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皮膚を中心に診る職業アレルギー

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皮膚を中心に診る職業アレルギー
13_22_巻頭_総論_各論1 14.6.4 10:50 ページ 18
◆特集/職業アレルギー −環境要因も含むー◆
〓
1
皮膚を中心に診る職業アレルギー
Occupational allergy of the skin
松永 佳世子
1976 年名古屋大学医学部卒業
1991 年藤田保健衛生大学医学部皮
膚科講師
2000 年同教授,現職
2014 年藤田保健衛生大学副学長
研究テーマは,接触皮膚炎,皮
膚アレルギー,化粧品等の安全
性評価
藤田保健衛生大学医学部皮膚科学
まつなが
Key words :職業性皮膚疾患,アレルギー性接触皮
膚炎,光アレルギー性接触皮膚炎,アレルギー性蕁
麻疹,protein contact dermatitis
か よ こ
松永 佳世子
1.職業性皮膚疾患の分類と職業性
Abstract
職業性皮膚疾患は多岐にわたるが,アレ
アレルギー性皮膚疾患の種類および病態
ルギー機序で生じるアレルギー性接触皮膚
職業性皮膚疾患の種類は非常に多く(表
炎,光アレルギー性接触皮膚炎,アレルギ
1),これらの中で,アレルギー性皮膚疾患
ー性蕁麻疹,protein contact dermatitis, に
は,職業性アレルギー性接触皮膚炎,職業
ついて,日本職業・環境アレルギー学会ガ
性光アレルギー性接触皮膚炎,職業性アレ
イドライン専門部会監修の職業性アレルギ
ルギー性接触蕁麻疹,職業性 protein contact
ー疾患診療ガイドライン 2013 に基づき,疾
dermatitis に分類される
1,2)
。
患概念と原因物質,診断に必要な検査であ
アレルギー性接触皮膚炎は特定の人に起
るパッチテスト,プリックテスト,そして,
こり,免疫学的機序が関与する反応であり,
治療と管理についてポイントを述べた。
感作を必要とする。アレルギー性接触皮膚
炎の中で,紫外線が関与する場合を光アレ
ルギー性接触皮膚炎と呼ぶ。アレルギー性
はじめに
接触蕁麻疹では即時型アレルギーの機序に
職業と密接に関連した疾患を職業性疾患
より発現し,接触部位の膨疹誘発に留まら
と呼び,その中でアレルギー機序で発症す
ず,血管浮腫や全身の蕁麻疹に加えて,鼻
る疾患を職業性アレルギー性疾患と呼称す
炎や喘息症状,アナフィラキシーショック
る。昨年,日本職業・環境アレルギー学会
などの全身症状を併発することがあり,蕁
ガイドライン専門部会監修による「職業性
麻疹症候群と呼ばれている 。Protein contact
アレルギー疾患診療ガイドライン 2013」
1)
3)
dermatitis は蛋白質が原因アレルゲンとなり,
が刊行されたが,本稿では,このガイドラ
接触した部位に生じる反復再発性のアレル
インに沿って,職業性アレルギー性皮膚疾
ギー性接触皮膚炎を指すが,化学物質であ
患について特に重要なポイントを紹介する。
るハブテンを原因アレルゲンとした IV 型の
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◆特集/職業アレルギー −環境要因も含むー◆
表1
職業性皮膚疾患の種類
を起こす 3 大金属であり,パッチテストも陽
性になりやすい。
2)樹脂(レジン)
エボキシ樹脂,アクリル樹脂などによる。
樹脂によるものは,一次刺激性のこともア
レルギー性のこともあるが,多くはアレル
ギー性である。実際に触れる手のアレルギ
ー性接触皮膚炎として見られるほか,樹脂
は微細な粉として空気中にも浮遊するため,
顔面にも皮疹が見られる。工場現場以外に
も,歯科衛生士が樹脂を多く扱うために発
症する場合がある。
3)ゴム
ゴムによる特殊な,しかし重要な例とし
て,ラテックスアレルギーがある。I 型アレ
ルギーによる接触蕁麻疹や喘息様発作を起
文献1)p64 表 3-1 を引用改変
こし,リンゴ,バナナなどのフルーツアレ
ルギーも合併する(ラテックス・フルーツ
症候群)
。
アレルギー性接触皮膚炎とは異なる病態と
4,5)
4)農薬
。さらに I 型と IV 型のアレル
農薬によるものには殺虫剤や殺菌剤の化
ギー反応が混在した病態であると推察され
学熱傷,除草剤や抗菌薬のアレルギーがあ
考えられる
ている
4,6)
る。光接触皮膚炎を起こす場合もある。
。
5)切削油
2.職業性アレルギー性接触皮膚炎の原因
頻度が高いアレルギー性接触皮膚炎で
ある。
主な原因物質は金属,樹脂,ゴム,農薬,
