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経済トレンド 2007年から始まる家計の増税プラン
経済トレンド 2007 年から始まる家計の増税プラン ~5年後の税負担が2-3割増のシナリオも~ 経済調査部 永濱 利廣 (要旨) ○ 2007 年1月から定率減税が廃止され、今年も家計にとっては増税の年となる。2007 年には負担減 要因となる税源移譲も 2008 年には負担増要因になる上、基礎的財政収支の黒字化を目指す 2011 年に向けて、消費税率引き上げや諸控除の縮小といった増税も予想される。 ○ 定率減税の廃止や税源委譲などの税制改正により、2007 年における家計の税負担は前年に比べて +5,206 億円程度の増加となる。また、年金保険料の引き上げや雇用保険料率の引き下げにより、 2007 年の社会保障負担は前年から+1,357 億円程度の増加となることが予想される。トータルで 約+6,563 億円になる家計の負担増は、2007 年の実質GDPを▲0.05%(▲2,487 億円)程度押し 下げ、財政赤字を名目GDP比で約 0.11%改善する要因となる。 ○ 標準的な4人家族を例にとり、年収 500 万円および 700 万円世帯への影響を見れば、世帯の総負 担額は前年比でそれぞれ+1.7 万円、+3.8 万円程度増加することになる。時系列で見れば、2007 年5月までは所得税の影響で実質減税となるが、6月からは住民税の影響で負担感が増すことか ら、2007 年6月以降の家計所得の伸びが思わしくなければ、家計の負担増の影響により個人消費 が停滞する可能性も否定できない。 ○ 更に、基礎年金の国庫負担割合が引き上げられる 2009 年度に消費税率が+3%ポイント引き上げ られ、プライマリーバランス均衡の達成時期である 2011 年までに個人所得税に関する改正の一部 が実施されると仮定すれば、年収 500 万円および 700 万円の標準的な世帯の総負担額は今後5年 間でそれぞれ+25.1 万円、+34.3 万円程度も増加することになる。 ○ 財政赤字の削減は国民の将来に対する不透明感を減じる効果があろう。しかし、消費税率の引き 上げや諸控除の縮小・廃止が将来的に予想されることは、将来の負担増に対する不安の増大を通 じて税負担が増す前段階の家計消費に悪影響を及ぼしかねない。増税の議論を進める際には細心 の注意を払う必要がある。 1.はじめに 2006 年1月から減税規模が半減された定率減 2.2007 年も家計にとっては増税の年 まず、2007 年の家計負担を最も増加させる税 税が、2007 年1月からは残りの半分も廃止され、 制改正としては、定率減税の廃止がある。定率 今年も家計にとっては実質的な増税の年となる。 減税は 2006 年1月から所得税、同 6 月から住民 さらに、国から地方への税源移譲の影響により、 税の減税規模がそれぞれ半減されているが、 家計負担は 2008 年度にかけて徐々に増加するこ 2007 年1月からは所得税で、同 6 月からは住民 とになるうえ、中長期的にも、プライマリーバ 税で残り半分が廃止される。これにより、2007 ランスの黒字化を目標とする 2011 年に向けて、 年には所得税分の廃止により+13,060 億円、住 消費税率の引き上げや諸控除の縮小といった増 民税分の半減と廃止の影響で+4,200 億円、トー 税が予想される。そこで以下では、今後の増税 タルで+17,260 億円の家計負担増となる。 予定を整理し、家計への影響を検証する。 また、無視できないのが 2006 月7月から改正 第一生命経済研レポート 2007.2 されたタバコ税引き上げの影響である。これは 険料率を引き下げることが検討されている。 昨年からの持越しの影響だが、2007 年にも+850 2006 年度時点の雇用保険は失業手当分として雇 億円の家計負担増をもたらす。 用者に 0.8%の保険料率が設定されているが、 一方、2007 年から「三位一体の改革」に伴い 2007 年度からは 0.6%と▲0.2%ポイント分の料 国から地方へ税源が移譲される。