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初等教育教員養成課程における授業科目 「ソルフェージュ」

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初等教育教員養成課程における授業科目 「ソルフェージュ」
初等教育教員養成課程における授業科目「ソルフェージュ」の
プログラム作成とその検討
一兵庫教育大学1年生の授業実践をとおして-
新山真弓*
(平成13年10月31日受理)
The Development of a Solfeggio-Training Program
at Hyogo University of Teacher Education
Mayumi NIIYAMA
The purpose of the present study was to develop a Solfeggio-Training Program and to examine its content
validity.16 subjects were recruited from the undergraduate population majoring in music education.
As a result of this study, the following four results were obtained:
l.The main contents included in the program were composed of (a)musical compositions, (b)listening for
musical tones, (c)mcreasmg harmony, (d)singing to piano accompaniments, and (e)arranging musical tones. The
musical compositions were associated with basic knowledge about music. Listening for musical tones consisted
of listening for a rhythm, melody, and harmony. They were asked to sing to piano accompaniments using
songs often taught in elementary schools, such as Momiji, Kokyo no hitobito, and Fuyu geshiki.
2. Their ability to listen for bass and soprano was observed to improve to a higher grade in two semesters.
However, subjects with low listening abilities could hardly discriminate between bass and soprano.
3. The better the subjects identified memoly and harmony, the better they could arrange minute chords.
4. Some subjects found it difficult to sing to piano accompaniments within a period given. However, an
appropriate instructional self-learning process was observed to make it possible to learn to sing to piano
accompaniments and arrange the original piece of music.
Included in the present program were the structures of musical compositions, musical forms, intrinsic
listening, and basic models leading to musical performance. As a result of actual practice in classroom
settings, the validity of this program was confirmed, since the program made it possible for them to acquire
