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1 福祉都市環境整備指針改定の背景 (PDF形式, 425.96KB)

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1 福祉都市環境整備指針改定の背景 (PDF形式, 425.96KB)
<この指針の目指すもの>
年齢の違いや障害の有無にかかわらず、すべての市民がお互いの理
解を深め合い、共に手を携える「人にやさしいまち名古屋」を実現す
るため、この指針は福祉的観点からのまちづくりの基本理念や、福祉
のまちづくりを推進していくための具体的な方策、及び公共的建築物
・道路・公園・公共交通機関などの都市施設(以下「都市施設」とい
う。)を整備する上での標準的な技術的基準について明らかにします。
<この指針の構成>
Ⅰ
福祉都市環境整備指針改定の背景
ここでは福祉を取り巻く社会的背景と本市の福祉のまちづくりの現
状と課題に触れながら、指針改定の趣旨を明らかにしていきます。
Ⅱ
福祉のまちづくりの基本理念
ここでは本市の目指す福祉のまちづくりイメージを基本理念として
掲げ、基本理念実現にあたっての今日的課題を示しています。
Ⅲ
福祉のまちづくりの推進方策
ここでは福祉のまちづくりの推進に向けての具体的な施策の展開・
方向性について明らかにします。
設計・施工上の標準としての技術的基準
高齢者や障害者を始めすべての市民の誰もが日常的に利用する都市
施設の使い易さ、行動し易さを確保するための整備標準を明らかにし
たものです。
Ⅰ 福祉都市環境整備指針改定の背景
1
福祉のまちづくりの社会的背景
わが国の急速な少子・高齢社会の到来は、介護保険制度の導入を柱に、地域密
着型福祉、福祉産業振興、利用者の費用負担といった福祉方向性をより明確に打
ち出すこととなり、生活困窮者の救護に始まったこれまでの戦後型福祉は(その
対象の拡がり、ニーズの多様化への対応を経
ながらも)、社会福祉法成立により、「措置」
『ハートビル法』…
から「利用契約」へ、すなわち対象者自らが
高齢者、身体障害者等が円滑に利用でき
自己決定し選択する福祉へとその性格を転換
る特定建築物の建築の促進に関する法律。
することとなりました。
平成6年9月施行。平成 14 年 7 月改正。
こうした社会生活における自己選択権、自
『交通バリアフリー法』…
高齢者、身体障害者等の公共交通機関を
己決定権尊重の理念は、高齢者や障害者一人
利用した移動の円滑化の促進に関する法
ひとりの“自らの力で生きたい”という基本
律。平成 12 年 11 月施行。
的な願いとあいまって、高齢者や障害者の「
自分の意思で街へ出たい」、「自分の選択で街
バリアフリー化を意図する意味では同じ
を歩きたい」という気運の高まりを呼び起こ
趣旨の2法であるが、後者が罰則規定を設
けるなど、より実効性を担保している点で
し、また、いわゆる『ハートビル法』、『交通
規制法的な性格を有している一方、前者で
バリアフリー法』など法的整備も進む中で、
はこれまで罰則規定がなく、誘導法的な性
福祉のまちづくりは一層重要な課題となって
格にとどまっていたが,今次改正で罰則規
きました。
定を設け、より実効性を挙げることとして
いる。
2
本市の福祉のまちづくり
∼現状と課題∼
(1)本市の福祉都市環境整備の課題
建築物の利用円滑化、公共交通機関の移動円滑化といったバリアフリー整備基
準の法制化をめぐる国の動きに先立ち、本市では平成3年に『福祉都市環境整備
指針』を策定しました。当時としては先駆的な整備方針や技術的基準により、公
共的建築物についてはエレベーターやエスカレーターの設置、スロープの設置等
各種バリアフリー設備の充実を、道路、公園については段差部の切下げ処理、視
覚障害者用誘導ブロックの敷設、車いす使用者対応トイレの設置等を、公共交通
機関についても駅舎内エレベーター、車いす使用者対応トイレのほか、バス車両
のノンステップ化の推進などに取り組んできました。
しかし、策定後10年を経て国の法制化が進んできたことを受け、当該基準に
そぐわない箇所が出てきたり、福祉のまちづくりへの関心や気運が高まり、障害
種別によるニーズの多様化・個別化が顕著になってきました。
1
(2)『市政世論調査』及び『身体障害者実態調査』から
指針改定の参考とするため、平成 12 年 12 月の『市政世論調査』において、これ
までの本市の「福祉のまちづくり」施策についてお尋ねしました。その結果、本市の
福祉的環境整備の取り組みについては一定の評価を得ていること、併せて都市施設
整備での福祉的配慮ということへの意識も高まってきていることが伺えます。
また、同時期実施の『身体障害者実態調査』でも、障害者の側からのまちづくり
や市民への期待として「歩道に自動車を停めたり、自転車を放置しないでほしい」
、
「病気や障害のことをもっと理解してほしい」といった声が多く寄せられました。
これら二つの調査結果からも、高齢者や障害者一人ひとりの“まちの中へ”
、“社
会の中へ” という意識の高まりとともに、市民の福祉のまちづくりへの期待も今
後一層高まっていくことが予想されます。
物
物理
理的
的バ
バリ
リア
ア
建築物、道路、公共交通機
関などの都市施設のバリア
情報通信へのアクセス、その
他サービス享受に関するバリア
文
文化
化的
的バ
バリ
リア
