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2種類の創傷被覆材における褥瘡治癒関連因子の比較
日本創傷・オストミー・失禁管理学会誌 J. Jpn. WOCM., Vol. 18, No. 4, pp331 ∼ 339, 2014 2 種類の創傷被覆材における褥瘡治癒関連因子の比較 栗原 富江 1) 片岡 健 2) 長崎孝太郎 3) 高野 弘栄 4) 池田 俊行 5) 戸井洋一郎 6) 山陽学園大学看護研修センター 1) 広島大学大学院保健学研究科看護開発科学講座 2) 医療法人厚生堂長崎病院 3) 聖隷佐倉市民病院 4) 医療法人和同会広島シーサイド病院外科 5) 広島市立広島市民病院皮膚科 6) Comparison of factors related to pressure ulcer healing between two types of occulusive material Tomie Kurihara, WOCN1); Tsuyoshi Kataoka, MD2); Kotaro Nagasaki, MD3); Hiroe Takano, WOCN4); Toshiyuki Ikeda, MD5)and Yoichiro Toi, MD6) Center of Nursing, Sanyougakuen University1) Division of Nursing, Institute of Health Science Faculty of Medicine, Hiroshima University2) Nagasaki Hospital3) Seirei Sakura Citizen Hospital4) Department of Surgery, Seaside Hospital5) Department of Dermatology, Hiroshima City Hospital6) Abstract A comparative study was made on four related factors of pressure ulcers healing in the exudates of hydrocolloid dressing(HCD)and food wrap. The concentration of basic fibroblast growth factor(bFGF)which promotes vascular growth and activation of fibroblast cells was measured. At the same time, comparisons were made of pH, temperature, bacteria and fungus. Two groups were established for the application of the occulusive materials. In Group A, HCD was used for one week followed by wrap for one week in 8 cases. In Group B, wrap was used for one week followed by HCD for one week in 11 cases. The exudate was collected one week after each application in 連絡先(Corresponding author) :栗原 富江 山陽学園大学看護研修センター 〒 703-8501 岡山県岡山市中区平井 1-14-1 栗原 富江(090-93) 受理日:2013 年 11 月 11 日 ― 331 ― 日本創傷・オストミー・失禁管理学会誌 18 巻 4 号(2014) each group. The results of this comparison showed that the concentration of bFGF was significantly higher in both groups in HCD(Group A; P=0.036, Group B; P=0.003)and pH was significantly lower in HCD(P<0.001). The temperature averaged 35.3℃ in both groups with no difference between the two. The bacteria and fungua count were high