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1行目、1段落目
■学習指導員コラム 『1行目、1段落目』 沖田 尚 学習指導員 小説は最初の1行目で決まる。 あながち嘘ではないと思います。有名どころでは「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。 」、 「吾輩は猫である。 名前はまだ無い。 」などが挙げられます。第1文に限定しないまでも、書き物の冒頭部分は大切です。私は宮城谷昌光の 小説が好きで繰り返し読んでいますが(仕事で行き詰まったときの現実逃避という説もある。 ) 、同氏の著書「青雲はるか に」の冒頭部分が好きです。それは、 「近道ですよ」 と野人(やじん)におしえられた。 その道は丘を超えるのである。 青々とした丘である。丘の上に白い雲がみえる。 ―なにやら、階(きざはし)のような……。 と范雎(はんしょ)は雲を見上げた。 と続くのですが、この冒頭部分だけで、青空、白い雲、緑の生い茂った丘の登りを一人歩く范雎、といった情景があ りありと浮かびます。同時に、現在范雎が立っている地点と青空に浮かぶ雲との隔たりが確然と示されています。この隔 たりには見えない光の筋のようなものがあって、范雎と天とを結んでいて、後に一国の宰相に昇りつめる范雎の人生を暗 示しているようですらある、と言うのは言い過ぎでしょうか。ともかく、著者はこの冒頭部分を書くだけで、相当のエネ ルギーを使ったのではないかと思われます。 前置きがだいぶ長くなりましたが、司法試験の論文も同じことがいえると思います。決して名分を書くべしという趣 旨ではありません。出だしで答案の出来が顕わになることも多いということです。ゼミで答案を添削していると、1段落 目まで読んでその答案のおよその出来が見えてくることがあります。なぜかは、添削する側、出題する側に回れば自ずと 分ります。 「そんなこと言ったって、自分は出題する側でも添削する側でもないし…。 」と言うのは早計です。学習指導員はゼミ を開催していますが、ゼミに参加して、さらに復習も含めて自ら主体的に勉強するなら(ここがポイントです。 ) 、添削す る側・出題する側の視点、言い換えれば、答案に何をどう書けばよいかということが、ある程度身につくことと思われま す。 今の司法試験は、決して一部の限られた人しか受からない試験ではありません。他方、大東の学生には、ある程度の 法律知識は身に付いているものの、もう一超えが足りないという方も多いと思われます。自分で教科書を読んだり、気心 の知れた仲間うちで勉強したりしているだけでは、現状から抜け出せない場合もあるのではないでしょうか。 ということで、もう一超えのために、学習指導員ゼミや学習相談を積極的に活用していただけると幸いです。学習指 導員は皆さんと同じく大東で学んだ同窓生ですので遠慮・心配は無用です。最近学 校に来てない方も、いつも学校には来ているが学習指導員は何か近寄り難いという方 も、是非、一度、足を運んでみてください。学習指導員はみんな優しいですよ、 たぶん。 (※学習相談やゼミのスケジュール等は事務局までお問い合わせください。 ) 沖田 尚 学習指導員(弁護士) ■PROFILE 2005 年本学入学。2008 年第 3 回新司法試験にて合格。 現在は、弁護士として、植松法律事務所に勤務する。 本学にて、学習指導員ゼミ(刑事訴訟法)を担当。