ア
高
高齢
齢者
者、
、障
障害
害者
者を
を取
取り
り巻
巻く
く
4
4つ
つの
のバ
バリ
リア
ア
制
制度
度的
的バ
バリ
リア
ア
雇用、就学等の社
会制度上のバリア
心
心理
理的
的バ
バリ
リア
ア
偏見、
差別等の意識、
情緒面でのバリア
2
Ⅱ 福祉のまちづくりの基本理念
社会はさまざまな人々の集まりで成り立っています。
そしてすべての人々は、社会を構成する一員としてあらゆる社会活動に参加する権
利と責務を有しています。
ノーマライゼーションの理念は、高齢者や障害者を社会に適応・矯正させていくの
ではなく、高齢者や障害者が住み慣れた地域でごく当たり前に暮らせるように、社会
の側から環境を整えていこうとする考え方ですが、物理的、制度的あるいは心理的な
面においてもわが国は、未だこの理念が実現しているとは言えない現状があります。
一方で、高齢社会を迎え、誰もが老い、誰もが障害を有する可能性があるということ、
またWHO(世界保健機関)においても、障害は、個人の身体機能・能力面での問題
に帰結するのでなく、社会要因(施策、制度等)が契機となって創られるものだとす
る認識に変わってきており、ノーマライゼーションの実現は、一部の人々の問題では
なく、まさしく自分たちの身近な問題であり、早急に取り組んでいかなければならな
い課題のひとつとなってきています。
世界保健機関(WHO)が国際障害分類を改訂しました
これまでは、障害というものを疾病、損傷など医学的所見による個人的な問題として
捉え、その対処は個人のより良い適応と行動の変化を目標とした医療的・保健的ケアが
課題とされてきました。
これまでの障害分類による構造
疾病/変調
⇒ 機能障害 ⇒ 能力障害 ⇒ 社会的不利
新しい分類では、障害は個人の問題に帰結するものではなく、その多くが社会環境に
よって創り出されるものであり、それ故誰もが環境によって機能障害や活動制限が生じ
てくること、また、その対処も施策としての社会環境への介入がより重要になってきて
いることを示すものです。
新しい障害分類による構造
健康状態(疾病/変調)
身体機能・構造 ⇔
活
動
⇔
参
背景因子(環境的/個人的)
加
例えば、同じレベルの歩行困
難さ(移動制約)があったとし
ても、駅施設や道路などがバリ
アフリーになっていれば、そう
した整備の遅れた環境で生活す
ることに比べ、
(社会)活動や
(社会)参加がし易くなるとい
うものです。
新世紀初頭に改定されるこの指針が、こうした潮流を追い風に、生活者の視点に立ったぬくもり
のある名古屋のまちづくりに寄与できるよう、また次世代を担う子どもらへの希望の橋渡しとなる
よう、以下の3つの理念を掲げることとしました。
3
人間性が尊重された生き生きとしたまち
私たちは、年齢の違いや、障害の有無に関わらずすべて
の人々が生き生きと暮らし、日々活動することができるま
ちづくりをめざします。
3
つ
の
基
本
理
念
人にやさしい安全・快適環境のまち
私たちは、すべての市民が行動したり利用し
たりする上で支障となっている都市施設の物理
的障壁(バリア)を除去し、市民の誰もが安心
して快適に暮らせるまちづくりをめざします。
共に生き、共に築く魅力的なまち
私たちは、市民一人ひとりがお互いの理解を深める
とともに、身体的差異なども差異としてありのまま認
め合い、支えあえるような心のバリアフリーの行き届
いた魅力あるまちを、共に生き、共に手を携えて築い
ていくことをめざします。
4
今なおわが国では、高齢者や障害者を社会全体で支える考えや仕組
み(システム)が十分に育ってきているとは言えません。
「自己選択」、「自己決定」の尊重の理念は、まちづくりを始めあら
ゆる社会システムを見直していこう、また当事者として当然に社会参
加できるような、生活者主体の支援体制を再構築していこうと強く促
課 題 認 識
すものです。
ここでは支援を受ける側も、一方的に恩恵を受けるだけの受け身の
姿勢ではなく、主体的に自らの生活設計を組み立てていくことが大切
であり、そのためにも必要な条件整備(行政等への市民参加の仕組み
づくり、都市基盤のバリアフリー化等)が急がれます。
住まいや街並み、公共交通施設といったハード面でのバリアフリー
が進んだまちは、誰もが自由に行動でき、高齢や障害を感じさせない
まちです。
また、災害など緊急時の高齢者、障害者の避難行動を容易にする上
でも、ハード面のバリアフリー化は極めて有効な手法であり、安心と
課 題 認 識
安全の配慮が行き届いたまちでもあります。
しかし、たとえば視覚障害者用の設備が高齢者や車いす使用者の新
たなバリアになったり、逆に車いす使用者用のものが視覚障害者には
利用しにくい状況になったりということがあります。
年齢や身体的要件にかかわらず、すべての人が利用し易いように配
慮された普遍的なデザインであるユニバーサルデザインの視点に立
ち、面的・一体的なバリアフリー整備についてのしっかりとした考え、
方針を持つ必要があります。
例えば、高齢者や障害者に対する配慮、親切という態度でさえ、往々
にして支援を「する側」と「される側」という立場の固定化を促す心理
的バリアになるという指摘があります。また、こうした同情的な心のあ
り方は、時として偏見や差別感情、排除の論理にまで到る場合もありま
す。
課 題 認 識
偏見や差別意識はいつ、どこにでも遍在する心のスキのようなもので、