切削油,植物などである(表2)。
6)植物
ウルシ,サクラソウ,キク,ハゼ,ツタ,
セロリ,マンゴーなどがある。
7)セメント
1)金属
金属による職業性アレルギー性接触皮膚
炎は多く,金属そのものに接触する場合よ
セメントは 6 価クロムによるアレルギー性
接触皮膚炎を起こす。
りも金属を含んでいるものに触れて起こる
ことが多い。例えば,皮革の接触皮膚炎は
3.職業性光アレルギー性接触皮膚炎の原因
混入する 6 価クロムによる。 ニッケル,ク
ロム,コバルトはアレルギー性接触皮膚炎
原因として,現在では,非ステロイド性
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◆特集/職業アレルギー −環境要因も含むー◆
表2
職業性アレルギー性接触皮膚炎の原因となる頻度の高いアレルゲン
文献1)p72, 表 3-3 を引用し一部改変
抗炎症薬(ケトプロフェン,スプロフェン),
抗菌薬や局麻薬などの薬剤,染毛剤や香
サンスクリーン製剤(オクトクリレン:ケト
粧品 などの日用品,食品添加物などに含ま
プロフェンと交差反応を起こす)が多い。
れる反応性の低分子化学物質は遅延型アレ
職業に関連して発症する可能性もあり注意
ルギー性の接触皮膚炎を起こすことが知ら
が必要である。
れるが,時にアレルギー性の接触蕁麻疹も
起こす。抗菌薬は本邦ではセフォチアム塩
4.職業性アレルギー性接触蕁麻疹の原因
酸塩,ピペラシリン,セフォペラゾン,ス
トレプトマイシンによりアナフィラキシー
主な原因アレルゲンとなる蛋白質は食物,
またはアナフィラキシーショックの報告が
植物,動物,小麦,穀類,天然ゴム製品な
あり,看護師が点滴製剤を調整中に発症し
どに含まれる。これらの蛋白質アレルゲン
ている。染毛剤に よる接触蕁麻疹の報告は
は,天然ゴム製品に含まれるラテックス蛋
ヘナ,パラアミノフェノール,パラフェニ
白質,その他の食物や動物に由来する蛋白
レンジアミン,パラトルエンジアミン,メ
質に大きく分類される。海外および本邦と
タアミノフェノール,オルトアミノフェノ
もに,ラテックスアレルギーは医療 従事者
ールが原因アレルゲンとして報告されてい
6−9)
。本邦の報告ではみられないが動
る。 接着剤に使用されるエポキシ樹脂につ
物の皮屑や尿,唾液などによるものは動物
いてもアレルギー性接触皮膚炎の報告が多
を飼育する実験室勤務者や獣医師,酪農従
いが,製造業従事者で見られたビスフェノ
事者に多い。本邦,海外ともに,食品であ
ール A 型による接触蕁麻疹の報告がある。
に多い
る肉類,魚介類,野菜果物については食品
医学中央雑誌にて 1982 ∼ 2012 年に報告さ
を扱う職業(調理師,パン製造,精肉業,
れた中で,職業性接触蕁麻疹の報告は 84 件
食品加工業,農業)に多いとされ ている。
あり,それらの原因アレルゲンを表 3 に示す。
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◆特集/職業アレルギー −環境要因も含むー◆
表3
職業性アレルギー性接触蕁麻疹・接触蕁麻疹症候群の原因アレルゲン
文献1)p76 表 3-7 を引用,一部改変
表4
職業性 protein contact dermatitis の原因アレルゲン
5.職業性 protein contact dermatitis の原因
6.職業性アレルギー性接触皮膚炎の原因を
確定するために有用な検査
肉,魚,果物野菜,穀類などの食物,動
アレルギー性接触皮膚炎の原因確定には
物の唾液や皮屑に含まれる蛋白質,ヘアケ
パッチテストが有用であり,光アレルギー
ア製品に含まれる蛋白加水分解物などの加
性接触皮膚炎には光パッチテストが有用で
工蛋白や,天然ゴムラテックス製品に含ま
ある。職業性アレルギー疾患診療ガイドラ
も職業性 protein
イン 2013 1) には,有用性のエビデンスレベ
contact dermatitis の原因アレルゲンとなり得
ル,パッチテストの手順,パッチテストの
れるラテックス蛋白質
10)
る。これらは次の 4 群に大別される
11)
。果
実際,パッチテストユニット,パッチテス
物・野菜・スパイス・植物の Group1,動物
トアレルゲン,パッチテスト施行時の注意
由来の蛋白質(肉類・魚介類・乳製品・唾
点,パッチテストの判定方法などが述べら
液・血液・動物の皮屑およびし尿)の
れている。
Group2,穀類の Group3,酵素の Group4 の 4
群である(表4)。
アレルギー性接触蕁麻疹および protein
contact dermatitis の診断にプリックテストが
有用である。前述のガイドラインにはプリ
