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中国ステンレス業界

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中国ステンレス業界
【香港・上海駐在報告】
HKIR.2013-63
2014 年 1 月
中国ステンレス業界
【要約】
 中国は世界最大のステンレス生産・消費国。2006 年ごろからの急激な成
長により、西欧や日本などを凌駕する地位を獲得。
 中国が純輸出国となった 2010 年以降、ステンレスの国際需給は悪化、国
際市況は下落トレンドを辿っている。
 ステンレス価格への影響が大きいニッケルは、鉱石産出国での製錬能力拡
大や中国でのニッケル銑鉄の生産増により、供給過剰に陥っている。
 牽引役である中国のステンレス市場は成熟に向かうため、世界のステンレ
ス市場の成長は需給ともに鈍化する見込み。生産能力増が需要増を下回っ
て推移することにより、供給過剰は縮小に向かうと予想される。
 国内外でニッケルの供給能力は拡大する一方、需要が伸び悩むため、ニ
ッケルは当面供給過剰が続く。ただし、中長期的には、生産能力の増加
が小幅に留まるとみられることから、需給バランスの改善が見込まれる。
 ステンレス価格は、需給環境の改善により底打ちする見込みであるが、
改善幅は限定的とみられ、2006~2007 年頃の高値水準の回復は期待薄。
 中国はニッケル価格高騰に対応して、低品位ニッケル鉱を用いたニッケル
銑鉄の生産を拡大させた。低価格原料の存在により、中国のステンレスメ
ーカーの価格競争力は高く、他国比やや高い利益率につながっている。
 しかし、足元の中国国内におけるステンレスやニッケル銑鉄の供給過剰
や、ニッケル国際市況の低迷を考慮すれば、今後は国際的な水準に収斂
して行く可能性が高いと考えられる。
1
目
1.
2.
3.
次
中国ステンレス業界 ..........................................................................................................................................3
(1)
市場規模 ................................................................................................................................................3
(2)
業界構造 ................................................................................................................................................5
(3)
用途別の需要構造 ................................................................................................................................6
(4)
ステンレスの輸出入状況 ....................................................................................................................7
足元の市場動向 ..................................................................................................................................................8
(1)
需給動向 ................................................................................................................................................8
(2)
ステンレス市況 ....................................................................................................................................9
(3)
ステンレスのマテリアルフロー ......................................................................................................10
(4)
価格競争力 ..........................................................................................................................................11
今後の見通し ....................................................................................................................................................12
