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インテリジェントソサエティを支える ネットワーク技術:WisReed

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インテリジェントソサエティを支える ネットワーク技術:WisReed
インテリジェントソサエティを支える
ネットワーク技術:WisReed
Network Technology Supporting Intelligent Society: WisReed
● 高橋勇治 ● 川島和也 ● 中谷勇太 ● 市川達也
あらまし
富士通は,クラウドを活用した社会
「インテリジェントソサエティ」の実現を通じて,
地球温暖化に対する省エネ施策や,災害に対する安全性の向上など,社会規模での課題
を解決することを目指している。実現のためには各種センサを密に配置し,エネルギー
使用量や河川水位・構造物の劣化などを正確かつタイムリにセンシングし,クラウドへ
集約する必要がある。しかし,膨大な量の設置が想定されるセンサをネットワーク化す
るインフラの構築・運用コストが課題であり,導入への足かせとなってきた。そこで富
士通では,自律的にネットワークを形成し,センシングデータの収集を容易にする技術
「WisReed
(ウィズリード)
」
を開発した。
本稿では,WisReedを開発した背景,および技術の特徴を説明するとともに,スマー
トメータへの導入事例と,拡大が期待される適用分野について紹介する。
Abstract
Fujitsu intends to achieve an Intelligent Society, which is one that makes use of
cloud computing, to provide solutions to social issues such as energy-saving measures
to counter global warming and improved safety against disasters. To that end, it is
necessary to densely deploy different types of sensors to provide data on areas such as
energy usage, river levels, and deterioration of structures in an accurate and timely
manner, so that that data can be aggregated in a cloud. One problem with this is the
cost of constructing and operating infrastructure for networking sensors, which are
expected to be provided in enormous numbers, and this has hindered the implementation
of the sensor network. Accordingly, Fujitsu has developed WisReed, technology for
autonomously forming a network to facilitate the collection of sensing data. This paper
describes the background of WisReed s development and its technological features, and
presents a case example of its adoption for smart metering and fields of its application,
which are expected to expand.
348
FUJITSU. 62, 3, p. 348-355(05, 2011)
インテリジェントソサエティを支えるネットワーク技術:WisReed
ま え が き
アドホックネットワーク
富士通では,クラウドサービスの領域を,従来
センサネットワーク実現のため,大量のセンサ
ICTの活用範囲であった基幹システムだけにとどま
をネットワーク化するには,従来の中央管理型ネッ
らず,社会システムまで拡大し,人々が安心して
トワークではコストと時間を浪費し効率的とは言
より快適に暮らせるインテリジェント・ソサエティ
えない。そこで現在研究が進んでいる技術がアド
の実現を長期的なビジョンとしている。
ホックネットワークである。アドホックとは「そ
例えば,インテリジェント・ソサエティでは,
の場限りの」という意味を持つラテン語であるが,
エネルギー使用量の情報をクラウドに収集・蓄積
ここで言うアドホックネットワークとは,複数の
し,きめ細かくエネルギーの利用状況を把握する
