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サブサハラ・アフリカにおける貧困削減のための課題
ドミニク・ニジンク
ゲルマーノ・ムワブ
デルフィン・ルウェガシラ
レイチェル・ゲサミ
アフリカ経済研究コンソーシアム(AERC)
ナイロビ大学
ドミニク・ニジンク
(アフリカ経済研究コンソーシアム(AERC) 調査部次長)
デルフィン・ルウェガシラ(同事務局長)
レイチェル・ゲサミ(同課長)
ゲルマノ・ムワブ(ナイロビ大学経済学部助教授)
目
次
目次 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 3
補論リスト ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4
略語表 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 5
要約 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6
第1章
はじめに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 8
1.1 概説 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 8
1.2 援助の戦略的利用のための枠組み ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 11
1.3 本稿の構成 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 14
第2章
援助および国内政策環境 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 14
2.1 資金移転としての援助 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 16
2.2 援助条件と関連課題 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 16
2.3 知識移転チャンネルとしての援助 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 17
第3章
援助、貧困、そして投資生産性 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 18
3.1 人的資本の生産性 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 19
3.2 物的投資の生産性 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 19
第4章
地域貿易ブロックの強化 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 21
第5章
制度開発 ······························································ 22
5.1 地域社会主導型の開発 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 22
5.2 ジェンダー課題 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 23
5.3 援助提供における制度機構の改善 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 24
5.4 アフリカの開発のための新パートナーシップ(NEPAD) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 26
第6章
保健と教育 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 28
6.1 保健 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 28
6.2 教育 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 31
6.3 教育と保健のシナジー効果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 32
第7章
アフリカ農業 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 33
7.1 アフリカ農業の特徴 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 33
7.2 アフリカ農業の開発 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 35
7.3 農業開発における難問への対処 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 36
7.4 国内農業政策 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 38
3
第8章
結論と政策の優先順序 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 39
8.1 主要結論 ······························································ 39
8.2 開発プログラムの優先順位付け ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 40
参考文献 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 59
補論リスト
補論 1
WTO 農業交渉におけるアフリカの目標と関心事項 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 43
補論 2
補表 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 45
補表 1
2000 年サブサハラ・アフリカ諸国の農業貿易能力(Agricultural Tradeability: AT)
と食糧輸入能力(Food Import Capacity: FIC)の指標 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 45
補表 2
1998 年の輸出農作物別ボーダー価格における生産者の取り分 ・・・・・・・・・・・・・・ 46
補表 3
ケニアにおける世帯主の最終学歴別貧困比率 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 47
補表 4
南アフリカにおける世帯主の最終学歴別貧困比率 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 47
補表 5
1982-2000 年のケニアにおける 5 歳未満児の栄養状態 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 47
補表 6
1995 年の南アフリカにおける世帯主の貧困状況別児の栄養不良率 ・・・・・・・・・・ 48
補表 7
サブサハラ・アフリカ農村地域における社会指標 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 49
補表 8
サブサハラ・アフリカ都市地域における社会指標 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 50
補表 9
1993 年の主要サブサハラ・アフリカ諸国における貧困指標 ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 51
補表 10 1980-95 年のアフリカにおける保健指標 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 51
補表 11 1985-1996/7 年の主要アフリカ諸国における無償・有償資金協力 ・・・・・・・・・・・ 52
補表 12 アフリカにおける ODA 実施額 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 53
補論 3
対外援助についての日本人の考え ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 57
補表 13 貧困国に対する日本の開発援助についての日本人の意見(1999 年 9 月/10 月) ・・・・・・ 58
4
略語表
ACP-EU
African Caribbean & Pacific countries and European Union
アフリカ・カリブ・太平洋諸国連合と欧州連合
AERC
African Economic Research Consortium
アフリカ経済研究コンソーシアム
AIDS
Acquired Immunodeficiency Syndrome
エイズ(後天性免疫不全症)
AT
Agricultural Tradeability
農業貿易能力
CFA
Franc de la Communaute Financiere en Afrique
西アフリカ金融共同体フラン
FIC
Food Import Capacity
食糧輸入能力
HIV
Human Immunodeficiency Virus
エイズ・ウイルス(ヒト免疫不全ウイルス)
NEPAD
New Partnership for Africa’s Development
アフリカ開発のための新パートナーシップ
PRSP
Poverty Reduction Strategy Process
貧困削減戦略ペーパー
SPS
(WHO agreement on) Sanitary and Phytosanitary Measures
衛生植物検疫措置
5
サブサハラ・アフリカにおける貧困削減のための課題
要約
アフリカに対する海外援助は危機的段階にある。経済に関する研究では、対アフリカ援
助の有用性に関して見解が分かれており、中止勧告には至らないものの援助の削減を主張す
るものもある。こうした議論の中で、日本はアフリカに対する開発援助を実質的に拡大して
おり、1994 年から 1998 年にかけて、20 カ国のサブサハラ・アフリカ諸国に対して無償開
発援助と円借款を定期的に行っている。したがって、この援助が貧困を削減し、持続可能な
開発を支援するために有効であるかを検証する必要がある。
優れた政策環境を持つ国々においては、海外援助が持続可能な開発と貧困改善への有効
手段となりうることに関してはコンセンサスが得られつつある。優れた政策環境とは、マク
ロ経済的な安定、投資と蓄積および地域と国際市場への参入に対するインセンティブ、社会
的一体性、しっかりした社会インフラ(公共施設、輸送と通信、および法の支配)、分権し
たガバナンス、および経済改革を支援する政治システムなどである。しかし、優れた政策環
境をいかに実現するかに関して、これまでの研究では何の指針も示されていない。
政策環境の改革は、かつて被援助国を対象に行われていた。本報告書では、受入国のニ
ーズに対応するためには、援助国の援助政策も改革する必要があることを論じている。つま
り、優れた政策環境の解釈を広げ、援助国側の政策に必要な要素も含めている。貧困者に援
助を提供するための優れた政策環境を作り出す方法に関しては、研究資料が不足しており、
このことがアフリカに対する援助が貧困削減、
あるいは持続可能な開発の育成において効果
的でない理由の一つとなっている。
本稿では、海外援助そのものはアフリカの開発にとって悪いものではないことを強く主
張している。援助国の経済的困窮以外に、援助の削減を求める確固たる理由はない。アフリ
カに対する援助が効果的でない根本的な原因は、アフリカ政府と援助国の双方が、貧困者に
対して援助を提供する実行可能なシステムを設計し実行することに失敗していることにある。
通常アフリカに対する援助ではトップダウンの仕組みが用いられるが、この仕組みでは援助
の多くが非貧困者へ流れ、依存性を生み出し、それが永続する傾向が生まれる。
本稿におけるもう一つの主要な主張は、援助の有効性を実現するためには、政策環境と
援助提供プログラムを変革するだけでは不十分であるということである。さらに必要な条件
として、持続的に貧困削減を目指す、あるいはそのための環境を作り出すことが目的であれ
ば、援助を戦略的に配分し、利用する必要がある。
援助国と政府は、戦略的配分に関して、人間開発と経済成長において最大の利益をもた
6
らすような広範な経済セクターに援助を仕向けるべく重大な役割を果たすことができる。人
間開発レベルが極端に低いアフリカにおいては、援助資源を教育、ヘルスケア、エイズ予防
と治療、そして上下水設備に対して投資することにより、多大な恩恵が得られる。社会セク
ター以外では、海外援助からの追加的なリソースを農業に投資することにより、食糧の安全
性を確保し、高価格の農業輸出品の生産を促進することができる。また、これを産業に投資
することにより、高賃金の雇用機会を創出し、産業化の基盤を築くこともできる。あるいは
これを地域統合機関に投資すれば、地方市場と技術普及を強化することもできるし、民間機
関に投資すれば、開発プロセスにおける社会的一体性のための条件を作り出すこともできる。
また、これを研究に投資すれば、開発に関するアイディアを国内で生み出すための能力を育
成することもできる。
援助の戦略的利用は、緊急援助の適切な対象を決定する際に地域社会を参加させること
により、国内レベルで実現することができる。例えば、援助資金の対象とするプロジェクト
の検証に参加させることにより、必要のない投資を避けることができ、援助支援プロジェク
トの運営に参加させることにより、実体験を通した学習によって管理能力を育成し、プロジ
ェクトの国内オーナーシップを促進することができる。
サブサハラ・アフリカにおける貧困はきわめて広範に広がっているため、海外援助が人々
の生活状態を数年のうちに好転させると期待することは非現実的である。このため、援助国
の援助政策においては、
当該地域のニーズと開発の優先順位に関して長期的な視点を持つ必
要がある。さらに、アフリカ大陸の多様性を考慮すれば、同一の改革あるいは援助提供シス
テムがすべての国でうまく機能すると期待することはできない。援助政策と配分の仕組みは
各国に固有のものでなければならない。つまり、潜在的な受入国に関する背景情報が援助政
策に反映されなければならない。
本稿の主要点は、海外援助によって国の発展をもたらすことはできないということであ
る。発展は、その国によって行われる持続可能なプログラムの設計と実行を通して、国内か
ら発生するものでなければならない。つまり、海外援助は国内主導型の開発構想を促進、加
速、あるいは単に支援するだけのメカニズムととらえるべきである。日本の ODA の優先順
位の高い分野として本稿の中で明確になった分野は、教育と健康、農業開発(農村部の非農
業セクターを含む)、農村地域および都市地域の物理的インフラ(特に新たな情報通信技術
に必要な設備)、研究開発活動、制度改革、および地域統合プログラム、特にアフリカ開発
のための新パートナーシップ(New Partnership for Africa’s Development:NEPAD)の対
象となっているプログラムである。
7
サブサハラ・アフリカにおける貧困削減のための課題
第1章
1.1
はじめに
概説
本稿の目的は、サブサハラ・アフリカにおける援助国と受入国による日本の政府開発援
助(Official Development Assistance:ODA)の利用をより効果的なものにするための枠組
みを策定することである。アフリカの人々を貧困から解放するために日本の ODA を利用す
る場合、変化するグローバルな経済状況(この点では日本と ODA の受入国の双方が当事者
である)、およびサブサハラ・アフリカ諸国全体にわたる政策環境の多様性を考慮する必要
があるという意味で、この枠組みは戦略的である。つまり、各国への援助の流れ(その量と
中身において)、および国内における援助の活用は、各受入国におけるグローバル化の進展
具合、およびその政策環境の性質に基づいて決定すべきである。開発プロジェクトに対して
援助資源を提供および投資する際は、国々を取り巻く国内および国際環境に合わせて調整す
ることが重要である。こうした戦略的な支出と ODA の活用によって、非常に効果的に貧困
を削減し、持続可能な社会的および経済的開発の状況を作り出すことができるのである。
しかし、サブサハラ・アフリカにおける貧困削減のために援助が利用される場合でも、
日本の ODA の受入国において援助依存の体質を作り出したり、その体質を悪化させないよ
うに配慮する必要がある。日本の ODA が、南アフリカのムベキ大統領の言うアフリカにお
ける「援助要請のメンタリティ」(McPherson. 2000)を永続化させたり、あるいは作り出
すことがないように対応しなければならない。
海外援助から一人立ちできていない非貧困国
地域が、この嘆かわしいメンタリティから逃れられないことは容易に想像できる。
ここ数十年間にわたる貿易と情報の流れにおける進歩は、他国民間の交流方法に多大な
変化をもたらしてきた。国家経済は国際的な製品と要素市場を通してつながりが強まり、そ
の結果、物と生産要素の国境を越えたより大規模な流れが生まれている。このグローバル化
の拡大は、主に技術革新、市場開放、および各国間の技術協力によって促進されている。サ
ブサハラ・アフリカにおける日本の ODA(無償資金協力、有償資金協力、技術協力、およ
び他形態での援助)は、この全体的な流れの中で戦略的に位置付けられ、また利用されなけ
ればならない(アフリカにおける日本の ODA の実施状況に関しては補表 10 と 11 を参照)。
アフリカにおける過去 20 年間の第一世代の経済改革では、安定したマクロ経済環境を作
り出すことに焦点が当てられていた。地域および国によっては長引く問題があるが、総じて
その目標は達成されている。例えば、プラス成長率を達成し、インフレ率が 10%以下に抑
えられている国がある。またアフリカのほとんどの国々では、為替の不均衡が大幅に縮小し
た。
8
しかし、プラス成長率は、アフリカ国民の物質的な豊かさを広範囲に改善するまでには
至らなかった。アフリカにおける貧困率は、その他の開発途上地域の貧困率に比較して並外
れて高く、近年ますます状況が悪化している。1990 年代半ば、サブサハラ・アフリカの人
口の 53%は貧困ライン
(通常は一日当たり 1.00US ドル)以下で生活していた
(Fields. 2000)。
農村地域と都市地域の貧困率はそれぞれ 56%と 43%であった。国によっては、農村地域の
貧困率が 70~80%、都市地域の貧困率が 50~60%に昇っている。所得分配の不平等も大き
く、社会的には容認できないレベルである。この地域の平均ジニ係数は 49%である(補表
9 参照)。
第二世代の改革では、マクロ経済的な安定からさらに進んで、長期間している不十分な
人間開発の問題に取り組む必要がある。都市部のスラムや僻地農村に暮らす人々に対して、
より優れた教育、ヘルスケア、栄養、母親教育、安全な上下水設備を提供する必要がある。
実際のところサブサハラ・アフリカの貧困者の大部分がこうした地域に暮らしている。この
ような社会サービスが労働生産性の向上と関連し、最終的には貧困率の低下と関連すること
は広く認められている(Schultz. 1999)。しかし、多くのサブサハラ・アフリカ諸国では、
人的資本に投資するための資源が不足している。例えば、生活の質を直接改善するためのよ
り優れた保健、教育、およびその他の社会サービスが欠如している。
グローバル化を支持する人は、人的資本への投資に必要な資源を見つけ出し、総合的開
発に必要な新たな知識を習得することが、アフリカ諸国のような貧困国を援助する上で強力
な力となりうると主張している。すなわち、グローバル化が進みつつある経済機構において
は、貿易財、金融資本、そして技術の流れにより、貧困国と先進工業国の間の所得格差が縮
小されるというわけである。サブサハラ・アフリカの場合には、この地域経済のグローバル
化により、貧困国にとっても、さらに大きな輸出市場が創出されるであろう。国際貿易の機
会を活用するために必要な改革に着手すれば、工業製品輸入、医薬品、および社会的インフ
ラの開発に必要な大型機械を購入するための十分な外貨を手に入れることができるであろう。
さらに、サブサハラ・アフリカの国家経済のグローバル化により、直接外資、新技術、そし
て優れた経営慣習がこの地域にもたらされるはずである。つまり、アフリカの経済と世界経
