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小型コンピュータと自動走行ロボットによる中小規模サーバ 室の自動温度

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小型コンピュータと自動走行ロボットによる中小規模サーバ 室の自動温度
学術情報処理研究
No.19 2015 pp.114-121
S3R: 小型コンピュータと自動走行ロボットによる中小規模サーバ
室の自動温度測定
S3R: Automated Temperature Measurement in Small and Medium
Sized Server Rooms by Using A Tiny Computer and Self-driving
Robot
矢崎 俊志 †, 土屋 英亮 †
Syunji Yazaki†, Hideaki Tsuchiya†
[email protected], [email protected]
電気通信大学 情報基盤センター †
Information Technology Center, The University of Electro-Communications†
概要
本論文では,小型コンピュータ Raspberry Pi と自動走行ロボット iRobot Create を用いた中小規模
サーバ室向けの自動環境監視システム S3R (Sentinel System for Server Rooms) の自動温度測定機能
の開発について述べる.近年の電力や予算の削減要求から,データセンターやサーバ室など多くの機器
を設置する施設はその効率的な運用が強く求められている.特に施設の維持コストの多くを占める空調
の効率化は課題である.大規模データセンターでは,固定温度センサや気流シミュレーションによって
室内の環境を評価し,空調を最適化している.移動ロボットによるホット/コールドスポットなど,特
異的な環境変化を発見する試みもある.これらの手法は比較的整然とした環境である大規模データセン
ターを対象としたものであり,より雑然とした中小規模のサーバ室には適用できない.本研究では,中
小規模のサーバ室を対象として,小型コンピュータ Raspberry Pi と自動走行ロボット iRobot Create
を用いて作成した自動環境監視システムを開発した.作成したシステムにより,実運用されているサー
バ室で温度測定行ったところ,部屋の一部が無駄に 2 ℃ 程度冷却されていることが発見できた.また,
放熱の多い機器周辺の温度上昇が約 0.5 ℃ 程度であることがわかった.
キーワード
自動温度測定, 自動走行ロボット, 小型コンピュータ, 中小規模サーバ室
行った国内外のデータセンター事業者への調査によると,
1 はじめに
データセンターの電力使用効率を表すデファクトスタン
近年の電力や予算に対する削減要求から,データセン
ダードな指標である PUE (Power Usage Effectiveness)
ターやサーバ室など,多くの情報機器を設置する施設に
の平均は,1.8∼1.9 であることが報告されれている [1].
は,その効率的な運用が求められている.特に収容され
これは,施設維持によって消費される電力が,情報機器
ている情報機器を安定稼働させるための施設維持に必要
そのものの電力消費に匹敵することを意味する.設備維
な電力は無視できない.グリーン IT 推進協議会が 2010
持に必要な電力の大半は空調によって消費されている.
年 7 月∼2011 年 1 月と 2011 年 8 月∼2012 年 1 月に
すなわち,データセンターやサーバ室の空調で消費され
- 114 -
る電力は,情報機器自体の電力消費と同等であるという
ある.しかし,中小規模サーバ室のように,均一な環境
のが原状である.空調の電力効率を改善するため,既存
を長期間維持できない場合には,これらの手法による正
の空冷方式の改善のみならず,水冷や排熱利用 [2],液浸
確な評価は難しい.
[3] など,様々な施策がなされているが,これらの効果を
評価するためにも,室内環境をできるだけ連続的に観測
3 関連研究
する手法の開発が求められている.
データセンター内の温度や湿度などを連続的に計測
本研究では小型コンピュータ Raspberry Pi と自動走
または評価するため,いくつかの方法が提案されてい
行ロボット iRobot Create を用いたサーバ室環境自動監
る.大阪大学のサイバーメディアセンターでは,CFD
視システム S3R (Sentinel System for Server Rooms)
(Computational Fluid Dynamics) シミュレーションに
を開発する.本論文では特に,S3R の自動温度測定機能
よって設置位置を最適化した固定センサを用いて,温度
の実装について述べる.さらに S3R のプロトタイプ実装
管理を効率化している [4].計算に時間がかかる CFD シ
において,実際に運用されているサーバ室の温度を自動
ミュレーションによる室温評価を高速化する試みもなさ
測定した結果を示す.