通信機器が基地局やアクセスポイントを介さず相
ことで,ムダを見つけ省エネ対策を講じることが
互に接続されたネットワークであり,詳細なネッ
できる。また,河川水位の変化や土砂崩れの予兆
トワーク設計を必要とせずに自律分散ネットワー
情報をクラウドに蓄積し,監視することで,危険
クを構成できる特徴を持っている。
を早期に察知し,安心安全な暮らしを実現できる。
研究が進むアドホックネットワークの通信規格
このように,現代社会の抱える様々な課題の解決
の一つであるZigBeeは,家電分野を中心に市場へ
が期待されている。
の導入が進んでいる。しかし,社会システムを支
しかし,例に挙げたクラウドサービスを実現す
えるセンサネットワークを実用化するためには,
るためには,現場の情報を正確かつタイムリに把
解決しなければならない以下の課題が存在する。
握することが必要であり,その実現手段としてセ
言い換えると,富士通の目指すセンサネットワー
ンサネットワークが注目を集めている。センサ
クの要件とも言える。
ネットワークとは,至る所に設置された各種セン
(1)大規模ネットワークを構築できること
サがネットワークを介して連携し,対象の物理現
現在のアドホックネットワークでは,大規模に
象を検知することができるネットワークシステム
ネットワークを構築することは難しい。ZigBeeは,
である。
移動端末に適用ができる反面,接続する端末数が
センサネットワークを用い,情報を詳細に把握
50台程度に増えるとネットワークが不安定となる。
するためには,各種センサや通信機器を広範かつ
この原因は,通信経路を決定する際の膨大な制御
密に設置し,ネットワークを張り巡らせる必要が
パケットがネットワークの拡張性を制限してしま
ある。しかし,既存のネットワーク(光ファイバ
うためである。したがって,社会システムなど大
やセルラー網など)のみでは構築・運用コストが
規模なフィールドで展開するには不向きなため,
莫大となり,導入は困難である。このため,既存ネッ
大規模ネットワークに適した技術が求められて
トワークと,設置された各種センサや通信機器ま
いる。
での「ラストワンマイル」のネットワークを,容
(2)高い信頼性を持つネットワークであること
易かつ安価に構築する技術が求められている。富
様々なシーンにセンサネットワークが適用され
士通では,この社会的要求に応える新しいネット
ると,無線ネットワークは天候や電波干渉などに
ワーク技術としてWisReed(ウィズリード)を開
影響を受け,通信環境が大きく変化する。従来の
発し,ビジネス展開を図っている。
アドホックネットワークでは,通信環境が変化す
本稿では,まず富士通の目指すセンサネットワー
る度に通信経路の形成を繰り返すことになり,結
クの要件を述べ,それを実現するWisReedの特徴
果として通信品質が不安定になる。実社会で適用
を説明するとともに,スマートメータのネットワー
するとき,通信環境の変化は避けられないため対
クにWisReedを適用した先進事例と,拡大が期待
応が必要となる。
される適用分野について紹介する。
(3)運用の負担を軽減できること
社会インフラに適用する大規模センサネット
ワークでは,センサや通信機器はメーカを問わず
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インテリジェントソサエティを支えるネットワーク技術:WisReed
接続される。要件に応じて機器の追加・削減は頻
ためのアドホックルーティングプロトコルの機能
繁に行われることも考慮すると,大規模化・複雑
を持ち,主に通信端末間の接続状況管理とデータ
化したセンサネットワークを運用することは容易
の送受信,ルーティング(データの通信経路を管
ではない。そのため,システムの運用負担を軽減
理すること)を行う。OSI参照モデルにおける第
する仕組みが必要である。
2層のデータリンク層と第3層のネットワーク層の
富士通のセンサネットワーク技術
センサネットワークを社会インフラに適用する
際の課題を解決するためには,まずアドホック通
一部に該当し,無線への適用に適しているが,下
位層と独立性が高いため,有線への適用も可能で
(4)
ある。
既 存 の ル ー テ ィ ン グ プ ロ ト コ ル とWisReedの
信の拡張性と信頼性を保証することが求められる。
ルーティング方式の比較を図-1に示す。既存のルー
また,ネットワークの障害を監視する運用技術と
ティングプロトコルは,データ送信前に経路を確
顧客の要望に応じた柔軟な業務アプリケーション
定させる。経路探索メッセージをネットワーク全
の提供が求められる。しかし,アドホックネット
体にブロードキャストし,幅優先探索で宛先端末
ワークを形成する既存のルーティングプロトコル
までの経路を確定させる。無線などの不安定な
では,センサネットワークで求められる要件を満
ネットワークでは,経路探索メッセージが増加し,
(1)
,
(2)
輻 輳の原因となる。一方,WisReedのアドホック
たすことができない。
