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ディーゼル車両の燃費性能を 見える化する

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ディーゼル車両の燃費性能を 見える化する
特集 地域鉄道を支える
ディーゼル車両の燃費性能を
見える化する
鉄道一般
軌道
構造物
防災
地球温暖化や大気汚染など環境を取り巻く情勢は厳しさを増しており,さまざまな法
電力
律に基づいて積極的な環境保全が推進されています。例えば,鉄道事業者には「省エ
信号通信
情報
ネ法」の輸送に係る措置によって,省エネへの取り組みが求められています。加えて,
中東諸国の不安定な社会情勢などを背景とした原油価格の高騰もあり,これまでにも
材料
増して省エネへの取り組み意識が高まっています。そこで,鉄道総研では,ディーゼ
ル車両の燃料消費量を正確に把握する手法の開発に取り組んできました。ここでは,
燃料消費量を運転台のモニターに表示する「燃費モニター装置」及び主な車両データ
人間科学
から燃料消費量を計算する「走行シミュレーター」の概要などを紹介します。
浮上式鉄道
はじめに
面に表示する「燃費モニター装置」を
村上 浩一
自動車分野では「省エネ法」
(☞参照)
開発しました。これによって,走行中
車両制御技術研究部
動力システム研究室
室長
により自動車の燃費基準規制 1)が,ま
の燃料消費量をリアルタイムで知るこ
た,
「大気汚染防止法」により排ガス規
とができます。また,基準運転時分の
制 2)が導入され,それぞれの規制値が
策定などに用いられる運転曲線作成ソ
逐次強化されています。一方,鉄道分
フトをベースとして,車両の引張力や
野では,自動車のような燃費基準規制
エンジン単体の燃費性能などのデータ
Koichi Murakami
[専門分野]エンジン・
変速 機 構 造, 空 転 再 粘
着制御
や排ガス規制は適用されていませんが, から燃料消費量や排ガス排出量を計算
「省エネ法」により特定輸送事業者(☞
する走行シミュレーターを開発しまし
参照)には「輸送に伴うエネルギー使
た。これによって,省エネ車両の導入
用量及び CO2 排出量の定期報告」のほ
による燃料消費量の削減効果などを定
か,
「効率的な車両運用の実施」や「低
量的に試算することが可能となります。
燃費車両の導入促進」など,省エネへ
これらのツールは,ディーゼル車両を
の取り組みが求められています。
保有する地域鉄道の事業者にも役立つ
このような取り組みを進める上で,
ものと考えられます。
ディーゼル車両の走行に伴う燃料消費
量,つまり車両の燃費性能を正確に把
現状の燃料消費量の把握手段
握することが,より重要となってきま
一般的にディーゼル車両の燃料消費
した。そこで,鉄道総研では,車両や
量を把握するには,
「運用の合間に行
エンジンの制御情報などを用いて燃料
われる燃料タンクへの給油の記録デー
消費量を推定し,運転台のモニター画
タを利用」や「燃料配管への流量計の
☞ 省エネ法
正しい名称は「エネルギーの使用の合
理化に関する法律」で,2006 年 4 月
の改正で特定輸送事業者に対し,輸送
に係る措置が創設され,省エネの判断
基準が義務付けられました。
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Vol.70 No.12 2013.12
仮設による測定」などが考えられます。
☞ 特定輸送事業者
旅客及び貨物の車両を 300 両以上保
有する鉄道事業者を特定輸送事業者と
呼びます。
エンジン側
インジェクター
車体側
高温・高圧・気泡
※燃料処理が必要
燃料タンク
コモンレール
流量計(熱交換器類内蔵)
気泡除去器 熱交換器
燃料フィルター
サプライポンプ
流量計 送油ポンプ
燃料フィルター
仮設箇所
計測用燃料ホース
図 1 流量計を用いた測定例
前者の場合には精度面での課題が大き
く,後者の場合には計測技術や仮設作
業に多くの労力を要するといった問題
ノッチ指令
主幹
制御器
燃制ノッチ
変速機
制御装置
エンジン回転数 Ne
エンジン
制御装置
ラック位置 R
エンジン
噴射ポンプ
があります。
れぞれ設置して同時に測定する「入り
と戻りの流量測定法」と燃料の戻りラ
インを供給ラインに接続し,供給ライ
ノッチ指令 5N
1N
エンジン回転数 Ne[rpm]
【ラック位置マップ】
