CREATE-Research社の”Market Volatility: Friend or Foe ?”
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CREATE-Research社の”Market Volatility: Friend or Foe ?”
平成24年8月20日 各位 一般社団法人 日本投資顧問業協会 CREATE-Research 社の報告書(日本語版) こ の た び 、 平 成 23 年 7 月 12 日 に ホ ー ム ペ ー ジ に 掲 載 し ま し た CREATE-Research 社の”Market Volatility: Friend or Foe ?”と題する調査報告 書の日本語版(「市場のボラティリティ:敵か、味方か?」)をホームページに 掲載しました。資産運用業に携わる方々にとって役立つものとなれば幸甚です。 以 上 市場のボラティリティ: 敵か、味方か? 著者:アミン・ラジャン教授 2012年初版 発行元:CREATEリサーチ(CREATE-Research) 英国 TN4 0XD タンブリッジ・ウエルズ ボクスホール・レイン (Vauxhall Lane Tunbridge Wells TN4 0XD United Kingdom) 電話: +44 1892 526 757 Email:[email protected] ©CREATE Limited, 2012 無断複写・転載を禁ず。本報告書は、著者の事前の同意なく、発行時以外の製本または表紙を用いて、いかなる形でも、貸与、賃貸、 またはその他何らかの取引を目的として譲渡してはならない。 序 文 4回目となる年次調査報告書の発行にあたり、CREATEリサーチ社の協力を 分散投資の有効性はこの数年間、議論の的でした。今回の調査から得られ 得られたことは、プリンシパル・グローバル・インベスターズ社にとって喜 た最も注目すべき洞察は、 リスクとリターンに対する投資家の見方が急速 ばしいことです。CREATEリサーチ社のアミン・ラジャン教授は資産運用分 に変化しており、ボラティリティを管理するためのより動的なアプローチが 野の代表的な解説者であり、当社はすべての投資家にとって最大の関心事 求められている、 ということです。 プリンシパル・グローバル・インベスター である市場のボラティリティに関する本調査結果をみなさんと共有できる ズ社では、ボラティリティの高い時代に利益を獲得するために、信頼できる ことを楽しみにしています。 パートナー、長期的な投資戦略、規律ある執行の重要性がこれまでになく 高まっていると考えています。 今年の報告書では、市場のボラティリティがもたらす困難とチャンスに関す る見方を扱っています。 この4年間は世界市場のボラティリティが過去にな いほど大きかったことを踏まえれば、ボラティリティは特に重要性の高いテ ーマだといえます。 プリンシパル・グローバル・インベスターズ 現在の欧州を覆っているソブリン債務危機と2008年のクレジットクランチ( 信用収縮)によって投資家心理が弱気に転じ、 これによって市場の動きが増 最高経営責任者 ジム・マコーガン 幅される結果となっています。 しかし、高リスクの中にチャンスも存在し、高 リスクではアクティブ運用が成果を上げ得ることは歴史が示すとおりです。 i 謝 辞 この2012年グローバル調査は、プリンシパル・グローバル・インベスター 次に、本報告書の調査結果にいかなる影響力も加えることなく本報告書発 ズ社とCREATEリサーチ社が行った年次調査プログラムの一部です。 行の共同協賛社になって頂いたプリンシパル・グローバル・インベスターズ 社にも謝意を表します。 この4年間、 プリンシパル社から中立的な支援を頂 この年次調査は世界の資産運用における今後の方向性の明確化を目的と いたおかげで、様々な国の投資のバリューチェーンを構成する全参加者の しています。 このプログラムでは、 これまで高い評価を受けた多数のレポ 貴重なものの見方を共有することができました。 ートや報告書、論文等を作成しており、 これらはwww.create-research. co.ukで見ることができます。なお、本報告書の最終ページに概略を記載し ています。 最後に、私の身近な同僚にも感謝の意を表したいと思います。 リサ・ラジャン (Lisa Rajan)、エリザベス・グッデュー博士(Dr. Elizabeth Goodhew)には 特に感謝します。 この場を借りて、本報告書の実現に貢献した3つのグループと企業と個人に 心からの謝意を表します。 あらゆる人々からご助力をいただきました。それでも、本報告書に誤りや脱 落がありましたら、その責任はすべて私が負うものです。 最初のグループは、 このグローバル調査に参加して頂いた合計289の資産 運用会社、年金基金、年金運用コンサルタントおよび販売会社の皆さまで す。 このうち100の企業や個人は調査後のインタビューにも応じて頂き、そ れによって調査結果に奥行きや厳密さ、生彩やニュアンスが加わりました。 これらの企業や個人の長年にわたる惜しみない協力のおかげで、 この混乱 の4年間を経験し揺れ動いている投資業界にとって、きわめて重要な問題 に関する中立的な調査基盤を構築することができました。 ii CREATEリサーチ(CREATE-Research) プロジェクト・リーダー アミン・ラジャン 目次 序文 i 謝辞 ii エグゼクティブ・サマリー 2 ボラティリティのダイナミクス 14 顧客はそれをどう見ているか? 事態を受け入れる 24 リスク軽減とリスク拡大の結果どうなるか? ビジネスモデルの再構築 34 資産運用会社のなすべきこと 付属資料 40 1|エグゼクティブ・サマリー 序論 高い成長率と低いインフレ率の黄金時 この4年間の株式市場のボラティリティは史上最大でした。 代は終わりました。すでにより景気循環 的な市場に移行しており、そこでは価 格の混乱が著しくなりますが、それは買 日中の価格変動率が4%以上となった日数は、過去40年間の平均の6倍に 上りました。市場ボラティリティや資産クラス間の相関が激しく変化するこ とはしばしばでした。2011年は神経が休まらない年でした。 いのチャンスでもあります。 市場の景気循環が恐怖心や強欲、緊張感によって増幅され、今やPER(株価 インタビューからの引用 収益率)は常識的な基準点を失っています。 その大きな原因は欧米の債務危機です。 この問題の解決は、政策上の誤り や政治的便宜を伴った長い道程となるでしょう。2010年代は経済よりも政 治が市場を動かす可能性が高いといえます。 しかし、高リスクの時期は大きなチャンスの時期でもあることを歴史は物語 っています。予想どおり、あらゆる顧客セグメントの投資家が、資産運用会 社は市場のボラティリティを最終顧客にとっての投資機会に変えることが できるのかと尋ねて来ます。 じ詰めれば、それがアクティブ運用のレゾン デートル(存在理由) です。 2 そのため、今回の調査では次の4つの質問を取り上げました。 調査対象企業の国と運用資産規模 ●資本市場はボラティリティの増大と価格の混乱の時代に突入したのか? ●もしそうであれば、 リスクに対する顧客の主なアプローチはどのようになるか? オーストラリア インド シンガポール オーストリア アイルランド 南アフリカ ●顧客は投資先としてどの資産クラスを重視するか? ベルギー イタリア 韓国 ●顧客がボラティリティから利益を獲得するためには、資産運用会社はどのよう カナダ 日本 スペイン 中国 クウェート スウェーデン デンマーク ルクセンブルク スイス プリンシパル・グローバル・インベスターズ社とCREATEリサーチによるこの年次 フィンランド マレーシア 台湾 調査シリーズでは、過去の調査報告書から一貫してグローバルな調査とその後 フランス オランダ 英国 のインタビューから成る2段階のアプローチを採用しています。 ドイツ ノルウェー 米国 香港 サウジアラビア な能力を開発する必要があるのか? 今回の調査では、29カ国の合計289の資産運用会社、年金運用コンサルタント、 ファンド販売会社を対象としており、その運用資産規模は合計で約25.2兆ドルに 及びます。調査後に行ったインタビューは、年金基金を含む100社を対象として 運用資産規模(兆米ドル) 25.2 います。 これらの調査から、4つの重要な調査結果と7つの中核的なテーマが浮かび上が 出典 :プリンシパル・グローバル・インベスターズ/CREATE調査報告書2012 (Principal Global Investors/CREATE Survey 2012) りました。 3 エグゼクティブ・サマリー 続き 重要な調査結果 逃走と闘争だけが選択肢ではありません。多くの顧客はより大きな順列の中 今回の調査とインタビューで得た結論は、次の4項目です。 で、 この両方を組み合わせるでしょう。新たなスローガンが慎重さであるとす れば、新たな関心事はオポチュニズム (チャンスを捉えた投資) です。 リスクを 1. 政治と市場と投資家のずれは続く 高める投資家もいれば、既存のリスク許容量からより高いリターンを捻出す 2008年のクレジット・クランチで引き起こされた市場ボラティリティと資産 る投資家もいるでしょう。 また、 コスト削減に向かう投資家もいるはずです。 相関の乱高下は、債務危機が欧米の経済成長に悪影響を及ぼし続ける限 り、解消することはないでしょう。事態は早期解決からは程遠く、主要な改革 が後退する兆しも見えています。 また、欧米の新金融規制がもたらす予想外の副作用が懸念されます。銀行 や保険会社は新金融規制によって非合理的な投資行動を強制されるでしょ う。 また、市場の流動性や価格発見も影響を受けるはずです。 規制以外にもグローバリゼーションや高頻度取引、 レバレッジ型ETF(上場投 資信託) などの影響から、市場がより短時間で一方向に動くようになります。 退職者向けの多くの商品では、段階的変化の仕組みによって自動的にリス クを拡大すると同時に、任意のリスク軽減も行われるでしょう。 リスクの軽減は新しい形態の分散を通じて行われます。 この分散とは、 リス ク・プレミアムと相関を前提とした、資産ベースの伝統的方法とは大きく異 なります。 負債管理型投資の優勢が続くでしょう。 ストップ・ロス、オプション、仕組み商品等のヘッジ手段は、コストとカウン ターパーティー・リスクの高さから魅力が薄れるでしょう。スタイル・ボッ クス(投資スタイル)型の投資も、市場の乱高下が続く間は人気を失うで 回答者の78%は混乱の長期化を予想しており、60%超は2010年代末までに しょう。 システミックな危機が複数回発生すると予想しています。市場はファンダメ ンタルズよりも恐怖感に左右され、価格異常(Price anomaly)が頻発するで しょう。 3. 株式とクレジットに注目が集まる 確定給付年金(DB)では、中期的資産配分における株式比率が上昇する 可能性が高いでしょう。債券と比較した株式の魅力は、50年ぶりに高まっ 投資家は2000年の弱気相場以来、ジェットコースターのような乱高下を幾 度も経験し、新たなリスクに辟易しています。 しかし、割安なチャンスを目に すれば、それを追うことをあきらめてはいません。 ていると見られています。2008年以降、ボラティリティの増大でパニック売 りした投資家は一掃されており、長期の強気相場を作る地合いが整って います。 2. あまりに多くの激しい変化に直面し、投資家は慎重 さとオポチュニズムを組み合わせる 新興国市場の株式も今後の株式重視の恩恵に浴する公算が高いといえま 企業のファンダメンタルズは世界的に良好です。中国のハード・ランディン な投資対象とも捉えています。 す。多くの顧客は新興国株式を低コストETFを通じたオポチュニスティック グの懸念は後退し、米国の抱える巨額の債務は縮小し始めています。最終 顧客はボラティリティのプラス面を見ています。そのため、予想外のタイミ ただし、オポチュニズムの多くはディストレス債券、ハイ・イールド債、不動 ングで市場が崩壊し身動きが取れなくなる懸念と同程度に、次の市場回復 産の「セカンダリー市場」、 プライベート・エクイティ、商業用モーゲージ、ロ に乗り遅れることを懸念しています。 ーン担保証券、シニア債務などクレジット分野を対象としています。欧米の 銀行がバーゼルIIIを受けて3.5兆ドルの資本増強を図る中でこれらの分野 から撤退すれば、新たなオポチュニティ投資の魅力が増すでしょう。 当社の顧客はボラティリティを受け入れ る前に、資産運用会社の高い実績と業績 に応じたインセンティブを求めています。 インタビューからの引用 4 確定拠出年金(DC)では、受託者が管理する年金プランは、ポートフォリオ のリスク軽減を目指す一方で、必要に応じてリスクを拡大できるような対象 に投資するでしょう。 加入者個人が管理する年金プランは、市場のランダムな動きに合わせて自 これらの障害を克服するために、資産運用会社は4つの分野で対策を講じ 動的にリスクを取ったり軽減したりする段階的変化の仕組みに依存するで ています。 しょう。 資産運用会社が講じる対策 個人顧客は短期的にはオポチュニズムに走るものの、全体としては慎重サ 一つめは、価格混乱に対する投資能力の向上を促進し、ボラティリティ対応 イドに偏るものと予想されます。欧米とアジアでは投資姿勢に明確な違い 実績を改善し、 リターンに関する非現実的な要求を回避する試みです。複 があり、欧米の顧客は過去の損失の後遺症と目前に迫った退職を意識して 数の資産クラスの投資能力を持つことが成功につながります。 過度に慎重な姿勢を取り続けますが、 アジアの顧客は引き続きモメンタム 投資を続けるでしょう。 二つめは、顧客との利益の整合性を高める試みです。パフォーマンスと釣り 合いのとれないインセンティブを廃止し、ボラティリティの高い時期には投 4. ボラティリティをチャンスに変えるには、資産運用 会社はビジネスモデルを一新する必要がある 資プロフェッショナルが顧客と損得を分かち合うようなインセンティブを導 入することが成功につながります。 混乱期の投資は恐ろしいものです。回答者の71%はボラティリティをチャ ンスと捉えていますが、ボラティリティをチャンスに変える自信のある回答 三つめは、豊富な人材による自由な発想と高い確信に基づく投資を通じて 者は13%にとどまります。 ここには2つのハードルが立ちはだかっています。 企業の敏捷性を高める試みです。大企業の環境の中で小企業の思考様式、 すなわち、チャンスを見極め、その追求に社内の全資源を投入する思考様 投資のハードル 式を持つことが成功につながります。 一つは、過去20年間に起きた資産運用の急激な「工業化」です。職人技の 伝統が薄れ、市場の混乱を投資機会に変える技術はほとんど失われまし 四つめは、 「誤ったタイミング」での運用リスクや「後悔」 リスクを最小限に た。全体のバランスを踏まえた運用指示からスペシャリスト (専門担当者) 抑えるために、顧客との関係を深める試みです。顧客は時間に依存する商 からの運用指示に変わった今、投資の全体像を理解することはほぼなくな 品のアルファと、ニーズに依存するソリューションのアルファを求めていま っています。 リスク・プレミアムの全体論的な原因や資産の相関、混乱期の す。 このどちらについても顧客との関係を今まで以上に深める必要がありま 戦術的偏向に関して必要な見識を備えた人材は、業界全体で不足していま す。正しいタイミングと正しい戦略を選ぶことが成功につながります。 す。2009年の調査報告書では少数のの資産運用会社が講じている対策を 取り上げましたが、他の資産運用会社も今後これにならう必要があります。 つまり、高いボラティリティが続くとすれば、資産運用業界は「失われた 10年」を繰り返さないための大改革が必要だということです。 さらに、業界内の多くの分野で、信認レベルが顧客の動機づけに必要な 水準に達していません。 これは、顧客が適切な時期に資金を出すためのア ドバイスをほとんど受けられなかったためです。 二つ目のハードルとは、安値で買って高値で売るという投資の基本原則を しばしば無視する、顧客自身の群集心理です。顧客が強欲と恐怖のサイク ルのなかで、最も良い方法と正反対の選択肢を選ぶことはよくあります。 ピアリスク、代理店リスク、市場リスクによって私たちの業務は大衆化してしまいました。皆が 同じ平均分散アプローチによる最適化を使っているのです。 インタビューからの引用 5 テーマ1: 市場はボラティリティ増大の時代に入った 恐怖感が恐怖感を生むのと同様に、ボラティリティがボラティリティを生み また、 高頻度取引も理由の一つです。 2010年5月のフラッシュ・クラッシュ (瞬間 ます。回答者の78%は市場が長期の混乱期に入ったと考えており、19%は 的な暴落) がもう少し遅い時間に起きていたとしたら、 米国市場の取引終了ま その可能性があると回答しています(図1.1a)。 でに相場が回復が回復することができず、翌日のアジア市場と欧州市場の取 引開始時に大暴落が起きていた可能性もあるといいます。 高頻度取引が先導 このため、2010年代末までにシステミックな危機が複数回発生すると予想 することによって、 より短時間で相場が一方向に動くようになるでしょう。 する回答者は60%を超えています(図1.1b)。危機の定義は常に主観的です が、過去4年の最悪期が終わったと考える人はごく少数に過ぎません。 このように、恐怖感がファンダメンタルズを見えにくくする状態が続きます。 混乱が続く間は、過去のパラメーターや投資の前提条件は通用しません。 その理由は明白です。欧米のすべての債務バブルの本源が非常に混乱 つまるところ、投資展望が変化したということです。 した政治的背景を受けてしぼみつつあるためです。政治的試みは債務 を入れ替えただけで、削減してはいません。 しかし、理由はこれだけでは インタビューからの引用: ありません。 「欧州の破綻した銀行と破産した政府は死の抱擁状態にあり 金融の新規制によって予想外の結果がもたらされることも理由です。米国 ます。」 のドッド・フランク法(金融規制改革法) と欧州のソルベンシーIIが原因で、 銀行や保険会社は困難な時期に有価証券を売却せざるを得なくなるでしょ 「最大のリスクは政治リスクです。政治リスクを表計算でモデル う。ボルカー・ルールが導入されれば、市場の流動性が縮小し、価格発見が 化することは不可能ですから。」 歪曲するという、両業界にとって最悪の事態に陥る危険があります。 技術の進歩と24時間流れ続けるニュースを背景としたグローバル化の進 展によって、投資家心理の振り幅は増幅され、投資判断のタイミングは日々 「ニューヨーク証券取引所では株式の平均保有期間が4カ月に 短縮しました。」 ベースから即時ベースに短縮されるでしょう。 図1.1a 図1.1b 市場はボラティリティ増大と価格混乱の時代に 2010年代末までに現在のようなシステミックな危機があと何 突入したのでしょうか? 回発生すると思いますか? 40 35 30 19% そう思う その可能性がある 回答者の割合︵%︶ 78% 3% 25 20 15 10 そうは思わない 5 0 出典 :プリンシパル・グローバル・インベスターズ/CREATE調査報告書2012 (Principal Global Investors/CREATE Survey 2012) 6 0 1 2 3 4 5+ テーマ2: ボラティリティにもプラス面がある 市場が乱高下する一方で、企業のバランスシートは世界的に極めて良好 このギャップは克服すべきハードルがあることを示唆しています(テーマ7 です。