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平成 22 年度豊岡市コウノトリ野生復帰学術研究奨励補助制度 研究報告書 豊岡市周辺に分布する野生メダカ集団の形態 平成 23 年 2 月 近畿大学大学院 農学研究科 環境管理学専攻 朝井 俊亘・久米 幸毅・魚野 隆 目次 第1章 緒言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1 第2章 材料と方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3 第1節 材料 第2節 方法 第1項 取り扱い 第2項 ハイブリッド集団の外部形態観察 第3項 骨格系の観察 第3章 結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5 第1節 外部形態 第1項 量的形質 第2項 質的形質 第2節 骨格系 第1項 神経頭蓋 第2項 囲眼窩骨列・鰓蓋部・懸垂部 第3項 顎部 第4項 舌弓・尾舌骨 第5項 鰓弓 第6項 肩帯・腰帯 第7項 尾部骨格 第8項 中軸骨格 第9項 対鰭:胸鰭・腹鰭 第 10 項 第3節 第4章 第1節 不対鰭:背鰭・臀鰭・尾鰭 生息地点および周辺環境・・・・・・・・・・・・・(別紙:1) 考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14 ハイブリッド集団の形態 第2節 生息地の減少・・・・・・・・・・・・・・・・・・(別紙:4) 要約・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15 謝辞・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・17 引用文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・18 第1章 緒言 メダカ Oryzias latipes (Temminck and Schlegel, 1846) はダツ目メダカ亜目メダ カ科に分類される (Nelson, 2006) 全長約 4cm の淡水魚である.朝鮮半島,中国 中南部,台湾に広く分布し,国内では本州から沖縄島にかけての平野部にある 池沼,水田,細流などの氾濫原に生息する(細谷,1988;佐原,2001;瀬能, 2000).本種は従来1集団とされていたが,アロザイム分析により若狭湾周辺を 境界として,北日本集団,南日本集団と,豊岡市周辺に分布する両集団の中間 型であるハイブリッド集団に分けられる(Sakaizumi, 1980; 江上・酒泉,1981; Sakaizumi, 1983, 1984; Sakaizumi, 1986a, b; Sakaizumi and Jeon, 1987). 本種は臀鰭基底がとても長く,背鰭ははるか後方に位置し,眼は大きく頭部 の高位に,口は上向きにあるなど特異的な形態をしており,淡水魚の他魚種と 容易に区別することが可能である.学名でもある Oryzias latipes の Oryzae はラ テン語での稲を,ias は類似の意味を示し,latus は幅広い,pes は足(鰭)を意 味する(平嶋,2007)ことからも,その容姿・分布域・生息場所を容易にうか がうことができる.また,地方名が 5000 を超えると言われる(辛川・柴田,1980) ほど,日本人にとって昔から慣れ親しんできた水田のシンボルフィッシュでも ある. しかし,戦後の食料安定供給のために実施された圃場整備事業や,稲作用農 薬の大量使用,さらにボウフラ退治のために移殖されたカダヤシとの競合や, 食用魚として試験的に導入されたブラックバスなどの一般河川流出による捕食 被害によって,野生個体は近年その数を急速に減尐させてきている(林,2003; 久米,2006; 諸喜田・立原,2000).このような背景から本種は環境庁版レッド リスト(1999)によって,絶滅危惧Ⅱ類に指定された. 現在,本種が絶滅危惧種へ指定されたことによる希尐価値の高まりとともに, 商業目的による乱獲や売買が横行している.また,近年これらの遺伝的背景を 無視した他集団地域からの善意の放流も各地で増加し,純系野生地域個体群へ の遺伝的攪乱が懸念されている. 時を同じくして,現在の豊岡市の象徴であるコウノトリも生息環境の急激な 悪化(武田,2008)から絶滅危惧ⅠA 類に指定され,コウノトリの保護・保全 1 は豊岡市において最重要課題である.しかし,現状ではコウノトリの繁殖に重 点が置かれ,繁殖に最適な周辺環境の情報が絶対的に不足している.コウノト リの保護,そして生息環境の保全を行うには,昔から存在していた環境を整え ることが,本来あるべき健全な姿を取り戻すことにつながる.本種の減尐要因 は,絶滅に瀕するコウノトリにも当てはまる.コウノトリの生存には,本種を 含む自然環境下における豊富な餌生物が必要不可欠である.