...

平成25年度 (変更版:平成26年2月6日改正)

by user

on
Category: Documents
10

views

Report

Comments

Transcript

平成25年度 (変更版:平成26年2月6日改正)
独立行政法人理化学研究所
年 度 計 画
平成25年3月29日
平成26年2月6日改正
独立行政法人理化学研究所
目
次
【序文】 ............................................................................................................................... 3
Ⅰ.国民に対して提供するサービスその他の業務の質の向上に関する目標を達成するため
とるべき措置 ........................................................................................................................ 3
1.国家的・社会的ニーズを踏まえた戦略的・重点的な研究開発の推進 ........................... 3
2.世界トップレベルの研究基盤の整備・共用・利用研究の推進 ...................................... 3
3.理化学研究所の総合力を発揮するためのシステムの確立による先端融合研究の推進 .. 4
4.イノベーションにつながるインパクトのある成果を創出するための産学官連携の基盤
構築及びその促進 ................................................................................................................. 4
5.研究環境の整備、優秀な研究者の育成・輩出等 ........................................................... 5
6.適切な事業運営に向けた取組の推進 ........................................................................... 10
Ⅱ.業務運営の効率化に関する目標を達成するためとるべき措置 .................................... 11
1.研究資源配分の効率化 ................................................................................................. 11
2.研究資源活用の効率化 ................................................................................................. 11
3.給与水準の適正化等 .................................................................................................... 13
4.契約業務の適正化 ........................................................................................................ 13
5.外部資金の確保 ........................................................................................................... 13
6.業務の安全の確保 ........................................................................................................ 14
Ⅲ.予算(人件費の見積もりを含む。)、収支計画及び資金計画........................................ 14
Ⅳ.短期借入金の限度額 .................................................................................................... 14
Ⅴ.不要財産又は不要財産となることが見込まれる財産に関する計画 ............................. 14
Ⅵ.重要な財産の処分・担保の計画 .................................................................................. 14
Ⅶ.剰余金の使途 ............................................................................................................... 14
Ⅷ.その他主務省令で定める業務運営に関する事項 ......................................................... 15
【別紙1】国家的・社会的ニーズを踏まえた戦略的・重点的な研究開発の推進............... 17
(1)創発物性科学研究 .................................................................................................... 17
(2)環境資源科学研究 .................................................................................................... 18
(3)脳科学総合研究 ........................................................................................................ 20
(4)発生・再生科学総合研究.......................................................................................... 21
(5)生命システム研究 .................................................................................................... 23
(6)統合生命医科学研究 ................................................................................................. 24
(7)光量子工学研究 ........................................................................................................ 25
【別紙2】世界トップレベルの研究基盤の整備・共用・利用研究の推進 ......................... 27
(1)加速器科学研究 ........................................................................................................ 27
(2)放射光科学研究 ........................................................................................................ 28
(3)バイオリソース事業 ................................................................................................. 30
(4)ライフサイエンス技術基盤研究 ............................................................................... 32
(5)計算科学技術研究 .................................................................................................... 34
【別紙3】戦略的・重点的な連携やネットワーク構築による研究開発成果の効果的な社会
1
還元 .................................................................................................................................... 36
(1)融合的連携促進 ........................................................................................................ 36
(2)バイオマス工学に関する連携の促進 ........................................................................ 36
(3)創薬関連研究に関する連携の促進 ........................................................................... 37
【別紙4】予算(人件費の見積もりを含む。)
、収支計画及び資金計画 ............................. 38
2
【序文】
独立行政法人通則法第31条の規定により、独立行政法人理化学研究所(以
下「理化学研究所」という。)の平成25年度の業務運営に関する計画(独立行
政法人理化学研究所平成25年度計画)を定める。
Ⅰ.国民に対して提供するサービスその他の業務の質の向上に関する目標を達
成するためとるべき措置
1.国家的・社会的ニーズを踏まえた戦略的・重点的な研究開発の推進
我が国の研究開発機能の中核的な担い手の一つとして、国の科学技術政策の
方針に位置づけられる重要な課題や、様々な社会的ニーズのうち科学技術によ
り達成しうると考えられる課題について、その達成に向けて戦略的・重点的に
研究開発を推進する。
そのため、国内外から優秀な研究者を結集するとともに、国内外の大学、研
究機関、企業等との密接な連携の下、計画的、効果的かつ効率的に研究開発を
実施する。具体的には以下の研究について別紙1に記載する。
(1)創発物性科学研究
(2)環境資源科学研究
(3)脳科学総合研究
(4)発生・再生科学総合研究
(5)生命システム研究
(6)統合生命医科学研究
(7)光量子工学研究
2.世界トップレベルの研究基盤の整備・共用・利用研究の推進
RIビームファクトリー、SPring−8及びX線自由電子レーザーSA
CLAやスーパーコンピュータ「京」等の最高水準の研究基盤を活かした先端
的基盤研究を推進するとともに、ライフサイエンス分野に共通して必要となる
最先端の研究基盤や、生物遺伝資源(バイオリソース)の収集・保存・提供に
係る基盤の整備、さらにはそれらの高付加価値化に向けた技術開発を推進する。