企業の多くは現金を蓄え、債務を返済し、自社株買いや負債の低利 )。 しかし、調査後に行ったインタビューで明らかになったように、 このこと は世界経済の見通しに関して市場のコンセンサスがないことの表れでも 固定化を実施しています。 あります。 米国の失業率は低下傾向にあり、過去最高益を記録する企業も出現して います。太平洋の向こう側のソブリン債務危機が引き金となったこの「バラ 将来の展望について、資産運用会社の意見は分かれています。 ンスシート」不況の開始以来、米国企業は欧州企業に比べて速いペースで ●資産運用会社の35%は「インフレ論者」で、インフレーションという副次 債務の返済に取り組んできました。 また、中国は人民元相場の引き上げに 伴って消費主導型経済にシフトし、 「ハード・ランディング」の懸念が後退し つつあります。 的作用にもかかわらず、量的緩和を前向きに捉えています。 ●40%は「どちらともつかない立場」で、経済よりも政治が重視された 1985年以前の状態に市場が逆戻りすることを恐れています。 ダウ平均株価が2012年初の景気後退前の水準に戻っても驚くには当たり ません。2009年初頭のように、大量の資金が脇道に待機して、信号が青に ●25%は「デフレ論者」で、巨額の債務が目に見える形で縮小するまでは、 市場の方向性が明確に変わることはないと考えています。 変わるのを待っています。2008年とは異なり、今回は信頼の危機であり、流 インタビューからの引用: 動性の危機ではありません。 このため、回答者の71%は、 アクティブ運用の資産運用会社にとってボラテ ィリティの高まりの長期化は顧客に高いリターンを提供するまたとないチ ャンスであると考えており、その可能性があると考える回答者も22%に上り 「当社の顧客のポートフォリオの株式比率は60%から18%に落 ち込みました。これはパニック売りなのでしょうか、それとも永続 的な変化なのでしょうか。」 ます(図1.2左側の円グラフ)。 「資産運用会社と顧客は、選択の問題ではなく必然的なこととし ところが、ボラティリティから利益を得られると考える回答者は13%に過ぎ て、ボラティリティの受容を学んでいる最中です。」 ません。 また、54%はその可能性があると回答しています(図1.2右側の円 グラフ) 。 「チャンスがボラティリティの中にあるのでなければ、どこにある というのでしょうか。」 図1.2 アクティブ運用の資産運用会社にとってボラティリティの上昇は大きなチャンスでしょうか。また、向こう3年間に、手数料を差し引 いても高いリターンを実現できるでしょうか? チャンスである 実現できる 13% 22 % そう思う そう思う 20% 7% 71% その可能性がある そうは思わない 13% その可能性がある 54% わからない そうは思わない 出典 :プリンシパル・グローバル・インベスターズ/CREATE調査報告書2012 (Principal Global Investors/CREATE Survey 2012) 7 テーマ3: 投資のリスクオン/リスクオフの実態はオン/オフという ネーミングからの想像よりはるかにデリケートである 一般的に言われる取引のリスクオン/リスクオフという表現は、市場の変動 注目すべきは、確定給付年金(DB)基金が深刻な積立不足に直面し、次の3 時に投資家が二つの選択肢しか持たないかのような印象を与えます。 しか つの選択肢の一つまたは複数を選ぶと予想されることです。 し、実際はそれほど単純ではありません。 第1に、少数派ながら、高利回り資産に投資することで、 リスク領域をさら 危機的状況下での最終投資家の対応は、 さまざまです(図1.3a)。 に広げ、 リスクを引き上げる基金が出てくるでしょう。 ●5%は「冒険主義者」であり、逆張り投資と混乱時の市場のタイミングが 第2に、大多数の基金は、ベータ・リスクを積み増すことなくアルファを高め 第一だと考えています。 るという投資家の理想像を追うでしょう。定期的なポートフォリオのリバラン ●35%は「実利主義者」であり、市場のモメンタムが有効である場合、ポー スを通じて、追加リスクなしで割安なアルファを実現する 「スマート・ベータ」 を創出するファンダメンタル指数を活用しようとする基金も見込まれます。 トフォリオのリバランスを行うことが第一だと考えています。 ●40%は「純粋主義者」であり、長期投資を信条とし、ボラティリティを危険 なゲームと捉えています。 より低い手数料で現在のリター 第3に、一部の基金はコスト削減によって、 ンをあげるでしょう。 ●20%は「悲観論者」であり、過去10年間で大金を失っているので、ポジシ ョンを手仕舞うのに適切なタイミングまで待てません。 このように、世界の投資家は新たなリスクに辟易しているものの、強欲と恐 怖のサイクルは表面に出ていないだけでまだ健在だといえます。 このような投資行動の違いは、逃走と闘争だけが選択肢ではないことを示し インタビューからの引用: ています。 この両方をとることもあり得るし、 どちらでもないこともあり得ます。 オポチュニズムが行われる一方で、慎重さも広まるでしょう。すべての顧客セ 「ひとたび青信号になれば、一般大衆が気づく前に市場は20%も グメントがこの2つを組み合わせる可能性が高いといえます (図1.3b) 。 跳ね上がるでしょう。」 世界的に、確定給付年金(DB)基金はリスク軽減を図る可能性が高く、確定 「過去20年を参考にするよりも、遠い昔を見る方が現在の混乱に 拠出年金(DC)基金と個人顧客はリスク軽減とリスク拡大を併用するものと 役立ちます。」 思われます。バリュー投資には引き続き抗しがたい魅力があるものの、断続 的な価格混乱からバリュートラップ(割安に見えるものの、その株価が適正 である株)に陥り、高いリターンが得られないでしょう。 「打撃を受けた投資家は適切なタイミングまで手仕舞いするのを 待てません。」 図1.3a 図1.3b 最終顧客は2008年以降のボラティリティに 今後3年間、 リスクに対する貴社の顧客の主なアプローチは どう対応しましたか? どうなるでしょうか? 50 40 35% 冒険主義者 実利主義者 20% 40% 純粋主義者 回答者の割合︵%︶ 5% 30 20 悲観論者 10 0 リスク軽減 出典 :プリンシパル・グローバル・インベスターズ/CREATE調査報告書2012 (Principal Global Investors/CREATE Survey 2012) 8 DB基金 リスク拡大 DC基金 両方 どちらでもない 個人顧客 テーマ4: 株式は混乱状態を抜けて再浮上する ボラティリティの増大が長期化する中で最も選ばれる可能性の高い資産 ひとつは、債務危機にひと度解消の兆しが見えれば、株式相場は反発する クラスは何かとの問いに、回答者は短期的なオポチュニズムを目的とし ということです。 これは今回の調査結果と2009年の調査結果の重要な相 たものと、中期的な資産配分を目的としたものを明確に分けました(図 違点です。2番目に、 リスク拡大はクレジット商品分野で最も強く見られると 1.4)。 「冒険主義者」と「実利主義者」は前者を選ぶ可能性が高く、 「純粋 予想されることです。3番目は、新興国市場への投資の50%までと金投資は 主義者」は後者を選ぶ可能性が高いといえます。 ETFを通じて行われるという点です。投資先の細分化というETFの特徴が今 図1.4の4分割図で示すように、 まず機関投資家のオポチュニスティック投 く、市場を先導し深刻な懸念を引き起こす危険性があります。4番目に、機 資については、回答者の27%から43%が、下図左上の「高いトータル・リタ 関投資家については、 リスクに基づく分散を求めることから、すべての資産 ーン」枠の中に示された一つまたは複数の資産クラスを通じたオポチュニ クラスから一つを選択するのは非現実的となります(テーマ5)。 後もプラスに働くでしょう。ただし、その過程で市場を後追いするのではな スティック投資で高いトータル・リターンを追求するだろうと予想していま す。中でもディストレス債券とETFが上位に上がっています。 また、機関投資家のアセットアロケーションについては、回答者の43%から インタビューからの引用: 58%が資産配分(「リターンと流動性」枠)を通じて中程度のリターンと高い 流動性を追求する、 と予想しています。 リストの上位はグローバル株式と新 「当社の顧客の30%はベンチマークにただ従うことを止め、周期 的な相場の下落をチャンスと見ています。」 興国株式・債券です。 同様に、個人顧客のオポチュニスティック投資については、回答者の 14%から23%がオポチュニスティック投資を通じて絶対リターンを追求 「米国の証券取引所ではETFが売買高の40%近くを占めていま す。」 する(「絶対リターン」の枠)と予想しています。また、個人顧客の投資元 本の保全については、回答者の28%から46%が資産配分を通じた投資 元本の保全(「投資元本の保全」の枠)を予想しています。 「アジアの個人顧客は欧米の個人顧客に比べてはるかにオポチ ュニスティックです。」 地域や投資行動による相違は第3章で述べるとして、 ここでは注目すべき 4つのポイントを取り上げます。 図1.4 戦術的オポチュニズムと資産配分で重要になる資産クラスを選んでください。 機関投資家 回答者の割合(%) 回答者の割合(%) 高いトータル 高い いトータル・リター リターン ーン 戦術的 リターンと流動性 リ ターンと流動性 性 ディストレス債券 43% グローバル株式 58% ETF 37% 新興国で売上のあるグローバル株式 54% 新興国株式 30% 高配当株式 46% ハイ・イールド債 29% 新興国債券 44% 通貨ファンド 29% 新興国株式 43% ヘッジファンド 27% インフラストラクチャー 43% 資産配分 オポチュニズム 絶対リターン 投資元本の保全 全 インデックス・ファンド 23% 元本保全型ファンド 株式・債券のアクティブ運用 22% 節税効果のある退職者向けファンド(米国のIRA(個人退職勘定)等) 34% テーマ型ファンド(シャリア指数、社会的責任投資(SRI)、環境等) 22% 株式・債券のアクティブ運用 ヘッジ手段を用いたミューチュアル・ファンド (Newcits等) 19% ヘッジ手段を用いたミューチュアル・ファンド (Newcits等) 30% 元本保全型ファンド 14% インデックス・ファンド 28% 個人顧客 46% 32% 出典 :プリンシパル・グローバル・インベスターズ/CREATE調査報告書2012 (Principal Global Investors/CREATE Survey 2012) 9 テーマ5: 確定給付年金(DB) では新たな形の分散投資が出現する 下の伝統的な3つの投資の前提条件はいまでは機能していません。 「目標」 とは成長資産、高配当、規則的なキャッシュフロー、高い流動性、イ ●リスクはリターンを生む ンフレ対応という5項目の明確なゴールを目指す明確な集合体になります。 ●ヘッジしたポートフォリオのリターンは、 ヘッジしないポートフォリオを上回る 市場は急展開し得るため、 この新しい方法では現金や国債のような短期資 産、高配当株式のような中期資産、非常に割安な長期資産を用いることに ●分散投資はただ待っているだけでよい よって時間的要素にも対応します。 何事もそのリスクや蓋然性、影響を知らない限りチャンスとならないこと この新たな資産配分方法では、 トラッキング・エラーやインフォメーション・レ は、新たな教訓です。 またボラティリティと資産の相関には過去の基準と異 シオ等のベンチマーク関連指標の代わりに、絶対リスクに着目した指標を使 なる場合があることも分かりました。 用します。 これは今回の調査結果と2010年の調査結果の重要な相違点です。 新たに出現しつつある資産配分方法は、 リターンよりもリスク管理に主眼を 図1.5に示した比率は例示であり、絶対的な数値ではありません。 これはリ 置き、投資元本の成長よりも保全を目指しています。 この方法は資産クラス スクオン/リスクオフの単純な2種類の取引とは全く異なるボラティリティへ をそれぞれ孤立的に扱うのではなく、資産クラス同士をつなぎ合わせ、相 の新しい対処方法を確定給付年金(DB)基金がどのように進化させている 反すると見られていたトップダウン型とボトムアップ型のスタイルを組み合 かを示したものです。 わせます。 この方法はリターン向上よりもリスク軽減の思考様式を反映した インタビューからの引用: ものです。 リスク軽減は全体論で、 リターン向上は個別縦割り的です。 この方法は1990年代と2000年代に一般的だった資産配分方法とは著しく 異なります(図1.5左から1番目と2番目のボックス)。今や、手段の明確化と 「複数の資産クラスからなるポートフォリオはコア・サテライト型 モデルのコアとして優勢になるでしょう。」 目標の明確化が課題となっています。 「すべてのベータが平等に作られるのではなく、コストも異なり ここで言う「手段」は、 アルファとベータを区別することです。すなわちオポ ます。我々はその粒度を知る必要があります。」 チュニズムと長期投資を区別し、言い換えるとリスクの拡大とリバランスを 「私たちは市場に勢いがある時にはバンドワゴン効果(多数派に 区別します(3番目のボックス)。 付いて) で稼ぎたいのです。」 図1.5 大規模なDBプランの資産配分方法の変遷 資産重視 負債重視 2010∼2015年代 2010∼2012年代 1990年代 40% 債券 60% 株式 2000年代 25% アルファ資産 8% エキゾチック・ベータ 75% ベータ資産 22% オルタナティブ投資 70% ロング・オンリー 35% オポチュニスティック投資 65% 長期投資 5% インフレ対応:米国インフレ連動債(TIP)、コモディティ 10% 高い流動性:現金、米国債 15% キャッシュフロー資産:不動産、インフラストラクチャー 15% 高リスクでリターン向上 85% 従来リスクでリターン向上 戦略的資産配分 出典 :プリンシパル・グローバル・インベスターズ/CREATE調査報告書2012 (Principal Global Investors/CREATE Survey 2012) 10 20% 高配当:債券、 クレジット商品 50% 成長資産:上場株式 動態的資産配分 テーマ6: 確定拠出年金(DC) は新たなリスク動態のもとで二極化する 現在、世界の確定拠出年金(DC)は主に3種類に分類されます(図1.6)。 これらの多様な商品に組み込まれた投資助言は、ボラティリティの高い時 図の左端は事業主主導の制度で、事業主が拠出金と目標利回りを保証し 期には顧客の行動バイアスとは明確に逆を行く傾向があることから、 これ ます。 らの商品はすべて成長する可能性が高いといえます。 これらの商品の自動 的なリバランス、すなわち安値で購入し、高値で売却する仕組みは、大きな 中間が信託銀行主導の制度で、投資の選択は信託銀行に委ねられるか、 プラスとみなされます。 したがって、確定拠出年金(DC)分野では2つの変 またはあらかじめ定めた選択肢としますが、加入者がすべてのリスクを負 化が起きる可能性が高いといえます。 います。 第1に、信託銀行主導の制度は分散投資ファンドやライフサイクル型投資 図の右端が加入者主導の制度で、加入者が投資を選択し、すべてのリスク を通じて多様化が進み、加入者主導の制度に近づきます。第2に、 ライフサ を負います。 イクル型投資が米国・英国からそれ以外の国の確定拠出年金(DC)市場に も広がるでしょう。 これによって任意のリスクツールに任意でない要素が 事業主主導の制度は本来の性質上、 リスク軽減型が一般的で、今後も変わ 加わることになります。 りはないでしょう。一方、信託銀行主導の制度はかつて株式が大きな比重 を占めていました。 しかし、過去5年間のリターンの悪さから、分散投資ファ ンド(テーマ5)か、 またはライフサイクル型投資を指向しています。 インタビューからの引用: 「確定給付年金(DB) を受託する信託銀行と同様に、確定拠出年 この後者は投資助言が組み込まれた商品で、ターゲット・デート型ファン ド、 ターゲット・リスク型ファンド、 ターゲット・インカム型ファンドなどがこ 金 (DC) を受託する信託銀行も何らかの方法でリスクの重荷を下 ろしたいのです。」 れに相当します。一部の商品は資産配分に関してあらかじめ決められた段 階的変化の仕組みを採用し、市場の混乱時には自動的にポートフォリオの リバランスが行われます。また、適宜リバランスを行う動的な仕組みを持 つものもあります。加入者の借入を基準にした簡易的な負債管理型投資 を行うものもあります。退職時期が近づいた時に成長資産を犠牲にして債 「信託銀行主導の制度は単一戦略のポートフォリオから、市場 の大きな変化に耐え得るマルチ戦略のポートフォリオに変わる でしょう。」 券を購入する代わりに、成長資産を現金化したり、金利スワップを買う担 「オーストラリア、香港、欧州ではライフサイクル型投資が成長 保にしたりもします。 するでしょう。」 図1.6 確定拠出年金 (DC) 市場の今後の動向 事業主主導の制度 信託銀行主導の制度 加入者主導の制度 事業主が全リスクを負う 事業主は投資元本を保証する 事業主が資産を選択する 加入者が全リスクを負う • 貯蓄文化の強い国に多い • 年金制度を新設した国に 多い • 投資文化の強い国に多い • 保険志向の商品を重視 • 合同運用を重視 • 個人の選択を重視 例:ベルギー、チリ、 ドイツ、 スイス 例:オーストラリア、オースト リア、デンマーク、南アフ リカ 例:香港、 日本、英国、米国 極めて慎重な選択肢 債券中心 事業主は拠出金を保証する 加入者が資産を選択する 多様な選択肢 株式中心 出典 :プリンシパル・グローバル・インベスターズ/CREATE調査報告書2012 (Principal Global Investors/CREATE Survey 2012) 11 テーマ7: 資産運用業界はボラティリティ対応実績を改善するために 心理的障害を取り除く必要がある 2000年代は「失われた10年」 でした。 これを繰り返さないために、顧客は投 過去4年間のパニック売りやパニック買いを生き延びた投資商品は、本源 資手法を再検討していますが、資産運用会社が規模と範囲を拡大する中 的メリットが何であるかにかかわらず、極めて稀です。多くの商品は「誤った で、ボラティリティ対応に欠かせない職人技の伝統と敏捷性が失われたの タイミング」 リスクの ではないかと危惧しています。長期的に取り組まなければならないことが 定することを支援できるほど深く関与している資産運用会社は少数です。ボ 短期的な事情で損なわれています。ピアリスクや代理店リスク、釣り合いの ラティリティの高い現在の市場で実現可能なことと、実現不可能なことに関 とれないインセンティブ体系が原因で、顧客ニーズの戦略的理解は進んで する期待をうまく管理するための新たな関与方法が必要なことは明らかで いません。 ファンドは売るものであって買うものでなくなっています。 さらに す。 食となりました。また、顧客が割安な投資対象を特 悪いことに、顧客自身の群集心理は最良の方法と正反対の選択肢を選ぶ傾 向があるので、助けにはなりません。 もはや商品説明書の細かい条件では顧客を教育できないことは、資産運 用会社自身が認識しています。