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ナンシー便り(5)

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ナンシー便り(5)
ナンシー便り(5)
世界史分野 3 年:井上まな
研究のキーワード:イタリア・ルネサンス、図像学、宗教画
【フランスの田舎】~農業大国、フランスでの農業体験~
ロレーヌ大学での留学プログラムは 6 月まででした。しかし、7 月から帰国までの一か月
間、私は南フランスの小さな村の農場で過ごしました。旅行が大の趣味なので、帰国までに
より多くの国を巡ろうかとも考えたのですが、留学の最後には、やはりフランスの田舎での
んびりと過ごしたいと思ったからです。よって、最終回となるこの回では、フランスの農業
とそこでの体験について紹介していきます。
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フランスでは、都市を抜ければそこには豊かな自然と田園風景が広がっています。この美
しい眺めを旅中の車窓から眺める度に、フランスの本当の魅力はこの中にあるのではない
かと私は感じ始めました。また、美食の国フランスを支えるのは、この広大な畑や牧草地か
ら生まれる農産物と畜産物です。フランスの食材(とりわけチーズ)とそれらを用いての料
理が大好きな私は、農業大国としてのフランスにも関心が高まっていました。
・BIO と WWOOF
食への安全意識が高いフランスでは、無農薬・有機農法の BIO (Biologique) 製品が人気
です。どのスーパーにも、BIO 製品の特設コーナーがありますし、この商品のみを扱った
BIO 市場というものも存在します。野菜や肉といった食品だけでなく、化粧品や日用品に
まで BIO 製品は及ぶので、日本にいた頃よりも有機農業をより身近に感じることができま
した。
左:有機農法を意味するマーク、右:スーパーのお菓子の BIO コーナー
先ほど述べた BIO(有機農法)に基づく農場と、そこで学びたい人たちを繋ぐシステムに
WWOOF というものがあります。WWOOF とは、World Wide Opportunities on Organic
Farms (世界に広がる有機農業での機会) の略であり、お金のやり取りなしに「食事・宿」
と「労働力」を交換する世界的な体験型システムです。ここでは、人との交流や環境を大切
にするので、農業の知識だけでなくその国の文化や言語を経験から学ぶことができます。登
録すると、その国の登録ファーム情報・連絡先が載った会員 Web サイトにアクセスする権
利がもらえるので、そこから自分が希望する農場を探し、メールや電話で直接コンタクトを
とります。
この WWOOF を利用して、
私は南フランスのとある農場
に滞在することにしました。滞
在先が決まるまでには、数多く
の農場のプロフィールを読み、
履歴書や志望動機書を書き、メ
ールや電話でのやり取りを行
う必要がありました。もちろん、
それらは全てフランス語で行
われます。ここでも、自身の語
学力が多いに試されることに
なりました。こうして私が滞在
中世の古城から撮影した滞在先の農場
することになった農場は、プロ
ヴァンス地方の標高 1000mほ
どの山奥にありました。
・プロヴァンスとラベンダー
フランス南東部に位置するプロ
ヴァンス地方 (La Provence) は、
温暖で乾燥した地中海性気候と、
起伏に富んだ石灰岩質の地形が
特徴的です。南は地中海に面しま
すが、内陸に入ると丘陵地帯が広
がっています。また、中世からの
村が多く現存しており、丘の上の
古城を中心に石造りの家が折り
重なる様子は、まるで空中都市の
ようです。有名な都市としては、
中世の城アンティーブ (Antibe) と地中海
14 世紀に教皇庁があったアヴィニ
ョン (Avignon) 、フランス最古のロ
ーマ劇場とアウグストゥスの凱旋
門が残るオランジュ (Orange) が
あげられるでしょう。
そして、この地方に切り離すこと
ができないものが、ラベンダーで
す。しかし、南フランスの代名詞と
もいえるこの風景に出会えるのは、
6 月後半から 7 月前半までの 2 週間
ほどしかありません。私がこの時期
にこの地方を訪れることにしたのは、
