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目 次 - フラストレーションが創る新しい物性

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目 次 - フラストレーションが創る新しい物性
目 次
¾
巻頭言
• 領域代表:川村光(大阪大学大学院理学研究科)
···························· 3
¾ 平成 20 年度立ち上げ全体会議
• 報告
········································································································· 4
• プログラム
········································································································· 5
¾ 研究紹介
• 核磁気共鳴実験(NMR)とミュオンスピン緩和から見た
二次元三角格子磁性体 NiGa2S4 の低エネルギー磁気励起
···························· 8
石田憲二(京都大学大学院理学研究科)
• フラストレーションが引き起こすフェリ秩序
···························· 10
飛田和男(埼玉大学大学院理工学研究科)
• 高温動作のスピン誘起型強誘電体としての銅酸化物
···························· 12
木村剛(大阪大学基礎工学研究科)
• 遷移金属における内因性ホール効果:軌道自由度の重要性 ···························· 14
紺谷浩(名古屋大学大学院理学研究科)
¾ 第二回トピカルミーティング
• 報告
········································································································· 16
• プログラム
········································································································· 17
¾ トピックス
• パルス強磁場中で MnWO4 の誘電分極を測る
··················································· 20
三田村裕幸(東京大学物性研究所)
• らせん磁性体における光吸収理論
··················································· 22
宮原慎(ERATO-MF JST)
• 光で駆動されるスピン励起
··················································· 24
貴田徳明(ERATO 十倉マルチフェロイックスプロジェクト)
• RbCoBr3 における磁気誘電同時転移
中村統太(芝浦工大工)
··················································· 26
¾ 成果論文リスト
························································································· 28
¾ お知らせ
························································································· 32
¾ 編集後記
························································································· 34
巻頭言
巻頭言
領域代表
川村光
本特定領域も 2 年目に入りました。今年度からは計画研究に加え新たに 17 件の公募
研究が加わり、領域としていよいよフル回転の活動となります。新たに加わっていただ
いた公募研究は、どれも大変ハイレベルのものばかりで、初年度からの計画研究とあわ
せ極めて強力な布陣となりました。必ずしや立派な成果が得られるものと確信しており
ます。関係の皆様の一層の御支援をお願いする次第です。
さて本特定領域は、若い方々の比率が高く、かつ若手の皆さんが大変元気に活躍され
ているのが特徴です。一方、我が国はフラストレート磁性の分野で先駆的な貢献をして
おり、輝かしい伝統を有しています。フラストレーション研究は、90 年代から 2000
年代の初頭までの 15 年間ほど一旦下火になった時期があるので、その辺の事情を直接
にはご存じない若手の方々も多いと思います。最も初期の業績の 1 つに、カゴメ格子上
の反強磁性イジングモデルの厳密解を導かれた庄司一郎博士(写真)のお仕事がありま
す。実は小生、阪大に助手として赴任して直ぐの頃に、当時阪大・工学部の教授であっ
た退官直前の庄司先生に一度だけお目にかかったことがあります。といっても、シニア
の教授の先生方の後にくっついて、先生の教授室にお邪魔しただけなのですが。直接言
葉を交わした記憶は一切ないので、多分部屋の隅の方に控えていただけだったのだと思
います。それでも、2 つのことだけ、今でも強く印象に残っています。1 つは、先生の
お顔を初めて拝見したとき、塚原ト伝[= 戦国時代の剣術家]みたいな顔だなと思った
こと(もちろん塚原ト伝の顔を小生が知っている訳はな
いのですが、なぜか反射的にそう思った)
。もう 1 つは、
教授室がスゴク広く立派で、阪大の教授というのはこん
なに大層なものかと思ったこと(実はこれは極めて例外
的な事例で、フツーの教授の部屋はそうたいしたもので
ないことは直ぐに学びましたが)。もうチョッと学問的
なお話なども伺っておけばよかったなと、先生が既に鬼
籍に入られた今になると思いますが、、
、
しかし、学問にも何がしか「伝統」というべきものがあり、それを通して過去と現在
の研究者がつながっているような気がするのはとても貴重なことではないでしょうか。
サイエンス研究というのは基本的には孤独な作業ですが、本特定領域も、研究者の間を
つなぐ一助になるのであれば、代表としても望外の喜びです。
「平成 20 年度立ち上げ全体会議」
報告
本特定領域研究は 2 年目に入り、公募研究として採択された 17 班 30 名が新たに加わりま
した。そこで、計画班、公募班の全メンバーが集まり19年度の成果に基づいて今後の更なる
躍進を目指すために「平成 20 年度立ち上げ全体会議」が企画されました。初年度のキックオ
フミーティングは大阪で開催されたため、今度の会議は東京近辺が好ましいとの意見から、開
催場所は独立行政法人理化学研究所になりました。「理化学研究所」の名は広く知られている
と思いますが、実際に研究所まで足を運んだことがある研究者は意外と少ないのが現実です。
そこで、理化学研究所に勤める者としては、これを機会に理化学研究所のことを知っていただ
きたいという願いもありました。
6 月 23 日(月)午後から 3 日間にわたっ
て開催された会議には、計画班 34 名、公募
班 23 名の特定領域研究のメンバー、評価委
員4名、学術調査官 1 名の他、メンバーが所
属する研究室の室員をはじめとするメンバ
ー外の参加者 36 名も加わり、総勢 98 名が参
加しました。今回の会議は計画班から 19 件、
公募班から 17 件の口頭発表のみとしました。
計画班では各班から 2~3 名に19年度の研
究成果と研究の現状を報告していただき、新たに加わった公募班の方々には、特定領域研究と
しては初顔合わせでしたので、代表者すべての方に研究の進捗状況と今後の方針について講演
していただきました。
各講演を聴いて、「フラストレーション」の研究といってもその対象が多岐にわたる本特定
領域において、公募班として新たに実験・理論の研究者が加わったことで、さらに研究対象に
広がりを感じました。今まで「フラストレーション」と関連して考えてこなかった事象にも、
フラストレーションの概念を導入することで、今後の進展が期待できそうです。
会議 2 日目夜に開催された懇親会には 74 名が参加しました。世話人が予想した以上に、参
加者の食欲は旺盛で、また、舌を滑らかにするために多くのアルコールが必要だったようです。
しかし、研究を進めていく上で、気軽に議論
ができる懇親会の意義は非常に高かったと
思います。たった 2 時間の懇親会でしたが、
あちらこちらで新たな共同研究が芽生えた
ようです。また、「理化学研究所」について
も造詣を深めていただけたことと思います。
今後、計画班、公募班が共に有機的に交流
することで、新たな「フラストレーション」
研究の道が開かれることを期待します。
(H. K.)
特定領域研究「フラストレーションが創る新しい物性」平成 20 年度立ち上げ全体会議プログラム
2008 年 6 月 23 日~25 日
(独)理化学研究所 鈴木梅太郎記念ホール
6 月 23 日(月)
セッション1(座長:上田 和夫)
13:30 ~ 13:40 川村 光(大阪大学 大学院理学研究科)
はじめに
13:40 ~ 14:05 廣井 善二(東京大学 物性研究所)
スピン 1/2 カゴメ格子の基底状態
14:05 ~ 14:30 小山田 明(京都大学 大学院人間・環境学研究科)
f電子系フラストレーション物質におけるスピンダイナミクス
14:30 ~ 14:55 石川 文洋(新潟大学 大学院自然科学研究科)
CuO ジグザグチェーンにおける超伝導と圧力効果
14:55 ~ 15:20 遠山 貴巳(京都大学 基礎物理学研究所)
フラストレートした強相関電子系の電荷ダイナミクス
15:20 ~ 15:45 飛田 和男(埼玉大学 理工学研究科)
フラストレートした側鎖のある混合スピン系における非コリニア
フェリ磁性と特異な非磁性相
15:45 ~
16:00
1
2
3
4
5
coffee break
セッション2(座長:常次 宏一)
16:00 ~ 16:25 太田 仁(神戸大学 分子フォトサイエンス研究センター)
S=1/2 カゴメ格子反強磁性体とその関連物質の強磁場 ESR
16:25 ~ 16:50 石田 憲二(京都大学 理学研究科)
三角格子磁性体 NiGa2S4 の低温磁気状態
16:50 ~ 17:15 益田 隆嗣(横浜市立大学 国際総合科学研究科)
酸素吸着磁性体の中性子散乱