れている [5].これらのシミュレーションは,大規模デー
タセンターのように,データセンター内で使用されてい
2 大規模データセンターと中小規模サーバー
る機材の形状等が均一である場合には実測値に近いシ
室の電力効率化
ミュレーション結果を得ることができる [6] が,様々な
本研究で開発している S3R は,大学や中小企業または
機材が混在する環境では,その誤差は大きくなることが
それらの遠隔拠点で利用されるような中小規模サーバー
予想される.大阪大学ではさらに,固定センサと移動セ
室を主な対象とする.大規模データセンターは,主に大
ンサによる測定を組み合わせることで,固定センサでは
規模なクラウド基盤やスーパーコンピュータを収容する
検出できないホットスポットを自動検出する仕組みを提
ために設計される.よって,部屋や収納ラックの構造そ
案している [7].
のものが,設置される大量のサーバやネットワーク機器
IBM は,温度センサ,湿度センサ,カメラを搭載した
の総合的な動作温度,電源容量,重量,サイズなどの仕
自動ロボットを開発した [8, 9, 10].このシステムはデー
様に基づいて決定される.したがって,室内環境として
タセンターのタイルを認識することで,環境測定結果の
は比較的整然としている.一方,大学や中小企業などが
地図を自動作成することができる.このシステムを用い
利用する中小規模のサーバー室では,そこで運用される
て,実運用されているデータセンターで,ヒート/コー
システムが予め決められていない場合が多い.後から部
ルドスポットを発見することに成功している.しかし,
屋やラック内に追加される様々な機器の不均質な仕様に
このシステムはタイルを認識して動作するため,床が均
より,運用とともに雑然とした環境となる傾向にある.
一ではない部屋には適用できない.
近年の電力や予算の削減に対する要求から,大規模
データセンターだけでなく,中小規模のサーバ室におい
4 システム設計
本研究で提案する自動環境監視システム S3R の設計
ても電力効率の良い運用が求められている.部局ごとに
消費電力を評価し,電力削減に務める活動を行っている
と,温度測定機能の実装について述べる.
組織は多い.特に大量の情報機器を扱う部局は,電力の
主な消費元となるため,電力削減に対する要請が多い.
電力効率の改善に最も効果的なのは空調の最適化であ
既存研究で開発されたシステムが,大規模データセン
ターでの運用を想定したものであるのに対して,S3R は
中小規模サーバ室での利用を想定して設計されている.
る.前節で述べたとおり,施設維持に必要な電力の多く
中小規模サーバ室と大規模データセンターとの大きな違
は空調で消費されており,空調の最適化が電力効率の改
いとして,機材や部屋の仕様が均一でない点,人の入退
善には重要である.
室が多い点,複数のまったく異なるシステムの管理者に
空調の最適化を行うためには,室内環境の変化を連続
よって共用されている点などが挙げられる.
的に観測する必要がある.室内環境は一定ではなく,機
中小規模サーバ室では,部屋の物理モデルが複雑にな
器の動作状況,人の入退室,空調の自動調節機能などに
るため,既存研究で行っているような,部屋の CFD シ
より常に変化する.
ミュレーションによる固定センサ位置の最適化は難しい.
大規模データセンターのように,整然とした室内環境
固定センサによる室温測定は,部屋全体を把握するため
であれば,気流シミュレーションや固定センサによって
に多くのセンサを室内に設置する必要があり,部屋の構
連続的な環境変化を精度よく自動評価することは可能で
造によってはデータを収集する仕組みが大掛かりなもの
- 115 -
表-1 S3R を構成するハードウェア一覧.
