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IMOの船舶燃料の硫黄分規制に係る動向 及び我が国石油精製業界への

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IMOの船舶燃料の硫黄分規制に係る動向 及び我が国石油精製業界への
IMOの船舶燃料の硫黄分規制に係る動向
及び我が国石油精製業界への影響
一般財団法人石油エネルギー技術センター 調査情報部 岩田 克己
1.調査の目的
国 際 海 事 機 関( I M O) に よ り 採 択さ れ た 、船 舶 燃 料 の 硫黄 含 有 量制 限 に 関 わ る国
際条約議定書の規則( MARPOL条約議定書
付属書ⅵ規則14)が、 2005年5月に実施
されてから、10年を迎えようとしている。
IMOでは、2020年以降実施が予定されている一般海域における船舶燃料油の硫黄分
規制が強化される時期(2020年または2025年)について2018年までにレビューするこ
ととなっている 。仮に 2020年から硫 黄分規制 が実施されるこ ととな れば、余剰高硫黄
重 油 対 策 など 製 油 所への 影 響 は 甚大 で あ る。ま た 、 船 側の 脱 硫 装置対 応 等 も 燃料 需 要
に 大 き な 影響 を 及 ぼす。 そ こ で 、レ ビ ュ ーの推 移 を 注 視す る と ともに 石 油 精 製業 界 へ
のインパクト、対策等について分析・検討を行った。
2.調査の内容
本調査においては、最終規制である一般海域における使用燃料の硫黄分0.5%上限規
制 の 影 響 を分 析 す るため に 、 I MO の 硫 黄分規 制 動 向 に 関 す る 最新の 情 報 を 内外 公 的
機 関 等 に よる 公 開 情報を 収 集 す るこ と に 加えて 、 我 が 国を 取 り 巻く地 域 で あ り、 か つ
今 後 全 世 界の 船 舶 需要増 加 の 約 50 % を 担うア ジ ア 地 域の 動 向 につい て も 、 海外 石 油
製 品 事 情 に精 通 し たコン サ ル タ ント 企 業 より需 給 デ ー タや 各 国 の政策 動 向 等 の資 料 を
購 入 し 、 当セ ン タ ー調査 情 報 部 スタ ッ フ により 内 容 分 析 を お こ ない、 我 が 国 石油 業 界
及び船舶業界に及ぼす影響について考察した。
3.調査の結果
3.1 船舶用燃料油の硫黄含有量規制
3.1.1 船舶用燃料油の背景情報
船舶用燃料油という一般用語は船舶が燃焼する液体燃料を指し、残渣油ベースの燃料油(重質
で硫黄含有量が高い)と中間留分ベースの燃料油の多様な製品を含む。一般的に取引きされる
残渣燃料油製品は IFO と呼ばれる。一般的な留出燃料油は船舶用ディーゼルオイル(MDO)と船
舶用ガスオイル(MGO)である。歴史的に、船舶用燃料油市場は精製産業にとって有用な「硫黄
吸収源」
であったが、
船舶用燃料油からの硫黄酸化物(SOx)排出削減を目指す国際海事機関(IMO)
の新たな規制により、目下、大きな変化に直面している。
3.1.1.1 船舶用燃料油市場
船舶用燃料油の供給側は石油会社、独立系石油トレーダー、ターミナル貯蔵およびパイプライ
1
ン会社、ship-to-ship バンカリング供給業者で構成される。取引は石油会社と石油トレーダー
の間で行われ、両者とも、自前のターミナル貯蔵設備を所有するか、独立系貯蔵設備所有者か
ら貯蔵タンクを賃借するか、あるいは独立系貯蔵設備所有者に配送用燃料を供給していると思
われる。船舶用燃料油の具体的な供給はターミナルからのパイプラインまたは隣接した船舶に
燃料を供給するように設計された補油船を介して行われる。
3.1.1.2 船舶用燃料油の品質基準
国際標準化機構(ISO)の主な基準には以下が含まれる。
 硫黄含有量
 粘度
 流動点
 密度

アルミニウムとシリコン
3.1.1.3 製品のブレンド
MGO は一般的に、接触分解装置のブレンド製品であるライトサイクルオイル(LCO)と留出燃料
油留分をブレンドしたものである。MDO も MGO と同様にブレンドされる(セタン価の要求値が
