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観光客数と人口規模の関係 ~宿泊客数を対象に - JAFIT

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観光客数と人口規模の関係 ~宿泊客数を対象に - JAFIT
日本国際観光学会論文集(第23号)March,2016
《論 文》
観光客数と人口規模の関係
~宿泊客数を対象に
や ま
だ
ゆ う い ち
山田 雄一
柿島あかね
か き し ま
公益財団法人日本交通公社
公益財団法人日本交通公社
In recent years, regional development through tourism has been attracting interest in our country. It has been of particular
interest as a policy measure that is effective in responding to a society with a declining population. Increases and decreases in
population size impacting tourism trends in communities with shrinking populations can be regarded as fertile ground for debate.
Despite this fact, however, there is a paucity of research addressing the relation between numbers of tourists and population. In
this research, we will therefore conduct a quantitative examination of the regions of Japan in terms of three points: 1)population
in relation to tourist visits, 2)population in relation to variations in numbers of tourist visits, and 3)population decline in relation
to variations in numbers of tourist visits.
キーワード:観光客数、人口規模
Keyword:number of visitors, Population in destination
1.はじめに
頃をピークに減少傾向に転じ、その後の
上、どこかの地域が客数を増やせば、ど
1-1 背景
15年間で40%の市場を喪失するに至って
こかの地域が客数を減らすというゼロサ
近年、我が国では、観光を手段とした
いるからである(図-1)
。観光庁(2013)
ム状態にある。すなわち、地域が観光客
地域振興(以下、観光地域づくり)に注
によると、現在、訪日外国人市場は、増
を呼び込むには、競争優位な魅力を備え
目が集まるようになっている(財団法人
加傾向にあるが、宿泊者数に占める割合
る必要がある。これに対し、今日の観光
日本交通公社、2011)。特に、2014年5月
は業務客を含んでも6~7%に留まって
のスローガンとして「住んで良し、訪ね
の「日本創成会議・人口減少問題検討分
おり、急減した国内市場を補填するには
て良し」が言及されるように、グリーン
科会 提言」
(いわゆる増田レポート)を
至っていない。市場規模が有限である以
ツーリズムや産業環境、まちなか観光の
受ける形で始まった地方創生戦略の流れ
において、観光は人口縮小社会に対応し
図-1 宿泊観光旅行市場の推移(1961-2011)(1)
た有力な振興政策として捉えられるよう
1.60
になっている。実際、観光庁(2009)で
は宿泊者22人分で定住人口1人分の経済
効果が生じると試算し、観光が人口縮小
社会に対応した政策であることを主張し
ている。
しかしながら、ここで1つの疑問が生
じる。それは(定住)人口と観光客数に
は関係が無いのかという需要面、供給面
それぞれでの疑問である。
需要面に注目すると、人口規模が小さ
い、または、減少傾向にある地域に対し
て観光客が魅力を感じるかという疑問で
ある。観光といえども、その規模は有限
である。国内の宿泊観光市場は、1997年
1.40
宿
泊
観
光
旅
行
市
場
規
模
指
標
1.20
1.00
0.80
0.60
全国旅行動態調査(1976年=1)
0.40