in both groups,(Candida albicans, methicillin-resistant Staphylococcus aureus, Pseudomonas aeruginosa and Enterobacteriaceae) . In comparison of the four factors, at bFGF and pH, the effect of pressure ulcers healing was considered to be higher in HCD than in wrap. Key Words:occulusive materials, basic fibroblast growth factor(bFGF) , pH, temperature, bacteria 要 旨 ハイドロコロイドドレッシング(以下 HCD)と、食品包装用ラップ(以下ラップ)貼付下滲出液中の創傷治癒関 連 4 因子を比較した。塩基性線維芽細胞成長因子 bFGF 濃度 pH、温度、細菌・真菌について比較した。被覆材の貼付 方法は 2 群とし、A 群(1 週間 HCD を、つぎの 1 週間ラップを貼付)8 名、B 群(1 週間ラップを、つぎの 1 週間 HCD を貼付)11 名とし、おのおの 1 週間貼付時の滲出液を採取した。その結果、群内比較において bFGF は HCD のほう が有意に濃度は高く(A 群 P=0.036、B 群 P=0.003)、pH は HCD のほうが有意に低かった(P< 0.001) 。温度は両者 とも平均 35.3℃で差はなかった。細菌および真菌の培養では、両者ともに、Candida albicans,methicillin-resistant Staphylococcus aureus,pseudomonas aeruginosa,Enterobacteriaceae 科に属する菌が検出されたが、感染にいたった症 例はなかった。 4 因子の比較において、bFGF 濃度と pH の観点から HCD のほうがラップより褥瘡治癒促進効果が高いことが示唆 された。 キーワード:閉塞性被覆材、bFGF、pH、温度、細菌 は、その pH がわずかに酸性化することが示されており、 はじめに 線維芽細胞などは、弱酸性のほうが迅速かつ良好に移 近年つぎつぎと開発される創傷被覆材は、単に傷を 動し、かつ特定の菌に対して静菌作用を有することも分 覆うだけでなく、いかに自然治癒を促進するかという かっている 3)。酸性化すなわち緩衝作用を有するものと 観点から考案されている。また、創傷治癒を促進する して、ペクチンを含有したハイドロコロイドドレッシン サイトカインも注目され、多くの報告が行われている。 グ(以下 HCD)については、線維芽細胞や内皮細胞の なかでもヒト塩基性線維芽細胞成長因子 bFGF(basic 遊走促進、各種成長因子の活性化、壊死組織自己融解作 fibroblast growth factor)については、血管内皮細胞に 用へのペクチンの効果、皮膚常在菌の増殖抑制効果など 対する増殖促進作用が強く血管新生を強力に誘導すると が報告 4) されている。またゼラチン・ペクチンを含有 され、さらにほかの細胞増殖因子と比較すると著しく強 する HCD は、血管からの酸素と栄養の供給を阻害する 1) 力な活性を示すと報告されている 。こうしたサイトカ とされる、フィブリンを溶解する力がガーゼよりはるか インが自由に拡散し活性化されるとして、湿潤環境が重 に高く、上皮形成の時間を短縮し肥厚性瘢痕の発現率も 要視され、褥瘡の保存的治療は、創を乾燥させるガーゼ 低いともいわれている 3)。これらについては今後ますま の被覆から、創を湿潤状態にする被覆材の使用へと変わ す検証されるところと思われる。 りつつある。 一方、鳥谷部ら 5) は、経済的な問題から、食品包装 しかし、湿潤環境と感染の危険は表裏の関係でもあり、 用のフィルム(以下ラップ)の使用を提言している。 「13 有用な細胞の増殖に適している湿潤環境は、同時に細菌 例 24 部位の褥瘡評価で、4 週目では不変、8 週・16 週 や真菌にとっても増殖の環境であることから、湿潤を保 目で優位に縮小した。 」とし、 「対象とすべき他の治療法 持している間は感染への配慮を十分に行うことが重要 2) との厳正な比較検討をしていない」としながらも、ラッ である。 プ単独での湿潤環境による治癒効果を報告している。患 一方、湿潤環境を提供する一部の密封ドレッシングで 者は一人一人さまざまな要因をもっており、被覆材ごと ― 332 ― の治癒効果を、複数の人で一律に治癒について比較する 創内を温めた生理食塩水 100ml で洗浄した。 