低いため LCO がより多く加えられる)。IFO ブレンドは通常、IFO 380 のように付随する粘度指
数により規定される。IFO 380 は一般的に、熱分解残渣油、ヘビーサイクルオイル(HCO)
、LCO
をブレンドしたものである。粘度 380 センチストークス未満の IFO ブレンド(IFO 180 のよう
な)も、重油に中間留分と LCO 希釈剤をブレンドして得られる。これにより粘度、硫黄分、金
属含有量が改善される。
3.1.2 規制の概要
国際海事機関(IMO)は 2008 年 10 月、マルポール条約付属書 VI の修正を採択し、船舶用燃料
の硫黄許容限度に関する基準を強化した。付属書 VI は排出と燃料品質に関して、(1)世界的基
準と(2)後に ECA と命名された硫黄酸化物排出規制海域(SECA)内の船舶に適用されるさらに厳
しい条件の 2 種類の基準を定めている。
3.1.2.1 IMO
IMO は 170 ヶ国 の加盟国と 3 ヶ国 の準加盟国を有する。IMO 加盟国は制定された規則を採択す
る義務があり、政府が実施の責任を負う。
3.1.2.2 ECA
海上環境保護委員会(MEPC)は 1973 年 11 月に設立され、船舶による海上汚染を防止するため
の IMO の活動を調整する責任を負う。海上汚染への対処を向上させるため、1973 年の IMO 主要
会議で船舶による汚染防止のための国際条約(マルポール条約)が採択された。1978 年には追
加修正を加えた 1973 年度マルポール条約議定書が採択された。マルポール 73/78 と呼ばれるこ
の修正条約は 1983 年に実施された。2005 年 5 月に実施された付属書 VI(マルポール条約の幾
つかの修正の中で最も重要)は、マルポール条約の範囲を船舶からの大気汚染と大気中排出も
含むように拡大した。付属書 VI の規則 14 は、燃料の硫黄含有量制限と残渣燃料油硫黄含有量
のモニタリング義務による排出削減を求めた。2008 年には Resolution MEPC.176 により SECA
が排出規制海域(ECA)と命名され、ECA 内の SOx、窒素酸化物(NOx)、粒状物質に関する特別
な制限を含む条項が追加された。付属書 VI の規則 14 が定める、SOx 排出削減に向けた世界的
および ECA 内の燃料硫黄制限を以下に要約する。
表 1
IMOバンカー重油硫黄分規制の最大硫黄含有量(%)
実施日
世界の上限
ECA 上限
2005 年 5 月
4.5
1.5
2010 年 7 月
4.5
1.0
2012 年 1 月
3.5
1.0
2015 年 1 月
3.5
0.1
2020 年 1 月
0.5
0.1
(または 2025 年 1 月)
NOx と SOx 両方の排出規制海域として既に指定されているのは北米と米国カリブ海 ECA のみで
ある。バルト海 ECA と北海およびイギリス海峡 ECA は、今のところ SOx についてのみ指定され
ている。
バルト海の最初の ECA に続き、北海/イギリス海峡 ECA が 2007 年 11 月に加えられた。
北米 ECA は 2012 年 8 月に制定され、米国/カリブ海 ECA は 2014 年 1 月 1 日に実施された。将
来、さらに多くの ECA が指定されそうである。香港、および韓国、シンガポール、マレーシア、
インドネシアの海域について ECA が検討されている。
2020 年に 0.5%という最終的な世界硫黄制限については、低硫黄重油の入手可能性を評価する
実行可能性審査が行われる。
3.1.3 通信グループの中間報告
2014 年 4 月、IMO 海上環境保護委員会の第 66 回会議(MEPC 66)で、燃料油の入手可能性審査
における検討事項を準備するために通信グループ(correspondence group)を設立することが
合意された。MEPC 67(2014 年 10 月)では、マルポール条約付属書 VI の規則 14(SOx と粒状
物質)が定める基準を満たす燃料が、この基準の実施日には十分に入手可能であるかどうかを
調べるための方法論に関して、枠組草案の作成を指示された通信グループの進捗報告書が検討
された。方法論は世界市場の燃料油需給、燃料油市場の動向、および他の関連事項を斟酌する
必要があると思われる。