an intrinsic sense of listening for to-be-learned music and thus enhance basic musical performance.
I問題の所在と目的
ソルフェージュは、音楽を学習するための必要な基礎
的能力と音楽に対する理解を深めるとともに、楽曲の音
認知力を通しての音楽(楽曲)構造把握力育成、音楽様
式把握力養成、内的聴覚養成、第2の目的は、その認知
的能力の判断力に基づいた応用練習として、演奏の基礎
楽的表現力を習得するための重要な授業科目である。
ソルフェージュの目的や内容に関し先行研究を概観す
的モデルをっくること、すなわち、練習曲として演奏ス
キルの基礎をっくるための音楽を実現する方向-の実践
ると次のような研究が認められる。例えば、加藤によれ
ば「音楽的な内容を的確に把握する能力を養うのがソル
的訓練による表現力育成である」2)としている。しかし、
日本のソルフェージュ教育の現状は、特設音楽科を設置
フェージュ教育の意義であり目的である」l)、また、三
好は総合的音楽理論教育を構想し「ソルフェージュの第
している高等学校は別として、ソルフェ-ジュが授業科
目として設定されていない。
1の目的は、音楽教育における認知的領域に主として関
わる教育方法であり、音高、リズムなど音楽構成要素の
本学の場合、ソルフェ-ジュ教育を入学時まで全く受
けていない学生は、着任した1994年度、芸術系音楽分
*兵庫教育大学学校教育学部附属実技教育研究指導センター(音楽教育分野)
-53-
2. 「ソルフェージュ」プログラムの内容的妥当性の検
野専修生の授業科目「ソルフェ-ジュ」受講生17名の
討
うち11名であった。また、ソルフェージュ教育を受け
た経験のある学生の状況を見ても、幼年期から継続的に
行ってきた学生は一人もいなかったOさらに、音楽専修
の希望順位は第1希望から第6希望までの広範囲に渡っ
ており、これらの傾向は今日においてもほぼ同様である。
義務教育等における音楽科授業の授業の内容として、
ソルフェージュを取り入れた授業は、著者の体験を回顧
してみてもなく、音楽科授業で最も多くの時間をかけて
行われたのは歌唱であった。唱法は「移動ド」唱法であ
り、階名で歌えるようになると、次に歌詞をっけ全体で
合わせる、そして、一応歌えたところでその学習は終了
1 )対象:兵庫教育大学学校教育学部芸術系音楽専修生
1回生16名
2)期間:1996年4月から1997年3月
3)授業計画:表1に示したプログラムに沿って実施し
た。 1学期(75分×10回)、 2学期(75分×10回)、 3学
期(75分×10回)
4)場所:兵庫教育大学芸術棟ML教室
5)指標:
(1)聴音
(9 1学期始・試験内容(語例1)
した。実は、この終了した時点から本当の音楽科教育は
(譜例1)
始まると考える。 「この歌はどこがクライマックスか」
「どんな気持ちで歌うのか」 「どこにアクセントをつける
のか」などを取り扱うことによって音楽科の目標により
接近できると思われる。
大月らの教員養成大学音楽専攻生の書取能力に関する
研究では、 「教員養成大学間において書取能力の差が大
きいこと、同じ大学内部においても分散が大きいこ
と」3)を指摘している。
本学のような初等教育教員養成課程におけるソルフェー
ジュ教育は、高度な聴音能力等を身につけることを目的
にするのではなく、楽譜に書かれてある音程やリズムを
T
D
T
S
D
T
S
D
T
正確に歌えること、弾くこと、聴き分けること等を習得
し、さらに、基本的な和声感覚を理解し、ある旋律に簡
(a)の書取は-長調の主音を各小節毎に与えた後行
単な伴奏付けができる能力を育成することが必要である
った。 (b)の書取は-長調の主和音を各小節毎に与
えた後行った。
(塾評価基準
と思われる。また、近年フォルマシオン・ミュジカ
ル4)5)6)が紹介され実践されている。しかし、本学の学
(a)、 (b)は1問を1.25点とした。
(C)は各小節の配点を2点とした。ただし、 3小節
生の実態と限られた授業時間から、他大学の専門教育に
おけるソルフェージュをそのままあてはめることは不適
目は4点とした。各小節半分以下の間違いであれば1
点を与えた。
切であり、初等教育教員としての内的聴感、判断力と演
奏の基礎を身につけるために学生の実態を配慮した学習
(d)は外声部のみの書取で1音符を0.45点とした。
以上の合計点を算出し小数点以下を四捨五入した。
