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第一線において適確な救命のために 新たに必要となる
資料5 第2回 防衛省・自衛隊の第一線救護における適確な救命に関する検討会 (平成27年6月17日) 第一線において適確な救命のために 新たに必要となる緊急の処置のエビデンス (仮称:有事緊急救命処置) ○ 第1回検討会で意見のあった「衛生科隊員が実施する新たに必要と なる緊急処置のエビデンス」について説明するもの。 1 米軍の死亡率の推移 米軍の戦傷者の死亡率は大幅に減少 戦争 World War II Vietnam OIF/OEF % CFR 19.1% 15.8% 9.4% ※ CFR = Case Fatality Rate: 戦傷者の死亡率(致死率) 防護装備の発達やヘリコプター等による患者後送手段の改善に加え、 TCCCガイドラインにより標準化された戦傷救護の発展が大きく貢献 TCCC: Tactical Combat Casualty Care(戦術的戦傷救護) Holcomb JB, et al., Understanding combat casualty care statistics. J Trauma. 2006;60:1Y5. 2 TCCCの背景・経緯について 1991-2000 2001-2010 (一部改)第1回検討会 資料4 2011-2014 2001.10.7~ アフガニスタン戦争 2003.3.20-2011.12.14 イラク戦争 米軍等 1993-1995 米特殊作戦軍と軍保健医科大 学でTCCCガイドラインの作成 1997 TCCCガイドライン 特殊部隊に導入 2001 米特殊作戦軍内に TCCC委員会を設置 2007 TCCC委員会を国防 衛生委員会へ移行 2002 カナダ軍がTCCCガイドラインを アフガン派遣部隊へ導入 世界52カ国が TCCCを導入 2010 TCCCガイドラインを米軍全軍に導入 ○米国防省TCCC委員会にて最新の医学研究成果や実戦での戦傷データを もとに毎年アップデート ○TCCCガイドライン:国防省、米国外科学会外傷委員会、米国救急救命士協会 が承認 Prehospital Trauma Life Support Manual (PHTLS) Military4th Editionから解説 (最新は第8版) ○英軍、加軍、豪軍等、世界52カ国において第一線救護としてTCCCを導入 3 米軍における衛生兵の手技の拡大による イラク・アフガン戦での収容前戦死者の改善 米軍全体 (止血のみ) 第75レンジャー連隊の衛生兵等に TCCCを導入し手技拡大 血 第75レンジャー連隊 (手技拡大) 手技の拡大 戦闘に復帰+医療施設へ搬送+死亡=419人 止 止 血 輸液(末梢血管) 挿 管 輸液(骨髄内) 外科的気道確保 き ょ う く う せ ん し 胸 腔 穿 刺 死亡者 3,064人 負傷者*18,681人 死亡者 28人 =16.4% =10.7% 負傷者*262人 100% 90% 死亡者/負傷者の比率 ○死亡率の減少(右図) ○避けられた死の減少 ・75レンジャー:3%(1/32) 四肢出血、緊張性気胸、気道閉塞による 死亡なし。 ・米軍全体:24%(232/982) ○戦傷者419人に対して下記の処置 ・輪状甲状靭帯穿刺・切開:10人 ・胸腔穿刺:20人 ・輸液路確保:90人 (胸骨からの骨髄路は1人) ・抗生剤投与:113人 ・鎮痛剤投与:146人 (OTFC:83人、モルヒネ:23人、両方:27人) (一部改)第1回検討会 資料4 80% 負傷し施設 到着時に生存 70% 60% 負傷し施設 到着前に死亡 50% 40% 30% 20% 10% 16.4% 0% Russ S et al. Eliminating Preventable Death on the Battlefield. Arch Surg 2011;146(12):1350-1358よりデータ引用 死亡率減 10.7% 4 負傷者*:医療施設に搬送+死亡 米軍での実戦における処置の分析 2009年~2011年のアフガニスタン戦での米軍の戦傷者1,003人を分析 第一線での処置 ターニケット 気道確保 呼吸管理 静脈路確保 未実施であるが、すべきで 不適切であった処置の あった処置の頻度 頻度 0.5 % 経鼻エアウェイ 27 % 気管内挿管 53 % 輪状甲状靭帯穿刺・切開 12 % 胸腔穿刺 48 % チェストチューブ 14 % チェストシール 8.0 % 20 % 5.9 % 8.6 % 6.7 % 8.0 % 輪状甲状靱帯穿刺・切開、胸腔穿刺、静脈路確保 「不適切であった」より「未実施であるがすべきであった」の頻度が高い。 