Mobile platform
Control unit
Temperature sensor
USB-Serial cable
WiFi dongle
iRobot Create (iRobot)
Raspberry Pi 2 B+
DS18B20 (Maxim Integrated)
USR-03 (PCI)
BUFFALO WLI-UC-GNM2
れらのデータに基づき自動走行アルゴリズムにしたがっ
た走行制御を行う.
図-1 S3R の構成.3 個の温度センサ (Temperature
制御ユニットは無線 LAN アクセスポイントとしても
sensors) と走行プラットフォーム (Mobile Platform),
動作する.外部 PC から無線 LAN 経由でログインし,
およびこれらを制御する制御ユニット (Control unit)
プログラムを実行することでシステムを制御する.測定
で構成される.制御ユニットはデータの蓄積および無
データは,同じく無線 LAN 経由で外部ストレージにコ
線 LAN による外部 PC との通信も同時に行う.
ピーすることができる.制御ユニットと温度センサを接
続するバスには 1-Wire® を用いる.制御ユニットはシ
となる.中小規模のサーバ室は,複数の管理主体で共有
リアル通信により走行プラットフォームを制御する.
表 1 に S3R で使用したハードウェア機器をまとめる.
される場合が多く,機材の入れ替えが頻繁に行われるこ
とから,固定センサの維持には移設・撤去・新設などの
走行プラットフォームとして,既存研究と同様に iRobot
手間がかかる.
社の iRobot Create (以下,Create),制御ユニットとして
このような大規模データセンターと中小規模サーバ室
小型 PC の Raspberry Pi 2 B+(以下,Raspberry Pi)
,
との環境の違いを考慮し,S3R の開発においては,異な
温度センサとして Maxim Integrated 社の DS18B20 を
る環境での異なる要求に柔軟に対応できるシステムの実
用いる.制御ユニットと走行プラットフォームを接続
現を目標とする.このために,
する USB-Serial 変換ケーブルとして,PCI 社の USR-
03 を用いる.WiFi ドングルとして,BUFFALO 社の
O1 変更が難しい固定設備を用いない
O2 縮小・拡張が比較的容易な規格のソフト/ハード
ウェアを用いる
WLI-UC-GNM2 を用いる.
Create は,iRobot 社が一般に販売している研究・開
発用の走行プラットフォームである.同じく市販されて
O3 低予算で導入可能な機材を用いる
いる自動掃除ロボット Roomba から掃除機能を取り除
き,シリアルポート,バッテリー出力,モーター制御用
を特徴としたシステム設計を行う.
サーバ室の温度管理を行うためには,連続した 3 次元
の端子を追加したものである.OI (Open Interface) と
の温度測定データが必要である.空調の効果は,部屋の
呼ばれる制御コマンドをシリアル通信により Create に
上部,中部,下部で異なるため,観測点は部屋の水平方
送信することで,その動作を制御することができる.ま
向だけでなく,垂直方向にも必要である.温度は同じ地
た,Create が持つ各種センサの値を,シリアル通信を通
点であっても空調機器の自動温度調整機能や吹き出し方
じて取り出すこともできる.
Raspberry Pi は教育向けに開発された小型 PC であ
向設定の影響で時間ごとに変化する.
以上を踏まえ,S3R を図 1 の様に構成する.S3R は温
る.OS としてカスタマイズされた専用の Linux を用い
度センサ (Temperature sensors) と走行プラットフォー
るが,デスクトップまたはサーバ向けの Linux とほぼ同
ム (Mobile Platform),およびこれらを制御する制御ユ
等の機能を持つ.既存研究では,制御ユニット相当とし
ニット (Control unit) で構成される.温度センサは,部
てラップトップ PC を用いているが,本研究ではより安
屋の上部,中部,下部を測定するために 3 個用いる.各
価で消費電力の少ない Raspberry Pi を用いる.
S3R を構成するソフトウエア仕様を表 2 にまとめる.