本種の生物学的情 報を蓄積し,生息環境を整えることが,コウノトリが本来生息していた当時の 姿を取り戻すことにつながり,効果的な保護・保全施策につながると考えられ る. そこで本研究では,コウノトリが生息可能な本来の自然環境を復元するため の情報収集の一環として豊岡市周辺に分布するハイブリッド型メダカ野生集団 の形態観察を行い,他地域集団との比較に利用できる形態学的情報の蓄積を行 う.また,調査・採集場所の自然環境や景観を観察し,メダカの生息状況を把 握するとともに現在の分布状況を確認する.本研究により,保全単位として地 域個体群を維持することが重要であると提言できるようになれば,周辺住民へ の啓発活動にもつながると考える. 2 第2章 第1節 材料と方法 材料 供試魚は,2010 年 10 月 4 日(月)~10 月 6 日(水)および,12 月 18 日(土) ~12 月 20 日(月)にかけて,豊岡市周辺(Fig. 1)において本種の生息地点調査 を行った際に採集された個体を用いた.なお,採集個体は近畿大学農学部環境 管理学科所蔵標本(KUN-P042172-042185, KUN-P042423-042424)として,登録・ 保存されている.本種は現在,絶滅危惧種に指定され,その数を急速に激減さ せているにもかかわらず,商業目的の密漁が後を絶たない.これら乱獲された メダカは各地の市場に出回り,~~産野生メダカとして高価で売買されている. 本集団も採集地点の公表による乱獲問題が懸念されることから,調査地点およ び採集場所に関する詳細な情報は別紙に分けて記載することとした. 第2節 第1項 方法 取り扱い 本研究に用いられた供試魚は,形態解析用標本として,現地にて 15%ホル マリン溶液で固定された後,研究室にて 10%ホルマリンに置換・保存されて いる.また,供試魚の一部は将来的な遺伝学的研究および全 DNA 抽出のた め,遺伝子解析用標本として 100%エタノールにて固定・保存されている. 第2項 ハイブリッド集団の外部形態観察 外部形態の量的形質は,Hubbs and Lagler(1974)を参考に,全長,標準体長, 体高,体幅,頭長,後頭高,吻長,両眼間隔,眼径,尾柄高,尾柄長,背鰭 高,背鰭基底長,臀鰭高,臀鰭基底長,胸鰭長,胸鰭基底長,背鰭前長,臀 鰭前長,腹鰭前長,胸鰭基底~腹鰭基底,背鰭基底~尾柄基底の 22 項目を計 測した.計数形質では,軟X線撮影装置(HB-50 型,ハイテックス株式会社) による撮影後(Fig. 2),実体顕微鏡下において背鰭条数,臀鰭条数,尾鰭条数, 腹椎骨数,尾椎骨数および総脊椎骨数を計測した.胸鰭条数および腹鰭条数 については次節で述べる方法により魚体を透明化,染色した後に実体顕微鏡 下で計測した.なお,外部形態形質の計測にはデジタルノギスを用いた. 3 各形質の測定項目は将来的に他地域集団との比較に用いるため,測定項目 のうち,体高,体幅,頭長,後頭高,尾柄高,尾柄長,背鰭高,背鰭基底長, 臀鰭高,臀鰭基底長,背鰭前長,臀鰭前長,腹鰭前長,胸鰭基底~腹鰭基底, 背鰭基底~尾柄基底は体長で,吻長,両眼間隔,眼径,胸鰭長,胸鰭基底長 は頭長で除し%で示した. 第3項 骨格系の観察 内部骨格系を観察するため,河村・細谷 (1991) の改良二重染色法を参考 に,透明骨格標本を作製した(Fig.3).作成された透明骨格標本は,実体顕微 鏡下で精密ピンセット(FONTAX 社,DUMONT 社製)および眼科用精密尖 刀バサミを用いて,頭部,鰓蓋部・懸垂部,顎部,舌部,鰓弓,肩帯,腰帯, 背鰭,臀鰭,脊椎骨,尾部骨格に区分し詳しく観察した.観察した部位は, 顕微鏡写真像を記録として残した.なお,解剖用語は岩井 (2004),細谷 (1991) に従い,骨格の名称は主として上野 (1975)の魚骨名リストおよび,藪本・上 野(1984)に準じた. ♂ ♀ Fig. 2. Radiograph of Oryzias latipes from Toyooka basin. Upper: male, lower: female. 4 第3章 結果 本研究で観察された豊岡市周辺に分布するメダカの一般的形態および特徴を 以下に記載する. 第1節 第1項 外部形態 量的形質(Table 1) 本研究における計測の結果,最大体サイズは,St.1 において 31.6mm.を示 した.各調査地点の集団は 27mm.から 32mm.の間にあることが判明した. 全ての地点において,体高/体長の平均値が 26%未満,頭長/体長では 30% 未満,眼径/体長は 10%未満となり,各地点において大きな差は見られなか った.眼径/体長においては,ほぼ全体で 9%以上であるのに対し,St.1 では 9%未満であることが確認された. 背鰭条数は全地点においてモードが 6 本となり,地点間での差異は見られ ず,ハイブリッド集団の統一性が示された. 臀鰭条数のモードは,各地点において 16-18 本であった. 胸鰭条数は,全地点のモードが 10 から 12 にあり,地域の共通性が示され た.また,腹鰭条数では計測したほとんどの個体において 6 本であることが 認められた. 総脊椎骨数ではモードが 31 個未満であることが確認された.脊椎骨を詳し く観察したところ,腹椎骨数においてはモードが 12 個であるのに対し,尾椎 骨数は 18 個にあることが判明した. 