変化の風が吹いていることは明白です。 今日の市場での投資には思考の大転換が必要だと明確に認識されている 4分野では、すでに対処方法が見つかっています。 インタビューからの引用: 1番目の分野はスキルに関するものです。資産運用会社は価格混乱への対 応力を高め、ボラティリティ対応実績を改善し、 リターンに対する現実的で 「現在の新しい取り組みも結局は、この業界では新たに出費のか ない要求は避けることです。 さむ時期に過ぎないのでしょうか。」 2番目の分野は文化に関するものです。資産運用会社は顧客と苦労も け も共有するような実績主義的なインセンティブ体系を採用し、 タイム・ホラ 「顧客にとって我々は自分で作った料理を食べる共同投資家です イズンと投資理念を顧客と共有する必要があります。 から、顧客は食卓に戻ることについてあまり悩んでいません。」 3番目の分野は組織に関するものです。資産運用会社は優れた人材を集め、 「しばしば顧客の行動はレースの途中で馬券を売り買いしている 敏捷性や自由な思考、 確信度重視の運用を推進する必要があります。 ように見えます。」 4番目の分野は顧客との関係に関するものです。資産運用会社は定期的な 運用報告を行うだけでなく、相互にプラスとなるような問題(図1.7)に取り 組む必要があります。 図1.7 現在の市場環境で顧客との関係を深めることの意味は何ですか? 顧客との関係を深める 資産運用会社にとってのメリット 顧客にとってのメリット ・顧客にとっての最良の結果と最悪の結果を理解できる ・顧客の専門的投資知識から新しいアイデアを得られる ・実現可能なことと不可能なことの期待をうまく管理できる ・売買の 「誤ったタイミング」 リスクと 「後悔」 リスクを最小化できる ・顧客特有の問題に関する特別調査について伝えられる ・著しい価格混乱期に先を見越して買いのチャンスに注目できる 相 互 に プ ラ ス ・投資理念とタイム・ホライズンの共有を通じて利益の整合性が高 まる ・資産配分や相関リスクについてのセカンドオピニオンが得られる ・市場サイクルのどの時期に何が有効かの見識が深まる ・周期的な市場の混乱を逆手に取る精神的敏捷性を養える ・周期的なボラティリティに刺激されて行動バイアスや群集心理に 陥ることを最小化できる ・契約書の細かい条件に埋もれがちな「健康被害へのご注意(リス クに関する注意事項) 」 を理解できる 出典 :プリンシパル・グローバル・インベスターズ/CREATE調査報告書2012 (Principal Global Investors/CREATE Survey 2012) 12 高リスクの時期は大きなチャンスの時 期でもあることを歴史は語っています。 我々にとって最大の課題は、最終的に は本源的価値だけが勝利を得ますが、 その間にやって来たチャンスを無視す べきでないことを顧客に納得させるこ とです。 インタビューからの引用 13 2|ボラティリティのダイナミクス 1980年以降、S&P500の上昇率上位 顧客はそれをどう見ているか? 20位のうち10回は過去5年間に起き 要旨 ています。同様に、下落率上位20位の 2008年のリーマン・ショック以降、市場ではボラティリティと相関が異常化 うち13回は過去5年間に起きていま す。株式市場がこれほど乱高下した時 期は珍しく、これほど多くの資産クラス がこれほど大幅に、かつ一様に変動し た時期も稀です。 しています。複数の資産クラスが足並みを えて動き、PER(株価収益率) は常識的な基準点を失っています。市場のサイクルが恐怖心や強欲さ、緊 張感によって増幅されているためです。 このような背景の中、本章では次の4項目に対する資産運用会社、年金基 金、年金運用コンサルタント、 ファンド販売会社の考えを探ります。 ●今後3年間、資本市場のボラティリティの原因となる要素は何か? インタビューからの引用 ●その結果として、 リスクに対する顧客の主なアプローチはどのようになるか? ●ポートフォリオのリスク軽減を選択する顧客はどのようなツールを用いるか? ●ポートフォリオのリスク拡大を選択する顧客はどのようなツールを用いるか? 14 重要な調査結果 ●短期的な手数料の圧縮に裏付けられた長期投資を信条とする「純粋主義者」 ボラティリティの原因 ●適切なタイミングで手仕舞うのを待てない「悲観論者」 2012年第1四半期に見られた相場の力強い回復は、 このところのスペイン の銀行危機が原因で、すでに陰りが出ています。欧米の債務は余りに巨額 で、債務の圧縮は長い道程になるとみられます。2010年代末までは政策上 の誤りや政治的便宜、社会の混乱が続くでしょう。 最近の試みは債務を入れ替えたに過ぎず、削減してはいないため、債務が 2010年代のボラティリティの主因となる状況は変わりません。 また、新しい金 融規制による予想外の影響や市場のグローバル化のほか、 中国の 「ハード・ラ このように、顧客も資産運用会社と同様に、ボラティリティをチャンスと見 ています。ただし、顧客は自分の資産運用会社がそれを実現できると確信 する必要があります。 ポートフォリオのリスク軽減 一方、 リスク軽減を図る投資家は様々な手段を採るとみられます。 ンディング」 の懸念、 高頻度取引、 複雑なETFなどもボラティリティの原因です。 ●確定給付年金(DB)基金は負債管理型投資、分散投資、 フィデューシャリ しかし、2012年初頭の相場上昇を踏まえると、 これらの将来的な影響につ いて明確なコンセンサスはありません。 ー・マネジメントを活用するでしょう。 ●確定拠出年金(DC)基金は投資助言組込型商品、分散投資、元本保全戦 略を活用するでしょう。 ●回答者の35%はインフレという結果を認識しながらも、一縷の望みを 持っています。 ●個人顧客も分散投資、投資上限組込型商品、元本保全手段を活用するで しょう。 ●40%はどちらともつかない立場です。1985年に長期の強気相場が始まる 以前の、経済よりも政治が市場を動かした長い時代に逆戻りする可能性を 否定しきれない一方で、米国の景気回復が持続し、欧州をけん引する可能 性も捨て切れません。 特に、 ストップ・ロス、オプション、上値と下値を制限する仕組商品などのヘ ッジ手段は、 コストやカウンターパーティー・リスクが高いので利用は限定 的だと見込まれます。 ●25%は悲観的で、量的緩和を続けても欧州と米国で「現金の山」を積み 上げるだけで、市場の方向性が明確に変わることはないと考えています。 ポートフォリオのリスク拡大 同様に、ポートフォリオのリスク拡大を図る投資家も様々な手段を採るとみ ただし、ひとつだけ明白なことがあります。世界の投資家は新たなリスクに られます。 辟易しているものの、割安なチャンスを見つけたら、それを逃したくないと 考えています。 ●確定給付年金(DB)基金は絶対リターン戦略、制約のない運用委託、確 信度重視の運用を活用する一方で、手数料に対する圧力を高めるでしょ 2008年のクレジット・クランチ以降続いているボラティリティの高止まりに よって、市場のバリュエーションは著しく歪められているという一般的な考 う。ただし、評判リスクやキャリアリスクが原因でリスク拡大策の規模や 範囲が狭まるでしょう。 えがこれを裏打ちしています。結果的に生じたアノマリーが慎重さとオポチ ュニズムの組み合わせにつながっています。 ●確定拠出年金(DC)基金は段階的変化戦略、絶対リターン戦略、確信度 重視の運用を利用するでしょう。 リスクに対する主なアプローチ 一部の投資家はポートフォリオのリスク軽減を図りますが、 リスク拡大を図 ●個人顧客はアクティブ運用戦略、絶対リターン戦略、制約のない運用委 託を利用するでしょう。 る投資家もおり、 この両方を行う投資家や、 このいずれでもない投資家もい るでしょう。特に、すべての顧客セグメントが程度の差こそあれ、 リスク拡大 スタイル・ボックス(投資スタイル)型投資は、市場サイクルが混乱している を図る可能性が高いことは注目に値します。 間は人気が出ないでしょう。 ただし、確定給付年金(DB)基金はリスクを軽減する可能性が高く、確定拠 このように、 リスクを高める顧客、既存のリスク・バジェット (リスク許容量) 出年金(DC)基金と個人顧客はリスクの拡大も軽減も行う可能性が高いと でより高いリターンを捻出する顧客、 コスト削減を図る顧客がいるというこ いえます。 このように対応が多様化する背景には、調査後に行ったインタビ とです。 ューで各資産運用会社が指摘したように、2008年以降に4種類の投資家群 が出現したことが挙げられます。 ●混乱時の逆張り投資と市場のタイミングを第1とする 「冒険主義者」 当社の顧客の20%は逆張り派です。 ●追加リスクなしで高リターンを実現する場合もあり、 しない場合もあるモ メンタム投資を信条とする「実利主義者」 インタビューからの引用 15 過去に類を見ない力が原因で 政治と市場と投資家の溝は埋まらない エグゼクティブ・サマリーに示したように、最悪期が過ぎたわけでは全くあ す。2010年5月のフラッシュ・クラッシュ (瞬間的な暴落)がもう少し遅い時間 りません。10社の回答者のうち9社は、現在の過剰債務を原因とする市場の に起きていたとしたら、米国市場の取引終了までに相場が回復することが 混乱が2010年代末までに再び起こると予想しています。 できず、翌日のアジア市場と欧州市場の取引開始時に大暴落が起きていた 可能性もあるといいます。 2009年の米連邦準備制度理事会(FRB)の試みは、単に銀行の損失を社会 に転嫁したに過ぎません。 また、欧州中央銀行(ECB)の最近の試みは、単に 43%は、中国が国内の資産バブルと、その最大の海外市場である欧州経済 ソブリン債のデフォルトを事前に防いだに過ぎません。債務問題は米国で の混乱を原因にハード・ランディングすることを懸念しています。ただし、だ は改善の兆しが見えますが、解消する気配はありません。経済のファンダメ からと言って、人民元相場の引き上げに伴って中国が消費主導型の回復力 ンタルズと無関係に、金融市場で突然リスクオンとリスクオフがランダムに に富む経済にシフトするというシナリオは否定されていません。 入れ替わるのも当然でしょう。 33%は、ETFが引き続き市場の不安定化の大きな要因になると考えていま 回答者は、政治的、経済的、構造的な6つの要因が絡み合って向こう3年間 す。特に、シンセティック型や高レバレッジ型、インバース型のETFはその傾 はボラティリティの高い状態が続くと予想しています(図2.1)。 向が強いとみられます。 回答者の72%は、欧州と米国のソブリン債務危機が今後も市場の足枷とな 将来に関しては、資産運用会社を対象に調査後に行ったインタビューから るものとみています。主要国政府の多くが迅速な対応に必要な過半数の議 次の3つの意見が明らかになりました。 席を持たないか(米国と英国)、もしくは必要とされる統治の仕組みをもた ない(欧州) ことが理由です。 インタビューからの引用: また、回答者の68%は、米国のドッド・フランク法とEUのソルベンシーII指令 が予想外の影響をもたらし、市場の流動性に悪影響を及ぼしたり、銀行や 保険会社、年金基金に非合理的な投資行動を強いることになると予想して 「ドッド・フランク法は 「大きすぎて潰せない」 問題を扱っていますが、 法律そのものは 「大量過ぎて読み切れない」 状態になっています。」 います。 「バーゼルIIIとソルベンシーIIのリスク・ベースのルールによっ 64%は、 グローバル化による伝播力の増大を懸念しています。技術の進歩 て、投資家は同じ手段で同じ結果を追求することになるでしょう。」 と24時間流れ続けるニュースによって投資家心理の振れ幅が増し、投資判 「高頻度取引は資本市場の真の機能とかけ離れています。」 断のタイミングは日々ベースから即時ベースに短縮されるためです。 5 5 % は、高 頻 度 取 引を市 場 が 不 安 定 化 する大きな 要 因 だと見ていま 図2.1 今後3年間に資本市場のボラティリティを増大させる要因 欧州と米国のソブリン債務危機 新金融規制の予想外の影響 グローバル化による伝播力の増大 高頻度取引 中国の経済問題 ETFの利用 0 出典 :プリンシパル・グローバル・インベスターズ/CREATE調査報告書2012 (Principal Global Investors/CREATE Survey 2012) 16 10 20 30 40 回答者の割合(%) 50 60 70 80 72%はソブリン債務危機が 68%は新規制が 64%はグローバル化が ボラティリティの増大要因と予想 ボラティリティの増大要因と予想 ボラティリティの増大要因と予想 ターや前提条件は、現状では役に立ちません。 このグループは利益を稼ぐ 「インフレ論者」 (資産運用会社の35%)は、米国の景気回復とギリシャ債 よりも失うやり方の方が多いと考えています。 務問題の解決、人民元相場の切り上げに一縷の望みを託しています。 この グループは米国が成長エンジンとなり、間もなく欧州を現在の窮地から救 いだすものと期待しています。ただ、欧米で積み上がった現金の山が崩れ このように、今後の市場展望についてはコンセンサスが得られていませ れば、 インフレが加速すると考えています。 ん。2012年第1四半期に相場上昇の兆しが見えていますが、過去2年間と同 じように勢いを失う可能性があります。 しかし、米国経済に弾みがつけば上 昇が続く可能性もあります。 それは時が経ってみなければ分かりません。 「どちらともつかない立場」 (資産運用会社の40%)は、1985年∼2007年は 無責任な金融、無能な政治、緩い規制、非合理的なインセンティブを土台に して栄えた、歴史的に見て異常な時期だったのではないかと考えています。 ただ、一つだけ明白なことがあります。世界の投資家は2000年の弱気相場 これらの要因がレバレッジを高め、極めて強気な相場を作り出しました。今 以来、ジェットコースターのような乱高下を幾度も経験し、新たなリスクに 後は経済よりも政治が公正価値の概念を左右するかもしれませんが、強欲 辟易していますが、割安なチャンスを目にすれば、それを追うことをあきら と恐怖のサイクルも相場変動の平均回帰性も失われてはいません。 このグ めてはいません。大半の投資家は脇道に待機して事態の推移を見守りなが ループは、霧が晴れるまでは慎重さとオポチュニズムを組み合わせるのも らチャンスを探しています。 悪くはないと考えています(「俯瞰すると・・・」参照) 。 「デフレ論者」 (資産運用会社の25%)は現在の欧米の政治情勢について、 インタビューからの引用: 好意的に見ても無気力、最悪の場合は問題の先送りであると評しています。 このグループは、 レバレッジの縮小は困難な道程で、政策の誤りや投資家 「中国が今もカギを握っています。プラス面もマイナス面も多いか の過剰反応が頻繁に生じるうえ、市場の方向性はほとんど変わらないと考 らです。」 えおり、米国が間もなく長期的な成長軌道に乗るかどうかは不透明だと考 えています。悲惨な状態を引き起こした元凶である過剰なレバレッジを、今 「量的緩和第2弾は最悪です。インフレが起きて通貨の価値が下が 度は救済手段として利用するなど、 あり得ないことです。 るでしょう。でも他の選択肢よりはましです。」 量的緩和によって欧米の経済が金融から距離をおき、バランスを取り戻さ 「米国の景気が回復して、 欧州経済を窮地から救い出してくれるで ない限り、2008年のメルトダウンが繰り返されるでしょう。過去のパラメー しょう。」 俯瞰すると・ ・ ・ 金融市場は極端なボラティリティが続いており、1日の値動きが3%∼5%にも 資産は極端な影響を受け、保険会社と年金基金は意思に反して困難な時期 達しています。2010年5月の「フラッシュ・クラッシュ」 (瞬間的な暴落)が最も印 に資産を売却せざるを得なくなるでしょう。また、高頻度取引やETFによって 象的な例で、 ダウ平均株価は5分間に990ポイントも下落した後、ある程度ま 相場が一方向に短時間で動くようになっているうえ、市場のボラティリティを で急回復しました。 増大させており、 これが問題をさらに深刻にしています。 その他にも、米国と欧州の債務危機への反応から市場のボラティリティは急 ただ、明るい材料も見え始めています。米国の景気回復は弾みがついてきま 上昇し、資産クラス間の相関は急接近しました。 このような例は過去にも見ら した。欧州中央銀行の長期流動性供給オペによって、欧州の債務と競争力に れましたが、今回は大きな違いがあります。それは政府が打てる政策が既に 関する根深い不安感に取り組む余裕ができました。中国は適切な施策をいろ ないということです。人々が記憶する限り最低水準の金利と最大規模の財政 いろと講じており、ハード・ランディングを回避できる公算が出ています。 赤字にも効果はなく、量的緩和を連発せざるをえませんでした。 しかし、日本 のように、家計と企業はただ現金を蓄え続けています。デフレを恐れているた めです。 この問題に輪をかけるように、他にも構造的な力が働いています。規制の拡 大もその一つです。 ドッド・フランク法はあまりに複雑で、 この規則集は最終的 にどれだけの量になるのかと思います。 とりわけ、ボルカー・ルールは市場の しかし、高リスクの時期は大きなチャンスの時期でもあることを歴史は語って います。我々にとって最大の課題は、最終的には本源的価値だけが勝利を得 るが、その間にやって来たチャンスを無視すべきでないことを顧客に納得さ せることです。 ‐グローバル規模の資産運用会社 流動性と価格発見に悪影響を及ぼすでしょう。 ソルベンシーIIによってリスク 17 投資家はスプレッドシートではモデル化できない あまりに多くの変数の前で実利的になっている エグゼクティブ・サマリーで示したように、回答者の大多数は現在のボラ 傾向が強いとみられます。信託銀行は安全性の高い保険型の投資と拠出金 ティリティが顧客に高いリターンを提供するチャンスであると考えていま の引き上げを好む傾向があるためです。米国と英国では、予め決められた すが、顧客の見方はそれと異なることも認識しています。 段階的変化の仕組みを持つターゲット・デート型ファンドが株価の下落時 には株式への配分を自動的に高めるため、 リスク拡大傾向が強くなります。 最終投資家は混乱の10年を経験し、参入と退場のタイミングがリターンに大 きく影響することを学びました。周囲が怖気づいている時に大胆になれば報 オーストラリアでは、株式70:債券30の資産配分から旧式のバランス型ファ われるということを学んだ投資家もいます。すべての危機は隠れたチャンス ンドのより動的なバージョンに徐々に変化しており、実利的なリスク拡大と だと認める投資家もいます。 しかし、2度と痛い目を見たくないとする投資家 リスク軽減が図られる可能性が高いとみられます。 もいます。投資家の期待値には適応性があり、 あらゆるリスク領域で異なりま す。 このことは、回答者に向こう3年間に3大顧客セグメントが採用するとみら 最後に、個人顧客についてリスク軽減を予想する回答者は33%で、経験と れる主なアプローチについて質問して明らかになりました (図2.2) 。 拡大の両方を予想する回答者は38%にも達しています。地域別にみると、 欧州ではリスク低減傾向が強く、 アジアではリスク拡大傾向が強く、欧州と 各顧客セグメントを順に見てみると、確定給付年金(DB)基金については、 米国では両方の組み合わせが多いとみられます。 