17:15 ~ 17:40 初貝 安弘(筑波大学 数理物質科学研究科)
フラストレーションとトポロジカル秩序
6
7
8
9
6 月 24 日(火)
セッション3(座長:川村 光)
9:30 ~
9:55 田口 康二郎(独立行政法人理化学研究所)
ヘキサフェライトにおけるらせん磁気構造によって誘起される
誘電分極
9:55 ~ 10:20 小野田 繁樹(独立行政法人理化学研究所)
スピン・フラストレーションと(反)強誘電スピン液体・液晶
10:20 ~ 10:45 有馬 孝尚(東北大学 多元物質科学研究所)
磁性強誘電体におけるスピンカイラリティの制御
10:45 ~
11:00
10
11
12
coffee break
セッション4(座長:松浦 基浩)
11:00 ~ 11:25 花咲 徳亮(岡山大学 理学部)
2 次元 3 角格子系 RFe2O4 におけるドープ効果
13
11:25 ~
11:50
11:50 ~
12:15
12:15 ~
12:40
12:40 ~
13:40
石原 純夫(東北大学 大学院理学研究科)
蜂の巣格子上の二重縮退軌道模型の軌道状態
-新規な誘電体 LuFe2O4 の軌道状態として-
大和田 謙二(独立行政法人日本原子力研究開発機構)
Pb(In1/2Nb1/2)O3 における B サイトランダムネスと強誘電不安定性
富田 裕介(東京大学 物性研究所)
Pb(In1/2Nb1/2)O3 のトイモデル
16:00
20:00
16
17
18
19
20
21
coffee break
セッション6(座長:高山 一)
16:00 ~ 16:25 川村 光(大阪大学 大学院理学研究科)
フラストレート磁性とスピン−カイラリティ分離
16:25 ~ 16:50 谷口 年史(大阪大学 大学院理学研究科)
異常ホール効果測定から見たスピングラス転移の臨界現象
16:50 ~ 17:15 古川 裕次(北海道大学 理学研究院)
反強磁性三角スピン結合系の磁気状態
17:15 ~ 17:40 細越 裕子(大阪府立大学 理学研究科)
有機ラジカルによる幾何学的フラストレート磁性体の構築
18:00 ~
15
lunch
セッション5(座長:有馬 孝尚)
13:40 ~ 14:05 高木 英典(独立行政法人理化学研究所)
三角格子化合物 LiVS2 における擬ギャップ物理
14:05 ~ 14:30 求 幸年(東京大学 大学院工学系研究科)
三角格子系 LiVO2 における三量体化の起源
14:30 ~ 14:55 勝藤 拓郎(早稲田大学 理工学術院)
カゴメ格子 V 酸化物の物性と軌道自由度
14:55 ~ 15:20 小野瀬 佳文(東京大学 大学院工学系研究科)
光、熱で見た異常ホール効果
15:20 ~ 15:45 木村 剛(大阪大学 基礎工学研究科)
強磁性−強誘電相境界近傍での電気磁気特性の履歴現象
15:45 ~
14
懇親会(広沢クラブ
22
23
24
25
2階、会議室)
6 月 25 日(水)
セッション7(座長:前川 覚)
9:30 ~
9:55 松平 和之(九州工業大学 工学部)
パイロクロア酸化物におけるスピン凍結現象
9:55 ~ 10:20 中辻 知(東京大学 物性研究所)
三角格子とパイロクロア格子上でのフラストレート磁性と伝導特性
10:20 ~ 10:45 中澤 康浩(大阪大学 大学院理学研究科)
分子性三角格子 Mott 絶縁体の極低温熱容量
10:45 ~ 11:10 藤山 茂樹(独立行政法人理化学研究所)
高輝度放射光で見た 5d 遷移金属酸化物の短距離磁気相関
11:10 ~
11:25
coffee break
26
27
28
29
セッション8(座長:陰山 洋)
11:25 ~ 11:50 鄭 旭光(佐賀大学 理工学部)
水酸塩化物 M2(OH)3Cl シリーズの新奇フラストレーション磁性
11:50 ~ 12:15 河野 昌仙(独立行政法人物質・材料研究機構)
空間的異方性のあるフラストレートした反強磁性体におけるスピノン
12:15 ~ 12:40 紺谷 浩(名古屋大学 理学研究科)
遷移金属における内因性ホール効果の理論:軌道自由度の重要性
12:40 ~
13:40
30
31
32
lunch
セッション9(座長:廣田 和馬)
13:40 ~ 14:05 十倉 好紀(東京大学 大学院工学系研究科)
フラストレート系の動的電気磁気効果
14:05 ~ 14:30 野田 幸男(東北大学 多元物質科学研究所)
RMn2O5 の強誘電・反強磁性相転移 -新しい展開の可能性-
14:30 ~ 14:55 陰山 洋(京都大学 大学院理学研究科)
フラストレート物質開発と展望
14:55 ~ 15:20 加倉井 和久(独立行政法人日本原子力研究開発機構)
フラストレーション研究における中性子利用
15:20 ~ 15:30 川村 光(大阪大学 大学院理学研究科)
おわりに
講演時間:25 分(質疑応答 5 分を含む)
33
34
35
36
研究紹介
核磁気共鳴実験(NMR)とミュオンスピン緩和から見た
二次元三角格子磁性体 NiGa2S4 の低エネルギー磁気励起
公募研究「二次元三角格子物質の低エネルギー磁気励起」
京都大学大学院理学研究科
石田憲二
フラストレーションをもつ磁性体の NMR 研究は古くよりなされてきていたが、近
年再び活発な研究がなされている。最近発見され注目されている S = 1 の三角格
子磁性体 NiGa2S4 で行った NMR、μSR 実験から考えられる低温の磁気状態を紹介し、
他の三角格子との共通点も指摘したい。
S = 1 のスピンを持つ三角格子反強磁性体
NiGa2S4 は、隣接する S 層間は van der Waals
力で隔てられているため、理想的な二次元性
三角格子物質と考えられている。この物質で
は 80 K の Weiss 温度を持つが、中性子回折の
実験から 1.5K においても相関長が最近接 Ni
間の 7 倍しかなく長距離秩序は存在しないこ
と が 示 唆 さ れ た [1]。 ま た 比 熱 の 測 定 か ら
CM(磁気比熱)は 10 K 付近にピークを持ち、そ
の後 4K から 0.35K の間では温度の二乗に比
例する振る舞いが見られる。また CM が 7 T
まで磁場変化が見られないことから、新奇な
磁気状態が低温で実現していることが指摘さ
れた[1]。(NiGa2S4 の結晶構造や、比熱や Ga
核の 1/T1 の温度依存性はニュースレターVol.1
の中辻知氏の研究紹介を参考されたい。)
我々はこの NiGa2S4 の低温の磁気状態を Ga
核の核磁気共鳴(NMR)、核四重極共鳴(NQR)、
ミュオンスピン回転(μSR)を行い微視的な測
定から低温の磁気状態を調べた。特に、核ス
ピン-格子緩和率(1/T1)の測定から考えられる
Ni の局在モーメントの spin-dynamics に着目
した[2]。緩和率の測定から 80 K から CM がピ
ークを持つ 10 K 付近の広い温度域に渡って、
spin-dynamics の slowing-down が起こり、低温
図 1: NiGa2S4 における 1/T1 と横緩和 1/T2、
ミュオンスピン緩和率λの温度依存性。挿入
図は 1/T1 と 1/T2 をεに対して plot した図。
10K から 40K の広い温度域にわたって臨界
発散的な振る舞いが見られる。[2]
で磁気異常が起こっていることを示した
[2](図 1 参照)。
低温の磁気状態の特徴として、 スピン凍結
後 2 K 以下では Ga サイトに不均一な静的な
内部磁場が現れるものの、10 K から 2K の広
い温度域に渡って緩和率が短いために NQR
の信号が観測されなかった。これはスピン凍
結状態後もすぐに静的な状態になるのではな
く、MHz 程度の低エネルギーdynamics が存在
していると考えられる。このように NiGa2S4
研究紹介
で実現しているスピン凍結状態は、通常の磁
気転移やカノニカルなスピングラス転移とは
大きく異なる振る舞いである[2]。
緩和時間が短くなり NQR 信号が観測され
ない温度域 2-10K の spin-dynamics はμSR 実験
から詳細に調べられた[3]。μSR 実験から内部
磁場が発生する温度を調べたところ、Tf=8.5K
から現れることがわかった。また興味深いこ
とは、Tf 以下の十分低温でも大きな緩和率を
もち、この大きな緩和率は 0.1T 程度の弱い磁
場で抑制されることである。(図 2 参照)
こ
れらの実験結果は、Ni スピンは Tf 以下少なく
とも 2K までは準静的な状態に留まっており、
中性子実験から示唆される短距離相関という
結果とも矛盾しないと考えられる。ただ、こ
の磁場に敏感な低エネルギー磁気励起の存在
は、一見すると、磁場に対し robust な比熱の
T2 の振る舞いと矛盾していると考えられる。
内部磁場に特徴付けられる磁気異常の温度 Tf
が、CM のブロードなピークの温度(10K)と異
なることも考慮すれば、比熱は磁気励起以外
の自由度によって支配されていると考えられ
る。
今後低温で見られた Ni スピンの dynamics
や、比熱の温度依存性の起源の解明が望まれ
る。
今回 NiGa2S4 に対し Ga-NMR/NQR やμSR の
結果を報告したが、似たような振る舞いは他
の二次元三角格子物質 LiCrO2[4]や NaCrO2[5]
においても報告されている。例えば NaCrO2
では CM の異常が 40K で起こることが報告さ
れているが、内部磁場が現れる温度は 30K あ
たりからである。また、この物質においても
図 2:NiGa2S4 におけるミュオンの実験結果。(a)
ミュオンサイトの内部磁場の温度依存性、(b)緩
和率の温度依存性。Tf 以下緩和に 2 成分が見ら
れる[3]
公募研究期間では、様々な二次元三角格子
磁性体を研究し普遍的な振る舞いを見つけ、
その起源を考えていくつもりである。
本研究は、中辻知氏、南部雄亮氏、前野悦
輝氏、D.E.MacLaughlin 氏との共同実験である。
[1] S. Nakatsuji et al., Science 309, 1697 (2005).
[2] H. Takeya et al., Phys. Rev. B 77, 054429
(2008).
[3] D. E. MacLaughlin et al. unpublished
[4] L. K. Alexander et al. Phys. Rev. B 76,
064429 (2007).
[5] A. Olariu et al. Phys. Rev. Lett. 97, 197203
(2006).