また、最高水準の大型研究施設をはじめとする研究基盤を着実に整備・運用
し、国内外の研究者等に共用・提供を行うことで、外部機関等との相補的連携
の促進を図るとともに、研究開発成果の創出や基盤技術の普及に努める。
施設等の共用・提供に当たっては、広く外部研究者に開放し、公平・公正な
利用課題の選定を行う。なお、利用における料金等、適正な受益者負担の制度
について、必要性が生じた場合は見直しを行うこととする。
平成25年度は、利用者の立場に立ち、理化学研究所内の複数の研究基盤を
3
横断的に利用可能とする仕組の構築及び外部からの理化学研究所が保有する施
設・設備の利用ニーズの把握の実施方法について検討を行う。
具体的には以下の研究・事業について別紙2に記載する。
(1)加速器科学研究
(2)放射光科学研究
(3)バイオリソース事業
(4)ライフサイエンス技術基盤研究
(5)計算科学技術研究
3.理化学研究所の総合力を発揮するためのシステムの確立による先端融合研
究の推進
(1)独創的研究提案制度
科学技術に飛躍的進歩をもたらす新たな研究領域の萌芽を選択・育成する機
能を全所的に強化するため、独創的研究提案制度を実施する。本制度で推進す
る「課題」は、理研科学者会議において、将来新たな研究分野へ発展する可能
性、挑戦的・独創的な課題であるか等の観点から選考する。
平成25年度は、分野融合による未踏の研究領域の創出を目指し、基礎科学
研究として実施されてきた課題4件及び新領域開拓課題として新規に採択され
た課題1件を実施する。具体的な課題については以下に記載する。
・リピドダイナミクス研究
・細胞システム研究
・極限粒子ビームをもちいたエマージング科学領域の開拓
・分子システム研究
・多階層問題に対する数理・計算科学(新規)
また、若手研究者の意欲的な研究の支援を目指し、奨励課題を公募、30件
程度実施する。
(2)中核となる研究者を任用する制度の創設
理化学研究所の総合的な基礎研究の推進機関としての役割を最大限発揮する
ため、先端的な研究を行う上で中核となる研究者(主任研究員)を任用する。
新規に本制度を開始することとなる平成25年度は、主任研究員を任命して主
任研究員による先導的な研究を推進する。また、理研科学者会議の体制を整備
し、理化学研究所として推進すべき研究の方向性や理化学研究所に招くべき卓
越した研究者の推薦等の業務を実施するとともに、平成25年度中の募集開始
に向けて、若手研究者の育成に関する制度検討を行う(詳細は5.
(1)④に記
載)。
4.イノベーションにつながるインパクトのある成果を創出するための産学官
4
連携の基盤構築及びその促進
(1)産業界との融合的連携
社会・産業のニーズと理化学研究所が有する最先端の研究シーズを融合し課
題達成へ取り組むため、所内だけでなく、リソースを最適に活用できる企業や
医療機関等との組織的・包括的連携を実施する。
具体的には、別紙3に記載する。
(2)横断的連携促進
国家的・社会的ニーズを踏まえた戦略的・重点的な研究開発を含めて、全所
的に培ってきた技術や資源等の研究基盤を横断的に活用し、最先端の研究シー
ズを実際に産業や医療の現場で活用できるまで育て、企業等に橋渡しすること
を目指し、連携促進事業を所内横断的に推進する。具体的には、別紙3に記載
する。
①バイオマス工学に関する連携の促進
②創薬関連研究に関する連携の促進
(3)実用化につなげる効果的な知的財産戦略の推進
研究開発成果の実用化に向けた技術移転を効果的に進めるため、平成25年
度は外部専門家を知的財産コンサルタント(仮称)として登用し、より専門的
な見地から知的財産を適切に保護し、活用する体制へと強化することにより、
特定の専門分野における実務経験や見識に基づく助言を反映させた、実効性が
高く第三者権利を回避した権利の確保を図る。さらに、企業が事業化を目指し
た研究開発に取り組む基礎となり、実施料収入の拡大に結び付くような権利範
囲の広い強い特許を取得する。また、取得した特許等については、関連企業へ
の紹介活動を積極的に行い、これら活動の結果を踏まえ、一定期間毎にその知
的財産としての価値や費用対効果を検証し、権利維持の必要性を見直す等、効
率的な維持管理を行う。あわせて、実施許諾した知的財産についても、一定期
間毎に、その実施状況や市場状況を踏まえ、権利維持の必要性を見直す。加え
て、ライフサイエンス、ナノテクノロジーの技術展示会やウェブサイト等を活
用した情報発信、理研ベンチャーの認定等、技術移転機能の拡充を図る。
5.研究環境の整備、優秀な研究者の育成・輩出等
(1)活気ある開かれた研究環境の整備
①競争的、戦略的かつ機動的な研究環境の創出
平成25年度は、研究資源の配分において、第3期中期目標を早期に実現す
るための機動的な施策へ重点化を図る。
また、戦略的研究展開事業においては、特にライフサイエンス分野のセンタ
5
ー間の更なる連携を図り、ライフサイエンスの新分野開拓を重点的に推進する
ため、高次機能を解明し人間を理解するための連携促進研究を開始する。さら
に、独創的研究提案制度においては、分野間の融合を目指す 1 課題を新たに実
施するとともに、幅広い研究分野・多様な研究アプローチを有する所内の各組
織間で一層の横断的連携の強化を図る新たな研究課題の選定を行う。加えて、
卓越した研究者へ相応の待遇・研究環境を提供する体制整備についても検討を
進め、改善点をまとめる。なお、国家戦略、社会ニーズの観点から緊急に着手
すべき研究、早期に加速することが必要な研究及び萌芽的な研究について、対
応の必要性が発生した場合は研究資源を活用し迅速かつ柔軟に対応する。
②成果創出に向けた研究者のインセンティブ向上
成果創出を促進するためには、優れた研究者等が最大限に能力を発揮できる
研究環境及び研究者を支援する体制の充実が必要である。研究事業に即した適
切な研究者の雇用体系を整備するとともに、より高いアクティビティを発揮で
きるキャリアパスの構築等を図る。
平成25年度は、改正労働契約法の施行を踏まえた適正な雇用制度の在り方
を検討する。また、研究室運営、研究員雇用等、研究を円滑に進めていく上で
の問題をそれぞれの場面で適切に解決していくために、研究管理職を対象とし
た職員倫理、労務管理等についての研修を実施するとともに、リーダーシップ
や部下育成に関する研修を充実させる。さらに、職員意識調査の結果やこれま
で実施した研修の内容と効果を踏まえて、自律的なキャリア形成の観点を強化
し、キャリア形成の意識を醸成するためのセミナーや、語学力、情報処理など
の研修プログラムを実施する。
③国際的に開かれた研究体制の構築
優れた外国人研究者を確保するためには、外国人研究者に配慮した生活環境
の整備が必要となる。平成25年度は、外国人住宅の確保、外国人研究者の家
族に対する生活支援、生活に関連する諸手続きの簡素化の推進等のほか、対応
する各事務部門の一層のバイリンガル化を推進するとともに、生活に関連する
諸手続きの簡素化・外国人向け生活マニュアルの充実化を図る。また、英文所
内ニュースレターであるRIKENETICや所内ウェブサイトを通じて定期
的に必要な情報を発信するとともに、メーリングリストの活用により生活支援
情報を発信するなど、状況に応じたきめ細かい対応を行う。
このような環境整備のもと、外国人研究者の受入を積極的に進め、平成25
年度には理化学研究所で研究に従事する研究者の外国人比率を18%程度に引
き上げることを目指す。
④若手研究者の登用や挑戦的な研究の機会の創出
研究者の流動性・多様性を確保するとともに、新たな研究領域を開拓し、科
6
学技術に飛躍的進歩をもたらすため、平成25年度は、若手研究者に、独立し
た研究室の長としての指導的な地位を与え、研究室を主宰させる制度(准主任
研究員制度)及び、国際的に優れた若手研究者に時限的に研究ユニットを編成
させ独立した研究を実施させる制度(独立・国際主幹研究員制度)の双方の長
所を取り入れて両制度を統合・再編するために理研科学者会議で制度設計を行
い、募集を開始する。また、独創的研究提案制度において、若手研究者育成の
ための研究課題の所内公募制度を新設し、実施する。
⑤女性研究者等の更なる活躍を促す研究環境の整備
出産・育児や介護の際及びその前後においても研究開発活動を継続できる環
境整備を推進し、男女共同参画の理念に基づいた仕事と家庭の両立のための取
組を実施する。また、既に導入されている各種の取組についても利便性を高め
るための見直しや改善を図る。
妊娠、育児又は介護中の研究系職員の支援者雇用経費助成については、これ
までも定期的に募集しているところであるが、平成25年度において、介護理
由については随時募集することとし、より柔軟に研究活動の継続を支援する。
また、育児休業等から復帰した職員を対象に、復帰後の不安を軽減できるよう、
仕事と家庭の両立に関する研修を実施する。さらに、女性に関するテーマを取
り上げたセミナーを定期的に実施し、職員同士のネットワーク拡大を図る。
(2)優秀な研究者等の育成・輩出
①次代を担う若手研究者等の育成
将来の研究人材を育成するとともに、理化学研究所の活性化を図るため、柔
軟な発想に富み活力のある大学院生・若手研究者を積極的に受け入れ、理化学
研究所の研究活動に参加させる。
具体的には、連携大学院制度、ジュニア・リサーチ・アソシエイト制度等を
活用して、国内外の大学院生を積極的に受け入れる。また、博士号を取得した
若手研究者に、3年間創造的かつ独創的な発想で研究をする環境を提供する基
礎科学特別研究員制度及び国際特別研究員制度を推進し、研究者の独立性や自
律性を含め、その資質の向上を図る。
平成25年度は、ジュニア・リサーチ・アソシエイト制度において、医学免
許・歯科医師免許を取得した大学院生に特別枠を設け、基礎医科学の知見・技
能を有する研究者の育成にも重点を置きつつ、年間210人程度に研究の機会
を提供する。
基礎科学特別研究員及び国際特別研究員については年間170人程度を受け
入れる体制を維持し、人材の国際化を図るためそのうち3分の1以上を外国籍
研究者とする。また、公募に際しては電子システムを導入し、業務の効率化を
図る。
以上の取組のほか、海外の大学等で、理化学研究所の紹介や人材受入制度な
7
どの説明会を開催する。企業等からの研究者、技術者の受け入れ等を積極的に
進め、双方の研究者、技術者の養成を図るとともに、理化学研究所からの円滑
な技術移転を促進する。
②研究者等の流動性向上と人材の輩出
平成25年度は、研究者や技術者が自らのキャリアを考えて行動することが
できる資質を養うために、実践的な就業能力の向上や自律的活動促進のための
セミナーを実施する。また、キャリア意識の形成を入所後早い段階から醸成で
きるような体系的な研修、理化学研究所での研究活動終了後の多様なキャリア
設計、キャリアチェンジを可能とするための能力開発に資する研修を実施する。
さらに、人材の流動性を高めるため、主として民間企業や人材紹介会社等の
外部機関と連携したキャリア支援を行う。
定年制研究者についても、適正な流動性の確保を図るため、採用する研究者
すべてに年俸制を適用していく。加えて、自立的な研究者等としての能力、資
質の獲得が期待できる若手研究者等の定年制職員への昇格を可能とする特別任
期制職員制度についても引き続き活用し人材確保に努める。
(3)研究開発成果のわかりやすい発信・研究開発活動の理解増進
①論文、シンポジウム等による成果発表
科学ジャーナルへの研究論文の投稿、シンポジウムでの口頭発表などを通じ、
研究開発成果の普及を図る。
平成25年度は、学術論文誌への論文掲載数として、理化学研究所全体で毎
年2,300報程度を目指す。さらに、論文の質の維持の観点から、理化学研
究所の論文の27%程度が、被引用数の順位で上位10%以内に入ることを目
指す。
②研究開発活動の理解増進