そこで,富士通は設定不要でネットワークを自
プロトコルは深さ優先探索である。各端末はHello
動構築でき,障害発生の際にも自己修復し,周囲
メッセージで隣接端末情報を通知し,最終宛先と
のネットワーク環境変化に適応する独自の自律分
隣接端末をひも付けし,ルーティングテーブルで
(3)
散アドホック通信技術を開発した。 さらに社会シ
管理する。各端末は,受信したデータが自端末宛
ステムへの実用を見据え,ノードからゲートウェ
であれば処理するが,ほかの端末宛であればルー
イ(GW),センターサーバ間をシームレスに連
ティングテーブルを参照し,隣接端末を第一候補
携することが可能なセンサミドルウェアを開発し
として選択し,データを送信しながら経路を確定
た。これら自律分散アドホック通信技術とセンサ
させていく。したがって,余計な経路探索メッセー
ミドルウェアの一連のソリューションをWisReed
ジは発生させず輻輳を抑えることで,1000台を超
( 賢 い 葦 を 意 味 す る 造 語 ) と 命 名 し た。 以 下,
える端末を接続する大規模な無線アドホックネッ
WisReedの持つアドホック通信の仕組みと,ミド
ルウェアの機能を紹介する。
トワークを実現できるのである。
また,ルーティングテーブルには複数の冗長経
路を保持しており,第一候補の隣接端末に機器故
● アドホック通信
WisReedはアドホックネットワークを形成する
送信元端末
障やネットワーク障害が発生した際は,瞬時に冗
送信元端末 Helloメッセージ
(局所的メッセージ)
幅優先探索
経路探索
メッセージ
(ブロードキャスト)
深さ優先探索
宛先端末
(a)既存のルーティングプロトコル
宛先端末
(b)WisReed
図-1 ルーティング方式の比較
Fig.1-Comparison of routing protocols.
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インテリジェントソサエティを支えるネットワーク技術:WisReed
長経路へ迂回してデータ転送を維持する。さらに,
各端末が持つ冗長経路を監視することで,障害時
される。
(1)プロトコル抽象化:ZigBee,TCPなどの異な
に通信不可となる可能性を持つ端末を,事前に検
出する機能も備えている。
るプロトコルを抽象化する機能。
(2)ネットワーク抽象化:任意の送信先にIDを指
センサネットワークの規模が拡大すると,障害
定してデータの送受信を実現する機能。
の数も増加する。しかし,WisReedはネットワー
(3)セ ン サ ミ ド ル ウ ェ アAPI:API(Application
ク障害の予兆を監視し,機器故障など突発的な障
Programming Interface)を用いることで,ユニ
害が発生しても通信を維持することで,いかなる
バーサルなネットワークを実現する機能。
環境においても信頼性の高いセンサネットワーク
これらの機能の関係を図-3に示す。
を提供できるのである。
プロトコル抽象化層では複数のプロトコルドラ
● センサミドルウェア
イバをプラグイン形式でロード可能であり,個々
センサミドルウェアは,物理的な場所,機器,
のネットワークに対するプロトコルドライバの関
通信プロトコルを意識することなくシームレスな
連付けはプロトコル変換テーブルを参照すること
データ通信を可能とする通信基盤である。
で実現する。センサミドルウェアの環境下では,
既存のセンサネットワークではネットワークプ
クラウドネットワークに対応したプロトコルドラ
ロトコルが多種存在し,異なるネットワーク間の
イバを導入することで,容易にクラウドネットワー
接続は容易ではなかった。センサミドルウェアで
ク環境を構築することが可能となる。
は異なるセンサネットワーク間のエッジのみにプ
ネットワーク抽象化層では,プロトコルを意識
ロトコル変換ドライバを導入することでシームレ
することなく,任意の送信先に対してIDを指定し
スなネットワーク環境を容易に構築することがで
てデータを送信することが可能となる。送信先ID
き,既存のセンサネットワークはそのまま利用可
へのひも付けは「宛先変換テーブル」を参照する
能である(図-2)。
ことで実現する。送信先に任意のIDを指定するこ
センサミドルウェアは以下の三つの機能で構成
ミドル
ミドル
データディスパッチ
ミドル
とができるため,クラウドネットワーク上に存在
プロトコル プロトコル
変換
変換
ミドル
ミドル
データディスパッチ
プロトコル プロトコル
変換
変換
ミドル
Bluetooth
ミドル
ミドル
ミドル
ミドル
データディスパッチ
プロトコル プロトコル
変換
変換
ZigBee
データディスパッチ
プロトコル プロトコル
変換
変換
ミドル
ミドル
ミドル
ミドル
ミドル
WisReed
ミドル:センサミドルウェア
図-2 異なるセンサネットワーク間の接続モデル
Fig.2-Model of connections between different sensor networks.