これにより、 率引き下げが実施されそうだ。仮にこの引き下 国税である所得税が 2007 年1月から年間で3兆 げが実現すれば、2007 年の現役世代の雇用保険 円程度の減税となり、その分地方税である住民 料負担額は前年より▲2,000 億円程度軽減され 税が 2007 年6月から増税となる。税源移譲であ ることになる。 ることから、最終的な増減税はゼロになる。し 以上より、2007 年の社会保障の制度改正によ かし、住民税の増税が5ヶ月遅れて始まるため、 る現役世代の負担は、前年から+1,357 億円程度 住民税が毎月均等に増税されると仮定すれば、 の増加となることが予想される。 2007 年の税源移譲による住民税の増税額は+ 家計への影響は約▲12,904 億円の負担減となる。 3.2007 年の負担増は実質GDPを▲ 2,487 億円押し下げ 以上全ての影響をあわせると、2007 年におけ 結果として、税と社会保障を合わせた家計へ 18,066 億円程度にとどまり、差し引き 2007 年の る家計の税負担額は前年に比べて+5,206 億円 の負担増は、2007年では約+6,563億円もの規模 程度増加することになる。 に及ぶものと予想される。では、この負担増が 2007 年には、社会保障制度においても制度改 実施された場合、どの程度GDPが下押しされ、 正が実施される。まずは、毎年恒例となった厚 税収の増加を通じてどの程度の財政赤字の解消 生年金保険料率の引き上げにより、現役世代の につながるのだろうか。そこで、内閣府の短期 負担増加額は+3,000 億円程度にも上る。また、 日本経済マクロ計量モデルの結果を用いてその 国民年金保険料の引き上げによる負担増加額も 影響を試算した。負担増の規模+6,563億円は家 +357 億円程度になる。結局、年金保険料の引き 計の可処分所得の約0.21%、名目GDPの約 上げが 2007 年の現役世代に及ぼす負担増加額は 0.12%に相当する規模となる。従って、2007年 合計で+3,357 億円程度の規模に及ぶと試算さ における家計の負担増は、その年の個人消費を れる。 ▲0.09%程度押し下げることなどを通じて、実 一方、雇用環境の改善により雇用保険の収支 質GDPを▲0.05%程度押し下げる影響が出る が好転していることから、2007 年度から雇用保 ことになる。一方、財政赤字は名目GDPとの 資料1 2007 年の家計に影響を及ぼす主な税・社会保障制度改正 変更点 税制 定率減税の縮小(住民税控除半減) たばこ税の引き上げ 定率減税の廃止(所得税) 税源移譲(所得税) 定率減税の廃止(住民税) 税源移譲(住民税) 計 社会保障制度 国民年金保険料引き上げ 雇用保険料率引き下げ 厚生年金等保険料引き上げ 計 合計 変更時期 前年対比 (億円) 2006年6月 1,750 2006年7月 850 2007年1月 13,060 -30,970 2007年6月 2,450 18,066 5,206 2007年4月 357 -2,000 2007年9月 3,000 1,357 6,563 (出所) 財務省、厚生労働省、内閣府、各種報道資料をもとに第一生命経済研究所作成 第一生命経済研レポート 2007.2 比率で見て+0.11%ポイント程度改善すること による住民税の増税と定率減税の廃止の影響に になる。つまり、2007年における家計の負担増 より、年間の住民税額は前年比で+5.7 万円程度 は、金額にして▲2,487億円程度の実質GDPの の増加となる。これに社会保険料負担の増加分 犠牲を払うことにより、その年の財政赤字を名 約+0.2 万円を加えれば、世帯の総負担額は+ 目GDP比で約▲0.11%程度削減する効果があ 1.7 万円程度増加することになる。 同様に年収 700 万円の標準的な世帯を例にと るということになる。 