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全文PDF - 感染症学雑誌 ONLINE JOURNAL
606 短 報 日本の医師と獣医師における One Health に関するアンケート調査 1) 国立感染症研究所獣医科学部,2)同 バイオセーフティ管理室,3)東京大学大学院農学生命科学研究科 堀田 明豊1) 棚林 清2) 山田 章雄3) (平成 27 年 2 月 2 日受付) (平成 27 年 6 月 10 日受理) Key words : one health, zoonosis, questionnaire 序 文 結果および考察 One Health とは,人,動物および環境の健康は相 Table 1に 300 名の回答結果を示した.One Health 互に関連して成り立つと考え,関連分野の専門家が協 の理念が提唱されてから約 10 年が経過したが,日本 力し,それらの健康を維持・推進しようとする理念で の医師および獣医師の多くはその関連の動向(問 1) , ある.この理念は 2004 年開催の「One 意味を理解していなかった(問 2) .意味を理解して World,One Health」 (野生生物保護学会が商標登録)と題した会 いなかった 266 名のうち 82.7% が簡単な説明の後, 議以降,多数の国や国際機関に支持され,その実践が One Health の理念を「理解できる」と回答し,その 1) 勧告されている .この背景にはインフルエンザや 多くが問 4 以降の問に肯定的な回答をした.一方,そ SARS など,度重なる新興感染症の発生があげられる. の理念を「理解できない」と回答した 47 名は問 4 以 新興感染症対策には野生動物における病原体や感染症 降,否定的な回答が極めて多かった.これより日本に の動向の監視,それらの人や家畜への影響についての おける One Health の実践は,関係者への普及啓発か 情報が必要である.その実践には医師と獣医師の密接 ら始める必要があるが,多くの医師および獣医師にお 2) な連携が重要となる .世界医師会と世界獣医学協会 は 2012 年に協力関係を構築する旨の覚書を締結した. いて,その理念は理解しやすいと考えられた. 地域における One Health に関わる研修会や講演 また 2013 年 11 月,公益社団法人日本医師会と公益社 会,特に野生動物関連の催しは非常に少ない,または 団法人日本獣医師会が学術協力の推進に関する協定を 開催通知が伝達されていなかった可能性がある.しか 締結した.今後,日本においても One Health の実践 し,そのような催しがあれば参加したいと考える回答 が期待されるが,関係者の One Health の認識程度は 者は多かった(問 9 および 10) .One 不明である.このため国内の医師と獣医師の対し,One は,一般住民を含む多くの関係者への情報提供も重要 Health に関するアンケート調査を実施した. な要素となるため,各地域の関連団体や自治体の協働 対象と方法 Health の実践 による情報提供等の催しの検討が望まれる. 2014 年 2 月にクロス・マーケティング(株)に委 獣医師は医師と比較して,One Health の認知率が 託し,獣医師 193 名および医師 1,063 名に「医療に関 高く,肯定的な回答が有意に多かった(p<0.01) .認 するアンケート」への回答を依頼した.職業を「獣医 知率の相異の要因として,各学問領域における感染症 師」 ,「内科医師」および「内科以外の医師」と回答し の重要性や業務形態の相異などが考えられる.日本を た各 100 名,計 300 名からインターネットを介し One 含む先進国では近年,感染症はヒトの主要な死因では Health について 10 の問(Table 1)への回答を回収 ないが,獣医学領域では口蹄疫や鳥インフルエンザの した.内科医師と内科以外の医師の区分は不明瞭で 様に,畜産業が多大な損害を被る疾病がある.また医 あったため,獣医師 100 名と医師 200 名の 2 グループ 学領域では診療科の細分により,感染症を診断する診 に分けて回答分布を比較した. 療科は限られているが,獣医学領域では動物種により 業務が区分されることはあるが,いずれの動物種にお 別刷請求先:(〒162―8640)新宿区戸山 1―23―1 国立感染症研究所獣医科学部 堀田 明豊 いても感染症を診断することがある.このような感染 症への関わりの相異などにより認知率に差が生じた可 能性がある.さらにこの認知率の差が獣医師の One 感染症学雑誌 第89巻 第 5 号 One Health に関するアンケート意識調査 607 Table 1 Questionnaire results about One Health for veterinarians and medical doctors in Japan Question 1 2 3 4 5 Do you know the World Veterinary Association and the World Medical Association as well as Japan Veterinary Association and Japan Medical Association are collaborating under the concept of One Health? How familiar are you with One Heath? Do you understand the concept of One Health? Do you agree with promotion of One Health? Do you agree that the One Health concept is effective as a countermeasure against zoonoses? Answers Vet Know both Know former 6 7 16* 2 63* 186 I am familiar with it. 20* I have heard about it but I am not familiar with it. I am not familiar with it. 33* 47* 14 30 Yes, I understand it. No, I do not understand it. Strongly Agree Agree 8 9 Was a seminar on infectious diseases held in your community? If so, did you participate in it? If not, would you be interested in participating in it ? 