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連載「クルマ イノベーション~変わる自動車素材~」(2)

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連載「クルマ イノベーション~変わる自動車素材~」(2)
2013 年 5 月 30 日(木)
連載「クルマ イノベーション~変わる自動車素材~」(2)
鉄鋼メーカーはホットスタンプへの対応を模索
している(写真は鋼板生産ライン)
■グローバルスタンダードへの対応 昨年末、欧州で発売されたフォルクスワーゲン
の主力モデル7代目新型「ゴルフ」を調べた大手鉄鋼メーカーの自動車向け素材の開
発担当者は「日本の鉄鋼業界が取り残される危機感を感じた」と率直に話す。ゴルフ
7には、ホットスタンプと呼ばれる手法で製造する軽量な熱間成形高張力鋼板材が、
ボディー全体の28%に採用された。これが安全装備を増やしながら6代目と比べて
車重を約20キログラム軽量化し、歴代ゴルフでトップとなる低燃費性能に貢献してい
る。
ホットスタンプは、鋼板を約900度Cに加熱して軟質化させた状態でプレス加工し、
同時に金型との接触に伴う冷却効果により焼き入れすることで、高い強度を持たせる。
熱間プレス材(ホットスタンプ材)は、鋼材を加熱する必要があるため、ハイテン材より
も生産効率が悪いものの、加工がしやすく、より高強度の鋼材となることなどから欧
米自動車メーカーが積極的に採用している。
一方で、日系自動車メーカーは、軽量化素材として高張力鋼板(ハイテン材)を冷間
(常温)でプレス加工して車体構造部品を製造する冷間ハイテン材の採用が主流だ。
新日鉄住金の担当者によると「欧米の鉄鋼メーカーも以前は、冷間ハイテン材を自動
車向けに供給しようとしてきたものの、加工精度が悪く、結果的にホットスタンプ材が
主流となった。日系の鉄鋼メーカーは高品質なハイテン材を供給でき、日系自動車メ
ーカーも高い加工技術を持つため、生産効率の高い冷間ハイテン材が主流になった」
と分析する。
ただ、日系鉄鋼メーカーが今後危惧しているのが、自動車開発でのモジュール化だ。
フォルクスワーゲンやトヨタ自動車、日産自動車は、各モデルのセグメントの枠を超え
て、数種類のプラットホームや部品群(モジュール)の中から、市場やモデルに合わせ
て組み合わせ自動車を開発するモジュール戦略を導入する。これらモジュール戦略
で開発するモデルは、世界の主要市場にある工場で生産するため、素材についても、
どの市場でも調達できるものを採用する。
海外に高炉を持たない日系鉄鋼メーカーは、日系の海外工場向け冷間ハイテン材
を、提携している欧米の鉄鋼メーカーに生産委託したり、日本からの輸出で供給して
いる。しかし、今後自動車生産台数の拡大が見込まれる新興市場向けなど中心に、
海外向けの供給には不安が残る。
神戸製鋼所は2011年9月から、中国の鞍山鋼鉄集団と自動車用冷延ハイテンの
合弁生産について検討を開始したが、未だに結論は出ていない。「ハイテン材の製造
には先進的な生産技術が必要で、中国での技術流出のリスクは無視できない」ことか
ら慎重にならざるを得ない。
トヨタの加藤光久副社長は「ずっと昔は、海外工場で生産するモデルで、『この素材
は現地で調達できないので、こっちの素材に変更する』といったケースがあった。今は
考えられない」と、グローバルで調達する素材を採用する姿勢を示す。
こうした動きに対応して、日系鉄鋼メーカー各社も、軽量化素材としてグローバルで
スタンダードになる可能性の高い熱間プレス材の供給体制を強化している。熱間プレ
ス材の効率的な生産手法の開発に注力している新日鉄住金の小島康治自動車鋼板
商品技術室長は「ホットプレスと冷間プレスの、どちらが優れているということは無い。
自動車メーカーはグローバル調達できる素材を適材適所に使っていくのだろう」と語
る。
グローバル戦略を加速させる自動車メーカーに対して、グローバルで同じ品質の素
材を供給するため、素材メーカーも対応を迫られている。
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