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インテリジェントソサエティを支えるネットワーク技術:WisReed
こ れ ま で 電 力 線 通 信(PLC:Power Line
するあらゆるノード,アプリケーションに対して
Communication)方式による自動検針の運用を行
データの送受信が可能となる。
うも,検針率(各家庭におかれたメータからの電
スマートメータへの適用
力使用量が正しくサーバ側で取得できる確率)特
ここでは,エネルギー問題を背景に急速な成長
性とコスト面の比較から,KCEC社が満足のいく
を続けるスマートグリッド分野において,喫緊に
費用対効果を得られていなかった。また,KCEC
整備が求められるスマートメータにWisReedを適
社が現在提供できていない過疎地域のインター
用した実証事例の一つを紹介する。
ネットサービスに対し,自動検針ネットワークで
● 米国KCEC社の課題とシステム要件
提供したいというニーズがあった。これらの課題
米 国 ニ ュ ー メ キ シ コ 州Kit Carson Electric
Cooperative社様(以下,KCEC社)は,1944年に
に対するKCEC社からのシステム要件を以下に挙
げる。
設立された約3万世帯に電力・ガスと地域通信イン
(1)自動検針率が99%以上であること
フラ(電話,インターネット)を提供している配
(2)インターネット速度が256 kbps以上であること
電会社である。以前から,検針業務や電力供給の
● 実証システム概要
効率化の観点に加え,地方(過疎地域)における
富士通は上記のシステム要件を満たすためにス
ブロードバンドサービス展開を視野に,スマート
。100台規
マートメータシステムを提案した(図-4)
グリッドの導入を検討していた。
模のスマートメータ数での小規模実証実験を想定
しており,当該システムは主に検針用サーバ,ルー
タ,GW,DHCP用サーバ,リピータ,スマートメー
タ,PCで構成される。実証実験では,KCEC社か
センサミドルウェアAPI
ら指定された実証実験サイトの家屋に対し,スマー
ネットワーク抽象化層
トメータを設置した。各メータはWisReedによっ
ディスパッチャ
宛先変換
テーブル
用して定期的に検針データをGWへ送信し,検針用
サーバに届けられる。また,宅内にあるPCはアク
プロトコル抽象化層
プロトコル変換
テーブル
てGWまでの通信経路を自律的に構築し,無線を使
セスポイント機能を具備するスマートメータに無
プロトコルドライバ
線接続し,メータを介してインターネットに接続
することが可能となる。ここで,メータ間距離が
図-3 センサミドルウェアの機能構成
Fig.3-Functional components of sensor middleware.
一定以上ある場合は電波の通信品質が悪くなるた
め,リピータで無線信号を中継するネットワーク
インターネット
ルータ
光ファイバ ネットワーク
検針用サーバ
GW
リピータ
スマートメータ
電柱
家
PC
ルータ
DHCP用
D
サ
サーバ
KCEC社
変電所
宅内
図-4 スマートメータシステムの概要
Fig.4-Overview of smart metering system.