済の統合を促すような分野あるいはプロジェクトに投資することにより、開発という恩恵が
もたらされる。日本の ODA は、そのための基盤を固め、統合の動きを促進するために利用
すべきである。
しかし、グローバル化を前提とした戦略においては、アフリカ諸国がグローバル化の潜
在的なリスクに有効に対応できるような制度と組織に対して投資することも必要である。例
えば、グローバル経済においては、価格および品質の面で競争力のない製品は国際市場では
売れない。アフリカでは、多くの経済規模が小さすぎるため、世界市場で競争力のある低コ
スト製品を生産するための装置と技術の投資に必要な資本を調達することができないのであ
る。つまり、多くのアフリカ諸国は、生産における規模の経済のメリットを享受する立場に
ないということになる。日本の援助により、貿易ブロックの創出を促進するようなインフラ
と制度に対して資金が提供されれば、集積の経済と規模の経済を育成あるいは実現するため
9
の推進力となる可能性がある。このように、地域志向型の開発プロジェクトは各国民国家の
経済的な豊かさに影響を与え得る。それゆえ、特定の国における開発プロジェクトに対する
支援においては、その国で実行される投資の生産性を高める可能性のある地域特性要素を考
慮する必要がある。
国際的なフォーラムにおいてサブサハラ・アフリカに対する軽視が広がっており、アフ
リカの貧困国と先進工業国の間の格差を縮小するために、
はたしてグローバル化が重要な役
割を最終的に果たすのかという、深刻な疑問が持ち上がっている。つまり、国家間の所得の
収束理論(つまりは物質的厚生の収束理論)は、特にアフリカの視点からすれば、今日まで
のところ、その証拠が得られていないようである。
長期にわたり国家間の所得の収束が実現していないことは、グローバル経済システムの
特質にその原因を求めることができる。アフリカのサブグループに属する諸国が特定の分野
に特化していることも、アフリカ諸国と先進工業国の間の長期的な所得収束を説明できる。
日本のアフリカへの開発援助により、アフリカの人々を貧困から現実に解放することを目指
すのであれば、以下の2つの問題に取り組む必要がある。第一の問題は、グローバル経済シ
ステムに対して不利な構造的特質に関するものである。こうした特質として、アフリカと世
界他地域間の労働流動性における障壁、不公平な貿易規制、そして劣悪な通信施設が挙げら
れる。日本の開発援助においては、アフリカに対する日本の政府援助とローンの流れに伴う
技術協力協定を通して一連の問題に対処することができる。アフリカ諸国のサブグループが
不利な特定の分野に特化しているという第二の問題は、輸出の多角化、および科学・技術知
識の習得における技術援助を含めて、当該諸国の生産的基盤を強化するプロジェクトに対す
る支援を通して対応することができるであろう。しかし、こうして獲得される技術知識も現
地の事情に適応させる必要がある。この点では、関連知識を継続的に国内で生み出し、国内
開発プロジェクトに適応させるためには、その国内の科学的および技術的能力が鍵となる。
上記の開発戦略では、アフリカ諸国とその属する地域のインフラ投資政策、およびこれ
らの諸国と先進工業国の間の実行可能な貿易協定を念入りに分析することが必要である。日
本は、アフリカ諸国が世界貿易機関と多国間貿易の取り決めについて有利に交渉できるよう
支援し、東京国際開発会議における提言の適切な実行を含めた各国の多様な二カ国間貿易協
定を規定するに際して、特に重大な役割を果たすことができる。
いくつかの国における研究は、グローバル化が経済成長の速度を早めることを示唆して
いる。しかし、これには所得配分に関するマイナスの影響が伴い、それが社会的軋轢と環境
悪化をもたらす可能性がある。つまり、国内においては、グローバル化が所得配分に与える
影響が平等ではない可能性がある。グローバル化は、不平等を拡大し、経済開発のもっとも
重要な目的である貧困削減に対しては弊害をもたらす可能性がある。しかし、グローバル化
が所得配分のパターンと各国の貧困状況を、どのような性質で、どのような仕組みで変化さ
せるかに関しては、いまだわかっていない。グローバル化がサブサハラ・アフリカの特定の
国々や地方において及ぼす再配分効果に関して、必要な実証的情報を得るための研究資金と
10
して、日本の開発援助を利用することができる。
サブサハラ・アフリカにおける日本の開発援助を成功させるためには、マクロ経済政策
と成長の関係、そして所得配分と貧困緩和の間の関係を適切に理解することが不可欠である。
具体的な課題として、短期的および長期的な貧困緩和施策を負債削減と結びつけること、政
策の失敗により生じるリスクから貧困者を保護するための適切なセーフティーネットおよび
施策を設計すること、そして特に乾燥地域および半乾燥地域における食糧安全保障が挙げら
れる。
最後に、近年の開放経済の芳しくない功績を考慮すると、サブサハラ・アフリカが直面
している重大な問題は、アフリカ大陸の一地域が開放された地域として、いかに戦略的にグ
ローバル経済へ参入することができるのか、ということである。日本の ODA は、アフリカ
の国際経済への戦略的な参入において重要な役割を果たすことができる。そのためには、こ
の地域において緊急を要する問題、特に、極端に低い人間開発水準および技術的孤立(これ
がきわめて低いレベルの国際競争力の原因となっている)に取り組むようなプロジェクトに
対して ODA が使われなければならない。
この研究報告書全体としての目的は、このような背景のもとで、サブサハラ・アフリカ
が直面する開発に関する主要課題を見極め、その課題に対処するに際して日本の ODA の有
効性を高めるような枠組みを策定することである。本報告書では、アフリカ諸国の政府がグ
ローバル化の進む世界で持続可能な成長を実現し、その国民、特に貧困者の全般的な生活水
準を向上させる上で、日本の援助が果たしうる役割に特に重点を置いている。
1.2
援助の戦略的利用のための枠組み
援助国によるサブサハラ・アフリカへの支援が、受入国を発展させるという目的を達成
していないことは、驚くべき悲惨な事実である。タンザニア、ケニア、およびザンビアなど
の国々では、独立以降に受け取った海外援助はかなりの金額に上る。しかし、こうした援助
がもたらした開発への影響は取るに足らないものである(Devarajan. 2001)。この 3 カ国
の経験は概してすべてのサブサハラ・アフリカ諸国に適用される。しかし、これは説明困難
な経験である。
他の条件が同じならば、ある国が追加的な資源を受け取ることは、その国の暮らし向き
をよくするはずである。こうした反事実的見地からすると、アフリカに対する援助は成功し
ていたかもしれない(ただし、その証拠はない)。なぜなら、援助がなければ、アフリカ社
会がコントロールできない「その他の外的要因」が状況を悪化させていた可能性があるから
である。この見解の問題点は、外的要因が世界の他地域に影響することなく、アフリカにの
み影響を及ぼしたとは考えにくいことである。例えばアフリカを絶え間なく襲う悪天候は、
他の地域にも共通する。
11
つまり、サブサハラ・アフリカへの援助が有効でないのは、悪天候とその他の自然災害
が主な原因であるとは言えない。ここで、援助がアフリカ亜大陸において目指した成果を生
むことができなかった理由に関して、2 つの説明が可能である。一つは、アフリカ特有の要
因(これに関してはアフリカ諸国政府がコントロールしている)により、貧困を削減する上
で援助の有効性が阻まれている。より一般的に言うと、開発の触媒としての援助の機能が阻
まれているという説明である。もう一つは、海外援助の性質と特質に関するものである。つ
まり、アフリカ諸国の援助受け入れ条件を含め、アフリカ諸国が受け取る援助が開発につな
がっていない可能性がある。
アフリカ特有の有害因子
T.W.Schultz(1963)が言うように、アフリカ諸国が実力はあるが貧しいのであれば、海
外援助によりこうした国々を貧困から解放できるはずである。つまり、政府は人々の豊かさ
を向上させるために援助を利用するだろう。しかし、貧困の理由がその国における広範囲な
非効率性に基づくものである場合、援助により何かが改善されることを期待することができ
ない。この場合、援助は国内で生産される他の資源と同様に無駄にされるだろう。そして、
非効率と全体的な不平等を永続させるような制度あるいは政策を支援する結果、事態をいっ
そう悪化させることすらありえる。
海外援助のマイナスの性質
ここで、海外援助は受入国に対する追加的な資源であることを引き続き強調しておく。
海外援助は受入国の開発目標の実現を促進するべきものである。しかし、援助はいくつかの
理由でその促進につながっていない。海外援助が開発目標に適していないか、あるいは受入
国の目標と相容れない援助国側の開発目標に束縛されている可能性がある。海外援助の金額
や期間が不適切であるため、受入国の開発上のニーズを満たすことができない可能性もある。
つまり、援助がその有効な活用を妨げる形、あるいはその誤用を助長する状況で行なわれて
いる可能性がある。
援助の無効性の説明
純資源を提供しても、受け取る側の生活水準が改善されないことは、経済学的な大きな
謎である。アフリカへの援助に関する最近の経済研究によると、援助の無効性は、不利な国
内政策環境の結果であるとしている(Dollar et al. 2000;Devarajan, et al.
2001)。アフ
リカの貧困が援助により削減されないのは、アフリカ諸国政府の誤った政策の責任であると
されている。この点では、援助国の悪政策も重大な問題であるが、この研究ではそのことが
大幅に無視されている。例えば、援助資金を用いた開発プロジェクトを現地で管理すること
が、援助国の政策の中で奨励されていない場合、そのプロジェクトは持続性を持たない。
アフリカにおける援助の有効性を向上させるには、援助国と受入国の政策環境を改革す
ることが必要である。しかし、政策改革は不可欠であるが、援助の有効性を向上させるため
には不十分である。さらに、援助資金とその他の資源は、人間開発に最大の成果をもたらし、
国民の大多数に恩恵をもたらすような活動に対して投資すべきである。こうした投資の事例
12
として、基本的ヘルスケア(エイズの治療と予防を含む)、教育、上下水設備、基本的社会
基盤、食料と貿易財の生産、そして公式および非公式セクターの開発に対する支出が挙げら
れる。
援助国の政策環境を改善することは容易ではない。援助国は受入国に対して条件を押し
付けることはできるが、受入国は条件を押し付けることができる立場にはない。しかし、援
助国は開発課題に関する話し合いのプロセスを通して、受入国の純粋なニーズに合うように、
政策を自主的に変更することができる。つまり、政府と援助国は、客観的に判断され、広範
囲に共有されるような地域レベルの開発ニーズに合わせて、政策を調整するべきである。こ
こでの援助国と政府にとっての難題は、地域社会レベルの純粋な開発上の問題に対処するた
めの仕組みを見極めることである。つまり、援助国と政府は、開発の手段として戦略的に援
助を利用しなければならない。持続可能な地域社会の福利上のニーズを満たすようなプロジ
ェクトに対して援助が投資された場合には、こうした援助は戦略的に利用されたと言うこと
ができる。このように援助を活用すれば、必ず人々の豊かさを改善することにつながるであ
ろう。
必要とする人々に対して、援助が資源の純移転として行われることは、非常に望ましい
ことである(参照
補論 3、補表 13)。援助を必要とする人が無視されたり、生活改善に
必要なものが提供されない場合、特に放置される場合には、援助は非生産的になる。アフリ
カ諸国政府と援助国の双方が、貧困者に対して支援を有効に行なうための実行可能な仕組み
を作れなかったことが、アフリカへの海外援助の分野で過去 50 年間にわたって観察されて
いる。海外資源をアフリカの貧困者に純移転したにも関わらず救済に失敗したことが、多く
の研究で示唆されているが、それは真実ではない。失敗したのは、貧困者に援助を提供する
仕組みそのものである。
ここで主張したいことは、援助の提供方法の失敗により、貧困者に援助を行なえなかっ
た、あるいは援助を効果的に行なえなかったということである。後者に関しては、援助、特
に食糧援助は、アフリカの飢餓にあえぐ何百万人もの人々に届いていることに注意する必要
がある。しかし、飢餓にあえぐ数百万の人々の手に食糧を届けるに際して用いられた「トッ
プダウン」方式は、生存者に対して、さらなる援助を期待させることにつながるのが一般的
である。次の天候の打撃に対処できる能力を食糧援助の受入者に与える援助の仕組みになっ
ていないか、あるいは種まきの季節に人々が種を手に入れることができない場合、このよう
な期待が生じる。要するに、援助が戦略的に利用されていないため、援助は無効に終わるの
である。
アフリカの貧困を削減するための主要な補助的資源として、援助をさらに有効利用する
ためには、まず援助は悪であるという誤った認識を捨て、アフリカの貧困地域社会に援助を
提供するための優れたアプローチを設計および実行する必要性を認識すべきである。優れた
アプローチとは、下記に該当するものである。
13
•
各国の政策環境を考慮する。
•
援助国と受入国の間の純粋なパートナーシップに基づかせる。
•
グローバル化の多様な面を考慮する。
•
援助に支援されるプロジェクトの設計と管理に際しては、受入側の地域社会の意見を聞
き、権限を与える。
•
金融機関および非政府組織を含めて民間セクターを支援する。
•
援助国による支援が終了した後に、受入国が自立できるように努める。
本稿は、研究範囲の性質上、必然的に広範な打開策について取り扱うが、あくまでもこ
れは自己完結的な方法で行う。次の節では本稿の構成を概説し、種々の課題を取り扱う各項
を示す。概説を参照することにより、本稿が読みやすくなるであろう。
1.3
本稿の構成
本稿の残りの部分は 7 つの項で構成される。第 2 項では、アフリカにおけるマクロ経済
的な改革、および改革に影響をもたらす適切な政府援助の役割に焦点を当てている。第 3
項では、日本の ODA の受入国において貧困を削減し、投資生産性を向上するために支援を
利用する仕組みについて考察する。第 4 項では、地域貿易ブロックを強化するにあたって
日本の援助が果たすべき役割に関して論じる。第 5 項では、制度開発および人的資源開発
に焦点を当て、第 6 項では、貧困、保健、および教育の相互関係について検討する。第 7
項では、国際的な視点から見たアフリカ農業の特質と課題、そして非農業活動への多角化の
必要性に関して考察し、第 8 項では、本研究の主な結論を提示する。また、ここでは日本
の ODA が支援できる開発プログラムに対して優先順位を付けている。
第2章
援助および国内政策環境
日本の ODA をサブサハラ・アフリカの政策環境の改善に利用することは可能であろうか。
これは困難であると同時に重大な問題である。なぜなら、援助の有効性に関する研究による
と、受入国の福利に対する援助の効果は、国内政策環境の性質に依存するからである。間違
った政策環境は間違った政策を生み、援助を浪費することになる(Devarajan et al. 2001)。
他方、優れた援助制度は援助の生産性を高め、結果としてより多くの貧困削減につながる。
援助の有効性と政策環境の関係は、明らかな疑問を提起する。例えば、「優れた」政策
環境とは何なのか。こうした政策環境は ODA によって促進することができるのか。そうで
あれば、いったいどのように政策環境は促進されるのか。
政策環境は、各国固有の事情であり、その国の資源の管理と利用の方法に影響を与える。
14
例えば成長と貧困削減を促すような優れた政策環境として、低いインフレ率、外国為替と金
融市場の機能、対外貿易に対する開放性、有効な法の支配、そして適切に機能する社会サー
ビスの提供システムが挙げられる。より一般的には、広範な成長と貧困削減を達成するため
の優れた環境として、下記の要素が含まれる(Devarajan.2001)。
•
経済活動を安定させるマクロ経済政策(財政、金融、および為替レートなど)
•
企業および家庭による蓄積に対するインセンティブを作り出す構造的政策(貿易、税金、
およびセクター別など)
•
効果的な公共セクターの管理(法の支配を確立し、インフラおよび鍵となる社会サービ
スを提供することによって、民間セクター機関と組織が民間構想を促進すること)
•
社会的一体性(女性および少数民族など、貧しく弱い立場にある人々に行き届く社会サ
ービスを通して、社会への全面参加を政策で保証すること)
このように初期の段階では、サブサハラ・アフリカ諸国に対する円借款とその他の形式
の援助は、お互いに望ましい方法で先に述べた政策環境要素の改善に利用することができる。
概して ODA 受入国は政策環境の特質が異なるため、既存の政策体制を変更するのに必要な
構造改革もまた国によって異なる。
そこで、日本の ODA 行政官にとって鍵となる戦略上の問題は、受入国の政策環境を変え
ることなくその国の開発プロジェクト実行資源を提供するか、あるいは最初にその政策環境
を変革するか、である。同じ戦略的な見解として、受入国は援助国が強制する条件で援助を
受けるか、あるいは拒否するかを決定しなければならない。
援助国は各国の国内政策環境に影響をもたらすための 3 つの手段を持っていることを研
究では示している。援助の条件、援助資金、そして技術援助である(Devarajan et al. 2001。
下記第 2 項参照)。しかし、こうした政策ゲームが、常に望ましい結果をもたらすとは限
らない。受入国は、必要な海外援助を獲得するために、納得することなく援助条件を受け入
れがちであり、その結果、援助が政策環境に対して最終的に何の影響ももたらさないことに
なる。さらに、被援助国が条件を受け入れる状況において、援助国は改革の完了前にこうし
た国々に対する援助資金の金額を削減しがちである。そして、技術援助は一般には供給主導
型であり、サブサハラ・アフリカでは政策環境にはほとんど影響を及ぼしていない。また、
技術援助と援助条件が受入国の政治的支援を受けていれば、相互学習を促す技術援助が政策
環境にプラスの影響を与え、援助条件は意図された効果を発揮する可能性があることも研究
は示唆している。受入国の改革に対する継続した支援が、サブサハラ・アフリカに共通して
見られる改革プロセスの後戻りを防止するということが新たに示されている。
しかし、貧困削減には優れた政策環境が不十分であるという事実を、開発パートナーた
ち(援助国と被援助国)は十分に認識する必要がある。例えば、マクロ経済的安定は必要で
はあるが、改革が進められる国々における持続的な成長にとっては十分な条件ではない。第
二世代の改革では、貧困の持続的削減の鍵となるメカニズムとして、制度改革と組織変革を
15
重視する必要がある。
援助の有効性に関する研究は、援助による貧困削減のチャンネルを理解するための情報
を提供してくれる。援助は、資金移転チャンネル、援助条件チャンネル、あるいは知識や技
術援助のチャンネルを通して貧困を削減することができる。
2.1
資金移転としての援助
資金移転チャンネルに関しては、援助を促進する政策環境、特に安定したマクロ経済体
制が確立されている場合には、援助が成長拡大において有効になりうる。さらに、かなり優
れた政策と制度を有する貧困国を援助の対象にするのであれば、援助は貧困削減に大きな影
響を与えることができる。サブサハラ・アフリカにおける絶対的貧困レベルの低減という総
体的目標を達成するためには、援助を効率的に配分する方法がある。Collier と Dollar は近々
発表される論文において、優れた政策と制度を有する低所得の国々に援助を再配分すること
で、貧困率は 1996 年の 72%から 2015 年には 56%に削減できるであろうと述べている。
また、アフリカ諸国政府が高度成長期の南アジアに匹敵する政策および制度環境を作り出す
ことができれば、貧困率はさらに削減されて 45%にもなる可能性があるという。しかし、
貧困率を 36%にまで削減するにはサブサハラ・アフリカにおける援助総額を増大する必要
がある。というのは、援助資源の配分はアフリカの貧困をある地点まで削減することができ
るが、この点を超えると、受入国に対する援助資源の追加が必要となるからである。より一
般的に言うと、援助配分の効率的戦略によって、貧困をかなり削減することができる国もあ
るが、効率性から得る利益では足りず、外国資源の追加が必要な国もあるのである。
2.2
援助条件と関連課題
援助国が課す条件は、援助が成功した場合には、援助資金と同じ役割を果たすことがで
きる。援助条件は政策環境を変えることができ、したがって資源の追加をすることなく援助
条件が貧困削減を可能にする。国際コミュニティーは、主に 1980 年代および 1990 年代の
構造調整プログラムに組み込まれていた援助条件を通して、サブサハラ・アフリカにおける
政策および制度改革を促進することができ、時として望ましい成果をあげることができた。
援助条件は、資源の追加に相当する効果と同等に援助の有効性を高めることもできる。
援助国間の連携もまた援助の有効性を高めるはずである。連携により支援の重複を回避