Lairet JR, et at., Prehospital interventions performed in a combat zone: A prospective multicenter study of 1,003 combat wounded. J Trauma Acute Care Surg, Vol73, N2, Supple1, 2012 5 TCCC -総論○TCCCの主眼 1.Treat the casualty (戦傷者の救護) 2.Prevent additional casualties(更なる戦傷者発生の防止) 3.Complete the mission(任務の完遂) ○TCCCの基本的な考え方 【 Good medicine can sometimes be bad tactics】 ・危険の大きいところでは迅速に、安全な場所では時間をかけて確実に処置 ・戦闘職種の作戦運用と衛生運用の密接な連携が必須 ○3段階区分:戦場での敵の脅威と戦傷者の処置の迅速性と確実性のバランス ・Care Under Fire (砲火下の救護) ・Tactical Field Care (戦術的野外救護) ・Tactical Evacuation Care (戦術的後送救護) ○TCCCで特に重視 ・四肢の損傷による大量出血 ・緊張性気胸 ・気道閉塞 ・Damage Control Resuscitation (DCR):止血と輸液・輸血療法を中心 当該資料における参考文献(凡例) ○H-番号:Handbook, Tactical Combat Casualty Care No13-21 - Endnotes番号 ○PH番号-番号:Prehospital Trauma Life Support, Military Eight Edition, Chapter番号 – References番号 6 TCCC Tactical Field Care 気 道 確 保 1 気道閉塞のない、意識障害のある戦傷者 ○顎先挙上または下顎挙上法 ○経鼻エアウェイ ○戦傷者を回復体位にする 2 気道閉塞がある、またはその危険のある戦傷者 ○顎先挙上または下顎挙上法 ○経鼻エアウェイ ○座位など、気道確保に最善の体位にする ○意識障害のある戦傷者は回復体位にする ○もし上記の手段で気道確保できない場合、 輪状甲状靭帯穿刺・切開(意識があれば、リドカインを使用) 7 TCCC Tactical Field Care 気 道 確 保 外科的気道確保 ※気管挿管すら困難 ○イラク・アフガニスタンでの戦傷では、顔面の外傷が約10%あると報告。 ○第一線で顎顔面外傷による気道閉塞に対しては、気管内挿管よりも輪状甲状靭帯穿刺・切開が 最も効果的な気道管理を実施できる方法である。 (PH26-5,17,24,25,26) ○第一線での外傷患者への気管内挿管は日常の病院前救護とは異なる。 ・気管内挿管手技で用いる喉頭鏡の白色光は、戦況を危険にさらす可能性 ・顎顔面外傷者への気管内挿管は著しく困難である。(医師も対象とした研究:正確な留置が 確認された症例は22.5%)(PH26-5,6,17,18) 参照:http://www.naemt.org/education/TCCC/guidelines_curriculum 8 TCCC Tactical Field Care 呼 吸 管 理 1 進行する呼吸困難を伴う体幹部損傷があるか、その疑いがある戦傷者は 緊張性気胸を考慮し、14G・3.25インチ(約8cm)カテーテル針で患側胸部の 第2肋間鎖骨中線に胸腔穿刺を行う。 穿刺針が乳頭線の中間ではなく、心臓を向いていないことを確認する。 代替可能な穿刺部位は前腋窩線上の第4、第5肋間である。 