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土地・株式譲渡をめぐる誤りやすい 税務ポイント 税理士 岩下 忠吾
平成 21 年度第 2 回マルチメディア研修 土地・株式譲渡をめぐる誤りやすい 税務ポイント 講師 税理士 岩下 忠吾 日本税理士会連合会 土地・株式譲渡をめぐる誤りやすい税務ポイント Ⅰ 平成21年度土地に係る譲渡所得の改正 1 特定の土地等の長期譲渡所得の特別控除の創設(措法35の2) 個人が,平成21年1月1日から平成22年12月31日までの間に取得をした国内にある土地等で,その 年1月1日において所有期間が5年を超えるものの譲渡をした場合には,その年中のその譲渡に係る 長期譲渡所得の金額から1,000万円(その長期譲渡所得の金額が1,000万円に満たない場合には、その 長期譲渡所得の金額)を控除することができることとされました。 平 21 平 22 5年超保有 土地購入 4,000 万円 土地売却 5,000 万円 譲渡益 1,000 万円 特別控除 ▲ 1,000 万円 0円 <留意点> ⑴ 取得の範囲 ① その個人(取得者)の配偶者からの取得については適用除外 ② その個人と特別の関係がある者(法人を含む。)からの取得については適用除外 ③ 相続,遺贈,贈与,及び交換による取得については適用除外 ④ 代物弁済,所有権移転外リース取引による取得については適用除外 ⑵ 棚卸資産は適用除外 ⑶ 取得後の用途は不問 ⑷ 5年後の譲渡の形態 一般の譲渡のほか,譲渡所得の基因となる不動産の貸付けもこの特例の対象となります。た だし,所得税の交換(所法58),収用交換の特別控除(措法33の4)及び措法34条から35条ま での特別控除の適用を受けるものに係る譲渡には適用がありません。 ⑸ 21年,22年において複数以上の土地を取得し,5年経過後毎年継続的に譲渡を行った場合に は,譲渡年ごとに1,000万円の特別控除の適用を受けることができます。 ⑹ 譲渡時期について特別の制限がないことから,将来特例適用を失念しないよう注意してくだ さい。 2 平成21年及び平成22年に土地等の先行取得をした場合の譲渡所得の課税の特例の創設(措法37 の9の5) 不動産所得,事業所得又は山林所得を生ずべき業務を行う個人が,平成21年1月1日から平成22年 12月31日までの間に,国内にある土地等(棚卸資産等を除きます。)の取得をし,その取得をした日 の属する年の翌年3月15日までにその取得をした土地等(以下「先行取得土地等」といいます。)に つきこの特例の適用に係るものである旨の届出書を納税地の所轄税務署長に提出した場合において, ..... その取得をした日の属する年の12月31日後10年以内に,その個人の所有する他の事業用の土地等の譲 渡をしたときは,その事業用の土地等に係る譲渡益からその譲渡益の100分の80(注1)に相当する 1 金額(以下「繰延利益金額」といいます。)(注2)を控除した金額に相当する金額をその事業用土 地等の譲渡による譲渡所得の金額とする「課税の繰延べ」制度が創設されました。 (注1) 事業用の土地等の譲渡をした日の属する年の12月31日においてその個人が有する一定の 先行取得土地等(以下「対象先行取得土地等」といいます。)が平成22年1月1日から同年12 月31日までの間に取得をされたもののみである場合には,100分の60とすることとされていま す。 (注2)「繰延利益金額」は,譲渡益の100分の80(又は100分の60)に相当する金額が,その穣渡 をした日の属する年の対象先行取得土地等の取得価額の合計額を超える場合には,その取得価 額の合計額に相当する金額を限度とすることとされています。 平 21 10 年間 土地 A を譲渡 収入金額 8,000 万円 取得金額 3,000 万円 譲渡益 5,000 万円 土地 A の取得 取得価額 3,000 万円 土地 B の取得 取得価額 7,000 万円 土地 B (対象先行取得土地等) 取得価額 3,000 万円 ● 5,000 万円(譲渡益)×80% =4,000 万円 ● 4,000 万円<7,000 万円(土地B の取得価額) のため,繰延利益金額は 4,000 万円となる → 譲渡益のうち繰延利益金額を超える部分の金額 である 1,000 万円(5,000 万円-4,000 万円)が譲渡 所得の金額として課税対象となります 土地B の取得価額(当初7,000 万円)は,繰延利益金額 相当額(4,000 万円)が圧縮され,3,000 万円になります <留意点> ⑴ 取得時の事業者要件 .. 先行取得土地等を取得した時点において,不動産所得,事業所得又は山林所得を生ずべき業務 を行う個人であること。 ⑵ 取得の範囲 ① その個人(取得者)の配偶者からの取得については適用除外 ② その個人と特別の関係がある者(法人を含む。)からの取得については適用除外 ③ 相続,遺贈,贈与,及び交換による取得については適用除外 ④ 代物弁済,所有権移転外リース取引による取得については適用除外 ⑶ 先行取得土地等の取得後の用途 特例の対象となる先行取得土地等とは,不動産所得,事業所得又は山林所得を生ずべき業務を 行う個人事業者が平成21年,22年に取得した土地等で,その土地等の取得後の用途は問わない こと。また,取得後に空閑地となっている場合であっても、先行取得土地等に該当します。 ⑷ 既に減額された先行取得土地等の適用判定 個人事業者が平成21,22年に複数の先行取得土地等を取得し,そのうち1つの先行取得土地等 が事業用土地等に該当し,その事業用土地等を譲渡する場合には特例の適用対象となります。 また,既に特例適用によって事業用土地等の議渡利益金額を取得価額から控除した先行取得土 地等であっても,事業用土地等として譲渡した場合には特例の適用対象となります。 ⑸ 先行取得土地等が2以上ある場合の控除順序 2 先行取得土地等が2以上ある場合の事業用土地等の繰延利益金額相当額を控除する順序は,ま ず,平成21,22年の両年に取得した先行取得土地等がある場合には,まず平成21年の先行取得 土地等の取得価額から控除し,なお控除しきれない部分の金額があるときは平成22年の先行取 得土地等の取得価額から控除します。 また,同一年中に取得した複数の先行取得土地等がある場合において,繰延利益金額を先行 取得土地等の取得価額から控除する順序は納税者の選択とされています。優先して控除するこ とを選んだ先行取得土地等の取得価額が零にならなければ、他の先行取得土地等の取得価額か ら控除できないこととされます。 ⑹ 譲渡期限 平成21年中に取得した先行取得土地等についての適用期限は,平成31年12月31日までの譲渡, 平成22年中に取得した先行取得土地等についての適用期限は,平成32年12月31日までの譲渡と されています。 ⑺ 期限内申告における届出 その先行取得土地等がこの特例制度の適用に係るものであることを税務署長に届け出ておく必 要があります。そこで,その取得をした年の翌年3月15日までにその先行取得土地等に係る登記 事項証明書や取得時の売買契約書の写しなどのその土地等の取得の日が平成21年1月1日から 平成22年12月31日までの間であることを確認できる書類を所轄税務署長に提出しなければなり ません。 3 Ⅱ 譲渡所得の概要 1 意義(所法33) 譲渡所得とは,資産の譲渡(建物又は構築物の所有を目的とする地上権又は賃借権の設定その 他契約により他人に土地を長期間使用させる行為で一定のものを含みます。)による所得をいい ます。ただし,棚卸資産の譲渡で一定のもの及び山林の伐採又は譲渡によるものは除きます。 ※譲渡とは,売買,交換,競売,公売,収用,物納,代物弁済,現物出資,財産分与,贈与など 所有権の移転をもたらす行為をいいます。 2 所得区分 資産の譲渡による所得についてはその種類に応じてそれぞれに掲げる所得となります。 資産の種類 所得分類 棚卸資産(商品・製品・半製品・原材料など)の販売 事業所得 保有期間 5 年超の山林の譲渡又は伐採による所得 山林所得 土地,借地権,建物の譲渡 分離課税の譲渡所得 株式の譲渡 分離課税の譲渡所得 土地,建物以外の資産(機械,自動車,書画,骨董,ゴルフの会員権 など)の譲渡 上記以外の営利を目的とした継続的な譲渡 3 総合課税の譲渡所得 雑所得 所有期間による区分 譲 総合 渡 所 得 土地・建物 分離 株式等 先物取引 短期 所有期間 5 年以内の資産 長期 所有期間 5 年超の資産 短期 平成 16 年 1 月 1 日以後取得の土地建物等 ※ 長期 平成 15 年 12 月 31 日以前取得の土地建物等 ※ 短期・長期の区分なし ※ 平成21年中に土地建物等を譲渡した場合 4 資産の取得の日(所法60,所基通33- 9,措通31・32共-7) 長期・短期の所有期間を判定する場合における譲渡資産の取得の日は,次に掲げる日です。 