し、受入国における取引コストを削減するからである。援助国間の連携により、いくつかの
チャンネルを通して受入国の取引コストが削減される。第一に、こうした連携により、援助
国間の援助条件が統合されるため、
被援助国は複数の援助国から共同で提起された一連の課
題にのみ取り組むことが可能になる。第二に、こうした連携は援助の報告および会計手続き
を簡素化するのに役立つ。受入国は、報告条件が異なる援助国に個別に報告する代わりに、
多くの援助国の一代表国にだけ報告することができるようになる。第三に、こうした連携に
より、援助国のそれぞれの比較優位性に応じて、援助国間の専門性への特化が促進される。
16
例えば、インフラへの資金援助に特化する援助国もあれば、社会サービスの提供に集中する
援助国もある。連携から生まれるこうした専門性への特化は、援助資源の配分と活用におけ
る効率性を高め、援助国間の連携がなされていない場合と比較して貧困削減においてより多
くのことを実現できるはずである。最後に、このような連携により、受入国の政府関係者が
援助に関する事柄に費やす時間を削減することにつながり、こうした時間をその他の公共活
動に費やすことが可能になる。
すでに指摘したように、援助移転と援助条件は、それ自体では望ましい改革を促進する
ことはできない。政策と制度改革に対する最低限の政治的関心が国内になければ、援助条件
の交渉を通して持続的改革を促そうとする試みは失敗する傾向にある。改革が進むにつれて、
協議された援助条件はいっそう役に立たなくなり、改革計画はより複雑になり、そしていっ
そう広範囲な参加者のグループが改革プロセスに関与するようになる。したがって、既得権
益に反して改革を推し進めることができる確固たる地盤を確立することが、改革者たちには
必要である。つまり、まずプロセスを開始し、その上の段階で、援助条件を中間的なフェー
ズで最も役に立つものとするためには、条件の交渉よりも改革国内のオーナーシップが重要
であると思われる。オーナーシップは政府の枠を超えて広がる必要がある。つまり、改革者
たちは多くの社会利益にわたる変革への幅広い合意を確立しなければならない。そして、有
効な政治リーダーシップがこうした改革への連携を生み出しうるのである。貧困削減戦略プ
ロセス(Poverty Reduction Strategic Process : PRSP)は、貧困者に対する経済的機会を
拡大するための成長促進型の環境に依存している。これは地域のオーナーシップと貧困削減
における優先順位の高い分野を決定するに際して、参加型アプローチを採ることを重視して
いる。また、このアプローチは役人のいっそうのアカウンタビリティを促す。したがって、
PRSP は成長促進型改革の好循環を作り出す。PRSP の重要要素の一つは、公共サービスの
有効性を向上させ、説明責任システムを強化し、企業の全体的な競争力を高めるような公共
サービス改革プログラムである。
2.3
知識移転チャンネルとしての援助
援助は、資源移転であることに加え、知識移転でもある。先進工業国による貧困国への
技術援助の拡張は、技術知識の移転という形での最も明確な援助の事例である。改革を促す
ことをねらいとした政策および制度の管理は、適切なスキルと知識を持っていない人々によ
っては遂行されえない(Collier. 2001)。日本の ODA は、地域あるいは海外機関において
こうしたスキルを提供する際に重大な役割を果たすことができる。しかし、その地域固有の
運営に必要なスキルを提供すべく、可能な限りあらゆる努力が行われるべきである。こうし
た援助を通した知識移転の戦略は、地域開発上の問題の解決にも関連する持続的な技術トレ
ーニング・プログラムにつながる可能性がある。
知識移転としての援助には多様な側面がある。例えば、プロジェクト、技術援助、そし
て研究といったものである。プログラムとしてではなく、プロジェクトという形式で援助を
提供することの主な理論的根拠は、プロジェクトは説明責任を促進すると考えられるからで
17
ある。説明責任を実現する方法は、予算プロセスを透明化することである。透明性は、政府
資源の利用方法を規定する規則によって示され、
資源会計はそれらの規則に従って行われる。
透明性のある会計は継続的に圧力をかけ、歳出が質の高い公共サービスの提供へ確実に結び
つくようにする。
援助と急速に拡大する国際的な民間資本の戦略的パートナーシップの確立も、こうした
知識移転の仕組みである。つまり、外資に組み込まれた専門知識が、直接的あるいは貿易と
経済成長に対する影響を通して、貧困削除にどのように貢献するかを調査することにより、
貧困削減のアジェンダを拡大する必要がある。
すでに指摘したように、技術援助は援助の流れの主要要素の一つである。しかし、こう
した援助が貧困削減において有用であるか否かは、その援助が需要主導型であるか否かによ
り決まる。もし海外の専門家が必要でないのであれば、援助が望む結果を実現できる可能性
は低くなる。国あるいは地方レベルで多数の専門家を養成することにより、この知識移転の
プロセスのスピードを上げることができる。その地域の専門家が専門知識の進歩に後れをと
らないようにする手助けをし、変化する政策の選択肢を分析できるように、包括的な能力を
作り出すことにより、多量の人材が養成される可能性がある。
技術的トレーニングおよび研究に関連した援助については、長期的観点からプログラミ
ングを行い、より柔軟性のある援助の分配を行なうことにより、その援助の予測可能性を高
める必要がある。このような援助への多様な援助国の説明責任システムを統合することによ
り、援助の対象をより明らかにし、その取引コスト ――つまり援助を受け取り、その支出を
計上することに関係するコスト――を削減し、援助の有効性を向上する可能性がある。
第3章
援助、貧困、そして投資生産性
援助、貧困、そして投資の低生産性は同時に発生する傾向がある。実際サブサハラ・ア
フリカの大部分で常に起こっていることである。しかし、この簡単な所見では因果関係を示
してはいない。アフリカの人々は海外援助ゆえ貧しいのではないが、研究ではそうした主調
が見受けられる。援助が無くなったとしても、アフリカは貧しいままか、おそらく今以上に
貧しくなるだろう。
しかし、表面的にはアフリカの貧困はアフリカに対する巨額の海外援助の根拠であるか
のように見える。当然のことながら、貧困自体は海外資源を提供する根拠ではなく、アフリ
カに海外援助を提供する動機の一つである。海外援助とアフリカの貧困は同時に見られる。
これは、援助国がアフリカの不十分な所得を改善しようとするからである。アフリカにおけ
る不十分な所得の存在、そしてその所得に伴う貧困と戦うための援助の手を差し伸べようと
18
する援助国の願いが、
アフリカにおける援助と貧困の共存の原因となっている。
したがって、
アフリカにおける貧困に効果的に対応するためには、海外援助において、ある程度の生活水
準すら持続することができない所得の根本的原因に取り組まなければならない。
こうした根
本的原因は数多く存在するが、そのうちでも鍵となるものは、アフリカにおける不十分な人
材育成の原因となっている基本的な社会サービスの不備(ヘルスケア、教育、上下水設備)、
研究活動、世界市場、近代製品および情報技術からの孤立、持続不可能な天然資源の利用、
投資に不利なガバナンス構造、そして世界市場における企業競争力を阻害する制度と組織な
どがある。
3.1
人的資本の生産性
上記の検討から、日本の ODA をサブサハラ・アフリカにおいて利用する最も生産的な方
法の一つは、人的資源開発の機会を創出する活動に対して投資をすることである。こうした
投資は貧困者に直接恩恵をもたらす。なぜなら、T.W.Schultz(1961)が主張したように、
こうした貧困者は人類の一部であり、人類の一群であるからである。さらに言えば、貧困者
の健康、教育、そして栄養状態の改善は、産業などの経済セクターにおいて労働生産性にフ
ィードバック効果を持つのである。
例えば、国際経済における輸出セクターの競争力は、労働者の質とスキルレベルにより
決まる。無教育で病弱な労働者はこうしたスキルを習得することができないことから、人的
資本の向上が物的資本の生産性を高めることは明らかである。この例から、貧困地域社会で
は、投資生産性は主に二つの理由により低くなる傾向があることが明らかである。こうした
社会の労働者は既存の資本財を十分に利用するにあたり、必要なスキルに欠けている。そし
て第二に、貧困地域社会における技術的進歩の基盤は弱いということである。これは、人々
は手元にある資源のほどんどを生存活動に使ってしまい、知識創造へ回す余裕がほぼないか
らである。
3.2
物的投資の生産性
アフリカ地域のあらゆる国々は、低いセキュリティと高い取引コストによりリスクにさ
らされている。こうした国々は旱魃、洪水、そして脆弱な生態系といった自然災害および疾
病に対しても同様に無防備である。こうしたリスクは多様なレベルでの活動によって解消す
ることができる。グローバルレベルでは、アフリカ経済に対するより高い投資を促す環境を
創出することだけでなく、アフリカ製品の公正貿易に焦点を当てることができる。そして、
地域レベルでは、主な障害はさらに高い取引コストをもたらす貿易規制およびその他の政策
と関係している。国レベルおよび地域レベルで採るべき行動には、民間セクターの開発、特
に女性が運営する小規模な企業分野の開発を促す、ビジネスを行い易い規制環境の創出を特
にねらいとする政策改革の継続が含まれる。加えて優先順位の高い分野としては、資本コス
トを引き下げ、労働移動に対する制限を排除することが挙げられる。家庭そして地域社会の
レベルで優先順位の高い分野には、
農業製品の多角化、適切な技術の採用、地域能力の構築、
19
そして開発プロジェクトのオーナーシップと持続可能性を奨励する地方当局と共同での貧困
削減戦略の実行が含まれる。
10 年以上にもわたる経済改革にも関わらず、アフリカに対する外資のレベルはきわめて
低い。アフリカ諸国政府が投資を呼び込み、また投資を国内および海外ソースから保護する
ために利用する施策は、投資規範によって網羅されている。こうした規範は国家あるいは地
域的な性質を持ったものである。例えば、CEMAC1、 UEMOA2、 COMESA3、 EAC4 そ
して CBI5 の加盟国は地域別投資スキームを持っているか、あるいはこうしたスキームを組
織立てている。国々には二カ国間投資条約もあり、大部分のアフリカ諸国は国際投資保証機
構(Multilateral Investment Guarantee Agency:MIGA)の加盟国でもある。こうしたあ
らゆる取り組みは、アフリカ諸国の開発プロセスを促進するであろう外資に固有の、望まし
い特長があるという前提に基づいている。こうした特長の例として、技術および経営に関す
る溢出効果、そして投資、市場および流通ネットワークへのアクセスを挙げることができる
(Njinkeu and Soludo.2001)。これは日本の ODA にとって有効な、そして優先順位の高
い分野である。
この地域における投資リスクを低減する別の方法として、アフリカにおける適切な技術
採用の促進がある。先進国と開発途上国間の技術的ギャップは拡大している。サブサハラ・
アフリカ諸国に対して、公正で適切なコストで効果的な技術移転および技術普及を行うこと
は、この地域に技術を根付かせるための鍵である。行政インフラを近代化し、規制および法
制の枠組みを改善し、社会機構を強化し、知的所有権を保護する文化を作り出し、研究開発
を促進するための枠組みを策定するためには、緊急施策をとる必要がある(Njinkeu and
Soludo.2001)。
ビジネスを行い易い環境を創出することをねらいとした地域的な取り組みは、円借款に
よって支えられるだろう。ビジネス環境の改善が輸出市場へのより積極的な参入をもたらし
た CFA6諸国にその事例を見出すことができる。国際的なクレジットを介して、ビジネス環
境の改善に対する資金を調達する試みも開始されている。これは特に計 14 カ国で構成され
る AFZ 地域に該当するケースである。7
保険セクターでは、AFZ のすべての加盟国は 1992 年 7 月 10 日に保険活動における手続
きを調和し統合する CIMA8協定を締結している。これは、保険に関する共通の規定、保険
会社を監視する超国家的権力、保険統合プロセス全体を監督する地域内の大臣から構成され
1
2
3
4
5
6
7
8
中部アフリカ経済通貨共同体(Communaute Economique et Monetaire d’Afrique Centrale:CEMAC)
西アフリカ経済通貨同盟(Union Economique et Monetaire Ouest Africaine:UEMOA)
東部南部アフリカ共同市場 (Common Market for Eastern and Southern Africa:COMESA)
東アフリカ共同体 (East African Community:EAC)
国境を越えたイニシアティブ(Cross-Border Initiative:CBI)
西アフリカ金融共同体フラン(Franc de la Communaute financiere en Afrique:CFA)
Njinkeu(1997)を参照
保健市場に関するアフリカ会議(Conference Inter-Africaine des Marches des Assurances:CIMA)
20
る会議を必然的に伴っている。AFZ 域内協調のもう一つの目的は、貯蓄の流動性を促進し、
同時に資本闘争を限定することであった。この地域における社会保障に関する取り決めもま
た同様に統一されたが、これには超国家的な監視委員会、共通の会計上の枠組み、地域監督
および統一会計、そして金融規則などが含まれていた。地域全体を管轄する裁判所の設立を
狙いとし、また外資を呼び込むという包括的な目的をもって企業法もまた同様に統一されて
いる。このプロジェクトは CFA 加盟国ではないが、フランス語を公用語とするギニア、マ
ダガスカル、そしてモーリシャスの 3 カ国も網羅されている。同様な取り組みはアフリカ
の他地域でも実行あるいは計画されている。最近の構想としては、東部および南部アフリカ
のいくつかの国々に適用される投資保証スキームの立ち上げを挙げることができる。ビジネ
スを行い易い環境の創出をねらいとしたこうした地域的な取り組みは、円借款が注意を払う
べき分野であろう。
第4章
地域貿易ブロックの強化
大規模な市場は労働力と資本、そして財とサービスの流動性を促進する。これは効率を
高め、広い地域に暮らす人々の公平性を高めるための機会を創出する側面である。援助は、
アフリカの貿易ブロック内のコミュニケーションの向上に利用することができる。アフリカ
における地域ブロック内の貿易の流れはブロック内およびブロック間の劣悪な通信インフラ
と輸送インフラによってかなり制限されている。例えば、西アフリカ諸国経済共同体内での
域内貿易は、1990 年代初頭には同共同体の貿易合計のわずか 6%であった。残りは先進工
業国との貿易によるものであった。南部アフリカ開発共同体、東アフリカ共同体、および東
部・南部アフリカ共同市場といったその他の貿易ブロックも同じような経験をしている。貿
易協力協定を結んでいるアフリカ国家間での域内貿易の促進に必要なインフラを開発するた
めに援助を利用することができる。
アフリカでの貿易地域制度の実現における最も困難な課題は、共通インフラの設立では
なく、第一にアフリカ諸国政府を地域貿易協力に対してコミットさせることである。この点
については 3 つの問題がある(Kimuyu.1999)。第一の問題はどれだけの権限を地域貿易
事務局に渡すかというものである。第二の問題は、貿易ブロックを利用可能とするにあたり
必要な人的および資金的資源をいかに調達するかである。そして第三の問題は、地域レベル
で採用された政策をいかに国家の開発プログラムに組み入れるかである。上記の問題の制約
ゆえに、地域制度そして機関は国家政府に対してはほとんど影響を持つことがなく、合意さ
れた条約を実施することができない場合が多い。そこで、コミュニケーションおよび研究機
能などの統合組織に関する特定の専門的分野の強化に日本の ODA を利用することも可能で
ある。
21
第5章
制度開発
アフリカの経済成長を阻害する要因の一つは、その鍵となる制度の不備あるいは不在に
起因する脆弱さである。制度は経済のパフォーマンスにおいて重要な役割を果たす。制度は
市場および市場以外での取引を規制し、個人および組織があらゆる経済活動において直面す
るインセンティブの源となる。概して、脆弱な制度しか持たない国々は改革を実施、または
持続することができない。
制度とは何であろうか。文献には、制度の定義がいくつか存在する。最も説得力のある
定義は、Douglass North(1990)によるものである。彼は制度を人間の相互関係を構成す
る公式および非公式な規則であると定義している。
この定義による公式な制度の例としては、
法律、憲法、そして政府規制全般をあげることができる。一方で非公式な制度としては、日
常生活における行動基準、人々の間の相互期待、宗教的信条、慣例、伝統、より一般的には、
社会の文化規範を挙げることができる。上記の一連の例によれば、組織(例:学校、企業、
政党)は制度ではない。こうした組織はあくまでも経済活動における参加者、すなわち、社
会の制度(法律あるいは文化規範)によって確立されたインセンティブ構造のもとで機能す
る参加者にすぎないことになる。
より広範な制度についての解釈では、制度は規則と組織を意味する。この解釈によれば、
制度には、組織と規制、および組織がそのもとで活動する規範が含まれている(Reddy.2001
参照)。これが制度の最も広範に利用されている定義であり、本報告書でもこの定義を採用
している。組織としては企業、政党、銀行、協同組合、社会投資基金、専門協会、裁判所、
そしてビジネス・ネットワークが挙げられる。
制度は経済活動の性質と規模に影響を与え、従って生活水準に影響を及ぼす。日本の ODA
は国の発展に必要な制度開発を支援することによって貧困 削減 に貢献することができる。
特に、銀行、企業内における研究開発、および農村地域と都市地域における小企業など、鍵
となる民間セクターの制度を作成あるいは強化するために、海外援助を活用できる。また、
裁判所、警察、そして司法の働きを支援することにより法の支配を強化するためにも援助を
利用することができる。こうした支援は、各国のガバナンス構造を大幅に改善し、腐敗の削
減あるいは防止を支援できる可能性がある。
5.1
地域社会主導型の開発
今日まで、アフリカ諸国は開発に対して個別的なアプローチを採っていた。しかしより
包括的な開発に対するアプローチが必要である。典型的なサブサハラ・アフリカ経済におい
ては、最低 3 つの制度上のシステムが開発に影響する。一つ目は農村部および都市部の経
済の公式セクターに適度なサービスを提供する行政システム(政府の中堅官僚により管理さ
れている)である。二つ目は、非公式セクターを規制する非公式な規則と行動規範のシステ
22
ムである。そして三つ目は、輸出セクターおよび国内で機能している多国籍組織を対象とす
る高度の行政システムである。最初の二つのシステムは農村地域および都市地域で主に生存
活動にかかわる多くの人々を対象としている。
地域共同体主導型開発(Community Driven Development:CDD)計画は、効果的な国
家機能の分散を介し、農村地域の活動領域で従事する行政官に対し、適切な権限を付与する
ことを前提としている。また、地域コミュニティーがそれぞれ独自の開発プロジェクトを計
画しそれを実行することができること、プロジェクト・デザインと実行のプロセスは包括的
でありエリートに支配されないこと、地方政府は中央政府による干渉を受けずに予算決定の
権限を持っていることも前提としている。要するに、地域共同体主導型開発は、中央政府を
再編成し、サービス提供システムの設計、実行、そして監視能力を強化することを必然的に
伴っている。
地域共同体主導型開発を成功させるためには、農民と地元起業家が市場および市場情報
源と強く連携している必要がある。こうした連携を構築するには、地方および国家レベルで
効果的な行政および組織構造が必要となる。こうした組織の例としては、小規模農家と地方
起業家を市場、特に都市部の市場と結びつける生産者協同組合および女性グループが挙げら
れる。
小規模農家と地方起業家によって生産される製品とサービスに関する市場情報を展開し、
広めるには、上級政府官僚と民間セクターの間のパートナーシップが必要である。民間セク
ター開発は、貧困削減にとって重大である。これは、このセクターに対するよりいっそう大
規模な投資が必要であることを意味する。この投資実現には、競争的で効率のよい市場を生
み出すような規制の枠組みがなければならない。ビジネス環境は、規制システムにおける改
善に加え、農村地域に対する人的資本および物的資本の投資を促すものでなければならない。
特に、都市偏向の投資促進を抑える環境が必要である。農村地域に対する民間投資レベルを