内容の精選、焦点化そして学習方法の工夫等が必要不可
欠である。
ソルフェージュプログラムを試案し、その妥当性を検討
なお、それぞれの書取評価結果は、 10点をA段階、
9から5点をB段階、 4から1点をC段階、 0点をD
することを目的とした。この研究は初等教育教員養成課
段階とした。
これらのことから、本研究は楽典から弾き歌いまでの
程における音楽科教育に基礎的資料を提供するものと考
える。
③1学期末・試験内容(以下試験内容の譜例と評価基準
は略す)
a.和音聴音:-長調の3和音とその転回形の書取
b.リズム聴音:4/4拍子2小節」-60の書取
Ⅱ方法
C. 2声聴音:ニ短調6/8拍子4小節
」- 63、上・下声部の書取
1. 「ソルフェージュ」プログラムの作成とその内容の
検討
「ソルフェージュ」プログラムの内容は、松仲7)、
永富8)、三好2)9)、林原10)、山解11)、伊藤12)、保科13)14)の
文献を基にし、ソルフェージュの基本的内容を抽出し
構成した。
d. 4声体和声聴音:-長調2/2拍子8小節」-44、
4声体のうち外声部の書取
④ 2学期末・試験内容
---5 1--
a. 4声体和声聴音:ハ長調2/2拍子8小節借用和
音を含む) 」 -44、借用和音の理解と4声部の書
試案した「ソルフェージュ」プログラムを表1に示し
敬
b. 2声聴音:イ短調6/8拍子6小節(両声部に跳
躍進行を含む) 」 -44の書取
(2)編曲・弾き歌い
(D3学期末・試験内容及び内省報告
た。
プログラムの主な構成内容は、楽典、聴音、和声法、
弾き歌い、伴奏法、編曲法とした。楽典は譜表上の基礎
的知識、聴音はリズム聴音一単旋律聴音- 2声聴音、和
音聴音- 4声体和声聴音、弾き歌いは、小学校音楽科教
a.弾き歌い: 「冬げしき」又は「故郷の人々」の原
曲と個人の編曲による弾き歌い
b.内省報告:アンケート調査を実施した。その内容
材「もみじ」 「故郷の人々」 「冬げしき」で構成した。そ
の選曲理由はこれらの曲が既習曲であり、 「もみじ」は
授業時の季節に合わせた。 「故郷の人々」は4拍子系で
は、興味関心に関すること(受講前の不安・心配の
有無、不安の減少の有無)、教授活動に関すること
初心者でも演奏可能な旋律であり、和音設定も1小節に
1和音で編曲が可能である。 「冬げしき」は3拍子系で
他の2曲より難度が高い曲とした。
(演習内容の難易度、授業の進め方、助言の適否)、
学習活動に関すること(発表や解説の仕方、グルプ編成の時期・方法・授業展開、授業期間)、自己
評価に関すること(授業全般の感想、編曲の学習の
感想、和声法・編曲法の習得度、授業の有効性につ
いての自由記述)とした。
Ⅲ結果と考察
1. 「ソルフェージュ」プログラムの内容の検討
それぞれの内容は、易から難への課題を設定し学生の
能力に応じ対応できるよう配慮した。 2声聴音を例にす
ると、まず上声部の聴取ができること、次に両声部の聴
取ができるよう課題提示をした。また、聴音の能力差が
大きかったため2学期の学習展開は、授業前半に能力の
低いAグループの指導を行った。
指導の内容は、 2声聴音と4声体和声聴音の上声部や
外声部の書取とし、個別指導中心に行った。この間、 B
表1 「ソルフェージュ」プログラム
過
期
学
プログラム内容
○ガイダンス(ソルフェージュ教育の意義と目的)、 ○調査(和音、単旋律、 4声体
和声聴音)
○楽典(ドイツ音名、音部記号、音符と休符、拍子記号の種類・意味・書き方)、
○単音聴音
○和音聴音(C durの3和音の基本形6つ、根音を同じくする長3和音と短3和音
の聴取のみ)
○楽典(音程:度数の数え方、完全・長・短・増・減の種類と意味、音階:長・短
音階、主音・下属音・属音・導音の説明、 ○和音聴音(減3和音を加えたC dur
3和音の聴取のみ、調号を変えての聴取)、 ○リズム聴音: 2/4拍子2小節、 3/4拍
子2小節
○楽典(調:調と調名・調号・関係調、大譜表の書き方)、 ○和音聴音:書取
(10-20問)以下同様)、 ○リズム聴音:3/4拍子2小節、 3/8拍子2小節の書取
以下同様
○楽典(和音: 3和音・ 7の和音を構成する音の名称、基本形と転回形、和音記号
の記述)
○和音聴音(10-20間)、 ○リズム聴音:4/4拍子2小節、 3/8拍子2小節
○単旋律聴音:C dur 2/4拍子2小節、 C dur 3/4拍子2小節の書取以下同様
○和音聴音(10問)、 ○リズム聴音:4/4拍子2小節、 6/8拍子2小節
○単旋律聴音: F dur 3/4拍子、 a moll 3/8拍子4小節、 02声聴音(下声部