回答者の46%がボラティリティの高い時期にポートフォリオのリスク軽減を 図ると予想し、 リスク拡大を図ると予想する回答者は9%にとどまりました。 私達が出会った顧客の中には、2008年以降、市場のタイミングを使って一 残りの39%がリスク軽減とリスク拡大の両方を予想していることは注目に値 時的なボラティリティを利益に結び付け、ポートフォリオのリバランスを通 します。いずれでもないと予想したのはわずか6%でした。 じて業種間のボラティリティを利益に結びつけた例もあります。 国による違いや、一国の中での違いもあります。 リスク軽減傾向が強いの エグゼクティブ・サマリーで示したように、各資産運用会社に対して行った は欧州とアジアです。 これらの地域の年金規則では、赤字の場合に認めら インタビューからの引用: れる回復期間が短いという特徴があります。アジア(日本を除く)のDBプラ ンは国内中心、債券中心で、他の年金基金に倣う傾向が続いています。 リス 「誰もが市場を怖がっていますが、次の値上がりを見逃したいと ク拡大傾向が強いのは米国で、積立不足が大きく、政治的圧力を受けてい いう人はほとんどいません。」 る公的部門の年金基金は特にその傾向が顕著です。 どの地域でも実利的 なリスク拡大とリスク軽減が標準となるでしょう。 「現在の世界的な不安感の原因を見落とす者にはブラック・スワン (事 前にほとんど予想できない衝撃が大きい事象) が待っています。」 DCプランでは状況が異なります。回答者の25%がポートフォリオのリスク 軽減を予想し、19%はリスク拡大を予想しています。軽減と拡大の両方を予 測する回答者は35%と多く、21%はどちらでもないと予測しています。 信託銀行が確定拠出年金(DC)を運用している欧州大陸では、 リスク軽減 図2.2 「現在我々が知っているリスクは、これまでリターンを計算する 際に考慮されてきませんでした。リスクの動的側面がリスクの測 定基準から抜け落ちていたのです。」 50 今後3年間、 リスクに対する顧客の 確定拠出年金(DC)基金 回答者の割合︵%︶ なるでしょうか? 確定給付年金(DB)基金 40 主なアプローチはどのように 30 個人顧客 20 10 0 出典 :プリンシパル・グローバル・インベスターズ/CREATE調査報告書2012 (Principal Global Investors/CREATE Survey 2012) 18 リスク軽減 リスク拡大 両方 どちらでもない 46%はDBが 35%はDCが 38%は個人顧客がリスク拡大と リスクを軽減すると予想 リスク拡大と軽減を行うと予想 軽減を行うと予想 調査の結果、次の4種類の投資行動を取るグループが多いことが明らかに のミューチュアル・ファンド(投資信託) で資金の流出が2011年まで5年連 なりました。 続していることがこれを実証しています。 ●冒険主義者(5%) :リスクの振り子が間違った方向に行き過ぎたために 各グループの比率は絶対的な数字ではなく、例示ですが、 これは資産運用 資産価格が歪んでおり、市場のタイミングに乗った逆張り投資が有効だ 会社と同様に顧客も不確実性に囚われて、ボラティリティに対してより識別 と考えています。 このような投資家はアジアの個人顧客と欧州の富裕層 力のあるアプローチをとっていることを示しています。オポチュニズム、群 に見られます。 集心理、慎重さといった顧客の投資行動に見られる昔からの特徴は今後、 ●実利主義者(30%) :バリュー投資を信条とするものの、価格混乱が引き 度重なるボラティリティの増大によって弱まるでしょう。 しかし、顧客は資産 起こすバリュートラップを恐れています。そのため、市場に勢いがある間 運用会社が顧客ニーズを理解し、ボラティリティの高い環境下でそのニー はバンドワゴン効果に乗りたいと考えています。 このような投資家はあら ズを満たすノウハウを持っていると納得する必要があります。 これについて ゆる国のどの顧客セグメントにも見られます。 は第4章で取り上げます。 ●純粋主義者(45%) :長期投資を堅持し、ボラティリティに一喜一憂する のは愚か者のすることと捉えています。 リバランスを通じてリスクを増や インタビューからの引用: さずにバリュー投資と負債とのマッチングを行っています。 このような投 資家はカナダ、 日本、欧州、米国の確定給付年金(DB)、米国の確定拠出年 金(DC)に見られます。 「あらゆるところで現金の山がどんどん積み上がっています。 ●悲観論者(20%) :このグループにとって、過去10年間、 リスクはリターン を生みませんでした。 これまでリターン向上手段であったリスク・プレミア この資金がすべて有効に使われることができるかどうかが問題 です。」 ムや分散投資、バーベル戦略の抗しがたい魅力は失われました。 このグ ループが、 リスクについて厳しく市場から学んだ、相場の上昇は長続きし 「高リスクの時期は大きなチャンスの時期でもあります。顧客は ないという教訓は身に染みており、手仕舞いを適切なタイミングまで待 それを知っていますが、2度と痛い目には合いたくないのです。」 てません。 このような投資家は年金バイアウトを計画している民間のDB プランや、年金積立局面の最終期にある個人投資家に見られます。米国 「制約のない運用委託が普及しつつあります。」 俯瞰すると・ ・ ・ 当年金の積立比率(カバレッジレシオ)は欧州の債務危機によって未知の領 ことです。ベータ・リスクを高めずにより多くのアルファを手に入れることは、 域に入りました。2010年代は投資を一段と予測不能なものにする新たな力が 投資家の理想像でもあります。我々はこれをファンダメンタル指数の活用や 働いていることは間違いありません。同時に、オランダの厳しい規制制度によ 長期テーマの追求のほか、割安なアルファを実現する 「スマート・ベータ」を創 って我々の戦略の余地は制限されています。我々は規制によって最低105% 出する資産の分散化によって行っています。 この方法は市場で割安な投資対 の積立比率と将来債務の計算にリスクフリー割引率を義務づけられているだ 象を見つけた際に戦術的リバランスを行う目的でも活用しています。 けではありません。高リスク資産や非流動資産に投資する場合の資本バッフ ァーも要求されています。 これはソルベンシーIIによって欧州のすべての年金 基金に現在提案されているものです。 3つめの選択肢はコスト削減、すなわち、低い手数料で現在のリターンを得る ことです。我々はアウトソースしていたアクティブ戦略の多くを内製化し、 これ をスマート・ベータ戦略に変更しています。スマート・ベータ戦略は今では圧 したがって、我々に残された選択肢は3つのみです。ひとつはリスク拡大です。 倒的な規模に拡大しました。 また、ボラティリティの低い新たな絶対リターン これはイェール財団が過去20年間行ってきた運用に象徴されるように、ハ 戦略の開発を担当する優秀な運用担当者を探しています。我々にとって最大 イ・イールド資産を通じて新たなリスク領域に乗り出すことを意味します。 し の問題は、 この10年間PER(株価収益率)が常識的な基準点を失っている中 かし、 この選択肢は取らないでしょう。その結果、我々の信託銀行ではこのよう で、何が割安なのかを見抜くことです。 なものは何一つ保有しないでしょう。以前オルタナティブ投資に手を出した時 に、2008年に流動性が枯渇して大量償還で大打撃を受けたためです。 ‐オランダの年金基金 もうひとつの選択肢は、保有している既存資産からより多くの利益を捻出する 19 リスク軽減には従来のツールの改良版を使う 具体的なツールを見る前に、今後3年間に使われる可能性の高いリスク軽 まず、確定給付年金(DB)基金が最も用いる可能性の高いツールとしては、 減ツールについて、2つの全般的なポイントが挙げられます。 回答者の5人に2人が負債管理型投資、 フィデューシャリー・マネジメント、 厳しいストレス・テストを挙げています。 これらを順に見ると、負債管理型投 ひとつは、 どの顧客セグメントでも主要な手段は分散投資であることです( 資はバランスシート全体のツールに変化する一方で、調達比率の変化に応 図2.3)。新しいバージョンの分散投資はリーマン・ショックで大打撃を受け じて動的なヘッジ戦略を提供するでしょう。現状では、 このような変化は欧 た古いバージョンよりも優れているとみなされています。新バージョンはリ 州に限定されていますが、時価評価ルールに移行する年金基金がこれまで ターンを目指すよりもリスク管理を重視し、投資元本の成長よりも保全に重 以上に増えてくると、 日本や韓国、米国にも拡大するとみられます。負債管理 点を置き、個々の資産クラスを排他的な存在と捉えるのではなく、それらを 型投資はアジアで拡大するでしょう。 関連付け、 トップダウン型とボトムアップ型のスタイルを相反するものと見 なすのでなく、 この2つのスタイルを組み合わせます(反対側ページの「俯 瞰すると・・・」を参照)。 また、株式銘柄の選択にマクロのオーバーレイを用 います。 インタビューからの引用: 「現在の相互につながった世界では、考え得るすべてのリスクを 2つ目のポイントは、明確な限界値を示してのストップ・ロスや、オプション、 関連付けることは困難です。」 上値と下値を制限した仕組商品など明白なヘッジ手段に関してです。 これ らが本来備えている優位性とは別に、 コストとカウンターパーティー・リスク 「オプションやストップ・ロスはコストが高くつきます。取引相手は はボラティリティに直結して変化します。 このため、利用はある程度制限さ 馬鹿ではないのです。」 れるものと見込まれます。 「当社の負債管理型投資の販売は2年間で60億ドルから260億ド その他のツールについては、複数の顧客セグメントで従来のツールの改良 ルに成長しました。」 版が用いられるでしょう (図2.3)。 図2.3 ポートフォリオのリスク軽減を 選択する顧客が用いる 可能性の高い手段や方法 確定給付年金(DB)基金 負債管理型投資 著しい分散投資 フィデューシャリー・マネジメント 極端なシナリオを使ったストレス・テスト 長寿保険/スワップ 保険会社による完全または部分的な年金バイアウト 元本保全戦略 確定拠出年金(DC)基金 投資助言組込型商品 著しい分散投資 元本保全戦略 高流動性戦略 フィデューシャリー・マネジメント 極端なシナリオを使ったストレス・テスト 上値・下値を制限する仕組商品 個人顧客 著しい分散投資 投資助言組込型商品 元本保全戦略 上値・下値を制限する仕組商品 高流動性戦略 明確な限界値のあるストップ・ロス 非対照のオプション 0 出典 :プリンシパル・グローバル・インベスターズ/CREATE調査報告書2012 (Principal Global Investors/CREATE Survey 2012) 20 10 20 30 40 回答者の割合(%) 50 60 57%はDBによる負債管理型投資 の利用を予想 55%はDCによる投資助言組込型 商品の利用を予想 2番目に、 フィデューシャリー・マネジメントがオランダ以外で広まるでしょ 48%は個人顧客の著しい 分散投資を予想 個人顧客が最も用いる可能性の高いリスク軽減手段としては、回答者の3 う。新しい運用委託では資産運用会社のインセンティブと顧客のソルベン 割以上が投資助言組込型商品、元本保全戦略、仕組商品を挙げています。 シー比率がリンクするためです。最後に、 ストレス・テストはマクロ経済だけ この理由は確定拠出年金(DC)の場合と同様です。 でなく地政学的要因も重視するようになるでしょう。 米国以外に、香港、オランダ、英国で新規制によって投資助言のインフラの 確定拠出年金(DC)が最も用いる可能性の高いリスク軽減手段としては、回 改善が見込まれる点は注目に値します。従来、顧客が売却や換金の助言を 答者の3人に1人以上が投資助言組込型商品と元本保全戦略を挙げていま 受けることは稀でした。助言を受けたとしても、 アドバイザーの選択肢は利 す。 この背景にはターゲット・デート型ファンドの人気の高まりがあります。 益相反の影響を受けていました。 このように、新しい手段は従来の手段と共 ターゲット・デート型ファンドは顧客の年齢に応じて資産配分を変化させ、 に進化していくでしょう。 それによって群集心理や1990年代に非常によく見られた弱点を最小化し ています。 これらの商品の一部は退職後の収入と、段階的変化の様々な局 インタビューからの引用: 面での投資元本の保全とを目標とすることで、簡易的な負債管理型投資と なるでしょう。 これらの利用は米国からオーストラリア、香港、オランダ、韓 「過去10年間、リスクはリターンを生みませんでした。そのため 国、台湾、英国にも広まるでしょう。 資産運用会社にとっては証拠を示すという重荷が増えています。」 欧州大陸では今後3年間に、ベルギー、フランス、 ドイツ、イタリア、スカン ジナビア諸国を中心として確定拠出年金(DC)市場が急拡大する見込みで 「リスクとチャンスを同一視したら失敗します。今やリスクは未知 す。現状は投資元本の保全が重要な目標であり、その手段として保険契約 の結果も意味します。」 が選好されています。 しかし、市場の拡大によって多様化が進み、 オーストラ 「中年の危機」 を経験していませ リア、英国、米国のような加入者個人が全リスクを負う加入者主導のDC向 「現在のリスク軽減手段の大半は け商品が欧州大陸でも増えてくるものと見込まれます。 ん。最終的に何をもたらすかは不明です。」 俯瞰すると・ ・ ・ 史上最大の借金(債務)の山が非常にゆっくりとしたペースで崩れつつありま しています。従来のバランス型運用委託に類似した広範囲の分散投資が出現 す。政策担当者は現在、 グローバル経済の活性化手段を持ちあわせていませ していますが、資産がより広範囲である、戦術的偏向を多用する、ベンチマー ん。国のバランスシートを改善するためには成長が必要です。債務を蒸発さ クが絶対リターンである、絶対リスクを重視するという4点が異なります。 せるためにはインフレが必要です。不確実性を軽減するためにはデフォルト が必要です。弱小国が自国の経済力を超えて存続することがないようにする ためには構造改革が必要です。 しかし、実際には、改革は後退しています。 当社の顧客は、 「市場リスク」 という言葉は上手くいかない可能性のあるあら また、 リターン向上を目標とするポートフォリオにリスク・バジェット (リスク許 容量)のアプローチを組み込んだ負債重視の投資手法を用いる顧客が増えて います。負債管理型投資は当初、金利水準が高く、金利低下の蓋然性が高いと いう状況下で、欧州のDBプランの間で人気が出ました。 しかし、低金利の現在 ゆることを意味するのだと身を持って学びました。つまり、通常のマクロリスク も、積立比率の変化要因の最大80%が金利変動である時代に、顧客は依然と 要因から考え得るよりもはるか遠くを見るということなのです。何事もリスク して資産を負債に固定して相対リターンや関連ベンチマークのくびきから逃 の源や蓋然性、影響、緩和手段を知らない限りチャンスとはなりません。当社 れようとしています。 の顧客である確定給付年金(DB)基金は全般的にはリスク軽減を行っていま す。発生の有無がわからない偶発的要素があまりに多いためです。 もしこの偶 発的要素が発生すれば、ポートフォリオが壊滅する可能性もあります。 リスク を軽減し、 負債領域を広げることが賢明です。 このため、顧客は資産配分手法を変更しつつあります。すなわち、配分の基準 を資産クラスからリスク・バジェット (リスク許容量)に変更しています。 アルフ ァの創出要因と滅失要因を識別するために、あらゆるものにストレス・テスト また、 フィデューシャリー・マネジメントにも興味を示す顧客も存在します。そ れは中小規模の年金プランで、彼らには現在のボラティリティの高い環境下 で目標を達成するためのスキルも、ガバナンスも、敏捷性もありません。 これ らの年金プランは適切な専門知識を利用してその過程で規模の経済を生か す健全な方法として、 フィデューシャリー・マネジメントを捉えています。 グローバル規模の年金運用コンサルタント を徹底的に実施し、 リターンの最大化よりもリスクの最小化に重点が置かれ ています。 この新しい手法は、確定給付年金(DB)においてはマルチ・アセッ ト・クラス・ファンド、確定拠出年金(DC)においては分散成長ファンドを選好 21 慎重さが新たなスローガンだとしても、 次の相場上昇をみすみす見逃す顧客セグメントはない どの顧客セグメントも、平均回帰性の威力を無視することは賢明ではない うと予想しています。資産サイドの価値の下落と負債サイドの割引率の低 ことを学びました。最後に現れるのは常に本源的価値であるためです。 しか 下のダブルパンチに見舞われた最大の犠牲者である年金プランがこれら し、過去3年間にリスクオンとリスクオフがランダムに入れ替わったことを を選ぶでしょう。 鑑みると、 これを頼ることも同様に賢明ではありません。 確定拠出年金(DC)については、回答者のほぼ半分がターゲット・デート型 オポチュニズムが広く一般化するとみられますが、現時点では顧客のポー ファンドへの段階的変化戦略の導入によってリスク軽減を図るものと予想 トフォリオを著しく変えるほど極端ではありません。株式のボラティリティが しています。 シカゴ商品取引所のVIX指数(恐怖指数)で30%近く低下し、2012年1月20 日につけた心理的境界を下回ったことは歓迎すべき状況です。 これを形勢 の大転換と捉える資産運用会社もありますが、嵐の前の静けさと捉える資 産運用会社もあります。 インタビューからの引用: 「リスクの振り子が間違った方向に行き過ぎたために過剰反応が 2011年8月に起きたような市場のメルトダウンが再発しなければ、3種の顧 起きています。」 客セグメントのすべてが今後3年間にポートフォリオのリスク拡大を図るだ 「最も安全なソブリン債ファンドが6カ月間で70%も下落してい ろうと回答者は予測しています(図2.4)。 ます。」 確定給付年金(DB)については、回答者の3人に1人以上が絶対リターン (45%)、制約のない運用委託(37%)、ヘッジファンドのようなアクティブ戦 「リターンを左右するのは参入と手仕舞いのタイミングがすべて 略(34%)、確信度重視の運用(32%)の4種類の戦略のうちひとつ以上を行 です。」 図2.4 確定給付年金(DB) ポートフォリオのリスク拡大を 選択する顧客が用いる可能性の 高いツールや方法 絶対リターン戦略(Liborプラス等) 制約のない運用委託(ベンチマークにとらわれない) アクティブ戦略(ヘッジファンド等) 確信度重視の運用 景気循環に伴うボラティリティの型 ボラティリティ指数(VIX指数追随、S&P 500等) デリバティブ、 レバレッジ、 ショートを使う戦略 確定拠出年金(DC) 動的な段階的変化戦略 絶対リターン戦略(Liborプラス等) 確信度重視の運用 制約のない運用委託(ベンチマークにとらわれない) アクティブ戦略(ヘッジファンド等) 特定のセクター、 テーマ、地域を追求するテーマ型投資 景気循環に伴うボラティリティの型 個人顧客 アクティブ戦略(ヘッジファンド等) 絶対リターン戦略(Liborプラス等) 特定のセクター、 テーマ、地域を追求するテーマ型投資 制約のない運用委託(ベンチマークにとらわれない) 確信度重視の運用 動的な段階的変化戦略 ボラティリティ指数(VIX指数追随、S&P 500等) 0 10 20 30 回答者の割合(%) 出典 :プリンシパル・グローバル・インベスターズ/CREATE調査報告書2012 (Principal Global Investors/CREATE Survey 2012) 22 40 50 45%はDBが絶対リターン戦略を 使うと予想 48%はDCが動的な段階的変化戦略 を使うと予想 34%は個人顧客がアクティブ戦略を 使うと予想 これらの基金は、あらかじめ設定した退職後の収入を目標とすることによっ 立派なスタイル・ボックス (投資スタイル)型投資は妥当性を失っているとい て加入者の潜在的負債をベンチマークとすることを目指す簡易的な負債管 うことです。