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◆特集/職業アレルギー −環境要因も含むー◆
ックテストの手順と,注意点,粗抗原を用
(業務遂行性)が明確であることが認定の必
いたプリックテスト,プリックテスト判定
須要件であり,皮膚炎の場合にはこれらを
方法の詳細が述べられている。また,精製
証明することが困難であることが多いこと
抗原を利用したアレルゲン特異的 IgE 検査を
も事実である。
行い,感作状態を把握することは診断上有
用な情報を得ることができる。小麦やソバ
などの穀物特異的 IgE 検査は感度,特異度が
低い
12-14)
2)職業性アレルギー性接触蕁麻疹
原因アレルゲンを特定しそれらを回避・
。このため原因となるアレルゲンを
除去するための対応をとることが最も重要
精製あるいはリコンビナント蛋白質として
である。また,皮膚バリア障害の原因であ
作製し,特異的 IgE 検査に利用する試みがな
るアトピー性皮膚炎や刺激性皮膚炎を合併
され,molecular allergology と呼ばれている。
することが多いため,これらの症状を改善
リコンビナントアレルゲンを利用した特異
させるための対応が必要となる。
的 IgE 検査のうち保険適用されているものは
小麦依存性運動誘発アナフィラキシーの抗
文 献
原であるω-5 グリアジン検査のみである。
この検査により,感度,特異度ともに著し
く向上する 12,13)。いずれの場合も,陽性の場
合はプリックテストなどの他の検査を併せ
て行い,診断する必要がある。
7.治療と管理
1)職業性アレルギー性接触皮膚炎
発症原因と業務との因果関係(業務起因
性)がはっきりしている場合は,必ず患者
の所属している事業所の産業医ないし安全
衛生担当者 に連絡すべきである。被疑物質
が分からない場合には「化学物質等安全デ
ータシート(Material Safety Data Sheets ,
MSDS)」を送ってもらうように依頼する。
アトピー素因を持つ者などに対しては,皮
疹の悪化防止を念頭に置き,作業内容の変
更など適正な配置の必要性についても助言
すべきである。労災認定は業務起因性,そ
して業務中の作業によって発症したこと
22(634)
1)職業性アレルギー疾患診療ガイドライン 2013
作成委員:職業性皮膚疾患,日本職業・環境
アレルギー学会ガイドライン専門部会監修,
職業性アレルギー疾患診療ガイドライン 2013,
協和企画,東京 pp63-109,2013.
2)戸倉新樹.職業性皮膚疾患.日本皮膚科白書, 日
本皮膚科学会, 東京,pp127-34, 2005.
3)Maibach HI, Johnson HL. Arch Dermatol
111:726-30, 1975.
4)Doutre MS. Eur J Dermatol 2005; 15:419-24.
5)P. Hernández-Bel,J.de la Cuadra,R. García,V.
Alegre Actas Dermosifiliogr 102:336-43,2011.
6)McDonald JC,Beck MH,Chen Y,et al. Occup
Med 56:398-405,2006.
7)Turner S,Carder M,Van Tongeren M,et al. Br
J Dermatol 157:713-22, 2007.
8)Kanerva L,Jolanki R,Toikkanen J. Int Arch
Occup Environ Health 66:111_6,1994.
9)Niinimäki A,Niinimäki M,Mäkinen-Kiljunen S,
et al. Allergy 53:1078-82, 1998.
10)Kanerva L. J Eur Acad Dermatol Venereol 14:5046, 2000.
11)Janssens V,Morren M,Dooms-Goossens A, et
al. Br J Dermatol 132:1-6,1995.
12)Matsuo H, Kohno K, Niihara H, et al. J
Immunol 175:8116-22,2005.
13)Morita E,Matsuo H,Chinuki Y,et al. Allergol
Int 58:493-8, 2009.
14)Tohgi K,Kohno K,Takahashi H,et al. Arch
Dermatol Res 303:635-42, 2011.
アレルギーの臨床 34(7), 2014
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