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がんの実父母の看取りにおける中年期女性看護師の 役割間

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がんの実父母の看取りにおける中年期女性看護師の 役割間
香川大学看護学雑誌 第 19 巻第 1 号,1–14,2015
〔原 著〕
がんの実父母の看取りにおける中年期女性看護師の
役割間コンフリクトのプロセス
志戸岡 惠子1,佐々木 睦子2,内藤 直子3
1
摂南大学看護学部看護学科
香川大学医学部看護学科
3
藍野大学医療保健学部看護学科 2
Process of Inter-role Conflict of Middle-aged Female Nurses
Providing End-of-life Cancer Care for their Biological Parent
Keiko Shidooka1, Mutsuko Sasaki2, Naoko Naitoh3
1
Faculty of Nnrsing, Setsunan University
School of Nursing, Faculty of Medicine, Kagawa University
3
Department of Nursing,Faculty of Nursing and Rehabilitation,Aino University
2
要旨
目的
がんの実父母の看取りにおける中年期女性看護師の役割間コンフリクトのプロセスを明らかにする.
方法
戈木のグラウンデット・
中年期女性看護師 8 名にがんの実父母の看取りについてインタビューガイドに基づき半構造化面接し,
セオリー・アプリーチを参考に継続比較分析した.本研究は本学医学部倫理委員会の承認後,対象者に文書と口頭で説明し文書
で同意を得た.以下,コアカテゴリー『 』カテゴリー【 】
.
結果
勤務年数平均は 19.3 ± 3.8 年.看取り後平均 4.8 年経過し,
闘病期間は平均 2 年4ヶ月であっ
対象者平均年齢は 44.2 ± 3.1 歳,
た.がんの実父母の看取りにおける中年期女性看護師の役割間コンフリクトは
【看護師として家族の期待に添った支援をしたい】
と決意するが,
【医療者との調整へのとまどい】と【家族の意見との違いへのとまどい】から【家族だけど医療者の立場になら
ざるをえない葛藤】が発生する.その後,
【家族が連携する大切さに気づく】と『家族であることに気づく』ことで,
【死に向き
合う努力】と【親の生き様への誇り】から【患者と家族が求める看護師でありたい】という帰結に至った.一方,
【何もできなかっ
た後悔】は【医療者として納めたわだかまり】になった.
考察
がんの実父母の看取りにおける中年期女性看護師の役割間コンフリクトのプロセスは,家族の役割期待に添った支援を決意す
るも【家族だけど医療者の立場にならざるをえない葛藤】が発生する.その後,
『家族であることに気づく』ことで家族機能が
発揮され役割間コンフリクトが解消され,自己肯定感が高められた.一方,
【何もできなかった後悔】や【医療者として納めた
わだかまり】が残り自己肯定感の低下につながっていた.しかし,
『家族であることに気づく』ことで,がんの実父母を看取っ
た自己を認めながらこれからの生活に向かっていたことが明らかになった.
結論
がんの実父母の看取りにおける中年期女性看護師の役割間コンフリクトのプロセスは,家族の役割期待に添った支援からの逸
脱で役割間コンフリクトが発生する.その後,家族機能が発揮され役割間コンフリクトが解消され自己肯定感が高められた.解
連絡先:〒 573-0101 大阪府枚方市長尾峠町 45-1 摂南大学看護学部看護学科 志戸岡 惠子
Reprintrequeststo:Keiko Shidooka, Faculty of Nnrsing, Setsunan University 45-1 Nagaotouge-Town, Hirakata-City, Osaka
Prefecture 573-0101, Japan
−1−
香大看学誌 第 19 巻第 1 号(2015)
消されなかった役割間コンフリクトは自己肯定感を低下さていたが,実父母を看取った自己を認めながらこれからの生活に向
かっていた. キーワード:中年期女性看護師,看取り,がんの実父母,役割間コンフリクト
Summary
Objective
To clarify the process of the inter-role conflict of middle-aged female nurses when providing end-of-life cancer care
for their biological parent.
Method
Eight middle-aged female nurses underwent semi-structured interviews based on an interview guide regarding endof-life cancer care for biological parents, and continuous comparative analysis was conducted referring to Saiki’s
grounded theory approach. Consent was obtained from the participants after giving them a verbal and written
explanation of our study. Below, italics indicate categories and ‘’ indicate core categories.
Findings
The mean age of the subjects was 44.2 (±3.1), and the mean number of years working as a nurse was 19.3 (±3.8).
The inter-role conflicts of middle-aged female nurses providing end-of-life cancer care for their biological parent
involved wanting to provide support as a nurse that corresponded to the family’s expectations, but feeling lost
coordinating with medical care providers, and feeling lost in the difference in opinion of the family, which led to
a conflict in being a member of the family but having to take the position of a medical care provider. Thereafter,
realizing the importance of family cooperation and ‘realizing that they are a part of the family gave the nurses the
strength to face death and take pride in the way their parent lived, which led nurses to the conclusion that they
wanted to be a nurse that the patient and family desired. On the other hand, regret about not being able to do
anything led to the ill feeling of their achievement as a medical care provider.
Discussion
As a part process of the inter-role conflict of middle-aged female nurses providing end-of-life cancer care for their
biological parent, in ‘realizing that they are a part of the family,’ the nurses exhibited their role in the family, which
eliminated the inter-role conflict and increased their self-esteem. On the other hand, the inter-role conflict, where
the nurses harbored ill feelings of their achievement as a medical care provider, reduced their self-esteem.
Keywords: Middle-aged Female Nurses, End-of-life Cancer Care Their Biological Parent, Process of Inter-role
Conflict
序論
ると報告している.また,潜在看護職の離職理由の上
位は,「妊娠・出産」,「結婚」,「勤務時間が長い・超
平成 22 年版看護白書
1)
において,看護師は職場や
過勤務が多い」としている.この結果,女性看護師の
働き方を選ぶ上で「家庭生活と両立できること」を最
就労においては一般女性の就労と同様に役割間コンフ
も重視している専門職であり役割間コンフリクトが発
リクトが生じ就労継続が困難になっていると考える.
