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No.168 ダウンロード - 日本ビルヂング経営センター

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No.168 ダウンロード - 日本ビルヂング経営センター
ISHIZUE
168
No.
http://www.bmi.or.jp
夏
2016 Summer
六本木一丁目駅の駅前拠点まちづくり
『六本木三丁目東地区
第一種市街地再開発事業』
(オフィス棟:住友不動産六本木グランドタワー)
新たな街づくりにより、大街区「泉ガーデン」が誕生
理事長就任のご挨拶
社会的要請に応えた
人材育成にさらに注力
一般財団法人
日本ビルヂング経営センター
理事長 櫻井 康好
平成28年6月15日をもちまして、一般財団法人日本
管理が高度化、複雑化しており、さらには安全・安心、
ビルヂング経営センターの理事長に就任いたしました。
環境・省エネ等社会的要請に対応したビルの経営管理
当センターは昭和55年4月に任意団体として設立さ
が求められております。ビル業界においては、これらの
れて以来、今年で36年目を迎えます。その間、ビル業
社会的要請に対応した最新の知識と豊富な経験を有す
界唯一の教育研修機関として、ビル事業にたずさわる
るビル経営管理のスペシャリストの養成が極めて重要で
人材の育成に努めて参りました。
あります。
オフィスビルは企業の知的生産活動を支える「経済
当センターは、ビル経営管理士制度の運営、ビル経
インフラ」として、また、魅力ある都市景観を形成し、
営管理講座及び各種セミナーを開催しておりますが、近
さらには防災機能を有する「都市インフラ」として重要
年は特にWeb講義の導入などIT化に努めております。
な役割を果たしています。そのためビル事業が社会に果
今後もビル業界唯一の教育研修機関として事業の充実
たす役割への期待も大きくなっております。特に企業活
を図ることにより、ビル業界の発展に努めて参りますの
動の国際化、不動産証券化等の進展に伴いビルの経営
で、関係各位にはよろしくお願い申し上げます。
日本ビルヂング経営センター 第 84 回理事会
日本ビル経営管理士会 第 37 回理事会を開催
平成 27年度事業報告・収支決算を承認
一般財団法人日本ビルヂング経営セン
承認した(詳細は第44回評議員会開催報
事会も開催され、平成27年度事業報告、
ターは、5月13日に第84回理事会を開
告を参照)
。
収支決算を承認した。
催し、平成27年度事業報告、収支決算を
同日、日本ビル経営管理士会第37回理
日本ビルヂング経営センター第 44 回評議員会を開催
平成 27年度の事業報告・収支決算を承認、新評議員及び理事を選任
一般財団法人日本ビルヂング経営センターは、6月15日に札幌パークホテルにて第44回評議員会を開催し、平成
27年度事業報告、収支決算を承認し、新評議員及び新理事を選任した。主な内容は次の通り。
数は、平成26年度の受講者数(524名)
2,850名となった。
より40名増の564名となった。また、同
①ビル経営研究セミナー
(1)ビル経営管理士制度の運用・管理
講座で実施する「スクーリング」を、9
ビルの運営管理等の実務に即応した
国土交通大臣登録証明事業の「ビル経
月3日及び4日の2日間、砂防会館(千
テーマ・講師を選定し、毎月1回程度有
営管理士試験」は、平成27年12月13日
代田区平河町)で開催した。
料で開催している。平成27年度は11回
また新たな取組みとして、講座のeラー
開催し、参加者数は延べ701名となった。
ニング化を進めた。
②新春特別ビル経営セミナー
1. 平成 27 年度事業報告の件
(日)に実施した。申込者数及び合格者
数等は別表の通り。
なお、平成28年3月31日現在のビル経
営管理士登録者数は3,737名となっている。
(2)ビル経営管理講座の実施
平成27年度のビル経営管理講座受講者
2
I S H I ZU E
Summer 2016
(3)各種セミナーの開催
1月27日に業界の専門家を招聘して、
ビル事業に関する情報提供や、ビル経
「持続的成長を目指すビル経営-2016年
営管理士の知識向上に資するセミナーを
の日本経済と不動産市場を展望する」を
実施した。セミナーへの参加者は、延べ
テーマに特別セミナーを実施した。参加
ISHIZUE NEWS
退任のご挨拶
藤田 真
(日本ビルヂング経営センター前理事長)
6月に開催されました評議員会をもって理事長を退職
たマーケットが形成されつつあります。折から日本経済
いたしました。
の持続的成長のため都市の国際競争力の強化が求めら
2012年に就任以来4年にわたり、評議員・役員を始
れる中、これらのビルの経営管理に対する課題への真
めセンターを支えて頂いている皆様方には大変お世話
摯な対応が求められています。
になり有難うございました。御礼を申し上げます。
当センターは唯一のPMに関する人材の育成、新た
2011年3月11日の東日本大震災を契機として、大き
な知識提供・普及機関として、ビル経営管理士制度の
く変化する「ビルの経営管理」を感じております。環境
運営管理を中心に講習、各種セミナーの提供、情報の
問題が省電力、省エネそして管理コストと一体化し、耐
提供等を行っておりますが、ビル業界と協力し積極的な
震問題は安心・安全そして危機管理対応へと領域を広
役割を果たされることを期待しております。業界のご発
げ、またこれらに対する制度の変化、技術革新を踏まえ
展、皆様の御活躍を祈念し御挨拶といたします。
者数は152名であった。
たセミナーで、平成27年度は、マーケッ
日本ビル経営管理士会会員に対し、最
③ビル経営セミナー
ト動向、耐震化、省エネ等、実務に即し
新の開発事例、ビル業界のトピックス等
地方ビル協会事務局との連携強化及び
たテーマで、4回開催し、参加者は延べ
業務に資する内容を有するセンター機関
ビル協会員へのサービス向上を目的に、
574名となった。
誌「いしずえ」を4回発行・提供している。
地方ビル協会所在地で無料セミナーを実
⑥ BMI ネットアカデミー(動画配信サ
併せて専用サイトにおいても情報の提供
イト)
施した。平成27年度は10都市で12回開
を行った。また、実務的な「スキルアッ
催、参加者数は延べ940名となった。
地方在住者及びセミナー欠席者等へ研
プセミナー」を開催するとともに、
「ビ
④ CBA セミナー
修の機会を提供するために、動画配信サ
ル経営研究セミナー」への積極的な参加
ビル経営管理士を中心に一般も対象に
イトであるBMIネットアカデミーを実施
を呼びかけた。新たに会員の情報交流を
した実務的なセミナーで、平成27年度は
している。平成27年度の動画配信セミ
目的とした「ネットワーキングイベント」
「環境」をテーマに6回開催し、参加者
ナー数は17セミナーとなった。
(4)日本ビル経営管理士会の運営
は延べ483名となった。
を実施した(参加者数63名)
。
(5)情報提供、広報の充実
⑤ スキルアップセミナー
平成28年3月31日現在の日本ビル経
ビル経営管理士及び日本ビル経営管理
日本ビル経営管理士会会員を対象にし
営管理士会会員数は2,104名である。
士会会員に対する情報提供の充実を行う
ため、ホームページ並びに専用サイトの
更なる充実とIT環境の計画的整備を
(参考)過去5年間のビル経営管理士試験実施状況及び登録者数の推移
年度
申込者数
23 年度
585 名
24 年度
570 名
25 年度
610 名
26 年度
735 名
27 年度
765 名
受験者数
537 名
525 名
570 名
668 名
678 名
合格者数
378 名
364 名
396 名
448 名
461 名
合 格 率
70.4%
69.3%
69.5%
67.1%
68.0%
登録者数
3,403 名
3,332 名
3,451 名
3,592 名
3,737 名
行ってきた。
専用サイトでは、いしずえの電子ブッ
クでの閲覧、前年度の講座テキスト及び
教材テキストの閲覧、改正法の施行日で
の確認を行うことができる他、Eメール
及びホームページにより、随時、業務に
(参考)過去5年間のビル経営管理講座受講者数の推移
有益な情報の提供を行った。
年 度
23 年度
24 年度
25 年度
26 年度
27 年度
受講者数
431 名
413 名
444 名
524 名
564 名
(6)ビル経営管理に関する調査・研究
J-REITの公開データからオフィスビ
ルの管理費用のデータを抽出、分析して
平成 27 年度センター実施セミナー
セミナー名 ビル経営研究 新春特別ビル経営 ビル経営
CBA
ビル経営管理士へ有益なデータを提供す
スキルアップ
回 数
11 回
1回
12 回
6回
4回
参加者
701 名
152 名
940 名
483 名
574 名
る目的の「ビル経営管理データ研究会」
計 2,850 名
を、28年度中の最終報告書とり纏めに向
No.168
IS H IZ U E
3
講座テキストの目次と、当センタービル経
け開催した。
(7)BOMIとの連携
アメリカのビル協会であるBOMA
庭卓司、田村延広、宮田歩、坂井康二の
営管理講座テキストの目次を相互に提供し
5名を平成28年6月15日付で新理事に
た。
選任した。任期は平成29年6月の評議員
会の終結の時までとなる。
(Building Owners & Managers Association)から独立したビル業界の教育機
関 で あ るBOMI(Building Owners &
Managers Institute)との連携を開始し、
2.平成 27 年度収支決算の件
【表2】評議員名簿
【表1】の通り、収支決算が承認された。
氏 名
情報提供に関する守秘義務契約のもとで、
BOMIの 認 定 資 格 で あ るRPA(Real
Property Administrator:不動産管理士)
【表 1】正味財産増減計算書
(平成 27 年 4月 1日から平成 28 年 3月31日まで)
(単位:円)
科 目
合 計
伊藤 義郎
松坂 卓夫
仙台ビルディング協会会長
富山 修一
新潟ビルヂング協会会長
評議員の欠員及び大阪ビルディング協
冨吉 紀夫
埼玉ビルヂング協会会長
会・高橋幸夫氏より辞任の申し出があり
栗原 賢一
千葉ビルヂング協会会長
ました。
経常収益計
141,500,156
明、兵庫ビルヂング協会・森本泰暢の両
経常費用計
124,429,431
当期経常増減額
名を平成28年6月15日付で評議員に選
17,070,725
当期経常外増減額
0
当期一般正味財産増減額
17,070,725
一般正味財産期首残高
239,293,174
一般正味財産期末残高
256,363,899
Ⅱ 指定正味財産増減の部
当期指定正味財産増減額
0
(一社)北海道ビルヂング協会会長
3.評議員選任の件
新たに大阪ビルディング協会・中森朝
Ⅰ 一般正味財産増減の部
H28. 6 . 15 付
役 職
畑中 誠
(一社)東京ビルヂング協会副会長
大西 晴之
(一社)神奈川ビルヂング協会会長
岡谷 篤一
(一社)名古屋ビルヂング協会会長
大松 利幸
岐阜ビルヂング協会会長
山田 岩男
富山ビルヂング協会会長
任した。任期は平成31年6月の評議員会
山口 政廣
金沢ビルヂング協会会長
【表2】参照)
の終結の時までとなる。
(
長谷川 茂
(一社)京都ビルヂング協会会長
中森 朝明※
(一社)大阪ビルディング協会会長
森本 泰暢※
兵庫ビルヂング協会会長
4.理事選任の件
小林 茂樹
奈良ビルディング協会会長
この度、藤田真、副島伸一、玉井克実、
永山 久人
岡山ビルヂング協会会長
