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- 1 - フランスにおける離婚事件処理手続 水野紀子 日本法と異なる前提

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- 1 - フランスにおける離婚事件処理手続 水野紀子 日本法と異なる前提
フランスにおける離婚事件処理手続
水野紀子
日本法と異なる前提
(1)フランスの離婚はすべて裁判離婚であり、当事者には弁護士がつく。協議によるも
のであれ、調停によるものであれ、当事者の合意が成立したとしても、それだけでは離婚
は成立せず、かならず判決によらなければならない。裁判官は、合意があっても合意内容
を吟味して監督・修正した上で、離婚判決を下す。
(2)調停と訳されることのあるフランス語には、conciliation と médiation の二種類がある。
conciliation は昔から存在する働きかけで、裁判官による「和合の試み」であり、できるだけ
離婚を抑制しようとする伝統に基づいた制度である。離婚が申し立てられると、最初にこ
の conciliation が行われる。フランス法では、離婚合意が成立することによって離婚が成立
するのではないから、離婚に向けての conciliation はありえない。そして conciliation の成立
による事件の終了は、きわめて例外的である。2002 年には、離婚の終局判決 128,971、別居
の終局判決 3,637、別居から離婚への転換判決 1,705、離婚・別居の請求棄却判決 3,634、と
いう数字に対し、conciliation による解決は、わずか 116 件にすぎない。実際にはこの
conciliation の弁論が果たしている機能は、和合を図るのではなく、離婚訴訟期間中の暫定手
続きを決めるものとなっている。
(3)médiation は、新しい制度である。離婚に向けての合意形成を援助するという点では、
こちらのほうが日本の調停に近いが、しかしここでも日本の常識との相違を認識しなくて
はいけない。médiation の過程は秘密であり、médiateur(調停者)は守秘義務を負っていて、
裁判官にも内容を伝えることはできない。離婚そのものは、合意が成立しなくても、有責
配偶者からの請求であっても、一定の別居期間の経過で成立する(従来の6年から、今年
の改正で2年に短縮)。また経済的な問題については、すべての離婚は裁判離婚なのであ
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るから豊富な離婚判例によって自ずから客観的相場が確立していて、当事者間の合意が成
立していればその合意を参照するにせよ(その合意も弁護士が関与して作成するから相場
からあまりはずれない)、あくまでも裁判官が自ら決定する。したがって médiation の主た
る目的は、離婚後の親権行使を円滑に進めることである。そしてフランスでは離婚後も共
同親権である。
(4)フランスの裁判所は調停委員や調査官を職員としてかかえているわけではないが、
裁判官は、psychologue(心理学者、カウンセラー), assistant social(ケースワーカー)など
多くの専門家とともに連携・協力して離婚事件の処理に当たっている。専門家による鑑定
費用は当事者負担が原則ではあるが、税金による負担という意味でも、裁判所職員による
サービスのみが公的負担なのではなく、弁護士費用や鑑定費用の法律扶助、裁判所と協力
して活動する行政職などのほか、médiateur を供給する民間の association もその運営は大幅
に税金によってまかなわれている。従って司法手続きと行政と民間の区別は、実際の連携
の密度からも、税金による費用負担の点からも、日本の常識とは異なっている。
以上を前提にして、フランスの離婚事件に関与する体制を概観する。
①離婚事件の管轄裁判所
大審裁判所 Tribunaux de Grande Instance の家族事件裁判官 juge aux affaires familiales(以下、
JAF と略称)が包括的に管轄する。全国に 181 ある大審裁判所は基本は合議体であるが、
JAF については単独裁判官である。
JAF が扱う事件;離婚・別居事件(181,886)、親権と訪問権の事件(99,121)、家族間の
経済的給付に関する事件(52,967)、氏名に関する事件(9,086)など
(数字は 2002 年の新受件数)
但し子の保護のため親権を制限する必要があったら、同じく大審裁判所の少年事件担当
裁判官 juge des enfants の管轄に回される可能性はある。
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②離婚事件処理手続の担い手
JAF は、通常の大審裁判所裁判官であり、職業裁判官である。
司法鑑定は、鑑定を要求した当事者が原則として費用を負担し、判事が鑑定人を選んで
任命する(刑事では控訴院が作成した鑑定人リストから選ばなくてはいけないが、民事
ではリスト外から選んでもよい)。判事は鑑定人の報告書に拘束されない。
cf.Loi relative aux experts judiciaires, 71-498 du 29 juin 1971
判事は l'enquête sociale(社会調査)や精神医学鑑定を命じることができる。子の状況につ
いては、assistant social などが l'enquête sociale を行い、その報告書が大きな役割を果たす。
報告書が不満な当事者は、別の l'enquête sociale を請求できる。
裁判に関与している psychologue は、350人以上いる。民事ではとくに離婚事件で子の
処遇を決定する場面で、判事の命令により介入して、両親の精神的鑑定をしたり子の利
益のために意見を述べたりする。法廷には、公役務として psychologue が立ち会うことも
多い。
③離婚事件における調停の位置づけ
conciliation の手続き;JAF は離婚請求者の離婚請求意思を確認すると、請求原因の審査に
は入らず、相手方の意思がどうであれ、non-conciliation つまり手続きの続行を決
定する。この決定には、暫定的措置の内容が含まれる。この措置は、住居、諸費
用の負担、扶養料、親権行使の態様、必要とあれば社会調査・精神鑑定調査を行
う方法などの内容である。non-conciliation の決定は、ただちに、あるいは一定の
期間(「mise en délibéré」とよばれ、24時間から約2週間の間に限られる)の
後 に 下 さ れ る 。 ま た 判 事 が médiation を 命 じ る の も 、 ほ と ん ど が こ の
non-conciliation の決定においてである。
médiation の手続き;JAF は、事件の係属中にいったん裁判手続きを中断して、médiation
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を開始する決定をすることができる。その決定には、médiateur や費用や裁判の再
開期日などの決定も含まれている。1995年2月8日法でこの médiation 手続
きが立法されたときには(新民訴 art.131-1~131-15)、国会は圧倒的に賛成したが、
実際にはほとんど利用されていない。JAF が関与した 264000 件の訴訟記録のうち
わずか 0,5%だけにおいて médiation が行われている(2002 年)。法社会学者(Evelyne
Serverin)の分析によると、この立法は、平和裡に家族紛争を解決できるという家
族主義イデオロギーと裁判外紛争解決手続きへの期待に基づくものであり、実際
の役には立たない、そして当事者も判事も望まない制度であったという。つまり
当事者は両当事者の主張の隔たりを判事に裁断してほしくて裁判所に来ている
のであり、判事にとっては、守秘義務ゆえに報告書もでてこない médiation は、
手続きの中断を意味するものに過ぎないからである(L'échec de la médiation
familiale, L'Express du 26/04/2004)。
④民間の médiation との関係
médiateur は association に所属する、法律家ないし psychologue の専門家がほとんどであり
(教師やケースワーカーもいる)、民間で利用される場合には、とくに法律家が多い。
パリ市だけで médiation を行っている組織は11カ所存在する。たとえば EPE(association
のひとつ)の相談窓口は、家族の抱える問題全体の情報センターでもあり、児童虐待、
家庭内暴力、アルコール中毒、思春期問題、妊娠、エイズ、モラル・ハラスメント等の
諸相談 窓口と して 無料の コン サルタ ント などが 提供 されて いる 。その 一環 として
médiation が行われている。
⑤家事事件における国民の司法参加
刑事事件には職業裁判官以外が加わる参審制があるが、民事事件にはない。
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