感情によって支えられている分、論理のみでは解消しにくい側面があり
ますが、私たち一人ひとりの不断の努力によって誤った根拠に基づく先
入観や固定的イメージを取り払い、一日も早い解消を図らねばなりませ
ん。
5
Ⅲ 福祉のまちづくりの推進方策
3つの基本理念を具体化するため、次の施策の体系に基づいて、推進方策を展開します。
施策の体系
1 福祉のまちづくりをすすめるための仕組みづくり
人間性が尊重された生き
生きとしたまち
3
3
つ
つ
の
の
基
基
本
本
理
理
念
念
(1)パートナーシップによるまちづくり
(2)当事者らによる検証システムの確立
(3)まちづくり事業の進行管理
2 都市施設整備の推進
人にやさしい安全・快適環
(1)総合的かつ面的な整備の展開
境のまち
(2)公共的建築物等整備の推進
(3)関連事業の推進とその成果の活用
(4)ユニバーサルデザインの普及促進
3 心のバリアフリーの推進
共に生き、共に築く魅力的
(1)広報・啓発の推進
なまち
(2)研修事業・教育施策との連携
(3)地域福祉の推進、ボランティアの育成・支援
1
福祉のまちづくりをすすめるための仕組みづくり
これまでのまちづくりは、その運営・設計は自治体、事業者、プランナーといっ
た専門家集団が行うものが多かったのですが、最近では、当事者主体によるまちづ
くりの気運が高まり、関係する市民がそれぞれの分野での多様な知識・情報を共有し
ながら、多角的に、また協調的、継続的に創造していくことこそまちづくりだとする
考え方が芽生えてきています。
これは、まちづくりを実現するためには、どのような問題が存在し、どのような
解決方法があるのか、また、市民同士の意見の相違はどう調整していったらよいの
か、を参加者全員が自分たちの問題として受けとめていく過程(プロセス)こそ重
要だとする考え方です。
本市の福祉のまちづくりにおいても、こうした活動手法を取り入れることで、主体者意識を
高め、自らの役割や責任の自覚を促していくことをめざしていきます。
6
(1)パートナーシップによるまちづくり
〇
市民、事業者、行政が実地現場での共同作業を通じて企画・立案するワークショップ
の手法を取り入れるなど、まちづくりの企画段階で市民、当事者らの創意工夫が活かせ
る仕組みづくりに努めます。
(2)当事者らによる検証システムの確立
〇
施設利用者である市民、障害当事者のバリアフリー検証などを行い、効果的な整備の
推進に努めます。
〇
バリアフリー整備の技術的基準については、法制度等の全国標準や市民の方からの意
見を参考に改定をしていきます。
(3)まちづくり事業の進行管理
〇
「福祉のまちづくり推進委員会」を活用し、バリアフリーなまちづくり全般について
進捗管理に努めます。
〇
効率的、効果的にまちづくりを推進するため、国、県などの行政機関始め民間関係団
体とも協調・連携に努め、総合的、一体的な整備を心がけます。
2
都市施設整備の推進
都市施設整備にあたっては、総合的かつ一体的に推進されるよう、面的、地域
的な広がりを考慮するとともに、情報のバリアフリーなどの関連施策やユニバー
サルデザインなどの新たな潮流への対応についても考慮していく必要があります。
(1)総合的かつ面的な整備の展開
たとえ施設個々にバリアフリーの整備が施されたとしても、それだけではまだ点の
整備にとどまり、真に高齢者や障害者の社会へのアクセスが向上したとは言えません。
また、車いす使用者用駐車場ができても立て札やカラーコーンが置かれたり、誘導ブ
ロックの上に自転車が放置されたりすれば、何らバリアフリー整備が機能していないこ
とになります。
〇
都市計画事業の機会を捉える等面的、一体的な整備に努めます。(同時に、そのバ
リアフリーの目的が達成されているかどうか、常時検証していくことが大切です。)
〇
公共サインなどは可能な限り図案、規格の統一化を図ります。
〇
障害者の多様なニーズに対応できる人的支援体制も考慮、検討していきます。
7
バリアフリー整備のための視点
面的・総合的な整備を進めるためには、個々の施設・設備の使い易さだけでなく、移動のし易さ、案内情報
の分かり易さ等も併せて配慮することが必要です。また、それらを考えるときには、高齢者、車いす使用者、
視覚・聴覚障害者等の特性を理解し、望ましい整備となっているかを配慮することが大切です。
整備視点
<高齢者>
・全般的な身体機能(平衡感
身体的特記・
覚も)の低下。
留意事項 ・言語理解力、記憶力低下。
・環境適応力の低下(温度変
化、使用機器に対して
も)。
・身体機能の急変(悪化)あ
り。
・階段の手すり、蹴上げな
ど昇降の負担を軽くす
るような工夫はなされ
〇各施設のバリアフリー化
ているか。
…エレベーター、エスカレー ・自販機、券売機等は使い
ター、トイレなど
易くなっているか。
〇付帯設備・施設の充実
・トイレには適切に手すり
〇近づき易さ、使い易さ
があるか。
・トイレに洋式便器がある
か。
施設・設備の使い易さ
(ユーティリティ)
移動のし易さ
(モビリティ)
・通路の表面は滑りにくい
か。
・経路は最短で見通しがよ
〇経路の短さと判り易さ
いか。
・視認性、直線性
・経路上の段差に上下両方
・一般動線との同一性
向の昇降設備があるか。
〇水平移動のし易さ
・階段等段差の有無は明確
・小段差の解消及び転倒・転
に識別できるか。
落防止
・休憩施設が適度に設け
〇垂直移動のし易さ
られているか。