椋田 昌夫
中国ビルディング協会会長
指定正味財産期首残高
125,020,000
指定正味財産期末残高
125,020,000
植田俊及び伊達美和子の5名より理事辞
矢野 年紀
四国ビルヂング協会会長
381,383,899
任の申し出があったので、櫻井康好、伊
深堀 慶憲
九州ビルヂング協会会長
Ⅲ 正味財産期末残高
日本ビルヂング経営センター 第 85 回理事会
日本ビル経営管理士会 第 38 回理事会を開催
※新任
役職役員を選任
一般財団法人日本ビルヂング経営セン
として櫻井康好氏を選任した。
【表3】
【表4】
櫻井康好氏を選任した(
、
ターは、6月15日に第85回理事会を開
また同日、日本ビル経営管理士会第38
参照)
。
催し、藤田真氏の辞任に伴い、新理事長
回理事会も開催され、新専務理事として
【表3】役員
(理事・監事)
名簿
種 別
会長
氏 名
髙木 茂
三菱地所㈱ 相談役
※
【表4】日本ビル経営管理士会 理事名簿
種 別
会長
氏 名
髙木 茂
三菱地所㈱ 相談役
※
櫻井 康好
専務理事
櫻井 康好
理事
伴 襄
学識経験者
理事
伴 襄
学識経験者
〃
森 隆
近三商事㈱ 代表取締役社長
〃
森 隆
近三商事㈱ 代表取締役社長
〃
河合 宏
新日鉄興和不動産㈱ 常務取締役
〃
河合 和宏
新日鉄興和不動産㈱ 常務取締役
〃
伊庭 卓司※
住友不動産㈱ ビル事業本部企画管理部長
〃
伊庭 卓司※
〃
※
田村 延広
ダイビル㈱ 東京営業開発部長
〃
※
〃
福居 賢悟
東京建物㈱ 取締役常務執行役員
(一社)日本ビルヂング経営センター 理事長
H28. 6. 15 付
会 社 ・役 職
理事長
(一社)日本ビルヂング経営センター 理事長
住友不動産㈱ ビル事業本部企画管理部長
田村 延広
ダイビル㈱ 東京営業開発部長
福居 賢悟
東京建物㈱ 取締役常務執行役員
〃
宮田 歩
三井不動産㈱ 執行役員ビルディング本部 副本部長法人営業統轄一部長
〃
坂井 康二※
森トラスト㈱ 常務取締役
〃
森本 一彦
(一社)東京ビルヂング協会 常務理事
〃
小川 富由
(一社)
日本ビルヂング協会連合会 常務理事
常務理事
田中 雄次
(一財)
日本ビルヂング経営センター 常務理事
〃
森本 一彦
(一社)
東京ビルヂング協会 常務理事
監事
河村 守康
㈱虎ノ門実業会館 代表取締役社長
常務理事
田中 雄次
(一財)
日本ビルヂング経営センター 常務理事
〃
木村 透
三菱地所㈱ 執行役員ビル業務企画部長
※
※新任
4
H28. 6. 1 5 付
会 社 ・役 職
I S H I ZU E
Summer 2016
※
〃
宮田 歩
〃
坂井 康二※
※新任
三井不動産㈱ 執行役員ビルディング本部 副本部長法人営業統轄一部長
森トラスト㈱ 常務取締役
ISHIZUE NEWS
セミナー開催報告
【千葉】
「共益費原価の算出方法とコストコントロールの実務」
5月 30 日(月)に塚本大千葉ビル会議室で、28 名の参加を得て、
ビル経営研究セミナー
千葉ビル経営セミナーが開催された。株式会社PMアドバイザー
ズの齋藤利雄社長を講師に迎え、共益費原価の算出方法とコスト
第 365 回「共益費原価の算出方法とコストコント
ロールの実務」
コントロールに関する考え方について、お話しを伺った。
4月18 日(月)にコンファレンススクエアエムプラスで、69 名
【神奈川】
の参加を得て開催された。株式会社PMアドバイザーズの齋藤利
「定期建物賃貸借契約」
雄社長を講師に迎え、共益費原価の算出方法とコストコントロー
ルに関する考え方について、お話しを伺った。
第 366 回「だれでもわかる不動産証券化」
5月19日(木)にコンファレンススクエアエムプラスで、85 名
の参加を得て開催された。三井住友信託銀行の脇本和也氏を講師
に迎え、不動産証券化の仕組みや基本知識について、全体のスキー
ム・業務フローの中での実例を交え、お話しを伺った。
第 367 回「ビルマネジメント法律実務講座」
6月 23日(木)に産業貿易センタービル会議室で、54 名の参
加を得て、神奈川ビル経営セミナーが開催された。山下・渡辺法
律事務所の渡辺晋弁護士を講師に迎え、定期建物賃貸借契約書に
ついて、また、民法改正の最新動向についてお話を伺った。
CBAセミナー
第 11 回「不動産経営の見える化」
3月 31日(木)にコンファレンススクエアエムプラスで、121
名の参加を得て開催された。プロパティデータバンク株式会社の
6月21日(火)にコンファレンススクエアエムプラスで、62 名の
板谷敏正社長を講師に迎え、不動産証券化や CRE 戦略、PRE 戦
参加を得て開催された。佐藤貴美法律事務所の佐藤貴美弁護士を
略にて活用されているデータ分析の最新事例や新しいビル経営の
講師に迎え、ビル賃貸借契約・管理に係る法律知識について、最
あり方について、お話しを伺った。
近の動向、よく問題となる手続き等の紹介を交え、お話しを伺った。
ビル経営セミナー
【北海道】
「耐震性能欠如と建物賃貸借をめぐる法律実務について」
5月24日(火)に札幌国際ビル国際ホールで、59 名の参加を得て、
北海道ビル経営セミナーが開催された。赤坂シティ法律事務所の町
田裕紀弁護士を講師に迎え、標記テーマに係る基本的知識の確認
第 12 回「築古ビルのリノベーション:実務上のポイン
トと事例紹介」
5月18 日(水)にコンファレンススクエアエムプラスで、90 名
の参加を得て開催された。株式会社リアルゲイトの岩本裕代表を
講師に迎え、築古ビル4棟の再生事例を紹介頂き、リノベーショ
ンに於ける注意事項について、お話しを伺った。
第 13 回「オフィスマーケット 調査報告」
から最新裁判例の動向まで、実務上問題となりうるポイントについ
6月 22日(水)にコンファレンススクエアエムプラスで、105
て、お話を伺った。
名の参加を得て開催された。森ビル株式会社の山口嘉寿明部長を
講師に迎え、森ビルが実施した東京 23 区の大規模オフィスビル市
場動向調査の調査結果についてお話しを伺った。
日本ビル経営管理士会ご入会と会員継続のご案内
『日本ビル経営管理士会(JBMS)
』は「ビル経営管理士」
(ビル経営管理士登録者)
、
「ビル経営管理主任」
(ビル経
料・割引動画視聴、メンバー専用サイトでの前年度のビ
ル経営管理講座テキスト閲覧、ビル経営研究セミナーの
営管理講座修了者)及び「ビル経営管理士試験合格者」
割引料金での参加等の特典があります。なお、ビル経営
を対象とした会員組織で、ビル経営管理に関する研究、
管理士の更新登録要件にも指定されています。
知識及び技能の普及活動、会員交流活動を行っており、
現会員の方及び未入会の方々には入会案内のメール及
年会費 7,000 円(消費税不課税)をお支払い頂くことで
びご案内状を送付させて頂きました。是非ご入会下さい。
入会となります。
※本年度より、年会費の払込取扱票・請求書のご郵送は
会員になると、機関誌「いしずえ」配布(年4回発行)
、
取り止め、お申し込みは当センター HP【入会申込サ
ネットワーキングイベントへの参加及び CBA セミナーへ
イト】での Web 申込みに一本化させて頂きましたので、
の無料優先参加並びに BMI ネットアカデミーにおける無
よろしくお願いいたします。
No.168
IS H IZ U E
5
六本木三丁目東地区
第一種市街地再開発事業
(オフィス棟:住友不動産六本木グランドタワー)
新たな街づくりにより、
大街区 「泉ガーデン」 が誕生
六本木一丁目駅の駅前拠点まちづくり
住友不動産が参画した
「六本木三丁目東地区第一種市街地再開発事業」
は、地下鉄南北線六本木一丁目駅西口に直結する施行区域約2.7haの街区
において、駅前拠点等の基盤整備とオフィス棟・住宅棟・店舗棟の3棟(延床
面積合計約21万㎡)
から成る複合的な街づくりで、2016年秋に本格稼働を開
始します。
この新たな街と、2002年に完成した六本木一丁目駅東口の「泉ガーデン」
(住友不動産が参画した六本木一丁目西地区第一種市街地再開発事業とし
て施行)
は、六本木一丁目駅の駅前拠点としての役割を果たせるよう、
2つの
街を合わせた大街区「泉ガーデン」
として一体運営を行って参ります。
この施行
区域約6haの大街区「泉ガーデン」について、新たな街づくり
「六本木三丁目
東地区第一種市街地再開発事業」を中心にその概要と
“街づくり構想”を紹
介致します。
住友不動産株式会社 都市開発事業本部 都市開発一部
都心第四事業所長
1
力石 靖
六本木一丁目駅東口に直結したまちづ
こと、③道路や歩道が狭く歩行者の安
くりで、オフィス棟「泉ガーデンタ
全性が問題であること、④エリア内の
ワー」や住宅棟「泉ガーデンレジデン
高低差が約15mありエリア内を行き
ス」等の建物整備に加え、駅前拠点と
来するのが大変であること、等の課題
しての基礎整備を行っております。具
がありました。
当地区が位置する六本木一丁目駅エ
体的には、駅と一体となった広場整備
住友不動産は、2002年の「泉ガー
リアは、近年のまちづくりの進展によ
により地下鉄の駅ながら光があふれる
デン」完成後から3年後の2005年に
り、六本木一丁目駅東側のエリアと西
空間を創出し、駅から神谷町駅方面へ
旧IBM本社ビルを取得し、その翌年
側のエリアで街並みが大きく変わって
向かう高低差のある歩行者動線にエス
の2006年に旧六本木プリンスホテル
おりました。
カレーター等を設けて歩行者の利便性
を取得しました。当初は、この2つの
駅東側のエリアは、2002年に完成
を図るなどの整備を行っております。
敷地だけで業務・商業ビルを建設する
した「泉ガーデン」をはじめとした街
一方、当地区が位置する駅西側のエ
計画としておりましたが、六本木一丁
づくりが進み、防災性の高い大型オ
リアは、まちの課題があり、①駅西口
目駅を挟んだ東側で「泉ガーデン」の
フィスビルや都市型住宅が整備される
の改札がなく駅への動線が不便である
まちづくりを行い、まちの運営を行っ
とともに、緑あふれる歩行者空間の整
こと、②旧IBM本社ビルや旧六本木
ていたことから、駅西側の地権者の皆
備により、職住ともに良好な環境が
プリンスホテルがあったものの比較的
様とともにまちづくりができれば、駅
整っておりました。
「泉ガーデン」は、
小規模のビルや老朽化した建物が多い
東側のエリアのように、街の環境・価
6
再開発の経緯
I SH I ZU E
Summer 2016
値向上が図れるのではないかと考え、
2007年春頃から周辺地権者の皆様に
まちづくりについての声掛けを行いま
した。
地権者の多くの方から、泉ガーデン
をはじめとしたまちづくりを間近で見
てきたこともあり、駅東側のように駅
西側のまちを良くしたい、まちの課題
を改善し緑あふれる街にしたい、地震
に強い家に住みたい等まちづくりに対
する賛同の意見を頂くことができたた
め、2008年3月に地元地権者の皆様
とまちづくりの協議会を発足しました。
その後、2009年1月に六本木三丁
目東地区市街地再開発準備組合を設立、
2011年9月に地区計画(再開発等促
進区)と第一種市街地再開発事業の都
市計画決定、2012年3月に六本木三
丁目東地区市街地再開発組合を設立、
2013年3月に権利変換計画の認可を
受け、2013年6月より土工事に着手、
同年10月より建物本体工事に着手し、
約3年の工期を経て2016年4月に住
宅棟と商業棟が完成しました。業務棟
は順次使用を開始し、2016年10月に
本格稼働を予定しております。
2
再開発の概要
六本木三丁目東地区第一種市街地再
開発事業は、地下鉄南北線六本木一丁
目駅西側に隣接し、六本木通りと麻布
通りに面した施行区域約2.7haを対象
とした、住友不動産と約150名を超え
