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ABC 予想ってなんだろう - WordPress.com
ABC 予想ってなんだろう
文責:入谷 亮介∗
2012 年 9 月 21 日
はじめに
0
本稿は、巷を賑わせている ABC 予想に関することを、生物数学を専門と
するまったくの素人であるぼく、入谷亮介ができるだけ平易に、かつ解りや
すく、紹介しようと思って書いているものである。
ぼくには、難しい論文を読み解く力はないので、ウェブ上で利用可能な多
くの日本語文献(ただし、いずれも有名な数学者が書かれ、公開してくだ
さっているものである)を参照しながら書いた。本当は今書いている生態学
の論文をさっさと仕上げないといけないのだが、せっかくの機会だし、時間
をかけて書いてみたので、興味がおありの方は、ぜひ読んでみて欲しい。
数学的には厳密でない書き方を一部ゆるしているので、批判を仰ぐことに
なる可能性もあるが、「どういったものか」を理解してもらうために捨象さ
れた正確さだと思って堪忍してほしい。
なお、本稿を無断で公開することはやめてください。(内容に誤りがある
ような)古いバージョンを勝手に公開されても、責任が持てないからです。
二次配布などをされたい場合は、必ずぼくまで連絡をお願いします。
∗
九州大学大学院、数理生物学研究室、修士課程 2 年。[email protected]
1
数の性質
自然数とは、0, 1, 2, 3, 4, · · · といった、小学校で最初に習う数のことであ
る。人間や動物、果物、書籍、そういった「個数」を指折りで「数える」と
きに出てくる「数字」である。似たものに、整数というものがある。整数は、
自然数にプラス・マイナスを許すものである。つまり、0, ±1, ±2, ±3, · · · と
いった数のことである。
有理数とは、「(整数)÷(自然数)」で得られる数のことである。たとえ
ば、21 = 1 ÷ 2 や
−1
3
= (−1) ÷ 3、4 =
= 4 ÷ 1 などは有理数である。いっ
√
ぽう、 2 は、(整数)÷(自然数)では書けないので、有理数ではない。
4
1
そして、こういった(± 込みの)「数」というのは、数学の世界では実数
と呼ばれている。0.2 とか 0.34343434…とか、円周率 π などは実数である。
もっと強く、全ての有理数は実数である。有理数でない実数は、無理数と呼
ばれているが、本稿に登場するのはここが最初で最後である。
2
自然数の割り算
1 つ、自然数を選んで欲しい。たとえばあなたの年齢でもいいし、生年月
日の「月×日」でもいい。ぼくの場合、誕生日は 8 月 9 日だから、8 × 9=72
を選んだとしよう。さて、その数字はいったいどんな数で割り切れるだろ
うか?
72 を選んだ場合、まず 72 は 2 で割り切れる:72 ÷ 2 = 36 である。36 も
2 で割り切れるし、その半分の 18 もそうである。そういった計算を続ける
と、72 = 2 × 2 × 2 × 3 × 3 になる。これ以上割り切れない。一般に、注
目している自然数を割り切る数のことを、約数と言うのだった。たとえば、
8 とか 9 とか 18 は、72 の約数である。2 とか 3 とかは、それより小さい約
数を(1 以外に)持たないので、上の表式「72 = 2 × 2 × 2 × 3 × 3」は、
これより細かく分解できない。一般に、1 と自身以外という 2 つの約数で
しか割り切れない自然数のことを、素数という。定義上、1 は素数ではない
(約数が 2 つではなく 1 つしかないから)が、素数を小さい順に並べると、
2,3,5,7,11,13· · · となる。注目している数を、素数の積で書き下す(例えば
72 = 2 × 2 × 2 × 3 × 3)ことを、素因数分解と呼ぶ。
だが、72 = 2 × 2 × 2 × 3 × 3 という表式は、冗長である。72 だとまだ
いい。256 などになると、256 = 2 × 2 × 2 × 2 × 2 × 2 × 2 × 2(2 を 8
回掛けた)のように、とても長い。8 回も書きたくない。そこで、256 = 28
と書くことにしよう。つまり、一般に xn というふうに数字 x の右肩に数
字 n を書いたとき、「x を n 回掛けて得られる数」という表記の仕方を決め
よう。すると、たとえば 72 は 2 が 3 回、3 が 2 回かけられて出来るので、
72 = 23 · 32 となる。おお、これは便利!