譲渡資産の取得の態様 取得日 他から取得した資産 その引渡しを受けた日又は契約効力発生日 自ら建設等をした資産 その建設等が完了した日 他に請け負わせて建設等をした資産 その引渡しを受けた日 贈与等により取得した資産 ① 贈与,相続(限定承認に係るものを除きま その贈与者,被相続人又は遺贈者がそれぞれ取 4 す)又は遺贈(包括遺贈のうち限定承認に 得した日 係るものを除きます。) ② 個人からの低額譲渡(譲渡損が算出される 低額譲渡をした人が取得した日 ものに限ります。)により取得した資産 ③ 限定承認に係る相続又は包括遺贈のうち限 その限定承認に係る相続又は限定承認に係る包 定承認により取得した資産 括遺贈を受けた日 譲渡所得の計算について課税の特例の適用を受けた交換取得資産又は代替資産 特例制度 取得日 固定資産を交換した場合の課税の特例(所法 その規定の適用に係る譲渡資産の取得の日(所 58) 令168①) 収用等に伴い代替資産を取得した場合の課税の 特例(措法33) 交換処分等に伴い資産を取得した場合の課税の その規定の適用に係る譲渡資産の取得の日(措 特例(措法33の2) 法33の6) 換地処分等に伴い資産を取得した場合の課税の 特例(措法33の3) 特定の居住用財産の買換えの場合の長期譲渡所 得の課税の特例(措法36の2) 特定の居住用財産を交換した場合の長期譲渡所 得の課税の特例(措法36の5) 特定の事業用資産の買換えの場合の譲渡所得の 課税の特例(措法37) その資産の実際の取得日(措通31・32共-5) 特定の事業用資産を交換した場合の譲渡所得の 課税の特例(措法37の4) 既成市街地等内にある土地等の中高層耐火建築 物等の建設のための買換え及び交換の場合の譲 渡所得の課税の特例(措法37の5) 特定の交換分合により土地等を取得した場合の その規定の適用に係る譲渡資産の取得の日(措 課税の特例(措法37の6 ) 法37の6④) 大規模な住宅地等造成事業の施行区域内にある 土地等の造成のための交換等の場合の譲渡所得 の課税の特例(措法37の7) 認定事業用地適正化計画の事業用地の区域内に その資産の実際の取得日(措通31・32共-5) ある土地等の交換等の場合の譲渡所得の課税の 特例(措法37の9の2) 承継業務の事業計画の施行区域内にある土地等 5 の交換の場合の譲渡所得の課税の特例(措法37 の9の3) 特定普通財産とその隣接する土地等の交換の場 合の譲渡所得の課税の特例(措法37の9の4) 5 所得金額(所法33③) 譲渡所得の金額は,次の算式により計算します。 譲渡所得の金額=総収入金額−(取得費+譲渡費用)−特別控除額※ ※特別控除額 ⑴ 総合課税の場合には,原則として50万円です。ただし譲渡益が50万円未満の場合にはその 譲渡益になります。 ⑵ 6 土地建物等の譲渡所得の課税の特例においては,次に掲げる金額が特別控除額となります。 収用交換等の場合 5,000万円(措法33の4) 居住用財産を譲渡した場合 3,000万円(措法35) 特定土地区画整理事業等のための土地等の譲渡 2,000万円(措法34) 特定住宅地造成事業等のための土地等の譲渡 1,500万円(措法34の2) 農地保有の合理化等のための農地等の譲渡 800万円(措法34の3) 特定の土地等の譲渡 1,000万円(措法35の2) 総収入金額 譲渡所得の収入金額は,譲渡所得とされる資産の譲渡について収入すべき金額をいい,その計 上すべき時期は,原則としてその資産の引渡しの日ですが,納税者の選択によりその契約効力の 発生の日とすることができます。 なお,法人に対する贈与,限定承認に係る相続,遺贈のうち法人に対するもの及び個人に対す る包括遺贈のうち限定承認に係るもの又は法人に対する時価の2分の1未満による資産の譲渡は, 時価により譲渡があったものとみなします(所法59①)。 また,借地権又は地役権の設定により受領する金額が土地の時価の2分の1を超える場合及び 借地権の設定されている土地について地下鉄などの敷設により土地の利用が制限されるために 受領する金額が土地の時価の4分の1を超える場合には,いずれもその収入金額は譲渡所得の 対象となります(所令94①②)。 譲渡に際して清算する固定資産税相当額については,譲渡所得をキャピタルゲイン課税(増加 益課税)であり,固定資産税を応益課税と捉えて総収入金額に該当しないものとする考え方と 譲渡所得を譲渡益課税として認識し,固定資産税相当額を総収入金額に算入するとする考え方 があります。 6 譲渡所得の基因となる資産の譲渡 対価の授受 金 銭 金銭以外の物 権 利 経済的利益 原則として譲渡時の時価評価額 収入すべき金額 総収入金額算入 土地建物を一括譲渡した場合の譲渡対価の区分は,次のいずれかの方法により計算することが できます。 ⑴ 建物対価控除方式 譲渡対価の額−建物の適正な譲渡対価の額(複成価格法※)=土地の譲渡対価の額 ※複成価格法は,その減価償却資産の再取得価額を基礎として,取得のときから譲渡等で定 率法によって償却したものと仮定した場合において計算される未償却残額を計算する方法 です。 ⑵ 建物の対価を譲渡時未償却残額とする方式 譲渡対価の額−建物の譲渡時の未償却残額=土地の譲渡対価の額 ※建物又は土地のいずれかの譲渡損失は他方の譲渡益と通算されることから,建物の譲渡損 益をゼロと考える方式 ⑶ 土地対価控除方式 譲渡対価の額−土地の適正な譲渡対価の額=建物の譲渡対価の額 ⑷ 時価按分法 譲渡対価の額× 譲渡対価の額× 土地の時価 土地の時価+建物の時価 建物の時価 土地の時価+建物の時価 =土地の譲渡対価の額 =建物の譲渡対価の額 ⑸ 不動産鑑定評価方式 ⑹ 消費税額等による計算方式 契約書記載の消費税額等× 105 5 =建物の譲渡対価の額 7 譲渡対価の額−建物の譲渡対価の額=土地の譲渡対価の額 7 収入金額計上の時期(所基通36-12,所法59,所基通33-1の4,33-1の5) 譲渡 所有権の移転 農地等 ● 原則 ● 特例 8 農地以外の資産 引渡があった日 譲渡に関する契約 の締結の日 その他の資産 ● 59 条 贈与,遺贈,限定承認 による移転があった日 ● 財産分与 分与時 ● 代償分割 履行時 取得費(所法38,所令85) 譲渡所得の金額の計算上控除する取得費は,その資産の取得に要した金額(取得価額),その 後支出した設備費及び改良費の合計額をいいます(所法38①)。具体的には次により計算した金 額です。 ⑴ 減価しない資産(土地,書画など) 取得に要した金額+設備費の額+改良費の額(この項において取得費という。) ⑵ 減価する資産(建物,機械など) 取得費−(業務供用期間の減価償却累計額+非業務供用期間の減価の額) (注) 非業務供用期間の減価の額 (取得費−残存価額)×耐用年数の1.5倍の年数※の定額法償却率×非業務供用期間の年数 ※ 6月未満の端数は切り捨て,6月以上の端数は切り上げます。 ⑶ 概算取得費(措法31の4) ⑴又は⑵により計算した実額による取得費がその資産の譲渡収入金額の5%相当額以下の場 合又はその取得費が不明の場合には,その資産の譲渡収入金額の5%相当額を取得費とするこ とができます。つまり,5%相当額からは減価償却相当額は控除しないで,5%相当額を取得 費とするということです。 なお,土地建物等以外の資産(通常,譲渡所得の金額の計算上控除する取得費がないものと される土地の地表又は地中にある土石等並びに借家権及び漁業権等を除く。)を譲渡した場合 には,収入金額の5%相当額を取得費として譲渡所得の金額を計算することも認められます(所 基通38-16 ,措通31の41)。 8 実額 対価区分あり 土地取得費 大きい方 5%相当額 土地建物等 の一括譲渡 実額 建物取得費 対価区分なし 大きい方 上記参照 5%相当額 ⑷ 交換,買換えなどにより取得した資産の取得費 特定の固定資産を交換したり,特定の資産を買い換えたような場合には,譲渡所得の計算に ついて課税繰延べの特例が設けられています。この特例は,譲渡所得を非課税とするものでは なく,譲渡所得の課税を将来に繰り延べる措置です。 そして,これは譲渡資産の取得費を交換取得資産や買換資産の取得価額として引き継ぐこと により,交換取得資産や買換資産を将来譲渡した場合において,その取得費の計算を通じて, 前回課税の延期をした譲渡益に対する課税を行おうとする制度です。 したがつて,課税繰延べの適用があつた交換取得資産,買換取得資産及び代替取得資産等の 取得費は,圧縮した金額となります。 なお,交換や買換えなどにより資産を取得した後において,その資産について設備費,改良 費を支出しているときは,圧縮した取得価額とその設備費及び改良費の合計額(その資産が償 却資産であるときは,償却費相当額を控除した金額)になります。 ⑸ 土地建物を一括取得している場合の取得費の区分 ① 購入時に建物と土地の価額が区分表示されている場合 その記載された建物の価額=建物の取得費 ② 購入時に建物と土地の価額が一括表示されているが,建物に係る消費税額等が記載されて いる場合 契約書記載の建物に係る消費税額× 103 又は 105 3 又は 5 =建物の取得費 ③ 購入時に建物と土地の価額が区分されていない場合の建物価額 建物の建築時の標準建築価額(国税庁公表資料)×建物の床面積=建物の取得費 ⑹ 付随費用 ① 登記費用(事業所得などの必要経費に算入されたものは除く。 ) ② 租税公課(登録免許税のうち事業所得等の金額の計算上必要経費に算入したもの以外のも の,不動産取得税,特別土地保有税,印紙税等のうち必要経費及び家事費に算入したものを 除く。) ③ 測量費 ④ 所有権などを確保するために要した訴訟費用 9 ⑤ 借主がいる土地や建物を購入するときに,借主を立退きさせるために支払った立退料 ⑥ 土地や建物を購入するために借り入れた資金の利子のうち,その土地や建物を実際に 使用開始する日までの期間に対応する部分の利子 ⑦ 既に締結されている土地などの購入契約を解除して,他の物件を取得することとした 場合に支出する違約金 ⑧ ⑺ 土地の埋立てや土盛り,地ならしをするために支払った造成費用 設備費 設備費とは資産の取得後に付加した設備に係る費用(例えば建物を取得した後に冷暖房 設備を付加したような場合における,その冷暖房設備を付加するために要した費用)をい う。 ⑻ 改良費 改良費とは,資産の取得後に加えた改良のための費用で,通常の修繕費以外の費用をい う。 ⑼ 贈与等の特例(所基通60-2) 贈与,相続又は遺贈(以下「贈与等」という。 )により譲渡所得の基因となる資産を取得 した場合において,その贈与等に係る受贈者等がその資産を取得するために通常必要と認 められる費用(不動産登記費用,名義書換料,また租税公課のうち登録免許税,不動産取 得税等で必要経費に算入したもの以外のもの)を支出しているときには,その費用のうち その資産に対応する金額は,その資産の取得費に算入できます。なお,この場合において 譲渡資産の取得費として5%を選択した場合にはこの取り扱いは適用されませんので注意し てください。 相続税,贈与税は,取得するために通常必要とされる費用ではないことから取得費には 算入しません。 ⑽ 相続税の取得費加算の特例 相続又は遺贈により取得した土地,建物などの資産で相続税の課税価格に算入されたも のを相続税の期限内申告期限から3年以内(相続開始の時から3年10ヶ月以内で延長は認め られません。)に譲渡した場合には,相続税額のうち一定金額を譲渡資産の取得費に加算す ることができます。 ① 相続等で取得した土地を譲渡した場合 相続税の課税対象となった土地の価額の合計額 本人の相続税額× 本人の課税価格+本人の債務控除額 =取得費加算額 (注)すでにこの特例により取得費に加算された相続税額があるときは,その金額を控除し ます。 ② 相続等で取得した土地以外の資産を譲渡した場合 譲渡した資産の価額の合計額 本人の相続税額× 本人の課税価格+本人の債務控除額 10 =取得費加算額 9 譲渡費用 ⑴ 土地や建物を売るために支払った仲介手数料,測量代,土地の分筆費用など ⑵ 印紙税で売主が負担したもの ⑶ 貸家を売るため,借家人に家屋を明け渡してもらうときに支払う立退料 ⑷ 土地などを売るための建物の取壊し費用とその建物の損失額 ⑸ 更に有利な条件で売るために支払った違約金 ⑹ 借地権を売るときに地主の承諾をもらうために支払った名義書換料など ⑺ 譲渡するために建物を取り壊した場合におけるその建物の未償却残額は,譲渡費用となりま す(所基通33-8) なお,譲渡資産に係る抵当権抹消のための登録費用は譲渡費用としない処理が行われています ので注意してください。 Ⅲ 総合課税の対象となる譲渡所得 1 長期・短期の区分 以内→短期譲渡所得 土地等・建物, 株式等以外の資産の譲渡 所有期間5年 超→長期譲渡所得 2 具体的事例 イ 土地建物等の譲渡に関する事例 ① 共有地の分割(所基通33-1-6) 相続に際して,一筆の土地を分筆することなく,複数の相続人で共有として取得し,広大 地の評価を適用するケースがあります。 これは,分筆による相続税の評価額を抑えて相続税負担を軽減する目的で行われているよ うです。そして,その後,その共有持分の割合に応じて現物分割を行います。この共有地の 分割は,自己所有部分と相手方の所有部分との交換つまり譲渡ともいえますが,経済的な側 面からみると譲渡益が発生したとみるのは実態に沿わないことから譲渡はなかったものとし て取り扱います。 なお,登記原因は原則として「共有地の分割」とします。 ② 固定資産の交換(所法58) 「居住者が,各年において,1年以上有していた固定資産で特定のものをそれぞれ他の者 が1年以上有していた固定資産でその特定のもの(交換のために取得したと認められるもの を除く。)と交換し,その交換により取得した取得資産をその交換により譲渡した譲渡資産 の譲渡の直前の用途と同一の用途に供した場合には,譲渡所得の適用については,その譲渡 資産(取得資産とともに金銭その他の資産を取得した場合には,金銭の額及び金銭以外の資 産の価額に相当する部分を除く。 )の譲渡がなかつたものとみなす。 」 11 <留意点> 1 個人が所有する固定資産である土地と不動産業者の所有する棚卸資産としての土地と の交換 一般の譲渡となります。 2 一方が1年以上所有しているが,他方が8ヶ月所有していた土地との交換 一般の譲渡となります。 3 一方(甲)が交換後同一用途に供しているが,他方(乙)が交換後半年で譲渡した場 合 交換後同一用途に供している個人(甲)には交換の適用があり,譲渡した個人(乙) には交換の適用はありません。この場合,乙について交換の適用がないことが甲に対し ても影響するのではないかと考える向きがありますが,上記の2の1年以上所有してい た要件とは異なり交換当事者が同一用途に供することは要件となっていませんから,甲 についての交換は特例の適用があります。 4 共有地の分割後の交換 共有地がそれぞれの持分に応じて現物分割が行われた場合においては,共有持分をそ れぞれ交換したものと考えることができます。しかし,実質的には所有の実態は変わっ ていないとの考え方から譲渡所得の課税においてその譲渡はなかったものとして取り扱 われます。そうしますと,共有地の分割があってもその時点では譲渡はなかったものと しますから土地の所有期間は当初の共有持分を取得した日から継続して所有していたも のとみることができます。 以上のことから,共有地の分割により単独所有となった土地を交換する場合の1年以 上の所有期間の判定は,当初の共有持分を取得した日から判定することとなります。 5 交換に係る譲渡所得の計算明細書の記載に当たっての留意点 ⑴ 等価交換となる場合の交換譲渡資産の譲渡の時価(2,000万円)と交換取得資産の 時価(2,000万円)が同額の場合には同額又は契約書に譲渡金額の記載がない場合に は,金額を記載せず交換譲渡資産及び交換取得資産の所在地,地目,面積を記載 ⑵ 交換差金等の額が20%の範囲内の資産の交換の場合には,交換譲渡資産の譲渡対価 の額は交換資産の交換時の時価,交換取得資産はその資産の交換時の時価で記載 ⑶ 交換差金等が20%を超える場合の資産の交換は,一般の譲渡と同様に譲渡資産の明 細欄にのみ記載 6 譲渡資産又は取得資産のいずれか高い価額の20%以下の交換差金を授受した場合の当 事者の課税関係 ⑴ 交換差金等を受けた者の譲渡所得の金額 ① 交換差金等の額 ② 交換譲渡資産の取得費と譲渡費用 (注)交換取得資産の時価と交換差金等の合計額の5%によることもできます。 12 ③ 譲渡所得の金額 ①−② ⑵ 交換差金等を支払った者の譲渡所得の金額 ① 収入金額 交換差金等が建物等の現物の場合には,その時価 ② 交換譲渡資産の取得費と譲渡費用 (注)交換取得資産の時価と交換差金等の合計額の5%によることもできます。 ③ 譲渡所得の金額 ①−② ③ 保証債務の履行(所法64②) 「保証債務を履行するため資産を譲渡した場合において,その履行に伴う求償権の全 部又は一部を行使することができないこととなったときは,その行使することができな いこととなった金額(不動産所得の金額,事業所得の金額又は山林所得の金額の計算上 必要経費に算入される金額を除く。 )については,譲渡所得の金額の計算上なかったもの とみなす。」 保証人 ⑤資産の譲渡 ⑥譲渡代金 融資 しない ⑦保証履行 弁済 ③求償権行使 ②債務保証 債務者 第三者 譲受人 ④弁済請求 ③弁済不能 ①融資 B/K 債権者 <留意点> 同族会社の社長が事業資金の銀行借入れの保証人となっていました。