る地権者の皆様が一体となって取り組
んだまちづくりです。
当事業では、当地区が抱える課題を
図表 1
位置図
事 業 名 称
施
行
者
参加組合員
設 計
施 工
位 置
施行区域面積
総 事 業 費
地 区 区 分
敷 地 面 積
棟
棟
名
称
主
構
延
階
建
六本木三丁目東地区第一種市街地再開発事業
六本木三丁目東地区市街地再開発組合
住友不動産株式会社
株式会社日建設計
大成・大林建設共同企業体
港区六本木三丁目 1、2 番街区内
約 2.7ha
約 1,260 億円
南街区
北街区
合 計
約 17,380㎡
約 1,840㎡
約 19,220㎡
オフィス棟
住宅棟
計
商業棟
-
住友不動産
六本木グランド
六本木グランド
─
-
六本木グランドタワー タワーレジデンス
プラザ
要 用 途 事務所、店舗等
住宅(226 戸)
─
店舗
-
造 S 造、 SRC 造、 RC 造
RC 造
─
RC 造
-
(中間免震 ・ 制震構造) (免震構造)
床 面 積
約 178,630㎡
約 28,310㎡
約 206,940㎡
約 2,750㎡
約 209,690㎡
数
43 階地下 2 階
27 階地下 2 階
─
3 階地下 1 階
-
物 高 さ
約 231 m
約 109 m
─
約 20 m
-
図表 2
駅
地
地
広
区
歩
物件概要
西口改札新
下鉄連絡通
下鉄駅前広
道
拡
道 状 空
図表 3
設
路
場
場
幅
地
駅西口に改札を新設
駅西口改札から六本木通りまでの幅員 5 ~ 10 mの地下通路
駅西口改札レベルに約 750㎡
1 号:南街区地上に約 1,400㎡、2 号:商業棟 3 階屋上に約 1,000㎡
6m を 12m に拡幅したうえで車道及び歩道整備
南街区外周に幅員 4 mの歩道状空地
主な基盤整備の内容
解決したうえで、当地区のみならず周
辺の皆様にとっても安全・安心でより
となることにより、駅を中心とした地
を生かして、施行区域約2.7haを南北
利便性の高い駅前拠点となること、
域の利便性・魅力の向上につながるま
2つの街区に分け、南街区には、地下
2002年に完成した「泉ガーデン」と
ちづくりを目指しました。
鉄駅前広場側にオフィス棟「住友不動
の街並みの連続性・調和を図り、
「泉
街区と建物の配置は、駅、高低差の
産六本木グランドタワー」
、南側高台
ガーデン」と「当地区」が一体的な街
ある地形、幹線道路等の地理的状況等
に住宅棟「六本木グランドタワーレジ
No.168
IS H IZ U E
7
整備のイメージ
今井町地下横断歩道整備㻌
商業棟㻌
六本木グランド
プラザ
六本木駅へ㻌
地下鉄㻌
連絡広場㻌
(地下)㻌
北街区㻌 㻌
広場2号㻌
南街区㻌 㻌
地下鉄連絡通路整備㻌
道路拡幅整備㻌
●電線地中化㻌
オフィス棟㻌
住友不動産六本木 地下鉄㻌
グランドタワー 駅前広場㻌
(地下)㻌
六本木一丁目駅㻌
西口改札へ㻌
図表 5
住宅棟㻌
六本木グランド 広場㻝号
タワーレジデンス
地上・地下広場整備㻌
図表 4
地下鉄連絡通路動線図
歩道状空地整備㻌
配置図
また、基盤整備として、
「六
災害時には一時避難するスペースとして
本木一丁目」駅西口改札口の
活用できる複数の広場の整備を行うこと
新設、六本木通りと駅とをつ
により、駅前拠点に相応しい安全・快適
なぐ地下鉄連絡通路や賑わい
で利便性が高く、防災性に優れた街づく
デンス」
、北街区に商業棟「六本木グ
の創出空間となる地下鉄駅前広場の整
りとしております
ランドプラザ」を配置した総延床面積
備、周辺道路の拡幅・歩道の整備、日
図表4 図表5 。
約21万㎡の複合開発としております。
常的には憩いや賑わい創出の場となり、
3
図表1
図表2
図表3
に電力供給を可能としており、万が一
再開発の特徴
のトラブルにも備えた三重の電力バッ
クアップ体制を構築しております。
そのほか、実装の非常用発電機に加
中核を成すオフィス棟「住友不動産六本木グランドタワー」
(1)時代のニーズを捉えた
え、テナント企業が専用の発電機を設
置できる2,500kVA×4台分の発電機
(10日間以上)を利用した非常用発電、 設置スペースや、各フロアにテナント
B C P 対応強化
③中圧ガスの供給が停止した場合には、 企業用の防災備蓄倉庫を設置している
街区のメインとなるオフィス棟は、
重油(72時間分)を利用した非常用
など、非常時対応力の高い諸設備と安
就労者や街区に訪れる方々が安心・安
発電を備え、停電時も共用部や貸室内
全性を備えております
全に過ごしていただけるように、最新
鋭の仕様、設備を備えております。
建物構造は、29階スカイロビー下
部に免震層、かつ免震層より下の各階
には制震部材を設け、地震などの揺れ
を低減する免震+制震構造を採用して
おります。
また、東日本大震災以降、企業の関
心が高まっているBCP対応の強化も
図っており、①事故等で本線からの送
電が停止しても予備線から受電が可能
な2回線受電方式を採用し、②万一、
送電が停止した場合には、中圧ガス
8
I SH I ZU E
Summer 2016
図 表 6 デュアルフューエルガスタービン:イメージ図
中圧ガス、重油双方利用可能の非常用発電機
図表6 。
(2)最新鋭のオフィス諸設備
オフィスの基準階面積は、都内でも
最大級となる3,300㎡超の大空間を備
え、効率的で様々なオフィススタイル
に適応した自由なレイアウトが可能と
なります。
また、安心・快適なオフィス環境を
創出するため、
フロアは天井高3m(窓
面2.7m)+フリーアクセス10cmの
ゆとりある開放的な空間とし、空調は
ワンフロア80ゾーンの部分制御可能
な個別空調システムで省エネルギーを
実現する最先端の設備、機能を備えて
います。セキュリティ面においても、
エレベーターホールのセキュリティ
ゲートや各貸室扉に非接触ICカード
リーダーを実装したほか、ご要望に応
じてフロアセキュリティ等を設置でき
る設計としております。
さらに、ビルのサービスセンターに
おいて、住友不動産社員による24時
間365日の常駐直接管理に加え、200
図 表7
オフィス基準階 平面図
棟を超える運営ビルを統括管理する中
央管理センターによる24時間365日
のバックアップ管理体制で緊急時には
迅速に対応するなど、安心・安全で
快適なオフィス環境を整えておりま
す
図表7
。
(3)新たなランドマークとしての
外観デザイン
住友不動産が手掛けるフラッグシッ
プタワーの一つとして、周辺との調和
を図りながら都心に建ち並ぶ高層ビル
群の中でも、存在感のある象徴的な外
観を目指しました。
六本木・赤坂エリアでもトップクラ
スの高さを誇る最高高さ231mの駅直
上タワーとなるオフィス棟は、隣接す
図 表 8、
9
平面に凹凸を設けた立体感のある外観デザイン
る泉ガーデンタワーとの調和を図るガ
ラスカーテンウォールとしながらも、
異なる趣向として、平面に凹凸を設け
(4)利便性の高いフロアアクセス
は駅との直結階となる1階より“最大
たデザインを採用しました 図表8、9 。
各オフィスフロアへのアプローチは、 90名乗り、分速300mの大型シャトル
その結果、シンプルでありながらも
高層棟ならではの対策を施しておりま
エレベーター 4基”で結び、各フロア
周囲と一線を画した存在感、立体感を
す。低層ブロックと高層ブロックにエ
へのエレベーター待ち時間を短縮して
生み出しております。
レベーターを分け、さらに高層ブロッ
スムーズなアプローチを実現しており
ク接続階となる29階スカイロビーへ
ます 図表10
図表11 。
No.168
IS H IZ U E
9
図 表 10
4
シャトルエレベーターイメージ
駅前拠点としての
地域の利便性向上、
防災性向上に資する
基盤整備
駅前拠点としての地域の利便性と防
に新たに改札を
災性向上のため、駅西口改札の新設や、 設け、この駅西
駅への動線強化となる地下通路、広場
口新改札から六
等の基盤整備を行っております。
本木通りまで地
下鉄連絡通路を
(1)駅とまちとをつなぐ快適な
歩行者ネットワークの整備と
賑わい創出
整備するととも
に、六本木通り
にある今井町地
図 表 11
フロアアクセス図
従来は、東京メトロ南北線「六本木
下横断歩道の改
一丁目」駅を利用するには東側にしか
修・ バ リ ア フ
改札がなかったため、西側からの利用
リー化や、駅東西の自由通路を整備し
ズな往来が可能となります。
者は迂回する必要があるなど駅への動
ました。これにより、地元住民の方々
さらに、この地下鉄連絡通路に繋が
線が弱い状況にありました。そのため、 や地域利用者の方々にとって、駅への
る形で、イベント開催を可能とする約
駅西口の駅前拠点整備と駅東西の歩行
利便性が向上するとともに、神谷町方
750㎡の地下鉄駅前広場と、約530㎡
者ネットワークを強化すべく、駅西口
面から六本木・赤坂方面までのスムー
の地下鉄連絡広場を設けるほか、商業
店舗を配し、多方面より多くの人が集
まり賑わう空間を創出しております。
これらの空間にて、
「泉ガーデン」
のエリアマネジメント実績で培ってき
たノウハウを活用し、地域活性を目的
とした様々なイベントの開催を行うほ
か、
「泉ガーデン」と連動したイベン
ト開催や、新街区のオフィス棟に本社
図 表 12
10
図 表 13
地上広場
I SH I ZU E
Summer 2016
地下広場イメージパース
ならびにスタジオとして入居して頂く
テレビ東京グループ様のご協力による
できる四季を感じられる緑豊かな約
(3)道路の拡幅や安全な
大規模な連携イベントなどを実施する
1,400㎡の広場を設けています。万一の
歩行者空間の整備
ことで、さらなる地域の活性化・魅力
災害時には、災害用仮設トイレと防災用
敷地外周部の区道についてそれぞれ
の向上を目指した活動を推進してまい
井戸を設置し、地下鉄駅前広場と共に、
拡幅し、歩道を整備をするとともに、
ります。
災害時の帰宅困難者等の避難受入ス
右折レーンを新設して車両交通の円滑
ペースとして活用します。また、北街区
化を図っております。さらに、電線の
の建物屋上にも広さ約1,000㎡の広場を
地中化や幅員4mの歩道状空地を設
緑豊かな広場空間の創出
設けるほか、敷地内に散策路を整備して
けることにより歩道と一体となった緑
地域の防災性向上対策として、南街
おり、防災対策と併行して緑豊かな広場
あふれる安全な歩行者空間を整備して
区に、平時には地域の憩いの場となり、
空間を創出しております 資料12 資料13 。
おります。
(2)地域の防災性向上と
災害時には一時避難スペースとして活用
5
に訪れる人々が街区を往来するなど、
大 街 区『 泉 ガ ー デ ン 』の 誕 生
新たな賑わい創出が可能となります。
さらに、今後においては、これまで
泉ガーデンにて実施してきたエリアマ
ネジメント(イベント開催など)や災
2002年に完成した「泉ガーデン」
(施
㎡超の多様な都市機能が集積した新た
害時の防災対策活動においても連携
行区域約3.2ha)は、都心でありなが
な街区として誕生しました。両街区と
した地域活性化を図ってまいります
ら昔ながらの自然も残した静かな環境
もに、充実した施設用途を街区相互に
資料14 。
を持ち、働く人、住まう人が安心、快
補完することが可能なほか、相互の街
適な日常を送れる街であるとともに、
オフィスや商業施設、イベントホール、
ホテルなど多くの来街者が訪れる高い
六本木三丁目東地区プロジェクト
泉ガーデン
都市機能を有しております。
住友不動産は、この街区と新街区を
結びつけ「街をつなぐ」ことで、相乗
効果を生みだし地域の魅力をさらに高
めるため、泉ガーデンと新街区がひと
つのまちとなるよう大街区「泉ガーデ