センサは測定対象となる部屋の状況に合わせてポールに
適切な高さで固定する.走行プラットフォームは,温度
制御ユニットの OS として,Raspbian 7 を用いる.ま
センサおよび制御ユニットを運搬する.制御ユニットは
た,データ収集と走行プラットフォームの制御プログラ
温度センサからの温度データおよび走行プラットフォー
ムはシェルスクリプトおよび Python 3.4 で作成した.
ムからの走行状況データの取得と蓄積を行う.また,こ
シリアル通信ライブラリとして,pySerial 2.5 を用いた.
- 116 -
表-2
必要がある.大規模データセンターなどの整えられた環
S3R を構成するソフトウエアの一覧.
Control unit OS
Raspbian 7 (wheezy)
Programming language
Python 3.4 and shell
Serial communication library
境においては,室内環境全体を精度よく把握し,より良
い最適化を行うために走査型測定が必要である.本研究
が対象とする中小規模のサーバ室では,そもそも室内環
pySerial 2.5
境が均一ではないため,コース設定型の測定により,大
まかな異常や無駄を発見することを主な目的とする.
コース指示においては,走行プラットフォームが検知
可能な「印」が必要となる.走行プラットフォームである
Create は,様々なセンサを搭載している.中でも,コー
スの認識には赤外線センサまたは色センサが利用でき
る.本研究では,色センサを用いる.赤外線センサによ
るコース指示の例としては,赤外線によって走行プラッ
トフォームを経由地点へ誘導する方法が考えられる.色
センサでは,ライントレースによるコース指示が考えら
れる.赤外線誘導では,経由地点に装置を設置すれば良
図-2 S3R のプロトタイプ実装.走行プラットフォー
いため,コース設置の手間が少ない.しかし,誘導装置の
ム上に制御ユニットが設置されている.制御ユニット
と走行プラットフォームはシリアルケーブル(白)で接
作成が必要である.また,赤外線により設置されたコー
続されている.走行プラットフォームの左側にはポー
スは人間では発見しにくいため,コースを遮断する障害
ルが設置され,その先には温度センサが固定されてい
物などを不意に置かれてしまう可能性がある.ライント
る(写真外).
レースでは,コースにラインを敷設する必要があるが,
コースであることが誰の目からも明らかであるため,測
図 2 にプロトタイプ実装した S3R の写真を示す.図で
は,走行プラットフォーム上に制御ユニットが設置され,
定を妨害される可能性を減らすことができる.
5.2
iRobot Create によるライントレース
iRobot Create 専用のシリアルケーブル(白)で走行プ
前節で述べたように,Create は色センサを搭載してい
ラットフォームに接続されている.走行プラットフォー
る.Create は自動走行時に段差検出を行う崖センサとし
ムの左側にはポールが設置され,ポールの先には温度セ
て,赤外線 LED とフォトトランジスタからなるフォト
ンサが固定されている.
リフレクタを用いている.フォトリフレクタは,色セン
サとしても利用することができる.また,フォトリフレ
5 自動走行
5.1
クタは赤外線 LED が発した光の反射にフォトトランジ
スタが反応するという仕組みであるため,室内が暗い場
測定とコース設定方法
自動走行による測定においては,1) 予め決められた
合でも動作する.
コース上での測定と,2) 走査またはランダム走行による
ライントレースを実現するにあたり,コースとなる
網羅的な測定が考えられる.文献 [8, 9, 10] では,小単位
黒線には,つや消しを施した布テープを用いた.黒いビ
に区切られたグリッドを順次巡回することで,走査型の
ニールテープ等でも単純なライントレースは実現可能で
測定を実現している.本研究では,1) のコース設定に基
あるが,テープ表面で光が反射することにより,センサ
づく測定を行う.本研究で提案する S3R は,前述のよう
の値が不安定になる.