米国以外では、スタイル・ボックス型投資は、少なくとも現時点 理型投資を採用することが見込まれます。 また、重大なマーケット・イベント では魅力を失っています。 が発生した場合には、損失を回避するためにあらかじめ設定した資産配分 方法を変更する裁量が認められるでしょう。 このような変化は英国と米国で もうひとつは、カナダ、日本、韓国、英国、米国のDBプランでは、役員のキャ 進んでいます。 しかし、オーストラリア、オランダ、 スカンジナビア諸国の信託 リアリスクや評判リスクのために冒険主義的になることは困難だということ 銀行主導の年金プランでは、確信度重視の運用の方がより一般的になるも です。中には委員会の構造上、 または母体企業のコベナンツ上、定期的なリ のと見込まれます。 オーストラリアでは過去4年間に、相対リターンを追求す バランス以上のことが認められず、 しかも大掛かりな見直し後でなければ る従来の株式70:債券30の資産配分方法の弱点が露呈されました。退職年 行えない年金プランも存在します。 リスク拡大に必要な敏捷性が全く欠け 金基金は現在、消費者物価指数プラス3%を目指す、 より動的なアプローチ ています。 を検討しています(29ページ参照)。 インタビューからの引用: 最後に、個人顧客については、 リスクを拡大する確率は低いとみられます。 回答者のほぼ3人に1人は、個人顧客がアクティブ戦略(34%)、絶対リター 「大量の資金が信号が青に変わるのを待っています。誰も相場の ン戦略(28%)、 またはセクター別や地域別のテーマ型投資を行うと予想し 上昇に乗り遅れたくないのです。」 ています。 このようなリスク拡大は欧州と米国で見られる可能性が高いでし ょう。ただし、顧客は高い確信度を求めており、 これについては第4章で取り 上げます。 「遅かれ早かれ、年金基金はリスクを拡大するか、母体企業に追 加資金を求める必要があります。」 調査後のインタビューから2つのポイントが明らかになりました。ひとつは、 過去の実績が将来の参考にならない現在の投資環境においては、外見の 「後から考えると、市場の混乱期は格好の参入時期でした。」 俯瞰すると・ ・ ・ DCプランは誰が投資リスクを負うかという点で、DBプランとは大きく異なりま したがって、今後3年間は次の2つのイノベーションが見込まれ、 このどちらも す。 しかし、だからと言って、イノベーションを借用できないということではあり 段階的変化戦略に内在するリスク・アプローチを改善するでしょう。 ません。 ひとつは、DBプランの負債に似た退職収入の明確なベンチマークがターゲッ あらかじめ設定した段階的変化の仕組みを持つターゲット・デート型の確定 ト・デート型ファンドにも導入されるものと思われます。資産配分は結果重視 拠出年金(DC)基金は、加入者個人が資産配分を決める従来のアプローチよ となり、退職前の収入と比較して受諾可能な最低レベルの退職後収入の実現 りも優れていることが明らかになりました。 この「設定するだけ」の仕組みによ を目指すでしょう。 この潜在的収入代替率は事実上、負債のベンチマークとな って、投資家のリスク特性は年齢に応じて適切に変化し、当初の積極的な株 り、それに照らし合わせて資産配分を任意で調整するようになるでしょう。 式運用から退職時期に向って慎重な債券運用に徐々に移行します。 これによ って1990年代にまん延した群集心理に流された誤った資産配分を回避して います。 もうひとつのイノベーションは、 この結果生まれる動的な段階的変化の仕組 みによって、確定拠出年金(DC)に簡易的な負債管理型投資が登場すること です。 これによって、成長資産を資金化し、それを担保に金利スワップを取り ボラティリティの観点から見ても、年金基金のこのようなやり方は他の利点も 組むようになるでしょう。成長資産を売却して債券を購入する現在の方法で 生んでいます。すなわち、あらかじめ設定した資産配分方法に従って、相場が は、退職時期に近づくと資産を増やすことができないのです。 下落すれば株式を買い、上昇すれば売却するやり方です。 このように自動的に 行われるリスク軽減は、2008年の市場の暴落の余波の中でも有益であったこ とが証明されています。 これらは今や、さらなる改善を見せる見込みです。段階的変化の仕組みは目 標退職収入よりも目標退職時期を重視し過ぎているとみなされています。退 現在の段階的変化戦略の持つ自動的なリスク拡大の仕組みによって、 リター ンを向上してあらかじめ設定した所得代替率を目指すための任意的要素が 具体化するでしょう。 英国の資産運用会社 職収入は明示的ではありません。 また、 この段階的仕組みは相場の激変時に 累積した利益を保護する自動的な仕組みを具備していません。 23 3|事態を受け入れる は、2009年に株式をオーバーウエイトし リスク軽減とリスク拡大の結果 どうなるか? た後、23%も上昇しました。 要旨 逆 張り投 資 は 儲 かります 。当 ファンド インタビューからの引用 顧客はボラティリティのプラス面を見ていますが、同時に不確実性に苦し められています。 経済見通しに関して市場のコンセンサスがないことは、市場は当面どちら の方向にも動き得ることを示唆しています。2009年以来、 リスクオンとリス クオフの入れ替わりが常態化し、行動を起こす勇気のある者にとっては割 安な投資対象を生み出しています。 とりわけ、 このようなサイクルは投資展 望の重要な特徴となるでしょう。 このような背景から、本章では顧客が次の目的で用いる可能性の高い戦略 を明らかにします。 ●短期的なオポチュニズム: これには市場のタイミング、ポートフォリオ のリバランス、 またはこの両方が含まれるでしょう。 これらはリスク拡大や 既存リスクからの追加リターンの捻出を伴うと思われます。 24 ●中期的な資産配分: これには個別資産クラス戦略やマルチ・アセット・ クラス戦略が含まれると思われます。 ●ターゲット・デート型ファンドを用いるDCは段階的変化の仕組みを通じ てリスク拡大とリスク軽減を自動的に行うでしょう。 ●加入者個人が資産配分を決めるDCも、任意でリバランスを行うでしょう。 ここでは、次の4種類の投資家セグメントに着目します。 ●確定給付年金(DB) ●確定拠出年金(DC) ●個人顧客 ●富裕層 ただし、 ターゲット・デート型ファンドが次第に既定の選択肢となるにつれ、 いずれは任意部分が縮小する可能性が高いといえます。 個人顧客 個人顧客は短期的にはオポチュニズムに走るものの、全体としては慎重な 方向へ偏るものと予想されます。ただ、欧米とアジアでは明確な違いがみら 重要な調査結果 れるでしょう。 確定給付年金 (DB) 銀行はバーゼルIIIの新自己資本比率を達成するために資産担保証券や貸 欧米の顧客は過去の損失の後遺症と目前に迫った退職を意識して過度に 付金から撤退するとみられます。 これに対応して確定給付年金(DB)は、ディ 慎重な姿勢をとっています。大きな集団が間もなく年金積立局面から年金 ストレス債券、ハイ・イールド債のほか、不動産、 プライベート・エクイティ、 受取局面に移行する見込みですが、彼らも好機があればリスクオンの姿勢 商業用不動産ローン、ローン担保証券(CLO)、シニア債務の「セカンダリー で投資するでしょう。 市場」などクレジット分野を対象にリスクを拡大し、オポチュニスティックな 投資を行う可能性が高いとみられます。 これとは対照的に、 アジアではリスク軽減、 リスク拡大といった概念は現地 の現実からかけ離れています。顧客の性癖がすべての投資行為を決定して このようなオポチュニズムと共に、楽観的思考の確定給付年金(DB)は中期 おり、オポチュニスティックな投資一色です。金融教育が進まない限り、 この 的な資産配分における株式の比重を著しく高めるものとみられます。株式 状態は変わらないでしょう。 はこのところの氷河期から抜け出すかもしれません。 富裕層 将来に関して悲観的な確定給付年金(DB)は株式の最小分散ポートフォリ 富裕層もボラティリティが原因で極めて慎重な姿勢を続ける見通しです オ、マクロ・ヘッジファンド、 グローバル戦術的資産配分(GTAA)戦略、 ディス が、短期的なオポチュニズム投資は行うでしょう。先進国市場の富裕層は資 トレス債券を選好するとみられます。 産アドバイザーがボラティリティをチャンスに変えてくれると信じています。 新興国株式は新たな市場の勢いから利益を獲得するコスト効率的な手段 一方、新興国市場の富裕層は、顧客の利益に逆らって働く構造的な力が最 であるETFを通して買われるでしょう。ただし、ETFはボラティリティの原因と 近のリターンの悪さの原因だと考えています。 リターンの向上には、貯蓄文 して懸念されています。 レバレッジ型ETFは市場追随的ではなく市場先導的 化から長期投資文化への素早い移行が必要です。 とみなされています。 確定拠出年金 (DC) 確定拠出年金(DC)は多様であることから、採用されるアプローチも様々と なるでしょう。 保険契約を通じて名目リターンを保証する確定拠出年金(DC)はすでにリ 株式はこの50年間で最も投資妙味が 高くなっています。 インタビューからの引用 スク軽減を図れており、今後も変化はないとみられます。 信託銀行が運営する確定拠出年金(DC)はポートフォリオのリスク軽減を 目指す一方で、必要に応じて必要な時にリスク拡大が可能な形で投資する でしょう。 加入者個人が運営する確定拠出年金 (DC) は次の二つの方向に進むでしょう。 25 株式は反騰し、クレジット商品の投資妙味も高い 確定給付年金(DB)が選択する可能性の高い資産クラスは何かと質問した これらの数字の裏側には、5つの重要なポイントが隠れています。 ところ、回答者は短期的なオポチュニズムを目的としたものと、中期的な資 産配分を目的としたものに分かれました(図 3.1)。 第1に、株式は強気相場の時代が来るはずだと広く考えられています。2008 年以降、ボラティリティの増大でパニック売りした投資家は一掃されていま 「冒険主義者」と「実利主義者」 (19ページ)は前者を選ぶ可能性が高く、 す。株式相場は2009年3月に付けた安値から2倍近くに上昇しているにも 「純粋主義者」は後者を選ぶ可能性が高いとみられます。 かかわらず、米国だけを見ても株式投資信託は2008年以来、資金の流出が 続いています。恐怖感からファンダメンタルズが見えにくくなっています オポチュニズムを目的に選ばれる可能性の高い資産クラスは、 次の6種類です。 が、 「実利主義者」によると、3∼5年のスパンで見ると株式は割安に見える ●ディストレス債券(43%) と言います。「実利主義者」は1926年以降ボラティリティの高い銘柄を上 回るパフォーマンスを上げている株式の最小分散ポートフォリオを選好 ●ETF(37%) し、すでにリバランスに取り掛かっています。 「純粋主義者」は株式の最小 ●新興国株式(30%) 分散ポートフォリオ、マクロ・ヘッジファンド、 グローバル戦術的資産配分 (GTAA)戦略、ディストレス債券を選好するでしょう。 ●ハイ・イールド債(29%) ●通貨ファンド(29%) インタビューからの引用: ●ヘッジファンド(27%) 「株式相場が反転する素地は十二分に整っています。債券価格は 理論を無視しています。」 一方、資産配分目的で選ばれる可能性の高い資産は、次の4種類です。 ●グローバル株式(58%) 「2000年以降、我々のポートフォリオでは現金が株式のパフォー ●新興国市場の売上のあるグローバル株式(54%) マンスを上回っています。」 ●高配当株式(46%) ●新興国株式(43%) 「リスクを取らずに高いリターンは得られません。しかし、そのリ スクの正体と、その結末を知る必要があります。」 図 3.1 確定給付年金 (DB) が短期的なオポチュニズム目的と中期的な資産配分目的に選ぶ可能性が最も高い資産クラス・一般商品 グローバル株式 新興国市場の売上のあるグローバル株式 高配当株式 新興国債券 新興国株式 インフラストラクチャー 不動産(償還間近の商業用不動産ローン担保証券を含む) グローバル戦術的資産配分(GTAA)商品 投資適格債 国債 株式指数/エンハンスト型株式指数 プライベート・エクイティ ヘッジファンド ハイ・イールド債 コモディティ・ファンド オポチュニズム ETF 通貨ファンド 資産配分 ディストレス債券 -50 出典 :プリンシパル・グローバル・インベスターズ/CREATE調査報告書2012 (Principal Global Investors/CREATE Survey 2012) 26 -40 -30 -20 -10 0 10 回答者の割合(%) 20 30 40 50 60 58%はDBが資産配分に 43%はDBがオポチュニスティック 37%はDBがオポチュニスティック グローバル株式を用いると予想 投資にディストレス債券を用いると予想 投資にETFを用いると予想 第2に、確定給付年金(DB)はクレジット分野でも利回りを追求してリスク量 ボラティリティの原因として懸念されています。 レバレッジ型とインバース を高めつつあります。銀行がバーゼルIIIの新自己資本比率を達成するため 型ファンドはETF資産の3%を占めるに過ぎませんが、売買高の約15%を占 に資産担保証券や貸付金から撤退し、 「カバードボンド」に入れ替えれば、 めています。投資家の平均保有期間は3日で、 プレーンバニラ型ETFの16日 プライベート・エクイティ、商業用不動産ローン、ローン担保証券(CLO)、シ と比較して短期です。 ニア債務の「セカンダリー市場」のリターンは高まるものと見込まれます。 今後5年間に欧州だけでも1.5兆ドル余りのクレジット商品が市場に出てく 最後に、確定給付年金(DB)については、幅広い分散投資を用いるようにな るとものと思われます。投資家はすでに1,250億ドル規模のジャンク債に目 るにつれ、他の資産クラスがあるなかで、一つの資産クラスに集中すること をつけています。 また、借り手は融資に比べて債券の方が利率が高く、取引 はますます誤ったものとなっています(下の「俯瞰すると・・・」を参照)。旧来 プロセスが迅速で、債券市場での流動性が高いことから、債券を選好して 型のバランス型運用委託は多様な資産クラスや戦術的偏向、絶対リスク重 います。 これらは株式市場よりもはるかにリスク拡大的となるでしょう。 視を組入れて生まれ変わる段階にあると思われます。 第3に、新興国市場の投資の50%程度はETFを通じて行われるでしょう。ETF インタビューからの引用: は割安な選択肢と高い流動性によって市場の流れの突然の変化から利 しかし、欧米に関 益を得ることを目指しています。さらに、S&P500指数のパフォーマンスは 「クレジットのファンダメンタルズは良好です。 する不合理な恐怖感に足を引っ張られています。」 2008年以降、BRICs市場の株式を大幅に上回っており、新興国市場はもは や甘いものではありません。先進国市場との相関は0.9近くまで一貫して上 昇しています。 「我々は資産運用会社でなくファンドを選びます。こうすること で、かなり安いコストで、分散したポートフォリオから多くのオポチ 第4に、ETFは功罪半ばすると捉えられつつあります。投資を細分化し、指数 ュニズムを生みだせます。」 を上回るパフォーマンスを出すと言うよりも指数を追跡し、複数の市場に低 コストで投資できるという利点は広く認識されています。 しかしその半面、 「指数はETFによって過剰に煽られています。ETFは市場を追跡 するのではなく、市場を先導してしまっています。」 俯瞰すると・ ・ ・ 当年金基金の積立比率はダブルパンチを受けました。年金の目標利回りが 12%であるのに対して、S&P 500指数はこの10年間、配当の再投資を含めても 年2.7%のリターンにとどまりました。年金債務の計算には8%の割引率を使用 していましたが、 これも楽観的すぎることが判明しました。 これは2011年に大 きな損失を出す前のことです。現在の積立比率は極めて低く、大きな変化が ジット分野から撤退すれば、 クレジット分野はチャンスであるとみています。 市場は急展開し得るため、 この分散方法には時間的要素も組み込まれていま す。 このため、 グループ内に現金や米国債のような短期資産、安全・高配当の 株式といった中期資産、非常に割安な長期資産が混在しています。 ない限り、積立不足の解消には30年を要します。 このため、資産配分方法を変 また、我々はグループ内でもグループ間でも著しい分散投資を行っています。 更しました。 まず、ボラティリティと資産クラスの相関は過去の基準に従うとい つまり、単一資産クラス戦略とマルチ・アセット・クラス戦略のいずれも含まれ う考え方を改めました。我々は5つのリスクグループを採用することで、 これま ています。金を含み、低リスク資産にレバレッジをかけるリスクパリティ・ポー での資産の分散からリスクの分散へと変更しました。 トフォリオも含まれます。 また、 グループ内やグループ間でオポチュニスティッ 1番目のグループはボラティリティが極端な時期に即座に流動性を提供する 資産です。 これには現金と米国債が含まれます。2番目のグループはコモディ ティやインフラストラクチャーといったインフレ対応資産が含まれます。3番目 のグループは安定的なキャッシュフローを創出する固定利付債券です。4番目 のグループには高い非流動性プレミアムが得られる土地建物や森林等の不 動産が含まれます。5番目のグループは株式等の成長資産が含まれます。現在 クなリバランスも行います。 リーマン・ショックの直後には極めて慎重になりま したが、現実が見えてくるにつれ、ボラティリティが消え去らない以上、事態を 受け入れてやっていくしかないと悟りました。現在はトラッキング・エラーやイ ンフォメーション・レシオ等のベンチマークに関する指標に替えて、絶対リス クに着目した指標を導入しているところです。 米国の公的年金基金 は米国経済が回復間際であるとみて、資産の大きな部分をこの成長資産グル ープに配分しています。 このグループは過去3年間にわずかな回復を見せま したが、今後3年間に普通では考えられない2度目の回復を見せる可能性が あります。 また、バーゼルIIIに基づき銀行がバランスシート強化の目的でクレ 27 確定拠出年金(DC) では任意のリスク拡大より 自動的なリスク拡大が優勢に 現在、世界の確定拠出年金(DC)は大きく3種類に分類されます。ひとつは これらの運用戦略は様々なリスクグループにわたってきわめて幅広い分散 事業主主導の制度で、事業主が名目的な投資利回りを保証します。 このよう 投資を行いつつ、定期的に戦術的偏向を加えることが可能です。 このグルー な年金制度はベルギー、チリ、デンマーク、 ドイツ、スロベニア、スイスで一 プの他の国々もポートフォリオ全体のリスク軽減に伴ってこれに続くと思わ 般的です。 れますが、 チャンスが到来すればリスクを拡大する柔軟性を維持しています。 