ン」として、一体運営していくことと
いたしました。
こうして、施行区域約6haの大街
区「泉ガーデン」は、
街区全体でオフィ
ス総賃貸面積約18万㎡、住宅443戸、
商業店舗49店、ホテル189室、イベ
ントホール・貸会議室、フィットネス
クラブ、美術館と総延床面積約42万
6
お わりに
図 表 14
大街区『泉ガーデン』区域イメージ図
今回、六本木一丁目駅の2つの街づ
ことにより実現できるものであり、街を
くりを通じ、
「街と街とをつなぐことで、
つなぐことは、物理的な街のつながり
街が成長し、まちの魅力が高まる」こ
だけでなく、そこに住み働く人々をつ
とを強く実感しました。また、街づくり
なぐことになります。今後とも、街をつ
はデベロッパーだけでなく、地権者の
なぎ、人をつなぐ視点を大切にまちづ
皆様、周辺の皆様と協力し、連携する
くりを進めて参りたいと考えております。
No.168
IS H IZ U E
11
オフィスビル業界は、昨年長く続いた低迷から脱却し、
回復基調で推移している。空室率の低下、賃料の底打ち
オフィス市場は好調を維持
がデータ上からも明らかになっている。こうした好材料
東京都心5区のオフィス市場は好調
を背景に、オフィスビル業界は、新たな飛躍のための方
を維持している。金融危機後の足取
策が求められている。
りを確認すると、金融危機の影響で
このページでは、オフィスビル市況に的を絞って、不動
2008年から2010年にかけて需要が減
産アナリストの方々から、最新データを基に市況分析と
少し、2011年以降は増加に転じたもの
今後の見通しについてご執筆いただく。
の、2012年上期に大量供給を迎えたた
(編集部)
め、2012年半ばまで空室率の上昇が続
ビル市況レポート
いた(図表1)
。その後は、新規供給
10
好調な
オフィス市場の
背景と今後の見通し
㈱三井住友トラスト基礎研究所 投資調査第2部
上席主任研究員 坂本雅昭
が例年並みに落ち着き、加えてアベノ
ミクスによる景気拡大に合わせて需要
が増加したことで、空室率の低下が続
いてきた。2015年末の空室率は4.0%
と歴史的にも低水準となっている。
2016年に入り、需要動向に大きな変
化はないものの、やや多い新規供給と
なっているため、空室率の低下に歯止
めがかかっているが、それでも5月末
時点で4.1%と好調を維持している。
賃貸需要はなぜ
増加しているのか
好市況の要因をもう少し詳しく見て
みると、需要動向は好市況のエンジン
というほどの力強さはない。本格的な
空室率の低下期間である2013∼2015
年の新規需要面積は年平均で15.1万
坪であり、2004∼2006年の19.3万坪
には及ばない(図表1)
。2000年代半
ばは好景気だったこともあるが、ま
だ全国の15歳以上人口が増加してい
た時期でもあり、近年とは人口動態の
面で需要のポテンシャルが異なってい
た。
それでも、近年の賃貸需要は、これ
だけ人口減少問題が叫ばれる中で意外
Profile
なほどに伸びている印象がある。現場
でも「なぜ、賃貸需要がここまで増加
㈱三井住友トラスト基礎研究所 投資調査第2部
上席主任研究員
坂本雅昭
Masaaki Sakamoto
千葉大学大学院工学研究科建築学専攻修了。都市計画コンサルタント会社を経て、1999
年に㈱住信基礎研究所(当時)に入社。主に不動産投資ファンド運用会社やデベロッパー
等の委託による都市・エリアの不動産投資ポテンシャル評価、オフィス市場の動向分析・市
場予測等を担当。
12
I S H I ZU E
Summer 2016
しているのか?」という疑問を耳にす
る。そもそも、賃貸需要は人口増減が
そのまま影響するわけではない。仮
に東京23区の従業者数が減少してい
たとしても、①オフィスワーカー比率
の上昇(産業の高度化)
、②需要の中
ビル市況レポート
心化傾向(企業が周辺区よりも中心区
10
図表1 東京都心5区オフィスの需給動向
を指向する傾向)
、③需要の賃貸化傾
面積(坪)
向(企業が自社ビルよりも賃貸ビルを
350,000
10.0%
指向する傾向)
、④オフィスワーカー
300,000
9.0%
一人あたり面積の増加によっては、都
250,000
8.0%
心5区の賃貸需要は増加する。この実
200,000
7.0%
態を各種統計から推計すると、2009∼
150,000
6.0%
100,000
5.0%
50,000
4.0%
0
3.0%
-50,000
2.0%
東京23区の従業者数の増加率は年率
-100,000
1.0%
0.4%と小幅であったが、オフィスワー
-150,000
0.0%
率1.6%増加していたことがわかる(図
表2)
。一方で、一人あたり面積は縮
小傾向にあり、賃貸需要にはマイナス
に寄与している。レイアウト効率の高
4.0%
数の増加率は小幅であるが、それ以外
の要因の影響もあって都心5区の賃貸
需要は比較的強く伸びている。当面は
人口問題を過度に悲観的に受け止める
必要はないが、従業者数以外の要因で
賃貸需要が上振れている状況は冷静に
理解しておく必要があるだろう。
ところで、図表2を見ると、2012∼
2014年(アベノミクスによる景気回
復局面)においては、賃貸需要の増加
に最も寄与しているのは従業者数の増
加である。全国ベースで見ても、この
間、就業者数(従業者数に休業者数を
2015
2014
2013
2012
2011
2010
2009
2008
2007
2006
2005
2004
2003
図表2 東京都心5区オフィスの賃貸需要増減率と要因
入、オフィスワーカーを増やしてもオ
る。このように、東京23区の従業者
空室率
出所:三鬼商事データをもとに三井住友トラスト基礎研究所作成
5.0%
ト意識などが影響していると考えられ
新規需要面積
新規供給面積
いビルの供給や、フリーアドレスの導
フィス床面積を増やさない企業のコス
2002
く寄与して、都心5区の賃貸需要は年
2001
カー比率の上昇と需要の賃貸化が大き
2000
た2009∼2014年でならして見ると、
1996
その要因は異なるが、これらを合わせ
1999
による景気回復局面)では、増加率と
1998
面)と2012∼2014年(アベノミクス
1997
2012年(金融危機からの持ち直し局
空室率
※増減率は単年ベース
3.0%
2.0%
1.0%
0.0%
-1.0%
-2.0%
2009-2012
金融危機からの
持ち直し局面
2012-2014
アベノミクスによる
景気回復局面
2009-2014
金融危機からの
持ち直し+景気回復
一人当たり面積要因
オフィスワーカー比率要因
賃貸化要因
23区従業者数増減要因
中心化要因
5区賃貸需要増減率
出所:三井住友トラスト基礎研究所推計
加えたもの)は増加を続けているが、
男女別に見ると女性が大幅に増加して
力率が2012年以降目立って上昇して
いるのであり、男性の増加は小幅で
いる。これらの女性や高齢者の労働参
ある(図表3)
。女性就業者の増加は、
画は人手不足や賃金上昇によるだけで
失業率の低下による影響もあるが、労
なく、世帯収入の伸び悩みを受けたも
このような需要動向以外に好市況を
働力率の上昇、つまり労働参画が進ん
のと考えられ、一概に良好な状況を示
支えている要因として、ビルの滅失が
でいる影響が大きい。男女合わせた年
すものとは言えないが、オフィス需要
挙げられる。これは、新規供給、新規
齢別には、60∼64歳、65∼69歳の労働
の増加には寄与している。
需要で需給動向を示している賃貸統計
好市況を支える
見えにくい要因
No.168
IS H IZ U E
13
図表3 全国就業者数の前年比増減率と要因
2016年1月
2015年1月
2014年1月
2013年1月
2012年1月
2011年1月
2010年1月
2009年1月
2008年1月
2007年1月
2006年1月
2005年1月
2004年1月
2003年1月
2002年1月
2001年1月
女性
2016年1月
2015年1月
2014年1月
2013年1月
2012年1月
2010年1月
2009年1月
2008年1月
2007年1月
2006年1月
2005年1月
2004年1月
2003年1月
2002年1月
2011年1月
失業率要因
労働力率要因
15歳以上人口要因
就業者数増減率
男性
2001年1月
3.5%
3.0%
2.5%
2.0%
1.5%
1.0%
0.5%
0.0%
-0.5%
-1.0%
-1.5%
-2.0%
-2.5%
-3.0%
出所:総務省データをもとに三井住友トラスト基礎研究所作成
では把握しづらい指標である。賃貸ビ
給ストックの増加面積は2.3万坪に過
さである。金融危機後に賃料は大幅に
ルの供給ストックの増加面積は、新規
ぎず、空室率が非常に低下しやすい環
下落したものの、その後の持ち直しは
供給面積と同一ではなく、滅失面積を
境であった。2015年の滅失面積が大き
比較的早かった。賃料が対前年で底
引かなければならない。2000年頃まで
かったのは、2019年頃の大量供給に向
打ちした2012年10月の空室率は8.7%
はビルの滅失はほとんどなかったの
けた取り壊しが行われたことや、需要
で、その前の賃料底打ちタイミング
だが、それ以降徐々にビルの老朽化が
が旺盛なホテルやマンションへの建て
であった2004年9月の空室率7.2%と
進んで滅失はコンスタントに発生して
替えに向けた取り壊しが進んだものと
比較しても、賃料の底打ちは早かった
いる(図表4)
。特に、2013∼2015年
考えられる。この見えにくい要因が、 (図表5)
。しかし、賃料の底打ちから
は年平均で8.9万坪滅失しており、同
空室率の低下トレンドを強めた。
40ヶ月以上経過した現在でも、賃料
上昇率は年率5 %程度でもたついてい
様に本格的に空室率が低下した2004
∼2006年の年平均4.7万坪よりも大き
好市況の中にある歪さ
い。中でも、2015年の滅失面積は11.1
る。前回の賃料上昇局面で本格的なエ
ンジンがかかったのは空室率が4%を
万坪にものぼり、新規供給面積13.4
今回のオフィス市況の回復局面で特
切った頃からであり、その点からすれ
万坪の8割を相殺した。結果として供
徴的なのは、賃料の上昇トレンドの弱
ば今後の本格的な上昇を期待できるか
もしれないが、底打ちから本格的な上
昇までに時間がかかりすぎている。前
図表4 東京都心5区オフィスの滅失動向
述のように、賃貸需要が堅調に増加し
(坪)
350,000
ているといっても賃貸化要因で上振れ
300,000
ている側面があり15歳以上人口とい
250,000
うファンダメンタルズは弱いことや、
200,000
ビルの滅失で新規供給の相当分が相殺
150,000
されていることなどが、空室率が低い
100,000
わりに賃料が上昇しない要因と考えら
50,000
れる。この他にも、オフィスを増床
0
する場合に移転コストのかかる拡張移
転よりも館内増床を優先する企業行動
-100,000
や、世界経済の成長率の低さを受けた
-150,000
企業の慎重姿勢が影響していると考え
1990
1991
1992
1993
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
2013
2014
2015
-50,000
新規供給面積
滅失面積
出所:三鬼商事データをもとに三井住友トラスト基礎研究所作成
14
I S H I ZU E
Summer 2016
貸室面積増減
られる。
ビル市況レポート
ス需要は比較的堅調に推移すると予想
される。一方、供給については、2016
年はやや多い新規供給であったが大き
な影響はなく乗り越えそうな状勢で