体高/体長では,各集団の平均値が St.1 24.0%,St.2 23.3%,St.3 25.0%,St.4 25.5%,St.5 25.0%,St.6 23.3%となり,各地点における規則性は確認されなか った. (以下,平均値の記述は同順とする). 同様に,体幅/体長での各集団の平均値は 14.3%,13.2%,12.4%,14.9%, 13.1%,12.1%となり,各地点で若干の差が見られた. 頭長/体長では,25.2%,26.2%,27.0%,26.4%,26.7%,26.3%を示し,St.3 が他地点よりも体サイズが小さく,相対的に頭長が大きいことを示した.後 頭高においては頭長/体長と比例せず,St.4 の体サイズの小ささと後頭高の 5 大きさを示す数値 20.1%,19.7%,20.0%,20.8%,20.3%,19.5%が得られた. 臀鰭基底長/体長では 26.2%,25.6%,27.0%,25.6%,25.5%,25.9%の値 を示し,St.3 が他地点に比べ若干臀鰭基底長の長いことが判明した.これに 対して臀鰭前長/体長の値は 60.0%,60.2%,60.5%,61.2%,60.6%,59.2% を示し,St.3 の本種は尾部が若干長いことが示された. 腹鰭前長/体長においては 47.5%,48.2%,48.8%,49.0%,48.2%,47.0% となり,St.4 が他地点に比べ大きい値を示した. 胸鰭基底~腹鰭基底/体長では 20.3%,19.9%,20.2%,21.7%,20.4%,20.7% を示し,東韓集団の腹部の長さが認められた. 吻長/体長では 7.3%,7.5%,7.4%,7.3%,7.3%,7.4%となり,豊岡に生 息する個体の吻長に大きな違いがないことが示された. 眼径/体長は 8.8%,9.1%,10.0%,9.1%,9.7%,9.1%を示し,眼径/頭長 では 34.9%,34.9%,37.1%,34.3%,36.1%,34.8%となった.これらから St.3 に生息する個体が他地点に生息する個体より眼径が若干大きいと認められた. 両眼間隔/頭長の値は 52.6%,50.7%,52.3%,52.1%,50.0%,50.5%を示 し,St.1 の個体の両眼間隔が広くなることが示された. 胸鰭長/頭長では 80.3%,75.9%,74.8%,75.2%,72.4%,72.6%となり, St.1 の胸鰭が他地点に比べて飛躍的に長いことが示された. 胸鰭基底長/頭長は 28.7%,27.4%,25.9%,27.8%,26.6%,28.1%を示し, 胸鰭長の大きい St.1 の個体が胸鰭長と比例して,他の地点集団に比べて大き い値をとった. 6 St.2 KUN-P42182 Number of specimens 10 10 Total length (mm) 34.6±2.0 (32.6-38.3) 32.3±1.3 (30.6-35.4) Standard length (mm) 28.4±1.7(26.6-31.6) 27.0±1.6 (24.9-30.0) Counts Dorsal fin rays 6 6.1±0.3 (6-7) Anal fin rays 16.5±0.8 (15-18) 17.7±0.7 (17-19) Pectoral fin rays 11 (n=2) Ventral fin rays 6 (n=2) Caudal fin rays 19.6±0.9 (18.0-21) 21.3±1.1 (20-23) Abdominal vertebra 12.4±0.8 (11-14) 12.3±0.5 (12-13) Caudal vertebra 18.0±0.5 (17-19) 17.9±0.3 (17-18) Total vertebra 30.4±0.7 (29-31) 30.2±0.4 (30-31) Measurements As % of Standard length Body depth 24.0±1.3 (21.7-26.2) 23.3±1.8 (19.8-25.9) Body width 14.3±0.9 (13.6-16.5) 13.2±1.1 (11.6-14.7) Head length 25.2±1.5 (23.1-28.8) 26.2±1.7 (22.0-28.2) Occiput depth 20.1±1.0 (18.5-21.8) 19.7±1.3 (17.0-21.7) Caudal peduncle depth 10.1±0.5 (9.5-11.3) 10.0±0.9 (8.0-11.0) Caudal peduncle length 17.2±1.1 (16.1-19.4) 16.7±1.2 (15.2-19.0) Dorsal height 17.5±1.8 (15.4-21.8) 17.2±3.0 (12.1-20.6) Dorsal base length 7.8±1.0(6.4-9.4) 7.4±0.8 (5.9-8.5) Anal height 17.1±2.3 (14.3-19.9) 16.0±1.6 (13.8-18.6) Anal base length 26.2±1.1 (24.1-27.8) 25.6±2.1 (21.9-28.3) Pre-dorsal length 76.9±1.6 (74.9-79.6) 76.2±3.5 (67.0-79.0) Pre-anal length 60.0±1.4 (58.3-62.8) 60.2±3.1 (52.4-64.0) Pre-ventral length 47.5±2.1 (45.1-52.4) 48.2±2.6 (42.0-52.1) Length of pectoral base to ventral base 20.3±1.3 (17.8-22.0) 19.9±1.3 (18.0-21.6) Length dorsal base to caudal peduncle base 17.9±1.2 (15.3-19.7) 17.0±2.0 (12.8-19.7) Ventral fin length 11.6± 1.0(10.7-14.0) 12.5±2.0 (10.0-15.6) Snout length 7.3±0.7 (6.1-8.4) 7.5±0.7 (6.0-8.3) Eye diameter 8.8±0.6 (7.8-9.7) 9.1±0.7 (7.4-9.8) Pectoral fin length 20.2±1.3 (18.6-23.6) 19.9±2.1 (15.3-22.9) Pectoral base length 7.2±0.4 (6.6-8.1) 7.1±0.5 (6.4-7.8) As % of Head length Snout length 29.1±2.3 (24.4-33.0) 28.5±1.8 (25.8-31.3) Interorbital width 52.6±2.5 (47.4-55.5) 50.7±1.9 (47.7-53.5) Eye diameter 34.9±1.6 (32.3-38.1) 34.9±1.8 (30.9-36.8) Pectoral length 80.3±4.4 (71.2-87.5) 75.9±5.4 (69.2-85.9) Pectoral base length 28.7±0.4 (25.8-30.9) 27.4±1.8 (25.1-30.8) Measurement data are shown as average ± SD. Figure in parentheses indicate minimum and max values. St.1 KUN-P42423 Table 1. Counts and measurements of Oryzias latipes from Toyooka basin on Present study. 12 32.3±1.2 (30.1-34.1) 26.6±1.0 (24.7-27.7) 5.9±0.3 (5-6) 16.9±1.0 (16-19) 10 (n=2) 6 (n=2) 20.8±0.9 (20-23) 12.2±0.4 (12-13) 18.2±0.6 (17-19) 30.3±0.8 (29-32) 25.5±1.2 (23.2-27.6) 14.9±1.4 (12.9-16.8) 26.4±0.8 (25.0-27.5) 20.8±0.5 (19.6-21.5) 10.3±0.8 (9.1-11.5) 16.7±0.9 (15.0-17.5) 17.7±2.5 (14.7-20.9) 7.6±0.6 (7.1-9.2) 16.6±2.0 (12.5-19.5) 25.6±1.8 (23.3-28.4) 76.8±0.8 (75.4-78.3) 61.2±1.0 (59.8-63.4) 49.0±2.1 (46.2-52.5) 21.7±1.2 (19.9-23.6) 18.1±1.1 (15.6-19.9) 12.5±1.1 (11.3-14.3) 7.3±0.2 (6.9-7.5) 9.1±0.4 (8.5-9.7) 19.9±1.3 (18.5-22.7) 7.4±0.7 (5.5-8.4) 27.5±1.0 (26.1-30.1) 52.1±2.8 (47.0-56.3) 34.3±1.7 (31.4-36.9) 75.2±5.3 (69.8-85.5) 27.8±2.8 (21.1-31.9) 6 17.4±0.7 (16-18) 12 (n=2) 5.5±0.7 (5-6) (n=2) 21.5±1.4 (20.0-24.0) 12.2±0.4 (12-13) 18.3±0.7 (17-19) 30.6±0.9 (29-32) 25.0±1.8 (22.6-27.8) 12.4±1.0 (10.5-13.9) 27.0±0.7 (25.9-28.1) 20.0±1.0 (18.2-21.1) 10.2±0.7 (9.1-11.2) 16.3±1.0 (14.0-17.4) 18.3±2.6 (13.9-21.0) 7.9±0.8 (6.4-8.9) 15.7±1.8 (11.5-17.9) 27.0±1.3 (24.0-28.7) 77.8±1.2 (75.5-79.7) 60.5±1.2 (58.4-62.4) 48.8±2.0 (45.1-51.9) 20.2±1.0 (18.6-21.6) 17.3±0.7 (15.9-18.5) 