平成25年度は、今後の広報活動を効果的に実施するために、理化学研究所
に対する意識調査を所内外に対して行い、専門家の意見を踏まえて広報戦略を
策定する。また、国民との双方向のコミュニケーションとして既にに実施して
いる一般公開や各種講演会に加え、地域との連携を進め、地域住民向けのイベ
ントや地域における活動に参画するなど、活動の幅を広げる。
従来から実施しているプレス発表、広報誌(理研ニュース等)、ウェブサイト、
携帯サイト、動画配信サイト(YouTube:RIKEN Channel)、
Twitterのうち、ウェブサイトについては多くの人が使いやすく、かつ
快適に見られるようリニューアルするとともに、動画については専門家以外に
も分かりやすく、親近感のあるコンテンツを作り、配信する。
プレス発表については科学記者への説明とは別に、国民に理解されるような
平易な用語で解説する「60秒でわかるプレスリリース」を充実させるととも
8
に、動画やインタビュー映像を用いるなど効果的な情報発信を行う。
理化学研究所の国際社会における存在感を高めるため、海外での活動経験が
ある科学コミュニケーターによる海外メディアを対象とした記事作成を行い、
情報発信能力の向上を図るとともに、年間30件程度の英文によるプレスリリ
ースを行う。
(4)国内外の研究機関との連携・協力
平成25年度は、全世界でリーダーシップを執れる人材の獲得・育成、国際
的なハブとしての研究拠点の運営・整備及び人類存続に向けた地球規模課題へ
の取組等の観点に基づき、理化学研究所の国際戦略を策定する。また、海外の
研究機関・大学と研究協力協定や共同研究、国際連携大学院協定の締結などに
よる研究交流を進めるともに、共同シンポジウムの開催を通して具体的な研究
課題の洗い出しを行う。さらに、近年急激な科学技術・イノベーションの発展、
科学技術投資の伸びがみられるアジア地域を中心に、相互に有効なリソース(研
究試料・施設、人材、資金)提供の下、連携研究拠点を新たに1拠点以上設置
し、実効性が高い研究の進展を図る。
国内の大学、研究機関、企業等との研究交流を積極的に進めるため、共同研
究や受託研究等の多様な連携研究を推進するとともに、新たに開始した研究事
業と関係が密接な機関との研究協力協定や連携大学院協定の締結を積極的に進
め、博士後期課程大学院生を受け入れて研究環境の提供や研究課題指導を行う。
(5)研究開発活動を事務・技術で強力に支える機能の強化
①事務部門における組織体制及び業務改善
平成25年度は、事務組織の再編を含め本部と和光事業所の業務を区分し、
本部機能を明確にするとともに、本部の全所横断的な調整機能を強化する。ま
た、複数のキャンパスに跨って研究活動を展開する研究センターの発足に伴い、
その研究活動を統一的に支える支援体制を構築する。
さらに、個々の事務職員がその立場や環境に関わらず高い意欲を持って業務
に取り組めるよう定年制および任期制の職位と職階の統一化を図り、能力、業
務実績の反映を行い、権限が整理された人事体系を構築する。
このほか、女性職員の積極的な登用・活用を進め、事務管理職に占める女性
比率の向上を目指す。
②理化学研究所の経営判断を支える機能の強化
理化学研究所の経営について、外部から適切な助言を得る機能を拡充させる。
研究戦略会議については、研究に関する専門的事項について理事会に対する助
言を効果的かつ迅速に行うよう運営する。
平成25年度は、理事長の経営方針を的確に各組織に伝え、理化学研究所全
体のガバナンスの強化を図るため、各組織が最大の成果をあげるよう事務組織
9
を再編するとともに、周知徹底に向けた取組を進め、適正な事業運営を阻害す
るリスクを的確に把握する手段を検証する。また、研究戦略会議の事務局機能
を再編・明確化し、専門的事項について適切に助言が出来る体制を構築すると
ともに、事務局における政策や研究の動向に関する情報収集・分析機能を強化
する。
6.適切な事業運営に向けた取組の推進
(1)国の政策・方針、社会的ニーズへの対応
我が国の研究開発機能の中核的な担い手として、科学技術基本計画等の科学
技術イノベーション政策に基づき、政策課題の達成に向け明確な使命の下で組
織的に研究開発に取り組むとともに、社会からの様々なニーズに対しても戦略
的・重点的に研究開発を推進する。
平成25年度は、政策的・社会的なニーズを的確に把握するため、政策や研
究の動向に関する情報収集・分析を行う専任の組織の設置により政策や研究の
動向に関する調査研究機能を充実させ、研究戦略会議における議論や理事会の
方針決定を支援出来る体制を確立する。また、科学技術と社会との関係につい
て国民の理解を深めるため、研究開発活動の理解増進(詳細は5.(3).②に
記載)に積極的に取り組む。
(2)法令遵守、倫理の保持等
研究員の流動性が高い理化学研究所において、個々が自律的に法令、倫理に
対する高い意識を持つ雰囲気を醸成し維持することは重要であることから、セ
ミナー、e−ラーニング、冊子等による啓発活動を引き続き行う。また、職場
環境を把握するために、職員等からの聞取り調査を各事業所において実施し、
問題の早期発見に努める。
職員等からの通報、相談に迅速かつ的確に対応するために、相談対応研修に
よる窓口担当者の知識、技術の維持向上に努めるとともに、外部相談機関の活
用により窓口機能の充実を図る。不正防止対策等を強化するため、業務が適切
に行われているか、内部監査を実施する。
ヒト由来の試料や情報を取り扱う研究、被験者を対象とする研究については
自然科学の専門家以外の委員を含む研究倫理委員会、動物実験については動物
実験審査委員会で、課題毎に国の指針等に基づき科学的・倫理的等の観点から
審査を実施する。審査状況については、ウェブサイト上にて公開する。
(3)適切な研究評価等の実施・反映
研究所の研究運営や実施する研究課題に関する評価を国際的水準で行うため、
世界的に評価の高い外部専門家等を評価者とした評価を積極的に実施する。平
成25年度は、研究所全体の研究運営の評価を行うための「理化学研究所アド
10
バイザリー・カウンシル」(RAC)を平成26年秋に開催すべく準備を行う。
また、RAC開催に先立ち、研究センター等毎に設置されたアドバイザリー・
カウンシルにより研究運営等の評価を受けるため、各カウンシルの開催もしく
は開催準備も進める。カウンシル議長には、原則、外国人研究者を招聘する等、
国際水準での評価を担保するためのメンバー構成とする。
原則として、研究所が実施する全ての研究課題等について、事前評価及び事
後評価を実施するほか、5年以上の期間を有する研究課題等については、例え
ば3年程度を一つの目安とした中間評価を実施する。過重な負担を回避して効
率的な評価を行うため、課題等の特性や規模に応じて、メールレビューの活用
等を図る。
評価結果は、研究室等の改廃等を含めた予算・人材等の資源配分や、研究活
動を活性化させ、さらに発展させるべき研究分野を強化する方策の検討等に活
用するとともに、原則として、ウェブサイト等に掲載し、広く公開する。
一般向け講演会、サイエンスカフェなどのイベント時におけるアンケート調
査及びインターネットを利用したモニター調査等を通して理化学研究所の事業
に関する期待やニーズ把握に努め、国民目線での事業運営に取り入れていく。
(4)情報公開の促進
独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律(平成13年法律第14
5号)に定める「独立行政法人等の保有する情報の一層の公開を図り、もって
独立行政法人等の有するその諸活動を国民に説明する責務が全うされるように
すること」を常に意識し、積極的な情報提供を行う。
平成25年度は、透明性を高めた情報の公開を目指し、必要な情報へのアク
セス性の向上等、情報公開にかかるウェブサイトの見直し等を行う。契約業務
及び関連法人については、引き続き透明性を確保した情報の公開を行う。
Ⅱ.業務運営の効率化に関する目標を達成するためとるべき措置
1.研究資源配分の効率化
理事長の機動的な意思決定メカニズムに基づき理化学研究所全所的な観点か
ら研究費等の研究資源を効率的に活用する。
平成25年度は、理化学研究所のポテンシャルや特徴を活かした効果的かつ
効率的な事業展開を図るため、専門家による透明かつ公正な選定を実施し、外
部有識者を含む評価を行うとともに、評価の結果を踏まえて、推進すべき事業
について重点的に理事長が予算、人員等研究資源を配分するべく、資源配分方
針を策定する。
2.研究資源活用の効率化
(1)情報化の推進
11
政府の方針を踏まえた「安心・安全」な情報セキュリティ対策を推進するた
め、平成25年度はe−ラーニングシステムの情報セキュリティコンテンツを
更新するとともに、対象者全員の再受講を開始し、職員の情報セキュリティに
ついての意識向上を図る。
また、
「快適・便利」な情報活用を促進し、研究開発活動を支えるIT環境の
さらなる整備を図るため、計算環境及びデータ保管環境の改善に向け、平成2
6年度の大型共同利用計算機の更新に向けて仕様の検討を行う。
さらに、中期計画で目指す省力化・業務量削減に向けて、平成25年度は前
年度に導入した組織、人事、事務情報基盤システムの運用開始に向けた検証と
段階的実運用、財務会計システムの平成26年度運用開始に向けた機能強化を
進める。
(2)コスト管理に関する取組
適切な研究事業の運営を担保するために、前中期目標期間で実施したコスト
管理分析を引き続き実施するとともに、平成26年度からの財務会計システム
運用開始に向けて予算実施計画への反映を見据えた業務プロセスの見直しを実
施する。
(3)職員の資質の向上
業務に関する知識や技能水準の向上、業務の効率的な推進や合理化を促進す
る観点から、平成25年度は、語学、情報処理、ビジネススキル等、各種能力
開発にかかわる研修や、服務、財務、法務、知的財産及び安全管理に関する法
令や知識に関する研修、ハラスメントの防止、メンタルヘルスに関する研修な
どを通じて、理化学研究所全体の職員の資質向上を図る。特に管理職に対して
は、部下育成やリーダーシップを発揮するために必要なコミュニケーション研
修を実施する。また、事務系職員に対しては、英文Eメールや中国語会話など
の語学研修を実施し、国際化に対応する人材育成を図るとともに、職員の修学
を支援する制度を通じて、専門性の高い知識を備えた職員の育成を図る。加え
て、研修内容を体系的に記載した資料を職員に周知し、適切な研修を適切な時
期に受講できるようにする。
(4)省エネルギー対策、施設活用方策
恒常的な省エネルギー化に対応するための環境整備を進め、光熱水使用量の
節約及び二酸化炭素の排出抑制に取り組むとともに、省エネルギー化等のため
の環境整備を進めるほか、節電要請などの状況下にあっても継続可能な環境を
整備する。平成25年度は、省エネルギー推進体制の下での多様な啓発活動に
よる職員等への周知徹底、エネルギー使用合理化推進委員会の定期的な開催、
施設毎の使用量把握及び分析のための継続的な取組、エネルギー消費効率が最
も優れた製品の採用を推進するほか、太陽光発電設備やコージェネレーション
12
システム等の発電設備の導入を推進する。
また、研究スペースの配分については、配分計画を審議する委員会に、各事
業所からの委員を加えた全所的な体制を構築し、調整機能を強化することで、
研究室スペースを公平、柔軟かつ機動的に配分する。
これらの取組により、一般管理費(特殊経費及び公租公課を除く。)について、
中期目標期間中にその15%以上の削減を図るほか、その他の事業費(特殊経
費を除く。)について、中期目標期間中、毎事業年度につき1%以上の業務の効
率化を図る。
3.給与水準の適正化等
給与水準(事務・技術職員)については、理化学研究所の業務を遂行する上