(1)
需給見通し ..........................................................................................................................................12
(2)
ニッケルの需給見通し ......................................................................................................................15
(3)
市況見通し ..........................................................................................................................................15
4.
中国ステンレスメーカーの業績 ....................................................................................................................16
5.
結論....................................................................................................................................................................17
2
1. 中国ステンレス業界
(1) 市場規模
◇ 中国は世界最大のステンレス生産・消費国
 中国のステンレス市場は、経済の急成長を背景に 2006 年ごろから急速に拡大し、生
産・消費量で西欧やアジア(除く中国)を抜いて世界一となっている(図表 1)。
 ステンレスの見掛消費量は、リーマンショック以降、4 兆元の大型景気対策による建
設ラッシュに加え、販売支援策で拡大した家電や自動車に対する需要が下支えとなり、
年平均伸び率は 2004 年~2008 年の 9.6%から、2008~2012 年には 19.9%に加速(図
表 2)。
図表1:中国及び各地域におけるステンレス生産量・見掛消費量の推移
2002
(千トン)
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
20,690 22,840 24,570 24,546 28,707 28,147 26,219 24,905 31,094 33,621 35,363
生産量
8,628
9,043
9,422
8,795 10,000
8,669
8,272
6,449
7,878
7,883
7,829
西欧・アフリカ
279
322
318
310
376
364
333
237
340
391
359
中・東欧
2,735
2,830
2,933
2,688
2,951
2,604
2,315
1,942
2,609
2,486
2,368
米州
1,140
1,780
2,362
3,160
5,299
7,206
6,943
8,805 11,256 14,091 16,087
中国
8,865
9,535
9,593 10,081
9,304
8,356
7,472
9,011
8,770
8,720
アジア(除く中国) 7,908
20,690 22,840 24,570 24,546 28,707 28,147 26,219 24,905 31,094 33,621 35,363
見掛消費量
6,818
7,013
7,783
7,021
8,394
7,369
7,109
5,220
6,972
6,953
6,698
西欧・アフリカ
453
467
383
378
899
871
897
672
869
1,087
1,047
中・東欧
3,479
3,282
3,805
3,518
4,079
3,578
3,328
2,457
3,567
3,624
3,686
米州
3,475
4,451
4,941
5,833
6,821
7,506
7,139
9,046 10,796 12,751 14,765
中国
7,306
7,508
7,495
8,176
8,448
7,366
7,211
8,530
8,812
8,853
アジア(除く中国) 6,158
307
321
151
301
338
376
380
299
361
394
315
その他
2002-2012
年平均伸び率
5.5%
-1.0%
2.5%
-1.4%
30.3%
1.0%
5.5%
-0.2%
8.7%
0.6%
15.6%
3.7%
0.3%
(資料)国際ステンレス鋼フォーラム(ISSF)、中国金属材料流通協会ステンレス分会(CSSC)資料をもとに
三菱東京 UFJ 銀行企業調査部作成
図表2:中国におけるステンレス生産量・消費量・輸出入量の推移
生産量
輸出量
22,000 (千トン)
輸入量
見掛消費量
17,000
19.9%
12,000
9.6%
7,000
2,000
-3,000
'04
'05
'06
'07
'08
'09
'10
(資料)CEIC、新日鐵住金ステンレス資料をもとに三菱東京 UFJ 銀行企業調査部作成
3
'11
'12
 こうした需要の急増を受け、中国は積極的に生産能力を増強。その結果、2006 年に
は世界一のステンレス生産国となり、2012 年の生産量は 2006 年の約 3 倍の 1.6 億ト