通信グループのメンバーは、燃料入手可能性研究のアプローチやタイミングに関してそれぞれ
の見解を表明した。タイミングについては、メンバー間に意見の不一致があった。多くができ
るだけ早急に研究を行うべきと考えているが、2018 年近くに行うべきと考えるメンバーもいる。
通信グループは予備的な方法論の枠組に関する草稿を作成していたが、MEPC 68 までに最終報
告書を提出するよう指示された。
3.2
政策と戦略
3.2.1
政府の政策
欧州、米国、ロシア、アジア、中東の関連する政策、展望、政府見解を、各地域の主要諸
国について概説する。
3.2.1.1
欧州連合
欧州連合は EU の港間の航行に関する燃料硫黄含有量の最大限度、および EU の港内の航行
に関する燃料硫黄含有量の制限を 2010 年 1 月 1 日から制定している。2005 年 8 月に承認
された EU 指令 2005/33/EC には以下の主要点が含まれていた。





1.5%を上回る硫黄含有量の MDO は 2006 年 8 月から販売が禁止された。
停泊中の船舶と内航船舶について 2010 年 1 月 1 日から硫黄分 0.1%の制限を課し、留
出燃料油への転換を求めた。
0.1%を上回る硫黄含有量の MGO は 2010 年 1 月から販売が禁止された。
領海内での 0.2%留出燃料油の使用は 2010 年まで認められた。
2018 年までに出る予定の IMO 検討結果にかかわらず、2020 年までに EU 海域内では
0.5%限度の義務付けを制定した。
欧州連合は連携した LNG バンカリングシステムの開発が十分に進んでいる。ロッテルダム、
アントワープ、ヨーテボリなど欧州の主要港は、それぞれの規制枠組内でこれらの規則に
組み込まれている。
3.2.1.2
米国
北米地域では、北米 ECA と米国カリブ海 ECA という別個の 2 つの ECA が現在実施されてい
る。NOx Tier II 規制が適用可能な船舶エンジンに関して現在実施され、ECA ではさらに厳
しい Tier III 規制が 2016 年 1 月 1 日に開始される。カリフォルニア州大気資源局(CARB)
は、2015 年にスタック排ガス浄化装置を使用する船舶は既存の CARB 低硫黄船舶用燃料油
規制に適合しなければならない可能性を発表した(2014 年 8 月)。カリフォルニア州では、
船舶用燃料油排ガス削減規制は、カリフォルニア州内において、2014 年 1 月時点で硫黄分
0.1%以下の船舶用留出燃料の使用を義務付けられている外航船( OGV)の船舶用補助ディ
ーゼルエンジンおよびディーゼル電気エンジンからの粒状物質、窒素酸化物、硫黄酸化物
の削減に重点を置いている。
3.2.1.3
アジア
欧州とは異なり、アジアには統一基準がない。IMO 加盟国であればマルポール条約付属書
VI に従わなければならない。現在アジア地域には ECA がないことを主な理由として、我々
が知る限り、差し迫った IMO 規制に対する反対は見られない。しかし、同地域の政府、特
にシンガポールは、より厳格な排ガス規制を求めている。
中国は IMO 加盟国として、マルポール条約付属書 VI の規制を厳格に実施している。有害排
ガスの削減に向けた圧力に押されて、中国の港ではより厳しい規制を実施している。香港
政府環境保護署は、地元で給油する船舶について船舶用ガスオイル(MGO)の最大硫黄含有
量 0.05%を義務付ける新たな規制を、立法会の承認を受けて採択し、2014 年 4 月 1 日に実
施した。
3.2.1.4
ロシア
ロシアの船舶用燃料(M100)に関する現在の基準は GOST 10585-99 である。船舶用燃料は
硫黄含有量に応じて 7 グレードに分けられている。とはいえ、硫黄含有量に関するロシア
の国家基準は、ECA 規制を除いて現在制定されている IMO 規制が定める一般海域硫黄制限
の規制範囲内にある。
3.2.1.5
中東
フジャイラはアラブ首長国連邦(UAE)および世界における主要な船舶用燃料油積込み港の
ひとつであり、この港では大量の燃料が積み込まれる。 UAE はマルポーロ条約に調印して
いないため、フジャイラの供給業者はこの規制に拘束されない。しかし、 MARPOL 73/78 の
付属書 VI を批准した諸国が世界および地域的な船舶総トン数の大半を握っており、これら
