Comments
Description
Transcript
運動介入による高齢者の疾患予防と介護予防に関する先行研究
運動介入による高齢者の疾患予防と介護予防に関する先行研究 公益財団法人ダイヤ高齢社会研究財団 研究員 五十嵐 裕 背景 医療費の世代別割合のうち実に半数が高齢者で占めており,疾病を有する,もしくは要介 護の高齢者を減らすことが我が国の重要な課題となっている.日常生活内において疾病予防 や介護予防のための手段として運動の実施は低コストであり,これを普及させることは,医 療費の軽減に対しても大きな役割を果たすことが今後より一層期待される.本稿では高齢者 の代表的な疾患を取り上げ,その疾患に対する予防目的として高齢者が運動を行う必要性や 重要性について述べ,我が国における運動介入の研究事例を紹介していく. 疾患や病的な状態から能力障害までの過程を示す Nagi モデル 1)は,障害者のみならず高齢 者にも適合する.このモデルでは「病理→機能障害→機能的制限→能力障害」という過程を 辿るが,近年,Rikili ら 2)によって身体活動を考慮した改変が行われている.ここでは, 「病 理」は病的な状態のみならず, 「廃用」すなわち身体的な不活動が後の機能障害以降に関連し ていく経路を新たに追加している.また,彼らの改変では機能障害とは筋力・筋持久力,全 身持久力,柔軟性,運動能力(平衡性,調整力,敏捷性/パワー)が低下した状態,機能的制 限とは歩行,階段の昇降,椅子からの立ち上がり,持ち上げる/伸ばす,膝を曲げる/ひざまず く,走行の動作が制限される状態,そして能力障害とは日常の生活や余暇に支障をきたした 状態であると定義している 2) .継続的な運動は健常者における予防のみならず,上記の機能 障害,機能的制限の段階においても改善効果が認められ,その有効性を示した報告は多い. しかしながら,先行研究のレビューでは,能力障害の段階で改善を報告している論文数は機 能的制限の段階に比べ少ないことが報告されている 3) .そのため,疾病や機能低下の予防を 目的とした場合,早期の対応が必要であると考えられる. 我が国では健康を目的とした国民の健康づくりのための指針として,2006 年に策定された 「健康づくりのための運動指針 2006(エクササイズ 2006) 」4)を基準として用いてきた.これ によると,健常な成人(20~69 歳)において,健康づくり,もしくは疾病予防として週 23 エクササイズ(目安として歩行以上の身体活動を 1 日 60 分)を推奨していたが,70 歳以上 の高齢者に対しては明確な基準がなかった.そこで,2013 年に改定された新基準「健康づく りのための身体活動基準 2013」5)では,65 歳以上の高齢者では 10 エクササイズ(目安として 強度を問わず 1 日 40 分程度, 種目や動作は問わないが座位でないこと) を新たに定めている. これらの基準は,主にランダム化比較試験,システマティックレビュー,海外の研究結果等 を基に作成されているが,我が国においても高齢者を対象とした様々な介入研究や取り組み 等が報告されており,運動の効果を前向きに示すものも多い.ここでは,疾病予防に関係す る研究報告を紹介していくが,高齢者の運動実施においては留意すべき目標が複数存在する ため,高齢者において頻度の高い問題点を考慮し,今回は膝関節の機能低下,2 型糖尿病, サルコペニアに対する報告に限定した. 実施方法 対象は,①平均年齢 65 歳以上の日本人高齢者を対象,②介護保険制度が開始された 2000 年以降に発表,③運動介入を実施,④膝関節の機能,2 型糖尿病,もしくはサルコペニアに 関連した指標を測定,⑤全文の入手が可能,の全てを満たす論文である.検索は CiNii,PubMed, Google Scholar を用いて行った.検索に用いた語句は高齢者(older adults),運動(exercise) , トレーニング(training),身体活動(physical activity)を中心に,膝関節(knee joint),糖尿病 (diabetes),サルコペニア(sarcopenia),筋肉(muscle),筋力(strength)を組み合わせた検 索を行った.一方,英文ジャーナルの検索においても同様の検索を行った.