拡大する鍵は、信頼できる公共インフラをそこに構築することである。つまり、官民パート
ナーシップにより育成されたビジネスを行いやすい環境、実施可能な契約、および所有権が
あれば、ダイナミックな民間セクターが登場することになる。
5.2
ジェンダー課題
最近の研究は家庭経済学を比較的重視しているが、この傾向は開発プロセスにおいて女
性が果たすべき重大な役割があるという考えと一致している。このために、開発プロジェク
トにおいてジェンダー課題を主流に組み込む必要性がある。特に女性の起業家精神を評価し、
別途のイニシアチブとして支援する必要もある。女性が経営する企業は高い貯蓄率を示し、
設立後に成長する可能性が高い。土地の保有、水の供給とマネジメントの問題は特にアフリ
カでは重要である。こうした問題は市場および市場外活動への女性参加に影響するからであ
る。土地保有、および家庭生産と市場生産へのインプットがないため、女性開発が阻まれて
いる。この問題に取り組むように、政策を展開させる必要がある。女性グループ(協会や協
23
同組合)が国家保証された信用協定のもとで事業を開始できるように、日本の ODA は支援
することができる。こうした協定は、加盟者に具体的な製品あるいはサービスなど、共通の
経済的対象物がある場合にはうまく機能するはずである。
5.3
援助提供における制度機構の改善
アフリカ経済研究コンソーシアム(The African Economic Research Consortium:AERC)
は援助依存からの脱出を管理するプロジェクトを最近完了した(AERC 2001)。プロジェ
クトの主な結論では、制度は援助国による効果的な援助提供、そして受入国による援助の有
効利用について中心的な役割を持つとしている。さらに、この研究は以下のように結論づけ
ている。(1) 長期にわたって相対的に莫大な金額が提供される海外援助は、各国の特定の事
情、特に援助を吸収する能力の有無により、制度を強化することも弱体化することもある。
(2) 制度強化は地方レベルでの技術、行政そして管理能力の拡大によって発生する。(3) 援
助は制度上の学習を向上させることができる。海外援助に起因する制度の弱体化は、地方に
おける計画、予算、および行政能力が援助により弱められる場合に発生する。さらに、国家
および地方制度の能力は、連携されていない援助国の重複、連携されていない援助プロジェ
クト、そして高い援助取引コストと調整コストによっても弱体化されることも、この研究は
明確にしている(Wangwe. 2001)。
援助依存を回避するためにいかに円借款を提供し、そして利用することができるかに関
する教訓はマリ(Njinkeu et al. 2000)の経験から学ぶことができる。Njinkeu らは、援助
依存にはいくつかの制度上の側面があることを示している。第一の援助制度上の側面はその
構成である。例えば、二カ国間援助であるか多国間援助であるか、あるいはこれらの組み合
わせであるかといったことである。これに関連したものでは、援助国が貧困国に援助提供す
る際に、相互に競争するメカニズムである。援助国が、自国の目的を進めるために援助提供
における競争が発生することがある。マリにおける援助の第二の特徴は、資金を提供される
プロジェクトの種類が頻繁に変わることであった。1984 年まで、マリに対する援助の大半
は食糧および関連商品という形であり、残りはインフラおよび農業開発の支援に利用される
資材という形であった。1984 年から 1988 年の間、マリにおける海外援助は複数のセクタ
ー別プログラムを重視し、経済全体にわたるプログラムを支援した。1989 年以来、援助の
焦点は構造調整プログラムに移っている。経済活動における非政府関係者(非政府組織)、
地方分権プロセス、優れたガバナンス、透明性、
および民主主義に対して焦点が当てられた。
マリにおいて提供された援助の第三の特徴は、
支援するプロジェクトに対する長期的な確約
に関して、援助国が躊躇したという現実である。1985 年から 1995 年にわたるマリにおけ
る二カ国間援助および多国間援助によって資金を提供された合計 976 件のプロジェクトを
もとにした評価では、プロジェクトの大部分(89%)が二国間援助によって資金を提供さ
れていることが示されている。こうしたプロジェクトのうち、承認額における支出額の比率
にはかなりの変動性がある。多国間援助として共同で資金提供されたプロジェクトの比率は
およそ 10%から 100%の範囲である。プロジェクトを平均するとその 30%が多国間援助に
よって資金提供されていた。
24
マリにおける援助の第四の特徴は、マリ当局、あるいは援助機関による調整不足であっ
た。プロジェクトについての不十分な報告は、政府の運営予算、特に将来的な債務に関して
の査定を偏らせた。すべての開発資源を政府予算に包含しなかったことで、プロジェクトの
優先順位がゆがんでしまった。国家予算から海外資源を排除したことは、援助資金によって
支援される平行した公共セクターに対してインセンティブをもたらすこととなった。例えば、
教育、ヘルスケア、そして衛生設備などの準公共財を提供する非政府組織に与えられる支援
である。
マリにおける援助支援による活動の監視は、不完全であった。プロジェクトの支出に関
しては援助国が監視していたが、資金の乱用を避けることができなかった。援助国の中には、
自らが支援するプロジェクトの成功を示したいがために、公務員にプロジェクトへ力を入れ
させるための、追加給与を援助資金から支払った国もあった。
プロジェクト資金を承認する際の援助国の行動は、公共サービス提供にマイナスの影響
を与えるという側面もある。援助国は基本インフラに対する資金供出を約束するが、その維
持管理については約束しない。多くのアフリカ諸国の政府歳入は、援助国が資金供与した社
会投資を維持するには不十分である。その結果、投資は十分な生産力を得ることなく終わる
のである。同様に、公務員は公共サービスに力を入れなくなり、援助国のプロジェクト管理
に目を向けてしまうのである。
マリにおける援助の有効利用に必要な全体的改革には、以下の要素が必要であろう。
•
プロジェクトの設計、実行、および評価の段階であらゆる利害関係者を参加させる
パートナーシップ
•
援助が資金供与するプロジェクトの管理強化
•
プロジェクト管理のための法的枠組みの確立、およびあらゆる利害関係者の利益の
保護
マリにおける援助提供は近年改善してきている。マリに対する援助の包括的検討によっ
てこの国には新たなパートナーシップが出現した(OECD. 1998)。パートナーシップの主
要参加者には、マリ政府、援助国、国内および国際的非政府組織、および市民団体が含まれ
ている。1995 年までは三つの異なる機関がマリにおける公共援助の配分管理を担当してい
た。1994 年以降、援助調整の必要性に対する認識が高まった。今日のマリにおける援助は、
政府と援助コミュニティーの代表者によって構成される委員会によって監視されている。委
員会の常任事務局の議長は援助国の代表者であり、また副議長はマリ政府出身の人物が務め
ている。委員会はこの国におけるあらゆる海外援助の調整を担当している。1994 年以降、
この調整作業を目的としていくつかのタスク・フォースが設けられた。
マリにおける援助調整の有効性を向上させるための提言には、複数援助国によって資金
供与されるプロジェクトの調整を行うプランニング・ユニットの創設が含まれていた。この
ユニットは、特に援助資源によって支援される開発プロジェクト選択に際してのガイドライ
25
ン策定に責任を持つことになる。すべての省庁と公共機関の組織構造は、新たな状況におい
て発生しうる、責任の欠陥および重複を解消することになる。新たな制度は、援助活動の広
範な分権への動きを奨励するものになる。そのため、政府の下層部は援助資金提供されたプ
ロジェクトに関して交渉し管理できるようになるだろう。
上記で検討してきたアフリカにおける援助の有効性を強化するための戦略は、他では成
功している(参照例
Wangwe 2000 and Njinkeu et al. 2001)。日本の ODA がこうした
戦略支援に利用されれば、アフリカにおける社会・経済開発を日本の ODA が向上させるこ
とができる。
5.4
アフリカの開発のための新パートナーシップ(NEPAD)
ア フ リ カ 開 発 の た め の 新 パ ー ト ナ ー シ ッ プ ( New Partnership for Africa’s
Development:NEPAD)はナイジェリアのアブジャで 2001 年 10 月 23 日に誕生した。ナイ
ジェリアのオバサンジョ大統領が議長を務める国家首脳実行委員会(Implementation
Committee of Heads of States)は、
「構想の考え方、優先順位、実行手法を一体化(embodying
the philosophy, priorities and implementation modalities of the initiative)」を原本とし
て改訂後の NEPAD 文書(2001 年 10 月版)を採択した。それまでは「新アフリカ・イニ
シアティブ」(New African Initiative : NAI)と称されていた構想の名前は NEPAD に変
更されたのである(Kanbur. 2001)。
NEPAD の事務局は南アフリカのプレトリアに設置され、制度構造と資源が速やかに与え
られる予定である。実行委員会の設立会議のあとに発表された共同宣言によると、具体的な
プログラムとプロジェクトの策定、および 2002 年 1 月にセネガルのダカールで開催予定の
NEPAD に対する資金供与会議での提言の準備が現在進行中である(Kanbur. 2001)。
NEPAD はアフリカ大陸における持続可能かつ広範な生活水準を開始するためのアフリカ
の制度である。NEPAD 構想は以下の開発に関する見解に基づいている。
•
貧困を撲滅し、アフリカ諸国を持続可能な成長と開発の軌道に乗せなければならな
いという、アフリカ首脳らの共通信念
•
成長と開発に対する主要な構造上の障害を一貫して排除することにより、アフリカ
経済を世界経済へ速やかに統合させる必要性
•
国内外投資を呼び寄せ促すために、資源を生産的活動へ首尾一貫して注入する必要
性
アフリカの経済活動のレベルが低いことは、経済活動に対する民間資金の注入、および
リスクを払うために必要な仕組みがアフリカでは利用できないことを意味している。アフリ
カはグローバル化によるマイナス効果に対処する能力が弱く、この状況を逆転するための方
法にはまだ手が届かない。NEPAD 構想は開発プロジェクトのオーナーシップと管理に焦点
を当てている。この構想は、共同で合意した国家および地域開発優先順位と計画によって導
26
かれている。日本の ODA は、NEPAD によって承認されたプロジェクトを支援するために
利用できる。
NEPAD の開発戦略の鍵は、平和、民主主義、人権、資源の有効活用の推進、およびアフ
リカ大陸における民間および公共セクターの開発に必要なルールを規定するための規制体制
を確立することにある。NEPAD のもとで優先順位の高い投資分野として、インフラ、情報
と通信技術、専門トレーニングと人間開発、保健、教育、農業、製造業の多角化、そしてア
フリカ輸出製品による先進工業国へのアクセスが挙げられる。NEPAD 構想を成功させるた
めに同時に重要なことは、資源流動化の有効なメカニズムを作ることである。本報告書では、
貯蓄を増やし、海外からの流入を呼び込むための制度とメカニズムを対象としている。この
目標は、国内における貯蓄を奨励し、債務免除に必要な条件を満たすことによって達成する
ことができる。日本の ODA は、多様な形による金融および規制制度によって外資を呼び込
む支援をすることに利用できる。また、公共資源の管理を改善するための手続きを策定する
ことにも利用できる。
地域協調と経済統合への投資は、国際市場におけるアフリカ製品の競争力を高めること
になる。NEPAD 構想のもとでは、アフリカの 5 つの地域経済グループが強化される予定で
ある。5つのグループとは、中央、東部、北部、南部、西部である。NEPAD は、必要不可
欠な地域公共財(例えば、輸送、エネルギー、水、情報通信技術、疾病撲滅、環境保護、地
域研究能力の提供)の提供に焦点を当てている。また、アフリカ域内での貿易と投資が促進
される予定である。日本の ODA はこうした構想を支援することができる。
よく知られているように、アフリカ国民の大部分は農村地域に暮らしている。アフリカ
諸国において食糧保障を確保するという緊急のニーズを満たすためには、食糧生産を拡大さ
せ栄養状態を改善させるべく、農業システムの不備に対処しなければならない。農業生産性
の改善は経済開発の前提条件である。農業生産性を向上させるためには、このセクターに存
在するいくつもの構造的制約を取り除くことが必要である。その他の農村地域のインフラ
(道
路、地方の電化など)の改善もまた NEPAD の議題の中で優先度が高い。アフリカが、よ
り高いレベルの成長と持続可能な貧困削減を達成するためには、国内および海外資源からの
追加資源を動員する必要がある。(国内と海外の)民間セクターの強化に関しては、これは
地域の投資環境を改善することにより実現することができる。しかし、特に中短期的に同様
に重要なことは、ODA の追加と債務免除である。重債務貧困国(Highly Indebted Poor
Countries : HIPCs)に対する債務免除構想の強化を行っても、いまだに多くのアフリカ諸
国が多額の債務負担に苦しんでいる。こうした国々を債務免除の範囲に組み込むための手段
が ODA 改革構想である。NEPAD は中短期的に ODA の流れを拡大しようとしている。ま
た、援助資源を確実に有効活用するために、NEPAD では ODA 提供システムを改革しよう
としている。この点に関して、NEPAD の活動には下記の事項が含まれている。
(1)OECD
開発援助委員会に対応するものとして、ODA 改革におけるアフリカの共通立場を発展させ
るための ODA フォーラムの設立、(2)開発パートナーシップのための憲章を制定する援
助機関による ODA フォーラムを通した取り組み、(3)国連アフリカ経済委員会(United
27
Nations Economic Commission for Africa : UNECA)の貧困削減戦略文書(Poverty
Reduction Strategy Paper : PRSP)研究グループ設立への取り組みに対する支援、(4)
援助国と受入国の実績を評価する独立メカニズムの作成。
民間資本の流入によって、ODA 要素を補遺することができるであろう。NEPAD は、ア
フリカ諸国に共通の資源不足を埋めるための持続可能で長期的なアプローチの重要要素とし
て、アフリカ外部からの民間資本の流入を拡大しようとしている。民間外国資本を呼び込む
にあたっての最優先事項は、アフリカをリスクの高い大陸ととらえている投資家の認識、特
に所有権に関する不安、規制の弱さ、そして市場不在に対する認識に対応することである。
NEPAD が特に平和と安全保障、そして政治と経済のガバナンスの構想に力を入れているこ
とを考慮すると、NEPAD の要素の中には、このような認識を徐々に和げることにつながる
ものがある。信用保証スキームや強化された投資関連規制や法制についての枠組みといった
暫定的なリスク緩和と削減施策が実行されるだろう。NEPAD にとっての次の優先事項は、
行政機関が社会インフラの提供において取引の枠組みをつくり、規制できるように、能力育
成プログラムを実行することである。そして第三番目の優先事項は、国内における金融市場
開発の推進と国境を超えた貿易の統合である。
NEPAD は、南対南のパートナーシップの開発と強化を促進する新たなグローバルなパー
トナーシップを提供する。また、これまで開発援助が提供されてきた方法は深刻な問題を引
き起こしている。被援助国が、同じセクターあるいはプログラムを支援する各援助国と個別
に交渉し使途を説明することは、面倒であり非効率である。そして、開発援助を拘束するこ
とはさらなる非効率をもたらす。NEPAD の目標は、アフリカにおいて民主主義と健全な経
済管理を統合することである。その開発戦略は、アフリカと先進世界とのパートナーシップ
と協調の新たな段階の始まりを示すものである。
第6章
6.1
保健と教育
保健
保健はサブサハラ・アフリカにおいて引き続き主要な関心事である。改善が進められる
一方で、新たに出現する問題がこの地域の各国の開発への取り組みを阻んでいる。この状況
は、貧困、限られた資源、援助国の疲労そして保健インフラの大破壊および人々の移動をも
たらし、健康上ひどく危険な状態を作り出す市民の不安により複雑化している。
近年では、アフリカはエボラ出血熱のような新たな疾病の出現と、結核のような古い疾
病の再出現を経験している(Cornia and Mwabu.1997)。この地域では HIV/エイズとマ
ラリアの被害を最も受けている。また高血圧や糖尿病といった裕福な人々に固有とされてい
28
るその他の疾病もアフリカでは増加している。
各国の国家保健システムの中でこうした問題
に対処する新たなアプローチが必要とされている。保健システムを再編し、古い問題を無視
することなく新たに出現する問題に対処できるよう、日本の ODA を利用することができる。
国家の保健システムに関して深く分析することにより、海外援助支援にとって優先順位の高
い保健プロジェクトを明確にすることができるであろう(例:予防接種、健康教育、マラリ
アに関する研究)。
サブサハラ・アフリカ諸国において、特に 1980 年から 2000 年にかけて保健省庁に対す
る資源配分が大幅に削減されたため、保健施設の荒廃と医療設備の不十分な維持管理が生じ
た。手術室、プライマリー・ヘルスケアユニット、プライマリー・ヘルスケア従事者のトレ
ーニング・センター、そして予防接種時のコールド・チェーンなどのヘスルケア・システム
に不可欠な要素を改善、
あるいは入れ替えるために、日本の ODA を利用することができる。
アフリカ諸国政府は、脆弱なサブグループの健康状態を改善するために、過去 40 年間に
わたり相当な努力を行ってきたが、最近の経済・政治的危機に屈服し、それまで抑制されて
いたトリパノソーマ症のようないくつかの疾病が再発するにまで至っている。有効なワクチ
ンが存在するはしか、結核、そして破傷風といった疾病が、ますます多数の命を奪うように
なってきている。マラリアの抑制は、薬に対して耐性のある寄生虫の進化のためにいっそう
困難になっている。マラリアはアフリカにおける疾病関連の負担合計の 12%を占めている。
1990 年代初頭の世界中でマラリアにより障害期間年数を調整した 4,400 万人の人々のうち、
その 80%(3,500 万人)はアフリカに暮らす人々であった(World Bank.1993)。さらに、
HIV/エイズの蔓延はヘルスケアの問題を悪化させるだけでなく、保健関連の予算レベルを
管理不可能なまで引き上げることになった。世界の HIV/エイズ関連の伝染病のおよそ 80%
はサブサハラ・アフリカで発生しており、これまでエイズで死亡した 2,200 万人のうち 1,700
万人(77%)はアフリカ人である(国連エイズ共同計画(Joint United Nations Programme
on HIV/AIDS:UNAIDS). 2000)。日本の ODA が、マラリアと HIV/エイズに関する保
健問題に取り組むために利用されれば、貧困を大幅に削減できる可能性がある。
サブサハラ・アフリカにおける保健問題は、さらに適切な保健情報の不在のためにいっ
そう悪化している。結核、マラリア、らい病、ポリオ、はしかなど多くの主要な疾病につい
ては治療も予防も不十分である。日本の ODA は、アフリカ国民がこうした疾病の治療と予
防に関する情報を利用できるようにするために使用することができる。このような情報はア
フリカにおける伝染病を大幅に削減するに違いない。
アフリカの保健セクターにおける健康関連の支出の大半はスタッフの賃金に使われ、実
際の運営にはわずか 30%しか充てられていない。貧困者に主に利用されるサービス、特に、
貧困者が集中している農村地域におけるプライマリー・ヘルス・サービスを優先するよう保
健省庁における保健予算の再配分の方法を見直す必要がある。そして、日本の ODA はこう
したサービスの支援に利用することができる。
29
この項は、ケニアにおける主なヘルスケアに関する懸念事項を手短に、重要なものを選
んで説明して締めくくる。ケニアにおける保健状態はその他のサブサハラ諸国の状態を代表
するものではないが、ここで示される情報は、その他の国々にとっても関係する政策的な教
訓となりえる(補表 5、6 参照)。
ケニアでは、地方家庭の大部分は安全な上下水設備を利用することができない。母親の
およそ 57%は家庭で出産し、38%は破傷風の予防接種を受けていない。栄養失調は病弱の
大きな原因となっており、子供たちの 37%は発育不良である
(Institute of Economic Affairs.