広い温度域にわたる臨界発散的振る舞いが報
告されている。NiGa2S4 で見られた特異な振る
舞いは広く二次元三角格子磁性体に見られる
現象なのかも知れない。
石田憲二
京都大学大学院理学研究科
研究紹介
フラストレーションが引き起こすフェリ秩序
公募研究「フラストレーションに誘起された量子フェリ磁性の理論的研究」
埼玉大学大学院理工学研究科
飛田
和男
フラストレーションは秩序を壊すものと考えられがちだが、低次元量子スピン系
では逆にフェリ秩序を誘起することがある。その場合、通常の量子フェリ磁性と
異なり、自発磁化は飽和磁化の簡単な有理数倍とは限らない。ここではその一例
として、側鎖を持つ混合スピン系の研究を紹介し、厳密に取り扱える関連した模
型についても触れたい。
はじめに
低次元量子磁性体において、強い量子揺ら
トレート量子スピン模型における例は 2004
ぎのために実現する量子スピン液体状態は、
年に至って Ivanov と Richter[2]によって混合
単なる没個性の非磁性状態ではなく、量子的
スピン梯子模型において見いだされ、その後、
な揺らぎとして多様な構造をはらんでいる。
吉川・宮下[3]、飛田[4]らによりいくつかの例
このため、これらの状態は種々の摂動のもと
が見つかってきた。特に、[3,4]の例では、通
で多彩な秩序を生み出す。フラストレーショ
常秩序を破壊する役割を演ずると考えられる
ンによって引き起こされる量子部分フェリ磁
フラストレーションが、逆に磁気秩序を復活
性状態はその顕著な例である。
させている点が注目される。このような量子
量子部分フェリ磁性状態
部分フェリ磁性はフラストレート量子スピン
系での普遍的な現象と考えられ、今後、フラ
通常、bipartite な量子フェリ磁性体の磁化は
ストレート磁性研究の大きなテーマとなるこ
Lieb-Mattis の定理により定まり、飽和磁化の
とが期待できる。さらに、本特定領域のメン
簡単な有理数倍になる。しかし、フラストレ
バーの実験研究者と協力し、現在は理論的予
ーションが強い場合、自発磁化は系のパラメ
言にとどまっているこのようなフェリ磁性を
ータの変化と共に連続的に変化し、飽和磁化
現実に実現できればと思っている。
の簡単な有理数倍では表せない値をとること
がある。このような量子部分フェリ磁性は古
典的なイメージに基づき、非コリニア量子フ
フラストレートした側鎖のある混
合スピン鎖
ェリ磁性状態と呼ばれることもあるが、その
側鎖のある量子スピン系はこれまであまり
実現するパラメータ領域や非整合なスピン構
調べられていない。しかし、有限の長さの側
造は古典的には理解できず、本質的に量子性
鎖は、強い量子揺らぎをもち、これが主鎖の
とフラストレーションが競合して生み出され
秩序を破壊する可能性を持つ一方、側鎖の自
る状態である。
由度が主鎖において揺らいでいる自由度と結
こ の よ う な 状 態 は 1996 年 に Sachev と
Senthil [1]によって量子回転子模型において
始めて予言された。しかし、具体的なフラス
合して殺し、主鎖の秩序を誘起する可能性も
あり、多彩な効果が期待される。[5,6]
図に示すのはこのような系の中でも最も簡
研究紹介
τ2
τ1
k
τ3
のある混合スピン鎖に帰着する。このモデル
: S=1/2
k’
S1 1
: S=1
s1 j
S2
s2
s3
S3
の興味深いところは J1=J2、J3=J4 の場合、ス
ピン1の有限長ハイゼンベルグモデルの基底
状態を用いて、厳密に固有状態を構成するこ
とができる点である。この固有状態はフェリ
M/Ms
r=1.3 k=0.5 N=72
Lieb−Mattis
フェリ
0.4
磁性にはならないが、J1 と J2、J3 と J4 の間に
わずかに差を付けてやることによりフェリ磁
Haldane相
非磁性相
性状態を作ることができる。このようなフェ
リ磁性状態の理解から前節に述べた量子部分
0.2
量子部分フェリ
フェリ磁性の本質を理解する手がかりが得ら
れるかも知れない。
0
0
1
j
この模型はフェリ磁性以外にもパラメータ
フラストレートした側鎖のある1次元混合スピン
領域によっては無限回の相転移を経て常磁性
鎖とその自発磁化。
状態からスピン液体状態へ量子相転移するな
単なものであるが、基底状態としてスピンギ
ど極めて興味深い振舞いを示し、今後の研究
ャップ相、スピン4重極相などの非磁性相を
の展開が期待される。
含め極めて多様な基底状態を持つ。その中の
一つが、図に示したような自発磁化を持つ、
量子部分フェリ磁性状態である。系のパラメ
ータ j を変えることにより、非磁性相から
Lieb-Mattis 型のフェリ磁性相を経て、自発磁
化が連続的に減少する量子部分フェリ磁性相
に入り最終的に別種の非磁性相(ハルデン相)
に至る様子が分かる。
本研究は、豊田工業大学
高野健一氏との
共同研究である。
[1] S. Sachdev and T. Senthil, Ann. Phys. (N.Y.)
251, 76 (1996)
[2] N. B. Ivanov, and J. Richter, Phys. Rev. B
69, 214420 (2004)
[3] S. Yoshikawa and S. Miyashita, J. Phys. Soc.
Jpn. Suppl. 74, 71 (2005).
[4] K. Hida, J. Phys. Condens. Matter, 19,
混合スピンダイヤモンド鎖
これに関連したモデルとして、混合スピンダ
ヤモンド鎖についても研究を進めている。こ
145225 (2007).
[5] K. Takano and K. Hida : Phys. Rev. B 77,
134412 (2008).
[6] K. Hida and K. Takano : arXiv:0805.3604
のモデルは、J3=0 とおくと前項で述べた側鎖
J1
S
s1
J3
K
J2
J
s2 4
S=1 s1=s2=1/2
1次元混合スピンダイヤモンド鎖
氏名
所属
飛田和男
埼玉大学大学院理工学研究科
研究紹介
高温動作のスピン誘起型強誘電体としての銅酸化物
公募研究「磁気的競合を利用したリラクサー現象の探索」
大阪大学基礎工学研究科
木村
剛
ノンコリニアならせん磁気秩序が強誘電性を生み出すスピン誘起型強誘電体に
おいては、らせん磁性は主として磁気的フラストレーションに起因するため、キ
ュリー温度が 40K を越えることはほとんどない。本稿では、高温動作のスピン誘
起型強誘電体創成のための指針の一つを紹介する。
磁気秩序と強誘電秩序が一つの系で共存す
して磁気秩序温度が低く、それによって誘起
る物質は、磁性強誘電体と総称される。磁性
される強誘電転移温度も低い。ゆえにこれま
強誘電体においては、磁場による誘電性の制
でに報告されているらせん磁性誘起型の磁性
御や電場による磁性の制御など通常とは異な
強誘電体の多くは 40K 以下でしか動作してい
る物性制御が実現可能であることから、磁気
ない。
電気変換素子といった新規のデバイス構築が
これらの状況を踏まえ、高温で動作するス
期待され、その研究は近年急速な進展を見せ
ピン誘起型強誘電体を実現するための方策を
ている。磁性強誘電体の中でも、スピン秩序
物質設計の段階から検討した。その結果、磁
状態が強誘電秩序状態を誘起するような磁性
気的エネルギーに影響を与えるもう一つのパ
強誘電体(スピン誘起型強誘電体)では、そ
ラメータである交換相互作用 J に着目して、
の強い相互作用が時として巨大な電気磁気効
高温動作型のスピン誘起型強誘電体を創成す
果(磁場による電気分極の劇的な変化)を生
ることを思いついた[4]。巨大な交換相互作用
じさせる。この典型的な物質例が、磁気秩序
J を持つ物質の代表は低次元系銅(Cu2+)酸化
に伴う強誘電性および巨大な電気磁気効果が
物である。高温超伝導の研究分野ではよく知
観測される希土類金属ペロブスカイト型 M 酸
られたことであるが、2 次元的な Cu-O-Cu 面
化物 TbMnO3 である[1]。同物質の強誘電性に
を持つ La2CuO4 や YBa2Cu3O6 など銅酸化物超伝
対して、日米欧のいくつかの理論グループに
導体の母物質では面内の Cu スピン間の反強
よって「スピン配列自体が反転対称を破るノ
磁性相互作用 J は 0.1eV(~103K)以上と、他
ンコリニアならせん磁気秩序による強誘電」
の多くの反強磁性体のそれ(典型的には 10K
という新しいタイプの強誘電発現の機構が提
程度)に比べて非常に高いエネルギースケー
案され[2]、実際 TbMnO3 の強誘電相における
ルである。またこれらの銅酸化物では、3次
磁気秩序構造がらせん型であることが中性子
元的な長距離の磁気秩序温度も室温近くある
回折実験で確認された[3]。これらの研究に触
いは室温以上と比較的高温で磁気秩序が実現
発されて、ここ数年で新たなスピン誘起型強
している。これらの銅酸化物に構造的な歪み
誘電体が遷移金属酸化物セラミックスの中か
などを適宜導入することにより、磁気的なフ
ら続々と見つかってきている。しかしながら
ラストレーションを誘起させ、高温でらせん
多くのセラミックスらせん磁性体では、磁気
磁気秩序さらには電気磁気効果を実現するこ
的フラストレーションが内在することに起因
とが可能であると考えた。
研究紹介
200
or
b
a
c
図1. 酸化銅 CuO の結晶構造および
2
誘起される
分極の向き
電気分極 P//b (μC/m )
Electric Polarization (μC/m2)
Cu
O
100
0
-100
220K
-200
-200
強誘電相における磁気構造
このような指針に沿って物質探索・設計を
図2.
-100
0
100
Electric
Field
(kV/m)
電場 E//b (kV/m)
200
CuO 単結晶試料における 220K での
強誘電ヒステリシス曲線
進めた結果、最も単純な銅酸化物の一つであ
る CuO において大きな交換相互作用 J と適宜
な磁気的フラストレーションの両立すると予
測した。実際に過去の中性子線回折測定[5]
[1] T. Kimura et al. Nature 426, 55 (2003).
で、図1に示すようならせん磁気秩序が CuO
[2] H. Katsura et al., Phys. Rev. Lett. 95, 057205
においては 230K という高温で起こることが
(2005)など.
観測されている。そこで、実際に CuO 単結晶
[3] T. Arima et al., Phys. Rev. Lett. 96, 097202
試料を赤外集光加熱炉で育成、さらにその強
(2006).
誘電特性を測定した。その結果、CuO が強誘
[4] T. Kimura et al., Nature Mater. 7, 291 (2008).
電転移温度 230K という従来にない高温動作
[5] M. Ain et al., J. Phys. Condens. Matter 4,
のスピン誘起型の強誘電性を示すことを見出
5327 (1992).
した[4]。図2に 220K における強誘電性を決
定付ける P-E ヒステリシス曲線を示す。
この結果は、新しい高温動作磁性強誘電体
の発見およびその創成のための指針を与えた
という点で意義があると考えている。またこ
れらに加えて、ただ2種類の元素から構成さ
れる化合物における強誘電性の発現という点
でも希少な強誘電体の例を提示したと考えて
いる。本研究は、関尾佳弘、中村浩之、T.
