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(2016/2/17)大手邦銀の信用リスクに何か変化が生じたのか

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(2016/2/17)大手邦銀の信用リスクに何か変化が生じたのか
新生ストラテジーノート 第 217 号
2016 年 2 月 17 日
調査部長 江川 由紀雄
[email protected]
(03) 6880-6035
大手邦銀の信用リスクに何か変化が生じたのか
ムーディーズによる本邦銀行持株会社債務の突然の格上げについて考える
ムーディーズは 2 月 10 日に銀行持株会社である三菱 UFJ フィナンシャル・グループ(MUFG)
の発行体格付けを A2 から A1 に引き上げた 1。結果的に子会社の三菱東京 UFJ 銀行(BTMU)
等の格付けに水準を揃えたことになる。更に、ムーディーズは、2 月 15 日に、銀行持株会社であ
る三井住友フィナンシャルグループ(SMFG)が発行した PONV 債務免除特約付き劣後債(バーゼ
ル 3 対応型 Tier 2 証券、いわゆる B3T2)の格付けを Baa2(hyb) から一挙に 3 ノッチ格上げ
し、 A2(hyb) とした 2。前者の格上げについて、ムーディーズは、「日本におけるサポートの枠組
みでは、債務超過ではない金融機関に対して政府による資本・流動性サポートが供与された場合
には強制的な損失負担は生じない。予防的措置としてのサポートは、債務超過ではない金融機
関の存続能力を高め、継続企業として全債務を約定通りに履行させることになるであろう」と述べ、
「ムーディーズは MUFG と BTMU の全債務クラスに対するサポートの可能性を同一とした」と説
明している。後者の格上げ(SMFG の B3T2 の格上げ)についてムーディーズは「SMFG のバーゼ
ル III 適格 Tier 2 債券に対する格付の Baa2(hyb)から A2(hyb)への格上げは、政府からのサ
ポートの可能性の『低い』から『非常に高い』への変更を反映している」と説明した。
ほぼ時期を同じくして、2 月 12 日付でムーディーズは「一般的な質問(FAQ):日本のメガバンク
が発行するシニア無担保債務証券に対するサポートに関する想定」と題するレポートを公表 3した。
同レポートでムーディーズは、2014 年 3 月に施行された改正預金保険法 126 条の 2、第 1 項
第 1 号(いわゆる特定 1 号措置)について解説を行ったうえで、「特定第一号措置による予防的措
置としてのサポートは、持ち株会社と子銀行を含む金融機関が、継続企業として全体の業務を継
続する能力を支えるものであり、特定の債務クラスを保護することを目的としたものではない。従
って、ムーディーズは、日本のメガバンクの銀行債務と持ち株会社債務に対する政府サポートの
可能性を同一としている」と結論付けた。
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ムーディーズ・ジャパン 「[MJKK]MUFG のシニア無担保債務に(P)A1 の格付を付与、見通し
は安定的、発行体格付を A2 から A1 に格上げ」 2016 年 2 月 10 日
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ムーディーズ・ジャパン 「[MJKK]SMFG のバーゼル III 適格 Tier 2 債券を Baa2(hyb)から
A2(hyb)に格上げ」 2016 年 2 月 15 日
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ムーディーズ・ジャパン(プレスリリース) 「[MJKK]日本のメガバンクの全ての債務クラスに「非
常に高い」政府からのサポートの想定を織り込む」 2016 年 2 月 12 日
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新生ストラテジーノート
新生証券株式会社 調査部
改正預金保険法による「特定 1 号措置」は、2014 年から可能になっているが
ムーディーズによるこの結論(本邦銀行持株会社の債権者に対しても公的な保護が及ぶとする
見解)およびそれに至る理由は、筆者が見るに、十分に説得力があるが、預金保険法 126 条の 2
は、2012 年に金融審議会に設置された「金融システム安定等に資する銀行規制等の在り方に
関するワーキング・グループ」における検討結果を考え方のベースとしているものであり、2013 年
に法案が国会に提出され通過し、2014 年 3 月に施行されているものである。欧州連合(EU)の銀
行再生破綻指令(BRRD)との際立った違いは、債務超過ではない金融機関に対する予防的な資
金支援の枠組みが設けられていることと、予め債務免除特約・株式転換特約等が契約上合意さ
れている劣後債務のみがベイルインの対象になることである。何ら特約が合意されていない劣後
債務は言うまでもなく、無担保社債などの無担保シニア債務もベイルインの対象になり得る国々と
は、本質的な部分において、金融機関の再生破綻に関する制度の理念が異なると言っても良い
だろう。
これは、今更新たに発見するべき新事実でも何でもない。なぜそれを理由に 2016 年 2 月に本
邦メガバンク持株会社を格上げしなければならないのか。ムーディーズによる本邦銀行持株会社
の突然の格上げについて、やや戸惑う向きもあるだろう。なぜこのタイミングになったのかについ
ては、不可解であると言わざるを得ない。もっとも、欧州諸国を中心に銀行債務のベイルイン制度
に代表される銀行の再生・破綻処理に納税者負担その他公的な負担を行う前に、債権者が損失
を被るべきとの考え方に基づく制度整備が進んでいたことも背景に、2014 年から 2015 年に掛
けてムーディーズは金融機関の格付け手法を見直していた。そうした時点(たとえば、2014 年)で、
欧州諸国等と異なり、日本では(特約が合意されていない債務等の)強制ベイルインを可能にす
る立法措置が行われていないことや予防的に銀行のみならず銀行持株会社等に対して資金支援
ができる立法措置が行われたこと等を理由に、邦銀および本邦銀行持株会社に限って、欧州諸
国の同業者とはいわば正反対の評価軸を採用することは難しかったという時代背景もあるのでは
ないだろうか。
持株会社と銀行子会社との間に、構造劣後や期待損失の水準の違いを理由に、格付け上、1
ノッチの差異を設けるかどうかは、格付会社によって、また、時期によって異なる。今般のムーディ
ーズによる MUFG の格上げにより、 MUFG と BTMU の格付け水準が揃ったことから、現状、ム
ーディーズによる本邦大手金融機関の格付けについては、ノッチ差が解消していると言えよう。
TLAC 適格債務の量を確保するために、持株会社が無担保社債を発行しようとする際に、発行体
にとっては、いわば好都合な格付けの考え方ということになる。
(調査部長 江川 由紀雄)
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新生ストラテジーノート
新生証券株式会社 調査部
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名称
:新生証券株式会社(Shinsei Securities Co., Ltd.)
金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第95号
所在地
:〒103-0022 東京都中央区日本橋室町二丁目4番3号
日本橋室町野村ビル
Tel : 03-6880-6000(代表)
加入協会 :日本証券業協会 一般社団法人金融先物取引業協会
一般社団法人日本投資顧問業協会
一般社団法人第二種金融商品取引業協会
資本金
:87.5 億円
主な事業 :金融商品取引業
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