中間に位置づけられるのが合同運用を行う信託銀行主導の制度で、投資 一方、加入者主導の制度では部分的なオポチュニズムが見られるでしょう 判断は信託銀行に委ねられるか、 またはデフォルト (初期設定)の選択肢と (図3.2)。 ここでは自動的手段と任意的手段の両方が用いられるとみられ しますが、加入者がすべてのリスクを負います。 この制度はオーストリア、オ ます。自動的手段はターゲット・デート型ファンド、 ターゲット・リスク型ファ ーストラリア、南アフリカで見られます。 ンド、 ターゲット・インカム型ファンドに組み込まれた、あらかじめ決められ た段階的変化の仕組みが中心となります。 この仕組みは相場の下落時に株 もう一方の極端な制度が加入者主導の制度で、加入者が個人勘定を通じて 式を購入し、相場の上昇時に売却することによって、ポートフォリオのリバラ 投資を選択し、すべてのリスクを負います。 このような制度は香港、 アイルラ ンスを行います。 これらのファンドは英語圏の国々で普及が進むとみられ、 ンド、 日本、 スウェーデン、英国、米国で一般的です。 これらの国々では投資助言組込型商品と捉えられています。一方、 これらに 最も近い競合商品である分散成長ファンドはきわめて幅広い分散投資を 確定拠出年金(DC)はこのように多様であることから、今後3年間のリスクに 行い、欧州大陸諸国で人気が出るものと思われます。 対するアプローチも多様となるでしょう。 これらを順に見ると、事業主主導の制度は本来の性質上、すでに初めから インタビューからの引用: リスクが軽減されています。 これらの年金の大半は法律に従って長期保険 「信託銀行はリスクを個人に押しつけたいのです。確定拠出年金 契約に投資し、固定金利付債券を重視しています。 (DC) の中間部分はいずれ縮小すると思います。」 一方、信託銀行主導の制度では分散化が進むでしょう。オーストラリアの年 金基金は株式70:債券30の資産配分を止める見通しです。 この資産配分 「個人が自分で年金プランを管理する場合、資産配分とタイミン は2008年のリーマン・ショック後にリスクが過大であることが判明しました グの選択に失敗し、結局は積立残高が増えません。」 (次ページ「俯瞰すると・・・」を参照)。今後は英国の分散成長ファンドや米 国のマルチ・アセット・クラス・ファンドに類似した形態に移行するでしょう。 「確定拠出年金 (DC) では的確なリバランスを行わない限り、オポ チュニズムは高くつきます。」 図3.2 確定拠出年金 (DC) が短期的なオポチュニズム目的と中期的な資産配分目的に選ぶ可能性が最も高い資産クラス・一般商品 ターゲット・デート型退職ファンド 株式 分散成長ファンド 債券 ターゲット・リスク型退職ファンド カスタマイズ投資プラン/自己管理プラン ターゲット・インカム型退職ファンド 保証付き保険契約 オポチュニズム 据置年金 資産配分 現金類似商品 -20 -10 0 10 20 回答者の割合(%) 出典 :プリンシパル・グローバル・インベスターズ/CREATE調査報告書2012 (Principal Global Investors/CREATE Survey 2012) 28 30 40 50 60 52%はDCが資産配分にターゲット・ 49%はDCが資産配分に株式ファンド 20%はDCがオポチュニスティック デート型ファンドを使うと予想 を使うと予想 投資に株式ファンドを使うと予想 また、任意的なリバランスは、香港、英国、米国のように加入者自身が自己 確定拠出年金(DC)はいずれ事業主主導の制度と加入者主導の制度に二 の資金を管理する年金制度で行われるでしょう。個人顧客と同様に(30ペ 極化していくでしょう。 ージ参照)、高値で買って安値で売るという群集心理に駆られた投資行動 を取りがちなため、常に不注意からポートフォリオを消耗してしまいます。 インタビューからの引用: この対応策として、米国の2006年年金保護法では公然とターゲット・デート 型ファンドを推奨しており、英国の「全国雇用貯蓄信託」 (National Employ- 「事業主主導の制度とは立派に聞えますが、投資内容が貧弱で利 回りの低い預金口座のようなものです。」 ment Savings Trust、NEST) でも同様です。 このため、 ターゲット・デート型ファンドはいずれデフォルト (初期設定)の 「信託銀行主導の制度は慎重すぎるか (欧州) 、 リスクが高すぎるか 選択肢として普及するものと見込まれます。信託銀行主導の制度もいずれ (オーストラリア) のどちらかです。2つとも変わりつつあります。」 は同じ方向に向かう可能性が高いでしょう。現状の積立残高が低すぎて退 職時にまともに加入できないとみなされているためです。 「確定拠出年金(DC)のある大半の諸国ではいずれ、ターゲット・デー ト型ファンドがデフォルト (初期設定) の選択肢になるでしょう。」 俯瞰すると・ ・ ・ オーストラリアの多くの退職年金基金の投資戦略は、標榜していることと実際 が活況のうちはこの画一的方法でもうまくいきましたが、2008年の大暴落以 の行動が異なっているように思われます。 降は大いなる反省をもたらしました。ある州政府の年金基金は、米国で一般 ほぼすべての年金基金がインフレ率プラス3%を目標利回りとしているもの の、一般的には毎年、他の年金基金と比較され運用・評価されています。加入 的なライフサイクル型投資に着目するという大胆な行動をとり、業界の横並 び競争から離脱しました。他の年金基金もすぐに追随するでしょう。 者は別の年金基金に乗り換えることもできますが、実際にそうする人はほと したがって、確定拠出年金(DC)は徐々にではありますが、多様化が進むとみ んどいません。 このため、少なくとも最近までは横並び意識を減らそうとする られます。信託銀行が管理する年金プランと並行して、 自己管理型の年金プラ 圧力はほとんどありませんでした。その結果、多くの年金基金が短期志向に陥 ンが出現し、合同運用資産と並行して、 ライフサイクル型商品が出現し、機械 り、加入者が期待するリターンの創出よりも、基金の財務リスクや役員のキャ 的なデフォルト型のファンドと並行して、投資助言組込型が出現するでしょう。 リアリスクを心配するようになっています。 現状の業界構造は強気相場でしか機能しないため、年金基金同士の統合が 年金基金は通常、株式70:債券30の機械的な資産配分をデフォルト (初期設 加速すると思われます。 定)の選択肢としています。加入者の80%超がこの選択肢を選ぶため、 この資 年金基金が現在抱える重要な課題は2つあります。株式リスクにより長年パフ 産配分は年金基金全体の資産の70%を占めています。 このように年金基金が ォーマンスが落ちているポートフォリオはリスク軽減が必要だということと、 横並び状態を取って来たので、株式の分散化されていないリスクの大きさは シンプルなキャッシュ商品が5%近くの利回りを稼ぐ時代に、絶対リターンを 長い間無視されてきました。それでも、ほぼ毎年2桁のリターンを実現できる 生む洗練された投資方法を見つける必要があるということです。 著しい強気相場が続いた1990∼2007年のような時期には、問題が表面化し ませんでした。 しかし、それ以降の運用実績は平均を下回る状態が続いてい ます。 このデフォルト型のファンドの大半は目標実質利回りを達成できないだ けでなく、低コストのキャッシュ・ファンドのパフォーマンスすら下回る時期が 5年、7年、10年と続いています。 年金基金は資産配分手法を再検討することでこれに対応しています。分散成 長ファンドの形で旧来型のバランス型運用委託が再導入されつつあります。 この目的は、定期的な戦術的転換が可能な幅広い種類の資産を含む個々の リスクグループを通じて、幅広い分散投資を達成することにあります。 リスクパ リティ・ポートフォリオは安全資産にレバレッジをかけています。欧州や米国 多くの人がスウェーデンや英国、米国の民間退職年金プランに似た「自己管 のように、幅広い商品構造の中でリスク拡大とリスク軽減が可能な新しい形 理型退職年金基金」 (Self-Managed Super Fund) での資金運用を選ぶのも 態の分散投資がオーストラリアでも出現しつつあります。 無理はありません。 この選択肢は開始時期が遅かったにもかかわらず、すで に1.4兆豪ドルに達するオーストラリアの退職年金資産全体の3分の1超を占 オーストラリアの資産運用会社 めています。 もうひとつの要因は、画一的なアプローチにあります。各加入者の資金は年 齢や経済状況、退職ニーズにかかわりなく同じように運用されています。市場 29 リスクによって分かれるアジアと欧米のリテール市場 個人顧客が選ぶ投資は慎重サイドに偏るとみられます。回答者の46%は、 しかし他方では、 このところの回復が本格的な強気相場への変化の兆しで 個人顧客が中期的な資産配分で元本保全商品を選ぶと回答しています。 ま あるとすれば、 リスクオンの時期が断続的に生じる可能性が高いでしょう。 た、34%は節税効果のある商品を選ぶと予想しています(図3.3)。 過去の状況から判断すると、 このような一時的なリスクテイクの拡大には、 ただし、オポチュニズムが失われる可能性は低く、次の4つの戦略がとられ 市場のタイミングとポートフォリオのリバランスを行う株式のアクティブ運 る可能性が高いとみられます。 用ファンドやパッシブ運用ファンドが用いられるでしょう。その過程で、 リテ ●23%はインデックス・ファンドと回答 ール分野のロングセラーであるスタイル・ボックス(投資スタイル)型投資 は人気を失うと思われます。個人マネーはこれまで以上に反応の鈍さが薄 ●22%は株式と債券のアクティブ運用と回答 れ、大きなリスクを取る場合は素早く稼ぐことを期待するでしょう。 ●22%はテーマ型ファンドと回答 ●19%はヘッジファンド型の手段を用いる投資信託と回答(レバレッジ、空 2つ目の顕著なポイントは、 アジアの個人投資家に関してですが、中国、 イン ド、日本、マレーシア、シンガポール、台湾といった様々な国で2つの共通し 売り、デリバティブ等) た特徴が見られることです。 調査後に行ったインタビューでは、 アジアと欧米で明らかに異なる2つの顕 著なポイントが明らかになりました。 ひとつは、家計の金融資産の最大55%が預金口座に預けられていることです。 リ ターンが相応で、元本が保証されていることがひとつの要因です。日本でさえ0% ひとつは、欧米の個人投資家に関するポイントです。全体として、欧米の個 に近い金利ですが物価下落のおかげで実質的にプラスのリターンとなります。 人投資家のこれまでの投資行動はジグザクに揺れていました。 一方では、欧米の個人投資家は過去10年間の2回の弱気相場で被った損 失の後遺症から、極めて慎重になっています。特に、2008年に米国の複数 のマネー・マーケット・ファンドの単位当たり純資産価値が1ドルを下回る 「 元本割れ」を起こした時に、彼らの持っていた信頼感は打ち砕かれました。 インタビューからの引用: 「米国の個人マネーの大半は年金積立局面から年金受取局面に 移りつつあります。リスク回避はきわめてリアルな問題です。」 ボラティリティの高い時期が長引くなかで、個人資産の大半を握る高齢者 「過去に大きな損を出し、一部の個人顧客は失望して市場を去る のリスク許容度は特に低下しています。市場が回復すれば多くの人がポー でしょうが、多くは次の反騰で最後の宴を楽しみたいのです。」 トフォリオのリスク軽減を図るでしょう。完全に投資を打ち切り、平易な貯蓄 を選択する人も出て来るはずです。2008年以降、欧米のミューチュアル・フ 「X世代 (1960年∼1974年生まれ) とY世代(1975年∼1989年 ァンドで大量の資金流出が続いていることは、新たな長期下降トレンドの 生まれ) は目立ちません。まだ彼らの投資額は小さいのです。」 出現を示唆している可能性があります。 図3.3 個人顧客が短期的なオポチュニズム目的と中期的な資産配分目的に選ぶ可能性が最も高い資産クラス・一般商品 元本保全型ファンド 節税効果のある退職者向けファンド(米国のIRA(個人退職勘定)等) 株式・債券のアクティブ運用 ヘッジ手段を用いたミューチュアル・ファンド(Newcits等) インデックス・ファンド テーマ型ファンド(シャリア指数、社会的責任投資(SRI)、環境等) -30 -20 -10 0 20 10 回答者の割合(%) 出典 :プリンシパル・グローバル・インベスターズ/CREATE調査報告書2012 (Principal Global Investors/CREATE Survey 2012) 30 オポチュニズム 資産配分 30 40 50 46%は個人顧客が資産配分に 23%は個人顧客が 22%は個人顧客が 元本保全型ファンドを使うと予想 オポチュニスティック投資に インデックス・ファンドを使うと予想 オポチュニスティック投資に アクティブ運用ファンドを使うと予想 もうひとつの共通の特徴は、長期投資文化の欠如です。 ミューチュアル・ファ さらに、 アジアの機関投資家は最近幅広い分散投資に乗り出したことから、 ンドの平均保有期間は4∼12カ月、 ミューチュアル・ファンドの平均販売期 もはや債券重視、横並び志向、国内重視が中心ではなくなっています。大手 間は2年半程度です。大半の投資家は銘柄選択と集中投資だけに頼ってい ファンド販売会社は集中投資とモメンタム投資から投資家の関心を変える ます(下の「俯瞰すると・・・」を参照)。すべての投資行動がオポチュニステ マルチ・アセットクラス・ファンドを導入しつつありますが、機関投資家はこ ィックに見えるうえ、 リスクテイクや行動バイアスが蔓延しています。 このた れと肩を並べる存在となっています。 め、顧客のポートフォリオは2007年以降ひどく傷んでいます。機関投資家を 除けば、 リスク拡大やリスク軽減の概念は限られた有効性しか持ちません。 インタビューからの引用: 国内市場のボラティリティが高いために、 この特徴は見えにくくなっていま す。2008年以降のBRIC市場のボラティリティはS&P500の4倍に達していま 「ウォーレン・バフェットのようにアジアの投資家は集中投資を選 すが、投資助言のインフラは限定的です。銀行が販売を牛耳り、販売手数料 で びますが、スキルがなければ宝くじを買うようなものです。」 けており、依然としてプロダクト・プッシュが強力に働いています。 しかし、風向きが変化する兆しも見えています。インドでは販売手数料やト 「アジアの個人投資家は群集心理のために大変な損失をこうむり レイル・コミッション(継続的に支払う運用報酬)、解約手数料が廃止され、 ます。カジノのような心理状態に陥るためです。」 これによって最終顧客に忠実な新世代のゲートキーパーの成長が促され るでしょう。その他のアジア諸国でも力強い国内ファンド産業を育成するた 「金融教育を押し進めない限り、中国はファンド界の超大国には めの一連の対策のひとつとして、同様の動きが計画されています。 ならないでしょう。」 俯瞰すると・ ・ ・ 中国では、 リスク拡大やリスク軽減といった概念は、現世代の個人投資家の投 で、市場のタイミングによる一獲千金を狙ってボラティリティの低い銘柄より 資行動からかけ離れています。 も高い銘柄を好みます。 また、値下がりしている銘柄はすぐに反騰すると考え 彼らは長年にわたり、銀行の預金口座が提供するプラスの利回りと元本保証 て、手放さない傾向にあります。 に慣らされてきました。投資の世界に足を踏み入れたものの、バリュー投資も 特に強く見られるのは、市場環境や本源的価値とは無関係に、 ミューチュア タイミング投資も受け入れない投資手法が災いしています。人々は最大利益 ル・ファンドの純資産価値が1.0を下回るときには手放さずに、1.0を超えたら とは正反対の選択肢を選んでいます。 売却する傾向です。 例えば、 ミューチュアル・ファンドが販売されているにもかかわらず、個人投資 最悪なのは、低位株シンドロームともいうべき無意識の嗜好があることです。 家は詳細なファンダメンタルズ分析よりも、有力情報、 ラッキーナンバーや新 つまり、低位株がいつかは値上がりして高位株に匹敵するはずだと考えて、低 規株式公開を根拠に少数の銘柄に大金をつぎ込むことを選びます。最近のデ 位株への投資を好むのです。往々にして高位株がベンチマークとして使われ ータによると、香港のすべての投資家が保有する銘柄数の中央値は4銘柄で、 ます。 投資額の中央値は15万香港ドルです。 もちろん、価格混乱を逆手に取るのは良いことで、価格混乱は過去10年間、中 多くの投資家がリターンの主な源泉は銘柄選択だと信じて、企業固有のリス 国の株式市場の特徴でした。 しかし、彼らの投資手法を導く行動原理は、利益 クに過大なエクスポージャーを持っています。資産配分の概念はまだ定着し よりも損失を招く蓋然性が高いといえます。 ておらず、あらゆる新興国市場を定期的に襲うマクロリスクの概念も定着して いません。 さらに悪いことに、投資家は市場が好調な時でも自分の銘柄選択の手腕を高 く評価する傾向があります。例えば、上海総合指数は2009年に80%反騰しまし たが、投資家の82%は最大50%しか利益を上げていません。4分の1近くは年 他のBRIC諸国のように、中国でもミューチュアル・ファンド産業が離陸する時 機が来ています。 しかし、金融リテラシーが向上し、投資助言のチャンネルが 改善しなければ実現しないでしょう。 中国のファンドアドバイザー 間のリターンがマイナスでした。 欧米の個人投資家と異なり、中国の投資家はボラティリティに魅力を感じがち 31 過去10年の大損失を受け、富裕層は注文の多すぎる 投資家に豹変する 2008年には、あらゆる地域で、富裕層はとりわけ多額の損を抱えました。株 ただ、市場が最近回復の兆しを見せるのに伴い、オポチュニズムが戻って 式や、ヘッジファンド、通貨ファンド、 プライベート・エクイティなどのオルタ います。 しかし、自分たちの資産アドバイザーがボラティリティを投資機会 ナティブ投資に偏っていたためです。富裕層も個人投資家と同様に、当面 に変える能力を身に付けたと納得しない限り、富裕層が投資を本格化する は慎重サイドに偏るでしょう (図3.4)。 ことはないとみられます。 これについては次の章で取り上げます。 ●回答者の55%は富裕層が元本保全型ファンドに投資すると予想 一方、新興国市場では、富裕層やその資産アドバイザーは過去の損失から ●42%は富裕層がキャッシュプラス商品に基づく消費者物価プラス3%の 大いに反省を強いられました。両者は賢くなり、 リスク拡大やリスク軽減に 注目するのでなく、染み付いた過剰と過少の思考を避ける投資文化の育成 ベンチマークを目指す絶対リターン・ファンドを選ぶと予想 について話し合っています。 ●35%は富裕層が「ディストレス」不動産に投資すると予想 その一方で、富裕層は割安な投資が現れればオポチュニスティックに投資す インタビューからの引用: る可能性も高いといえます。 コモディティ・ファンド (特に金) 、 インデックス・フ 「富裕層は資本からの利益よりもむしろ資本の払い戻しを望んで ァンド (特にETF) 、通貨ファンド、ヘッジファンドが上位に来るでしょう。 います。」 表面的には、 これらの結果から地域間の明確な相違は窺えませんが、イン タビューでは先進国市場と新興国市場で明らかな違いを感じ取りました。 「欧米の市場サイクルはアジアで増幅されます。デカップリング の兆しは見えません。」 