検索後,対象と なった論文について,対象者の特性,運動の介入方法,デザイン,詳細なアウトカム指標と その結果を抜粋した. 検索から 25 編の論文から 31 件の報告を抜粋し 6-30),その概要をまとめた(表 1) . 結果・考察 膝関節の機能低下は加齢に伴い発症しやすく,高齢者では痛みを伴い,長期に症状が継続 するという特徴がある.膝関節のみならず,問題を含む運動器の機能低下はロコモティブ・ シンドロームと呼ばれ,近年,介護予防の主要なターゲットとなっている.今回の検索にお いて,膝関節の機能に関する運動介入の論文は 13 編,その報告数は 17 件であった 6-18). 膝関節の屈曲および伸展動作は主に大腿筋群の働きによるものであり,特に伸展動作を行う 大腿四頭筋の筋力は下肢筋力の代表値としてだけでなく,高齢者の歩行能力,立ち上がり動 作,立位でのバランス能力と関連することから 31-33) ,下肢の機能評価の指標として度々用い られる.よって大腿四頭筋の筋力トレーニングは膝関節の機能改善のみならず,転倒予防の 効果も期待される.大腿四頭筋の筋力評価や膝関節の伸展力を評価していたのは 12 件であっ た.また,他の関連指標として主観的な膝痛の評価や変形性膝関節症の指標による測定・評 価も行われていた 11,17,18). 2 型糖尿病は過食や運動不足との関連性が強い生活習慣病として知られており,血糖値の バランスを保つホルモンであるインスリンの作用が高齢期において一層低下するため,高齢 者に多く見られる疾患である.糖尿病は心血管系疾患,脳梗塞,腎症,網膜症,神経障害の 危険因子であり,高齢者においてこれらの合併症を発症すると日常生活の活動能力(ADL) の低下を招く 34) .運動は糖代謝を改善するための一般的な手段として定着しており,海外の レビューでは継続的な有酸素運動によるヘモグロビン A1c(HbA1c)の改善が報告されている 35,36) .今回検索した論文でも糖代謝の指標として HbA1c の測定・評価を行った報告は多い.そ の理由として,国民健康・栄養調査で HbA1c が糖尿病の有無を判定するために用いられたこ とが考えられる.平成 24 年の調査では,糖尿病の可能性が疑われる者の割合は初めて減少し たが,全世代のうち 70 歳以上が占める割合は男女共に 30%を超えていた.これは全世代のな かで最も高い割合であり 37) ,近年の高齢者における糖尿病の患者数増加を反映した結果とな った.今回の検索において,糖代謝指標に関する運動介入の論文は 11 編,その報告数は 12 件であった 12,19-28). サルコペニアは加齢に伴い筋量が低下する現象であり,老年症候群の 1 つと位置づけられ, 運動障害や転倒・骨折の危険性の増大,ADL の低下につながりやすい.例えば大腿四頭筋の 筋量が体重 1kg あたり 10g 以下の場合は正常の歩行が困難となる場合がある 38).我が国では 「貯筋」という言葉が定着しつつあるが,これと前述の関節機能向上の目的を合わせると, 大腿四頭筋は筋力と筋量の両者を増加させることが重要な介護予防の策といえる.また,中 国人の高齢者を対象とした横断研究ではサルコペニアと糖尿病との関連性が報告されており 39) ,疾患予防のうえでも筋量の増加は重要な目的といえる.今回の検索において,サルコペ ニアの指標に関する運動介入の論文は 11 編,その報告数は 12 件であった 12,19-28).サルコペニ アの評価指標として体脂肪率の測定・評価が一般的であるが,最近は侵襲的な方法である CT による筋横断面積から評価する方法も用いられている 30). 高齢者の健康を促進させるための運動方法の基準は複数存在し, 「体調管理を重視」以外は, 若年および中年世代と同じ方法が採用されてきた.しかし,最近の新しい基準は高齢者を意 識した改定がみられるようになった. 例えば前述の「健康づくりのための身体活動基準 2013」 5) では新たに 65 歳以上の高齢者に限定した基準が加わり,一方,アメリカスポーツ医学会 (ACSM)とアメリカ心臓学会(AHA)が合同で作成した国際基準では,2007 年に 12 年ぶ りの改定が行われ,その中で新たに高齢者に関する筋力トレーニングの基準が追加された 40). 種目の特性を活かした運動プログラムについては多様化の傾向がある.