・連続動線及び自力移動の可
能性
案内情報のわかり易さ
(アクセシビリティ)
・情報案内の文字は大き
く、わかり易いピクトグ
ラムを使用しているか。
〇適切な案内情報の提供
・音声案内は大きく明瞭
・基本的経路や施設の位置情
か。
報
・情報案内の位置、高さ、
〇内容、表示のわかり易さ
色に配慮されているか。
・大きさ、色、表示方法
・点字、触知型、音声
〇見つけ易さ
・見つけ易い配置
8
<車いす利用者>
・車輪駆動に適した移動面で
あること。
・通行、回転のための相応の
広さが必要。
・横方向の移動ができない。
・手の届く範囲が限られる。
・悪天候時の不便。
・利用可能なトイレがあるか
・エレベーターに専用の操作
盤や鏡があるか。
・カウンター、水のみ等に蹴
込みはあるか。
・車いすから各種機器の操作
ができるか。
・扉の開閉負担は軽減されて
いるか。
・出入口や通路は、十分な幅
員、回転スペースがあるか
・通路の表面は滑りにくい
か。
・一般の主要動線から大きく
離れていないか。
・経路上の段差に、自力で利
用できるエレベーターが
あるか。
・小段差にスロープがある
か。
・休憩施設が適度に設けられ
ているか。
・車いす使用に不都合な溝や
凸凹が解消されているか。
・情報案内は、視認角度を考
慮した位置、高さになって
いるか。
<歩行困難者等>
・突起物がある、濡れて
いる等の面では転倒し
易い。
・しゃがむのが困難。
・手の届く範囲が限られ
る。
・悪天候時の不便。
・通行、回転の広さが必
要。
・トイレには適切に手す
りがあるか。
・トイレに洋式便器があ
るか。
・階段の手すり、蹴上げ
など昇降の負担を軽く
するような工夫はなさ
れているか。
・出入口や通路は、十分
な幅員があるか。
・通路の表面は滑りにく
いか。
・経路は最短で見通しが
よいか。
・経路上の段差に、上下
両方向の昇降設備があ
るか。
・杖類の使用に不都合な
溝や凸凹が解消されて
いるか。
・休憩施設が適度に設
けられているか。
・情報案内は、見つけ易
い位置、高さに標示し
ているか。
※ 本表中の整備視点は代表的なものを示すものであり、本表をもってバリアフリー整備
の全部を包括するものではありません。 また、こうした整備がより効果的に活かされ
ていくためには、介助、応対等の人的支援の充実も重要です。
<歩行困難者等:松葉杖使用者の方始め、妊婦、ベビーカーを押す人なども想定しています。>
<視覚障害者>
<聴覚障害者> <内部障害者>
<幼児>
<知的障害
・音声情報が ・疲れ易い。 ・文字が読め 者・外国人等>
−全盲−
−弱視、視機能障害−
・文字が読め
得 ら れ な ・ペースメー
ない。
・情報伝達は音(聴覚)、触 ・視野が局限される。
ない。
い。
カー、人工 ・手、足の届
覚。
・形、色の認識困難。
・コミュニケ
肛門・膀胱
く範囲が限 ・格別の対応
…位置、周囲状況の把
(赤・緑系が灰色に見え
を要する場
ーションが
をつけてい
られる。
握困難
るなど)
合あり。
困難。
る場合あ
・複雑な機器、仕組みの
り。
ものは使いにくい。
・自販機、券売機等は使
い易いか。
・階段やスロープの両側
に手すりがあるか。
・施設・設備操作にあた
っての点字表示、触知
案内、音声案内はある
か。
・点字表示の位置は統一
されているか。
・自販機、券売機等は使
い易いか。
・点字表示、触知案内、
音声案内はあるか。
・点字表示の位置は統一
されているか。
・文字等によ
る必要な情
報案内があ
るか。
・経路は最短で、一連の ・文字等によ
る必要な情
連続した動線となって
報案内があ
いるか。
るか。
・誘導ブロックは適切に
敷設されているか。
・通路上に障害物はない
か。
・誘導チャイム等の音声
誘導があるか。
・白杖の使用に不都合な
溝や凸凹が解消されて
いるか。
・階段等段差の有無は明
確に識別できるか。
・触知案内板への誘導は ・触知案内板への誘導、
、 ・文字等によ
あるか。
また音声による誘導が
る必要な情
・適切な位置に点字、触知
あるか。
報案内があ
案内、音声案内がある ・情報案内は、適当な字
るか。
か。
の大きさ、位置、色に配
・音声案内は明瞭か。
慮されているか。
・誘導ブロックと床材の
色は明確に識別できる
か。
・情報案内は近づいてみ
ることができるか。
・経路は最短で、一連の
連続した動線となって
いるか。
・誘導ブロックは適切に
敷設されているか。
・通路上に障害物はない
か。
・誘導チャイム等の音声
誘導があるか。
・白杖の使用に不都合な
溝や凸凹が解消されて
いるか。
9
・階段の手す
り、蹴上げ
等昇降の負
担を軽くす
るような工
夫がなされ
ているか。
・トイレにオ
ストメイト
対応の水洗
器具がある
か。
・経路は最短
で見通しが
よいか。
・経路上の段
差に上下両
方向の昇降
設備がある
か。
・休憩施設が
適度に設け
られている
か。
・ボタン、ス
イッチの高
さ、位置は
適当か。
・トイレには
適切に手す
りがある
か。
・階段に手す
りがある
か。
・休憩施設が
適度に設け
られている
か。
・情報案内は ・情報案内は
わかり易い
わかり易い
ピクトグラ
ピクトグラ
ムを使用し
ムを使用し
ているか。
ているか。
・主要な用語 ・主要な用語
語にはひら
には英語、
がな併記が
ひらがな併
されている
記がされて
か。
いるか。
(2)公共的建築物、道路、公園、公共交通機関整備の推進