生しやすく,慢性的なワーク・ファミリー・コンフリ
クト(仕事生活領域から家庭生活領域への葛藤,以下
久井 3)は,「仕事」・「個人」・「家族」役割について
WFC)を抱えているとされている.女性看護師の就
労について,平成 19 年版看護白書 2)では,女子全産
業就業率とほぼ重なり合うように M 字型のカーブを
描いており,看護職を志して資格を取得した特定の集
団の中での就業率であるにもかかわらず,30 歳未満
までの若年層を除き女子全産業就業率とほぼ同じ状況
にある.これは子育て期にいったん職場を離れ,その
後再就職を行う女性のライフイベントが反映されてい
「仕事」の役割は,職場組織のインフォーマルな組織
行動における役割を含んだ職場における仕事担当者と
しての役割,「個人」の役割は,一人の人間としての
自分自身の意思や自己実現を行う存在としての役割を
意味する.また,
「家族」の役割は,家族成員である母・
妻・嫁・娘といった役割を担うことを意味すると説明
している.また,役割コンフリクトは3つのタイプあ
り1つは役割間コンフリクトで,人が二つ以上の役割
−2−
香大看学誌 第 19 巻第 1 号(2015)
を担うことによって両立不可能な期待に直面する状況
な役割間コンフリクトがあったか,そしてどのように
で,2つめは役割内コンフリクトで人が一つの役割を
状況を対処していったのかについて明らかにしたいと
担うことによって相異なる期待が自分に向けられる状
考えた.これまでに,がんの実父母の看取りにおける
況で,3つめはパーソン・ロール・コンフリクトで自
中年期女性看護師の役割間コンフリクトのプロセスに
分自身と役割それ自体とのコンフリクト状況であると
ついて研究しているものはほとんどみられない.その
4)
している .さらに,吉田
5)
の研究によると,1985
ため今後,中年期女性看護師が「仕事と家庭の両立」
年,欧米において,Greenhaus と Beutell6)は,1964
をしながら,がんの実父母の看取りという発達課題の
年の Kahn らの研究を踏まえて,WFC を提唱し説明
適応への健康支援に向けた基礎資料となると考えた.
している.さらに Carlson ら
7)
は,WFC はある個人
の仕事と家庭生活領域における役割要請が,いくつか
目的
の観点で互いに両立しないような,役割間コンフリク
トであり,3形態(時間,ストレス反応,行動)およ
がんの実父母の看取りおける中年期女性看護師の役
びファミリー・ワーク・コンフリクト(家庭生活領域
割間コンフリクトのプロセスを明らかにする.
から仕事生活領域への葛藤,以下 FWC)と WFC と
いう 2 方向からなる概念と定義している.
方法
Lazarus のストレス対処理論に基づいて作成され
1. 用語の定義
た Lazarus type Stress Coping Inventory( 以 下
看取り:看護師として仕事をしながら病人の生が終わ
SCI) は,日本語版でストレス対処行動を評価でき
るまで,最善の生を生きることができるように世話を
る標準化された尺度である。SCI は,対処行動を計画
し,病人の死後 7 年未満までの過程.
8)
型(問題解決に向けて計画的に対処をしたり,解決法
を検討したりする),対決型(問題を積極的に対処す
役割間コンフリクト:「仕事」・「個人」・「家族」役割
る),
社会的支援模索型(他者の援助を得ようとする),
が両立不可能な期待に直面する状況.
責任受容型(誤った自己の行動を自覚し反省する),
自己コントロール型(自己の感情や考えを表に出さな
中年期女性看護師:30 代後半から 40 代後半の看護師
い),逃避型(問題解決の意欲を失う),離隔型(問題
として仕事をしている女性.
を自分とは関係ないものとする),肯定評価型(遭遇
した問題を肯定的に考える)からなる8つの対処法に
2. 研究方法
分類し対処行動の評価に用いている.
本研究は,中年期女性看護師の看取るときに生じた,
感情や認識,それに対する医療者や家族との相互のや
中年期女性看護師は,生物学的にも社会的・心理学
りとりなどから,表面に現れない現象の構造とプロセ
的にも,また家族発達の側面から見ても変化が多い年
スを導き出すことを目的としている.そのため,質
齢層にあり,看護師として「仕事と家庭の両立」をし
的研究方法論として戈木 9-11)のグラウンデット・セオ
ながらキャリアをつんだ人材であり,業務において複
リー・アプローチを参考に継続比較分析する.
雑な臨床状況を対処し , 見極めて対処行動をしている
と推測される.しかし,実父母ががんと診断された場
戈木のグラウンデット・セオリー・アプローチは,
合,今までの看護の経験から実父母への最善の支援と
インタビューによる語りからのデータに密着したその
家族の役割期待に添った支援をしたいと考える.その
人自身が意識しないままに考え行動してきた表面に現
ため,中年期女性看護師は実父母と家族の治療への期
れない現象の構造とプロセスを導き出すためである.
待に添えない場合,重圧感から心身の疲労が大きくな
また,データに根ざして分析を進めデータに基づいた
り ,「 仕事」・「個人」・「家族」役割の均衡が保てず調
複雑な現象をプロパティ(特性)とディメンション(次
整力が低下し,状況に対処できず役割間コンフリクト
元)に分けて検討し,データを的確に捉えて概念の抽
が発生しやすいと考える.
象度を上げていくことができ,さらに,各概念抽出に
おける抽象度の上げる時も,プロパティとディメン
そこで,中年期女性看護師が「仕事と家庭の両立」
ションで振り返ることができる.パラダイムを使うこ
をしながら,がんの実父母の看取りにおいてどのよう
とによって,現象の構造とプロセスを把握して,不足
−3−
香大看学誌 第 19 巻第 1 号(2015)
情報に気づかされ,カテゴリー関連図でカテゴリー同
者ごとに半構造化面接を行いデータ収集と分析を交互
士の関係を結びつける時にディメンションの変化によ
に行い,理論的サンプリングに基づくデータ収集と分
る位置づけを確認できる.このように,分析の初めか
析を繰り返すなかで,理論的飽和の状態に達成したと
ら終わりまで指標として使い続けるプロパティとディ
判断できれば面接調査は終了する.具体的な手順は以
メンションがあることで,分析者のバイアスを最小限
下の通りである.
に留めることができると考え研究方法として適応し
た.