10 Was a seminar on the ecosystem held in your community? If so, did you participate in it? If not, would you be interested in participating in it? * 92 8* 34 59 * 156 161 39 19 126 Neither Agree 5* 44 Disagree 2 11 33* 57 9* 23 124 Strongly Agree Agree Neither Agree 1 Strongly Agree Agree Neither Agree 36* 58 5* 1 Strongly Agree Agree Neither Agree 29* 57 12* 46 7 21 133 38 8 22 117 2 51 10 Very interested 19* 13 Interested 51* Not interested Not interested at all 25* 5 59 105 23 Yes, Participated Yes, Could not participate 11* 10* Yes, Not interested No, Interested No, Not interested at all 5 56 18* Yes, Participated Yes, Could not participate Yes, Not interested No, Interested No, Not interested at all 5 5 5 65* 20* Disagree Are you interested in lecture meetings or seminars on the One Health concept? 5 Neither of them Disagree Do you agree that the One Health concept should be promoted by national and local governmental agencies in Japan ? 7 1 Know latter Disagree Do you agree that the exchange of medical and veterinary sciences is necessary for promotion of the One Health concept? MD 20* 5 4 5 84 102 3 3 4 84 106 * : Sugnificant difference (p<0.01) was determined with the chi-squared test. Answers were collected from 100 veterinarians (Vet) and 200 medical doctors (MD). After answering Q.2, a brief explanation of One Health concept was given and then Q.3 was asked. After answering Q.6, a brief explanation of FAO/OIE/WHO collaboration was given and then Q.7 was asked. Health に対する寛大性,すなわち肯定的な回答分布 医師数(約 3 万 8 千人)と照合すると偏りがあるかも に影響した可能性がある.医師と獣医師の意識差は海 しれないが,One Health に関する初めての意識調査 外諸国でも同様な傾向にあり,One Health の実践は として重要な基礎資料となるだろう. 獣医学系大学やその関連機関が中心に進められてい 3) 謝辞:本調査に御協力頂いた医師および獣医師の る .One Health の実践には医学や獣医学以外にも, 方々に深謝する.本調査は,独立行政法人科学技術振 多分野の専門家が上記のような互いの領域の差を理解 興機構先導的創造科学技術開発費「地域社会における し合い,連携・協働することが重要となる.今後,他 危機管理システム改革プログラム」(各種感染症への の学問領域においても普及啓発を検討する必要がある 対応)「鳥インフルエンザ防疫システムの構築」の助 だろう. 成を受けた. 本調査結果は国内の医師数(約 30 万 3 千人)と獣 平成27年 9 月20日 利益相反自己申告:申告すべきものなし. 608 堀田 明豊 他 文 献 1)山田章雄:人と動物の共通感染症対策における 連携:One Health.日獣会誌 2010;63:556― 7. 2)中嶋健介:動物由来感染症対策において診療獣 医師に求められること.日獣会誌 2002;55: 380―6. 3)Gibbs EP:The evolution of One Health : a decade of progress and challenges for the future. Vet Rec 2014;174:85―91. Questionnaire Survey About the One Health Concept Among Medical Doctors and Veterinarians in Japan Akitoyo HOTTA1), Kiyoshi TANABAYASHI2) & Akio YAMADA3) 1) Department of Veterinary Science and 2)Division of Biosafety Control and Research, National Institute of Infectious Diseases, 3) Laboratory of Veterinary Public Health, Graduate School of Agricultural and Life Science, The University of Tokyo 〔J.J.A. Inf. D. 89:606∼608, 2015〕 感染症学雑誌 第89巻 第 5 号