が1小節1音に対し上声部が旋律になる) :C dur3/4拍子4小節(冬げしきを基に)
02芦聴音:C dur 4/4拍子4小節(スキーの歌を基に)
04声体和声聴音:C dur 2/2拍子4小節(外声部の書取)
02芦聴音:C dur 3/8拍子4小節(おぼろ月夜を基に)、 04声体和声聴音:C
dur 2/2拍子6小節(外声部のみを弾き2声部の書取)、 C dur 2/2拍子4小節
( 4声体を弾き外声部のみの書取)
02声聴音:a moll 6/8拍子4小節(母さんの歌を基に)、 04声体和声聴音:C
dur 2/2拍子
○評価:和音聴音10問、リズム聴音:4/4拍子2小節、 2声聴音:C dur6/8拍
子6小節、
4声体和声聴音:C dur 2/2拍子8小節(外声部のみ)、 ○評価の解説
-55-
1
○ ガ イ ダ ンス ( 1 学 期 末 試 験 結 果 によ り 2 グル l プ編 成 A グル l プ と B グ ル ー プ) 、
A グル ー プ の み実 施
A グル 1 プ と B グル ー プ合 同 で 実施
2
○ 2 声 聴 音 (今 日 の 日 は さ よ うな らを
基 に) (上 声 部 の単 旋 律 の書 取 ) ※
○ 4 声 体 和 声 聴 音 (外 声 部 の書 取 ) ※
○ 2 声 聴 音 (愛 の あ い さつ を基 に ) ※
○ 4 声体和声聴音 ※
3
2
4
5
学
6
期
7
8
9
10
1
2
3
3
・
I
5
6
学
7
8
期
9
10
○ 4 声 体 和 声 聴 音 (内 . 外 声 部 の書 取 ) ※
○ 和 声 法 (和 音 記 号 の 復 習 、 和 音 の機 能 T
S D )
○ 2 声聴音 ( 2 声聴 音の書取) ※
○ 2 声聴音 ※
○ 4 声 体 和 声 聴 音 (内 . 外 声 部 の 書取 ) ※
○ 2 声 聴 音 (七 つ の子 を基 に) ※
○ 和 声 法 (和 声 進 行 )
○ 4 声体和声聴音 ※
○ 2 声聴音 ※
○ 2 声 聴 音 ( な つ か し き愛 の 歌 を 基 に)
○ 4 声 体 和 声 聴 音 (和 音 記 号 、 和 音 機 能 ) ※
○ 4 声 体 和 声 聴 音 (借 用 和 音 を含 む) ※
※
○ 4 声 体和 声聴 音 (借用 和音 を 含む)
○ 和 声 法 (借 用 和 音 の 説 明 と和 音 記 号 の 書
※
き方 )
○ 2 声 聴 音 ※、 ○ 発 声 法 (腹 式 呼 吸 の説 明)
○ 歌 唱 法 (国 定 ド、 移 動 ドの説 明)
○ 4 声 体和声聴音 ※
○ 2 声聴音※
○ 2 声聴 音※
○ 発 声 練 習 (母 音 a ・e ・i ・o ・u
で半
( さよ う な らみ な さ まを 基 に)
音 の発 声 、
母 音 2 種 で 2 度 音 程 の上 下 の発 声 、 長 3
和 音 の 上下 の 発 声 )
○ 4 声体 和声聴音 ※
○ 4 声体和声 聴音 ※、○ 2 芦聴 音、○発 声
練習
○ 歌 唱 (「もみ じ」 F d u r 4 / 4 拍 子 、 固 定
ド及 び移 動 ドで 歌 う、 歌 詞 の朗 読 、 歌 詞 を
付 けて歌 う)
○ 2 声 聴 音 、 ○ 4 声 体 和 声 聴 音 、 ○ 発 声 練 習 、 ○ 歌 唱 (「もみ じ」 を 2 声 部 で 歌 う、
2 グ ル 1 プ で 2 部 合 唱 、 2 人 で 2 部 合 唱 )、 ○ 伴 奏 法 (「もみ じ」 の 伴奏 譜 の指 導 )
○ 2 声 聴 音 、 ○ 4 声 体 和 声 聴 音 、 ○ 発 声 練 習 、 ○ 歌 唱 (「もみ じ」 を 2 人 1 組 で ピア
ノ伴 奏 と独 唱 )
○ 評 価 ‥2 声 聴 音 、 4 声 体 和 声 聴 音 (和 音記 号 . 機 能 の記 譜 )
○ 歌 唱 (「もみ じ」 を 2 人 1 組 で 伴奏 と暗 譜 で 独 唱 )
○ ガ イ ダ ンス ( 3 学 期 の課 題 提 示 と解説 )
○ 和 声 法 (歌 唱 教 材 「冬 げ し き」 を使 用 ) 、 和 声 進 行 の確 認 、 非 和 声 音 の説 明 、 ○ 発
声練習
○ 歌 唱 (「冬 げ しき」 F d u r 3 / 4 拍 子 、 固 定 ド及 び移 動 ドで 歌 う、 歌 詞 の 朗 読 、 歌 詞
を 付 けて 歌 う)
○ 発 声 練 習 、 ○ 歌 唱 (「冬 げ しき」 歌 詞 を 付 けて 歌 う) 、 ○ 伴 奏 法 (「冬 げ し き」 の伴