3.対象の選定基準
看護職の年齢は,岡本 12-14) の中年期の年齢を参考
に 30 代後半から 40 代後半とした.但し,既婚,未
婚は問わない.勤務年数,勤務場所,勤務時間,勤務
形態は問わないが現役女性看護師であることとした.
実父母の病名はがんであり,治療内容,がん性疼痛
の有無,治療の自己決定ができたかどうかは問わない.
また,同居の有無や日頃からの交流も問わないことと
した.看取りの場は問わないが看取り後の経過年数は
仏教的な儀式である年忌法要から一回忌と七回忌を一
つの区切りと考える.しかし,実の親の場合,悲嘆の
回復過程に時間を要すると考え 2 年以上 7 年未満と
した.ただし,看取り後 2 年以上経過していても,悲
嘆の回復過程には個人差がある.そのため,悲嘆の回
復過程で周囲から見て体調が悪く欠勤することがある
看護師は倫理的配慮として除外するとした.
4.調査方法
調査期間は,平成 24 年 4 月~ 11 月である.イン
タビューは,半構造的面接法とする.所要時間は,50
~ 60 分程度とする.インタビューガイドを用いて実
施する.以下の通りである.
1)看取りの経過で看護職者であったことで家族や医
療従事者からどのような期待がありましたか.
2)そのことで何か大変だったことはありますか.ま
た,何か調整が必要でしたか.それはどのようなこと
ですか.
1)対象者ごとに,データを接続詞や助詞の意味も考
えながら内容を把握しデータを切片化する.
2)各切片化されたデータからプロパティとディメン
ションを抽出し,それらを基にしてラベル名を付ける.
3)ラベルをプロパティとディメンションを基にまと
めてカテゴリーに名前を付ける.
4)パラダイム(状況,行為/相互行為,帰結)を使っ
てカテゴリーを現象ごとに分類する.
5)現象ごとにカテゴリー関連図を描く.カテゴリー
同士をプロパティとディメンションで関係づけ,現象
の中心となるカテゴリーを 1 つ選び他はサブカテゴ
リーとする.
6)対象者に分析したカテゴリー関連図に間違いがな
いか大きなずれがないか意見を確認する.
7)概念(プロパティとディメンション,ラベル名,
カテゴリー,サブカテゴリー)を使いカテゴリー関連
図を説明したストーリーラインを記述する.
8)データ分析の結果を踏まえて理論的比較を行う.
次にデータを収集する対象者を選定する理論的サンプ
リングを行う.
9)対象者ごとにこれまでつくったカテゴリー関連図と
次の対象者のカテゴリー関連図を,プロパティとディメ
ンションで関係づけカテゴリー関連統合図をつくる.
10)最後に,カテゴリー関連図からコアカテゴリー
関連統合図を作成しストーリーラインを記述する.
11) 真 実 性 と 信 憑 性 の 確 保 と し て,Holloway と
Wheeler15) の示す Guba と Lincoln の質的研究を効
果的に評価する信頼可能性,転移可能性,明解性,確
認可能性4つの基準を参考にした.対象者に面接の要
約と研究者の解釈を伝え確認した.また研究者同士で
ディスカッションし,質的研究者のスーパービジョン
を受け検討を繰り返した.
インタビュー場所は,場所は対象者が希望する場所
とする.インタビュー環境は,リラックスできる静か
6.倫理的配慮 な雰囲気のところを選択し,日時は,対象者の希望日
研究計画書を香川大学医学部倫理委員会に提出し委
とする.
員会での面接で研究計画書について説明し承認された
(受付番号 23 − 4).その後,インタビューを依頼す
5.データの分析方法
戈木
9-11)
る場合には,研究目的,方法を文書と口頭で説明し,
のグラウンデット・セオリー・アプローチ
質問があればいつでも説明することを約束し,知る権
を参考にして継続比較分析を行なう.本研究は,対象
利を保証した.また,協力の有無は本人の自己決定が
−4−
香大看学誌 第 19 巻第 1 号(2015)
最優先されることを説明し,意思決定には十分な時間
関連統合図(図 1)のストーリーラインと結果図(図
を保証した.さらに,途中で精神的な苦痛を感じ辛く
2)を作成した.パラダイム一覧を表 2 で示した.
なり話したくない場合は協力を拒否することも可能で
あること,プライバシー・匿名性・秘密確保の権利,
文中の『 』コアカテゴリー,
【 】カテゴリー,
“ ”
得られたデータは研究以外には使用しないことを口頭
プロパティ,《 》はサブカテゴリーを示す.
と文書で説明し文書で同意を得た.
2. ストーリーライン
結果
実父母ががんと診断され,“治療への期待の程度”
は高く,手術療法・化学療法・放射線療法を受けていた.
1. 対象者の概要
しかし,がんの治癒を信じて治療に耐えたが再発し他
インタビューの協力を得られた対象者は 8 名であっ
臓器に転移していた.また,今までの治療の副作用に
た.年齢は 38 歳から 49 歳であり,平均は 44.2 ± 3.1
よる身体的な影響やがん性疼痛も出現していた.今後
歳であった.勤務年数は 15 年から 24 年であり,平
の治療について医師から患者と家族に決定が迫られ
均は 19.3 ± 3.8 年であった.勤務形態は常勤 7 名,非
る.そこで看護師として,
“家族の期待に添いたい思い”
常勤は 1 名であった.既婚者は 7 名で未婚者は 1 名で
や“支援したい度合い”は高くなり【看護師として家
あった.看取り後の経過年数は 2 年から 7 年で,平均 4.8
族の期待に添った支援をしたい】状況であった.その
± 2.2 年であった.看取った親の享年は 64 歳から 79
ためには医療者への相談が必要であるが,医療者との
歳で,平均 70.3 ± 4.6 歳であった.闘病期間は平均 2
“調整の難しさの度合い”は意外に高く【医療者との
年 4 ヶ月であった.在宅での看取った場合の在宅療養
調整へのとまどい】があった.さらに,実父母と家族
期間は,2 週間程度で最長でも半年であった.(表 1)
に対してもう治癒が望めないことの説明や痛みのコン
9-11)
のグラウンデット・セオリー・アプローチ
トロール方法,看取りの場などの決定には,【家族の
を参考に 8 事例の分析結果から,コアカテゴリーと
意見との違いへのとまどい】があり,【家族だけど医
10 カテゴリーが抽出された.