このように、2007年における家計の負担増の れば、所得税額が前年比▲7.3 万円、住民税額が みを考えれば、わが国の財政赤字を解消するに +10.9 万円、社会保険料負担が+0.2 万円とな は力不足である一方で、個人消費や住宅投資な り、世帯の層負担額は+3.8 万円程度増加するこ どの伸びを抑制させる要因となることから、海 とになる。 外経済の減速などと共に2007年の景気を停滞さ この負担増の影響を時系列で見れば、2007 年 せるリスクの要因の一つとして注意しておく必 5月までは所得税の影響で実質減税となるが、 要があろう。 6月からは住民税の影響で負担感が増すことに なる。従って、2007 年6月以降の家計所得の伸 4.年収 500 万円の4人家族世帯の負担増 は+1.7 万円 続いて、この影響を標準的な4人家族世帯(40 びが思わしくなければ、家計の負担増の影響に より個人消費が停滞する可能性も否定できない だろう。 歳以上の有業の世帯主、専業主婦、子供2人の うち1人は特定扶養控除に該当)を例にとり、 実際の世帯にどのような影響が及ぶかを年収毎 に見てみよう。 5.中長期的な増税シナリオ しかし、中長期的な視点から見れば、家計の 負担増はこの程度では収まらないだろう。2009 年収 500 万円の標準的な世帯を例にとれば、 年度には基礎年金の国庫負担割合が現在の3分 税源移譲による 2007 年1月からの所得税減税の の1から2分の1に引き上げられるが、この財 影響により、定率減税廃止の影響を加味しても、 源に消費税の増税分が充てられるとの見方もあ 年間の所得税額は前年比で▲4.2 万円程度の軽 る。仮に 2009 年度に消費税率を引き上げるとす 減となる。しかし、2007 年6月からの税源移譲 れば、早ければ今年7月の参議院選挙が終わっ 資料2 2007 年の税・社会保障負担が標準的な4人家族世帯に及ぼす影響 (万円) 年収 所得税 300 400 500 600 700 800 900 1000 1100 1200 1300 1400 1500 0.0 1.9 5.2 8.6 14.6 22.4 37.2 53.0 70.6 88.6 107.4 127.9 150.5 住民税 対前年 0.0 -1.6 -4.2 -6.9 -7.3 -6.6 -5.1 -3.5 -1.7 0.1 3.3 6.9 9.7 0.9 6.0 12.5 19.4 27.8 35.6 43.5 51.4 60.1 69.1 77.8 86.7 95.6 対前年 0.0 2.2 5.7 9.2 10.9 11.5 11.6 11.6 11.6 11.6 9.2 6.5 3.8 社会保険料 負担額 対前年 対前年 38.2 0.1 39.1 0.1 50.0 0.1 57.9 0.7 64.7 0.2 82.4 1.7 77.9 0.2 105.8 2.6 89.7 0.2 132.1 3.8 101.5 0.2 159.5 5.2 113.2 0.2 193.9 6.7 124.1 0.2 228.4 8.2 131.1 0.1 261.9 9.9 136.4 0.0 294.1 11.6 144.6 -0.2 329.7 12.3 150.5 -0.3 365.0 13.2 156.4 -0.4 402.5 13.1 (注)所得税と社会保障負担は 1-12 月分、住民税については 6-翌年 5 月分。年収は給与収入のみで、臨給は 1.5 か月分を 7・12 月に支給。 第一生命経済研レポート 2007.2 た 2007 年後半以降にも消費税増税に関する議論 収ごとに試算し、2006 年の負担額と比較してみ が浮上し、最短では 2007 年末の税制改正議論で よう。 2009 年度からの消費税率引き上げが決定される すると、年収 500 万円の標準的な世帯を例に 取れば、定率減税の廃止と税源移譲の影響に諸 こととなる。 更に、政府は 2011 年にプライマリーバランス 控除の見直しの影響が加わることにより、年間 均衡を達成する目標を掲げていることから、こ の所得税額は対 06 年比で+2.3 万円、住民税額 の達成が困難な状況にあると判断されれば、更 は同+10.6 万円程度の負担増となる。