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外形標準課税と地方分権の論点 - Nomura Research Institute

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外形標準課税と地方分権の論点 - Nomura Research Institute
外形標準課税と地方分権の論点
公共経営コンサルティング部
上級コンサルタント
鈴木
伸幸
道府県にとって、同税の導入は願ってもない
1.はじめに
ことであり、賛意を持って迎えられているも
平成 14 年 12 月 13 日に決定された「平成
のと思われる。しかしながら、当たり前のこ
15 年度与党税制改正大綱」において、平成
とではあるが、外形標準課税の導入により多
16 年度より資本金 1 億円を超える法人を対
少は税収の安定がもたらされるかもしれない
象に外形標準課税が導入されることとなった。
ものの、それで地方の財政問題が解決するわ
平成 12 年 2 月の東京都における銀行新税の
けではない。
発表からわずか 3 年で、全国のおよそ 3 万 1
外形標準課税導入の論点は、税の公正性を
千社の企業を課税対象とする新税が実施され
目指した公的セクター側と、企業活動の自由
ることになる。
を確保したい民間セクター側との対立の構造
外形標準課税については、これまで多くの
に象徴的にあらわれている。しかし、市場と
論争があったものの、最近ではその議論も沈
財政の統合された社会システムにおいて、も
静化する傾向にある。大きく反対運動を展開
はやこうした対立の構造からは決別すべきで
していた経済界も、税制改正に織り込まれて
あろう。また、ある特定の問題に固執するこ
しまった以上、やむなしという印象である。
とで、もっと大きな問題から目を遠ざけるこ
もちろん、法人課税全体の 4 分の 1 に留める
とも避けなければならない。
とされている外形標準課税のそれ以上の拡大
本稿では海外の導入先行事例をもとに、外
は断固阻止するという立場は堅持している。
形標準課税の論点がどこにあるか、また、自
自治体の立場はどうであろうか。この不況
治体の立場からこの問題をどう捉えるべきか
下において、少しでも税収を安定させたい都
図表1
を考察してみたい。
法人課税に占める外形標準課税割合(平成 16 年度より)
(出所)総務省資料
NRI 地域経営ニュースレター June 2003 vol.57
−1−
当レポートに掲載されているあらゆる内容の無断転載・複製を禁じます。すべての内容は日本の著作権法及び国際条約により保護されています。
Copyright © 2003 Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved. No reproduction or republication without written permission.
図表2
外形標準課税における付加価値割・資本割の計算方法
(出所)総務省資料
2.海外における外形標準課税の導入先行事
例
は、税制調査会においても外形標準課税のモ
デルとして取り上げられたが、いずれも廃止、
縮小の方向に向かっている。
海外において、外形標準課税が適用されて
わが国の外形標準課税の議論におけるこれ
いる例は決して多くない。また、数少ない同
らの取り上げられ方をみると、単に外形標準
税も、その多くが廃止・縮小に向かっている
導入論の補強のために先行事例の導入事実の
という事実がある。ミシガン州における単一
みを紹介したり、導入反対の立場から廃止の
事業税、ドイツ営業税、フランス職業税など
方向のみを強調するものが目につくきらいが
NRI 地域経営ニュースレター June 2003 vol.57
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あった。しかし、本来であれば、各税制度の
そして、結果としてミシガン州単一事業税
詳細や社会経済的な背景までも明らかにした
は、1999 年より段階的に廃止されることが決
上で、各国・地域の実情を踏まえた解釈が求
定された。様々な特例措置がもたらされてい
められる。
たにも関わらず、SBT は中小企業にとっては
依然厳しい税制であること、また大企業にと
っても対外競争力の面で問題が大きいことな
1)ミシンガン州単一事業税
ミ シ ガ ン 州 単 一 事 業 税 (SBT : Single
どから、産業界の根強い不満を回避すること
Business Tax)は、1953 年に創設された事業
ができなかったのである。
活動税を起源とし、1976 年に法人所得税を含
2)フランス職業税
むいくつかの事業関連税を統合して設置され
た。その目的は、税収の安定化や応益課税の
フランス職業税は、仏革命後の 1791 年に
実現、企業税制の簡素化、公平・中立性確保、
制定されたパテント税(職種毎に市町村に対
(資本控除による)経済成長の促進、などで
して納める税)を起源として、1975 年に導入
あった。
された。職業税は課税対象を、資産(賃貸料
SBT は、制度としては付加価値税(VAT)
相当額)と給与(支払い給与全体の 18%)の
の本質的な要素をもつ、非常にユニークで地
合計額としている。また税率は、各地方自治
方財政にとって効果的な税制であることが評
体(市町村、県、郡等)の決める税率合計と
価されてきた。その方式は、まず、企業全体
している。フランスは地方分権の大きな流れ
の付加価値を求めミシガン州分を按分する加
が急速に進展しており、税率決定権について
算法の所得型による算定を行い、さらにその
も 1980 年代以降、順次自主権が与えられて
後、取得資本を控除する消費型の算定を行う
きた。同税についても税率は各地方自治体が
ものである。このように所得型と消費型の二
自由に設定することができ、結果として税率
つの付加価値計算が行われているという点で、
幅は地域によって 6%∼33%と幅広いものと
極めてユニークであるといわれている。
なっている。
しかし、こうした計算方法の複雑さや様々