療者の立場にならざるをえない葛藤】に至った.これ
戈木
らの葛藤は実父母の期待に添えなかったという【何も
表 1 対象者の概要
実の親の概要
対象者 年齢
A
B
C
D
E
F
G
H
勤務場所勤
勤務
婚姻
務形態
年数
家族形態
40代 教育機関
後半
常勤
30代
病院
後半
常勤
40代
地域
前半
常勤
40代
病院
前半
常勤
40代
病院
前半
非常勤
40代
病院
後半
常勤
40代
病院
前半
常勤
40代
病院
前半
常勤
24
15
15
21
15
20
24
20
未婚
親と同居
既婚
夫婦と子ども
既婚
夫婦と子ども
既婚
夫婦と子ども
既婚
夫婦と子ども
既婚
夫婦と子ども
既婚
夫婦と子ども
既婚
夫婦と子ども
死別後
死別時
年数
対象者年齢
0名
7年
39
父
67
脳腫瘍
1名
2年
36
父
64
肺がん
化学療法
なし
2名
3年
42
父
79
中皮腫
対症療法
なし
3名
5年
40
母
手術療法
72 下顎歯肉がん 化学療法 あり
放射線療法
2名
5年
38
母
70
2名
7年
42
父
73
2名
2年
42
母
67
肺がん
2名
7年
37
父
70
大腸がん
子ども数
−5−
関係 享年
病 名
胆のうがん
治療内容
化学療法
放射線療法
手術療法
化学療法
胃がん
手術療法
大腸がん
化学療法
癌性 闘病期間
疼痛 看取りの場
なし
なし
あり
手術療法
化学療法 あり
放射線療法
手術療法
化学療法
あり
1年
病院
3年8ヶ月
在宅
3年6ヶ月
病院
1年
病院
6年
在宅
3年
病院
3年
在宅
3年
病院
香大看学誌 第 19 巻第 1 号(2015)
できなかった後悔】になり,“後悔の度合い”は高く
“私の中の解決の度合い”は低かった.しかし,家族
が実父母の世話をしてくれ,“家族からの情報”を共
合い”と“私の中の受け入れの度合い”は低いままで,
【医療者として納めたわだかまり】という帰結に至っ
た.
有できたことで,【家族が連携する大切さに気づく】.
その結果,家族との思いの一致に至り,“否定的感情
3. パ
ラダイム(状況,行為/相互行為,帰結)のカ
の度合い”を低くし『家族であることに気づく』に至っ
テゴリーとサブカテゴリー
1)状況
【看護師として家族の期待に添った支援をしたい】
は , 看護師として,実父母のがん治療や緩和など,家
族の期待に添う支援への切望を意味する.これは,
《や
れることは全部やりたい》,《絶対在宅で看取りたい》
,
《看護師として父の治療の期待に添いたい》,《治療を
一緒に頑張ることで母を支援したい》,《母の衰弱がみ
るみる進みなんとかしたい》
,《がん性疼痛をなんとか
た.そのことから【死に向き合う努力】ができ,また,
【親の生き様への誇り】は,
“癒しの度合い”を高くし,
さらに,看取りの体験から患者と家族の気持ちが理解
できるようになり,
【患者と家族が求める看護師であ
りたい】という帰結に至った.
一方,【何もできなかった後悔】は,
【死に向き合う
努力】や【親の生き様への誇り】を経ても“癒しの度
『 』はコアカテゴリー,【 】はカテゴリー,太字はプロパティ,細字はディメンションを示す
図1 『家族であることに気づく』という現象に関わるコアカテゴリー関連統合図
−6−
香大看学誌 第 19 巻第 1 号(2015)
表 2 パラダイム一覧(統合)
パラダイム
カテゴリー名
サブカテゴリー名
やれることは全部やりたい(対象者 A)
絶対在宅で看取りたい(対象者 B)
看護師として父の治療の期待に添いたい(対象者 C)
【看護師として家族の期待に添った支援 治療を一緒に頑張ることで母を支援したい(対象者 D)
状 況
をしたい】
母の衰弱がみるみる進みなんとかしたい(対象者 E)
がん性疼痛をなんとかしたい(対象者 F)
抗がん剤の止め時を決めたい(対象者 G)
治療を頑張る父の支援をしたい(対象者 H)
看護師に思いが伝わらないとまどい(対象者 A)
治療方法がなく宙ぶらりん(対象者 C)
【医療者との調整へのとまどい】
治療や予後の判断が看護師の私の役割(対象者 D)
父の痛みをどうしたらいいのかと家族から相談される(対象者 F)
私の役割だけど勝手に決めていいのかな(対象者 A)
看護師である母の在宅へのとまどい(対象者 B)
看護師である母と私の意見の違いにジレンマ(対象者 B)
【家族の意見との違いへのとまどい】
周りが治療を進めても母が辛いんじゃないかな(対象者 E)
在宅療養に家族が不安になってくるとまどい(対象者 G)
頑張らなくていいと化学療法の中止をすすめたとまどい(対象者 H)
治療の期待にも添えず楽にもしてあげれないジレンマ(対象者 C)
余計な心配をさせて母を支援できていないジレンマ(対象者 D)
【家族だけれど医療者の立場にならざる
家族なんだけど所々で医療者の立場にならざるをえない葛藤(対象者 E)
をえない葛藤】
自分の家庭もあり医療者なのに何もできていないジレンマ(対象者 F)
治療などの決定権をもっていた(対象者 H)
在宅を継続できず断念(対象者 A)
看取りへの後悔(対象者 C)
【何もできなかった後悔】
ほどんどの時を化学療法で過ごしてしまった(対象者 G)
行為 / 何もできなかったと思う私(対象者 H)
相互行為
家族が殺気だつ(対象者 E)
家族が連携する大切さに気づく(対象者 F)
【家族が連携する大切さに気づく】
在宅療養ができるように家族全員で準備(対象者 G)
兄弟が連携する大切さに気づく(対象者 G)
家族への感謝(対象者 B)
医療者の適切なサポートによる支え(対象者 B)
家族であることに気づく(対象者 C)
毎日病院に行ってくれた父(対象者 D)
『家族であることに気づく』
母も希望した在宅療養を家族が全員一致で賛成(対象者 E)
後悔なくお別れできた看取り(対象者 E)
父と母の絆に気づく(対象者 D,H)
医療者をださないで任せると決断(対象者 F)
父の死に向き合う努力(対象者 A,B,F,H)
【死に向き合う努力】
母の死に向き合う努力(対象者 G)
人生を大かして生きた父(対象者 A)
【親の生き様への誇り】
死への覚悟はあった父(対象者 C)
父も母も自分の生き様をもっていた(対象者 F)
患者の家族が求める看護師でありたい(対象者 A)
【患者と家族が求める看護師でありたい】 看取りを支える家族の思いに近づく(対象者 G)
家族の思いに近づける看護師(対象者 H)
自己の中に落とし込む思い(対象者 B)
帰 結
自己の中に納める思い(対象者 C)
【医療者として納めたわだかまり】
看護師の対応へのわだかまり(対象者 D)
自己の中で抑えた感情(対象者 D)
しっくりいかないが抑えた思い(対象者 E)
『 』はコアカテゴリー,【 】はカテゴリーを示す
したい》,《抗がん剤の止め時を決めたい》,《治療を頑
《看護師として父の治療の期待に添いたい》
張る父の支援をしたい》8サブカテゴリーで構成され
「先のことが看護師やから分かるやろって家族からは
言われるんです.だから,通院時は私が付いて行って
いました.」(C 氏)
た.「 」には特徴的な語りを表す.