ンに達し、世界全体の 45%を占めている。なお、中国以外の主要生産国の生産量を
みると、インドを除き減少基調を辿っている(図表 3)。
図表3:世界主要ステンレス生産国における生産量の推移
(千トン)
中国
日本
インド
韓国
米国
イタリア
ドイツ
ベルギー
台湾
フィンランド
上位10カ国合計
世界合計
2006
5,299
4,073
2,006
2,278
2,460
1,832
1,724
1,522
1,724
1,303
24,221
28,706
2010
2011
11,256
3,427
2,022
2,048
2,201
1,583
1,509
1,306
1,514
998
27,864
31,090
14,091
3,247
2,163
2,157
2,074
1,602
1,502
1,241
1,203
1,003
30,283
33,621
(資料)ISSF データをもとに三菱東京 UFJ 銀行企業調査部作成
4
2012
16,087
3,166
2,279
2,167
1,977
1,696
1,313
1,241
1,109
1,078
32,113
35,363
シェア
45%
9%
6%
6%
6%
5%
4%
4%
3%
3%
91%
100%
2006-2012
年平均伸び率
20%
-4%
2%
-1%
-4%
-1%
-4%
-3%
-7%
-3%
5%
4%
(2) 業界構造
◇ 上位集中度の低い業界構造となっている
 世界市場における 2012 年の上位 10 社の市場シェアは 66%となっているものの(図
表 4)、地域別でみると、西欧では合従連衡を経て現在の主要 3 社へ集約しており、
韓国や台湾においても、大手 1 社が市場シェアの 6 割以上を占めるなど、上位集中
度の高い業界構造となっている(図表 5、次頁図表 6)。
 一方、中国では、中国金属材料流通協会によれば、依然として 200 社超のステンレ
スメーカーが参入し、製造技術面で劣り、老朽化した小規模の生産設備の有する中
小事業者が多く存在しているのが実情であり、上位集中度は低い。
 かかる状況下、中国政府は、老朽化した製造設備を抱える小規模事業者の再編・淘
汰を促進する政策を打ち出しており、今後、大手企業への集約が進展するとみられ
る。
図表4:世界・中国ステンレスメーカーランキング(2012 年)
世界
生産量シェア
3.1
9%
太鋼ステンレス
3.0
8%
POSCO・張家港POSCOステンレス
2.7
8%
新オウトクンプ
2.7
7%
宝鋼集団(上鋼五廠、宝鋼徳盛含む)
2.2
6%
アセリノックス
1.9
5%
アペラム
1.8
5%
燁聯鋼鉄・聯衆(広州)不銹鋼
1.6
4%
青山控股
AST
1.2
3%
1.1
3%
ジンダルステンレス
23.3 66%
上位10社合計
35.4 100%
世界合計
(百万トン、%)
中国
生産量シェア
3.1 18%
太鋼ステンレス
2.7 15%
宝鋼集団(上鋼五廠、宝鋼徳盛含む)
1.6
9%
青山控股
1.5
8%
聯衆(広州)ステンレス
1.1
6%
張家港POSCOステンレス
1.0
6%
酒泉鋼鉄
0.7
4%
四川西南ステンレス
0.6
3%
北海誠徳ニッケル業
0.6
3%
河南青山金匯ステンレス
0.6
3%
呉航不銹鋼
13.3 76%
上位10社合計
17.6 100%
中国合計
(資料)ISSF、中国金属材料流通協会ステンレス分会、各種資料より三菱東京 UFJ 銀行企業調査部作成
図表5:各地域におけるステンレス業界集中度
2007年
100%
80%
60%
40%
20%
0%
韓国
(上位1社)
欧州
(上位4社)
2012年
台湾
(上位1社)
米国
(上位2社)
中国
(上位3社)
(資料)ISSF、中国金属材料流通協会ステンレス分会、各社資料より三菱東京 UFJ 銀行企業調査部作成
5
図表6:欧州ステンレス業界における再編動向
1990
1992
1994
1996
1998
2000
2012
ALZ
Ugine
J&L Specialty Steel
Fabrique de Fer du Charleroi
Acesita
アペラム
Outokumpu
Avesta
British Steel Stainless
Thyssen
Krupp
AST
新オウトクンプ
Acerinox
North American Stainless
Columbus
アセリノックス
(資料)ISSF、Hatch Beddows 資料より三菱東京 UFJ 銀行企業調査部作成
(3) 用途別の需要構造
◇ 中国のステンレス生産量は国内消費の他、海外市場動向にも左右される
 ステンレスの用途別の需要構造をみると、中国では「厨房・家電」と「建設」の両
需要分野の全体に占める割合が、欧米やアジア(除く中国)よりも高く、アフリカ
諸国などを含むその他地域と同水準となっている(図表 7)。
 これは、中国におけるステンレスの用途が発展段階にあるためで、今後、消費者の
収入増や産業構造の高度化に伴い、輸送用機器や産業用機器、石油化学といった分
野での需要拡大が見込まれる。
 なお、輸出依存度の高い厨房・家電分野がステンレス消費量の 4 割超を占めている
ことから、中国におけるステンレス生産量は、国内市場のほか、海外市場の影響を
受けやすい構造といえよう。
図表7:地域別にみた用途別の需要構造
100%
その他
90%
80%
輸送用機器向け
70%
60%
産業用機器向け
50%
40%
石油化学向け
30%
建設向け
20%
10%
厨房・家電向け
0%
世界全体
中国
(注)
アジア
(除く中国)
米州
欧州
その他
