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フィリピン海プレート
地震、特にプレート沈み込み帯で発生する巨大地 震は、地球上でもっとも深刻な自然災害です。 2004 年以降、スマトラを始めとして、バヌアツ、西サモ ア、ハイチで起こった大地震と大津波では、これら の自然災害により私たちの社会がいかに深刻な影 響を受けるか、まざまざと見せつけられました。 統 合国際深海掘削計画(IODP)では、壊滅的な巨大地 震や津波がなぜ発生するのかを解明するために、 そして長い年月をかけて起きている地球変動の姿 を明らかにするために、 掘削探査を行います。 「南海トラフ地震発生帯掘削計画」 (南海掘削)は、 世界中の科学者が集結し、数年にわたって実施さ れる一大科学掘削計画です。南海掘削は、科学史上 初めて、巨大地震が幾度なく発生してきた地震断 層に向けて掘削し、地震発生のキーとなる岩石試 料を採取するのみならず、現場でのデータ観測を 試みる壮大な科学計画です。 南海掘削では、地球深部の地震発生メカニズムを 探査するため、洋上から大深度の掘削を行い、地震 発生帯から直接岩石サンプルを採取して摩擦係数 などを測定し、断層現場に計測センサーを設置し ます。 これらのデータにより、ゆっくりとした変化 を示す地震準備過程をより詳しく知ることが出来 ます。 また、地中の水が、プレート沈み込み帯の岩 石にどのような影響を及ぼしているのか、理解を 深められます。 南海掘削で実施される一連の研究航海により、地 球が私たち人類に及ぼす影響について、新たな知 見を得られると期待されています。 2007-2008 年に巨大分岐断層やプレート境界断層の浅部な 2010 年から巨大地震を繰り返し起こしている地震発 ど33 か所で掘削を実施。地層の分布や変形構造、応力状 に到達する超深度掘削を実施。地震発生物質試料を 態など、地震時に動いたと考えられる断層の特徴を把握 採取し、物質科学的に地震発生メカニズムを理解 2009 年に巨大地震発生帯の直上を深部まで掘削し、地質 長期間にわたり掘削孔内で地球物理観測を行うシス 構造や状態を明らかにした。掘削した孔内には後年に観測 を超深度掘削孔に設置。地震・津波観測監視シス システムを設置し、地震準備過程をモニタリングする。また、 (DONET)と連携し、地震発生の現場からリアルタイ プレートとともに地震発生帯に沈み込む前の海底堆積物の データ取得 組成、構造、物理的状態を調査 DONET 巨大地震発生帯直上 熊野前弧海盆 巨大分岐断層出口 岐 断 層 前弧堆積盆 大 分 付加体先端部 巨 大陸プレート 付加体 水平断層 (プレート境界) 地震発生帯 沈み込む前の堆 ト 海プレー ン ピ リ ィ フ さで沈 cmの速 年間約4 発生帯 を直接 地震・津波観測監視システム(DONET) 高温・高圧・大深度という掘削孔内の苛酷な環境において、 地震などのデータを現場で直接計測するプロジェクト、地震・ 津波観測監視システム(DONET)を準備中です。今後、この ステム ネットワークシステムと連結することで、掘削孔での現場観 ステム 測データをリアルタイムで陸上に伝送します。 イムで 堆積物 ト でいる 沈み込ん 地層中に働く力の方向 南海トラフ軸 四国海盆 プロジェクト代表研究者 プロジェクト代表研究者 海洋研究開発機構 ウィスコンシン大学マディソン校(米国) 地球内部ダイナミクス領域(日本) 「日本周辺で発生する壊滅的な巨大地震は、多くの 被害をもたらしてきました。そのような巨大地震 を引き起こす原因を綿密に観測し研究することは、 私たち人類にとって不可欠です。地震を引き起こ す断層での直接観測を通じて、巨大地震の仕組み を理解し、地震・大津波の頻度や規模などを予測 することが我々の目標です。そのことにより、地 震を止めることはできないにせよ、それに備える ための手助けができると信じています。」 最先端技術の紹介 南海掘削では、 「ちきゅう」と「かいれい」という二船の 調査船を用い、 「かいれい」からエアガンで弾性波(地震 波)を発振し、断層域で反射・屈折してきた波を、 「ちきゅ う」から掘削孔内に設置した地震観測セ ンサーを用い て、孔井下に位置する地震発生断層を含む詳細なプレー ト境界の構造調査を行っています。 掘削孔内で検出した弾性波は、海底表面付近の堆積層を 通らずに直接センサーに記録されるので、地球深部の構 造を探る上で減衰や雑音が少ない良質のデータを提供し ます。 VSP 調査中の様子 掘削孔を利用した計測システム ライザー掘削システム ソリッドコント ロールシステム トラベリングブロック マッドポンプ ちきゅう 泥水 タンク ドリルパイプ 調査船 泥水 カッティングス エアガン 廃泥水処理装置 ライザーパイプ 泥水 海底 BOP (噴出防止装置) DONET 海底 ケーシング 地震計 弾性波による VSP調査 地震計・ 歪計・傾斜計な ど長期孔内計測 センサー群 断層付近 セメント ドリルパイプ 泥水 断層帯 集中ゾ の 歪み ーン 微小地震? プレート 沈み込み ドリルビット *これらの計測機器は同時に設置されるものではありません。 ライザー掘削による掘削孔は、ライザーパイプによって掘削船と ライザー掘削とはライザーパイプで掘削船と海底とを一体化し、 掘削孔が一体につながっている長所を生かし、掘削直後からさま 掘削孔内の圧力を一定に保持するために、船上から掘削孔まで掘 ざまな計測に利用されます。南海掘削では、孔壁の間隙水圧およ 削泥水を循環させる掘削方式です。この方法により、大深度掘削 び応力の測定、調査船との共同作業による孔内地震波探査 (VSP) と呼ばれる、海底下数千メートルの掘削が可能になります。 などが行われています。さらに掘削孔を利用して断層付近の歪み などをモニタリングする長期孔内計測も予定しています。 Published in 2007 Revised in 2010 2010.09