ことは困難なためといえる。 ②洗浄後に清潔なガーゼを当て、こすらずに水分を除去 そこで本研究では、1 患者の創面において、HCD と して被覆材を貼付した。 ラップをおのおの使用し、褥瘡創面の治癒促進に関連し ③ HCD は、ゼラチン・ペクチン含有のデュオアクティ た局所環境因子の比較を行うこととした。治癒に関連す ブ ® ドレッシング(ブリストルマイヤーズスクイブ コ る因子のなかから、滲出液中のサイトカイン bFGF 濃 ンバテック社 東京)を用いた。 度、温度、pH、細菌・真菌について調査比較し、湿潤 ④使用サイズは創の直径より 6cm 以上(一端が創の大 環境を提供する閉塞性被覆材としての HCD とラップの きさより 3cm 大きい)の大きさとし、周囲を医療用ビ 褥瘡治癒促進効果について比較検討した。 本実験研究は、 ニールテープまたは、不織布テープで固定した。滲出液 2004 年に大学院博士課程前期において行ったものであ が被覆材の外へ流れ出るまでは交換せず、 最短 1 ∼ 2 日、 るが、10 年経過した今日においても考察意義は不変で 最長 1 週間での交換とした。 あると考えここに報告する。 ⑤食品包装用ラップは、各施設が使用していたポリ塩化 ビニリデン(クレラップ ® 株式会社クレハ 東京) (サ 、 方 法 ランラップ ® 旭化成 東京)またはポリエチレン(ポ 1.対象 リラップ ® 宇部フィルム株式会社 山口)をそのまま 市内 3 病院入院中の成人患者で、本研究の趣旨を説明 使用した。サランラップ ® やクレラップ ® には柔軟剤と して同意の得られた褥瘡潰瘍Ⅲ度保有者で、赤色の肉芽 して脂肪酸誘導体が、安定剤としてエポキシ化植物油が 形成期にいたった患者 22 名を対象とした。ただし、以 添加されている。それぞれ生体への安全性は保障されて 下に該当する患者は除外した。①悪性腫瘍合併患、抗が いるが、雑菌混入の危険は避けられないとしている。し ん剤治療・放射線治療を受けている患者。②重篤な(肝 かし、両者とも液体反応性の低いプラスチックであり、 疾患、心疾患、血液疾患、内分泌・代謝疾患、免疫不全 滲出液内の微量因子測定への影響はないとうたってい 疾患)を有する患者。③極度の栄養障害があり血清アル る。ラップ療法では、鳥谷部 5) らも両者を混合で使用 ブミン値が 2.0g/dl 以下の患者。④活動性の細菌感染を している。 有し全身状態が極度に低下している患者。 ⑥ラップの使用サイズと周囲の固定は HCD と同様とし 2.倫理的配慮 た。 本実験研究実施に際し、担当医師と著者によって、倫 ⑦ラップ交換は毎日 1 回とし、交換までに流れ出た滲出 理的配慮を盛り込んだ研究参加依頼書をもとに患者に十 液はフィルムの上を覆った紙オムツに吸収することとし 分説明し、研究参加について自由意志による同意を得た。 た。 病状によって患者本人から同意を得ることが困難な場合 ⑧研究期間中は該当被覆材以外の薬剤は使用せず、研究 は家族から同意を得た。また、広島大学大学院保健学研 開始前 2 週間以内にも薬剤を使用していないことを確認 究科の看護開発科学講座倫理委員会の承認を得て行った。 した。また、研究中に創面および全身状況で倫理的、臨 3.研究方法 床的に貼付継続すべきでないと判断した場合は、ただち 1)2 種類の創傷被覆材の貼付方法 に本研究を中断しほかの方法に切り替えた。 おのおのが以前に貼付した被覆材の影響を受ける可能 3)検体採取方法 性を考慮し、① HCD と、②ラップ各 1 週間の貼付順を 被覆材を除去し、初めに細菌培養用培地を創面に接触 入れ替えた 2 群を設定し、各割付は無作為とした。 し常温で市内総合病院の臨床細菌検査室に持ち帰った。 A 群:最初の 1 週間は① HCD を貼付、つぎの 1 週間は つぎに bFGF 濃度測定用には滲出液の量にかかわらず ②ラップを貼付する。 生理食塩水 1ml を創面に滴下したあと、混和した滲出 B 群:最初の 1 週間は②ラップを貼付、つぎの 1 週間は 液をピペットで吸引した。それをただちにクーラーボッ ① HCD を貼付する。 クスで低温保持したのち、遠心分離(6000rpm, 15min) おのおの、① HCD と②ラップの貼付最終日に、滲出 し、その上清を測定日まで - 80℃で冷凍保存した。 液を採取し bFGF 濃度を測定した。同時に局所の温度 4)測定方法 (1)bFGF 濃度測定 と pH の測定、細菌・真菌の培養を行った。 