あり、2017年の新規供給面積は2013
3%
3.3%
平均成約賃料前年比増減率
ばに到達すると予想される(図表6)
。
しかし、その後の2018年、2019年に
は大量供給となる見込みであり、空室
率は底打ち・反転すると予想される。
それでもビルの滅失を考慮すると、空
室率は4 %程度までの上昇に留まると
考えられる。つまり、中期的に3 %台
半ばから4 %程度で波打ちながら推移
すると予想される。しかし、賃料の上
昇傾向は鈍化していくと予想される。
2015年12月
2014年12月
出所:空室率は三鬼商事、平均成約賃料は三井住友トラスト基礎研究所
図表6 東京都心5区のオフィス市場見通し
(円/月・坪)
24,000
10%
見通し
22,000
9%
8%
7%
20,000
6%
18,000
5%
4%
16,000
3%
2%
14,000
1%
12,000
0%
1992 年
1993 年
1994 年
1995 年
1996 年
1997 年
1998 年
1999 年
2000 年
2001 年
2002 年
2003 年
2004 年
2005 年
2006 年
2007 年
2008 年
2009 年
2010 年
2011 年
2012 年
2013 年
2014 年
2015 年
2016 年
2017 年
2018 年
2019 年
2020 年
率の低下が再開し、年末には3 %台半
2013年12月
空室率
∼2015年と同程度の水準に留まる見
込みである。そのため、2017年に空室
2012年12月
0%
2011年12月
1%
-25%
2010年12月
2%
-20%
2008年12月
-15%
2007年12月
移すると予想される。
そのため、
オフィ
-10%
2006年12月
働参画が進み、就業者は増加傾向で推
4%
2005年12月
強く、今後も女性や高齢者を中心に労
5%
-5%
2004年12月
らい。しかし、いまだ雇用の逼迫感は
6%
0%
2003年12月
り、設備投資の大幅な伸びは期待しづ
7%
5%
2002年12月
企業の業績は高水準だが鈍化傾向にあ
8%
7.2%
10%
2001年12月
では為替が円高方向に進行している。
8.7%
15%
2000年12月
て世界的なリスクの増大を受けて足下
9%
20%
1999年12月
雲行きが怪しくなってきている。加え
10%
25%
1998年12月
で世界経済を牽引してきた米国経済も
空室率
1997年12月
世界経済は減速傾向にあり、これま
図表5 東京都心5区オフィスの空室率と賃料
賃料増減率
1996年12月
東京のオフィス市場の
中期見通し
10
平均成約賃料
空室率
出所:空室率の実績値は三鬼商事、空室率の見通しおよび平均成約賃料は三井住友トラスト基礎研究所
雇用の好調で需要は増加しても、経済
が低成長な状況下では一人あたりの生
フィスワーカー比率の上昇や需要の賃
年には東京オリンピック・パラリン
産性が低下、すなわち企業の賃料負担
貸化が東京のオフィス需要を下支え
ピックを迎える。これが東京の都市・
力は高まりづらいためである。賃料は
るため、すぐに賃貸需要が減少すると
ビジネス・人材の国際化の契機とな
鈍化しながら2018年まで上昇した後、
は考えづらい。しかし、需要の増加
り、2020年代前半から始まる就業者の
軽い調整局面を迎えると予想される。
ペースはこの頃から鈍化し、空室率の
減少の影響を和らげる。これが東京に
上昇圧力が徐々に増してくる可能性が
期待されるストーリーである。これま
ある。2020年代前半以降も需要の増加
でとは次元の違う国際化と需要の受け
ペースを維持するためには、国内需要
皿としての都市づくりが東京のオフィ
2020年代前半から女性や高齢者の
では限界があり、外資系企業・外国人
ス市場の持続的成長にとって不可欠
労働参画等による労働率の上昇が15
ワーカーの誘致が必須であろう。不動
である。東京オリンピック・パラリン
歳以上人口の減少を相殺できなくな
産市場では、訪日外客がホテルや都心
ピックはそのラストチャンスと捉える
り、全国ベースで就業者数の減少が始
型商業施設の売上・賃料に与える影響
必要があるのではないか。
まると予想される。前述のように、オ
を目の当たりにした。いよいよ2020
2020年以降の展望
No.168
IS H IZ U E
15
Vol.
25
渡 辺 晋 の ビルマネジメントゼミナール
建築物の省エネは社会的な必須ニーズ
建築物省エネ法が
ビル建築・ビル管理に与える影響
我が国は、国内で使用するエネルギーを海外からの資源に依存しており、その供給体制は脆弱である。したがって、
できるだけ節約をしてエネルギーを使用しなければならない。省エネは、強い社会的な必要性に裏付けられる政策で
ある。省エネ政策は、昭和 54 年(1979 年)に制定された省エネ法 注1 を根幹として進められている。
ところで、平成 23 年(2011年)の東日本大震災にともなう原発事故によって、エネルギー供給の従来のありかた
が根本から揺るがされる事態が生じた。以降わが国のエネルギー需給は逼迫し、平成 24 年(2012 年)の時点におい
て、一次エネルギー自給率は 6.0%にすぎなくなっている 注2 。
また、我が国における二酸化炭素排出量の総量は、ほぼコンスタントに約13 億トン程度である。これを部門別に
みると、産業部門と運輸部門においては、省エネ対策が功を奏し、近年排出量を減少させているのに対し、ビル関
連では排出量を増加させている。オフィスその他の業務部門の二酸化炭素排出量は、平成 25 年(2013 年)には、平
成2年(1990 年)と比べて約2倍(208.5%)の2億 7,900 万トンとなっており、平成2年(1990 年)の段階では、
国全体の排出量中約1割であったが、平成 25 年(2013 年)には約2割を占めるに至っている 注3 。
このような状況を背景に、建築物の省エネルギーを目的として平成 27 年(2015 年)7月、建築物省エネ法 注4 が
成立した。本稿では、省エネ法制定に至る事情と近年の省エネ法改正の内容をみた上で、今般制定された建築物省
エネ法を解説する。
1
省エネ法
2 省エネ法制定
第1次石油危機に対し、国内及び国際的な対策が講じら
1 戦後のエネルギー事情と石油危機
れたが、昭和54年(1979年)には再び第二次石油危機が
エネルギーは、人々の生活と産業に命を吹き込む源であ
発生し、原油価格が高騰する。ここにおいて国家的に省エ
る。十分なエネルギーが確保されなければ、豊かな生活を
ネに取り組むことが求められ、この年省エネ法が制定された。
享受することも、経済を活発化することも、なしえない。
省エネ法の目的は、
「内外におけるエネルギーをめぐる
我が国では、戦後の荒廃した日本経済を立て直すため、昭
経済的社会的環境に応じた燃料資源の有効な利用の確保に
和20年代から昭和30年代前半まで、官民が一体となって
資するため、工場等、輸送、建築物及び機械器具等につい
石炭を増産する体制を確立し高度経済成長を支えた。
てのエネルギーの使用の合理化に関する所要の措置、電気
昭和30年代半ばからは、エネルギーの中心は、コスト
の需要の平準化に関する所要の措置
が低廉で安定供給が可能であったことから石油に移行する。
ギーの使用の合理化等を総合的に進めるために必要な措置
昭和37年(1962年)には、石油が石炭を抜いて、高度経
等を講ずることとし、もって国民経済の健全な発展に寄与
注5
その他エネル
済成長期の後半では、石油がエネルギー供給において日本
経済を支えるようになる。
しかしながら、昭和48年(1973年)
、第4次中東戦争を
契機に原油価格が高騰し、安定した石油の供給を受けるこ
とができなくなる(第1次石油危機)
。この時点において、
高度経済成長期が終了するとともに、経済発展のためには
消費を節約しエネルギーの使用を節減しなければならない
ことが、社会の共通認識になった。
16
I SH I ZU E
Summer 2016
注 1:エネルギーの使用の合理化に関する法律
注 2: 震 災 前 の 2010 年 に は、わ が 国 の 一 次 エ ネ ル ギ ー 自 給 率 は
19.9%であったが、震災によって大幅に低下した。2012 年時点
の 6.0%という数値は、OECD34 か国中、2番目に低い水準となっ
ている(
「平成 25 年版エネルギー白書」資源エネルギー庁)
。
注3:家庭の分野の排出量が約2億トンであり、オフィスその他の業
務部門とあわせると、建物関連の二酸化炭素の排出量は、全排出
量のうちの、3分の1を占めることになる。
注4:建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律
注5:省エネ法の目的のうち「電気の需要の平準化」は、
平成 25 年(2013
年)の改正時に追加的に導入された。
Profile
山下・渡辺法律事務所 弁護士
渡辺 晋 Susumu Watanabe
すること」である。人にとって利用可能なエネルギーが有
昭和 55 年 3月一橋大学卒業。同年 4月に三菱地所㈱入社。平成元年 11月
司法試験合格。平成 2 年 3月三菱地所㈱退社。平成 4 年 4月弁護士登録
(第
一東京弁護士会)
。平成 14 年 4月山下・渡辺法律事務所開設。日本大学理
工学部まちづくり工学科講師。 平成 25 年6月〜 27 年 10月司法試験考査委
員。平成 27 年4月〜マンション管理士試験委員。
〈燃料〉
●原油及び揮発油(ガソリン)
、重油、その他石油
限であることを前提に、経済活動のために使用するエネル
製品(ナフサ、灯油、軽油、石油アスファルト、
ギーの分量に配慮しなければ、現在または将来においてエ
石油コークス、石油ガス)
ネルギーが不足してしまうことから、エネルギーの使用量
●可燃性天然ガス
に配慮するための対応策を講じることが必要である、とい
●石炭及びコークス、その他石炭製品(コールター
う考え方に基づいて法制度が組み立てられている
注6
ル、コークス炉ガス、高炉ガス、転炉ガス)であっ
。
て、燃焼その他の用途(燃料電池による発電)に
3 平成 20 年及び平成 25 年の省エネ法改正
省エネ法は、制定当初には、一定量以上のエネルギーを
供するもの
〈熱〉 ●上記に示す燃料を熱源とする熱(蒸気、温水、冷
使用する工場(エネルギー管理指定工場)の指定や、工場
水等)
や住宅等に対する省エネに関する判断基準を示しただけの
●太陽熱及び地熱など、上記の燃料を熱源としない
制度であり、精神条項的な意味が大きく、強制力を行使し
熱のみであることが特定できる場合の熱は含ま
て政策を実現する仕組みではなかった。しかしその後は、
れない。
改正が繰り返され制度を充実させていく。
〈電気〉
●上記に示す燃料を起源とする電気
平成20年(2008年)5月には、エネルギー消費量が大
●太陽光発電、風力発電、廃棄物発電など、上記燃
幅に増加している業務・家庭部門における省エネ対策を強
料を起源としない電気のみであることが特定で
化するための改正がなされた。従来の省エネ法では一定規
きる場合の電気は含まれない。
模以上(年間の熱と電気のエネルギー使用量を重油換算し
(2)事業者
て合算した数値が3,000kl以上を第一種、1,500kl以上を第
省エネ法では、
事業者(企業)を単位として、
エネルギー
二種)の大規模な事業所(ビル単位)のエネルギー報告義
管理の規制がなされる。したがって、事業者全体(本社、
務を課していたが、事業者を単位として、エネルギー報告
工場、支店、営業所、店舗等)の1年度間のエネルギー使
などを行うことが義務づけられた。
用量(原油換算値)が合計して1,500kl以上であれば、そ