公共的建築物、道路、公園、公共交通機関の整備は、以下の考え方に基づき推進します。
本市の整備・設置する施設
公
そ の 他 の 施 設
民間建築物等の整備を先導する役割を果たすよう、この指針
「福祉のまちづくりのための建築
共
に定める技術的基準に基づく整備を推進するとともに、案内・ 物整備要綱」に基づく協議により、
的
誘導・介助などの人的対応への配慮にも努めます。
建
築
実効性ある整備を推進するととも
既設の施設は、十分な検証を行い、これを踏まえつつ改善・ に、整備が進んだ建築物への「やさ
工夫を行います。
しさマーク」の交付等により、既設
物
の施設も含めた整備を顕彰、奨励し
ていきます。
安全で快適な歩行者空間の確保を図るため、この指針に定め
道
法及び指針の趣旨の啓発や技術的
る技術的基準に基づき歩道の拡幅や段差解消に努めるほか、特 基準の適用についての働きかけに努
に高齢者・障害者の利用が多い施設周辺においては、きめ細か めます。また、地下街を始めとする
な整備・改修を推進していきます。
路
公共通路の地下歩行者空間について
また、歩行者の通行を妨げる自転車の放置などマナー違反の も、同様な働きかけをします。
解消を図るための対策や啓発を推進していきます。
この指針に定める技術的基準に基づき、公園へのアプローチ
公
法及び指針の趣旨の啓発や技術的
や公園内での移動のし易さに配慮した園路や各種案内板の整 基準の適用についての働きかけを強
備・改修、高齢者や障害者に配慮したトイレ、水飲み場、休憩 化します。
施設等の設置・改修に努めます。
園
また、地域住民等の積極的な参加により、地域のふれあいの
場となる特色のある公園づくりを推進します。
公
法及びこの指針に定める技術的基準に基づき、公共交通機関
法及び指針の趣旨の啓発や技術的
共
を利用した移動のし易さや安全性の向上を図るため、補助制度 基準の適用についての働きかけを強
交
を活用し、地下鉄駅へのエレベーターの設置、ノンステップバ 化するとともに、エレベーター設置
通
スの拡充や車内案内表示装置の設置などを進めます。
機
既設施設についても、改善・改修に努めます。
等に対する補助を活用した支援を行
います。
関
なお、この指針では、高齢者や障害者を始め市民の誰もが日常的に利用する都市施設の利用し易さ、行動
し易さなどを確保するため、整備上必要とされる設計・施工上の標準として技術的基準を定めています。
福祉環境整備の標示板「やさしさマーク」
福祉的整備が進んだ店舗や施設に対し、申請に基いて「や
さしさマーク」を交付し、インターネットやリーフレット
で紹介しています。
<お問合せ> 名古屋市健康福祉局障害福祉部障害施設課
℡ 052-972-2558 / Fax 052-972-4149
HP アドレス http://www.city.nagoya.jp/
10
(3)関連事業の推進とその成果の活用
高齢者や障害者一人ひとりの“まちの中へ、社会の中へ”というニーズに呼応して、高齢者や障害
者を地域社会の中に積極的に受け入れていこうとする支援施策が各種用意されていますが、これらとの
連携を図っていくことはもとより、とりわけ情報通信技術(IT)の高度化による情報のバリアフリーの
推進、災害など緊急時での避難・救助体制の拡充など、これらの成果のまちづくり施策への活用を図る
必要があります。
ただし、IT技術の利用には、技術の高度化が却って操作を難しくする、誤作動が多くなるなどとい
った新たなバリアとならないよう留意しなければなりません。
≪ 情報のバリアフリー ≫
〇 音声訳、点字訳、手話通訳、要約筆記、介助ボランティア派遣などのサービス事業
や福祉用具などに関する情報のネットワーク事業を推進していきます。
〇 インターフェイス(端末操作性)のバリアフリー化事業の普及・啓発に努めます。
… 国施策の『アクセシビリティ指針』などに基いた活字音声システム、翻訳ガイド、
ディスプレイの画面レイアウトの標準化など。
≪ 緊急時の避難・救助体制 ≫
〇 避難所及びそれに到るまでの移動手段の確保とバリアフリー化を推進していきます。
〇 介助ボランティアの養成・支援拡充に努めます。
〇 聴覚障害者への災害報知・伝達手段の確保を図っていきます。
〇 「市地震防災強化計画」に基づき、災害弱者リストの作成・活用を始め、避難対策
の充実に努めます。
〇 防災情報のネットワーク化と情報アクセスの利便性向上に努めます。
障害者情報支援サイト『ウエルネットなごや』
(http://www.hcsupport-nagoya.com/)
<掲載内容>
・福祉ガイドマップ『遊YOUなごや』
バリアフリー施設の情報を地図や施設名から探すことができます。
・
『障害者福祉のしおり』
市内在住の障害者の方やその家族の方が利用できるサービス内容と問合せ
先を紹介しています。
・
『地下鉄アクセスガイド(視覚障害者向け)
』
地下鉄駅の情報、ガイド(点字版、拡大文字版、フロッピー版)の入手方法
等を案内しています。
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『広報なごや』の福祉関係記事の紹介
<お問合せ> 名古屋市健康福祉局障害福祉部障害福祉課
℡ 052-972-2587 / Fax 052-951-3999
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(4)ユニバーサルデザインの普及促進