(注)「厨房・家電向け」のステンレス需要は、国内市場向け製品のほか、海外市場向けの製品も含む。
(資料)SMR、Aperam 資料より三菱東京 UFJ 銀行企業調査部作成
6
(4) ステンレスの輸出入状況
◇ 中国の輸出拡大によりアジアは純輸出地域へ
 世界のステンレス取引の構造をみると、西欧とアフリカは引き続き純輸出地域である
ものの、アジアの輸出量が近年大幅に拡大(図表 8)。
 これは、中国において需要の急増を受けて、積極的に生産能力が増強されたことが大
きい。中国は、かつては不足分を輸入していたが、2010 年には純輸出国に転じ、足元
ではアジア各国のほか、北米や欧州にも輸出。なお、ニッケルなど原料について輸入
に依存している状況は不変。
図表8:地域別ステンレス純輸出量の推移
2,000
1,500
1,000
500
0
-500
-1,000
-1,500
-2,000
-2,500
-3,000
(千トン)
2004
2005
純輸出
2006
2007
2008
2009
純輸入
2010
2011
NAFTA
中南米
西欧
東欧
中東
アフリカ
アジア
うち中国
中国
(資料)ISSF、中国金属材料流通協会ステンレス分会データをもとに三菱東京 UFJ 銀行企業調査部作成
7
2012
2. 足元の市場動向
(1) 需給動向
◇足元改善がみられるものの、供給過剰が続く
 2002 年から 2012 年までの世界のステンレス需要は、大半の地域で消費量が緩やかな
伸びにとどまるなか、需要の急増する中国が牽引し、年平均 5.5%の伸び率で成長(前
掲図表 1)。
 一方、供給量は、中国が積極的に生産能力を増強したため(図表 9)、需要を上回る
ペースで拡大。世界的に供給過剰な状態が続いている。
 こうした状況下、世界大手各社は生産能力の増強を抑制するとともに、生産調整に
取り組んだことから、近年では生産設備の稼働率が緩やかに回復しているものの、
稼働率は依然として 8 割程度に留まっており、供給過剰は解消されていない(図表
10)。
図表9:世界における生産能力増加量
12,000
(千トン)
欧州
中国
その他
10,000
8,000
6,000
4,000
2,000
0
2000-2005
2005-2010
(資料)Aperam データをもとに三菱東京 UFJ 銀行企業調査部作成
図表10:世界における過剰生産能力及び稼働率の推移
15,000
(千トン)
生産能力過剰分
稼働率
100%
12,000
80%
9,000
60%
6,000
40%
3,000
20%
0
0%
'03
'04
'05
'06
'07
'08
(資料)ISSF データをもとに三菱東京 UFJ 銀行企業調査部作成
8
'09
'10
'11
'12
図表11:ステンレス生産のコスト構造
(2) ステンレス市況
◇ ステンレスの生産コストの大半はニッケル
 中国における金属専門の調査会社(安泰科)
ニッケル含有原材料
87.2%
が纏めたステンレス生産のコスト構造をみ
ると、ニッケルが全体に占める割合は 85%
ニッケル含有原材料
その他の合金: 2.0%
燃料・電力費: 1.2%
その他: 3.4%
を超えている(図表 11)。このため、ステ
ンレス価格はニッケル価格の変動に影響を
受けやすい構造となっている。
フェロクロム: 3.7%
人件費: 1.4%
補助材料: 1.1%
(資料)安泰科資料より三菱東京 UFJ 銀行企業調査部作成
◇ ステンレス価格はニッケル価格と連動して、足元下落基調
 2007 年に大きく高騰したニッケル市況は、2011 年以降、中国を除いて世界的にステ
ンレス需要が低迷していることで LME 在庫が積み上がり、軟調に推移しており(図
表 12、13)、ステンレス市況も、つれて下落基調を辿っている(図表 14、15)。
図表12:ニッケル在庫・価格の推移
(ユーロ/トン)
40,000
在庫量(右軸)
LMEニッケル現物価格(左軸)
図表13:世界ニッケル需給状況の推移
(トン)
200,000
30,000
150,000
20,000
100,000
生産量
余剰分
(千トン)
2,000
消費量
1,500
1,000
500
10,000
50,000
0
-500
0
0
'04 '05 '06 '07 '08 '09 '10 '11 '12 '13 (年)
(資料)Bloomberg データより三菱東京 UFJ 銀行企業調査部作成
図表14:ニッケルと欧州ステンレス価格の推移
'06
'07
'08
'09
'10
'11
'12
(資料)INSG、ISSF データより三菱東京 UFJ 銀行企業
調査部作成
図表15:ニッケルと中国ステンレス価格の推移
(ユーロ/トン)
(ユーロ/トン)
50,000
LMEニッケル現物価格(左軸) (ユーロ/トン)
EU取引価格(右軸)
アロイサーチャージ(右軸)
5,000
40,000
4,000
40,000
LMEニッケル現物価格(左軸) 5,000
中国無錫(右軸)
4,000
30,000
3,000
30,000
3,000
20,000
2,000
20,000
2,000
10,000
1,000
10,000
1,000
(ユーロ/トン)
0
50,000
0
0
0
'09
'04 '05 '06 '07 '08 '09 '10 '11 '12 '13
(資料)Bloomberg データより三菱東京 UFJ 銀行企業調査部
作成
'10
'11
'12
'13
(資料)Bloomberg データより三菱東京 UFJ 銀行
企業調査部作成
9
(3) ステンレスのマテリアルフロー
◇ 中国は、原料の大半を輸入に依存しているが、ニッケルは供給過剰