11.9±1.4 (9.8-14.6) 7.4±0.4 (6.9-8.1) 10.0±0.8 (8.2-10.8) 20.2±1.1 (18.6-22.5) 7.0±0.5 (5.9-7.7) 27.3±1.6 (24.5-29.5) 52.3±2.3 (48.6-55.9) 37.1±2.5 (31.5-40.5) 74.8± 4.1(69.3-81.2) 25.9±1.9 (21.2-27.8) St.4 KUN-P42184 12 34.4±1.7 (31.3-37.3) 28.1±1.3 (25.8-30.1) St.3 KUN-P42176 27.2±2.7 (20.5-30.0) 50.0±2.0 (46.3-52.4) 36.1±3.2 (32.1-42.7) 72.4±7.4 (60.4-84.1) 26.6±1.7 (23.9-28.8) 25.0±2.0 (21.7-28.4) 13.1±0.7 (11.7-14.1) 26.7±0.8 (25.4-27.9) 20.3±1.0 (18.9-21.9) 10.0±0.5 (9.3-10.7) 16.1±1.2 (14.1-18.3) 17.0±3.2 (10.7-22.3) 7.5±0.7 (6.3-8.6) 15.8±3.9 (10.5-23.3) 25.5±1.6 (23.2-28.3) 77.0±1.4 (75.3-80.0) 60.6±1.0 (58.7-62.2) 48.2±1.6 (46.3-50.7) 20.4±1.2 (17.3-21.6) 17.5±1.3 (16.4-21.3) 12.8±1.6 (10.6-15.2) 7.3±0.7 (5.5-8.0) 9.7±0.8 (8.4-11.4) 19.3±1.8 (15.8-22.4) 7.1±0.3 (6.6-7.6) 6.1±0.3 (6-7) 17.2±0.6 (16-18) 11.5± 0.7(11-12) (n=2) 6 (n=2) 20.2±1.3(18-22) 12.1±0.3 (12-13) 18.1±0.6 (17-19) 30.2±0.4 (30-31) 11 33.2±1.8 (30.4-37.0) 27.5±1.2 (26.0-30.1) St.5 KUN-P42178 28.0±1.4 (26.9-31.0) 50.5±2.4 (46.5-54.0) 34.8±2.4 (31.5-39.1) 72.6±5.5 (66.2-82.0) 28.1±1.3 (26.7-30.7) 23.3±1.4 (21.7-25.8) 12.1±0.7 (10.6-13.0) 26.3±1.1 (24.9-28.0) 19.5±0.9 (18.3-21.6) 9.8±0.7 (8.7-11.1) 16.6±1.0 (15.4-18.5) 17.3±2.3 (14.1-20.3) 7.5±0.8 (6.6-9.1) 14.7±2.4 (11.0-17.9) 25.9±2.2 (21.5-28.0) 76.9±2.1 (74.0-80.7) 59.2±1.9 (55.7-62.4) 47.0±2.1 (42.4-49.6) 20.7±1.8 (18.1-23.6) 18.0±1.4 (15.8-19.4) 11.6±2.5 (7.8-15.2) 7.4±0.5 (6.7-8.0) 9.1±0.6 (8.2-10.4) 19.1±1.5 (17.0-21.0) 7.4±0.4 (6.9-8.4) 6 17.4±0.8 (16-18) 21.6±1.3 (19-23) 12.3±0.5 (12-13) 18.4±0.8 (17-20) 30.7±0.7 (30-32) 10 34.5±2.2 (30.8-38.0) 28.6±2.0 (25.5-31.4) St.6 KUN-P42180 第2項 質的形質 本研究において採集された標本全体を観察すると黒色素胞の斑紋 (melanophores)が体表面全体に存在していた.雄の婚姻色はどの地点において も,胸鰭および腹鰭が黒くなるだけで,全身に及ぶ集団は存在しなかった. 泌尿生殖乳頭においては,各地点とも 2 分岐しており顕著な差は認められな かった.生殖様式としては,どの集団も卵生・体外受精であり,雌が纏落卵 を水草に産み付けない限りは,雌の腹部で発育を続けた.また,卵を抱えて いる部分に凹みは無く,産卵すると体から突出した状態であった. ♂ ♀ Fig. 3. Transparent skeletal specimen of Oryzias latipes from Toyooka basin. Upper: male, lower: female. KUN-P 42423 第2節 第1項 骨格系 神経頭蓋 頭部の支持構造である神経頭蓋は,中枢神経系および重要な感覚器を収 納・保護しており,鼻殻,眼窩,耳殻および床の 4 域に分けられた.左右の 嗅房を保護する鼻殻は,ほぼ同大同形の軟骨性硬骨である上篩骨 (supraethmoid)と軟骨性硬骨と膜骨の癒合骨である中篩骨(mesethmoid)に分離 8 して化骨しており,間に存在する篩骨軟骨 (ethmoid cartilage) とで,篩骨 (ethmoid)部分を形成していた. この中篩骨は軟骨性硬骨である幅蝶形骨 (parasphenoid)と接していた.