《やれることは全部やりたい》
「私やれることは全部やろうと思ってた.やれること
はすべてやりたいと思ってた.」(A 氏)
《絶対在宅で看取りたい》
「私が訪看してるじゃないですか.他の人を看取れる
のに自分の親を看取れないのは絶対いやだったんです
よ.」(B 氏)
《治療を一緒に頑張ることで母を支援したい》
「よく分かっている私が,母の支援になってもらいた
いというのがあって,一緒に頑張っていこうねという
のがあったんです.」(D 氏)
《母の衰弱がみるみる進みなんとかしたい》
「母の体の衰弱というかみるみる1週間ぐらいで,下
がっていくのが見えたんです.これは,ぼやぼやして
−7−
香大看学誌 第 19 巻第 1 号(2015)
いられないなって思って.」(E 氏)
して,実父母と家族の期待に添う支援に向けた,家族
との意見調整への戸惑いを意味する.これは,《私の
《がん性疼痛をなんとかしたい》
役割だけど勝手に決めていいのかな》,《看護師である
「痛みをコントロールするために,病態については知
りたかったし,父は最後まで痛い痛いって言ってい
た.」(F 氏)
母の在宅へのとまどい》,《看護師である母と私の意見
の違いにジレンマ》,《周りが治療を進めても母が辛い
んじゃないかな》,《在宅療養に家族が不安になってく
るとまどい》,《頑張らなくていいと化学療法の中止を
すすめたとまどい》の 6 サブカテゴリーで構成された.
《抗がん剤の止め時を決めたい》
「抗がん剤が始まって,入院期間も1年になってだん
だん選択肢がなくなってきて,いつやめるのか私自身
悩んでやめどきに.」(G 氏)
「 」には特徴的な語りを表す.
《私の役割だけど勝手に決めていいのかな》
「やっぱり勝手に決めて私が決めていいんかなあとい
うところかな.」(A 氏)
《治療を頑張る父の支援をしたい》
「父は,昔の人なので,負けず嫌いで病気と闘ってい
かないといけないって言っていました.なので,こま
めに連絡を取り合っていました」(H 氏)
《看護師である母の在宅へのとまどい》
「看護師の母が,あんまり他の人に見てもらいたくな
いというのがすごくあって,それに治療してほしい思
いもあって.」(B 氏)
2)行為/相互行為
【医療者との調整へのとまどい】は , 看護師として,
実父母と家族の期待に添う支援に向け,意外に難しい
《看護師である母と私の意見の違いにジレンマ》
医療者との調整への戸惑いを意味する.これは,《看
「私が話をすると喧嘩になって,よく言われたのが,
一般的な返事はいらないって,親に合わせて言ってい
るんだけど.」(B 氏)
護師に思いが伝わらないとまどい》,《治療方法がなく
宙ぶらりん》,《治療や予後の判断が看護師の私の役
割》,《父の痛みをどうしたらいいのかと家族から相談
される》の 4 サブカテゴリーで構成された.「 」に
《周りが治療を進めても母が辛いんじゃないかな》
は特徴的な語りを表す.
「当の本人より推し進めていくのは周りかもしれない
けど,母が辛いんじゃないかな.」(E 氏)
《看護師に思いが伝わらないとまどい》
「医療者との関係をそんなに持てずに,看護師と関わ
ることもなく,毎日行ってたんやけど.」(A 氏)
《在宅療養に家族が不安になってくるとまどい》
「在宅の準備に時間がかかって,今と違って昔は.」「家
族に大丈夫って看護師さんが声をかけてくれるんだけ
ど,すると煮詰まった話が急に不安になってくる.」
(G
《治療方法がなく宙ぶらりん》
「何もわからない状況っていうのが宙ぶらりんな感じ
で経過を追っていくパターンでした.」(C 氏)
氏)
《頑張らなくていいと化学療法の中止をすすめたとま
どい》
《治療や予後の判断が看護師の私の役割》
「治療をどうしていくか,この後どうなるかとかの余
命が私の役割ですかね.」(D 氏)
「本人はすごくしんどいけど頑張っている状態で,化
学療法を止めたらって言ってしまった.」(H 氏)
《父の痛みをどうしたらいいのかと家族から相談され
る》
「どうしたら父の痛み取れるんだろうって電話で相談
される.」(F 氏)
3)行為/相互行為
【家族の意見との違いへのとまどい】は , 看護師と
4)行為/相互行為
【家族だけれど医療者の立場にならざるをえない葛
藤】は,看護師として,実父母と家族の期待と医療者
がゆえに家族ではいられないことの葛藤を意味する.