2)創傷被覆材貼付時のケア 測 定 は 酵 素 標 識 免 疫 検 定 法(enzyme-linked ①両被覆材貼付の前には創周囲を石鹸を用いて洗浄し、 immunosorbent assay ; ELISA 法) 、すなわちサイトカ ― 333 ― 日本創傷・オストミー・失禁管理学会誌 18 巻 4 号(2014) イン ELISA キット(Human FGF basic Immunoassay 表 1 症例の背景 N= 19 R&D Systems USA)を用いて行った。あらかじめ準備 背景因子 した各 bFGF 濃度標準液によって、検量線を作成(吸 性別 光度 450nm)し、22 名の患者それぞれの創面の滲出液 年齢(歳) より分離した検体(上清)のサンプル濃度を算出した。 (2)pH 測定 被覆材を除去した直後に、ツーバンド pH 試験紙(測 定範囲 pH5.0 ∼ 8.0;カワニシ社 東京)を創面に接触し、 ただちに数値判定した。 疾患 (3)温度測定 被覆材を除去する前に、デジタル温度計(TT - 508 タニタ社 東京)の先端を創の上に 1 分以上挿入し温度 自立度 判定を行った。 (4)細菌・真菌培養 被覆材を除去した直後に、生菌数用標準寒天培地 栄養 (日水製薬 東京)を創面に接触し、常温でもち帰っ て細菌検査室の臨床検査技師によって培養し、3 日目 に菌数と種類を判定した。Candida albicans の同定は、 例数 男性 9 女性 10 50 ∼ 59 5 60 ∼ 69 2 70 ∼ 79 7 80 ∼ 89 3 90 ∼ 2 脳疾患(梗塞・出血) 15 心疾患(軽症) 2 肺疾患 2 A(自力歩行可) 1 B(車椅子移乗可) 1 C1(自力で寝返り可) 1 C2(ベッド上寝たきり) 16 常食・粥 4 静脈栄養 1 経管栄養 14 (ALB 3.0g/dl 以下) CHROMagar candida 培地(関東科学株式会社 東京) 意識 を、methicillin-resistant Staphylococcus aureus の同定は、 黄色ブドウ球菌鑑別用 PS ラテックス(栄磨科学株式会 拘縮 社 栃木)と MRSA スクリーン寒天培地(日本ベクト ン・ディッキンソン株式会社 東京)を用いた。また 骨突出 Pseudomonas aeruginosa は VITEK(日本ビオメビュー・ バイテック株式会社 東京)を Enterobacteriaceae 科 に属する菌は、TSI 寒天培地(日水製薬株式会社 東京) 浮腫 を用いた。 3 明瞭 3 どちらでもない 16 昏睡 0 有 11 無 8 有 1 中 9 無 9 有 5 無 14 (5)データ分析 HCD とラップ各 1 週間貼付後の bFGF 濃度比較は、 Wilcoxon の符号付順位検定を用いた。さらに HCD か 補給は、経口的に自力あるいは介助で摂取している患者 らラップに切り替えた(A 群)と、ラップから HCD に が 4 例、静脈栄養が 1 例、残りの 14 例は経管栄養で、 切り替えた(B 群)の bFGF 濃度変化を比較するため 血清アルブミン値が 2.0 ∼ 3.0g/dl の患者は 19 例中 3 例 に、Mann-Whitney のU検定を行った。いずれも漸近有 であった。また大浦の示す褥瘡危険要因分類によると、 意確率は 5%未満とした。また A 群および B 群におけ 全員が起因性褥瘡(Attributing Pressure Ulcer)であり、 る pH、温度の比較(平均値)は、対応のあるt検定を 危険要因軽度 (0 ∼ 3 点) 保有者が 8 例、 中等度 (4 ∼ 6 点) 用い有意水準は 5%未満とした。データの統計処理は、 保有者が 10 例、 高度(7 ∼ 10 点)保有者が1例であった。 すべて統計解析ソフト「SPSS 13.0J」を用いた。 全員がなんらかの体圧分散マットレスを使用していた。 分類した A 群・B 群の患者身体状況等を表 2 に示した。 結 果 2.bFGF 濃度 1.患者背景 A 群、B 群において① HCD、②ラップ各 1 週間貼付 調査した 22 例のうち、介入後に肺炎を併発した患者 後の各 bFGF 濃度を患者ごとに示した(図 1) 。HCD 2 例と死亡にいたった 1 例を除外し、19 例を分析対象と 使 用 時 の bFGF 最 高 濃 度 は 2,110pg/ml、 最 低 濃 度 は した(表 1)。男性 9 例、女性 10 例で、平均年齢 70.9 歳 44pg/ml、ラップ使用時の最高濃度は 1,050pg/ml、最 であった。脳疾患が 15 例と最も多く、生活自立度は、 低濃度は 10pg/ml 以下であった。