例えば,水中運動は 膝への負担を軽減することが可能であり,高齢者の疾病予防や介護予防の目的として導入さ れることが多い 6,10,17).筋力トレーニングと有酸素運動の複合は筋機能の他にも持久力の向上 も期待される 8,12,17,22,25,26,27,29,30) .また,ゴムバンドを利用しての筋力トレーニング 15,25,26,29,30) は手軽さや費用を抑えられるといったメリットがある. 今回取り上げた 3 つの疾患以外にも,高齢者を対象とした運動介入の効果を明らかにした 研究は多く存在する.しかし,対象者や運動プログラム,研究デザイン等の相違があり,今 回はメタアナリシスのような結果を統合することはできなかった.よって今後,運動に特化 した介護予防の効果に関する質の高い研究の蓄積がより一層求められるだろう.また,Rikili ら 2)による改変 Nagi モデル 1)からわかるように,筋力や筋量のみならず機能障害に関連する 筋持久力,全身持久力,柔軟性,運動能力といった要素の向上も疾病予防や介護予防に大き く関与することが示唆される.よって,運動介入による体力要素の向上と予防効果との関連 性を議論することも今後の 1 つの課題である. 引用文献 1) Nagi SZ. Disability concepts revisited: implications for prevention. In: Sussman M, ed. Sociology and Rehabilitation. Washington, DC: American Sociological Association; 1965: 100-13. 2) Rikli RE, Jones CJ. Assessing physical performance in independent older adults: issues and guideline. J Aging Phys Activ. 1997; 5: 244-61. 3) Keysor JJ, Jette AM. Have we oversold the benefit of late-life exercise? J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2001; 56: M412-23. 4) 厚生労働省. 健康づくりのための運動指針 2006 ~生活習慣病予防のために~ (エクササイズ 2006)www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/undou01/pdf/data.pdf 5) 厚生労働省. 健康づくりのための身体活動基準 2013. http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000002xple.html 6) Takeshima, N, Rogers, ME, Watanabe E, Brechue WF, Okada A, Yamada T, Hayano J. Water-based exercise improves health-related aspects of fitness in older women. Med Sci Sports Exerc. 2002; 34: 544-551. 7) 新井武志, 大渕修一, 柴喜崇, 島田裕之, 後藤寛司, 大福幸子, 二見俊郎. 高負荷レジスタ ンストレーニングを中心とした運動プログラムに対する虚弱高齢者の身体機能改善効果とそ れに影響する身体・体力諸要素の検討. 理学療法学. 2003; 30: 377-85. 8) Takeshima, N, Rogers ME, Islam MM, Yamauchi T, Watanabe E, Okada A. Effect of concurrent aerobic and resistance circuit exercise training on fitness in older adults. Eur J Appl physiol. 2004; 93, 173-82. 9) 衣笠隆, 芳賀脩光, 江崎和希, 古名丈人, 杉浦美穂, 勝村俊仁, & 大野秀樹. 低体力高齢者 の体力, 生活機能, 健康度に及ぼす運動介入の影響 (無作為化比較試験による場合). 