平成25年(2013年)5月には、東日本大震災後の電力
のエネルギー使用量を事業者単位で国に届け出て、特定事
需給の逼迫に対応し、電気の需要の平準化を進めるための
あらたな仕組みが設けられる改正がなされている。なお、
業者の指定を受けなければならない。
(3)法に基づく義務の内容
この改正時に法律名称が「エネルギーの使用の合理化等に
一般的なエネルギーの流れと省エネ法に基づく義務の内
関する法律」となった。
容は、 図表-1 のとおりである。1年度間のエネルギー使用
量(原油換算値)が1,500kl以上の場合に、特定事業者と
4 省エネ法の概要
して 図表-2 の義務が課せられる。
(1)エネルギーの意味
省エネ法におけるエネルギーとは、次の燃料、熱、電気
である。廃棄物からの回収エネルギーや風力、太陽光等の
2
建築物省エネ法
非化石エネルギーは、省エネ法において節約の対象となる
1 制 定
エネルギーには含まれない。
建築物を対象として、省エネルギーを推進するための法
注6 省エネのための取組みは、地球環境を保全するためにも有意義
である。しかし、地球環境保全は、省エネ法の基本的な考え方か
らみれば、対策実施によって結果的に得られる果実であって、直
接に目的とするところではない。
律として、平成27年(2015年)7月、建築物のエネルギー
消費性能の向上に関する法律(建築物省エネ法)が成立し
公布された。
建築物省エネ法において採られる方策は、Ⅰ誘導措置と
No.168
IS H IZ U E
17
4 -1
4 工場等に係る措置
4 -1 エネルギー管理業務フロー
エネルギーを使用して事業を営む者は、省エネ法の下、
エネルギーの使用の合理化に努めるとともに、電気の需要の平準化に資する措
置を講ずるよう努めなければなりません。エネルギーの使用の合理化及び電気の需要の平準化を推進するための一般的な管理の流れ
図表-1 一般的なエネルギーの流れと省エネ法に基づく義務
は以下のとおりとなっています。事業者はまず適切なエネルギー管理を行うために管理体制を整備し、
自らのエネルギー使用量を把握す
ることから始めることになります。
一般的なエネルギー管理の流れ
法に基づく義務内容
図表-2 事業者全体としての義務
年度間エネルギー使用量
(原油換算値 kℓ)
1年度間のエネルギー使用量
(原油換算値)
が
1,
500kℓ以上の場合は、以下の義務が課せ
られます。
エネルギー管理体制の整備
エネルギー使用実態の把握
事業者の区分
エネルギー使用状況届出書の提出
事 業 者 の義 務
日常管理
特定事業者又は
特定連鎖化事業者の指定
●判断基準に基づくエネルギー管理標準の設定
●判断基準及び指針に基づくエネルギー管理の実践
PDCA
日常のエネルギー使用実績の把握
及び原単位の管理
エネルギー管理統括者・
管理企画推進者
及び
選任すべき者
取り組むべき事項
エネルギー管理者・管理員の
選任・解任の届出
事業者の目標
エネルギーの使用の合理化等に
向けた改善の検討と実行
年間管理
年度間のエネルギー使用実績の把握
及び原単位分析と全体評価
定期報告書の提出
行政によるチェック
PDCA
エネルギー使用合理化の中長期計画の策定と
これに基づく省エネ対策の実行
中長期計画書の提出
出典:
「省エネ法の概要」(資源エネルギー庁)
http://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saving/summary/
※3:判断基準とは、エネルギーを使用して事業を行う事業者が、エネルギーの使用の合理化を適切かつ有効に実施するために必要な判断の基準となるべき事項を経済産業
pdf/2014_gaiyo.pdf
大臣が定め、
告示として公表したものです。
1,
500kℓ/年度
以上
1,
500kℓ/年度
未満
特定事業者又は
特定連鎖化事業者
エネルギー管理統括者及び
エネルギー管理企画推進者
─
─
判断基準に定めた措置の実践
(管理標準の設定、省エネ措置の実施等)
指針に定めた措置の実践
(燃料転換、稼動時間の変更等)
中長期的にみて年平均1%以上のエネルギー
消費原単位又は電気需要平準化評価原単位
の低減
指導・助言、報告徴収・
立入検査、合理化計画
の作成指示への対応
(指示に従わない場合、
公表・命令)等
─
出典:
「省エネ法の概要」(資源エネルギー庁)
http://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saving/
summary/pdf/2014_gaiyo.pdf
詳細については、以下のURLを御参照ください。
http://www.enecho.meti.go.jp/topics/140401/140401.htm
Ⅱ規制措置である
注7
能の表示に関する指針)が平成28年(2016年)3月に公
。
※4:指針とは、電気を使用して事業を行う事業者が、電気の需要の平準化に資する措置を適切かつ有効に実施するために取り組むべき措置を経済産業大臣が定め、告示と
して公表したものです。
詳細については、以下のURLを御参照ください。
http://www.enecho.meti.go.jp/topics/140401/140401.htm
表されている。このガイドラインでは、第三者認証か自己
2 Ⅰ誘導措置
評価の別、設計値の基準値からの削減率(25%削減等)
(1)表示制度
等を表示する「遵守事項」と、一次エネルギー消費量を表
3
表示制度は、建築物の省エネ性能が基準に適合している
示する、購入者・賃借者に対し、省エネ性能に関する表示
ことをラベルやマークで表示する仕組みである。表示には、
内容を説明する推奨事項が定められている。
(イ)BELSと(ロ)eマークの2種類がある。賃借人・
(イ)BELS
購入者がラベルやマークによる省エネ性能の表示を参考に
BELS(Building-Housing Energy-efficiency して、賃借し、あるいは購入する建物を選ぶようになるこ
Labeling System:ベルス)は、建築物省エネ法7条に基
とを企図するものであって、建築物を利用する企業や家庭
づいて、建築物省エネルギー性能を表示する制度である。
に省エネの意識を高めてもらう狙いもある。
一次エネルギー消費量を指標とした改正省エネ基準
この表示については、
「住宅事業建築主その他の建築物
が導入されたことを踏まえ、建築物の省エネルギー性能を
の販売又は賃貸を行う事業者は、その販売又は賃貸を行う
示す統一的な公的指標として設けられた 注10 。
建築物について、エネルギー消費性能を表示するよう努め
新築と既存の両方の建造物について 注11 、省エネル
なければならない」との条項が設けられた。努力義務では
ギー性能を評価し認証がなされる。
(一社)住宅性能評価・
注9
あるものの、事業者に対して、ビルや住宅を賃貸し、ある
いは販売する際に、これらのエネルギー消費性能を表示す
ることが義務づけられたわけである。
省エネ性能基準の内容は、平成28年(2016年)1月に、
国交省、経産省、両省の「建築物エネルギー消費性能基準
等を定める省令」として定められている
注8
。
省エネ性能の表示に関しては国交省から、建築物の省エ
ネ性能表示のガイドライン(建築物の省エネルギー消費性
18
I SH I ZU E
Summer 2016
注7:誘導措置は、平成 28 年(2016 年)4月に一部が施行され、す
でに新しい制度が開始されている。規制措置は、
平成 29 年(2017
年)4月に施行され、新しい制度が開始される予定である。
注8:建築物エネルギー消費性能は、建築物における空調(暖冷房)
・
換気・照明・給湯・昇降機(エレベーター)において、標準的な
使用条件のもとで使用されるエネルギー消費量をもとに表される
建築物の性能のことであり、詳細な基準が定められた。
注9:平成 26.4.1完全施行
注10:ベルスは、平成 26 年(2014 年)4月に運用を開始した。
注11:ベルスは、既存の建築物においても利用が可能である。平成 28
年4月以降、評価対象に住宅が追加されている。
渡 辺 晋 の ビルマネジメントゼミナール
図表-3 BELSの表示例
図表-4 eマークの表示例
図表-5 エネルギー消費性能向上計画の認定等(容積率特例)
○新築及び省エネ改修を行う場合に、省エネ基準の水準を超える誘導基準等に適合している旨の所管行政
庁による認定を受けることができる
○認定を受けた改修工事については、容積率等の特例を受けることができる
認定基準
【具体的な設備例】
①誘導基準に適合すること
※エネルギー消費性能基準を超えるものとして、経済産業省令・国土交通省令で定
める基準
②計画に記載された事項が基本方針に照らして適切なものであること
③資金計画が適切であること
排熱を給湯などに有効利用することで
高い総合効率を実現するシステム
容積率特例
出典:
「住宅・ビル等の省エネ性能 の表示について」(国土交通省)
http://www.mlit.go.jp/common/001122749.pdf
○コージェネレーション設備
電力の使用先でガスを使って発電し、
・省エネ性能向上のための設備について、通常の建
システム外観
脱硝装置付ボイラ
築物の床面積を超える部分を不算入
〈対象設備(イメージ)〉
①太陽熱集熱設備、②太陽光発電設備、③燃料電池設備、
表示協会により運用がなされており、第三
者の評価実施機関(BELS 評価機関)が評
価・認証の事務を行っている。性能に応じ
④コージェネレーション設備、⑤地域熱供給設備、⑥ヒートポ
ンプ式熱源措置と併せて設ける蓄熱設備、⑦蓄電池設備(再
エンクロージャー
・エンジン ・発電機 ・発電機盤
熱交換器
サイレンサー
生利用可能エネルギー発電設備と連携するものに限る)
出典:
「エネルギー消費性能向上計画の認定等 」
(国土交通省)http://www.mlit.go.jp/common/001100765.pdf
て5段階で★表示がなされる 図表-3 。
務化する」との内容が閣議決定されている。規制措置は、
(ロ)eマーク
この計画に沿って立法化された施策である。
eマークは、建築物省エネ法36条に基づいて、建築物
まずは、建築物省エネ法によって、新築の建築物のうち、
省エネルギー性能を表示する制度である。省エネ性能が基
大規模な非住宅建築物(特定建築物、床面積が2,000㎡以
準に適合していることを行政庁(国や自治体)に申請して、
上とされる予定)の大規模な非住宅について、エネルギー
審査を通った場合に認定がなされる。
消費性能(省エネ性能)基準に適合することを義務化され
既存建物の改修時などにおいて利用されることが想定さ
ることになる。
れているが、新築でも、建築物竣工後に認定を受けること
基準に適合しないと、建築確認を得ることができなくな
ができる。
る。従前は、省エネのための方策において、建築に関する
eマークの判定にはBELSのシステムが用いられ、ま
義務規定(規制措置)は設けられていなかったのであり、
た、審査を受けて表示できる内容もBELSとほぼ同様であ
極めて重要な改正である。エネルギー基本計画が閣議決定
る。表示においては、星やエネルギー消費量の情報が省略
のとおりに実施されるならば、今般の非住宅・大規模建築
された形式となっている 図表-4 。
物の基準適合義務化に続いて、段階的に義務化の範囲が広
(2)容積率特例
建築物省エネ法は、新築・改修の計画が、省エネ基準を
げられることになる。
(2)届出制度
超える「誘導基準」に適合する等の認定を所管行政庁から
一定規模以上の建築物(300㎡とされる予定)について
受けた建築物について、容積率の特例を受けることができ