欧米の先進国市場では、過去の損失による心理的打撃がきわめて大きく、 資産アドバイザーに対する信頼感の喪失はより深刻でした。 「インドの新興富裕層はボラティリティで二重に損しました。」 このため、2008年以降は流動性の高いシンプルな元本保全商品が好まれ ています。また、欧州を中心に、 「リスクオン」の時期には短期的にETFに投 資する傾向もみられます。 図3.4 富裕層が短期的なオポチュニズム目的と中期的な資産配分目的に選ぶ可能性が最も高い資産クラス・一般商品 元本保全型ファンド 絶対リターン/リアルリターン・ファンド 不動産 ヘッジファンド 株式・債券のアクティブ運用 株式指数 コモディティ・ファンド (金を含む) 通貨ファンド オポチュニズム プライベート・エクイティ 資産配分 インデックス債 -40 -30 -20 -10 0 10 回答者の割合(%) 出典 :プリンシパル・グローバル・インベスターズ/CREATE調査報告書2012 (Principal Global Investors/CREATE Survey 2012) 32 20 30 40 50 60 55%は富裕層が 元本保全商品を選ぶと予想 42%は富裕層が 絶対リターン・ファンドを選ぶと予想 31%は富裕層が オポチュニスティック投資に コモディティ・ファンドを使うと予想 これらの諸国が貯蓄文化から離れ、投資家の弱点を最小化し長期投資が の利益は損なわれています。 しかし、投資のインフラ全体を変える必要性は 報われる投資文化への移行を加速するのであれば、注目すべき対象は資 十分に認識されています。 産アドバイザーではなく、むしろ構造的要因にあります(下記参照)。 インタビューからの引用: ブラジル、チリ、中国、インド、インドネシア、韓国、台湾といった様々な国で は急速に高齢化が進むなか、国内の高水準の貯蓄が生産性の低い資産へ 投資され、低いリターンしか得られない状況を断ち切るために、継続的改 「投資家は常にバックミラーを眺めています。」 革を実施しようとしています。各国とも特に米国とオーストラリアを中心に、 欧米全般の投資文化の要因を研究しています。 「要するに、今の短期貯蓄者を長期投資家に変える必要があり ます。」 徐々にではありますが、改革は現実化しようとしています。市場の高いボラ ティリティと低い金融リテラシーという致命的な組み合わせによって、顧客 「資産運用会社が活況時に超過リターンを実現できないならば、 不況時にどうやって実現するのかと顧客によく聞かれます。」 俯瞰すると・ ・ ・ インドの株式市場はジェットコースター並みに変動しました。センセックス 30種株価指数は2007年に約22,000のピークを付けた後に急落し、1年後 には8,000の底に達しました。2010年末にはピーク水準まで回復したもの の、2011年には欧州債務危機で再び20%下落しました。 それ以降、相場は反発しましたが、強気相場に変わる兆しはありません。簡単 に言えば、 この回復は流動性のなせるわざで、最近の流入資金の大半は米国 の低金利とインド国内のルピー安を活かしてキャリートレードを行う外国の 専門業者によるものです。 品の販売期間はこれまでの平均の2年半を超えることはなさそうです。 専門家はよく新興国市場を資産アドバイザーにとっての宝の山のように言い ますが、彼らは伝統的貯蓄文化の威力という障害を無視しています。 これまで 長年にわたり貯蓄が元本保証と利息を提供してきたため、投資文化のリスク・ リターンの計算はまだそれに対抗できません。 貯蓄から投資への移行には6つの追い風が必要です。すなわち、信認を抱か せるような長期の強気相場、個人に責任を負わせる強制的な退職プラン、税 制上の優遇措置による必要なインセンティブの提供、群集心理による投資行 当社の顧客は様子見を決め込んでいます。その理由のひとつは、少し前の大 動を最小化する高レベルの投資リテラシー、賢い資産選択を可能にする投資 きな損失の記憶にあります。もうひとつは、 ミューチュアル・ファンドの手数料 助言のオーバーレイ、正確な決算書を作る適切なコーポレート・ガバナンス( が廃止され、投資助言ベースの手数料が導入されたことによる予想外の結果 企業統治)が必要とされています。 です。手数料として資産の2.5%も徴収されることを知った富裕層が、定期預 金に最大10%(高齢者はさらに0.5%を上乗せ)を支払う銀行に押し寄せてい るためです。 現在のところ、刺激的な宣伝や強欲や恐怖感から来る 「市場を上回れ」的な従 来の思考はあまり目立ちません。投資家も資産アドバイザーも賢くなってい ます。資産アドバイザーは手数料の廃止を全般的には歓迎しており、投資家 教育を開始して長期投資の思考を根付かせるためには必要なステップだと 考えています。 また、規制当局は、顧客ニーズや資産運用会社の実績と無関係に、手数料の インドでは、 この1番目は当面見込めず、2番目は現在計画されていませんが、 残る4項目については かながらも明らかに前進しています。ただ、国内株式 市場のボラティリティが極端なために、その効果が薄められることもあるでし ょう。 この2つの文化を結ぶ道程はまっすぐではないでしょう。インドは資産アドバ イザーにとって次のゴールドラッシュとなるかもしれませんが、それには時間 がかかると思われます。 インドの資産アドバイザー 最も安い資産運用会社に顧客資金を預けるような暗黙のオークションが販売 会社によってこれ以上行われないようにしたい意向です。 富裕層が定期預金に引き寄せられている一方で、超富裕層は警戒心を抱き ながらも、株式と債券を組み入れた資産配分ファンドと、確信度重視の運用 戦略という2種類の商品を通じて市場に戻りつつあります。ただし、彼らはこの いずれに対しても月並みな運用成績では絶対に満足しないため、典型的商 33 4|ビジネスモデルの再構築 資産運用業界がボラティリティにう 資産運用会社のなすべきこと まく対応できるようになるには、多 要旨 くの心理的障害を取り除く必要があ ります。 インタビューからの引用 第2章では顧客の様々な見方を明らかにしました。多くの顧客は米国の景 気改善を信じており、おそらくポートフォリオのリスク拡大を図るでしょう。 「冒険主義者」と「実利主義者」はその可能性が高く、「純粋主義者」は その可能性が低いとみられます。 しかし、顧客は決して無条件にボラティリティを投資機会として捉えている わけではありません。 2000年代は顧客にとって 「失われた10年」でした。彼らは2010年代に同じ 轍を踏むつもりはありません。 もし現在が長期的なボラティリティ増大の時 代であるならば、顧客は資産運用会社が資産を増やせると納得すれば、断 続的な価格混乱を逆手に取ろうと考えるでしょう。 34 したがって、本章では資産運用会社が顧客の信認水準を引き上げるため 2番目のグループは、共同投資やより釣り合いのとれたインセンティブ体系 に必要だと考える変化に焦点を当てます。 を通じて利益の整合性を高めることを目的とするものです。 ここでは、2つの具体的問題を取り上げます。 3番目のグループは、敏捷性を高め、自由な思考と確信度重視の運用を促 すことを目的とするものです。 ●ボラティリティから利益を得るときに資産運用会社が直面する主な外的 および内的障害 ●この障害を克服するために資産運用会社が講じるべき対策 4番目のグループは、顧客ニーズをよく理解し、 リターンに関する非現実的 な要求を回避することを通じて顧客との関係を深めることを目的とするも のです。 重要な調査結果 外的・内的障害 各グループとも明らかに避けて通れない 第1に、 アルファの基準は見る人によって異なります。顧客は商品のアルファ この10年間、資産運用会社はグローバルに事業を展開し幅広い顧客基盤 とソリューションのアルファを徐々に区別するようになってきています。商 をもつマスマーケット向けの産業に姿を変えるにつれて、ボラティリティ 品のアルファとは市場を上回ることを意味しますが、 ソリューションのアル の荒波を乗り越えるために必要な職人技の伝統の多くを失ってしまいまし ファはリターンの一貫性やカスタマイズしたベンチマークなど、特定の顧客 た。 ニーズに応えることを意味します。 このどちらの種類のアルファについても、 期待値の設定・管理には顧客との距離を縮めることが不可欠です。 その予想外の結果として、外的要因と内的要因が重なり合って顧客との直 接的な接点が失われ、釣り合いのとれないインセンティブが生まれる悪循 第2に、資産運用ビジネスには強い回復力が必要です。投資能力の向上は 環に陥りました。 「失われた10年」の後には不信感という苦い負の遺産が残 スキルだけにとどまらず、現在のような波乱の時代に不可欠な緩衝装置を されました。 提供する様々な分野も含まれます。 主な外的要因としては、顧客の行動バイアス、顧客のリスク回避、機関投資 第3に、投資専門家は口で言うだけでなく実際に証明しなければなりませ 家の制約的なガイドラインが挙げられます。 アクティブ運用の実績が劣って ん。釣り合いのとれない報酬は信頼感もモチベーションも生みません。 いることも重なりました。 各資産運用会社の主な内的要因としては、ボラティリティ投資の確かな実 績の欠如、戦術的資産配分能力の欠如、染み付いた長期保有の思考、 スタ イル・ボックス(投資スタイル)型投資への固執が挙げられます。 必要な対策 この悪循環を断ち切るには、相乗効果を上げるような複数の変化が必要不 可欠です。 この変化は次の4グループに分類されます。 顧客が必要とするものと我々が顧客に与える ものの間には、大きなギャップがあります。 インタビューからの引用 1番目のグループは、価格混乱や確信度重視の運用といった特定分野の投 資能力の向上を目的とするものです。 35 ボラティリティをチャンスに変える際に立ちはだかる主な障害 調査後のインタビューの中で繰り返されたテーマは、投資ビジネスの工業 化によってボラティリティによって稼ぐことを難しくさせる悪循環が生まれ ているということです。 この悪循環は、ボラティリティ運用をする際に資産運 内的制約 内的制約として、資産運用会社の51%はボラティリティ投資に関して優良な 実績が無いことを挙げています。 用会社が直面する外的障害と内的障害が組み合わさると、 さらに加速します (図4.1) 。 49%は戦術的資産配分能力の不足を挙げています。 外的制約 47%は価格混乱期に投資機会を逃すような長期投資の思考が染み付いて まず、主要な外的制約として、資産運用会社の59%は、安値で買って高値で いることを挙げています。 売るというあたりまえのことをしばしば無視する顧客の行動バイアスを挙 げています。顧客は強欲と恐怖感のサイクルに駆られて、最大の利益となる 43%は資産クラス間の相関が高く、 リスク・プレミアムが不明瞭な中でのス 選択肢と正反対の選択肢を選びがちです。 タイル・ボックス (投資スタイル)型投資への固執を挙げています。 53%はリーマン・ショック (2008年) とソブリン債務危機(2011年)の後遺症 としてのリスク回避を挙げています。 インタビューからの引用: 「我々が必要としているのは顧客の忍耐です。ニュースが24時間 47%は市場を上回るはずのアクティブ運用の運用実績が全般的に劣ってい ることを挙げています。 (業界平均を基準とする)ピアベンチマークや市場 ベンチマークのようなあやふやな価値に長年慣らされてきた顧客は、その 流され続けるので、顧客は常に一喜一憂し、投資に対する顧客の 時間感覚が歪められています。」 本来の限界を認識していません。 「当社には逆張り投資の発想がないため、ボラティリティに対応で 39%はリスク・パラメーターを制限する投資家のルールやガイドラインを きません。」 挙げています。 「この短期決済の世界では、顧客と当社の長期的関係は短い素っ 気ないものになってしまいました。」 図4.1 ボラティリティから利益を得る際に資産運用会社が直面する主な外的・内的制約 外的制約: 群集心理を招く顧客の行動バイアス 景気の不透明性に起因した顧客のリスク回避 アクティブ運用の実績が全般的に劣っていること 機関投資家のルールやガイドライン 積立水準の低さからリスクを回避しがちなこと ボラティリティへの恐怖感を るようなマスメディアの報道 内的制約: ボラティリティ投資に関する優良な実績の欠如 戦術的資産配分能力の不足 長期投資の思考が染み付いていること スタイル・ボックス (投資スタイル)型投資への固執 古いリスク手法に対する過度な依存 資産運用会社のスピードを遅くする社内の官僚主義 0 10 20 30 回答者の割合(%) 出典 :プリンシパル・グローバル・インベスターズ/CREATE調査報告書2012 (Principal Global Investors/CREATE Survey 2012) 36 40 50 60 59%は制約を与えるものとして 53%は制約を与えるものとして 51%は制約を与えるものとしてボラ 顧客の行動バイアスを回答 顧客のリスク回避を回答 ティリティ投資の実績の欠如を回答 この数字が出てくる背景にはいくつか要因がありますが、重要なのは年金 のほかに、投資顧問会社や資産運用会社の横並び化が一層深刻化してい 運用コンサルタントおよびファンド販売会社と顧客との直接的な接点が失 ます(「俯瞰すると・・・」を参照)。 また、 「後悔」 リスクや「誤ったタイミング」 リ われたことです。 これが原因で期待リターンが過度に上昇し、不信感という スクも増幅しています。ボラティリティは理論上も実際もチャンスであるこ 負の遺産が造られました。過去10年のボラティリティの高い環境では、特に とを顧客に納得させるためには、現在の契約の改善を進める必要がありま このことが顕著に見られました。資産運用会社としては、顧客の総体的ニー す。 このような改革を行っても、顧客はリスク拡大をすぐには納得しないで ズに関する知識が十分でないために、 プロダクト・プッシュ (作ったものを しょうが、 その可能性は高まります。 売る)に大いに依存しました。特に、欧州とアジアではこれが顕著でした。 インタビューからの引用: これは、混乱期に成功するために不可欠な前提条件、すなわち、顧客が選択す る際には本質的価値が重要であるのと同じく顧客の忍耐も重要であることを 「工業化によって市場の混乱を投資機会に変えるスキルが失われま した。」 無視していました。市場の低迷期には、顧客は本能的に出口に向かいます。 こ れは市場の好調時に換金の助言を受けることがほとんどなかったためです。 「顧客と同じように、多くの資産運用会社もピアリスクを考慮し横 並び化しています。」 直接の接点が失われたことによって、 よく知られたプリンシパル=エージェ ンシー問題(本人=代理人問題:依頼人の利益のために雇われているにも かかわらず、依頼人の利益に反して代理人自身の利益に走ってしまうこと) 「ピアベンチマークは捕えがたい力を持っていて、そこから距離 を置くには勇気が要ります。横並びにしておけばキャリア・リスクを うまくコントロールできるのです。」 俯瞰すると・ ・ ・ 資産運用がグローバル規模のマスマーケット向け産業に変化するにつれ、資 スキルに基づく確信度重視の運用を通じた絶対リターンの実現という本来の 産運用の工業化が進み、家内工業的な伝統が失われてしまいました。現在行 使命を見失ってしまいました。 われている方法の大半はボラティリティから利益を得るのとは逆の方向に動 いています。率直に言えば、我々はもはや必要な信頼感やモチベーションが生 まれるほど顧客との距離が近いとは言えません。 顧客との直接の接点が失われたことで、我々はソリューションではなく商品を 提供することを余儀なくされました。顧客の総体的目標を知らないために、 自 社商品の長所を誇張せざるを得ません。年金運用コンサルタントやファンド 資産運用業界は技巧・技能から科学に変わり、職人技から規模に変わり、人間 販売会社は自分たちが顧客や資産運用会社よりも物がよく分かっていると思 の判断から現実離れした複雑なモデルに変わりました。空売り、 レバレッジ、 っていますが、そうではありません。結果として、投資リスクよりもキャリア・リ ポータブル・アルファ、高頻度取引といった主要なイノベーションの一部は優 スクや評価リスクが優先する非難の文化が定着してしまいました。 「プリンシ れた新手法とみなされました。 しかし、価値の無いところからは価値を生み出 パル=エージェンシー問題」がかつてないほど深刻化しています。釣り合いの せないのはよくあることです。 この結果がシステミック・リスクや複雑な商品、 とれないインセンティブが横並びを助長してきた結果です。 手数料の引き上げなどにつながります。 顧客と同様に、投資顧問会社や資産運用会社も横並びの中にとどまり、群れ 1986年にダウ平均株価が導入された時、それは単なる市場を代用するもの から離れようとする者はいません。誰もが敢えて危険を冒すことを恐れていま に過ぎず、投資アイデアに使われるものではありませんでした。資産運用会社 す。大抵の場合、顧客の惰性に任せて何もしないという特性や市場の回復に のパフォーマンス評価や、市場を上回るという思考に力を与える目的で作ら 依存し、危難を回避しようとします。結局、顧客は相場のピーク時に換金を助 れたものではなかったのです。 しかし、そのうちに市場を上回るのは困難なこ 言されることはほとんどありませんでした。市場のボラティリティがこれほど とが明らかになると、進取的な資産運用会社は本源的価値にかかわらず、市 高い時に投資することを顧客に求めても、我々を信頼するはずがありません。 場の代表的リターンを最低コストで実現することはチャンスになると考えまし た。全体のバランスを踏まえた運用指示がスペシャリスト (専門担当者)から の運用指示に変わると、投資の全体像の理解は失われました。相関の本当の 原因や戦術的資産配分を理解する資産運用会社は、わずかしかありません。 2010年代を通じて高いボラティリティが続くとすれば、 この業界には大改革 が必要になるでしょう。工業化を後戻りさせることはできないものの、投資 結果に大きく影響する分野に現実主義を持ち込むことは可能です。過去10 年間の市場混乱が原因で、我々は定説や流行や常套手段にとらわれない新 顧客は不確実性に満ちた世界の中で確実性を求めています。顧客の欲しいも しい契約形態で、本来の使命に立ち返ることを余儀なくされています。我々 のと我々が顧客に与えられるものの間には、大きなギャップがあります。その は横並びに逆らって行動し、ファンダメンタルズに焦点を当てることを学ば ため我々は、 リスク・プレミアム、バーベル戦略、相対ベンチマークといった新 ねばなりません。 しい概念を作り出しました。また、年金運用コンサルタントやファンド販売会 社を通じた、投資助言の新しいインフラも作りました。 こうするうちに、我々は ドイツの資産運用会社 37 顧客との距離の短縮、新しい投資能力、共同投資の推進で 障害は克服できる この障害を克服するために、本調査では投資関連とビジネス関連の様々な 44%は低い手数料とハイ・ウォーターマーク方式の報酬を組み合わせる必 改革を見い出しました(図4.2)。 さらに分析を進め、 これを4種類のグループ 要性を挙げました。 また、42%は低い手数料とプロフィット・シェアリングの に分類しました。 組み合わせを挙げました。 1番目のグループは顧客に関する改革です。回答者の66%は、顧客の目標と これらの数字は避けて通れない3つの事実を示しています。ひとつは、顧客 課題に対する理解を深める必要性があると回答しました。 