これは,《治療の期待にも添えず楽にもしてあげれな
いジレンマ》,《余計な心配をさせて母を支援できてい
ないジレンマ》,《家族なんだけど所々で医療者の立場
−8−
香大看学誌 第 19 巻第 1 号(2015)
にならざるをえない葛藤》,《自分の家庭もあり医療者
《在宅を継続できず断念》
なのに何もできていないジレンマ》,《治療などの決定
「できたら本当は家で看取りたかったけど,環境的に
無理だった.」(A 氏)
権をもっていた》の 5 サブカテゴリーで構成され,
「 」
には特徴的な語りを表す.
《看取りへの後悔》
《治療の期待にも添えず楽にもしてあげれないジレン
マ》
「酸素を上げても今度は二酸化酸素が溜まっていくの
で,上げられない.本人は上げてくれって言う,なん
で上げてくれへんねんやって,回りの者は思うんです
けど,それはできない.」「呼吸を楽にしてあげること
はできなくって.」
「治療の期待にも添えていない.」
(C
氏)
「最後の病院も,父に対して申し訳ないって,やっぱ
り最後満足できる,父も最後は満足していないと思い
ます.」(C 氏)
《ほとんどの時を化学療法で過ごしてしまった》
「次の抗がん剤して,だめだったら,あとどのぐらい
ですかって聞いたんです.あと1,2 ヶ月ですと言わ
れた.1年間ずっと化学療法で過ごしてしまった.」
(G
氏)
《余計な心配をさせて母を支援できていないジレンマ》
「最悪のパターンを想定して,手術をして命の長さを
得られても今までみたいに食べられないし,たぶん
しゃべれないということを家族に話して,母にはやん
わり説明した.」(D 氏)
《何もできなかったと思う私》
「なにもできなかったですけどね.自分で何かしたわ
けではないので.」(H 氏)
《家族なんだけど所々で医療者の立場にならざるをえ
ない葛藤》
「医療者って所々で,家族なんだけど,所々で医療者
の立場でものを見たりするから,医療者もわかるがゆ
えに.」(E 氏)
《自分の家庭もあり医療者なのに何もできていないジ
6)行為/相互行為
【家族が連携する大切さに気づく】は,看護師として,
実父母の望む支援に向けて,家族が連携する大切さへ
の気づきを意味する.これは,
《家族が殺気だつ》,
《家
族が連携する大切さに気づく》,《在宅療養ができるよ
うに家族全員で準備》,《兄弟が連携する大切さに気づ
く》の 4 サブカテゴリーで構成された.「 」には特
徴的な語りを表す.
レンマ》
「小学校入学準備とか,今思えばたいしたことないん
ですけど,出向いて医師と話しをする時間がとれな
かったのでやっぱり後悔の部分はたくさんある.あの
ときは自分の生活もあって.」(F 氏)
「何の説明もなく,痛み止めを飲み始めて朦朧とした.
私はいない時説明聞いた,聞いたと聞くことでみんな
がちょっと殺気だっている.」(E 氏)
《治療などの決定権をもっていた》
《家族が連携する大切さに気づく》
「意思決定のところでは,すべての段階において相談
はされていたので決定権があった.」(H 氏)
「弟や姉と連絡とって,姉とは細かいことを相談して
いた.弟夫婦と親は信頼関係があった.」(F 氏)
《家族が殺気だつ》
5)行為/相互行為
【何もできなかった後悔】は,看護師として,実父
母や家族の期待に反して何もできなかった後悔の念を
意味する. これは,《在宅を継続できず断念》,《看取
りへの後悔》,《ほとんどの時を化学療法で過ごしてし
まった》,
《何もできなかったと思う私》の 4 サブカテ
ゴリーで構成され,「 」には特徴的な語りを表す.
《在宅療養ができるように家族全員で準備》
「認定看護師さんの方がいらして,プライマリーもし
てくれていたので,在宅酸素に強いって所の看取りも
やっておられるようなケアマネージャーを紹介しても
らって.叔母の家に在宅酸素を入れて,父にも自立し
なさいって,お母さんのために.」(G 氏)
《兄弟が連携する大切さに気づく》
「兄は毎日面会に行ってくれて,病状説明は兄弟 3 人
−9−
香大看学誌 第 19 巻第 1 号(2015)
いるので調整していました.」(G 氏)
《毎日病院に行ってくれた父》
7)行為/相互行為
「毎日父が行っていて,それはありがたかったし,感
謝していた.」(D 氏)
『家族であることに気づく』は,看護師として,実
父母の望みに添う家族支援の中で,家族からの支えに
《母も希望した在宅療養を家族が全員一致で賛成》
対する気づきを意味する.これは,
《家族への感謝》
《医
「母の帰りたいって,みんなもう全員一致で反対する
ものがいなかった.」(E 氏)
療者の適切なサポートによる支え》
,《家族であること
に気づく》,《毎日病院に行ってくれた父》,《母も希望
した在宅療養を家族が全員一致で賛成》,《後悔なくお
《後悔なくお別れできた看取り》
別れできた看取り》,《父と母の絆に気づく》,《医療者
「ちゃんとお別れできた.きちんとできるかできない
かで後の後悔の思いが変わってしまいます.」(E 氏)
をださないで任せると決断》の 8 サブカテゴリーで構
成された.「 」には特徴的な語りを表す.
《父と母の絆に気づく》
《家族への感謝》
「やっぱり在宅でしんどくても見とくこと,在宅死は
なかなかできないので.」「在宅で看取れて,そんな家
族でよかった.」(B 氏)
《医療者の適切なサポートによる支え》
「往診ばっかりしている 24 時間対応で,支えてくれ
たのが医師と訪看なんです.」(B 氏)
《家族であることに気づく》
「冷静な医療人ではいられる姿はやっぱり身内はね.
違うんですよね.そこは家族になってしまうんです.」
(C 氏)
「お父さんは母でないとダメ,お母さん呼んでみたい
な.ずっと母が全部世話してくれた.」(H 氏)
《医療者をださないで任せると決断》
「そんなに再々に行っていないのでね.医療者という
のは出してないですね.私の中では.」「お嫁さんに任
せる,口をださないことにした感じです.」(F 氏)
8)行為/相互行為
【死に向き合う努力】は,看護師として家族として,
今できることへの支援と死を受け入れる努力を意味す
る.これは,《父の死に向き合う努力》,《母の死に向
き合う努力》の 2 サブカテゴリーで構成された.「 」
には特徴的な語りを表す.