近年、年齢や身体的要件などにかかわらず、すべての人が利用し易いように配慮された普遍的なデ
ザインであるユニバーサルデザインの考え方が重視されるようになってきました。
すべての人が利用できる、究極のデザインというものを創り出すことは大変困難なことでもありま
すが、ユニバーサルデザインの考え方の実現を図る上では、個々の状況に応じたニーズを的確に把握
し、様々な手法を用いて、少しでも多くのニーズに対応していこうとする前向きな取り組み姿勢その
ものが重要となります。
ユニバーサルデザインの視点に立ったまちづくりやものづくりを着実に推進するには、施設や設備
の整備を担う企業や行政等が、このようなユニバーサルデザインの考え方を十分理解していることが
求められます。そのため、様々な機会をとらえて、その考え方の普及促進を図る必要があります。
〇 市立大学芸術工学部及び芸術工学研究科において、ユニバーサルデザインの教育・研究をす
すめます。
〇 国際デザインセンターを核として、民間企業に対するユニバーサルデザインシンポジウムや
セミナーを開催します。
〇 ユニバーサルデザインの考え方を取り入れた公園づくりをすすめていきます。
〇 ユニバーサルデザインの視点を取り入れた産業デザイン振興を図っていきます。
ロナルド・メイスの提唱するユニバーサルデザインの 7 原則
公平性 (Equitable)
自由度 (Flexibility)
単純性(Simple & Intuitive Use)
情報理解性
(Perseible information)
安全性 (Tolerance for Error)
省体力性 (Low Physical Effect)
空間確保性
(Size & Space for Approach & Use)
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誰にでも公平に使用できること
使う上での自由度が高いこと
簡単で直感的に分かる使用方法であ
ること
必要な情報がすぐ理解できること
エラーや危険の発生がないこと
無理な姿勢や余計な体力が不必要で
あること
接近して使えるような寸法・空間と
なっていること
心のバリアフリーの推進
「Ⅱ 福祉のまちづくりの基本理念」でも触れ
ましたが、偏見や差別は誤った根拠に基づく先入
観や固定的イメージによるものであり、これを払
拭する取り組みを行い、こうした否定的態度の解
消に努めます。
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身体障害者補助犬法が施行されました
(平成 14 年 10 月)
身体障害者等の自立や社会参加を促進する
ため、公立の公共的施設や公共交通機関を利
用する場合において、盲導犬、介助犬、聴導
犬の同伴を拒むことができなくなりました。
平成 15 年 10 月からはすべての公共的
施設で適用されます。
(1)広報・啓発の推進
高齢や障害の特性の理解や、バリアフリー化整備を進める理由、誘導ブロックの上に自転車を放置
したりするモラルやマナー違反の問題について、
〇 広報なごや、ホームページ等各種メディアを使った広報・啓発を進めます。
〇 地域、学校、職域等の場を利用して広報・啓発活動を進めます。
(2)研修事業・教育施策との連携
〇 直接市民サービスに携わる市職員はもとより、民間企業で利用者サービスに従事する職員におい
ても、高齢者や障害者に対する接遇意識の向上、適切な介助技術の修得を促進します。
〇 高齢や障害の特性を理解するためのテキストなどを作成し、市、民間企業での職員研修テキスト
として利用していただいたり、学校での学習資料としての利用を促進するほか、学校における福祉
に関する体験学習を支援していきます。
〇 共生感覚を身につけるため、高齢者や障害者との交流の機会を取り入れた学習活動を促進してい
きます。そのためにも、教員の理解を高めるなど資質向上のため、教員研修のなかでの工夫を一層
推進していきます。
(3)地域福祉の推進、ボランティアの育成・支援
〇 地域福祉推進協議会などの組織と連携し、地域での高齢者、障害者とのふれあいネットワーク活
動を推進するほか、ひとり暮らし高齢者や障害者等の日常生活を支援するためのボランティアの育
成・支援を行います。
〇 なごやボランティア・NPOセンターにおいて、ボランティア活動やNPO活動を支援するとと
もに、こうした活動に取り組む個人、団体の広域ネットワーク化を推進します。
名古屋市社会福祉協議会ボランティアセンター
名古屋市北区清水四丁目17−1 総合社会福祉会館
℡ 052-911-3180 / Fax 052-913-8553
HP アドレス http://www.now.or.jp/tokainet/
なごやボランティア・NPOセンター
名古屋市中区栄 1-23-13 伏見ライフプラザ12階
℡ 052-222-5781 / Fax 052-222-5782
HP アドレス http://www.n-vnpo.city.nagoya.jp/
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∼ 福祉都市環境整備指針の改定によせて ∼
福祉のまちづくり推進委員会
委員長 竹 内 伝 史
はじめに
名古屋市が住みたくなるまち名古屋の建設をめざして策定した新基本計画に基づいて「福祉都市環境整備