また,前篩骨軟骨(preethmoid cartilage)は確認さ れなかった.中篩骨の後方には前頭骨(frontal)が続き,各前頭骨の前腹側面に は軟骨性硬骨である 1 対の側篩骨(lateral ethmoid)が眼窩の前縁を形成してい た.また,前頭骨の外側には蝶耳骨(sphenotic)があり,眼窩の後縁を形成して いる.蝶耳骨の先端部分には小さな皮蝶耳骨(dermosphenotic)が付着していた. 側篩骨の外側には皮骨である鼻骨(nasal)が存在し,膜骨である鋤骨(vomer)は 消失していた.頭頂骨 (pariatal) は存在せず,両前頭骨の後端は上後頭骨 (supraoccipital)と接しており,上後頭骨の後端は細長く伸びていた.上耳骨 (epiotic) は 上後 頭 骨の 左右 両 側に 位 置し , やや 内 側に 向 かっ て 後方 突 起 (posterior process)が伸びていた. 第2項 囲眼窩骨列・鰓蓋部・懸垂部 メダカでは囲眼窩骨列として,最前位にある膜骨の涙骨(lachrymal)と皮蝶 耳骨があるのみで,それ以外の眼下骨(infraorbital)や眼上骨(supraorbital)はな かった.一般の真骨魚類では頭部側線管を保護する管状皮骨が存在するが, メダカの涙骨や皮蝶耳骨などでは,管状にならず U 字状で感覚管形成が停止 していた. 鰓蓋部は膜骨である前鰓蓋骨(preopercle),主鰓蓋骨(opercle),下鰓蓋骨 (subopercle)および間鰓蓋骨(interopercle)からなり,主鰓蓋骨は内側上部で舌顎 骨(hyomandibular)と関節していた.前鰓蓋骨上には感覚管を構成する管状皮 骨が走るが,本種においては上部に溝が発達するのみで,管を形成していな かった.また,当地域の個体では溝が若干長い特徴が見られた.感覚溝下部 には感覚管の通る皮骨が 1 つ付着していた.また,前鰓蓋骨感覚溝は舌顎骨 とゆ合しており,分離が困難であった.間鰓蓋骨の前部は著しく細長くなり, 方形骨(quadrate)の腹面まで伸びていた. 口腔壁を支える懸垂部は,軟骨性硬骨からなる舌顎骨,接続骨(sympletic), 方形骨,後翼状骨(metapreygoid),膜骨からなる外翼状骨(ectopterygoid),そし て軟骨性硬骨と膜骨の複合骨である口蓋骨(palatine)から構成されていた.口 9 蓋骨と内翼状骨には歯がなく,外翼状骨と後翼状骨は確認されなかった.口 蓋骨と方形骨,内翼状骨は大きな三叉状の翼突方形軟骨で関節しており,口 蓋骨端は拡大し,主上顎骨(maxillary)に関節していた.舌顎骨上部は側篩骨と 蝶耳骨で形成されたくぼみに関節していた. 第3項 顎部 摂餌に必要不可欠な顎部は,ほぼ同じ長さの上顎と下顎からなる 1 対の顎 弓 (jaw arch) に よ っ て 支 持 さ れ て い た . 上 顎 は 膜 骨 で あ る 前 上 顎 骨 (premaxillary)と主上顎骨から構成されていた.前上顎骨には 1~3 列の不規則 な円錐歯がならび,雄では後端付近に大きな円錐歯が存在した.吻軟骨(rostral cartilage)は消失しており,前上顎骨には上向突起(ascending process)が見られ た.また,主上顎骨は前上顎骨の背縁に沿って関節しており,一部で前上顎 骨に重複した小さな背様突起を持っていた.この主上顎骨には歯がなく,前 上顎骨でのみ上顎が縁取られていた. 下顎は膜骨の歯骨(dentary)と角骨(angular)によって支持されており,左右の 歯骨は軟骨で結合していた.角骨後端には軟骨性硬骨の後関節骨 (retroarticular)が存在し,これらはメッケル軟骨(Meckelian cartilage)で歯骨と接 合していた.この軟骨で形成される関節面を介して,懸垂部である方形骨と 関節していた.歯骨においても前上顎骨と同様に,雄では後端付近に大きな 円錐歯が存在した. 第4項 舌弓・尾舌骨 口腔と鰓腔の拡張・収縮や顎の開閉に深く関与する舌弓は,基舌骨(basihyal) を軸に下舌骨(hypohyal),角舌骨(ceratohyal),上舌骨(epihyal)そして鰓条骨 (branchiostegal)の膜骨から構成されていた.間舌骨はなく上舌骨後端で間鰓蓋 骨と連絡し舌弓を支えており,鰓弓(gill arch)とは基舌骨を介して連絡してい た.下舌骨は腹部下舌骨(ventral hypohyal)のみで,背部下舌骨(dorsal hypohyal) は存在しなかった.鰓条骨数は 5 本で構成されていた.上舌骨と角舌骨の間 は軟骨で間接しており,この軟骨は角舌骨の下縁を縁取っていた.尾舌骨 (urohyal)の前部は上方へ向かう突起があり,後部は上下 2 段にわたって翼状 10 になっていた. 第5項 鰓弓 鰓を支持する鰓弓(branchial arch)は 5 対あり,鰓弓基底では軟骨性硬骨が本 体である 3 つの基鰓骨(basibranchial)が正中線上に並ぶ.