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太田川ダムクラック問題に対する専門家の意見 1. 現場技術者の意見
太田川ダムクラック問題に対する専門家の意見 静岡県森町に建設中の太田川ダム堤体上流面に、大小多数の亀裂が入っていることに監視に あたっていた市民たちが気付いたのは2008年10月3日でした。このことは10月7日 の県議会建設委員会で民主党の大石裕之議員によって質問されましたが、事業の総括責任部 局である河川企画室には現地の太田川ダム建設事務所から何の報告も上がっておらず、全く 答弁が出来ないという失態が演じられました。翌 8 日になって建設部が公表したのは、亀裂 が130カ所に上る事、うち5カ所は幅が0.2mm 以上で補修を要すること、最大長は24 m、最深70cm であるという事実でした。県の公式見解は、 ① これは一般的な現象であってこのダム特有ではない。 ② 原因は生コンクリートが固まる際の中和熱に起因する温度クラックである。 ということで、ダムの安全性にとって問題にはならないという弁明でした。 私どもはクラックが同時期に打設されたレイヤー(階層、リフトとも言う)内にとどまら ず、多くのレイヤーの目地を貫いて走っているものがあること、幅や長さの分布が一様でな く、かねてから最大300mm に達する岩盤変位の発生している左岸側に多く、次いで右岸 側、中央部には尐ない事から上記の説明に疑問を抱き、連絡のつく限りの専門家の方々のご 意見をうかがってみました。流域住民や報道機関の皆さんの判断に供します。 今回回答頂いた方達に提供した情報は、静岡県が開示した「太田川ダム堤体のひび割れ対策 について(上流面)」という報告書が中心で、その後惨澹たる状況が明らかになった下流面の クラックについては未だ全く公表されていない段階であったことをお断りしておきます。 1. 現場技術者の意見 T さん :.黒部ダム(アーチ式、黒部川水系。 建設時期 1956~1963, 総貯水容量約2億 m3, 間組)の建設にたずさわりました。こんな沢山のクラックは見た事がありません。 S さん :矢木沢ダム(アーチ式、利根川水系。 建設時期 1959~1967, 総貯水容量約2億 m3、熊谷組)の建設に加わりました。太田川ダムで見られた様なクラックの多発は技術の 常識から言って「ありえない」ことです。あえて原因を探すと ① 施工に問題があった。セメントの配合の誤り? 型枠を外すのが早過ぎた?バイブ レータの使用不適切?(強過ぎても弱過ぎてもいけない)。 ② 地盤の問題。不等沈下も疑われる。 このようなダムは使えません。 H さん(公共事業にも参入している企業トップ) :ひび割れスケッチ図をみての第1印象は“あ りえない!”です。今まで見たこともない異様な光景です。コンクリート打設の場合、ジャ ンカ(締め固め不十分で空洞が発生)や亀裂を発生させることは恥となります。クラックが 水平,斜めのものは一つのブロック内に収まっているようですが、垂直方向に伸びているク ラックが打設面(1リフト75cm)を超えているところが特徴です。1リフトごとにコンク リート養生を行うので、変状が打設面を越えるのはコンクリート以外の問題が絡んでいるよ うに見受けられます。 (以上はご意見の一部です。全体は長文なので資料として別途 H 論文として収録します;) 2. 国土問題研究会太田川ダム調査団員の意見 M さん;コンサルタント会社重役 地質、土木の専門家: 明らかに異常なクラックの発生 状況です。現段階では二つの要因が考えられます。 ① 地盤に起因した問題:左岸側切り土斜面で掘削中に斜面の変位が発生し,アンカー を何回も打ち直しても変位がおさまらず、現在も収まっていない範囲があることで す。原因はスランプ頁岩と断層の存在、誘因として切り土と仮排水路トンネルの施 工が考えられます。県開示データを元に作成した亀裂分布図(別添)から左岸側で 相対的に変位が大きく、そのゾーンは仮排水路トンネルに収束する傾向が見て取れ ます。また CH 級岩盤に床づけされた堤体中央部が相対的に沈下しているような特 徴を示し、支持岩盤の下に不安定岩盤が伏在する疑問が残ります。 ② 躯体(堤体のこと)のコンクリート骨材に混入したスランプ頁岩の持つヘアークラ ックが原因で、躯体の自重圧で開口〜体積膨張し、クラックが発生した可能性もあ ります。混在する黄鉄鉱・不安定鉱物等の化学変化による膨張も疑われます。 国土問題研究会理事長 京大防災研名誉教授奥西一夫さんの意見 私の専門は災害地形学であり,ダム建造に関わる工学研究ではありませんが,国土問題研究 会理事長として,10 年以上ダム問題に携わり,10 以上のダムについて詳細な調査をおこな ってきました。