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ウェアラブルコンピューティングの最新 動向

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ウェアラブルコンピューティングの最新 動向
5-1
デバイス
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ウェアラブルコンピューティングの最新
動向
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塚本 昌彦
●神戸大学大学院
市場を立ち上げたアクションカメラとスマートバンド。ウォッチ型は
Google Glass と Apple Watch が牽引役として注目される。業務用
HMD の需要も高い。
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■いよいよ立ち上がるウェアラブル市場
きく変化させるポテンシャルを持つ。民生用、業
2013 年 か ら 2014 年 に か け て 欧 米 を 中 心 に
務用いずれにおいてもさまざまな利用方法が考え
ウ ェ ア ラ ブ ル コ ン ピ ュ ー テ ィ ン グ(Wearable
られており、実世界のほとんどすべての人々の活
Computing)が急に強い注目を受けるようになっ
動を包括するとすれば、それはとんでもなく大き
てきている。コンピューターを装着して利用する
なビジネス規模となる。
というこの新しいスタイルは、スマートフォンに
ウェアラブル市場を最初に立ち上げたのは、ここ
代表されるモバイルコンピューティングの次のス
5 年ぐらいの間に広まってきたアクションカメラ
テップとして、古くから研究開発が行われてきた。
と、ここ 3 年ぐらいの間に広まったスマートバンド
ウェアラブルコンピューティングは、研究分野で
である。アクションカメラはユーザー目線で広角
は 20 年以上にわたって取り組まれているものの、
かつ高解像度で映像を撮影するものだ。スマート
産業分野では多くのトライアルにも関わらずマー
バンドはユーザーの一日の活動量を計測してクラ
ケットは立ち上がってこなかったため、その技術
ウド上で管理するものだ。いずれも専用機である。
はほとんど使われないまま長年放置されていた。
そしてさらにここ 1、2 年は、Google Glass と
当初は主として、パソコンを腰や背中に装着し、
Apple Watch という汎用機が、この分野における新
HMD(Head Mounted Display)を頭に括り付け、
たな市場立ち上げの牽引役として注目されている。
手に持ったデバイスで入力を行うというスタイル
2014 年は、グーグルから Android Wear が発表
が想定されていた。しかし、コンピューターが小
され、いくつかの会社から多数の対応ウォッチが
さく軽くなり、このようなスタイルはもはや古典
発売されたと同時に、Apple Watch の発表があっ
的なものとなってしまった。最近は、小型のウェ
たため、特にウォッチ型デバイスに注目が集まっ
アラブルデバイスが単体として頭部や腕に装着さ
た年であった。めがね型デバイスについては、あ
れるスタイルとなっている。
とで述べるように Google Glass 暗雲説が流れた
人が実世界で活動しながらコンピューターを利
り、Recon JET などの発売が大幅に遅れたりする
用するウェアラブルコンピューティングのスタイ
など、やや曇りがちな側面もある。一方、国内で
ルは、これまでと違って人の実世界での活動を大
は多数の大小企業が名乗りを上げた。
第 5 部 製品・技術動向
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矢野経済研究所のウェアラブルデバイス市場に
Gear Live、LG G Watch、Motorola MOTO 360
関する調査結果 2014 によると、ウェアラブルデバ
が発売(MOTO360 は国内未販売)
、11 月になって
イスは 2013 年で約 671 万台の市場を形成してお
LG G Watch R、ソニーの SmartWatch 3、ASUS
り、2017 年には 2 億 2390 万台にまで成長すると
ZenWatch が発売された。ディスプレイが四角か
のことである。ウェアラブルコンピューティング
丸かという大きな選択肢があるが、ほかにも脈拍
の時代がいよいよやってきたと言えるのではない
計の有無や光センサー、Wi-Fi、GPS の搭載などに
だろうか。
違いがある。スマホ連携、音声入力、健康管理な
どの機能が中心であるが、健康管理のアプリケー
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■ウォッチ型端末の動向
ション機能に関してはまだ初歩的な段階にあり、
2012 年末ごろからアップルがウォッチ型デバ
今後はこの分野でのアプリケーションの進化が予
イスを開発しているという
見される。
が流れ始め(当初は