ラック位置 R[mm]
料の供給及び戻りラインに流量計をそ
【燃費性能】
燃料消費量 Q[L/h]
消費率試験方法で規定されており,燃
簡易法2
ノッチ指令 5N
1N
エンジン回転数 Ne[rpm]
【噴射量特性】
噴射量 q[mm3/st]
簡易法1
燃料消費量の測定は,自動車の燃料
5N
1N
2000rpm
1200rpm
ラック位置 R[mm]
ンに設置した一つの流量計で測定する
「直接消費流量測定法」の 2 種類が定め
図 2 燃料消費量の簡易計算手法
られています。この内,直接消費流量
測定法を適用して,流量計を車両に仮
列型噴射ポンプを搭載したエンジンを
たりの燃料消費量を決定し,その時の
設した測定例を図 1 に示します。特に, 対象とする簡易計算手法の概念を図 2
運転時間から燃料消費量を計算します。
最近導入が拡大しているコモンレール
に示します。
一方,簡易法 2 は,エンジンベンチ
式エンジンの場合,インジェクターな
簡易法 1 は,走行中のノッチ指令や
で取得したエンジン単体の燃費性能及
どから戻る燃料は高温・高圧で,かつ
エンジン回転数などの情報とエンジン
び列型噴射ポンプのラック位置の関係
気泡を含んでいるため,熱交換器や気
単体の燃費性能データを用いて,最も
から求めた噴射量特性(☞参照)を用
泡除去器などを設置し,これらへの適
簡易に燃料消費量を計算する手法です。 いて,より正確に燃料消費量を計算す
切な処理を図る必要があります。
図 2 中の燃費性能に示すように,エ
る手法です。つまり,簡易法 2 は,走
ンジンの運転点(負荷点とも呼ぶ)は,
行中のラック位置から噴射量を決定し,
ノッチとエンジン回転数の位置で表わ
この噴射量から単位時間当たりの燃料
燃料消費量の簡易計算手法
走行中の車両情報やエンジン制御情
され,この運転点における単位時間当
報及びエンジンベンチで取得したエン
たりの燃料消費量が決まります。この
ジンの燃費性能などを示すデータを用
エンジン単体の燃費性能には,エンジ
いて,燃料消費量を簡易に計算する手
ンベンチ試験などで測定したデータを
法について検討を進め,2 種類の手法
使用します。つまり,簡易法 1 は,走
(簡易法 1,簡易法 2)を考案しました。
行中のエンジン運転点から単位時間当
☞ 噴射量特性
エンジンの吸入,圧縮,燃焼及び排気
の一行程で一つのシリンダーへ噴射さ
れる燃料を表わし,単位は mm3/st
で示されます。
なお,st はストロークの意味です。
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燃費計測
※ボタン操作
速度:100km/h キロ程:1234km 12年12月 12 12:12:12
リアルタイム 燃費モニタ
表示
モード
燃費計測
燃料(瞬時)
:60.0L/h
力行ノッチ:5N
機関回転数:2000rpm
速度[km/h] ノッチ
100
走行燃費:1.62km/L
停止
速度
燃料消費量(積算)[L]
50
80
40
60
30
燃料消費量
20
0
グラフ表示
開始
走行距離:1234.0km リセット
40
モニター装置
燃料(積算)
:16.2L
0
1
燃費マップ
設定
2
3
4
5
6
7
時間[min]
スクロール
スケール
20
10
0
距離軸
戻る
メイン
メニュー
ノッチ
速度
(km/h)
燃料消費量
(L/h)
図 3 燃費モニター装置の表示画面
100
−計算値 −実測値
0
100
0
5N
切N
00:45:00
00:46:00
00:47:00
00:48:00
00:49:00
時刻
図 4 燃料消費量の比較結果例
消費量を求め,その時の運転時間から
しました。この燃費モニター装置の表
次に,走行試験により燃費モニター
燃料消費量を計算します。このような
示画面を図 3 に示します。
装置の動作検証を行った結果例を図 4
簡易計算手法を用いて,流量計の仮設
モニター装置の画面左上部には,単
に示します。図 4 中の実測値は前述の
などによる大掛かりな測定をせずに,
位時間当たりの燃料消費量に相当する
流量計を用いて測定した燃料消費量と
ディーゼル車両の燃費性能を把握でき
燃料(瞬時)や力行ノッチなどをリア
車両のノッチ及び速度の情報を示しま
ることが期待されます。
ルタイムで表示します。また,画面右
す。また,計算値は燃費モニター装置
上部にある燃費計測の[開始]ボタン
で計算した燃料消費量を示します。燃