図2 がんの実父母の看取りにおける中年期女性看護師の役割間コンフリクトのプロセスの結果図
『 』はコアカテゴリー,【 】はカテゴリーを示す
− 10 −
香大看学誌 第 19 巻第 1 号(2015)
《父の死に向き合う努力》
《看取りを支える家族の思いに近づく》
「痛みや苦しさがなかった.そのことはそうとう母が
癒された.」(A 氏)
「痛みとかね.言わないんです.その年代の人って,
お父さんも最後まで言わなかった.」(B 氏)
「本当に社交的な父だったんです.」(F 氏)
「ほんとにお父さん許してくれた,待っていてくれた
んやと思いました.」(H 氏)
「認定の看護師から言われたのは,しんどいよね.し
んどいと思うけど体壊さない程度にしんどがっとい
て.言ってくれはったんです.」(G 氏)
《母の死に向き合う努力》
「母は私に看護されてうれしかったって,言ってくれ
た.」(G 氏)
《家族の思いに近づける看護師》
「自分も今までどうだったかなぁと思いました.これ
からはもっと家族と情報を共有して今,どういう風な
ことを家族が求めているのかコミュニケーションをと
る.」(H 氏)
11)帰結
【医療者として納めたわだかまり】は,看護師として,
9)行為/相互行為
【親の生き様への誇り】は, 看護師として家族とし
て,実父母の人生の回想と見いだした生き様への誇り
を意味する.これは,
《人生を謳歌して生きた父》,
《死
への覚悟はあった父》,《父も母も自分の生き様をもっ
ていた》の 3 サブカテゴリーで構成された.「 」に
は特徴的な語りを表す.
自己の中に落とし込んだわだかまりへの気づきを意味
する.これは,《自己の中に落とし込む思い》,《自己
の中に納める思い》,《看護師の対応へのわだかまり》,
《自己の中で抑えた感情》,《しっくりいかないが抑え
た思い》の 5 サブカテゴリーで構成された.「 」に
は特徴的な語りを表す.
《自己の中に落とし込む思い》
《人生を謳歌して生きた父》
「自由に旅行に行ったりして,人生を謳歌してはった
から良かった.」(A 氏)
「どっかで言いながら自分に中に落とし込んでいる自
分がいる.」(B 氏)
《自己の中に納める思い》
《死への覚悟はあった父》
「最後,自分 1 人亡くなって,母がいないので,自分
1 人で亡くなっていく覚悟があったのかなぁ.」
(C 氏)
「自分の中に納めて医療現場で働くことを続けたけど,
後悔はどうしても拭いされない.」(C 氏)
《看護師の対応へのわだかまり》
《父も母も自分の生き様をもっていた》
「父は自分で動いていました.父も母もある程度自分
の生き様というか,ある程度なんかきっちりとしてい
ました.」(F 氏)
「今まで信頼していたのに,痛みのパッチが浮かんで
効果がなかったことや,最後の時,モニターを確認し
ましたってプチっと切った.みんなはそんなこと思わ
ないけど,そこは自分の中でわだかまり感がある.」
(D
氏)
10)帰結
【患者と家族が求める看護師でありたい】は,看護
師として,実父母の看取り経験から,患者と家族が求
める看護師への期待を意味する.これは,《患者の家
族が求める看護師でありたい》,《看取りを支える家族
の思いに近づく》,《家族の思いに近づける看護師》の
3 サブカテゴリーで構成された.「 」には特徴的な
語りを表す.
《自己の中で抑えた感情》
「最後の場面を話すことは自分の中では許されへんと
いうか,抑えたんです.」(D 氏)
《しっくりいかないが抑えた思い》
「もちろん医療者なので事情はわかるけど,ちょっと
びっくりして,しっくりいかないというのがでてき
た.」(E 氏) 《患者の家族が求める看護師でありたい》
「ここぞという時に深入りして,あえて家族と関わる
場をつくる.」(A 氏)
− 11 −
香大看学誌 第 19 巻第 1 号(2015)
考察
態を目指していた.『家族であることに気づく』こと
から医療者や家族と相互に交流した関係からの支援へ
がんの実父母の看取りにおける中年期女性看護師の
とつながっていった.『家族であることに気づく』こ
役割間コンフリクトのプロセスを【家族だけど医療者
とは,家族が安定した適応状態を目指す支援への転換
の立場にならざるをえない葛藤】の役割間コンフリク
になったと考える.
ト,『家族であることに気づく』ことで解消されてい
先行文献で,グレック 16)らは,キャリア発達させ
く役割間コンフリクト,残された【医療者として納め
た看護職者は,困難に直面しても現状の肯定的な捉え
たわだかまり】の3つの視点から考察する.
方,チャンスを生かす思考・行動力によって乗り越え
ていると報告している.つまり,本研究対象者は,
『家
1.
【家族だけど医療者の立場にならざるをえない葛
藤】の役割間コンフリクト
族であることに気づく』ことで,医療者や家族と相互
に交流した関係からの支援に転換することによって,
本研究対象者は,がんの実父母の看取りにおいて,
家族機能が発揮され役割間コンフリクトを解消して
家族からの役割期待や今まで仕事として経験してきた
いったと考える.
ことを生かし最善をつくしたいと思い【看護師として
家族の期待に添った支援をしたい】と決意する.そし
【死に向き合う努力】は,
自己の思考や感情をフィー
て,看護師であるがゆえに単に効果的な治療を見いだ
ドバックし,自己と対峙していく肯定的評価型の対処
すだけでなく,実父母の人生に意味を見いだす支援や
行動であるといえる.また,【死に向き合う努力】は
最後の時をどのように過ごしたいのかという実父母の
家族との交流というかけがえのない時期となり,自分
望みを引き出す支援も模索していきたいと願うことが
自身のありように気づきその結果,【親の生き様への
推測される.しかし,
【医療者との調整へのとまどい】,
誇り】という意味を見出すことを可能にしたと考える.
【家族の意見との違いへのとまどい】
,という予期しな
先行文献では,達人看護師は他者との関係のなかで
かった逸脱に対して,
離隔型な対処行動をとった結果,
否定的因子が生じてもその他の肯定的因子をうまく自
【家族だけど医療者の立場にならざるをえない葛藤】
分の中で調整し,自己肯定感を維持していける力があ
る報告されている 17).本研究対象者は,達人看護師
という役割間コンフリクトが発生したと考える.