Siegrist、A. P. Ramirez(敬称略)各氏との共
同研究によるものです。
木村
剛
大阪大学基礎工学研究科
研究紹介
遷移金属における内因性ホール効果:軌道自由度の重要性
公募研究「フラストレート系における輸送現象、特にホール効果の理論研究」
名古屋大学大学院理学研究科
紺谷浩
異常ホール効果やスピンホール効果などの内因性ホール効果は、遷移金属におい
て非常に大きな値をとります。その起源は、「d 軌道の位相因子」に由来する異常
速度であり,(半導体には見られない)多彩な内因性ホール効果が出現します。
また、軌道ホール流の概念が重要であることが示されます。
内因性ホール効果とは
異常ホール効果(AHE)は、多バンド構造やス
まず我々は 2 次元 Ru 酸化物 Sr2RuO4 の SHE
ピンカイラリティー秩序などを敏感に反映し、
を、t2g 軌道模型に基づき解析しました[2]。
通常の輸送係数には見られない興味深い特徴
そこでは伝導電子が d 軌道の位相因子に由来
を示します。不純物散乱に依存しない内因的
する Berry 位相を感じます。この位相因子は
AHE の理論は、1954 年に Karplus-Luttinger に
数学的には「Aharanov-Bohm 位相」と同等で
より提唱されました。その存在は長年疑問視
あるため、巨大な内因性ホール効果が出現す
されていましたが、我々は 1994 年に重い電子
ることを世界に先駆けて示しました[2]。
系の有効模型である周期的アンダーソン模型
に基づき、全ての散乱機構(自己エネルギー
補正とバーテックス補正)を考慮のうえで、
内因的 AHE の存在を証明しました[1]。
また近年では、AHE と類似の物理現象であ
るスピンホール効果(SHE:常磁性金属におい
て電場と垂直方向にスピン流が誘起される現
象)が脚光を浴び、盛んに研究されています。
当初の研究の舞台は半導体でしたが、Pt が半
導体より桁はずれに大きな SHE を示すこと
が実験的に示され、遷移金属特有の機構が
図1:
SHE に働いていることが考えられました。
ホール伝導度(SHC)および軌道ホール伝
4d, 5d 遷移金属に対するスピン
導度(OHC)の計算結果。
強束縛模型に基づく研究
そこで我々は,遷移金属特有の電子状態を
次いで我々は、14 種類の 4d、5d 遷移金属を
現実的 9 軌道模型に基づき網羅的に解析し、
取り入れるため,多軌道の tight-binding(TB)
遷移金属で巨大スピンホール効果が普遍的に
近似と原子 LS 結合項を採用し,久保公式を
実現することを見出しました[3]。その起源は、
用いて内因性ホール効果の研究を行いました。
Sr2RuO4 同様「d 軌道の位相因子に由来する
Aharonov-Bohm 位相」でした。同時に軌道ホ
研究紹介
ール効果(OHE)の計算も行ないました。軌
回転運動で電子は正の Aharonov-Bohm 位相
道ホール効果とは,印加された電場に垂直な
Lθを獲得します。つまり d 電子には lz の符号
方向に軌道角運動量が流れる現象です。d 軌
と一致する向きの有効磁場が働きます。この
道の場合には,軌道角運動量の z 成分
とき Ey>0 の外部電場をかけると、lz=±L の電
Lz = ±1, ±2 の流れが生じます。4d, 5d 遷移金
子は±x 方向にドリフト運動するはずです。
属に対する SHC と OHC の計算結果の一例を
これが遷移金属における正の巨大 OHE の起
図1に示します。
源であり、OHC は電子の有効質量等のパラメ
いくつかの顕著な特徴が観測されます。
ーターに依存しない普遍的な値をとることが
1)Pt の SHC は実験値と同じオーダーの大き
微視的計算によって示されます[4]。
な値を示す。
軌道流とスピン流は LS 結合で結びついて
2)SHC の符号が遷移金属の種類により変化
いるため,SHC はおおよそ OHC に LS 結合の
する。すなわち,Ph, Pd. Pt 等では正であるが,
平均値 R を掛けたものとなります。フント則
Nb, Mo 等では負の SHC となる。なお,Nb,
により d 軌道や f 軌道内の電子数が半分以下
Mo に対する最近の実験において,負の SHC
では L と S が反平行,半数以上では平行とな
が報告されている。
るため,LS 結合の符号が変ります。これが図
3)OHC は貴金属(Ag, Au)を除いて電子数,
1に示した SHC の符号変化の機構です[4]。
結晶構造に依存しない大きな値を示す。
このように、OHE による軌道流こそが遷移
金属の SHE, AHE の起源であることが明かに
なりました。今後,非平衡状態においえる軌
道流がどのような物理を生み出すか興味深い
ところです。
本研究は井上順一郎(名大工)、田中拓朗、
平島大(名大理)、山田耕作(立命館理工)各
氏との共同研究の成果です。ここに深く謝意
を表します。
[1] H. Kontani and K. Yamada: JPSJ 63 (1994)
図2:
lz=L の d 電子は、時計回りの回
2627.
転運動で「有効 AB 位相因子 eiLθ」を獲得
[2] H. Kontani et al., PRL 100, 96601 (2008)
する。この際、「フラストレート格子構造」
[3] T. Tanaka et al., PRB 165117 (2008)
が必須であることがわかる。
[4] H. Kontani et al. cond-mat/0806.0210
軌道ホール効果の重要性
これらの特徴を説明するため、我々は OHE
に着目しました。図 2 に遷移金属に対応する
周期的アンダーソン模型を示します。lz=±L
の d 軌道波動関数が角度φr に依存する位相因
子 exp(±iLφr)を持つため、任意の時計回りの
紺谷浩
名古屋大学理学研究
第二回トピカルミーティング
「フラストレーションとマルチフェロイクス」報告
2008 年 6 月 6 日(金)から 7 日(土)の二日間にわたり特定領域研究「フラストレ
ーションが創る新しい物性」の第二回トピカルミーティング「フラストレーションとマ
ルチフェロイクス」が、京都大学宇治地区木質ホールにて開催された。これは今年 1 月
に京大会館で開かれた第一回トピカルミーティング「フラストレート新規物質」に続く
ものであり、第一期公募研究採択後の始めての研究会となるものである。昨今のマルチ
フェロイクス流行において日本の研究グループは確実に世界の最先端を走っている。こ
れを“フラストレーション“からもう一度整理しなおすと同時に、今後何をすべきかを
あらためて考えるには適切な時期と規模の研究会であったと思う。
木材の良い香りの立ち込める木質ホールの 3 階にある会議室は、およそ 70 名の参加
者で初日のお昼過ぎには満員となった。研究会は川村領域代表の開会の挨拶から始まっ
た。本特定領域研究を採択させるにあたり、分野を横断したトピカルミーティングの重
要性を如何に強調したかという興味のある話をされた。二日間にわたるミーティングは
口頭発表 17 件に加えて、preview トークを含むポスター発表が 27 件である。実験 30
件、理論 14 件と程よくバランスが取れており、これを内容で分類すると、(1)らせんス
ピン系マルチフェロイクス 24 件、(2)電子型強誘電体 6 件、(3) ビスマス・フェライト
型 3 件などとなる。個々の講演内容についてこの場では触れることはできないが、個人
的な感想を二つほど。物理学会の複数の領域を横断した研究者が交わることで幾つもの
刺激的な議論がなされたことは、このような大きな特定領域研究ならではの御利益であ
ろう。他方、同じ問題に対して 180 度異なった発想からの発表が見受けられたが、い
まさらながらではあるが領域の違いによる“文化”の違いに少々驚いた。二つ目は 30
年、40 年前の研究(特にわが国の)の引用が目立ち、やや復古的な雰囲気を感じた。
この時代の先駆的な研究に敬意を払うと同時に、今回のミーティングで中心的な役割を
果たした 30 歳台の若い研究者がこれを踏まえながら新しい物理を展開していくのは拝
見していて頼もしくもあった。
今後毎年数回程度の割合でトピカルミーティングが開催される予定である。公募研究
者も本格的に加わることで広範囲な研究
発表がなされることが期待され今から楽
しみである。今回運営を手伝わせていた
だいて最も感じたのは、トピカルミーテ
ィングにおいて参加者も発表内容もあま
り“トピカル”にしすぎないことが、新
しい発想や共同研究を生む上で重要では
ないかということである。
(S.I.)