燃費モニター装置の開発
考案した燃料消費量の簡易計算手法
の操作により燃料消費量の計算を始め, 料消費量の計算値と実測値は,変速機
[停止]ボタンの操作までの間の燃料
のクラッチ切り換え時など,ノッチ指
の内,簡易法 1 を運転台のモニター装
消費量や走行燃費を計算・表示します。 令とは異なる値で制御される領域では
置(列車情報制御表示装置)に適用し,
さらに,横軸を時間軸,又は距離軸と
若干相違が見られるものの概ね一致し
モニター画面に燃料消費量などを表
して燃料消費量,ノッチ及び速度を時
ており,その差は 3%前後であること
示・記録する燃費モニター装置を開発
系列でグラフ表示します。
から,簡易計算手法としての有効性を
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運転曲線計算機能
【計算条件設定】
エンジン負荷データ
エンジン回転数
(rpm)
2000
瞬時燃料消費量
(L/h)
200
CO2 排出量
(kg/h)
0
10
距離程 (km)
5
0
グラフ作成
ランカーブデータ
5N
4N
1000
2000
エンジン回転数(rpm)
DMF15HSA
速度 (km/h)
0
1000
2000
エンジン回転数(rpm)
燃料消費量等
の算出
50
5N
4N
DMF15HSA
100
運転曲線
100
0
100
速度 (km/h)
エンジン性能データ
各瞬時値の
決定
運転曲線計算
0
5N
キハ40
エンジン運転点
の決定
・車両形式
・両数
・乗車率
・走行線区
0
と走行時の速度とエンジン回転数の関
エネルギー計算機能
係を示したエンジン負荷データを用い
てエンジンの運転点を求めます。次に,
この運転点と単位時間当たりの燃料消
費量や CO2 排出量などの性能を示し
たエンジン性能データを用いて,各瞬
時値を求め,その時の運転時間から燃
料消費量や排ガス排出量を計算します。
なお,エンジン負荷データには,エン
ジンや変速機などの諸元から求めた値
を,エンジン性能データには,エンジ
ンベンチ試験で測定した値を用います。
図 5 走行シミュレーターの概念
走行シミュレーターによる計算結果
の表示例を図 6 に示します。運転曲線
図上に燃料消費量(瞬時及び積算)の
ノッチ
ほか,ノッチやエンジン回転数を表示
します。
機関回転数
このような機能を持つ走行シミュ
レーターにより,パソコン上で実路線の
燃料消費量(瞬時)
速度曲線
燃料消費量(積算)
走行の模擬と走行に伴う燃料消費量な
どを定量的に試算することが可能です。
おわりに
ディーゼル車両の燃費性能を把握す
る手段として,車両やエンジンの制御
情報を利用して燃料消費量を簡易に推
定する手法とその展開例及び運転曲線
距離
作成ソフトをベースとして燃料消費量
図 6 計算結果の表示例
などを計算する走行シミュレーターを
紹介しました。省エネへの取り組みが
確認しました。
ます。
進められる中,これらを支援できるよ
提案した燃費モニター装置により運
走行シミュレーターは基準運転時分
うな研究・開発を今後も進めたいと考
転台で燃料消費量を容易に確認できる
の策定などに用いられる運転曲線作成
えています。
ほか,記録データで詳細な分析を行う
ソフトをベースとしており,図 5 に示
ことが可能となり,特に省エネ運転の
す運転曲線計算機能部が,それに該当
検討や効果検証などの面で役立つもの
します。この計算機能部では,車両の
と期待されます。
主要な諸元や引張力のデータ及び曲線
や勾配などの線路データを用いて速度
走行シミュレーターの開発
曲線と時間曲線,いわゆるランカー
実路線の走行を模擬し,この時の燃
ブ(運転曲線図とも呼びます)を計算・
料消費量や排ガス排出量を計算する走
描画します。
行シミュレーターを開発しました。走
一方,エネルギー計算機能部では,
行シミュレーターの概念を図 5 に示し
ランカーブデータの速度やノッチなど
文 献
1)前橋心一,芳賀一郎,村上浩一,中
村英男:輸送分野の燃費基準の動向
と省エネへの取組み,鉄道総研報告,
Vol. 22,No. 9,pp. 54,2008
2)村上浩一,芳賀一郎,中村英男:国
内の排ガス規制動向,鉄道総研報告,
Vol. 19,No. 5,pp. 51 - 55,2005
Vol.70 No.12 2013.12
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