HCD とラップでの濃 C2(ベッド上寝たきり)の患者が 16 例であった。栄養 度比較を行ったところ、A 群、B群いずれも HCD のほ ― 334 ― ― 335 ― B群 A群 男性 女性 C2 C2 B C2 C2 C2 C2 C2 C2 C2 C2 C1 C2 19 5 7 8 10 11 12 13 14 15 16 17 男性 女性 女性 女性 女性 女性 女性 男性 女性 男性 男性 男性 女性 男性 18 C2 4 男性 女性 A C2 3 C2 C2 2 男性 9 C2 1 性 6 自立度 No 表 2 A群・B群の患者状況 53 71 91 55 80 80 80 57 93 79 71 53 53 60 71 67 78 76 79 年齢 病名 間質性肺炎 脳梗塞 脳症 脳症 仙骨 仙骨 大転子 右外顆 左踵 仙骨 大転子 仙骨 仙骨 仙骨 仙骨 部位 − − − 50 42 42 42 脳症 心疾患 脳出血・糖尿病 脳血栓 脳血栓 脳血栓 脳血栓 仙骨 仙骨 仙骨 仙骨 大転子 大転子 仙骨 57.5 脳梗塞・心筋梗塞 仙骨 36.2 多発性脳梗塞 43.7 多発性脳梗塞 49.1 間質性肺炎 − − 42.7 脳出血・糖尿病 − − 51.7 脳梗塞・肺炎 46.1 脳梗塞 43.7 多発性脳梗塞 kg 経口・常食 経管栄養 末梢点滴 経口・全粥食 経管栄養 栄養 32 × 15 15 × 25 15 × 12 8×8 18 × 20 18 × 50 17 × 18 6×5 25 × 10 35 × 30 23 × 18 10 × 10 25 × 32 経管栄養 経口・常食 経管栄養 経管栄養 経管栄養 経管栄養 経管栄養 経管栄養 経管栄養 経管栄養 経口・常食 経管栄養 経管栄養 100 × 100 経管栄養 23 × 18 53 × 20 55 × 50 30 × 20 24 × 30 サイズ (mm) 11900 3500 4000 3800 4200 4200 4200 8700 7400 5000 9800 11900 11900 8900 9800 10800 10900 8000 10700 − 14 12.2 9.8 12.5 12.5 12.5 13 10 12.4 10.2 − − 10.4 10.2 12.1 9.6 10.6 13.8 − 3.3 2.6 3.5 3 3 3 3.7 3.6 3.2 3.3 − − 2.9 3.3 3.4 2.2 3.8 3.3 5.5 5.5 6 − − − − − 7.3 6.7 5.3 5.5 5.5 5.2 5.3 7.3 5.4 6.8 6.4 2.5 0.3 2.3 − − − − − 1.1 4.8 2.73 2.5 2.5 1.8 2.73 1.6 15.6 0.3 0.8 WBC Hb アルブミン 蛋白 CRP (μl) (g/dl) (g/dl) (g/dl)(mg/dl) どちらでもない 明瞭 どちらでもない どちらでもない どちらでもない どちらでもない どちらでもない どちらでもない どちらでもない どちらでもない 明瞭 どちらでもない どちらでもない どちらでもない 明瞭 どちらでもない どちらでもない どちらでもない どちらでもない 意識 中 無 無 無 無 無 無 無 中 中 無 中 中 中 無 中 中 有 中 無 有 有 無 無 無 無 無 無 無 有 無 無 無 有 無 有 無 無 骨突出 浮腫 有 無 無 有 有 有 有 無 軽有 有 無 有 有 無 無 有 無 無 有 拘縮 日本創傷・オストミー・失禁管理学会誌 18 巻 4 号(2014) 図 1 A群とB群における HCD /ラップ使用時の bFGF 濃度比較 うが有意に濃度は高かった(A 群;P = 0.036 B 群;P < 0.001) 。 = 0.003) 。 4.温度 A 群 8 例では、No3 をのぞいた全例において HCD 貼 HCD 貼 付 時 の 局 所 温 度 平 均 値 は 35.3 ℃ ± 0.70 ℃ 付時のほうが bFGF 濃度は高く、ラップに切り替えた (33.7℃∼ 36.4℃)、ラップ貼付時の局所温度平均値は ことで著しい低下がみられた(図 2) 。一方、B 群 11 35.3℃± 0.66℃(34.2℃∼ 36.3℃)で両群の温度に有意 例では、ラップから HCD に切り替えることによって 差はなかった。 bFGF 濃度はすべて上昇した(図 3) 。A 群と B 群の比 5.細菌・真菌 較では、HCD からラップに切り替えた下降変化がラッ 細菌・真菌の状況を表 3 に示した。