“iWatch”という商品名が飛び交っていた)
、2014 年
サムスンは上述の Android Wear ウォッチに加
9 月に Apple Watch が正式発表された(
“iWatch”
えて、オープンソース OS である Tizen を搭載した
ではなかった)
。時計としてのクラッシックなデザ
ウォッチを発売している。2014 年 3 月に Gear 2
インをベースとした多数のデザインバリエーショ
と Gear 2 Neo を、11 月に Gear S を発売した。開
ンが展開されており、新たなファッションアイテム
発環境がオープンであることが功を奏して、短期
としての展開が有望である。iPhone 連携や音声入
間で 1000 種類以上のアプリケーションが取り
力 Siri、健康管理などが主要アプリケーションとな
えられている。
るようであり、2015 年春ごろに発売されると見込
ほかにも、Pebble や Qualcomm Toq などそれ
まれている。Apple Watch の開発環境 WatchKit
ぞれ独自のプラットフォームを持つウォッチが多
がすでに発表されており、どのようなアプリケー
数販売されている。独自プラットフォームの場合、
ションをどのように書けるかということが明らか
Android Wear などと比べると独自の機能を盛り
になっていると同時に、おそらく多くの人や企業
込みやすく性能も出しやすいというメリットがあ
がビジネス参入を考えながら、Apple Watch 向け
るものの、アプリケーションの蓄積という観点か
のさまざまな面白いアプリケーションを開発して
らは不利である。
いるものと推察される。月産 300 万台、年間 4000
最近のいくつかのスマートウォッチ商品の仕様
万台という、ウェアラブルデバイスとしてはかつ
を資料 5-1-9 に示す。
てない大規模な生産計画が「
」されており、国
CES2015 の Innovation Awards が発表された
内での iPhone 人気も考えると、特に国内では一気
中で、ウェアラブル分野では多数のウォッチが目
にブームとなる可能性が十分にある。
立っている。Apple Watch や Android Wear の盛
一方、Android Wear ウォッチは、2014 年 3 月
り上がりを見る限り、2015 年はウォッチ市場が急
にグーグルが発表し、6 月末ごろから、Samsung
速に拡大してくるものと考えられる。
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第 5 部 製品・技術動向
資料 5-1-9 主要ウォッチの仕様
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出典:筆者作成
■めがね型端末の動向
などで締め出されたり、非 Glass ユーザーから嫌わ
Google Glass は 2012 年 4 月にグーグルが発表
れたりしていることが要因である。後者は Google
し、2013 年に米国で開発者向けに販売された。
Glass の一般販売や日本での販売がなかなか実現
2014 年にはバージョンアップが行われると同時
しておらず、ユーザー数があまり増えていないた
に、米国以外のいくつかの国で発売された。グー
めである。一般販売の遅れには、ハードウェア的
グルの莫大な開発資金とチャレンジ精神を背景に、
な不具合の露呈と、バッテリーが 1、2 時間程度し
それまでの HMD やその他のウェアラブルデバイ
か持たない点が関連している。一方で、2015 年
スが越えられなかったいくつものハードルをクリ
に Intel プロセッサ搭載の新バージョンが登場する
アしたという意味で、HMD 業界の中では非常に画
という
期的なデバイスであると言える。ここでハードル
継続するか撤退するかという今後の展開は不明で
というのはデバイスの大きさや性能、視認性、機
ある。
能などである。また、世界中の人々のこの分野へ
Google Glass 以外のめがね型端末としては、
の注目を一気に高めたという意味でも、意義は大
2013 年 に Vuzix M100 が 発 売 さ れ 、2015 年 に
きかった。
Recon JET が発売予定である。いずれもそのス
しかし、2014 年秋ごろから、Google Glass の
ペックは Google Glass を踏襲したものとなって
雲行きが怪しいといわれるようになってきている。
いる。単眼 HMD として、ほかにも Optinvent の
一つは、米国内で Glass ユーザーをほとんど見なく
ORA、Glass UP、ウエストユニティスの Inforod、
なったこと。もう一つは、開発ベンダーのいくつ
Telepathy Jumper、ソニーの SmartEyeglass(単
かが Glass アプリ開発から撤退したことが挙げら
眼バージョン)などが発売・発表されている。
れる。前者はカメラのせいでレストランや映画館
一方、両眼シースルーのタイプも増えている。
もある。グーグルがこの分野への挑戦を