事業業績は順調であった がこの5年間景気の停滞の影響を受け売上不振となり債務超過の状態が続き,借入金返済に窮 し,自己の不動産を処分して銀行借入金を返済しました。借入金弁済後も債務超過は解消して いません。会社は再建を目指して事業を行っています。このような場合,保証債務の特例はど うなるでしょうか。 求償権の行使不能の判定と求償権行使不能とされる金額は次によります(所基通51-11,64-1) 。 ⑴ 会社更生法又は金融機関等の更生手続の特例等に関する法律の規定による更生計画の認可の 決定又は民事再生法の規定による再生計画の認可の決定があったこと。 これらの決定により切り捨てられることとなった部分の金額 ⑵ 会社法の規定による特別清算に係る協定の認可又は整理計画の決定があったこと。 これらの決定により切り捨てられることとなった部分の金額 ⑶ 法令の規定による整理手続によらない関係者の協議決定で,次に掲げるものにより切り捨て られたこと。 その切り捨てられることとなった部分の金額 ① 債権者集会の協議決定で合理的な基準により債権者の負債整理を定めているもの 13 ② 行政機関又は金融機関その他の第三者のあっせんによる当事者間の協議により締結された 契約でその内容が⑴に準ずるもの ⑷ 債務者の債務超過の状態が相当期間継続し,その貸金等の弁済を受けることができ ないと認められる場合において,その債務者に対し債務免除額を書面により通知した こと。 その通知した債務免除額 この⑷の状況において,次のすべての状況に該当すると認められるときは,求償権 は行使不能と判定されます。 ① 代表者等の求償権は,代表者等と金融機関等他の債権者との関係からみて,他の 債権者の有する債権と同列に扱うことが困難であるなどの事情により,放棄せざる を得ない状況にあったと認められること。 ② その法人は,求償権を放棄(債務免除)することによっても,なお債務超過の状 況にあること。 ロ 預託金制ゴルフ会員権の譲渡 ⒜ 法的性格(最判1小三)昭和50年7月25日) Ⓐ ゴルフ場会社所有のゴルフ場施設を当該会社の規則に従い優先的に利用し得る権利 (ゴルフ場施設利用権) Ⓑ 入会に際して預託した入会保証金を返還請求することができる権利(預託金返還請求 権) Ⓒ 年会費等を納入しなければならない義務(年会費納入義務) ⒝ 取得費 ⒜ ゴルフクラブヘの入会に当たって支出した入会金,預託金,株式払込金 ⒝ 第三者から取得した場合の購入価額 ⒞ 第三者から取得した場合の名義書換料 ⒟ 会員権業者に支払う手数料 ⒠ 会員権を取得するために借り入れた借入金の利子のうち,その会員権の取得のための 資金の借入れの日から使用開始の日までの期間に対応する部分の利子 使用開始の日は,次のとおり会員としての権利の行使が可能となった日をいう。 Ⓐ オープン前の会員権を取得した場合 ゴルフ場がオープンした日(オ一プン前に譲渡した場合は譲渡の日) Ⓑ オープン後の会員権を取得した場合 会員権を取得した日 ⒞ 譲渡費用 ゴルフ会員権業者に支払う手数料その他譲渡にかかった費用 ⒟ 倒産又は破産したゴルフ場の会員権の譲渡 ゴルフ場施設の利用ができなくなったような場合に預託金制ゴルフ会員権を譲渡したと きには,預託金返還請求権のみの譲渡,つまり,金銭債権の譲渡となることから,譲渡所 14 得の基因となる資産の譲渡に該当しないこととなるため(所基通33-1) ,その譲渡は雑所 得に該当し,他の所得との損益通算もできないということになります。 ⒠ 会社更生とゴルフ会員権の譲渡 会社更生法に基づく更生計画の認可決定があった場合でも,会員が従来どおり優先的施 設利用権(会員としてプレーする権利)を行使できるときには,その会員権は,譲渡所得 の基因となる資産に該当し,これを譲渡したことによる損失は,譲渡損失として他の所得 と損益通算することができます。 なお,更生手続開始申立棄却,更生手続廃止等により,会社に破産の原因たる事実があ ると認めるときは,裁判所は,職権で破産法に従い破産宣告をすることができることとな りますので(会社更生法23),その場合には,破産宣告があった日以後のゴルフ会員権の 譲渡による損失は,他の所得と通算することはできません。 ⒡ 民事再生とゴルフ会員権の譲渡 民事再生法の民事再生の申立てがあった場合でも,会員が従来どおり優先的施設利用権 を行使できるときには,その会員権は,譲渡所得の基因となる資産に該当し,これを譲渡 したことによる損失は,譲渡損失として他の所得と損益通算することができます。 ⒢ ゴルフ会員権の譲渡のチェックポイント ゴルフ会員権の譲渡に係る確定申告においては,次に事項をチェックすることが必要で す。 Ⓐ ⒜から⒡の確認 Ⓑ 「ゴルフ会員権取引計算書」 Ⓒ 年会費の精算 Ⓓ 名義書換え及び譲渡の際に必要な次のような書類の受渡し ・ 預託金証書の裏書欄への譲渡人の署名捺印 ・ 印鑑証明書 ・ ネームプレート ・ 会員証(パス券) Ⓔ その他,ゴルフクラブで定めている書類(退会届等) 15 Ⅳ 分離課税とされる土地建物等に係る譲渡所得に対する課税の特例 長期譲渡所得(措法 31) 分離課税 短期譲渡所得(措法 31) 固定資産の交換(所法 58) 保証債務の履行のための資産の 譲渡の特例(所法 64) 優良住宅地の造成等のための 土地等の譲渡(措法 31 の 2) 譲渡益 収用等の場合の特例 (措法 33~33 の 6) 課税の特例 居住用財産の譲渡の特例 (措法 31 の 3,35,36 の 2~36 の 5, 41 の 5,41 の 5 の 2) 土 特定の事業用資産の買換え の場合の特例(措法 37~37 の 4) 地 建 その他の特例 (措法 35 の 2,37 の 6~37 の 9 の 5) 物 等 資力喪失に伴う弁済困難な場合の 資産の譲渡(所法 9①十) の 譲 国等への財産の寄附(措法 40) 渡 非課税 国等への重要文化財の譲渡 (措法 40 の 2) 相続税の物納(措法 40 の 3) 原則:内部通算 可 他の所得の通算 不可 通算 不可 生活に通常必要でない 不動産の譲渡損失(所法 62②) 個人の 2 分の 1 未満の対価による譲渡損失 譲渡損及び損益通 居住用財産の買換え等の場合の 譲渡損失と損益通算(措法 41 の 5) 特定居住用財産の譲渡損失と損益通算 (措法 41 の 5 の 2) 算 上記以外繰越 不可 16 1 税額計算の特例 ⑴ 分離課税の長期譲渡所得に対する15%(20%)の軽減税率の適用(措法31) 「個人が,その有する土地等又は建物等で,その年1月1日において所有期間が5年を超える ものを譲渡した場合には,その譲渡所得に対する所得税は,他の所得と分離して,課税長期譲 渡所得金額に対して15%(5%)の税率を適用して計算します。」 <留意点> 平成21年中の土地等の譲渡について,長期譲渡所得となるものの取得日は, 平成15年12月31日以前になります。 ⑵ 優良住宅地の造成等のための土地等の譲渡所得に対する軽減税率の適用(措法31の2) 「個人が,平成20年12月31日までの間に,その有する土地等(建物は含みません。)でその 年1月1日における所有期間が5年を超えるものを譲渡した場合において,その譲渡が優良住宅 地等の造成等のための譲渡に該当するときは,その課税長期譲渡所得金額に係る所得税の額は, 課税長期譲渡所得金額に応じて次の税率により計算します。」 ① 課税長期譲渡所得の金額の2,000万円以下の部分 10%(14%) ② 課税長期譲渡所得の金額の2,000万円超の部分 15%(20%) ⑶ 居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得に対する軽減税率の適用(措法31の3) 「個人が,その有する土地等又は建物等で,その年1月1日において所有期間が10年を超える もののうち居住用財産の譲渡をした場合には,その課税長期譲渡所得金額に係る所得税の額は, 課税長期譲渡所得金額に応じて次の税率により計算します。」 ① 課税長期譲渡所得の金額の6,000万円以下の部分 10%(14%) ② 課税長期譲渡所得の金額の6,000万円超の部分 15%(20%) 平成21年中の居住用財産の長期譲渡所得に対する軽減税率については,その取得日は, 平成10年12月31日以前になります。 <留意点> 1 居住の事実を証明する書類 住民票の写し(譲渡した日から2ヶ月を経過した日以後に作成されたもの)のほか,電 気,ガス,水道などの使用量の領収書又は口座振替の預金通帳のコピー,町会名簿又は町 会費の領収書,月極新聞購読の領収書,月極賃貸駐車場の契約書・領収書の控え,宅配便 の伝票の控えなどを準備しておくことが必要です。 