図表16:中国ニッケル鉱石自給率の推移
中国はニッケルやクロム、マンガンといっ
なく、原料の輸入依存度が高い(図表 16)。

純輸入量
100%
生産量
自給率(右軸)
80%
(千トン
1,000
たステンレス生産に必要な金属資源が少
800
しかしながら、中国では製錬能力の拡張が
続くなか、近年、低品位ニッケル鉱を用い
600
60%
たニッケル銑鉄の生産量も拡大したことに
400
40%
加えて、地金輸入量も上昇しているため、
200
20%
ニッケルの供給は過剰となっている(図表
0
17)。
0%
'00
'02
'04
'06
'08
'10
'12
(資料)CEIC データより三菱東京 UFJ 銀行企業調査部作成
図表17:中国におけるニッケルのマテリアルフロー
( 単位:千トン)
ニッケル鉱石
ニッケル
国内生産
国内生産
国内消費
90
446
600
輸入
輸入
輸出
466
278
-33
中間製品輸出入
余剰分
320*
91 / 411#
ステンレス
電気メッキ
合金鋼・機械
その他 480
45
45
30
*: 金属量ではなく、みかけ量
#: 中間製品におけるみかけ量
(資料)安泰科、石油天然ガス・金属鉱物資源機構資料より三菱東京 UFJ 銀行企業調査部作成
10
(4) 価格競争力
◇ 中国のステンレス鋼の価格競争力は欧州を上回っている
 中国のステンレス価格は、2009 年以降、大半の時期において欧州の市況を下回って
いる。2010 年に中国がステンレスの純輸出国となって以来、中国のステンレスメー
カーの採算価格は欧州メーカーを下回っており、欧州メーカーは、中国メーカーに合
わせて価格の引き下げを余儀なくされているのが実情。(図表 18)。
 ステンレス生産に使用されるニッケル原料としては、ニッケル地金、フェロニッケル、
ニッケル銑鉄などが挙げられる。このうち、低品位ニッケル鉱を用いたニッケル銑鉄
は原料としては最も安価(図表 19)。中国では、価格の高騰したニッケルの代替原
料として、低品位ニッケル鉱を用いたニッケル銑鉄の生産量を増加させることで、価
格競争力を高めてきた。
図表18:中国と欧州のステンレス価格推移
(ユーロ/トン)
3,500
中国無錫
EU取引価格
3,000
2,500
2,000
1,500
'09
'10
'11
'12
'13
(資料)Bloomberg データより三菱東京 UFJ 銀行企業調査部にて作成
図表19:種類別ニッケル原料価格の比較(純ニッケルベース)
30,000
(米ドル/トン)
x%:ニッケル含有率
20,000
10,000
0
輸入地金
輸入地金
国産地金
輸入
国内
ニッケル銑鉄
NPI 10%
輸入フェロニッケル
フェロニッケル 304スクラップ
10%
(資料)青山鉱業資料より三菱東京 UFJ 銀行企業調査部作成
11
ニッケル銑鉄
5%
ニッケル銑鉄
NPI
1.7%
1.7%
3. 今後の見通し
(1) 需給見通し
◇ 世界需要の伸び率は鈍化する見込み
 ステンレスの世界需要は、中国が牽引する形で拡大し続けるとみられるものの、中国
のステンレス市場は成熟に向かうことから、伸び率は鈍化する見通し(図表 20)。
 中国以外の地域では、米州及び EMEA のステンレス需要は景気回復に伴い緩やかに
成長する見通し。特に、米州では、自動車や建築などの需要部門での実需増が後押し
となり、安定成長を遂げよう。EMEA についても、欧州においての景気が緩やかなが
らも持ち直し局面にあることから需要回復が見込まれる(図表 21)。
図表20:世界ステンレス消費量の見通し
EMEA
40,000 (千トン)
35,000
30,000
25,000
20,000
15,000
10,000
5,000
0
2010
2011
2012
米州
アジアパシフィック
率 4.0%
年平均伸び
2013~ 2017
2013予
2014予
2015予
2016予
2017予
(資料)SMR、Outokumpu、国際ニッケル研究会データより三菱東京 UFJ 銀行企業調査部作成
図表21:地域別ステンレス消費量の伸び率見通し
12%
欧州・アフリカ
米州
アジア
中国
世界全体
10%
8%
6%
4%
2%
0%
-2%
2012
2013予
2014予
(資料)SMR、Outokumpu、国際ニッケル研究会データより三菱東京 UFJ 銀行企業調査部作成
12
◇ 中国のステンレス需要は、経済成長と需要構造の変化により増加基調を辿ろう