で必要となる事務・技術職員の資質、人員配置、年齢構成等を十分に考慮した
上で、国家公務員における組織区分別、人員構成、役職区分、在職地域、学歴
等を検証するとともに、類似の業務を行っている民間企業との比較等を行った
うえで、これら給与水準が国民の理解を得られるか検討を行い、これを維持す
る合理的な理由が無い場合には必要な措置を講ずる。
平成25年度は、平成23年度のラスパイレス指数に係る検証結果を念頭に、
政府方針を踏まえた取組を労使協議して進めるとともに、その検証や取組状況
について公表していく。また、ラスパイレス指数が研究所の実態をより適正に
反映するよう、現在比較対象外とされている職員について比較対象とするよう
関係省庁へ要望する。
4.契約業務の適正化
契約については、原則として一般競争入札等の競争性のある契約方式による
ものとし、
「随意契約等見直し計画」に基づく取組の着実な実施により、透明性・
公平性を十分に確保するとともに、一般競争入札等により契約を行う場合であ
っても、真に競争性、透明性が確保されているか点検・検証を行う。また、調
達にあたっては、平成20年8月に策定した「研究機器等調達における仕様書
作成に係る留意事項について」に留意しつつ、要求性能を確保した上で、研究
開発の特性に合わせた効率的・効果的な調達に取り組む。
さらに、適正な契約の確保のために、外部有識者を含む契約監視委員会によ
る定期的な契約の点検・見直しを受けるとともに、契約に係る情報についてウ
ェブサイトに公表する。
5.外部資金の確保
競争的資金等の積極的な獲得を目指し、所内研究者に公募情報、応募状況、
採択率に係る情報の周知を図り、意識向上を促し、より一層の外部資金の獲得
に努める。
13
平成25年度は、公募情報システムを活用し、効果的に所内周知を図るとと
もに、外国人向けの英語応募説明会および相談会を開催し、日本の外部資金獲
得に習熟していない外国人研究者に対する重点的な指導・支援を強化する。ま
た、寄附金受入れ拡大のため、寄附しやすい環境を整備する。
6.業務の安全の確保
法令や指針の制定・改正に適切に対応するため、関係官庁等からの速やかな
情報入手を心がけるともに、職員等の資質向上を図る。入手した情報について
は、それらが研究遂行に与える事項について検討を行い、研究者への的確な情
報提供や必要に応じた規程等の整備等を行う。また、これらの情報を安全に係
る教育に取り入れることにより安全の確保に努める。
Ⅲ.予算(人件費の見積もりを含む。)、収支計画及び資金計画
別紙4参照
Ⅳ.短期借入金の限度額
短期借入金は210億円を限度とする。
想定される理由:
・運営費交付金の受入の遅延
・受託業務に係る経費の暫時立替等
Ⅴ.不要財産又は不要財産となることが見込まれる財産に関する計画
板橋分所において実施している研究機能を和光地区に移転するために、平成
25年度は、和光地区の研究実施場所を確保する。
Ⅵ.重要な財産の処分・担保の計画
不要財産又は不要財産となることが見込まれる財産以外の重要な財産の処
分・担保の計画はない。
Ⅶ.剰余金の使途
決算において剰余金が生じた場合の使途は、以下の通りとする。
・重点的に実施すべき研究開発に係る経費
・エネルギー対策に係る経費
・知的財産管理、技術移転に係る経費
14
・職員の資質の向上に係る経費
・研究環境の整備に係る経費
・広報に係る経費
Ⅷ.その他主務省令で定める業務運営に関する事項
1.施設・設備に関する計画
理化学研究所の研究開発業務の水準の向上と世界トップレベルの研究開発拠
点としての発展を図るため、常に良好な研究環境を整備、維持していくことが
重要である。そのために、分野を越えた研究者の交流を促進する構内環境の整
備、バリアフリー化や老朽化対策等による安全・安心な環境整備等の施設・設
備の改修・更新・整備を計画的に実施する。
(1)新たな研究の実施のために行う施設の新設等
予定額
施設・設備の名称
(百万円)
財
源
370 施設整備費補助金
播磨地区放射化物保管施設の整備
独立行政法人理化学研究所の研究
基盤の強化
2,275 設備整備費補助金(※)
230
SACLA情報通信基盤の整備
特定先端大型研究施設整備費
補助金
(2)既存の施設・設備の改修・更新・整備
予定額
施設・設備の名称
財 源
(百万円)
水質汚濁防止法改正に伴う配管等
2,622 施設整備費補助金(※)
構造基準対応化工事
特定先端大型研究施設整備費
SPring-8 経年劣化対策
1,200
補助金(※)
- -
その他施設・設備の改修・更新等
(※)平成 25 年度補正予算による措置
また、
「独立行政法人の職員宿舎の見直しに関する実施計画」に基づき、廃止
を決定した職員宿舎について、平成25年度は、入居者の円滑な退去等に十分
に配慮して廃止の手続きを進める。
15
2.人事に関する計画
(1)方針
業務運営の効率的・効果的推進を図るため、優秀な人材の確保、適切な職員
の配置、職員の資質の向上を図る。研究者の流動性の向上を図り、研究の活性
化と効率的な推進に努めるため、引き続き、任期制職員等を活用する。また、
定年制研究職員に導入した年俸制の拡大に取り組む。
(2)人員に係る指標
業務の効率化等を進め、業務規模を踏まえた適正な人員配置に努める。
3.中期目標期間を超える債務負担
中期目標期間を超える債務負担については、研究基盤の整備等が中期目標期
間を越える場合で、当該債務負担行為の必要性及び資金計画への影響を勘案し
合理的と判断されるものについて行う。
4.積立金の使途
前期中期目標期間の最終年度において、独立行政法人通則法第44条の処理
を行ってなお積立金があるときは、その額に相当する金額のうち文部科学大臣
の承認を受けた金額について、以下のものに充てる。
・中期計画の剰余金の使途に規定されている重点的に実施すべき研究開発に係
る経費、エネルギー対策に係る経費、知的財産管理・技術移転に係る経費、職
員の資質の向上に係る経費、研究環境の整備に係る経費、広報に係る経費
・自己収入により取得した固定資産の未償却残高相当額等に係る会計処理
・前中期目標期間に還付を受けた消費税のうち、中期目標期間中に発生する消
費税の支払
16
【別紙1】国家的・社会的ニーズを踏まえた戦略的・重点的な研究開発の推進
(1)創発物性科学研究
①強相関物理研究
固体中で多数の電子が強く反発しあう強相関電子系が示す創発機能発現の学
理を探求し、革新的なエネルギー機能原理を解明する。すなわち、既存の半導
体技術を超える超低損失エネルギー輸送、超高効率の光・電気・磁気・熱の相互
のエネルギー変換機構を明らかにするとともに、超低消費電力型磁気メモリの
実現に向けた研究開発を行う。
平成25年度は、磁気情報担体として渦巻状のスピン構造体であるスキルミ
オンに着目し、電流駆動運動の微視的機構を理解するための大規模数値シミュ
レーションを行うとともに、デバイスの回路設計において不純物ピン止め効果
等を考慮し、ダイナミクスの理論を確立する。また、自発磁化が電場で反転す
る強磁性強誘電体(マルチフェロイックス)物質を探索する。
②超分子機能化学研究
有機・高分子化合物の構造を分子レベルから設計し、階層的に組織化するこ
とにより、目的とする機能を発現させる超分子機能に関わる基本学理を構築し、
エネルギーの変換・伝達・貯蔵を高効率化する環境低負荷型高機能材料を開発
するとともに、実用に資する有機太陽電池等電子デバイスの研究開発を行う。
また、材料の高性能化のために、分子から巨視的スケールまでをシームレスに
つなぐプロセスの速度論的制御と構造制御の方法論を構築する。
平成25年度は、高効率なキャリア輸送パスの構築を実現する半導体分子、
およびその集合体の設計、合成を行い、太陽電池としての有用性を評価する。
また、環境低負荷型高機能材料の開発を進めるために、新規に設計された有機
成分を用いてヒドロゲル(水を主原料とするプラスチック代替マテリアル)を
合成し、その物性を評価することにより、高力学強度を実現するための構造を
探索する。
③量子情報エレクトロニクス研究
情報通信技術の普及に伴い爆発的に増大する情報を、安全かつエネルギー消
費を最低限に抑えて処理する技術として、量子力学的原理に基づいて動作する
デバイス及び計算機システムの開発を行うため、半導体、超伝導体の量子状態
を光学的、電気的、磁気的に制御することにより、量子コンピューティング、
量子中継、量子ナノデバイスの基本原理解明と技術開発を行う。
平成25年度は、磁気的・電気的制御による3量子ビット化の技術を確立す
るとともに、作成した量子ビットの光学的、電気的な制御性を評価する。
④分野融合プロジェクト・産学連携
17
高効率エネルギー変換や超低消費電力電子機器の実現に向けたプロジェクト
研究を分野を超えて融合的に展開する。また、将来の指導的研究者となり得る
優れた人材を育成するとともに、応用研究・産業等に従事する他の機関・組織
との連携により、先端の研究開発を推進し、成果を効果的に移転する。
平成25年度は、トポロジカル絶縁体においては、半導体とのpn接合を作
成し、その輸送特性を調べることで界面状態の役割を明らかにする。強相関熱
電変換材料において、スピン・軌道自由度やプリン型バンド構造を利用した熱
電能の増大などの新しい原理に基づき、第一原理計算手法を用いて高性能熱電
物質を設計するとともに、チタン、タンタル、コバルト酸化物系や特異な電子
状態をもつディラック電子系などの物質開発を行う。また、産業界の研究員が
理化学研究所において、共同で超低消費エレクトロニクスや高効率エネルギー
変換に関する研究を推進する。さらに、若手研究者を主体としたワークショッ
プを開催する。
(2)環境資源科学研究
①炭素の循環的利活用技術の研究
大気中の二酸化炭素の資源化に向け、光合成によるバイオ素材生産や触媒化
学による化成品生産の実現を目指す。
平成25年度は、光合成機能向上については、より効率のよい光合成システ
ムを有するC4植物のゲノム及びトランスクリプトーム情報を収集し、二酸化
炭素を固定する有用遺伝子を探索するためのデータベースを構築するとともに、
葉緑体の機能転換や代謝機能の向上に関わる因子を探索する。
脂質等有用代謝産物の生産向上については、環境変動下での脂質代謝に関わ
る重要な植物遺伝子の候補を絞り込むとともに、光合成微生物の脂質代謝を制
御する遺伝子を探索する。また、微生物資源からの有用物質生合成遺伝子に関
して特に有用な生理活性をもつ代謝制御に関わる因子の探索を行う。
二酸化炭素からのカルボン酸の新規合成法の開発については、まず二酸化炭
素をアルキンの炭素骨格にカルボキシル基として導入する触媒反応を開発する。
また、有害な酸化剤を用いない環境調和型酸化反応の開発に向けては、複数あ
る酸化反応のうち、まず酸素分子を用いてカルボニル化合物に水酸基を導入す
る触媒反応を開発する。
②窒素等の循環的利活用技術の研究
生産に莫大なエネルギーが消費されている窒素肥料の使用量を低減するため、
低肥料下でも高成長可能な省資源型植物を創出する。また、窒素を低エネルギ
ーで固定する新規な方法の実現を目指す。
平成25年度は、低肥料(窒素・リン)、節水条件でも高成長を実現する植物
の生産性向上については、植物の生長や生産性向上に関する有用な遺伝子及び、
水利用効率の向上、環境ストレス耐性、低栄養条件下での生長関する因子を探
18
索するとともに、無機栄養の吸収同化を成長促進に結びつける遺伝子とその制
御機構を解明する。また、耐病性を阻害する化合物を低分子化合物ライブラリ
ーからスクリーニングして同定する。さらに、脱窒活性を簡便に評価するため
の測定系を開発する。
アンモニア合成反応の革新に向けては、新規の高機能錯体触媒の開発のため
に配位子と中心金属の組合せを検討し、温和な条件下で窒素を活性化できる分
子性錯体を合成する。
③金属元素の循環的利活用技術の研究