指針」を策定・公表したのは 1991 年のことであった。
「ひとにやさしいまち名古屋」をスローガンにこの種
の指針を策定したのは、当時としては全国初ではないものの、先駆的な施策であったといえよう。とくに同
指針の施行とともに行政内連絡調整機構として設置した「福祉のまちづくり推進委員会」は、多くの関心あ
る人々から注目される存在であった。実際、同委員会は指針推進のための基金の設置運用や、モデル事業の
推進など、多くの仕事をしてきている。しかし、この 10 年の間に福祉のまちづくりをめぐるわが国の状況
は一変した。
多くの自治体でこの種の指針を定めることは普通のこととなった。指針に盛り込まれる基準や見解のくい
違いについても、多くの研究者や福祉団体の専門家によって議論され、調整が行われるようになった。この
ような動きは、多方面の専門家・研究者そして実務的な識見を有する福祉関係者や高齢者・障害者等の当事
者を糾合して、福祉のまちづくり研究会の創設(1997)に繋がり、今日では多面的な研究と様々な実践的提案
がなされるようになった。また、上述の福祉関係者や当事者を中心に NPO(非営利団体)も数多く組織され、
実践的活動に根ざした種々の提案も行われるようになった。上述の推進委員会は、これらの研究と実践の成
果を吸収し、新たな施策体系に反映し推進するための格好の組織であるが、その蓄積もいよいよ多くなって
きたというべきであろう。
一方、国にあっても 1994 年の「ハートビル法」に続き 2000 年には「交通バリアフリー法」を制定し、急
速に法整備を進めてきている。21 世紀を迎えいよいよ成熟社会に飛び込んだことが確認される今日、このよ
うな状況を受けて、このたび本整備指針を改定する運びとなったことは、まことに時宜をえたものというこ
とができる。
ところで、現行指針の策定の折にも主張したところであるが、私はこの種の指針を有効に運用していくた
めには、各論もさることながら、総論部分において指針の理念が簡明に表現されていることが大切だと思っ
ている。ただ、今次改定のキーワードとして掲げた「心のバリアフリー」であるが、これは指針各論では表
現しにくい、この一文の中で論じて欲しい、との事務局の意向もあったが、私自身の気持ちでは、これを適
切に論じることは大変難しいと思っている。したがってその辺りについては試論になろうが、以下のとおり
書き記しておくこととした。
マニュアルの危険性
「福祉都市環境整備指針」策定の目的は、高齢者・障害者のモビリティ(社会的活動能力)を確保
することであって、決して施設を整備すること自体ではない。市民のモビリティ確保のための施策は
大変多岐にわたり、ほとんど市政全般に関係するほどである。都市環境の整備施策は施設整備のみに
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はとどまらない。施設を有効に働かせるために、いわゆるソフト施策が伴なうことが肝要である。また体系
的に策定・運用される必要がある。さらに、これらの施策体系を円滑かつ効果的に推進するために、この点
は「心のバリアフリー」と呼ぶこともできようが、一般社会(その構成員としての市民一般)の暖かい理解
と協力の姿勢が必要である。
施設整備の仕様を指針で定めることは、施設の利用効率を高め、一般性を確保するために是非とも必要な
ことである。とくに人々のモビリティに寄与する施設の使い方は、地域を超越してどこでも同様に使用でき
ることが大切であり、このためにも一律の基準が用いられることが望ましい。しかし、指針で定められる項
目は一般に細分され、他の項目との関連性が明示されない。また必要な事項を隈なく網羅し、完璧な指針を
用意することは至難の技である。それゆえ、指針個々の事項のみに視野を限って杓子定規な設計施工を志す
ことは危険である。個々の指針が何故にそのような基準を定めているかを、指針の理念に立ち返って理解し
ておくことが不可欠である。この指針に限らず、マニュアルは効果的なものほど往々にして、その安易で断
片的な利用によって、本来の目的に反する使われ方をしてしまう恐れがある。本来の目的を見失わないため
には、総論部分に依って理念を体得することが肝要であろう。
ノーマライゼーションの解釈
福祉都市環境を整備する思想として重要なものにノーマライゼーションの考え方がある。旧指針では、こ
れを「同時に、年齢の違いや障害の有無に関係なく、共に暮らし、共に生きる社会こそ普通の社会である」
という考え方と表現している。この考え方の解釈は、世界の都市の福祉政策や交通政策に多大な影響と議論
の種を与えている。例えば、車いす専用の輸送サービスは、それによる移動の間、車いす利用者と他の人々
の生活空間を分離するものだからという理由で、ノーマライゼーションに反するものと見る見解がある。も
ちろん、この場合普通のバスに全て車いすが乗れるようにすれば、この論争は克服される。しかし、個々の
障害にすべて完全に対応できるサービスを考えるのは、実は大変難しいことである。全面的、根本的な解決
には多大な時間と経費を要するであろう。大切なのは、今日のわれわれの社会が達成できるのは何か、他に
もっと少ない費用で高齢者・障害者にも同等のモビリティを確保する方策はないのか、といったことであろう。
設計思想におけるユニバーサルデザインも、このノーマライゼーションの考え方に基づいたものというこ