日本 運動生理学雑誌. 2005; 12: 63-73. 10) 大曽彰子, 藤本貴大, 本山貢. 介護予防における水中運動を中心としたトレーニング効果 について. 和歌山大学教育学部教育実践総合センター紀要. 2006; 16: 127-34. 11) 河津弘二, 槌田義美, 本田ゆかり, 大田幸治, 緒方美湖, 吉川桂代, 山下理恵, 山鹿眞紀夫, 古閑博明, 松尾洋. (2008). 介護予防を目的とした運動プログラム構成の試み: ポピュレーシ ョンアプローチ 「長寿きくちゃん体操」の紹介. 理学療法学. 2008; 35: 23-9. 12) Nishijima, H., Satake, K., Igarashi, K., Morita, N., Kanazawa, N., & Okita, K. Effects of exercise in overweight Japanese with multiple cardiovascular risk factors. Med Sci Sports Exerc. 2007; 39: 926-33. 13) 横塚美恵子, 千葉綾香, 柏美枝子, 神田智佳子, 田邊康二, 大田仁史. 訪問型介護予防事 業における虚弱後期高齢者に対する運動介入. 理学療法学. 2008; 35: 110-5. 14) 峯松亮, 後藤尚子, 吉崎京子. 介護予防教室参加と自己運動による高齢者の身体機能維持. 理学療法科学. 2010; 25: 625-9. 15) 山田拓実, 吉田弥央. 多施設で実施した集団運動による介護予防トレーニング(せらばん 体操^< TM>)の効果: ハイリスク, 予防給付, および要介護高齢者での比較. 日本保健科学学 会誌. 2010; 12: 221-9. 16) 大渕修一, 小島基永, 新井武志, 小島成実, 柴喜崇, 河合恒. 膝痛軽減を目的とした運動 器の機能向上プログラムの有効性. 日本老年医学会雑誌. 2010; 47: 611-6. 17) 三宮奈穂, 永野靖典, 石田健司. 水中運動の有効性と限界 (特集 高齢者の変形性膝関節 症と運動療法--有効性と限界). 臨床スポーツ医学. 2011; 28: 643-9. 18) 渡邉耕太, 工藤未来, 大坪英則. 変形性膝関節症に対する運動療法の効果に影響を与える 因子 (特集 高齢者の変形性膝関節症と運動療法--有効性と限界). 臨床スポーツ医学. 2011; 28: 651-4. 19) Maeda S, Tanabe T, Otsuki T, Sugawara J, Iemitsu M, Miyauchi T, Kuno S, Ajisaka R, Matsuda M. Moderate regular exercise increases basal production of nitric oxide in elderly women. Hypertens Res. 2004; 27: 947-53. 20) 河村孝幸, 石田篤子, 藤田和樹, 鈴木玲子, 齋藤昌宏, 今西里佳, 松本香好美, 上月正博. 介護予防運動教室参加者の腹腔内脂肪および血中アディポネクチンの推移. 体力科学. 2008; 57: 365-76. 21) 藤野雅広, 馬渕博行, 増田利隆, 桃原司, 長尾光城. 運動教室における内臓脂肪減少の判 定について. 川崎医療福祉学会誌. 2008; 17: 467-70. 22) 守田武志, 平田俊幸, 相馬寛人, 吉田昌平, 里見潤, 木谷輝夫. 中高齢者における運動療 法に伴う血圧と部位別脈波速度の変化. 体力科学. 2008; 57: 305-14. 23) 川俣幸一. 無作為化比較対象試験下における包括的高齢者運動トレーニングの実施. 信 州公衆衛生雑誌. 2009; 4: 54-5. 24) 友竹浩之, 岡島やよい, 南島八重子, 小倉奈緒, 齋藤陽子, 今井奈穂美, 佐々木学, 野坂俊 弥, 野見山哲生. 高齢者を対象とした脳卒中予防教室における栄養指導活動の効果. 信州公 衆衛生雑誌. 2009; 3: 23-8. 25) 平松喜美子, 森本美智子, 谷村千華. 糖尿病患者を対象とした複合運動による糖・脂質代 謝などの経時的動向. インターナショナル Nursing Care Research. 