生物機能に基づく希少金属の効率的な回収、元素の特異的な性質を活かした
革新的な触媒の開発を目指す。
平成25年度は、植物・微生物の金属選択性・蓄積機構の解明と資源回収・
環境修復技術の研究開発については、カドミウム・ヒ素・水銀の蓄積能力を有
するコケ植物を探索するとともに、金属蓄積機構解明のために、有用コケのゲ
ノム情報を収集する。また、セシウム等の吸収に関わる植物の輸送や制御因子
を探索する。
希土類や各種遷移金属元素の特長を活かした革新的触媒反応の開発について
は、開発すべき触媒反応のうち、ポリスチレンの高機能化を可能にする希土類
触媒による効率的な反応、触媒固定化により再利用・低コスト化を実現する有
機EL材料の合成にも応用可能な反応、これまでのフラスコ反応よりも高速化
を実現した高活性・高選択性な銅触媒反応、医薬品や機能性材料の合成に展開
可能な亜鉛を用いた高活性・高選択性触媒反応の開発を行う。
④循環資源の探索と利活用研究のための研究基盤の構築
多様性に富む生物代謝物の解析やその代謝経路、遺伝子等解析基盤を整備す
るとともに、生物機能の解明・向上に資する生理活性物質を大量かつ高速に探
索・評価する技術を高度化し、生物資源の生産及び利活用のための研究基盤を
強化する。
平成25年度は、代謝物の同定または注釈付けの基盤となる、天然化合物バ
ンク等の化合物の質量分析データの取得を行うとともに、質量分析データベー
ス「MassBank」への登録を順次開始する。また、遺伝子組換え不可能
な植物種からも新規代謝産物生産を含めた生理活性物質を引き出すことを可能
とする代謝物制御基盤を整備するため、植物・微生物のエピジェネティクスを
制御する化合物を検出する新規評価系を構築する。
研究基盤に蓄積した化合物の提供に関しては、天然化合物バンク「NPDe
po」において、天然化合物およびペプチドを含む化合物ライブラリーの拡充
を進め、天然化合物の総合データベース「NPEdia」に更に生物活性デー
タを追加することで利用者の利便性を改善するとともに、国内外の大学・研究
機関・企業等へ1万化合物程度提供する。
19
(3)脳科学総合研究
①神経回路機能の解明研究
ほ乳類、魚類、無脊椎動物等の実験動物及び遺伝子操作技術等を用いること
で、個体の行動や神経細胞集団の振る舞いの計測を可能にし、特定の神経回路
動態が行動をどのように制御するのか等の作動原理を明らかにする。神経突起
成長円錐やシナプスの形成・維持・可塑性の機序を分子レベルで解明するとと
もに、特定の神経回路活動と行動との因果関係を決定するため標的の神経回路
を操作する技術を更に発展させる。
平成25年度は、以下の研究を行う。
海馬、大脳皮質等で、神経細胞の活動を大規模に観測する電気生理学的手法
やイメージング手法を確立し、海馬の一部の領域での、神経回路間相互作用を
精査し、記憶の貯蔵と固定化に関わる神経細胞集団の周期的電位変化の役割に
関する神経回路モデルを作成する。
大脳皮質の発生と作動の機構を明らかにするために、大脳皮質発生における
活動依存性制御を媒介する分子を同定し、6層構造からなる大脳皮質の第5層
の微細構造の in vivo での動作原理を明らかにする。さらに、大脳皮質におけ
る主要な抑制性神経細胞の分布と機能の地図を確立する。
知覚のシステム基盤に関する知見を確立するために、嗅覚認知等の感覚情報
の求心性回路において、末梢からの神経軸索がどのようなルールで中枢と繋が
っているかを明らかにし、匂いの全脳内表現を把握する。
恐怖学習において、手綱核から脚間核へと伸びる神経軸索の末端でのシナプ
ス可塑性がどのような役割を果たしているのかを明らかにし、忌避学習での扁
桃体のシナプス可塑性における中脳中心灰白質の役割を同定する。
②健康状態における脳機能と行動の解明研究
行動制御、概念形成、社会性、言語等の高次機能の機序を解明するため、サ
ル等の動物モデルでの機能ブロックと課題遂行中の神経細胞活動記録による研
究及びヒトでのイメージング研究により、領野・部位ごとの機能の同定、情報
処理内容の決定、領域間相互作用の決定等による高次脳機能の解読を行う。
平成25年度は、以下の研究を行う。
目的志向的行動における行動制御の機能モデルを作成するため、前頭連合野
の中で発生的に最も新しい前頭極と前頭連合野の他の領野の機能的違いを明ら
かにする。
意味概念・象徴概念の脳内表現形成機構を同定するため、側頭葉の中で一番
研究が進んでいる下側頭葉皮質について、その構成要素であるコラムが表現し
ている図形特徴を明らかにする。
社会的行動の機序を比較生物学的および発達過程において解明するために、
齧歯類デグーの3次元デジタル脳図譜を作成する。また、ヒト乳幼児の輸送反
応を明らかにする。
20
韻律を使った言語習得過程の機序を解明するために、単語の音素の配列を決
める普遍的要因と個別言語に依存した要因を明らかにする。
③疾患における脳機能と行動の解明研究
上記①の神経回路機能の研究や上記②における健康状態の研究で得られた知
見を活用し、神経回路の動作異常による精神神経疾患の発症メカニズムの解明
を行い、治療法開発の基礎的知見を確立する。
平成25年度は、以下の研究を行う。
うつ病等の気分障害については、死後脳の解析により、脳内エピゲノム変化
を同定する。また、ストレスによるうつ病モデル動物を用いて、病態を反映す
る生理学的変化(エンドフェノタイプ)を明らかにする。
アルツハイマー病等の神経変性疾患については、次世代型アルツハイマー病
モデルを開発する。また、酵母プリオンの生理的な意義を同定する。
自閉症等の発達障害のモデル動物の作成のため、病態への関与が明らかな遺
伝子変異を同定する。
④先端基盤技術開発
脳・神経系のメカニズム解明のために必要な世界トップレベルの研究支援技
術開発を行う。
平成25年度は、以下の研究を行う。
マウス全脳において、神経活動及びそれ以外の現象を脳表から可視化する技
術については、新規の蛍光または発光タンパク質に基づいて、脳神経活動に関
連する現象を可視化するプローブを開発し、ライブイメージングのための形質
転換マウスの作製を行う。
ホルマリン固定した脳のブロックにおいて免疫組織(抗体を使った組織染色)
による3次元再構築を可能にする技術を開発し、ライブイメージングに供した
サンプルを包括的に観察する研究モードを提案する。
国内外の大学等の研究機関や企業等及び研究プロジェクトとの有機的な連携
による研究を進め、研究開発成果、基盤技術や研究資材の提供・普及等を行う
とともに、脳科学分野の発展に資する人材育成を行う。具体的には、新たに昭
和大学との連携を開始する。
(4)発生・再生科学総合研究
①胚発生のしくみを探る領域
胚発生において複雑な組織が自発的に形成される仕組みを理解するため、最
新のイメージング技術や先端解析法等を導入し、複雑にプログラムされた分化
制御システムを解明する。
平成25年度は、受精卵が形成される時空間的な制御原理の解明に向けて、
21
細胞分裂過程のより詳細なライブイメージングを可能とする新規細胞内マーカ
ーを開発する。また、マウス胚の軸形成における細胞移動を制御する転写因子
の時空間動態を解明するとともに、原腸陥入に関する微小管の機能や、神経幹
細胞の増殖分化に関する制御機構を遺伝子レベルで特定する。さらに、細胞分
化を制御する遺伝子ネットワークの中で、特に転写因子ネットワークに焦点を
絞り、その主要な因子が構成するコアネットワーク構造の基本動作原理を、幹
細胞モデル系を用いて特定する。
②器官の構築原理を探る領域
生体の器官の正確な構築を幹細胞や分化細胞が行う作動原理を特定するため、
器官発生における幹細胞や分化細胞の接着・変形・移動等の長期解析技術を開
発し、器官構築のための制御原理を解明する。
平成25年度は、器官発生に必要な細胞間相互作用の分子実体の特定に向け
て、集団的細胞移動における細胞接着分子カドヘリン及びプロトカドヘリンの
役割を特定するとともに、その細胞移動を可能とする細胞同士の接着面の力学
特性を解明する。また、マウス成体毛包幹細胞の増殖・分化・移動の時空間的
変遷を長期解析するための生体イメージング技術、嗅神経細胞の正確な配線を
制御するシグナルの時空間的ダイナミクスの定量技術や生体マウスにおける脳
細胞分化過程の可視化・解析技術等を開発する。さらに、脳の形成過程におけ
る幹細胞の生物学的変化を、精密かつ時空間的に記述可能とする組織培養系及
び個体レベルの実験系を確立するとともに、気管支の分枝構造の上に、上皮幹
細胞ニッチ(幹細胞の巣)が構築される過程を解明する。
③臓器を作る・臓器を直す領域
器官の機能再生のための基盤技術創出と再生医療技術開発を目指し、①、②、
④の研究開発成果をヒトiPS・ES細胞等の幹細胞培養系に応用し、組織や
臓器の基本ユニットを試験管内で構築するとともに、臨床応用の早期実現に向
け、網膜疾患等に対する再生医療の臨床試験を推進する。
平成25年度は、iPS細胞由来の網膜色素上皮細胞移植による加齢黄斑変
性治療の臨床研究を実施するための準備を近隣の病院と連携して進め、国の審
査の承認後直ちに、患者の選定、患者皮膚細胞の採取とそのiPS細胞化等に
着手する。また、網膜色素変性治療の基礎研究として、iPS・ES細胞由来
の視細胞移植の動物実験を行う。さらに、iPS・ES細胞の立体培養技術の
効率化、自動化の研究を進め、下垂体等の組織・臓器を試験管内で構築するた
めの基盤となる技術の高度化を図る。
④創発生物学研究領域
自己組織化等、多数の細胞が集団になってはじめて出現する振る舞いを解明
する「創発生物学」を開拓するとともに、その体系的理解により、胚発生や進
22
化などの基礎研究から、臓器・組織の再生医療などの医学応用までを飛躍的に
前進させる基盤学術を確立する。
平成25年度は、器官の発生現象における形やサイズの決定原理の理解を目
指し、器官レベルにおける組織変形ダイナミクスと大規模トランスクリプトー
ム情報を理解するための統計的解析技術を開発する。また、胚が、サイズの違
いにも関わらずパターニングの均整を保つ仕組みを特定するとともに、細胞極
性の形成や上皮細胞の集団運動に関する数理的原理を解明する。
(5)生命システム研究
①細胞動態計測研究
細胞の個性的な機能発現の仕組を解明するとともに、得られた時間軸に沿っ
たデータを生命モデリング研究、細胞デザイン研究にフィードバックし、細胞
動態のより高度な理解を目指すため、1細胞内の分子動態から組織内での細胞
動態までを、階層を超えて高感度に定量計測・解析する技術を開発する。
平成25年度においては、250ナノメートルの空間分解能、33ミリ秒の
時間分解能での包括的1分子動態計測の実現に向けて、細胞内シグナル伝達分
子10種以上に対して細胞内1分子動態計測を達成し、大規模計測に必要とな
る技術や技術開発上の問題点を明らかにする。また、個体内1分子動態計測技
術開発の第一段階として、個体内の細胞において、細胞内小器官・超分子複合
体等の微細構造の動態を100ミリ秒以下の時間分解能で非侵襲的に計測する
システムを構築するとともに、個体深部のイメージングの実現を可能にする近
赤外蛍光イメージングシステムを開発する。さらに、細胞状態の変化に伴う代
謝産物の分析等の定量計測法の開発に向け、1細胞内の細胞質、細胞膜などの
分子種30種をほぼリアルタイムで一度に検出・定量する1細胞質量分析法を
開発するとともに、1細胞内におけるmRNAとタンパク質の発現を同時に観
測するシステムを構築する。
②生命モデリング研究
分子レベルからの細胞ダイナミクスの定量的理解・再現を目指し、膨大な定
量的データを高性能計算機を用いて数理モデル化し、複雑な生命システムを定
量的に取り扱う手法を確立するため、高性能計算機による分子設計や挙動予測、
細胞環境下での分子動態、細胞内生化学反応経路や細胞間相互作用等のシミュ