中国のステンレス需要は、成熟に向かうことからこれまでのような大きな伸びは見
込めないものの、経済成長に伴う 1 人あたり消費量の増加や用途分野の拡大などが
下支えとなり、引き続き拡大基調を辿る見通し。実際、中国における 1 人あたりの
ステンレス消費量は日本や EU などと比べても依然として低い水準にあり、今後も
需要拡大の余地があるといえよう(図表 22)。

また、製品別にみると、需要の牽引役が消費者向け製品から工業向け製品にシフト
するとみられ、200 番系に対する需要は減少する一方、400 番系は石油・ガスや交通
運輸向けなどの需要増に支えられ、需要は一段と拡大しよう(図表 23)。
図表22:国別人口当たりステンレス見掛消費量(注)
20 ( Kg)
先進国( 2012年)
中国
見通し
15
10
5
0
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
2013
2014
日
EU
EU
(注)2013~2014 年は図表 22 のステンレス消費量伸び率と国連による人口見通しで計算した数値。
EU の数値には、トルコを含む。
(出所)ISSF、UN、中国金属材料流通協会ステンレス分会、日本鉄鋼連盟、各種資料より三菱東京 UFJ 銀行
企業調査部作成
図表23:中国における製品別ステンレスの消費見通し
種類
主な添加元素
2008
2015予
2020予
200番系
(オーステナイト)
クロム
マンガン
12%
10%
8%
・加工性に優れ低価格だが、ニッケル含有量が少ない
ため耐蝕性に劣る
・厨房用品、建築関連など
300番系
(オーステナイト)
クロム
ニッケル
56%
54%
52%
・耐蝕・耐熱性が高く、幅広く利用されている
・厨房用品、建築関連、鉄道車両部品、石油ガス輸送、
食品、発電設備など
400番系
(フェライト・マルテンサイト)
クロム
28%
33%
35%
・耐蝕・耐熱性に優れ、300番系と比べて多少安価だが
高い技術力が必要
・鉄道車両・産業機器部品、石油ガス輸送設備など
二相系
ニッケル
クロム
5%
・オーステナイトとフェライトの二つの金属組織(二相)
を持ち、耐応力腐食割れ性に優れるうえ、強度も高い
・海水用復水器などの公害防止機器、化学プラント装置
など
1%
3%
特徴・主な用途
(資料)ジンダルステンレス、各種資料より三菱東京 UFJ 銀行企業調査部作成
13
◇ 世界全体の生産量の伸びは鈍化する見通し