素数よりももう少しゆるい「素」の概念を導入しよう。今度は、2 つの数
字を自由に選んで欲しい。たとえば、僕の場合は 91 と 72 を選んだとしよ
う。このとき、共に素数でない 91 = 7 · 13 と 72 = 23 · 32 には、共通の約数は
あるだろうか?結果から言うと、存在しない。別の例を見せよう。72 と 256
では、共通の約数は存在する。それは(素因数分解の結果を見ると)2,4,8 で
あることが判る。
このように、2 つの数字が、
(1 以外の)共通の数では割れないとき、その
2 つの数字は互いに素であると言われる。さきほど見たように、91 も 72 も
「共に素数ではない」が、関係としては「互いに素」である。
最後にもうひとつ。根基という概念を述べておこう。これは、高校の時に
は習わない。数字 x の根基とは、その数字 x を割り切る素数の 1 回ずつの積
であるとしよう。それを rad(x) と書く。たとえば、72 を割り切る素数は 2
と 3 のみだから、72 の根基 rad(72)=2 × 3=6 であるし、256 を割り切る素
数は 2 のみなので rad(256)=2 で、90 = 2 · 32 · 5 なので、rad(90)=2 × 3 ×
5=30 である。
3 ABC 予想
さて、準備はここまで。ABC 予想を述べよう。今回、望月教授が示した
のは、まさにこの(一見するとシンプルな)命題なのである。
ABC 予想
3 つの自然数 a, b, c が、どの 2 つも互いに素であり、かつ、a+b=c で
あるとする。このとき、1 より大きいような全ての実数K > 1 に対し、
c ≥ {rad(abc)}K を満たす (a, b, c) のペアは、たかだか有限個しかない。
「有限個」とは、「数えていけばいつか終りが来る程度の個数」のこと*1 であ
る。たとえば、自然数は数え始めるといつまで経っても終わりがこないの
で、有限個でない(つまり無限である)。この予想は、Joseph Oesterle と
David Masser によって 1985 年に提起されたものである。
4 ABC 予想の肯定的解決のインパクト:
「フェルマーの最終定理」というのを耳にされたことがあるだろうか。そ
れは次のような定理のことである:
Fermat の最終定理
2 より大きい自然数 n に対して、xn + yn = zn を満たすような自然数の
組み合せ (x, y, z) は存在しない。
これは、350 年以上も昔、Fermat(フェルマー)という数学者が予想したも
のだが、それが解決されたのはつい最近のことで、アメリカの数学者 Wiles
によるものである(1994 年、95 年にかけて証明。詳しくは [1] を見よ)。幾
*1
これは英語の語源に極めて忠実な表現の 1 つだとおもう。「有限な」という形容詞は英語
で finite であるが、fin は言うまでもなく「終わり」のことである。
多もの天才数学者による挑戦も阻んできたこの定理が、実は ABC 予想が正
しければアッサリ証明できてしまうのである([2])
。
それでは、ABC 予想を用いて、フェルマーの最終定理を証明しよう。
(証明)まず、特に ABC 予想において、K = 2 としよう。それと同時に、
「有限個に対して◎◎が成立する」を、「有限個の例外を除くと◎◎でない」
という言い方に変えておこう。つまり
c < {rad(abc)}2
が、有限個の例外的な組み合せ a, b, c(ただし a + b = c)を除いて常に成
立するとしよう。このとき、a = xn , b = yn , c = zn を代入すると(ただし
rad(xn yn zn ) ≤ xyz であることに注意)
c = zn < {rad(xn yn zn )}2 ≤ (xyz)2 ≤ z6
が、有限個の例外を除いて成立することが判る(最後の不等号は、xn + yn = zn
なので x, y, z のうち最も大きいのは z であるという事実に基づいている)。
つまり n ≤ 5 が必要条件である。n = 3, 4, 5 の場合のフェルマーの最終定理
は、それぞれオイラーやフェルマー、ディリクレ、ソフィ-ジェルマン、ル
ジャンドルによって証明されている。よって、ABC 予想が成り立つとき、
フェルマーの最終定理は正しい。
補足:ほかの応用
このほかにも次のような命題が、ABC 予想によって証明される:
Catalan 予想
自然数 x, y と、2 以上の自然数 m, n で、xm − yn = 1 を満たすものは、
32 − 23 = 1 というものだけである。
これは 1844 年に Catalan によって提唱され、つい 2002 年に解決されたば
かりの問題であった。
5
おわりに
少し長くなったが、これで本稿はおしまい。2012 年 9 月 20 日げんざい、
望月教授の論文は査読段階にあるとのこと。この定理がもし正しければ、整
数論で重要な役割をきっと担い続けることだろう。
Reference
[1] Simon Singh [青木薫 翻訳] フェルマーの最終定理. 新潮文庫.
[2] 山崎隆雄 フェルマー予想と ABC 予想
http://www.math.tohoku.ac.jp/ ytakao/papers/abc.pdf
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