観光白書:旧方式(1976年=1)
観光白書:新方式(2003年=1)
0.20
0.00
1961年
1967年
筆者作成(2015)
-155-
1973年
1979年
1985年
1991年
1997年
2003年
2009年
日本国際観光学会論文集(第23号)March,2016
ように、地域の産業や住民生活に伴う活
動そのものが魅力と捉えられるようにな
容を扱った実証的研究が複数存在する
る。ま た、海 外 で は Ritchie と Crouch
(白坂、1972、白坂、1982、中山、1986、 (2000)が、Porter(1990)が一般的な地
っている(安島、2006)。仮に、観光客を
宮内、1998)
。例えば、宮内(1998)は、
域資源として示した「人的資源」
「物的資
惹きつける競争優位な魅力は、地域住民
沖縄県座間味村を対象に、スキューバダ
源」
「知識資源」
「資本資源」
「インフラス
によって創造されると考えるのであれ
イビングを主体とした観光振興が、人口
トラクチャー」の5種をベースに、8次
ば、人口減少は魅力低下、すなわち観光
の社会増と自然増をもたらしたことを明
元モデルで示し、その後、450を越える派
客数減に繋がりうる。
らかにしている。これらの指摘は、観光
生研究を生んでいる。これらの先行研究
次に、観光客を受け入れるには、地域
客数の増大が地域の人口増大に繋がる可
では山岳や海浜、寺社、テーマパークと
側に一定のサービス集積が必要である
能性を提示しており、観光が人口縮小社
いった狭義の観光資源だけでなく、施設
が、その集積には地域の人口規模が関係
会に対応した振興手法として有効な手法
集積や各種インフラといった地域の経済
するのではないかという供給側からの疑
であると指摘する根拠ともなっている。
的・人的ストックが観光客数に影響する
問が生じる。観光事業はサービス産業に
ただ、これらの先行研究は、いずれも、
可能性が指摘されている。このように、
区分されるが、サービス産業は人口や多
観光需要、観光消費を外生変数として、
地域の規模が観光客数と関係することを
様な産業が集積している地域により多く
地域の雇用者数などを内生変数として扱
指摘する先行研究は多く存在するが、少
立地する傾向にある(国土交通省、2008、
っている。しかしながら、十分な宿泊施
子高齢化が進んできた我が国地域を対象
内閣府、2005)。これは、集積の経済と呼
設や交通インフラがなければ、
そもそも、
に、単純に人口規模が観光客数と関係す
ばれるが、人口集積している地域の方が
観光需要や消費を地域が取り込む事は出
るのか否かという点を実証的に検証した
より多くの市場確保に繋がりやすく、従
来ないし、近年、注目されている体験型
研究は確認できない。また、地域の人口
業員確保や各種B2B取引においても、人
観光を提供するには、労働力を確保する
規模の大小と、観光客数増減傾向が関係
口や多様な産業が集積している地域の方
ことが必要であることを考えれば、地域
するのかということも研究対象となって
が有利となるためである。特に、観光サー
の状況が外生変数であり、地域に対する
いない。
ビス業は労働集約の傾向が高く、相応の
観光需要は内生変数と整理することも出
一 方、タ イム シ リー ズ 系 は ARIMA
労働力、特に若年層の労働力が必要とな
来る。
る。観光需要は一般的に曜日や季節波動
地域に対する観光需要、すなわち、観
Average:自己回帰和分移動平均)や、季
があり、かつ、供給量以上の需要を受け
光地を訪れる観光客数がどういった要因
節性(Seasonal)を加えたS-ARIMAとい
入れられないため、人口規模の大きい地
で左右されるのかということは、観光分
った時系列分析手法を使い、過去の推移
域の方が、観光客を獲得しやすいのでは
野を対象とした研究の中でも注目が高い
傾向から将来の観光客数を定量的に分
ないかとも考えられる。
研究テーマの一つであり、多くの先行研
析、推 計 す る 手 法 で あ る(Cho、2003、
つまり、魅力創造面でも提供面でも地
究があるが、研究手法から大きく2つに
Coshall、2005、Du Preez and Witt、2003、
域の人口規模や増減は、その地域の観光
区分できる。すなわち、資源性や競合な
Gil-Alana、et al.、2004、Song and Li、
の動向にも影響を与える可能性がある。
どに要因を求めるクロスセクション系
2008)
。これらの先行研究によって、観光
このことは、観光を人口縮小社会に対応
と、過去からの推移に要因を求める時系
客数は時系列的に連続した推移をするこ
した地域振興手法として考える上で、重
列(タイムシリーズ)系と、の2つであ