2009; 8: 31-7. 26) 平松喜美子, 森本美智子, 谷村千華. 中高年女性を対象とした筋肉量・筋力を強化するた めの複合運動の効果. 米子医学雑誌. 2009; 60: 113-8. 27) 木村彰光, 福田洋, 羽二生知美, 岡芙久子, 大池美希, 春山康夫. 地域のクリニックにお ける中高齢の生活習慣病患者に対する運動教室の意義. 民族衛生. 2010; 76: 195-206. 28) Ohta M, Hirao N, Mori Y, Takigami C, Eguchi M, Tanaka H, Ikeda M, Yamato H. Effects of bench step exercise on arterial stiffness in post-menopausal women: Contribution of IGF-1 bioactivity and nitric oxide production. Growth Horm IGF Res. 2012; 22: 36-41. 29) 山本美江子, 進俊夫, 中園敬生, 長田穣二, 原口毅, 韓正任, 原正義, 岡田弘一, 野口久美 子, 松田晋哉. 地域高齢女性に対する運動プログラムの効果. 産業医科大学雑誌. 2005; 27: 339-48. 30) 原田直子, 榊原久孝. 前期高齢者を対象とした地域での well-rounded training の試み. 日本 公衆衛生雑誌. 2007; 54: 15-24. 31) 西島智子, 小山理恵子, 内藤郁奈, 畠山聡, 山崎裕司, 奥壽郎. 高齢患者における等尺性 膝伸展筋力と歩行能力との関係. 理学療法学. 2004; 19: 95-99. 32) 大森圭貢, 横山仁志, 青木詩子, 笠原美千代, 平木幸治, 山崎裕司, 笹益雄. 高齢患者にお ける等尺性膝伸展筋力と立ち上がり能力の関連. 理学療法学. 2004; 31: 106-12. 33) 笠原美代子, 山崎裕司, 青木詩子, 横山仁志, 大森圭貢, 平木幸治. 高齢患者における片 脚立位時間と膝伸展筋力の関係. 体力科学. 2001; 50: 369-73. 34) Araki A, Ito H. Diabetes mellitus and geriatric syndromes. Geriatr Gerontol Int. 2009; 9: 105-14. 35) Boulé NG, Haddad E, Kenny GP, Wells GA, Sigal RJ. Effects of exercise on glycemic control and body mass in type 2 diabetes mellitus: a meta-analysis of controlled clinical trials. JAMA. 2001; 286: 1218-27. 36) Umpierre D, Ribeiro PA, Kramer CK, Leitão CB, Zucatti AT, Azevedo MJ, Gross JL, Ribeiro JP, Schaan BD. Physical activity advice only or structured exercise training and association with HbA1c levels in type 2 diabetes: a systematic review and meta-analysis. JAMA. 2011; 305: 1790-9. 37) 厚生労働省. 平成 24 年 国民健康・栄養調査結果の概要. 2013. http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000032074.html 38) 福永哲夫. 生活フィットネスの性年齢別変化. 体力科学. 2003; 52: 9-16. 39) Lee JS, Auyeung TW, Kwok T, Lau EM, Leung PC, Woo J. Associated factors and health impact of sarcopenia in older Chinese men and women: a cross-sectional study. Gerontology. 