の船舶は IMO 規制に適合する必要がある。
3.2.2
3.2.2.1
規制適合
規制適合の障壁
IMO 指令により合意されたタイムラインに従う規制実施に遅延をもたらす可能性のある要
因として、以下を特定した。
 必要な投資と高い航行コスト:MDO/MGO に関連するコストと、クリーンな燃料( LNG)
を使用する新造船に関連する投資
 低硫黄重油の入手可能性
:世界の限られた地域でしか入手できない
 適合の実施
:実施レベルが地域によって異なる
3.2.2.2
規制適合の実施
IMO 硫黄分上限規制の実施に関して地域間に時間差が発生する可能性がある。一部の欧州
地域と北米では他地域より実施体制が確立されていると思われる。
3.2.3
石油産業の戦略
精製業者は、船舶産業がどのような選択肢を採択するか分からないという不確実性に直面
している。加えて、世界的な硫黄分限度低減が 2025 年まで延期される可能性があるため、
製油所への重大な投資を評価、正当化することが難しい。
製油所が考慮するべき主な選択肢として以下がある。
 現在の HSFO 生産を継続し、需要低下による低価格で販売する
 技術的な投資を行わずにブレンドして LSFO を生産する
 残渣油脱硫技術を導入して LSFO を生産する
 残渣油アップグレード技術を導入して HSFO 生産を削減する
現在から 2025 年までに建設される新規製油所は主としてアジアと中東に位置する 見通し
で、主要な LSFO 増産ソースにはならないと思われる。ほとんどの新規製油所は、残渣燃料
の生産を終わらせるために広範な残渣油アップグレード能力(例えば、ディレードコーカ
ー、残渣油ガス化装置、など)を含めている。
石油精製産業の最大の問題は、もう船舶用燃料油として販売できなくなる大量の HSFO の新
たな販売先確保であろう。現在 HSFO を生産している製油所の一部は、HSFO 生産を終了す
るためのプロジェクトを既に実施しており、成長市場(即ち、アジアと中東)における他
の残渣油アップグレードプロジェクトも向こう 10 年の間に始まりそうである。しかし、よ
り多くの残渣油をディーゼルなどの製品に改質できる残渣油アップグレード技術の方が、
高い資本利益率が見込まれるため、既存製油所に追加される 新たな残渣油脱硫能力はごく
わずかであろうと予想される。HSFO 生産が低減するもうひとつの可能性として、成熟市場
(例えば、日本や欧州西部)の製油所や他の市場でも競争力の低下による 製油所能力の削
減や閉鎖が考えられる。米国の精製産業は既に広範な残渣油アップグレード能力を有し、
2013 年時点で HSFO 生産量が 3%を下回っていることから、日本や欧州西部の精製産業ほど
の影響を受けないと思われる。
3.2.4
海上輸送産業の戦略
欧州および北米の大手海運会社は、航海ルートが ECA に含まれる場合が多いため、大部分
が ECA に関する IMO の新たな硫黄排出規制に向けて準備を整えて きた。一方、アジアに影
響を及ぼす硫黄排出規制は 2020 年もしくは 2025 年まで実施されないことから、アジアベ
ースのシッパーで対応を発表しているところは非常に限られている。大手海運会社数社の
戦略を示す。
3.3
コンプライアンス戦略
船舶所有者にとって、2015 年 1 月に実施された新たな硫黄分規制に適合するためには様々
な選択肢があり、それぞれに長所と短所がある。
3.3.1
浄化装置
燃料油の硫黄含有量に上限を設けて海上船舶からの SOx 排出削減を目指すことは、船舶の
排ガスを低硫黄燃料と同等にするための排ガススクラバー(浄化装置)や排ガス浄化( EGC)
システムの開発につながっている。規制適合のために以下の浄化技術が利用できる。

湿式浄化技術(現在設置されている大半を占める)
−オープンループ
−クローズドループ

−ハイブリッド
乾式浄化装置(排ガスを吸収材に接触させる)
この技術に関しては、特に廃水の処理に関連して懸念がある。
3.3.2
低硫黄重油
残渣油の水素化処理は、原油中に存在する高硫黄残渣油の硫黄含有量を削減して低硫黄重
油を生産するために従来用いられている主な精製技術である。低硫黄原油に存在する残渣
油からも、低硫黄重油が生産される。この場合、この残渣油を他の低粘度重油ブレンド用