とが指摘されている。ただ、研究の性格
要な論点となる。しかしながら、観光客
る。前者は、観光客数の規模を、後者は
上、その要因については研究対象となっ
数と人口との関係性を捉えた研究は乏し
推移を研究対象としていると整理でき
ていない。人口は、時系列的に連続的推
い。
る。
移するものであり、観光客が時系列的に
(Autoregressive, Integrated and Moving
クロスセクション系は、温泉や観光施
変化するのであれば、その増減傾向と、人
1-2 観光客と人口に関する先行研究
設、交通機関など観光系の要素から地域
口の増減傾向と連動している可能性があ
観光と地域との関係については、経済
の観光的魅力を定量化し、観光客数の推
る。しかしながら、両者の関係性につい
学的な視点から、観光消費による経済波
計にも応用するもので、
「観光地の評価手
て、我が国地域を対象に検証した研究は
及効果推計が広く行われており、観光消
法」(財団法人日本交通公社、1971)以
確認出来ない。
費の経済波及は裾野が広く、観光客の消
降、多くの派生研究が生れている(アー
このように、観光と地域の関係や観光
費が定住人口減少による消費減少を補完
バンアメニティ研究所、1992、鎌田・山
客数の要因については、多様な研究アプ
しうると指摘されている(観光庁、2009、
内、2006、室谷、1998)
。この中で、宿泊
ローチより多数の研究がなされてきてい
観光庁、2013)。また、観光地理学的な視
施設や飲食施設、観光施設などの量が観
る。その中には、人口が時系列的に変化
点からは、観光客数の増加による地域変
光客数と関係しうることが指摘されてい
するように、観光客数も時系列的な推移
-156-
日本国際観光学会論文集(第23号)March,2016
をするという指摘や、地域資源としての
検証において利用する人泊の増減傾向を
とし、
この158市町村を対象とする事にし
人口や、サービス業集積と人口との関係
捉える対象期間は、日本全体の市場規模
た。
性について言及されたものもあるが、人
が縮小に転じた1997年より2010年までの
口縮小社会における地域振興手法として
13年間を対象とした。
2-2 人口と観光客数の関係
観光が注目されているにも関わらず、人
1997年から2010年まで、市町村単位で
人口規模と観光客数との関係につい
口と観光客数、人口と観光客数増減、お
観光客の人泊データを観光統計資料とし
て、市町村別の昼間人口および夜間人口
よび、人口増減と観光客数増減について、
て公表している都道府県を確認したとこ
と、人泊数との相関を取ることで検証す
定量的かつ、我が国の地域を対象に検証
ろ、11道府県(北海道、神奈川、岐阜、
る。
対象は、
国勢調査の実施年である2000
を行った研究は確認できない。
静岡、滋賀、京都、和歌山、広島、福岡、
年と、本研究の対象期間の最終年2009年
佐賀、長崎)が該当した。東北地方が抜
(岩手県が2010年データが欠損のため)の
1-3 目的
けているため、再確認したところ、岩手
2期とした。結果、両年とも昼間・夜間
以上をふまえ、本研究では地域の人口
県が、設定期間に準じたデータ(1998年
人口と人泊数との間に1%水準で有意な
と観光客数との関係について、以下の3
から2009年)を持っていたため、地域バ
相関が確認された(表-1、図-2)。
つの仮説(帰無仮説)より検証すること
ランスを考慮し、対象に追加した。この
昼間人口と夜間人口では、両年とも昼
を目的とする。
他、地方では、四国地方、有力な旅行先
間人口の方が相関は高くなっており、ま
H0a:人口と観光客数には関係がない
として長野県、山梨県などが抜けている
た、2000年と2009年では、いずれも2009
H0b:人口と観光客数増減には関係が
が、四国地方はもともと集客規模が低く
年の方が高い相関を示した。
長野県、山梨県については、同じく首都
これによって、帰無仮説 H0a は棄却さ
圏や中部圏からの旅行先となる神奈川
れた。すなわち、人口と人泊数(観光客
県、静岡県、岐阜県が含まれている(財
数)との間には関係性があると言える。
団法人日本交通公社、2010)ため、分析
また、その関係性は10年近くの時間経過
2.観光振興と市町村特性の関係性
に対応できると判断した。
の中で強まる傾向にあること、また、定
2-1 利用データと手法
2010年時点の市町村を基準とし、この
住人口よりも就業就学者人口、すなわち
研究の実施に当たり、いくつかの要件
期間に市町村合併が行われた市町村につ
産業的な活力の方がより強い関係性を持
設定を行う。
いては、旧市町村データを合算した。た
っていると指摘できる。