2007; 53: 404-10. 40) Nelson ME, Rejeski WJ, Blair SN, Duncan PW, Judge JO, King AC, Macera CA, Castaneda-Sceppa C. Physical activity and public health in older adults: recommendation from the American College of Sports Medicine and the American Heart Association. Med Sci Sports Exerc. 2007; 39: 1435-45. 表1 日本人高齢者を対象とした運動介入を検証した論文の一覧 著者 平均年齢 対象者 介入方法 期間 デザイン(対象者数) アウトカム指標 Takeshima et al.6) 69 普段座りがちな生活を送る健 週3回,1回70分,水中運動(ウォ―キング, 常な女性30名 ダンス,上半身・体幹・下半身部のレジス タンス運動),自覚的運動強度(RPE)の 15(きつい)程度 3ヶ月間 運動群 vs. コントロール群 膝関節屈曲筋力‡,膝関節伸展筋力‡ (15:15)§ 新井ら7) 79 IADL(老研式活動指標)に 週2回,1回90分,ウエイト・トレーニング 何らかの障害がある,要支援 (60%1RMの負荷,10回,最大3セット,3 ~要介護3の認定を受けてい ~4種目) る,最大歩行速度が80m/分未 満,のいずれかに該当する男 女69名(女性56名) 3ヶ月間 Takeshima et al.8) 68 普段座りがちな生活を送る健 週3回,1回50分,エアロビック・ダンス 3ヶ月間 運動群 vs. コントロール群 膝関節屈曲筋力‡,膝関節伸展筋力‡ 常な男女35名(女性20名) (30分,最大心拍数の70%),マシーンを用 (18:17)§ いたレジスタンス・トレーニング(上肢3種 目,下肢8種目,腹部1種目)を組み合わせ たサーキット・トレーニング 衣笠ら9) 75 運動実施が可能な男女30名 (女性18名) 週2回,1回90分,エアロビクス,筋力づく り運動,ストレッチング,ダンベル運動 (コントロール群は月1回,1回90分,低強 度のエアロビクスとストレッチング) 6ヶ月間 運動群 vs. コントロール群 膝関節屈曲位90ºでの等尺性膝伸展 力 (15:15)§ 大曽ら10) 71 運動教室参加の男女11名 水中運動(歩行およびアクアビクス,60分 間) 3ヶ月間 介入群(1群)のみ 30秒スクワットの回数†,体脂肪率 大曽ら10) 66 運動教室参加の男女12名 水中運動(上記同様),筋力トレーニング (椅子や立位にて10種目のうち8種目以上を 1セット,1週間に計6セット) 3ヶ月間 介入群(1群)のみ 30秒スクワットの回数†,体脂肪率 大曽ら10) 70 運動教室参加の男女6名 水中運動(上記同様),筋力トレーニング (上記同様),ステップ運動(音楽に合わ せた高さ20cmの踏み台昇降運動を最大酸素 摂取量の50%,10分間を1セット,1週間に 計14セット) 3ヶ月間 介入群(1群)のみ 30秒スクワットの回数†,体脂肪率 河津ら11) 74 継続して運動教室に参加可能 1か月目は週2回(準備期),2か月目以降は な男女21名(女性13名) 週1回(トレーニング期),1回約90分,準 備体操(5種目,各10秒×2回,1セット), 筋力・バランストレーニング(8種目,各3 秒×3回,1セット),整理体操(2種目,各 10秒×2回,1セット) 3ヶ月間 介入群(1群)のみ 膝の痛み(NRS),腰の痛み (NRS) Nishijima et al.12) 67 過体重(BMI24以上)かつ高 血圧症,脂質異常症,糖代謝 異常のうち2つ以上を有する 男女561名(女性327名) 6ヶ月間 介入群 vs. コントロール群 膝関節伸展筋力†‡ ,膝関節屈曲筋 (281:280)§ 力,空腹時血糖†,HbA1c 横塚ら13) 81 要介護度2の1名を除き,他の 週3回以上,1日1~2回,自重負荷による自 7名は介護保険未申請,計8名 動運動,自己抵抗による等尺性運動 (女性7名) 3ヶ月間 介入群(1群)のみ 