奏 譜 の指 導 )
○ 発 声 練 習 、 ○歌 唱 ( 「冬 げ し き」 歌 詞 を 付 けて 歌 う、 2 人 1 組 で ピア ノ伴 奏 と独 唱 )
○ 発 声 練 習 、 ○歌 唱 (「冬 げ しき」 の弾 き歌 い… 個 人 レ ッス ン形 態 )
○ 発 声 練 習 、 ○歌 唱 (「冬 げ しき」 の弾 き歌 い … 個人 レ ッス ン形 態)
○ 編 曲法 (編 曲 の 意 義 . 目 的 . 方 法 . 伴 奏譜 の作 り方 )
○ 弾 き歌 い (「故 郷 の 人 々 」 C d u r 4 /4 拍 子 )
○ 編 曲 法 ( ピ ア ノ奏 法 能 力 に即 した伴奏 譜 の作 成 )
○ 弾 き歌 い (「
故 郷 の人 々」個 人別 に編 曲 した伴奏譜 の指 導及 び編 曲 した楽 譜 で の弾 き歌 い)
○ 編 曲 法 (「冬 げ し き」 の 伴 奏 譜 の編 曲 )
○ 評 価 ‥A 、 B を 選 択 し弾 き歌 い (A 「冬 げ し き」 と 「故 郷 の 人 々」 : 個 人 の 編 曲)
( B 「故 郷 の人 々」 と 「冬 げ し き」 : 個 人 の編 曲)
荏) ※はその週に行ったAグループの課題が同一であることを示す
楽典
視唱歌唱
図1プログラムの内容構造
-56-
表2聴音書取能力の段階別到達状況(単位:人数)
評
価
内
容
時
期
D 段階
C 段階
B 段階
A 段階
単 音 聴 音
1 学 期始
0
2
6
8
リズム聴音
1 学期末
0
5
7
4
1 学 期始
5
4
5
2
1 学期末
′
′
2 学期末
0
3
2
5
7
3
5
2
4
6
4
7
1 学期始
1 学期末
0
0
1 0
6
4
5
2
5
1 学期始
1 学期末
2 学期末
2 学期末
9
0
1
1
6
3
0
6
4
5
7
7
4
8
8
o
単 旋律 聴音
2 声 聴 音
上声 部
両声 部
和 音 聴 音
4
声 体
和 声 聴 音
外声部
外声部
外声部
4 声部
グループは個人の課題に対し自学自習を行った。授業後
半は、 AB両グループ合同で行い、 Aグループは2声聴
まった学生も得点は2から4点の範囲で向上していたこ
と、さらに、和音聴音については、長・短・滅・増の響
きの違いについても明確に判別できていた。
音の場合、末書取声部の聴音を目標とし、達成できれば
両声部の書取を目標とするよう学生の個人目標を明確に
し行った。
2学期はA、 Bの能力別グループを編成し、個別指導
に配慮し授業を展開した。主な結果は次のとおりであっ
ソルフェ-ジュの基本的な内容について、本プログラ
ムとパリ国立音楽院のソルフェージュ科の内容及び教員
た。 2声聴音の課題は、下声部進行を上声部1音に対し
下声部1音の箇所を増加し難度を増した課題であった。
養成大学のソルフェ-ジュの内容を比較した。永冨によ
れば、パリ国立音楽院のソルフェージュ科の内容は、読
また、 4声体和声聴音では借用和音を使い、さらに外声
部はバス進行が跳躍等を含み難度を増した課題であった
が、いずれも上位段階への移行者があったことがうかが
譜、音程、リズムの訓練、各種音部記号の習得、強弱記
号、旋律の書取、 2声・ 3声和声聴音、和声分析、音程
の跳躍などであった15)。三好の内容は、音階:全ての長
調・短調と教会旋法、和音:長3和音、短3和音、減3
和音、増3和音、 V7の和音、カデンツ:教育課程1に
おける全てのカデンツ、南外声:両外声の組み合わせD
定型とその応用であった16)。
本プログラムは、図1に示したように主な内容が、基
礎的知識(楽典)、リズム聴音、単旋律聴音、 2声聴音、
和音聴音、 4声体和声聴音、和声法、弾き歌いによって
構成されており、内容的には両者と比較すればかなり平
易になっているもののほぼ一致していた。これらのこと
から、本プログラムの構成内容は、音楽(楽曲)構造把
握、音楽様式把握、内的聴覚、演奏の基礎を身につける
ための内容を含んでいると判断した。
われた。 4声部の聴取は、 C・D段階が7名であり予測
していた以上に低い結果であり、 Aグループにおいては
外声部の聴取はできていたが、内声部までの聴取はほと
んどできていなかった。
1、 2学期をとおし2声聴音の聴取の向上は、 1学期
始、単旋律聴音の書取についてA・ B段階の学生が16人
中7人であったのに対し、 2学期末には16人中1 1人で
*3Btm
3学期は個人差に応じた課題設定、旋律の和声付け及
びそれに応じたバス設定に配慮し展開した。
学習成果の一例として、 Aグループの学生が編曲した