レーション手法等の統合的な研究開発を行う。
平成25年度においては、生命分子の反応時間スケールでの分子シミュレー
ション技術の開発に向け、分子動力学計算専用計算機上で、長時間分子シミュ
レーションが可能となるソフトウェアを開発する。また、細胞内環境を模した
分子混雑下でのタンパク質動態のシミュレーションを実施するとともに、1分
子レベルでの細胞内反応シミュレーションの並列化等の高性能化を行う。
23
③細胞デザイン研究
生命システムに特徴的な動作・設計原理の理解に向けて、生命現象を個別に
制御可能な形で人工的に再構成し、検証するため、遺伝子やタンパク質などの
生命の部品を調整・設計・制御するための基盤技術を開発し、細胞機能を担う
動的な分子ネットワークの設計・制御の実現を目指す。
平成25年度においては、細胞内遺伝子ネットワーク動態の設計に向けて、
増幅したDNAの末端を任意の配列の一本鎖領域を有する突出末端に化学的に
変換する新技術を開発し、簡便な操作で制限酵素配列に縛られない自由なDN
A連結を可能にする方法を開発する。また、細胞内遺伝子ネットワーク動態の
計測と制御のための基盤として、タンパク質の絶対量を高速に定量する手法の
確立に向けて、タンパク質定量用の対照サンプルを、再構成型無細胞タンパク
質合成システムを用いて、安定同位体標識を含む形で合成することによって、
ペプチド断片の定量を迅速に行う方法を構築し、手法を最適化する。
なお、国内外の大学等の研究機関や企業等との有機的な連携による研究を進
めるための会議に主体的に参画する等、研究開発成果や基盤技術の普及や共同
研究を推進するとともに、若手研究者を本研究分野に惹きつけ、裾野を拡大す
るため、人材育成のための講習会等を開催する。
(6)統合生命医科学研究
①疾患多様性医科学研究
ヒトゲノムの多様性を網羅的に解析する研究基盤を構築するとともに、多因
子疾患の発症・進展に関わる遺伝・環境要因を詳細に解析し、個別化医療・予
防医療の実現に向けた開発研究を行う。
平成25年度は、全ゲノムを対象としたSNP解析を中心にヒトゲノム解析
技術を開発し、疾患遺伝子研究(ファーマコゲノミクス研究を含む)の情報基
盤を構築する。また、遺伝子多型と疾患の易罹患性や薬剤応答性との関連、複
数の遺伝的要因と環境要因等の関連を統計的に高速に解析するソフトウェア・
アルゴリズムや予測を行うためのアルゴリズムの開発を実施、様々な疾患の発
症や薬剤応答性等に関連する遺伝子を同定する。
②統合計測・モデリング研究
ゲノム情報から疾患罹患性を読み解くために、疾患関連遺伝子情報から個体
レベルに至る疾患発症過程をモデリングすることを目指し、様々な階層での定
量的解析と意味付けによる階層間連結を行う。
平成25年度は、ヒト疾患と同一の疾患モデルマウス検体から網羅的にmR
NAやタンパク質の発現量を定量計測し、その大量計測情報を統合的に解析で
きるシステムを構築する。また、疾患モデルマウス作製をヒト疾患で見られる
原因変異5種類以上に対して開始する。特に先行研究である皮膚疾患に関して、
24
疾患発症プロセスについての計測データを実際に蓄積し、疾患発症プロセスの
モデリングを可能にするネットワーク及び情報基盤を構築する。
③恒常性医科学研究
革新的な予防医療の実現のために、恒常性の根幹である免疫システムに環境
要因まで包含し、個々の疾患発症過程を示す多階層モデルを構築・検証すると
ともに、統合計測・モデリング研究と連携する。
平成25年度には、特に難治性皮膚疾患であるアトピー性皮膚炎の発症メカ
ニズム理解に向けて、疾患発症モデルの構築を目指すための連携体制を構築し、
細胞、組織、個体レベルでの遺伝子、タンパクの発現動態、細胞動態など多階
層での解析を行う。さらに、複数の疾患ヒト化マウスを作成し、それら及びヒ
ト皮膚における特定の細胞種に関して遺伝子発現プロファイルの提出を目指す。
④医療イノベーションプログラム
平成25年度には、以下のプロジェクト研究を行う。
ア)革新的アレルギー疾患治療技術の開発:花粉症治療ワクチンの合成を最適
化する。
イ)新世代がん治療技術の開発:NKT細胞標的治療技術を開発し、大学・病
院機構等との臨床連携により、がん患者の平均生存期間延長を目指した細胞治
療基盤を確立し、先進医療申請する。
ウ)iPS細胞による造血・免疫系再生医療の実現:ヒトiPS細胞を用いた
造血・免疫系細胞の再生医療を目指した細胞標準化技術、分化誘導技術の最適
化し、それに基づいてバンキング化する。
(7)光量子工学研究
①エクストリームフォトニクス研究
今まで直接観測することが出来なかった様々なものや現象を可視化するた
め、これまでに理研で研究開発されてきた独自のレーザー技術及び精密計測技
術を発展させて、高強度フェムト秒レーザー技術を基盤にした、高次高調波を
用いた高強度アト秒パルス光源の開発及び従来の手法を凌駕する生体深部超解
像リアルタイムイメージング技術、蛍光タンパク質等を利用した生体モニタリ
ング法ならびに蛍光タンパク質の新たな応用を開拓する。
平成25年度は、これまでに開発された2波長励起による単一アト秒パルス
の高出力化法を波長30ナノメートル領域に拡張するとともに、生体深部超解
像イメージングのために必要となるレーザー集光領域での波面補正技術を開発
する。
②テラヘルツ光科学研究
テラヘルツ光の産業応用や幅広い利用を可能とするため、テラヘルツ光源の
25
高度化や新しい検出システムの開発、小型化など、より高度なテラヘルツ光利
用のための基盤技術を確立し、量子カスケードレーザーの高温動作技術とテラ
ヘルツ光と生体の相互作用の理解に基づく非接触・非拘束での生体情報モニタ
リング技術を開発する。
平成25年度は、テラヘルツ光発振器において、励起光学系の最適化により
LN(ニオブ酸リチウム)結晶内でのゲイン(入力/出力の比)の向上を図る
ことで、これまでの約10倍の強度を達成するとともに、超伝導テラヘルツ検
出器においてTiN(窒化チタン)超伝導膜の作製条件の最適化によってこれ
までの約10倍の高感度化を実現する。
③光技術基盤開発
未踏領域の光源や究極的な光の制御技術の活用を目的として、独自のレーザ
ー技術や先端的光学素子及び微細加工技術等の高度化及び移動可能な小型中性
子ビーム源による特殊材料並びに大型建造物やプラント等の非破壊検査のため
の要素技術を確立する。
平成25年度は、中性子源を用いた検査システムの開発において、メガ電子
ボルト単位のエネルギーをもった中性子を用いて、16ピクセル(縦横4ピク
セル)のイメージング画像を取得する。中性子やX線を0.1−0.2nm精
度で利用するために必要な自由曲面光学素子の開発に着手し、集光型小角散乱
装置への適応を検討する。
④人材育成
国内外の研究機関や大学、企業との連携により、応用的な視点での研究を展
開し、将来的に本分野の研究を牽引し、光技術分野の利用範囲の拡大に資する
優れた人材を育成する。
平成25年度は、光科学技術を様々な問題を解決する基盤技術として用いる
ために、若手研究者を中心に社会的な課題等について議論するセミナーを開催
する。また、研究成果を広く普及させることを目的としてシンポジウムを開催
する。上記の取り組みに加え、重要な社会的課題達成に貢献することを目指し
た研究開発の戦略を策定する。
26
【別紙2】世界トップレベルの研究基盤の整備・共用・利用研究の推進
(1)加速器科学研究
①RIビームファクトリー(RIBF)
(ア)高度化・共用の推進
RIBFの装置群を活かした成果を創出するため、最大限の運転時間の確保
に努める。また、公平な利用課題の選定を行うとともに、国内外の研究機関と
の連携を強化し、利用者の受け入れ体制を充実させる。
さらに、利用研究の円滑な推進のため、施設の維持を図るとともに、国内外
の研究や施設整備の進捗等を踏まえつつ施設の高度化を行う。
平成25年度は、効率的な加速器運転計画を策定し、運転を行う。学術研究
については実験課題を国際公募し、外部有識者を含めた課題選定を行う。また、
RIBFに実験装置を設置している東京大学、高エネルギー加速器研究機構と
の連携強化のため、課題選定委員会を三者による共同開催とするための準備を
進める。さらに、産業利用については国内公募を実施し、課題選定を行う。加
えて、外部利用を促進するために必要な体制について検討するため、外部有識
者により構成される共用促進委員会を開催する。
施設の維持・高度化については、ビームの大強度化および安定供給の障害と
なる老朽化した装置の更新を進める。また、重元素ビームの大強度化の鍵とな
る、荷電変換装置のビーム熱負荷対策及び長寿命化のための開発を実施する。
(イ)利用研究の推進
安定原子核の島への到達を目指す研究として、超重元素合成および核合成技
術の開発を進める。また、従来の理解では説明できない異常な核構造までを包
括する究極の原子核像の構築、および宇宙における元素誕生の謎の解明を目指
す。
平成25年度は、多種粒子測定装置を用いた実験により、励起したRIビー
ムから放出される全粒子を一斉に測定を行い、中性子ハロー構造等の新たなデ
ータを得るとともに、119番以上の元素合成実験に着手する。また、大型球
形ゲルマニウム半導体検出器を利用した国際共同研究を実施し、未知のRIの
核分光データを取得して、原子核構造の理解を深化させるとともにr過程の理
解の鍵となる条件を探る。
産業応用では、引き続き植物育種分野での研究を推進するとともに、製品の
評価等の工業応用を拡充するための制度等を充実させる。
さらに、RIBFを擁する優位性を活かし、国内外の機関との実験及び理論
両面での連携体制を拡充するとともに、これらの分野に資する人材の育成を推
進するため、アジアの原子核物理学の学生を育成するため「仁科スクール」を
開催する。
27
②スピン物理研究
世界唯一の陽子偏極衝突実験が可能な米国ブルックヘブン国立研究所(BN
L)の重イオン衝突型加速器(RHIC)において、陽子スピンがクォーク、
反クォーク、グルーオンにどのように分割されているかを明らかにする実験を
行うとともに、量子色力学(QCD)の理論的アプローチにより、陽子スピン
の起源を解明するための知見を得る。
平成25年度は、RHICに整備したミュオン同定・検出装置を用いて、素
粒子(Wボソン)の測定を引き続き行い、得られる反クォークの偏極度のデー
タを蓄積する。理論計算用格子QCD専用機による核子構造についての理論計
算を行うとともに、摂動論QCD計算からの理論的知見と合わせ、実験データ
と比較検討する。
③ミュオン科学研究
英国ラザフォードアップルトン研究所(RAL)の陽子加速器(ISIS)
に建設したミュオン施設において、世界最高精度のパルス状ビームの素粒子ミ
ュオンを用いて、物質内部の磁場構造を測定・解析し、新機能性物質における
超伝導性、磁性、伝導及び絶縁性等の性質の発現機構を解明する。また、超低
速エネルギーミュオンビーム発生技術の高度化を行う。
平成25年度は、物質の局所磁場の大きさや揺らぎを実時間で測定できるミ
ュオンスピン緩和法(μSR法)を用いた物質内部磁場構造解析の更なる展開
のため、ミュオン静止位置解析プログラムを開発し、計算機による電子状態の
詳細な解明を行う。また、新規機能性物質の特殊環境下での電子状態の解明や
材料評価のため、レーザー照射や高圧条件という世界唯一の特殊ミュオン科学
実験環境を整備する。さらに、物性・素粒子研究に資する新しい大強度超低速
ミュオンビーム実現のため、室温で動作可能なミュオン源の開発およびそのビ
ーム収集系を構築し、多機関連携で高強度イオン化レーザーを開発する。
(2)放射光科学研究
①特定放射光施設の運転、共用等
特定放射光施設(大型放射光施設SPring−8及びX線自由電子レーザ
ー施設SACLA)の安全で安定した運転、維持管理及びそれらの整備・高度