に,比較的雑然とした中小規模サーバ室での運用を想定
ライントレースにおける制御方法としては様々なもの
している.中小規模のサーバ室は,様々な団体により共
があるが,今回は,単純な On/Off 制御を用いた.PID
用されることが多いため,機材の新設や入れ替えが頻繁
(Proportional-Integral-Derivative) 制御など,より精度
に起こる.このため,走査型の測定では,予期せず測定
の高い他の方式を用いることも可能である.しかし,正
不能な領域が増加することになり,これと異変とを区別
確な制御には,適切な制御パラメータの設定が前提にな
することが難しい.一方で,コース設定型の測定は設定
る.本研究が想定するサーバ室では,床の色や照明など
されたコースさえ確保できれば,測定を継続できる.た
の室内環境が均一ではい.このため,ライントレースに
だし,走査型の測定が部屋の隅々まで測定できるのに対
必要な制御パラメータの調整が難しい.よって,今回は,
して,コース設定型の測定は部屋の一部しか測定できず,
制御パラメータ数が少ない単純な制御を用いた.
その他の領域は得られた測定データに基づいて類推する
- 117 -
6 温度センサ
温度センサには 1-Wire 対応の温度センサを用いた.
1-Wire は 1 本の信号線で各種センサを複数個接続するこ
とができるバス規格である [11].低速ではあるが,配線が
簡単で長距離の伝送が可能であることから,安価なデバ
イスの接続に利用されている.センサを接続した 1-Wire
ネットワークを MicroLan と呼び,1 個の MicroLan に
は 1 個のマスターが接続される.S3R では,制御ユニッ
トとして用いている Raspberry Pi がマスタとなる.
温度センサは Maxim Integrated 社の DS18B20[12] を
用いた.この温度センサを 3 個並列接続して MicroLan
図-3 温度測定をしたサーバ室のレイアウトと走行
を構成し,MicroLan を Raspberry Pi の GPIO に接続
コース.コースの全長は 34.14 m であった.
している.
Raspberry Pi で,1-Wire に接続された温度センサか
ら情報を取得するためには,制御ユニットの OS のカー
ネルに w1-gpio 及び w1-therm モジュールをロードする
必要がある.これらのカーネルモジュールの機能により,
OS からは,温度情報をテキストファイルとして読み出
すことが可能となる [13].定期的に 3 個の温度センサよ
り温度情報を読み出し,制御ユニットの OS の時刻と合
わせて記録することで,サーバ室内の三次元的な温度測
定を行う.S3R においては,約 3 秒に 1 回の頻度で温度
を収集する.
図-4 測定時の温度センサの設置位置.
本論文では温度センサのみを用いているが,サーバ室
の環境によっては既存研究などにみられるように,湿度
等,他の環境値の測定が必要となる場合がある.本研究
次に温度センサの設置位置を設定した.対象となる
で採用した 1-Wire は上述のように簡単な配線でセンサ
サーバ室の天井の高さは約 2.8 m であった.そこで,図
を接続することができるため,1-Wire に対応したセンサ
4 に示すように,天井と床からそれぞれ 40 cm 離れた場
であれば比較的容易に追加可能である.測定データの取
所にそれぞれ 1 個ずつと,その中間に 1 個の温度センサ
得についても,上記のようにファイルシステム上に配置
を固定した.測定対象となる部屋の空調は天井に設置さ
されたテキストファイル経由で行う.このように,S3R
れており,部屋全体での気流制御は行われていない.
ではサーバ室の状況に応じて湿度など,他のデータを観
測できるようにするための変更も容易である.
バ室内に機器用に隔離された空間はなく,設定作業を行
うスペースも兼ねている.また,床についても,図 6(a)
7 温度測定実験
7.1
温度測定の様子を図 5 に示す.図で示すように,サー
に示すように,床板の導入時期により微妙に色が異なる.
サーバ室の構成
実験前の動作確認においては,図 6(b) に示すような,全
作成したシステムにより,電気通信大学で実運用され
く性質の異なる灰色のタイルカーペット上でもコースを
ているサーバ室の温度測定を行った.部屋のレイアウト
トレースできることを確認している.さらに,夜間に完
を図 3 に示す.ライントレースにおいては,回転の方向
全消灯したサーバ室においても,図 6(a) のコースを正し
が反転すると制御が難しくなるため,巡回コースは大き
くトレースできることも確認している.以上より,本方
く「の」の字を書くように設定した.コースを示すテープ
式は床の状態や室内の環境がまったく異なる場合におい
の敷設においては,特別な道具を用いずにタイルの幅を
ても正しく動作することが確認できた.