皮膚常在菌のな プから HCD に切り替えた上昇変化より大きかった(P かでも、起炎菌となりうる可能性の高いものが検出され = 0.001) 。 た。特に Enterobacteriaceae 科に属する菌は HCD 使用 3.PH 時に 16 部位、ラップ使用時に 13 部位から検出された。 HCD 貼 付 時 の pH 平 均 値 は 7.2 ± 0.42(pH6.2 ∼ Candida albicans は、HCD 使 用 時 に 4 部 位、 ラ ッ プ 使 pH7.7)、ラップ貼付時の pH 平均値は 7.6 ± 0.18(pH7.4 用時に 1 部位から検出された。Pseudomonas aeruginosa ∼ pH8.0)で HCD 使用時の pH は有意に低かった(P は、HCD 使用時に 1 部位、ラップ使用時に 2 部位から、 ― 336 ― 図 2 A 群における HCD からラップに変更時の bFGF 濃度 の変化 図 3 B 群におけるラップから HCD に変更時の bFGF 濃度 の変化 ま た methicillin-resistant Staphylococcus aureus( 以 下 いる。しかし、多くの医療が在宅に移行している今日、 MRSA)は、HCD 使用時に 3 部位、ラップ使用時に 6 急性期病院では当然として使用している高価な薬剤や洗 部位から検出された。いずれにおいても感染にいたった 浄剤、被覆材等が、経済的な理由から在宅では使用でき 症例はなかった。 ない、などの社会的問題が存在していることも事実であ る。 考 察 そこで本研究では、急性期病院等で汎用されている NPUAP(National Pressure Ulcer of Advisory HCD と地域医療で多く使用されている食品包装用ラッ Panel)Ⅲ度以上の褥瘡は、肉芽の増殖によって修復さ プの 2 種類において、創傷治癒促進に関連する環境因子 れる慢性創傷である。森口 6) は、創傷は生体自身がもっ として、bFGF 濃度、pH、温度、細菌・真菌の 4 項目 ている生物学的機能によって自然に治癒するのが本来の について比較検討した。 過程であり、細胞の活動を高める因子を増大し、阻害す その結果、血管新生等を促すサイトカイン bFGF 濃 る因子を減少させることが理想であるとしている。小野 7) 度は、HCD のほうがラップにくらべ有意に高いことが は、治癒が阻害される因子として高齢、基礎疾患、低栄 分かった。また HCD からラップ移行時の bFGF 濃度の 養状態、慢性感染、繰り返す外傷、炎症を惹起するサイ 下降変化が、ラップから HCD 移行時の上昇変化より有 トカインの過剰産生、 matorix metallo-proteinase (MMP) 意に大きかったことは、本実験で新たに気づいたことで などの蛋白分解酵素活性の亢進,サイトカイン・増殖因 あった。HCD の場合、交換は短くて 1 日、長くて 1 週 子の減少などを列挙している。われわれ看護師は、創傷 間の場合もあり、滲出液は長く保持される。一方ラップ 治癒過程を阻害しないよう、洗浄や消毒剤・薬剤の使用・ は毎日 1 回以上の交換で、滲出液は常に洗い流される状 湿潤環境の提供・被覆材等について適切にアセスメント 態であった。このことは、感染の危険がある細菌・真 する必要がある。真田ら 8) は、皮膚・排泄ケア認定看 護師教育の成果として、「 創は消毒しない が重要 菌や蛋白分解酵素(MMP)等の有害因子を排除するこ 湿潤環境 とに役立っているといえるが、頻回に洗浄すると、自 創傷被覆材が有用 といった今日ではごく当 然治癒を促進する bFGF は容易に減少し、逆に HCD で 然の創傷ケアがわが国に定着した」意義を高く評価して bFGF 濃度を回復するには時間を要すると解釈できる。 ― 337 ― HCD 7 6 10 9 10 18 10 19 7 5 7 ― 338 ― 10 ラップ HCD ラップ Enterobacteriaceae 科に属する菌 10 10 10 10 7 10 (10 =コロニー数 10 以上、8 =コロニー数 8 個、7 =コロニー数 7 個、空欄は検出なし を表す) 10 HCD Staphylococcus aureus 10 10 8 10 7 7 7 7 4 10 7 7 3 HCD 10 2 ラップ ラップ 1 A群 HCD →ラップ methicillin-resistant Psedomonas aeruginosa Candida albicans 患者 表 3 細菌・真菌の調査結果 10 10 10 8 10 10 10 10 10 10 10 11 10 10 12 10 10 13 B群 ラップ→ HCD 10 10 14 10 10 15 10 10 10 16 10 17 日本創傷・オストミー・失禁管理学会誌 18 巻 4 号(2014) 被覆材交換に伴う頻回で十分な洗浄の功罪については、 さまざまな試み(褥瘡なおそう会編) , , 80-90, 照林社 , 今後検討する余地があると考える。 