とができる。すべての人々に使いうる道具や設備・施設を設計しようとするものであり、街づくりにおいて
も施設ごと個別のバリアを除去するのみで終わらせるのではなく、ユニバーサルデザインで設計することが
提唱されている。その理念は大変素晴らしい。とくに新しい空間を整備する場合には、この考え方は重要で
ある。予めバリアの生じるような発想を排除し、誰にでも使いよい空間を計画・設計する姿勢が大切であり、
それは一定の成果を挙げうるであろう。しかし、ここで注意せねばならないのは、多面的に利用しようとす
る多目的施設は、往々にして多面的に少しずつ使いにくいものになりがちなことである。階段を廃して斜路
にすれば、階段を使用できる多くの人々にとっては迂回(歩く距離の増加)を強いられることになる。また、
健康上階段の利用を勧められている人だっているのだ。階段の利用が困難な人のためにエレベーターを併設
することで何故いけないのか。たとえ、すべての人々が共に使える施設がなくとも、いろいろな立場の人々
が使い易い施設がワンセット揃っていればよいではないか。ユニバーサルデザインの目的を「共用」のみに
矮小化させてしまってはいけない。
ノーマライゼーションの理念は、街づくりにあっては着実に時間をかけて実際的に進められねばなら
ない。当面は、経路の多少の分離があったとしても、すべての立場の市民が同等のモビリティが保証
されることをもって満足せねばならない場合は沢山ある。また、ノーマライゼーションの対象範囲に
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ついても現実的な配慮がなされる必要があろう。個々の施設がすべての人に使えることよりも、結果とし
てすべての人が動きまわれる生活空間を実現する。そのために多様な施策と手法を駆使して街づくりにあ
たることこそ重要なのではないか。私はこれを「マルチチャンネルによるノーマライゼーションの実現」
と呼んでいる。
このために重要な視点は、やはりバリアフリーに立ち返ることであろう。
心のバリアフリーをどう考えるか
さて、
「心のバリアフリー」をどう考えるかであるが、この福祉のまちづくりの原点に据えるべきノー
マライゼーションの理念の実現をめざしていく上で、心のバリアは含まれるのかと問われれば、答えはイ
エスである。しかし、行政サイドの事柄としてみたとき、指針各論の中に「心のバリアフリー」の項目を
盛込むことには二つの観点から疑問が残る。
一つは、
「心のバリアフリー」論でしばしば主張される一般市民による支援や介助は、施設・制度の整
備やサービス供給の不足・不十分に対する補完機能も持つため、往々にして行政や施設管理者・事業者の
責任回避に利用されるおそれがあることである。いま一つは、
「心のバリアフリー」に向けての努力は、
指針で各論的に行動基準を決めることにはなじまないからである。この問題は総論的に論ずることで、市
民や行政に課題を投げかけることが適当であろう。
心のバリアは、市民一般と行政についても論じられねばならない。行政の心のバリアは上述のマニュア
ルの弊害にも似て、職掌の縦割の壁から生じる。先にも述べたように、福祉のまちづくり行政は多角的な
施策の体系によって成り立っており、ほとんど全庁の全部局に及ぶほどである。したがって、各部局の担
当者は己の職掌を忠実に遂行するのみではなく、この施策の全体系を理解していることが必要である。そ
して、それを可能ならしめるのは、種々の施策を必要としている市民の全生活への共感と理解であろう。
特に窓口業務に携わる職員には、
「心のバリアフリー」に努められるよう切に期待したいところである。
一方、私たち市民の「心のバリアフリー」を考えるときには、二つの側面に注目する必要があろう。一
つは市民の心ない行動が折角のバリアフリー対策の効果を削減したり喪失させてしまうことである。点字
ブロック上への駐輪や障害者用駐車マスへの駐車などが顕著な例として挙げられる。これらに対しては行
政や管理者による取締りによってバリアフリーの実が挙げられることになる。しかし、このような行動を
......
とる市民の多くはいわゆる気が付かないのであって、とくに個々の施策が効果を発揮するメカニズムの説
明までを加え、市民の想像力を喚起する方向での効果的な広報・キャンペーンが期待される。
いま一つの側面が、各種の福祉のまちづくり施策を具体化する上で欠かせない、周囲の人々の暖かいま
なざしと協力を育てるための市民の意識喚起の問題である。これは、市民一人ひとりがノーマライゼーシ
ョンの理念を学び、体得することによって達成される。その意味で、擬似体験学習などの啓発活動といっ
た施策としての社会教育も必要かもしれない。しかし、よリ根本的には、共に暮らし共に生きる仲間たち
の生活への、私たち市民の想像力を喚起することが大切である。また、高齢者や障害者の側からの支援要
請の適切な意思表示が必要であろう。ある面では、人々は支援のきっかけを把めないでいるともいえる。
健常者と障害者のコミュニケーションこそがノーマライゼーションの基本であり、心のバリアを取り去る
ための根幹であろう。支援をする側、される側の人々の心の中にあるわだかまりを取り除くこと、それを
成就できるのが、この成熟社会の一つの特長であって欲しいものである。
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