また、66%は顧客 との関係を深めない限り、長引くボラティリティ・リスクを受けて「悲観主義 との関係を深めることの重要性を挙げました。59%はリターンに関する顧 者」 (19ページ)に変わる投資家が増えるということです。顧客は時間に依存 客からの非現実的な要求に注意することが挙がりました。 する商品のアルファとニーズに依存するソリューションのアルファを徐々に 分別しつつあります。 2番目のグループは投資能力に関する改革です。54%はアクティブ運用の実 績を高める必要性を挙げました。53%は価格混乱を予想する専門能力を高 インタビューからの引用: める必要性を挙げました。 「当社の主力商品では2008年以降のパニック売りを生き延びる 3番目のグループはビジネスの敏捷性に関する改革です。49%は確信度重 ことはできませんでした。」 視の運用を促すような業務環境の重要性を挙げました。 「ボラティリティはチャンスなのか、災難なのか、それに答えるに 4番目のグループは利益の整合性に関する改革です。50%は、投資担当者 はスキルが必要です。」 は自分の運用するファンドに自分も投資しなければならないとするという 共同投資の必要性を挙げました。 「ボラティリティ・トレードが失敗すれば、その運用担当者が損を する必要があります。」 図4.2 顧客がボラティリティから利益を得るために資産運用会社が獲得すべき能力 投資関連: 顧客の目標と課題への理解を深めること リターンに関する非現実的な要求の回避 アクティブ運用の実績向上 価格混乱を予想する能力の向上 専門知識を高め共同投資を導入すること リスク拡大方法に関する高い専門知識 リスク軽減手段と方法に関する高い専門知識 新商品発売前のストレス・テストの強化 投資行動に関する透明性の向上 ビジネス関連: サービス向上を通じて顧客との関係を深めること 確信度重視の運用を促すような業務環境 低い手数料とハイ・ウォーターマーク方式の報酬 低い運用手数料とプロフィット・シェアリング コア能力への集中 人材の強化 専門知識を高めフィデューシャリー・マネージメントを提供すること サブアドバイザリー(運用再委託)業務の管理能力 0 出典 :プリンシパル・グローバル・インベスターズ/CREATE調査報告書2012 (Principal Global Investors/CREATE Survey 2012) 38 10 20 30 回答者の割合(%) 40 50 60 70 66%は顧客の目標と課題の 66%は顧客との関係を 54%はアクティブ運用の 深い理解が解決策と回答 深めることが解決策と回答 実績向上が解決策と回答 商品のアルファは市場を上回ることを意味しますが、 ソリューションのアル 3番目に、本格的にリスクを拡大するつもりなら、顧客は資産運用会社が口 ファは顧客ニーズに応えることを意味します。 このいずれについても、顧客 で言うだけでなく実証するところを確認したいと考えています。顧客は資産 との関係を深めることが必要です。定期的な運用報告だけにとどまらない 運用会社が自分で作った料理を自ら食べることを望んでいます。現状の釣 新たな関係構築方法を用いることで、顧客との直接的な接点が失われた現 り合いのとれない手数料体系は、多数の顧客が莫大な損を出した後には 状を改善する必要があります。 意味がなくなるという点で、 コール・オプションと似ています。 2 番 目 に 、高 い ボラティリティが 続く時 代 が 到 来しているの だとすれ 工業化を後戻りさせることはできないものの、工業化は職人技の最良の特 ば、2008年の金融危機以降シビアに試されている既存のビジネスモデル 長を取り戻すための動きを妨げるものではありません。 の中に、さらに優れた緩衝装置を作り上げることが必要不可欠です。業界 は見事に前進しています。2010年の調査報告書で示したように、マルチブ インタビューからの引用: ティック・モデルの採用は、敏捷性を獲得し大企業の環境の中で小企業の これまでの実績と共同投資で 思考様式を持つための重要な一歩です。 また、従業員に対し実力主義的な 「顧客は新たなリスクを取る前に、 あるかどうかを確認したいと思っています。」 インセンティブ体系を導入することも正しい方向への一歩です(CREATE調 査報告書2009年を参照) 。 「このビジネスのコストはひとつ減らせば別のものが出てきて、 しかし、資産運用業界が依然として既得権益の聖域と認識されていること なかなか減らせません。コスト自体が生き物なのです。」 は、最近の政治的反感や規制強化が示す通りです。優れた実践例を示すこ とによって、 この認識に反佀する必要があります。 「ボラティリティの威力を理由に、企業には新しい緩衝装置が必 要とされています。」 俯瞰すると・ ・ ・ ボラティリティの高い時期の投資は恐ろしいものです。当社の顧客は様々な イクルの様々な局面でうまくいくことと、いかないことを学び、契約書の細目 グループに分かれ、 リスク選好度の高いグループもあれば、皆無のグルー に埋もれがちな「健康被害へのご注意(リスクに関する注意事項)」を理解す プもあります。その中間を占める大多数の顧客は気まぐれな傾向がありま るためです。 す。2008年の大暴落後は割安な投資がいくらでもありました。 しかし、それを 顧客に割安だと説得できるほど、顧客との関係が深くありませんでした。顧客 の意識調査やフォーカス・グループによる調査を何度も行った結果、顧客は 特定のニーズに対するソリューションを求めており、それにはマルチ・アセッ ト・クラスの商品が必要な場合もあれば、単独型商品が必要な場合もあると いうことが明らかになりました。顧客はこのソリューションの一部として高いリ ターンを求めています。我々が顧客のニーズをどのように戦略的に理解して 市場は不安定な時期が長く続くと思います。絶対リターンや制約のない運用 委託が人気を呼ぶでしょう。当社の顧客の35%は自己の負債をベンチマーク として使っています。当社のなすべきことは2つあります。それは、顧客との関 係を深めることで混乱局面における顧客の安心感を高めることと、当社自身 の投資能力をアップグレードすることによって適正なリターンを実現すること です。 いるか、そのニーズにどのように応えるかという点も我々を判断する材料とし 当社のポートフォリオ・マネージャーとリサーチ・アナリストは資産の相関、 ています。 リスク・プレミアム、地政学的問題、システミック・リスク、バランスシートの力 当社の商品がどれほど優れていても、顧客がその本源的価値とタイム・ホライ ズンをある程度理解しない限りうまくいかない、 ということ気がついたのは突 然のことです。当社の商品は過去4年間のパニック売りとパニック買いを生き 延びることができませんでした。当社としては、新商品を導入する前に顧客ニ ーズの全体像を把握することも必要です。 そこで、当社は定期的なパルスサーベイ (意識調査)や、主要顧客とじかに接 触することを開始しました。新しいアイデアを求め、期待を管理し、 「誤った」 タ イミングのリスクを最小化し、特別なリサーチを提供し、目的に適った商品を 届け、先を見越して購入のチャンスを示すためです。 このアプローチは顧客に 学、行動バイアスおよびその他多数の内容に焦点を置いた新しいスキルの 開発を指示されています。当社の投資プロセスには、 リスク管理や顧客ニー ズを含めた様々な視点が盛り込まれています。また、新商品には極端なマク ロ経済環境と地政学的環境のシナリオを使ったストレス・テストを実施して います。 投資担当者は全員、ボーナスを自分の運用するファンドに投資することを義 務づけられており、中には自分の資産の80%を自分のファンドで運用する者 もいます。 スイスの資産運用会社 好評でした。 というのは、 これによって投資理念や投資領域を共有し、市場サ 39 付属資料 プリンシパル・グローバル・インベスターズとCREATEリサーチによる年次 なお、調査で用いた資産クラスの分類は時間の経過に伴って変化しているた 調査は2009年に開始されました。調査項目のうち複数時点で比較可能 め、一部の項目は比較データがなく、 「該当なし」 (n/a) と表示されています。 なものを付属資料として掲載し、時系列比較ができるようにしました。内 容は顧客が選択する資産クラスに関するデータです。顧客セグメント別 に、表A.1、A.2、A.3、A.4がそれぞれ確定給付年金(DB)基金、確定拠出年金 (DC)基金、個人顧客、富裕層を対象としています。 表A.1 確定給付年金 (DB) 基金が中期的な資産配分目的と短期的なオポチュニズム目的に選ぶ可能性が最も高い資産クラス 回答者の割合(%) 回答者の割合(%) 2012 2009 オポチュニズム 2012 2009 グローバル株式 58 61 ディストレス債券 43 59 新興国市場の売上のあるグローバル株式 54 n/a ETF 37 18 高配当株式 46 n/a 新興国株式 30 34 新興国債券 44 n/a ハイ・イールド債 29 51 新興国株式 43 40 通貨ファンド 29 25 インフラストラクチャー 43 n/a ヘッジファンド 27 21 資産配分 不動産(償還間近の商業用不動産ローン担保証券を含む) 40 48 コモディティ・ファンド 25 31 グローバル戦術的資産配分(GTAA)商品 38 42 新興国市場の売上のあるグローバル株式 21 n/a 投資適格債 37 53 グローバル戦術的資産配分(GTAA)商品 20 21 国債 35 40 グローバル株式 18 23 株式指数/エンハンスト型株式指数 34 32 高配当株式 17 n/a プライベート・エクイティ 29 34 新興国債券 15 n/a ヘッジファンド 29 30 株式指数/エンハンスト型株式指数 12 17 ハイ・イールド債 23 19 投資適格債 11 27 9 18 コモディティ・ファンド 18 32 プライベート・エクイティ ETF 16 32 不動産(償還間近の商業用不動産ローン担保証券を含む)7 20 通貨ファンド 10 21 インフラストラクチャー 6 n/a ディストレス債券 6 10 国債 6 13 出典 :プリンシパル・グローバル・インベスターズ/CREATE調査報告書2012および2009 (Principal Global Investors/CREATE Survey 2012 and 2009) 表A.2 n/a = 該当無し 確定拠出年金 (DC) 基金が中期的な資産配分目的と短期的なオポチュニズム目的に選ぶ可能性が最も高い資産クラス 回答者の割合(%) 資産配分 ターゲット・デート型退職ファンド 2012 2009 2012 2009 52 62 株式 20 30 オポチュニズム 株式 49 62 現金類似商品 18 25 分散成長ファンド 43 n/a 分散成長ファンド 7 n/a 債券 37 56 カスタマイズ投資プラン/自己管理プラン 7 10 ターゲット・リスク型退職ファンド 36 52 債券 6 13 カスタマイズ投資プラン/自己管理プラン 34 44 ターゲット・リスク型退職ファンド 5 15 ターゲット・インカム型退職ファンド 34 31 保証付き保険契約 5 16 保証付き保険契約 23 34 据置年金 4 13 据置年金 23 25 ターゲット・デート型退職ファンド 3 7 現金類似商品 18 38 ターゲット・インカム型退職ファンド 3 19 出典 :プリンシパル・グローバル・インベスターズ/CREATE調査報告書2012および2009 (Principal Global Investors/CREATE Survey 2012 and 2009) 40 回答者の割合(%) n/a = 該当無し 表A.3 個人顧客が中期的な資産配分目的と短期的なオポチュニズム目的に選ぶ可能性が最も高い資産クラス 回答者の割合(%) 資産配分 2012 2009 46 55 節税効果のある退職者向けファンド(米国のIRA(個人退職勘定)等) 34 株式・債券のアクティブ運用 32 回答者の割合(%) 2012 2009 インデックス・ファンド 23 23 53 株式・債券のアクティブ運用 22 39 49 テーマ型ファンド(シャリア指数、社会的責任投資(SRI)、環境等)22 n/a ヘッジ手段を用いたミューチュアル・ファンド (Newcits等)30 n/a ヘッジ手段を用いたミューチュアル・ファンド(Newcits等)19 n/a インデックス・ファンド 28 46 元本保全型ファンド 14 29 テーマ型ファンド(シャリア指数、社会的責任投資(SRI)、環境等)28 n/a 節税効果のある退職者向けファンド(米国のIRA(個人退職勘定)等) 6 13 元本保全型ファンド 出典 :プリンシパル・グローバル・インベスターズ/CREATE調査報告書2012および2009 (Principal Global Investors/CREATE Survey 2012 and 2009) オポチュニズム n/a = 該当無し 表A.4 富裕層が中期的な資産配分目的と短期的なオポチュニズム目的に選ぶ可能性が最も高い資産クラス 回答者の割合(%) 資産配分 2012 2009 元本保全型ファンド 55 40 絶対リターン/リアルリターン・ファンド 42 50 不動産 37 ヘッジファンド 回答者の割合(%) 2012 2009 コモディティ・ファンド (金を含む) 31 39 株式指数 28 23 46 通貨ファンド 28 39 30 31 絶対リターン/リアルリターン・ファンド 26 28 株式・債券のアクティブ運用 29 51 ヘッジファンド 24 30 株式指数 27 47 元本保全型ファンド 13 25 コモディティ・ファンド(金を含む) 20 32 株式・債券のアクティブ運用 12 28 通貨ファンド 11 32 不動産 9 26 プライベート・エクイティ 9 32 プライベート・エクイティ 5 27 インデックス債 6 32 インデックス債 3 18 出典 :プリンシパル・グローバル・インベスターズ/CREATE調査報告書2012および2009 (Principal Global Investors/CREATE Survey 2012 and 2009) オポチュニズム n/a = 該当無し 41 CREATEリサーチ (CREATE Research) による その他の刊行物 以下のレポート及びグローバル投資における新たなトレンドをテーマとした多数の論説、論文は、www.create-research.co.ukにて無料でご覧いた だけます。 ●投資イノベーション:引き上げられる要求水準(Raising the Bar) (2011年) ●不確実性時代の資産運用(Exploiting Uncertainty in Investment Markets) (2010 年) ●投資の未来:次の動きは?(Future of Investments: The Next Move?) (2009年) ●確定給付年金(DB) ・確定拠出年金(DC) プラン:実行力を強化する (DB & DC plans: Strengthening Their Delivery) (2008年) ●グローバルな資産分配:新たなフロンティアを結ぶ懸け橋(Global Fund Distribution: Bridging New Frontiers) (2008年) ●資金のグローバリゼーション:その課題とチャンス(Globalisation of Funds: Challenges and Opportunities) (2007年) ●オルタナティブ・ファンドとロング・オンリー型ファンドの収斂と乖離(Convergence and Divergence Between Alternatives and Long Only Funds) (2007年) ●ビジネス・ガバナンスの強化に向けて (Towards Enhanced Business Governance) (2006年) ●明日の顧客のための、明日の金融商品(Tomorrow s Products for Tomorrow s Clients) (2006年) ●コンプライアンスで発展を:規制に対するリスクベースのアプローチ(Comply and Prosper: A Risk-based Approach to Regulation) (2006年) 問い合わせ先: アミン・ラジャン教授 [email protected] 電話:+44(0)1892 52 67 57 携帯電話:+44(0)7703 44 47 70 42 ●ヘッジファンド:グローバル投資を一変させる触媒(Hedge Funds: A Catalyst Reshaping Global Investment) (2005年) ●パフォーマンス水準を引き上げる (Raising the Performance Bar) (2004年) ●革新的変化、進化的対応(Revolutionary Shifts, Evolutionary Responses) (2003 年) ●収益改善に向けて創造力を利用する (Harnessing Creativity to Improve the Bottom Line) (2001年) ●明日の組織:新たな発想、新たなスキル(Tomorrow s Organisation: New Mindsets, New Skills) (2001年) ●ファンド・マネージメント:新時代のための新技術(Fund Management: New Skills for New Age) (2000年) ●知識の創造と交流における優れた実践事例(Good Practice in Knowledge Creation and Exchange) (1999年) ●スキル競争(Competing Through Skills) (1999年) ●統率力(Leading People) (1996年) プリンシパル・グローバル・インベスターズは多角的な資産運用会社で、 プリンシパル・ファィナンシャル・グループ(Principal Financial Group®)のメンバーです。運用資産は2,582億米ドルに上り、主に退職年金基金やその他の機関投資家から受託し ています。 プリンシパル・グローバル・インベスターズは株式、債券、不動産投資のほか、専門オーバーレイおよびアドバイザリ ー・サービスも提供し、幅広い分野の運用能力を誇っています。 当社はお客様のために、優れた運用実績と顧客サービスの提供を重視しています。運用プロフェッショナル475名余りを含め た1,200名を超える有能な人材が世界各地のオフィスの協力的環境のもとで業務にあたっています。 グローバル規模の展開 から得られる高い情報収集力は、当社の投資ポートフォリオに関するリサーチや管理における強みとなっています。同時に、 お客様に対しては地域に根差したサービスを提供し、お客様の特定の目的や投資目標に合わせた運用を行います。 CREATE-Researchは、 グローバルな資産運用における戦略変化や新たなビジネスモデルを専門とする独立系シンクタンク で、著名な金融機関やグローバル企業向けの調査に取り組んでいます。 CREATE-Researchは、欧米諸国の信頼できる組織で決定権を持つ幹部の人々と密接な協力関係を築いており、その研究 は話題性の高いレポートやメディアからの注目が集まるイベントを通じて広く認知されています。 より詳しい情報について は、www.create-research.co.uk をご覧ください。