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2014 年 6 月に発売されたエプソンの新 Moverio、
どが発表・発表されている。
ST Micro ST1080、Vuzix STAR1200、ソニーの
最近のいくつかのめがね型端末商品の仕様を資
SmartEyeglass(両眼シースルーバージョン)な
料 5-1-10 に示す。
資料 5-1-10 主要 HMD の仕様
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出典:筆者作成
2014 年夏ごろから、国内のコンピューター大手
ル型などである。
である日立、東芝、富士通が、業務用の HMD を発
多くは利用シーンと用途を特化したものであり、
表している。現場業務に向けたソリューションビ
実用性が高いものが多い。ベビー用、子供用、高
ジネスやシステムビジネスなどを展開するうえで、
齢者用のものから、動物用のものまで非常にバリ
ハンズフリーにて現場で情報活用できる HMD の
エーションが広がっている。スポーツ選手用の脳
需要が高いことが背景にある。現場への導入実験
に受けたダメージを検出するセンサーや、ビュー
は 2015 年に多数行われそうであるが、近年 HMD
ティー向けの紫外線センサーを用いたデバイスな
の小型化・高性能化が一気に進んだため、これら
どは、いくつかの製品が現れており、それぞれ専
のうちのいくつかは成功し、業務用のマーケット
用機のウェアラブルデバイス市場として成長して
もいよいよ急速に立ち上がってくるのではないだ
いく可能性が高い。また、センサー服、電飾服、
ろうか。
ディスプレイ付きの服、冷暖房服など、服全体が
ウェアラブルデバイスとなっているものも発表が
■ウォッチ型、めがね型以外の端末の動向
相次いでいる。これらは、スポーツやエンターテ
2013 年末ごろから、めがねやウォッチ以外の
インメントなどのプロ用としてスタートし、コス
ウェアラブルも増えている。指輪型、帽子型、チェ
トが低くなってくると民生展開されて爆発的に広
ストベルト型、絆創膏型、靴下型、靴のインソー
まっていく可能性がある。
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第 5 部 製品・技術動向
■今後の展開
くの生体情報を人体のさまざまな部位で取得する
2015 年は、まずは民生用のウォッチが大きな
ことが重要となる。エナジーハーベスティングや
ブレイクを起こすのではないだろうか。最近大型
人体通信なども今後利用される可能性がある。新
化したスマートフォンは、
「ユーザーが常に身に着
しいアイデアに基づく新しい商品がまだまだ続々
けておくデバイス」としての地位を明け渡しつつ
と出てくることが想定されると同時に、ヒット商
あるが、ここにウェアラブルデバイスが入り込む
品が出ればそれに追従する商品が現れ、いくつか
余地がある。ファッションとしての役割も高まっ
の専用ウェアラブル商品市場が形成されていくの
てくるものと考えられ、デザインのバリエーショ
ではないだろうか。
ンは今後ますます増えていくのではないだろうか。
2015 年にはいよいよウェアラブルが人々の生
そうなれば、TPO に応じて着け替えるなどの、マ
活の中で使われ始めるようになる。ウェアラブル
ルチのウォッチへの対応やウォッチとバンドの併
機器を使いこなすには人間側の経験が必要であり、
用などが重要になってくる。装着デバイスの自動
各社とも小リスクで継続していく努力が必要であ
判定や取得データの統合などが必要となるだろう。
る。ぜひ、短期間でウェアラブルが立ち上がる可
めがね型端末は、まだまだ決め手となる使い方
能性を考え、多くの企業に膨大なポテンシャルを
がわからない部分が多い。日本企業も民生用や産
持つ実世界サービス、ビジネスに取り組んでほし
業用で多数参入しつつあるため、これからめがね
い。また、取り組みにはコミュニティーへの参加
型端末の競争が起こってくる。さらにその先には、
が重要であるため、情報交換とエコシステムの形
AR(Augmented Reality)分野が成長してくるこ
成のために、以下のコミュニティーへの参加を推
とが考えられ、結果としてシースルー HMD の広
奨する。
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視野角化が進んでいくのではないだろうか。
ウォッチやめがね以外のものについては、小型
・NPO ウェアラブルコンピューター研究開発機構
化や省電力化が必要であると同時に、より高度な
・日本ウェアラブルデバイスユーザー会
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センサーが必要となるだろう。すなわち、より多
1.http://www.teamtsukamoto.sakura.ne.jp/
2.http://w-ug.jp/
第 5 部 製品・技術動向
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