表面には歯板(tooth plate)が無く,3 つの下鰓骨(hypobranchial)と微小な歯が密生する 4 つの角鰓骨 (ceratobranchial)がこれに連なっていた.第 2,第 3 角鰓骨端は軟骨性であり, H 型に枝分かれしていた.また,第 4 角鰓骨の表面には歯板が無かった.本 種では第 5 角鰓骨が咽頭骨(pharyngeal bone)として肥大しており,表面には小 さな咽頭歯が密生していた.鰓弓の上枝は 4 つの上鰓骨(epibranchial)と,2 つ の上咽鰓骨(suprapharyngobranchial)からなり,間弓軟骨(interarcual cartilage)は 無かった.第 1 上鰓骨は完全に骨化していた.第 2 上鰓骨は他の上鰓骨と比 べて著しく小さいが,完全に骨化しており,角鰓骨端の軟骨と関節していた. 第 3 上咽鰓骨は咽頭骨の対になる部分で著しく肥大しており,これに関節す る第 4 上鰓骨の関節面も著しく肥大していた. 第6項 肩帯・腰帯 胸鰭を支持するとともに外鰓腔後縁を形成する肩帯は,軟骨性硬骨の烏口 骨 (coracoid) , 肩 甲 骨 (scapula) , 膜 骨 で あ る 擬 鎖 骨 (cleithrum) , 後 擬 鎖 骨 (postcleithrum) , 後 側 頭 骨 (posttemporal) か ら な っ て い た . 上 擬 鎖 骨 (supracleithrum)は消失しており,2 分岐していない後側頭骨上端が上耳骨に付 着するのみであった.後擬鎖骨下端は擬鎖骨外側に付着し,肩甲骨は擬鎖骨 の内側に軟骨を介して接合していた.肩甲骨下縁は軟骨を介して烏口骨上縁 と接合しており,烏口骨下縁に進むにしたがい細くなり,先端には軟骨片が 付着していた.中烏口骨(mesocoracoid)は無く,肩甲骨と烏口骨の外側には胸 鰭と関節する射出骨(actinost)が存在した.射出骨の外側は軟骨で覆われてお り,胸鰭基部にも種子軟骨(sesamoid cartilage)が存在した.藪本・上野(1984) では,射出骨と胸鰭の間に細長い軟骨があるとしているが,本研究で観察し た個体のどれにも認められなかったことから,藪本・上野(1984)の記載間 違いであると思われた.後擬鎖骨は肩帯に接しておらず,やや背後に肋骨様 11 骨格として存在していた. 腹鰭を支持する腰帯は,体のほぼ中央腹部に位置し,軟骨性硬骨である左 右一対の基鰭骨(basipterygium)から構成されていた.基鰭骨は,3 方へ向かう 軸構造からなり,各軸の間には翼状の骨膜が波打ちながら広がっていた. 第7項 尾部骨格 尾鰭を支持する尾骨は尾鰭椎前椎体と尾鰭椎を軸に.軟骨性硬骨の上尾骨 (epural),尾神経骨(uroneural),下尾骨(hypural),および尾鰭椎前第 1 尾椎の血 管棘が変化した準下尾骨(parhypural)が附属していた.血管棘から変化した下 尾骨は第 1,第 2 下尾骨と第 3,第 4,第 5 下尾骨がそれぞれ癒合し,上下の 下尾骨板を形成していた.上尾骨は 2 本認められた.尾部腹側には附属骨お よび附属軟骨が存在し,2 本ともに附属軟骨か,各 1 本ずつの場合の 2 通り が見られた. 第8項 中軸骨格 脊椎骨は,中軸骨格として魚体を支えるとともに,魚種によってその数が ほぼ定まっていることから,しばしば分類形質として重要視されている(岩 井,2004).脊柱は椎体(centrum)を中軸にさまざまな軟骨性硬骨が加わり構成 されていた.椎体は体幹部の腹椎(abdominal vertebra)と尾部の尾椎(caudal vertebra)に二分されていた.第 1 脊椎骨は基後頭骨と外後頭骨に間接してお り,椎体からは 1 本の神経棘(neural spine)が背側へ突出し神経弓門を形成して いた.腹椎ではこの神経棘が翼状に広がり,一対の側突起(parapophysis)が腹 側へ突出していた.腹椎が尾椎に移行するにしたがって左右の側突起は伸長 し,血管棘(heamal spine)を,その基部では血管弓門(heamal arch)を形成してい た.腹椎では側突起先端に上肋骨(epipleural rib)および下肋骨(pleural rib)が付 着していた.第 1 下肋骨の始点は当地域においては、第 3 脊椎から下肋骨が 始まっていた. 第9項 対鰭:胸鰭・腹鰭 胸鰭条の最も上方は著しく短くなっていた.雄の第 3 胸鰭条の分節に臀鰭 12 と同様の小突起があった. 腹鰭を支持する腰帯は左右対となる 3 叉状の腰骨とそれに付着する一対の 軟骨からなり,その成分は軟骨性硬骨である.3 方向に向いている各軸骨の 間には翼状の薄い硬骨が広がっていた.他の鰭に比べて著しく小さく,その 長さが臀鰭まで届く個体は尐なかった. 第 10 項 不対鰭:背鰭・臀鰭・尾鰭 背鰭と臀鰭は軟骨性硬骨である近位担鰭骨(proximal pterygiophore)と遠位 担鰭骨(distal pterygiophore)が連続関節することによって支えられていた.近 位担鰭骨の腹側先端には軟骨部があり,遠位担鰭骨は全体が軟骨によって覆 われていた.本種は背鰭が著しく後方に位置しており,地点によって位置に 若干の差異が認められた.