2 完全あるいは部分的な開放性胸部損傷においては、速やかに欠損部に 弁付きチェストシール、それが使用できない場合は、弁なしチェストシールを 使用する。 3 中等症ないしは重症頭部外傷の戦傷者には可能であれば、酸素投与 9 TCCC Tactical Field Care 呼吸管理 –緊張性気胸- 3.25イン(8cm)の穿刺針にて 99%の症例で胸腔内に到達 ( PH26-37、H-19) ○ベトナム戦争の分析:緊張性気胸は全体の死因の3~4%(PH26-31) ○イラク・アフガニスタン戦争分析:防弾チョッキと積極的な胸腔穿刺により、緊張性気胸による防ぎ 得る外傷死は0.2%まで減少(PH26-27) ○穿通性胸部外傷、体幹の外傷、肩・腹部を撃たれた場合で、進行性の呼吸障害・低酸素、呼吸 困難、ショックへ進行がある場合には緊張性気胸を考える。 ○一般的に緊張性気胸の所見とされる所見(呼吸音左右差、気管偏移、頸静脈努張等)は信用でき ないし、第一線の現場で確認するとことは困難 ○第一線において、胸部への貫通外傷は、通常、ある程度の気胸を伴っている。 緊張性気胸が無くても、胸腔穿刺が大きく病態を悪化させる事はないはず。 →第一線での積極的な胸腔穿刺(PH26-5,33) ○胸腔穿刺による合併症:まれに鎖骨下動脈の裂傷、肺動脈損傷、心タンポナーデ等(PH26-41,42,43) ○イラク・アフガニスタン戦争にて、重篤な合併症の報告なし。(PH26-6) 10 参照:http://www.naemt.org/education/TCCC/guidelines_curriculum TCCC Tactical Field Care 静脈路・骨髄路確保 1 適応があれば、18G針で静脈路確保をし、生理食塩水ロックを行う。 2 輸液が必要で、静脈路が確保できなければ、骨髄路を確保する。 通常の静脈確保 骨髄輸液 ○戦傷者がショック状態の時には、静脈路確保が困難であるかもしれない。(PH26-79,80) ○戦傷者への処置が暗闇で実施されている場合には、骨髄路確保は静脈路確保よりもはるかに容易 ○骨髄路確保は、イラク・アフガニスタン戦で広く実施され、戦闘救護員にとって貴重な選択肢となって いる。(PH26-6,79) ○大量出血によるショック状態で末梢の静脈が確保できない場合がある。 ○骨髄路として、胸骨骨髄路を推奨 ・防弾チョッキを装着しているため胸骨が保護 ・四肢出血によるショックが多く、四肢からの静脈路、骨髄路の確保が困難 ・IEDで四肢が失われていることがある。 11 参照:http://www.naemt.org/education/TCCC/guidelines_curriculum TCCC Tactical Field Care 輸 液 蘇 生 1 出血性ショック状態ではない場合 ○直ちに輸液は必要ない ○戦傷者が意識清明かつ、飲み込める場合は経口輸液も可能 2 出血性ショック状態かつ血液製剤の使用が認められている場合(優先順位) ①全血* ②血漿:赤血球:血小板=1:1:1* ③血漿:赤血球=1:1 ④加工再編された乾燥血漿、液体血漿、解凍血漿のみ、あるいは赤血球のみ *全血、成分除去された血小板とも戦場で採集された血液はFDA(U.S.Food and Drug Administration)の認証を受けていない。 ※橈骨動脈触知、意識レベル改善、または収縮期血圧80-90mmHgまで蘇生 を継続 3 出血性ショック状態で、血液製剤が利用できない場合(優先順位) ①ヘスパンダー(HES製剤)での輸液蘇生 ②乳酸リンゲル液、あるいはPlasma-LyteA® ○各々500ml急速静注後、戦傷者を再評価する。 ○橈骨動脈触知、意識レベル改善、または収縮期血圧80-90mmHgまで蘇生 を継続 12 TCCC Tactical Field Care 輸 液 蘇 生 ○輸液蘇生は、2014年6月のTCCCガイドラインでは大きく改訂 ○末梢動脈が触れず、頭部外傷がないのに意識レベルが低下する場合には ショックと考え、輸液蘇生を開始する。(H-24) ○出血性ショックの外傷患者の蘇生には、血液製剤を用いるべきである。成分輸 血前に輸液を行う事の効果は不明。( PH26-145,146,147,148) ○現在最新のTCCCガイドラインは全血液を第1選択、赤血球、血漿、血小板を 1:1:1を第2選択としている。