膝関節伸展筋力† 峯松ら14) 78 自立生活を送る男女15名(女 2週間に1回,1回2時間程度,ストレッチン グ,筋力トレーニング(体幹筋,下肢筋, 性10名) 上肢筋) 2ヶ月間 介入群(1群)のみ 膝関節屈曲位90ºでの等尺性膝伸展 力 山田ら15) 78 要介護認定非該当者で将来的 週2回,上肢・体幹・股関節の柔軟性向上の に要介護の可能性が高い男女 ための体操(4種目),ゴムバンドを用いた 75名(女性60名) 膝関節屈曲・伸展筋群および股関節屈曲筋 群・外転筋群の筋力強化(6種目),自重で の下肢筋力強化(1種目),バランスの向上 (3種目) 3ヶ月間 介入群(1群)のみ 膝関節伸展筋力† 山田ら15) 84 要支援,もしくは要介護1の 男女122名(女性94名) 週2回,上肢・体幹・股関節の柔軟性向上の ための体操(4種目),ゴムバンドを用いた 膝関節屈曲・伸展筋群および股関節屈曲筋 群・外転筋群の筋力強化(6種目),自重で の下肢筋力強化(1種目),バランスの向上 (3種目) 3ヶ月間 介入群(1群)のみ 膝関節伸展筋力† 山田ら15) 84 要介護2以上の男女89名(女 性62名) 週2回,上肢・体幹・股関節の柔軟性向上の ための体操(4種目),ゴムバンドを用いた 膝関節屈曲・伸展筋群および股関節屈曲筋 群・外転筋群の筋力強化(6種目),自重で の下肢筋力強化(1種目),バランスの向上 (3種目) 3ヶ月間 介入群(1群)のみ 膝関節伸展筋力† 大淵ら16) 75 膝痛を有するが,運動プログ 週1 回の教室と隔日の自宅での重錘負荷歩行 ラム参加可能な男女37名(女 性28名) 3ヶ月間 介入群(1群)のみ 膝関節伸展筋力† 三宮ら17) 72 膝痛を有する男女36名(女性 週2回,1回60分,水中歩行,水中でのレジ スタンス・トレーニング(股関節屈曲・伸 27名) 展・外転運動,膝関節伸展運動など) 1.5ヶ月間 介入群(1群)のみ 大腿四頭筋筋力†,主観的な膝痛 (VAS)†,体脂肪率 渡邉ら18) 65 変形性膝関節症を有する女性 週2回,1回90分,ウエイト・トレーニング 200名 (60%1RMの負荷,10回,最大3セット,3 ~4種目) 3ヶ月間 教室群 vs. コントロール群 WOMAC(変形性膝関節症の評価 指標) (97:103)§ Maeda et al.19) 64 非肥満,正常血圧,ホルモン 週5回,1回30分,自転車エルゴメータ,換 療法や慢性疾患を有さない女 気性作業閾値(VT)の80% 性15名 3ヶ月間 運動群 vs. コントロール群 空腹時血糖,空腹時血中インスリ ン濃度,HOMA指数(インスリン (10:5)§ 抵抗性指標) 週2~4回,1回60~90分,自転車エルゴメー タ,最高酸素摂取量の40%の負荷,レジスタ ンス運動(上肢,体幹,下肢部の4種目), 20回を2セット 介入群(1群)のみ 下肢のウエイトマシーンの1RM (レッグプレス†,レッグエクステ ンション†,ヒップアブダクション † ) 河村ら20) 71 要支援・要介護1の認定者で 通所や訪問リハビリテーショ ンといったサービスを受けて いない男性,もしくは認定は 受けていないが生活動作に支 障がある男性16名 週2回,1回90分,レジスタンス・トレーニ ング(上肢・下肢,4種目),最大反復回数 の40%の負荷(40%1RM),10~20回を1 セット,4週目以降は12~15回を2セット, その他(骨盤エクササイズ,体幹安定化エ クササイズ,つま先エクササイズ,片足立 ち) 3ヶ月間 介入群(1群)のみ 空腹時血糖,空腹時血中インスリ ン濃度※,HOMA指数(インスリン 抵抗性指標)※,HbA1c,※低下が 認められるが統計学的な分析は未 実施 河村ら20) 74 要支援・要介護1の認定者で 通所や訪問リハビリテーショ ンといったサービスを受けて いない女性,もしくは認定は 受けていないが生活動作に支 障がある女性17名 3ヶ月間 介入群(1群)のみ 空腹時血糖,空腹時血中インスリ ン濃度※,HOMA指数(インスリン 抵抗性指標)※,HbA1c,※低下が 認められるが統計学的な分析は未 実施 藤野ら21) 65 運動教室参加の女性19名 週2回,1回90分,レジスタンス・トレーニ ング(上肢・下肢,4種目),最大反復回数 の40%の負荷(40%1RM),10~20回を1 