第2回トピカルミーティング「フラストレーションとマルチフェロイクス」 プログラム
2008 年 6 月 6 日~7 日
京都大学 宇治キャンパス 木質ホール
6月6日(金)
開会の挨拶
13:30 ~
13:45
川村 光 (大阪大学 理学研究科)
~特定領域「フラストレーション」が「マルチフェロイクス」に期待すること
セッション1 (座長:石原 純夫)
13:50 ~ 14:10 山崎 裕一 (東京大学 工学系研究科)
(Gd,Tb)MnO3 の強誘電相における磁気構造
14:15 ~ 14:35 望月 維人 (科学技術振興機構 ERATO マルチフェロイックス)
マルチフェロイック Mn ペロフスカイトにおけるフラストレーションと
磁気-電気相図の理論
14:40 ~ 15:00 佐藤 正寛 (理化学研究所 基幹研究所)
1 次元スピン 1/2 マルチフェロイクスにおけるカイラリティの長距離秩序と
ギャップレス励起
15:05 ~ 15:25 小野田 繁樹 (理化学研究所 基幹研究所)
磁気電気結合の微視的理論と、強誘電スピン液体の展望
セッション2 (座長:小野田 繁樹)
15:30 ~ 16:00 ポスタープレビュー
16:00 ~ 17:00 ポスターセッション
セッション3 (座長:野田 幸男)
17:00 ~ 17:20 賀川 史敬 (科学技術振興機構 ERATO マルチフェロイックス)
DyMnO3 における巨大磁気誘電の誘電分散
17:25 ~ 17:45 貴田 徳明 (科学技術振興機構 ERATO マルチフェロイックス)
磁性強誘電体における光で駆動されるスピン励起の全貌
17:50 ~ 18:10 宮原 慎 (科学技術振興機構 ERATO マルチフェロイックス)
フラストレートらせん磁性強誘電体における光吸収理論
18:15 ~ 18:35 桃井 勉 (理化学研究所 基幹研究所)
スピン 1/2 ジグザグ鎖(辺共有1次元鎖)における磁場中の磁性
懇親会
18:50 ~
21:00
6 月 7 日(土)
セッション4 (座長:森 茂生)
9:30 ~
9:50 中村 統太 (芝浦工業大学 工学部)
スピン格子結合系 RbCoBr3 の逐次相転移
9:55 ~ 10:15 市川 能也 (京都大学 化学研究所)
Bi ペロブスカイト酸化物超格子における磁気・誘電性
10:20 ~ 10:40 永沼 博 (東北大学 工学研究科)
BiFeO3-BiCoO3 固溶体薄膜における MPB-ME 効果の可能性について
Coffee Break
10:45 ~
11:10
セッション5 (座長:有馬 孝尚)
11:10 ~ 11:30 石原 純夫 (東北大学 理学研究科)
層状鉄酸化物の磁気誘電性と電荷・スピン・軌道状態
11:35 ~ 11:55 加倉井和久 (日本原子力研究開発機構 量子ビーム応用研究部門)
積層三角格子物質 LuFe2O4 の磁場中基底状態
12:00 ~ 12:20 岸根 順一郎 (九州工業大学 基礎科学研究系)
カイラル磁性体におけるスピンカレント
セッション6
13:30 ~
14:30
ポスターセッション
セッション7 (座長:田口 康二郎)
14:30 ~ 14:50 村川 寛 (科学技術振興機構 ERATO マルチフェロイックス)
Control of electric polarization with rotating magnetic field
in helimagnet ZnCr2Se4
14:55 ~ 15:15 三田村 裕幸 (東京大学 物性研究所)
MnWO4 のパルス強磁場中分極測定
15:20 ~ 15:40 有馬 孝尚 (東北大学 多元物質科学研究所)
多重強秩序性で期待されること
閉会の挨拶
15:45 ~
15:50
川村 光 (大阪大学 大学院理学研究科)
ポスター発表
発表番号
タイトル
氏名
マルチフェロイック物質HoMn2O5の圧力誘起磁気転
木村宏之
移と強誘電性
D-Eヒステリシス二重波法によるRMn2O5の強誘電性
福永守
の測定
東北大多元
P-3
MnWO4の自発電気分極とスピンカイラリティの相関
佐賀山基
東北大多元
P-4
マルチフェロイック物質Ba2Mg2Fe12O22における低磁
場強誘電性制御
谷口耕治
東北大多元
P-5
斜方晶RMnO3における磁場方位走査
阿部伸行
東北大多元
満田節生
東京理科大理
赤木暢
上智大理工
石渡晋太郎
理研基幹研
古川俊輔
理研基幹研
左右田稔
阪大理
筒井蕗
九工大工
森茂生
大阪府大工
那須譲治
東北大理
妹尾仁嗣
日本原研放射光
尾崎友厚
大阪府大工
岡研吾
京大化研
齊藤高志
京大化研
丸山勲
東大工
齋藤充
東北大多元
P-1
P-2
P-6
P-7
P-8
P-9
P-10
P-11
P-12
P-13
P-14
P-15
P-16
P-17
P-18
P-19
P-20
プロパーヘリカル磁気秩序により誘起される電気分
極に固有な格子変調
Eu0.8Y0.2MnO3における弱強磁性強誘電状態の電場
磁場制御
らせん磁性誘起強誘電分極を示すヘキサフェライト
の研究
一次元スピン1/2マルチフェロイクスにおけるカイラリ
ティと量子効果
CuFeO2における誘電率のリラクサー的振舞いと散漫
散乱
ITO中に分散したInFe2O4微粒子の磁気的・電気的特
性
三角格子鉄複合化合物YFe2O4における誘電特性と
電荷秩序構造
蜂の巣格子上の新奇な軌道状態とフラストレーション
~マルチフェロイック物質RFe2O4の軌道状態~
分子性導体DI-DCNQI2Agにおける電荷格子秩序と
誘電性
BiFeO3-BaTiO3化合物における磁気誘電特性とドメイ
ン構造
PbTiO3型ペロブスカイトPbVO3のフラストレート磁性
NiペロブスカイトおよびFeペロブスカイトにおける反転
対称性の検証
四体交換相互作用を持つスピンラダーの量子化ベ
リー位相
CuB2O4の磁場によるキラリティー制御と巨大磁気カ
イラル効果
Nature of the ordering of the three-dimensional
Heisenberg spin glass
所属
東北大多元
Dao Xuan Viet 阪大理
P-21
スピン・軌道秩序系における希釈効果と磁気構造
田中孝佳
東大物性研
P-22
カイラルGLモデルの数値シミュレーション
大久保毅
阪大理
P-23
熱伝導,比熱,磁化からみたPb2V3O9単結晶におけ
るトリプロンのボーズ・アインシュタイン凝縮相転移
川股隆行
理研中間子
P-24
マルチフェロイックMnWO4における第2高調波測定
鈴木健士
早大理工
P-25
(Eu,Y)MnO3の強磁場物性
徳永将史
東大物性研
P-26
マルチフェロイック物質CuFe1−yGayO2の磁気誘電特性 寺田典樹
物材機構中性子
P-27
三角格子反強磁性体CuCrO2における磁気特性と誘
木村健太
電特性
阪大基礎工
トピックス
パルス強磁場中で MnWO4 の誘電分極を測る
東京大学物性研究所
三田村裕幸
近年、磁性由来の強誘電性について興味が持たれています。この分野の研究で「超
伝導磁石では磁場が足りない!」と思うことがよくあります。典型物質 MnWO4 も
その一例です。そんな訳でパルス強磁場中で誘電分極を測ってみました。すると
意外な結果が...
multiferroics とは、磁気秩序と強誘電性ある
1種類でありその上軌道の自由度も持たない
いは強弾性が共存していることを言いますが、
ため、よく知られた RMnO3(R = Tb, Dy and Gd)
その中で磁性由来の強誘電性がとりわけ注目
に比べ非常にシンプルな系です。5 K で磁化
を 集 め て い ま す 。 こ の 代 表 例 は inverse
容易軸(x 軸)に磁場をかけると AF1, AF2, HF
Dzyaloshinskii-Moriya 機構によるものです。こ
の3つの磁気相が順に現れることが知られて
れは、2つの磁性イオンの間に ligand がある
います。このうち AF2 相だけが b 軸方向に自
場合、磁気モーメントが揃っていないと ligand
発分極(強誘電性)を示します。また AF2 相
が移動した方が Dzyaloshinskii-Moriya 相互作
の 磁 気 構 造 は helical で か つ inverse
用のエネルギーを得して安定になる場合があ
Dzyaloshinskii-Moriya 機構の発現条件を満た
り、負電荷を持ったものが移動するので分極
しています。この場合、分極の極性はスピン
が現れる原因になります。このとき2つの磁
の helicity に起因すると考えられます。
気モーメントが互いにキャントする原因は何
当初は HF 相の分極を調べる予定でしたが、
でもよいのですが、その中で幾何学的スピン
フラストレーションは最有力な候補です。
MnWO4 について
マンガン重石 MnWO4 は単斜晶(図1参照)