まず、観光地のサイズ(範囲)につい
だし、対象期間のすべてに有効な人泊
ては様々な考え方があるが、一般に観光
データがある市町村のみを対象としてい
振興施策は自治体単位で行われる事、ま
るため、各道府県の市町村数とは合致し
年
昼間人口
夜間人口
た、関係性を検証する統計(国勢調査)
ない。結果、
これら12道府県で475市町村
2000年
0.65**
0.62**
の関係から、本研究では市町村単位とし
がリストアップされた。
2009年
0.70**
0.66**
た。人口については、基本台帳と国勢調
ところで、人泊数の少ない市町村にお
査の2種があるが、より正確な人口デー
いては、個々の宿泊施設の営業方針や人
タと考えられる国勢調査より昼間人口、
気度といった個別施設に関連した要因に
夜間人口の2つを設定し、国勢調査の非
よって、全体の人泊数が大きく変化する
実施年については、前後の調査年のデー
可能性がある。本研究では、旅行先とし
タから直線的に案分し補完することとし
ての地域と観光客数との関係性を検証す
た。
ることが目的であるため、こうした個別
これら市町村の人口との関係性を見る
施設の影響は除くことが求められる。そ
観光客数は、以下の2つの理由から、観
こで、475市町村別の人泊数を改めて確認
光目的の延べ宿泊者数(以降、人泊数)
したところ、2000年時点で人泊数10万人
と設定した。第一の理由は、消費額や滞
以上の158市町村で、475市町村の人泊総
在時間の点から宿泊客は日帰り客より
数の9割を占める事がわかった。10万人
も、地域との関わりが大きい事。第二の
泊以上の規模であれば、個別施設の影響
理由は、統計データとして、日帰り客に
は一定程度排除できると考えられること
2-3 人口と観光客数増減の関係
比して、数値の精度、安定性が高いと考
に加え、宿泊客の9割が対象となる事か
次に、人口と人泊数増減との関係、す
えられる事である。また、H0b、H0c の
ら、本研究においては、10万人泊を基準
なわち、人口が多い地域ほど、人泊数が
ない
H0c:人口増減と観光客数増減には関
係がない
-157-
表-1 人口と人泊数との相関**(p<1%)
筆者作成(2015)
図-2 昼間人口と人泊数の関係
(2009年)
10,000
人
泊
数
千
人
2
0
0
9
年
1,000
100
1
10
100
1,000
10,000
昼間人口(千人)2009年
筆者作成(2015)
日本国際観光学会論文集(第23号)March,2016
増加しやすいか否かについて検証を行
ということは、
「タイムシリーズ系の中で
にあるもの(正)
、有意な負の関係にある
う。
も、単純に直線的に推移するモデル(no-
もの(負)
、有意な関係が確認できなかっ
検証にあたっては、市町村別の人泊数
change model)の説明力が高い」という
た(非)の3種に区分した。さらに、前
増減の傾向を定量化する必要がある。そ
Song と Li(2008)の指摘どおりである。
段の分析で、人口と人泊の関係は人泊規
こで、1997~2010年(岩手県は1998~2009
また、グループ B も対象期を変化させる
模によっても変化するこが示唆されてい
年)を対象に、人泊を被説明変数 Y、各
ことで、直線的な推移となるケースもあ
たため2000年時点の人泊規模別に集計を
年を説明変数 X とした単回帰分析を市町
ったが、他の市町村と条件が変わってし
行った。
村別に実施し、それぞれ係数 a を算出し
まうこと、また、グループ A、C のみで
結果、昼間人口では全体の52.5%(83
た。その上で、係数 a の t 値を算出し、
7割弱を占めたため、グループ B につい
市町村)
、夜間人口では54.4%(86市町村)
係数 a が正(p<0.05)のものをグループ
ての追加分析は行わず、グループ A、C
で正の関係が確認された
(表-4、表-5)。
A(増加)、負(p<0.05)のものをグルー
の 計 109 市 町 村 を 分 析 対 象 と し た
ただし、10~20万人泊の市町村では正の
プC(減少)、その他(p≧0.05)をグルー
(表-2)。次に、
市町村によって人泊規模
関係は約4割にとどまり、ほぼ同数の市
プ B(横ばい他)とした。結果、人泊が
が異なるため、
分析対象109市町村につい
町村で有意な関係が認められなかった。
増大傾向となったグループAは、全体の
て、係数 a を2000年の人泊数で除し統計
一方で、50万人泊以上では7割弱、20~
11.4%(18市町村)に留まり、減少傾向
的に1年あたりの増減率(対2000年人泊
50万人泊では5割強となり、人口増減と
となったグループCは57.6%(91市町村)、