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インテリジェントソサエティを支えるネットワーク技術:WisReed
設計となっている。
機能を用いて,開閉器操作の実証を行い,サーバ
● 実証実験結果
側から当該メータを遠隔操作できることを確認
2010年 にKCEC社 の 実 証 サ イ ト に お い て 検 針
メータ176台の小規模実証実験を行った。サイトは
した。
● 結果分析(フィードバック)
標高2000 mにあり,冬場はマイナス30℃を下回る
KCEC社のシステム要件をすべてクリアするこ
厳しい環境であったが,この条件下においても下
とができ,KCEC社との小規模実証実験に成功し
記の実証結果を得ることができた。
た。また,実証項目の一つであったインターネッ
(1)自動検針率の結果
トモニタのフィードバックによると,高スループッ
15分ごとに100台のメータから検針データをGW
トと低レスポンスにより当該モニタの顧客満足度
に送るが,電波の揺れや大気の影響によって1回で
は高かった。小規模実証実験を通して,KCEC社
自動検針に成功することは難しい。そこで,自動
の満足度は高く,現在は商用化を前提として大規
検針に失敗したメータは再送信する仕組み(リカ
模実証中であり,厳冬においても正確に稼働中で
バリ検針)を使用することで実証実験の期間中に
ある。
自動検針率100%を達成することができた。
社会システムへの可能性
(2)インターネット速度の結果
WisReedのようなマルチホップ通信(ほかの端
富士通は,急激な成長を続けるスマートグリッ
末を中継してデータ転送を行う方式)では,ホッ
ド市場において,スマートメータへのWisReedの
プ す る 度 にEnd-to-endス ル ー プ ッ ト が 低 下 す る
適用をグローバルに拡大していく。さらに環境や
特徴があるが,実証実験サイトの最大ホップ数で
安心安全など社会的ニーズが高い分野への適用を
あ るGWか らPCま で10ホ ッ プ 以 上 の 場 合 で も 約
拡大していくことで,将来的には,WisReedが通
300 kbps以上のインターネット速度を達成するこ
信インフラとなり,インテリジェント・ソサエティ
とができた。
を支える社会システムが実現すると考えている
(3)時間帯別料金,遠隔開閉器操作
KCEC社は,発電会社から電気を購入し,エン
(図-5)。
本章では,富士通社内でのWisReedの適用事例,
ドユーザに配電している。購入に際しては,段階
適用可能な社会システム,および標準化に向けた
制(時間帯別料金)が設定されており,いかに高
取組みについて述べる。
い時間帯(ピーク料金)で購入しないかが経営に
● データセンターにおける環境監視センサネッ
影響を与える。そのため,電力平準化を目的に時
トワークへの適用
間帯別料金(TOU:Time Of Use)制度を一部家
近年,データセンターではサーバの高密度化に
屋に導入しているが,現状はTOU機能を有する高
伴う熱対策のため,サーバラック周辺の温度・風
価なメータが必要である。一方,富士通が提供す
速を計測する環境監視が求められている。そこで,
る自動検針システムではメータ側でなくサーバ側
富士通が稼働・運用している環境配慮型データセ
で時間帯別に電力料金を計算することが可能であ
ンターに,WisReedを適用した環境監視センサネッ
るためTOU機能を有する高価な従来メータは必要
トワークを構築した。通信メディアには有線を用
ではなく,TOU機能がない廉価版メータで代用す
い,通信と給電を1本のケーブルで行う仕組みとし
ることが可能である。その結果,コスト削減に貢
たため,環境監視センサをプラグインするだけで
献することができる。
構築作業が完了し,別途電源を確保する必要もな
そのほか,エンドユーザの電力料金未払いや引
くなった。お客様のラック増減により,装置の取
越しなどに伴う開閉器操作のために,その都度作
付け・取外しが発生しやすいデータセンターにお
業員を現地に派遣する必要があり,当該メンテナ
いては,施工性,保守性という観点からWisReed
ンスコストも課題の一つであった。WisReedは双
は最適な方式と言える。
方向通信に対応しているため,サーバ側から検針
メータに対して制御を行うことが可能である。本
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この環境監視センサネットワーク導入により,
数万点規模のセンサネットワークと高密度環境セ
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インテリジェントソサエティを支えるネットワーク技術:WisReed
データセンター
自動検針
ガスメータ
GW
通信ユニット
水道メータ
電力メータ
ビル管理(空調管理)
自販機通信,など
GW
構造 物 モ ニ タ リ ン グ
河川水位監視
ビル・空調管理
農業センサ
水道・ガス検針
河川水位監視
電力検針サービス
構造物ヘルスモニタリング
ネットワーク
クラウドプラットフォーム
センサミドルウェア
図-5 社会システムへの適用イメージ
Fig.5-Image of social infrastructure technology using WisReed.
