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泰西史鑑 - 金沢大学

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泰西史鑑 - 金沢大学
Title
石川県啓明学校の「泰西史鑑」
Author(s)
梶井, 重明
Citation
こだま:金沢大学附属図書館報, 134: 5
Issue Date
1999-07-01
Type
Article
Text version
URL
http://hdl.handle.net/2297/3034
Right
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http://dspace.lib.kanazawa-u.ac.jp/dspace/
こ だ ま
蔵書
散策
第三回 石川県啓明学校の『泰西史鑑』
石川県は明治9
(1
8
7
6)
年2
月,英学校,巽中学校,長町
変則中学校などを廃し,金沢
仙石町加賀藩藩校明倫堂の地
に啓明学校を開校した。この
学校が「中学師範学校」
(明
治1
0年7月)
,「石 川 県 専 門 「石川県啓明学校」
学 校」
(明 治1
4年7月)と 名
蔵書印
称を変更しながら高等専門教
育機関としての内容を充実整備し,第四高等中学
校(明治2
0年4月)の前身校となったのである。
啓明学校では英学校の流れをひく洋書を主とす
る甲部と巽中学校の流れをひく和漢書を主とする
乙部があった。「石川県啓明学校」印と「第四高
等中学校図書」印の押印された「泰西史鑑」は乙
部史学の授業で使用されたものである(四高4−
4
0−4
1)
。紺色の表紙の半紙本で,上編,中篇各
1
0冊。上編第1冊を開くと黄色の扉に「普魯士 勿的爾著/佐倉藩 西村鼎重訳/泰西史鑑/明治
己巳秋 官許 求諸己斎蔵梓」と書かれている。
「明治己巳」は明治2年,「求諸己斎」は西村の
書斎名である。扉の右は依田学海の序文で,前述
の蔵書印2個が押印されている。学海の序に次い
で西村の自序,次いで本文巻頭。巻頭に「荷蘭 珀爾倔 訳」
(中編では「珀爾克」
)の記載がある。
「泰西史鑑」の原著がドイツ語で,オランダ語に
訳され,これを西村鼎(茂樹)が重訳したことが
わかる。しかし,「勿的爾」や「珀爾倔」はアル
ファベットで表示するとどんな綴字になるのであ
ろうか。
第1
3
4号 1
9
9
9年7月1日 てみたところでは,オランダ語/日本語相互に,
きちんと対応しているという。そうすると,「勿
的爾」は“Th.B.Welter”
,「珀爾倔」は“W.
van den Berg”である。また先生から,ドイツ語
原著の簡略版が四高蔵書のなかにあるとご教授頂
いた。ここで紹介しておこう。
“Auszug aus dem Lehrbuche der Weltgeschichte für
Schulen,von Th.B.Welter, neuunddreiβigste
Auflage,bearbeitet von A.
Hechelmann.
1
8
8
4”
(四
高4−2
0−7
1)
「泰西史鑑」は西洋を中心にした,世界通史で
ある。旧約聖書創世記の記述による天地創造から
フランス革命まで,上,中,下編それぞれが,古
代史,中世史,近世史に対応している。(附属図
書館には啓明学校本の「泰西史鑑」とはべつに師
範学校旧蔵の一本があり,下編まで全3
0冊が揃っ
ている。
)西村茂樹が上編を刊行したのが明治2
年,中篇が明治5年,下編は明治1
0年から明治1
4
年である。
西村茂樹(1
8
2
8−1
9
0
2)の思想や生涯について
多くの著書や論文があるが,ここではあまり紹介
されていないと思える,作家宮本百合子の「繻珍
のズボン」という短文を紹介しよう。宮本は母方
の祖父西村茂樹について子供時代の「道学者めい
たきつい印象を伴った」姿から「明治を生きた一
人の学者の姿」を「明治文化史の挿画」としてイ
メージするようになるまでを見事に書いている。
「千賀子という祖母がよく,これでお前,私だっ
て祖父さまのお手伝いをして英語を昔は知ってい
たもんだよ。鵞鳥の太い羽根の先を削ってペンを
こしらってね。礬砂(どうさ)びきの美濃紙へ辞
書をすっかり写したものさ,と云っていたが,そ
れもこの 時 代 の 夫 婦 の 一 日 の 光 景 で あ っ た ろ
う。
」
従来「泰西史鑑」の蘭訳本や原著について不明
であった。2年ほど前のことだったか,文学部の
持井康孝先生がなにかの研究上のつながりから調
査された。先生によれば,蘭訳本は“Handboek
voor de algemeene geschiedenis,voor gymnasien en
opvoedingsgestichten,door Th.B.Welter,vertaald
door W.van den Berg.
1
8
3
5”
(3冊本)と考えて
間違いないだろう。2
0余個所を泰西史鑑と対照し
− 5 −
上編第一冊扉
(附属図書館専門員 梶井重明)
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