中国において生産能力の拡大が減速していることに加え、供給過剰な市場環境を受
けて、欧州メーカーが業界再編などを通じた生産能力削減を進めていることで、今
後の年平均伸び率は 5.2%へ鈍化しよう(図表 24、25)。
図表24:世界におけるステンレス生産能力増加の見通し
10,000 (千トン)
8,000
6,000
能力
欧州
中国
その他
増強
のピ
ッ
4,000
チ
が鈍
化
2,000
0
2000-2005
2005-2010
2010-2015予
(資料)Aperam 資料より三菱東京 UFJ 銀行企業調査部作成
図表25:世界におけるステンレス生産量の見通し
50,000 (千トン)
40,000
30,000
20,000
10,000
0
2010
2011
平均伸び率5.2%
2013~2017年の
2012
2013予
2014予
2015予
2016予
2017予
(資料)ISSF、ResearchInChina 資料より三菱東京 UFJ 銀行企業調査部作成
◇ 需給環境は緩やかながら改善に向かう見通し

需給環境をみると、中国では、今後、ステンレスの需要・供給ともに伸び率が鈍化
するとみられるものの、需要の増加が供給増を若干上回るとみられるため、需給環
境は改善に向かう見通し。世界の需給環境についても、中国市場の動向を反映して、
改善に向かおう(図表 26)。
図表26:世界ステンレス生産量の伸び率見通し
見掛消費量
30%
25%
20%
15%
10%
5%
0%
2010
2011
2012
2013予
(資料)51bxg 資料より三菱東京 UFJ 銀行企業調査部作成
14
2014予
2015予
生産量
2016予
(2) ニッケルの需給見通し
◇ 当面供給過剰が続くものの、中長期的には改善が見込まれる

原料であるニッケルの供給状況をみると、足元積み上がっている在庫に加え、大型
生産設備の稼動による 20 万トンの生産能力増が予定されているため、当面、供給過
剰が続こう。ただし、中長期的には生産能力の増加が小幅に留まるとみられること
から、需給バランスの改善が見込まれる(図表 27)。
図表27:世界におけるニッケル需給バランスの見通し
2,500
(千トン)
生産量
消費量
余剰分
(千トン)
120
2,000
90
1,500
60
1,000
30
0
500
-30
0
2010
2011
2012
2013予
2014予
2015予
2016予
(資料)各種資料より三菱東京 UFJ 銀行企業調査部作成
(3) 市況見通し
◇ 価格は底打ちし、緩やかに回復すると見られるが、高値水準の回復は期待薄

ステンレス市況は、世界的な需給バランスの改善に加えて、主原料のニッケルにつ
いて、インドネシアにおけるニッケル鉱石の輸出制限の影響に加えて、上述の通り
2014 年半ば以降に需給環境の改善から緩やかな上昇が見込まれることから、底打ち
し緩やかな回復基調を辿る見通し(図表 28)。

もっとも、国内外においてステンレスの供給能力が過剰である状況に変わりはない
ことから、改善幅は限定的とみられ、2006~2007 年の高値水準への回復は期待薄。
図表28:ニッケル価格見通し
50,000
(米ドル/トン)
40,000
見通し
30,000
20,000
10,000
0
05/3
07/3
09/3
11/3
13/3
15/3
(年/月)
(資料)Bloomberg、EIU、INSG、LME データより三菱東京 UFJ 銀行企業調査部作成
15
4. 中国ステンレスメーカーの業績
◇ 中国メーカーの利益率は他国メーカー比やや高い