参考に人手によっておおまかにコースを決定した.設置
7.2
後にコースを採寸したところ,巡回ルートの全長は 34.14
m であった.
測定実験
設定した巡回コースにおいて,連続して行った測定の
うち,連続する 8 個の測定結果を図 7 に示す.実験を
- 118 -
(a) 不均質なタイル上に設置されたコース
(b) タイルカーペット上に設置されたコース
図-6 黒テープによって設定された走行コースの一部.
温度データを取得していることになる.
図 7 のグラフ全体をみると,測定タイミングによって
逆転する場合はあるものの,下部のセンサほど低い温度
を示す傾向がある.これは,通常の空調効果の性質と一
致する.
図 7(g) と図 7(h) を見ると,100 s 付近すなわちスター
トから 14.5 m 付近で温度が 2.0 ℃ 近く低下しており,
その後,徐々に上昇している.図 3 に示す様に,地点 a
がスタートから 14.13 m であることから,地点 a 付近
において,時刻によってはコールドスポットが発生する
ことがわかった.地点 a 付近の天井には,空調の吹き出
し口があり,この空調が作動しているタイミングでは付
近の温度が急激に下がる.しかし,測定全体で室温は 26
℃ 以下に抑えられており,このような冷却を行わなくて
も室温の維持に支障はないことから,この地点の空調は,
電力効率最適化の対象であると言える.
既存研究のように固定センサでこのようなコールドス
図-5 S3R による温度測定の様子.
ポットを観測するためには,事前のシミュレーションや
行ったサーバ室が収容されている建物の屋上に設置され
た簡易気象観測装置(ダイワシステム社 WS-3600)の記
録から,測定を行った 13:00 から 17:00 における外気温
の平均は 25.9 ℃ であった.全ての図は横軸が経過時間
を秒 [s] で,縦軸は温度を摂氏 [℃] で表している.経過
時間は,制御ユニットの OS が記録する時刻に基づく.
各図に書かれた 3 本のグラフは,上から上部,中部,下
部に設置された温度センサの値を示す.
全ての測定において,開始位置と終了位置は人手によ
り調整した.また,測定開始および終了の制御も人手に
より行った.巡回コースを 1 周するためにかかる周回時
間は約 235 s であった.周回時間のずれは,8 回の測定
において,±1 s 以内であった.コースの全長が 34.14 m
であることから,周回時間を 235 s とした場合の S3R の
移動の速さは平均 14.5 cm/s である.温度測定データの
取得はほぼ 3 s ごとに行われるため,約 43.5 cm ごとに
予備測定に基づく設置位置の調整が必要になる.S3R の
ように容易にコースを設定できる移動センサであれば,
このような調整も容易である.また,移動センサによる
タイルに沿った網羅的な計測でもこのようなコールドス
ポットを発見することは可能であるが.このような特定
のデータセンターを対象としたシステムを本実験を行っ
たようなサーバ室にそのまま適用することは難しい.
次に,図 7 の全体をみると,190 s 付近で温度が約 0.5
℃ 上昇している.ここは,スタートから 27.55 m 付近で
ある.この地点を図 3 に地点 b として示す.この地点周
辺のサーバラックには,ファイルサーバや IPS (Intrusion
Protection System) など,多くの電力を消費するアプラ
イアンスが集中して設置されている.これらの機器の排
熱により,付近の温度が上昇していることがわかった.