17 2 譲渡資産が居住用財産に該当するかどうかの判定 居 住 用 譲 渡 資 産 に 該 当 し ま せ ん 居 住 用 譲 渡 資 産 に 該 当 し ま す 18 3 買換資産が居住用財産かどうかの判定 19 4 居住用家屋又はその敷地を共有している場合の判定 ⑴ 家屋とその敷地を共有し,全員がその家屋に居住しているとき 共有者全員がその家屋に居住し,その敷地を有しているので,全員に居住用財産の譲 渡に対する課税の特例の適用があります。 ⑵ 家屋を共有し,その敷地を家屋の所有者の一人が所有し,全員が居住しているとき 家屋の共有者でその敷地を所有している者及び家屋の共有者は,いずれもその家屋に 居住しているので居住用財産の譲渡に対する課税の特例の適用があります。 ⑶ 家屋は単独で所有し,その敷地を家屋の所有者とその親族が共有し,いずれもその家 屋に居住し,同一生計であるとき 家屋の所有者についてはその敷地を含めて居住用財産の譲渡に対する課税の特例の適 用がありますが,敷地の所有者については家屋所有者の特別控除の不足額の範囲内で控 除することができます。 土地のみを所有している親族については,次の要件に該当するときは,特別控除額の 特例及び所有期間10年超の軽減税率の適用があります。 ⒜ その家屋とともにその敷地である土地等の譲渡があったこと ⒝ その家屋の所有者とその土地等の所有者が親族関係にあり,かつ,生計を一にして いること ⒞ 土地等の所有者と家屋の所有者がその家屋に居住していること ⑷ 家屋は単独で所有し,その敷地を家屋の所有者とその親族が共有しているが,所有者 だけがその家屋に居住しており,所有する親族が別生計のとき 家屋の所有者についてはその敷地の持分を含めて居住用財産の譲渡に対する課税の特 例の適用がありますが,その敷地を所有する親族が別生計であって,その家屋に居住し ていないので,その親族には居住用財産に対する課税の特例の適用はありません。 ⑸ 兄弟で共有している家屋に弟が居住し,その敷地を弟が所有している場合 その家屋に居住している弟について,家屋の共有部分とその敷地の全部について居住 用財産の譲渡に対する課税の特例の適用がありますが,兄についてはその家屋に居住し ていないので居住用財産の譲渡に対する課税の特例の適用はありません。 ⑹ 居住用家屋を夫婦で異なる持分を共有し,その敷地も家屋と異なる持分で所有してい る場合 夫婦ともにその家屋に居住していることから,家屋と土地等の持分全部について居住 用財産の譲渡に対する課税の特例の適用があります。 ⑷ 分離課税の短期譲渡所得に対する税率の適用(措法31の4) ① 一般譲渡の部分 30%(39%) ② 軽減譲渡の部分 15%(20%)(優良住宅地の造成等のための軽減税率) <留意点> 平成21年中の土地等の譲渡について,短期譲渡所得となるものの取得日は, 20 平成16年1月1日以後になります。 2 居住用財産以外の資産の譲渡に係る特別控除・課税繰延の特例 ⑴ 収用交換等の場合の課税の特例 ⑵ 収用交換等の場合の譲渡所得等の5,000万円の特別控除(措法33の4) 個人が有する資産が土地収用法等の規定により収用,買取,買収,交換等がされた場合にお いて,その譲渡が事業施工者等から最初の買取の申し出があった日から6ヶ月以内に行われて いるなど一定の要件に該当し,その年中のこの特例の対象となる資産のいずれについても収用 21 等に伴う代替資産を取得した場合の課税の繰延の特例の適用を受けないときには,その資産の 譲渡所得の金額から5,000万円を限度として特別控除の適用があります。 ⑶ 交換処分等に伴い資産を取得した場合の100%課税の繰延の特例(措法33の2) ⑷ 換地処分等に伴い資産を取得した場合の100%課税の繰延の特例(措法33の3) ⑸ 特定の事業用資産の買換えの場合の80%課税の繰延の特例(措法37) 個人が,その事業用の土地建物等その他特定の資産を譲渡し,事業用の土地建物等その他特 定の資産を取得して買い換えた場合において,その買換資産をその事業の用に供したとき, 又は供する見込であるときには,原則として譲渡価額の20%相当額に課税が行われ,80%相 当額について課税の繰延が認められます。 ⑹ 既成市街地等内にある土地等の中高層耐火建築物等の建設のための買換え及び交換の場合の 100%課税の繰延の特例(措法37の5) ⑺ 特定の交換分合により土地等を取得した場合の100%課税の繰延の特例(措法37の6) ⑻ 大規模な住宅地等造成事業の施行区域内にある土地等の造成のための交換等の場合の譲渡所 得の100%課税の繰延の特例(措法37の7) ⑼ 認定事業用地適正化計画の事業用地の区域内にある土地等の交換等の場合の譲渡所得の 100%課税の繰延の特例(措法37の9の2) ⑽ 承継業務の事業計画の施行区域内にある土地等の交換の場合の譲渡所得の100%課税の繰延 の特例(措法37の9の3) ⑾ 平成21年及び平成22年に土地等を先行取得した場合の譲渡所得の課税の特例(措法37の9の 5) 3 居住用財産に係る譲渡所得の課税の特例 ⑴ 居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例(軽減税率の特例)(措法31の3) 個人が,その有する居住用財産である土地等又は建物等でその年1月1日において所有期間 が10年を超えるものの譲渡をした場合(個人がその年の前年又は前々年において既にこの特 例の適用を受けている場合を除く。)には,その譲渡による譲渡所得に係る課税長期譲渡所 得金額に対する所得税の額は,次により計算した金額です。 ① 課税長期譲渡所得金額が6,000万円以下である場合 課税長期譲渡所得金額×10% ② 課税長期譲渡所得金額が6,000万円を超える場合 課税長期譲渡所得金額×15%−300万円 (注) 1 居住用財産の譲渡に係る特例制度の適用に当たって,その譲渡が次に掲げる者に対す るものである場合には,居住用財産に係る特例制度の適用はありません。 1 その個人の配偶者及び直系血族 22 2 その個人の親族(1に掲げる者を除く。)でその個人と生計を一にしているもの及 びその個人の親族(1に掲げる者を除く。)で家屋の譲渡がされた後個人とその家屋 に居住をするもの 3 その個人と婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者(内縁 の配偶者)及びその者の親族でその者と生計を一にしているもの 4 1から3に掲げる者及びその個人の使用人以外の者でその個人から受ける金銭その 他の財産によって生計を維持しているもの及びその者の親族でその者と生計を一にし ているもの 5 1から4に掲げる者を判定の基礎となる所得税法第 2 条(定義)に規定する株主等 とした場合に法人税法施行令に規定する特殊の関係その他これに準ずる関係のあるこ ととなる会社その他の法人 2 居住用財産の譲渡に係る特例制度の適用に当たって,その譲渡について次に掲げる課 税の特例との適用を受ける場合には,その譲渡については居住用財産に係る特例制度の 適用はありません。 ⑵ 居住用財産の譲渡所得の特別控除(3,000万円の特別控除の特例)(措法35) 個人が,居住用家屋の譲渡若しくは居住用家屋とともにその敷地の用に供されている土地等 の譲渡(譲渡所得の基因となる不動産等の貸付けを含む。)をした場合又は災害により滅失し た居住用家屋の敷地の用に供されていた土地等の譲渡若しくは居住用家屋で個人の居住の用に 供されなくなったものの譲渡若しくは居住用家屋で居住の用に供されなくなったものとともに するその敷地の用に供されている土地等の譲渡を,これらの家屋が当該個人の居住の用に供さ れなくなった日から同日以後3年を経過する日の属する年の12月31日までの間にした場合にお いては,個人が前年又は前々年において居住用財産の譲渡について居住用財産の譲渡所得の特 別控除(措法35),相続等により取得した居住用財産の買換え及び交換の場合の長期譲渡所得 の課税の特例(旧措法36の2),特定の居住用財産の買換えの場合の長期譲渡所得の課税の特 例(措法36の2),特定の居住用財産を交換した場合の長期譲渡所得の課税の特例(措法36の 5),居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除(措法41の5),特定 居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除(措法41の5の2)の各特例制度の適用を受け ているときを除いて,長期譲渡所得の金額又は短期譲渡所得の金額から3,000万円を控除する。 