主要企業の業績推移をみると、中国メーカーの利益率は他国の大手メーカーを上回
っている(図表 29)。

これは、前述の通り、中国メーカーが低品位ニッケル鉱を用いたニッケル銑鉄を原
料として利用することでコスト競争力の強化につなげていることに加えて、中国メ
ーカーが近年、商社を介さずユーザーへの直販比率を高めてきたことが大きいとみ
られる。
図表29:中国・世界大手ステンレスメーカー利益率の推移
20% 中国メーカー
2008
2009
2010
2011
世界大手
2012
10%
0%
-10%
-20%
太鋼
ステンレス
宝鋼集団( 注 )
撫順特鋼
Acerinox
Outokumpu
Aperam
(注)宝鋼集団のステンレス事業は、2012 年設立の非連結子会社へ移管されているため、同集団の連結決算に含まれ
ていない。
(資料)各社資料より三菱東京 UFJ 銀行企業調査部作成
◇ 今後は利益率の低下が懸念される

しかしながら、足元の中国国内におけるステンレスやニッケル銑鉄の供給過剰に加え
て、ニッケル地金の国際市況の低迷によりニッケル銑鉄の価格競争力が弱含むとみられ
ることから、中国メーカーの利益率は今後国際的な水準に収斂していく可能性が高いと
考えられる。
16
5. 結論
◇ 中国ステンレス業界の現状

中国のステンレス業界は、技術力や需要分野の面において先進国に遅れを取ってい
たものの、2006 年ごろから生産能力を急速に拡大し、世界最大のステンレス生産国
となり、2010 年には純輸出国に転じている。

その一方、中国製ステンレスの急増を背景に国際市場は需給環境が悪化し、中国が
純輸出国となった 2010 年以降、市況は下落基調を辿っている。

中国は、ステンレスの主原料となるニッケル調達を依然として輸入に依存している
ため、ステンレス価格はニッケル価格との連動性が強いが、ニッケルは、鉱石産出
国での製錬能力拡大や国内でのニッケル銑鉄の生産増により、現状、供給過剰に陥
っている。
◇ 需給見通し

今後の需給動向をみると、牽引役である中国のステンレス市場は成熟に向かうため、
世界のステンレス市場は需要と供給ともに成長率が鈍化する見込み。生産能力増は
続くとみられるが、需要増を下回るため、供給過剰は縮小に向かうと予想される。

国内外でニッケルの供給能力は拡大する一方、需要が伸び悩むため、ニッケルは当
面供給過剰が続く。ただし、中長期的には、生産能力の増加が小幅に留まるとみら
れることから、需給バランスの改善が見込まれよう。

ステンレス価格は、需給環境の改善により底打ちする見込みであるが、改善幅は限
定的とみられ、2006~2007 年頃の高値水準の回復は期待薄。
◇ 中国主要ステンレスメーカーの業績

中国ステンレスメーカーは商社を介さない直販比率を高めてきたほか、低品位ニッ
ケル鉱を用いた低コストのニッケル銑鉄の使用により国際市場においても高いコス
ト競争力を有してきたことから、利益水準は他国メーカーよりやや高い。

しかし、足元の中国国内におけるステンレスやニッケル銑鉄の供給過剰や、ニッケ
ル国際市況の低迷による原料価格差の縮小を考慮すれば、今後は国際的な水準に収
斂して行く可能性が高いと考えられる。
当資料は情報提供のみを目的として作成されたものであり、何らかの行動を勧誘するものではありません。ご利用に関
以 上
しては、すべてお客様御自身でご判断下さいますよう、宜しくお願い申し上げます。当資料は信頼できると思われる情
報に基づいて作成されていますが、三菱東京 UFJ 銀行はその正確性を保証するものではありません。内容は予告なしに
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発行:株式会社 三菱東京 UFJ 銀行 企業調査部(香港)
6/F., AIA Central, 1 Connaught Road Central, Hong Kong
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