1998)。
ヘルスケアについては、政府が引き続き主な資金提供者として、国の経常歳出の半分を
支出している。ヘルスケア関連の投資の 42%は民間セクターによる支出が占めており、派
遣団、企業、および非政府組織による支出は 7%となっている。
ケニアにおける現在の保健関連問題は、HIV/エイズの壊滅的な影響により悪化している。
およそ 100 万人の子供たちが HIV に感染しているものと推定されている。エイズ孤児の数
は 2000 年には 60 万人であり、この伝染病を阻止するために何らかの有効な施策が行なわ
なければ、今後数十年間でこの数は大幅に増えるものと予測されている(Manda、Kimenyi
and Mwabu. 2001)。エイズは病院のヘルスケア・資源に深刻なダメージを与えている。1992
年には、病院のベッドの 15%近くはエイズ患者によって占められており、この比率は近い
将来に急速に 50%にまで跳ね上がる可能性がある。保健セクターのその他の問題としては、
薬品の入手不可能性およびその高価格、特に農村地域において基本的なヘルスケアをほとん
ど利用できないこと、そして HIV/エイズのために 1990 年代から平均寿命が大幅に短くな
っていることが挙げられる。1980 年から 1995 年にかけて平均寿命の長期化という形で現
れた保健上の進歩(補表 10 参照)は、かなり後退しつつある。
ケニアとそしておそらくはその他のサブサハラ諸国におけるより優れたヘルスケアを促
進する政策と施策(カメルーンのケースに関しては Mwabu et al. 2001 を参照)としては
以下が挙げられるものと考えられる。
•
保健施設と医療設備の維持管理の向上
•
例えば予防接種キャンペーンや保健教育などを通した予防的ヘルスケアの強化
•
幼児期疾病管理の改善
•
特に農村地域において不可欠な医薬品の提供を通した治療用保健サービスの強化
•
職場における労働衛生と安全の改善
•
HIV/エイズの治療と予防の強化
•
保健施設において報告されている外来患者の罹患原因の大部分を占めるマラリアの治療
と、防疫する方法の開発
•
HIV/エイズの影響を緩和するための医療、社会および政治的仕組みの開発
30
6.2
教育
サブサハラ・アフリカにおける教育面での成果はきわめて小さく、特に農村地域では、
こうした成果はほとんど見られない(補表 7、8 参照)。その理由の一つは負担しきれない
ほど高い教育費である。
特に小学校における教育費は家庭にとって大きな負担となっている。
教科書、学校開発基金、教師の雇用、そして頻発する無計画な賦課金が家計の大きな部分を
占めている。アフリカの貧困家庭がその家計の 70%から 80%を食費に充てていることを考
えると、多くの家庭はこうした状況では教育費まではとても払うことができないはずである。
日本の ODA は、授業料として親たちが支払う教材、特に教科書、制服、そして学校の実験
室で利用する消耗品に対する価格を引き下げるために、こうした物品生産への資金提供とし
て活用することができる。
サブサハラ諸国は、学齢児童の普遍的教育に関する国際的目標を達成しようと奮闘して
いる。ところが、高い退学率と低い入学率のためにこの目標が達成困難であることがわかっ
ている。この状態は特に女児の間で深刻である。女児に対する教育提供を助成するために、
日本の ODA を利用することができる。助成金は、援助に支えられた女子校に対する政府補
助金という形をとることができる。日本の援助は、女性教師の育成に活用することができる。
女性教師は必要な教育を授けることに加え、女児、特に文化規範によって家事労働に従事す
るよう育てられる農村地域の女児にとっての役割モデルと成り得る。教育投資は、アフリカ
における貧困削減にはきわめて高い利益をもたらすと考えられる(補表 3、4 参照)。
教育面での成果という観点から貧困をとらえた場合、学校教育、訓練、そして雇用にお
ける機会拡大がサブサハラ・アフリカにおける貧困との戦いにおいて重要であることが示さ
れている。世帯主の学校教育レベルが上がると貧困率は一般に減少する。貧困はまったく学
校教育を受けていない人々の間で最も多く見られ、大学を卒業した世帯主を持つ家庭では実
質的に貧困はない。同様に、家庭の消費は家庭の平均教育に従って上昇する。ケニアでは、
家庭における教育の平均年数が10%上昇すると、家計支出の総額と食料消費額はそれぞれ
13.8%と11.1%上昇する(Mwab et al. 2000)。したがって、その他の条件がすべて同じで
あれば、家庭における全体的なスキル・レベル上昇は、家族の誰がスキルを持つかには関係
なく、家庭の貧困削減につながるだろう。
普遍的初等教育は貧困根絶にきわめて重要である。ウガンダでは、国民の20%を占める
最貧困層家庭の子供たちの小学校入学率が驚くほど上昇している。しかし、多くのアフリカ
諸国では、都市部と農村部の入学における格差は依然として著しく大きい
(Ali and Thorbecke.
2000)。こうした格差を削減する教育プログラムに対して資金を提供することは、アフリ
カ地域での日本のODAにとっての優先順位の高い事項である。
中等教育、および中等後教育は貧困削減に最も大きな影響をもたらすが、初期段階では
普遍的初等教育を最も優先順位の高い事項とするべきである。普遍的初等教育がなければ、
より高レベルの学校教育(そしてその割にあう雇用)への機会が、すべての人々に公平に与
31
えられない。したがって、普遍的初等教育は、アフリカにおいて最も優先順位の高い投資対
象でなければならない。
教育管理における非効率性も、貧困者の教育向上を妨げている。学校教育の質の低さも、
以下のような教育の非効率性に起因している。
•
きわめて中央集権的な意思決定と親と地域社会の参加不在
•
教育関連省庁における脆弱な政策策定と計画能力
•
意思決定のツールとしての管理情報システムと標準化された評価システムの不在
•
教師と管理者の給与と実績の不一致
こうした非効率性は貧困者に限られたことではないが、その結果として、貧困者が受け
る教育の質は非貧困者が受ける教育の質に劣っている。教育利用における公平性、
質の向上、
管理および教育に関する決定の分権を重視した制度的効率性、そして地域社会と家族による
参加の拡大、この4つを主要な政策目標とすべきである。日本のODAはこうした方向での教
育に対する取り組みを援助することができる。
アフリカの教育政策を実行し、人的資本における不均衡を削減するにあたっての鍵は、
公共投資を教育に再配分することにより、公共教育から生まれるメリットの多くを貧困者に
与えることである。
初等教育普及の目標を達成した後は、生徒対教師比率の増加や、教材の普及により、教
育の質改善に努力する必要がある。中等教育の拡大、そして貧困者への職業訓練の促進が必
要である。資源の効率的活用を実現する制度そして組織的構造が、アフリカでは十分に構築
されていない。多くの貧困者が見られる農村地域の学校では、都市部の学校と比較して、教
師、備品、そして物的インフラが整っていない。こうした不平等に日本のODAによる支援
は取り組まなければならない。
6.3
教育と保健のシナジー効果
ヘルスケアと教育を共に提供する方が、これらのサービスをそれぞれ独立して提供する
場合よりも、開発をさらに促し、生活の質をより改善する可能性が高い。こうしたサービス
は双方ともに労働生産性の向上に加えて、人々の健康と幸福を直接的に改善する。保健サー
ビスは、疾病を減らし、またこれを予防する助けとなるため、疾病による苦痛と苦しみを軽
減する。同様に、教育は知識、スキル、そして価値観の習得を助ける。したがって、個々人
は自分が住んでいる世界をさらに理解することができるようになる。
学校教育を通して文書
読解や計算能力を身に付けると、読書や計算など直接収入にはつながらない作業もできるよ
うになる。こうした作業にこそ本質的な価値がある。
人的資本におけるこれら二つの側面は、保健と教育の本質的な価値に加え、個人の生産
性を高める。したがって、個々人は、食料、住居、そして安全といった基本的な生活必需品
32
を手に入れることができるようになる。ヘルスケアと教育が一緒に提供される場合、この2
つは人々の健康と幸福の向上という点で相互に補完しあう。例えば、良い健康状態を保つこ
とは、優れた教育の実現にとってきわめて重要であり、逆に優れた教育の実現は良い健康状
態にとって重要である。保健と教育の関係についての統計学的研究のほどんどにおいて、こ
の二つの現象が緊密に結びついていることが示されているのは当然である。日本の ODA を
利用して、保健プログラムと教育プログラムに対して相補的に資金を提供することができる。
第7章
7.1
アフリカ農業
アフリカ農業の特徴
サブサハラ・アフリカにおいて農業は主力セクターである。ただし、南アフリカでは国
内総生産(GDP)に占める農業の割合はきわめて低い。アフリカ諸国の大部分では、農業
が GDP、輸出利益、そして雇用に対して占める割合は、それぞれ平均して 35%、40%、そ
して 70%である。特に、小自作農による農業がアフリカの人々の重要な食料源となってい
る。農業開発は産業化にとって(産業化が生み出す普及効果ゆえに)重要であるだけでなく、
食糧安全保障とアフリカの人々の栄養状態全般を改善する上でも重要である。
アフリカの農業生産性は依然として低く、1994 年から 1996 年の間の農業従事者一人当
たりの平均農業付加価値は開発途上国の平均の 85%であり、東アジアおよび太平洋地域の
平均のわずか 17%であった。1990 年代半ばの農業用地 1 ヘクタール当たりの平均農業付加
価値は、開発途上国全体の平均の 3 分の 1 程度であり、さらにラテンアメリカとカリブ諸
島のわずか 13%であった。1995 年にはアフリカの土地のわずか 7%しか耕作地として利用
されていなかったが、開発途上国全体では耕作地の比率は 11%であり、東アジアにいたっ
ては 45%であった。アフリカ農業は旱魃の再発にも関わらず、主に天水に依存しており、
耕作地域のわずか 4%しか灌漑されていない。このために、農業はそもそもリスクの高い事
業になってしまっている。大規模な耕作法へ過剰に依存しているために、脆弱な農業システ
ムが問題をさらに悪化させている。大規模な耕作の結果、耕作地域の拡大によって農業生産
の成長が達成されることになり、近代的な肥料の適用は限られている。関連技術のイノベー
ション比率が低い脆弱な研究および展開システムのために、サブサハラの農業の大部分にお
いてイノベーションのレベルはきわめて低い。
土地と水の制約により、輸入された農業技術を直接適用することが阻まれている。国内
騒乱がアフリカの多くの地域における農業活動を妨げ、すでに競争力のない農業にいっそう
の圧力をかけている。農村地域での社会インフラの開発は進んでおらず、これが高い輸送費
用と農業生産物の低い競争力の原因となっている。競争力のない農産物の問題は特に内陸国
にとっては深刻である。
33
開発途上地域の中で、アフリカの耕作地は最も灌漑が遅れている。1994 年から 1996 年
にかけては、耕作地のわずか 4%しか灌漑されていなかったが、それに比較して全開発途上
国における平均は 20%であり、東アジアにいたっては 35%であった。アフリカの輸出品で
はその他の開発途上地域よりも農業製品が占める割合が圧倒的に多い。限られた農業製品へ
集中することにより、こうした農作物の生産において比較優位性を獲得できる可能性はある
が、アフリカはこうした製品についてすら世界市場におけるシェアを維持することができな
いのである。その他の開発途上地域と比較して、アフリカは食料生産について後れをとって
いる。1979 年から 1996 年の間、アフリカの食糧生産指標は 43%上昇したが、その他の開
発途上国では 69%上昇している。またアフリカのこの指標は東アジアと太平洋地域のわず
か 3 分の 2 にすぎない。アフリカ諸国が受け取る食料援助は 1975 年から 1980 年にかけて
年間平均で 14%増加したが、1980 年から 85 年の間は 20%に止まり、さらに 1990 年代半
ばには 15%程度であった。
アフリカ農業の芳しくない状態には原因がある。不利な自然環境、政治および安全保障
上の問題、マクロ経済政策およびセクター特有の政策によって課される制度上の制約とイン
センティブがもたらす制約などである。インセンティブの問題は、農業競争における位置付
けをさらに悪化させている。特に、農業活動に対する直接的および間接的な重税は問題であ
る。こうした問題には、商品マーケティング委員会を通して通常実施される不利な生産者価
格政策、輸出用農作物の実質国内価格を引き下げる過大評価通貨、そして輸出を阻む厄介な
ライセンシングの手続きが挙げられる。
農業政策の改善は、アフリカ農業の復活と成長にはきわめて重要である。劣悪なインフ
ラ、技術利用の難しさ、欠陥のある不完全な市場は、アフリカ農業開発の障害となっている。
今日の自由化されたグローバル貿易環境において農業を促進するには、農業生産性と競
争力を強化するための施策にさらに注意を払うことが必要である。日本の ODA は、広範な
サービスの提供、農業研究、そして農業製品販売のためのインフラなど、農業生産性に関す
る活動に対する資金提供に利用することができる。
農業開発はアフリカ諸国における持続可能な開発戦略の不可欠な部分として位置付けな
ければならない。推進すべき選択してとして以下の 3 つが挙げられる
(Jensen and Tarp. 2001)。
•
主要な生産技術とマーケティング・システムの改善に主に焦点を当てた農業第一戦略
•
基本的な農業第一戦略および農工生産技術の改善に基づく農業主導型工業化戦略
•
質の高い輸出用農作物の生産向上と組み合わせた、農業生産性の改善に基づく第一次産
業セクターの輸出主導型開発
農業生産性の向上、あるいはマーケティング・マージンの減少は著しい経済成長をもた
らす。農業生産技術の向上には、マーケティング基盤の改善が伴わなければならない。さも
なければ、マーケティング費用が、プラスの効果をすべて打ち消してしまいかねない。
34
農工業開発を達成しようとする試みは、農業と工業の間には重要なシナジー効果がある
ことを示している。したがって、農工業技術の向上は農業開発戦略において重要な要素であ
る。第一次産業セクターの輸出主導型開発戦略に関しては、向上した生産技術と農業輸出セ
クターの高度化した質の組み合わせにより、力強い経済成長をもたらしうる。しかし、こう
した成長だけでは貧困緩和には有効ではない。なぜなら、経済成長の大半は需要拡大によっ
てもたらされるからである。主に輸出主導型の成長に焦点を当てている世界貿易機関の交渉
では、農業輸出品の市場アクセスの確保をめざしている。総体的な開発問題が優先される結
果として、こうした交渉が軽視されてはならない(Oyejide and Njinkeu. 2000)。
7.2
アフリカ農業の開発
アフリカの農村部の貧困は広範囲かつ根深いものであり、食料生産している地域の中に
も、食糧不足で飢えに苦しんでいる地域があることを忘れてはいけない。基本的食料品に対
する所得および価格弾力性が需要にないために、農村地域が国際貿易に参入することなしで
農業において持続可能な成長を作り出すことは困難であろう。農業主要産物におけるアフリ
カの農業市場シェアは 1961 年の 8.6%から 1996 年の 3.0%に下落している。さらに、輸出
収入の購買力もまた低下している。
アフリカ諸国が国際貿易に便乗することを可能にする協
定を緊急に確立する必要がある。この点に関しては欧州連合に対するケニアの非伝統的製品
の輸出(新鮮果物、野菜、そして生花)、タンザニアのカシューナッツ輸出、そしてカメル
ーンとコートジボワールのバナナの輸出といったいくつかの成功事例が、アフリカ諸国が国
際市場に有効に参加できることを示している。日本の ODA では、こうした参加を維持し拡
大するような制度的および組織的協定を支援する必要がある。
アフリカ諸国は、グローバル化のメリットを享受する前に、国内栽培される農業製品に
対して付加価値を付ける必要もある。しかし、この農業主導型産業化戦略は、先進工業国に
よる関税引き上げ、および不完全な地元での加工処理により縮小される可能性がある。日本
は、先進工業国における不公平な関税障壁からアフリカ諸国を保護するために重要な役割を
果たすことができる。
アフリカ農業は衛生植物検疫措置によって著しくペナルティーを課されている。WTO の
衛生植物検疫措置(Sanitary and Phytosanitary : SPS)の適用に関する協定は食品の安全
保障を網羅し、動植物の健康を保護するものである。本協定は、アフリカ諸国と企業にとっ
て大きな問題となっている。アフリカ諸国の利益と能力は、その先進国パートナーとは反対
にこの協定に適切に組み込まれていないのである。本協定は、関連した能力を持つ加盟国に
よって悪用される可能性がある。特に先進国は、環境に関する懸念を理由に、開発途上国、
特にアフリカの諸国からの輸入品を規制することにより自国の農業を保護することができる。
アフリカ諸国は、その輸出品を確実に先進工業国の基準を満たすまでにする能力、特に衛生
試験所に必要な人的およびインフラ能力を有していない。先進工業国の貿易相手からアフリ
カ諸国に課せられている不利な貿易慣行を見直すべく、日本は ODA を通してアフリカ諸国
を支援することができる。
35
アフリカの脆弱な技術力は、先進工業国に対するアフリカ農業輸出品にとって主要な制
約となっている。例えば、ブルキナファソとボツワナからの肉、ケニア、ウガンダ、そして
セネガルからの魚、そしてケニアからの新鮮果物と野菜に関しては衛生上の問題がある。そ
の他の農業貿易協定も同様な問題に直面している。アフリカ諸国にとっての貿易協定に対す