臀鰭は大きく,雄では臀鰭の後方の鰭条に小突起 (bony process)が存在し,全集団において小突起の見られない個体は存在しな かった. 尾鰭の形状はどの集団も後端が平坦であり,鰭条数においては,基本的に 上葉よりも下葉のほうが多かった.副尾鰭条基部の形態は,どの地点におい ても,直線的であった. 13 第4章 考察 一連の形態計測,形態観察の結果に基づいて,メダカハイブリッド型集団に ついて論議する. 第1節 ハイブリッド集団の形態 本地域の集団は,いずれの地点も本種の特徴を良く現しており,一様に形態 に大きな差が見られなかったことから,共通の祖先に由来しているものと思わ れる.現在まで円山川流域の豊岡盆地周辺に分布する本種の形態学的な研究が 行われておらず,保全単位として本地域集団が重要であるということが提言さ れてこなかった.しかし,本研究から他地域集団との比較に用いることのでき る形態学的情報が蓄積されたことにより,他地域との類縁関係を推測する大き な手がかりが得られたと思われる.以降の研究において,他地域集団との比較 を行うことにより,ハイブリッド型集団が地域個体群として進化学上重要な位 置を占めるとともに保全単位として重要であると提言できることに一歩近づい たと考えられる. 14 要 約 メダカ Oryzias latipes はダツ目メダカ科に分類される全長約 4cm の淡水魚で ある.東アジアに広く分布し,国内では本州から沖縄島にかけての池沼,細流 などに生息する水田のシンボルフィッシュである.本種は近年,遺伝学的研究 により南北日本集団および両者の中間型であるハイブリッド集団に分けられる ことが知られている.しかし,生息環境の悪化により近年その数を急速に減尐 させ,環境庁新版レッドリスト(1999)によって絶滅危惧Ⅱ類に指定された.本 種の希尐価値が高まるとともに乱獲や売買が横行し,また,近年遺伝的背景を 無視した放流が各地で増加し,純系野生地域個体群への遺伝的攪乱も懸念され ている. 時を同じくして,現在の豊岡市の象徴であるコウノトリも生息環境の急激な 悪化(武田,2008)から絶滅危惧ⅠA 類に指定され,その保護・保全は豊岡市 において最重要課題である.しかし,現状ではコウノトリの繁殖に重点が置か れ,繁殖に最適な周辺環境の情報が絶対的に不足している.コウノトリの保護, そして生息環境の保全を行うには,本種を含む昔から存在した本来あるべき自 然環境を取り戻す必要がある.そこで,本種の生物学的情報を蓄積し,生息環 境を整えることが,コウノトリが本来生息していた当時の姿を取り戻すことに つながり,効果的な保護・保全施策につながると考えられる. 本研究では,コウノトリが生息可能な本来の自然環境を復元するための情報 収集の一環として豊岡市周辺に分布するハイブリッド型メダカ野生集団の形態 観察を行い,他地域集団との比較に利用できる形態学的情報の蓄積を行うとと もに,豊岡市周辺に生息する本種の生息状況を把握する.本研究が使われるこ とにより,保全単位として地域個体群を維持することが重要であると提言でき れば,周辺住民への啓発活動にもつながると考える. デジタルノギスを用いて外部形態 22 項目の計測を行った.部位によっては軟 X線撮影を行い,骨格観察には二重染色を施して透明骨格標本を作製した.実 体顕微鏡下で解剖し,骨格標本を写真および描画像として記録した.なお,骨 格系の用語は細谷(1991)に準じた. 一般的な形態において,円山川流域の豊岡盆地周辺に分布する個体は生息地 15 点に限らず明瞭な差異は見られなかった. 骨格系では,本種の特異な形態的特徴が認められた. 本研究から,メダカハイブリッド型集団の詳細な形態が明らかになったとと もに,他集団との比較に用いることのできる情報が蓄積された.また,円山川 流域の豊岡盆地周辺に生息する本種の危機的な現状が浮き彫りとなり,さらな る保護・保全を行わなければならないことも明らかとなった. 16 謝 辞 本研究を行う機会を与えていただき,終始にわたり御指導ならびに励ましを 頂いた本学農学部の細谷和海教授に深く感謝の意を表する.また,本研究の遂 行にあたり,本学農学部の久保喜計講師,北川忠生講師には随時,励ましと有 益な御助言を頂いた.標本収集に際し,採捕許可や生息地情報などで以下の方々 に多大なる御協力を頂いた.ここに心から厚く御礼申し上げる.野本智英氏, 坂本成彦氏(豊岡市役所コウノトリ共生課),佐竹節夫氏(コウノトリ湿地ネッ ト),福井 泉氏(円山川漁協),磯田英昭氏(コウノトリの郷公園).また,本 研究の遂行にあたり,寺脇智紀氏・松尾扶美氏・川上拓人氏・木村亮太氏をは じめとする環境管理学科の学生諸氏には,多くのご協力をいただいた.心から 御礼申し上げる. 17 引用文献 江上信雄・酒泉満.1981.メダカの系統について.系統生物 6:2-13. 林公義.2003.メダカ.環境局野生生物課(編),pp.162-163. 改訂・日本の絶 滅のおそれのある野生生物‐レッドデータブック‐4:汽水・淡水魚類.自然 環境研究センター,東京. 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