そのなかで,お送り頂いた開示資料のようなクラックを生じているものは希 有で,昭和 30 年代に建設されたダムに老朽化によって多数のクラックが生じているもの, および地震によって1本または2本のクラックが入ったものしか見ておりません。 県議会等で,コンクリート養生中の発熱がクラックの原因のように答弁されているようで すが,これについては対策が確立されており,太田川ダムでも,レイヤーごとにコンクリー トを打設した後,水で冷やしているのを目撃しています。太田川ダム研究会でお調べのよう に,コンクリート発熱によるクラックとは性状が違うこともあり,ダム提体に加わる外力, またはダム重量に対抗する地盤反力の変化によって提体内の応力が変化し,クラックを生じ た疑いがあります。 県当局はきちんとした調査をせずに,場当たり的な説明をしているようですが,そのよう な姿勢から,安全なダムを造ろうという考えを持っているのかどうか,きわめて疑問だと言 わねばならないと思います。 3. その他のご意見 1. 東大名誉教授 K さん(コンクリート工学専門) :上流面のクラックに関する静岡県の開示 資料を見る限り、このようなクラックの発生は明らかに異常です。今後これらのクラックの 幅や深さがどのように変化して行くかが問題です。 (ダムの上部と下部、左岸側、中央部、右 岸側を比較してひび割れの程度がひどく違うが、水和熱に起因する温度クラックでこんなこ とが起こる可能性があるか?という問いに答えて)「あまりないと思います」。 2. 東大名誉教授 A さん(地震工学) :静岡県の開示資料をみましたが、もう湛水が行われて いるのですか! もっと調べてからが良かった。 これは大変難しい問題で、 ① 期間をかけて左岸岩盤の変位(公表されている様な1ヶ月おきの粗い測定でなく)が本当 に終熄したのか、まだ続いているのかを継続観測する必要があります。 ② 漏水量、堤体の変形その他の継続的で丁寧な観測をつづけることが必要です。 ③ これほど多くのひび割れが発生した例はあまりないと思う。 ④ 群発地震の震央とダムとの距離が2km ということは、震源の深さが平均16km なら震 源断層はほぼダムの直下にあると言える。これは今後注目を要する。 4.建設に関わったコンサルとの対話 (静岡県建設部はダムを造った経験はありません。原野谷ダム、都田ダムは農林部の建設で す。いわば私ども住民と同じ素人ですから、工事の指導と監査はコンサル頼りです。そこで 直接お師匠さんに電話を入れて意見を聞いてみました。質問の要点は県が言う次の二点にし ぼりました。 ① 何処のダムにもある一般的現象か ② 原因は中和熱に起因する温度ひび割れか。) 1. 建設技術研究所:当社は静岡県からの受注社として守秘義務があるのでお答えで きません。 2. ダム技術センターとの一問一答 ①「はい。どこでも見られる現象です」「あなたはどれだけのダムでみられましたか?」 「5カ所ほどです」 「それはどことどこのダムですか?」 「具体名は了解を取らな いといえません」 「仮に了解がとれたら、太田川ダム事務所が作成したような詳細な報告 書が手にはいりますか?」。 「(慌て気味に)いえ、どこも作っておりません」 「そ れでは文書化された客観的証拠はないということですね?」 「(小さい声で)はい」。 ② 「はい。水和熱による温度クラックです」 「しかしそれにしてはクラックの長さも幅 も左岸側、中央、右岸側でかなり違いますがこれほどの施工むらがどうして生じたので すか?」 「コンクリートを打った季節によって外部の温度条件がちがうからです」。 「それ は変ですね。打設は各レイヤー(層)ごとにほぼ同じ時期に右から左までやるものでは ないですか。県の報告書でもそうなっていますが?」(別添資料参照)。「いや、季節では なく、一日のあいだでも時間帯によってちがいます」 「そんなちがいが何層ものレイヤー をつみあげるときに左岸,中央、右岸で起こりますか、平均するとならされて差はなく なるのではありませんか」。回答なし。 高 さ 番 号 太 田 川 ダ ム コ ン ク リ ー ト 打 設 順 序 1 2 H 20.8.2 3 4 H 20.4.24 5 6 H 20.1.15 8 H 19.10.7 9 H 19.6.29 10 11 H 19.3.21 12 13 H 18.12.11 14 15 H 18.9.2 16 17 H 18.5.25 0 9 L2 B 8 L1 B 7 L1 B 6 L1 B 5 L1 B 4 L1 B L1 3 ブ ロ ッ ク 番 号 B 2 L1 B 1 L1 B 0 L1 B L9 L8 L1 B B B L6 L5 L4 L7 B B B B L2 L3 B B L1 18 B 打 設 年 月 日 7 19 20 21 22