るコンプライアンス費用は、全体的にきわめて高い。Finger and Shuler(2000)は、典型
的なアフリカの国が SPS、通関、そして知的所有権に関する 3 つの協定の要件を満たすた
めに必要な費用は安くても 1 億 5 千万 US ドルに上るとしている。
7.3
農業開発における難問への対処
アフリカの農業輸出品における最大の難問の一つは、ウルグアイ・ラウンド貿易交渉、
および世界貿易機関(WTO)の多様な貿易協定に関するものである。大部分のアフリカ諸
国は、WTO の必要条件を遵守することができない。アフリカの開発パートナー、特に日本
は(国際貿易におけるその際立った位置付けのため)、WTO が課している輸出条件の一部
を再交渉する上で手助けすることができる。また、アフリカ域内の貿易上のゆがみ、特に資
源配分あるいは農業投資と生産性向上の足かせとなっているゆがみを取り除く手助けも日本
にはできる。さらに、輸出多様化を促進する分野と新たな市場の同一化において支援を提供
することができる。支援の対象となりうる 3 つ目の分野は、現物および先物市場において
農業製品の組織的な販売を保証するためのビジネス・ネットワークである。ビジネス・ネッ
トワークを運営するには、本質的な管理スキルが必要となる。こうしたネットワークの成功
の鍵は、製品サイクルのあらゆる段階における適切な保管設備と品質管理である。日本の
ODA は、アフリカにおけるビジネス・ネットワーク管理者を訓練するために利用すること
ができる。
農業貿易改革は世界の食料価格を引き上げ、低所得の食料輸入国、特に貧困国に損害を
与えると予想されている。しかし、適切な政策があれば、こうした国々は関連した損失を純
益に転換することができる可能性がある(Ingco. 1997)。しかし短期的には、改革に起因
する損失回避のコストは高くなる可能性がある。この点は、純食料輸入開発途上国に関する
マラケシュ決議を通してウルグアイ・ラウンドに反映されている。マラケシュ協定のもとで
後発開発途上国は食糧援助を提供する。
食料不安はアフリカ諸国の大半にとって大変な難題である。貧困レベルが悪化すると共
に食料不安が拡大している。これは一部にはアフリカにおける構造調整の時代に農業セクタ
ーを無視した結果である。アフリカの食料不安の解決には、問題の短期的および長期的要因
を適切に統合することが必要である。短期的な解決策によっては長期的な問題となりうるも
のもある。短期的な解決策としては、食糧援助が挙げられる。ただし、援助によりアフリカ
における食料品価格を低下させないことが条件である。大量の食糧援助による食料品価格の
下落は農業生産を阻害する要因となる可能性があり、最終的には輸入食品に対する依存を生
み出す可能性がある。グローバル化された食糧安全保障システムの設計には二つの主要要素
がある。一つは先進国における農民保護削減である。先進工業国における農民に対する保護
36
削減は、国際市場におけるアフリカの農業輸出品の競争力を増大することにつながる可能性
がある(アフリカ製品に対する関税が引き下げられる、あるいは先進工業国の農業製品に対
する生産補助金が引き下げられる可能性があるからである)。アフリカの食糧安全保障の設
計におけるもう一つの側面は、国内の食料品価格の不安定性の軽減に関するものである。食
料品価格の安定は、食料生産への投資に対する刺激となる可能性がある。
しかし、農業全体の生産性向上こそが、アフリカにおける食料確保のための主なチャン
ネルである。このことは非伝統的農業輸出品の輸出増加と、より価値の高い農業製品に対す
る専門化のさらなる促進を必要とする。サブサハラ・アフリカでは、60%の国が食料の純
輸入国であり、残りの 40%は純輸出国である。
国の食料安全保障は、食料輸入のための外国為替の入手可能性にも大きく依存している。
ある国の国際市場から食料を獲得する能力を測定するために、2 つの指標を利用することが
できる(Ingco et al. 2001)。1 つは食料輸入能力(Food Import Capacity : FIC)指標で
ある。この指標は輸出収入総計に対する食料輸入支出の割合と定義される。FIC が高けれ
ば高いほど、食料不安のリスクは高くなる。もう一つは農業貿易能力(Agricultural
Tradeability : AT)指標であり、この定義は GDP に対する農業貿易の価額(例:農業輸入
支出と農業輸出収入の合計)の比率である。この指標が高ければ高いほど、食料不足のリス
クは縮小される。
これらの二つの指標は、国の食料安全保障がリスクにさらされている時期を見極める際
に利用することができる。FIC 指標は食料輸入について資金を調達するために必要な外国
為替に対する需要の指標として主に利用される。補表 1 は、ウルグアイ・ラウンド後の 1995
年から 1997 年の FIC のレベルを示している。アンゴラ、カメルーン、コンゴ共和国、コ
ートジボワール、赤道ギニア、ガボン、ナミビア、ナイジェリア、スワジランド、ウガンダ、
そしてジンバブエを除いて、この表に記されているその他のすべてのサブサハラ諸国におけ
る FIC 比率は 10%以上であり、したがってこうした国々は食料不足に対してきわめて脆弱
であるということになる。
農業貿易能力(AT)比率は、農業セクターがどの程度農業製品の世界市場の展開に直接
影響されているかを把握するために利用される。この指標は世界市場の変動がどの程度農業
収入に影響するかを明らかにする。補表 1 はサブサハラ・アフリカ全体にわたってこの指標
の可変性が極めて高いことを示している。これらの指標(FIC と AT)からの複合的な情報
は、農業市場に関する貿易交渉の効果をよく表している。例えば、アフリカ諸国が先進国の
市場に参入することを可能にする貿易交渉は、アフリカにおける農業製品の純輸出国を助け
る可能性がある。すべてのアフリカ諸国に共通の懸念は、先進国が SPS と貿易の技術的障
害(Technical Barriers to Trade:TBT)などの緊急時対策法を利用して、自らの市場をさ
らに保護しようとする可能性である。
37
7.4
国内農業政策
農業価格は相変わらずサブサハラ・アフリカにおいて農民に対する生産刺激策の重要要
素である(Ingco et al. 2001)。こうしたインセンティブ政策によって生じた経済のゆがみ
の程度は、生産者が受け取る境界価格の割合によって示される。補表 2 は、主要国におい
て生産者が受け取る境界価格の割合(%)を示している。70%以上の数字は数カ国にのみ
集中している。カメルーンのココアとコーヒー、ケニアのコーヒー、マダガスカルのコーヒ
ー、モーリシャスの砂糖、ナイジェリアのココアとゴム、タンザニアのコーヒーとカシュー
ナッツ、ウガンダのコーヒー、そしてジンバブエのタバコと綿である。ウガンダとタンザニ
アにおけるコーヒーの境界価格の割合は、世界でコーヒーの最高生産高を上げている国の生
産者のものと匹敵している。南アフリカは例外で、対象となるあらゆる製品はオレンジを除
いては 80%以上の割合である。こうしたデータは、全体およびセクター別の政策問題を浮
き彫りにする。すなわち、政策の変更は農民の収入に影響する。コーヒー・セクターは、
補表 2 に示されているコートジボワールを除いたすべての国のほとんどで自由化されてい
る。ココア・セクターはサブサハラ・アフリカ全般ではいまだに問題となっている。これは
主要生産国における自由化の遅れと失敗が原因でもある。主要生産国のうちカメルーンとナ
イジェリアだけがココア・セクターを自由化している。コートジボワールでは、ココア価格
のうち 53%が税金部分である。ガーナではマーケティング委員会が農民に対して 49%の間
接税を課している。ガーナとコートジボワールでは、ココアの境界価格の最高割合は 50%
以下である。カメルーンとナイジェリアでは、農民が受け取る境界価格の割合は 75%以上
である。農民の大部分は農産物を農場から港へ輸送する際に発生するコストのために本船渡
し価格の 40%から 69%を受け取る。こうした価格分裂を説明する要因としては、農業およ
びマクロ経済政策、道路の密度と質、未使用借入枠、そして作物の貿易量が挙げられる
(Townsend. 1998)。農業製品に対する統制されたマーケティング・システムは、多くの
アフリカ諸国における市場価格のシグナルをゆがめている。
こうしたシステムの影響により、
農民が受け取る最終価格が低下している。通常は、農業製品の輸出業者の利益となる通貨切
り下げのメリットが、マーケティング側の非効率性、および借地料から利益を得ようとする
慣習により大きく損なわれている。
日本の ODA は幅広い視点から、アフリカ農村開発において長期にわたり無視されてきた
課題に取り組まなければならない。アフリカの貧困者の大部分は依然として農村地域に暮ら
しているが、大半の国々には重大な都市偏向性が存在する。農村部の貧困削減は、農業生産
性、農村における農業以外の雇用の創出、そして天然資源と環境の保護を重視する総合的ア
プローチを農村開発に利用することで成し遂げられるだろう。アフリカの農村地域において
は、主な経済活動を 4 つに分類することができる。営利農業、家内農業、自給自足型農業、
そして公式および非公式セクターにおける非農業活動である。非農業活動は農業を土台とし
ており、非農業セクターにおける成長は農業生産と雇用を促進するのである。
商業的農業活動は、農村部と都市部のつながりを改善する広範な政策によって促進でき
るだろう。この点については、農村部の支線林道、電話と郵便サービス、そしてマーケット
38
センターといった農村部の輸送および通信インフラに対する投資が特に重要である。家内農
業活動と小規模非農業企業はグローバル化の影響に対して脆弱である。特に市場競争を激化
する力に対しては弱い。こうした力は効率性に対してはプラスの効果をもたらすが、地域あ
るいは国際的な規模で競争できる経済主体に対して恩恵をもたらす傾向があるため、所得配
分を悪化させる可能性がある。したがって、グローバル化のマイナスの影響に対処するため
の社会的なセーフティーネットを構築する必要がある。
農村地域への適切な技術移転を促進するためには、公的な研究能力と国家拡張システム
を強化する必要がある。アフリカにおける国家農業拡張システムは長い歴史を持っているが、
このシステムが農業生産を改善した程度についてはいまだに議論が続いている
(Blindlish and
Evenson. 1997;Gautam 1998)。日本の ODA は、拡張システムに対する投資を開始する
前に、支援を必要とする農業拡張システムを見極めるために利用できる。さらに、農業開発
における農村部の非農業セクターが果たす重要な役割を考えると、非農業企業に対する相談
機関を 1 設置する必要がある。サブサハラ・アフリカでは、農村地域の家計所得のおよそ
45%が非農業活動から生まれている(Reardon.1997)。したがって、農村開発の第一の焦
点は、貧困者の大半が生計を立てる農業でなければならないが、貧困削減戦略は幅広い視点
から策定され、非農業活動への援助も含む必要がある。
農村地域での金融は農村の貧困削減における重大な要因であるが、農村部の金融市場は
資金不足であり、貧困者に対する信用枠はきわめて限られている。日本の ODA は金融セク
ター改革の完遂に対する資金提供、金融市場の成長と競争を強化するプログラム、農村部の
金融機関の業績を改善する政策の実行、そして農村部の農工業と業者のための小額短期融資
プログラム設立のための資金提供に利用することが可能であろう。
第8章
8.1
結論と政策の優先順序
主要結論
本報告書の主要結論は以下にまとめられる。
•
サブサハラ・アフリカにおける貧困削減の手段として援助を利用するためには、安定し
たマクロ経済環境の維持は必要であるが、それだけでは不十分である。
•
優れた政策環境と制度環境は、援助効果を上げるために重要である。なぜなら、国の開
発優先事項への援助の統合を促進し、また開発議題を決定し、援助国の優先事項が受入
国の優先事項を補完させる上で、被援助国の市民が広範に参加する状況を作り出すから
である。
•
アフリカ諸国の大半は概ね最低限の構造改革およびマクロ経済改革を実行しており、い
まや第二世代改革に移行し、主に制度構築と人間開発を実行しなければならない。
39
•
政府が必要な政策および制度改革に対して協力的な国々においては、アフリカの低所得
国に対する援助が貧困削減に成功する可能性が高い。
•
技術知識のアフリカへの移転、特に地域の研究能力の強化により、生産性の低い経済の
変革が確約される。
•
国内における援助国の活動の連携などにより、援助提供における取引コストを削減する
と、援助の有効性が高まる可能性がある。援助連携の方法は 2 つある。一つは、援助を
国の予算および会計システムに組み込むことである。そしてもう一つは、供給源が多様
な援助の利用状況を監督するための共通システムを作り上げることである。
•
援助提供システムは補完的でなければならないが、地域の管理能力に取って代わるもの
ではなく、また社会的準備の国家システムをゆがめるものであってはならない。
•
援助は、輸出多角化に対する支援、そして海外および国内投資を促進するためのインセ
ンティブ構造の構築に利用することができる。
•
受入国がより良い資金計画を立てることができるように、援助国は援助資源の予測可能
性を高める必要がある。
•
援助国は、海外技術援助あるいは援助国からの購入といった条件付き援助という伝統的
な形式から、援助を切り離さなければならない。なぜなら、こうした条件は非生産的に
なりがちであるからである。
•
援助資源は国家政府によって設定された優先順位に応じて人間開発に利用されるべきで
ある。
•
援助は、スタッフに対するトレーニングによって受入国の専門的および行政能力を向上
させ、また専門的知識を得られる活動にスタッフを参加させることにより、国家組織を
強化することができる。
•
援助は国の計画、予算、および行政能力を弱体化することによって受入国の制度を脆弱
にしうる。
•
援助国による支援が援助国における政治的説明責任と適法性を弱体化させる場合、こう
した支援は非生産的になる可能性がある。
•
援助国が、支援する開発プロジェクトにおける国内オーナーシップを促進しない場合、
援助は受入国の個々人の自発性と責任感を低下させる可能性がある。
8.2
開発プログラムの優先順位付け
本報告書で論じてきた幅広い開発活動を考慮すると、活動に優先順位をつける必要があ
る。私たちは本報告書で論じてきた開発プログラムを優先順位付け、順番付けるために 3
つの基準を利用した。まず、プログラム実行のねらいは貧困削減であるため、プログラムは
貧困者に対して直接影響を及ぼすものでなければならない。次に、プログラムは持続可能な
開発と矛盾していてはならない。つまり、プログラムは持続可能であり、そのメリットは長
期にわたるものでなければならない。最後に、プログラムの実行に際しては、NEPAD のよ
うな比較優位性を持つグローバル、地域、国、そして地方レベルでの制度が存在しなければ
ならない。
40
プログラムは2番目と3番目の基準は満たすことができても最初の基準を満たすことが
できないことがある。しかし、こうしたプログラムは持続可能なそして広範な共通の開発を
促進するため、こうしたプログラムこそが日本の ODA 支援の対象としては望ましいと言え
る。
要するに、貧困削減に直接影響があるとされるプログラムは、国の資源(日本の ODA に
よって提供される資源を含めて)を利用するにあたって最優先されるべきである。持続可能
で広範な共通の成長を促進するプログラムは、優先順位から言えば 2 番目である。効率を
高めるプログラムは、グローバル、地域、国、あるいは地方のいずれのレベルでもすでにア
フリカに存在する特定の制度によって効果的に実行することができるため、第 3 カテゴリ
ーに位置付けられる。柔軟性を持たせるために、支援されるべき具体的なプロジェクトやプ
ログラムのリストを作成せずに、ここでは上記カテゴリーのいずれかに属するプログラムの
例を提示するにとどめる。
NEPAD は日本の ODA によって支援されるべきプログラムの優先順位の簡単な例を示し
ている。NEPAD を創設した各国の大統領は、順位付けおよび優先順位付けの必要性を認識
し、開発パートナー国との協力を持て以下のプログラムをすみやかに実行することを提案し
た。
(1)伝染病――HIV/エイズ、マラリア、結核
(2)情報通信技術
(3)債務削減
(4)市場アクセス
上記のリストにおいて、(1)のカテゴリーは貧困者に対して直接の影響を及ぼすプログ
ラムの一例である。より一般的には、あらゆる教育および保健プログラムがこのカテゴリー
に該当する。
私たちは日本の ODA が、農村地域をベースにしたプログラムに重点を置き、プラマリー・
ヘルスケア・プログラムと基礎教育(初等教育と中等教育)を援助することを提言する。な
ぜなら、アフリカの貧困者の大半は農村地域に暮らし、そこで働いているからである。農村
地域および都市地域における食料貧困の削減において食料生産が果たす役割は重大であるた
め、農業開発支援もまたこのカテゴリーのもとで推奨される。
(2)~(4)のカテゴリーは貧困者に対して直接影響を及ぼすプログラムの例ではないが、長
期的には開発に大きな利益をもたらす可能性がある。プログラムはグローバル、地域、国、
および地方のレベルでも有効に実行することができる。例えば、NEPAD は、(2)から(4)に
記載されているプログラムを実行する際に重大な役割を果たすことができる。NEPAD の比
較優位性は、アフリカの民主主義にそのルーツを持つ地域制度としての起源とステータスか