作品を語例2に示した。この学生はピアノを大学で初め
て学習し、 2学期末の聴音書取能力試験ではC段階であっ
たが、バスラインは適切であり借用和音も使え、さらに
1学期の聴音能力の向上を到達した段階の人数からみ
た場合、 2声聴音、和音聴音及び4声体和声聴音(外声
旋律に合った伴奏型を使用していた。
他の学生においては、和声進行の理解の深い学生ほど
部)において、それぞれ上位の段階に移行していたこと
借用和音などの高度な和音を使用した編曲ができていた。
幼少時からピアノを学習してきた学生は、これらの中に
がうかがわれた。具体的には、 2声聴音の能力を1学期
始の単旋律聴音と1学期末の両声部の到達した段階の人
数を用い比較してみると、 1学期末は複旋律であり難度
が高いにもかかわらず、 C段階以上の到達者が多くなっ
ていたこと、上声部の聴取は全員可能になっていたこと。
和音聴音と4声体和声聴音の外声部の理解は、いずれも
全員含まれていた。しかし、和声進行の理解の浅い学生
は、自ら借用和音の使用にやや抵抗があったが、基本的
な和声進行の使用は全員可能であり、意欲的に取り組ん
でいる様子が観察された。弾き歌いは、予定した時間で
上位の段階に移行していたこと、 1学期始のC段階に留
一里Rl-
は困難な学生もいたため第8週から自学自習を加えるこ
とによって、原曲と各自の編曲の弾き歌いが可能になっ
た。また、内省報告の項目「楽曲を自分で編曲した感想
は?」について16人中15人が楽しく学習できたと回答し
た。 「教育現場で役立っか」については全員が役立っと
回答した。そのうちの9人は将来の自信につながったと
が認められたと判断した。
今後の課題として、弾き歌いにかける時間配分や毎時
間における課題理解の定着度など、今後の実践の中で確
認しプログラムを若干修正する必要性が残った。
回答した。 「和声法が編曲時に役立ったか」については、
16人中14人が役立ったと回答した。 「弾き歌いについて
の感想は?」については16人中13人が難しかったと回答
したが、レベルにあった伴奏譜を創作でき、伴奏音と自
分の歌声が聴き分けられるようになったという記述が多
数見られた。
1年間の授業実践において得た2声聴音、 4声体和声
聴音及び弾き歌いが向上した結果について、若干の考察
を試みた。 2声聴音と4声体和声聴音(外声部)舵力の
向上は、次のことがらに起因していると思われるO永冨
は、 「ソルフェージュの学習形態は個人指導が理想的で
あり、能力別に分けた少人数の指導が現実的で効果的な
指導法である」と述べている15)。三好は、ソルフェージュ
の練習方法として「唱法、聴く方法、認知の表現方法を
関連付けて行うことが重要である」と述べている16)。聴
音の学習に限らず反復練習のみでも、多少の能力の向上
は可能であろうが、これらのことと本授業実践で留意し
<mm
本研究は、本学の音楽専修生を対象とした「ソルフェー
ジュ」の授業プログラムを作成し、その妥当性を授業実
践をとおし検討することを目的とした。
主な結果は次のとおりであった。
楽典、聴音、和声法、弾き歌い、伴奏法、編曲法及び
弾き歌いで構成したプログラムを作成した。
授業実践の結果、 2声聴音、和音聴音及び4声体和声
聴音(外声部)において、それぞれ上位の段階に移行し
ていたが、聴取能力の低いAグループは、内声部の聴
取がほとんどできていなかった。編曲については、和声
進行の理解の深い学生はど借用和音などの高度な和音を
使用して編曲ができた。弾き歌いは、自学自習を加える
ことによって、原曲と各自の編曲の弾き歌いが可能になっ
た。
本プログラムは、内容構成及び授業実践の結果から、
たことを合わせ考えると、聴いた音を歌う、記譜するな
どの内容を関連付けて扱ったことによって、和声進行の
内的聴感と演奏の基礎を身につけることが可能であった
ため妥当性が認められたと判断した。
分析と把握がより可能になったと思われる。また、聴音
能力の低いAグループの学生に対し、個別指導を用い
たことにより、個々人のつまづきの発見やそれに対応し
今後の課題として、弾き歌いの時間配分や毎時間の課
題理解の定着度を実践の中で確かめプログラムを修正す
ることが残った。
た助言ができたことも聴音能力の向上に関与していると
思われる。 4声体和声聴音の内声部の聴音が困難であっ
参考文献
た学生がソルフェージュ教育未経験者に多かったことは、
プログラムや指導法による影響よりも、内声部が南外声
1)加藤忠(1976);ソルフェージュ教育の実践的考察,
季刊音楽教育研究, No.9秋号,東京,音楽之友社pp.
