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振動プローブ刺激を用いた映像視聴中の注意配分量の評価

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振動プローブ刺激を用いた映像視聴中の注意配分量の評価
日心第70回大会(2006)
振動プローブ刺激を用いた映像視聴中の注意配分量の評価
○重光 ゆみ・入戸野 宏
(広島大学大学院総合科学研究科)
Key words: 事象関連電位,N140,関心度
目 的
私たちの日常には多くの刺激・情報があふれている。その
ほとんどを占める視聴覚体験に対して私たちが向けている注
意の量を,客観的に測定することはできるのだろうか。多く
ある情報の中から,私たちは情報の重要度を判断し,限られ
た注意資源をうまく配分している。ヒトの注意は,面白く興
味を感じる対象に対しても向けられる。本研究では面白い映
像に対して,退屈な映像よりも多くの注意を配分しているこ
とを,プローブ法を用いて評価する。
プローブ法とは,注意資源の量が一定であるという理論に
基づいて,ひとつの対象に向いている注意の量を,他の物理
刺激(これをプローブと呼ぶ)に対する反応を測定することに
よって間接的に評価する方法である。面白い映像を見ている
ときは,残っている注意量が少なく,プローブに対する反応
は小さいが,退屈な映像を見ているときは,残っている注意
量が多く,プローブに対する反応が大きくなると考えられる。
事象関連電位(event-related potential: ERP)の成分である P300
の振幅は,注意資源の配分を反映する指標である(Wickens et
al., 1983)。振動刺激を用いた 3 刺激オドボール課題を課して
映像視聴に対する注意配分を検討した研究より,振動刺激に
対する P300 振幅が静止画を見ている時より,動画視聴中に
減衰することが示された(重光他, 2006)。
本研究では,
刺激の弁別を求めるオドボール課題ではなく,
オドボール課題と同様に P300 が生じることが知られている
単一刺激課題(単純反応時間課題)を用いて,ERP を測定した。
後者の課題の方が簡単であり,
実験参加者への負担が少なく,
実用的であると考えられる。
方 法
実験参加者 18 名(右利きの男性 5 名,女性 13 名) 手続き コ
メディ映画から 2 種類の映像を用意し,片方の映像を繰り返
して 4 回呈示した。その後,映像を見ながら振動刺激に対す
るボタン押しを行った。振動刺激はモーターを用い,持続時
間 200 ms,刺激間間隔 2 – 14 s でランダムに呈示した。実験
条件は,ビデオなし条件(静止画),新奇ビデオ条件(初めて見
る映像),見慣れたビデオ条件(繰り返し呈示しておいた映像)
の 3 つを行った(順序はカウンタバランス)。記録・分析 脳波
は頭皮上 33 部位より鼻尖を基準として測定した。眼電図は,
両眼角外および左右眼窩上下より測定した。サンプリング周
波数は 500 Hz で,分析の際に 0.05 – 100 Hz のフィルタをか
け,眼球アーチファクトの補正を行った。刺激呈示の 200 ms
前から 1000 ms 後までの区間を加算平均して ERP 波形を求め
た。ボタン押しにかかった時間を反応時間として記録した。
それぞれの映像の印象について質問紙に回答してもらった。
結 果
主観測度 反復呈示することによって,映像に対する面白さや
興味,新奇性が減少していた。また,映像に向けていた主観
的注意量も減少した。プローブに対して向けていた主観的注
意量は,ビデオなし条件,見慣れたビデオ条件,新奇ビデオ
条件の順に減少していた。
行動測度 ビデオなし条件(M = 365.5 ms),見慣れたビデオ条
件(M = 362.6 ms),新奇ビデオ条件(M = 378.5 ms)の順に反応
時間が長くなっていたが,その差は有意ではなかった。
生理測度 図 1 に正中線上 3 部位の ERP 総加算平均波形を示
した。どの条件でも,潜時約 240 ms 付近に Cz 優勢の陰性電
位が,潜時約 450 ms に Pz 優勢の陽性電位が認められた。こ
れらの成分を N140 と P300 とし,頂点振幅について統計検定
を行った。その結果,P300 では,ビデオなし条件より新奇ビ
デオ条件で,振幅が有意に減衰していることが示された。ま
た,N140 振幅値は,ビデオなし条件,見慣れたビデオ条件,
新奇ビデオ条件へ,すべての条件間に有意差があった。
考 察
主観測度の結果より,反復呈示した映像より新しく呈示し
た映像の関心度が高く、多くの注意を向けていたことが示さ
れた。これは条件操作が妥当であったことを示している。
反応時間は,ビデオを見ている条件間に,有意な差が認め
られなかった。したがって,映像の関心度を評価するに当た
って,あまり敏感な指標でないと考えられる。
ERP の結果より,P300 と N140 という 2 つの成分が得られ
た。P300 は,ビデオなし条件より関心度の高い新奇映像を見
ていた時に映像に対して多くの注意を向けていたことを反映
することが示唆された。また,3 刺激オドボール課題を課し
た先行研究(重光他, 2006)では認められなかった N140 成分が,
同じ振動刺激を用いて単一刺激課題を行った本研究では認め
られた。これは刺激間間隔が長いほうが,N140 振幅が増大す
るという知見と一致する(Kida et al., 2004)。N140 については,
P300 と同様の効果に加えて,ビデオなし条件より見慣れたビ
デオ条件で,さらに新奇ビデオ条件で,有意に振幅が減衰す
る効果が得られた。このことから N140 振幅は,P300 以上に
視聴覚体験に対する関心度を敏感に反映する指標となりうる
といえる。
行動指標には視聴覚体験に対する関心度は反映されにく
かったが,N140 という ERP 成分には反映された。今後,こ
の指標を用いていろいろな場面において視聴覚体験の関心度
が評価できると考える。
-5μV
N140
-200
5
図 1.
1000 ms
ビデオなし条件
見慣れた条件
新奇ビデオ条件
P300
Cz における ERP 総加算平均波形(N = 18)
引用文献
Kida. T., et al., (2004). Passive enhancement of the somatosensory
P100 and N140 in an active attention task using deviant alone
condition, Clinical Neurophysiology, 115, 871-879.
重光ゆみ他 (2006). 映像視聴中の体性感覚 3 刺激オドボール
課題における事象関連電位[抄録] 生理心理学と精神生理
学, 24(2), 印刷中
Wickens, C. D., et al. (1983). The performance of concurrent tasks:
A psychophysiological analysis of the reciprocity of information
processing resources. Science, 221, 1080-1082.
(SHIGEMITSU Yumi, NITTONO Hiroshi)
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