ら直接生じるものである。この二つの特長により、制度が最も効果を発するレベル、および
最大の信頼を獲得しうる課題が決まる。したがって、民主的に選ばれたアフリカのリーダー
41
がアフリカ全体にとって不可欠であると考える課題は、アフリカのその他の多くの制度と比
較して、NEPAD の比較優位性が高いものである可能性が高い。
経済は全体で発展、繁栄する。したがって本報告書では、貧困に対して間接的かつ長期
的な影響を与えるようなプログラムをインフラ投資では農村地域と都市地域両方、ハイテク
製造への投資では特に都市地域で必要としてる。貧困地域の保健施設および設備、あるいは
有効的な抗マラリア・ワクチンの開発に対する直接投資は、このカテゴリーのもとで支援す
ることができるプログラムの例である。世界経済におけるアフリカのシェアを拡大するプロ
グラム、例えば、多様な地域統合スキーム、および貿易協定はこのカテゴリーにおいて支援
される。またこのカテゴリーでは、アフリカ成長機会助成法(African Growth and
Opportunity Act)に対してアフリカがとりうる対応として、水利権あるいはインフラ、も
しくは地域貿易協定、および最も重要なアフリカにおける平和と安全保障といったアフリカ
内部での二カ国以上にまたがる課題が挙げられる。こうした課題に対応するプログラムは、
NEPAD のもとでグローバルなレベルで最適に取り組むことができる。
国内環境改善のためのプログラムは、主に持続可能で長期的な開発を促進するが、その
実行は一般に国レベルで行われる。日本の ODA がこのカテゴリーのもとで支援できる改革
と政策の事例として、次のものが挙げられる。為替レートに関する政策、健全な公共金融、
貿易自由化、民営化、教育と保健のための予算、適切に機能する法システムの設立、民主主
義的なガバナンス・制度、そして報道の自由である。
42
補論
補論 1
WTO 農業交渉におけるアフリカの目標と関心事項
アフリカ諸国の WTO 農業交渉における主な目標と関心事項は以下に要約することがで
きる。
•
国際市場におけるアフリカの農業製品に対する関税は、農業主導型の産業化を促進し
ない。関税を削減し、最終的には廃止することが不可欠である。
•
先進工業国によるアフリカの農業商品に対する関税は、適切な打開策を利用して現在
の高レベルから引き下げる必要がある。
•
衛生措置などのアフリカの食料輸出品に対する非関税障壁の削減は、アフリカ農業に
対して非生産的である。
•
アフリカ諸国が、自由化された国際市場から得られる新たな市場機会をうまく利用す
ることを可能にする生産能力育成支援。
•
WTO 協定の実施規則と条件がアフリカ諸国に対して比較的緩和されるように調整する
こと。とりわけ先進国が遂行する実行契約に関する規則と条件についての調整。
•
アフリカ諸国が WTO 規定を遵守する能力は限られているため、アフリカ諸国の農業
製品が満たさなければならない貿易基準の設定、および貿易協定違反の検知において、
次のことを考慮する必要がある。例えば、アフリカ諸国は、有効なダンピング防止策
の設計、あるいは食料輸出品に対する厳しい衛生条件を満たすには十分な能力を持っ
ていない。
•
重要なアフリカ農業製品は、現在特恵スキームに基づいて取引されている。そのうち
最 も 重 要 な ス キ ー ム は ア フ リ カ ・ カ リ ブ ・ 太 平 洋 諸 国 連 合 と 欧 州 連 合 ( African
Caribbean & Pacific Countries and European Union:ACP-EU)の間の協定である。ACP-EU
のコトヌー協定の貿易に関する部分は今後交渉されることになっている。本協定のも
とでの貿易協約が WTO の取り決めと整合性を保ちながらもアフリカの特恵を維持する
ことは重要である。これは WTO 交渉における最も重要なアフリカの要求となるだろう。
•
WTO のすべての加盟国は、貿易に対して衛生、植物衛生措置、および技術的な障壁を
採用する際には、国際基準、ガイドライン、そして勧告に従う必要がある。さらに、
アフリカ諸国をこうした基準を制定する意思決定フォーラムに参加させなければなら
ない。
•
アフリカ諸国およびその他の後発開発途上国に対する「特別で異なった待遇」は多国
間貿易交渉における不可欠な部分でなければならない。
•
農業輸出における不公平な競争が先進国によって実行されており、このことがアフリ
カ農業開発を害している。
•
アフリカ農業製品の価格を引き上げるには、アフリカ域内の貿易自由化と、農業に対
する政策偏向を排除する必要がある。アフリカ諸国はこの点で援助国からの支援が必
要であろう。
•
OECD 諸国における補助金スキームなどのアフリカ農業に対してマイナスの影響をも
たらす先進諸国の政策上のゆがみを排除する。
43
•
輸出信用、輸出信用保証、および保険プログラムの提供を規定する合意条件の策定に
向けた動きとともに、輸出補助金規制を適切に見直す必要がある。
要約すると、WTO の農業交渉におけるアフリカ諸国の主要目標は、サブサハラ・アフリ
カにおける農業貿易能力を育成するための援助確保、農業貿易に関する課題を話し合うフ
ォーラムへの参加、貿易紛争の解決における専門的援助の確保、先進工業国におけるより
高い市場アクセスへの支援、アフリカ諸国自身の農業利益を高めるに際して利用する貿易
に関するデータベースの評価と維持、提携関係の構築に対する支援、そして多国間貿易交
渉における開発途上国の共通の位置づけの追求が挙げられる。
44
補論 2
補表
補表 1
2000 年サ ブ サ ハ ラ ・ ア フ リ カ諸国の農業貿易能力(Agricultural
Tradeability:AT)と食糧輸入能力(Food Import Capacity:FIC)の指標
サブサハラ・アフリカ諸国
アンゴラ
ベナン
ボツワナ
ブルキナファソ
ブルンジ
カメルーン
カーボベルデ
中央アフリカ
チャド
コモロ
コンゴ民主共和国
コンゴ共和国
コートジボワール
ジブチ
赤道ギニア
エリトリア
エチオピア
ガボン
ガンビア
ガーナ
ギニア
ギニアビサウ
ケニア
レソト
リベリア
マダガスカル
マラウイ
マリ
モーリタニア
モーリシャス
モザンビーク
ナミビア
ニジェール
ナイジェリア
ルワンダ
サントメ・プリンシペ
セネガル
セイシェル
シエラレオネ
ソマリア
スーダン
スワジランド
タンザニア
トーゴ
ウガンダ
ザンビア
ジンバブエ
出所: Ingco and Winters (2001)
45
AT 指標
FIC 指標
0.78
0.40
2.68
0.28
0.24
0.19
2.07
0.18
0.33
0.37
0.10
0.54
0.92
5.95
0.17
0.98
0.21
0.42
0.93
0.32
0.37
0.40
0.64
1.95
0.21
0.73
0.33
0.75
2.25
0.40
0.92
0.21
0.17
0.24
1.06
0.60
2.31
0.42
2.31
0.25
0.35
0.20
0.17
0.97
0.08
0.24
0.12
0.25
0.46
0.05
4.67
0.14
0.21
2.80
0.48
0.07
0.09
2.87
0.09
0.64
0.45
0.04
1.99
0.17
0.45
0.89
0.16
0.85
0.18
0.22
0.18
0.15
0.28
0.15
0.94
0.08
0.28
0.07
0.91
1.01
0.42
0.69
1.28
0.39
0.38
0.09
0.21
0.22
0.08
0.04
0.06
補表 2
1998 年の輸出農作物別ボーダー価格における生産者の取り分
国名
ベナン
ブルキナファソ
カメルーン
チャド
コートジボワール
ガーナ
ギニア
ケニア
マダガスカル
マラウイ
マリ
モーリシャス
モザンビーク
ナイジェリア
セネガル
南アフリカ
タンザニア
ガンビア
トーゴ
ウガンダ
ジンバブエ
製品
綿
綿
ココア
コーヒー
綿
綿
ココア
コーヒー
綿
ココア
ココア
コーヒー
茶葉
コーヒー
バニラ
タバコ
綿
砂糖
綿
カシューナッツ
ココア
ゴム
綿
ピーナッツ
トウモロコシ
オレンジ
リンゴ
砂糖
羊毛
コーヒー
綿
茶葉
カシューナッツ
ピーナッツ
綿
コーヒー
タバコ
綿
FOB(本船渡し)価格における生産者の取り分
例:生産者が受け取る価格に占める割合(%)
37
35
76
73
51
36
46
62
47
39
68
73
53
70
33
60
44
94
64
51
98
100
47
51
93
50
93
92
89
77
64
58
71
60
39
72
79
88
出所: Townsend (1998)、World Bank と IMF のデータ
46
補表 3
ケニアにおける世帯主の最終学歴別貧困比率
教育・学識
人口比率(%)
対世帯主貧困比率
農村地域
都市地域
農村地域
都市地域
なし
33.5
9.6
64.0
66.0
初等教育
46.1
35.9
53.6
63.9
中等教育
19.3
44.7
33.4
38.8
高等教育(5 年生から大学)
0.4
5.6
6.8
14.3
その他(専門/公式)
0.8
4.2
38.9
42.4
出所: Government of Kenya(2000)
補表 4
南アフリカにおける世帯主の最終学歴別貧困比率
最終学歴
人口比率(%)
対世帯主貧困比率
対全貧困層比率
学歴なし
16.4
44.3
26.3
初等教育
26.4
37.0
35.5
中等教育中退
34.5
24.0
30.1
中等教育修了
15.8
12.5
7.1
7.0
3.9
1.0
高等教育
合計
100.0
100.0
出所: Bhorat et al (2001)。
補表 3 と 4 は、教育の欠如と貧困率の間には高い相関関係があることを示している。ま
ったく学歴のない世帯主において貧困発生率が最も高い。ケニアにおける児童の栄養状態
は 1982 年から 1987 年にかけて改善されたが、その後 1987 年から 2000 年にかけて悪化
している(補表 5)。ケニアにおける栄養不良の発生率は 1994 年に最も高く、この時点
では栄養不良児童の比率は 7.8%であった。1997 年に発生率が減少したものの、2000 年に
は再び上昇している。2000 年には東部州での栄養不良児童の人数(死亡者数)は最も高く
11.3%であったが、一方ナイロビでは栄養不良児童の発生率は最も低く 3.7%であった。
補表 5
州
1982-2000 年のケニアにおける 5 歳未満児の栄養状態
発育不良児童の比率
死亡した児童の比率
1982 1987 1994 1997 2000 1982 1987 1994 1997
7.7
5.5
30.2 29.3 29.3
ナイロビ
5.5
7.8
2.5
中央部
33.6 25.0 28.7 36.4 30.6 4.0
7.4
7.8
3.7
3.5
38.0
38.2
38.3
海岸部
48.6 49.5
6.2
7.8
3.7
東部
39.0 38.5 38.5 38.2 44.6 3.5
7.7
5.4
26.4 15.4 36.2
北東部
8.0
5.5
6.2
43.1 41.3 36.4 35.0 37.6 5.5
ニャンザ
5.7
8.2
4.6
31.4 26.9 31.8 33.3 37.5 5.4
リフトバレー
4.9
8.0
3.5
40.5 22.4 37.0 40.5 38.8 3.5
西部
37.1 32.1 33.6 36.0 37.1 4.5
4.0
7.8
6.2
全体
出所: Government of Kenya (2000)
47
2000
3.7
6.1
8.3
11.3
4.8
7.2
8.0
6.4
7.4
南アフリカのデータ(補表 6)は、栄養不良児童の発生率が貧困者の間に最も高いこと
を示している。補表 7 と 8 は、サブサハラ・アフリカにおける農村地域と都市地域におけ
る学力を比較している。農村地域は学力に関して不利な立場にあることがわかる。
補表 6
1995 年の南アフリカにおける世帯主の貧困状況別児童の栄養不良率
貧困状況
栄養不良率
きわめて貧しい
38
貧しい
32
貧しくない
19
出所: Bhorat et al(2001)
48
49
補表 7
サブサハラ・アフリカ農村地域における社会指標
8.1
4.5
5.4
5.8
5.1
11.3
4.3
6.5
6.3
5.6
4.9
9
5
7.1
4.8
11
5.9
5.5
7.6
6.3
4.7
4.8
6.34
1.99
32
46
32
77
17
23
62
23
76
25
27
36
20
56
25
53
--
60
40.59
19.79
27
37
30
64
13
19
61
18
75
26
21
34
15
51
22
48
--
60
36.53
19.17
61
33.06
19.81
21
28
26
50
10
15
60
12
74
28
14
32
10
54
20
47
--
12
30
29
33
19
33
40
7
12
71
92
4
30
33
17
27
-72
71
59
-36.37
25.08
19
47
41
47
30
46
54
13
22
80
93
7
34
39
30
37
-73
81
74
-45.63
24.60
6
14
17
20
8
21
29
2
4
64
92
1
26
27
7
19
-71
62
47
-28.26
26.44
7
24
11
24
19
3
26
16
43
27
19
6
23
7
14
14
14
32
30
10
25
27
19.14
10.05
16
-33
3
5
17
40
75
26
16
8
-45
77
71
92
75
56
40.94
30.53
4
1
41
45
30
7
14
25
2
40
7
25
9
18
-30
-53
14
2
2
6
18.75
16.54
農村地域の世 初 等 教 育 入 男子初等教育 女子初等教育 識 字 率 男性識字 女性識字 世帯主が女性 下 水 設 備 の 水 道 水 の
帯 平 均 規 模 学率(%) 入学率(%) 入学率(%) (%) 率(%) 率(%) の家庭(%) 利用(%) 利
用
(人数)
(%)
出所:World Bank(1999), African Development Indicators, 1998/99 (Ali, Mwabu and Gesami (2001)も参照)
標準偏差
ニジェール
ナイジェリア
セネガル
シエラレオネ
南アフリカ
スワジランド
タンザニア
ウガンダ
ザンビア
中央値
ブルキナファソ
中央アフリカ
コートジボワール
ジブチ
エチオピア
ガンビア
ガーナ
ギニア
ギニアビサウ
ケニア
マダガスカル
マリ
モーリタニア
国名
50
74
68
55
73
67
51
69
65
84
57
58
59
54
66
65
72
79
65.65
8.88
69
65
50
68
67
49
68
56
84
57
57
58
50
63
63
62
78
62.59
9.24
78
60.41
10.44
65
62
45
63
66
47
67
48
84
57
55
57
45
64
61
63
62
75
76
71
76
62
77
35
66
95
97
3
58
70
51
47
87
89
91
37
66.25
22.68
52
61
65
53
63
50
63
27
50
92
96
2
49
62
42
38
87
82
86
33
57.65
22.99
87
76
82
30
49.6
24.26
41
48
55
38
53
36
52
20
35
88
95
1
40
53
34
28
出所:World Bank(1999), African Development Indicators, 1998/99 (Ali, Mwabu and Gesami (2001)も参考)
6.5
5.8
5.6
6.8
4.7
6.9
3.8
6.9
7.2
4
5
8
5
7.2
4.5
9
5.6
4.1
3.9
5.6
3.9
5.3
5.71
1.42
89
97
96
95
93
77.81
22.12
25
23
18
39
19
47.6
10.00
84
-99
86
35
35
15
70.71
23.91
81
61
68
82
59
26
90
71
58
88
90
91
19
59
42
86
95
67
58
77
93
74
88
13
38
19
22
45
16
26
15
25
28
25
11
28
15
18
27
都 市地域 の世 初 等 教 育 入 男子初等教育 女子初等教育 識 字 率 男
性 女
性 世帯主が女性 下 水 設 備 の 水 道 水 の
入学率(%)
帯平均規模
学率(%) 入学率(%)
(%) 識 字 率 識 字 率 の家庭(%) 利用(%) 利
用
(人数)
( % ) ( % )
(%)
サブサハラ・アフリカ都市地域における社会指標
国名
ブルキナファソ
中央アフリカ
コートジボワール
ジブチ
エチオピア
ガンビア
ガーナ
ギニア
ギニアビサウ
ケニア
マダガスカル
マリ
モーリタニア
ニジェール
ナイジェリア
セネガル
シエラレオネ
南アフリカ
スワジランド
タンザニア
ウガンダ
ザンビア
中央値
標準偏差
補表 8
補表 9
1993 年の主要サブサハラ・アフリカ諸国における貧困指標
農村地域人 年間相対貧困ライ
貧困率(%)
国名
ジニ係数(%)
口(対総人 ン(PPP、1985
口比率:
農村地域 都市地域
ブルキナファソ
中央アフリカ
コートジボワール
ガンビア
ガーナ
ギニア
ギニアビサウ
ケニア
マダガスカル
ニジェール
ナイジェリア
セネガル
シエラレオネ
タンザニア
ウガンダ
ザンビア
67.97