で、Mn2+ (3d5, S = 5/2, L = 0)が磁性を担ってい
てこれが c 軸方向に zigzag chain を形成してお
り、第2近接相互作用まで考えると幾何学的
スピンフラストレーションが期待できます。
図2.焦電法による誘電分極の測定回路。試料の内部
この物質は、磁性イオンが1種類でサイトも
に分極が発生すると試料の表面に電荷が現れます。試
料の両端に電極を作っておき電気的に結線してやる
と表面の電荷を打ち消すように電流 I が流れます。こ
の閉回路の中に抵抗 Rs を入れておけば電位差 IRs が発
生し、流れた電流をモニターする事ができます。これ
を時間で積分すると試料の表面に現れた電荷の絶対
値が判り分極の大きさを知る事ができます。
図1.MnWO4 が載ったペルーの切手。撮影は筆者。
H. Mitamura et al., JPSJ 76(2007)094709.
トピックス
これは東北大の谷口さんによる 14.5 T までの
300
MnWO4
B || x
4.2 K
AF1
100
分極測定で自発分極がないことが既に確認さ
200
れています。しかしこの磁場では予想飽和磁
ていないので、まだまだ高磁場側に何かあり
そうです。
パルス磁場中での誘電分極測定
より強い磁場を比較的簡単に得るには非破
P[μC/m2]
気モーメント(5μB)の 1/5 程度の磁化しか出
c c*
z
x(easy)
a*
b,b*,y
a
HF
AF2
0
IV
V
E || b*
0
E || b*
0
E || a*
0
E || c*
壊型パルス磁石が便利です。私が使っている
0
のは東京大学物性研究所国際超強磁場科学研
10
20
30
B [T]
40
50
60
究施設にある磁石で、10 msec の間に 0 T から
52 T まで往って帰って来ることができます。
この磁場発生方法を使って誘電分極を測定
する訳ですが、具体的には焦電法を使います。
詳細は図2の通りです。発生する焦電電流 I
は I=S•dP/dt=S•(dP/dB)(dB/dt)と書けます(S:
試料の表面積, P;分極, B;磁束密度)
。パルス磁
場では dB/dt が非常に大きいため I が大きくな
るので、積算時間の短さを補い高感度の測定
を実現します。そういった訳でこの測定はパ
ルス磁場に向いていると言えます。
測定結果と考察
4.2 K での測定結果を図3にまとめてみま
した。これを見ると dominant に分極が発生し
ているのは b*軸方向だけであることが判りま
す。
この実験では、従来知られていた AF1, AF2,
HF の上に2つの相(仮称 IV, V)があること
図3.MnWO4 の 4.2 K の置けるパルス磁場中の誘電分
極測定の結果。inset は試料の結晶軸。
ます。ということは「V 相を経験した後 IV 相
に戻る際の分極の極性はその時の電場の向き
で決まる」ということを意味しています。こ
れはごく自然なことです。従って問題の本質
は「なぜ AF2 相と IV 相の分極の向きはいつ
も逆なのか?」ということに集約されます。
この理由を説明するシナリオについては近い
将来公開される拙論文に御期待下さい。
まとめ
このようにパルス磁場中の分極測定技術は
従来の定常磁場によるものに比べ格段に広い
磁場範囲をカバー出来るようになりました。
これは今後 multiferroics を研究する上で強力
な手段になるのではないかと期待しています。
が新たに明らかになりました。とりわけ往路
の IV 相では加えた電場と逆向きの分極が現
れます。また V 相では自発分極を持たないこ
とが判りました。IV 相までの磁場の往復(赤
い線)では、往路と復路の分極の極性は変わ
りませんが、V 相までの磁場の往復(青い線)
では、往路と復路の分極の極性は互いに反対
になります。
では復路だけ電場を反転するとどうなるで
しょうか。答えは往路と復路の極性が一致し
氏名
e-mail
三田村裕幸、
所属
東京大学物性研究所
[email protected]
トピックス
らせん磁性体における光吸収理論
ERATO-MF JSTA、青山学院大学 B
宮原
慎 A、古川
信夫 A,B
近年、強い電気磁気効果を示すマルチフェロイックス物質が注目を集めている。
こうした物質群では、その強い電気磁気効果のため光学的手法を用いた磁性体の
研究が有効となることが期待される。ここでは、理論的な立場より光吸収過程に
おいて、光の電場成分によって誘起される磁気励起について述べる。
近年、強い電気磁気効果を示すマルチフェ
によって誘起されることが知られており[4]、
ロイックス物質が発見され、実験、理論両面
TbMnO3 や GdMnO3 ではらせん面に垂直な電場
より注目を集めている. 特に注目を集める物
成分をもつ光による光吸収が観測されている。
質として RMnO3 (R = Tb、Dy、Gd、etc.)とい
しかし、RMnO3 系の光吸収スペクトルは、1
った物質群があり、精力的に研究がなされて
マグノンの吸収過程と考えることでは説明で
いる[1]。これらの物質群に共通することは、
きないことが、その後の一連の実験により明
スピン間相互作用のフラストレーションによ
らかとなってきた。主な未解決の性質は以下
りらせん磁性の基底状態が実現しており、基
の 2 点となる。(i) 選択則: 強い吸収は、R
底状態のらせん磁性スピン状態に強く依存し
サイトイオン、温度、外部磁場、スピンの向
た強誘電性が実現している点にある。こうし
きによらず E∥a の条件下で観測されている。
たスピンに依存した分極は、スピン流を考え
例えば、ゼロ磁場最低温度での分極の向きは
ることで理解でき、2 サイト間の分極は P ∝
R サイトイオンに依存しており、TbMnO3 、
eij×(Si×Sj)の式で表されることが知られて
GdMnO3 、DyMnO3 といった物質群では P∥c、
いる[2]。ここで、i、j はスピンサイトの位
EuxY1-xMnO3 では P∥a であることが知られて
置を表し、eij はスピン間を結ぶ単位ベクトル
いるが、光吸収は分極の向きによらず、E∥a
である。式より明らかなように、こうしたス
で最大となる。(ii) 吸収スペクトルの幅: マ
ピン状態に依存した分極の向きはスピンの向
グノンの分散のオーダーのエネルギー領域に
きに強く依存しており、外部磁場を印加し、
広がっている。
らせん面の向きを変えることで、電気分極の
本トピックスでは、遠赤外領域の光吸収理
向きを制御することができる。このような電
論[5]に基づき、強誘電の起源である反対称ス
気分極反転が、実際に実験で観測されている。
ピン積 Si×Sj に依存する分極に加え、反強誘
最近、これらのマルチフェロイックス物質
電的に存在する可能性のある対称スピン積
において、THz 領域の光吸収実験が行なわれ、
Si・Sj に比例する 2 サイトスピン間の分極を
電場成分が誘起する磁気励起に伴う光吸収が
考える。これらの分極を通して誘起される磁
観測された。こうした励起は、エレクトロマ
気励起について述べる。
グノンと呼ばれる光の電場成分によって引き
話を簡単にするため、二次元古典スピンハ
起こされる1マグノン吸収だと考えられ、注
イゼンベルク模型を考える。強磁性相互作用
目を集めていた[3,4]。エレクトロマグノンは、
J1 と反強磁性相互作用 J2 のフラストレーシ
スピンのらせん面に垂直な電場成分をもつ光
ョンにより、J2 /|J1| > 0.5 でらせんの基底
トピックス
状態が実現する。スピン依存する分極として
図にあるような、反強誘電的な対称スピンに
比例する分極 Π と実験で観測されている強
誘電性の起源となっている反対称スピンに比
例する分極 d の 2 つのタイプの分極を考慮
する:
P = Ps + PA
二次元ハイゼンベルク模型。強磁性相互作
= ∑n.n.Πij (Si・Sj )+∑n.n.dijαβ(Si×Sj )β
用 J1 と反強磁性相互作用 J2 からなる。対称
スピン波の生成消滅演算子を用いてスピン依
スピンに比例する分極 Π。反対称スピンに比
存分極を書き表すと 1 マグノン励起による吸
例する分極 d。
収が反対称スピン積に比例する項 PA から, 2
マグノン励起による光吸収が PS と PA の両方の
的には特異な性質 (i) と (ii) を説明する
項から起こることが分かる。2 マグノン励起
ことが可能となることが分かる。
による吸収とは、波数ベクトルが反対向きの
第 2 回トピカルミーティングの講演では、
2 つのスピン波の同時発生、消滅にむすびつ
面間の交換相互作用は弱いものと仮定すると、
いた過程である。
スペクトルの形・強度ともに、適切なパラメ
PA から生じる 1 マグノン、2 マグノン、Ps か
ータを選ぶことで定量的にも実験と一致する
ら生じる 2 マグノン吸収の3つの吸収過程で
旨の報告をしたが、現実的な面間相互作用を
期待される選択側、分散の幅に関してまとめ
導入するとスペクトルの形が実験とは異なっ
る。(1) 1 マグノン過程。らせん面に垂直な
てくることが、その後の研究で明らかになっ
電場成分をもつ光によってのみ観測される。
た。定量性まで含めた、実験との比較を行う
デルタ関数的な鋭いピークを示すスペクトル
には、マグノン間の相互作用、スピン格子間
となることが期待される。(2) PA による 2 マ
相互作用などの効果を取り入れ、より詳細な
グノン過程。らせん面に垂直な電場成分と、
計算を行う必要があるようである。今後の更
らせん磁性によって生じた分極方向の電場成
なる発展が期待される。
分をもつ光によって観測される。光の方向に
[1] T. Kimura, Annu. Rev. Mater. Res. 37, 387 (2007).
よって、吸収強度の強いマグノン波数が異な
[2] H. Katsura, et al., Phys. Rev. Lett. 95, 057205 (2005).
るため、らせん面の向きが変わると吸収スペ
[3] A. Pimenov et al., Nat. Phys. 2, 97 (2006).
クトルの形も変化する。有限の波数をもつマ
[4] H. Katsura, et al., Phys. Rev. Lett. 98, 027203 (2007)
グノンの同時発生のため、スピン波の状態密
[5] Y. Tanabe et al., Phys. Rev. Lett. 15, 1023 (1965); T.
度に依存した幅の広い吸収曲線として観測さ
Moriya, J. Phys. Soc. Jpn. 21, 926 (1966); T. Moriya, J.
れる。(3) Psによる 2 マグノン過程。E∥a、E
Appl. Phys. 39, 1042 (1968).
∥b の電場成分をもつ光によってのみ吸収が
起こる。吸収スペクトルの形は、らせん面の
向きによらない。スピン波の状態密度を反映
した幅の広い吸収曲線となる。
以上 3 点の性質から考慮すると、一連の実
験で観測されている吸収は、 (3) の Psによる
2 マグノン過程によると考えることで、定性
氏名
所属
宮原
慎
ERATO-MF JST
トピックス
光で駆動されるスピン励起
ERATO 十倉マルチフェロイックスプロジェクト
貴田
徳明
最近、磁気強誘電性を示すペロブスカイト型マンガン酸化物において、光の電場
成分でマグノンが駆動出来る可能性が指摘されています。そのような電気マグノ
ンを探求する上で、初めて明らかとなった、テラヘルツ帯に広範囲に広がる光で
駆動されるスピン励起に関する我々の研究を紹介します。
近年、ペロブスカイト型マンガン酸化物
ティング@理研の場での某先生のプレゼンテ
RMnO3 (R = Tb、Dy、Gd、Eu1-xYx)において、
ーションでした。話が脱線してしまいました
強誘電性や、磁場印加に伴って電気分極(Ps)
が、この吸収帯は、ゼロ磁場で誘起される bc
のフロップが見出され、注目を浴びています
スパイラル面と垂直方向の光の電場成分、す
[1]。この強誘電性は、スピンのスパイラル面
なわち Eω||a で許容となる事が報告され [1]、
によって生じている事が理論的に予言され、
その起源としてスパイラル面の回転モードが、
実際、様々なグループによって、この理論に
上述のスピンカレントモデルに立脚した理論
矛盾のない実験結果が報告されています。一
を元に提案されました [3]。すなわち、光の
方、Pimenov 等は、TbMnO3 及び GdMnO3 にお
電場成分で、スピンのスパイラル面が振動し、
い て テ ラ ヘ ル ツ (THz) 領 域 (1THz ∼30cm-1
有限の周波数、しかも分光研究が最も立ち遅
∼4meV ∼300μm)に、複素誘電率の虚部が 2 程
れている THz 領域に振動モードが現れるとい
度の吸収帯を見出し、この吸収帯を、光の電
う事で、大変注目を浴びました。その後、Senff
場成分によって駆動されたスピン波の励起と
等によって、TbMnO3 の bc スパイラル相にお
して Electromagnon と名づけました [2]。日本
いて非弾性中性子散乱実験が行われ、この吸
語では、電気マグノンと称するのでしょうか。
収帯がスパイラル面の回転モードに由来する
因みに、私が電気マグノンの名称を初めて聞
電気マグノンであると結論づけられています
いて感動を覚えたのが、川村特定第三回ミー
[4]。
我々のグループでは、系統的に
RMnO3 において測定可能な 3 つ
DyMnO3
15
15
Tb0.3Gd0.7MnO3
の結晶面 (ac、ab、bc 面)を用い
て、計 6 通りの光の偏光選択則
Im[εμ]
7 K, 70 kOe
10
ω
E || a
10 K
5
10
(電場成分 Eω・磁場成分 Hω)を測
ω
E || a
定し、温度や磁場で誘起される
数々のスピン相における、光で
17 K
5
Im[εμ]
駆動されるスピン励起の全貌を
0
4
2
0
28 K
×10
Hω || a
14 K
0
2
4
6
8
Photon Energy (meV)
0
4
2
0
10 0
明らかにする事を目的に研究を
33 K
17 K
×10
2
4
6
進めています。このトピックス
Hω || a
8
Photon Energy (meV)
では、ゼロ磁場で bc スパイラル
10
相(Ps||c)が実現している DyMnO3
トピックス
[5] 及び ab スパイラル相 (Ps||a)が誘起される
に)Eω||a のみに許容で、コリニアー相から発
Tb0.3Gd0.7MnO3 を中心に、結果を述べたいと思
達する連続的なスピン励起が THz 帯に広がっ
います。
ている事を、初めて明らかにしました。上記
図に、一例として DyMnO3 における、Ps||c
の特徴は、上述のスパイラル面の回転モード
の bc スパイラル相 (T<19K)、コリニアー相
に由来する電気マグノンの可能性を否定しま
(19K<T<39K)の複素誘電率スペクトルの虚部
す。我々は、RMnO3 に現れている連続的なス
を示します。光の電場ベクトルを a 軸と平行
ペクトル形状の起源として、有限の k のマグ
にした時のみ、虚部が 10 にも及ぶ巨大な吸収
ノンの状態密度を反映した 2 マグノン吸収に
が現れます。この吸収帯は、1∼10meV の範囲
よる可能性を提案しています [5]。では、磁
にわたって、驚くべき事に、連続的なスペク
性強誘電体において、電気マグノンは存在し
トル形状を示しており、更に、コリニアー相
ているのでしょうか。このような問を自問し
においても有限の振動子強度を持っている事
ながら、ある物質で電気マグノンに由来する
が初めて明らかとなりました。 一方、光の磁
であろう弱磁場下における巨大な光学スペク
場ベクトルを a 軸に平行にした場合において
トル変化を最近見出しました。この結果はま
も同様のエネルギー位置に、ただし虚部が 0.4
た別の機会で述べたいと思います。
程度の、単一のローレンツィアンでフィット
ここで述べた内容は、何 金萍、金子 良夫、
出来る光の磁場成分で駆動される k = 0 のマ
山崎 祐一、池辺 洋平、高橋 陽太郎、島野 亮、
グノンの励起が現れます。では、この bc スパ
有馬 孝尚、永長 直人、十倉 好紀 各氏(敬
イラル相 (Ps||c)に磁場を印加して、ab スパイ
称略)との共同研究の成果です。文責は著者
ラル相 (Ps||a)を誘起した場合、どのような事
によるものですが、ここで述べた研究成果は
が期待されるでしょうか。この吸収帯が、上
プロジェクトに帰するものです。
述したスパイラル面の回転に起源を持つ電気
参考文献
ω
マグノンの場合、E ||a の偏光配置において、
[1] For recent reviews, Special issue of J. Phys.