居住用家屋 居住用家屋とその敷地の用に供されている土地等 災害により滅失した居住用家屋の敷地の用に供されて いた土地等 居住用家屋で個人の居住の用に供されなくなったもの 居住用家屋で居住の用に供されなくなったものととも にするその敷地の用に供されている土地等 23 譲渡 居住用家屋が個人の居住の用に 供されなくなった日から同日以 後3年を経過する日の属する年 の 12 月 31 日までの間の譲渡 ⑶ 特定の居住用財産の買換え及び交換の場合の長期譲渡所得の100%課税の繰延の特例(措法 36の2) 個人が,平成5年4月1日から平成21年12月31日までの間に,その年1月1日において所有 期間が10年を超える国内にあるその者の居住用家屋又は土地等(居住期間が10年以上のものを いい,「譲渡資産」又は「交換譲渡資産」という。)の譲渡をした場合において,譲渡の日の 属する年の12月31日までの間に,その個人の居住用家屋又はその家屋の敷地としての土地等 (500㎡以下)のうち国内にあるもの(「買換資産」,又は「交換買換資産」)の取得又は交 換をし,かつ,取得の日から譲渡の日の属する年の翌年12月31日までの間にその個人の居住の 用に供したとき,又は供する見込みであるときは,譲渡資産の譲渡による収入金額が買換資産 の取得価額以下である場合にあってはその譲渡資産の譲渡がなかったものとし,収入金額が取 得価額を超える場合にあっては譲渡資産のうちその超える金額に相当する部分の譲渡があった ものとし,交換における交換譲渡資産は,その交換の日において交換譲渡資産の価額をもつて 譲渡をしたものとみなして分離課税の長期譲渡所得の課税があります。 ⑴ 現に居住の用に供している家屋で ⑴ 国内にあるもの 個人の居住の用に供する家屋又は 家屋の敷地の用に供する土地等で国内 にあるもの ⑵ ⑴に掲げる家屋で個人の居住の用 ⑵ その家屋が中古耐火建築物である に供されなくなったもの(居住の用に 場合には,建築後 25 年以内のもの又は 供されなくなった日から同日以後3年 耐震安全基準に適合しているもの を経過する日の属する年の 12 月 31 日 譲 渡 資 産 までの間に譲渡されるものに限る。) ⑶ ⑴又は⑵の家屋及び家屋の敷地の 用に供されている土地等 買 換 資 ⑷ ⑴の家屋が災害により滅失した場 産 ⑶ その家屋が1棟のものである場合 には,床面積のうち居住用部分の床面 積が 50 ㎡以上であるもの ⑷ その家屋が独立部分を区分所有す 合において,その家屋を引き続き所有 る場合には,その独立部分の床面積の していたとしたならば,その年1月1 うち居住用部分の床面積が 50 ㎡以上で 日における所有期間が 10 年を超える家 あるもの 屋の敷地の用に供されていた土地等 ⑸ (災害があつた日から同日以後3年を する土地等については,居住用部分に 経過する日の属する年の 12 月 31 日ま 対応する面積が 500 ㎡以下のものであ での間に譲渡されるものに限る。) ること 24 上記に掲げる家屋の敷地の用に供 居住用財産の軽減税率の特例 居住用財産の特別控除の特例 特定の居住用財産の買換えの特例 (措法 31 の 3) (措法 35) (措法 36 の 2) 所得税法の規定による交換 収用等に伴い代替資産を取得した場合の課税の特例(措法 33) 交換処分等に伴い資産を取得した場合の課税の特例(措法 33 の2) 収用交換等の場合の特別控除の特例(措法 33 の4) 特定の居住用財産の買換えの場 合の長期譲渡所得の課税の特例 (措法 36 の2) 特定の居住用財産を交換した場 合の長期譲渡所得の課税の特例 (措法 36 の5) 特定の事業用資産の買換えの特例(措法 37) 特定の事業用資産の交換の特例(措法 37 の4) 措法 37 の5※1 措法 37 の6※2 大規模な住宅地の造成のための交換等の特例(措法 37 の7) 認定事業用地適正化計画の事業用地の区域内にある土地等の交換等の特定(措法 37 の9の2) 承継業務の事業計画の施行区域内にある土地等の交換の特定(37 の9の3) 特定普通財産とその隣接する土地等の交換の課税の特例(37 の9の4) ※1 措法37の5(既成市街地等内にある土地等の中高層耐火建築物等の建設の買換え 及び交換の場合の譲渡所得課税の特例)) ※2 措法37の6(特定の交換分合により土地等を取得した場合の課税の特例) ⑷ 居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除(措法41の5) 売却した年の1月1日において所有期間が 5 年を超える居住用財産(具体的には平成15年 12月31日以前に取得した家屋とその敷地) (譲渡資産)を売却した場合で,その売却した年の 前年の1月1日からその売却した年の翌年12月31日までに買換資産の取得をし,その取得をし た日の属する年の12月31日において,その買換資産に係る契約償還期間が10年以上の住宅ロー ン等を有し,かつ,その取得をした年の翌年12月31日までの間に居住の用に供するとき又は供 する見込みであるとき等,一定の要件を満たす場合は,譲渡資産の特定譲渡による譲渡所得の 金額の計算上生じた損失の金額のうち,特定譲渡をした日の属する年分の長期譲渡所得の金額 及び短期譲渡所得の金額の計算上控除してもなお控除しきれない部分の金額を,その年の他の 所得と損益通算することができます。いう。 この特例の適用を受ける場合であっても,その適用に係る買換資産の取得については,住 宅ローン控除との併用が認められます。 25 <損益通算及び繰越控除の対象となる金額> 1 青色申告書を提出している年度(その1:特定損失額>その他の所得金額) 他の損失の 金額500 特定損失額 1,000 損益通算 純損失の金額 700 700 所得税の繰越控除の対象額 (所法70①)500 通算後譲渡損失の金額200 不動産所得の金額 800 2 青色申告書を提出している年度(その2:特定損失額<その他の所得金額) 他の損失の 損益通算 純損失の金額 所得税の繰越控除の対象額 700 700 (所法70①)500 金額1,000 不動産所得の金額 特定損失額 800 500 3 変動所得又は被災事業用資産の損失がある年度(白色申告) 変動所得又 は被災事業 用資産の損 損益通算 純損失の金額 失の金額 700 700 所得税の繰越控除の対象額 (所法70②)500 500 特定損失額 1,000 通算後譲渡損失の金額200 不動産所得の金額 800 ⑸ 特定居住用財産の譲渡損失及び繰越控除(措法41の5の2) 個人の平成16年分以後の各年分の譲渡所得の金額の計算上生じた特定居住用財産の譲渡損失 の金額がある場合には,その特定居住用財産の譲渡損失の金額を基礎として計算したその年分 の課税標準が純損失(の金額)となったときは,その純損失の金額を翌年以後3年間にわたっ て繰り越して翌年以降の課税標準の計算上控除します。 26 この場合における「特定居住用財産の譲渡損失の金額」とは,その有する家屋又は土地等で, その年1月1日における所有期間が5年を超えるもののうち次に掲げる譲渡資産の特定譲渡を した場合(特定譲渡に係る契約を締結した日の前日において譲渡資産に係る住宅借入金等の金 額を有する場合に限る。)において,その譲渡資産の特定譲渡による譲渡所得の金額の計算上 生じた損失の金額のうち,当該特定譲渡をした日の属する年分の長期譲渡所得の金額及び短期 譲渡所得の金額の計算上控除してもなお控除しきれない部分の金額(特定譲渡に係る契約を締 結した日の前日における譲渡資産に係る住宅借入金等の金額の合計額から譲渡資産の譲渡の対 価の額を控除した残額を限度とする。)をいいます。 また,その年の前年以前3年内において生じた純損失の金額のうち,その居住用財産に係る 譲渡損失の金額がある場合においては,その年の翌年以後3年以内の各年分(合計所得金額が 3,000万円以下である年分に限られます。)の課税所得の金額の計算上その通算後譲渡損失の 金額の繰越控除の特例の適用を受けることができます。 <損益通算及び繰越控除可能譲渡損失金額その1> 譲渡損失の金額 取得費等 1,600 3,000 譲渡収入金額 損益通算及び繰越可能 ローン 譲渡損失金額 残額 1,100 2,500 譲渡収入金額 1,400 1,400 <損益通算及び繰越控除可能譲渡損失金額その2> 取得費等 譲渡損失の金額 ローン 損益通算及び繰越可能譲渡 2,000 残額 損失金額2,000 3,100 3,000 譲渡収入金額 譲渡収入金額 1,000 1,000 27 <41条の5と41条の5の2の比較> 適用要件 措法41条の5 譲渡期間 譲 渡 資 産 平成16年1月1日から 平成21年12月31日まで 所有期間 譲渡した年の1月1日において5年超所有(分離長期譲渡所得要件) 使用要件 譲渡者の居住の用に供しているもの 譲渡先等の制 贈与又は出資に係る譲渡及び配偶者,直系血族, 限 同一生計親族その他特殊関係者への譲渡を除く 住宅借入金等 取得期間 居住開始期間 譲渡契約締結日の前日において一定 要件なし の住宅借入金残高がある 譲渡の年の前年から譲渡年の年末まで 取得した年の翌年末まで 床面積制限 買 措法41の5の2 居住用部分が50㎡以上 住宅借入金等 (損益通算の特例) 換 取得した年の12月31日において一定 資 の住宅借入金等を有すること 産 (繰越控除の特例) 買換資産の要件なし 適用を受けようとする年の12月31日 において一定の住宅借入金等の残高 があること 譲渡損失の金額の 譲渡所得の金額の計算上生じた損失 譲渡資産に係る住宅借入金等の残高 制限 全額(500㎡を超える敷地等の部分の から譲渡資産の対価の額を控除した 損失を除く。) 