化を実施し、利用者が必要とする世界最高水準の放射光を提供することにより、
利用者の共用に供する。
平成25年度は、SPring−8加速器の機器調整、施設の維持管理等を
行いつつ、ダウンタイムの低減を図り、年間運転時間の8割程度を利用者の使
用時間として提供する。SACLAでは、その性能・特性を見極めるための試
験調整運転を行いつつ、共用運転を通じて安全かつ安定なX線領域のレーザー
光を利用者に提供する。また、セルフシーディング技術の導入や3本目となる
ビームラインの設置を行うとともに、SACLAと「京」との連携を図るため
28
の情報インフラを整備する。
施設間の連携については、併設するSPring−8とSACLAの相互利
用施設において、相互利用課題を募集し、利用者に供する。さらに、俯瞰力と
独創力を備えた放射光科学に資する若手人材を育成するため、
「博士課程教育リ
ーディングプログラム」における兵庫県立大学の協力機関として、最先端の放
射光研究を学ぶ機会を提供する。
②先導的利用技術開発研究の推進等
SPring−8及びSACLAの世界最高水準の性能を維持するとともに、
我が国の高エネルギーフォトンサイエンスの中核として内外の研究開発に寄与
するツールとノウハウを開発・提供し、当該分野における先導的役割を果たす。
(ア)先端光源開発研究
世界の高エネルギーフォトンサイエンスを牽引するナノメートル以下の波長
領域における高輝度・高干渉性・超短パルス性を兼ね備えた光源技術開発・光
制御技術開発を行う。
平成25年度は、SPring−8の高度化として、回折限界を目指し、従
来の100倍以上の輝度を実現する蓄積リング型放射光源の概念設計を開始す
る。さらに、省エネルギー化に向けた技術開発として、偏向電磁石等の永久磁
石化の可能性を追求するため、強磁場磁石の数値解析・評価を行う。また、S
ACLAにおいては、ピコ秒の動的構造解析をめざし、ピコ秒分解能X線ポン
プ・プローブ計測手法の構築を行うとともに、未踏であったX線領域における
非線形光学研究を実現するため、X線領域での2次高調波を発生させ、SAC
LAの基本波では届かないエネルギー領域のコヒーレント光利用を可能とする。
(イ)利用技術開拓研究
放射光利用研究の高度化のため、SPring−8やSACLA等の新たな
利用技術を開拓する。
平成25年度は、ナノレベルでのビーム安定性を現状の2倍程度持続させる
ための技術を開発するとともに、次元ごとの解像度を20ナノメートル以下に
するための3次元X線イメージング技術の開発を行う。
(ウ)利用システム開発研究
世界の高エネルギーフォトンサイエンスの中核として、理化学研究所内外の
幅広い研究者による利用研究を促進するために、利用技術を総合して高度な利
用システムを開発・構築し、汎用化し、ビームライン等の先端性を維持向上す
る。
平成25年度は、SACLAとスーパーコンピュータ「京」との連携を図る
情報インフラを最大限活用するため、SACLAでの実験で大量に産生される
29
データについて高速かつ高度に解析するシステムを構築する。
(3)バイオリソース事業
①バイオリソース整備事業
ライフサイエンスの研究開発において重要なバイオリソースである実験動物、
実験植物、細胞材料、遺伝子材料、微生物材料並びにそれらの関連情報につい
て、収集・保存・提供を継続的に実施する。
事業の実施に当たっては、量的観点のみならず、社会ニーズ・研究者ニーズ
の高いバイオリソース及び情報を優先して整備するとともに、国際的な品質マ
ネジメント規格やガイドラインに準拠して、品質管理を行う。
また、中核的な研究基盤拠点として、大学等関係機関と協力して、バイオリ
ソースの整備・提供に係わる人材の育成・確保、技術移転のための技術研修や
普及活動を行う。さらに、バイオリソース分野での国際的優位性確保と国際協
力の観点から、バイオリソースの整備に係わる国際的取組に主導的に参画する。
特にアジア地域においては、関連機関と情報交換、人材交流、技術研修等を実
施することにより中心的な役割を果たす。
平成25年度は以下の事業を行う。
(ア)収集・保存・提供事業
実験動物:ライフサイエンス研究分野の発展に不可欠な疾患モデルと遺伝子機
能解析モデルを中心とした、突然変異系統、遺伝子操作系統等。
実験植物:基礎研究において広く用いられているシロイヌナズナ由来のリソー
ス及び植物培養細胞に加え、食料生産、環境、エネルギー等の応用研究への利
用が期待されるミナトカモジグサ等のモデル植物。
細胞材料:ヒト・動物由来の培養細胞株、遺伝子解析研究用ヒト細胞及び発
生・再生研究用のヒト・動物ES及びiPS細胞株、創薬及び病因解明研究の
ためのヒト疾患特異的iPS細胞等。
遺伝子材料:学術基盤研究及び健康、環境、エネルギーの研究の基礎的材料と
して重要なヒト、動物及び微生物由来のゲノム及びcDNAクローン、遺伝子
導入用ベクター等。
微生物材料:環境、エネルギー、健康の研究に資する微生物。特に、バイオマ
ス関連微生物、難培養微生物、細菌、放射菌、古細菌、酵母及び糸状菌等。
バイオリソース関連情報:上記リソースの特性情報のデータベースの改善及び
ホームページやメールニュースでの情報発信。
上記に加えて、集積されたバイオリソースを災害から守り安全に保管するた
め、播磨研究所に設置したバックアップ施設に逐次移管する。
これらの取組により、以下の保存数、年間提供数の目標を達成する。
30
保存数
6,200 系統
提供総件数
2,800 件
652,000 系統
2,000 件
7,200 系統
4,000 件
125 系統
10 件
遺伝子材料
3,727,600 系統
1,000 件
微生物材料
21,200 系統
2,800 件
実験動物
実験植物
細胞材料
うち疾患特異的 iPS 細胞
(イ)バイオリソースの質的向上、品質管理
実験動物:組織特異的に遺伝子を欠失させたマウスの品質管理等。
実験植物:シロイヌナズナ野生由来株と培養細胞の保存・利用技術及び品質評
価技術の開発等。
細胞材料:細胞同定・品質管理検査技術、ES細胞やiPS細胞等の幹細胞及
び栄養細胞の樹立・標準化・大量培養技術の開発等。
遺伝子材料:遺伝子組換え技術により生産したタンパク質を精製するための実
験操作法のデータベース構築等。
微生物材料:高度嫌気性細菌、酵母、糸状菌等のゲノム情報に基づいた同定技
術の開発等。
バイオリソース関連情報:特性情報にする共通的検索項目の設定とデータベー
ス化及びバイオリソースを利用して発表された文献等の効率的・効果的な収集
システムの構築。
また、バイオリソースへの信頼性を高めるため、厳格な品質管理を実施する。
特に細胞材料並び微生物材料については、ISO9001:2008国際品質
マネジメント認証に従い品質を管理し、その他リソースへも認証規格に準じた
品質管理方針の水平展開を進める。
(ウ)人材育成・研修事業
センター内において既存の技術者認定資格の取得を奨励するともに、理研セ
ンター内外の研究者・技術者を対象とした研修事業により、バイオリソースを
効果的に利用するための高度な技術を普及・移転する。
(エ)国際協力・国際競争
国際的優位性を確保するため、バイオリソースの整備に係わる国際的取組に
参画する。特にアジア研究リソースセンターネットワークやアジア突然変異マ
ウス及びリソース連盟で中心的役割を果たし、アジアの欧米に対する相対的地
位向上に貢献するともに、南京大学等との連携により、アジアにおける人材育
成を図る。また、国際マウス表現型解析コンソーシアムに参画し、プロジェク
トの成果を我が国の研究者が自由に活用できることを可能にする。
31
②バイオリソース関連研究開発の推進
(ア)基盤技術開発事業
バイオリソースの維持・保存の効率化や高度化に有効な方法を開発する。
平成25年度は、マウスの始原生殖細胞の培養・増殖を容易にするための技
術開発を行う。
(イ)バイオリソース関連研究開発プログラム
最先端の研究ニーズに応えるため、各種特性解析技術、解析プラットフォー
ム、データベースの開発・整備を行うとともに、新規バイオリソースを開発す
る。また、開発・整備した技術や解析プラットフォーム、データベース等につ
いては、研究コミュニティに対して広く提供する。
平成25年度は、特性解析技術、解析プラットフォームの開発として、環境
ストレスが遺伝子発現・ゲノム修飾変異に与える影響と疾患発症の関連解析技
術及びそのためのCreマウスモデル系統等の開発・整備を行う。また、新規
変異マウス開発のため高速ゲノムシーケンシングにより、突然変異系統群に点
突然変異情報を付加するとともに、リソースの利用価値向上のため、網羅的か
つ階層的なマウス表現型解析を国際連携の下で行う。さらに、マウス、細胞等
において表現型データやゲノムデータの効率的管理・共有化を図るデータベー
スを構築する。新規バイオリソースの開発としては、ヒト疾患、特にがん研究
について、原因遺伝子同定及び病態発現機構に関する情報を付加した有用性の
高いヒト疾患モデル等を開発する。
(4)ライフサイエンス技術基盤研究
①構造・合成生物学研究
効果的・効率的な創薬プロセスの確立のため、ア)創薬標的分子を調製する
とともに、構造情報を取得する技術、イ)構造情報を用いたコンピュータ上で
の医薬品候補化合物の設計・スクリーニング技術、ウ)バイオ医薬品候補を生
成する技術の構築と高度化を進める。
平成25年度は、創薬標的分子の試料調製を目的とし、調製難度が高い生体
分子(膜タンパク質等)を含む3種類以上のタンパク質生産系を整備し、標的
分子ごとに無細胞合成システムの高度化や生産効率の評価を行う。コンピュー
タを用いた医薬品の設計法を高度化し、5種類程度の創薬標的分子に実際に応
用して設計法の効率及び精度を評価するとともに、従来法では阻害剤を見出す
ことが困難な標的分子に対する新規薬剤設計技術(FBDD)のプロトタイプ
開発や新規バイオ医薬品の開発に役立つ、分子創成のための新規技術の開発を
開始する。また、従来の限界を超えた超分子構造解析を可能とする技術基盤の
確立を目指し、高温超伝導線材を用いて世界で初めて超1GHz NMRを完
成させる。さらに、SPring−8/SACLAの放射光や電子顕微鏡等を
32
組み合わせた新たな解析技術基盤の構築に向け、技術開発に適したモデル試料
の選定と調製、結晶化、性状分析を行う。
②機能性ゲノム解析研究
創薬・医療に資する基幹技術の確立のため、ア)細胞集団を1細胞単位で計
測するとともに、遺伝子発現ネットワークを解析、ゲノム情報を理解する技術、
イ)細胞の機能を変換、幹細胞の安全な分化につなげる技術、ウ)標的核酸を
検出する技術の構築と高度化を進める。
平成25年度は、ゲノム情報の理解のため技術開発として、単一細胞の調製
技術を含めた単一細胞シーケンサーのプロトタイプシステムを開発する。ヒト
やマウスの転写制御ネットワークや非翻訳RNA等のデータベースを作成する。
独自の遺伝子発現解析技術であるCAGE法の標準化、解析ソフト・データ閲
覧システムの開発等を行う。また、特定の細胞からiPS細胞を経由しないで
直接変換したモデル細胞の解析及びヒトiPS細胞の万能性維持と分化にかか
わる因子の解析を行う。さらに、インフルエンザウイルス高感度検出系の構築
を通じた、等温核酸増幅法による迅速遺伝子診断技術のプラットフォームを整
備する。最先端のゲノム解析技術を提供する創薬標的分子の検証基盤を構築す
るため、RNAの多様性を解析する技術の先鋭化、標準化を行う。
③生命機能動的イメージング研究
創薬・医療に資する基幹技術の確立のため、ア)疾患状態における生体分子
の動態解析技術、イ)生体分子・細胞の機能変化を時系列で解析する技術、ウ)
複数分子同時イメージング等の次世代のイメージング技術の構築と高度化を進
める。
平成25年度においては、糖尿病発症に関わる標的分子やがん種別判定に関