東京 , 2001. pH の比較では、HCD のほうがラップより低い値で 3)H e r m a n s M H E , B o l t o n L L . A i r e x p o s u r e あった。これは親水性コロイド中のペクチンの緩衝作用 versus occlusion Analysis of clinical and patho- によると考えられ、高尾 4) が述べているような静菌作 physiological merits and disadvantages of different 用の期待であるともいえる。一方ラップは、半閉塞性で types of dressings. J Wound Care 2 : 1-9, 1993. 空気への露出度が高いことからアルカリ化し pH は上昇 4)高尾良彦 . ドレッシング材の種類と特徴 . ドレッシ したとも考えられる。 ング 新しい創傷管理 ,(穴澤貞夫 , 倉本秋 , 柵瀬新 つ ぎ に 細 菌・ 真 菌 に つ い て み る と、 表 3 の ご と く 太郎 , 他編) , 57-58, ヘルス出版 , 東京 , 1995. Candida albicans や Pseudomonas aeruginosa、MRSA が 5)鳥谷部俊一 , 末丸修三 . 食品包装用フィルムを用い 予想以上に多くみられ、HCD では Candida albicans が 4 るⅢ∼Ⅳ度褥瘡の治療の試み . 日医雑誌 123 : 1605- 部位から、ラップでは MRSA が 6 部位から検出されて 1611, 2000. いる。特に Enterobacteriaceae 科に属する菌が、症例 1・ 6)森口隆彦 . 創傷治癒の基礎 . 褥瘡会誌 2 : 223-235, 2000. 5・17 をのぞく全症例から多く検出されたことは想像以 上であった。徳永らの研究 10) では、ラップ素材である 7)小野一郎 . 創傷治癒におけるサイトカインの役割 . 日外会誌 100 : 522-527, 1999. 塩化ビニリデンから緩衝液中に溶出される物質によって 大腸菌が活性化されることが分かっており、ラップ使 8)真田弘美 , 長瀬敬 . 看護学はいかに創傷管理を変え 用時における感染の危険について、注意点が示唆され てきたか? . 創傷治療の最前線 ,(波利井清紀編) , た。HCD では静菌作用が期待されるとはいえ、Candida 39-44, 医歯薬出版 , 東京 , 2012. albicans の検出が多かったことは検討課題である。 9)石橋康正 , 添田周吾 , 大浦武彦 , 他 . bFGF(KCB-1) 温度は、両者に差がなかった。ラップは周囲が完全に の各種難治性皮膚潰瘍に対する臨床効果−二重盲検 は固定されず、容易に空気に触れるため、温度も低いと 比較試験による用量反応試験− . 臨床医薬 12 : 77- 予測したが、まったく孔のあいていない食品包装用フィ 102, 1996. ルムの保温効果であったかとも思われる。創の治癒に 10)徳永浩樹 , 松村浩由 , 甲斐泰 , 他 . 緩衝水溶液と接 とって大切な保温効果は、両者とも 35℃前後に期待で 触した食品包装用プラスチック製品からの酵素活性 きるといえる。 化作用を持つ微量物質の溶出 . Mem School BOST Kinki University 9 : 37-50, 2002. まとめ 褥瘡の治療において、創傷治癒過程に沿って治癒環境 を整えることが重要なことは言うまでもない。本研究で は、2 種類の創傷被覆材において、治癒に関連する因子 の特徴を検討した。今後もさまざまな被覆材が考案され ると期待されるが、われわれはその利点欠点を理解して 上手く使っていくことが課題だと考える。 謝 辞 本研究を実施するにあたり、研究協力いただきました入院 施設の医師ならびに患者様、またご指導ご協力いただきまし た多くの皆様に対し心よりお礼申し上げます。 文 献 1)竹原和彦 . 創傷治癒と細胞増殖因子 . Surg Fronti 10 : 13-16, 2003. 2)古田勝経 . 湿潤環境に着目した褥瘡の保存療法 . 治 りにくい褥瘡へのアプローチ−予防・治療・ケアの ― 339 ―