職業税は、自治体にとっては税収が安定し
な特例措置が、税務行政を煩雑にしているこ
ており、課税対象が広く、企業の事業拡大に
と、また特例措置が本来の付加価値税の効果
伴って税収も増えるという、メリットのある
を歪めていること、などのマイナス面も指摘
税と考えられている。しかしながら一方で、
されてきた。理念や制度が正しく緻密であっ
豊かな自治体は税率を引き下げ、貧しい自治
ても、それに伴うコストが膨大なものとなれ
体ほど税率を高くする結果、自治体間の不均
ばその導入は現実的ではない。特に税制改革
衡をもたらすという懸念もあがっている。
の場合は、このコスト負担というものが非常
さらに企業側からは、制度が複雑であるこ
に大きな課題となるが、SBT の場合は、これ
とや、地域間の税率の差が大きいことなどに
が無視できないほど大きなものになっていた
加えて、収益・業績と関係なく課税されるこ
のである。また、中小企業/大企業といった
と等についての批判が根強くあがっている。
経済活動パターンが異なる企業群に対して、
こうした中で職業税については、その課税
細やかな対応(特例措置)を行うことが、か
対象である給与について、2003 年に廃止する
えって同税のもつ本来の目的を歪めてしまっ
ことが決定されている。さらに、現在行われ
たことも指摘されている。
ている議論としては、課税対象を企業の創出
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3.地方分権と外形標準課税
する付加価値に変更すること、職業税を一つ
のレベルの地方公共団体(例えば、市町村)
に特化させること、市町村の集合体毎に税率
外形標準課税導入の賛否については、地方
を定めていく方式を導入して市町村間の税率
財政の自立性や健全性、税負担の公平性確保
のバラツキをなくすこと等、様々なテーマが
の立場からの支持派と、市場経済における企
あげられている。これらについては、学術論
業活動の自由を確保する立場からの導入反対
争も含めて諸種の議論が行われているものの、
派が対立する構図となっており、ミシガン州
なかなか解決の方向は見出せていないという
をはじめ諸外国の例をみると実態的には後者
状況である。
の勢力が優勢になっている。
課税の最終段階といわれる付加価値税は、
3)ドイツ営業税
ドイツ営業税は 3 種あった税のうち、給与
税の公平、中立の面から見て、非常に優れた
税と考えられている。それにも関わらず、企
総額税と営業資本税の 2 つが、1980 年、1998
業活動に大きな影響を与える外形標準課税は、
年にすでに廃止されており、現在は営業収益
世界的に廃止・縮小の方向にある。こうした
税が残るのみである。本来、営業 3 税により
現状は、制度的にいかに優れた税制であって
収益・資本・賃金を課税対象とする外形標準
も、その導入・維持には各国・地域の経済状
課税の機能が果たされてきたため、2 税が廃
況や社会構造が大きく作用するということを
止されてしまった現状では、外形標準課税も
認識せざるを得ない。
翻って、わが国の外形標準化の議論を考え
実質的に廃止されたと考えてやむを得ない状
況といえる。
るときにはどうであろうか。企業対政府の二
営業収益税に関しても、法人税の課税所得
項対立の問題も確かにあるが、その枠組のみ
に加算項目、減算項目を加減して求めるもの
で捉えきれない部分もある。というのも、わ
となっているが、利益に対してこれらの加減
が国においては、その構図が外形標準課税の
項目の占める比率は低く、実質的には所得税
全国ベースでの導入を図ろうとしてきた総務
に近いものと考えられている。
省、独自の課税権を持ちたい(あるいは持ち
こうした意味では、ドイツの営業税は所得
たくない)自治体、そして産業界、という三
税の要素を無視できないものであり、自治体
者構造を形成しており、単に地方財政をとる
にあらわれる効果や問題も、そうした視点か
か、自由な企業活動をとるか、という問題に
ら捉えることが必要である。つまり、わが国
加えて、地方分権をいかに進めるかという問
の地方事業税と同様、景気の変動を受けやす
題が大きく横たわっているからである。
いことなどが問題視されている。ただし、わ
先行事例の多くは(少なくとも上で見たミ
が国と異なるのは、現在の営業収益税に変え
シガン州、フランス、ドイツの各税は)、すべ
て付加価値税(収益、資本、総賃金などの合
ての税率決定権を各自治体が持ち、その範囲
計を課税対象とする税)を導入すべきかとい
では地方分権が確立されている。そして、そ
う点だが、それも現実的な対案とは考えられ
の上で、税制の論議が行われているのである。
ていない。
これに対してわが国の現状を考えたときには、
より重要な地方における税財源の自律性の確
保という問題が、外形標準課税の議論で薄ま
ってしまうのではないかということが懸念さ
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れている。
とはいうものの、本稿も遅きに失した感が
あり、現在、地方分権推進会議を中心に、地
方の税源委譲の問題は議論が白熱している。
現在の議論を見る限り、到達点までには険し
い壁がいくつもあるようである。財務省対総
務省という対立の構図ではなく、真に国民に
とって望ましい方法が導かれることを望むと
ころである。そして、その方向付けがなされ
たとき、再度外形標準課税のあり方について、
真剣な議論が求められるであろう。
参考文献
・“Analysis of the Michigan single business
tax” Office of Revenue and Tax Analysis,
Michigan Department of Treasury( 1994)
・「検証
外形標準課税」多田雄司(2000)
・ 総務省資料
・ 税制調査会資料
筆 者
鈴木
伸幸(すずき
のぶゆき)
公共経営コンサルティング部
上級コンサルタント
専門は、地方財政、行政経営管理改革
E-mail: [email protected]
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