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日本のがんの臨床試験の問題と現状 - がんワクチン
日本のがんの臨床試験の問題と現状 -がんワクチンを例に- 国立がんセンター中央病院 臨床試験・治療開発部長 乳腺・腫瘍内科 藤原康弘 2009/09/27 1 世界で承認されている癌ワクチン(欧米では2つだけ) OncoVaxに加えて、 IDM Pharma 社(2009年5月 武田薬品の米国子会社傘下に)の MEPACTが、肉腫に対してがん化学療法との併用下で 欧州医薬品庁(EMEA)から中央方式販売承認を 2009年3月6日に受けています Nature Biotechnology 27: 129-139, 2009 (Feb) 日本では 「がん難民を救う」という甘い言葉に釣られて 自費診療(約150万円)でも良いからと 癌ワクチンの投与を受けるために 患者さんが全国のクリニックに殺到している。 大手マスコミは批判ではなく、 宣伝している。 (例)ある会社の作る自家がんワクチンが 全国のクリニックや病院に供給されています その会社の社長さんも含まれる著者の方は 論文の中で、自分たちの結果は”preliminary”(まだ実験段階)だと 述べているにもかかわらず、 その製造会社は 全国の医療機関に供給して 患者さんからお金をもらっているのです。 世界の常識 癌ワクチンは 日常診療への導入(規制当局による承認)の前に プラセボ対照 第Ⅲ相比較試験での評価が必須 6 ① ANTIGENICS社 Oncophage® (vitespen) 腎癌ワクチン 7 治療用癌ワクチンとして世界で唯一承認されている 2008年4月8日 ロシアで承認 2008年10月22日 欧州(EMEA)で承認申請 8 ② idm PHARMA社 Mifamurtide (MEPACT® ) 骨肉腫癌ワクチン 9 2007年8月27日 FDAはMifamurtide 不承認(追加データ必要)と判断 INT0133試験の公表論文 JCO 2005年3月20日号 10 2008年11月18日 EMEA/CHMP承認 を推奨 2005年のJCO公表の INT-0133論文のデータが 観察期間が延び 薬剤の交互作用が否定される結果 2008年2月1日号のJCOに公表 11 EU 添付文書(SPC) 抜粋 http://www.emea.europa.eu/humandocs/PDFs/EPAR/mepact/H-802-PI-en.pdf ③ Dendreon社 ® Provenge 前立腺癌ワクチン 遠隔転移を有する無症状ホルモン非依存性 前立腺癌患者を対象とする自家細胞免疫療法 13 D9901試験結果は JCO 2007年7月1日号に公表 統計学的に優位差つかなかったが、良い傾向を示唆と結論 14 PROVENGE® (Sipuleucel T)に関するFDA諮問委員会 BLA#125197 7月のJCOでの論文公表より前の 2007年3月29日に FDA/CBERの諮問委員会(CTGTAC)は開催されていた http://www.fda.gov/ohrms/dockets/ac/07/briefing/2007-4291B1-00-index.htm 15 公表論文データ(D9901)の再解析結果 (2000年1月4日~2001年10月8日に割付) D9901の有意差無しの結果を受けて中止された 論文発表のない追加試験(D9902A)のデータ解析結果 (2000年5月12日~2003年3月21日に割付) FDAは D9901試験とD9902A試験の統合解析も行い Provenge®とプラセボ間に優位差はみとめられなかった 16 CBERの諮問委員会は承認に十分なデータであると判断したが CBERとCDERの判断基準の差もあり 2007年5月9日 FDAは追加試験の実施を命じた。 17 Nature Clinical Practice Oncology 4(7):381, 2007 18 2009年4月28日プレスリリースによれば Dendereon社は今年の第4四半期には今回の試験結果をFDAに提出し PROVENGE® (Sipuleucel T)の米国での販売承認獲得へ再チャレンジする予定 ④ (Cell Genesys 社) 武田薬品工業株式会社 前立腺癌用GVAXワクチン 20 「前立腺癌ワクチン「GVAX」のフェーズ2で生存期間 35カ月を達成(08/7/28日経メディカルオンライン)」 • 「現在この種の患者に標準治療として用いられている『タキソテール』 (ドセタキセル)とプレドニゾンを併用した場合の生存期間の中央値は 18.9カ月と報告されており、『GVAX』への期待が高まった」 (08/7/28 日経メディカルオンライン) • この第Ⅱ相試験の結果 [Cancer 113(5):975, 2008(9月1日号)] 21 GVAXのフェーズ3試験 • 米国FDAから優先審査対象に指定(2006年) • VITAL-2試験 (NCT00133224) – 有症状・転移ありの進行性前立腺患者[408例予定] – GVAX+ドセタキセル vs ドセタキセル+プレドニゾン → 死亡例に偏りがありIDMCから中止勧告 (08/8/28武田薬品工業(株)プレスリリース) • VITAL-1試験 (NCT00089856) – 無症状・転移ありの進行性前立腺患者[626例] – GVAX vs ドセタキセル+プレドニゾン →IDMCによる再解析で延命効果が証明される可能性が低く 中止(08/10/17武田薬品工業(株)プレスリリース) 22 2008年9月1日号 Cancer 誌 2008年10月17日 開発中止の発表 (武田薬品工業(株)プレスリリース) 23 ⑤ GlaxoSmithKline社 MAGRIT試験 進行中 非小細胞肺癌の術後補助療法として MAGE-A3 http://www.clinicaltrials .gov 24 ⑥ オンコセラーピー・サイエンス社 局所進行膵癌/再発膵癌患者を対象として ペガサスPCスタディーが進行中 25 26 日本のがんペプチドワクチンの臨床試験の問題点 http://www.mhlw.go.jp/za/0810/d03/d03.html いずれにせよ しっかりとデザインされた 臨床試験の実施により 癌ワクチンの評価はなされるべきであり “第2の丸山ワクチン”にならないことを祈ります 28 Science 321:1298-1299, 2008(Sep 5) 1990-2004年に出た医療品開発関連の論文のうち 1000回以上引用されているものを対象: 初出論文が出てから、 臨床試験結果が1000回以上引用された論文として初めて出るまでの期間は 中央値 24年 基礎研究が診療に生かされるまでには、 四半世紀の歳月が必要なのです 29 Am J Med 114: 477-484, 2003 (Apr 15) 1979-1983年に Nature, Science, Cell, J Exp Med, J Clin Invest, J Biol Chem に発表され 臨床応用の可能性が高いと 著者が述べた論文のうち 2002年10月の時点で ランダム化比較試験にまで至ったもの (Positive; 臨床的に意義ありと確定したもの) 30 基礎研究の成果が出てから診療への導入にまでは 膨大な時間とお金がかかるのです 本当のトランスレーショナル・リササーチ 日常診療 seeds パイロット 1相 スタデイー 2相 3相 4相 日本でのトランスレーショナル・リサーチ :多くの大学病院が重視 大規模疫学研究 メタ・アナリシス • 臨床研究の成果・臨床試験成績を踏まえて、日常 臨床は変化していく(“EBM”) • しかし基礎研究成果が臨床研究の結果を踏まえ、 日常臨床の変化をもたらすまでには、膨大な時間 と莫大なお金が必要 より良い診療の実現のために 機会があれば、是非 臨床試験に参加して下さい ご静聴ありがとうございました 33