であり役割間コンフリクトが発生しても,【死に向き
中年期女性看護師は,「仕事と家庭の両立」をしな
合う努力】,【親の生き様への誇り】から自己肯定感が
がらキャリアをつんだ人材であり,業務において複雑
高められ,自己の看護師としの看護を振り返り【患者
な臨床状況を対処し , 見極めて対処行動をしていると
と家族が求める看護師でありたい】という看護への意
推測される.しかし,がんの実父母の看取りにおいて
欲が高められていた.
中年期女性看護師は,役割期待に添えていないという
さらに,自らの看護師としての看護を振り返る機会
予期せぬ逸脱から,「仕事」・「個人」・「家族」役割の
になり,看護への意欲や患者と家族への関心がより一
均衡が保てず調整力が低下し,状況に対処できず役割
層高められ,【患者と家族が求める看護師でありたい】
間コンフリクトが発生すると考える.
に至ったと考える.
2.
『家族であることに気づく』ことで解消されてい
3.残された【医療者として納めたわだかまり】
く役割間コンフリクト
【医療者として納めたわだかまり】は役割間コンフ
本研究対象者は,看護師であるがゆえ実父母の人生
リクトが解消されても,がんの進行に伴って実父母の
に意味を見いだす支援への思いが強い.しかしそれら
身体的機能が衰えていくことで失われたものに目を奪
は,看護師として思いの一方向からの支援であったこ
われ,最善の生を支援できなかったという無力感にさ
とを役割間コンフリクトが発生したことで見つめ直す
いなまれ,【何もできなかった後悔】を残した.
機会となった.その結果,家族どうしが互いにコミュ
先行文献で,山本 18)らが報告しているターミナル
ニュケーションをとりながら情報を共有し,【家族が
期の患者を看護する看護師のとまどいは,患者に対し
連携する大切さに気づく】ことを糸口に家族がそれぞ
ての対応方法の迷い,患者と家族の思いのギャップ,
れ補い合い,問題解決に向けた対決型と自己を認める
患者へのマイナスの働きかけである.
【何もできなかっ
責任受容型な対処行動,さらに家族の援助を得ようと
た後悔】は,看護師という役割期待の中に発生した役
する社会的支援模索型の行動をとり,安定した適応状
割内コンフリクトであると考える.
− 12 −
香大看学誌 第 19 巻第 1 号(2015)
また,本研究対象者は,がんの実父母の看取りにお
【看護師として家族の期待に添った支援をしたい】と
いて【医療者として納めたわだかまり】を‘納める’
決意する.しかし,実父母と家族の役割期待に添えて
という自己コントロール型の対処行動で自己肯定感を
いないという予期せぬ逸脱から ,
「仕事」
・
「個人」
・
「家
低下させていたと考える.
族」役割の均衡が保てず調整力が低下し,状況に対処
先行文献では,壮年期の夫を亡くした妻の夫の死に
できず【家族だけど医療者の立場にならざるをえない
対するわだかまりへの対処は,死を認め,夫婦として
葛藤】役割間コンフリクトの発生に至っていた.
の存在の形を再構築し心理的安定を獲得している 19)
とされ,また高齢者を自宅で看取った家族の死別後の
反応は,自分の関わりに対して悔いが残り,医療の決
定に対して葛藤が残るというネガティブな感情はある
が,これからの生活に向かう力で現実への適応に至っ
ている 20)とされている.
中年期女性看護師の【医療者として納めたわだかま
り】への対処は,わだかまりに気づくものの,表出す
ることは少なく悲しみや怒りの感情を持ち続けてい
た.【何もできなかった後悔】は対象者自身が,がん
3.がんの実父母の看取りにおいて,中年期女性看護
師の役割間コンフリクトは,『家族であることに気づ
く』ことで看護師としての一方向からの支援ではなく,
医療者や家族の援助を得ようとする社会的支援模索型
の行動から家族と相互に交流した関係からの支援へと
転換され,家族が安定した適応状態となり,家族機能
が発揮され役割間コンフリクトが解消されていった.
さらに自らの看護を振り返り,看護への意欲,患者と
家族への関心が高められ,【患者と家族が求める看護
師でありたい】に至っていた.
の実父母のさまざまな怒りや悲しみの感情に何もでき
らこれからの生活に向かっていたと考える.
4.がんの実父母の看取りにおいて中年期女性看護師
は,【医療者として納めたわだかまり】を表出するこ
とは少なく,自己コントロール型の対処行動で自己肯
定感を低下させ ,【何もできなかった後悔】をもちつ
づけている.しかし,『家族であることに気づく』こ
とで得た力で , 親を看取ったあるがままの自己を認め
ながらこれからの生活に向かっていた.
結論
本研究にあたり,ご協力頂いた看護師の皆様に深く
なかったという無力感にさいなまれていることを意味
しており,これは,対象者のものの見方や死生観が反
映されたものであり,自分自身のありようが後悔に
なっていたと考える.
しかし,『家族であることに気づく』ことで得た力
によって , 親を看取ったあるがままの自己を認めなが
感謝申し上げます.
がんの実父母の看取りにおける中年期女性看護師の
本研究は,2014 年香川大学大学院医学系研究科看
役割間コンフリクトのプロセスを検討した結果,以下
護学専攻で発表した修士論文を,加筆・修正したもの
のことが明らかになった.
である.なお,本研究は第 34 回日本看護科学学会学
術集会で発表した.
1.がんの実父母の看取りにおける中年期女性看護師
の役割間コンフリクトのプロセスは,コアカテゴリー
『家族であることに気づく』と 10 カテゴリー,状況【看
護師として家族の期待に添った支援をしたい】,行為
/ 相互行為【医療者との調整へのとまどい】,【家族の
意見との違いへのとまどい】,【家族だけど医療者の立
場にならざるをえない葛藤】,【家族が連携する大切さ
に気づく】,【何もできたなった後悔】
,【死に向き合う
努力】,【親の生き様への誇り】,帰結【患者と家族が
求める看護師でありたい】,【医療者として納めたわだ
かまり】であった.
2.がんの実父母の看取りにおいて中年期女性看護師
は,今までの経験を生かして最善をつくしたいと思い
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