は、新築、増改築に係る計画の届出義務を課し、省エネ基
る仕組みを創設した。
準に適合しないときは、必要に応じ所管行政庁が指示・命
省エネ性能の向上を図るために必要な設備を設置するこ
令を行う。
とにより通常の建築物の床面積を超える部分は容積率の算
定基礎となる床面積に算入しないこととされる 図表-5 。
3 Ⅱ規制措置
(1)基準適合義務
3
まとめ
建築物省エネ法は、建築と建物管理の分野における省エ
ネ法であり、多くの重要なルールが設けられている。
省エネ法に基づくエネルギー基本計画として、平成26
これからは、ビルマネジメント業務における様々な場面
年(2014年)4月、
「規制の必要性や程度、バランス等を
において、この法律に則って実務を行わなくてはならない
十分に勘案しながら、平成32年(2020年)までに新築住
のであり、ビルマネジメントに携わる方々にとって、この
宅・建築物について段階的に省エネルギー基準の適合を義
法律によって設定されるルールの理解は必須である。
No.168
IS H IZ U E
19
連載
ビル管理業務の内容精査と
コストの最適化方策
信田 直昭
ビル管理コストの削減を立案するに際して、真っ先に着手されやすいのが清掃業務の分野である。この
背景には、家庭における「 掃除 」 の延長線上にビル清掃業務を位置付けているものと推察されるが、ビル清
掃の 「 品質 」は、賃料収入の源泉である「 テナント満足度 」に直結する極めて重要なビル管理サービスであ
る。今回はテナント満足度の維持向上に極めて重要な位置を占めるビル共用部の清掃業務に関して、清掃
品質を保ちつつコスト最適化を達成するための視点 ・ 論点 ・ 方策などを概観する。
「ビル清掃業務」 の品質向上と
コスト最適化に向けた論点・方策(前編)
第8回
の植栽や植込みが枯れたまま放置されている光景を見かけ
1.ビル清掃の特徴
ることも少なくない。このような管理不十分の物件では、
入居ビルの選定・内覧に訪れた担当者が、薄汚れた玄関
(1)「テナント満足度」 に直結する清掃品質
ホールに呆れて内覧を取り止めるなど、優良テナントを逃
オフィスビルの玄関ホール、エレベータホール、トイレ
がしてしまう場合も少なくない。
・給湯室など、テナント従業員が朝一番に利用する場所の
賃貸オフィスビルなどでは、最新式の空調システムや省
清掃作業は、出勤が始まる朝8時頃には完了している必要
エネ設備など最新鋭の設備機器が高い評価を得るのは当然
がある。
しかし現実には、
玄関ホールの清掃が出勤ラッシュ
だが、現実には 「清潔感溢れるトイレ」、「清涼感のある
時までに完了していなかったり、利用が集中する始業前や
玄関ホール」 など“ローテク”の代表格であるビル清掃
昼休みにトイレ清掃を行うなど、テナントへの配慮に欠け
の 「品質」 が入居テナントの満足度に大きな影響を与える。
た不適切な作業スケジュールで利用者に不快感を与えてい
ビル清掃業務を 「掃除」 の延長線上で捉えるのは危険と
るケースも少なからず見受けられる。
いえるだろう。
さらに、清掃業務の委託契約では、毎日実施予定の 「玄
(2)ビル管理コストの3割前後にも及ぶ清掃コスト
関外回り」 などの外構清掃が、実際には汚れが相当目立っ
図表 -1 は、本連載第2回で示した 「ビル管理コスト最
てきてからようやく着手したり、ビルに潤いを与えるはず
適化の目安水準」 における各業務別コストの構成比であ
図表-1 ビル管理業務各分野のコスト構成比(例示)
物件:N
物件:Y
物件:S
3,000㎡
20,000㎡
328,000㎡
500,000㎡
有効 /賃貸面積
(坪)
650 坪
4,400 坪
70,000 坪
106,000 坪
設備日常運転監視業務費(常駐 / 巡回設備員等)
1
2-1
設備定期保守点検業務費
2-2
「特殊設備」定期保守点検費
3
警備業務費(常駐 / 巡回警備員・機械警備費等)
4
駐車場運営業務費
5
環境衛生業務費(共用部清掃・ゴミ処理等)
6
その他保守管理費(植栽管理費)
〈 合計 〉
(出所)筆者作成
20
物件:Ⅰ
延床面積
(㎡)
I SH I ZU E
Summer 2016
4.7%
31.8%
12.9%
13.4%
46.6%
27.5%
32.8%
26.6%
0.0%
0.0%
6.8%
0.0%
10.1%
3.0%
17.7%
28.6%
0.0%
0.0%
4.7%
5.3%
37.1%
37.0%
22.6%
25.4%
1.6%
0.7%
2.5%
0.7%
100%
100%
100%
100%
ビル管理業務の内容精査と
コストの最適化方策
Profile
Shidaインベストメント&マネジメント 代表
信田 直昭 Naoaki Shida
1984 年東京工業大学大学院社会開発工学専攻修了、森ビル(株)な
どを経て、2008 年信田商事(株)不動産経営管理部門担当取締役及
び Shidaインベストメント&マネジメント代表に就任。現在、
(公財)日本建
築衛生管理教育センター教授、明治大学専門職大学院グローバル・ビジ
ネス研究科兼任講師を兼務。
るが、これによれば、「共用部清掃・ゴミ処理等」 に必要
担となる。
となる清掃コスト(環境衛生業務費)は、ビル管理コスト
ビルの清掃作業の基本は 「床面清掃」 だが、建物空間
合計の3割前後を占める極めて大きなコスト分野となって
は 「床・壁・天井」 の3要素で構成されており、清掃員の
いる。この背景には、機械化・無人化の進展が著しい設備
手が届く範囲の壁面や手摺、例えば 「トイレブース内外
管理や警備保安業務に比べて、例えば、狭小空間に衛生陶
壁面」、「内階段の手摺」 などの除塵は、その材質に適し
器が密集し汚染も顕著なトイレ・給湯室、多様な形状を有
た方法により、床面清掃の一環として適宜行うのが一般的
する建物立面・窓ガラスなど、ビル共用部の清掃業務は機
である。ただし、築年数の経過などにより壁面や天井面の
械化が難しい部位が少なくないことが指摘できる。
汚れが著しいような場合には、
特殊な洗剤などを用いた
「特
テナント満足度に直結しコスト構成比も大きな清掃業務
別清掃」 を別途予算により実施する。
の内容精査とコスト最適化は、清掃部位の形状や利用頻度
加えて、「床面清掃」 とともに、ガラス面が多いオフィ
など、それぞれの清掃現場の状況に応じて柔軟かつ的確に
スビルなどでは、「窓ガラス清掃」 も室内快適性を保つ重
立案・実施することが不可欠といえるだろう。
要な清掃作業である。この作業は、建物の屋上などから専
用のゴンドラやロープで作業員が吊り下がり、スクイージ
2.清掃業務コストの精査 ・
削減プロセスとポイント
と称する清掃用具を使ってガラス面を拭き上げる危険な高
所作業である。このため窓ガラス清掃は、一般の床面清掃
とは異なり、安全教育・訓練を受けた人材が必要となる。
参考として、 図表-3 に、一般的なオフィスビル 「共用部」
(1)清掃業務の構成と作業仕様
清掃作業の概要(以下 「清掃仕様書」)を示した。
図表-2 は、オフィスビルなどの主な清掃部位を整理した
清掃作業の構成・内訳は、 図表-2 で整理したような 「共
ものである。ビル清掃は大きく分けて、玄関ホール、各階
用部」、「専用部」 といったコスト負担による区分のほかに、
エレベータホール・廊下・トイレ・給湯室などの 「建物共
清掃作業の方法や目的の違いによって、 図表-3 に示したよ
用部」 と、テナント貸室などの 「建物専用部」 に区分さ
うな 「日常清掃」 と 「定期清掃」 に区分できる。
れるが、これらの清掃コストは、通常の商慣習では、「建
「日常清掃」 は、文字どおり、エレベータホール、廊下、
物共用部」 はオーナー負担、「建物専用部」 はテナント負
トイレなどの床面を掃除機やモップを使って実施する日々
の除塵・掃き拭き作業であり、この日常的な作業がビル清
図表-2 ビル清掃業務の基本構成
建物共用部
・床面清掃:玄関・エレベータホール、廊下、トイレ・給湯、内
外階段、バックヤード、外構など
・立面清掃:廊 下・ホール・階段等の壁面全般、エレベータ内
部・エスカレータ側面など
・高所清掃:窓ガラス・サッシ、外壁面、吹抜け側面など
建物専用部(テナント貸室内部)
・床面清掃:執務室、応接・会議室、通路など
・ゴミ収集:可燃・不燃・リサイクル、産業廃棄物など
掃の基本となる。
一方 「定期清掃」 には、樹脂製シートなどの床面に塗
られた保護剤の汚染を除去し再塗布する 「ワックス清掃」
や、特殊な専用機材を用いて実施する絨毯・カーペットの
「洗浄クリーニング清掃」 が挙げられる。これらの作業は、
土日祝祭日などビル利用者の少ない日時を選んで、日常清
掃では取りきれない汚染を月1回∼年数回の頻度で除去す
る専門的な清掃作業となっている。
(2)清掃仕様書と現場作業の乖離~不可欠となる清掃品
質の担保~
図表-2 、 図表-3 でも分かるとおり、オフィスビルなどの
清掃作業は複雑多岐に渡る個別作業で構成されており、こ
No.168
IS H IZ U E
21
図表-3 「建物共用部」 清掃仕様書の例示
御影石
2/日 2/日 1/日
1/日 適宜
エントランス、風除室
御影石
2/日 2/日 1/日
適宜
適宜 適宜 適宜
1/月
2/日 2/日 1/日
1/月
1/月
1F
廊下
御影石
適宜
適宜 適宜
2~6F
廊下
タイルカーペット 1/日
1/日
適宜
適宜 適宜
7・8F
廊下
Pタイル
1/日
1/日
適宜
適宜 適宜
1/月
B1F~屋上 内階段
Pタイル
1/日
適宜 1/日
適宜 適宜
1/月
1F~屋上
コンクリート
適宜
適宜 適宜
適宜 適宜
外階段
各階
湯沸室
Pタイル
2/日 1/日 1/日
適宜
各階
男・女トイレ
塩ビシート
2/日 2/日 2/日 1/日
適宜
適宜
各階
ELV・カゴ床
弾性床材
1/日
1F
駐車場
コンクリート
1/日 1/日
1F
建物廻り
コンクリート
1/日
1F
植込み
1F
消火栓
真鍮
1/日 適宜 1/日
適宜 2/月
適宜 適宜
1/月
1/日 1/日 適宜 適宜 適宜
1/月
適宜
窓ガラス清掃
ホール
カーペットクリーニング
1F
1F
カーペットシミ抜き
1/月
定 期 清 掃
床面洗浄ワックス
散水
適宜 適宜
排水口の清掃
マットの清掃
巾木掃き 清 掃
金属磨き
ペーバー水石鹸の補給作業
衛生陶器の清掃
床面材質
鏡みがき
茶殻の処理
湯沸器の掃除
流し台の清掃
手摺の拭き掃除
ドアの拭き掃除
電話機の空拭
窓台の除塵
紙屑処理
場所
吸殻捨灰皿清掃
階数
床の掃き拭き
作業種別
日 常 清 掃
適宜
1/月
適宜
適宜
適宜
適宜
適宜
適宜
屋上
床
コンクリート
適宜
1F
管理室・管理人室
Pタイル
1/日 1/日 1/日
1F
ゴミ置場
コンクリート
1/日
窓ガラス
ガラス
適宜
適宜
1/月
1/月
1/月
れらの作業内容は、通常、清掃業務委託契約の付随文書で
悪質な業者が、「早朝2名・夜間1名」 を投入して所定の
ある 「清掃仕様書( 図表-3 )
」 に記載される。しかし問題
清掃作業を行う契約のところを、
「午前中1名」 の清掃パー
なのは、「清掃仕様書」 と清掃現場の作業内容がしばしば
トを投入しただけで約8年間も暴利を得ていたケースも
食い違っていることである。
あった。
もちろん、契約時に想定した作業計画と現実の作業がく
このような悪質なケースは論外としても、「契約で定め
い違うことはあり得るが、例えば、コンピュータや通信機
られた清掃作業は一応こなすが、ビルの美観を保つ姿勢は
器が大半を占める機械室のような空間では、トイレや廊下
見受けられない」 といった姿勢の清掃業者は、現実には
の汚染度は総じて低くなる。このようなケースでは、毎日