以上のように,本研究で作成した S3R により行われ
た自動温度測定により,空調の最適化の余地が明らかに
- 119 -
Upper sensor
Middle sensor
Lower sensor
0
50
100
150
Elapsed time [s]
Temperature [°C]
Temperature [°C]
27
26.5
26
25.5
25
24.5
24
23.5
23
22.5
22
27
26.5
26
25.5
25
24.5
24
23.5
23
22.5
22
200
Upper sensor
Middle sensor
Lower sensor
0
50
27
26.5
26
25.5
25
24.5
24
23.5
23
22.5
22
Upper sensor
Middle sensor
Lower sensor
0
50
100
150
Elapsed time [s]
27
26.5
26
25.5
25
24.5
24
23.5
23
22.5
22
200
Upper sensor
Middle sensor
Lower sensor
0
50
Upper sensor
Middle sensor
Lower sensor
0
50
100
150
Elapsed time [s]
27
26.5
26
25.5
25
24.5
24
23.5
23
22.5
22
200
0
50
50
100
150
Elapsed time [s]
Temperature [°C]
Temperature [°C]
100
150
Elapsed time [s]
200
(f) Run 6
Upper sensor
Middle sensor
Lower sensor
0
200
Upper sensor
Middle sensor
Lower sensor
(e) Run 5
27
26.5
26
25.5
25
24.5
24
23.5
23
22.5
22
100
150
Elapsed time [s]
(d) Run 4
Temperature [°C]
Temperature [°C]
(c) Run 3
27
26.5
26
25.5
25
24.5
24
23.5
23
22.5
22
200
(b) Run 2
Temperature [°C]
Temperature [°C]
(a) Run 1
100
150
Elapsed time [s]
200
27
26.5
26
25.5
25
24.5
24
23.5
23
22.5
22
Upper sensor
Middle sensor
Lower sensor
0
(g) Run 7
50
100
150
Elapsed time [s]
200
(h) Run 8
図-7 S3R による温度自動測定結果.横軸は経過時間 [s],縦軸は温度 [℃] をそれぞれ表す.平均外気温は 25.9 ℃ 度であった.
なった.また,消費電力の多い機器付近では,温度が上
率化や異常の早期発見を実現する.本稿では,特に S3R
昇することはかねてから予想されていたが,その上昇幅
の温度測定機能の開発についてその詳細を述べた.
が約 0.5 ℃ であることがわかった.
S3R では小型コンピュータ Raspberry Pi と走行プ
ラットフォーム iRobot Create を用いて自動走行ロボッ
8 終わりに
トを実現している.その上に設置された温度センサを用
本論文ではサーバ室内の自動環境監視システム S3R
の開発について述べた.S3R は,サーバ室内環境を自動
いて,部屋の上部,中部,下部の 3 点の温度を測定し,室
内の温度環境を 3 次元的に観測する.
的に測定することにより,中小規模サーバ室の運用の効
- 120 -
本稿では,S3R のプロトタイプ実装を示し,実際に運
用されているサーバ室内の温度測定実験を行った.自動
走行制御にはライントレースを用いた.実験では,サー
バ室を周回するように設定された 1 周 34.14 m のコース
を,235 s かけて測定した.この測定を継続して行い,途
中の連続した 8 周分の測定データを用いて,空調最適化
の可能性を確認した.
実験の結果,空調により部屋の一部が無駄に 2 ℃ 程度
冷却されていることを発見した.また,放熱の多い機器
周辺の温度上昇が約 0.5 ℃ 程度であることがわかった.
今後の課題として,固定センサによる温度測定方式と
の精度に関する定量的な比較,中長期的な測定結果に基
づく,S3R による省エネルギー効果の評価,自動走行の
改善,位置情報の取得,温度以外の環境情報測定が挙げ
られる.
謝辞
自動走行の実現に有益な助言をいただいた東洋大学
の横田祥准教授,自動走行機構の作成にご尽力いただ
いた電気通信大学情報基盤センターの才木良治氏およ
び岡野豊氏,測定環境の整備にご尽力いただいた同セン
ターの大西邦弘氏,本論文の質の向上に大きく寄与して
いただいた査読者の方々に深く謝意を表す.本研究の一
部は,日本学術振興会の科学研究費補助金基盤研究 (C)
24700046 の助成により行われたものである.
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