セット,4週目以降は12~15回を2セット, その他(骨盤エクササイズ,体幹安定化エ クササイズ,つま先エクササイズ,片足立 ち) (記載なし) 3ヶ月間 介入群(1群)のみ 空腹時血糖,体脂肪率† 守田ら22) 68 運動習慣のない男女46名(女 週2回以上,30~60分,トレッドミルもしく は自転車エルゴメーター,無酸素性作業閾 性39名) 値(AT)の強度,および下肢の筋力トレー ニング(3種目),最大反復回数が15~20回 の低負荷(15~20RM)の15回1セットを2~ 3セット 6ヶ月間 介入群(1群)のみ 空腹時血糖† 川俣ら23) (65-) 運動教室参加の一般高齢者26 週2回,包括的高齢者運動トレーニング 名(女性16名) (CGT:comprehensive geriatric training) 3.5ヶ月間 運動群 vs. コントロール群 HbA1c (13:11)§ 友竹ら24) 70 心疾患を有さない高血圧症患 参加者個別に設定されたプログラム(体 操,ウォーキング)の実施,歩数計携帯に 者14名 よる日常の歩数の記録 平松ら25) 69 2型糖尿病の外来患者6名(女 性3名),2型糖尿病でない運 動教室参加者11名(女性10 名) 平松ら26) 67 骨・関節疾患,循環器疾患お 週1回,1回30分,有酸素運動(股関節,膝 よび運動器疾患を有していな 関節,股関節の筋群強化),ゴムバンド使 い女性10名 用のレジスタンス・トレーニング(肩部, 腕部,背部,大腿部の強化),自覚的運動 強度(RPE)の11(楽である)~12程度 (最大酸素摂取量の50~60%程度) 6ヶ月間 介入群(1群)のみ 木村ら27) 70 生活習慣病(高血圧症,糖尿 参加回数に制限なし,1回30~120分,自転 病,脂質異常症)を有する男 車エルゴメータ,自覚的運動強度(RPE) 女112名(女性100名) の11(楽である)~13(ややきつい),下 肢の筋力強化,バランス運動等 3ヶ月間 介入群 vs. 対照群 (56:56) Ohta et al.28) 72 心疾患および整形外科的疾患 毎日,1回10~20分,3セット(1週間あたり を有さない女性26名 計140分)の自宅内でのベンチステップ運 動,乳酸性作業閾値(LT)もしくは自覚的 運動強度(RPE)の15(きつい)程度 3ヶ月間 運動群 vs. コントロール群 空腹時血糖† (13:13)§ 山本ら29) (65-69) 自立歩行可能な女性14名 12ヶ月間 介入群(1群)のみ HbA1c,体脂肪率 週2回(うち1回は自宅で実施),有酸素運 6ヶ月間 糖尿病患者群 vs. 非糖尿病 HbA1c‡,体幹除脂肪量 動(股関節,膝関節,股関節の筋群強 患者群 (6:11) 化),ゴムバンド使用のレジスタンス・ト レーニング(肩部,腕部,背部,大腿部の 強化),自覚的運動強度(RPE)の11(楽 である)~12程度(最大酸素摂取量の60%程 度) HbA1c,体脂肪率†,体幹脂肪量† 空腹時血糖,HbA1c‡ 週1回,1回90分,ストレッチング,有酸素 運動(集団でのリズム体操),レジスタン ス運動(ゴムチューブ使用および自転車エ ルゴメータでの負荷),その他自宅での自 主トレーニング 18ヶ月間 介入群(1群)のみ 体脂肪率 介入群(1群)のみ 体脂肪率 山本ら29) (70-) 自立歩行可能な女性7名 週1回,1回90分,ストレッチング,有酸素 運動(集団でのリズム体操),レジスタン ス運動(ゴムチューブ使用および自転車エ ルゴメータでの負荷),その他自宅での自 主トレーニング 18ヶ月間 原田ら30) 69 運動教室参加の女性39名 週1回,1回60分,ゴムバンドやステップ台 を用いたレジスタンストレーニング, ウォーキング,リズム体操,マット体操, 自覚的運動強度(RPE)の11(やや楽)~ 13(ややきつい)程度 3ヶ月間 §ランダム化比較試験(Randomized controlled trial) †介入群は介入前後の変化について有意な改善(P<0.05)が認められた項目 ‡介入群の前後の変化は対照群と比較して有意な改善(P<0.05)が認められた項目 well-rounded training 教 大腿部筋横断面積(CT)† 室群 vs. レクリエーション 教室群 (24:15)