原料とブンレドするだけで、最終製品の基準に合った低硫黄重油を生産できる。残渣油の
水素化処理には固定床/移動床水素化処理、沸騰床または移動床式水素化分解、スラリー
床水素化分解の 3 方式がある。
3.3.3
LNG
液化天然ガス(LNG)は規制適合のための選択肢のひとつであり 、LNG を燃料とする船舶の
開発も次第に強化されつつある。IMO 排出規制、および世界の一部地域では天然ガスが在
来型燃料に比して低コストであることから、LNG は船舶用燃料として一般的に広く利用さ
れるようになった。低温という性質と船舶に積み込むための新たなインフラの必要性に起
因する問題がある。
3.3.4
コスト比較
米国メキシコ湾岸(USGC)と欧州西部で 12MW エンジンの燃料として LSFO、浄化装置、LNG
を使用する場合のコストを図 1 に比較した。我々の分析では、米国メキシコ湾岸の安価な
LNG を例外として、2015 年に ECA で硫黄分限度 0.1%を実施する場合、ECA 内における航行
時間の少なくとも 50%を費やす船舶には浄化装置か LNG を使用する方が望ましいことが示
唆された。燃料価格差が大きくなるほど、燃料使用量が増えるほど、また ECA 内の航行時
間が増えるほど、浄化装置と LNG の経済性は有利になると思われる。
図1
燃料関連総費用の比較
(12 MW エンジン、50%ECA、場所:USGC)
3.4
規制が市場に及ぼす影響
中長期の世界的な船舶用燃料需要は、2013 年の 231 百万 t から 2030 年には 292 百万 t に
増加する見込みである。経済成長と取引増加により需要は現在のレベルより増加するが、
海上輸送エネルギーの効率向上により鈍化すると思われる。
また、図 2 のとおり、地域別にみると需要の大半はアジアと中東で発生し、両地域を合わ
せて 2030 年のバンカー燃料油需要の 53%を占めると予想される。
図2
バンカー燃料の需要、2000-2030 年(地域別)
350.0
単位:百万トン
300.0
250.0
200.0
150.0
100.0
50.0
アジア
中東
欧州西部
中南米
北米
欧州東部
2030
2029
2028
2027
2026
2025
2024
2023
2022
2021
2020
2019
2018
2017
2016
2015
2014
2013
2012
2011
2010
2009
2008
2007
2006
2005
2004
2003
2002
2001
2000
0.0
アフリカ
全世界の燃料種類別の中長期見通しについては、以下のようなシナリオが予想され、その
概要を図 3 に示した。
残渣油船舶用燃料である HSFO と硫黄分 1.0%以上の LSFO は、2013 年の船舶用燃料市場の
78%を占めていたが、2015 年の ECA 内硫黄分 0.1%上限規制開始に伴い、北米及び欧州西
部における ECA 内航行時の使用燃料がほぼ留出船舶燃料(MGO、MO)と一部硫黄分 0.1%
の残渣油燃料(LSFO)に切り替わるため、HSFO の需要は一時的に全燃料の 71%まで低下す
る。
その後は、航行時間の大半を ECA 海域で過ごし MGO/HSFO の価格差メリットを享受できる船
舶が、浄化装置(スクラバー)を設置して HSFO を再使用する動きがあらわれるため、増大
するアジア地域の貨物輸送需要の増加とあわせて HSFO 需要の増加が見込まれる。船舶用燃
料としての LNG も増加するが、この燃料とそれを使用する船舶のいずれも入手可能性が限
られているため、スクラバーに後れをとると思われる。
船舶用燃料油の一般海域における世界的な硫黄分 0.5%上限規制(グローバル規制)は 2020
年開始が予定されているが、現時点において製油所の設備動向等をみても、LSFO の増産ソ
ースの増加が見込まれていないことから、2025 年より前に硫黄分 0.5%まで下がることは
ないと思われ、2025 年の開始が予想される。
2025 年およびその先の残渣油船舶用燃料需要は、幾分かの新たな LSFO 需要に加えて HSFO
需要に答えるためにスクラバーの普及が予想される。
グローバル規制開始に向けて低硫黄ブレンド原料の価値が上がり、製油所の流動接触分解