残額が限度 所得制限 繰越控除を受けようとする年分の合計所得金額が3,000万円以下 繰越控除期間 申告要件 譲渡した年の翌年以後3年間 (損益通算の特例) 譲渡損失が生じた年分の確定申告書に一定の書類を添付して提出すること (繰越控除の特例) 一定の書類を添付して譲渡損失が生じた年分の確定申告書の提出期限まで に提出し,その後,一定の書類を添付して連続して確定申告書を提出してい ること 28 土地・建物の譲渡所得のチェック項目 譲渡資産が総合課税対象分か分離課税対象分か,確認したか 事業用固定資産の譲渡についても上記の区分を行ったか 譲渡所得について,譲渡者,譲受者,譲渡契約日,譲渡物件,譲渡対価の額と授受の日,譲渡 資産の取得日,取得費,相手先の住所・氏名その他物件説明を含めて,契約書等で確認したか 譲渡資産の所有期間を総合課税分と分離課税分につきそれぞれ長期・短期を判定したか 譲渡所得の申告は契約基準,引渡基準のいずれを基準としたか 取得費を実額によっている場合,当初の取得費等を契約書,領収書等により確認したか 当初取得及びその後の相続等の時の購入手数料,必要経費としなかった不動産取得税,登録免 許税,設備費,改良費等を確認したか 相続開始後 3 年 10 ヶ月で譲渡した資産の取得費に相続税額を加算したか 譲渡資産の取得のための借入金利子を適正に処理したか 譲渡資産の減価償却費(業務供用期間の累計額)又は減価(非業務用供用期間の金額)の額の 計算に誤りはないか 非事業用資産の減価の額の計算で耐用年数を確認したか 取得費を収入金額の5%の概算率によっている場合に設備費,改良費などを取得費に含めてい ないか 土地建物等の譲渡資産について,過去に買換特例,交換の特例など税制上の特例の適用を受け ていたかどうかを確認したか 上記の特例の適用を受けていた場合の譲渡資産の取得費が圧縮された価額であるかどうかを確 認したか 譲渡所得の課税の特例制度の適用を受ける場合において,その要件,適用対象者,申告手続な どすべての要件をチェックしたか 譲渡所得の課税の特例制度の適用を受けることについて,確定申告書の特例適用条文欄に条文 番号を法令名と一緒に記載したか 譲渡費用については契約書,領収書等で確認したか 生活に通常必要でない資産の災害等による損失を譲渡所得の金額の計算上控除したか 土地建物等の損失は土地建物以外の資産の譲渡益とは損益通算できないことを確認したか 分離課税と総合課税の税額計算に誤りはないか 保証債務の履行について,債務保証をした時点で既に資力喪失をしていたかどうかを確認した か 土地建物の一括取得の場合の建物の取得費は「建物の標準的な建築価額」表により計算するこ とができる 固定資産の交換に当たって,不動産会社の分譲地と交換していないか 29 ✔ 優良住宅地の造成等に係る軽減税率を建物についても適用していないか 居住用財産の課税の特例において,兄弟姉妹への譲渡は適用対象であるが,同一生計の親族に 該当するときは適用除外となることを確認したか 居住用建物を取り壊し後その敷地を貸付けた場合には,3年の年末経過前であっても居住用財 産の特例の適用がないことを確認したか 居住用財産の軽減税率を建物の所有期間が 10 年以下の場合は適用できないことを確認したか 収用等の課税の 5,000 万円の特別控除の特例の適用に当たって,同一事業で 2 年にわたる譲渡 にもかかわらず,連年で特別控除を適用していないか 特定の事業用資産の買換えにおいて,買換資産の土地等の面積が制限を超えていないか 既に相続税の取得費加算を適用しているにもかかわらず,その後の取得費加算の計算に当たっ て既に加算した金額を控除しているかどうか 相続財産分割の一部が代償分割であった場合において,支払代償金の額を圧縮して取得費加算 額を計算したか 消費税 譲渡所得 収用等の補償金 資産の引渡しを伴うもの 課税対象 事業供用資産 家事用資産 課税対象外 収益補償・経費補償等資産の移転を伴わないもの 課税対象外 土地等の譲渡 事業供用資産 非課税 家事用資産 課税対象外 建物の譲渡 事業供用資産 課税対象 家事用資産 課税対象外 その他の資産の譲渡 事業供用資産 課税対象 家事用資産 課税対象外 30 Ⅴ 株式等の譲渡に係る留意点 Ⅰ 平成20年度及び21年度年度の金融・証券税制の改正(22年分適用分) ⑴ 上場株式等の配当等の分離課税制度と損益通算の創設 居住者等が,平成21年1月1日以後に支払を受けるべき上場株式等の配当等(大口株主等が 支払を受けるものを除きます。)に係る配当所得については,総合課税のほかに,平成21年1 月1日から平成23年12月31日までの間に支払を受けるべき上場株式等の配当等に係る配当所得 については,7%(住民税は3%)の税率による申告分離課税を選択することができることと されました。 この申告分離課税を選択した場合には,上場株式等の配当等の全部について適用することと され,いわゆるつまみ食いは認められません。また,配当控除の適用もありません。 ○ 上場株式等の配当等に係る税率 平成21年1月1日~ 平成 23 年 12 月 31 日 平成24年1月1日~ 【申告における税率】 総 合 課 税 累進税率(所得税5%~40%,住民税10%) 申告分離課税 10% 20% (所得税 7%,住民税 3%) (所得税 15%,住民税 5%) 【源泉徴収における税率】 居住者 個 人 ※ 10% 20% (所得税 7%,住民税 3%) (所得税 15%,住民税 5%) 7%(所得税のみ) 15%(所得税のみ) 7%(所得税のみ) 15%(所得税のみ) 7%(所得税のみ) 15%(所得税のみ) 国内に恒久的施設 を有する非居住者 上記以外の非居住者 内国法人・外国法人 ※ 大口株主等である個人を除きます。 また,確定申告書を提出する居住者等の平成21年分以後の各年分について,上場株式等に係 る譲渡損失の金額と上場株式等の配当等に係る配当所得(申告分離課税を選択したものに限り ます。)の金額との損益通算ができることとされました。 なお,平成20年以前の各年に生じた上場株式等に係る譲渡損失の金額で平成21年以後に繰り 越されるものについても,平成21年以後の各年分の上場株式等に係る配当所得の金額から控除 することができます。 ⑵ 上場株式等に係る譲渡所得等の軽減税率の特例の改正 上場株式等に係る譲渡所得等の金額に対する7%(住民税は3%)の軽減税率が,平成20年 12月31日をもって廃止されました。 31 ただし,特例措置として,平成21年1月1日から平成23年12月31日までの間に上場株式等の 譲渡をした場合の上場株式等に係る譲渡所得等の金額については,引き続き7%(住民税は 3%)の税率を適用することとされました。 ○ 上場株式等の譲渡による所得に対する税率 ~平成23年12月31日 平成24年1月1日~ 10% 20% (所得税7%,住民税3%) (所得税15%,住民税5%) 金融商品取引業者等を 通じた譲渡等 上記以外の譲渡 2 20%(所得税15%,住民税5%) 株式等の譲渡に対する課税 ⑴ 株式に係る譲渡所得の金額の計算 総収入金額−取得費(※1)−譲渡費用(※2)−負債利子(※3)−特定投資株式の控除額(※4) =株式等に係る譲渡所得等の金額 ※1「取得費」(上場株式及び非公開株式) 1 原則 区 分 取 1 払込により取得した株式 払込金額 2 購入した株式等 購入対の額 3 発行法人から与えられた権利行使 その権利行使の日又は により取得した株式 払込期日の価額 4 上記以外のもの 2 得 費 取得時の通常要する価額 特例 相続,贈与により取得した株式 被相続人又は贈与者の取得費 旧株取得費+新株払込金額×新株式数 増資等の場合の旧株と新株 取得費が収入金額の 5%未満 1+新株式数 収入金額の5%相当額 32 3 取得費の確認方法 あり(証券会社より交付) 取引報告書 なし 株 10 年の保存義務あり 式 顧客勘定元帳 の なし 取 あり 本人の控え (手帳・預金通帳) 得 価 なし 保有株式の裏面 名義書換日の確認 株主名簿・複本 4 取 得 時 期 の 把 握 額 証券会社の データベース 同一銘柄について2回以上にわたって譲渡した場合の取得費 次の算式により総平均法に準じた方法により計算した金額です。 