振動子強度が抑制される事が期待されます。
Condens. Matter (in press).
結果は、7K において、b 軸方向に最大 70kOe
[2] A. Pimenov et al., Nat. Phys. 2, 97 (2006).
の磁場を印加しても (転移磁場は 20kOe 程度)、
[3] H. Katsura, et al., PRL 98, 027203 (2007).
この吸収帯の振動子強度はほとんど変化しま
[4] D. Senff et al., PRL 98, 137206 (2007).
せんでした (図)。
[5] N. Kida et al., E-print arXiv:0711.2733.
更に、我々は、ゼロ磁場で ab スパイラル相
(Ps||a 、 15K<T<25K) 及 び コ リ ニ ア ー 相
(25K<T<42K)が誘起される Tb0.3Gd0.7MnO3 の
偏光選択則に関する実験を行いました。この
Ps||a 相は、TbMnO3 の磁場中で誘起される Ps||a
相と同じく ab スパイラル構造であり、かつ、
b 軸方向の変調波数も同一である事が知られ
氏名
貴田
ています。結果は、DyMnO3 の bc スパイラル
所属
科学技術振興機構 (JST)・戦略的創
相と、強度の大小はあるものの、同様の偏光
造研究推進事業 (ERATO) ・十倉マルチフ
選択則を持つ事がわかりました (図)。このよ
ェロイクスプロジェクト
うに、我々は、(スパイラル面の方向に無関係
徳明
(きだ
のりあき)
トピックス
RbCoBr3 における磁気誘電同時転移
芝浦工大工
中村統太
RbCoBr3 は ABX3 型の磁性誘電体で、37K と 31K で磁気誘電同時相転移します。ス
ピン系と格子(誘電)系の適度な結合によって、他の物質では見られない特異な
振る舞いが観測されています。最近の中性子実験の結果をもとに簡単な理論を構
築し、モンテカルロ計算した結果について報告します。
はじめに
RbCoBr3 は層状三角格子上にイジングスピ
も室温から温度を下げていくと、副格子秩序
ンの Co が配置し、c面内の磁気フラストレ
が 0-0-0 から↑-↓-0 を経て↑-↑-↓へと逐次
ーションとc軸方向の擬一次元性によって特
転移することが知られている。これは層状三
徴づけられる。また、CoBr3 鎖がc軸方向に
角格子イジングスピン系でおきる逐次相転移
上下に動くことにより、誘電体としての性質
と同じ振る舞いなので、両系ともこのイジン
も併せ持つ。森下ら[1]の測定によって磁気誘
グ模型で記述することにする。
電同時転移が 37K 付近で起きることが発見さ
れ、またその後の研究[2]によって、
スピン格子相互作用については、「格子歪
みが起きると磁気交換相互作用がΔの割合で
1.
誘電転移後の分極の成長が緩やか
2.
磁気転移後の f(111)の成長も緩やか
3.
PD 相の温度領域が非常に狭い
の形の交換相互作用を c 面内のスピン間に対
4.
低温側のフェリ転移温度付近で誘電率
して仮定する。スピンと格子はこのΔの項を
が異常を示す
介して間接的に相互作用する。
減少する」という仮定をする。式に直すと、
Jij(1-Δ(σi-σj)2 )Si Sj
などの特徴的な振る舞いが観測されている。
この模型に登場するパラメータは全部で 7
我々は、この物質を定量的に説明しうる理
個。まず、c 軸方向と c 面内の第一第二近接
論模型を提案しモンテカルロ計算によって相
の計 3 方向の交換相互作用がスピン系と格子
互作用パラメータなどの同定を行った。
系の各々に対してあり、これと上記のスピン
この物質ではスピン格子相互作用が本質的
格子結合のΔがある。モンテカルロ法による
な役割をしていて、両者の相互相関によって
計算結果と実験結果が一致するようにこれら
二つの逐次転移の両方でスピン系と格子系が
のパラメータを決める。
同時相転移を起こすことがわかった。
モデル化
シミュレーションアルゴリズムも今回新た
に開発した。d 次元量子系と(d+1)次元古典系
の対応関係を使って、量子モンテカルロ法に
スピン系は S=±1/2 のイジングスピン、格
おける連続虚時間ループアルゴリズムを古典
子系はc軸方向の上下シフトをσ=±1/2 の擬
系に応用する。これにより c 軸方向の緩和は
スピンで表す。この 2 自由度が層状三角格子
1 ステップで実現する。計算効率は c 軸相互
の各点に配置している模型を考える。両系と
作用が大きいほど、低温になるほど上昇し、
トピックス
従来法に比べて約 1 万倍の高速化ができた。
となる。一方、格子系の相互作用はΔの値に
扱ったスピン数は最大で 4 億個。
よって異なる。たとえば、Δ=0.2 のときは、
格子系:Jc=73K, J1=-49K, J2=0.38K
計算結果
となる。
下図に決定された相互作用を用いた計算結
副格子オーダーを見ると、37K の転移にお
果[3]を示す。中性子と帯磁率の両方の実験を
いては、スピン転移と格子転移は同時におき
再現するのは スピン格子結合が存在する場
るとは限らないことがわかる。スピン転移温
合のみで、Δ=0.2 – 0.3 の間のときであった。
度は格子転移温度に依らないが、実現する秩
スピン系の相互作用はΔに依らず一意的に決
序状態は両者の大小関係によって決まる。
まり、
RbCoBr3 で観測された 37K の転移は偶然同時
スピン系:Jc=-97K, J1=-2.4K, J2=0.14K
一方、31K の転移ではスピン格子転移は常
×103
Neutron counts [/80s]
35
Experiment
30 (2/3 2/3 1)
Spin-Lattice
25
20
15 (1/3 1/3 1)
10
5
(a)
(1 1 1)
0
15
20
25
30
35
40
Temperature [K]
χ [×10-3 emu/mol]
転移であることがわかった。
に同時に起きる。スピンがフェリ状態に転移
するために、格子の対称性を変えるスピン誘
起の構造相転移であることもわかった。
格子の硬さを変えたり(加圧効果)、分極を出
やすくしたり(電場効果)したときの振る舞い
も調べた。RbCoBr3 の特徴的な振る舞いがこ
れらの摂動に対して非常に不安定で、従来の
ABX3 型物質に近い振る舞いが観察された。
15
14
13
12
11
10
9
8
7
6
しかし、低温側のスピン誘起構造相転移は弱
いながらも生き残るようである。
今後の課題としては、直接的な電場効果の
検証、スピンダイナミクスへの格子の影響解
Experiment
Spin-Lattice
(b)
0
20 40 60 80 100 120 140
Temperature [K]
明、相転移の臨界指数決定などがある。
[1] K. Morishita et al., Ferroelectrics 238, 105 (2000).
[2] Y. Nishiwaki et al., JPSJ 73, 2841 (2004);Y. Nishiwaki
et al., JPSJ 75, 094702 (2006); Y. Nishiwaki et al. submitted.
1
[3] T. Nakamura and Y. Nishiwaki, arXiv:0803.1710.
Msub
0.5
0
Spin
-0.5 Lattice
Spin
Lattice
-1
15
20
L
(J c=73K)
L
(J c=61K)
(c)
25
30
35
Temperature [K]
40
(a)中性子散乱実験結果との比較。(b)帯磁率実験との
比較。実験値の最大と最小にあうように規格化した。
(c)スピン系・格子系の副格子オーダー。Δ=0.2 の場
合(JLc=73K)とΔ=0.24(JLc=61K)の場合。
氏名
所属
中村統太(右)
芝浦工大工
発表論文のリスト
55. “Quantum spin liquid in the spin-1/2 triangular antiferromagnet EtMe3 Sb[Pd(dmit)2 ]2 ”,
T.Itou, A.Oyamada, S.Maegawa, M.Tamura and R.Kato: Phys. Rev. B 77(10), 104413/1-5
(2008).
56. “Temperature-dependent Raman scattering studies of the geometrically frustrated pyrochlores
Dy2 Ti2 O7 , Gd2 Ti2 O7 and Er2 Ti2 O7 ”, M.Maczka, J.Hanuza, K.Hermanowicz, A.F.Fuentes,
K.Matsuhira and Z.Hiroi: Journal of Raman Spectroscopy 39, 537-544 (2008).