装置(FCC)でアップレードされるはずだった低硫黄原料が船舶用燃料油市場に入る。また
新たな残渣脱硫能力が増えることで、LSFO 需要は、残渣船舶用燃料を効率的に組み合わせ
たブレンドが満たすことになると思われる。
留出船舶用燃料油の需要増加は、石油製品需要の将来の増分の大半(49%)を占めるディ
ーゼルおよびガスオイルの一般的傾向とその傾向を一にしている。製油所アップグレード
能力への投資と高い中間留分生産量を目指して建設されている新規製油所の増加が、とも
にこの市場需要を満たすと思われる。
図3
バンカー燃料の需要、2000-2030 年(全世界・油種別)
350.0
単位:百万トン
300.0
250.0
200.0
150.0
100.0
50.0
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
2013
2014
2015
2016
2017
2018
2019
2020
2021
2022
2023
2024
2025
2026
2027
2028
2029
2030
0.0
HSFO
LSFO (s<1.5%~ 2010, s<1.0%~2014)
LSFO (s<0,5%)
MDO/MGO
LNG
2025 年の実施が想定されるグローバル規制以降は、ECA 運行船舶による実地使用と予想さ
れる HSFO/LSFO 価格差が船舶所有者にとって十分な経済的刺激となり、浄化装置(スクラ
バー)には相当な投資が行われることが見込まれる。
また、船舶用燃料として開発が進む LNG も、もうひとつの低硫黄燃料として、LNG ターミ
ナルのインフラ近くに専用ルートを持つ LNG 海上輸送船や LNG 船舶に最適な選択肢になる
だろう。LNG が石油ベースの在来型船舶用燃料油に対して価格上有利なままであれば、2020
年以降、船舶用燃料インフラへの投資が増え、さらに広く採用されるようになると思われ
る。
Nexant 社の予想によると 2030 年の全世界における船舶用 LNG 需要は、t 換算で全船舶燃料
需要の約 6%程度見込まれている。
上記の船舶用燃料需要の油種別の構成比率において予想される変化を図 4 に示す。
図 4 バンカー重油の需要構成内訳、2000-2030 年(%)
100%
80%
60%
40%
20%
0%
2000
2005
2010
Residual Fuel
3.5
3.5.1
2012
2015
Distillate Fuel
2020
2025
2030
LNG
石油価格下落の影響
低い石油価格がバンカー重油規制の遵守に及ぼす影響
最近の原油価格急落より前、すなわち 2014 年の上半期までバンカー重油価格は比較的高止
まりを続け、シッパーの費用のほぼ 70%を占めていた燃料コストが、海運業界の収益に大
きな打撃を与えていた。IMO が新たな硫黄分規制を発表したとき、多くの船舶会社は新規
則に従うことができるかどうか懸念を表明した。留出燃料油は残渣バンカー重油より大幅
に割高であり、製油所が高価値の留出製品を増産するためにコーキング装置を設置しつつ
ある中、残渣燃料油の供給は減少傾向にある。船舶会社は燃料コストの削減が概ね成功せ
ず、海上運賃の低迷により利益が大きく減少していた。つまり、多くの会社が規則遵守と
収益性を同時に満たすことはできないと感じていた のである。また、規則を満たせない場
合に課される罰金が、規則に適合しないバンカー重油を使用するという違反を回避するに
は十分ではないという懸念もあった。
バンカー重油価格は原油価格に密接に結びついているため、最近の原油価格急落に応じて
バンカー重油価格も急落した。図 5 は、低硫黄ガスオイルと高硫黄残渣燃料油の過去 5 年
間の価格トレンドを示しているが、これは船舶用ガスオイル(MGO)と高硫黄バンカー重油
(HSFO)の価格に非常に近い。低硫黄ガスオイルと高硫黄残渣燃料油の価格差も若干縮小
し、排出規制海域(ECA)内で船舶会社が規制遵守のために排ガス浄化装置を設置する誘因
がやや弱まっている。 近い将来の期間、原油価格が低いままであれば、それによっても船
舶会社は規制を守るための留出燃料への移行が容易になる可能性がある。 MGO 価格が低レ
ベルなため、船舶会社は LNG バンカリングや浄化装置に多額の投資を行うよりも ECA 内で
