
夢の光
「放射光」
を用いた
物質科学研究拠点
放射線障害の解明と
新治療法の開発を目指す
放射光科学研究センター
原爆放射線医科学研究所
光速に近い電子が電磁石で進む方向を変えるときに放射光と呼ばれ
とかく放射線は嫌われものです。
しかし、医療や産業は放射線なしには
る光が発生します。
この放射光は強力で、
しかも、
さまざまな波長を含ん
成り立ちません。放射線なしの医療では19世紀に逆戻りです。放射線
でいるため、
研究者から
「夢の光」
と呼ばれています。
放射光科学研究
は遺伝情報を担うDNAを傷つけます。私たちの体はそんなことを先刻
センター(HiSOR)
では、主に、真空紫外線から軟X線域の放射光を
承知で、DNAの傷を上手に修復して放射線に対抗します。
しかし、時
利用した世界最先端設備を用いて、
固体物理学を中心とする物質科
にミスが出たり、
対応しきれなかったりすることで、
がんや白血病などさまざ
学の独創的・先端的研究を推進しています。国内外の研究者との共
まな病気が起こります。
この部分に、
しっかりと科学の光を当てることが、
同研究成果はNature、Scienceなどのトップジャーナルに掲載されて
原爆放射線医科学研究所の役目です。
基礎研究で仕組みを理解す
います。
また、
多様な文化や背景を持つ国内外の大学院生・研究者が
るところから、
大学病院で実際のがんや白血病の診療を行うところまで、
共通の研究課題に取り組む国際的な環境を活用した人材育成を進
放射線に関わる医学・生物学を広く深く研究する、世界でも有数の研
め、
大学における高度な水準の教育活動に貢献しています。
HiSORは
究所です。最先端の研究設備を完備した研究室では、医学・生物学
文部科学省から、大学の枠を越えて国内外から研究者が集まって研
系出身者のみならず、数学・統計学や物理学、文系出身の研究者が
究をすすめる共同利用・共同研究拠点として認定されています。
力を合わせて研究・教育に携わっています。
PICK UP TOPICS
PICK UP TOPICS
物質の性質を
光で解き明かす
低線量放射線の
生物影響解明に挑む
物質 のもつさまざまな 性質 は 、どのよ
うなしくみで 生み出されているのでしょ
うか 。HiSOR では 、国内外 の 研究者
が 放射光 の 優 れた 性質 を 活用して 、
物質 の 性質 や 機能 が 発現 するメカニ
ズムを電子・原子レベルから統一的 に
解明しようとしています 。また 、放射光
実 験 装 置 の 性 能を 常 に 世 界 最 高 水
準 にしておくために 先端計測技 術 の
開発を進 めています 。
福 島 原 発 事 故 により、低 線 量 放 射 線
の 健康影響 に 対 する人々 の 不安 が 根
強 いことが 浮き彫りになりました 。放射
線 はどんなに 少量 でも健康 に 害 がある
のでしょうか? 原爆放射線医科学研究
所 は 、最先端 の 技術と精密 な実験ノウ
ハウを組 み 合 わせ 、低線量放射線 によ
るDNA の 小さな損傷 や 、それに 対 する
細胞 の 反応を知ることにより、この 難問
の 解決に全力を挙げて 挑 んでいます 。
●北京研究センター
首都師範大学国際文化学院(中華人民共和国北京市)に
設置された本学初の海外教育研究拠点
●外国語教育研究センター
学部共通 で 行う外国語授業 の 担当など 、外国語教育カリ
キュラムの企画・立案と実施の管理
●文書館
広島大学に関 する重要な文書等を収集・整理公開し、教育
研究活動並びに法人文書管理を担うアーカイブズ組織
●スポーツ科学センター
スポーツに関 する学士課程教育 の企画・立案、課外活動 の
支援、研究および地域社会との連携の推進
●HiSIM研究センター
世界中の半導体メーカーと行うHiSIM※の問題点の検証・
モデル改良および高度技術者の育成
※HiSIM(Hiroshima-University STARC IGFET
M o d e l )は 、広 島 大 学 が 半 導 体 理 工 学 研 究 センター
(STARC)
と共同で開発した回路設計用トランジスタモデル
●先進機能物質研究センター
エネルギーの安定供給・確保の問題と地球環境問題の解決
に役立つ先進機能物質の研究開発
●現代インド研究センター
現代 インドの 空間構造と社会変動について 調査・研究 する
とともに、他研究機関との研究交流を推進
●サステナブル・ディベロップメント実践研究センター
持続可能な社会の構築に向けた分野融合型実践的研究を
行うとともに、国際的な視野を持った高度研究人材を育成
●ハラスメント相談室
本学構成員が 当事者となるハラスメントに関 する相談 の 受
付およびハラスメント防止を推進
●プロジェクト研究センター
学部 や 研究科 の枠を超えたプロジェクト型 の研究活動を推
進(平成26年4月1日現在58センター設置)
●ライティングセンター
チューターとの対話による文章検討を通じて 書き手の「書く
力」を育み、学術的文章の作成をサポート
Researches
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