77.57
38.42
56.30
34.56
60.96
68.20
58.52
54.67
59.84
48.12
49.67
70.70
66.85
50.19
77.02
44.26
50.64
37.98
42.23
33.24
43.75
49.49
46.00
46.64
40.00
32.08
40.92
41.44
50.49
44.78
44.07
国全体
64.13
67.40
38.21
39.93
34.12
55.30
62.19
56.83
52.95
56.49
41.96
46.14
56.95
62.12
49.52
64.23
農村地域 都市地域 %)
38.70
64.11
29.72
35.21
33.98
32.61
56.68
51.26
40.24
31.47
47.80
40.27
66.67
33.81
37.98
45.60
45.42
51.28
36.40
43.59
35.86
39.21
47.78
51.14
45.92
32.05
33.15
45.12
46.22
36.61
44.99
40.32
83.8
62.4
51.5
54.7
66.9
67.1
67.9
86.5
78.6
78.6
61.6
59.6
53.0
71.1
87.6
61.2
年)、US ドル
農村地域 都市地域
268
251
359
273
456
268
273
349
307
273
424
326
332
256
323
237
出所:Ali and Thorbecke(2000)、Tables A6-A8…に基づく。
補表 10
1980-95 年のアフリカにおける保健指標
(カッコ内は標準偏差)
年
保健指標
1980
1990
1995
乳児死亡率
120.35
(35.12)
93.37
(32.09)
85.92
(30.21)
普通出生率
45.21
(5.91)
42.91
(7.47)
39.79
(8.04)
普通死亡率
17.33
(4.80)
14.41
(4.53)
13.36
(4.31)
合計特殊出生率
6.29
(0.96)
6.04
(1.21)
5.59
(1.15)
女性平均寿命(年)
50.36
(6.72)
55.06
(8.05)
55.18
(7.67)
男性平均寿命(年)
47.84
(7.06)
51.72
(7.60)
52.10
(7.36)
合計国数
50-52
53-53
出所:Mwabu(2001)
51
51-52
560
417
462
520
602
398
382
949
539
371
467
860
541
333
538
400
補表 11 1985-1996/7 年の主要アフリカ諸国における無償・有償資金協力
国名
タンザニア
年
1985
1986
1987
1988
1989
1990
1991
1992
1993
1994
1995
1996
日本の出資
22.90
30.40
40.90
82.60
56.70
43.40
61.10
79.30
99.60
106.70
125.90
109.50
無償援助合計
364.20
598.70
623.00
751.60
672.10
804.30
836.70
848.90
928.90
632.50
616.20
615.20
エチオピア
1985
1986
1987
1988
1989
1990
1991
1992
1993
1994
1995
1996
1997
8.00
7.00
16.00
14.00
13.00
11.00
18.00
11.00
48.00
44.00
63.00
50.00
37.00
619.00
563.00
493.00
775.00
617.00
858.00
988.00
1076.00
733.00
764.00
642.00
623.00
565.00
ザンビア
1985
1986
1987
1988
1989
1990
1991
1992
1993
1994
1995
1996
16.20
23.20
31.90
71.40
62.90
40.10
61.50
73.70
68.90
87.30
62.00
48.30
180.60
274.30
286.60
334.70
289.40
757.60
521.50
729.60
602.20
441.70
476.30
437.00
ケニア
1985
1986
1987
1988
1989
1990
1991
1992
1993
1994
1995
1996
311.5
349.2
400.1
567.1
553.6
1185.3
640.9
659.6
552.1
503.8
463.4
400.5
出所: Aid & Reform in Africa, The World Bank Publication
52
(100 万 US ドル)
借款合計
92.00
67.00
134.00
188.00
132.00
161.00
110.00
106.00
361.00
311.00
246.00
227.00
72.00
215
287.9
352.5
387.3
538.3
429.7
461.2
327.5
317.6
227.5
557.5
342.8
補表 12
国名
赤道ギニア
エリトリア
エチオピア
ガボン
ガンビア
ガーナ
ギニア
ギニアビサウ
ケニア
アフリカにおける ODA 実施額
年
1994
1995
1996
1997
1998
(100 万 US ドル)
日本の実施額 日本の実施額 DAC 諸国
国際機関
(無償資金協力) (技術協力) (純 ODA) (純 ODA)
0.98
0.02
0.34
0.75
0.23
0.02
0.13
21.70
23.30
17.80
12.20
7.80
6.50
94.60
124.80
80.90
50.20
29.50
29.50
1994
1995
1996
1997
1998
0.92
10.75
14.16
0.06
0.66
1.09
1.65
1.39
1994
1995
1996
1997
1998
38.86
50.49
40.09
27.65
16.87
5.03
12.00
10.07
9.67
9.20
525.50
445.40
372.50
362.40
404.00
263.90
1994
1995
1996
1997
1998
0.01
0.54
0.14
0.23
0.26
0.23
0.29
0.37
135.60
113.40
30.20
9.90
15.00
12.10
1994
1995
1996
1997
1998
10.36
2.00
0.09
0.16
0.17
1.14
0.29
0.01
0.06
0.41
25.10
17.20
17.40
24.00
23.80
25.50
1994
1995
1996
1997
1998
39.95
21.45
19.36
22.86
39.25
13.41
15.56
17.62
15.40
15.42
358.60
348.90
291.90
300.50
297.80
192.90
1994
1995
1996
1997
1998
21.57
37.87
14.86
4.97
42.35
1.70
2.30
3.43
1.48
1.81
220.40
134.70
125.50
190.20
140.30
222.20
1994
1995
1996
1997
1998
2.93
10.75
10.30
6.77
10.96
0.72
0.67
0.58
0.68
0.64
76.90
124.80
58.50
39.60
53.60
66.80
1994
1995
40.15
47.72
37.94
46.05
53
B
1985
レソト
リベリア
マダガスカル
アンゴラ
ベナン
赤道 ギニア
ブルキナファソ
ブルンジ
カメルーン
1996
1997
1998
40.94
29.36
8.91
35.18
35.88
31.94
458.70
345.70
301.00
271.30
263.00
157.10
1994
1995
1996
1997
1998
0.98
1.12
7.66
5.53
3.29
0.40
0.68
0.25
0.21
0.34
61.60
49.30
44.60
53.40
54.40
41.80
31.10
112.40
31.00
92.00
94.20
64.40
6.32
6.40
5.77
4.14
6.34
194.90
229.80
549.00
108.30
134.70
288.70
1994
1995
1996
1997
1998
0.03
0.45
1994
1995
1996
1997
1998
27.49
23.61
41.74
24.95
43.29
1994
1995
1996
1997
1998
0.05
3.77
10.72
14.11
241.70
294.40
227.00
176.70
249.70
208.60
1994
1995
1996
1997
1998
10.00
10.89
26.23
17.68
17.22
1.37
1.39
1.22
1.13
1.36
177.40
164.90
148.00
97.60
122.10
77.50
1994
1995
1996
1997
1998
1.71
1.36
0.85
0.85
2.41
1.33
2.35
3.41
3.09
2.36
54.50
67.90
55.80
36.60
14.70
72.40
1994
1995
1996
1997
1998
10.36
5.60
13.94
7.17
7.25
1.46
1.06
0.90
1.07
1.60
252.30
269.20
217.90
229.80
146.90
149.20
1994
1995
1996
1997
1998
7.26
4.11
0.99
0.16
0.03
0.02
108.40
67.80
38.20
183.40
137.20
81.40
1986
54
カーボベルデ
中央アフリカ
チャド
コモロ
コンゴ共和国
コンゴ民主共和国
コートジボワール
ジブチ
1994
1995
1996
1997
1998
7.78
1.98
4.47
3.52
7.34
1.40
1.18
1.05
1.39
1.65
345.50
279.60
330.20
97.50
135.70
173.00
1994
1995
1996
1997
1998
2.56
2.02
3.34
1.98
1.75
0.39
0.23
0.30
0.36
1.04
76.90
77.50
68.00
39.90
39.60
42.00
1994
1995
1996
1997
1998
8.90
48.26
27.11
18.41
12.62
1.52
1.54
3.49
1.56
1.39
122.40
121.00
61.30
44.80
44.40
30.50
0.17
0.17
0.29
0.37
0.30
127.00
121.80
96.40
111.80
180.40
123.70
0.42
0.45
0.31
0.15
0.07
21.70
22.00
15.30
21.80
18.00
12.80
0.38
0.30
0.18
0.12
0.17
105.00
394.60
260.00
20.40
35.10
8.00
1994
1995
1996
1997
1998
1994
1995
1996
1997
1998
1.22
3.82
0.27
4.09
1994
1995
1996
1997
1998
1994
1995
1996
1997
1998
3.97
4.63
3.70
5.51
0.48
0.75
0.84
0.25
0.04
117.70
106.30
104.50
78.00
58.60
54.90
1994
1995
1996
1997
1998
10.41
37.96
49.41
25.07
33.42
10.00
9.11
6.96
6.76
6.57
726.60
449.20
232.70
485.80
518.40
211.30
1994
1995
1996
1997
1998
16.47
27.01
16.75
10.62
15.85
1.48
1.14
1.14
0.81
1.10
79.60
70.80
23.50
21.80
19.90
55
タンザニア
ジンバブエ
セネガル
1994
1995
1996
1997
1998
81.00
22.00
1994
1995
1996
1997
1998
16
11
1994
1995
1996
1997
1998
26
9
出所: 日本の政府開発援助報告書 [日本の ODA のホームページ]
56
補論 3
対外援助についての日本人の考え
1999 年 9 月 30 日から 10 月 10 日にかけて、日本人が開発途上国に対する開発援助に
ついてどう考えているかに関する調査が実施された。調査対象は全員日本に在住する 20
歳以上の成人に限定された。ほぼ無作為に抽出されたおよそ 3,000 人の日本人が日本の対
外援助のいくつかの基本的側面に関して意見を提示するように求められた。対象者のうち
およそ 70%、つまり 2,100 人程度が回答した。質問項目と回答は補表 13 に記載されてい
る。
回答者の過半数(71.6%)は日本の援助の拡大、あるいは現在のレベルに維持すること
に賛成していることがこの表では明らかに示されている。しかしながら、相当数(21.7%、
つまり全体のほぼ 5 分の 1)は援助を削減するか、あるいは中止することを望んでいる。
また、援助の継続あるいは拡大の理由もこの調査から明らかになった。援助を許すにあた
っては人道上の問題が唯一の理由ではない。世界平和、環境開発、および日本の対外政策
の進歩などその他の理由も無償供与の重大な動機づけである。補表 13 の回答には援助供
与における自己利益も見受けられる。多くの日本人は、日本の経済発展が開発途上国の平
和にかかっていることを感じている。
援助の削減あるいは中止を望む主な理由は、経済的困難である。経済の不振あるいは予
算上の制約が、援助の削減あるいは中止の理由として挙げられた。またその他にも注目す
べき理由があった。例えば、援助は透明な方法では提供されておらず、受入国のニーズに
一致していないと日本人は感じている。
最後に、日本人の過半数(61%)は、対外援助についてアジアを対象にしてほしいと
考えている。優先順位から言えばアフリカは第 3 位(「すべての地域」に続いて)であ
るが、回答者のわずか 5.2%しか援助がアフリカ地域に配分されることを望んでいない。
上記の結果および補表 13 に示されているその他の情報を評価するにあたっては、この結
果は日本人の代表とは言えないごくわずかなサンプルに基づくものであることに注意する
べきである。
57
補表 13 貧困国に対する日本の開発援助についての日本人の意見(1999 年 9 月/10 月)
質問と回答
質問:経済協力についてあなたはどう考えていますか。
回答(回答者一人につき回答は一つのみ可):
1. 金額を増やすべきである。
2. 金額は現状を維持すべきである。
3. 金額を減らすべきである。
4. やめるべきである。
対合計サンプル
数回答者比率
回答概数
29.2%
42.4%
19.3%
2.4%
613
890
405
50
質問:「なぜ金額を増やす、あるいは維持すべきだ」と
考えるのですか。
回答(回答者一人につき複数回答可):
1. 人道的見地から経済協力は義務であるから。
2. 経済協力は開発途上国の安定と世界平和に貢献するか
ら。
3. 開途上国における環境問題の解決に日本のスキルと経
験を利用すべきであるから。
4. 経済協力は日本の対外政策において重要な役割を果た
すから。
5. 開発途上国における政治的安定と経済発展が成し遂げ
られなければ日本の経済発展はありえないから。
6. 経済協力は天然資源の維持に有用であるから。
7. 経済協力を実行しなければ日本は孤立してしまうだろ
うから。
8. 経済協力は貿易黒字を持つ国の義務であるから。
対合計サンプル
数回答者比率
回答概数
46.5%
46.5%
976
976
35.7%
750
30.3%
630
25.4%
533
21.4%
21.1%
449
443
19.5%
409
質問:なぜ「金額を減らす、あるいは(援助を)やめる
べきだ」とあなたは考えるのですか。
回答(複数回答可):
1. 日本経済が低迷しているから。
2. 日本の国家予算の制約のため。
3. 経済協力が透明でないから。
4. 経済協力は有効ではなく、受入国のニーズに一致して
いないから。
5. 経済協力は、その他の関連機関および機械設備提供の
維持と開発援助の調整に関して効率的ではないから。
6. その他の先進工業国は援助金額を減らしているから。
対合計サンプル
数回答者比率
回答概数
72.2%
49.0%
26.9%
24.5%
1516
1029
565
515
15.5%
326
5.9%
124
質問:どの地域(世界の地域)が経済協力については最
も重要であると考えますか。
回答(一つのみ可):
1. アジア
2. アフリカ
3. 中東
4. 東欧
5. 中南米
6. オセアニア
7. 全地域
8. わからない
対合計サンプル
数回答者比率
回答概数
61.1%
5.2%
2.7%
2.0%
1.3%
0.7%
18.0%
8.9%
1203
109
57
42
27
15
378
187
出所:「Option Survey for the Japanese Foreign Policies in 1999 (2000 年 4 月発行)」をもとに作成
(在ナイロビ日本大使館から得た情報による。)
58
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