(PH27-5,6) ○大量輸血を必要とする重症外傷患者の経験から、解凍してすぐの血漿と濃厚 赤血球1:1で輸血することで生存率が上昇(PH27-29,30,31,32,33) ○解凍してすぐの血漿を早期(受傷後6時間以内)に輸血する事は、生存率を 向上。(PH27-24) ○最近は、日常の病院前救護として、血漿や濃厚赤血球を用いた蘇生を開始 (PH26-145) 13 TCCC Tactical Field Care 戦場における鎮痛 【戦場における鎮痛は以下の3つの選択肢から成る。】 ○選択肢1:軽~中等度の疼痛で、戦傷者はまだ戦闘可能な場合 ・Tylenol ® (アセトアミノフェン) 650mg 2錠8時間毎内服 ・Meloxicam(モービック® )15mg 1日1回内服 ○選択肢2:中等度~重度の疼痛で、戦傷者はショックまたは呼吸困難を呈して おらず、今後も状態が悪化する重大なリスクがない場合 ・口腔粘膜吸収フェンタニル(OTFC)800μg(頬と歯茎の間に置き、噛まない。) ○選択肢3:中等度~重度の疼痛で、戦傷者は出血性ショックまたは呼吸困難を 呈しているか、状態が悪化する重大なリスクがある場合。 ・ケタミン50mgIM/IN、又は、ケタミン20mgを緩徐にIV/IO *IM/INの場合は30分後に再投与 *IV/IOの場合は20分後に再投与 *End point:疼痛がコントロールされるか、眼振が出現するまで 14 TCCC Tactical Field Care 戦場における鎮痛 ○軽度から中等度の疼痛に対しては、メロキシカムを推奨。NSAIDの多くがCOX-1 の生成を阻害する事で血小板機能を阻害し出血時間を延長。(PH26-5,182,183,184) ○アフガニスタン戦争でNSAID内服による凝固異常のリスクが報告(PH26-185) ○アスピリン内服中の外傷患者の死亡率の増加が報告(PH26-186) ○メロキシカムは副作用プロファイルも優秀であり、術後疼痛の緩和効果が証明 され、24時間の薬効がある。(PH26-189,190) ○アセトアミノフェンも血小板機能を阻害する副作用が無く、止血を阻害しない。 ○第一線や野外の劣悪な環境ではOTFCが安全、効果的、即効性、非侵襲的で 鎮痛手段の良い選択肢として推奨。(PH26-191,194,195,196,197,198,199,200)(H-28) ○麻薬使用時には、ナロキソンをすぐに利用できるよう準備しておく。 ○悪心、嘔吐に対してプロメタジンの代替でオンダンセトロンを考慮して良い。 ○第一線でOTFCやモルヒネの効果が不十分な場合、戦傷者がショックや呼吸促 迫がある場合に、ケタミンは鎮痛のもう一つの選択肢である。(PH26-206) ○OTFCやモルヒネは、大量出血を伴う戦傷者においてショックを増悪の可能性、 頭部外傷では低酸素、低血圧が予後を増悪させる可能性がある。(PH26-206) ○ケタミンは救急医療で広く使われてきており、鎮痛に使用される用量では重篤 な副作用も少ない。戦傷者に低用量で投与した場合、通常、気道開通や呼吸を 損なわず、出血性ショックを増悪させる事もない。(PH26-209,210,211,212,213,214,215) 15 TCCC Tactical Field Care 抗 生 剤 投 与 【抗生剤投与は、全ての戦闘による開放創に推奨される。】 1 内服可能であれば Moxifloxacin 400mg 1日1回経口投与 2 内服不可能であれば(ショックや意識障害): Cefotetan 2gIV(3~5分かけて緩徐に)またはIMを12時間毎 または Ertapenem 1日1回1gIV/IM ○日常の病院前救護では、通常、外傷患者に現場では抗生剤は投与されない。 ○第一線救護の場面では、迅速に後送ができるとは限らないため、受傷後 1時間以内に抗生剤の投与を推奨。 ○特に医療施設までの後送が3時間以上要する場合には、抗生剤投与を推奨 (PH26-231) しかし、当該論文では、受傷後、1時間以上経過してから抗生剤が投与され た場合の創感染予防のエビデンスは引用されていない。 ○2007年のTCCCレビューの時点で、戦場での抗生剤使用による副作用の報告 はない。(PH26-6) 16