57. “Ordering mechanism and spin fluctuations in a geometrically frustrated heavy-fermion antiferromagnet on the Kagome-like lattice CePdAl: 27 Al NMR study”, A.Oyamada, S.Maegawa,
M.Nishiyama, H.Kitazawa and Y.Isikawa: Phys. Rev. B 77(6), 064432/1-9 (2008).
58. “Nuclear magnetic relaxation of 133 Cs of distorted triangular antiferromagnet Cs2 CuBr4 ”,
Y. Fujii, H. Hashimoto, Y. Yasuda, H. Kikuchi, M. Chiba, S.Matsubara, M.Takigawa: J.
Magn. Magn. Mater. 310(2), e409-e411 (2007).
59. “Low temperature magnetism of gapless S=1 bond-alternating antiferromagnet studied by
NMR and μ SR”, H.Kikuchi, M.Chiba, Y.Fujii, Y. Yamamoto, W.Higemoto, K.Nishiyama:
J. Magn. Magn. Mater. 310(2), e400-e402 (2007).
60. “3) NMR study of spin ladder compound (CPA)2 CuBr4 ”, T. Sasaki, Y.Fujii, H.Kikuchi,
M.Chiba, Y. Yamamoto, H. Hori: J. Magn. Magn. Mater., 310(2), 1260-1262 (2007).
61. “Magnetic successive phase transitions of CuB2 O4 probed by 11 B-NMR technique”, Y. Yasuda, H. Nakamura, Y. Fujii, H. Kikuchi, M. Chiba, Y. Yamamoto, H. Hori, G. Petrakovskii,
M. Popov, L. Bezmaternikh: J. Magn. Magn. Mater., 310(2), 1392-1393 (2007).
62. “Commensurate and incommensurate phases of the distorted triangular antiferromagnet
Cs2 CuBr4 studied using 133 Cs NMR”, Y. Fujii, H. Hashimoto, Y. Yasuda, H. Kikuchi, M.
Chiba, S. Matsubara, M. Takigawa: J. Phys.: Condensed Matter, 19(14), 145237/1-5 (2007).
63. “11 B-NMR study of low-temperature phase transition in CuB2 O4 ”, Y. Yasuda, H. Nakamura,
Y. Fujii, H. Kikuchi, M. Chiba, Y. Yamamoto, H. Hori, G. Petrakovskii, M. Popov, L.
Bezmaternikh: J. Phys.: Condensed Matter, 19(14), 145277/1-5 (2007).
64. “Ordering of the pyrochlore Ising model with the long-range RKKY interaction”, Atsushige
Ikeda and Hikaru Kawamura: J. Phys. Soc. Jpn. 77, 073707/1-4 (2008).
65. “Phase Separation in La1−x Srx MnO3δ Nanocrystals Studied by Electron Spin Resonance”,
T. Tajiri, H. Deguchi, S. Kohiki, M. Mito, S. Takagi, M. Mitome, Y. Murakami, A. Kohno:
J. Phys. Soc. Jpn., Vol.77, No.7, 074715/1-6(2008).
66. “Step-wise responses in mesoscopic glassy systems: a mean field approach ”, Hajime Yoshino
and Tommaso Rizzo: Phys. Rev. B77, 104429/1-37 (2008).
67. “NMR Evidence for the Persistence of a Spin Superlattice Beyond the 1/8 Magnetization Plateau in SrCu2 (BO3 )2 ”, M. Takigawa, S. Matsubara, M. Horvatic, C. Berthier, H.
Kageyama, and Y. Ueda: Phys. Rev. Lett. 101(3), 037202/1-4 (2008).
68. “Spin-Ladder Iron Oxide: Sr3 Fe2 O5 ”, H. Kageyama, T. Watanabe, Y. Tsujimoto, A. Kitada,
Y. Sumida, K. Kanamori, K. Yoshimura, N. Hayashi, S. Muranaka, M. Takano, M. Ceretti,
W. Paulus, C. Ritter, and G. Andre: Angew. Chem. Int. Ed. 47(31), 5740-5745 (2008).
69. “Critical Properties of the Edge-Cubic Spin Model on a Square Lattice”, T. Surungan, N.
Kawashima and Y. Okabe: Phys. Rev. B 77(21), 214401/1-7 (2008).
70. “Exotic Finite-Temperature Phase Diagram for Weakly Coupled S = 1/2 XXZ Chain in
a Magnetic Field”, T. Suzuki, N. Kawashima, K. Okunishi: J. Phys. Soc. Jpn. 76(12),
123707-123710 (2007).
71. “Pressure-Enhanced Direct Exchange Couplings in Chromium Spinels”, H. Ueda and Y.
Ueda: Phys. Rev. B77(22), 224411/1-6 (2008).
72. “Successive Phase Transitions of LuBaCo4 O7 with Kagome and Triangular Lattices”, M.
Soda, T. Moyoshi, Y. Yasui, M. Sato and K. Kakurai: J. Phys. Soc. Jpn. 76(No.8) 084701/16 (2007) .
73. “On the Magnetic Symmetry of the Low Temperature Phase of ZnCr2 O4 ”, I. Kagomiya, Y.
Hata, D. Eto, H. Yanagihara, E. Kita, K. Nakajima, K. Kakurai, M. Nishi and K. Ohyama:
J. Phys. Soc. Jpn. 76(No.6) 064710/1-5 (2007) .
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お知らせ
◇ 6特定領域合同研究会「スピンが拓く物質科学の最前線」
共催:特定領域研究「異常量子物質」、「スーパークリーン」、「強磁場」、「スピン流」、
「配列ナノ空間」、
「フラストレート系」
日時:2008 年 11 月 29 日(土)−12 月 1 日(月)
場所:東京大学工学部武田ホール
組織委員長:秋光純(青山学院大学)
◇ 第3回トピカルミーティング「フラストレーションとスピン液体」
主催:特定領域研究「フラストレーションが創る新しい物性」
日時:2008 年 12 月 22 日(月)−23 日(火)
場所:神戸大学百年記念館
「スーパークリーン」特定領域との合同セッションあり
コンビーナ:太田仁(神戸大学分子フォトサイエンス研究センター)、前川覚(京都大
学人間・環境学研究科)、福山寛(東京大学理学研究科)、川村光(大阪大学理学研究科)
連絡先:太田仁([email protected])
◇ 「平成20年度成果報告会」
主催:特定領域研究「フラストレーションが創る新しい物性」
日時:2009 年 1 月 7 日(水)−9 日(金)
場所:東京大学物性研究所
連絡先:常次宏一([email protected])
◇ European-Japanese Joint Conference on Frustration in Condensed Matter
共催:特定領域研究「フラストレーションが創る新しい物性」
ヨーロッパ ESF フラストレーション・ネットワーク
日時:2009 年 5 月 12 日−15 日
場所:Ecole Normale Lyon, amphitheatre(フランス・リヨン)
組織委員長:Peter Holdsworth(ENL)、川村光(大阪大学理学研究科)
◇ 本年5月より当領域のホームページ(http://www.frustration.jp)の内容が一新され
ています。担当として従来からの廣田氏(大阪大学理学研究科)に加え、新たに松浦
直人氏(大阪大学理学研究科)に加わって頂いております。情報発信・収集にご活用
下さい。
◇ 本年6月より、大阪(京阪神)と東京でそれぞれ、月一回のペースで「フラストレー
ションセミナー」を始めました。フラストレーションに興味を持つ領域内外の研究者
がインフォーマルに集まり、互いに情報交換したり勉強したりする場として設けてい
ます。過去のセミナーの情報やこれからの予定は、領域ホームページの“トピカルミ
ーティング等”のところから御覧頂けます。皆様、御気軽に御参加下さい。
今年度からは17組の強力な助っ人(公募研究)が加わられ、6月には全体会議が開催され
ました。また、関東、関西では月例のセミナーもスタートし、川村
特定は今後ますます活性化いくものと期待されます。そんな折の
ニュースレター第三号発行の運びとなりました。
さて、物性科学は通常スモールサイエンスとして分類されて
いますが、最近はビッグサイエンスとしての意味合いが増してき
ています。1つには、加速器などの大規模施設の貢献があります。
J-PARCは今年5月に最初の中性子発生に成功したばかりです
が、川村特定終了までにはフラストレート物理に関する大きな成
果が挙がっているのではないでしょうか。もう1つのビッグサイエンスとしての側面は、グローバル
COE、世界研究拠点などに象徴される予算の肥大化です。業界を束ねた、なにかとてつもない
崇高な目標に対してどかんとお金をつけるやり方には賛
否両論あるかもしれませんが、それはともかく、個人的に
は成功はリーダー次第だと思っています。以前、斉藤軍
治先生(現名城大教授)をリーダーとするCOEプロジェク
トに関わったことがありますが、人と人、分野と分野の新
しい交流を精力的に推進されたので、特に若い人には
刺激的で、私もそれなりに新しいことをスタートできまし
た。
三角探しの旅.スイス・リギクルム(ヨーロッパ
特定領域研究は、研究の目的は明確ですが、ややも
山岳観光の走りとのこと)の三角点、右は京大
すると単なる仲良し集団の組織になりかねないといわれ
iCeMS の○野先生。(念のため、会議は山岳
ています。しかし、本特定はその心配は無用でしょう。こ
ホテルでありました。)
れは本特定が採用される前のことですが、川村代表から「私は研究に関して一匹狼である」とい
った類いのことを聞きました、これはカイラリティなど先駆的な理論を創られた代表ならではのお
言葉ですが、研究上の変なしがらみがないのでリーダーシップをとるにあたり公平で、思い切っ
て物事がいえるのではないかと勝手ながら想像しています。そんな代表の熱意に純粋に応えた
いといった気持ちは皆さんもお持ちかもしれません。
陰山 洋
特定領域研究「フラストレーションが創る新しい物性」
ニュースレター Vol.3
2008年8月発行
発行者
川村 光
編集担当
有馬 孝尚 (東北大学 多元物質科学研究所)
陰山 洋
編集協力
(大阪大学 大学院理学研究科)
(京都大学 大学院理学研究科)
宮嵜 史枝 (大阪大学 大学院理学研究科)
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