数)を算出した。なお、基準年を2000年
人泊増減に顕著な関係が見られた。すな
その他グループ B は31.0%(49市町村)
としたのは、本研究の対象期間の初期に
わち、人泊数の多い地域では、人口増減
となった(表-2)。なお、単純な回帰モ
位置し、かつ、国勢調査の実施年である
と人泊数増減が連動しやすいが、人泊数
デルによって全体の約7割を説明できる
ため、基準年として適切と考えたからで
が少ない地域では両者の関係が弱まる傾
ある。
向にあることが解った。帰無仮説 H0c は
以上の作業を経て整理した2000年の昼
人泊数の多い地域において棄却された。
表-2 人泊規模別 人泊数増減傾向
対象地域
A
B
C
計
間人口、夜間人口と、算出した人泊数増
ただ、我が国は全体的に人口縮小社会
50万人泊以上
6
11
40
57
20~50万人泊
5
21
27
53
減率との相関を算出したところ、有意な
となっており、また、観光市場規模も減
10~20万人泊
7
17
24
48
相関が確認された。さらに、人泊規模別
少傾向にある。人口も観光客数も時系列
計
18
49
91
158
にみても有意な相関が確認された
的に連続な推移をすることを考えれば、
筆者作成(2015)
(表-3)。これによって、帰無仮説 H0b
たまたま、両者が全体として縮小傾向に
は棄却された。すなわち、人口と人泊数
あるために、有意な正の相関を示す市町
表-3 人口と人泊数増減率の相関
(観光客数)
の増減とは関係があると言え
村が多くなったとも考えられる。そこで、
る。また、その関係性は人泊数が多い地
昼間人口についても人泊数と同様に増減
**(p<1%)、*(p<5%)
対象地域
昼間人口
夜間人口
n
域ほど顕著であり、人泊数が少ない地域
傾向を元にグループ A(増加傾向)
、グ
50万人泊以上
0.69**
0.67**
46
20~50万人泊
0.50**
0.48**
30
では緩やかな関係となることも確認され
ループB(横ばい他)
、グループC(減少
10~20万人泊
0.44*
0.41*
33
た。さらに、昼間人口の方が夜間人口よ
傾向)
の3つに区分し、
人泊数増減グルー
0.33**
0.32**
109
りも関係性が強いことも確認された。こ
プとの関係について分析を行った。その
のことは、人泊数が多くなるほど人口と
結果、昼間人口が増大傾向にあった42の
人泊数増減の関係が強まる、人口が多い
市町村では19.0%(8市町村)が人泊数
ほど人泊数を増やしやすい傾向にあるこ
も増大させたが、昼間人口が減少傾向に
とを示している。
あった108市町村では6.4%(7市町村)に
全体
筆者作成(2015)
図-3 昼間人口と人泊数増減率との関係
25.0%
10~20万人泊
20.0%
15.0%
人
泊 10.0%
数
増 5.0%
減
率 0.0%
年
1
-5.0%
20~50万人泊
50万人泊以上
10
100
1,000
-10.0%
-15.0%
昼間人口(千人)2000年
筆者作成(2015)
10,000
とどまった。さらに、昼間人口の増加傾
2-4 人口増減と観光客数増減の関係
向地域では、人泊数を減少させたのは
最後に、人口増減と観光客数増減の関
40.5%(17市町村)であったのに対し、減
係について検証を行う。
具体的には、
1997
少傾向地域では66.7%(72市町村)に達
年から2010年(岩手県の11市町村は1998
した(表-6)
。この結果は、夜間人口の
年から2009年)における人口推移(昼間
増減傾向で見てもほぼ同様であった。観
人口および夜間人口)と人泊数推移との
光の市場規模が縮小しているため、全体
相関を、158市町村別に算出した。その上
として人泊数の減少地域が多くなっては
で、人口と人泊の推移が有意な正の関係
いるが、
人口が増大傾向にある地域では、
-158-
日本国際観光学会論文集(第23号)March,2016
表-4 人泊規模別 昼間人口増減と人泊
増減の相関分析結果
が少ない、または、人口が減少傾向にあ
図-4 昼間人口および人泊数の推移例
(函館市)
ると人泊も減少しやすいという傾向が顕
(2)
対象地域
正
非
負
計
著に見られた。
4,000
400
50万人泊以上
38
12
7
57
350
20~50万人泊
25
17
5
47
すなわち、観光客数は昼間人口や夜間
3,500
3,000
300
10~20万人泊
20
21
13
54
計
83
50
25
158
人口といった地域の人口規模や、その増
減傾向と一定の関係を有しており、両者
が独立的な存在ではない可能性が提示さ
筆者作成(2015)
500
また、本研究の分析過程において、
「10
万人泊以上の市町村の約7割弱が直線的