更に、既 なる増税の実施も否定できない。この意味では、 に決まっている年金保険料率の引き上げに、一 2005 年6月に政府税調から公表された「個人所 部医療や介護保険料の引き上げも想定すると、 得税に関する論点整理」が注目されよう。ここ 年間の社会保険料負担額は対 06 年比で+4.5 万 では、個人所得税全般について抜本的見直しを 円程度の増加となる。これに消費税率+3%ポ 進めていくことが示されており、具体的に給与 イント引き上げの負担増加分約+7.7 万円を加 所得控除や配偶者控除、扶養控除といった諸控 えれば、世帯の総負担額は今後5年間で+25.1 除の縮小・廃止などが提言されている。したが 万円程度も増加することになる。 って、財政再建のために更なる増税が必要と政 更に、年収 700 万円の標準的な世帯では、所 府が判断すれば、こうした制度改正が実現され 得税額が対 06 年比+8.0 万円、住民税額が同+ る可能性も否定できない。 10.2 万円、社会保険料負担が同+6.3 万円、消 そこで、仮に基礎年金の国庫負担割合が引き 上げられる 2009 年度に消費税率が+3%ポイン 費税率が同+9.8 万円となり、世帯の総負担額は +34.3 万円程度の増加になる。 ト引き上げられ、政府が掲げるプライマリーバ このように、消費税率の引き上げや諸控除の ランス均衡の達成時期である 2011 年までに個人 縮小・廃止が将来的に予想されることは、家計 所得税に関する改正の一部(配偶者控除、特定 の将来の負担増に対する不安の増大を通じて、 扶養控除の廃止、給与所得控除を2/3に縮 税負担が増す前段階から家計消費に影響を及ぼ 減)が実施されると仮定し、先と同じ4人家族 しかねない。従って、こうした議論を進める際 世帯の 2011 年における税・社会保障負担額を年 には、細心の注意を払う必要があろう。 資料3 標準的な4人家族世帯における 2011 年の税・社会保障負担シミュレーション (万円) 年収 所得税 300 400 500 600 700 800 900 1000 1100 1200 1300 1400 1500 0.0 7.2 11.7 18.9 30.0 46.1 62.3 78.6 96.5 117.5 137.8 165.2 195.0 対06年 0.0 3.7 2.3 3.5 8.0 17.2 20.0 22.1 24.2 29.1 33.7 44.3 54.2 個人住民税 社会保険料負担 消費税 負担額 対06年 対06年 対06年 対06年 8.5 7.6 40.8 2.7 16.4 5.6 65.7 15.8 15.5 9.5 53.4 3.5 19.8 6.6 95.8 23.2 23.1 10.6 69.1 4.5 23.1 7.7 126.9 25.1 30.3 10.9 83.2 5.5 26.4 8.8 158.8 28.8 38.0 10.2 95.8 6.3 29.5 9.8 193.2 34.3 46.1 10.5 108.3 7.1 32.4 10.6 233.0 45.3 54.2 10.7 120.9 7.9 35.3 11.5 272.6 50.0 62.3 11.0 132.3 8.4 38.3 12.4 311.6 54.0 71.3 11.1 139.7 8.6 41.3 13.4 348.8 57.4 80.4 11.3 145.3 8.8 44.2 14.4 387.4 63.5 89.2 11.4 153.8 9.0 47.1 15.2 427.9 69.3 98.3 11.6 159.9 9.1 49.7 15.8 473.1 80.8 107.3 11.7 166.1 9.3 52.3 16.4 520.7 91.7 (注)所得税と社会保障負担は 1-12 月分、住民税については6月-翌年5月分。年収は給与収入のみで、臨給は 1.5 か月分を 7・ 12 月に支給。 ながはま としひろ(主任エコノミスト) 第一生命経済研レポート 2007.2