MG0 を使用すると予想される。
図 5 過去のガスオイル及び重油の価格動向(FOB ロッテルダム)
1200
1000
US$ per ton
800
600
400
200
0
2010
2011
2012
Gas Oil
3.6
2013
Fuel Oil
2014
Jan-15
Premium
まとめ
3.6.1
IMO規制が日本の石油精製業界に及ぼす影 響と課題
日本の海域には今のところ ECA がないため、2015 年1月から実施された硫黄分 0.1%規制
は当面適用されず世界的な一般海域の硫黄分上限規制は、3.5%のままである。
2020 年または 2025 年が近づいて世界的な硫黄分の上限規制が 0.5%に引き下げられると、
HSFO を生産している日本の石油精製会社は新たな販路を探す必要に迫られるかもしれな
い。
HSFO の販路のひとつとしては、前項で想定した需要シナリオのとおり、スクラバー装置を
備えた船舶があるが、この市場は現在の HSFO 市場ほど大きな規模にはならないと思われる。
IMO規制には低硫黄燃料油で対応するのか、スクラバー装置への投資で対応するのか、
あるいは低硫黄の代替燃料(LNG が候補)で対応するのか、その選択は船舶業界にゆだね
られているが、高硫黄重油の新たな市場が開発されない限り、日本の精製会社 も以下のよ
うな選択肢とその課題を把握して検討する必要があり、またその選択肢も択一的なもので
はないかもしれない。
<
選
択
肢
>
<
課
題
>
・HSFO 生産を継続する
⇒
スクラバー技術向上・投資コスト低減
・ブレンドにより LSFO を生産
⇒
コストアップ分の価格転嫁・供給可能量
・脱硫により LSFO を生産
⇒
将来的な需要の見極め、脱硫装置の投資採算
・残渣油のアップグレード投資
⇒
製油所改造投資採算
・輸出・入での対応
IMO規制に適合していくためには、船舶会社、石油精製会社のいずれか、あるいは双方
に多大なコストや投資リスクが伴うため、そのコスト負担は両業界で負えるものではない
であろう。最終的には旅客や荷主企業に規制の趣旨を理解していただき、コストアップ分
の運賃への転嫁をお願いしていかなければならない。
本年5月、MEPC69 において、今後のグローバルな硫黄分 0.5%規制を 2020 年から 2025 年
にかけていつ実施するべきか、全世界的な規制対応燃料の供給可能性や方法等について検
討するワーキンググループが結成され、2 年以内に結果を出す取り組みが開始される予定
である。
日本においても、石油精製業界と船舶業界はこの取組みの動向を注視しつ つ、双方の立場
を理解しながら十分な情報、意見交換が必要と考える。
3.6.2
IMO規制が日本の企業にもたらすビジネス チャンス
日本の企業には、アジア地域において、以下のようなビジネスチャンスの可能性もあると
考えられる。







船舶用燃料油の世界的な硫黄分限度が 0.5%に下げられた場合、硫黄含有量 0.5%の水
素化処理した残渣油を船舶用燃料油生産に回す
世界的な LNG バンカリング・ネットワークを作り、LNG バンカリングの技術支援を提
供する
アジアの諸国で製油所などのエネルギーユーザーに排煙脱硫設備を備えたボイラまた
はコージェネレーション設備を設置して、新たな高硫黄重油の用途を開発する
現在は低硫黄重油か原油を使用しているアジアの発電プラントに排煙脱硫設備を加え
ることを促進、または共同出資する
製油所アップグレードのためのエンジニアリング合弁事業を形成する
船舶用排ガス浄化装置の技術システムおよびソリューションを開発する
海上海運会社に船舶用排ガス浄化装置技術を販売、部分出資、リースする
3.6.3
原油価格下落の影響
現在の原油価格急落は、IMO 硫黄排出規制の遵守にプラスの影響を及ぼす見込みである。
しかし、現在の安い船舶用重油価格により、LNG のような代替バンカリング燃料も競争力
が低いと見なされて投資が抑制される可能性もある。その後原油価格が回復した場合、安
価な留出燃料油と代替規制適合策の欠如は、長期的には船舶会社が完全に規制を守る上で
障害となる可能性がある。
以上
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