対象地域
正
非
負
計
な人泊数推移をしている」
、
「市町村全体
50万人泊以上
38
13
6
57
20~50万人泊
26
15
6
47
の6割弱が人泊数を減少させている」と
10~20万人泊
22
21
11
54
計
86
49
23
158
筆者作成(2015)
表-6 昼間人口増減傾向と人泊数増減
傾向の関係
(4)
人泊増減
B
C
計
17
17
42
B(横ばい他) 3
3
2
8
C(減少傾向) 7
29
72
108
49
91
158
人口増減
A
A(増加傾向) 8
計
18
筆者作成(2015)
減少傾向にある地域に比して人泊数を増
人泊数
昼間人口
50
2010
2009
2008
2007
2006
2005
2004
2003
2002
2001
2000
1999
1998
1997
増減の相関分析結果
(3)
150 千
人
100
1,000
れた。
表-5 人泊規模別 夜間人口増減と人泊
昼
250 間
人
200 口
人
2,500
泊
数 2,000
千
人 1,500
筆者作成(2015)
いったことについても、
明らかとなった。
3-3 観光地域づくりへの知見
このことは、人泊数の増減は10年程度の
本研究では、観光客数と人口の、規模
時間軸で大きな傾向線をもって推移する
や増減傾向に一定の相関関係がある可能
ものであり、その傾向線は市場規模の縮
性を提示した。しかしながら、前述した
小に合わせて多くの地域において減少傾
ように、因果関係は明らかになっておら
向となっていることを示している。さら
ず、この結果だけでは人口減少地域にお
に、同じく分析過程において「昼間人口
いて観光振興が有効なのか否かという判
が減少する中で人泊数を増大できた市町
断は出来ない。しかしながら、人口と人
村は本研究対象市町村の5.7%(9市町
泊数に相関関係が認められたことは、人
村)にすぎない」ことも明らかとなった。
口減少への対応策として、単純に観光振
これらの結果は、人口が少ない、また
興が有効であると考えることが必ずしも
は、減少傾向にある地域において、短期
適切な判断とはならない場合があること
的な取り組みによって、観光客数(人泊
も示している。
数)を増やすことの難しさを示している。
本研究が、地域振興の手段として観光
を無批判に選択するのではなく、自地域
大させる傾向が高いことが確認できる。
以上、2つの分析より、人口増減と人
3-2 因果関係について
の人口や産業構造などをふまえた検討を
泊数増減に一定の関係性があることが指
ただ、本研究では相関が確認されたの
進めていく一助となることを期待した
摘できる。
みであり、因果関係は明らかとはなって
い。
いない。人口減少によって人泊数が減少
【対象市町村リスト】
3.まとめ
したのか、人泊数の減少によって人口が
3-1 分析のまとめ
減少したのかは、地域によって状況が異
函館市、松前町、七飯町、札幌市、千歳
以上の分析より、3つの仮説であげた
なると考えられる。
市、石狩市、小樽市、蘭越町、ニセコ町、
人泊数と人口の関係性は、概ね確認され
例えば、国内有数の観光都市である函
留寿都村、倶知安町、岩内町、赤井川村、
た。
館市でも人泊数の減少と、人口減少が連
夕張市、室蘭市、登別市、伊達市、洞爺
人口と観光客数(人泊数)は関係を持
動している事が確認できる
(図-4)
。
「朝
湖町、壮瞥町、白老町、旭川市、富良野
っており、人口が多い地域ほど観光客数
市が観光化して魅力を喪失した」とは、
市、上川町、東川町、美瑛町、占冠村、
が多くなる傾向にあった。また、人口と
良く聞かれる評価であるが、朝市の観光
稚内市、礼文町、利尻富士町、北見市、
観光客数増減にも関係があり、人口が多
化によって人泊数が減少したことが地域
網走市、斜里町、帯広市、音更町、上士
い地域ほど観光客数の増減率が高まる傾
の人口を減少させたのか、造船業や水産
幌町、鹿追町、釧路市、弟子屈町、根室
向にあった。さらに、人口増減と観光客
業の衰退による人口減少が朝市の本来の
市、羅臼町、盛岡市、八幡平市、雫石町、
数増減との間にも関係があり、人口が増
機能喪失に繋がり人泊数を減少させたの
花巻市、北上市、西和賀町、奥州市、一
大する地域は人泊も増大しやすい傾向に
かは、検証が必要である。
関市、大船渡市、釜石市、宮古市、横浜
あることが確認できた。特に人泊数が多
市、横須賀市、鎌倉市、藤沢市、小田原
い市町村(概ね20万人泊以上)では人口
市、相模原市、三浦市、伊勢原市、大磯
-159-
日本国際観光学会論文集(第23号)March,2016
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