直前譲渡後の残株式の価額+今回の譲渡までの取得株式の取得費 直前譲渡後の残株式数+今回までの取得株式数 5 上場株式の特例 取 得 平 成 13 年 9 月 30 日 以 前 平 成 15 年 1 月 1 日 か ら 平 成 13 年 10 月 1 日 平 成 22 年 12 月 31 日 ま で 譲 渡 収入金額から控除する取得費 は,平成 13 年 10 月1日の終値 の80%に相当する金額とする ことができます。(譲渡損失の 繰越控除の適用可。 ) 上場株式 等に該当 (計算例) ⑴ 譲渡した上場株式等の同一銘柄がすべて平成13年9月30日以前に取得している場合 その譲渡した銘柄について,実際の取得価額についての総平均法か特例計算のいずれか によることとなります。つまり,その譲渡した株式について実額と特例の組み合わせはで きないということです。 (例) 平成10年4月取得 270円 3,000株 平成11年8月取得 200円 4,000株 33 平成13年10月1日価額(300円) 80%相当額 240円 平成21年9月全株売却 600円 (計算) 1 原則方法 (270円×3,000株+200円×4,000株)÷7,000株=230円 230円×7,000株=1,610,000円 2 特例方法 240円×7,000株=1,680,000円 3 取得費 1,610,000円<1,680,000円 特例選択 1,680,000円 (注)270円×3,000株+240円×4,000株=1,770,000円(原則と特例の組み合わせ)は適 用できません。 ⑵ 譲渡した上場株式等の同一銘柄が平成13年9月30日以前に取得しているものと平成13年 10月1日以後に取得しているものがある場合 譲渡した株式全部について総平均法を適用して取得費を計算する方法,平成13年9月30 日以前に取得した株式について特例計算を適用し,平成13年10月1日以後に取得した株式 について全部の株式を含めた総平均法を適用して計算し,これらの金額の合計額により計 算する方法があります。 (例) 平成11年4月取得 100円 2,000株 200,000円 平成12年8月取得 200円 2,000株 400,000円 平成13年12月取得 300円 1,000株 300,000円 80%相当額 240円 平成13年10月1日価額(300円) 平成21年5月全株売却 600円 (計算) 1 原則方法 900,000円÷5,000株=180円 180円×5,000株=900,000円 2 特例方法 イ 特例対象分(平成13年9月30日以前取得分) 240円×4,000株=960,000円 ロ 原則対象分(平成13年10月1日以後取得分) 900,000円÷5,000株=180円(全体の株式を基礎として総平均法の金額) 180円×1,000株=180,000円 ハ 取得費 960,000円+180,000円=1,140,000円 ※2 譲渡費用 34 譲渡のための委託手数料等その他の経費 ※3 負債利子 譲渡株式の取得のための借入金等の利子で,平成21年中の所有期間に対応する部分の 金額 ※4 特定投資株式の取得に要した金額の控除額 特定投資株式の控除制度は,いわゆるエンジェル税制の対象となる特定投資株式を払 込みにより取得した場合には,その年分の株式等に係る譲渡所得等の金額の計算につい ては,その計算上その年中に払込みにより取得した特定投資株式の取得に要した金額の 合計額(この特例の適用前の株式等に係る譲渡所得等の金額を限度とします。)を控除 することができます。 ⑵ 譲渡所得等の金額(譲渡損益の通算)と税額計算 未公開分の株式等に係る 譲渡所得等の金額 未公開分の譲渡損益 公開等特定分の株式 上場分の 譲渡損益 - 公開等特定分 以外の株式 特定投資株式 の控除額(※) = 上場分(公開等特定分)の株式等に ※控除額は,公開等特定分の 株式,公開等特定分以外の 株式,未公開分の株式の順 に控除します。 係る譲渡所得等の金額 上場分(公開等特定分以外)の 株式等に係る譲渡所得等の金額 未公開分の株式等に係る 譲渡所得等の金額 上場分(公開等特定分)の株式等 × 1 に係る譲渡所得等の金額 2 上場分(公開等特定分以外)の 株式等に係る譲渡所得等の金額 未公開分の株式等に係る 譲渡所得等の金額 上場株式等又は特定投資 株式に係る譲渡損失の - 繰越控除(※) ※繰越控除額は,未公開分の 株式,上場分の株式の順に 控除します。 = 上場分の株式等に係る 譲渡所得等の金額 (注)株式等に係る譲渡所得等の赤字の金額は,他の株式等に係る譲渡所得等の黒字の金額及び上場株式等に係る配当所 得の金額からは控除できますが,その控除をしてもなお控除しきれない赤字の金額は,給与所得など他の各種所得の黒字 の金額から差し引くことはできません。 逆に,不動産所得など他の各種所得に赤字の金額がある場合においても,その各種所得の赤字の金額は株式等に係る 譲渡所得等の黒字の金額から差し引くことはできません。 なお,上場株式等に係る譲渡損失の繰越控除は,平成15年1月1日以後に上場株式等を証券業 者などを通じて譲渡したことにより生じた損失の金額のうち,その年の株式等に係る譲渡所得 等の金額の計算上控除しきれない金額については,確定申告することにより,翌年以後3年間 にわたり,株式等に係る譲渡所得等の金額から繰越控除できます。 この場合において,上場株式等に係る譲渡損失の金額(上場株式等に係る配当所得の金額を 控除した後の金)が前年以前3年内の二以上の年に生じたものである場合には,これらの 35 年のうち最も古い年に生じた上場株式等に係る譲渡損失の金額から順次控除します。また, その年の「株式等に係る譲渡所得等の金額」のうちに「未公開分」及び「上場分」がある 場合には,まず「未公開分」から控除し,なお控除しきれない金額がある場合には「上場 分」の金額から控除します。 ② 税額計算 未公開株式等に係る 譲渡所得等の金額 未公開株式等に係る 所得控除額及び総所得 課税譲渡所得等の金額 ×15%(5%) - 金額から控除しきれな = 上場株式等に係る い雑損失の繰越控除額 譲渡所得等の金額 上場株式等に係る課税 ×7%(3%) 譲渡所得等の金額 ⑶ 特定口座制度 源泉徴収 を選択する ケース 証券業者等 に特定口座 を開設 源泉徴収を選択 (特定口座源泉徴収 選択届出書) 特定口座内で 所得計算し 7% (3%)の源泉徴収 特定口座 年間取引 報告書 特定口座開設 届出書の提出 株式の取得費は特定口座内の 株式だけで区分して計算 証券業者等 に特定口座 を開設 特定口座内で 所得計算 源泉徴収 を選択しな いケース 申告不要 選択 特定口座 年間取引 報告書 申告 (注)特定上場株式等(購入価額 1,000 万円限度)に係る非課税の特例は廃止されました。 ⑷ 上場株式等の申告手続 ① 一般口座での取引 黒字の場合 証券会社からの 取引報告書 合 計 額 「株式等に係る譲渡所得等の 金額の計算明細書」に転記 収入金額を申告書第 3 表㋡, 所得金額を同○ 60 に転記 赤字の場合 上場株式等の取得費の特例 の適用を受ける場合 確定申告書付表(本年分の損益 通算前の上場株式等に係る譲渡 損失の金額)「①」「②」 「③」「⑤」へ記入 「上場株式等の取得費の特例」 の適用を受ける 上場株式等の明細に記入 上記の確定申告書付表⑤の 金額を同付表⑩申告書第 3 表 60 及び○ 83 へ転記 ○ 36 ② 源泉徴収なしの特定口座での取引 A 証券会社からの特定 口座年間取引報告書 A 証券会社からの特定 口座年間取引報告書 合 計 額 黒字の場合 「株式等に係る譲渡所得等の 金額の計算明細書」に転記 収入金額を申告書第 3 表㋡, 所得金額を同○ 60 に転記 赤字の場合 確定申告書付表(本年分の損益 通算前の上場株式等に係る譲渡 損失の金額)「①」「②」 「③」「⑤」へ記入 上記の確定申告書付表⑤の 金額を同付表⑩申告書第 3 表 60 及び○ 83 へ転記 ○ チェック事項 ✔ 個人間における上場株式の売買は,未公開分として課税対象とされ 15%(5%)の 税率が適用されます。 株式形態のゴルフ会員権は,総合課税の対象となるので分離課税とされる株式等の 譲渡所得に含めてはいけません。 公募株式投資信託の償還時の差額はみなし譲渡損益として株式の譲渡所得になりま す。 取得費の計算において,実額の取得費が収入金額の 5%未満であるのに,実額で計 算していないか。 未公開株式の損失は繰越控除の対象になりません。 上場株式等の譲渡損失から上場株式等の配当所得の金額を控除したか。 繰越損失があるにもかかわらず,株式の譲渡がなかったため無申告としていないか (繰越控除の適用は,株式譲渡がない場合であっても申告を必要とします。 ) 37