アヴィニョン教皇庁 (Avignon)
「一面に広がるラベンダー畑をこの目で見たい」との願いからでした。
「ラベンダー」と一
言で言っても、品種によりその色や香りはさまざまです。山間部を車で走っていると、車内
いっぱいに満ちたラベンダーの芳香とともに、微妙に異なる色の絨毯を目にすることがで
きます。
ちなみに、フランスでは、香り豊かなこの花の色を、「青(bleu)」と表現します。「あの
ラベンダーの青は濃いね、薄いね」というような具合です。これも、実際にここに来て初め
て知ったことでした。だとすれば、私が一番好きな色は「青」なのかもしれません。
・農場での日々
この地方は日差しが強烈なことも
あり、夏野菜の栽培と収穫したハー
ブを乾燥させるのに適しています。
滞在先の農場は、野菜果物やラベン
ダーを始めとするハーブの栽培に加
え、鶏や豚といった多くの動物を飼
育していました。ここで私は、雑草
抜き、苗植え、野菜の収穫、動物の
餌やりから、市場での接客販売など、
実に様々な仕事をさせていただきま
した。とりわけ市場では、注文を受け
市場での野菜とハーブ販売の様子
たり、ハーブの効用や育て方を顧客に説明したりする必要があったので、農業の知識でなく、
実践的な語学力も大いに鍛えることができました。この際に、日本語が堪能なフランス人や
日本文化を学んでいるフランス人に出会うことがあり、フランスの日本に対する関心の高
さを思い知らされました。
農場では、毎朝 5 時頃に起き、日が昇る
前に庭仕事をし、昼食後のシエスタ(お昼
寝)を挟んで、夕方から仕事を再開、22 時
半過ぎに就寝するといったサイクルでし
た。肉体労働のため、決して楽ではないで
すが、世話をした植物や動物たちが元気に
成長した姿を見れば、頑張って仕事したか
いがあった、と嬉しくなります。
農場の鶏たち
ところで、左の写真にある大量のメロンは、全て形や
色が悪いといった理由から廃棄されるものです。もった
いないですが、このようなことは日本でも起こっている
のではと思います。また、滞在中は、農場の猫がネズミ
を捕る様子や、その猫が犬に食べられるといったことも
目の当たりにしました。
「消費する・される」といった生
物界のシステムも、命が行きかうこの農場で実感するこ
とができました。
さらに、滞在中は「作ること・食べること」も多いに
満喫しました。食へのこだわりが強い農場だけあって、
料理には農場で採れた新鮮な卵と野菜の BIO 製品を用
廃棄されるメロン
いています。ちなみに、
「プロヴァンス風」といえば、にんにく、オリーブオイルをベース
とする、夏野菜とハーブをふんだんに使った料理のことです。こうした料理を中心に、ロゼ
ワインと山羊のチーズを添え、毎日の食事を楽しみました。時には、私が日本食を作ること
もあり、受け入れ先の方々やその友人たちには非常に好評で、嬉しい限りでした。ただ残念
なことに、海外で人気が高い日本食は、中華料理と混同されることが多くあります。そのよ
うな中、私の知る日本の姿を伝えることができ、一日本人として非常に光栄でした。
左:夏野菜をふんだんに使ったプロヴァンス風サラダ、
右:筆者の作った、豆と野菜のガパオ風カレーとリンゴのサラダ
農場のホストとその友人たちを招いてのソワレ
残念ながら、数日~1 週間程度の旅行や短期の留学では、その国の本当の魅力を感じるこ
とは難しいです。長期の留学では、その国の言語や文化を学ぶのと同時に、自国の文化や良
さを再発見できる素晴らしい機会であると思います。また、自分の知る日本について伝えて
いくことも、留学生の使命なのでしょう。
これにて、私のナンシー留学便りは終わりです。この便りに目を通した方に、フランスの
魅力や留学することの醍醐味を少しでも伝えることができたなら、幸いです。今までお読み
いただき、ありがとうございました。
【フランス各地域の自然と田舎風景】
①4 月:菜の花畑とカルカソンヌ城塞都市 (南西部)
②6 月:サクランボ (北東部)
③7 月初旬:ラベンダー畑 (南東部)
④7 月中旬:洞窟に咲く花 (スイス国境近く)
⑤7 月下旬:川の源流 (Chambery)
⑦8 月初旬:湖のほとり (北東部 Lorraine)
⑥7 月下旬:アルプス山脈 (スイス国境近く)
⑧8 月:麦畑 (北東部 Lorraine)
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