少なからず存在している。そして、このような 「姿勢」
2回予定していたトイレ清掃を1回に低減させるような応
を残したままで、清掃コストだけを削減した場合には、そ
用動作はもちろんあり得る。しかし、そのような現場判断
の清掃現場は明らかに
“安かろう悪かろう”
の悪循環に陥っ
により余った人員・マンパワーは、例えば、来客が予想以
てしまうことになる。清掃業務の内容精査・コスト最適化
上に多く汚染度合いが顕著なフロアーの廊下・トイレなど、
の実施に際しては、「適切なコストで必要十分な清掃作業
当初想定した作業量では汚れが除去しきれない空間の清掃
を着実に実施する」 ための体制(清掃 「新体制」)の整備
作業に傾斜配分されるべきであろう。
が最も重要になるといえるだろう。
しかし現実には、「作業の間引き」 は積極的だが、「作
業の増強」 には消極的なケースが少なからず見受けられ
る。「清掃業務委託契約」 の目的は、建物内外の美観を保
つことであり、清掃仕様書はそのための作業目安を記載し
3.ビル清掃 「 新体制 」 構築による
清掃コスト精査 ・ 削減
たものといえるだろう。
ちなみに、
私が実際に経験したケースとしては、
ビルオー
ナーがそのビルにほとんど寄り付かないことに気が付いた
22
I SH I ZU E
Summer 2016
(1)「コスト精査」 以前の状況
図表-4 は、「築10年・大規模ビル」 清掃業務の精査・コ
ビル管理業務の内容精査と
コストの最適化方策
スト最適化の結果概要である。
図表-4 「築 10 年 ・ 大規模ビル」 清掃コスト見積比較表(月額ベース)
清掃部分
主な材質
床面清掃が中心 壁面清掃は手の届く範囲で適宜実施
日常清掃
週5日
定期清掃
原則月1回
立面
清掃
エレベータホール
大型タイル
エレベータホール
花崗岩
エレベータホール
タイルカーペット
非常用エレベータホール ビニタイル
メインエントランス
花崗岩
女子トイレ
磁器タイル
男子トイレ
磁器タイル
身障者トイレ
長尺塩ビシート
階段A
大型タイル
階段B
タイルカーペット
階段C
塗装床
階段D
ビニタイル
休憩コーナー
タイルカーペット
付室A
大型タイル
付室B
タイルカーペット
付室C
塗装床
付室D
ビニタイル
湯沸かし室
長尺塩ビシート
廊下A
大型タイル
廊下B
花崗岩
廊下C
タイルカーペット
廊下D
塗装床
廊下E
ビニタイル
シャワー室
磁器タイル
浴室
磁器タイル
中央監視室
タイルカーペット
休憩室・仮眠室
タイルカーペット
防災センター
タイルカーペット
監視機械室
タイルカーペット
仮眠室
ビニタイル
ロッカー室
ビニタイル
駐車場管理室
ビニタイル
電話交換室
ビニタイル
守衛室
ビニタイル
脱衣室
フローリング
自動販売機コーナー
花崗岩
花崗岩
TELカウンター
自動販売機コーナー
タイルカーペット
タイルカーペット
TELカウンター
スロープ
大型タイル
スロープ
花崗岩
車路
塗装床
車寄コリドール
大型タイル
サービス用駐車場
塗装床
サービスドッグ
塗装床
屋内通路・コンコース
大型タイル
建物周辺外構
大型タイル
テラス
コンクリート
植栽
樹木・土砂
床面合計
(平均)
エレベーター
(本体)
エスカレーター
(本体)
外面
高窓ガラス・サッシ
内面
サッシ
仕様
高所
清掃
月1回
面積等
〈従前価格:A〉
単価
円/㎡
総額
円
〈精査結果:C〉
単価
円/㎡
本物件は、地上40階、延床面
総額
円
C/A
38%
46%
41%
21%
40%
46%
46%
39%
36%
24%
15%
62%
42%
48%
29%
44%
37%
45%
46%
46%
40%
44%
42%
56%
56%
46%
46%
46%
46%
42%
42%
42%
34%
42%
16%
46%
46%
40%
40%
47%
52%
41%
37%
41%
44%
47%
47%
38%
38%
517㎡
628㎡
2,646㎡
167㎡
1,654㎡
1,166㎡
1,184㎡
27㎡
71㎡
107㎡
211㎡
1,428㎡
1,526㎡
48㎡
159㎡
141㎡
2,637㎡
426㎡
173㎡
179㎡
9,209㎡
322㎡
538㎡
4㎡
3㎡
144㎡
14㎡
96㎡
42㎡
12㎡
28㎡
22㎡
44㎡
28㎡
9㎡
13㎡
5㎡
6㎡
6㎡
54㎡
16㎡
424㎡
152㎡
775㎡
131㎡
1,260㎡
1,302㎡
189㎡
74㎡
428
423
361
88
491
805
805
1,003
389
389
127
222
331
410
486
317
329
687
423
423
343
317
329
855
855
331
331
331
331
317
317
317
53
317
855
423
423
452
452
380
380
29
380
29
317
380
380
48
48
221,301
265,644
954,278
14,662
812,114
938,895
953,325
27,092
27,595
41,588
26,856
317,712
505,106
19,668
77,334
44,697
866,255
292,573
73,179
75,717
3,163,129
102,074
176,864
3,420
2,565
47,664
4,634
31,776
13,902
3,804
8,876
6,974
2,324
8,876
7,695
5,499
2115
2,712
2,712
20,520
6,080
12,296
57,760
22,475
41,527
478,800
494,760
9,072
3,552
196
196
148
18
196
374
374
392
139
95
19
139
139
196
139
139
121
308
196
196
139
139
139
483
483
151
151
151
151
133
133
133
18
133
133
196
196
181
181
178
196
12
139
12
139
178
178
18
18
83,897
123,088
392,402
3,006
324,184
436,084
442,816
10,584
9,869
10,165
4,009
198,492
212,114
9,408
22,101
19,599
319,077
131,208
33,908
35,084
1,280,051
44,758
74,782
1,932
1,449
21,744
2,114
14,496
6,342
1,596
3,724
2,926
792
3,724
1,197
2,548
980
1,086
1,086
9,612
3,136
5,088
21,128
9,300
18,209
224,280
231,756
3,402
1,332
30,017㎡
33基
16基
376
11,300,048
160
4,815,665
43%
15,603
20,280
514,914 6,220
324,480 7,850
205,260
125,600
40%
39%
28,000㎡
170
合計
4,760,000
150
4,200,000
88%
16,899,442
合計
9,346,525
55%
「建物共用部」 清掃単価(精査前 : 月額ベース)
・ 床面合計(平均)
:@376円/㎡(日常清掃:週5日+定期清掃:原則月1回)
積が約16万㎡の超高層ビルだ
が、清掃 「新体制」 の構築以
前には、共用部の清掃業務が
合計9社(床面清掃8社・窓ガ
ラス清掃1社)に分割発注さ
れていた。
清掃業務は 「作業のスケー
ルメリット」 が享受できる分
野である。このため、清掃コ
ストを最適化するためには、
優良な清掃会社の絞り込みと、
厳選した優良清掃会社に対す
る業務発注量を拡大する工夫
が有効となる。
図表-4
の 「従前価格:月額
1,690万円」 は9社へ分割発注
された委託金額を合計した数
値だが、図表内の各清掃部位
ごとの作業単価を比較してみ
ると、割高傾向が顕著である
ことがわかる。 ちなみに、本物件の清掃業
務が 「作業のスケールメリッ
ト」 を無視して合計9社もの
清掃会社に分割発注されてい
た背景には、大規模ビルの建
設に際したオーナーや関係者
の様々な取引慣行や思惑など
を窺うことができるが、この
ような事態は、地価は上昇し
続けるとした“土地神話時代”
には日常的な現象だったとい
えるだろう。
次号では、清掃コスト精査・
削減の実務ポイントと清掃品質
の維持向上に向けた方策・留意
点などに関して概観する。
・ エレベータ :@15,603円/基
・ エスカレータ :@20,280円/基
・ 窓ガラス清掃 :@170円/㎡(積算面積:ガラス片面ベース、清掃作業:ガラス両面・サッシ含む)
No.168
IS H IZ U E
23
I S H I ZU E
NO.1 6 8
COVER PHOTO
「六本木三丁目東地区第一種市街地再開発事業」
(オフィス棟:住友不動産六本木グランドタワー)
DATA
「住友不動産六本木グランドタワー」は、再開発の中核となる地上43階建て、最高
高さ約231m、
延床面積約178,630㎡のオフィスタワーです。
2016年秋に全体のグランドオープンを予定していますので、
ご期待ください。
CO NTE NT S
2
いしずえニュース
理事長就任のご挨拶 一般財団法人 日本ビルヂング経営センター 理事長 櫻井 康好
退任のご挨拶 藤田 真
日本ビルヂング経営センター 第84回理事会/日本ビル経営管理士会 第37回理事会を開催
平成27年度事業報告・収支決算を承認
日本ビルヂング経営センター第44回評議員会を開催
日本ビルヂング経営センター 第85回理事会/日本ビル経営管理士会 第38回理事会を開催
役職役員を選任
セミナー開催報告
ビル経営研究セミナー/ビル経営セミナ/CBAセミナー
六本木一丁目駅の駅前拠点まちづくり
6
『六本木三丁目東地区第一種市街地再開発事業』
(オフィス棟:住友不動産六本木グランドタワー)
新たな街づくりにより、大街区「泉ガーデン」が誕生
力石 靖 住友不動産株式会社 都市開発事業本部 都市開発一部 都心第四事業所長
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ビル市況レポート⑩
好調なオフィス市場の背景と今後の見通し
坂本 雅昭 ㈱三井住友トラスト基礎研究所 投資調査第2部 上席主任研究員
16
渡辺晋のビルマネジメントゼミナール│Vol.25
建築物省エネ法がビル建築・ビル管理に与える影響
渡辺 晋 弁護士 20
ビル管理業務の内容精査とコストの最適化方策 第8回
「ビル清掃業務」の品質向上とコスト最適化に向けた論点・方策(前編)
信田 直昭 Shidaインベストメント&マネジメント代表
いしずえ│ No.168 │ 2016年 7月20日発行
発行
一般財団法人 日本ビルヂング経営センター[BMI]│日本ビル経営管理士会[JBMS]
JAPAN BUILDING MANAGEMENT INSTITUTE/ JAPAN BUILDING MANAGERS SOCIETY
所在地
〒100-0004 東京都千代田区大手町1-6-1(大手町ビル837区)
TEL.03-3211-6771 FAX.03-3211-6772
http://www.bmi.or.jp/
《禁無断転載》
※本誌は、日本ビル経営管理士会の機関誌を兼ねて、
一般財団法人日本ビルヂング経営センターが発行する機関誌です。
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