わる特異的分子、疲労や多くの疾患を誘因するタンパク質酸化等を標的とする
新規分子プローブを3種類程度開発するとともに、脳疾患における炎症病態を
解析する臨床研究を2件実施する。また、マーモセット等を用いて、神経変性
疾患や社会性行動異常に対する病態発現の時空間的イメージング法を開発する
ために、疾患に関わる神経ネットワークや関連バイオマーカーを解析する。さ
らに、PETと蛍光・発光イメージングによる融合画像解析を実現する分子プ
ローブ2種を開発するとともに、PET装置を改良した新しい2分子同時イメ
ージングシステムの試作機を開発する。加えて、生体内で優れた薬物動態をも
つ化合物設計を可能とする技術基盤構築に向けて、医薬品候補化合物の生体内
動態解析や薬物輸送タンパク質の機能解析に必要な新規分子プローブを開発す
る。
これらの取組を行うとともに、国内外の大学や企業等との有機的な連携によ
り、研究成果の効果的な社会への還元に向けた体制を構築し、年間300件程
33
度の共同研究と100件程度の解析支援を行う。
(5)計算科学技術研究
①特定高速電子計算機施設の共用の推進
革新的ハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラ(HPCI)の
中核である超高速電子計算機(スーパーコンピュータ「京」)を含む特定高速
電子計算機施設を適切に運転・維持管理し、特に、スーパーコンピュータ「京」
については、平成25年度は8,000時間以上運転し、663,552,0
00ノード時間(82,944ノード×8,000時間)以上の計算資源を研
究者等への共用に供する。
また、施設運用の効率化や利用者の利便性の向上などを目指し、システムソ
フトウェアの機能強化やアプリケーションプログラムの実行性能の向上、先進
的なアルゴリズムの開発をはじめとする共通基盤構築などの高度化研究を実施
する。
平成25年度は、スーパーコンピュータ「京」の計算資源を最大限に有効活
用するため、システムソフトウェアのジョブスケジュールや計算実行中にデー
タ転送を最適化するための機能を強化するとともに、最新のアプリケーション
プログラムを円滑に実行できるように、アプリケーションプログラムを処理す
る機能を高度化する。また、HPCI戦略プログラムの戦略機関と計算科学研
究機構との連携推進会議において計画された複雑で大きな分子を精度良くシミ
ュレーションするソフトウェアや流体・化学反応・音といった様々な現象を統
一的に解析する計算手法等を開発する。
また、登録施設利用促進機関その他の関係機関との適切な役割分担の下、計
算科学技術に関する研究者等の育成に努める。さらに、利用者のニーズ等も踏
まえて特定高速電子計算機施設の円滑かつ有効な運営等を行い、多くの研究者
等により積極的に活用されるようにするとともに、優れた研究開発成果を世界
に向けて発信していくことにより、国内外のトップレベルの研究者等の交流の
場となる最先端コンピューティング研究教育拠点として発展を図る。
②計算科学技術の発展に向けた基盤技術の構築
創発物性科学研究事業との連携研究体制を構築して、計算科学研究機構が有
する計算科学技術の知識・技術を活用しつつ、高精度に電子状態・物性特性を
計算する手法、及びそれを用いたアプリケーションを開発し、消費電力を革命
的に低減するデバイス技術やエネルギーを高効率に変換する技術に関する研究
開発の推進に貢献する。
平成25年度は、平成26年度までに多体モデル計算、第一原理計算、ダイ
ナミクス計算を組み合わせた計算手法を確立するため、多体モデル計算の高精
度化、第一原理計算の大規模化、ダイナミクス計算の長時間化を図り、これら
を組み合わせた計算手法の開発に着手する。
34
なお、これらの取組にあたっては、施設公開、講演会等を通じて、広く国民
に対して情報提供を行い、国民の理解が得られるように努める。
35
【別紙3】戦略的・重点的な連携やネットワーク構築による研究開発成果の効
果的な社会還元
(1)融合的連携促進
科学技術イノベーションの創出を促進するため、バトンゾーンを活用するこ
とにより、理化学研究所が有する最先端の研究シーズと産業・社会のニーズを
融合した研究推進体制のもと、融合的連携研究を実施する。
平成25年度は、産業界との融合的連携研究制度において、これまでに採択
した研究開発課題を着実に実施するとともに、産業・社会のニーズを重視した
研究開発課題の募集、選定等を行い、次世代の技術基盤の創造や、成果の早期
実用化等に向けて発展が見込まれる研究開発課題を新たに実施する。その際、
企業経営層との対話を通して事業化に向けた産業界のニーズを正確に把握し、
理研シーズを適切に活用した共同研究計画を実現することで、研究開発に対す
る企業の関与を強化し、実効性を高めた研究体制を構築する。これにより、融
合的連携研究制度で実施する課題において、連携先企業にて実用化を見込んで
開発や事業化の段階に移行することができるような成果を1件以上創出するこ
とを目指す。
また、産業界との連携センター制度については、これまでに設置した連携セ
ンターにおける活動を強力に推進するとともに、中期目標期間中に2件以上設
置することを目指し、事業開発を実効的に進めるための推進体制を構築する。
具体的には、企業経営層への積極的なアプローチを行い産業界のニーズの把握
及び潜在ニーズの開拓に努めるとともに、所内各所の調整を密に行うことで、
組織的かつ包括的な連携の提案を積極的に行う。
(2)バイオマス工学に関する連携の促進
二酸化炭素の資源化に向け、ゲノム科学基盤やバイオテクノロジーを駆使し
て、バイオマス生産から化学製品材料、バイオプラスチック(最終製品)につ
なげる革新的で一貫したバイオプロセス生産技術を確立するための研究開発を
実施することで、新産業を創出し、広く社会に展開することを目指す。
平成25年度は、以下の研究を行う。
①植物の機能強化による「高生産性・易分解性を備えたスーパー植物」
植物のバイオマス量の増加や環境耐性、植物を容易に分解しやすい組織に変
える有用遺伝子を探索し、形質評価を行う。さらに草本バイオマス活用に向け、
モデル植物であるブラキポディウムの情報基盤を構築する。
②バイオテクノロジーを活用した化学製品原料の効率的な「一気通貫合成技術」
バイオマスを原料として微生物を用いた様々な化合物を生産するバイオリフ
ァイナリー技術に必要なプロセスの要素技術を開発する。具体的には、ターゲ
ット化合物生産に合わせて微生物設計を行えるインシリコ上での設計シミュレ
ーションプログラムを開発し、微生物を用いた特定の化合物生産の合成ルート
36
を構築する。
③ポリ乳酸に並び立つ 「新たなバイオプラスチック」の開発
ポリエステルの代替材料として期待され、微生物が作り出すポリヒドロキシ
アルカン酸(PHA)を素材としたバイオプラスチックを実材料として利用可
能とするために、成形・加工高度化技術の開発、高付加価値な新規機能を付加
させたPHA素材を開発する。
また、産業界の橋渡しを含めた組織連携・融合の中心となる連携促進コーデ
ィネーターを設置した研究推進体制を整備し、技術・プロダクトを社会へ展開
する事を想定した上で、実現化に向けて産業界、国内外の大学・公的研究機関
との戦略的な共同研究等を行う。
(3)創薬関連研究に関する連携の促進
①創薬・医療技術基盤プログラム
理化学研究所の各研究センターや大学等で行われている様々な基礎疾患研究
から見いだされる創薬標的(疾患関連タンパク質)を対象に、各研究センター
が設置する創薬基盤ユニットが連携して医薬品の候補となる低分子化合物、抗
体、核酸等の新規物質を創成し有効な知的財産の取得を目指す創薬・医療技術
研究を推進する。また、非臨床研究段階のトランスレーショナルリサーチとし
て安全性評価等を行う創薬・医療技術プロジェクトを推進し、これらを適切な
段階で企業や医療機関等に導出する。
また、府省が連携してアカデミア等の創薬研究を支援する取組などを通じて、
大学や医療機関との連携強化や先端的技術を創薬研究に展開するための企画・
調整を行う。
これらの取組を通じて、シード探索、リード最適化段階の創薬・医療技術研
究については、本中期目標期間において、最終製品を包含する特許の取得段階
にまで進め、2件以上を企業に移転する。また、創薬・医療技術プロジェクト
について非臨床段階から臨床段階にステージアップし、本中期目標期間におい
て、2件以上を企業又は医療機関に移転する。
平成25年度は、シード探索段階の創薬・医療技術研究について1テーマを
リード最適化段階に進めると共に、リード最適化段階の創薬・医療技術研究に
ついては1テーマに関して最終製品を包含する特許の取得段階にまで進める。
②予防医療・診断技術開発プログラム
理化学研究所の各研究センターや医療機関・企業等で行われている様々な基
礎研究等から見いだされるシーズやニーズを基に、各研究センターが設置する
開発ユニットが連携して疾患を発症前または早期段階において計測・検出・予
測可能とするバイオマーカーの探索やこれを用いた診断法の開発等の取組を推
進する。平成25年度は、核酸などの生体分子を検出対象とするインフルエン
ザ診断・検出キットの開発に取組む。
37
【別紙4】予算(人件費の見積もりを含む。)、収支計画及び資金計画
1.予算
平成 25 年度
区
(単位:百万円)
金
額
分
収入
運営費交付金
施設整備費補助金
設備整備費補助金
特定先端大型研究施設整備費補助金
特定先端大型研究施設運営費等補助金
雑収入
特定先端大型研究施設利用収入
受託事業収入等
計
支出
一般管理費
(公租公課を除いた一般管理費)
うち、人件費(管理系)
物件費
公租公課
業務経費
うち、人件費(事業系)
物件費(任期制職員給与を含む)
施設整備費
設備整備費
特定先端大型研究施設整備費
特定先端大型研究施設運営等事業費
受託事業等
計
※各欄積算と合計欄の数字は四捨五入の関係で一致しないことがある。
38
55,330
2,992
2,275
1,430
22,903
367
343
4,900
90,539
4,129
2,033
1,304
729
2,096
51,568
4,922
46,646
2,992
2,275
1,430
23,246
4,900
90,539
2.収支計画
平成 25 年度
区
(単位:百万円)
金
額
分
費用の部
経常経費
一般管理費
うち、人件費(管理系)
物件費
公租公課
業務経費
うち、人件費(事業系)
物件費
受託事業等
減価償却費
財務費用
臨時損失
98,172
4,080
1,304
679
2,096
56,355
4,922
51,433
3,531
34,167
40
0
収益の部
運営費交付金収益
研究補助金収益
受託事業収入等
自己収入(その他の収入)
資産見返負債戻入
臨時収益
46,607
14,350
4,381
685
31,673
0
純損失
前中期目標期間繰越積立金取崩額
目的積立金取崩額
総利益
△ 476
1,650
0
1,173
※各欄積算と合計欄の数字は四捨五入の関係で一致しないことがある。
39
3.資金計画
平成 25 年度
区
(単位:百万円)
金
額
129,839
69,994
49,421
1,168
9,256
分
資金支出
業務活動による支出
投資活動による支出
財務活動による支出
翌年度への繰越金
資金収入
業務活動による収入
運営費交付金による収入
国庫補助金収入
受託事業収入等
自己収入(その他の収入)
投資活動による収入
施設整備費による収入
定期預金解約等による収入
財務活動による収入
前年度よりの繰越金
129,839
91,681
55,330
25,178
5,440
5,733
26,525
4,422
22,104
0
11,633
※各欄積算と合計欄の数字は四捨五入の関係で一致しないことがある。
40
Fly UP