ンシングの両立を可能とし,効率的な空調制御を
(5)
実現している。
例としてスマートメータのネットワークへの適用
を紹介した。
● ターゲットとする適用分野例
富士通はこれまでにも様々なネットワークサー
WisReedはその特徴から,大規模にセンサネッ
ビスの提供を行ってきた。これに本稿で紹介した
トワークを展開する分野に最適である。適用分野
WisReedが加わることで,多様化・複雑化が予想
として考えられる場面を例として下記に記す。
されるネットワーク要件にも十分応えることがで
(1)橋梁など構造物の健全性監視(ヘルスモニタ
リング)システム
きると考える。
すでに市場への適用を開始したWisReedである
(2)ビルや工場設備の管理・制御システム
が,お客様のニーズを反映し,引き続き開発を進め,
(3)河川監視や土砂崩れなどの予測防災システム
利用分野の拡大に努めていきたい。
WisReedは通信基盤技術のため,適用分野は限
るものではなく,今後もこれらのターゲット分野
を中心に,幅広く展開していく。
● 標準化への取組み
WisReedを社会全体へ普及することをねらい,
国際標準化団体への提案を積極的に行っている。
今後も国際標準化団体と連携を深め,将来的に
WisReedが業界標準技術となることを目指す。
む す び
本 稿 で は, 社 会 シ ス テ ム を 支 え る セ ン サ ネ ッ
参考文献
(1) M.
Dohler
Requirements
et
in
al.:Urban
Low
WSNs
Power
and
Routing
Lossy
Networks(draft-ietf-roll-urban-routing-reqs-03).
Internet-Draft,January 2009.
(2) A. Tavakoli et al.:Overview of Existing Routing
Protocols for Low Power and Lossy Networks(draftietf-roll-protocols-survey-07).Internet-Draft,Apr
15,2009.
(3) 野村浩二ほか:アドホックネットワーク技術への取
ト ワ ー ク の 技 術 課 題 を 挙 げ, そ れ を 解 決 す る
組み.FUJITSU ,Vol.57,No.3,p.253-257(2006).
WisReedの技術の特徴を説明した。さらに先進事
(4) 岩尾忠重ほか:多用途向け有線センサネットワーク:
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インテリジェントソサエティを支えるネットワーク技術:WisReed
S-wire.FUJITSU ,Vol.57,No.3,p.285-290(2006).
ク基盤.FUJITSU ,Vol.61,No.3,p.277-282(2010).
(5) 深谷正和ほか:次世代データセンターのネットワー
著者紹介
高橋勇治(たかはし ゆうじ)
中谷勇太(なかや ゆうた)
インテリジェントソサエティビジネス
本部スマートネットワークビジネス統
括部 所属
現在,スマートネットワークの研究開
発および標準化活動に従事。
インテリジェントソサエティビジネス
本部スマートネットワークビジネス統
括部 所属
現在,スマートネットワークのソリュー
ション開発に従事。
川島和也(かわしま かずや)
市川達也(いちかわ たつや)
インテリジェントソサエティビジネス
本部スマートネットワークビジネス統
括部 所属
現在,スマートネットワークの研究開
発に従事。
インテリジェントソサエティビジネス
本部スマートネットワークビジネス統
括部 所属
現在,スマートネットワークのソリュー
ション開発に従事。
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