部に影響され音高を認知しにくくしていたことによるも
のと思われる。末利らの聴音に関する研究によれば「聴
音感覚は、 5歳から9歳頃までに急速な発達をし一般的
2)三好啓士(1986);ソルフェージュ教育の構成原理,
広島大学教育学部紀要,第2部第34号pp.
112.-113
な成人の90%まで達する」17)と指摘していることからも、
聴音感覚の適時性がこの間にあると解釈できる。すなわ
149-159
ち、この間にどれだけ音楽に携わった経験や聴音に関す
る体験などをし、聴音感覚が鋭くなっているかが内声部
3 )大月玄之他(1994) ;教員養成大学音楽専攻学生の音
楽学習歴と書取能力の相関,三重大学教育学部研究紀
實,第45巻, pp. 31-44
の聴音能力に関与していると思われる。
4)ミッシェルーオデ-ル・ジロー(1990);シューベル
トを歌いながら学ぼう全3巻,パリ, A・ルデュック
内省報告に認められたように、 4声体和声聴音の書取
時に併せて和声法を教授したことで、編曲時に和音設定
社
の知識を生かすことができたと思われる。また、多声部
を聴き分ける学習と個人の能力に合わせたオリジナルな
5)城恵美子(1991);フランスのソルフユ-ジュ教育フォルマシオン・ミュジカルーの研究,お茶の水女子
伴奏付けをしたことにより、伴奏音と自分の歌声の認知
などができたと患われる。したがって、 1, 2学期の内
6)照屋正樹(1994);ソルフェージュからフォルマシオ
的聴覚育成が3学期の演奏の基礎につながったと思われ
ン・ミュジカルヘーフォルマシオン・ミュジカルの教
る。
育現状と課題-,洗足学園洗足論業,第23号pp.
大学大学院修士論文
これらのことがらから、本プログラムは内的聴感や演
奏の基礎を身につけることが可能であり、内容的妥当性
111′
-122
7)松仲久義,土屋公平(1995) ;教員養成課程における
-58-
伴奏付けの指導法,金沢大学教育学部研究, 44号pp.
29-47
8)永冨正之(1974) ;ソルフェージュ教育概説東京芸術
大学音楽学部年誌,第1集, pp. 41-58
9)三好啓士(1986) ;音楽理論教育に関する研究(Ⅳ) より総合的な音楽理論教育の構想(1) -教育課程
Iを中心に-,広島大学教育学部紀要,第2部第34
号, pp. 253-263
10)林原幾久他(1991);総合ソルフェージュ1基礎,莱
京,音楽之友社
ll)山解茂太郎(1972);これからはじまる和音聴音,秦
京,音楽之友社
12)伊藤征夫(1991);やさしい視唱のレッスン・ピアノ
伴奏付1,東京,音楽之友社
13)保科洋他(1985);和声応用のたのしみ,東京,音
楽2.U.礼
14)保科洋(1998);生きた音楽表現へのアプローチ,
東京,音楽之友社
15)永冨正之(1974) ;前掲8)
16)三好啓士(1986) ;前掲9)
17)末利博,千駄忠至(1978) ;運動に関係のある感覚知
覚についての追跡的研究,京都教育大学紀要B, No.
52, pp. 33-55
-59-
故郷の人々
フォスター作曲
学生A編曲
-60-
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